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[18657] 【ネタ】暁の姫御子 (現実→ネギま!転生 原作知識なし 一応TS 百合)
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/05/27 10:39
前書き

始めまして、作者です。

 このSSは

・TS

・百合

・転生

・原作改変

・ご都合展開

・作者の自己満足

 等々があります。ダメな人はブラウザバック推奨。

 まぁ、いわゆる一つの平行世界ということでお茶を濁します。ご勘弁を。

 無問題な人は次を表示するよりどうぞ。

 感想ありがとうございます。参考にさせてもらいます。このSSは、唐突に終わりを迎えることがあるので、ご承知下さい。
 



[18657] 1話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/10 07:13
 某年某月、麻帆良学園某所。



-----------------------------------------------------



 みなさんこんにちは。お姉ちゃん大好き、アスカです。
今日に至るまでに様々な出来事がありました。全部カットです。
 
 私には前世があります。正確には、前世のものと思われる記憶があります。真偽はともかく、多少は役に立ったので肯定的に捉えています。

 しかし今はそれ所ではありません。現在、隣の部屋で私の大好きなお姉ちゃん、アスナの記憶を封印しようとしているのです。

麻帆良に来るまでにあった色々な事、とりわけガトーが逝ってしまったことが、アスナのトラウマになってしまいそうであり、それを危惧した周りの大人たち、特にタカミチが「全てを忘れて平穏な幸せを生きてほしい」みたいな感じで魔法世界に関するあれやこれやの記憶を封印することになったのです。
もちろん私にも同様の処置が成されるでしょう。

大変好ましくない状況ですが、最低の悪手に思えないのも事実。「平穏な幸せ」は全面的に支持するし、私も欲しいです。とても欲しいです。
しかしながら、私たち双子の持つ事情を考えればそれはとても難しいことに思えます。遠くない未来、魔法に、そして危険に関わるようになってしまうでしょう。
そんな時に、全てを忘れてお姉ちゃんお姉ちゃん言ってるだけの私では、あっさり退場してしまうし、そうでなくてもアスナが怪我をしたりそれ以外に見舞われたりするのを防げないです。
魔法に対抗するには、魔法が必要です。他の人に頼るだけでなく、私自身もアスナを護りたい。

 とは言うものの、これから起こる事を防ぐ手立てを知りません。
記憶の封印の手段について仮説を立ててみましょう。
記憶の封印て魔法でやるのかな?それってアスナに効くのだろうか。効いたとしても、全封印などということはないはず。だってそれは厳しすぎる。
きっと、わりと細かい指定が可能なはず。でなければ危険だし。よし、一先ずその仮定で行こう。ご都合主義万歳。
では封印したい記憶とはどれか。んーーと、魔法関係は確実だし、であれば紅い翼の皆と会う前はもちろん、会ってからもその範囲だろう。特にガトー関連。
……全部じゃん。そもそも魔法世界出身だし。…え、とぉ。あっ、逆に封印しない記憶を指定するとか。

うん、わからん。

まぁ、これ以上はどうしようもないし、きっとこんな様なものだろう。そう信じよう。がんばれ私。

 さて、仮説(泣)が立ちました。
つまり、"人一人分の記憶をこれとこれ以外封印する"…みたいな。
かなり苦しいですが、これ以上どうしようもないのも事実です。
タカミチに私は嫌だと訴えても、たぶん悲しそうに「君たちの為なんだ」的なことを言うに決まってます。そういう覚悟で臨んでいるでしょう。そんな人たちだからこそ、アスナはトラウマを負いそうなのですし。

 閑話休題

 この仮説通りであれば、私は対抗できるかもしれません。
前世の記憶、つまり"人一人分の記憶"を盾にして、それとさようならします。
すると、あら不思議。
周りには記憶封印が終わったように見えるのに、私ことアスカちゃんはバッチリ居残ります。素敵です。素晴らしいです。仮説の信憑性を除けば。

ただ、前提以外にも不安が一つ。

実際のところ、前世の記憶といっても、明確に別の人生ではありますが別の個人とは言えない気がしています。どちらも自分です。
その上長い間ぼーーーっとしてたり、アスナにハグしたり、バカにバカって言ったりアホにアホっていったり、アスナにチューしたりしているうちに、自意識の境界が曖昧になり混ざってしまいました。

"私"は"俺"であり"俺"は"私"でもあるのです。そう、今更ですが私は元男。手術したとかそういう事ではないです。名前はもう思い出せません。

そんな私も今では立派な幼女。
はい。要するに私の持っている記憶は"二人分"ではなく"一人分プラスα"という状態なのです。不安です。著しく不安です。


「あぁっ、どうしよぅ…」


やっぱダメかもしれない。


「…どうしたんですか、姫様」

「あ」


…タカミチ襲来。幾分お疲れ気味のご様子。一応首を横に。ふりふり。


「そう、ですか…」


暗いです。cryになりそうな勢いです。泣きたいのはこっちもだよ。タイムリミット、かな。


「…こちらへ、どうぞ」

「アスナは?」


封印処置についても知りたいけど、言わないでしょう。それを抜いても双子の片割れのこと。普通に心配です。


「別のお部屋で、お休みになっています」


まぁ、封印済みなんでしょう。身の安全についても、今更疑うこともない、かな。
タカミチに手を引かれて部屋を移る私。
あぁ、もう本当に時間がない。…覚悟を決めよう。やるしかない。他にできることもない。
今から私は"俺"になる。"俺"の分の記憶を反芻して、"俺"という自意識を確立する。ついでに"俺"とのお別れも。

「…さぁ、ここへ立ってください」

部屋の中心に魔法陣、そこに立たされる"俺"。部屋には何人かの魔法使い。おかしな頭の学園長もいる。


「眼を閉じて…ください」


タカミチが言う。
…大丈夫、きっと上手くいく。ここに居るのは間違いなく"俺"だ。ならば、封印されるのも"俺"だ。自己暗示を掛けていく。確固たる"俺"を確立させる。

呪文が聞こえる。意味はよく分からない。

魔法を知らなかった"俺"。生まれて、生きて、生きて、そして死んだ。
何かが光って眩しい。
だいじょうぶ。封印てことは死ぬわけではないさ。
そう、ただいつまでかは分からないけど。
胸の辺りと、頭に違和感。
うん。


 さよーなら  あすか







[18657] 2話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/13 22:18
カーテンの隙間から射す陽の光。顔に当たって、沈んでいた意識が浮かび上がってくる。


「ん」


重いまぶたを薄く開ける。


「ここ、は…」


どこだろう。家、先生の家、だ。せんせい…たかはた先生。高畑・T・タカミチ…タカ、ミチ。…?


「え、と」


どうして先生の家にいるんだっけ。
昨日は、……どこかで、何かをしたんだ。そう、それで先生についてきて…何か?何かってそれは、記憶。私の、記憶。
私。アスカ…アスカ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。長い。長い? 何…あぁ、前世の感覚でか。ぜんせ、前の、生。前の世界。そうだ、まほーとせんそう。魔法世界、大戦。皆と、みんな…て誰…わかんない。とにかく、皆と私たち。私、アスカ、双子で妹。それとお姉ちゃん あすな アスナ   あ


「アスナッ!」


一息に上体を起こす。どこっ、アスナ!ぐるぐる。


「あぁ…」


同じベッドの隣に発見。ふーーーっと長く息を吐く。うっ。急に動きすぎて気持ち悪い、かも。とりあえずは。


「よかった…」


よね?うん。私の大好きなお姉ちゃん、私はアスナを護るために残ったのだ。‥ナニから残ったのかは、よくわかんないけど。とにかく、これで私のやりたいことがやれる、はず。
私のやりたいこと。幸せに生きる。アスナを護る。強くなる。
皆が言ったから。私が望むから。…危ない世界は、確かにあるから。



-----------------------------------------------------



みなさんおはようございます。お姉ちゃんを愛してる、アスカです。
実は、今日から明日香です。神楽坂 明日香。お姉ちゃんは、アスナ。今日からは、神楽坂 明日菜。いい名前だね。短くて、覚えやすくて可愛い。何より噛まないのが良い。別に私が噛むわけではない。ない。明日菜はもちろん噛まない。じゃあ誰が噛むのかというと、…あの、あれ。一般論的に、だよ。
うん。
とにもかくにも、只今学園長室に来ています。

高畑先生に連れられ、明日菜と二人。早朝のお散歩は、とても穏やかで。私の究極技法、「右手に明日菜、左手にお菓子、ほーしん!」放心。ぼへーーーーっ。まーべらす。行き先が、学園長室でなければ完璧でした。まぁ、この歳で、といっても今何歳かよくわかんないですが、幼女である今の段階で完璧を求めても仕方ないでしょう。
で。
えーと、明日菜。我が半身であるところの彼女。お姉ちゃんにとっての究極技法は、「右手にお菓子、左手に明日香、ほーしん!」で、あるのでしょう。その筈です。放心レベルは、私よりも上ですし。ま、今の彼女は「きゅーきょく、ぎほー?それは、甘いの?」てなもんですが。そんなあなたも、ベリーキュート。

なぁんて。
学園長(おじいちゃん)が話しているのを半分ほど聞き流しながら、幸せを反芻している私。
どうも、私たち姉妹は今後この麻帆良にある学校に通うことになるようです。へー。ん?


「「がっこー?」」


YES! 明日菜とユニゾンッ!
さすが双子。私の方の中身はだいぶオカシイ自覚はありますが、今までずーっと一緒にいたのです。そこそこ揃います。そこそこ。
がっこー、について高畑先生が説明しているのを傍目に、双子の神秘に思いを馳せる。
ふと、隣を見れば、無表情ながらも真面目に話を聞いている明日菜。抱きしめたい。じーっ。
やべっ。
明日菜に怒られた。つないでる手をきゅっ、て。きゅっ(遊ぶのは、あと)。
わかったよっ!これが終わったら遊びに行くんだねっ!
勝手な解釈だし、たぶん伝えたいことも微妙に違う。それはわかるけれど、あえて完全理解はしない。しようとしない。そのほうが楽しいから。
こくこく、ふんふん。
首振り、了解、みたいな。
どーやら、先生の家で暫くは暮らすようです。いーんでない?そこら辺は、何もわからないし。


「ふむ。まぁ、そんなもんじゃろ」


あ、終わりかな。おじいちゃんの話は、意味のないことばかりで長いから、ほとんど聞いてなかったよ。


「では、明日菜ちゃんはタカミチくんと先に行って少し待っててくれるかの?」

「ん」


よーし。帰ったら、いや、帰りながら明日菜と遊ぶぞー!


「明日香ちゃんは、わしともう少しお話じゃ」

「う、ん?」


え。なんで。このタイミングで二人を分ける意味がわかんない。いや。心当たりはあるけど。理屈じゃない、本能なんだ。明日菜と一緒がいい!


「ほら、明日菜君。すぐそこで座って待ってよう」

「え」


ちょ。待とうよ、そこは。


「あすか」


あ。明日菜が私を心配してる。無表情だけど。合わさったお互いの視線が、相手の身を案じていることを伝えている。無表情だけど。私は、少し頬が紅いかもしれないけど。


「…うん。だいじょーぶ」


何が大丈夫かはわかんないけど。きっと、たいしたことないよ。


「ん。まってる」

「うん」


ああ。だから私はあなたが大好きなんだ。苦手なくせに、そうやって言葉で伝えてくれる。やべ。顔が崩れる。にへっ。

バタン

行っちゃった。……。


「ふぉっふぉっふぉっ。大丈夫じゃよ。そんなに長いお話じゃないんじゃ」

「なに」


ぶすー。不機嫌アピール。皆にも、私のほうが表情が動くとは言われていました。本当は、もっと動くけど。動くはず。


「うむ。今朝のことなんじゃがの。タカミチくんから報告があったんじゃ」


今朝。先生。…おー。やっぱ、あれか。これはどうなんだろう。まずいのかな。案外、正直に嘘つけば平気だと思うんだけどな。矛盾してないよ。自分に正直に、相手に嘘を教える。そんな感じ。


「明日香ちゃんは、魔法が使えるのかの?」


そう。実は今朝、高畑先生に魔法バレした。いや、隠さなきゃいけないような気はしてたんだけど、そこの基準がよく分からなくて。もう少し勉強してからかなー。とか思ってたんです。

では今朝のこと。冒頭から少しして、私が一応落ち着いた辺りから。



-----------------------------------------------------



どうも、作者です。

まずは、感想について。

感謝、そして陳謝します。参考にさせてもらいます。

お話について。

見切り発車しました。先が見えてない。

実は、打ち切りフラグが立っていることを一つ。前書きの時点で。

TSについては、あってもなくても、になりましたが。てきとうに入れました。作者はTSが大好きです。

百合が大好きです。

日常ゆるゆる、とか書きたいです。話がのんびりになります。山なし、落ちなし。

ではこのへんで。

お読み下さりありがとうございました。




[18657] 3話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/13 22:20
さて。
一度深呼吸して、アスナをハグハグして。もう一度深呼吸。
すー、はー。ぎゅ。すー、はー。
そして、体を起こして。アスナ分を補給して、すっかり蕩けそう、もとい、落ち着いた私。落ち着いたんだよ。興奮はしてない。してない。


「はふー」


幸せ吐息。荒い鼻息ではない。

何時くらいかな、今。アスナが起きるまで暇だ。起こすつもりはないし、二度寝する気もおきない。
そうだ。こんな時こそ権謀術数を張り巡らす、あるいは計画するための好機。
とはいえ、今の私では知っていることが少なすぎる。
えと。基本的に、「魔法は一般に秘するべき」とかそういうことだったはず。でも、魔法と一般の違いもいまいち分からないし、どこまで秘密なのかその基準も分からない。
そもそも私は魔法を知っているけど、魔法を使えるわけではない。少なくとも、私が知っている魔法は使えない。魔力とか、気とかが扱えるだけだ。
こう、体に纏ったり。一部に集めたり。
こねこね。ぐにぐに。
うーん。この状態って、魔法知らない人が見たらどうなるんだろう。一応、見えるといえば見えるわけだけど。魔力。気、は微妙。
よし。
分からないことは後回しだ。これは勉強してからだね。
次。
強くなる。幸せのため。アスナを護るため。アスナに護られるのもステキ。
今できるのは、魔力や気の制御だけ。でも、これが上手になるだけでもだいぶ強くなれる。ふん。
ずおー。
この状態。今の私でも、壁くらいなら壊せる。はず。
他の、魔法とか、闘い方だとかは誰かに教わるしかないかな。


「明日菜君、明日香君、起きてるかい。今日は、学園長…の……とこ………」

「あ」


あ。やっちゃった。只今私の周りでは、魔力と気がぐるぐるなってます。


「え…それ、魔力…それに気…?…明日香、くん…きみ、記憶が?」

「え?きおく?」


なに。そんなに頭の弱い子だと思われてるのかな。おかしいぞ。


「あれ?でも、それ」

「うん?あ、そう。魔力と気。あれ、高畑先生って魔法使い?」

「え!?いや…あれぇ??」


何だろう。とにかく、高畑先生は魔力と気を知っているみたい。先生、魔法教えてくれるかな。あ。


「ん…」

「アスナ。おはよう」


プリンセス御起床。よし、あなたのお胸にダーイ―――


「あ、あ、明日香君?その、魔法とか気とかは、あ、明日菜君には秘密に」

「ブ?どーして?」


秘密も何も、私ができることはアスナもできる。正直意味が分からない。


「いや…えーと。ほら…お菓子、あげるから」

「…本当?」


は?それは―――


「ホント!ホント!約束するよ!」

「わかった。やくそく」


―――吝かではない。甘いもの大好きです。


「うー。おはよう、あすか」

「うん。おはよう」


しかしどういうことだろう。アスナに秘密、だなんて。記憶…。少し、確かめてみよう。いや。アスナの頭が弱いとか、そういうことではなく。一応ね。一応。
先生とアスナが挨拶しているうちに、そそっと彼女に寄って。内緒話な小声で。


「アスナ。男は黙ってー?」

「なに?私、女、だよ」


必殺技ーて、あれ?…そんな、アスナ。そんなに頭が…


「ア、アレだよ、ほら。誰かは思い出せないけど、バカが言ってた」


頭をなでつつ。


「しらない。答えは?」

「あっ、そ、そっかー。わ、私も分からなくてさ。あはは」


そ、そんな!アスナ…。……いや?"知らない"?"思い出せない"ではなく?記憶、がない。先生も言ってた……記憶……あ。
記憶封印っ!
お、お、思い出したあぁぁあァァアッッ!!
危なっ!?そ、そうだった、そうだった。危ないよ、もっとしっかりやっとけよ!前世の私っ!なんだよ、私の記憶まで虫食いじゃないか。しかもかなり。その上、前世の記憶も少し残ってる。ほんの少し。
いやいや、先生に問い詰められる前に気づけて良かった。アスナ、起きてくれてありがとう。お姉ちゃんはやっぱり私を護ってくれるのね!
しかし、これではアスナに相談できない。彼女に知らせてしまったり、他の人に覚えていることを知られると、再び記憶封印されかねない。それはまずい。
い、今の状況は、高畑先生に私が「魔力」「気」「魔法使い」を知っていることがバレた。……だけ、と言えるのでは?それ以外は、記憶封印をした人たちが用意した状況と変わらないはず。誤魔化せるのでは…?というか、それ以外知らないと言えば、「魔力」と「気」と、あと「かんかほー」を知っているだけの一般人、で通せる。かも。
い、行けんじゃね?も、もうこれは、記憶封印をした人たち、たぶんそのことを知っているっぽい高畑先生たちの判断に乗っかろう!そ、そうしよう。
大丈夫。今までだって、わりと場に流されて生きてきたわけだし。いけるいける。頑張れ私。超頑張れ。
お。


「二人とも。朝ごはんができているよ」

「「はーい」」


とりあえずそんな感じで。アスナだって、言ってしまえば「使えるけど、知らない」状態だし。


「今日は、学園長の所に行くからね。」

「「んー」」


さあ。ご飯を食べよう。あ、お菓子ももらわなきゃ。



----------------------------------------------------



けんぼーじゅつすー(笑)
そして、今。学園長とお話タイム。「明日香ちゃんは、魔法が使えるのかの?」だって。あれ?ということは。


「おじいちゃんも魔法使いなの?」


高畑先生と。おそらく、そうなのだろう。あー。麻帆良ってそういう街、なのかな?


「ふぉ?いや、そうじゃな。そうなんじゃよ。わし、魔法使いなんじゃ。それで、明日香ちゃんもそうなのかの?」

「うーーーん」


知っているはずのくせに。楽しい頭のくせに。


「んん?そのお返事じゃ、ちょーっと、わかんないのじゃがの」

「あ、うん。私、魔法使えないよ」


これは本当。私的には。


「ふむ?しかし、魔力と気を知っておるのじゃろ?」


来た。ここが正念場。たぶん。


「うん。私は、魔力と気が使えるだけ。あと、これ」


  1      2        3     ダー
右手に気 左手に魔力 心を無にして 合成


「ふぉ!?か、咸卦法!?いや、これもそうじゃった。あ、明日香ちゃん?もう、OKじゃよ。」

「ん」


どうでしょう。


「うむ。他にはできないんじゃな?」

「うん」

「ふぉっふぉっふぉっ。それ以外に知っていることはあるかの?」

「んー。明日菜もできるよ」

「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃの。しかし、明日菜ちゃんはそれを忘れておるからのぅ」

「……頭が弱いから?」


ゴメンッッ!!明日菜っ!大丈夫!明日菜は賢い子だって私は知っているから!


「ぶふぉっ!?い、いや。ともかくじゃ。忘れている、と言うことが重要なのじゃよ」

「なんで?」


まぁ、そのための記憶封印だろう。


「さっきの、咸卦法なんじゃがの?失敗すると、爆発してしまうんじゃよ」

「え、うそ」


え?


「本当じゃ。じゃから、やり方を忘れてしまっている明日菜ちゃんがやろうとすると……」

「え、え?や、嫌だよ?あれ?」

「大丈夫じゃ。明日菜ちゃんは忘れておるのじゃからな。じゃから、明日菜ちゃんにも、他の皆にも、魔法の事は秘密じゃよ?」

「あ、うん。わかった」


あ、危ない。危うく我が半身を爆死させるところだったとは…!!


「うむ。良いお返事じゃ。では、もうよいぞ。明日菜ちゃんが待っておるしの」

「うん。あの、ありがとう。教えてくれて」

「ふぉっふぉっふぉっ。良いのじゃよ。当然のことじゃ」

「ん。じゃあね」


あー良かった。爆発させなくて。あと、やり過ごせた、のかな?
しかしこれからどうしよう。何か、魔法教えてー、とか言えない感じになっちゃったよ。ま、まぁできることをしていよう。今のところは。
とりあえずは。
明日菜をぎゅーっとしないと。
びっくりしたせいで、心臓がまだバクバクなってるよ。


「明日菜ーっ」


お話終わったよー。













































『咸卦法が使える一般人、ですか?』

『うむ。実際そんなようなもんじゃし、タカミチくんからも秘密にするよう言っておけば、まぁ大丈夫じゃろ』

『しかし、明日菜君には話してしまうのでは?』

『いや。明日菜ちゃんには絶対に話さん』

『なぜです?』

『咸卦法。失敗したら爆発すると教えたら、顔が真っ青になっておった』

『…信じたんですか?』

『間違いなく、じゃ。タカミチくんからもそれを言っておくんじゃぞ。それで完璧じゃ』

『学園長…………』



----------------------------------------------------



どうも、作者です。

感想ありがとうございます。ぶちこみました。

お話について。

基本的にご都合です。ゆるいです。

主人公はバカレッドの双子です。

正直、魔法の言葉です。

では、このへんで。

お読み下さりありがとうございました。








[18657] 4話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/10 07:14
みなさんこんにちは。神楽坂のできる方、明日香です。
小学生やってます。

いろいろあって、数ヶ月、もしくは数年。まぁ、そこらへんの時間をあまり細かく明言してしまうと、イタダケナイことになると言う複雑な大人の事情があるらしいです。

とにかく、いくらか時間が経過して。

神楽坂のバカな方、明日菜について。
……これは他称であって、私に言わせれば"可愛い方"になるのですが。
そんな彼女も時間と共に、よく笑い、よく怒り、よく遊び、よく叫ぶようになりました。怒っているというよりは、照れているという感じですが。いわゆる一つの「ツンデレ」です。もう少しすれば、具体的には中学2年の3学期とかになれば、「ツンデレ・オブ・ツンデレ」になるでしょう。
ともだちも何人かできました。
金髪の委員長とか、京都弁のおっとりさんとか。
とてもいいことです。
毎日楽しそうに、幸せそうに暮らしています。

そして、どうも我が姉。高畑先生への好意が変わってきているようです。どっかのアホも「ラヴ臭が」とか言ってましたし。
とても…いい、こと……です…………ちっ。
まぁ、先生なら私も許せないこともないです。一応。きっと。

その高畑先生。
気がついたらいつの間にか、ダンディーなおじ様に進化していました。タバコが似合ってます。急に老けすぎです。
いや、タバコについては明日菜だったか私だったかが、お願いしたようなしていないような気がするのですが。
一応、私たち姉妹の保護者というか保護責任者というか。そんなような立場であるところの彼ですが、どうにも忙しいみたいでしょっちゅう出張とやらに行きます。
聞いてみたところ、どうも魔法関係らしいです。働き盛りなのはいいのですが、いない間明日菜が寂しがるので、いっそ怪我させてやろうとか思うこともあります。思うだけですが。嫉妬とかじゃないです。本当だよ?

ついでに私。
できる方とはいえ、体育でスーパーマンな以外ではテストで平均点をわずかに上回る程度です。きっと中学生になったら、平均点に届かなくなります。
おかしい。
前世の記憶とかあるのに。いらない記憶ばっかり残っていて、ほとんど消えちゃってるわけですけど。
まぁ、いいや。
魔法について。
この間高畑先生に「魔法教えてー」て言ったら、「うん。それ、むり」て言われました。
怒ろうとしたんだけど、よく見たら先生少し泣きそうになってて、おろおろしてたらその場に現れた明日菜に私が怒られました。
理不尽。
そんなような訳で、私の魔法とか気とかは制御技術ばっかり上達しています。大容量と精密さを兼ね備えています。速くて硬くて強い、素人戦士です。なんじゃそら。
他にもいろいろ考え中です。秘密ですが。



そんなこんなで、学校からの帰り道なう。
私と、明日菜と、木乃香の三人で歩いてます。
木乃香は寮暮らし。双子は高畑先生の家。
麻帆良の寮はなかなかに豪華で、よく明日菜と一緒に遊びに行きます。
そういえば。


「ちょっと前にさぁ、高畑先生が言ってたんだけど――」

「え!なになに!?」

「あははー。明日菜食い付きすぎやえー。」


ホントに。びっくりしちゃった。


「う、うるさいわね。で、明日香!先生なんて言ってたの?」

「うん。それがさ、「明日香君。キミ達ももうすぐ中学生だし、そろそろ寮で暮らすようにした方がいいんじゃないかな」というようなことを、ね」

「え!?」

「あ、ほんまにー?そしたら、ウチと一緒の部屋やったらええなぁ」

「あ、そっか。それ採用。木乃香と一緒の部屋とかいいなー」


そうしたら、毎日のご飯がとても楽しみになる。そして毎日料理を教わることができる。
木乃香は料理上手だし、教えるのも上手いと思う。私も彼女に師事するようになって、少しは料理できるようになったし。
いやー。夢が広がりんぐですなー。


「よよよ、よくないわよっ!いや、べ、別に木乃香と一緒の部屋が嫌なんじゃなくて!たた、高畑先生と、その…あれよ…」

「あー。センセのことやねー。うーん。そーやなぁ、確かに離れてまうのはなぁ」


ぬぬぬ……。このおませさんめ。いや、そろそろそういう年齢でもあるのかな。
くそぅ、私的には先生はお父さんとかお兄さんとか、そんな感じなのに。明日菜はどこで道を間違えたのか。いやいや、私は明日菜のことなら応援するよ?こればっかりは本当に。
ん、待てよ…。


「でもさ、明日菜。よく考えてみてよ」

「な、何よ」

「中学生にもなって異性と一つ屋根の下。それって、もう家族みたいなものじゃない?」

「か、家族!?それって、ふ、ふふふふ、ふう――」

「「いやいやいやいや」」

「あれ?」

「違う違う。いろいろ飛ばしてもうてるよー」

「そうじゃなくて。私が言ってるのは、お父さんと娘とか、お兄ちゃんと妹みたいな家族だよ」


まったく明日菜はイノシシさんだなー。こんな風になるなんて、思ってもみなかったよ。そんなあなたもプリティー。


「な、なんだ。その家族か。いやでも、私がなりたいのはお嫁さんであって……て!なな、何言わせんのよっ!!」

「…明日菜が自分で言ったんやえー。でも、ほうかー。住む家が別々になるっていうんは、ええかも知れへんねー」

「で、でも、一緒にいられる時間が減っちゃうじゃない」

「大丈夫。中等部なら高畑先生の授業もあるし、なんだったら家まで遊びに行けばいいよ」

「うふふ。独身男性の家に遊びに行く女子とか、アヤシイ響きやねぇ。なんや、ドキドキしてきたえー」

「うわ、本当だ。だ、だいじょうぶ。その時は、私ちゃんとお留守番する…から……」


いや、監視ぐらいは必要か?うん、必要だろう。
明日菜のためにも二人きりにするのは仕方ないとはいえ、何があるか分からないもんね。邪魔するわけじゃないし。しないってば。


「ほ、本当?で、でもなぁ……。あ、そしたら私も料理とかした方がいいかな。二人みたいに」

「いや、それは大丈夫」


そう、大丈夫。なぜなら。


「そこらへんは、将来的にも私がお世話するから」

「うわ、なんやこの意気込み」


おだまり。これは大事なことなんだよ。
明日菜のことは応援するけれど。明日菜の幸せは、私の幸せだけれども。それでも、譲れないものというのがあるのです。


「え、えー?でも、先生に喜んでもらいたいし、私がお世話したいし…」

「その気持ちは分かるし、すごい大事だけども。そんなことしたら私が明日菜と一緒にいられないじゃんかっ!」


そう!これこそが私の至上命題っ!
なにも24時間365日一緒にいたいわけではない。今だって、例えば木乃香のお料理教室は私一人で受けてるし。他にも姉妹で別々の用事があったりとか、学校の行事とか、結構離れる機会っていうのはそこら中に転がっているもの。
それでもっ!
もし、明日菜が料理スキルを手に入れ。通い妻としての適正を獲得してしまったら!そんなの私には耐えられ――


「は?そんなことないでしょ。普通に一緒にいることになるわよ。双子なんだし」

「ですよねー!いやいや、明日菜ならそういってくれると思ってたっ!私も明日菜のこと、大好きだよっ!」

「は!?べ、別にそんなこと言ってないでしょ!何言っちゃってんのよ!!」

「ふふふ。二人は仲良しさんやなー」

「あはははーっ!うん。でも私たち木乃香のことも大好きだよ!」

「おおきに。ウチも二人のこと大好きやえー。」

「ちょっとちょっとっ!ふふ、二人してなに言ってんのよ!いや、そりゃ嫌いじゃないけど……」

「そうだ!私が明日菜に料理教えるよっ。あ、そしたら木乃香今日お邪魔してもいい?」

「もちろん、ええよー」

「……え?いや、教わるなら私も木乃香に教わるわよ。そのほうが確実だし」

「うふふ。ウチはどっちでもええよー」

「やだ!私が明日菜に教えたいっ!」

「なに子供みたいなこと言ってんのよ!私だって、より上手な人に教わりたいわよ!!」

「なー。それで、今日はどないするん?」

「ふふふ。確かに我が姉の言うことも尤もだよ。しかし!私のほうが木乃香よりも明日菜のことをより深く知っているのは明らか!
 つまり!私のほうが、より明日菜の先生として相応しいのだよっ!!」

「な、なるほど!!そういうことだったのね!!」

「そう!!!私はいつだって明日菜のためを思って言っているの!!!だから信じてっ!!!私が明日菜を立派な料理人にしてあげるからっ!!」

「わかったわ!!!私、あんたを信じて待ってるっ!!!!」

「明日菜っ!!!!」

「明日香っ!!!!」


ああっ!!これぞ美しき姉妹愛!!私たちはずっと一緒。これからも二人、お互いを支えあって――


「「痛いっ!!」」

「なー、もう少し静かにしよなー?」

「「ハイ、スイマセンデシタ」」


木乃香さん。金槌ツッコミはホントに勘弁してください。スゴイ音した。しかも二刀流。双子二人が泣いています。


「なー。それで、今日はどないするん?」

「「ハイ、オジャマサセテイタダキマス」」

「ほんなら、お買い物していこなー」

「「ハイ、オトモサセテイタダキマス」」


そんな、初等部生の夏の日。



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どうも、作者です。

感想ありがとうございます。

お話について。

一言。作者が変態なので、作中の人物が変態に見えてもそれは全面的に作者のせいです。陳謝。

投稿ペースについて。

ごらんの有様です。時間をかけても長くなりはしません。

ていうか、時間かけてもいません。土下座。

ではこのへんで。

お読み下さりありがとうございました。







[18657] 5話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/13 22:21
みなさんこんにちは。高畑さん家の家事担当、明日香です。
今日は雪広邸にお泊りすることになりました。
それというのも昼間、明日菜とあやかでいつも通り口論(たまに戦闘)という名のじゃれあいをして遊んでいたのですが、何をどうしてそうなったかは知りませんが気がついたら「では一度私の実家にご招待いたしますわっ!」「上等よ!そういうことなら明日は休日だし、早速今日ご招待されてやるわよっ!」となっていました。
わからない。
何故、国語の授業の話からそうなったのか。
とにもかくにも、私は近くで二人の友情を聞き流していたのですが、お宅訪問の流れをバッチリ聞き取り「私も行く!」と叫ぶに至りました。
しかしながらその後も続く口論に、これは私一人では危ないぞ、ということに気付き。そばにいたこのかを巻き込みました。
他にも何人か誘ったのですが、皆都合がつかず。ていうかこれ以上増えると書ききr

もとい。
現在4人で移動中。移動はもちろん黒くて大きくて硬いやつ。車ですね、分かります。
そんな車内での会話の中心はやはり、明日菜とあやか。これもやっぱり何がどうしてそうなったのか分かりませんが、お互いの好みについてややケンカ腰で話しています。


「ふん!オジコンのあなたに言われたくありませんわ!」

「なな、何よ!あんたこそショタコンのくせに!」

「うふふ。なんや、どっちもどっちな気ぃがするえ。明日香はそんなんないんか?」

「いやー、私はそんな変な嗜好は持ち合わせてないかな」

「ちょっと!シスコンのあなたにも言われる筋合いはなくってよ!」

「なにさ。シスコンのどこが悪いんだ!私が明日菜を好きなことにおかしいところなど何もないっ!」


そうさ!シスコンを誇りこそすれ悪く言われる必要なんかこれっぽっちもないね!
ていうか何でこっちにまで飛び火するのさ。……あれ。このかがこっちに振ったからじゃね?…ストッパー、のはずじゃ…。
ま、まぁいいや。


「なにを開き直っていますの!それでしたら私だって、可愛い男の子を愛でることの何がおかしいのですか!」

「ちょ、ちょっと明日香。あ、あんまりそういう……はぁ?あやか、あんた何言ってんの?それなら私だって、高畑先生のことを、その、すー、すすすす 好きなことのなにがおかしいのよ!」

「あはは。皆して開き直ってもうてるよ。三人とも、アレみたいやえ?」

「「「アレって何よ!!」」」

「あははははっ」


まったく。このかはまったく。
それにしても、あやかのこれは過去のことがトラウマみたいになっているのが基のはず。元からじゃない、よね。
明日菜にしたってそうだ。そうのはず。思い出せなくなってるけど、そんなような過去が基になっている。
では、私は?
私も過去のトラウマ的な理由なのだろうか。でも家族を好きなのは普通のことだ。周りにいる皆だって、私ほどじゃなくても自分の家族のことが大好きだし。…裕菜は同士だけど。
いや。
よーく考えてみればそうなのかもしれない。
昔は周りにいた人間の内、心を許せたのは明日菜だけだったし。その明日菜にしたって、会えるのはたまにだけ。そんな環境じゃ、双子の片割れに依存気味になるのも分かろうというもの。
うん。
ま、トラウマだろうがなんだろうが、今私が明日菜のことを好きなことには変わりないし。過去のことなんか関係ないよ。
あれ?
それじゃあ、同じ環境にいた明日菜がシスコンになってないのは何でだろう…………?いやいや。明日菜はツンデレの恥ずかしがりだから、表に出さないだけで本当はシスコンのはず。そうでないにしても、家族として、またはそれ以上に少し依存気味くらいに好きでいてくれているはず。はず。
だって。冷静に考えれば、私くらいいつも「好き好き大好きー」と言ってこられたら鬱陶しいもの。……自分に傷つけられた……。
とにかく!
私と明日菜はラブラブなんだよ!あ、やべ。体温あがっちった。

そうこうしている内になにやら巨大なお家が。
え、これ?


「ようこそ。我が家へ」

「「でかっ」」

「ほほー。おっきいなぁ」


本当に大きい。家屋があの、あれ。学校の体育館くらい。


「ふふん。それにしてもそちらのお二人。特にアレな方。もう少し品というものをお持ちになってはいかがかしら」

「なによ。せっかく私があんたを褒めてやるような心持ちになってたのに」

「あなたに褒めてなどもらわなくて結構ですわ!そもそも――」


明日菜。そこで反応したら自分でアレなことを認めちゃうことになるよ。言わないけど。
そうだ。このかにもう一度よく言っておかなくちゃ。


「このかこのか。学校でも言ったと思うけどさ、私一人じゃあの二人のじゃれあいを止められないんだよ」

「あー、そんなん言うてたなぁ。うん。それで、どないしたらええの?」

「うん、つまりさ。私とこのかの二人で、明日菜とあやかのボケにツッコミを入れるんだよ!」

「なるほど。ウチらがツッコミ、あっちの二人がボケ。そういう役回りで二人を抑えてこぉ言うわけやね?」

「そういうこと。やっぱり、ボケに対しては――」

「「誰がボケよ!?」ですの!?」

「明日菜といいんちょがボケやぁて。明日香が」

「ちょ、このか!?」


だからこのかさん、何で煽るようなことを…


「そもそも明日香さん。あなたこそボケなのではなくて?」

「そうよ!明日香だってどっちかと言えばボケよ。私と双子なんだし」

「うふふ。まぁ、ウチはツッコミで決定やね」


失礼な。そしてお姉ちゃん。双子は理由にはならないし、なったら自分もボケだと認める発言に…。
あとこのか。金槌はやめてってば。

























そんなこんなで星空瞬く時間帯。
あの後、あれやこれや遊びまわりました。基本的にはボケ二人が元気に騒いで、ツッコミ二人がうふふあはは、てしていました。断固として二人ずつです。


「いやー。それにしてもアレは傑作だったよね」

「あー、あれなぁ。確かにアレは傑作やったな」

「まぁ、確かに。アレは傑作でしたわ」

「まぁね。私もアレは傑作だったと思うわ」


そんな感じでほんわかしてます。もうすぐご飯だし、その後は何するのかな。ゲームとかかな?


