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[20248] 【習作】仮面ライダーディケイド×とある科学の超電磁砲
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/13 11:02
初めまして。

内容は、仮面ライダーディケイドととある科学の超電磁砲のクロスオーバーです。
ディケイドに関してはネタバレありなので、ご了承下さい。
時系列的にはMOVIE大戦2010の後という事になります。

細かいミスや設定の間違いなんかが頻発するかも知れませんが、
そこは細けえこたぁいいんだよ的な精神で(笑)。

では、お手柔らかにお願いします。



[20248] プロローグ
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/14 00:07
学園都市は今日も学生たちで賑わっている。




広大な土地を開発し、総人口の大半を学生で占めているこの都市は、

超能力者研究という名の下、数多くの研究者が人間の脳の開発を行っている。

この都市に住む学生たちはそれらの特殊カリキュラムを経て、

様々な特殊能力を身に付け、そして競い合っていた。

彼ら特殊能力者はレベルで分けられ、通常はレベル0~5までに分類されている。

特にレベル5にまで達する学生はレアなケースで、学園都市内でも数名しか存在しないという。

その一方で、レベル0から上がることが出来ず、落ちこぼれてしまう者も少なくない。

彼らの中には必死に頑張る者もいれば、諦めてしまう者もいて、

中にはレベル上位者を逆恨みし、武装無能力集団(スキルアウト)と呼ばれるチンピラへと堕ちてしまう者もいた。

学園都市はある者にとっては楽園であり、

また、ある者にとっては地獄であった。

「………」

彼女にとって、学園都市は楽園、そして地獄だった。

「………」

学園都市の空を仰ぐ彼女の目は暗い闇に覆われていた。




学園都市第七学区。

学園都市の中央に位置し、様々な学校や学生寮が点在している。

その為、都市内では特に学生たちの活気に満ちていると言えた。

寮から学校までの道中には様々な店が並んでいる。



その中に、周りの雰囲気に溶け込まない、古ぼけた写真館があった。

写真館は、他の華やかな店とは違い、明らかに異質なオーラを放っていたが、

不思議と学生たちは、何も違和感を覚えず、

また、それがいつからそこにあったのかさえも気にする人はいなかった。

それ故、写真館の中に入る学生もおらず、まるでそこには何も存在していないかのようであった。

写真館の中から、1人の青年が出て来た。

彼は飄々とした顔付きで、学園都市の空を仰いだ。

その目は、期待と好奇心、そして純粋な野望に満ち溢れていた。



「さて、この世界のお宝を探しに行くとするか」



そう言うと、軽々としたステップを踏んで、学園都市の中へ消えて行った。



[20248] 第1話 『異世界』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/24 21:28
少女は逃げていた。

恐怖から
脅威から
異形の存在から

しかし、2本の牙が無情にも少女の首筋に振り下ろされる。

「………………!!」

闇の中に声にならない叫びがこだました。

ドサッ

生気の抜けた体が地面へ倒れ込む。

その体は完全に色を失い、透明と化していた。

「クックック・・・」

顔色の悪そうな男の口元が僅かに歪む。

男はピクリとも動かなくなった少女の様子を観察しながら、追いかける最中にずり落ちてしまった眼鏡をゆっくりと直した。

「素晴らしい・・・。何と素晴らしいライフエナジーだ・・・」

その溢れてくる力に、体が感動して震えているのが分かる。

「これが・・・能力者。素晴らしい・・・。このライフエナジーがあれば・・・王の復活も・・・可能!」

眼鏡の奥に闇よりも暗く邪悪な炎を燃やしながら、男はその場を後にした。

男が去った後、鏡が割れるような音が辺りに響いた。

そして、少女が倒れていた場所にはステンドグラスの破片の様なものが散らばっていた。





「ここは、何の世界なんだ?」

長身の青年が、胸にぶら下げたトイカメラのシャッターを切りながら言った。

彼の名は門矢士。

あらゆる世界を旅し、そして世界を繋いでいる。

そして、またの名を仮面ライダーディケイドと言った。

彼は世界の破壊者でもあった。

その運命を受け入れ、それを経てまた新たな旅へと出ている。



「何だか学生が多いですね」

どこか幼さを残しながらも、強い意志を秘めた顔立ちの少女が言った。

彼女の名は光夏海。

自らが士の帰る場所であることを約束し、士と共に旅をしている。



「う~ん。何だか平和そうでいいじゃないか」

底抜けに明るく、優しさに溢れる笑顔をした青年が言った。

彼の名は小野寺ユウスケ。

あらゆる世界の人を笑顔にする為、またその笑顔を守る為に仮面ライダークウガとして戦っている。

彼もまた士と旅をする仲間である。


三人は、この世界へ降り立ったばかりであった。


「士。またお前変な格好になっているぞ」

「それは何ですか?何かトロピカルですね」

「俺に聞くな」

士は、胸の大きく開いたアロハシャツにサングラスという派手な格好をしていた。

「どんな格好でも着こなすのがいい男って奴だ」

「いや、流石にそれは厳しいだろ」

ユウスケのツッコミを無視して、士は再びトイカメラのシャッターを切った。

街中を見回すと、至る所を清掃ロボットが徘徊していた。

空を見上げると、飛行船らしき飛行物体が何やらニュースらしきものを流している。

「何か近未来って感じですね」

夏海は学園都市の雰囲気に呑まれ、少しはしゃいでいた。

(これで、車が宙に浮いて透明なパイプの中を走ってたら、ネコ型ロボットの世界だな)

士は心の中で呟いた。

その時、士の視界に明らかに様子の変な男が入って来た。

男は一見するとただの不良のような格好をしていたが、その目付きはイッており、明らかに目の前を歩く女子中学生の後を追っていた。

(ただのストーカーでは無さそうだが・・・)

その男は視線に気が付いたのか、士の方へ顔を向けた。

暫く士を観察した後、男はニッと不気味に笑った。

「・・・お前の・・・美味そうだ」

そう言うと、男の顔にステンドグラスの様な模様が浮かび上がった。

「あれは、ファンガイア!?」

夏海が驚きの声をあげると同時に、男の姿は化け物へと変貌した。

男の変化に、周囲の学生たちは悲鳴をあげた。

その場から逃げ去る者、あまりの恐怖に動けなくなる者、様々なリアクションを見せる。

「・・・下がってろ、夏みかん」

士は夏海を下がらせると、ディケイドライバーを取り出した。

それを腰に装着すると、自然とベルトが巻かれる。

士はカードを一枚取り出した。

「変身!」

そう言うと、カードをディケイドライバーの中へ入れる。


『KAMEN RIDE』

『DECADE』


電子音と共に、士の全身をマゼンダカラーの鎧が覆った。

顔には緑色の目を模した仮面が装着され、空中から出現した板が、仮面へと突き刺さる。


やがてその場に1人の異形の戦士が現れた。



この姿こそ、士のもう一つの姿 仮面ライダーディケイドであった。



[20248] 第2話 『噂』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/24 21:29
「だからいつも申し上げてるんですの!」

ツインテールの小柄な少女が、必要以上に丁寧ながらも強い口調で言った。



彼女の名は白井黒子。

常盤台中学に通う中学1年生である。

そして、風紀委員(ジャッジメント)として学園都市の治安を守るレベル4の能力者である。



「はいはい、その先は分かってるわよ」

お姉様と呼ばれた少女が、うんざりした顔で返答する。



彼女の名は御坂美琴。

黒子と同じ常盤台中学に通う中学2年生である。

彼女は学園都市でも数人しかいないと言われる超能力者(レベル5)である。



「『お姉様は一般人なのですから、毎度毎度風紀委員(ジャッジメント)の仕事に首を突っ込むのはお止め下さいまし!』…でしょ?」

「分かっておられるのでしたら、少しは自重して下さいまし!」

「ハイハイ、分かってるわよ。……あ!あれ初春さんじゃない?おーい、初春さーん!」

「お姉様!」

美琴は黒子の小言から逃れるように、初春と呼ばれた少女の元へと走っていった。

「まったく…お姉様ったら仕方のない人。まあ、そこも含めて私の愛するお姉様なんですけども。クフッ」

そう呟くと、黒子は不気味に笑っていた。

黒子の美琴に対するそれは、友情や尊敬の域は軽く超えていたのだった。

「あ、美琴さん。お早うございます。」

頭に花の飾りを乗せた、年齢以上に幼く見える少女はぺこりと頭を下げた。



彼女の名は初春飾利。

第七学区立柵川中学に通う中学1年生である。

こう見えても黒子と同じ風紀委員(ジャッジメント)である。

彼女も能力者ではあるものの、レベル1ということもあり、美琴や黒子には能力者として大きく劣っている。

しかし、それを補って余りある情報分析能力を持っており、主に黒子のサポートを務めていた。



「あ、白井さんもいたんですね」

「あら?私がいては何か問題でも?」

「そ、そういう意味で言ったんじゃないですよー」

「冗談ですわよ、初春」

黒子が表情を崩すと、初春はホッと胸をなで下ろした。

「もー、声が冗談ってトーンじゃありませんでしたよー」

「黒子、あまり初春さんをいじめるんじゃないわよ」

「イジメだなんて!お姉様!誤解ですの!」

そう言うと黒子は初春の肩に腕をまわした。

「私たちは熱い友情に結ばれているのです!決して!決してイジメなんて陰湿なものではありませんわ!これは、そう!コミュニケーションなんですの!」

「コミュニケーションって…」

初春はやや苦笑いだった。

「うーいーはーる!」

声とともに初春のスカートが高らかに捲り上がった。

「!!」

「おやー?昨日と同じだねー?」

「さ、さ、佐天さん!?」

初春は顔を真っ赤にしながら、わなわなと情けない声を出した。

「何タコみたいに真っ赤っかにしてるの。いつものコミュニケーションじゃない」

佐天と呼ばれた少女は悪びれる様子もなく言った。



彼女の名は、佐天涙子。

初春と同じ中学校に通う中学1年生である。

彼女は黒子や初春の様な風紀委員(ジャッジメント)でも無ければ、御坂美琴の様な優れた能力者でも無い。

いたって普通の女子中学生であった。

しかし、そのことが彼女のコンプレックスとなっていて、その為にとある事件に巻き込まれたこともあった。



「佐天さん!いっつもいっつも止めて下さい!って言ってるじゃないですか!!」

「アハハハハ、ごめーん初春」

佐天は舌を出して平謝りをした。

そんな佐天を見て、初春はぷくーっとむくれて見せた。

初春の様子を見て、佐天は思わず吹き出してしまっていた。

すぐに後ろにいる黒子と美琴に気が付くと、佐天は軽く姿勢を正した。

「御坂さん!白井さん!こんにちはです!」

元気なハキハキとした声で、佐天は言った。

「こんいちは佐天さん」

「こんにちはですの」

2人は笑顔でそれに答えた。

「ここで立ち話ってのも何だし、あそこのファミレスへ行こっか」

美琴がそう言うと、4人は近くのファミレスへ入って行った。




「そう言えば知ってます?最近、ネットで噂になってるんですけどね。何でも怪物が夜な夜な出現して学生たちを攫っているんだそうです」

佐天はいつもの様にネットで見た噂話を話し出した。

「噂じゃなくて、実際に起きてますよ」

初春はあっさり肯定した。

「怪物かどうかは分からないですけど、夜中に変な生き物を目撃したって通報がたくさん来てるんです。
それに第7学区の学生たちが次々と失踪していて、それと何か関係あるかもって言ってましたね」

