昨日、歯医者の待合室にあった新聞を見ていたら、懐かしい少女漫画を採り挙げた記事が目に入りました。
内容は、70年代後半~80年代半ばにかけて連載されていた現在の「ボーイズラブ」というジャンルの原型ともなった「少年愛」を描いた代表的作品、萩尾望都の『トーマの心臓』、竹宮恵子の『風と木の詩』、山岸涼子の『日出処の天子』について。
主に、竹宮恵子についての記事でしたが、『風と木の詩』の企画を打ち明けたところ、今では珍しくもない男同士の恋愛ものに、当時男性スタッフばかりだった掲載雑誌の編集部からの拒否反応が強く、説得するのに苦労したというエピソードがありました。
『風と木の詩』と『日出処の天子』は、舞台設定もテーマも全く違う話ですが、エキセントリックな性格の超美形主人公と、その相手役の善良で誠実な美少年との同性愛を描いた点で共通しています。
徳間書店から、銀英伝第一巻の初版が刊行された82年当時は、これらの作品の連載真っ最中で、人気絶頂だった時期です。
恥ずかしながら私は、銀英伝を初めて読んだ時に、「この作者は、男のわりに随分と男同士の恋愛に理解があるなぁ」と思ったものでした。(笑
『風と木の詩』は、その後、評論家の寺山修司が絶賛し、安彦良和監督の下でアニメーション化されりと、男性にも一定の評価を得ますが、この作品に限らず、一般的に男性のこの分野に対する忌避感は、昔も現在も根強いものがあるようです。
そんな中で、銀英伝は、男性が執筆した小説にも関わらず、実に上手く、このジャンルを愛好する女性読者のツボを突いて、当時の流行を反映させていると思える作品でした。
ラインハルトとキルヒアイスの関係は、『風と木の詩』のジルベールとセルジュ、『日出処の天子』の厩戸王子と蘇我毛人の関係を連想せずにいられませんでした。
最近になって、田中芳樹氏が、男同士の同性愛を嫌い、銀英キャラがそのように扱われることを不快に感じていることを知り、凄く意外に思ったものです。
と同時に、あのライ×キルの描写が、女性読者に阿るつもりからでなく、当時の少女漫画界の流行にいっさい関係なく生み出されたとしたら、スゴイ才能の方だなぁと、改めて敬服致しました。
私は、銀英の一巻を読み終えた時点では、主人公のラインハルトは、本人はまだ自覚がないものの、同性愛嗜好者であり、最終的にはキルヒアイスと結ばれるのだと思い込んでいたくらいです。
しかし、キルヒアイスが死亡し、ヒルダの存在が重要度を増すにつれ、自分の予想と作者の思惑が異なることを知ります。
しかし、私にはどうしても、ラインハルトとヒルダの関係が唐突で不自然なものに思えてならず、最後まで自分の中で受け入れられませんでした。
何というか、二人にそれぞれ「ぶっちゃけ、相手のどこに惹かれましたか?」と訊きたくなるカップルなんですよね。
ヒルダは、比較的初期の段階から登場し、ずっと近くに居てラインハルトを支えていく役割のキャラで、客観的にはお似合いなのでしょうが、どうにも男女関係に発展するのが不自然に感じられるのです。彼女は、いかにもラインハルトとくっつける為に作者が創作したキャラなのでしょうが、ラインハルトというキャラが、そういう「お似合いの女性」とあっさり結ばれることに、違和感を感じるのです。それは、最初のイメージで、私がラインハルトを女性と恋愛するノーマルな男と認識していなかったからかもしれません。
最も謎が多く、訳の解らないロイエンタールとエルフリーデでさえ、不自然さは感じなかったくらいなのにです。(逆に勝手に妄想して勝手に納得するにはいいキャラでした)
当時の作者が、男女のことを上手く書けなかったというだけかもしれませんが、苦労してどの女性キャラよりも出番を多くして創り上げたヒロインが、肝心のところで説得力を持たせられないというのが、人間ドラマとしての側面も持つ銀英伝にして、お粗末という他ありません。
Jeri的傲慢見解!
ラインハルトは、わざとらしくとってつけたように、ヒルダと恋愛(?)して結婚するよりも、キルヒアイスを思って生涯不犯であった方が、彼のキャラにマッチし、魅力的なキャラで完結したと思う。
恋愛は、自然な感情の発露から始まる。皇帝だから、主人公だからと言って、無理してする必要はない。
薫 2009年08月30日(日)00時57分 編集・削除
こんばんは。Jeriさんの参考になるかどうか分かりませんが、↓のブログ、なかなか興味深い話ですので、お暇なときにでもご一読いただけたらと。もしすでにこの手の論理をご存知なら失礼しました。
http://www.kitamaruyuji.com/stillwannasay/2006/12/post_8.html
私個人としては、ラインハルトは「キルヒアイスを思って生涯不犯」となるほどに、恋愛面において精神的発達を遂げていなかったと思う(恋愛というより共依存気味?)ので、ヒルダとの恋愛は「?」ですが、一夜のできごと→結婚はまあアリかなと思っています。ただこのエピソードが話全体の盛り上がりにどう貢献したのかはよく分かりませんが。結局、ラインハルトがお子さまのままで、キルヒアイス・アンネローゼとのがっちりトライアングルから抜け出すというかそれを越えていく描写がないのが、ヒルダとのエピソードをなんとなくくすませてしまってる原因のひとつだと思うんですね。
まあ対比キャラのヤンもあの調子だから、ちょうど鏡合わせ的でいいのかも…