「さて。お湯の準備が整ったようですし、お夕食の前に一緒に頂きましょうか」

「わっ、ホント?あの大きい方よね?うわ、なんかドキドキしてきたわ、私」

「ええなぁ。皆でお風呂とか、お泊りの醍醐味やねー」

「え゛…」


忘れてた……このかの言う通り、お泊りといえば一緒にお風呂だよ。いや、他にももちろんあるけれども。えっと、こういう時はどうすればいいんだっけ……。あ、あの日とか。いやバカか。まだ来てないよ。バレバレだよ。


「どうしたんですの?明日香さん。具合でも悪いんですの?」

「え、そ、そう!ちょ、ちょっとおなかが…」

「うそ、大丈夫?そんなに悪いんなら先に休む?」


あぁ!明日菜の愛で私の良心がっ!


「いやいやー、そんなことないと思うえ。さっきまであない元気やったし。そもそも、明日香が体調崩したら明日菜が気づかないはずないやろ?」


こぉぉのぉぉかぁぁっ!!
もう本当に今日のこのかはダメだなっ!余計なことばっかり言って。二人でしっかりツッコミとしてやってこうって言ったのに!まったく、これだから関西人は!あ、これは偏見か。
では。
まったく、これだから近衛の人は!


「そ、それもそうね。じゃあどうしたのよ明日香?」

「…まさか…お風呂が嫌、などとは言いませんわよね?」

「んー、それもどうやろなー。ウチんとこ遊びに来たときは一応入っとったし。何かと理由つけて一人で。なぁ、明日菜。家ではお風呂、一緒に入ってるんか?」

「ちょっとこのか!?ホントなに今日!お願いだからもう静かにしててっ!」


信じらんない!なにこいつ!何がしたいんだよ。……いや、何もないのか?ちっ!頭の切れる天然とか、最悪だなっ!!人選ミスったね!まったく。


「え?いや、それは当然…あれ?言われてみると私、明日香と一緒にお風呂入ったことないかも……?」

「へぇ?それはそれは。シスコンの明日香さんが明日菜さんとお風呂に入ったことがない、と。どのような理由があるのでしょうねぇ?」

「うふふ。おなかがたるんでもうてるー、とかやったら一緒に入るんは恥ずかしい、言うのはわかるえ?」

「ちがっ!た、たるんでなんかないよ!見られる分には全然問題ないよ!あ、いや、だから……」


つまり見るのが恥ずかしい。いたたまれない。でもそんなこと言ったらおかしいわけで…私たちは女同士だし、姉妹だし。
なんだこれ。
たぶん、よく分かんないけど前世のせい。この感じでは前世は男だったのだろう。1話を見れば分かる。なんのこっちゃ。


「それなら、いい機会ですし、一緒に入ってしまいましょう。明日菜さん、そちらをお願いいたしますわ」

「そうね。ほら、行こう?明日香。でも、何で今まで一緒に入ったことないんだろう」

「ウチが知っとる限りでは、料理がーとか掃除がーとか片付けがーとか言うて時間ずらしてたえ?うわ、明日香、顔真っ赤やよー?」

「いや、だから、ちょ、離して!明日菜、あやか!?」


何だこのハイスペック。二人してまったく抜け出せない。
ダメだ、こうなったら……どうしよう。はっ!そうだ!もうこれはサッと入って、パッと出てくるしかない!そして交差する瞬間に目を瞑れば完璧だ!そうと決まれば…


「わかったっ、入る!い、一緒にね!ほ、ほら。お先っ!」

「「「早っ」」」


スポポーンと一気に服を脱ぎ。浴室へ突撃。引き戸を開いた先には――


「で、でかい……」


一家庭に備えるレベルを超えているでしょこれ。あ、大きいほうとか言ってたっけ。中までは見なかったからなぁ。
正面奥の壁は一面ガラス張り。そこに沿うように八畳ほどの長方形の浴槽。洗い場はその倍ほどの広さ。まさに、大浴場と呼ぶに相応しい。窓から見える景色もステキ。
…ハッ!
のんびり眺めている場合じゃなかった!びっくりしてついやってしまった。
まぁいい。今のでこの浴室内はほぼ把握した。よし!急いで洗って、そしたらもう出よう!
うおー!


「くそっ、髪長い。切ろうかなー?でも切ったら明日菜とおそろいにできないし…」

「うわー!無駄にでっかいわねっ。あ、明日香早いわよー」

「無駄とはなんですの、無駄とは。この浴室は――」

「あれ!?もも、もう来ちゃったの!?」

「あはは。何言うてんの明日香ー。一緒に入りに来たんやし当然やえ?」


バカな!私の完璧な計画が!こんなタイミングで来られたら、目瞑りっぱなしになってしまう!な、何がいけなったんだ……


「明日香ー、ウチが背中流したるえ?」

「あ!そ、それわたしがやりたいん…だけど……」

「――そもそも我が家に――」

「あ!あ、え。いいいや、だいじょーぶ!ほ、ほら!今、洗い終わるから!!」


ズバババッ。全速力で体をウォッシュ。気とか使ったかもしれない。全身ヒリヒリする。


「うわ!速いなー、明日菜もあんなんできるー?」

「ん、んー。私もあそこまではできない、と思う」

「じゃ、じゃあ、お先です…」

「――未来に翔ける…あら、明日香さん。もうお入りに?しっかりと洗いましたの?」

「それがなー、なんやすごい速さで洗っててほとんど泡しか見えなかったえ?」

「なんですのそれ。相変わらず意味の分からない行動を……」

「私もとっとと洗っちゃおー」


……て、シーッッット!!!湯船に入っちゃたよ!あ、いいお湯。…でなくて!
なんだこれなんだこれなんだこれ。
し、失敗した!いや、見られている状況で湯船に入らず出るというのは、よく考えたら無理か?ま、まぁいい。結果オーライだよ。問題はこの後どうするか、ということ。幸いにしてここまでで得た視覚情報は、湯につかる時のふちの確認のみ。ここからなら、一切目を開くことなく浴室を脱出することも可能だ!
後はタイミング。
いつならば不自然ではないか。……やはりここは入れ替わりの時しかないだろう。「失礼」「あ、じゃあ私お先に」みたいな。さっき似たようなやり取りした気もするけど置いておく。
よし、今度こそ完璧だよ。落ち着いて実行すれば何も問題はない。大丈夫、私はやればできる子。
ほら、どうやら三人とも湯船に向かってきているみたい。深呼吸して…。


「失礼いたしますわ」

「あ、じy、いひゃん!」

「うわー、明日香も肌綺麗やなー。それにたるみとは違うええ感じの弾力が…」

「このかだって十分綺麗でしょ。それにしても広いわね。4人で入っても全然余裕じゃない。ていうか何してんのよ。あれ、でもホント何かしらこの感触…」

「あ、ちょ、や、む無理無理!ふ、二人とも離れてよ!こんなに広っ、いん!か、らはっ、は、くすぐったいよっ!」

「ちょっと何してますの二人とも。あら、本当。何でしょうか、この、プニプニというか、グニグニというか…」


そら筋肉だよバカヤロウ共!
強くなりたいならトレーニングは欠かせない、ということで。私は明日菜と体型は一緒だけど、体重は結構重くなってる。
て、そうじゃなくて!


「ね、ちょっと、まじ、あは、あはははははっ!ひゃ、ひゃめへ!むり、も、あんっ!」

「うふふふ。なんやウチ、ちょうドキドキしてきたえ」

「わ、私も、なんかイケナイ事してるみたいな気が…」

「ふ、二人とも何を言っていますの?ま、まぁ私も少し胸の高鳴りが…」


な、何。どこ行っちゃってんの!?だからお風呂一緒なんて嫌だったんだ!……あれ、こんな理由だったっけ。
と、とにかく!もーやばい。い、意識が――


「お、お姉ひゃん――も、らめぇ――」

「あ、あれ!?明日香!?だ、大丈夫っ!?」

「え?ど、どうしちゃったんですの!?どうすればいいんですの!?誰かっ、誰か来てくださいませーっ!!」

「あははは、全身真っ赤っかやね。これは、明日香のぼせてるなぁ。うふふ、明日香も結構アホやねー」


……キコエテルヨコノヤロウ……



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どうも、作者です。
感想ありがとうございます。励みになります。
後書きって毎回書く必要ないよなー、と思いましたので、次回からそのようにします。
このかについて。
「木乃香」と変換するのが大変すぎて今回から「このか」に。今後もそのような人物が出てくると思います。
お話について。
明日菜のフラグですが、明日香と矢印が双方向になったとたんXXXになる気しかしません。作者はXXXは書けないのでしばらくパスです。
あと、ごめん。「らめぇ」て言わせたかったんだ。
会話だけで話を構成したい。楽だから。当然短くなる。
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。



[18657] 6話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/05/25 11:03
みなさんこんにちは。麻帆良の最後の常識、千雨です。小学生です。

今日は最近できた、といっても月単位で時間が経ってるけど、まぁとにかく、新しくできた友達について考えていきたいと思います。

で。
先に私の自己紹介を一言ですると、「常識の尊さを知っている人」となる。
もちろん他の人に自己紹介するときにそんなことを言ったら非常識なので、そういう時は無難に当たり障りなく普通の自己紹介をやっている。

そして件の友達。彼女に始めてあった時、イコール彼女が始めてこの学校にきた時の自己紹介が以下。


「神楽坂明日香です。好きなものは明日菜。嫌いなものは明日菜の敵。よろしくです」


きつい。
明日菜というのは彼女の双子の姉で、その自己紹介と比べれば愛想はいいものの近づき難さは同等かそれ以上。愛想がいいのに近づき難いという、言葉にすると矛盾する状態を地でいくその振る舞い。私はこのとき、こいつとは関わることはないな、と確信していた。

が。
どういうわけか最近、彼女と私は友達と呼べるほどに関わりあっている。まぁ、どうっていうか、彼女の方から話しかけてきたのがきっかけだけど。
しかしながら彼女。話してみれば割と常識的。姉のほうと比べるといくらか落ち着きもあるし、勉強もできる。容姿が少し珍しいけど、一応常識の範囲内だしこの際それくらいの見た目はどうでもいい。
どうでもいい、で済ませられないのがその運動能力。姉妹揃って超人的とも言える身体能力を発揮してくれる。正直困る。でももっと困るのは、そんな彼女を私は結構嫌いではない、ということ。
しかしながら第一印象はアレだし、そのファーストインパクトから時間が経っていることを踏まえて、この間聞いてみました。


「なぁ、今、自己紹介するとしたらどんな感じ?」

「んー?んと……。神楽坂明日香です。好きなものは明日菜と明日菜の大切な人と甘いもの。嫌いなものは……今は、特に……あ、明日菜の身の危険!…で、急に何?そういえば――」


だとさ。
うん。

とにかく、私は彼女と友達になった。

彼女、友達はそこそこいるように見える。でもその友達は彼女の姉の友達とイコールだ。そしてその関係を言葉にすれば、「姉の友達は、妹の友達」となる。
しかし私は違う。
といっても、私と神楽坂(姉)が友達ではないということはなく、今ではすっかり友達してる。
要するに、私は明日香と先に仲良くなったということだ。
初めはこのことに何の違和感も感じなかったけど、仲良くなり時間も経つと徐々に先に述べた言葉が見えてきて。
私は少し、そのことが気になるようになった。

























今日も彼女は、姉の元を離れてふらっとこちらにやってきた。……変な懐かれかたをしているような感じ。あぁ、気になる。もういっそ聞いてみてしまおう。


「なぁ、神楽坂。聞きたいことがあるんだけど」

「んー?」


仲良くなると愛想が悪くなるってどうなんだよ。ま、こいつの愛想のいい状態ってのは何か壁を感じるわけだけど。でも、猫かぶっててもそうでなくても姉関係の本音は駄々漏れってのは……いや、いいか。


「なーに?」

「あ、いや。なんて言うか、お前が仲いい奴って姉のほうの仲いい奴だろ?」

「え、んー。そうかな?」

「そうなの」

「うー?」

「…例えばだ。無駄に世話焼きの奴とか、無駄に天然な奴とか、無駄に行動力ある奴とか…」

「あー、なるほど。でもそんなこと言ったら千雨は無駄に普通の奴、になるけど」

「何が無駄だっ!普通に無駄もくそもあるかっ!!」


まったく失礼な奴だな!それならてめぇはアレだ。無駄にシスコン。…意味分からんし。


「ていうか!話の焦点はそこじゃねぇんだよっ!」

「でもさ――」

「でもじゃねぇ!そうじゃなくてっ!…つまり、私はお前と先に近づいたよなって話だよ」


一瞬で話が脱線するのは、むしろこいつの方が多いよな。てか、こいつが私のとこに来なければもう少し平穏な学校生活が送れるんだけどな……。


「あー、確かにそうだけどさ。それがどうかしたの?」

「だからな?私の知っている限りでは、お前の方が先に―なんていうのは私だけなんだ。今後どうなるかは知らんけど」

「ふんふん」

「で!……それで…な、何でお前は私に、その………話しかけようと思ったんだ?」


くそっ。こういう話、というかあまり深く人と関わるのは疲れる。大体なんで私がここまで言ってやらなきゃなんねぇんだ。てめぇももう少し考えて喋れよ。まぁ、聞こうとしたのは私だけど。


「ん、なんとなく」

「は?」

「だから、なんとなくだよ。なんとなく仲良くなれそうかな、て」

「…なんだそれ。適当かよ」


…なんだよ。別に何でもよかったってことかよ。


「はぁ…いや、わかった。もう――」

「それ以上の理由を強いてあげるならー……明日菜に似てるから、かな」

「はぁ?アレに似てるぅ!?」

「アレってなんだよ!失礼だなっ!ていうか何でそんな嫌そうなんだよ!重ね重ね失礼だなっ!!」

「あ、いや。わるい…でも」


それはちょっとなぁ…。だって神楽坂のバカな方、だもんなぁ。
いや、本人にしたら褒めてるのかもしれないけどさ。ちょっと伝わんねぇよなぁ。


「言っとくけど中身じゃなくて、見た目の話だからね」

「見た目?…どこが。いや、マジで」


何言っちゃってんの?
いやいや、マジに。


「ふっふっふっ。ちょっとそのメガネを貸してごらん」

「…まぁ、いいけど。すぐ返せよ…ほら」


本気で言ってんのか、こいつ?
作者が見分けれてないとかでなく?
…もとい。
冗談とかでなく?
まぁメガネがあれば見分けるくらいは……あれ?


「ぬっふっふっ。どうだい千雨君。メガネをかけて目つきを悪くした私。見覚えがあるんじゃないかな?…鏡とかで」

「お、お、おぉ!わりと似てる、かも。いやいや、全然気づかなかったよ!」


あれ、結構似てるかもしれない。これはつまり、神楽坂(姉)にも似てるということになるよな。
でも私、学校でメガネはずさないんだけどな。
いつ気づいたんだろ?


「ふははは!そうだろうそうだろう!私の明日菜センサーを甘く見てもらっては困るっ!!」

「え?」


……何センサーだって?…嫌だ、何かこいつと友達でいることに言い知れない危機感が…。


「だから、明日菜センサー。もしくは明日菜レーダー」

「・・・それは?」

「ふふん。もちろん明日菜を捕捉するための機能だよっ!」


あ、ダメだこいつ。もうどうしようもない。
いくつか他称があるけど、今日からこいつは「神楽坂のアブナイ方」だな。もしくは変態。


「…………………」

「あ、なんだよー感激して声も出ないの?」

「そ、うだな。ははは…」


感激ではなく、ドン引き。


「んん?ホントにー?あ!言っとくけど私が千雨に話しかけようと思ったのは、本当になんとなくだからね!」

「いや、もうまったく分からねぇよ」


目の前の人がオカシイということ以外は。


「つまりー、千雨が千雨だから。なんとなく仲良くなれそうかな、て」

「……そう、かよ」


なんだよ…急に恥ずかしいこというなよ。そんなだからバカと一括りにされるんだよ。
まったく。


「あれ。言ってることが分かんなくなってきた。まぁいいや。それより今日のお昼さぁ――」


……まったく。

























「そういえば、この間パソコンいじってたらさ」

「なんだよ」

「私の明日菜探知機が反応してさ」

「へぇ…?」

「ネットアイドルってやつでさ」

「……うん」

「ちう、て人なんだけど。千雨知らない?」

「いいい、いや知らないなぁ!」

「そっかー。ぽいんだけどなー」

「!!!」


ここここの、無駄にシスコンめっ!!!










[18657] 閑話の1
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/05/25 12:07
有言実行してはみたけどあまりのダメさに絶望。な、おまけ




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ある日……


「魔法教えて!」

「うむ、ダメじゃ」

「な、なんで!?」

「ふむ。まぁ、わし自身忙しい、というのもあるのじゃがの。それ以上にのう……」

「な、なに?あ、わ、私ちゃんと秘密にできるよ?」

「ほーう?」

「あ!信じてない!ちゃ、ちゃんとできるよっ!だから――」

「明日菜ちゃんにも、かの?」

「え!あ、えと、だ、大丈夫だいじょーぶ!あは、あははは…」

「信用ならんのう……。うむ、ダメじゃ」

「えー!大丈夫だってばー!ちゃんと人がいる時は使わないからっ!」

「明日菜ちゃんがいる時は?」

「う、うん。だから、それは……」

「うむ、ダメじゃ」

「もー、けち。まったく、高畑先生も教えてくれないし……」

「ふぉっふぉっふぉっ。タカミチくんにも聞いてみたのかの?」

「うん。昨日、朝ごはん食べた後に聞いてみたんだけど……」

「ダメ、と言われたんじゃの?」

「そう。それで、なんでー!て聞いてみようと思ったんだけど……よく見たら、なんか泣きそうになってて……。ちょっとかわいそうになったから聞かないことにしたの。それで、おじいちゃんに頼もうと思って今日来たんだけど…」

「そ、そうじゃったのか…。まぁ、タカミチくんに関しては、そっとしておいてあげてくれんかの?」

「うん…?……わかった」

「うむ、ありがとうの。彼もいろいろ大変なんじゃよ…」

「ふーん。あ、そうだ。教えるのが無理なら、何か本とかないかな?自分で勉強できるような」

「ふむ。いや、それもダメじゃの」

「えー?ちゃんと、持ち出したりとかしないよ?」

「うむ。その約束は守れるのじゃろうがの。しかし、自分で勉強、といっても結局明日菜ちゃんと一緒じゃろ?」

「そ、そんなことないよー!も、もう、部屋から出さないよ!げんじゅーな保管だよ!」

「そもそも、明日香ちゃんと明日菜ちゃんは一緒の部屋じゃろ?」

「う…」

「うむ、ダメじゃの」

「うーーーっ!」

「かわいく唸ってもダメじゃ」

「ふ、ふんだっ!いいもんね!こ、このソラマメ頭ああああぁぁぁぁァーーー……」

「………………あまり、そういう暴言は感心せんの。あ、もう聞こえんか……」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
三人称を練習しようとしたけどなんとなくアレなことは分かっていた。ので、おまけの2



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ONE DAY……

高畑さん家の双子の部屋。
今は明日香が一人でなにやら呟きながら変な踊りをしている。


「…黄昏の姫御子…んー。
 黄昏よりも昏きもの 血のな――」


おっと。
メダなパニではなく、魔法の練習をしているようだ。
魔法といっても、彼女は魔法の何たるかを知らないので単純に魔力操作の練習をしているだけだが。
呟きはきっとノリ。

しかし、そんなふざけた詠唱を聞きとがめた人がいた。


「明日香。なに?また漫画?」

「明日菜!違うよ、小説のほうだよ」

「知らないわよ」


明日菜。明日香のお姉ちゃん。
彼女には魔法は秘密のはずだけど、明日香はその境界線がアヤフヤ。多少開き直っている。


「魔王を倒すんだよ?」

「いやいいけど。それより、いつそんなの見てるの?そんな時間ない気がするんだけど」

「あ、あははは!け、結構暇あるよ!?い、いつの間にかだよ!」


明日香は前世持ちである。無駄な記憶ばかり残っているので、よくアホに見える。お姉ちゃんは、私がしっかりしないと、とか思っている。






この二人。
ここ、麻帆良で暮らし始めてからしばらく経つと、随分と明るくなった。
バカを露呈したと見る人もいる。事情を知らない人は、ほとんどそう。

友達も少なからずできたし、元気に遊びまわっている。


「あ、明日菜!今日の夕飯さ、デザートに少しケーキ作ってみようと思うんだ」

「え!本当?でも材料あるの?」

「うん。あ、ないんだよ。だからさ、一緒に買いに行こう?」

「あ、行く行く!待って、準備するから!」


二人の友達はそのほとんどが共通の友達であるし、妹は姉にべったりなので級友らと遊ぶときはほぼ二人一緒である。
双子なだけあって二人の見た目はそっくりであるし、髪型もおそろいだ。


「私もまだだから、急がなくていいよ。ケーキ、どれくらい作る?」

「えーと。こ、これくらい?」

「あははは!この、食いしんぼ姉めっ」

「なな、何よ!明日香だって甘いの好きでしょ!?」


普通ならなかなか見分けがつかないのだが、二人の周りにいる人たちは彼女らを間違えない。

明るくなったとは言え、二人でいるときの方がより自然体でいられるのは、まぁ当然だろう。

姉は妹のことが好きだから、他の人といるときよりも若干素直だし。

妹は姉のことが好きで、明日菜のそばにいるとほんのりと頬が紅い。


「よし。行くわよ明日香。いざ、ケーキへ!」

「あ、待ってよ!急がなくていいって言ったのに。このいやしんぼ姉め」

「何言ってんのよ。あんたこそ、そんな大きなカバン持っちゃって。この、この…食いしんぼ妹め」

「……うん。いや、材料って結構かさばるんだよ!別にそんなに大きくは…」


曰く。

ツンデレのほうが明日菜。

シスコンのほうが明日香。

わりと酷いと思われる。でも、後者の方は自覚もあるし開き直ってるから誰も遠慮しない。

それをそばで聞いてる前者は、その場で即ツンデレる。決して認めないけど。


「「行ってきまーす!」」


そんな二人のある日の、黄昏時。








[18657] 7話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/05/29 10:17
みなさんおはようございます。神楽坂の一人部屋の方、明日香です。中学生になりました。

細かいタイミングの明言は避けるとして、私と明日菜は高畑先生の家を出て寮暮らしを始めました。

明日菜はこのかと同室。

私は一人部屋。

学園長のひげを引っこ抜きに行こうとしたら、明日菜とこのかに止められました。なぜ。

今は、如何に誰にも知られずに奴のひげを引っこ抜くかを思案しています。

とにかく。
私たちは中学生になりました。
クラスが分かれました。
明日菜はA組。私はB組。
じじぃの首の上のソラマメを剥いてやろうとしたら、友達皆に止められました。でも振り切りました。
しかし、学園長室のドアを破壊したところで高畑先生に止められて断念しました。どうして。

今は、如何に衆目にさらしながら奴のソラマメを剥くかを思案しています。

それは置いといて。
私は引っ切り無しにA組に遊びに行きます。
この間は、「あれ、何で出てくの?授業始まるよ?」とA組の人に言われました。

B組の人はなかなか落ち着きがあります。皆仲もいいし、半分A組にいるような私も問題なく馴染めています。
それに比べてA組は酷い。
とても愉快な人たちがとても騒がしく生息しています。
しかし、そんな中に私は見つけてしまいました。
鳴滝風香、史伽姉妹。
双子で同じクラス。姉妹で同室。
ソラマメを■しに行こうとしたけど、誰にも止められませんでした。
だけど、学園長室を破壊したところでターゲットが出かけていていないことを知りました。おのれ。

今は、暗黒面に堕ちないよう明日菜に慰めてもらっています。もしくは監視。

まぁ。
それで、私は鳴滝姉妹に接触を試みたのですが。これが二人ともとても楽しい人で。
姉の風香は元気ないたずらっ子。
妹の史伽は姉と比べれば大人しいいたずらっ子。
そんな二人と私は今では仲良し。A組で姉妹と同室の長瀬楓とも仲良くなりつつ、いろいろ教わりつつ。あ、楓は秘密にしているようだけどどう見ても忍者。
そこらへんは、千雨と一緒に不審な目を向けている。
さらに、いたずら好きの同士であるらしい春日美空とも仲良くなりつつ。美空はものぐさシスターでした。

今は、風香、史伽、美空の協力の下、如何にエグイ罠を仕掛けられるか検討中。もちろん、学園長室に。

うん。
そういえばこの学校、というかこの町というか、とにかくここでは誰もが何らかの部活動や研究会に所属することが義務付けられている。といってもその活動内容や規模、むしろ全てにおいてほぼ自由なので選択肢は多い。

そんなわけで我が姉は美術部一択。なぜなら顧問が高畑先生だから。
そうなると私も美術部一択。明日菜がいるから。

というのは表向きで、実はもう一つ地下活動の非公認クラブに所属している。ていうか私が創始者。
その名も、「神楽坂明日菜を見守る会」という。私が会長。会員は副会長が一人いるだけ。会員数二人。
一応顧問もいるけど、非公認なので関係ない。
活動内容は、明日菜の動向を見守る事とそれを報告しあう事。活動場所や活動時間は決まっておらず、会員が出会えばその場で報告会となる。
副会長は有能だけど度々いなくなるから困る。
まぁ、これについては追々。

そんなこんなで今日の部活動。あっと美術室。
今日のテーマは花瓶に活けられたお花さん。
明日菜は高畑先生がいなくても真面目にやるし、私は明日菜がいれば真面目にやる。つまり二人とも取り組みは真面目。私は、同時に見守る会の活動もこなしているわけだけど。

しかしこの姉妹まるで美術力がない。
私は本当は姉を書きたいのだけど、酷いことになるので我慢している。


「うーむ、難しい。てか動いてないかな?あの花」

「え、うそ!…あ゛。いつの間にか向きがずれちゃってるわ」

「ねぇ明日菜。もう少しモデルを見ながら書いたほうがいいと思うよ?」

「そ、それもそうね。でも難しいのよ、これ」


まったく持ってその通り。二人とも花瓶なのか壷なのか、花なのか鼻なのか分からない絵になっている。

ちなみに私は左利き。サウスポー。
明日菜が右利きだからお揃いがよかったんだけど、気がついた時には手遅れだった。右も使えるように訓練中である。
ついでに明日菜にも左が使えるように訓練してもらっている。一緒にお揃いにするためなのだが、彼女にはてきとうに理由をでっち上げてやってもらっている。
まぁ二人とも並外れた運動神経を持っているので、他の人よりも逆手逆足は使えていたし、訓練を始めてからはどんどん両利き染みてきている。両手が使えることと、手先の器用さはまったく別だということが、現在進行形で証明されているけど。
でも、実は。
お揃いがどうとかよりも、二人で何かを一緒にやるというのが楽しくて仕方ない。えへへ。


「そーいえば、明日菜。今日部屋行っていい?」

「うん。別にいいけど」


別に色っぽい話ではない。このかもいるし。
今日は、このか先生によるお料理教室なのだ。生徒は私だけ。明日菜は料理はあきらめたらしい。
ついでに私は一人部屋になってから、ますます主婦力が上昇している。目指せ明日菜のお嫁さん。そして明日菜は私の嫁。


「このかは何て?」

「あ、えーと。材料買いに行くから5時に校門、だって」

「今日は何作るって?」

「うーん、お店で材料見て決めるんじゃないかな」


何がいいかな。お肉が安ければ肉じゃがとか、新じゃがで。豚肉なら豚汁とかいいかも。あぁ、でもそんなに時間かけられないしシンプルに焼き魚とかの方がいいかも。


「ね、ねぇ、明日香?」

「なーに」

「ちゅ、中間テストってどうだった?」

「あー、あれね。ダメダメ。全滅だった!」

「そ、そっか!なるほどねー!」

「なにさ。そう言う明日菜はどうだったのさ」

「え!?いや、わ、私は…そう!私もちょっとダメだったわ!」

「なーんだ。そっかー」


ううむ。これはもう遺伝ですな。


「あーあ!せめて平均点に届けばなー!このままだと真っ赤になっちゃうよ」

「え!!あれ、私もう真っ赤なのに……」

「ねー明日菜、期末は一緒に勉強しよ?…て、どうしたの?何か言った?」

「あ!ううん!なんでもない!き、期末ね!一緒にね!ついでに誰かに教わったほうがいいかしら!」


確かに。それもこのか先生にお願いしてみようかな。
ていうか怪しいぞ我が姉。そういえば、小学校のときから散々だったからなぁ…。
よし、見守る会副会長と連絡を取ろう。大体、双子にそうそう隠し事ができると思わないことだね。


「あ!またあの花動いてるよ。ねぇ、もう窓……閉めたら暑いんだよね…どうしよ」

「え゛、うそ。またずれちゃってるわ」

「………ねぇ、明日菜」

「なに?あーもうダメかしらこれ」

「ダメっていうか、あの…モデルだけじゃなくて、手元もよく見たほうがいいと思うよ?」

「え?」

「ピカソみたくなってるよ。絵」

「絵?えぇ絵ええぇぇ!!?」

「一輪挿しなのに花束みたいな、もしくは大量に花弁があるみたいな……」

「いいい、いつのまに!?な、何がいけなかったのかしら」

「いや、何って言うか……ね、明日菜。二人で無機物画からやり直そっか」


そうしよう。静物画なのは当然として、もっと単純なカタチのもので練習しないと。ボールとか。


「ねぇ、明日香」

「なーに」

「あんたのも、なんか…どれが茎なのかどれが花弁なのかそもそも植物なのか分からなくなってるわよ」


………芸術は、爆発だ。









[18657] 8話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/03 12:37
みなさんこんにちは。遠恋中(違)の明日香です。

――離れている時間が、二人の絆をより深く、より強くしてくれる――

と、そう信じています。
まぁ、クラスが分かれて寮の部屋も別になったって話ですけど。部屋が分かれても、かなりの頻度でお泊まりしているので実質ほとんど同室みたいなものなのですが。

クラスについて。
B組については特に言うこともないのですが、気になるのはA組。個性豊かというか、色物集団というか。
中でも特に気になるのが、鳴滝風香、史伽姉妹。双子で同じクラスで同室だから。それ以上の理由はないけれど、これ以上なんていらない。どういうことだ学園長。殺意の波動に目覚めそうだぜ。
二人とはもう友達です。

気になるとかなんとか言ってるけど、もちろん私の頭と心の真ん中には常に明日菜がいるわけですけど。

それを踏まえて次に目を引く人。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。そして彼女と仲良しの絡繰茶々丸。
ふと見ると二人とも大体一緒にいます。エヴァちゃんの方はたまに、もしくはよく、サボっているようだけど茶々丸の方は真面目に学業に勤しんでいるように見えます。

二人とも囲碁部と茶道部に所属しており、見た目に沿わない和風です。
見た目に沿わない、というのも、エヴァちゃんは西洋人形と見紛うばかりの可愛さ(サイズ的にも容姿的にも)だし、いや130cmはあるだろうけどぎゅってしたくて仕方ないんです。
茶々丸の方は…あれは……ロボ。たぶん。いやいや、見た目の話だけどね?美人だからありだと思います。可愛いは正義。

ともあれ、気になるなら話しかけよう!ということでチャレンジしてみました。

あえなく撃沈。

エヴァちゃんは見た目に反して、その口から出てくる言葉は辛辣。その上妙に達観していると言うか、なんと言うか。素っ気なく冷たくあしらわれてしまいました。

茶々丸は…あれは……ロボ。たぶん。いやいや、えーと、美人だからありだと思います。うん。まぁ、最初はちょっと驚いたけど付き合おうとしていれば、彼女のいいところも見えてきてまったく気にならなくなりました。

千雨に確認したところ、やはり茶々丸はロボに見えるとのこと。
長谷川千雨という人間は常識を愛しており、自分の生活に非常識が入ってくることを嫌っています。
その反面、というかだからこそ不可思議に対して他の人よりも敏感になっています。
ということで、茶々丸はロボ説が有力なものとなりました。そういえば彼女は、超包子で働く傍ら超鈴音と葉加瀬聡美の天才コンビと何やらしている様子。
まぁいいや。

とにかく、素っ気ない態度をとってはいるけど話しかければ答えてはくれる。
しつこくアタックを続ければ仲良くなれるのでは?ということで、今日も突撃っ!

























「しつこい」


一蹴。
さすがに泣きそうなんだけど。何も悪いことしてないのに無性に何かに謝りたくなってくるんですけど。
ちなみに只今昼休み。人のいない場所のベンチに向かうエヴァ茶々コンビ。それを追う私。
あれ、何か本当にイケナイ事している気になってきた。

せっかく明日菜との昼食をパスしてきたのに。これはもう、怒ってしまってもいいかも分からんねっ!


「なんだよう。そんなに冷たくしなくてもいいだろー。あ、そういえば二人のお弁当って茶々丸が作ってるんでしょ?」

「はい、そうです。あ、マスター危な――」

「ふびゃっ!」

「「・・・・・・」」


小さな段差に足を引っ掛けて転ぶエヴァちゃん。
あー、茶々丸はエヴァちゃんをマスターと呼ぶ。なんでも、「私はマスターの従者ですから」だそうだ。従者ってなんだ。メイドか。美人メイドとかエヴァちゃんもやるな!


「うぅ、このクソ段差め!」


口が悪い。最初に知ったときは見た目とのギャップに心底驚いた。


「大丈夫ですか、マスター」

「あ、あはははは。もう、エヴァちゃんは可愛いなぁー」


バシバシと肩を叩、こうとしたら――


――ビシッ――


「「あ」」

「……お?」


あ、が幼女とロボの主従コンビ。お、が私。
いやいや、なんだこれ?肩を叩く前に何かに手を叩かれた感じだ…。でも何も見えない。そう、まるで。


「クソッ、何で魔法障壁が…貴様!どんな叩き方するつもりだったんだ!」

「まほう?」

「マスター。口がすべってます」

「うるさいぞ茶々丸!余計な突っ込みは要らん!」


まるで、魔法、のような。


「……ねぇ、エヴァちゃん。魔法しょーへきって何?障壁…バリア的な?」

「ふん、知らんな。寝ぼけているんじゃないか神楽坂明日香。あと、ちゃんて言うなと言ってるだろ!」

「マスター。苦しいです」

「黙ってろボケロボ!お前最近、本当アレだな!?」


どういうことなんだろう。この二人は魔法を知っているのだろうか。知っているとして、何者なのだろうか。私はどうするべきなのだろうか。


「あの、エヴァちゃんは魔法使い、なの?」

「ふん!だったらどうだと言うのだ」

「え?」

「私が魔法使いだったとして、何が言いたい。どうしたいと言うのだ神楽坂明日香」

「えっと…」


私がどうしたいか?…私のしたいこと……――


「ちっ。おい、茶々丸。飯だ」

「はい、マスター。しかしよろしいのですか?」

「いいも何もない。大体、毎日毎日しつこいんだよ」

「大人気ないですね」

「貴様…このアホロボがッ!」

「わ、私!!…わたし…私に魔法を教えてください!!」

「…はぁぁぁ?」


私のしたいことは昔から変わらない。
明日菜と一緒にいたい。明日菜を護りたい。明日菜と……。


「私、魔法を知ってます。あ、使えはしないんですけど。あと、魔法世界を知っています。知ってるだけですけど。それで、私強くなりたいんです。お願いします!魔法を教えてください!」

「ふん、分からんな。まったく分からん。何故貴様が魔法を知っているのかも、何故魔法世界を知っているのかも、何故強くなりたいのかも、全部分からん。そんな願いなど聞く気もしないな」

「あ、わ、私、魔力とか気とかが扱えるんです。扱えるだけですけど。それで、高畑先生と学園長が魔法を知っているみたいだったから聞いてみたんです。だから、魔法とか魔法世界とかのことを知っています」


半分くらい嘘だけど。魔法とかは、記憶が吹っ飛んでるけど元から知っていたし。
……私たち双子のことはできるだけ秘密にしておきたい。それが先生の判断でもあるし、私自身もそう思う。今のところは。


「あのお二人も口が軽いようです」

「そのようだな」


うん。ゴメン先生。何か株が下がっちゃったよ。


「それで、でも、話してもらっただけだから魔法は使えないんです。だけど、知っているから、それがなんとなく危ないものだというのは分かるんです。だから、強くなりたいんです。明日菜を護りたいから、明日菜が大好きだから!!」

「お前こんなところでシスコン宣言するなよ」

「マスター、明日香さんはシスコンを誇っているのでそのツッコミは無意味かと」

「ちょっと!そこじゃないでしょ!?すごい長語りしちゃったのに何その冷めたリアクションッ!?」


最悪だよ!そんなテンションに差があると、今になってすごい恥ずかしくなってきたんだけど!