「そうなの?ニュースで見たことないけど」

黒子が初春の顔を睨み付けると、初春はしまった!という顔をした。

ハーッとため息をついた後、黒子が声を潜めた。

「……一般へは報道規制がされてますの。下手に騒がれても厄介ですしね」

「そうなんだー」

「お姉様……」

「な、何よ黒子!?」

「まさか、自分がその怪物をとっ捕まえてやろう!だなんて、ほんのひと時でも考えたりはしていませんですよね?」

「ま、まさか!」

そのまさかであった。

黒子は美琴の顔をジトーッと見た後、再びハーッと先程よりも深いため息をついた。

「お姉様!決して黒子はお姉様の実力を過小評価しているわけではございません。でも、これは我々の仕事なんですの!
それを本当に分かって下さいな!」

「わ、分かって、分かってるわよー」

美琴の声が軽く棒読みになる。

「分かっていらっしゃいませんのね」

黒子は3度目のため息をついた。




「へー面白そうな話をしているねー」

突如、男の声が闖入して来た。

見ると、長髪の男が何時の間にか机の上に座っていた。

「な!?」

「きゃあ!」

「な、何ですの!?」

美琴、初春、黒子の3人は突如現れた男に驚きの声をあげた。

「怪物か~、でもまあそれは別にいいや」

男は何時の間にか初春の頼んだパフェを食べていた。

「あ~~!私の……」

初春はあまりのショックに固まった。

長髪の男はマイペースを崩さずに続けた。

「お宝についての噂が知りたいんだけど、教えてくれないかな?」

そう言うと、長髪の男は佐天の顔を見た。

長髪の男の顔立ちは整っていて、いわゆるイケメンという感じであった。

だが、何処か掴み所の無い。そんな顔をしていた。

「は、はははは、はい!」

思わず佐天は返事をしてしまった。


「じゃあ聞くけど。……幻想御手(レベルアッパー) って知っているかい?」

その言葉に、4人は凍りついた。

特に佐天は顔を曇らし、わなわなと震えていた。

「この世界のお宝なんだけど、情報が掴めなくてね。君なら知っているんじゃないかと思ってさ」

「あんた……いきなりなんなのよ?そもそも、あんた一体誰よ?」

美琴が口を開いた。

その声には静かながら、確かな怒りが込められていた。

「僕かい?僕は海東大樹。覚えておきたまえ」

海東と名乗った男は、指で鉄砲を作るとそれを美琴に向けて撃つようなポーズをした。

それが更に美琴の怒りに火をつけた。

「ふざけんじゃ……ないわよ!!」

美琴は前髪からバチバチと火花を散らした。

「ちょ!お姉さま!!ここではマズイですわ!!」

黒子が止めに入る間も無く、美琴は電撃を放った。

しかし男は、機敏な動きでそれを交わす。

「っとと、危ないなあ」

「!?なっ!?」

ここがファミレスであるということもあり、意識的に威力は弱めていたものの、

電撃は電撃である。

それをあっさり交わすのは、常人の身体能力ではほぼ不可能である。

「なるほど、これがこの世界の能力者って奴の力か……。面白いものを見させてもらったよ」



「あなた……学園都市の人間ではありませんわね」

今度は黒子が口を開いた。

「知っていらして?学園都市への不法侵入は犯罪ですのよ」

「へー、そうなんだ。それは知らなかった。けど、興味ないね」

目の前にいた黒子が突如消えた。

「動かないで下さいまし」

男の背後から声がした。

そして、男の背中に何かが突きつけられていた。

「クロックアップ……とは違うみたいだね。なるほど、これもこの世界の力か」

特に驚くこともなく男は呟いた。

「とりあえず、ファミレスを出ますわ。初春、後で返しますから御代は払っといて下さいまし」

そう言うと、黒子と男の姿が一瞬で消えた。

「黒子!」

美琴はすぐに2人を追い掛けて、店を出て行った。

取り残された初春と佐天は嵐の様な出来事に呆然としていたが、

すぐに初春は気を取り直し、黒子の言ったことを思い出した。

「ハッ、そ、そうだ御代……。あ、ちょっと足りない……佐天さん、少し出せますか?……佐天さん?」

佐天はまだわなわなと震えていた。

『幻想御手(レベルアッパー) 』

それは佐天にとっては思い出したくない記憶であり、消したい過去であった。

あの事件から何とか立ち直って、また皆と一緒に……!

そう思っても、思い込んでいても、やはり傷跡は簡単には消えてくれない。

「……………………」

ふと天井を見上げたが、そこには空は無かった。

あの時の様な空が。




「へー、凄いねー。僕も一緒に運ぶなんて」

男は全く感情のこもっていない感想を述べた。

「動くな……。と言いましたわよね?」

黒子がそう言うと男の視界が急に変化し、目の前が空になった。

空には何か煙の様なものがあがっている。

何時の間にか男は地面に倒されていた。

「避難命令は済みました。暫くは誰もここには来ないでしょ」

黒子は冷たく言い放った。

「拘束しますわ」

「よっと」

男は倒れた状態から素早く起き上がると、黒子から少し距離を取った。

しかし、黒子はすぐにその距離を詰める。

「ふ~ん。なるほどね」

男はバックステップで更に距離を取った。

「君の能力はテレポートって奴かな?」

「素直に答えると思いまして?」

黒子はスカートの中に手を入れた。

「次はそのスカートの中の金属針を飛ばすのかな?」

男の問いに黒子は無言で能力を発動した。

金属針が男の右手に突き刺さった。



男の言う通り、黒子の能力は空間移動能力、つまりはテレポートであった。

とても強力な能力ではあるが、弱点もある。

能力の使用には複雑な計算が必要である為、集中力が持続しない状態では使用出来ないのだ。



今の黒子はとても冷静だった。

集中力が途切れる隙も無い。

「いい加減、諦めて大人しくなったらどうですの?いい大人がみっともない……」

「ちょっと調子に乗りすぎじゃないかな?」

男は右手に突き刺さった金属針を躊躇無く抜いて捨てた。

そして、何処からかおもちゃの様な銃器と1枚のカードを取り出した。

(何なんですの?あれは?何であろうと……させませんわ!)

テレポートしようとした瞬間、男の持った銃器から放たれた光弾が黒子の足元に着弾し、煙が立ち上がった。

『KAMEN RIDE』

「変身!」

『DIEND』

煙の中から声がした。

(くっ!何が起こっているんですの!?)

やがて煙が晴れた時、中からシアンカラーの鎧と仮面に身を包んだ男が現れた。



男の名は海東大樹。

士と同じ様にあらゆる世界を旅し、その世界のお宝を求めている。

そして、またの名を仮面ライダーディエンドと言った。




「な、何なんですの!?あなた!!」

海東は飄々と答えた。

「通りすがりの仮面ライダーってところかな?」



[20248] 第3話 『遭遇』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/24 21:30
(アレは一体何なんですの……!?)

黒子は目の前の異形の存在を警戒していた。

(……油断は禁物ですわね)

敵の出方を伺いながらも、いつでも能力を使う準備は整えていた。

そんな素振りは一瞬も見せないように、黒子は海東を睨み付ける。

「見た目が変わったからと言って、どうということはありませんわ」

そう言うと、腕に付けた腕章を指で掴む。

「風紀委員(ジャッジメント)ですの!不法侵入者は大人しくお縄についた方が身のためですわよ!」

黒子は腕章を海東へ見せつけると、すかさずスカートの中に手を入れ、

腿にくくりつけた金属針を海東へ向けテレポートさせた。

次の瞬間、海東の肩に金属針が突き刺さる。

「次は何処に飛ばして欲しいのかしら。目?心臓?それとも脳ですの?」

勿論、これは脅しであり、本気で殺すつもりはない。

大抵の相手はこれで戦意を喪失してきた。

目の前の相手がいかに強かろうと、避けることの出来ない攻撃には対処のしようがないはず。

これで大人しく武装解除してくれれば……。

黒子はそう思っていた。


「ふ~ん」

しかし、海東はそんな素振りは見せずに、先程と同じように肩口に突き刺さった金属針を抜いた。

「なるほど、確かに強いね。だが、これならどうかな?」

そう言うと、海東は腰のカードホルダーから素早くカードを取り出し、ディエンドライバーの中に差し込むと引き金を引いた。



『ATTACK RIDE』


『INVISIBLE』



電子音とともに海東の姿が消えた。

「なっ!? 」

「見えなければ攻撃出来ない」

海東の声はしても、姿は見えない。

黒子の能力は正確な座標位置が分かってこそ、最大限の力を発揮する。

しかし、これではその座標位置を特定出来ない。

(抜かった!……ですの。まさか透明になるなんて)

黒子は神経を研ぎ澄まし、相手の気配を探ろうとした。

(……ダメですの!気配どころか足音ひとつ聞こえてこない!)

