きょうの社説 2010年7月26日

◎長谷川等伯の調査 ふるさとの画聖に新たな光
 北國新聞社が県七尾美術館と七尾市の協力で実施している「長谷川等伯(はせがわとう はく)ふるさと調査」は、七尾出身で桃山時代を代表する画聖、長谷川等伯の知られざる能登時代に新たな光を当てるものである。等伯は七尾から京へ上り、千利休や豊臣秀吉の取り立てもあって、画壇の一大勢力であった狩野派に対抗するまでになった。「国宝中の国宝」と称される「松林図屏風(しょうりんずびょうぶ)」など数多くの傑作を描いた日本美術史上の巨人といえる。

 等伯没後400年の今年は県内外で記念展が開かれ、七尾市では各種事業が行われてい る。さらに等伯の名を広め、ゆかりの地を全国に発信していきたいものである。節目の年を記念した今回の調査は、美術、歴史の両面から能登時代の等伯に迫る取り組みで、これまでの等伯が京都に赴いた以降の研究とは違った視点からの成果が見込まれる。何よりも、石川や富山に足跡を残す身近な存在として、等伯をより多くの人に知ってもらいたい。

 能登を中心に石川、富山には等伯の作品が十数点あり、調査対象地域は七尾など能登地 区をはじめ、等伯の作品が残る高岡など富山県呉西地区、等伯とのかかわりの深かった日蓮宗の寺院が集まる金沢市三谷地区などとなる。

 埋もれた等伯作品の発掘、鑑定などにも取り組むことにしており、美術史に新たな1ペ ージが加わる可能性がある。調査の成果をもとに石川、富山の等伯ゆかりの地を巡るルートも発信できるのではなかろうか。

 七尾市の「山の寺寺院群」で始まった調査では、戦乱で荒廃した七尾の再興期に寺院の 再建ラッシュで等伯が腕を磨いたのではないか、とする見方が示された。京とのつながりが深かった畠山家にはぐくまれた能登の文化と等伯とのかかわりも興味深い。

 等伯に関しては、本社と長谷川等伯感想文委員会が、全国の小、中、高校生を対象に、 等伯の人物像やその作品に対する「想(おも)い」を込めた感想文を募集している。地元の若者たちには等伯を通じて、ふるさとに愛着を深め、誇りを持つきっかけにもしてもらいたい。

◎米韓演習に自衛官 北朝鮮情報の共有が重要
 韓国海軍哨戒艦沈没事件を受けた米韓合同軍事演習に、海上自衛官がオブザーバー参加 し、日本海での演習を視察した。韓国合同調査団が北朝鮮の犯行と結論付けた哨戒艦沈没事件の対応で、国連安保理の足並みが必ずしも一致しない今、最も必要なことは日米韓3カ国の結束強化である。米韓合同演習への自衛官参加は、北朝鮮制裁に慎重な中国をも刺激するとみられるが、核・ミサイルを含めた北朝鮮問題に日米韓連携で対処する日本政府の強い意思を示すものである。

 日米韓連携の北朝鮮対応で、より重視したいのは北朝鮮の動向に関する情報の収集と共 有である。折しも、北朝鮮関連船舶を対象とする貨物検査特別措置法が今月4日に施行されたところである。

 これにより、国連安保理の制裁決議に基づく北朝鮮関係の船舶検査を公海上や領海内で 実施できることになったが、実際に検査を行えるのは、輸出入が禁止された核やミサイル、化学兵器などに関連する物品を積んでいると「認めるに足りる相当の理由」がある場合である。検査に当たる海上保安庁の情報収集力の強化はもとより、自衛隊さらには米韓両国からの情報提供が船舶検査の大きな鍵を握っているのである。

 今回の韓国海軍哨戒艦沈没事件は、見方によっては、米韓軍事同盟の抑止機能が、北朝 鮮に対して思うほど働いていないことを示すものともいえる。米韓にとっては深刻な事態であり、合同演習で軍事力の強大さを、あらためて北朝鮮に見せつける必要に迫られたとみることもできる。

 この事件はまた、日本の安全保障環境の厳しさを再認識させるものでもある。もし朝鮮 半島有事となれば、日本政府は周辺事態法に規定する「周辺事態」と認定し、米軍に対して後方地域支援を実施することになる。

 自衛隊と米軍は、朝鮮半島有事を想定した共同訓練を実施しており、作戦計画も随時更 新しているという。朝鮮半島有事はあってはならないことだが、日米韓が情報交換を密にし、備えを強化する必要性は高まっている。