「いや、わるい。思った以上に熱いシャウトが返ってきたもんだから」

「…ちょっともう本当にそういう反応はヤメテクダサイ。……もう!それでっ!魔法を教えてくださいって話なんだけど!」

「ああ、そうか。…そうだな、魔力と気が扱えると言ったな。どの程度やれるんだ?」

「あ、うん。こんなん」


ぐるぐるー。毎日の訓練の成果。ほとんど遊びみたいになっているような、いないような、だけど。
あと、寮で一人部屋に暮らすようになってから、正確には学園長室を破壊してから、部屋に結界を張ってもらった上、訓練にもさらに力を入れるようになったし、より破壊力は上昇してるはず。まぁ強制的に張られたんだけど。他の人の迷惑にならないようにって。結果オーライ。


「ほう?なかなか……。茶々丸の相手をさせるのもいいか……」

「黒いです。マスター」

「当然だ」

「あとこんなん」


  咸  卦  法  どりゃっ

あ、地面にヒビ入っちった。てへっ☆


「……咸卦法も使えるのか。貴様、何者だ」

「咸卦法が使える一般人。てことになってる、はず」

「ふん、まぁいい。隠し事があるのはいいことだ」


なんだそれ。どんな中学生だよ。
いや、事ここに至ってエヴァちゃんや茶々丸が普通の中学生のはずがないんだけどさ。
それにしたって、擦れすぎている気がするけど。


「そうだな、いいだろう。貴様の願い、叶えてやる。ただし、条件がある」

「うわぁ!ありがとうエヴァちゃん!」

「…条件があると言っているだろう」

「そんなの当然だよ!」


教えてもらうのに何か対価を払うのは普通だろう。モノが魔法ともなればどんな条件かは分からないけど、できるだけのことはしようと思う。
今まで散々、と言っても二人だけだけど、再三頼んできたのに結局魔法を教わることはできなかったし。


「…で、だ。その条件はだな。まずはそう、私の言うことには絶対服従だ。いいな?」

「うん。教わってる時はね」

「常にだ!何だその図々しさは!」

「えー!だって普段は友達のほうがいいじゃん!で、教わるときは、先生と教え子って感じで。ね?」

「……まぁ、いい。それと、もう一つだ」

「マスター、顔が赤いです」

「もう一つだ」

「「照れてますね」」


うふふ。茶々丸に口調を似せたら、見事にユニゾン!
サムズアップを送ったら、控えめながらもちゃんと返してくれた。あぁ、彼女とは気が合いそうだ。てか既に合い始めている。
エヴァちゃんが何か喚いているけど全無視。私の姉もそうだからすぐ分かる。照れ隠しに怒った感じになるのだ。
つまりエヴァちゃんもツンデレ。金髪ツンデレ幼女。何それ素敵。


「ね、エヴァちゃん。もう一つって?」

「――の限り・・・!あ、ああ、そうだったな。…ゴホン。もう一つの条件、まぁ絶対服従なんだから言う必要もないんだが一応な。後で泣かれても面倒だからな」

「「ごくり」」

「ムカつくからやめろ。…もう一つは、だ。


――貴様の、血を寄越せ――」


「・・・・・・」

「待て。何だその反応は」

「い、いやぁ。ちょ、ちょっと待ってね?」


それは、ちょっと…。可愛いは正義とか言っては見たものの、人には限界と言うものがあるわけで。私にはハードルが高すぎるかなぁ、なんて。
その見た目でそんな趣味って……あれ、行けるか?……いやいやいやいや。無理だわ。残念だけど。


「違う。貴様が何を考えているかは知らんが、勘違いをしている。ここは恐れ慄くのが正解だ」

「い、いや、確かに恐ろしいといえなくもないけど…」

「だから違う!」

「マスター、説明しないと伝わらないと思います」


何が違うというのだろう。説明なんて、むしろ詳しくとか聞きたくないんですけど。


「そ、それもそうだな。よく聞け神楽坂明日香」

「できれば遠慮を…」

「聞けッ!…つまりだ、私は吸血鬼なのだ。それもただの吸血鬼ではない。600年を生き、太陽の下を歩いても問題ないし、十字架やにんにくもまったく平気な存在。吸血鬼の真祖なのだ!」

「…え、とぉ…」

「なんなんだ!さっきから貴様のその反応はッ!!おいっ茶々丸!このバカを何とかしろ!!」


いやぁ、なのだ!とか言われましても。
なんだろう。「うわー、エヴァちゃんは吸血鬼だったんだねー!お姉ちゃん怖いなー!」とか返したほうがいいんだろうか。……やめておこう。言わない優しさ、てあると思うんだ。


「はい、マスター。いいですか明日香さん。マスターはその所業を恐れられ『闇の福音』ダーク・エヴァンジェルや『人形使い』ドール・マスターなどの多くの二つ名で呼ばれているのです」

「な、なんだってー!」

「何故それで信じるんだ!!?」

「マスター。明日香さんは素直な人です。そして、明日菜さんと双子でもあります」

「そ、そうか。そうだったな…」


何かとても失礼なことを言われた気がするけど。
ともかく。
エ、エヴァちゃんはそんなにすごい人だったのか!いや、吸血鬼?とにかく、そんなかっこいい二つ名がいくつも付くなんて!とても中学生とは思えない!あ、600年生きてるんだっけ。あれ、じゃあ――

「ねぇ、何でそんな凄いエヴァちゃんは今更中学生やってるの?」

「…あぁ。簡単なことだ。私に掛けられた呪いのせいだよ」

「のろい?それって魔法?」

「一応魔法だ。術式の構成も込められた魔力もデタラメだがな」

「ふーん」


何であれ、それが魔法であるなら。私と明日菜の二人でなら消せると思うけど。
……今はまだ秘密、かな。後でお礼にサプライズ、とか。
いや、まぁ双子の秘密を隠している間は無理かな。


「まぁ、そういうこともあるさ。私は悪い魔法使い、だからな。その私に教わるんだ。せいぜい貴様も覚悟しておくんだな」

「はーい」

「…ちっ」


何だかんだ言ってエヴァちゃんは優しい人みたい。そんな忠告してくれちゃうくらいには。ツンデレだけど。


「あ、そうだ。私もう一つお願いがあるんだけど」

「…なんだ。言ってみろ。耳に入れるだけならしてやろう」

「うん。魔法のこととかさ、明日菜には秘密にしてね?」

「…なぜだ?そういえばあいつも貴様と双子なのだから使えるのだろう。何故秘密にする?」

「それがさ。確かに明日菜は私とほぼ同じことができるんだけど、明日菜はそのことを覚えてないから使えないんだよね。そして学園長はそのことを知っているし、秘密にすることを望んでる」

「ふん?じじぃの孫と同室にするくらいだから何かあるとは思っていたが……。ん、いいだろう。その願いも叶えてやる。後ろ暗いことがある奴は好きだぞ、私は」

「あはは。ありがとう、エヴァちゃん。それで、お礼ってわけじゃないんだけど。エヴァちゃんにとっていい話かもしれないことが一つ」

「何だ?」


エヴァちゃんと学園長がお互いのことを知っているのは確定的に明らかだし、なら無理やり中学生やらされているエヴァちゃんが相手をあまりよく思ってないということが予想される。
と、言うことでこんなお話。


「私が魔法を教わることを知ったら、学園長は困った顔をする。と思う」

「よし。じじぃのところへ行くぞ」

「マスター、昼食はどうなさいますか」

「ん、よし。食ったらじじぃのとこだ」

「あはははは」


異常に可愛い。今のエヴァちゃんに600年の生は感じない。良かった、少しでも喜んでもらえて。
うん。


「あ、私も一緒に食べるよ!」

「はい。ご一緒しましょう」

「おい、茶々丸!茶を出せ」

「あははは」


あぁ。今日がいい天気でよかった。
明日菜に秘密が増えちゃったけど、きっとそのうち明日菜のためになれるはず。
そのときに向けて、まずは。


「「「いただきます」」」


ご飯を食べよう。



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どうも、作者です。
感想ありがとうございます。大変励みになります。ドキドキしながら読ませて頂いてます。
お話について。
クラスわけ。悩みましたが別れてもらいました。
いくつか理由は考えてありますが、そのうちポロっと出ます。出てこないものも伏線ということはありません。
今後の展開について。
もちろんご都合展開です。
ではこの辺で。
お読み下さりありがとうございました。







[18657] 9話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/13 22:24
みなさんおはようございます。明日香です。
べ、別にネタ切れとかじゃないんだからね!

それはともかく、朝です。太陽がまだ見えていません。
そんな時間に何をやっているかと言うと、まぁアルバイトなんですが。

寮暮らしを機に、明日菜がアルバイトを始めると言い出しました。何でも生活費くらいは自分で稼ぎたい、ということらしいです。
元々は、生活費といっても高畑先生の家に居候していたし、学費は学園長が出してくれています。
二人とも気にしなくていいとは言ってくれているのですが、どうも明日菜は学費も含めて少しずつでも返していきたいと考えているようです。もちろん、明日菜が返すつもりでいるのは"借り"ではなく"恩"なので、じいさんと先生には受け取ってもらいます。受け取らせています。

私としては気にしないで良いと言うのなら一切気にするつもりもなかったのですが、いやもちろん感謝はしているしできる限りの恩返しはしようとは思っているけど、それは金銭的な話ではなく、さらに言えば今すぐどうとかではなくもっと大人になってから、つまり一般的な親孝行とは何か的なそういうレベルの話であって、そもそも…………。

失礼、姉の純粋さとの差に動揺しました。

とにかく、私は今のうちから何かをするつもりは特になかったのですが、明日菜が「私、出来る事からやっていくわ」と静かに宣誓し、その素敵さに感動した私も「当然私もやるよ!」と誓うに至り、二人でアルバイトをしようということになりました。
ちなみに双方とも誓った対象は神楽坂明日菜。一方は自分自身に誓い、もう一方は自分の半身に誓い。何もおかしくはないのにその場にいたこのかに「何で明日香が言うと何でもかんでもシスコンぽく聞こえるんやろ」といわれました。
何を当然のことを。

うん。
で、明日菜は新聞配達をすると言うので、じゃあ私は何しようかと思ったのですが、というか言ったのですが、姉に「え?明日香もやるでしょ?新聞配達」と言われ、正直朝は弱いので無理だと思っていたのですが「もももちろんっ!やります!」と快諾。同時に彼女の手を握り締めて。無意識だったけど、抱きつかなかっただけ褒めてほしい。
自分で褒めておきました。

というわけで姉妹でおそろいのバイト。担当地区が違うので一緒に走り回るわけではないけど。でも一緒。例えば今日の朝。


「「おはよー」」

「おはよー」

「「行ってきまーす」」


こんな感じに。間はこのか。
あ、たまたま今日は二人の部屋にお泊まりしていただけです。たまたま。
 
 
 
 
 
 
 
そんなこんなでバイトも終わり、毎朝の如く学校まで爆走し。
そう、爆走。
私と明日菜はとても、とてもとても足が速いのです。このかはローラーブレードで並走。と言っても周り中爆走状態なのですが。あの手この手で。
で。
只今授業中なわけですが、まぁとくに言うこともないです。明日菜もいないし。うちのクラスは特に問題もなく日々を過ごしていますし。

問題と言えば補習。
私はそんなことで時間をとられるのは断固拒否なので、頑張って回避しています。
が、その私の頑張る理由であるところの明日菜は度々補習を受けてしまっています。ま、姉のクラスの担任は高畑先生なので明日菜は喜んで補習に参加するのですが。実力で。

まーまー、何か行事でもなければ授業についてはごく普通とのコメントで事足りるでしょう。B組は。
A組は知らん。
いや知っているけども、さすがのあのクラスも普通の授業中は一応普通。一応。騒がしいけど。
 
 
 
 
 
 
 
ということで時間は過ぎ昼休み。昼食。
私と明日菜とこのかは基本的にこのかの手作り弁当。バイトが休みの時などは私の手作りで。
あるいは、食堂で食券を買ってみたり。
面子としてはまぁごちゃごちゃと。この3人とあやかとか。基本的には寮で同室同士が多い。
え?いや私はほらあれだし。ね。


「む。今日もバッチリ決まってますな。このか先生」

「うむ。当然や」

「ねー、明日香。さっちゃんとかに教えてもらったりはしないの?彼女お料理研究会だし」

「もちろんお世話になってるよ?肉まん的な意味で」


さっちゃん。四葉五月、A組。お料理研究会所属。そして超包子店員。
五月といるとほんわかした気分になります。彼女とも料理関係やらなんやらで友達になれました。


「肉まんて……いや、確かにそうだけど。売り歩き的な意味で」

「でしょ」

「いいんちょは料理できるん?」

「当然ですわ。料理と言わず一通りの家事は完璧ですわ」

「さすが。お嬢様は基本スペックが違うよね」

「もちろんですわ。どこかのガサツ女とは違っていてよ!」

「だ、誰がガサツ女よ!」


毎度のことながら我が姉よ。そこで反応すると自らガサツであると認めることに。………もう今更か。
とにかく。


「そうだよ、明日菜はガサツなんかじゃないよ。元気が溢れてるだけだよ!それに家事なんか出来なくてもいいの。だって私がやるからっ!!」

「ちょっと明日香…それは、その……」

「フォローになってへんね」

「アホですわ」


だって私の夢はお嫁さん。誰のとは言わないけど。


「いや、明日菜のやろ。今更やえ」

「心を読まれたッ!!?」


な ぜ だ !
 
 
 
 
 
 
 
そんな感じで部活の時間。今日のテーマは籠に入った果物。
バナナやりんごなどいくつかの果物が重なって入っている。はっきり言って難しい。全部りんごみたいになりそうだ。


「た、高畑先生。こ、これ何かコツとかないですか?ちょっと難しくって………」

「そうだね……とりあえずはやっぱり、よく見る事だね。それから――」


今日は顧問の高畑先生もいる。珍しく。
何か先生は麻帆良全体を見回って警備員だか指導員だかの仕事もしているので、なかなか美術部には顔を出せないようだ。
その上謎の出張。十中八九魔法関係だと思うけど。
私としては度々いなくなるのはいただけないところだ。明日菜が寂しがるし。

とまぁそんな珍しくも顧問同席の中、私は照れ明日菜に幸せを感じつつりんごを量産。
明日菜は積極的に先生に質問、少しでも多く彼と話をしようと奮闘中。


……………………………………………………………………。


うん。
いやいやいや。
真面目に美術やろうとしたら当然こうなりますよ?
他の美術部員だっているし、そりゃ喋りながらやったりとか、ただの雑談とかもあるけど。
むしろ、顧問がいたらこうでしょーよ。

ということで、私は誰も注意を払わないのをいいことにモデルと明日菜へ視線が半々。スケッチは酷いことに。


「あーぁー」

「?どうしたの明日香」

「んーと………」


これはダメだな。本当にりんごだらけだ。
籠はそこそこ上手く描けたんだけどなぁ。
どーしよ。どーしたら?
明日菜に…聞いても無理っぽいし、先生に……いや!ここで聞かずに後で明日菜に聞いて、次回明日菜から先生への質問のネタにしてもらおう!


「………いや、難しいね。これ」

「確かにね…。あ、私先生にアドバイスもらったわよ?明日香にも教えてあげるっ」

「あはっ、ありがとう明日菜っ。…あれ、そういえば先生が何か描いてるのって見たことないよね?」

「ん、そういえばそうよね。…………先生?」

「あ、あははは………」


何故目を逸らす英語教師。
もしくは、武闘派魔法使い(エヴァちゃん情報)。
そーいえばこの学校、先生も何かしらの部活や研究会の顧問になることが義務付けられているけど……そういうことなのだろうか高畑先生。
……………いや、触れないでおこう。見て見ぬふりをする優しさ。あると思います。
 
 
 
 
 
 
 
さて放課後。部活後。
私が望んだことでありつつも不本意ながら、訳分かんないけどとにかく、最近は明日菜と一緒に帰ってない。まぁ正確には一緒に帰るのと半々くらいだけど。主観的に。
別に平気だけど。四六時中一緒にいるわけじゃないし。ちゃんと一緒にいる時間もあるし。寂しくないし。泣いてないし。ないもん。
理由は簡単で、エヴァちゃん家に行って魔法のお勉強と戦い方のお勉強をしているから。

大体1日2時間から4時間くらい。
間に茶々丸作、もしくは共作か私作の晩ご飯を食べて。あるいは寮でご飯を食べてから。

魔法は理論から勉強中。おかげで学校のテストの点が落ちた。
もとい。
私は遠距離攻撃と回復技能を持った後方支援型を希望している。近接は気とかあるし。まぁ適正しだいだけど。
その適正と言うのも魔法にはいくつか種類があって、まぁそんなのは当たり前で、要するに種類と言うか性質と言うか元素と言うか、RPGよろしくな火の魔法やら風の魔法やらがあるらしい。
で、人によってその得意な属性というのがあるとのこと。

エヴァちゃんは氷と闇。無駄に悪っぽい。

私は光と火が相性良いっぽい。どーなのこれ。
でも、某カッシュ氏のようにシャウトできるかもしれないと思うとテンションあがる。あれ?近接技じゃね?
ま、回復と言えば光か水だし。行けんじゃね?
と思って聞いてみたら、どうも回復魔法って言うのはそういうことではないらしい。てか、光も火も破壊属性の方が向いてるって。なんじゃそら。

そもそも魔法というのは自らの魔力で周りの精霊に干渉して、属性ごとの何らかの現象を起こしたりすることらしい。他にもいろいろやれるみたいだけど。
それで肝心の回復魔法はと言うと、これがどうやら精霊がどうとか言うよりは肉体やその他への干渉力が何やらとか、まぁ要するに魔力の資質しだい。
つまり、簡単なものなら誰にでも使えるけど高位のものを使うには生まれ持った資質か、馬鹿魔力を注ぎ込むしかないとのこと。

うん、これって魔法以外のいろんなことにも言える理屈だし、ある程度使えるらしいのでほっとした。

と、そんなときにエヴァちゃんがぽろっと「その点、近衛木乃香は魔力の量、資質共に抜群のようだがな」とこぼしてくれた。
うむ。さすがはじじぃのお孫さん、そして明日菜と同室。どれくらい凄いのかは教えてくれなかったけど、私は思った。


あれ、このかに魔法バレしてエヴァちゃんに鍛えてもらったほうが早くね?


と。
いや、どうしてもヒーラーがほしいと言うわけでもないし、要検討の方向で。

そして何よりも気になったのが、ぱくてぃおー。仮契約。………………………気になる。

ゴホン。
他にも体術として、なぜかエヴァちゃんが知っている、しかも達人級の(と思われる)腕前の合気柔術を教わっている。
これなら明日菜にも護身用として教えれる、と思ったけど性格的に合わないことに気付き断念。我が半身は相手に合わせる、というタイプではないだろう。
私もどちらかと言うと明日菜タイプなのだけど、後の先を取る合気は結構相性がよかったようで。

明日菜タイプって語感、良いなぁ・・・・・・。

後は気を運用して実戦訓練、と称した茶々丸の機動訓練を。
そう、茶々丸は魔法と科学を利用したスーパーロボットだったのだ!
まじで。
とりあえず、超テンション上がったことを記しておく。

訓練なのに実戦。なぜならとても痛いから。とても。
…ついでに治癒魔法の実践訓練をしていると言えばより伝わるかも。こちらは実践。

さらにさらに、気になったので聞いてみた。


「ねー、エヴァちゃん。この、始動キーって言うのは何でもいいの?意味を持たせたりとかは?」

「あぁ、それは何でも良いんだ。意味を持たせようが持たせまいが、自由だ。要は言いやすく、適度に短く、後はフィーリングだな」

「ふーん。じゃあさ、アスナ・ダイスキ、とか1・2・3・5・7・9・11とかは?」

「バカか貴様。急ぐ必要はないしそもそもまだ貴様には始動キーなんぞ早い。バカなのか貴様?…………と言うか後ろの数字はどういうつもりだ。バカだな貴様」


3回もバカって言われた。これは酷い。







そんなわけで、帰って明日菜に慰めてもらうべく寮の自室でシャワー中。

他の人の裸を見てしまうのは恥ずかしいし忍びないけど、自分のであれば平気。あたりまえだけど。たとえ見た目はほぼ明日菜でも。
あ、やべ。

ゲフン。
とにかく今日も、いつも通りだけどいつもと違う、そんな普通の一日だった。

明日菜分が足りない。
いや、しっかり補給しているんだけど。描写的に。
おっと。

とりあえずシャワー浴び終わったら、今日もたまたまお泊まりに行こうかな。たまたま。
 
 
 
◆◇
 
 
 
麻帆良学園中等部女子寮643号室。
神楽坂明日菜・近衛木乃香の部屋。
が、この部屋の中は3人がデフォルト。
神楽坂明日香。明日菜の双子の妹である。
寮内で明日香に会おうとする人は、この部屋を訪ねる。


「ただいまー」


枕持参である。もう、お邪魔しますですらない。
一応私物を置いていかない程度のけじめをつけている。と、本人は思っている。


「お帰りー。じゃあ、そろそろ寝ますか」

「あー、もうそんな時間なん?ほんならもうお休みやね」


最近は、明日香の訪問(帰宅)を機に就寝、と言うのがお決まり。双子は早朝からアルバイトをしているのでそこそこ早く床に付く。21時くらい。


「あの、明日菜……。今日も、一緒に…寝ていい……かな」

「なんやのその毎度の無駄な照れ」


まったくもってその通り。つかソファ-で寝ろよってなもんである。
まぁ、さすがに彼女も毎回一緒と言うことはない。稀に一人で寝ることもある。ごく稀に。
とはいえ、夏の暑い時期はソファーだったり布団持参だったりの方が多かったが。


「む、無駄ってなんだよ!ここで了解を取るのはけじめなんだよ」

「そ、そうよ!私たちもう中学生だしね!部屋だって別だし、確認は必要よ。確認は」


そういうことらしい。
そして姉のほうも断ることはないのだが。
これが他の人もいたら話は違うかもしれない。A組の委員長とか。


「はいはい。ほんならおやすみ、明日菜、明日香」

「「おやすみ、このか」」


それぞれのベッドへ。

はふぅ
と双子の妹。少し色めいたため息。姉はそれがくすぐったいのか身じろぎ。
かといってお喋りはしない。そんなことをすれば翌日の朝、死を見る事になるからだ。3人ともそれは十分理解している。人間は学ぶものである。何回かやらかせば。

それに3人とも結構疲れている。
いまどきの女子中学生は忙しいのだ。わりと。


「おやすみ、明日菜」

「うん。おやすみ、明日香」


そんな日常。








[18657] 閑話の2
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/06 19:53
幕間的な7.5話



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麻帆良学園本校女子中等部学園長室。

その扉を今、この部屋の主、近衛近右衛門が開いていた。


「ふむ。何者かに侵入を許したようじゃの」


小さな呟きにはただの老人とは思えぬ警戒心が滲んでいる。もちろんこの部屋に侵入したと思われる者もそれは分かっているだろう。

監視の目もあるやも知れぬ、と、この学園の長は考える。万が一を考えれば魔法は使えぬな、とも。

そうなると、純粋な己の肉体のみでこの事態に対処しなければならない。しかし、ただの老人ではないこの人物に絶望はない。また、長年の経験により油断もない。

事態。
この、学園長室の扉を開けた先。一歩目を踏み出すはずの位置に見える紐。
なかなか頑丈そうではあるが、その分太く注意深いものであれば用意に発見できるであろう物。

気付かずに足をかければ転ぶのは免れない。
だが、気付いているのであれば逆にわざと足をかけ引き千切ってやりたくなる。
しかし………。


「フォフォ。ミスリード、じゃな」


関東魔法協会の会長である彼に油断はない。
頭上、室内の天井を見上げてみれば。
金ダライ。
どうやら、この紐を引くなり切るなりするとそれに連動して落ちてくる仕掛けらしい。

よく考えられている。
これ見よがしな足元の紐に意識を向けさせることで、頭上への注意を疎かにさせる。下手に紐に触れようものならダメージを受けるのは必至。


「じゃが、まだまだ甘いのぅ…」


しかし彼にとってはこの程度、何の障害にもなりはしない。

よっこらせ。

こんなところはただの老人だ。しかしながら普通を装うことで成せることもあるのは事実。

紐をまたいだ足を扉の前の床を彩るマットへと着ける。
マット。
一般家庭で言う玄関マットのようなそれは、紛れもなくごく普通のマットだ。
が、ただそこにおいてあるというだけで部屋の景観的な、又は風水的・魔法的・呪術的な意味を見出すことができる。

と。
そのマットへと足を着けた瞬間、彼の重心の乗った足はマットごと前方へと滑って行ってしまった。
マットの裏、板張りの床と接する面に――これは油だろうか――よく滑り且つ乾きにくい半固体状のものが塗られている。

漫画的に言えば「バナナの皮を踏んだ人」。

そのもの正に、と言った感じだがしかし彼は慌てない。さすがは歴戦の傑物。自分の裏をかいた人物への賞賛をすら胸に後ろにある足を引き寄せバランスをとる。

が、その時。
ついでにそこにあった紐も一緒に引き寄せてしまう。


「フォ?」


気付くも時既に遅し。
天井から、転倒を免れた彼の頭上へと金ダライ。


――ごいーんっ――


無駄に重い。
良くぞ仕掛けたと褒めてやりたくなるほどだ。
まぁ、被害にあった学園長の頭には大きなこぶが出来ているのだが。


「フォ…フォ……。よくぞこのワシを相手にやり遂げおったわい」


ただの強がり。
高評価であることに変わりはないが。

痛む頭を抑えつつ執務机へと向かう近衛学園長。
ふと見れば、執務机の縁。椅子側の一辺――椅子に座る際に手を付くであろう位置――にまきびしが敷き詰められている。まきびし?…うん、まきびし。


「またかの…」


若干うんざりしている。
そしてこのまきびし、退かそうにも何かで机にくっ付けられている。掴んで剥がすのは痛い。
頭上を見上げれば何が入っているかは分からないが、何かの仕掛け。椅子の後ろにそれに繋がっているであろう仕掛け。
先の教訓を生かし椅子の足元を調べてみるも特に何もなし。

息を一つ吐き。
肘掛に手をやり、椅子へと体重を掛ける。
彼は、とにかく少し休みたかった。
と。


――ボキッ――


尻の下、椅子の足から不幸の音が。

高級であり、重量感のあるその椅子も"回転椅子"と言うその属性のために足は一本であった。
そしてその足に斜めの切れ込み。
ちょうど壁側を上にし、机側を下にするように切断されている。そしてその円柱の中心に、仮の芯となっていたであろう何かの棒。
椅子の重量には耐えていたものの、その上に人一人分の重みが加わるとそれを支える気はないらしく、あっさりと折れた。


「フォ!?」


途端、後方へ傾く椅子。慌てて立ち上がろうとする老人。
しかし椅子のクッションから尻が離れない。
まきびしを机に固定しているものと同じであろう接着剤の効果だ。

結果そのまま転倒。先ほど出来たばかりのこぶを強打。涙目。
さらに椅子の後ろにあった仕掛けに引っかかり天井の仕掛けも作動。何かが落ちてくる。

仰向けに転がる彼の目に映ったもの。

大量のまきびし。


――アッー!――


その日、学園に哀れな老人の悲鳴が響いた。







翌日。

頭に包帯をぐるぐる巻きにした学園長を見て。

高笑いするもの 1
爆笑するもの  3
 
 
 
 
 
 
 
作戦完了

 暗黒面シスコン 暗黒卿アス

協力

 悪戯シスター スプリング・ビューティー

 甲賀忍群 トラップの風
       仕掛けの史

資材協力

 甲賀忍群 KAEDE

情報協力

 孫‐MAGO‐



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さらに短く8話裏



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お昼の明日菜このかあやか


「ん、明日香さんはどうされたんですの?」

「何かエヴァちゃんに用があるとかって。そっちでお昼食べるってさ」

「何や最近、よう話しかけてるえ」

「言われてみればそうですわね。何を話すのでしょうか…。これを機にエヴァンジェリンさんもクラスに馴染めればいいのですけど」

「確かにそうなったら良いとは思うけど。でもいいんちょ、明日香はB組よ?あ、これおいし」

「そんなことは承知していますわ。その上で言っているのです。しかし、中学生になってから貴女方姉妹は別行動が増えましたわね?何ですの、それ」

「うふふ。確かになぁ。あ、それ明日香が昨日作ったやつや」

「何よ?別に双子だからっていつまでもずっと一緒にいるわけじゃないわよ。そもそも元々そんなに一緒に行動してないわよ。…あの子の料理、最近一段と美味しくなってるわね」

「いやいやぁ。小学校の頃はもう四六時中べったりやったえ?料理だけやのうて、家事全般上達してるんやえ」

「そうですわよ。風香さんと史伽さんはあんなふうには見えませんわよ?やはり一人部屋になったからでしょうか」

「べ、別にべったりってことは無かったわよ。たぶん。…でも明日香ほとんど私たちの部屋にいるわよ?」

「ははぁ。無自覚なんや。あれだけ引っ付いとってこれなら、明日菜も結構…………」

「そうですわね…。まったく、ただでさえ親父趣味なのにその上……」

「え?な、何…何が?だって明日香、本当に私たちの部屋にいるのよ?このかも知ってるでしょ?」

「そうやねぇ。あ、明日菜がこうなんやし、明日香も実は……てことなんかな?」

「確かにそういうことも有りえますわね。表面化していないだけで…。…まったく、似てるのは見た目だけで十分ですのに」

「な、何の話よ。言っとくけど私、家事はダメダメよ」

「「それは知ってる」」

「なな、何よーーーっ!!」









[18657] 10話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/13 22:25
みなさんおはようございます。明日香です。
2年B組出席番号8番です。

中学生生活もここまでいろいろありましたが、全部カットです。

今日は3学期某日。
様々なことに慣れて緩み気味ではありましたが、もうすぐ最高学年ということで皆気を引き締めて登校しています。
ウソです。
麻帆良は基本的にはエスカレーター式なので緊張感のかけらも無いです。

それはそうとして、なにやら本日は我が姉、明日菜とその同室で学園長の孫でもあるこのかがその学園長に呼ばれており、朝一で学園長室に赴かなければならないとのこと。
私自身はお呼びではないようなのですが、じいさんの言うことなので無視。普通に同席するつもりです。

………つもりだったのですが、少々出遅れました。少ーーしだけ寝過ごして、さらに自室に荷物を取りに行き、その際前述の理由から二人が先に出る旨を聞き。私はそれに快く返事をしました。決して二人に置いて行かれたわけではなく。決して。

と言うわけで私、神楽坂明日香。ごく普通の女子中学生。しいて他の人と違うところがあるとすれば、それは………今現在、自力で時速40㎞を超えているところかな。

おふざけはともかくとして、ほんの少し人間離れしたスピードで走ったおかけでもう学校が見えてきました。

この速さで走っても二人には追いつきません。
電車も理由の一つですし、そもそも明日菜もこれくらいで走ることが出来ます。このかはローラーブレードを使いますし。

と、思っていたのですが。
どうも、正門前に見えるは私の愛しいお姉ちゃん。隣にこのかも見えます。
ああっ!私を待っていてくれたのねっ!!明日香うれしいッ!

……………………あれ。よく見たら明日菜が児童虐待しとる。別に私を待っていたわけではないのかな。いや、別に今更この程度では泣かないよ。いやいや、別に落ち込んでも無いよ。ただちょっと期待しちゃった分テンションが低くなったように見えるだけで。だけだよ。

それにしても何して遊んでんのかな。明日菜はガキンチョは嫌いなはずなんだけど。あ、だからアイアンクローしてるのかな?しかし、見ず知らずの少年にアイアンクローかますなんて。明日菜が暴走しちゃってるのか、少年が失礼だったのか……。あぁ、向こうから高畑先生も来てる。とにかく状況が分からないし、このかに聞い――


――はくちんっ――

――ズバァッ――

――ブチッ――

――殺ッ――


じゃなくて、――さっ!――

状況は分からないままだけど、あの少年が明日菜の服を吹き飛ばしたのだけは分かった。
あれは、確か武装解除とか言う魔法だ。吹き飛んだだけだからたぶん風の。私は使えない。
結構便利そうだな、と思って火の武装解除は覚えたんだけど。……こんなセクハラ魔法だったとは。

そんなことより。

私は明日菜の毛糸のパンツ――あれはたぶんくまのやつ――を目にした瞬間、とっさに瞬動術で明日菜の背後に移動。抜きも完璧。これならエヴァちゃん先生もGOODと言うだろう。…言わないか。
瞬動術って言うのは、要するに縮地とか言われる移動術の奥義。まるで地面が縮んだかのように移動する様からこの名がついた、のかな。ぶっちゃけ瞬間移動。体術で。
で。
移動しつつ、鞄から今日使う予定だった体育のジャージ(上)を取り出し、面倒だからとチャックを半分ほど閉めたままだったそれを瞬動から抜けると同時に明日菜に頭からがばぁっと。ちなみに放った鞄は高畑先生の顔面へ。ミンナ!


「な!?…ぁぷ!…へ!?」

「明日菜っ!大丈夫!?こんな格好になっちゃって!」

「あれ?明日香いつの間に?ん~、毛糸の、までは分かったんやけどあれは何やったかな…。くまか、ぶたか……」

「わ、わ、同じ顔?あ、双子さんですか?えと、おはようございます?」

「や、やあ。おはよう明日香君。はい、これキミの鞄だろ?」


ちっ。普通に受け止められた。まぁ、そっちに飛んでったのは偶然ですけどね。殺意があったとしても。

ていうか、少し冷静になってみると気になることがいくつか。
武装解除って言ったって魔法には変わりない筈なのに、明日菜に効くんだな、てのが一つ。姉の完全魔法無効化能力は幻術とかは効くけど、攻撃魔法の類は一切効かない筈なのに。
この魔法は攻撃魔法じゃないのかな。解除って言うくらいだし。あんなにダメージ(精神的・社会的)が高いのに。

…それよりも何よりも気になるのはこっち。


「で、少年?・・・どういうつもりなのかな・・・?」


明日菜と手をつないで利き手でリフトアップ。前任者に倣ってアイアンクローで。


「あ、え?へ?何、これ…あ、明日香?」

「い、わ、あわわわ、あ、また…ふぁ――ハックション!」


しーん。

ふぅははー!明日菜と私にかかれば幻術だろうが脱がせ魔法だろうが物の数ではないわーっ!


「ちょ、明日香君落ち着いて。彼はネギ・スプリングフィールド先生で、まぁ詳しくは学園長室で、ね」

「もー。双子やからって、こんなんまで同じことせんでもええのに」


先生はなんか言ってるし、このかはこんな時もこのかだし。よく考えたら、明日菜の目の前で児童虐待をするのは良くない、かな。


「…分かりました。スイマセンデシタスプリングフィールドセンセイ。…明日菜、怪我とかない?ほら下のジャージも」

「あ、ありがとう。あれ、ていうかこれあんたの?いつの間に…」


受け取った鞄から下のジャージも明日菜に渡す。

さて。
何をどれだけ詳しく話して下さるのか……。
 
 
 
 
 
 
 
「学園長先生!!いったいどういうことなんですか!?」

「まあまあ明日菜ちゃんや。…なるほど、修業のために日本で学校の先生を…」


フォフォ。
じゃねえよ。…じゃないですよ。

何かいろいろ言ってる。
2-A担任だとか、このかの婿にとか。婿は関係ない上に事あるごとに言ってるし。

てか。
際どい言葉も出ちゃってんですけど。修業とか。

もうこれは間違いない。
さっきの魔法といい、不思議クラスA組担任といい、子供といい。
最初は学園長もついにボケたか、と思っていたけど。じじいの嫌がらせかとも思っていたけど。

これは、そう。
彼は魔法使いで、魔法使い的理由で麻帆良に来た。
と、いう訳ですな。
もしくは、彼の親も魔法使いで、だから魔法が使えて。それでいて天才少年で、親の方針で教職に就くことに。
とも考えられるかな。
………………どっちか分からないや。どっちも違うかも。いや、でも他にあるとすれば……迷子?いやいやいや。そんなバカな。ていうかそもそも――


「そうそう、もう一つ。このか、明日菜ちゃん、しばらくはネギくんをお前たちの部屋に泊めてもらえんかの。まだ住むとこ決まっとらんのじゃよ」

「げ」

「え゛…」

「ええよ」


                                    え?