能力者の中には透明になる能力を使用する者も少なくはない。

しかし、これだけ完璧に消えられる能力者はなかなかいない。

レベルにして4以上の力はあると思われた。

「驚いたかい?」

黒子の背後から声がした。

黒子が振り向くと、そこには何時の間にか姿を現した海東が立っていた。

手に革のベルトのようなものを持っており、それを掲げてみせる。

「これは大したお宝じゃないかな」

海東の持つベルトを見て黒子はハッとなり、スカートの中に手を突っ込んだ。

「無い……ですの。何時の間に……」

「これくらいは大したことじゃないよ」

「……!乙女のスカートの中に手を入れるなんて……!何て破廉恥な!」

黒子は羞恥と怒りの混じった声で海東を詰った。

「アハハ、それは失礼」

それだけ言うと、海東は乱暴にベルトを投げ捨てた。

「まあ、その気になれば、そこら辺のものでも同じ様に出来るんだろうけどね」

海東は再び腰のカードホルダーの中から1枚のカードを取り出した。

「君にはこれなんか丁度いいかな?」

そう言うと、海東はカードをディエンドライバーの中に入れた。



『KAMEN RIDE』


『SAGA』



引き金を引くと、銃口から様々な色の光が放たれ、それが人を形成していく。

やがてその場に白い鎧に白い仮面の男が現れた。

「な!?」

目の前の光景に黒子は我が目を疑った。

「王の判決を言い渡す……死だ!」

白い仮面の男はロッド状の剣のようなものを構えた。

「あなたは何でもありなんですの!?」

「風紀委員(ジャッジメント)には王の判決(ジャッジメント)ってね。まあ、頑張ってくれたまえ」

海東は高みの見物をするかのように下がっていくと、お得意の指で銃を撃つポーズをした。

それと同時に白い男が黒子に向け、襲い掛かる。

黒子はとっさに能力を使い、最初の攻撃を交わすものの、突如現れた目の前の敵を攻め倦ねていた。

次々と仕掛けて来る白い仮面の男の攻撃を避けるのに精一杯だった。

「くっ……!」

人形を傀儡にする能力者というのもいるにはいるが、

あれは海東に従っているとは言え、いくらかの自分の意志らしきものを持っており、

その手のタイプとは明らかに異質だった。

何より何もない空間から出現していることが不可解であった。

いくら何でも科学でやれることには限度がある。

無から有を生み出すことは質量保存の法則の為、科学ではほぼ不可能とされているのだ。

(あれは科学というより、もう魔法の領域ですの……!!)

目の前の存在を科学では理解し難かった。

黒子は、近くのブティックのショーケースを見ると、一か八かの賭けに出ることにした。

「緊急事態ですの!お借りしますわ!」

ショーケースのガラスをあの白い仮面の男に向けてテレポートさせる。

そうすれば確実に致命傷を与えられるはずだ。

あれは、人形であって人間ではない。

と、黒子は判断した。

黒子はブティックに向かって走り出し、ショーケースのガラスに触れようとした。


しかし、その瞬間、黒子の背中に今まで味わったことの無い激痛が走った。

「…!!アアアッ!!」

振り向くと、白い仮面の男の持つ剣からビーム状の鞭が伸びていた。

どうやら一瞬の隙をつかれ、背中へビーム状の鞭を打たれたのだ。

黒子の手はブティックのショーケースに届いていた。

だが、あまりの痛みで計算に集中することが出来ず、手を突いたまま荒い呼吸を繰り返していた。

薄れゆく意識の中、黒子は戦意を失いかけていた。

「もう終わりかい?意外とあっけないねえ」

海東は白い仮面の男と共に黒子へ近寄ると、蹲る黒子を見下ろした。

「幻想御手(レベルアッパー)について教えてくれる気になったかい?」

「ハァ…ハァ…ハァ…」

「さあ、教えてくれたまえ」

その時、強い光が一直線に海東の方へ向かってきた。

海東はとっさに避けたが、白い仮面の男はその光に飲み込まれてしまった。

そして次の瞬間、白い仮面の男の姿は影も形も無くなっていた。


「私の後輩に……何するのよ!」

声の主は学園都市に数人しかいない超能力者(レベル5)、御坂美琴であった。

美琴はハァハァと息を切らせながらも、海東への視線を外さなかった。

「へー、凄いねえ。これが超電磁砲(レールガン)の力か。いいものを見させてもらったよ」

海東はパラパラと馬鹿にしたように拍手してみせる。

美琴は前髪から火花を散らしながら、海東を睨み付けていた。

「もう一度聞くわ……。アンタは一体、何なの!?」

返答次第では……。

美琴はいつでも能力を発動出来る構えを取っていた。

海東はそれでも態度を崩すことはなく、いつもの通り飄々と答えた。

「通りすがりの仮面ライダーっていうのじゃダメかな?」

「仮面……ライダー?」

「そう。君たちの世界には無い言葉だし、分かるはずも無いだろうけどね」

「私たちの……世界……?さっきから何ワケ分からないこと言ってんのよ!」

「悲しいねえ、知らないというのは」

海東はそう言うと、カードホルダーからカードを1枚取り出した。

「させない!」

美琴は電撃を放った。

しかし、素早い動きでそれは簡単に避けられてしまった。

「そろそろ引き上げ時かな。幻想御手(レベルアッパー)の情報は掴み損ねたけど、これ以上の面倒もゴメンだしね」

何時の間にか、周りには警備員(アンチスキル)が集まっていた。

「そこの不審な仮面!大人しくするじゃん!」

長身の女性が拡声器を使って威嚇した。

そんな彼女に海東は先程取り出したカードを見せ付けるように振った。

「君たちはこいつと遊んでいてくれたまえ」


『KAMEN RIDE』


『DEN-O』


電子音とともに、新たな仮面の男が現れた。


「俺、参……!」
「痛みは一瞬だ」


『FINAL FORM RIDE  DE DE DE DEN-O』


海東が大見得を切ろうとした仮面の男に向けてディエンドライバーを撃つと、

仮面の男の姿は赤い鬼のような姿へ変わった。

「な、何なんじゃん!?アレ!?」

長身の女性を含め、警備員(アンチスキル)は目の前の光景に騒然となった。


「痛ーーーーッ!だから何度言えば分かりやがるんだ!?いきなりそれは痛いっつってんだろーが!!」

「ほら、行けよ」

赤い鬼が海東が指差した方を見ると、そこには慌てふためく警備員(アンチスキル)があった。

「何だか知らねえが……」

赤い鬼はニヤリと笑った。

「とにかく暴れてやるよ!!」

そう叫ぶと、手に持った大剣を振り回して警備員(アンチスキル)へと向かって行った。

「せ、先輩ッ!!何か来ます!!!!」

「げ、迎撃じゃん!!」

「行くぜ行くぜーーーー!!」

警備員(アンチスキル)たちは赤い鬼と交戦を開始した。

その様子を唖然と見つめていた美琴は、ハッと気が付くと海東の方へ向き直った。

「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」

「じゃあね、バチバチくん」


『ATTACK RIDE』


「バチバチじゃない!ビリビリ……じゃなくて御坂美琴だーーー!!」

そう叫びながら美琴は電撃を海東へ向けて放った。


『INVISIBLE』


それよりも一瞬早く海東の姿が消え、放たれた電撃は虚空の彼方へと消えて行った。

「ちっ!……アイツは一体……。それに」

(佐天さん……)

ぶつけようのない怒りを抱え、美琴は空を仰いだ。





「うわあああああああ、こいつ、つ、強いじゃん!!」

「キャアアアア、せ、先輩、た、助けてーーー!!」

「行くぜ行くぜーーーーー!!」

その後、赤い鬼がコケて消えるまで、警備員(アンチスキル)と赤い鬼との交戦は続いたという。



[20248] 第4話 『少女』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/24 21:31
『ATTACK RIDE』


『SLASH』



電子音とともに士の振るったライドブッカーの刃がファンガイアを切り裂く。

ディケイドの圧倒的な力の前に、ファンガイアは何も出来ないでいた。

「く、クソォォォォ!!」

ファンガイアは士に背を向けて走り出した。

「とっとと終わらすぞ」

士はそう言うと、カードを1枚取り出してベルトに勢い良く投げ込んだ。



『FINAL ATTACK RIDE』


『DE DE DE DECADE』



士の目の前に多重の光の壁の様なものが現れると、それらは逃げるファンガイアを追い掛けていった。

やがて光の壁が完全にファンガイアを捕らえると同時に士は高く舞い上がる。

そして、空中でキックの姿勢を整えた。

「ハアアアアアアア!!」

掛け声とともに光の壁を次々と通過し、そのままファンガイアの体を貫いた。

「うぎゃああああああ」

悲鳴をあげると同時にファンガイアは爆散する。

ファンガイアが立っていた場所にはステンドグラスの破片のようなものが散開していた。



士は着地の姿勢から立ち上がると、ベルトに手を掛けて変身を解いた。

「何でこの世界にファンガイアが?」

ファンガイアとは、仮面ライダーキバの世界に存在するヴァンパイアの怪人である。

普段は人間の姿に擬態しており、人間の生命エネルギーであるライフエナジーを吸収することで生き長らえている。

ライフエナジーを吸収された人間は、肉体が透明化して、最後には砕け散ってしまう。

士が旅したキバの世界ではファンガイアと人間は掟により共存していたが、その凶暴な性を完全に抑え付けることは出来ず、

人間を襲うファンガイアが続出していたのであった。

士たちはその世界の仮面ライダーキバとともにそんなファンガイアと戦った。

また、ファンガイアは大ショッカーの一員としても、士たちの前に立ちはだかった。

そのファンガイアがこの世界にも現れたのはただごとではなかった。

「……スーパーショッカーの残党か?」

士はそう呟くと、少し前のことを思い出していた。

それは、士が世界の破壊者であることを受け入れ、全てのライダーと戦っていた時のこと。

あらゆる世界の怪人や怪物が結集して作られた大ショッカーの残党たちは、その隙にスーパーショッカーという新たな組織を作っていた。

そして、光栄次郎……夏海の祖父をガイアメモリの力で死神博士に仕立て上げ、全ての世界を征服しようとしていたのだった。

この時、士は全てのライダーを倒し、仮面ライダーの力を得た夏海と対峙していた。

自ら夏海に倒されることを望んだ士は、そのまま夏海に倒されて一度はその存在を消滅させていた。

しかし、士の消滅を望まなかった夏海やユウスケ、海東、そして他の世界の仲間たちの願いにより復活。

スーパーショッカーの企みは、復活したディケイドとその仲間たちとの絆により壊滅に追い込んだはずであった。

「この世界に逃げ込みやがったのか……。そいつらを片付けるのがこの世界の俺の役割ってところか?」

まだショッカーとの因縁が切れていないのか。

やれやれといった感じで士は肩をすくめた。

「これからどうしましょう?この世界のこともよく分かりませんし、ファンガイアまで現れちゃいました」

不安そうな顔で夏海が言った。

「とりあえず、この世界のことはこの世界の奴に聞くのが一番だな。例えば……」

士の視線の先を見ると、1人の少女が買い物袋を提げて歩いていた。

「あの子……とかな」

夏海は眉を顰めた。

「まだ、小さい子供じゃないですか。大丈夫ですか?」

「何言ってる。子供の方がちゃんと世界の真実を見ているってもんだぞ」

「そう……ですか?」

「そういうもんだ」

「まあまあ」

ユウスケが士と夏海の間に入った。

「よし、分かった。じゃあ俺が聞いてくるよ!」

そう言うと、ユウスケは駆け足で少女のところへ向かっていった。

「あ、ちょっとユウスケ!」

「お手並み拝見……だな」

二人はユウスケの背中を見送った。



「ねえ、そこの君!」

「?私ですか?」

ユウスケは少女の側に近寄ると、その場にしゃがみ込み、視線を少女と同じ目線へ合わせた。

出来るだけ不審者とは思われないように気を付けて尋ねる。

「あの~ちょっといいかな?」

「え?な、なんですか?」

少女は不安そうな顔でユウスケの顔を見つめた。

そんな様子を見てとったユウスケはなるべく少女の不安を取り除けるよう、もっと笑顔になるように努めた。

「ねえ、君。お兄ちゃんにちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」

「おにい、ちゃん?」

「うん、そう。お兄ちゃん」

自分を指差しながら、ユウスケは笑顔で答えた。

「……どう見ても私より年下にしか見えませんが」

「ん?」

年下?ユウスケは聞き間違いと思って、そこはスルーした。

少女の様子を観察していると、手に提げた買い物袋が目に入った。

「あ、お母さんに頼まれておつかいしてたんだ。偉いね~」

ユウスケはそこを褒めてみることにした。

買い物袋の中をよく見ると、ビールとタバコとイカの燻製らしきものがたくさん入っている。

酒豪でヘビースモーカーな親だなあ。とユウスケは思った。

「おつかい……?いえ、これは自分の買い物ですけど」

「え?」

少女は明らかに機嫌の悪そうな顔をした。

「さっきから何なんですか?私のこと子供扱いして……こう見えても私、学校の先生なのですよ?」

「……先生?……!ああ、先生ごっこかー」

「ごっこじゃないのです!本当に先生なんです!」

そう言うと少女(?)は、身分証明書らしきものを取り出してユウスケに見せた。

暫く身分証明書と少女(?)を交互に見ていたユウスケは、背中に嫌な汗をかき始めたのが分かった。

「……………」

「分かってくれましたか?」

「……え、え、えええええええ!?」

ユウスケは思わず尻餅をついてしまった。

「私は月詠小萌。れっきとした成人女性なのですよ!」

少女(?)はそう言うと、勝ち誇ったかのようにユウスケを見下ろした。




「どうしたんでしょ?ユウスケ?いきなりひっくり返って」

夏海が心配そうに言った。

「ったく、仕方ないな」

士はユウスケの方へ歩いていった。




ユウスケは口をあんぐりとさせたまま、何故か後ずさっていた。

「え?ええ?えええーーーー?」

頭の中の整理が全くつかないでいた。

人間、あまりに想像とかけ離れたものを目にすると思考回路が停止してしまうようである。

「ったく、ガキの扱いは得意じゃなかったのか?」

あたふたしているユウスケに向かって士は小馬鹿にしたように言った。

かつてキバの世界へ行った時、キバの世界を統べていたのは幼い王子だった。

その幼い王子の友人となり彼を支えたのは、このユウスケだった。

「あなたも私のこと子供扱いするんですか!?…………ってあれ?」

ユウスケの背後から現れた士を見て、小萌は驚いていた。

「……?どうした?」

その様子を見て不思議に思った士は小萌に尋ねた。

「あ、いえ、私の知ってる子と同じ格好だったからびっくりしちゃいました」

小萌はそう答えると、再び先程の士の言葉を思い出して、カッとなった。

「それよりも、私は子供じゃないのです!これを見なさい!!」

まるで印籠のように身分証明書を提示してみせた。

しかし、士はそれを見ても、ユウスケのように特に驚くこともなく

「ふぅ~ん、大体分かった」

とだけ言った。

小萌は「アレ?」という顔をしていた。

自分で言うのも尺だが、この手の扱いは日常茶飯事である。

そして、真実を知った時のリアクションも大体同じであり、逆にノーリアクションというはあまり無いケースだった。

士は小萌の顔に、自分の顔を近付けていった。

「ガキじゃないなら調度いい。この世界のこと聞かせてもらうぞ」

「!?な、なんですか~?」

(あ、近くで見るとかなりイケメンですね~)

士の整った顔立ちに、小萌はついついそんな風に考えてしまった。




[20248] 第5話 『苦悩』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/24 21:31
「能力体結晶かあ……。こいつは幻想御手(レベルアッパー) よりもお宝だね」