「もうっ、何から何まで学園長ーーっ!」

「フォフォ」

「かわえーよ、この子」

「ガキは嫌いなん……あれ、明日香?どうしたのさっきから」

「あ、うん。なんでもないよ。大丈夫」

「そういえば明日香。ここに来たときからなんや静かやったえ?今も明日香的にはなかなかな話しやったはずやのに…キレてへんの?」

「キレてないよ?私をキレさしたら大したもんだよ。……うん。平気。ほら、もう行かないと。私は、少し学園長と話があるから」

「ん、んー、まぁ分かったけど。B組の先生に怒られても知らないわよ」

「え?そちらの方はクラス違うんですか?」

「そうやえ。…あんまり見たことない怒り方やな…」

「しずなくん」

「はい。では、行きましょうか皆さん」


がやがや。
4人部屋を出て行って残ったのは学園長と、話の間空気だった私と高畑先生。…先生居たんだ…。あ、廊下で待ってたのか。それで入れ替わりで入ってきた、とか。


「さて。明日香ちゃんはこの場には呼んでないはずなんじゃが。とはいえ、来るだろうとは思っておったがの。フォフォフォ。で、話とは何じゃろうの?」

「いや、学園長。それが明日香君はネギ君の――」

「いいです、高畑先生。私が話します。……学園長、ネギ・スプリングフィールド先生は魔法使い、ですね?」

「フォフォ。何の――」

「ですね?会長」

「・・・・・・フォフォ」

「ですよね?このかのおじいちゃん」

「ちょ、それはなしじゃよ明日香ちゃん――」

「では説明を」


こっちは現場を見ての確信があるし、エヴァちゃん経由の情報もあるし、じじいの泣き所も知っている。

というわけで、ご説明タイム。

ふーん。
何やら子供先生は魔法学校を卒業し、その後の修業としてここに来たらしい。うん、そんなことだろうと思ってた。自信を持って思ってた。間違いない。

それにしたって10歳児に先生とか、え?数えで10?じゃ、9歳じゃん。いや、8歳の可能性も。
まぁ、満年齢はともかくとして、いくら天才でも情緒的な成長を考えればお互いのためにならないような気もする。魔法学校も奇抜なことをするなぁ。麻帆良ほど変人が集まっている所は他にないと思っていたけど、結構いる所にはいるのかな。

うん、そんなことはどうでもいいんだけど。それより何より。


「――と。まぁ要するにネギ君の魔法を見てしまってですね」

「そのことはもう、どうでも良いです。そんなことよりも言いたいことが。……なんで小っちゃい先生が二人の部屋に泊まるんですか。私ではなく。むしろ、私を二人と同室にして空いた私の部屋で一人暮らしでもさせればいいんですよ。そうするべきです。知ってますか?"男女七つにして同衾せず"って言うらしいですよ」

「フォ、フォフォ。そ、それを言うなら"席を同じにせず"じゃよ。まあ、今の時代には沿わぬの。それに同衾するわけでは――」

「沿わなかろうが何だろうがそういう言葉があるんですっ!それに席を一緒にすることよりも部屋を一緒にすることの方が問題ありまくりですよッ!!あーあ!これはもう、あまりのショックに私このかに魔法バレしちゃうなーっ!」


無理を通そうとするならそれなりの代償があることを教えてくれるわっ!


「じゃ、じゃからそれはなしじゃと――」

「明日菜にもバレバレしちゃうなーっ!」

「明日香君ッ!それは本当になしだ。君たちの事は僕と学園長しか――」

「やっぱり。…おかしいと思ってたんです。このかに魔法を隠す意味は分からないけど、じゃあそのこのかと同室の明日菜に隠す理由は?これに関しては、エヴァちゃんですら知らないって言ってました。…明日菜に隠しているんじゃなくて、"明日菜を隠して"いるんですね?ついでに私も」

「「あ」」

「ふん!甘いです。甘甘です。やっぱりそれは明日菜のマジックキャンセルのせいですね。それと私の――」

「明日香ちゃん。おぬしそれをどこで?まさか覚えておるのかの?」

「あ」


あ。


「…学園長。どうも明日香君の記憶の方は穴だらけになっているようですね」

「ふむ。明日香ちゃんも甘甘のようじゃの。さて、何を覚えておるのかの?」

「ふふふふふんだ!言うわけないじゃないですかっ!そもそも覚えてることの方が少ないんですよ!でも明日菜のこととついでに私自身のことは全部覚えてますけどねっ!!」


たぶん。
ていうか、私が明日菜のことを少しでも忘れてしまうはずがない。たとえ魔法でも。


「ふむ。まぁそれだけ分かれば十分じゃの」

「あ」


あ。

てかまたやっちゃったぁぁぁっ!!!

こんなだからこのかに「神楽坂のアホの方」て言われるんだよ!まったくっ!


「明日香君……キミは……」

「い、いいもん!これで私は諸刃の剣を手にしたわけだし。いや、最初から持ってたんだけど。…あ、あーあ!喋りたいなー!和美あたりに」


和美。朝倉和美。2-A。麻帆良のパパラッチ。
彼女に知られたらそれはイコール学園中に知られたことと同義である、と噂の人物。報道部所属。
ふふふ。これは悪辣な脅しですぜ。


「明日香君!」

「いや、いいんじゃタカミチくん。して、どうして欲しいのかの」


うははははっ!勝った!


「部屋とクラス」


これ以外にあろうはずがない。


「……ほ、本当にお姉ちゃんのことが大好きだね…。ていうか、カードの割りに要求が凄く軽い………」

「フォフォフォ。なるほどのう。しかしどうなんじゃろうタカミチくん。ネギくんの家事能力は」

「あ、まぁ彼はなかなか万能なんですが、いかんせん子供なので一人暮らしは厳しいかと」

「そこは一教師としてしっかりして頂かないとっ!」

「フォフォ。彼は教師である前に一子供じゃよ」


わ、私だって子供だもんっ!
ぐ、ま、まぁ私のほうが奴より大人なのは確かだし、ここは大人の分別と言うものを見せようか。


「う、う~~~!わ、わかりましたよっ!でもクラスの方は譲りませんよッ!!」

「フォフォフォ。もちろんじゃよ。しかしの、今学期はもう始まってしまっとるし、3年生になってからじゃな」

「ええええええっ!!?いいですよ学期途中でも!むしろ今からでも!」


ていうかもう行っちゃえばいいんじゃないかな。文字通り教室まで跳んで行くよ。よーし――


「落ち着いて明日香君。気が漏れてるよ。よーし、じゃないよ」

「フォフォ。明日香ちゃんを疑うわけじゃないんじゃがの。近くにいるとそうも言っていられなくなるかも知れんからの。保険じゃよ、明日香ちゃんのことを秘密にするための」

「えーーー?」

「もちろんこのかにも、他の皆にも秘密じゃ。おぬし達のことも、魔法のことも」

「多いです」

「フォ?」

「私はクラスの移動だけなのにおじいちゃんの要求は多すぎます!」

「う、うむ」

「いやでも、明日香君。これはね?」


こういうことは等価交換であるべきなのに!
私ばっかり折れてる気がしてきた。くっそー、誰かに言いつけてやりたい。と言ってもそんな話が出来るのはエヴァちゃんと茶々丸くらいしかいないんだけど。
…エヴァちゃんか…。よし。


「ま、まぁ私は大人ですから。寛容な心で了解しておきますよ。ただしっ、これは貸しですからね!でっかい貸しですからねッ!!」

「うむ。もちろんじゃよ」

「……明日香君…キミは……」

「でっかいでっかい貸しなんだからーーーーッ!!」

――ガンッ!――


捨て台詞を残して走り出す私。もちろん扉は破壊。
八つ当たりではない。泣いてもない。

そしてバッチリ遅刻した私。泣いてないったら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
オマケ

放課後2-Aで子供先生歓迎会をやると言うのでお邪魔する私。
なんか明日菜とネギ先生がやってるけど、今はとりあえず置いといて。
そそっと。


「副会長。報告を」


本人にだけ聞こえるように。


「え、あ、いや、会長」

「報告をお願いします」

「う、は、はい。えー、ネギ君は明日菜君に魔法バレしたようです」

「ほう?それで?」

「それで、記憶を消して魔法のことを忘れさせようとしまして」

「・・・ほっほう?そ、それは魔法使い的には一般的なんですかね?」

「い、いやそれが、嫌な予感がしたものですから(脱衣的な意味で)、近くにいた僕が物音を立てて顔を出して、未然に防いでおきました」

「おお、副会長良くやってくれました。これからはお互い、今まで以上に活動に注意を払って行きましょうね」

「りょ、りょーかい」


なるほどなるほど。
もうバレたのか。私が知っていると言うことを相手が知らないという状況は結構使えるんじゃないな。
ふふふふふふふふ。


「なー、明日香も行くやろ…て、何笑っとるん?」

「あ、このか。なんでもないよ。あれ、明日菜は?」

「それがな?明日菜とネギ君で教室出て行ってん。それで、皆で見に行くえーて話なんよ」

「ほほーう?行からいでかっ」


なんならツブシに・・・・・・


「なー、高畑センセと何話しとったん?」

「うん。普通の雑談だよ」


有意義ではあったけどね。ふふふふふふ。


「ふーん。そかぁ。なぁ明日香、その笑い方気持ち悪いえ?」


失礼な。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
も一つオマケ

子供先生就任の翌日、朝。

前日の夜、彼を見張るために、そうあくまで見張るためであって決して明日菜に甘えたかったからではなく、643号室で就寝した私。

明日菜のベッドにお邪魔したわけだけど何かやけに狭い。前から後ろからぎゅ―ってなってるような気がする。
あぁ、明日菜だめだよ。私たち姉妹だよ…でも、明日菜が良いなら私…。

………………こ、この額に当たる感触は、まさか明日菜の、く、唇……?


「は、え、な何だ明日香か…」

「ん、んーぅ。あ、おはよう明日菜」

「うん、おはよう明日香」

「ね。こっちも」


言いつつ自分の唇を触る。


「な、ちょ、バカ!何言って…て!何であんたが私のベッドで寝てんのよーっネギ!」

「え?」

「えう?あ――」


どうやら後ろからの圧迫はネギ先生によるものだったらしい。迷惑な。
そしてこの少年、一人で寝られないシスコンだったようで。…見張りに来て正解だったねっ!


「てかもう5時じゃない!ほら起きて明日香!」

「え!うそっ、あ、待って!今行く!」


よし。


「「行ってくるねこのかーっ」」


やばいバイトがっ。

まぁ、普通に遅刻しました。おのれスプリングフィールド。
 
 
 
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どうも作者です。
感想、御指摘、感謝します。
お話について。
アンチにするつもりはまったくないのですが、明日香はお姉ちゃん第一主義なので、1.2巻あたりは怒ってばっかりになりそうな予感。
さらに作者は気の向くままに打鍵しているので、時々(結構)ノベライズみたいになるかもしれないです。あしからず。
ではこの辺で。
お読み下さりありがとうございました。










[18657] 11話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/20 10:43
みなさんこんにちは。明日香です。

只今A組に潜入捜査をしにやってきております。探る対象はネギ先生。
まぁ就任二日目で探るも何もあったものではないのですが、今日は聞き込みを。


「つーことでどうよ、子供先生は」

「どうって何だよ。てかその"つーこと"は何に係ってるんだよ」


ちなみに対象の噂は二日目にして学園中でそこそこの話題になっている。これは某新聞記者さんによる情報。

今話を聞いているのは、A組常識部門代表の長谷川千雨。彼女に聞けば間違いないだろう、と思う。


「何ってつまり、授業とか担任ぶりとか…あるでしょ?」

「いや、あるけどその何じゃねぇよ。…ま、微妙だな。子供って時点ですでに非常識だけどさ。つかまだ二日目だし。教師っていう能力的な意味なら、まあまあなんじゃねえの。……んなことよりもさ、今日のそのネギ先生の授業中にお前の大好きなお姉ちゃんが急に脱ぎ始めてさ。あれどういうことだよ?」

「へぇ・・・・・・・・・」


あのワイセツ教師め。
狙ってやったなら■す。ラッキースケベなら縛って監禁する。防ぐのが難しいから。
うー、例の脱がせ魔法なら私が明日菜に抱きついていれば何とかなるのに……。え、いや触ってれば良いんだけど、ハグした方が幸せじゃん。もちろん皆が。もち。


「お、おい?どうした?」

「あ、うん。なんでもないよ。ねぇその時ってさ、ネギ先生くしゃみしなかった?」

「は?あー、まぁ確かしたような気もするけど…なんか意味あんのか?」

「やっぱりか……」

「やっぱりってどういう――」

――ネギ先生ーッ――

――明日菜さん助けてーっ――


ドドドドドっと。

何の騒ぎだよまったく。今対象の捕獲からの尋問計画の立案中だったのに。やっぱり夜に縛って連れ出すのがベストかな…。


「何騒いでんだあいつら…。おい、お前のお姉ちゃんも何かやってるぞ」

「んー?あぁ、いいよ。どうせ惚れ薬かなんかでしょ。明日菜には効いてないみたいだし、それならまぁ私は良いや」

「ほ、惚れ薬?お、おい、さっきから何なんだよ?止めろよ、そういう非常識持ち込むの」

「ふーん?まあ千雨なら4分の1くらい知ってるようなもんだし、教えて!て言うならその時に、ね?」


おかしいことに気付けるのはおかしい。
とエヴァちゃんに教えてもらったから分かったことだけど。
この学園都市にはそういうことを気付けなくする結界が張ってあるらしい。
そしてそれを無視しておかしいことに気付いてる千雨は、魔法的な才能が豊富なのだろうとのこと。いずれ知ることになるだろうし、だからこのクラスなのだろう。
ついでに言えば、あの小さい先生がいたらそう遠くないうちに知ることになると思うし。
なら、私が教えても問題はないと思う。口も堅い人だし。ふふふ。困る千雨が目に見えるようだよ。


「な、なんだよ…。ていうか、追いかけなくて良いのか?神楽坂姉、行っちまったぞ?」

「……ねえ、これ前にも誰かに言った気がするんだけど。私ってそんなに明日菜にべったりに見える?」

「見える」


即答とか。


「……あ、あのさ。気付いてないようだけど、私たちクラスが違うから1日の大半は別行動なんだよ?」

「…あれ?言われてみればそうだな……何でだ?」

「何でだはこっちのセリフだよっ!そりゃ私はシスコンだけど、四六時中ベタベタなオコチャマじゃないんだからねッ!!」


不思議に気付けても常識に気付けないなんて千雨も毒されてるねっ。これを伝えてやれば、彼女は悶絶必至だよ!
でもそうはしないのです。私はそんな八つ当たりをするようなオコチャマではないのですからっ!


「その発言がすでにオコチャマだよな」


聞こえない聞こえない。
 
 
 
 
 
 
 
で放課後。もう夜か。

エヴァちゃん邸で結界を張って茶々丸と実戦訓練中。
この訓練ももう結構続けてるなぁ。1年以上だもんなー。
半年を過ぎた頃からエヴァちゃんとタイマンだったりとかもやるようになり。正直泣きました。
茶々丸も茶々丸で今日に至るまでにガツンッガツンッと整備の度に性能アップを繰り返し、今では酷いことになってる。
そしてその性能アップは戦闘面だけではないからハカセ恐るべし。
今では茶々丸との家事談義に大輪が咲きます。あと家主の愚痴(に見せかけた惚気)とか。
と、あ――


「「いたっ」」


やられた!完全に決まったと思ったのに。体制を崩させての間合いの外からの攻撃にカウンターを合わせるなんて…!


「ロケットパンチはずるいよっ!」

「ずるくないです。私の武器の一つです」


くっそ、あのマッドサイエンティストめ。
ロマンが分かってるじゃないかっ……!!!


「喜んでいただけた様で何よりです」

「うん、素敵。あ、ねえエヴァちゃん。茶々丸に武装解除したらこの場合どうなるの?腕が飛んでくの?」

「…いや、どうだろうな。そんなことにはならんと思うが。ちょっとやってみろ」

「嫌だよ!あんな脱がせ魔法!茶々丸がかわいそうでしょ!てか、何なのあの子供先生っ。くしゃみで武装解除とかどういうつもり!?」


ホントどういうつもりなんだろうっ。
どんなつもりでも迷惑なことに変わりはないけどねっ!


「ああ、あれはな。単に魔力の制御が甘いだけだよ。未熟者なんだよ、ぼーやは」

「未熟者をこんなところに寄越すなっつーのっ!まったく。……あれ、そんな未熟者につき合わされてる割には、機嫌が良さ気だね?エヴァちゃん」

「ふん。貴様には、まぁあまり関係のないことだよ」


ほほーう?恋かな?
……ないか。600歳だしな。言わないけど。
何をするつもりなのかな?エヴァちゃんてば登校地獄――学校に強制的に通わせると言う恐ろしい例の呪い――だけじゃなくて、何やら魔力も封じられているらしいし。何が出来るのやら…。


「へー?どうりで。この間から献血の量が増えてると思ってたんだよ。レバー食べると口臭に気使うんだよ?」

「知らんわ!ていうか献血とか言うなッ!吸血だっ!!なんか良いことみたいに聞こえちゃうだろうがっ」

「口臭と、あとお部屋の消臭にこちらが効果的ですよ」

「あ、ありがとう茶々丸!」


あー茶々丸欲しいなぁ、家に来てくれないかなぁ。切実に。
あ、でもお嫁さんポジションが取られちゃうからダメか。あと茶々丸がいなくなるとエヴァちゃんが死んじゃうし。いやまじで。
茶々丸がいないと本当にダメなんだよ、このぐうたら吸血鬼。威厳のかけらもないです。


「貴様…よし。血を寄越せ。ボコボコにしてやるっ」

「え、待って今日満月じゃないしその魔力って溜めとくんじゃなかったの!?」

「五月蝿い!くそ、貴様なんぞ別荘の中なら粉微塵にしてくれるのに…」

「マスター」

「別荘?」

「うるさいっ!!貴様には秘密なんだよこの馬鹿者がッ!!」


理 不 尽 !
 
 
 
 
 
 
 
「ただいまー」


やってきたのはおなじみ明日菜このか部屋。そしてうぃずネギ先生。


「明日菜ーー子供のイタズラやろ。機嫌直してトイレから出てきいやーー」

「うえーーん!許して明日菜さーん!」

「うるさい黙れーっ!」

「……なにごと」


トイレに篭る明日菜。泣きつく子供。宥めるこのか。
うん。分からんな。


「あ、明日香お帰り。はぁ、もう寝なあかんね」

「うん、そうなんだけどこれは一体…」

「あ!明日…香、さん!えっと実は――」


かくかくしかじか。

なるほどのう。
風呂が嫌い、と。これはまぁいい。いやよくないけど。臭いのとか非常によろしくないけど。今はとりあえずいいや。
それよりも。
明日菜と風呂に入ったぁ?もちろん他の人とも入ったわけだけど。
明日菜の水着をぶち破ったぁぁ?しかも話を聞く限り魔法で。いや、手で破ってたら潰してたけど。何をとは言わない。ナニをとは。

で。
怒った明日菜は立て篭もり、と。
・・・こ、ここでキレたりしたらちょっと部屋が危ない。ガ・マ・ン!


「ねぇ、明日菜。私だよ」

「あ、明日香。おかえり」

「ただいま。ね、大丈夫だよ。誰も今更、明日菜の水着がはじけ飛んだ位じゃおかしく思わないって」


いやホント。
むしろ現時点でそれくらいのこと自力で出来る人も何人かいるみたいだし。


「そうかな…て、あんまりフォローになってないわよ、それ」

「そ、そう?と、とにかく、A組は変人ばっかなんだから気にするほどのことじゃないよ。それにネギ先生のお風呂なら、高畑先生に頼んだら良いよ」


しばらく出張もないだろうし。ネギ先生的理由で。


「え!?」

「なんで高畑先生なん?」

「え、あ、そうか。何でか知らないけどネギと高畑先生は知り合いなんだっけ」

「あー、確かにそんなことも言うてたな」

「でも、そんなことで高畑先生に…」

「大丈夫。私からお願いするからさ。それとも明日菜が言う?」

「えええええ、えーと!あ、明日香お願い……」


責任感の強いところも、それでいてしおらしいところも素敵です。


「うん。ね、先生。お風呂入りますよね?シャワーでも良いですけど。なんなら、高畑先生から故郷のお姉さんに連絡してもらってもいいですよ?ネギ君が下宿先の女性にお風呂のことで迷惑を掛けている、とか」

「ああああああ、あ、えと!わ、分かりました!僕お風呂はタカミチにお世話になります!」


はい、よく出来ました。
まぁね。シスコンの気持ちは分かりますとも。どうも彼のお姉さんの方もブラコンの様だし。そういうことなら異性関係の恐ろしさとかも、ね。えへ。


「ほら、明日菜ももう出てきいやー。おやすみの時間やえ?」

「わ、わかったわよ」


はい一件落着ー。寝よ寝よ。


「ほんなら、もう寝るえー」

「「「はーい」」」


明日菜'Sベッドへゴッ!








[18657] 12話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/19 11:42
みなさんこんにちは。明日香です。

今日も無事授業を終えました。
つーことで。


「あーすーなっ!部活行こっ!」

「ごめん。私、今日補習だって」


ふられた。もう今日はこのへんで。







いやいやいやいや。
そんなことくらいでいじけるわけないし。これくらいのこと前にも何度かあったし。スプリング・フィールドの奴も補習する先生だったってだけだし。

まぁでもそういうことなら。


「そっかー。分かった。じゃあ私行くよ」

「うん。じゃ、あとでね」


この場合の「後」は、普通「部活」になると思うんだけど、明日菜の場合補習が長引いて「後」が「寮」になっちゃう、というのが今まで。
担任の先生が変わって、きっと補習の内容も変わるのだろうけど我が姉のおちゃめは変わらないと思う。

そんなわけで私、本日の部活はお休みです。
明日菜は顧問がいなくても真面目にやるけど、私は顧問がいようがいまいが明日菜がいなければ集中力を欠くので、そんなときは自主的に休部しています。
明日菜もそのことを知っています。だって明日菜がいないときに私の作品の出来具合が進んだことはないから。

そういう時に私が何をしているのかと言うと、誰かと遊んだり、誰かで遊んだり、一人でお料理研究だったりしています。
でも一番多いのは魔法の練習。ちょうどいい暇潰し…もとい、えーと、そう、やりたいこと、があるので何の問題もない。ていうか修行。だから落ち込んでなんかない。全然ない。
 
 
 
 
 
 
 
「結構なお手前で」


魔法の先生を待ちながらお茶を飲む。いん茶道部。
私は茶道部ではないんだけど、先生ズが茶道部なのでお邪魔している。
ここでなければ囲碁部にお邪魔するのだけど、美味しいお茶とお茶菓子が食べられるのでこちらの方が好き。
待つまでもなく先に帰っていることも良くあるのだけど。


「お粗末さまでした」

「寛ぎすぎだ馬鹿者。貴様は茶道部じゃないんだから廊下ででも待っていれば良いんだ阿呆め」

「ねえ、エヴァちゃんてそうやって一度に何度もバカとかアホとか死ねとか言うけどさ……………………………エヴァちゃんて和服も似合うよね…。あ、もちろん茶々丸も似合ってるよっ」

「ありがとうございます。明日香さんも着たら似合うと思いますよ」

「そっかなー?私割と大きい鈴がついてるからなぁ。しかも西洋鈴」


高畑先生にもらった双子でおそろいのやつ。
果たしてこれを西洋鈴というのかは知らないけど、日本の鈴じゃないっていう意味が伝わればOK、かな。ていうか、ベル。


「合わせてみれば案外問題なかったりするものですよ」

「そっかー。あ、服といえば茶々丸はメイド服以外の普段着ってないの?いや、あれも凄い勢いで似合ってるんだけど」


外見的にもそうだけど内面的に似合いすぎてる。さすが従者。みにすてる・まぎ。
魔法関係ないところでその力を遺憾なく発揮している。


「一応あるにはあるのですが、家のことをするのにはあの格好が一番なんです」

「そんな茶々丸だからこそ、あの服が素敵に似合うんだね」

「貴様ら何の話をしているのだ!元々は違っただろう!?ていうか私の言葉を無視するなっ!!」


もう。
いくら今日は茶道部に他の人がいないからってあんまり大きな声はダメだよ。
で、元々の話は何だったか。
んーーーー。
あ。


「エヴァちゃんの普段着はフリフリでスカスカだねって話だね」


露出度的にスカスカ。
可愛くて色っぽい。そんな幼女。あれ、言ってみるとおかしいな。目の前にすれば違和感ないのに。


「違います。マスターは和服も似合う、と言う話でした」

「そーだっけ?」

「どっちも違う!何で貴様がここにいるのかって話だ!」


そーだっけ?
ま、何でって言われても別にこれと言って…。あ、魔法か。じゃあ二人がここにいるからじゃんか。
あれ、こう言うと私が二人の事ものすごく好き、みたいだな。
いや、間違いってほど――


「ふんっ。どうせ姉にふられたんだろうが。今日は補習がどうとか言ってたものなぁ?」

「ふふふふられてなんかないもん!ななな何言っちゃってんの!?」


そんなこと言うエヴァちゃんなんか大っ嫌いッ!!

なにが「ふはははは」だよ!無駄に悪者ぶっちゃって!泳げないくせに!


「泳げないのは関係ないだろっ!」

「心を読むのやめてよね!」

「口に出てるんだよこのシスコンが!」

「シスコンも関係ないよ!ていうかシスコンが悪い事みたいな言い方やめてよっ!」


ぎゃーぎゃー。

まったく。
600年も生きてるくせにまるで子供なんだよエヴァちゃんてば。
ん?てことは見た目も中身も幼女なエヴァちゃんと同レベルで言い争うのは些か大人気ないかな。

ぎゃー。


「ま、まあこのくらいにしておこうか」

「そ、そうだな。ここは学校だしな」

「お二人ともうるさいです」

「「スイマセンデシタ」…て、茶々丸貴様私の従者だろっ。ここはむしろ私の味方をするところだろ!」

「茶室では静かにするべきです」

「ハイ」


精神的な成長も著しい茶々丸。
自らのマスターにもイエスマンではなく、自分の意思で従者という役割をしている。そんな二人はパートナーとして、とても好い関係を築いていると思う。


「マスター、お湯がなくなりました」

「どっかに水があっただろう。何とかの天然水が」

「あ、そこの奥だよ。ねぇねぇ、火、私にやらせてもらえないかな」

「別にかまわないが……おい、まさか――」


えーと。


「プラクテ ビギ・ナル あーるですかっと」


"火よ灯れ"てね。…あれ。


「て、熱っ!」

「馬鹿者。魔力の込めすぎだ。どうも貴様は魔力や気の扱いはそこそこなのに、魔法となると途端にダメダメだな。ていうかどんどん威力ばっかり上がっているぞ。もうこれはあれだな、初心者用魔法は使わない方がいいな」


ボンッてなった。
"灯る"というより"爆ぜる"な感じ。


「え~?初心者用のが一番魔法っぽいのに…。あ、あーあ。袖焦げちゃった……。…ね、そーいえば訓練中に服が大破した時に着せてくれる服ってさ、完全にエヴァちゃんの趣味でしょ?」

「だったら何だって言うんだ?」

「いや、何で私のサイズのもあるのかな、て」

「マスターは着るのも好きですが、着せるのも好きなのです」

「え、じゃああれって私のため…?」


だとしたら結構嬉しいけど。
エヴァちゃんのデレを見た感じ。レアだな。

とはいえ。


「ねえ、普通に照れるのやめてよ。あんまり可愛くて別人に見えるんだけど」

「・・・・・・貴様、死にたいのか?」

「抜かりなく記録しました」

「おい!?」


GJ茶々丸。後で見せてもらおう。愛でる分には良いものだったから。


「あはは。しっかしさ、私は思うんだよね。…あのフリフリは私には似合わない。私より明日菜に着せるべきだと。明日菜も自分には似合わないって言うだろうけど、絶対その方が善いよ」

「……まったく聞きたくはないのだが、一応義理で聞いてやろう。…何故そう思う」

「その方が私が幸せだからだよッ!!」


当たり前じゃないかっ!
むしろ何故そう思わないのかが私には分からないよ。


「さすがシスコンです。そこに痺れも憧れもしませんが」


精神的な成長も著しい茶々丸。
でもなんで、成長に合わせてどんどん失礼に、どんどんアホの子になっていくのだろう?
ま、いいか。

そしてそんなアホの子茶々丸に送るこんな言葉。


「ふふ。茶々丸。明日菜に可愛い服を着せれば私が幸せ。"明日菜"を"エヴァちゃん"に変えたら?」

「とても共感できます」

「おいぃぃぃいぃぃいっっ!!??」


ああ、お茶が美味しい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ん、帰るぞ」

「はい、マスター」

「うん。・・・・・・っ!!」

「?明日香さん、どうしたんですか?」

「あ、うううううん!な、なんでもないよ!先行ってて!すーぐ追いつくから!」

「ん?……ははーん?正座か?痺れちゃったのか?大変だな?」

「マスター、こんな時ばかり悪者の顔です」

「ふふふ。ここか?ここがいいのか?」

「ちょ、やめてやめてやめてやめて!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「ふははははっ!くっくっくっくっくっ!ほれほれほれほれっ!」

「……一応、記録を。非常に背徳的な画になっていますし」

「あっはっはっはっはっ!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」


色気はない。
 
 
 
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どうも、作者です。
感想、御指摘、誤字報告、ありがとうございます。
とても活力になります。
五時、ごじ、誤字。
まぁなんと言うか。
思わぬところで自らの無学をさらしてしまいました。
御指摘くださり本当にありがとうございました。
この更新の前にそっと直しておきましたが、ご不快に思われた方がいたなら大変申し訳ございませんでした。
泣いてはいないですよ?
ではこのへんで。
ご拝読(×)→ お読み下さりありがとうございました。







[18657] 13話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/03 12:39
みなさんおはようございます。明日香です。

数日前にドッジボールで高校生を泣かせたらしいA組。
まったく意味が分からないし経緯も分からないしで聞いては見たのですが、結局なんでそうなったのか聞く人によって微妙に違い、よく分かりませんでした。

そしてそのドッジボールで明日菜がアウトになったらしく、大変驚いた私はそのことをもっと詳しく聞こうとしました。
が。
誰も教えてくれません。なぜ。
ぶつぶつ言うことを聞き取ってみたところ、高校生のためと私自身のために教えないらしいです。………?

まあ、そんなことはどうでもよくて。

本日2月14日。バレンタインです。

元々はどこかの国のバレンタインさんが何かをした、だか、どうにかなった日で、そのどこかの国ではバレンタインさんを称え、親しい人に感謝を込めて贈り物をする日となっています。
この親しい人とは、友人や家族、恋人などのことです。

しかし日本では、この風習が伝わってきた時に何の陰謀かえらい人の力が働き、女の子が好きな人に気持ちと一緒にチョコレートを送る日、となってしまっているのです。
と言っても近年では告白的要素に加え、基となった風習に倣ったのか女の子が親しい人に感謝を込めてチョコ――クッキーやケーキも含む――を送る、ということも増えてきています。

なぜ変わってしまったのか、なぜ変えたのか、賛否両論ですが、と言うかほとんどの人は気にしていませんがあえて言います。

ぐっじょぶ!

と言うことで本日2月14日。聖戦です。


「おはよー」


当然のようにA組へ来た私。
教室からは甘い香りがしていて、でも女子中なのでお菓子的な意味以外の甘さは感じられない。
出来れば私のところからはお菓子以外の甘さも漂ってくれるといいんだけど、油断すると"愛が重い"レベルになりかねないので、ていうかそれは甘くない。どろどろだ。

とにかく私は純粋でふわふわできらきらな空気を纏って挨拶。


「さあ皆さん、遠慮せずにお受け取りになってくださいませ」


先ほどA組から甘い香りが、と言ったけどこのクラスには乙女が少ないので、いやいるにはいるしもちろん皆女子なんだけど、とにかくこの教室の甘い香りの原因のほとんどはこのクラスの委員長。


「ありがとうあやか。はいこれ私から」

「ありがとうございます明日香さん」


委員長魂と財力を爆発させて、私なんかはきっとこの時でないと食べられないようなチョコをクラス全員+私に配っている。もうチョコって言うより、ショコラって感じ。さすがお嬢様。さすがショタコン。
…ごめん、後ろのに意味は無いです。


「あら?今日は明日菜さんとご一緒ではないのですね」

「う、うん。ちょっとね」


ちょっとね。
で。
このクラスの人は基本的にはチョコを用意しない。
別に冷めてるとか仲が悪いとかではなくて、基本のスタンスとして送りたい人=本命がいないので、じゃあいいや。みたいな感じらしい。
もちろん仲が良い者同士で交換する人もちらほら要るけど。かくいう私もその一人だし。

向こうの方で「チョコまん」なるものを売っているのは五月かな。ていうか、リンリンの差し金か。
リンリン。麻帆良の最強頭脳こと、超鈴音。万能の天才。リンシェンて言おうとして噛んだので、リンリンになってもらった。
…うん。あっちにはいかない。冷たいのか温かいのか気になるけどいかない。
そもそもそんなお金がない。

そうして何人かに友チョコを渡していたのだけど、私のチョコに文句を言う人が。


「おい、神楽坂妹。なんでお前のチョコはサッカーボール模様なんだ」

「あーそれ?小っちゃくて可愛いでしょ?型を作るのに苦労したんだよねー」


文句じゃなくてツッコミだった。
ちなみに型を作るのに苦労したのは主にハカセ。
探したけど目当てのものが見つからなかった私は、ハカセに製作を依頼。デザインと、適当にでっち上げた科学的理由を渡したらあっという間に作ってくれた。
しかも量産可能。たぶんそのうち店頭に並ぶと思う。


「そういうことじゃ無えんだよ。ていうか可愛く無いし。和泉がやるならわかるけど、お前がやっても意味不明なんだよサッカーボールとか」

「もう、千雨はわがままだなぁ。しかし、意味ならちゃんとありますよー?」

「わがままとかじゃ無えよ!…で、なんだよ。その意味って」

「うん。いやー、どんなのにしようかなー、て思ってたらちょうど良くサッカーワールドカップ南アフリカ大会がやってたからさっ。それにあやかって」

「…サッカーのワールドカップがやってたのは去年だし、開催地は日韓だろ?……大丈夫かお前……?」


・・・・・・あれ?
 
 
 
 
 
 
 
と。
まあそんなんでおおむね好評を頂きつつ本丸へ。


「明日菜、このか、やっほー」

「やっほーって何よ明日香」

「明日香やっほー」


そう、今日この二人と一緒じゃなかったのはこの時のため!
昨日は泊まらなかったし、部屋を訪ねもしなかった。私の部屋は今もチョコの匂いでいっぱいのはず。
ま、言うまでもないことだったかな。

しかし、それはそれとして…。


「ねえ、このか。そっちに持ってるのって……」

「え!?あ、ううん!な、なんでもないんよ。ほんまに…」


私が貰ったのとは明らかに気合が違う包装。
ほ、本命?いやいや、そんなこと聞いてないよ。どういうことなの。

きょろきょろ。ちらちら。

このかに質問し、それからじーっと見つめていると彷徨う視線。時々どこかを見て止まっているようだけど。
止まった視線の先には……あれは、桜咲刹那、だよね。
どういうことだ。いつのまにそういうことになったんだ。
彼女は中学になって転校してきた人で、無口なクール美人。小さめだから可愛い、かも。
そんなことはどうでもいい。

とにかくこのかと刹那にはこれと言って接点は無かったはず。いや、確か刹那も京都出身とか言ってたからこのかが麻帆良に来る前に会ってたのかもしれない。むしろ逢ってたのかもしれない。
いや、人を好きになるのに時間は関係ない、か。


「こ、このか?私、呼んで来ようか?刹那のこと」

「そ、そんなんせんでええよ?ほんまになんでもない、から」

「え?なになに?どうしたの?」


このかがそう言うなら、何もしない。ものすごく気になるけど。
でも内緒で調べたりとか…いやいや、何もしないし。考えてみただけだし。要検討だし。

よ、よーし。
それなら今日と言う日のハイライト。私の本番。
本命タイムといきませう。

ついでに言っておくと、何人かに渡して渡されてお話してなんてしていたものだから、只今お昼休み。時間はたっぷりある。


「あ、あ、明日菜?あの、は、はいこれっ!ハッピーバレンタイン!」

「あ、う、うん。ありがとう。大きいわね…」


普通。
いや。
だって無理だよ!好きです付き合って下さいとか言えるわけ無いよ!ていうかそんなことが言いたいわけじゃないし!あ、あ、でも明日菜の返事も戸惑いよりは照れだからっ!引かれてなんか無いもんっ!!