読み漁っていた資料の中に、お目当てのもの以上の情報を見つけて海東は少年のように無垢な笑みを浮かべた。

ここはMARの付属研究所。

木山春生から押収された資料が保管されている部屋である。

その中にあった『能力体結晶』という存在に海東は魅了された。

「さあて、どうやって手に入れようかな」

能力体結晶の入手方法をあれこれ思案している内に、MARの隊員たちが部屋へ駆けつけてきた。

「そこの不法侵入者!武装解除し、手を上げろ!」

隊員たちは物騒な兵器を構えて海東を威嚇した。

「やあ、お勤めご苦労さん」

海東は表情を変えずにそう言うと、指で鉄砲を作って、駆けつけた隊員たちに撃つポーズをした。

「ハイ、そこの不法侵入者さん。諦めて投降して下さいね」

その時、拍手しながら物腰の柔らかそうな女性が現れた。

「今投降すれば、命くらいは助かるかもしれませんよ」

女性は微笑みを絶やさずに海東を見つめている。

しかし、その表情とは裏腹に言葉には何の感情も込められていないように聞こえた。

「僕は誰の指図も受けない。僕に命令出来るのは僕だけさ」

海東はそう言うと、素早くディエンドライバーを取り出し、隊員たちの手元に向け撃ち放った。

一連の動作には無駄も隙も無く、訓練された隊員たちの反応をも上回っていた。

ディエンドライバーから放たれた光弾が不規則な軌道を経て隊員たちの手元や兵器に命中する。

隊員たちは、思わず海東に向けていた兵器を床に落とした。

その隙に海東は素早くカードを取り出すと、ディエンドライバーにセットした。



『KAMEN RIDE』


「変身!」


『DIEND』



海東がディエンドライバーの引き金を引くと同時に、その姿は仮面ライダーディエンドとなった。

「これは……!!」

目の前の光景に女性は初めて表情を変えた。

隊員たちも、未知の存在に思わず後ずさっている。

「それじゃあ、また」



『ATTACK RIDE』


『INVISIBLE』



海東の姿が消えると同時に女性と隊員たちは我に返った。

「お、おい!逃げたぞ!!」

「透明になる能力だと!?」

「きゃ、キャパシティダウンを起動させろ!!」

突然の事態に隊員たちは慌てふためいていた。



「もう遅えんだよ!!」

女性が一喝すると、隊員たちは静まり返った。

先程までの微笑を絶やさず、物腰の柔らかな女性の姿はそこには無く、

その顔には明らかな苛立ちと憎悪が満ちていた。

隊員たちを一瞥すると、女性は舌打ちをした。

「ったく、使えないクズどもが……」

言動までもが乱雑な物言いに変わっていた。

女性は何処からかマーブルチョコを取り出すと、一つだけ手の平へ乗せた。

「青……か」

そう呟くと、チョコを口の中に放り込んで噛み砕いた。

やがてチョコは口の中から完全に消えた。


ツカ ツカ ツカ……


「テレスティーナ、何があった?」

その時、彼女たちの元へ白いスーツを着た長身の男が現れた。

サングラスを掛けており、一目だけ見ればヤクザを思い浮かべるであろうその風貌は威圧感たっぷりであった。

テレスティーナと呼ばれた女性は、その男の出現に萎縮し、自然と跪いていた。

「申し訳ございません。不法侵入者に入られまして」

先程までの乱雑な物言いは鳴りを潜めて、必要以上の敬語を使い始める。

その目は何処か正気ではないように見えた。

「不法侵入者?」

白いスーツの男はその生きているか死んでいるかも分からないような目で、

サングラス越しにテレスティーナを見つめた。

「はい、でもすぐに逃げられてしまって……」

「ほう……」

「か、監視カメラの映像を持って来ました!!」

「早くしろ!!」

テレスティーナは隊員から乱暴にDVD-ROMを取り上げると、近くの映像機器で再生した。

映像には先程の出来事が鮮明に記録されていた。

部屋の中に海東が入って来たところで、映像は止められた。

「こいつです」

テレスティーナは海東を指差して言った。

「ほう……この男は」

白いスーツの男は海東の姿を見ると、その目を細め、口元に笑みを浮かべた。

その様子を見たテレスティーナは思い切って尋ねてみた。

「この男を……知っておられるんですか?」

白いスーツの男はテレスティーナの問いには答えなかった。

だが、一言だけ、誰に言うでもなく呟いた。

「なるほど……面白い」





「白井さん、大丈夫なんですか?」

「ん~、意外と大したこと無かったですの」

初春が心配そうに尋ねると、黒子は準備体操をしながら答えた。

海東との戦いの後、病院へ運ばれた黒子であったが、背中の傷は大したことは無く

痛みもすぐに消えてしまった。

白い仮面の男からの攻撃を受けた時は背中が抉られた!と思っていただけに、拍子抜けな結果であった。

「お医者様も全く分からないそうですの。まあ、何とも無いのでしたらとっとと退院してしまおうかと」

「無理しちゃダメですよ。白井さん」

初春はそう言うと帰り支度を始めた。

何処かそわそわしているようにも見える。

「……そう言えば、今日は初春のルームメイトが来る日でしたわね。え~と、名前は確か」

「春上衿衣(はるうええりい) 。春上さんですよ」

「そうでしたわね。初春、粗相の無いようにしなさいね」

「むー、そんなことしませんよ!」

初春はむくれながら病室を出て行った。

黒子は初春を見送った後、自分も帰り支度を始めた。

医師から退院の許可は既に得ており、すぐにでもあの男の行方を捜索したい気持ちであった。

敗北したこと自体は過去にもあったが、海東には完膚なきまでにやられてしまった。

そのことは黒子のプライドにいたく傷を付けていた。

見たこともない力を使われたから、なんてのはこの学園都市では言い訳にもならない。

次出会った時は必ずリベンジしてやると心に誓い、常盤台中学の学生服へ着替え始めた。

そう言えば、いつも腿にくくり付けている革のベルトは海東に盗られた後に何処かに捨てられていた。

「ん~、あれがないと何かしっくり来ないですの」

黒子は腿をさすりながら首を捻っていた。

「あれ?黒子もう大丈夫なの」

部屋の中に新しい訪問客が現れた。

「そ、その声は……」

黒子の顔が自然とにやけ始めていた。

「お、お、お、お姉さま!!」

「なーんだ、もう平気だったんだ。じゃあこれはもういいか」

美琴は持って来たリンゴを残念そうに見ていた。

その様子を見た黒子はしまった!という顔をした後にすかさずベッドの中に潜り込んだ。

「あ、ああ……きゅ、急に眩暈が……。も、もうダメですの……。あ、で、でもお姉さまが剥いて下さったリンゴを食べたら治るかも……」

黒子が期待の眼差しで見つめると、美琴は呆れた様に首を振った。

「別に寮に帰った後でもリンゴくらい剥くわよ」

その言葉に黒子は目をこれ以上無いというくらい輝かせた。

「お、お姉さま!!黒子は……、黒子は幸せ者でございますの!!」

「あちゃー、余計なこと言ったかな?」

美琴は思わず頭を抱えてしまいそうになった。




「……………………」

河原の土手にぽつんと1人の少女――佐天涙子が座っていた。

彼女は何をするわけでもなく、ただ空を見ていた。

そうして何時間も空を見ていると、ちっぽけな自分のことを忘れられるような気がした。

でも、親友の初春といる時、黒子や美琴といる時には、また自分がちっぽけな存在であることを嫌でも思い出してしまう。

「私って、本当に最低だな―――――」

それは少し前の出来事。

通称、幻想御手(レベルアッパー) 事件。

その事件の被害者の中には自分もいた。

幻想御手(レベルアッパー)を使用したのは、ほんの出来心だった。

ただ、高レベルの能力が使えるってどんな気持ちなんだろう?

御坂さんや白井さんはどんな気持ちなんだろう?

……初春はどんな気持ちなんだろう?

それが知りたいだけだった。

無能力者(レベル0)の自分には分からない気持ち。

結果として、それはたくさんの人を困らせ、たくさんの人に心配をさせてしまった。

特に親友の初春に。


(そんな悲しいこと……言わないで)


「ハァ……」

あの事件のことはもう吹っ切れた。

そんな体で初春たちと一緒にいるが、実際問題吹っ切れてはいない。

だから今でもこうして空を見上げては現実逃避に走っている。

弱い自分に腹が立つ。

もっと腹が立つのは、弱い自分を変える、それすら出来ない。

いや、しようともしない自分だった。

学園都市の空は今日も青い。

その青はとても冷めて見えた。




「やあ、また会ったね」

突如聞こえてきた声に佐天は我に返った。

声のした方に向き直る。

「あ、あなたは!」

声の主はファミレスでいきなり話に割り込んできたあの男であった。

「こんなところで何をしているんだい?」

この間のことを全く悪びれる様子も無く海東は言った。

黒子と海東の戦いは後で初春によって聞かされた。

そのこともあって、佐天は海東に対して、あまりいい感情を抱いてはいなかった。

「何ですか?……幻想御手(レベルアッパー)のことですか?言いませんよ、私は何も」

佐天はプイッと目を海東から背けた。

「幻想御手(レベルアッパー)なんて、もうどうでもいいよ。それよりもっとレアなお宝を見つけたからね」

素っ気無く海東は言った。

佐天は背けた目を再び海東へ向けた。

「じゃあ、一体何の用なんですか!?」

「別に」

少し怒ったように佐天が言うと、海東はまたも素っ気無く答えた。

海東は土手に腰掛けると何やら資料らしきものを熱心に読んでいる。

(この人、一体何を考えているのか全く分からない)

佐天は困惑していた。

暫く二人で河原の土手に座っていた。



「その、白井さんと戦って勝った……んですよね?」

先に口を開いたのは佐天の方だった。

「ん?ああ、あのジャッジメントくんか。まあね」

海東は資料を読みながら答えた。

「白井さんに勝ったってことは、それだけ凄い能力……力を持っているんですよね?」

「うん、そうだね」

海東は資料に夢中で、心ここにあらずという感じだったが、佐天は構わずに続けた。

「あの、聞きたいことがあるんですけど」

少しの沈黙、その後佐天は思い切って尋ねてみた。

「それだけの能力を持ってたらどんな、どんな気持ちなんですか?」

「別に」

「え?」

「別に何も思わないし、興味も無い」

即答だった。

「そっかー、別に、か。ハハハ」

何でこんなこと聞いたのだろうと佐天は半ば後悔したかのように笑った。

きっと初春たちだと親し過ぎて聞けなかったから。

だから、殆ど面識も無いようなこんな犯罪者まがいの男に聞いてしまったのだろう。

それに自分の胸の内を無性に誰かに聞いてもらいたかった。

たまたまその相手がこの男だったのだ。

そう自分を納得させた。

気が付くと抱えていたもやもやを独り言のように海東へ話していた。

その間、海東は適当な相槌を打ちながらも資料を読み耽っていた。

佐天はどうせ聞いて無いんだからと自分に言い聞かせ、次々と胸の内を吐露した。

やがて、言いたいことを言い終えると、何だかスッキリしたような気持ちになっていた。

「ハ~~、何でこんな人に話しちゃったんだろ?自己嫌悪だ~」

そう言いながらも、顔は先程よりは晴れ晴れとしているような気がした。

不思議と冷めて見えた空も、今は気持ちよく見える。

佐天は伸びをしながら、誰にでもなく言った。

「あ~あ、私にも何か出来ることはないかな~?」

「この世に出来ないことなんてないと思うけどね」

「え?」

突然の海東の言葉に佐天はドキッとした。

「やろうと思わなければ何も出来ない。だったらやってみればいい」

それは佐天自身が一番分かっている言葉だった。

「でも、出来ないんですよ……。私、才能も何も無いから、やろうって気持ちさえ出て来ないんです」

「ならやらなければいい」

「でも……!!」

「難しく考えすぎだと思うけどな」

海東はお馴染みの指鉄砲のポーズをして、佐天へ向けた。

「人生は楽しみたまえ」

それだけ言うと、海東はその場を去っていった。

「あ!ちょっと……」

佐天が呼び止める間もなく海東の姿は消えてしまった。

本当に雲のように掴み所の無い人だな、と佐天は思った。

「楽しみたまえって……」

その言葉が妙に佐天の胸に残っていた。



[20248] 第6話 『目的』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:3803d8be
Date: 2010/07/21 00:04
「なるほどな……大体分かった」

士たちは月詠小萌のアパートにいた。

彼女の部屋は、タバコの吸い殻で満たされた灰皿が置かれたテーブルにビールの空き缶散乱する床、

ヤニで黄ばんだ壁と、その幼い外見に似合わない男臭さを醸し出していた。

とても妙齢の女性が住んでいるとは思えない内装である。

部屋の中はそれなりの広さがあるものの、3人の来客によって、スペースに若干余裕が無くなっていた。

それを見て取って、夏海やユウスケは申し訳ないといった感じで部屋の隅に縮こまっていたが、

士はそんなことはお構いなしといった感じで足を広げながらくつろいでいた。

(相変わらず不貞不貞しい奴だなあ)

ユウスケはそんな士に呆れながらも、半ば感心していた。



士たちはこの世界の情報を得るため、この世界の住人――――月詠小萌と接触した。

小萌に自分たちが異なる世界を旅している。と話すと、小萌はとても興味深そうな顔で士たちの話を聞いていた。

その後、士たちが小萌からこの世界のことを聞こうとした時に、

「立ち話もなんですから……」と小萌のアパートへ案内されたのだった。



「大体……って、大体じゃダメですよ!」

小萌は教師らしく、士を窘めるように言った。

「大体で充分だ。要するにこの世界は能力者ってのがいて、レベル5が一番凄いってことだろ?」

「間違ってはいませんけど、それは要約し過ぎです!」

「間違ってないならそれでいいだろ」

「もー、門矢ちゃんったら」

何時の間にか、ちゃん付けにされていた。

小萌は早速買ってきたばかりのビールと袋に入ったイカの燻製を取り出した。

「イカでビール、ですか」

それを見た夏海は、ぽつりと言った。

すると士がそれを諌めるように首を振った。

「夏みかん。その言葉は不吉だからあまり言うな」




その頃……。

「いっきし!」

写真館の中から大きな声が響いた。

「どうしたの?栄次郎ちゃん。風邪?」

白いコウモリが羽をパタパタさせながら心配そうに聞いた。

すると、栄次郎と呼ばれた老人はすぐに笑顔で鼻をすすった。

「いやー、大丈夫だよキバーラちゃん。誰かが私の噂をしていたのかな?ハハハ」

「流石栄次郎ちゃん!男前~」

「ハハハハハ、いやー照れるねー」

1人と1匹(?)の笑い声が辺りに響いた。




小萌はイカの燻製の袋を破って、中から1つ摘んで口に入れた。

「それにしてもあなたたちは不思議ちゃんなことを言いますねー。別の世界からやって来た!なんて。そんなこと誰かに言ったら、普通はお医者さん呼ばれて、頭が痛いの痛いの飛んでけー!なのですよ」

「やっぱり信じられませんか?」

夏海が尋ねると、小萌は首を振った。

「でも、別の世界の存在っていうのは、科学的にはそこまで突拍子の無いことでもないのです。仮説の域は出ちゃいないですけど、別次元の存在やパラレルワールドの存在なんかは、今でも偉い学者さんたちが話し合ってあーでもない、こーでもないってやっていますし、それに……」


小萌の講釈が始まると、途中からユウスケは頭をポリポリと掻き始めた。

どうやら小萌の話をあまり理解出来ていないようであった。

ユウスケは士の隣へ移動してきた。

「おい、士。さっきから何言ってるか分かるか?」

「……………………」

「士?」

「……。あ!……ああ、大体な」

目を擦りながら士は答えた。

「本当かよ!というか今寝てなかったか?」

士はユウスケの指摘を無視して、机の上のイカの燻製を1つ口に入れた。

ユウスケはそんな士を見て、ハァ~とため息をつく。

「ったく、士は……。ん?」

その時、ユウスケの元へ1人の少女が近付いてきた。

何故か巫女装束のような服を着ている。

少女は先程から部屋の中にいたものの、誰も気にかける者はおらず、ユウスケも今、少女の存在に気付いたのだった。

「な、なんだい?」

笑顔で言ったつもりだったが、慌てていたため、それが引きつったものになっているのが自分でも分かった。

「あ、別にいいの……。どうせ私は影が薄いし……今まで気付かなくて当然」

少女の顔は心なしか曇っていた。

「え?そ、そんなことないよ!」

ユウスケがそう言うと、少女は表情を変えずにユウスケの顔を見ていた。

「…………じーっ」

「ん?何俺の顔をじっと見ているの?」

「……あなた、私にとてもよく似ているわ」

「え?」

少女は手を合わせる。

「ご愁傷様」

「ええっ!?」

何だか分からないが、ユウスケは物凄いショックを受けた気になった。


「ユウスケ?どうしましたか?」

何故か落ち込んでいるユウスケを見て、夏海は不思議そうに首を傾げた。



「小難しい話はもういい。最近起きてる妙な事件とかあったら教えろ」

士は小萌の講釈を強引に終わらせた。

まだまだ話し足りなかったのか、小萌は少し不満な顔をしていたが 、すぐに気を取り直した。

「じゃあ、この話はまた今度にしましょうね。……それで、ええと最近起きた妙な事件。というと吸血鬼事件ですかね」

「吸血鬼事件?」

吸血鬼と聞いて、巫女装束の少女がピクッと反応したが、すぐに自分に関係ないことを悟ると、無関心を装った。

「そうなのです。最近、巷で話題のホットなニュースなのですよ。ここ2~3日で上位レベル能力者の学生が次々と吸血鬼に襲われてるって話です」

「犯人は分かっているのか?」

士が尋ねると、小萌は首を横に振った。

「それが、犯人はどうも特定の人物じゃないみたいですねえ」

小萌はイカの燻製を一掴みすると、それを頬張った。

「たまたま能力を使って逃げ切った子が何人かいますが、犯人像がバラバラだって話だそうです。ただ……」

「ただ?」

「犯人はみんな顔に変な模様を浮かべたそうですよ。まるでステンドグラスみたいな――――」

「ステンドグラス……か」

「それってやっぱり……」

夏海がそう言うと、士は夏海の顔を見て肯定するように頷いた。

「なるほどな。そいつらはファンガイアだ」

「ふぁん……がいあ?何ですか、それは?」

「この世界には存在しないものだ」

ぶっきらぼうに言うと、士は難しい顔をして考え込んだ。

(……スーパーショッカーの残党かと思ったが、どうやら話を聞く限りじゃ、この世界で暴れているのはファンガイアだけみたいだな。ということはファンガイアを率いている奴がいるってことか)

ファンガイア単体には世界を渡る力は無い。

となると、必然と世界を渡ることが出来る者の協力が不可欠だ。

士の脳裏にはある男の顔が浮かんでいた。

(鳴滝……)

鳴滝。

チューリップハットにコート、眼鏡をかけた出で立ちの全てが謎に包まれた男。

ただ一つ確かなのは、ディケイドに強い恨みを持っているということ。

これまでも様々な世界でディケイドの悪評をその世界の住人に吹き込み、士たちの旅を邪魔してきた。

時にはスーパーショッカーの幹部になってまでディケイドを排除しようとしたこともあった。

それ程までに鳴滝はディケイドを憎んでいた。

その理由は士にも分からない。

鳴滝には世界を渡る力や他の世界から何者かを連れて来る力がある。

今回の事件にこの男が関わっているだろうということは想像に難くなかった。



「あれ?これって……」

夏海は床に落ちていたパンフレットらしきものを拾った。

表紙には可愛らしい女子中学生が笑顔で写っている。

夏海はその表紙に写っている女子中学生の制服を指差した。

「士くん、この制服。さっきのファンガイアが追いかけてた子たちの制服と同じじゃないですか?」

「ん?そうだったか?」

「ああ、それは常盤台中学校の制服ですよ」

小萌がイカの燻製を頬張りながら答えた。

「常盤台中学校?」

「はい。学園都市でも有名なお嬢様学校で、何と!学園都市に7人しかいない超能力者(レベル5)の1人、御坂美琴さんもいるんですよ」

「超能力者(レベル5)?確か、一番凄かったのがレベル5だったっけか」

ユウスケは小萌の話を思い出していた。

「御坂美琴さん以外にも、高いレベルの能力者が大勢いますし、正にエリート集団って奴ですね」

「なるほど、読めてきたぜ」

「どういうことなんですか?士くん」

「奴らは能力者ばかりを狙ってる。何故か?能力者のライフエナジーが普通の奴のライフエナジーより優れているからだ」

「はい」

「となると、高レベルの能力者が集まってる学校なんて、奴らにとっては最高の餌場ってところだろうな」

「え!?それって……」

「さっきの奴は大方その常盤台中学校の生徒の後を追って、学校の場所を調べようとしてたんだろう」

「で、でも、さっきのファンガイアは士くんが倒しましたよね?もう大丈夫なんじゃないですか?」

「全く、お前は相変わらず夏みかんだな。この世界にいるファンガイアは1体や2体じゃない。他の奴がとっくにその学校の場所を見つけていてもおかしくないだろ?」

その言葉に夏海は真っ青になる。

「それじゃあ、その御坂美琴ちゃんって子や他の生徒が危ないじゃないですか!」

「士!早くその常盤台中学校へ行こう!」

ユウスケが立ち上がる。

「そう、だな」

士はまだ腑に落ちていないことがあった。

(問題は一体誰がファンガイアを引き連れているか、ってことだが……)

鳴滝はディケイドを倒す為ならどんな手段も使うが、ここまであからさまに世界の崩壊を手助けたりはしない。

(考えても答えは出ない、か)

それならば、この目で見るのが早い。

士は立ち上がると、素早く小萌の部屋を後にした。

夏海、ユウスケもそれに続く。

「あ、門矢ちゃん!常盤台中学校の場所分かりますか~!?」

「大体分かってる!」

「大体じゃダメですよ~!」

小萌が玄関のところへ行った時には、既に3人の姿は見えなくなっていた。

「早い……」

巫女装束の少女がボソっと呟いた。

小萌は玄関の戸を閉めた。

「全く……。門矢ちゃんを見ていると、何かあの子を思い出しますね~」

小萌はツンツン頭で何処か回りくどい喋り方をする少年の顔を思い出していた。

時計を見ると、もう晩御飯の時間であった。

「姫神ちゃん。今日は何が食べたいですか?」

「……お肉だったら嬉しいかも」

「それじゃあ、今夜は豪華絢爛焼肉セットでも奮発しちゃいますか」

不思議な来客との出逢いで、小萌は何となくそんな気分になっていた。





常盤台中学校学生寮前――――

明らかに不審な男が数人。

学生寮前に屯していた。

「クククク……ここは匂う、匂うぞ」

「極上のライフエナジーの匂いだ……」

「もう待ち切れないぜ……」

男たちは全員顔にステンドグラスのような模様を浮かべていた。



その様子を離れた場所から見ている男が1人。

「おのれディケイド……貴様のせいでこの世界も破滅へと向かっている」



[20248] 第7話 『狩り』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:7a23357d
Date: 2010/07/24 21:32
「あら、お姉様。どちらへ行かれるんですの?」