ちなみに私の本命用は両手に収まる程度のチョコレートケーキ。そんなに大きくはない。気合を感じる程度。

昨日一人で作ってたんだけど、半日チョコまみれだったので今日はチョコを食べたくないと言う悲劇。

でも貰ったものは心からありがたく頂きます。


「あ、こ、これ私から明日香に」

「!う、うん!あ、ありがとっ」


やっべ手作りじゃん!しかもハート型キタコレ!
私もハートは散りばめたけど、これはテンション上がる!い、いやなんかむしろ照れくさいかもしれない!


「あれ?明日香、指、どうしたの?」

「あ、これ?ここ、これね、ちょっと昨日料理中に失敗しちゃって!」

「そうなの?珍しいわね今更…大丈夫?」

「うん!ぜ、全然だいじょーぶ!」


い、言えない!明日菜のこと考えながらやってたら切っちゃったとかさすがの私も恥ずかしくて言えないッ!!しかも何箇所も!

え?あはははは。やだな、血なんて入ってないよ。そんな魔女じゃあるまいし……。あれ、私魔女か。…うん、入ってないから。こればっかりは本当に。


「…ええなぁ」

「「え!?なな、何が?べ、別に普通でしょ!?」」


べ、別にお菓子以外の甘い空気なんて出してないし、いや嫌じゃないけどっていうか出てたら嬉しいんだけど、今は別にそういうことじゃなくて…………あれ?いつもならこのかは「うっとうしいわー」的な酷いコメントをしてくるのに……。やっぱり刹那と…いや!今は後回しで!要検討だしね。


「お、お昼にしようか…?」

「そ、そうね。早くしないと時間なくなっちゃうもんね」

「そうやね。で、おやつ的にチョコも食べよか」

「「さ、賛成です」」


よーし!
そうと決まれば早くご飯を食べて、明日菜の愛を全身で受け取ろう!

別に普通に食べるだけで塗ったりはしない。しないったら。
 
 
 
 
 
 
 
最後に。

あやかは、もちろん明日菜にもチョコをあげたし、明日菜もあやかにお返ししたわけだけど。

二人して無意味にツンデレしていました まる
 
 
 
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どうも、作者です。
感想、誤字報告ありがとうございます。
お話について。
思ったよりも百合百合してないです。もっと甘甘のゆるゆるになって欲しいのですが。
しかし、アブナイ関係にはならないような気もします。アブナイ雰囲気にはなるはず。したい。
明日香について。
質問してくださった方がいたので。ついでに設定も載せちゃうんだぜフゥハハー!
もちろん、左右で瞳の色が違います。ありがちに明日菜と左右が逆、とか言ってみたり。右・紺色|左・空色
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。







[18657] 14話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/10 07:05
明日菜が帰ってこない。
週末は一緒に学年末試験の勉強しようって言おうと思ってたのに。
朝になっても帰ってこない。学校に来てみても、いない。

どういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうこと明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が明日菜に何が――


「みんなー!大変だよーー!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に………!!」

「どこで」

「「…へ?」」

「どこで行方不明になったの」

「と、図書館島だよ…?」

「ありがとうのどか。あとハルナ」

「私はついで?」


いざ行かん図書館島。
私の明日菜アンテナをなめるなよ!

ちなみに言っておくけど私はヤンデレではない。決して病んでない。
ちょっと、姉と連絡が取れなくて安否が分からなかったから、少ーし情緒不安定になっていただけ。
というわけで。


「待ってて明日菜ーっ!今行くよーッ!!」

「「・・・・・・だいじょうぶかな。図書館島」」
 
 
 
◆◇
 
 
 
それから約30時間後。ここは幻の地底図書室(綾瀬夕映談)

期末試験で学年最下位になったクラスは解散、あまつさえ特に成績の悪い生徒は留年、もしくは小学生からのやり直しと言う情報を掴み、図書館島深部にあるという「読むだけで頭の良くなる魔法の本」を求めてこの場所にたどり着いたバカレンジャーの5人と連絡要因のこのか、何でいるのかよく分からないネギ先生の計7人。

そんなの信じちゃうから学年最下位なんだと思う。

とにかく、都合よくこの場所には勉強道具やら何やらが揃っており緊急勉強合宿を行うことにした彼女ら。
今はなにやら随分と薄着、ていうか服着てねえし。
で、そんな状態で何をしているかというと、まき絵が動く上に喋る石像に捕まっていた。

まき絵。佐々木まき絵、新体操部所属、バカピンク。リボンから棍棒まで何でもござれだけど、リボンは日常生活から愛用。リボンを愛用する日常生活ってなんだろう。

そんなわけで無駄に大きな石像と相対しているわけだけど、何かネギ先生は普通に魔法とか口にしちゃってるけど、我等がバカレンジャーに死角はなかった。

魔法は子供の夢だよね、ていうか今それどころじゃないしとばかりにスルーし、事態の好転を図る。


「本をいただきます!まき絵さん、クーフェさん、楓さん!」

「「OK!バカリーダー!」」


バカリーダー。綾瀬夕映、図書館探検部などに所属、バカブラック。いつも謎の飲み物を愛飲。好きなことには静かに、熱く情熱を燃やす人。
石像に引っかかっている魔法の本の奪取を指示している。

クーフェ。古菲、中国武術研究会部長、バカイエロー。超包子の一員でもあるけど、それ以上に格闘技バカとしての印象が強い。
そんな彼女、崩拳からの上段蹴りで石像の体制を崩しまき絵を解放。

楓。長瀬楓、散歩部所属、バカブルー。忍者。彼女は否定しているけど随所にそれっぽい言動があるし。彼女と同室の双子も何かやっちゃってるし。何?甲賀忍群とか。
で、彼女は人外な身体能力でもってまき絵を救出。

まき絵は助けられながらも、愛用のリボンで魔法の本を奪取。

バカレンジャーに死角はなかった。

全力で逃走を始める7人。このかが持ってきた服を着ながら。超器用。

それを追う石像。主なセリフは「フォフォフォ」や「本は渡さぬぞー」。誰かに似てる。

と、そこに――


「ブラボォォォッ・・・ 流 星 脚ッ!!」


――どっかから降って来たツインテール。ちなみにただの跳び蹴り。


「あ、明日香ー!?あんたどうしてこんなとこに、ていうかどうしたのその格好!?ボロボロじゃないっ!」


神楽坂明日香その人だった。
明日菜の言うとおりボロボロ。服も体も薄汚れているし、服はその上所々ほつれて、または破けている。
何よりもボロボロなのはその雰囲気。まるで、30時間程ぶっ通しで駆け抜けてきたかのような疲労が見える。有体に言えば酷い顔だった。


「明日菜っ!良かった無事だったんだね私凄く、てギャーッ!なんて格好してるの!?そんな、てギャァァァッ!!どうしたのその腕!?怪我!?大丈夫なの!?」

「「「「「やかましい」アル」でござる」よ」です」


確かに。

頼もしい助っ人、もしくは迷子が一人加わった一行は、石像と一緒にわいわいがやがやと駆けていく。


「よーこんなとこまで来れたなぁ明日香」

「ふ、ふふ。私の明日菜アンテナは超高性能だからね」

「へー。双子の神秘かなー?」

「拙者の知る双子はそんなこと言ってはいなかったでござるが」

「むしろただの変態です」

「気配を探っているアルか?」

「え、明日香さんそんなことできるんですか?」

「ちょっと皆そんなこと言ってる場合じゃないでしょーっ!?」

「ま、待つのじゃーっ」


多すぎる。
誰が誰か判るかな…。

ゴホン。

そんなこんなで滝の裏の謎の問題をクリアし、意味不明な、でも上に続いている巨大な螺旋階段へと到達した一行。
石像も壁をがりがりと削りながら追ってくる。

所々に先ほどと同じような問題があったけど、どうやら魔法の本は本物のようで皆スイスイとクリアしていく。ちなみに明日香の活躍はない。そんな余裕がない様子。
途中、夕映が足を捻るハプニングがあったもののネギ先生、は無理だったから楓が抱えることでこれもクリア。

まき絵曰く1時間も登った頃。


「ああっ!みんな、見てくださいっ!!地上への直通エレベーターですよっ」


1F直通、と書かれた扉に着いた一行。急いで全員で乗る。
しかし、現実は無情で――


   ブブーーーーーッ


――無慈悲。


「ちょっと皆2日間何してたのっ!?私なんかやつれちゃってるくらいなのにっ!」

「飲み食いしすぎたアルかー!!」

「根性なしやなこのエレベーター」

「あああ!勉強ばっかりしてたから!」


阿鼻叫喚。
花の女子中学生に「お前ら重いんじゃーっ」と言ってくれちゃってるエレベーター。
見たくない現実って、あるよね……。


「…私、残るよ。ほら、私はB組だし、一人でなら逃げ切れるし、エレベーターの往復待つよ」


道中こんな所に来た経緯を聞いていた明日香。
本当はネギ先生を突き落としたい、なんてことは思ってない。


「明日香…でも――」

   ブブーーー  ブーーー

「て、まだダメなの!?あ、あ、もうちょっとよ!ホラ見て片足出すだけでブザーが止まるのよ!皆持ってるモノとか服を捨てて!!」

「ホンマや!」

「おお、脱ぐアル!脱いで軽くするアルよ――」


その出した片足にどれくらいの体重がかかっているのか知らないが、そういうことにしたらしい。
ただ、そんなことはさせたくない人が一人。


「ちょっとちょっとっ!何でそうなるの脱がないで脱がないで!も、もっと重そうでいらなそうなのがあるじゃん!」

「「あー、本?」」


標準語二人、てだけは伝えておこうと思う。
と、ここで追いついてきた石像。フォフォフォ、追い詰めたぞー。覚悟するのじゃー。
隠す気ないんじゃねえのこれ。


「いや、ネギ先生の持ってるでっかい杖」

「ええ!?あ、えっと、僕も残ります!みなさんは先に行って明日の期末を受けてください!」

「何言ってんの!ええと、杖はアレだし…ていうかネギあんた魔法が…」


男前だぞネギ君!
しかし魔法なしだと正直頼りない。むしろ明日香の足手まといっぽい。
これはまずいぞ。
いよいよ石像が攻撃をしてきた――そのタイミングでエレベーターに引きずり込まれるネギ少年。ついでに、手を離れる杖。

「あ、明日菜さん…」

「あんたが先生になれるかどうかの期末試験でしょ?あんたがいないまま受けてもしょーがないでしょーが。ガキのくせにカッコつけて。もー、バカなんだから!……明日香、あんたもちゃんとテスト受けなさいよ。あと、これ」

「あー…」

「やはりアルか…」


魔法の本が手渡される。ついでにネギ杖も明日香の手に。
そしてここでようやくブザーが鳴り止む。ずーっとブーブーうるさかったけど、皆に無視されてちょっと凹んでる。


「じゃ!一夜漬け頑張って!約束だよ!!」


閉まる扉。――チン――
あんまり、約束とか言うと死亡フラグっぽくなるからやめた方が…。


「魔法の本が…明日香さんは…」

「大丈夫。あの子なら何とかなると思うし、私との約束は破らないのよ」

「それに明日香さんは明日菜さん以上に変態的な体力を持ってるです」

「もうちょい言い方、どーにかならない?」

「確かにアスカは手強いアルね」

「そーそー。それよか、ウチ等も約束守らな」

「そうですね。もうあまり時間もないです」

「あーん、まだやるのー?」

「ハハハ。まあこればっかりは、でござるな」


わいわいがやがや。

只今日曜夕方。
明日は試験当日だよ。ネギ君は責任感じちゃってるけど、言ってみれば皆の自業自得だし。


「まぁとにかく」

「「「「「「外に出れたーッ!!」」」」」」
 
 
 
◆◇
 
 
 
一方、時間も少し戻ってエレベーター前。

て、言うように言われたけど私には何のことだかさっぱりだ。

「ふふふふふ・・・。壊してやる・・・」

「フォフォフォ。いやいや、すまんの。その本はどうしても持ち出させるわけには行かなかったのじゃ」

「ふふふ…その声は学園長先生でございますね?よくも皆をこんなところに閉じ込めて下さりやがりましたね…」


本なんかどーでもいいし。
ていうかいくらバカレンジャーでも、最下位脱出するだけなら普通に試験勉強すれば十分のはずなんだけど。普段勉強してないんだから。


「い、いや、何のことじゃか…。それにここに来たのは彼女たちの――」

「そんなのどうでも良いんですよ。私は今、猛烈に何かを壊したい…。この場所に来るまでに、壁抜きをしなかったことを褒めてほしいくらいです」

「いや、それは本当にありがたいんじゃが、ちょっと…」

「ふふふふ…。明日菜もこのかもいない。隠す必要はどこにもない。……ふふ、あは、あははははッ!喰らえ!流派っ!東方不敗!超級覇王弾ッ!!」


もちろんもどき。叫んでみたかったんだよ。
こんなところで咸卦法。で、その咸卦の気をぐるぐるばーんっ!てしながら突っ込むだけ。
でも、破壊の意思を持って振り回される咸卦の気の破壊力は、流派東方不敗の名に恥じぬっ!な感じ。


「フォ…ッ、フォ~~~~!?」

「あははははははっ!!」

――あはははははははは--…………――
 
 
 
-----------------------------------------------------



てすと けっか はっぴょー。

行方不明組も私も何とか無事にテストを受けることに成功。
遅刻した明日菜たちよりも先に遅刻教室にいた私を見て喜び驚く皆。
だって私図書館島で会った時よりもボロボロだったから。何でかって言うと、ちょっとゴーレムと遊びすぎたから。あの辺りはしばらく人が入れないんじゃないかな。
あ、ちなみに杖はちゃんとネギ先生に返しました。当然だね。本は破棄。いらないしあんなもの。

で。

A組はなんと奇跡の学年1位。

バカレンジャーは軒並み学年平均辺りをマーク。やったね明日菜!ちょーカッコいい!

じゃ、そういうことで。
 
 
 
え?私?

…………………………ぶっちぎりの学年最下位ですけど何か?

違うんだよだって私テストの時点で2日貫徹だったし途中でなんか眠気はすっきりしたけどテスト勉強なんて一切してないしそれに――
 
 
 
-----------------------------------------------------
 
 
 
どうも、作者です。
感想ありがとうございます。
お話について。
明日香がキレると予想してくださった人がいましたが、その通り。
ただし相手は石人形(このえもん)。ということで、賭けペリは半分だけお返しします。ふひひ。
脱衣シーンやらは減ると思います。明日香を人殺しにしないために。
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。










[18657] 15話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/06/27 11:07
みなさんこんにちは。明日香です。

春休みになりました。
修了式の日にネギ先生の正式採用が発表され、A組はその勢いのまま「学年トップおめでとうパーティー」なるものを寮の前で行ったそうです。
今日はそのパーティーで、とても面白いことになってしまった友人のもとへと馳せ参じました。


「やあやあ千雨さん。先日はとっても愉快な芸を披露したとか」

「なんだてめえ私を笑いに来たのか。悪いけど今の私にはお前にかまってやれる余裕がないんだ。ああ、ネットの海に溺れたい……」


何を真性のニートのようなことを…。
しかし、思っていた以上に落ち込んでおられますな。子供先生の正式就任だけでもダメージを負いかねないピュアハートの持ち主だし、ここは一つ私が元気付けてあげようかなっ!


「そんな、こんなに落ち込んでる人を笑うなんて私はしないよ。こんな、容認できない非常識に見舞われて、あまつさえ今まで秘密にしてきたことがバレて……ていうかやっぱり千雨がちうだったんだね私の思ったとおりだったよそれにしても"ちう"だなんてまた随分と可愛い名前にしたよねうはははっ」

「笑ってんじゃねえか!早口で誤魔化そうとして結局笑ってんじゃねえかッ!!」


違うんだよ。これは千雨を笑ったんじゃなくて、自分の観察眼を誇る笑いなんだよ。つまり高笑いなんだよ。


「……そういえばお前、パーティーの時いなかったよな?イベント事で姉と別行動なんて珍しいじゃんか」

「あ、いや、私もちょっとB組でぱーちーが…」

「ふーん。…ん?でもB組は特になんもなかったよな?クラス替えがあるわけでもないし、ましてB組は至って普通の大人しいクラスだろ?…私とクラス変わってくれよ…」

「いいいい、いや~、ちょ、ちょっとね!」


べ、別に何も疚しいことはないけど。
ちょっと、A組の人、特に明日菜には秘密にしておきたいことと関係してるから。サプライズにしたいし。
とはいっても、私以外のB組の人に聞いたら分かっちゃうとは思うんだけど。


「んん?何だ、私はてっきり、変われるもんなら私からお願いしたいよっ!とか言うと思ってたんだけど。…何のパーティーだよ?怪しいな」

「いやいやいや!全然普通のパーティーだよ!?その、あの、お疲れ様会的なっ!」


あれーっ!?
何でこの場で発覚しそうになっちゃってるの!
うぬぬ、千雨め。なかなか優秀な嗅覚を持っているようだね……!


「お疲れ様ねえ…。でもお前はぶっちぎりだったじゃねえか。お疲れも何もねえだろ」

「いやいやいやいや。アレは違うんだよ。どっちかって言うと、って言うか全面的に学園長が悪いんだよ。あんなところに明日菜達を閉じ込めたりなんかしちゃってさ。おかげで週末に試験勉強しようとしてたのに勉強どころか一睡もできなくて、その上――」

「分かったから少し黙れ」


……。
だってぶっちぎりとか言うから…。
べ、別に恥ずかしいとかじゃないんだからねっ!
あ、これじゃあただの照れ隠しだ。ツンデレですらないよ。でも千雨のその状態だって……あ、いや、さっきまでのは絶望か…かわいそうな千雨。どういう経緯でそうなったのかは分からないけど、あの格好じゃあね。


「あーあ!何か神楽坂妹と話してたら馬鹿らしくなってきたな」

「な、馬鹿ってなんだよぅ。そんなこと言ったら千雨だってアレだよ?…バニー、とか……ぅくっ」

「また笑った!何なんだよお前っ!もういいから一人にしてくんないかな!私もう大丈夫だし!」

「いやいやゴメンゴメン。確かにちょっと笑っちゃったけども。ホントそういうことではないから。いやいやマジマジ」


でもバニーか……。ちょっと見てみたかったな。後で和美あたりに頼んだら写真出てくるかな。
しかし、千雨。
……ストレス…溜まってたんだね……。


「…なんだよ。笑うなとは言ったけど何なんだよその顔は。止めろよ!その何か痛ましいものを見る目を止めろ!同情するならうちのクラスのやつらをどうにかしてくれッ!!」

「うん。それ無理」


うん。
人間には限界ってモノがあるよね。


「まあさ、それは置いとくとしてもさ。なかなか悲惨な一発芸をしたというではないですか。あ、場がしらけたとかいう悲惨さじゃなくて、千雨が個人的にと言う意味で」

「やめろ。それは忘れることにしたんだ。…なんで服が粉々に…」


ああ、見事にトラウマになっていらっしゃる。

しっかし、こうなってみると千雨は主人公属性だなー。明日菜も大概だけど。
えー、普通を愛していてー、でも周りは非常識の巣窟でー、トラブルに巻き込まれてー。…完璧だね。

まあ、それを言ったらネギ先生も主人公属性だけど。しかもハーレム系の。許すまじ。
うん、でもネギフラグが成立するような人は……まあ何人かいるけど、ていうか数人いたらもうハーレムだけど。
大丈夫。私の明日菜は大丈夫。あれはどっちかって言うと放っておけない弟的な感じだし。そもそも明日菜は真っ直ぐに何かを頑張っている人のことは、人間的に好きなんだし。
あんまりグダグダ言うと少し怪しく聞こえるけど、本当にこれは大丈夫。彼女はむしろ私を心配すればいい。
あれ、でももしそうなったら私の信用が足らないということに……いや、この際それでも――


「「はっ!」」


二人でどっか行ってた模様。


「いや、何でお前も?」

「ちょっとね…。でもさ、重ね重ね散々だよね。千雨も」

「だから思い出させるなって…」

「いやいや。覚えといた方がいいよ?もしその時私と明日菜が隣にいれば、バニーが飛び散ることもなかったんだから」


しかしながら、相変わらずあの脱がせ魔法は凶悪だね。
こんなに食らった人にダメージを与えているのに、攻撃判定ないんだから。

そういえば、話はまったく変わるけど。
千雨は一人部屋なのかな?ドアのプレートは何故か、そう何故か見えないし。まあどうでもいいといえばどうでもいいことだけど。
部屋の惨状を見るに、どうであっても実質一人部屋なんだろうし。


「……なあ。それって前に言ってた…?」

「えー、まー、言ったかもしれないけど。それはともかくとして、奴のワイセツ行為をどうにかしたいわけだよ私としては」

「え、と。それって…まほう、とか?」

「え?あ、うーん。それは教えて欲しいということでいいのかな?ま、この会話をしている時点で半分知ってるみたいなもんだけど。それもともかくとして、あーあ!千雨イコールちう、っていうのが分かるのがあと1ヶ月早ければなーっ!」

「……えー、と……?」

「ひな祭りだよひな祭り!あの時にこの情報があれば……!」


本当にあの時に確信を得ていなかったことが悔やまれる。
これさえあれば幸せになれた筈なのに。
まったく。千雨も薄情な奴だな。あ、私も隠し事はあるしこの言い方は良くないか。

まったく。千雨も薄汚い奴だな。
あれ?酷くなっちゃった。そう、私は酷く憤っているんだよ。


「いや、まったくわかんない。それよりも私の話を――」

「魔法の話なんかどうでもいいんだよっ!それは次の機会にして!私明日菜と一緒じゃない時は基本的に暇だからっ!」


まあ、魔法の練習があるけど。
でも3年生になったら少しお休みをくれるらしいし。


「どうでもって!ていうかお前ら姉妹は四六時中一緒だろうがっ!」

「そんなことよりもっ!ねえどうやったら明日菜、コスプレしてくれるかな?」

「この…………え、何?させんの?コスプレ?」

「あ、私もするよ?双子のコスプレってない?翠蒼とか」


あるいは双恋。フタコイの方が好きだけど。あ、これはちょっとアレかな。
男キャラなら、あー、うー、タッチ、とか。ダメだ。ただの野球の格好だ。
やっぱり可愛いやつの方がいいよね!別に双子にこだわる必要もないし!


「そうか、双子コスか…考えたことなかったな…」

「なんだったら私、千雨の仕事付き合うから!」

「…いや、いいんだけどさ。何なの?その気迫」

「だって絶対可愛いよ!?」


もっと熱くなれよ!
ま、まあ私も明日菜の前ではあんまりヒート出来ないと思うけど。


「知らねえよ。でも、人数が増えれば出来ることも増えるよな…」

「でしょ?あ、ついでにエヴァちゃんにも協力してもらってさ!エヴァちゃんて普段お人形さんみたいな格好してるんだよ?」

「マジか?まあでもあの金髪幼女、謎だらけだけど見た目がいいことは確かだからな」


その通り。
本当にお人形さんみたいだからね、エヴァちゃんて。

ただし、謎が多いのもその通り。
知れば知るほど謎が増えて、闇が増えて、暗いところが増えてくる。ついでにダメなところも見えてくる。数限りなく。
本当に、冗談抜きで茶々丸なしでは生きていけない彼女。あれは、魔力がどうとか封印がどうとか抜きにしてダメなんだと思う。


「だからさ――」

「いやむしろ――」

「じゃあじゃあ――」

「あと――」


喧々囂々。


――寮の一室はその日、魔窟と化した――








[18657] 16話
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/10 07:15
みなさんこんにちは。明日香です。

今日は春休み最終日。
明日から3年生としての学校生活が始まります。明日から……ふふふふふふ。

と、まあそんな日はいつも以上にのんびり過ごしたいと思うのが人情と言うもの。
なのにこのかは学園長に呼び出されていつものお見合い。可哀相に…。
ま、いつも通りブッチすることでしょう。

じゃあ私は明日菜と、と思ったのですが。
なにやらネギ先生がどこぞの王子様で、なら目指せ玉の輿、ロイヤルファミリーと言うことで寮内大騒ぎ。A組が。
その勢いに私としてもどん引くしかないのですが、なんだかんだで人の善い明日菜は子供先生を心配して探しに行ってしまいました。分からんでもないですけど。

で、その捕食対象のネギ先生本人はというと、上手いこと逃げ切ったようでどこぞへと消えてしまわれたご様子。たぶん飛んでった。

というわけで。


「ひまだ」


のんびりする分には問題ないように思えるけど、私の場合そばに明日菜がいないとどうにもダメで。
かと言って走り回っているであろう明日菜を探す気にもならず。
ネギ王子にも興味はないし。…王子?


「いい天気だー」


部屋にいても落ち着かないので外をぶらつくことに。

特に目的も思いつかないし、今日はそれこそ皆のんびりしているだろうし。暴走組以外は。


「…………………そうだ、京都……は遠いし、えー、京都弁のこのかをからかいに行こう!」


自分でもよく分からないけどそうすることに。
えー、つまり。
"そうだ"に繋がる言葉としてはもっともポピュラーであろうそれ。
でも実行することは出来ないし、どうしても暇を潰したい私は"京都"から連想できるものとしてこのかをピックアップ。
とはいえ彼女はお見合いで遊ぶ暇はないし、まあ逃亡中の可能性が高いんだけどそれならやっぱりのんきに遊んでられないし、だったらちょっとからかいに行こう!ということで。
 
 
 
 
 
 
 
で。
学校へとやって来たわけだけど。


「怪しい…」


不審人物発見。
明らかに挙動不審で、そわそわきょろきょろ。


「明らかに怪しい……」


春休みの女子中にいる不審人物なんて、できる限りスルーしたいのが普通なんだけど。
どうやら知らない人でもないようで。

あれは……桜咲刹那。


「…なにしてるの?」

「へっ!?…ああ!いや、別に何でもありませんよ!?ウチは別にこのちゃんのお見合いが気になってとかやないしっ!」


怪しすぎる。

ていうかこんなキャラだったっけこの人。もっとクール系の清楚な人だったような。

ていうかこのちゃんて誰だ。
…お見合い、で思い浮かぶのはこのかだし。このか……このちゃん……。

  !!

そうか!このちゃん=木乃香だ!
そういえば、二人はなにやら私の知らない関係があるらしいし、気付いてみれば今テンパって喋っていたのは京都弁だったような気もする。

………うん。
同じ京都繋がりだし、刹那と話してみようかな。気になっていたことだし、このかとの関係とか。


「へー!刹那ってこのかのこと"このちゃん"て呼ぶんだね」

「ああっ!は、いや違うんよ!?んっ!ゴホン!……私はお嬢様の護衛です。それ以上でも以下でもありません」


・・・・・・お嬢様って。護衛って。
うん。お嬢様はまだギリギリありだとしても。護衛って。そんなこと言っちゃったら、分かる人には分かっちゃうよ。例えば私とか。まだテンパってるなこの子。


「…えーと、つまり、刹那は"裏"の関係者、ってこと?」

「・・・・・・はっ!!いいいやつまりその護衛というのはっ!……あれ?…なぜ"裏"のことを知っているのですか。神楽坂…え、と」

「明日香だよ」

「明日香さん。答えてください」


知ってるもなにもそっち出身だし。
あ、でもそれ言ったらこのかも明日菜もそうだけど二人は知らないわけだしなー。
なんて言い訳しようか。

ちなみに刹那とはそこまで親しいわけじゃないので、まだ明日菜と私の見分けはついていない様子。ただのクラスメートってところかな。私クラス違うけど。

あー、もういつものように、と言ってもエヴァちゃんの時くらいだけど、学園長の凡ミスのせいにしようかな。


「えーとね?私、あ、もちろん明日菜もだけど、学園長と話す機会ってけっこうあってさ。それで、私しか聞いてないんだけど、学園長がぽろっと」

「あのボケ老人……!!」


うん。やっぱり株が下がっちゃったよ。
あ、これは言っとかないと。


「あ、でもさ。私昔からこう、ぐるぐるーってできたからさ。それで少し教えてもらったんだ。そっちのこと」

「そう、です、か…」


言いながら、ぐるぐるー、と気を。あと魔力も。


「あれ?でもお嬢様と明日菜さんが同室なのは…?」

「あ、ああ、それ?う、うーん。わ、私もよくは知らないなー。あ、明日菜はぐるぐるーってできないんだけど」


忘れてるだけだけど。
本当、なんで私が一人部屋なのか。まあ秘密にするためなんだけど。
二人が一緒なのは、まとまってた方が何かのときに守りやすい、とかだろう。たぶん。

あ、じゃあ刹那も「何で私とお嬢様が」とか思ってるのかな?いや、これの答えも私と同じ理由か。
ああ、そういえば。


「ね、ね。刹那とこのかってどういう関係なの?同じ京都出身だし。このちゃんだし」

「かかかか、関係!?いいいや別にそんなん……んんっ!と、特にどうという事もないです。お嬢様と護衛です」


いやいや。無理だって。
それで誤魔化せたら、相手がよっぽどのアレだって。


「ふーん?でも昔からの知り合いでしょ?しかも仲のいい。だってわざわざ中等部でこっちに来るくらいだし。この間はこのかが刹那用(たぶん)にバレンタインのチョコを用意してたし」


まあ何かに心を折られて渡せなかったみたいだけど。


「だから別に……え?チョコ?ばばば、バレンタインの?こ、このちゃんが!?あああ、せやったらウチも――」


あれ、なんだろ。なんとなーくだけど。私と同じ匂いがするよこの子。
シスコンてことではないけど、ハルナ風に言えばラブ臭がする。なるほど、これが噂の。
まあ私に分かったと言うことはつまりこれは「このちゃんコン」ということかな。…自分で言っててなんだけど、なしだな。このセンス。

しかしそういうことなら。


「ねえ刹那。なんだったら私手伝おうか?」

「――も、私の……へ?ああいや、何をですか?」

「このかのこと。ていうかやっぱり仲良しだったんじゃん。ていうか今も」

「え、いや、別に、そ、そんな…」


表面上はギクシャクしてるけど。
芯の方でしっかりと仲良ししてるように見える。
そもそも私、「手伝おうか」みたいなことこのかにも言った気がする。バレンタインの時。


「ほら、遠慮なんかしないでさ。私一応魔法とかも習ってるから護衛的な意味でも結構役に立てると思うし」

「え、習って?」


ていうか、護衛的な意味では手伝うとか関係ないけど。
明日菜とこのかは同室だし。
そうでなくてもこのかは大事な友達だ。明日菜にとっても、もちろん私にとっても。


「まー今はそんなことよりも、このかのお見合いを妨害しなくちゃ!」

「ええっ?いや、でも」

「え、だって刹那はそっちの方がいいでしょ?このかも自分で逃げてるとは思うけど、それを私が手伝おう、と。ね?」

「えー、と」


刹那自身はこのかに接触する気はないみたいだし。


「………なんで、そこまで……?」

「…うん。だってこのかは私の友達だし。それにこのかも今の刹那とそっくりな顔をしてたんだよ」

「え?」

「んーーー。寂しそうな顔、かな。そんな顔してほしくないんだ、私。もちろん二人ともに」


年中笑顔、とは行かないだろうけど。ていうかそんな人怖い。
少なくとも仲のいい友達のことを想ってしていい顔じゃないと思う。
ぶっちゃけ私のわがままだけど。
ま、私も明日菜に似て結構強引だし。そうじゃなきゃシスコンなんてやってらんないし。


「………………」

「ほーら!このかが今どの辺にいるか分かる?」

「……わ、かりました。…ふふ。こっちです」

「よーし!早速行こうっ!」


うむ。
人間素直が一番だよ。もちろんそうでない時もあるけど。

んー。なにやら込み入った事情があるようだし、それがあのクール系の仮面と護衛以上でも以下でもない発言に繋がるんだろうし、少しづつ手伝っていこうかな。
それにどうせ最後は当人同士の話になるんだろうし。そこは手伝えないし。


「……ふぅ」

「ちょっと。そのため息はなに」

「ああ、いや。なんでもないです。あ、くれぐれも私のことはお嬢様には…」

「うん、分かってる。言わないよ」

「お願いします」


今は。

そのうち、そう例えば学園長が約束を履行して私が約束を守る必要がなくなった時とかには…。つまり明日とかには。
ふふふふふふ。


「ど、どうしたんですか?それ、ちょっと、アレですけど…?」


…………京都の人って基本失礼なのかな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ。そういえば魔法とか習ってるって言ってましたけど、どなたに習ってるんですか?」

「エヴァちゃん先生だよ」

「へえ。エヴァちゃん先生に・・・・・・え!?エヴァちゃ、エヴァンジェリンさんにですか!?……吸血鬼の?」

「あ、やっぱそういうことも知ってるんだ。そうそう、吸血鬼の。真祖の。幼女のエヴァちゃんだよ」

「そ、そうですか。え、ていうかどんな繋がりがあったんですか?」

「ん、まー普通に姉のクラスメイトとかクラスメイトの妹、とか。いやー、吸血鬼を師匠に持つと満月の日は貧血だよねっ」

「それだけ、ですか」

「うん。実際のところ私が無理やりお願いしたんだけどね。そうだ、今度時間があるときでいいからさ、刹那も一緒に来ない?最近茶々丸の戦闘力が酷いことになっててさー。もう一人じゃ組み手で勝てる気がしないんだよね」

「そ、そんなに…?」

(エヴァンジェリンさんの弟子だと言うならそれなりにやれるはず…それなのに勝てる気がしない…?)