部屋を出て行こうとした美琴は、黒子の問いにふと立ち止まった。

とっくに寮の門限時間は過ぎていたが、このくらいの時間帯ならば皆、寮監の目を盗んで普通に外出している。

校内トップクラスのお嬢様である美琴も例外ではなく、常盤台の制服を着替えることはなく、その格好のまま外出しようとしていた。

「ちょっとコンビニ……」

美琴はそれだけ言うと、黒子の顔も見ずに部屋を後にした。

その背中を見送ると、黒子はハァーとため息をついた。

「コンビニって感じではありませんわね」

ここ最近、美琴がこのくらいの時間に何処かへ行っては夜遅くに帰って来る。

といった行動を繰り返していることを黒子は知っていた。

帰って来た時にはいつも沈痛な顔つきをしていたのが印象的だった。

黒子は何度か美琴の後を尾行しようかと考えたことがある。

しかし、そういう時の美琴は何処か立ち入ることを躊躇わせるようなオーラを発しており、

ここで興味本位で美琴の後をつけていって、それでバレた時のことを考えたら……。

そんなこんなで黒子は美琴の追跡を毎夜、泣く泣く断念していたのだった。

「ハァ、しょうがありませんわね。では……」

黒子は美琴が部屋を出たことを確認すると、隣の美琴のベッドへ勢い良くダイブした。

「あ~~、お姉様の麗しき香り……!!」

美琴がいない間にこうして美琴の残り香を直に味わう。

黒子が美琴を尾行しない理由の1つがこれだったりもする。

「あー、お姉様ぁーん」

不気味な猫なで声をあげながら黒子は1人ベッドの中で悶えていた。



「お前たち、こんなところで何をしている?」

少し目つきのキツい女性が学生寮の入り口に屯している男たちへ言った。

彼女はこの学生寮の寮監であった。

男たちは何も言わず、ただニヤニヤした顔で彼女の顔を見ていた。

「いい加減にしないと警備員(アンチスキル)を呼ぶぞ!」

彼女がそう言うと、男の中の1人が口を開いた。

「それは困る。騒ぎになる前にやっちまおうか」

男の顔にステンドグラスのような模様が浮かんだ。

すると、男の姿が化け物のように変化していく。

「な!?」

突然の変異に彼女は後ずさった。

他の男たちも次々とその姿を化け物へと変えていった。

化け物の姿はそれぞれ昆虫に酷似していた。

その中の1人、ハサミムシに酷似した姿を持った男が、門の隙間に手を入れ、そのまま彼女の首根っこを掴んだ。

「ぐっ!?」

人間離れした力で彼女の首を締め付けると、そのまま簡単に持ち上げてしまった。

「フンッ!」

その後、男は彼女の体をまるで紙屑のように放り投げた。

「ぐはっ!」

地面に叩きつけられると彼女は潰れたような声を出した。

その後、ぴくりとも動かなくなる。

どうやら、衝撃で彼女は気絶してしまったようだった。

男たちはそれを確認すると学生寮の門を破壊し、彼女には目もくれずに堂々と中へ入っていった。



突如現れた化け物の集団に寮内は騒然となった。

男たちは品定めをするかのように、寮内を見渡している。

「素晴らしい……。極上のライフエナジーに溢れている」

「これだけあれば、きっとあの御方も満足するだろう」

男たちは次々と称賛の声を上げる。

「じゃあ、早速……」

「そこの殿方たち!ここを何処だと思っていらっしゃるのかしら!?」

男たちの前に1人の少女が立ちはだかった。

少女は男たちを見下ろしながら、豪奢な扇子を広げてパタパタと扇いだ。

とてもサラサラとした髪が扇子の風で靡いている。

少女の名は婚后光子。

レベル4の能力者である。

2学期から常盤台中学校へ転入する予定で一足先に入寮していた。

婚后光子は化け物姿の男たちを目の前にしても怯むことはなく、高い場所から見下ろしている。

「こんな連中、私の空力使い(エアロハンド)で、ちょちょいのちょいですわ」

そう言うと、「ホーッホッホッホ」と高笑いした。

目の前に立ちはだかった少女に、男たちは驚きの声を上げた。

「こいつは凄いライフエナジーを感じる!」

「よし、まずはこいつから頂くとするか」

アリジゴクに酷似した姿を持った男がニヤリと笑うと、婚后光子の背後に透明な牙が2つ現れた。

婚后光子はその牙の存在に全く気付いていない。

透明な牙が婚后光子に襲い掛かる。



「全く、何をやっているんですの!」

その時、黒子がテレポートで婚后光子の側に現れた。

素早く婚后光子の体に触れると、その場からテレポートする。

間一髪、透明な牙は空を切った。

「何だあ?」

その一瞬の出来事に男たちは面食らっていた。



男たちから少し離れた場所へ2人は現れた。

「あ、あなたは白井黒子!!一体何のつもり!?」

婚后光子が強い口調で言うと、呆れたように黒子はため息をついた。

「あなた、あのままなら死んでいましたわよ」

「な!?」

「何なんですの?あの化け物どもは……。でもこれ以上の蛮行は風紀委員(ジャッジメント)として見過ごせないですの!」

黒子は婚后光子をその場に置いて、再び男たちの元へとテレポートした。

「あ、ちょ、ちょっと待ちなさ……」

婚后光子が黒子の後を追おうとすると、足元に何もないのに前のめりにつんのめって、膝をついた。

どうやら、何時の間にか腰が抜けていたらしい。

「し、白井黒子。きょ、今日のところは手柄を譲ってさしあげますわ!ホーッホッホ……ホ……」

婚后光子は力なくその場にへたり込んでしまった。



「何者かは存じ上げませんが、ここはあなたたちがいるべき場所じゃありませんことよ」

男たちの背後から声がした。

振り返ると、そこに黒子がいた。

黒子が再び現れると、男たちは馬鹿にしたように笑った。

「死にに戻ってきたか」

カマキリに酷似した姿を持った男が黒子へ歩み寄っていく。

「見た目で判断するのは素人ですわよ」

黒子はスカートに手を添えた。

すると、一緒の内に男の頭に金属の針のようなものが刺さった。

「何っ!?」

男は突然のことにたじろいだ。

「だから見た目で判断するのは素人だと申し上げましたのに……」

黒子は冷たく言い放った。

「油断は即、死。ですの」

言い終わらない内に、黒子は男の脇へとテレポートした。

すると、また目に見えない速さで男が地面に仰向けで倒される。

再び黒子がスカートに手を添えると、今度は空中にたくさんの金属針が現れた。

そして、全てが男の体に突き刺さっていった。

「まず1人。次はあなたたちですの!」

黒子が男から目を離した一瞬。

仰向けになった男は何か粘液のようなものを黒子へ向けて吐き出した。

ネバネバした液体が黒子を包み込む。

「!?」

「今度はお前が油断したなあ?」

仰向けになっていた男は体から金属針を抜くと、まるで何もなかったかのようにすくっと立ち上がった。

黒子の攻撃は男に殆どダメージを与えてはいなかったのだった。

(いけない!早く距離を取らなければ!)

瞬間的にそう思ったものの、突然の攻撃に動揺して上手く演算が行えない。

その間にも黒子に絡みついた粘液はすぐに硬質化し、彼女の体を締め付け始めた。

「何なんですの!?体が動かな……」

男はカマ状の手を振りかざしながら黒子へ歩み寄る。

「さて、では貴様のライフエナジーを頂こう」

(まさか、私がこんなところで……くっ……!お姉様……!!)

黒子は死を覚悟した。

その時、けたたましいエンジン音が聞こえてきた。

1台のバイクが凄い速さでこちらへ向かって来ている。

次の瞬間、黒子の側にいた男は衝撃とともにはね飛ばされた。

「ぐはあ!」

思わず男の口から呻き声が漏れる。

「な、何ですの……?」

目の前の状況に唖然としていた黒子は、バイクに乗った青年を見る。

青年はヘルメットを取ると、華麗にバイクから降りた。

「やれやれ、どうにか間に合ったか」

バイクの青年は門矢士であった。

「おい、貴様ぁ……。何したか分かっているんだろうな?」

バイクに轢かれた男がすぐに立ち上がると、間髪入れずに士に襲い掛かった。

すると、士は素早く男の動きに反応し、その長い足で蹴りを放って、男を迎撃した。

そして、体勢を整えると何処からか玩具のベルトのようなものを取り出して、腰に装着する。

「やれやれ、とっとと片付けるか」

そう言うと、士はカードを1枚取り出して、ベルトに素早くセットした。

「変身!」



『KAMEN RIDE』


『DECADE』



ベルトから電子音のような音声が発生すると、いくつもの影が士の体へ重なる。

そして、士の体がマゼンダカラーの鎧と仮面に覆われた。

仮面ライダーディケイドの姿である。

「さあて、行くか」

士はライドブッカーを銃のように構えると、男たちへ向かって発砲した。

光弾が命中して、男たちの体から火花が飛び散る。

「うわあ!!」

思わず男たちは後退する。

黒子は目の前の光景をただ見ていることしか出来なかった。

「な、何なんですの……?あれは?」

「大丈夫ですか!?」

突如黒子の目の前に1人の女性が現れた。

光夏海である。

夏海は黒子の体を抱え、その場から離れようとした。

「!?逃がすかぁ!!」

ハサミムシに酷似した姿を持った男が夏海たちの元へ行こうとする。

「ハァッ!!」

その時、また1人仮面の男が現れ、男に向かってジャンプしながら拳を叩き込んだ。

男は突然の攻撃を避けることが出来ずに食らってしまい、勢い良く倒れた。

「ユウスケ!」

「夏海ちゃんはその子を安全な場所に!」

仮面の男は小野寺ユウスケ。

そして彼の今の姿は仮面ライダークウガであった。

「はい、分かりました!」

ユウスケの言葉を聞いた後、夏海は黒子を連れて、少し離れた場所へ移動した。

男たちから離れると、黒子は夏海を怪訝そうな顔で見た。

「あなたたちは一体……?」

「助けに来ました」

夏海はそう言うと、士とユウスケの方へ向き直った。

視線の先では2人の仮面ライダーとファンガイアたちがそれぞれ向き合っていた。



[20248] 第8話 『邂逅』
Name: 鳴多鬼◆cae8ac74 ID:4ad07d12
Date: 2010/07/25 03:37
「ったく揃いも揃って虫ばっかだな」