「私が未熟なせいもあるんだけどさ、やりすぎると壊れちゃうんだよね。お互い。で、どう?」

「あ、はい。時間ができた時にご一緒させてもらいます」

「うん!ぜひっ」




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どうも、作者です。
感想、誤字報告、御指摘ありがとうございます。
質問して下さった方がいたのでお答えできる範囲で。
14話について。
明日香VS石人形
石人形は大破しました。ついでに幻の地底図書室も中破。

明日香自身は大して体重を気にすることはありません。
自分が苦労した二日間、皆は何してたんだ、と言う絶叫のつもりでした。自分で解説痛い。

神楽坂姉妹は声もそっくりです。
電話など声での判別は難しいくらい。ということで。
あー、そういう話もいいなぁ。

ついでに単語登録について。
木乃香→このか、の話です。
べ、別になんて言うか普段ノートは手書きだしついうっかり忘れていたわけじゃなくてつまりその御指摘ありがとうございました。

ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。





[18657] 閑話の春
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/04 10:59
  節分

「節分、と言うものがありますっ!」

「せつぶん、ですか?」

「季"節"の"分"かれ目、という意味です」

「なるほど。節分、ですね」

「ネギ先生は節分を知らないご様子」

「はい、お恥ずかしながら…。どんなものなんですか?」

「簡単に言えば、家内安全、厄除け、無病息災を願う行事です」

「随分たくさんなんですね」

「やることは簡単なんですよ。炒った大豆を家の内と外に掛け声と共にまき、自分の年齢と同じ数だけ食べるんです。地域差はありますが概ねこんなです」

「へー。それなら僕にも出来そうです。やりましょうよ!今日ですよね?」

「そうです。2月3日です。つまり今日から春、ということなんですが。まあこれは旧暦の時のままなので、実際に春らしくなるのは来月からですね」

「なるほど。旧暦は勉強しました。さあ、まずはお豆を用意しないと」

「ネギ先生。残念ながら豆まきはできません」

「え!?ど、どうしてですか!?」

「片付けが大変だからです」

「そんな!うう、現実は厳しいんですね」

「そうなんです。だから今日は恵方巻きを食べますっ」

「えほー…?」

「詳しくは食べる時に。地域差の一つです。今、このかが作ってますよ」

「そうですか。あれ?明日菜さんは?」

「明日菜は買い物は手伝いましたけど、調理中は出番がありません。今はこのかの小間使いをしてます」

「こま…そ、そうですか」

「そうです。いいんです。料理なんか出来なくても明日菜は素敵な私の姉ですからっ」

「そ、そーですか。あーあ、でも豆まきやってみたかったなぁ」

「まあ確かに楽しさで言ったらダントツで豆まきですけど。恵方巻きは退屈です。おいしいけど」

「退屈なんですか…」

「退屈なんです。しかしそもそも豆まきには障害があります」

「え、障害ですか?」

「はい。私たちには食べ物を粗末にする余裕はない、という障害です」

「あ、そーですか……」
 
 
 
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  ひな祭り

「ひな祭り、と言うものがありますっ!」

「ひな祭り、ですか。どういうお祭りなんですか?」

「簡単に言うと、女の子の健やかな成長を願うお祭りです」

「わあ、素敵なお祭りですね!あ、男の子のお祭りもあるんですか?」

「もちろんあります。5月5日、こどもの日です。端午の節句といいます。ちなみにひな祭りの3月3日は桃の節句です」

「うわー、そうなんですかー!具体的には何をするんですか?」

「えーと、まあお人形を飾って、なんやかんやと食べたり飲んだりするんですよ」

「また随分アバウトな…」

「え、えーと。色々変わってきた行事ですし、これも地域差があったりしますし」

「日本は地域差が多い国ですね」

「そうなんです。そしてなによりも私自身がまともにやったことがないんです」

「え?女の子なのにですか?明日菜さんも?」

「乙女度の問題じゃないんですよっ!明日菜は立派に乙女ですっ!」

「あ、す、すいません!」

「そうじゃなくてですね、お雛様は高いんです」

「えーと?」

「その上かさばるんです」

「つ、つまり?」

「私たちは貧乏なのでお雛様を飾ることが出来ないのです」

「あ、えーと。そーなんですか」

「でもなー。衣装さえあれば…!!」

「衣装、ですか?」

「私と明日菜で雛人形の代わりをするんですよっ。お内裏様とお雛様のっ!」

「そ、それは?」

「形だけでもちょっと!てやつですよ」

「なるほど…」

「嫌よ私。そんなの着ないわよ」

「あ、お帰りなさい明日菜さん、このかさん」

「ただいまーネギ君、明日香」

「ただいま。ていうか明日香、私たちにはその衣装をそろえる余裕すらないんだけど」

「うー、き、生地っ!生地だけでも!」

「それも無理なんやないかなー。そもそもそんなにお裁縫の腕があるわけでもないんやし」

「それよりもほら。雛あられ貰ってきたわよ」

「ひなあられ?ですか?」

「そうやえ。ひな祭りには雛あられを食べるもんなんや」

「あ!それが食べたり飲んだりするってやつですね!」

「そうよ。ほら」

「あ!甘くて美味しいですね!」

「そうやろ?」

「エヴァちゃんから借りて…だめだ。あれは西洋人形になっちゃう――」

「ゆっくり食べなさいよ。ぽろぽろこぼしてるわよ」

「あ、ほんふぉは」

「慌てんでもぎょうさん貰てきたから大丈夫やえ」

「――課題として、とか――」

――もぐもぐ――

――ブツブツ――
 
 
 
-----------------------------------------------------
 
 
 
  誕生日

「誕生日パーティーをしますっ!」

「あ、はい!聞いてます。このかさんの誕生日なんですよね?」

「そうです。3月18日、つまり明日です」

「場所はここでやるんですか?他にも人が来るなら狭いと思うんですけど」

「私の部屋でやります。物が一番少ない部屋ですから。それでもギュウギュウでやります」

「そ、そうですか。い、いやー!今から楽しみだなー!明日香さんはプレゼント何を用意したんですか?」

「もちろん秘密です!ネギ先生も準備はバッチリですか?」

「はい!もうバッチリです!あ、ケーキとかも買ったんですか?」

「いーえ。ケーキは買いません。材料だけ買って、あとは不肖この私が作りますっ」

「明日香さんの手作りですか!うわー楽しみだなーっ」

「でっかいのは大変なのでいっぱい作ります」

「そうなんですかー。あ、でもそんなに作って大丈夫なんですか?」

「えー、何がですか?」

「えと、お金の方は…」

「なるほど。まあ心配要りません。手作りなのも節約という面もありますから」

「なるほど」

「詰めるところを詰めて、使うところで盛大に使うんですよ」

「えー、つまり?」

「先月のチョコと今月のこれと来月のでパッツンパッツンになりますよってことです……」

「あ、あー…。えと、ご愁傷様です?」

「………誕生日パーティーをしますっ!」

「は、はいっ!」

「今から私の部屋で飾り付けをします!ネギ先生も手伝ってくださいっ!」

「りょ、りょーかいですっ!」

「れっつごーッ!」

「お、おーっ!」
 
 
 
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  4月馬鹿

「ネギ先生、実は私魔法使いなんですっ!」

「え?…ええぇっ!?ほ、本当なんですか!?」

「嘘です」

「う、うそ…嘘!?ど、どうしてそんな嘘をつくんですかっ!」

「ネギ先生、今日は4月1日ですよ」

「え、それが…あ!エイプリルフールですか!日本にもあるんですね…」

「あ、やっぱりイギリスにもあるんですね」

「はい、あります。うう、僕も誰かを驚かせたいなあ…」

「じゃあ、二人で一緒にやりませんか?その方が信憑性がありますし」

「な、なるほど!それで、どんな嘘にするか何かアイデアはありますか?」

「もちろんあります。ターゲットは明日菜とこのかです」

「ほうほう」

「それで、ネギ先生は実は魔法使い、ということにしてー」

「ふんふん」

「そして二人にこう言うんです。明日菜さん、このかさん。僕、明日香さんに魔法を教えることになりましたっ!と。二人は驚くこと間違いなしです!」

「なるほど!……てダメですよーッ!!」

「え、なんでですか?結構いい感じに決まると思うんですけど」

「決まりすぎますよー!ちょっと冗談じゃすまなくなるからダメです!」

「えーと?」

「とにかくダメです!他のにしましょうっ」

「えー?結構ハマルと思ったんですけど」

「ダメなんですっ!あ、あ、ていうか、ふ、普通魔法使いとか言ってもすぐに、う、嘘って分かりますよ!」

「えーー?ふふふ」

「あ、あ、なにニヤニヤしてるんですか!もしかして僕をからかったんですか?酷いです!」

「あははは。まーいいじゃないですか。嘘をついたわけじゃないし」

「そうですけど、全然よくないですっ」

「ふふふふ。よーし。私明日菜に嘘ついてきますっ」

「な、なんて言うんですか?」

「私魔法使いなんだ、って」

「またですか…」

「それで、嘘だよって言うんです」

「ま、まあ明日菜さんなら驚いてくれますよ…」

「ですかね?ふふ。じゃ、いってきますっ」

「はい…。はぁ。僕は魔法使いとかの嘘はやめておかなくちゃだな………」
 
 
 
 
 
 
 
山なし落ちなし意味なし。その上百合なし。
なんかごめんなさい。






[18657] 17話 吸血鬼の1
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/11 11:04
「「「3年!A組!!」」」

「ネギ先生ーっ!!」×いっぱい


というわけでみなさんおはようございます。明日香です。

私が今立っているのは何を隠そう3-Aの教室、その扉の前の廊下なんですが。
そう!念願叶ってついに私は明日菜と同じクラスになることが出来たのです!
この2年間長かった…。しかし、学園長が約束を守る男だったおかげでこうして悲願を達成することが出来ました。30分前に知ったらしいネギ先生はすっかり驚いていましたが。
まあこれで学園長に遠慮することは何もなくなったわけで。ある意味この約束は私の弱みでもあったので、清々してます。
ふふふ。人間、多少外道なくらいの方が可愛いというもの。

なんですが。
なにやらA組恒例の馬鹿騒ぎと、担任のいい話っぽいもののせいで私の出番が食われています。


「では、転入生の方!入ってきてください!」


と思っていたらしっかり呼ばれた。
さすが子供先生。抜かりないね。
隣で待機中のしずな先生に一礼して。


――ガラガラ――


「・・・なんでーーっ!?」×たくさん

「おおぅ…」


思わず仰け反っちゃったよ。

概ね予想通りの反応だけど。
そんな中で、私的に予想以上に大きな反応を見せていたのが千雨。あと刹那。

二人ともそんなテンションの人じゃなかったと思うんだけど、刹那は「ええぇぇぇえぇえーー?」とか言いながら目を白黒させてるし。ていうか無闇に可愛いな。

千雨なんかはよく見れば「あの野郎…」みたいに口が動いてる。気がする。私、野郎じゃないんだけどな。

そして肝心要の明日菜はというと。
……止まってる。
石像のように止まってる。
ちょっと驚かせすぎたかな?ふふ。


「えー、では。今日からこのクラスの一員になる…」

「神楽坂明日香です。好きなものは明日菜、明日菜の大切な人、甘いもの。あと、私の大切な人。嫌いなものは、あー…私の好きなものを害するものです。クラスの転入、というか編入というかは、学園長のご好意によって実現しました。これからよろしくお願いします!」

(((絶対なんか弱み握ったんだよ…)))


誰か失礼なこと言った気が…。ま、いいか。
ついでに言えば、今更私のシスコンぶりに突っ込む人はこの教室には居ない。

ということでB組の皆、今までありがとう!こんな私によくしてくれて…!これから私、幸せになります!
 
 
 
◆◇
 
 
 
「明日菜、明日菜。何か一言、言うてあげへんの?」

「……へ?え、あ、そ、そうね」


しまった。
私としたことが驚きすぎて固まっちゃったわ。

ネギのやつの挨拶を聞いて、一先ず良かったと油断していたところをやられたわ。て、何で私が常在戦場みたいなことを…。

…ハッ!…まだ混乱してるっぽい。
我ながらそれも仕方ないと思うけど。

私の双子の妹である明日香とは、中等部になってからはクラスも寮での部屋も分かれちゃって。それまではずっと一緒だったし、それが当たり前だとも思っていたから少し寂しくなっちゃったりして。明日香が暴走しそうだったから私はそんな素振りは見せなかったけど。ていうかあの子を止めるのでいっぱいいっぱいだったし。

でも実際には、休み時間にはほとんど常にこっちに居たし、寮でだって私と木乃香の部屋は3人部屋みたいになってた。今は事実3人部屋だけど。ネギと。

だから別に全然、私としてはどうとも思ってないつもりだったんだけど。実際に明日香が同じクラスになるとなったら……その、あれよ。…わ、分かるでしょ?
って誰に言ってるんだろう私。


「ほら、せっかくですから明日菜さん?何か言ったらどうなんですの?」

「わ、分かってるわよ。……よ、ようこそA組へ。…えー、よろしく?」

「……よ、よろしくお願いします……」


な、なに顔真っ赤にしてんのよ!
そんな顔でそんな風に言われると、わ、私までなんか顔が熱く……いやいやいや!熱いだけで決して赤くはなってない!だって恥ずかしいことなんか何もないんだからっ!


「ネギ先生。今日は身体測定ですよ。3-Aの皆もすぐ準備してくださいね」

「あ、そうでした!ここでですか!?分かりましたしずな先生」


た、助かった。何かよく分かんないけど助かった。
ありがとう、しずな先生。
 
 
 
◆◇
 
 
 
「あれーー?今日まきちゃんは?」

「……さあ?」

「まき絵は今日身体測定アルからズル休みしたと違うか?」


い、いやーー。何がどうというわけじゃないけど。
ありがとう、しずな先生。

そんなわけで身体測定。
まき絵がどうとかの話にもあるように、このクラスは奇人変人ばかり。スタイル的に。

小学生かというような双子と外国人が居る一方で、ていうかエヴァちゃんの体は実際に小学生相当らしいけど。とにかくその一方で、高校生か、もしくは大学生か、というような忍者や巫女さんが居るというカオスぶり。

巫女さんというのは龍宮真名のこと。バイアスロン部に所属している彼女は、刹那と同室でどうやら裏の関係者らしい。
持ってる銃は、部活用ではなく実戦用とのこと。しかも凄腕らしい。

そんな中で私と明日菜のスタイルは、まあ普通、というか良い方だと思うんだけど。如何せんこのクラス基準だと、一般的な女子の平均とかが分かりにくい。
B組基準で見るなら、まあ普通、よりはちょっと良い目。

で、私は鍛えている分明日菜よりも重かったりするのだけど、体質なのかムキムキマッチョにならない。
なったら嫌なのはそうなんだけど、鍛えて見た目が変わらないというのは、なんか、こう、釈然としない。たぶん普段役に立たない前世とかの影響だと思う。
まあ、見た目が明日菜とおそろいだというのはとても良いことなので万事オッケーだけど。

見た目といえば、エヴァちゃんの家には何か1時間が24時間になる精神と時の部屋的な"別荘"なるものがあって。
私の魔法の修行が実戦的になるのを機に、そこに連れ込まれるようになりました。
説明を聞いて私は凄く嫌がったのに。まあ、修行場所としてはこれ以上ない環境なのは確かだけど。

結局何が言いたいのかというと、私と明日菜で今現在肉体年齢に少し差が出来ている、ということ。
幸い――かな?――まだ見た目に違いが分かるほどではないけど。

ついでに、私と明日菜の共通の悩みもあと半年か1年は解決しないということも分かってしまった。いやいや、"まだ"なだけだし。高校生とかになれば生えてくるし。


「ねえねえ。ところでさ、最近寮ではやってる……あのウワサ、どう思う?」

「え、なによそれ柿崎」

「ああ、あの。桜通りの吸血鬼ね」

「ぶふっ!」


ああ!思わず吹いてしまったっ。
ていうかエヴァちゃん、だよね?吸血鬼って言ったらそれしか思いつかないんだけど。何してんだろ?

ちなみに明日菜の言う柿崎は柿崎美砂のこと。まほらチアリーディング、コーラス部所属。噂話とかが好きな騒がしい奴。
元気で明るくて、まあおつむは平均前後から下くらいだけど。

吸血鬼発言は美空。


「えーー何!?何ソレーー!?」

「何の話や?」

「ちょっと明日香、汚いわよ」

「ゴ、ゴメン明日菜」


これは仕方ないというかなんと言うか。

テンション高く桜子と、鳴滝姉妹。少し楽しそうに木乃香。

桜子。椎名桜子。まほらチアリーディング、ラクロス部所属。元気が一番、のーてんき娘。
そしてギャンブルの神様。先の学年末でA組に賭けて大穴を当てたという生きた伝説。

人が集まってきて、美砂がお得意の怪談風に――


「――真っ黒なぼろ布に包まれた…血まみれの吸血鬼が…」

「キ…キャーッ!」
「ひいぃ!」
「ほほぅ」
「へーー!」
「ぶふーーっ!」

「ちょっと明日香っ!」

「ゴメッ、ふっ、くっ……!」


だ、だって何そのシリアスっぽい何か。

そりゃ、魔力のある状態の、つまり別荘の中でのエヴァちゃんはそれこそ悪魔的な強さだけども。
いやむしろ魔王的というか魔神的というか。さすが、"闇の福音"・"人形使い"・"不死の魔法使い"。かっこ良すぎる。
私もなんかそんな感じのが欲しくもなくもないかもしれない気がする。厨3、もとい中3だし、全然いけるような。
えー、明日菜は"黄昏の姫御子"だしー、じゃあ私は…て、こっち系は秘密なんだった。誰にも呼ばれないし、名乗れないや。

閑話休題。

正直、たかだか満月の時のエヴァちゃんにシリアスを求めても、私には可愛くしか見えない。


「――あんなの日本に居るわけないでしょ!」

「ぶはっ!あは、あははははっ!も、もうダメッ、チュ、チュパカブラっ、ふぐっ、あははははははははっ!げほっ!ゴホッ!」


何あの木乃香の才能。
吸血鬼→吸血生物→チュパカブラ→エヴァちゃん?


「あはっ、ははははははっ!ふふふふっぐふっ!えほげほっ!」


オエっ。

なんか明日菜に接触したらしいエヴァちゃんが通り過ぎ様に殺気っぽい何かを飛ばしてくる。
でもごめん。
今はそっとしておいて欲しいです。今の私は恐怖とは無縁の状態であるどころか、箸が転がっても可笑しいほどだから。


「あの…。大丈夫ですか?」

「はあ、はあ、はあ。あ、刹那?」

「あまり、大きな反応をするのは控えた方が…」

「だって、木乃香が、チュパ、チュパカブッ…!ふっ、くくくくくっ……!!」

「な、なあ。明日香どないしたん?せ、せっちゃん…」

「あ、お嬢様…。いえ、なんでも――「せ!せっちゃっ!!あははははっ!!」――……なにか、ツボに入ったらしくて…」

「あ、そ、そうなん?あの、ほんならウチ――」


ダメだッ!
い、一旦フレ-ムアウトォッ!!
 
 
 
 
 
 
 
ということで同日夜。

あれからまき絵が桜通りで倒れていたと伝えに来てくれた亜子からの情報で保健室へ。

亜子。和泉亜子。男子中等部サッカー部マネージャー、そんで持って保健委員。情報源はそういうこと。
関西弁の明るい子で、昔と比べれば、たぶんいい意味でA組の影響を受けた稀有な人。

クラス全体の流れとしてはまき絵の安否確認から身体測定を一通り、というもの。まあ特に問題もなく完了していた。
私自身も大筋はその流れに乗っていたんだけど、明日菜や木乃香のそばにいると吸血鬼の話題が出てまた笑いの発作に繋がるので、そういうのから一番遠いと思われる千雨のそばへ避難。
温かい笑顔(冷たい視線)で迎えてくれました。

でも意地悪な千雨は「お前変なツボ持ってるんだな」とか「何?チュパ?」とか言って私の腹筋を鍛える手伝いをしてきました。
いい加減に限界だと涙目で訴えたところでようやくその話題を封印してくれたしだい。

クラス替えについて聞いてきましたが「取引だよ。と り ひ き☆」と囁いたら妙に納得していました。「やっぱり…」とか。何がやっぱりなのかさっぱりです。

で。
まき絵の様子を見るに、どうやらマジもんの吸血鬼が活動しているようで。

明日菜に手を出すようなことはしないとは思うけど、何が目的か聞いてないし警戒するに越したことはない。
というわけで図書館探検部と神楽坂姉妹でテクテク。


「じゃあ先帰っててねのどかー」

「はいー」


……え?

ちょっと待ってウェイト。
何がどういう話でそうなったのかは聞いてなかったから分からないけど、一人で行動するのは良くないはず。

空を見る。

……満月やん!
これはまずい。


「あ、えーと。私送るよ?のどか」

「…え?……うん……?」

「どうしたん明日香?あ、明日香は吸血鬼信じとるん?」

「え?いやー、あははは。ほら、それでなくても一応ね?一人歩きはさ…」

「あ…うん。…ありがとう」

「そっかー。じゃ、先行ってるよ?」

「のどかをよろしくです」

「あんたも気をつけなさいよ?」

「了解ですっ」

「ほんならなー」


そんなこんなで噂の桜通り。

ていうか先に行くも何も私話を聞いてなかったからどこに何をしに行くのか分からないんだけど。
のどかに聞いたら分かるかな。


「ねえ、のどか――」

――サアァァ――

「え?…あ、風強いね…?ちょ、ちょっと急ごう?」


うん。
その気持ちも分かる。
聞きそびれちゃったけど、無駄に雰囲気のあるこの場所は噂と合わせて少し不気味な感じ。


「そうだね。早く行こうか」

「うん……」

――ざわっ‥――

「っ!」

「っ…今……?」


本当に来やがった!
どうしよう…?これが万に一つ、エヴァちゃん以外の吸血鬼なら全力全壊しか選択肢はないけど。
エヴァちゃんであるなら、のどかを抱えて逃走という手段もある。かもしれない。あるいは、私の血で我慢してもらう、とか。つーか先週も別荘の中で貧血にさせられた覚えがあるんだけど。


――ザザァッ――

「えっ……」


振り仰げばそこに――

――黒尽くめで、マントと思しき布と長い金髪をたなびかせる小柄な人影が一つ。

街灯の上。


「ひっ……」

「うわー」


・・・医者に行った方がいいかな。
エヴァちゃんがかっこよく見える。

かっこいいのはあくまで「二つ名」のはずなんだけど。


「27番、宮崎のどか、か……と貴様か。…まあいい。悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ」

「キャアアァァッ!!」


ばっさぁ。

あの。
のどかは今日から28番でして。
私が入ったので明日菜以降の人は1番づつずれてるんだけど。私が8番、明日菜が9番、みたいに。

いや、私もそれなりに空気読めるから言わないけど。今シリアスだし。

そしてこの声は間違いなくエヴァちゃん。後で笑ってやろう。


「待てーっ!」

「「!!」」


ああ、のどかが気絶してる!
倒れるところをナイスキャッチな私。誰も見てないから自分で褒めとこう。GJ!


「僕の生徒に何をするんですかーっ!」

「おおー」


ネギ先生!
イカス登場なんだけど、思いっきり飛んでらっしゃる。
ここは見て見ぬふりかな。空気的に。私そんなのばっかりだな…。


――ズバアッ!――

――バキキキキンッ――


子供先生の魔法の射手。たぶん風で、11矢。捕縛系かも。

ていうか。
むっちゃ魔法使ってるんだけど。2人とも。

ど、どーしよー。
これも見て見ぬふりの方がいいのかな?
先生的にはそうなんだろうけど、ここまであからさまだとなあ…。そりゃ明日菜に初日でバレるわ。
そーいえば、その時ものどか絡みじゃなかったっけ?ううむ。こんなところにヒロイン属性が居たとは。
ちなみにそういった情報は見守る会の副会長経由。


「驚いたぞ。凄まじい魔力だな」

「えっ…き、君はウチのクラスの…エヴァンジェリンさん!?」

「フッ……。新学期に入ったことだし、改めて歓迎のご挨拶と行こうか。先生……いや、ネギ・スプリングフィ-ルド」

「・・・・・・」

「10歳にしてこの力――さすがに奴の息子だけはある」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「……何だ、神楽坂明日香。言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?今日の私は機嫌がいいんだ」

「あ、明日香さん!?み、宮崎さんは無事ですか!?」

「あ、はい。のどかなら気を失っただけみたいですけど…。あと、ごめんエヴァちゃん。続けていいよ」


人のこと放ったらかしにして、二人でシリアスしちゃうもんだから思わず白けた目に。
どうも私はノリきれないから、のどかの介抱でもしていようかな。


「ふん。奴の息子が来ると知り、密かに準備を進めてきたのだよ…」

「な……何者なんですかあなたはっ!僕と同じ魔法使いのくせに何故こんなことを!?」


…続けていいとは言ったけど、そんなモロに魔法使いとか…。いや、何も言うまい。私が居るのが悪いんですね。そうですね。
…あとで明日菜に慰めてもらおう…。


「この世には、いい魔法使いと悪い魔法使いが居るんだよ。ネギ先生――

――氷結 武装解除!!」

「うあっ!」


あ、脱がせ魔法。

シュバッとロケット花火の着火音みたいな音に続き、パキィィンと高く澄んだ、氷の割れるような音。
ていうか実際に凍って割れてるんだろうけど。
…あれ?


「ってこっちにもっ!?」


なに!?武装解除って複数対称にできたの!?それともエヴァちゃんが凄いだけか…てそれどころじゃない!

立ち位置的には、向こうからエヴァちゃん、それに相対するようにネギ先生。そのすぐ後ろ、つまり先生に庇われるような位置に座り込む私と、私の抱きかかえるのどか。

うわー、足の方からガリガリ衣服が削られていくんですけど。

障壁、で止まるんだろうか。攻撃判定ないのに。そこんところまったく教わってないんだけど。質問しとけばよかったかな。

仕方ない。
ごめんね、のどか。ブチブチっと私とのどかのシャツを、ボタンを吹き飛ばしつつ剥いで後ろにポイ。これで一応武装解除の影響からあのシャツは逃れるはず。

ちなみにここまでほぼ一瞬。
すばらしい集中力で思考速度の加速を。どんだけ脱がせ魔法嫌なんだよ私。


「レジストしたか。やはりな…」

「なにそれーーーっ!?」


レジストとか!抵抗とか!どういうこと!?
確かに先生の服は上半身の分が吹き飛んでいるだけだし、抵抗したと言われればそう見える。
それに比べて私とのどかはすっぽんぽん。いや、のどかの方が少し残ってるかも。欠片だけど。
これはのどかがレジストしたのか、私が庇ってレジストしたのか。

そもそもレジストて。なに、魔力的な?それとも障壁的な?
後で絶対に聞こう。


「あ、明日香さん!?はっ!ま、魔法…それよりも!大丈夫ですか!?…って、わあっ!」

「こっち向くなっ」


普通に見てきたよこのセクハラ教師。
そんなにのどかの裸が見たいのか。

とりあえず、さっき緊急避難したシャツ…の成れの果てを羽織り羽織らせ。上手くいったみたいだけど、思った以上に剥ぐ時のダメージが大きかった。


「ス、スイマセンっ!」

「なんや今の音!?」

「あっ、ネギ!!」

「明日菜っ、木乃香っ!」


2人ともっ!よく来てくれた!
早くそこのセクハラ教師を潰すんだっ!

まあよく考えたら、エヴァちゃんがもう少し手加減してくれれば何の問題もなかったのに。魔法薬なんか使うから対象指定があやふやになるんだよ。
大人しくしてればいいのに。そんなことは言えないけど。

わあわあ言ってるけどどうやらネギ先生を潰しに来たわけではない2人。

そのうちいつの間にか居なくなってるエヴァちゃんを追って行ってしまったネギ先生。


「もう!」

「明日香、大丈夫?」

「うん。怪我とかはないよ。2人ともありがとう、来てくれて」

「まったく。本当に平気なのね、明日香。本屋ちゃんも?」

「うん。だいじょーぶ!」

「分かった。じゃあ、私はネギの奴を追うから」

「え」

「了解や。そしたらウチ等、寮で待ってるえ?」

「じゃ、あとよろしく!」

「あ」


あ、あ、ああ…。行っちゃった。せっかく来てくれたのに。まあ、心配性なのは明日菜らしいけど。


「ひゃー、それにしてもどうしたん?その格好。吸血鬼は裸にしてから血ぃ吸うんかな?…まきちゃんも裸やったんかなー」

「いや、裸にする吸血鬼とか聞いたことないけど」

「せやけど、その格好は…………趣味?」

「ちっがうっ!!」

「そうやんな?はあ良かった。明日香がそんな趣味やったらウチちょっと友情見直すとこやったえ?」

「ホ、ホントに違うからね?これはアレ、魔法でズババーッてされて」


何か余計な被害まで被るところだったよ。
まあ確かに今の格好――裸Yシャツ(ボロボロ)――が趣味の人がいたら、友情を見直すどころかパトカーか救急車呼ぶよね。

うん。
その上ネギ先生と明日菜に聞かれることまで出来たかも。むしろ私から聞きに行かないと不自然なんだけど。
実際は聞く必要もないから面倒だなぁ、と。

エヴァちゃんの方には聞きに行きたい事だらけで、こっちはまあ、特に問題もないんだけど。

はーあ。
私も明日菜を追いかけて行きたいんだけど。のどかを木乃香1人で運ぶのはつらいだろうし。

こういう時こそ、お嬢様の護衛さんの出番なのに。実質的な被害が出てなくても、木乃香が困ってるんだから手伝ってくれてもいいのに。


「……魔法?魔法って明日香、本気で言うてるん?」

「え?あ、うん。本気本気」

「そしたら、吸血鬼ってどないやった?」

「え、そりゃもちろん……」


あ。
魔法とか言っちゃってるよ。ネギ先生のこと言えないな。まあ私はもう隠す必要はないんだけど。

魔法はいいとしても、吸血鬼はちょっと、エヴァちゃんの目的が分からないから言えないかな。
…まずい。………こうなったら。


「もちろん?」

「も、もちろん見えなかったよ!暗かったし、黒尽くめだったしっ!」

「なーんや、残念。で、魔法って何なん?」

「あー。魔法って言うのはつまり……あ、そういえば、せつ、なガッ!」

「せつなが…?あ、明日香!?」


魔法に絡めて刹那の名前を出そうとしたら、後ろから首筋に衝撃が。
倒れながら目を向ければ、そこには案の定このちゃんの護衛の人。

で、出番てこういうことじゃなかったんだけど…。今度、せっちゃん…て、呼んで……や、る……。
 
 
 
◆◇
 
 
 
「せ、せっちゃん!?ど、どないしたん…?」

「…お嬢様…」


さて。
どういうことかというと。

簡単に言えば、離れたところで見守っていた刹那が、明日香の口元を注視していて、「魔法」という言葉と一緒に自分の名前が出そうになったところで瞬動術にて明日香の背後へ。
そのまま首筋に手刀をひとつ。口封じに。


「…いえ。たまたま近くを通ったところ、2人が倒れている様子でしたので。お手伝いしようかと…」

「あ、あ、ホンマ?そしたらウチ助かるわっ」


で。
結局は木乃香と接触してしまったということ。
さすがに1人で、のどかと明日香の2人を運ぶのを放っては置けなかったようで。


「あの、ウチの部屋まで運ぶから、そしたらお茶でも出すな?」

「…いえ、私は別に――」

「あ、あ、あの、のどかも明日香も目え覚ましたらせっちゃんにお礼言いたいと思うんよっ!せやから…な?」

「……わ、かりました。一杯だけ頂きます」


明日香との距離が少しだけ近くなったかと思ったら、同時に木乃香との距離まで近くなってしまっている。
これ以上は拙い。ていうか今の段階で自分には過ぎたものだし、と思わなくもない刹那。

とりあえず、一杯だけ貰って、2人のお礼とかは明日とかでいいや。みたいな。

距離感グダグダ。


「ホンマ!?あはっ!あ、そしたら――」

「私が――」


なんとなく。

なんとなく、近づけた気がする木乃香。
このまま昔みたいに仲良くしたいけど、何か事情があるらしい。明日香の「魔法」と「せつなが」発言も気になる。
起きたら問い詰めてやろう。

なんとなく、保っていた距離が潰れている気がする刹那。
原因は今、自分の背中でのんきに眠っている(刹那によって気絶している)明日香。
起きたら一言言ってやらなくては。

当の明日香本人は、自分の知らないところで2人の仲を取り持ち、それはいい事っぽいのに何故か正座フラグが2つ成立している。
が、自業自得。

がんばれ明日香。負けるな明日香。
戦闘描写がなくてもこのお話の主人公は君だ!
 
 
 
-----------------------------------------------------
 
 
 
どうも、作者です。
感想、誤字報告ありがとうございます。
ドキドキしながら読んでます。そしてたまに1人で吹いてます。
お話について。
クラス、結局くっついてもらいました。
まあ離れた理由はいくつかありましたが、くっつかないと修学旅行ががが(ry
そして明日香がこんなに戦わないとは思いませんでした。
彼女の立ち位置で戦うと、イベントがいくつか潰れかねない、という罠。だって明日菜を護るから。
まあそのうちやってくれるはず。なんだったら修行話とかを突っ込んでみたり。
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。










[18657] 18話 吸血鬼の2
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/11 11:24
みなさんおはようございます。明日香です。

昨日はどうやら、あっさり負けてしまったらしいネギ先生。朝から仮病やらなんやら面倒くさい限りでした。
人のベットに潜り込むなと何度言ったら…。
私はちゃんと事前に許可を貰っているから何の問題もない。

ここまで非常に優秀な者として生きてきたらしい子供先生。
努力を始めてからおそらく初めてであろう挫折。
しかし、これを乗り越え、よりいっそうの成長を遂げるのでしょう。

……やっぱり、義務教育、というか情操教育というかが必要な教育者というのは如何なものかと。
こっちは先生の成長なんか待ってられないっていうか、明日菜に、もとい生徒にとってもよろしくないような気も。
まあ、ペットを飼っての情操教育的な意味ではありですけど。

ていうかそもそも先生1年生の人が担任業務とか。ないない。いや、実はあるらしいけど。文句が言いたいだけ。

結局何が言いたいのかというと、ネギ・スプリングフィールドの憂鬱が鬱陶しいってこと。

別に、明日菜がそんな先生を心配するからって嫉妬しているわけじゃない。いくらなんでも数えで10歳の子供に嫉妬なんかしない。しない。

私はといえば、昨晩の刹那の一撃は相当キツかったらしく朝まで目が覚めませんでした。
それはそれで、明日菜も木乃香も大層心配させてしまったのですが、なにやら刹那があることないこと――具体的には主に勉強疲れだとか――言っていて、それを私が肯定したところあっさり信じて特にお咎めなし。

そんなので納得しないで、とか。怒られなくてよかった、とか。割と複雑。
まあ、2人ともそれどころじゃなかったっていうのが大きいようで。

別に明日菜に構ってもらえないからって拗ねてない。いくらなんでも中3にもなってそんなことぐらいで拗ねない。ない。

そして気を失って倒れていたのどかは、昨日の内に目を覚まして木乃香と、あと意外にも刹那とお茶をシバイて明日菜たちの帰りを待ってからお休みしたようで。

のどかの無事を喜びつつ、なにやら状況が変わりつつある様子の木乃香と刹那に妙なプレッシャーを感じつつ。

で。
始終メランコリックだったネギ先生について明日菜が「何かパートナーが」みたいな事を言ったからさあ大変。
A組の(ほぼ)皆で先生で遊ぼう、もとい彼を元気付けよう、となった。ついでにあわよくば目指せロイヤルファミリーってまだネギ王子の話は生きてたんだ。

そんな中、私の突っ込み待ちとしか思えない人が1人。


「え、なに?千雨、行くの?」

「は?い、いや、なんつーかそんな流れだし。一応」

「ふっふーん?」


馬鹿騒ぎになるだろうにわざわざ行くなんて。
千雨って結構、面倒見がいいというか付き合いがいいというか。
ぶっちゃけ皆のこと好きだよね。ふふふ。それでこそ主人公属性。疲れるのが分かっていてもスルーできない。楽しい人だなあ。


「馬鹿、付き合いだよ付き合い!そういうお前は来ないのかよ?」

「あー、うん。ちょっとエヴァちゃんに話があるからさー」

「あいつに?…また何の話が……いや!止めろ、言うな。私をこれ以上そっちに引き込むな!」

「何1人でテンション上げてんの。別に無理に教えたりしないって。どうせそのうち知ることになるんだから」

「そういう思わせぶりなこと言うのも止めろっ」

「ふふふ。りょーかい」


やっべ、なんかこの無愛想娘が可愛く見えてきた。
ていうかこんなとこにもツンデレっぽいのが。
言っておくけど私は対ツンデレのスペシャリストだよ?

まあ要するに、ツンデレはマイペースとか天然とかに弱いわけで。
ツンだろうが、デレだろうが、こっちの対応を変える必要はないということが重要だよね。

え?昨日?

何?転入挨拶?明日菜?

………っ!!

ああああ、あ、あれは違うよ!?ツンとかデレとかそういうのを超越したものだったわけで、私としても不意打ちだったわけで!
とにかく私の心のアルバムに深く、深ーーーく刻み込みました。

あ、後で茶々丸にあの場面記録してないか聞いておこう。そして記録してあるのなら、もらえるように頼もう。そして悶えよう。

うん。
とはいえ、冷静に考えてみれば千雨のこれがツンデレに見えた私の脳はちょっと腐っているのかもしれない。
好意の裏返しとか、ツンからデレへの移行とか、そういうことじゃなくて非現実への抵抗感から来る言葉な訳だし。

まあまあ、なんだかんだ言いながらもしっかりA組の一員な辺りは実にツンデレっぽいんだけど。

そして私も何だかんだ考えつつもターゲット発見。


「探したよエヴァちゃん、茶々丸」

「ふん、貴様か。なんだ?お説教でもしに来たか」

「え?エヴァちゃんなんかお説教するようなことしたっけ……あ、いやいや!そうじゃなくて、私吸血鬼のこと聞いてないんだけど!聞いてみたら結構前から動いてるらしいじゃん!」

「……ふん、そのことか。聞いてないのも当然だ。言ってないのだからな」


いやいや。当然そうなんだけど。
そんな、算数のテストじゃないんだから。

私が言いたいのはそういうことじゃなくて……いや、いいか。それに関しては正にエヴァちゃんの言うとおりなんだよね。
言ってない。言わない。関係ない。みたいな。

はあ。


「……それじゃあ、何をしようとしてるの?血が欲しいだけなら、私から結構搾ってるのに。あ、ネギ先生がどうとか言ってたよね」

「残念ながらお教えすることは出来ません」

「それって――」

――ネギーーッ――

「――あ」


明日菜の声だ。なんだろう。元気付ける会は拉致から始まったのかな?…そんなわけないか。ただの迷子だな。


「ちょっと、ネギどこ行っちゃったのよ……!?」

「……ほう。神楽坂明日菜か」

「…あんた達!ネギをどこへやったのよ」

「「ん?」知らんぞ」


え、マジに拉致から始めたのかな。元気付ける会。ていうか明日菜は誘われなかったのかな。……いや、きっとA組のことだから子供先生の拉致ばかり考えていて明日菜のことは目に入らなかったんだろう。アホ共め。


「え……って言うか明日香?何であんたがこの2人と…」

「えーと、私結構二人と仲いいし…えーと……」

「それってどういう…」


あれ?

なんだこの感じ。なんか変な感じの誤解が生まれているような。
具体的には私が吸血鬼側、とか。あるいは私がエヴァちゃん達にどうにかされている、とか。

明日菜の性格的に後者の方かな。
ある意味正解だし。どうにかっていうか魔法を教えてもらってるんだけど。

つまり誤解。

まあ特に何も思いつかないで思考停止って言う可能性も無きにしも非ず。かも。

ええと、こういうときはどうすれば――


「安心しろ神楽坂明日菜。妹の方は私達とは何の関係もない。それに、少なくとも次の満月までは私達がぼーやを襲ったりすることはないからな」

「え……?どういうこと?」


私も口に出さずに明日菜とユニゾンしたんだけど。

そういう方向にするために私に何も言ってなかったんだろうとは思ってたけど、実際に口にしてるのを聞くと……思ったよりムカつくな……。

だいたい、事ここに至って関係ないとか。昨日の時点で十分巻き込まれちゃってるんだけど。
そういえば、明日菜からもネギ先生からも、さらに刹那からも木乃香からも今のところ接触がないけど、まあ皆それぞれにそれどころじゃないみたいだし。
私としてもその方が楽だから良いんだけど。

ただし、エヴァちゃん達の方はそうはいかない。
今思えば、「3年生になったら少し修行おやすみ」っていうのも吸血鬼事件のためなんだろう。

それに巻き込まないようにしてくれたのは、嬉しくないこともないけど。つまるところ2人の優しさな訳だし。
ただなあ。
エヴァちゃんサイドでなくても、私は明日菜サイドで関わっちゃうからなあ。

あ。だから邪魔されないようにっていうのもあるのか。
優しさが嬉しいとか思って損したっ!

とにかく。
なにやら、エヴァちゃんの吸血鬼的事情を話しているところだけど――


「――同じ布団に寝ていて、情でも移ったか」

「なっ…関係ない――「明日菜と一緒に寝てるのは私だもんっ!」――ちょ、ちょっと明日香っ」


なんてこと言うんだこの幼女!
私がそんなこと許すはずがないのに!

なに?誰がシリアス続かないって?

私にとってはむしろ今までより真剣だよっ!


「と、とにかくネギに手を出したら許さないからねあんた達!!」

「…あ、ああ。まぁいいがな。仕事が入るので失礼するよ」

「あ!待ってよエヴァ茶々!ごめん明日菜、また後でねっ」

「あ、明日香…?」


明日菜には悪いけど、私の話は後回しだ。
ついでに、時間経過でつい聞き忘れてくれれば尚いい。

今はエヴァちゃんにさっきの言葉を訂正させないと…!


「ちょっと!エヴァちゃん!さっきのはどういうこと!?明日菜と一緒なのは……あれ、ちょっと待って」

「……何の話だ、アホめ」


違う違う。その話はまた別の機会にしておこう。

私はそんな話がしたくて2人に会いに来たわけじゃなかったはず。


「ゴホン。…ちょっと!エヴァちゃん!さっきのはどういうこと!?私は何の関係もないって!」

「・・・・・・・・・・・貴様こそどういうことだ。エヴァ茶々ってなんだ」

「あ、それはね。エヴァちゃんと茶々丸を縮めて一度に呼ぼうと」

「なるほど」

「縮めるなっ!お前も納得するなこのボケロボ!」


いいじゃん略称。便利で可愛いし。

いやいやいや。そうでなく。


「…ねえ。どういうつもり?」

「……ふん。お前はこの件と無関係。それだけだ」


…この意地っ張り。


「じゃあ、明日菜を傷付けるようなことは…」

「それは神楽坂明日菜しだいだ」


女子供は殺さないとかなんとか言ってた気がする。悪の美学とか。

確かにエヴァちゃんなら意味のない殺しはしないだろうとは思うんだけど。


「私は、明日菜を護りたい。だから、強くなりたいと思ったんだ…」

「ふん。だったら、どうする」

「でも、今では私にとっての大切なものが増えちゃったんだ。それは、昨日の自己紹介でも言った通りだよ」


好きなものは明日菜、明日菜の大切な人、甘いもの。それと、私の大切な人。

大切な人。友達。


「……ふん。好きにしろ。私は勝手にやらせてもらうからな」

「失礼します」

「うん。またね」


嫌いなものは、私の好きなものを害するもの。

博愛主義なんか掲げるつもりは毛頭ないけど。
ちょっと、難しい立場になっちゃった、かな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
二日後 金曜日 早朝


――がっし――

「ねーえ?この、イタチだかなんだかは何なの?」

「あ、その子な。ネギ君のペットなんやって」

(兄貴ーっ!助けてーっ!)

(カモ君!しゃ、喋っちゃダメだよ!)

「ね、ねえ明日香。どうしたの?」

「へー?先生の…。いやね。このかわいこちゃんたら、私の下着はまあ、まあまあいいとして。木乃香のまで、さらによりにもよって明日菜の下着まで引っ張り出しちゃって。何なの?馬鹿なの?死ぬの?」

「ま、まあまあ。そんな、動物相手にムキにならんと」

(あ゛、あ゛に゛き゛ーっ゛!)

(カモくーーんっ!)

(ちょっとエロガモ!ホントに自重しなさいよ!マジで死にかねないわよ!)

「ムキになってるんじゃないよ。ただ、私の中の真っ黒な気持ちが 止 ま ら な い だ け で 」

「わーっ!ごめんなさい明日香さん!ちゃんと僕が言って聞かせますから!!」

「ほら、ネギ君もこう言うとることやし。な?」

「そ、そうよ明日香!一回くらいなら、ね?ちゃんと躾ければいいんだから!」

「……………………わかった」

(助かったよーっ!兄貴っ、姐さん、木乃香の姉さん!)

「本当、次はないですよ・・・?」

「も!もちろんです!!」

(コクコクコク)



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どうも、作者です。
感想、御指摘ありがとうございます。

前話について。
ネギの無詠唱魔法の描写について、この時点でネギは無詠唱は使えないはずでは、とのご指摘を頂きました。ありがとうございます。
修正しましたが、まあ特に話が変わったわけでもないです。一言で良かったーっ。

明日香のはだワイ(違)のリクを頂いたのですが、むしろ作者が欲しいです。
一応イメージに近いものを。
ttp://blog-imgs-1-origin.fc2.com/s/u/z/suzukinnoir/20070114a.jpg
思いっきり明日菜ですけど。
これを、左右反転・ボタン部分ボロボロ・パンツを何かで隠す(履いていない様に、もしくは肌色に)、という加工をすれば100点です。

お話について。
カモ登場回。
なのに本編に出てこず、慌てて挿話を追加。
本来、次話の最後につけるべきものなのですが、今話が登場回なので。作者的に。
次回はこの次の日のお話です。二日後ではなく。
…あれ?次もカモの出番が…?
で、ではこのへんで!
お読み下さりありがとうございました。







[18657] 19話 吸血鬼の3
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/17 10:16
みなさんこんにちは。明日香です。

なにやら昨晩から変な生き物が明日菜・木乃香部屋に住み着いているようですが、今のところ特に何もありません。

そんなことよりも。

今日、もっと言えば昨日の内からいろいろと聞かれる覚悟をしていたのですが、いまだに誰からも接触がありません。
具体的には、明日菜とか、ネギ先生とか、木乃香とか、明日菜とか、刹那とか、明日菜とか。

誰も来ないならその方が楽で良いや、とか思っていましたが。
実際に誰も来ないと、正直寂しいです。

………。

まあ分かってはいるんです。

昨日は、ネギ先生はダウナー系でそれどころじゃなかったし、明日菜はそんな子供先生を放っておけなかったみたいだし、木乃香も彼を元気付けようとクラスの人と一緒だったようだし、刹那はどうせこのちゃんの護衛でしょう。

私自身もエヴァ茶々の方を優先しましたし。

じゃあ今日は?…………………もう知らん。

こうなったら、というか時間があるなら、もう一度幼女吸血鬼とロボ従者の方と接触するべきなんですが。
昨日格好つけた手前、ちょっと今日は気まずい。

いやいや、別に、まあなんて言うか…。はい、照れです。

だってなんか、言外に「2人は私の――」とか言っちゃったわけですから。そんなんで昨日の今日とか私には無理。

あーあ。こういった事を相談できるのといったらエヴァちゃんか茶々丸しか居ないからなあ。
今はむしろ2人が渦中なわけだし。
明日菜も何故か走り回ってるし。

もう、これはとっとと寮に帰って不貞寝かな。

ちなみに本日木曜日、只今放課後。
少しクラスメイト――和美とか――に捕まって、転入のことやネギ先生のことを聞かれたりもしたけど、そこは無難に切り抜けた私。ていうか、私の期待していた接触ではない。

はあ。
魔法の練習もない、部活も明日菜が出てない。
…完全に寝るしかない。

さあて――


「やっと捕まえました、神楽坂さん。…の、妹さん」


――帰ろう、と思ったところで刹那登場。

ふふ。あ、あーあ!面倒なことになったなーっ!
とりあえず。


「…ねえ刹那。確かに神楽坂が2人いるのって面倒だとは思うんだけど、その呼び方はボケ?」

「あ、すいません。……えーと――」

「明日香でいいよ。私だって、刹那って呼んでるんだから」

「…では、明日香さん――」

「うん」


こんなところで"名前を呼んで"をするとは思ってもみなかった。しかも相手が刹那だなんて、まったく予想外デス。
ま、誰とやるかって言われても私には明日菜しか見えていないわけで。正直、喋れるようになった頃から名前呼びだったわけで。

ついでに言えば、なんか思っていたのよりもキラキラしてないのが非常に残念だ。


「――…一昨日のは、どういうつもりですか」


状況のせいか。
どっちかっていうと"名前を呼んで"よりは"名乗り合い"っぽい感じだよね。


「どういう…って?」

「惚けないでくださいっ!何故お嬢様に魔法の話を?ましてや、そこで私の名前を出すような真似をっ!」

「うーん。それねえ?」

「私のことは言わないって言ってくれたじゃないですかっ!」

「あ、それに関しては本当にごめんなさい。あれは、あの日限りのつもりだったんだよ」

「どっ!……どういうつもり、ですか」


ちょー、ちょっと冷や汗出てきたッス。

刹那の上がってきたテンションがここで一気に落ち着いた。
ていうか怒ってる。めっちゃ怒ってる。キレそうなぐらい怒ってる。


「私としては、学園長との約束のために魔法とかを隠してるんだけど――」


それだけでもないけど、教えても特に問題がないような、つまり魔法そのものの話などを隠す理由は、学園長との取引のためだ。


「――その分の貸し借りは、昨日の段階でチャラになった、というか私の側に隠す理由がなくなったんだよね」

「そん、な…っ!?何を考えているんですかっ!そんな軽い気持ちでお嬢様に――」

「違うよ」

「――え?」

「軽い気持ちなんかじゃない。確かに、色々理由はあるけど――」


学園長への嫌がらせとか。
吸血鬼についてのごまかしとか。
その場の勢いとか。

……こうやって並べると、最低の理由だね…。
でももちろん、そんなことが最大の理由であるはずがない。


「――1番は木乃香に、寂しそうな顔をして欲しくないから、だよ」

「……っ……それは、…………」


かっこそれも私のわがままかっことじ。

あれ、結局ダメなまんまだ…。

で、でもしょうがないじゃんか!いつもほわほわニコニコの木乃香が、刹那の話題になると途端に切なそうになるから!あ、駄洒落じゃないよっ!


「それに、前も言ったとおり、刹那だって同じ顔してるんだよ…?」

「……っそれでも!………それでも、私は………」

「あの、さ。昔に何があったのかは私は知らないんだけどさ。2人は、仲、良かったんでしょ?」

「…………………………」


うん。

そりゃ、木乃香は今は1人じゃないし、刹那だってそうだろう。真名とは仕事仲間だとか言ってたけど。

でも、そういうんじゃなくて。
昔からの友達って言うかなんて言うか…。
う~~~ん……?
何かよく分かんなくなってきた。

まあとりあえず。


「例えば私は、今、明日菜と離れ離れになったら壊れる自信があります」

「こわ…って…」

「まあ、私がちょっと普通じゃないレベルのシスコンだっていうのは自覚あるけど」

「……ちょっとなんだ……」

「ちょっと、普通じゃないレベルのシスコンだっていうのは自覚あるけど」

(…意地でもちょっとなんだ…)


ちょっとなんです。
普通じゃなくても、正常の範囲なんです。


「でも、そんな壊れるとか壊すとか叩き潰すとかじゃなくてもさ。大事な人は、ずっと大事なままだよ。刹那だって、そうでしょ?」

「それは、もちろん…そう、ですけど…」

「木乃香だってそうだよ。それに、大事な人にはずっと傍に居て欲しいし、その人の傍にずっと居たい、って思うものだよ」

「…そんなんっ!……そんなん、ウチには過ぎたことやし…。それに、長と一緒でウチも……私も、お嬢様には危険なこととは関わらないで生きていって欲しいと、そう思ってます」

「…だから、傍には居られない?」

「……はい」

「……わかった。……刹那がそんなに言うなら、これ以上言わないよ」


とりあえず今は。
刹那には。

…何かエヴァちゃんの影響か、自分でも黒くなってきた自覚が……。

ええい!そういうところも、生きていくのには必要なのさっ!
それに私にだって綺麗な部分くらいあるもんね!……断固あるもんね!


「……失礼します」

「うん、またね」


去っていく刹那。

ていうか長って誰だろう。学園長?
ま、いいか。

結局、お説教される感じからお互いの意見がぶつかる形に変わってしまったけど。
…刹那は、また私から言質を取りきっていないことに気付いてないのかな?まあ、ある意味刹那らしいというか、可愛いところなんだけど。


「あーあ…」


なんか、考えながら喋ったら疲れちゃったな。
いや、普段考えなしに喋ってるってわけじゃないけど。

大体刹那も、木乃香の身の安全も大事だけど、木乃香の気持ちも大事だってことを考えて欲しいよね!

これは、私以上の人徳と器を持った明日菜を巻き込むしかないかな。刹那の牙城を崩すには。

ただ、明日菜は明日菜で忙しそうだからなあ…。まったく、エヴァちゃんも余計な時に余計なことを。
そもそも――


「なあ、明日香?」

「おおっと?」


ここでまさかのこのちゃん登場。

えっとー。さっきの刹那との話を聞かれた、なんてことはないよね?
それは非常にまず……あ、その方が楽かも。

とりあえず、刹那は……と、振り返ってみたけどもうその姿は見えない。
木乃香としてもそういうタイミングを見計らっていたんだろう。


「あんな?さっき、せっちゃんと話してるのが見えてな?それで、なんや真剣な風やったし…その、な?えーと……」


あ、聞かれたわけじゃなかったのか。
まあ、そんな距離に木乃香が居たら刹那もあんな話はしないか。


「あ、あーと、ね?ちょっとね…」

「……あの、明日香はせっちゃんと仲良かったん?」

「いや、まあ最近少し話すようになったって言うか……」


仲良くなった、と言い切れないのが悲しいところ。
私としては、もうすっかり友達のつもりなんだけど。
もう一歩、あのATフィールド――本来的な意味での、つまり他者との心の壁――をどうにかすれば、ってところ。

一応姉妹の見分けはつく様になったんじゃないかな?
これは大抵の人に言えることだけど、双子のどちらかと話せば結構違いが判る。らしい。
あ、これじゃ聞き分け、かな?


「そう…かぁ…。あんな?ウチ、明日香に聞きたいことあってん」

「な、何でございましょう?」

「一昨日の、明日香が急に眠ってまう前に言うてた……"魔法"と"せつなが"についてなんやけど…」


魔法とせつなが(笑)って。

ちなみに"せつなが"のイントネーションは、"大福"と一緒。訛りとかではなくて、私の発言を妨害した刹那のせい。
…どうでもいいか。

うっうーん。

まあ、話すのは吝かではないし、なんだったら明日菜と一緒でも構わないくらいなんだけど。

刹那に言わない、と言った舌の根も乾かぬうちに、という状況ではあるけども。


「…やっぱり、木乃香と刹那って仲良しだったんだね。京都にいた時?」

「…うん…。それで、中等部になってまた会えたんやけど、なんや昔みたいに出来んようになってもうて…」

「ふんふん」

「でも、昨日はちょう、お話できたんよ。それで、明日香は何や知ってるみたいやったから、OHANASHI聞かせてもらおう思て…」

「ふんふん………ん?」


…お話ですよね?
……リリカルな方ではなく。


「OHANASHI、聞かせてや?」

「うんつまり私も詳しくは知らないんだけど木乃香に知られないようにされていることがあってそれが魔法のことで刹那はそのことを知っていてお嬢様の護衛なんて言っていて学園長は魔法使いで要するに木乃香も魔法の力を持っていてついでに私もそこらへんの事知っていて明日菜は知らなかったんだけど最近ネギ先生絡みで知っちゃってああ木乃香のことは別だけど――」

「落ち着きぃな」

――ガンッ――

「☆@■*△%●ッ!!?」


今日は刹那が跳んでこない。きっと私と話すために誰か――たぶん真名あたり――に木乃香の護衛を任せて今頃寮で考え事しているんだろう。そうだといいな。

で。

・・・何を話したんだっけ?


「で、要するにどういうことなん?」

「うん。つまり、魔法の世界には危ないことがたくさんあるから、それと関わることがないようにって言って、刹那は木乃香と距離を置いているみたい。
他にも理由があるような感じだったけど、私にはわかんないよ」

「はあ…。なんやよう分からんけど、内緒にしてる事がある、と。…それで、ウチはどうしたらええのかな…?」

「それは、木乃香がどうしたいかによって違うよ」

「ウチが…?」


それが一番大事なこと。
ここにきて、そういえば木乃香がどうしたいかなんて聞いていなかったことを思い出す。えへ。

刹那は口では「距離を置いて、護りたい」とか言っていたけど、そんなの私が嫌だから却下。
それに、刹那自身だって木乃香と一緒に居たい様な感じはあったわけだし。「このちゃん」だし。


「…ウチは、せっちゃんと昔みたいに仲ようなりたい。もっと一緒に居たいし、もっと一緒にお話したい……っ!」

「それなら、時間はかかるかもしれないけど、ちゃんと自分の気持ちを伝えたらいいんじゃないかな?」

「ウ、ウチの、きき、気持ちっ!?」

「いやいやいやいや」


そこで真っ赤になられても困るんですけど。

え、何?そういう話なのこれ?
まあまあ、そういう話だろうがどういう話だろうが、私のやることに変更はないんだけど。


「要するに、刹那の傍に居たいっていうことと、刹那に傍に居て欲しいっていうことを伝えるってこと」

「……せやけどせっちゃん、ウチが傍に行くと離れてまうんよ……」

「じゃあ、そこは私が手伝うからさっ!」

「…ほ、ほんま?」

「ほんまほんま!もうバッチリそこらへんに関しては私に手があるから!」


刹那は今の私からの話を無碍にすることは出来ないのだっ。ふははは。

まあ多少時間はかかるかも知れないけど、そうやって一歩一歩やっていくのが一番のはず。
囚われのお姫様(木乃香)を救う勇者もしくは騎士(刹那)なんて、物語みたいなことが起きるのでなければ。


「ほ、ほんなら、ちょう、手伝って貰うてもええかな?」

「まっかせてよ!もう――」

「おーいっ!明日香ーっ、木乃香ーっ!何やってんのこんな所でー!」

「――おぅふ」

「あ、明日菜ー、ネギくーんっ!2人は今帰りなーん?」


もう!タイミングがいいんだか悪いんだかーっ!

因みにここは駅から寮への道の途中。ていうか桜通り。

そりゃ確かに、対刹那用にス-パーポジティブガール明日菜の投入は必須だったわけだけど。
魔法の話が出ていた今接触するのはちょっとなー。

あれ?別に隠す必要なくね?


「そう、今帰るとこ。2人は何してたの?」

「ウチらも、もう帰るとこやえ。明日香に相談事があったんよ」

「相談ですか?あ、迷惑でなければ僕も力になりますよ!」

「ありがとうネギ君。………うん、2人にも聞いてもらおかな…」

「何よ水くさい。ドンと来いってのよ!」

「…うん。……実はせっちゃんのことでな?」

「「せっちゃん?」」


ああ、状況は私を置いて相談モードに移行してしまってるよ。

まあ、こうなるのは時間の問題だったとも思うし、今この話になってるのは私が刹那にちょっかいかけたから、とも言えなくもないし。

2人に手伝うって言ったのは本心だから、この話題はノリノリで行くっ!


「刹那のことだよ」

「…15番、いや16番桜咲刹那さんですね?」

「その桜咲さんがどうしたのよ?」

「実はな、ウチは麻帆良に来る前は京都に住んでたやろ?山奥のえらい広いお屋敷やったから、友達1人もいーひんかったんや。
そんな時、せっちゃんが来てくれて、ウチの初めての友達になってくれてん。いつも一緒に遊んで、せっちゃんは剣道やってて、危ないときはいつも守ってくれた。
何やらウチが川で溺れそうになった時も、一生懸命助けようとしてくれて……結局2人とも大人に助けられたんやけど…。
でもその後せっちゃんは剣の稽古で忙しくなって、あんまり会わんようになって、ウチも麻帆良に引っ越して…。中等部になって、せっちゃんもこっちに来て再会出来たんやけど……。
でも…昔みたく話してくれへんようになってて……」

「木乃香………」
「木乃香さん…」
「………………」


…そっか…。

そんなだから、木乃香は刹那の話題が出ると寂しそうにしてたんだね…。
話してくれないなんて水くさいよ。
でも、話してくれたからには、しかも相談という形をとってくれたからには、私は全力を尽くすよっ!

それに、今の話だと、刹那の魔法じゃない方の理由はたぶん、自分の力不足とかそういうことだと思う。
それが"ウチには過ぎたこと"とかそういう発言のもとになるんだと思う。

全然違う可能性もあるんだけど。

でも、例えば身分が違うから、とかそういう漫画的理由だったら笑い飛ばしてやればいいだけだし。

そもそもそんな言葉が出てくる時点で、刹那の希望も透けて見えてるよね。


「何かウチ悪いことしたんかなぁ、て思ってたんやけど…。明日香が言うには事情があるらしくて…」

「「事情?」」


おっとー。

ここに来てそのフリ。
よーし。
なるようになる!


「そ、そうらしいんだけどね?刹那もあんまり話してくれなくて…。どっちにしても、木乃香と刹那で話さなくちゃどうしようもないでしょ?だから、そこらへんを手伝うよって話になったところなんだよ」

「そっか…。あ、もちろん私も手伝うわよ、木乃香!」

「僕もです!」

「‥ありがとう、2人とも…」


あ、あれ?
なんか、ガラス一枚残った感じなんだけど。魔法バレ。
このまま進めちゃいそうだよ…。

うー、な、流れに任せるしかないか…。


「で、具体的にはどうやって手伝うのよ?」

「えーと、ね……」

「あ、それなんやけど…」

「「ん?」」

「どうしたんですか?木乃香さん」

「一先ず、寮まで帰らへん?」

「「「あ」」」


うん。
気が付いてみれば、日も沈んで暗くなってきてる。

なんとなく立ち止まったまま話してた。
おなかも空いてきてるし、先にご飯が食べたいです。


「…そうね、とりあえず帰りましょうか」

「そうですね、そうしましょう」

「私もそれが良いと思うよ」

「うん、行こか!」


ふう。

結局、今日は色々と話しちゃったけど、肝心なことは話さずじまい。
明日菜と、ネギ先生にはエヴァちゃん絡みで近いうちに確実に話すことになると思う。
木乃香にだって、刹那と仲直りする過程でもっと詳しく話すことになるし、刹那にもそうなるはず。

………じゃ、いっか。

私のことよりも、明日菜とネギ先生にも手伝ってもらって、木乃香と刹那のことが上手く行くかの方が気になる。
そっちの方が重要だよ。

となると、エヴァちゃんがどう動くのかも少しは知っておきたい、かな。

明日にでも話してみようかな……。一日置けば、恥ずかしさも和らぐはずだし。

うん、そうしよう。



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どうも、作者です。
感想、誤字報告、御指摘ありがとうございます。
参考にさせてもらっています。
作中、意図的に句読点を入れないところもあります。
読みにくいとは思いますが、勢いというかテンパった感というかを出すためのものです。
ただ、普通に作者のうっかりで抜けている可能性もあるのでガンガン御指摘ください。
お話について。
所謂一つの難産。
いつも内容が無いようなプロットに沿いつつ、特に深く考えずに書いているのですが、19話は苦労しました。
考えながらで疲れたのは明日香以上に作者。
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。







[18657] 20話 吸血鬼の4
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/19 02:58
あの、淫獣が……!!

明日香です。
昨日だか一昨日だかにやってきたネギ先生のペットが、実は下着漁りの常習犯だったということが判明いたしました。

そういえば、淫獣って称号は既に戴冠している先達者がいらっしゃるので止めておこうかな。

あの、害獣が……!!

明日菜と木乃香とネギ先生が止めるので、まあ一応今回は見逃すことになりました。

…木乃香の下着に手を出したことを、刹那に教えておこうかな。
そうすれば惨殺死体がひとつ出来上がることだろうと思います。

刹那といえば、「木乃香と刹那の仲直り大作戦(仮)」は今度の土日を利用して動き出そう、ということになりました。
つまり明日からですね。

なので、今日1日はフリーなのですが。
なにやら明日菜はネギ先生とどこかへ行ってしまいました。
当然私もついていこうとしたのですが、なんやかんやと断られたしだい。非常に悲しい。

あの不自然さはどうやら魔法関係のことだとは思うのですが、こんなことなら昨日の内にはっきりキッパリぶちまけておくべきだったと後悔することしきり。

ま、それについては今日にでも話せればいいや、ということで。

昨日の思いつき通り、エヴァちゃんと茶々丸と話そう!

と、2人を探してふらふらするも見つからず。

もうこうなったら、エヴァちゃんの家に直接行くか、と思ったところで妙案。
あれ、今日当たり茶々丸は猫の餌やりでないか?
そうであれば、先に彼女と合流して何食わぬ顔でエヴァちゃんの家に一緒に行ってやれば、きっとエヴァちゃんはとても驚くことだろう。
別に、ここ何日かの憂さ晴らしというわけではない。

そうと決まれば、例の広場にGOだよ!
例の広場って言うのは、茶々丸が発見した猫のたまり場的な、ひっそりとしたいい感じの場所のこと。
人通りも少ないので、猫と戯れるのに絶好の場所だ。

因みに、茶々丸はとても猫に懐かれている。茶々丸自身も猫は好きみたいで、まざっても癒されるし眺めても癒されるという、素敵空間が出来上がる。

よーし、今日は猫日だなっ!

……と、思っていたのですが。

なんだこれ。
状況がまるで分からない。いや、いくつか考えられるけども。

例の広場が見えるところに差し掛かったとき、見えてきたのはなにやら剣呑な雰囲気の空間。
十中八九、吸血鬼事件がらみだとは思うけど…。

買い物袋を置いて佇む茶々丸と、それに対峙しているように見える明日菜とネギ先生。ついでに害獣の姿も見える。ていうか喋ってる。
よく考え…るまでもなくネギ先生のペットだというなら魔法生物である可能性は十分に予想できたこと。

迂闊。
やっぱり朝のうちに■って置くべきだったかもしれない。いや、明日菜たちに止められて納得したのだから、OKのはず。

あ。

なんか戦闘開始しちゃった。
完全に出るタイミングを逸した気がする。
とりあえず良く見ておこう。かっこよく割り込むために。
もとい、怪我するようなことがないように。双方。

…なんか、高速のでこピン合戦というわけの分からないことになってるんだけど。明日菜と茶々丸。

ラッシュにでる明日菜。それを両手で交互に叩き落したり、上半身を反らしてやり過ごしながら、時折反撃する茶々丸。
明日菜は頭を振りステップで避けながら、もしくは避けさせられながら、当てることも離れることも出来ないでいる。

まあ、お互いに怪我をさせるようなことの無い様に、ということなのかな?
こんな時に関係ないんだけど、私とやる時もそれくらいの優しさが欲しいと思わなくもない。茶々丸さんや。

とはいえ、茶々丸優勢。
いくら明日菜でも、今のまんまじゃ茶々丸の相手になるとは思えない。

明日菜の後方、魔法を準備しているネギ先生。
でも、密着&膠着状態のせいで手を出せない様子。

茶々丸はたぶん、隙を見て逃げるとかそんな感じの作戦だと思う。だから明日菜と競り合って、ネギ先生の援護、もしくは本命を出せないようにしている。と思う。

いや…。そんなことよりも何よりも私が気になっている事が。
どう見ても明日菜が、私の姉が、魔法を忘れてしまっている筈の彼女が、魔法由来の肉体強化を行使しているのってどういう事ッ!?

これが"戦いの歌"とかによる自力でのものなら、ああ、記憶が戻ったんだね!その上魔法を覚えたんだね!と快哉を上げ、一晩中でも語り明かすのだけど。
どうも、というか100%アレは他人の魔力によるもの。
それの意味するところは、まあいくつかあるけれど――


「あ」
「い」
「う」
「え」
「お?」


上から、茶々丸、ネギ先生、害獣、私、明日菜。
明日菜だけちょっと状況を掴みかねている。

つまり、明日菜への魔力供給が切れた。
案の定他人の、それもネギ先生によるものだったらしく、ってかこの2(+1)対1っぽい状況を思えば当然だけど。そういえば、戦闘が始まる直前、子供先生が何か言ってたような気も。

とにかく、これで戦況は変わる。

……私はどうしよう…?

当然、明日菜を手伝うべきなんだけど、友達として茶々丸のことも無碍には出来ない。それに茶々丸は明日菜に怪我が無い様に手加減しているし。

この戦闘を止めるって言うのが一番なんだろうけど。

でも、た、たぶん、明日菜と、か、かかかか仮契約をして下さりやがったネギのドチクショウを私はどうにかしてやりたくてどうにかなってしまいそうで…。
状況的にも言い訳できそうだし…!

と。


「明日菜さん!離れてください!」

「りょ、了解!」

「あ」


ヤローから指示が飛ぶ。
それに反応して、茶々丸の足を引っ掛けて体制を崩してから距離をとる明日菜。

…上手い。
魔力供給が切れて、速度やもろもろが落ちているにも関わらずその芸当。
当然茶々丸もそれに合わせていたし、油断もあったのかもしれないけど、なんだろうあのセンス。惚れそう。
ていうか茶々丸はさっきから「あ」しか言ってない。ぷぷ。


「魔法の射手、連弾・光の11矢!!」


油断していたのは私のほうだった!
放たれる魔法は、ちょっと威力高すぎるんでないかな。

咄嗟に動き出す私。
瞬動術で茶々丸と魔法の射手の間に行こうと"入った"瞬間、目が光った茶々丸(完全に気のせいっていうか漫画的表現で)。

それはともかくとして、飛び込んでどうするか。

まあ簡単に――


「光楯!」


――で防ぐんだけど。

今私が使える魔法は、初心者用魔法をいくつか・初級治癒魔法・魔法の射手(光、火)・火の武装解除・障壁系(光、火)。
これらを、一応二重詠唱、というか遅延と合わせて二個発動位までなら出来る。
無詠唱は、まあ練習中。ちょっとなら出来る、かも。

このスペックは、まあ良くも悪くもない、程度の掃いて捨てるほどいる魔法使いと同レベル程度。
魔法の教本によれば魔法学校卒業程度。

…約2年、別荘のことも考えればおよそ3年でこれっていうのが、どの程度なのかはいまいち分からない。
エヴァちゃんは「魔法を教える面白さはない」とか言ってたけど。
その代わり、近接戦闘の方は嬉々としながら教えてくれる。…押し付けてくる。脅しつけてくる。

これに加えて私の裏技がポン。
裏技って言いながらポンポン使ってるけど。だって使わないとエヴァちゃんに修行なのに殺されかねない。

攻撃も防御もぶっちゃけ咸卦法で事足りるんだけど、前にも言ったように治癒は欲しいし、射撃支援的な感じで魔法の射手を。
エヴァちゃんも「それ(裏技)があるなら後は速さと使い方だ」と言っていたし。あと「貴様に上位魔法を教えるのは時間がかかる」みたいな。
ま、確かに私は能力的にも適正的にも前衛なんだけど。

ちなみに、火の障壁じゃなくて光の障壁を使った理由。
…熱いから。

いや、直接自分に火が当たるわけじゃないんだけど。
目の前で燃えてたら熱いって。あれ欠陥魔法じゃないのかな?

つーことで。


――バキキキキキッ!――

――ドドンッ――


――重っ!
さすがにネギ先生は優秀みたい。10歳で魔法学校を卒業するくらいには。
正直どんなもんかは分からないけど。

ギリギリ防ぎきって、いくつか狙いが逸れたのはネギ先生の躊躇の表れかな?そう信じたいけど。

さて。


「え、あ、明日香っ!?」
「あ、明日香さん!!」
「姉さん!?」


ちなみに「姉さん」ていったのは害獣。


「突然で悪いんだけど、茶々丸を止めるべきなのか、明日菜を止めるべきか、ネギ先生を仕留め…止めるべきか。いっそそこにいる害獣を駆除……仕留めるべきか」


それが問題だ。

途中で、「仕留め!?」とか「駆除…え、結局仕留め!?」とか聞こえたけど無視。

そこらへんは話を聞いてからにしよう。


「ねえ?茶々丸――」


言いながら後ろへ振り向く。


「――って茶々丸いないっ!?」

「「「え!?」」」

「こちらです」


言われて顔を向けたそこには、買い物袋を手に持った茶々丸。


「では明日香さん。言い訳、頑張って下さい」

――ドウッ――


言って、バーニアだかブースターだかで飛んでいく彼女。いやさ薄情な人。

あー。

そういえば茶々丸は瞬動術が使えたんだよねー。それによって余裕で回避したわけだねー。

何時だったかのバージョンアップから帰ってくると、って言うかこの春休み中のことだけど、人肌になっていて、ていうかロボロボしてなくてえらい驚いた記憶が。まあそれでも、手が飛んできたりするんだけど。

で、それ以来瞬動術やらなにやらでとても強くなった茶々丸さん。
何があったのか聞いてみると、自分でハカセに頼んだらしい。
度重なる、急速な茶々丸の成長にハカセと、あとリンリンも壊れ気味に――ハカセは元からマッドだけど――開発を進めていた、人肌モードと言うかなんと言うか。バージョン2的なものらしい。

ついでに、外見年齢がエヴァちゃんと同じくらいの外殻もあったらしいのだけど、そっちは断ってきたとの事。

茶々丸曰く。


――この気持ちはあなたに教わりました。誰かを大切に思うこと――それは、とても素晴らしいことなのだと…――


要するにエヴァちゃんのため。マスター命ですね、解ります。

最近の茶々丸の目標は「柔らかくなった体でマスターに膝枕」だそうで。


「…………ねえ、明日香。どいうことなの?茶々丸さんたちとは関係ないって言ってたよね…?」


はい現実逃避しゅーりょー。

そして私がする言い訳はそっちのことじゃない。聞かれた以上そっちもだけど。


「えーとね?つまり、今回の吸血鬼事件とは関係ないよ、って言う話なんだよ」

「…明日香さん…さっきのは魔法、ですよね?」

「おうおう!どういうことなんでぇ姉さん!」

「……明日香…?」


むしろ、そこの害獣には私がどういうことかを聞きたいんだけど。
別に嫌いとかじゃないけど。
ただ、害獣は、駆除しないと。……ね?


「…うん。まあつまり、私は魔法使いなんです」

「は?…いや、それってエイプリルフールのでしょ?」

「あ、本当に明日菜さんにも言ったんだ…」

「どういうこったい、兄貴?」

「後でね、カモ君」

「実は、その時のは"嘘"って言ったのが嘘だったんだよ」


我ながら悪質。かもしれない。


「っ!分っかんないわよ!そんなのっ!」

「なるほど、どういうことですか…。でも、何故明日香さんは魔法を?明日菜さんは使えないのに…」

「うーん…」

「…私もそれが知りたいわ。……どうして明日香が魔法を使えるの?」


本当のところを話すとそこそこ長くなる。
それにそのことは話さなくてもいいと思う。私たちが住んでいるのはここなんだし。

じゃあどう言うのかっていうと、まあ短く。


「そこでエヴァちゃんたちと関わるんだけど。要するに、エヴァちゃんは私の魔法の先生なんだよ」

「「「…え…えええぇえぇえぇぇえッ!!?」」」


予想通りの反応なので、耳はふさいで対処済み。


「な、なんで!?吸血鬼の、それも真祖が!?」
「ホントなの!?っていうかいつからよ!?」
「やっぱり姉さんはあいつらと組んでるんだ!兄貴!今のうちにやっちまいましょうっ!!」

「「黙れ」」

「カカカカモ君!?い、今はそういうことを言ってる場合じゃないよ!もっと話をき、聞いてみよう?」


神楽坂姉妹に掴まれムギュウってなる害獣。
その上飼い主にまで窘められる。パニック気味に。


「本当なんですか、明日香さん?」

「本当ですよ、ネギ先生。まあ、詳しくはまた今度にでも。今度といわず、今日でも明日でもいいんですけど」

「どうしたのよ明日香?」

「おなか空いたし、早く帰ろう?」

「「「え?」」」


まあね。そうなるでしょうよ。

ていうか、これじゃ昨日と同じ終わりに…。いや、終わりって何のことだかさっぱりなんだけど。とにかく拙い。


「…そうだ。……ね、ねえ明日菜?」


こそっと。


「何?」

「さっきの、その、肉体強化についてなんだけど…」

「なななな何?」

「や、やっぱりその、パパ、パクティオーとか、し、したの?」

「いいいいいや別に、ちょっと、おでこにしただけでキスとかそんな全然っ!」

「…おでこ?」


…どういうことだろう。
ちゃんと魔力供給はできてたのに。


「…ネギ先生?」

「いいいやつまりそのですね!」

「要するに中途半端にしか契約できてねぇってことだよ、姉さん」

「………おでこ?」

「おでこよ!」
「おでこです!」

「……そっかー」


…そっかー!

そーかそーか!
まあそういうことなら別にそんなに目くじら立てることもないかもね。
たかが数えで10歳に何を、と思われるかもしれないけど、私にとっては死活問題だから。
価値観は人それぞれなのさ。


「ていうか、そういうことも知ってるのね明日香。本当に魔法使いなんだ」

「うん!でも明日菜だって本当は使えるんだよ?」

「「え?」」

「…そりゃどういうことでい、姉さんよ?」


…あ。

……ま、まあどうせ後で話すことだったし、最低限の話で済むし、いいか!あははは!


「えーーー、まあつまり、私と明日菜は双子だし、私に出来るっていう事は明日菜にも出来るっていうことで」

「え?マジで?あ、そ、そういうことなら、私もちょっと魔法とか使ってみたいかなー……なんて…」

「それならもちろん私が教えるよ!」


なんだったら一緒にエヴァちゃんに教わってもいいし。

ていうか明日菜の場合、咸卦法の習得に努めたほうが強さ的にも凄さ的にも良いんだけど。

あれ?
完全魔法無効化能力持ちの明日菜は、魔法を使うことって出来るのかな?
肉体強化は問題なく出来てたみたいだけど、どうなんだろう?

……………うー?

うー、分からないから後回しだな。エヴァちゃんにでも聞いてみよう。


「あははは。あ、そういえば、明日香さんはどういう魔法が使えるんですか?」

「あ、それ私も気になるわ」

「それはね――」

「姉さんは、こっちに付くってことでいいのかい?」

「…ねえカモ?大丈夫よ。確かに明日香はあの2人と仲が良いけど、どんな時だって私は明日香の味方だし、明日香は私の味方よ?敵とか味方とかっていうのも、ちょっと大袈裟だけど…」

「あ、明日菜…あすなーっ!」


もちろん私も同じ気持ちだよ!
よーしこうなったら、エヴァちゃんをこてんぱんに…出来る気はしないし、ちょっと考えたら、いくらなんでもその方向は短慮だから置いておいて。

もー辛抱たまらん!
今日はこのまま明日菜と離れないっ!


「きゃっ!ちょ、ちょっとこんなとこで抱きつかないでよ!あ、歩きにくいでしょ!?」

「…呆れたシスコンだな、こりゃ」

「あはは。あ、あのう、魔法は…」


今日はもう離れられないですっ!!
 
 
 
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どうも、作者です。
感想、誤字報告ありがとうございます。

>>予想してみたり
べ、別に当てられたからって悔しくなんかないんだからねっ!

お話について。
カモの明日香の呼び方。
悩みました。
明日菜→姐さん 刹那→刹那の姉さん
なら明日香の姉さん、とかにしようとしたけど、それって明日菜じゃん。みたいな。
で、結局姉さん。読みは明日菜を「あねさん」、明日香を「ねえさん」で。
文字媒体だし良いや。みたいな。
そして裏技(笑)。
作者はもちろん厨2病です。大きいお友達です。
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。







[18657] 21話 吸血鬼の5
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/24 22:20
みなさんおはようございます。明日香です。


「やっぱ、昨日みすみす逃がしちまったのは拙いっスよ!こうなったら何時向こうが仕掛けてくるかわかんねえんスよ!?」

「…でも、やっぱり茶々丸さんは僕の生徒だし…」

「――それで理由はよく分からないんだけど、ネギの事狙ってるみたいなのよ」

「へー。それでこんなことになってるんだね」


はい。というわけで本日土曜日。
状況整理的なアレです。

昨日は結局、寮の部屋には木乃香がいるので吸血鬼だの魔法使いだのについては話すことはありませんでした。
まあ、木乃香に聞かれても既に問題は無いのですが、ネギ先生と明日菜とオコジョは知らないことなのでそのように。

そしてその翌日、すなわち今日。
木乃香は少し出かけるとのことなので、こうして吸血鬼対策会議が開かれることになりました。


「甘い!!兄貴は命を狙われてんでしょう!?奴ァ生徒の前に敵ッスよ敵!!」

「ちょっとエロオコジョ。そこまで言うことないんじゃない」


カモッス姐さん!とか言ってるけどいいや。

明日菜的には、2年間クラスメイトをしていたエヴァ茶々の2人をそこまで悪者には思えない様子。
先生も概ねそのような雰囲気。

私もそれに近いイメージだけど、2人とは違った根拠により思うところもあるわけで。


「甘い!!姐さんも甘々ッスよ!見てください、俺っちが昨晩まほネットで調べたんスけど……あのエヴァンジェリンて女15年前までは魔法界で600万ドルの賞金首ですぜ!?」

「え、それマジだったんだ…」


いや、信じてなかったわけじゃないんだけど。
実際に他の人から聞かされるとね。

ていうか本人はあまり昔のことは言わずに、私は凄いんだぞー怖いんだぞー、みたいな感じだから…あの、その、ね?
確かにただならぬ雰囲気は出せるんだけど、通常モードがさぁ……。
それに、茶々丸との掛け合いを見ちゃった日にはもうただのわがままな女の子としか…。
ま、まあ、ギャップ萌ということで。

ほら、桜通りで対峙した時は確かにオーラびんびんだったし。


「…そういえば、明日香はあの二人と仲いいのよね?どうなの実際、あの2人」

「あ、うん。んー、女と子供は手にかけないのが、悪の美学だー、的なことを言ってたけど」


…なんで私がエヴァちゃんのことを語ろうとすると緊張感が伴わないんだろう。

修行の時なんかは、い、命のききき危険がああああ危ないジョジョ状態だったのにににに。

ゴホン。
ま、よく分かんないってことは私のせいじゃないのだろう。


「確かにそういう記録はあるッスけど、でも、闇の世界でも恐れられる極悪人スよ!?」

「でも理由も無く悪事をするような人じゃないよ?」

「…理由があったら?」

「…躊躇も容赦もしない…と思う」


それはね?そうでしょうよ。何をしてきたのかは分からないけど、だからこそ600万ドルなんて賞金首になってたわけだろうし。

そのこと自体は私としては、特にどうとも思ってない。
思うとすれば、ネタになるかなーくらい。

そんなこと、って言うのは良くないと思うけど、でもそんなことよりも大事なのは「今」なんだし。…少しくさいかな。


「やっぱりヤバイじゃないッスか!奴らが今本気で来たら、姐さんや寮内の他のカタギの衆にまで迷惑がかかるかも…」

「あ、それは――」

「え、マジ!?」

「……!」


とりあえず今日とか明日にどうなるってことは無いと思うんだけど。
まあ、そのことを知らなければそう思うのも無理は無い、というか当然だよね。


「とりあえず兄貴が今、寮内にいるのはマズイッスよ」

「うーん‥そうね。今日は休みで人も多いし…」

「う……」

「だからそれは――」

――ダッ ガラッ――

「「あ」」


あ。
窓へと駆け出し、そこから飛び立っていく子供先生。


「うわーーーーーん!!」

「ネギーーーーーッ!?」
「兄貴ーーーーーッ!?」

「あ、え、せ、先生ー?」


…寮から離れることの良し悪しは置いておくとして。
普通に飛んで行っちゃったけど、いいのかな?…良くないんだろうな…。


「あ、あんたがあんなこと言うから!」

「姐さんだってーっ!ていうか一番怖がらせたのは姉さんすよー!?」

「え、私?でも――」

「と、とにかく追うのよ!」

「合点だ!」

「…………………りょーかい」


誰も私の話を聞いてくれない。
だからといって、別にいじけてはいない。断じてない。

とにかく、私たちは窓から飛んで行くわけにはいかないので、ちゃんと玄関から爆走。いや、たぶん私たちなら窓からでも跳んで行ける気がするけど。

私の明日菜アンテナは、名前の通り明日菜を探すのがその主な機能だから、ネギ先生の行方は、まあそんな切羽詰った状況でもないので捜せない。

どーすんのかなー。
 
 
 
 
 
 
 
で、夜。


「「しんどい」」


オコジョの鼻に任せて山の中森の中。
ここらで山って言ったら秩父の辺りくらいだと思うんだけど…。
まあ、麻帆良は不思議タウンだから深く考えるのは止めておこう。
そう、山の中なのにここは麻帆良の敷地内(たぶん)。
学園都市の中なのに深い森の中。

もう辺りは真っ暗です。

とても疲れてるし、その上おなかも空いてるんだけど、私は少し思う。
あれ、明日菜と2人きりじゃね?と。

…これ(オコジョ)を■っちまえば・・・。


「ねえ明日香、本当にあの2人は襲ってくると思う?」


ハッ!

危ない。明日菜の前でそんなことは出来ない。
これがいなくなったらちょっと困るし、放って置こうかな。

で、なんだっけ。
2人が襲ってくるかどうか?

「んー、ハッキリとした理由が分からないから、五分五分かなあ?」

「理由があるから襲ってるんスよ!」

「ちょっと黙っててよ。アルデンテ・カマンベール」


カモッスー!とかどうでもいいし。

でも言ってることはなるほど、と思う。
実際に襲われたんだからその理由が何かしらあるんだろう。
これに関しては、いくらこの場で考えても分かりはしないから保留で。


「まあ、でもさ。もうしばらくは大丈夫だと思うよ」

「え、どうしてよ?」

「だって、今のエヴァちゃんはなんかの呪いで封印されてて、満月の前後じゃないと吸血鬼的な力が空っぽなんだよ」

「え、あ、そういえばそんなようなことを言ってた気が……。ていうかそういうことは早く言いなさいよ!」

「言おうとしたもん!」


なのに先生は飛び出すし、明日菜は追いかけるとか言って走り出すし!
別にいじけてるわけじゃないけど根には持ってるんだからね!


「あ、そ、そう?ま、そういうことならしばらくは安心ね」

「いや、甘いッスよ2人とも!そんなのどうとでもするはずッスよ!」

「確かに用心するに越したことはないかも。エヴァちゃんの家に行けば手段が無いわけでもないし」


別荘の中、とか。

そこに至るまでの手段は分からないけど、エヴァちゃん程になればいくらでも思いつくだろうし、単純に茶々丸に任せても十分な成果を残せると思う。
そして別荘まで連れて行かれてしまえばジ・エンド。
完全状態のエヴァちゃんには、対抗する手段が実質無い。
…私と明日菜の2人がかり、且つエヴァちゃん1人なら何とかなるんだけど。

あそこだとチャチャゼロもいるからなあ。

チャチャゼロって言うのはエヴァちゃんの最初の従者。因みに茶々丸は2人目の従者。
簡単に言うと茶々丸のお姉ちゃんなお人形。

大きさは4、50センチのお人形そのものなんだけど、エヴァちゃんと一緒に多くの修羅場をくぐってきたらしく、その戦闘力は凶悪。ついでに口から出る言葉は残虐。可愛い見た目してえげつない。

が、エヴァちゃんの魔力で動いているため、麻帆良に封印されて以来まともに動いていないらしい。
で、私の修行に合わせて別荘内で――別荘の中ではエヴァちゃんは全開なので――自由に動き回り、ついでに修行に託けて私を切り刻もうとして元気に笑っている。・・・怖っ。


「ふーん?まあとりあえず、その話をネギにもしてやらないとね」

「…あの、さ。実際にネギ先生とエヴァちゃんたちがやり合う事になったとしてさ。明日菜はそのときどうするの?」

「そ、それは、その……」

「…まあ、たぶん手伝うんだろうね…」


手伝うというか、手助けするというか。
だからこそ茶々丸とやり合ってた訳だし。


「う、うん…」

「そういう姉さんはどうなんだい?」

「私?私は、あー、私は……明日菜の味方だけど、エヴァちゃんたちの方の理由も分からないし、えーと。明日菜を手伝いつつ、やる時は見守る、みたいな」


そんな感じで楽したい。

大体、エヴァちゃんとネギ先生。
茶々丸と明日菜。

……私の出番ないし。
別に私がコウモリみたいなわけじゃなくて。単純な予想として。

そもそも、茶々丸なら明日菜に怪我をさせるようなことも無いと思う。エヴァちゃんだとわかんない。
魔法に関わってしまったからには、多少の経験は必要になってくると思うし、怪我しないだろう状況ならやってみるべきだと思う。
明日菜がそのことを知らない今の状態は、正に理想的。

まあ、今の明日菜じゃ茶々丸相手に時間稼ぎが出来るかどうかってところだけど。いや、それも無理か。


「なんか調子いい事言ってんなー」

「んー、手伝うって言ったってどうするのよ?」

「あ、のー、それは………オー……とか…」

「え?」

「だから、パ……オー……をね?」

「「なに?」」

「……だからっ!パクティオーッ!!」


パクティオー。仮契約。
それは二人の愛の絆。
って訳ではないけど、契約には接吻が必要でございます。


「はああぁぁぁあぁ!?」

「…いや、悪くねえッス。ネギの兄貴とは中途半端にしか契約できてねえし、いざという時に兄貴の魔力を消耗しないって言うのはプラスのはずッスよ」
(ついでに兄貴とも仮契約してもらえれば、俺っちボーナスうはうは!)

「あ、そう思う?」


おお!カモ!
私はお前を誤解していたよ!いい奴だったんだね!

まあそれは置いておくとして。
実際問題、明日菜への魔力供給は明日菜が自分で魔力やら気やらを使えるようになるまでのオマケみたいなものだし。
あ、アーティファクトは凄い気になるけど。

いや、それはもちろんちょっとは恥ずかしくはあるんだけどさ。

明日菜は、ネギ先生と本気でパートナーとか従者とか考えてるんじゃなくて、とにかく守ってやりたい、手伝ってやりたいっていう思いで動いてるんだろうし。
私の姉は、真っ直ぐな人が好きだけど――もちろん人間的に――明日菜自身も真っ直ぐな人なんだし。

私もそんな明日菜の力になりたい。


「いや、でも…。あ、明日香は嫌じゃないの?私と、その……キス、とか…」

「私は、全然。明日菜が嫌じゃなければ…」


むしろしたいくらいだけど。
いやいや、親愛の証としてね?


「そ、そっか………。あー、考えとくわ」

「そ、そうだよね。まだそんな慌てるような時間じゃないもんねっ」

「ちっ」

「「何であんたが舌打ちしてんの?」」

「い、いや~!あはははは!」


どういうつもりなんだこのオコジョは。
……まあいいか。

こういう方法もあるんだよって言うことが伝われば十分。
自分でも言ったように、そんなに時間が差し迫っているわけでもないし。
明日菜も、そこらへんのことは「思ったら即行動」ではなく、ゆっくり考えて欲しい。何よりも、明日菜自身のために。
 
………………………………………………………………………。
 
うん。


「その、さ。久しぶりだよね。2人で話すのって」

「俺っちもいるよー」

「そんなことないでしょ?部活の時とか」

「無視っ!?」


なんかうるさいオコジョがいるけど、オコジョの鳴き声ってどんななんだろう。まともなやつの。


「そうだけどっ。…描写的に?」

「描写?まあ、今は学園祭の展示に向けて人物画を描いてるけど」


6月に麻帆良では市内の全学校で同時に学園祭を行っている。その名も「麻帆良祭」。

美術部は毎年それに合わせて作品展覧会を行っているわけです。


「先生のだよね?」

「そ、そうよ!明日香はどんなの描いてるの?」


先生=高畑先生。


「私も人物画にしようと思ったけど止めたの」

「ふーん。で、結局何を?」

「風景画」


風景+人物、かな。


「へー。どんな?」

「美術室の」

「へー、え?」

「題は仮だけど『絵を描く明日菜』!」

「ちょっとー!何描いてんのよーっ!?」


だってもう下書きほぼ終わってるんだけど、っていうか今から他のとか厳しすぎます決定です。
後、それは人物画だろ!とか言うツッコミもなしで。
明日菜を描くって言ったら絶対に断られるもの。


「えへへー」

「えへへじゃないわよーっ!」


じゃあ、ふひひー?
 
 
 
 
 
 
 
で、朝。


「「死ねる」」


はい。
一晩中山の中、森の中を探し回ることになりました。

早く寮に帰って寝たい。
先生はまだ見つからないのか。


「ちょっとエロオコジョ!ホントにこんな山の中なの!?」

「カモッス姐さん!お、俺っちの鼻に間違いはねえはずなんスけど…」

「あるー日ぃ…山の中ぁ…ネギ君にぃ…出会えなーい……」

「死ぬッ……死んじゃうわよ…。これで死んだらアホよ……」


ちなみに何時だったか、今回以上に過酷な状況で戦い抜いたことがあったけど、そのときはテンションに任せた暴走だったのでなんとかなったわけで。
ついでに言えばその後は普通に保健室行きだったし。

まあ一晩中といっても途中で何度か休憩はしている。
ただし、寝てはいない。
まともに食べてもいない。
飲んでもいない。
……。

おふぅ。


「あ」

「「え」」

「姐さん、アレ!!」


オコジョに言われて顔を上げて見れば、上空をフワフワ飛んでる子供先生。

おおっ!
これでやっと帰れる!
何かを忘れている気がしなくも無いけど、ネギ先生を見つけたのならもう大丈夫のはず。


「降りて来なさいこのバカネギーッ!」

「ア、明日菜さん!?何で!?」

「あんたのせいで一晩中山の中彷徨ったのよーッ!」


脱走先生を探していたのだからそういう面もあるけど、実質私たちが勝手に探していたわけだから、自己責任と言えなくもない。
と、大人な私は考えてみる。考えるだけで口にはしない。
むしろ誰かのせいにしてストレスを軽くしたい。つまり、八つ当たりしたい。
だって私まだ中学生だし。子供だし。


「飛び出したっきり連絡もしないで…。あーもー心配させて!!」

「ごご、ごめんなさーーい!!」

「兄貴ー、よかったー!助かったよー、俺達が…」

「もー、とっとと帰ろう!おなか空いた眠い死ぬッ!それに――」

――ジリリリリン  ジリリリリン――

「――おっと、電話」

「……なんでそんなベルの着信なのよ」

「おおっ、黒電話ですね!」


こんな時間に誰だろう?
って言ってもそんなに早いわけじゃないんだけど。休日の朝にしては早い時間。

ディスプレイを見れば――あ、木乃香だ。


「もっしー?」

『あ、明日香?』


ふと、思いついたので実行してみる。


「……んん、明日菜よ。おはよう木乃香。今明日香と一緒にいるんだけどちょっと手が放せないから――」

『うん、おはよう。それでな明日香』

「――バレとるーーっ!」

  べし

「何やってんのよ。あ、木乃香?私ー、明日菜。おはよう」

『あ、明日菜?おはよう』


痛い。

普通に後頭部をはたかれた。まあ、無意味なことをしてる場合じゃないのは確かなんだけど。


「何してるんですか、明日香さん…」

「いやいや、ネギ先生。私と明日菜は声もそっくりなんですよ。電話なんかじゃ、聞き分けが出来ないだろうと思ってやってみたんですけど…」

「あっさりバレたわけですか。木乃香さんですよね?」

「です」


木乃香なら休日の朝に起きてても不思議じゃないんだけど、わざわざ電話をかけてくるなんてどうしたんだろう?

まあそれはともかくとして、ここからどうやって帰るのか、ってことなんだけど。
ま、普通に、全然普通じゃないんだけど、とにかくネギ先生の杖に乗せてもらって皆で飛んでいくのが一番楽だし早いよね。
うん、そうしよう。それがいい。

なら早速先生に………あれ?
それって…………明日菜は乗れるのかな…?
いやいや、体重的な話じゃなくて!体重なら私のほうが明日菜よりも重いしっ!
そうじゃなくて、明日菜の完全魔法無効化は魔法の杖に乗っても大丈夫なのか、っていう話。

いや、どうだろうか?
武装解除が有効なんだから、杖に乗るくらいならいけるんじゃないかな。
ていうか、それがダメだとすると、もしかしたら明日菜は魔法が使えないんじゃないだろうか。凄い勢いで「私が教えるよ!」とか言っちゃったけども。

まあまあ、なんにしてもネギ先生に話して、実際にやってみなければ何もわからないさ!あはははは…。


「――うん。じゃあ、あとでね。はーい」

「あ、何の話だったんですか?」

「帰りながらにしましょう。疲れたわ」

「あのー、帰る手段なんだけど――」


大丈夫。成せば成る!
 
 
 
 
 
 
 
でもって、夕方。


――  ピンポーン  ――


結論から言うと、「大丈夫じゃなかったけど大丈夫だった」。
なんだそりゃ、って話だけど実際にそうだったから仕方が無い。

つまり、明日菜は空飛ぶ杖に乗るのは難しかった。重いとかじゃなくて、マジックキャンセルのせいで。
今のところ、そのことを明日菜以外に話すつもりは無いので皆の中では原因不明のまま。

で、こちらも明日菜以外には話すつもりの無い、エヴァちゃんにも微妙に嘘をついてる私の裏技で状況を解決。
ついでに言うと、私はマジックキャンセルが発現していない。
言い方としてはこうだけど、実際は持っていないっていうことだよね。

すんごい疲れたけど、優雅っぽくお空の散歩を楽しんで帰ってきたのがお昼前。
それから今までお休みタイムでした。

ついでのついでに言うと、私が忘れてる気がしていたものは、木乃香のこと・刹那のこと・つまり仲直り大作戦(仮)のこと・明日菜のマジックキャンセルと魔法を使って帰る手段の相性のこと、でした。
……結構多いな……。

決してボケたわけではないけど、その時に脳みそが正常だったかというとかなり自信が無い。
まあ、過ぎたことはもういいか。

というわけで現在、桜咲・龍宮部屋の前。
要するに仲直り大作戦(仮)ってもう始まっちゃってるし、これが正式名称で良いや。

ゴホン。
要するに仲直り大作戦がついに始まりを迎えたわけですよ。
第一段階として、明日菜、私、ネギ先生、ついでにエロガモ、の3人と1匹で刹那に話を聞いてみよう!を実行するべくこの場所へ来ているのです。


「はい――皆さん……」

「やっほー刹那。真名はいる?」

「いません、けど…」

「それはちょうど良かった。お邪魔しまーす!」

「「「お邪魔しまーす」」」

「あ、ちょ!」


当然事前に真名には連絡を取って、少し部屋を空けてもらったんだけど。
報酬にあんみつを提示したらあっさりと了承をもらえた。


「というわけで、私達が刹那を訪ねたのは『木乃香と刹那の仲直り大作戦』のためです」

「は?」

「ちょっと明日香、それって言っちゃっていいの?」

「問題ないよ。だって――」


そう。何も問題は無い。
ここまでくれば、後は正直刹那の意地っ張りをどうにかするだけだし。
私が知る以上の事情はどうしようもないけど、普通に仲良くするための障害、つまり魔法のことは、私が木乃香に喋っちゃったし。えへっ。


「――木乃香が刹那のことを"せっちゃん"て呼ぶように、刹那は木乃香のことを"このちゃん"て呼んでるくらいだもん」

「「「え?」」」

「ちょ、ちょっと!いきなり何を言っちゃってるんですか!?って言うかなんかそういう話はしないでくれるとか言って………あーーッ!!またその場限りとか言うつもりですかッ!?」

「ざっつらいと」

「のおおぉぉおぉおおぉぉおぉっ!!」


頭を抱えて叫ぶせっちゃん。
きっと私への怒りと自分への怒りでおかしくなってしまったんだろう。

そしてその姿を見て絶句する2人と1匹。
それも当然だと思う。
刹那は普段、クールビューティーを地で行く大和撫子なイメージなのだけど、今はこれ。ぷぷぷ。


「…え、マジ?」

「マジマジ。まあ普段はお嬢様ーとか言ってるけど。それにしたってさー、"お嬢様の護衛でそれ以上でも以下でもない"ぃ?はんっ!せっちゃんこのちゃん言ってるくらいなんだから黙って素直にくっついとけっつーのっ!」

「…っの……!」

「ああ、明日香さん?仲直り大作戦なんじゃなかったんですかー!?」

「姉さん、疲れてんな…」


大体もうこれって刹那のわがままなわけでしょ?まあ刹那の気持ちも分からないでもないんだけど。
それに、木乃香も珍しく乙女乙女した感じになっちゃってるからややこしい。

そのどちらもが、お互いを大事に思うからこその行動だっていうのがね、もう外から見てるとこう、なんて言うか、ああぁぁあぁぁああぁぁっ!って感じになるんだよね。


「ごめんね?桜咲さん。明日香はさ、ちょっと照れ屋でわがままだから…」

「え?それを言ったら明日菜の方が照れ屋でわがままだよっ」

「…なによ」

「…なにさ」


そこはちょっと譲れないって言うか。
私も自分でわがままなのは自覚あるし、ちょっと照れ屋な面もあると思ってる。
でも明日菜に比べたら、全然マシって言うか。

そう、つまり私の方が明日菜よりもちょっと大人なんだよ。
だって明日菜ってばツンデレだし。私はどっちかって言うとシスコンだし。あ、シスコンは関係ないや。


「ま、まあまあ2人とも!そ、それについては後で!」

「そうッスよ。兄貴の言うとおりッス」

「「……それもそうか…」」


そうだよね、今は刹那だよ。

私達のどっちがよりわがままで、より照れ屋なのかはこの話し合いが終わってからでいいかな。まあ、譲るつもりはありませんけども…!


「…それで、桜咲さんはどうなの?木乃香に聞いた話じゃ、2人は昔、仲良かったんでしょ?あの子は今も昔みたいに仲良くしたいって言ってたけど…」

「……私の望みは、お嬢様をお守りすること。離れてお仕えして、守ることが出来ればそれで満足なんです…」


だからそれは何度も聞いてるって言うのに。
でも、ここで私が何か言っても今までと変わらない。
だからこそ明日菜にも頼んだんだし。
頼んだって言うよりは、木乃香のために自分で突っ込んできた、って感じだけど。

そこらへんは、タイミング的に私の方が先だったってだけで、木乃香と刹那のことを知り次第動き出したのは、明日菜も私も同じかな。


「…よーし、分かったよ桜咲さん!木乃香の事嫌いなわけじゃないのよね!それが分かれば十分!友達の友達は友達だからね!私も協力するわよっ」

「か、神楽坂さん…」

「…あれ?でも守るって何から守るの?」

「そ、それは――」


さすがは明日菜。
勢いでなんだか刹那の意地っ張りを有耶無耶にしちゃった。
そっか、そういう感じに言えば絆されたんだね。って、こんな言いかたしてる時点で私には無理だったんだろうな。
…エヴァちゃんの影響ってことにしておこう。

ふむ。


「それは魔法関係のことから、だよ」

「「え?」」

「あ、明日香さん!」

「どういうことでぃ、姉さん?」


なんでネギ先生まで「え?」なのかは置いておくとして。


「もっと言えば、魔法関係に絡む危険なことから守りたいんだよ」

「「な、なるほど」」

「そういうことッスか」

「明日香さん…」

「そのために、木乃香には魔法のことは一切が隠されてるんだよ」


それが、刹那いわくの長って人の、そして刹那自身の望み。
刹那に関してはその言葉が嘘ってことは無いだろうけど、100%本当ってわけでもないと思う。
ま、それはこれから明日菜と一緒にグイグイ行けばOKだからよしとしよう。


「そっか。…そういうことなら私にも出来ることはあるわ!もうすっかり魔法関係には巻き込まれちゃってるし」

「うう、すいません」

「バカ、いいのよ。それにこれからは自分で関わるんだから。……私は木乃香と同室だし、そういう危ないことからもしっかり守るわっ!」

「……すいません、神楽坂さん…」


ぶっちゃけ明日菜とも仲良くなった時点で詰んだようなもんなんだけど。
これで、刹那包囲網は完成したも同然。後は当人同士で話せる場を強制的に作るだけだね。ふふふ。


「謝んなくていいわよ。それに私のことも明日菜でいいよ。神楽坂だと明日香とどっちかわかんないでしょ?」

「……はい。ありがとうございます、明日菜…さん。では私のことも刹那、と…」

「うん。刹那……さん」

「よかったですー。これで仲直り大作戦の第一段階は成功ですね!」

「そうッスね兄貴。ここからはどうも難しそうッスけど…」


・・・・・・なんで私とやった時よりも"名前を呼んで"がキラキラしてるんだろう。……人徳の差かな……。

もうこうなったら爆弾を落とさざるをえない。
もとい、仲直り大作戦、その最終段階を発動せねばなるまい!


「…実は私、もう木乃香に魔法バレしちゃってるんだよねー」

「「「「・・・・・・・・・・・え?」」」」

「だからー、私もう木乃香に魔法のことバレちゃったんだー」

「「「「・・・ええぇぇぇぇぇえええぇええぇえぇぇッ!!?」」」」


そう!この事実により、即日、具体的には明日の放課後とかにでも木乃香を交えて全員で話をする必要があるのだっ!!あははははッ!!


「何やってんのよ明日香ッ!!」
「何やってるんですか明日香さんッ!!」
「このちゃんに魔法がバレてるーッ!?」

「…何やってんスか姉さん…」


あっはっはっはっ!
いい感じに混乱しておりますなっ!

まあ、こんな状況じゃこれ以上のお話は無理かな。
まったく、話し合いは冷静にやってこそ意味があるというのに。皆ダメだなー。

うん、よし。


「ふははははっ!待て次回ッ!!」


しーゆーあげいんっ!


「次回って何よーッ!?」
「何で高笑いなんですかーッ!?」
「誰に言うてるんッ!?」

「ダメだこりゃ」



 
 
 
-----------------------------------------------------
 
 
 
どうも、作者です。
感想、ありがとうございます。
とても励みになります。

>>明日香って完全魔法無効化(ry
今話でも触れましたが、ここで改めて。
明日香は完全魔法無効化能力を持っていません。
裏技はそれとは別です。

>>パー(ry
なるほど!と思いました。
が、このSSでは少なくとも明日香は元からこんなもんです。

お話について。
なんか長くなっちゃいました。
途中途中の益の無い会話のような、日常が書きたいです。
ぶっちゃけ設定との辻褄合わせがめんd(ry
原作に沿うのを書くのも楽しいです☆
ではこのへんで。
お読み下さりありがとうございました。





[18657] 設定
Name: アスカ・なんとか◆b5dbe69c ID:685000c2
Date: 2010/07/19 00:00
作者は設定とか大好きなので懲りずに載せます。
本編、原作のネタバレあり。
そういうのがダメな人は見ない方がいいかも。

ここに書かれる人物は、○○的な意味で原作とずれた人達。のはずです。
 
 
 
-----------------------------------------------------
 
 
 
神楽坂 明日香 (かぐらざか あすか)

このお話の主人公。そしてヒロイン。
TS転生オリ主のテンプレな人。ただし、いろいろあって前世の記憶はあまりない。ついでにアスカとしての記憶も虫食い状態。つかえない子。

明日菜の双子の妹で、お姉ちゃん大好きなアホの子。
可愛いは正義を掲げる、愛に生きる騎士(笑)

お料理スキルを始めとした家事スキルがなかなか高い。師匠は木乃香。

容姿は「鏡に映った明日菜」。ただし、基本的に常時デレ状態。

咸卦法の使える一般人 → 見習い魔法戦士 → うそつき魔法戦士
 
 

 
 
神楽坂 明日菜 (かぐらざか あすな)

このお話のヒロイン。そしてヒーロー。
全てを忘れたお姫様。ただし、意図的にか偶然にか明日香のことは忘れなかった。

明日香の双子の姉で、妹の影に隠れてシスコン。
フラグが成立しているけどいまいち誰も気付いていない。作者的には百合フラグ。

家事スキル(笑)

ちなみに原作冒頭の木乃香の占いによる「運命の相手」は、このSSでは「魔法」のこと。断固。

オジコンツインテール → 巻き込まれ型ヒロイン
 
 

 
 
ネギ・スプリングフィールド (ねぎ・すぷりんぐふぃ-るど)

子供で、万年モテ期で、魔法使い、な先生。原作主人公。
サウザント・マスターの息子で、父に憧れマギステル・マギを目指し、魔法学校を卒業後の修業、最終課題として麻帆良に先生をしにやってきた。

頭脳明晰、真面目で一途、容姿もバッチリな人。それでいて子供らしいところもある、というショタコン垂涎の優良物件。
恋愛にはまだ疎いご様子。

百合フラグがオンのこのSSでは彼の立てるフラグは減る一方。
それでも何人かを射止めるようなので、ネギ、恐ろしい子。

教育実習魔法先生 → 正式採用魔法先生
 
 
◆ 
 
 
近衛 木乃香 (このえ このか)

京都弁のおっとり金槌マスター。時々ツッコミが黒い。
麻帆良学園の学園長の孫。

成績優秀、家事全般専業主婦レベル、なにやらお偉い血筋、な大和撫子という完璧超人。
本人は至って普通の天然お嬢様。

中等部に入ってかつての幼馴染、桜咲刹那と再会。しかし、何故か距離を置かれて気まずい関係に。

はんなり大和撫子 →
 
 

 
 
桜咲 刹那 (さくらざき せつな)

中等部から麻帆良にやってきた転校生。
実は天然。

生真面目な大和撫子。剣を握るだけあり運動も出来る。でも勉強はいまいち。

かつての幼馴染、近衛木乃香の護衛のため中等部から麻帆良へ。
昔の事故を引きずっていて、木乃香とは距離を置く。

お嬢様の護衛 →
 
 

 
 
Evangerine.A.K.McDowell (えう゛ぁんじぇりん あたなしあ きてぃ まくだうぇる)

金髪で、幼女で、吸血鬼の真祖で、中学生、な人。
麻帆良に封印された悪の魔法使い。麻帆良から出られないだけに止まらずついでに魔力も封じられてしまっている。

自らの過去から、尊大で冷めた態度をとっていたが…。

茶々丸依存症。
禁断症状はないけど、彼女がいないと死ぬ。不死なのに。

金髪幼女中学生 → 封印されし真祖
 
 

  
 
絡繰 茶々丸 (からくり ちゃちゃまる)

エヴァンジェリンの従者。ロボット中学生。
葉加瀬聡美と超鈴音とエヴァンジェリンによって生み出された万能美人メイド。

起動直後は役割を全うしているだけだったが…。
猫と子供とマスターが好き。(子供≠マスター)

明日香と共に家事スキルを磨き、一人だけ先にぐんぐんレベルアップ。
今では彼女に教える側に。

マスターの従者 →
 
 

 
  
B組の生徒 (びーぐみのせいと)

明日香の元クラスメイト。落ち着きのある中学生。皆仲良しで結束は強い。

授業中以外のほとんどをA組で過ごす明日香を、しっかりと仲間として受け容れている。
本編には登場予定なし。

念願叶ってA組へ転入が決まった明日香を快く送り出した。

1年B組 → 2年B組 → 3年B組

 


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