士は目の前のファンガイアたちを見回すと吐き捨てるように言った。

「士、それ、俺には言ってないよな?」

ユウスケの問いを無視して、士はカードを1枚取り出した。

「虫相手には虫だ」

そう言うと、ベルトのバックルにカードをセットする。



『KAMEN RIDE』


『BLADE』



電子音の後、士の目の前にオーラ状の壁が現れた。

「ハッ!」

それを走ってくぐり抜けると、特徴的なベルトのバックルを除いて、

ディケイドのマゼンダカラーの鎧と仮面が甲冑のような重々しい姿へと変わった。


「姿が変わった?」

黒子は士の変化に目を見張った。

学園都市の能力者の中には見た目を変える能力を持つ者もいる。

だが、士のそれは、方法からしても明らかに特異なものであった。


「見た目が変わったから何だと言うのだ?」

ハサミムシの姿をしたイヤーウイッグファンガイアがせせら笑う。

「どうかな?変わったのは見た目だけじゃないぜ」

士は再びカードを1枚取り出し、ベルトのバックルの中に投げ入れた。



『ATTACK RIDE』


『MACH』



士は目にも留まらぬ速さで動き始めた。

「何!?」

驚く間もなく、高速のパンチとキックがファンガイアたちへ繰り出された。

ファンガイアたちは反撃する隙も無く、一方的に叩きのめされる。

カードの効果が切れて、士が通常のスピードに戻った時には、ファンガイアたちはそれぞれ地面に倒されていた。

「く、くそ!何だ今の攻撃は?」

ファンガイアたちがよろよろと起き上がって来る。

士はパンパンと手を払うと、ライドブッカーから刃を出して、剣のように構えた。

「来い……終わらせてやる!」

「士!俺もいるぞ」

ユウスケも士の隣に立ってファイティングポーズを構える。

明らかに劣勢に立たされたファンガイアたちは、2人から距離を取り始めた。

「ちっ、ここは退くぞ!」

アリジゴクの姿をしたアントライオンファンガイアは、出入り口の方へ走り出した。

「あの御方へ伝えなければ……!!」


その時、強い光がアントライオンファンガイアの目の前を覆った。

「な、何だ!?うわああああああああああ!!」

アントライオンファンガイアは避ける間もなく光に飲み込まれる。

光が過ぎ去った後、影だけを残してアントライオンファンガイアの姿は消えていた。


バチバチ───────


電流が地面を走る。


それを見た黒子の目がパァッと明るくなる。

「あれは!!」

「……ったく、寮が騒がしいと思って戻ってみたら、またこの化け物たちなの!?」

前髪にパチパチと火花を散らしながら、1人の少女が寮内へと足を踏み入れた。

少女の姿を見て、黒子は歓声を上げた。

「お姉様!」

夏海は目の前の出来事にただ茫然としていた。

「あの子は一体?」

思わず黒子へ尋ねた。

すると、黒子は夏海に自慢気な表情を見せた。

「ご存知ありませんの?あの方こそ、我が常盤台中学校が誇る超能力者(レベル5)、御坂美琴お姉様ですの!」

「あの子が……!?」

夏海は改めて美琴を見た。

凛々しい表情をしていたが、何処か幼さを残す顔立ちが自分に似ているような気がした。

士も美琴の方へ視線を向けた。

「あれがレベル5の力って奴か」

感心したように言う。

と、何かを思い付いたかのようにまた新しいカードを1枚取り出した。

「じゃあこっちも電撃で行くか」

カードを美琴に見せつけるように掲げて2,3度振ると、素早くベルトのバックルの中にセットした。



『FINAL ATTACK RIDE』


『B B B BLADE』



すると、士の持つライドブッカーに電撃が迸った。

「ハァッ!」

掛け声とともに空中へ飛び上がり、ライドブッカーをイヤーウイッグファンガイアへ向けて振り下ろした。

電撃を纏った斬撃がイヤーウイッグファンガイアの体を切り裂く。

「ぐああああ!!」

断末魔を上げながらイヤーウイッグファンガイアは爆散した。


「あれは!?お姉様と同じ電撃!?」

黒子は士の見せた技に驚きの声を上げた。

しかし、すぐに思い直すように首を振った。

「で、でもお姉様の方が強いですし、エレガントですの」

黒子は敬愛の眼差しで美琴を見つめた。

当の美琴は黒子と目が合わないように視線を外していた。


「な、何だと……?き、貴様らは一体……?」

「この世界をお前たちの好きにはさせない」

ユウスケはマンティスファンガイアを睨み付けると、両手を広げた。

腰を落とし、封印エネルギーを右足へ込め始める。

「はああああああ……!」

右足へ封印エネルギーが集中していく。

「ハーッ!」

力強く地面を蹴り、空中へ飛び上がると、ユウスケは残ったマンティスファンガイアへ向けてキックを叩き込んだ。

「うおおおおおおおお!!」

キックを受けた衝撃でマンティスファンガイアは勢い良く飛んでいき、そのまま爆発した。

「終わったか……」

それを見届けると、士が呟く。

何時の間にかディケイドの姿へと戻っていた。

(それにしても……)

士はファンガイアの内の1体が言った言葉を思い出していた。


あの御方へ伝えなければ……!!


(あの御方……。つまり、黒幕がいるってことか……。一体誰なんだ?)

物思いに耽る士の姿を美琴はじっと見つめていた。





ファンガイアたちの襲撃から約1時間が過ぎていた。

士とユウスケは既に変身を解き、元の姿へと戻っていた。

寮内は美琴の活躍により、黒子を始め彼女に憧れを抱く学生たちの歓声に包まれていたが、

暫くすると、外で気絶していた寮監が戻って来て、

「何を騒いでる!」

と、学生たちを一喝。

寮内はしんと水を打ったように静まり返った。

美琴は寮監の目を盗んで士たちを外へ呼び出した。

(あの寮監に見つかったらただじゃ済まないな)

そう士は判断して、美琴の呼び出しに応じて外へ出た。



「で、アンタたちは一体何者?あの化け物とどんな関係?」

外へ出るなり美琴は再び臨戦態勢を整え、士たちに向き直った。

返答次第では、すぐにでも先程のような電撃が飛んで来そうな様子だった。

「それにあの格好……。あんなパワードスーツ見たこと無い」

美琴は訝しげな目を士たちへ向けた。

「それに姿を変えたと思ったら、お姉様と同じ電撃の能力を使ったりと、見たことのない能力をお使いでしたの」

突如、黒子が現れた。

どうやらテレポートでやって来たらしく、誰も彼女の接近には気が付かなかった。

「一体、アンタたちは何なの?」

美琴が詰め寄ってくる。

あまりの気迫にユウスケが慌てる。

「べ、別に俺たちは怪しい者じゃないよ!本当!マジで!」

「怪しさ100%ですの!」

ここでこの世界の住人と敵対するのは得策じゃない。

そう思って、なるべく親しみやすそうに言ったが、あまり効果は無いようだ。

「ったく、何下手に出ているんだか」

そんなユウスケを見て、士がボソッと言うと、そのまま美琴を睨み付けた。

「気に入らねえな」

「ハァ?何よアンタ?」

美琴は返す刀で士を睨み返した。

「その態度が気に入らねえって言ってるんだよ」

「何言ってるんですか士くん!」

士の言葉に夏海は眉をしかめる。

「何でいつもそんな喧嘩腰なんですか!」

夏海が諌めるように言った。

しかし、士は構わずに続ける。

「年上をアンタ呼ばわりか。目上の人間に対しての礼儀がなってないな」

「お前がそういうこと言うか?」

ユウスケは士の言葉に思わず突っ込んだ。

士はチラッとユウスケの方を見たが、何も言わずにすぐ美琴へ視線を戻した。

「レベル5だか何だか知らんが、所詮はただのガキだってことだ」

「ガキ……ですって?」

「ああ、小便臭いガキだな」

その言葉は美琴のプライドを傷付けるのに充分であった。

美琴のこめかみに青筋が浮かぶ。

「まあ!お姉様に何てことを!?」

黒子は絶句した。

「何だ、一丁前にガキと言われたのがショックなのか?」

美琴の様子を見た士は馬鹿にしたように肩をすくめた。

「ガキをガキって言って何が悪いんだ?」

「アンタねえ……」

士と美琴の視線が交差する。

一触即発の雰囲気。

美琴の前髪にパチパチと先程のような火花が散り始めた。

「あ、お姉様……、いくらなんでもここでは……」

黒子が止めようとしたその時。

「笑いのツボ!」

夏海が親指で士の首筋あたりを勢い良く突いた。

一瞬の間を置いて、士は笑い始めた。

「ハハハハ、な、何をする!?夏みかん!!ハハハ」

「美琴ちゃんに謝って下さい!」

「な、何でだ!ハハハハ」

士が笑い転げていると、夏海は美琴の前に立って頭を下げた。

「……ごめんなさい美琴ちゃん。士くんに代わって私が謝ります」

あまりに深々と頭を下げる夏海に対し、美琴はハッと我に返った。

「あ、いえ、いいんです。私の方こそごめんなさい。よく事情を聞きもしないで……」

美琴は売り言葉に買い言葉でムキになった自分を少し反省した。

「分かってくれましたか?」

夏海は顔を輝かせた。

「……でも、あなたたちも凄く胡散臭いことには変わり無いし」

少し前より軟化した態度になったものの、美琴は士たちを完全に信頼したわけではなかった。

「それもそうですね。それではお話します。私たちのことを」

夏海は自分たちのこと、この世界に起きた異変、そしてファンガイアについて美琴たちに話した。

一通り説明を終えると美琴と黒子は信じられないといった顔をしていた。

「別の世界って、そんなの信じられるわけないじゃない」

「ファンタジー過ぎますわ」

「でも、君たちも見ただろ、あの化け物を」

ユウスケの問いに美琴と黒子は押し黙った。

ファンガイアの存在は夏海の説明にこれ以上無いというくらい真実味を持たせていた。

2人は何かを考え込むような顔をした。

「全てを鵜呑みにするわけじゃないけど……」

暫くすると、美琴が顔を上げて夏海の目をしっかりと見据えた。

「夏海さんたちが悪い人じゃないってのは信じても大丈夫……だと思う」

「1名は除きましてね」

黒子は横目で士の方を見た。

「ったく、可愛げ無いな。そういうところがガキだって言ってんだよ」

士は黒子の皮肉に言い返した。

「またガキって言ったわね!」

美琴は再び士を睨む。

「ガキって言われたくなければ俺の質問に答えろ」

一転して、士は真面目なトーンになった。

「……何よ?」

美琴も空気を呼んで、士を睨み付けるのを止めた。

「お前、さっきファンガイアと戦った時、『またこの化け物たちなの!?』とか言ってたな。『また』ってのはどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。あいつらと会ったのは今日が初めてじゃない」

「初めてじゃない?」

「そうよ、昨日も一昨日もあいつらと出会って、それで……戦ったわ」

美琴の言葉に士たちはそれぞれ顔を見合わした。

「どうやら詳しく話を聞かせてもらう必要があるみたいだな」





「ハァ…、ハァ…」

ゴーグルを付けた少女が誰もいない暗闇の路地を走っていた。


コツ、コツ……


少女の背後に2本の透明な牙が現れる。

「…………!!」

次の瞬間、少女の首筋に透明な牙が突き刺さった。

すると、少女の体は色を失っていき、透明になった頃には、完全に意識を失っていた。

そのまま地面に倒れると、少女の体は粉々に砕け散ってしまった。


コツ、コツ……


暗闇の路地へ月明かりが差し込む。

その光に、眼鏡をかけた長髪の男の病的な顔が照られた。

男は牧師のような服を着ていた。

「ククククク……これで20人……」

男は不気味に笑う。

「素晴らしい……。これだけのライフエナジーを簡単に大量に調達出来るとは」

男は舌なめずりすると、狂信的な祈りを夜空へと捧げた。

「キング……あなた様の復活ももうすぐです」


ザッザッ……


何体ものファンガイアが男の下へ集ってきた。

男はファンガイアたちの方へ向き直った。

「今まで、一部の者を除き、お前たちは適当にライフエナジーを集めていたな?だが、これからはターゲットを絞らせて頂く……」

そう言うと、男は懐から写真を1枚取り出した。

「この少女を狩るのだ……」

写真の中には、ゴーグルを付けた少女の顔が写っていた。

「私や私に付き従う者たちは毎夜この少女を狙っていた。この少女のライフエナジーは素晴らしい……」

ファンガイアの間に軽いざわめきが起こり始める。

「この少女は、どうやら他に同じ姿をした固体が何体も存在しているようだ。……都合が良い。我々にとっては」

男は力を込める。

「この少女を捕らえ、ライフエナジーを奪え!そして手に入れたライフエナジーを私のところへ!」

ファンガイアたちは頷き、それぞれ闇へ消えて行った。

男はそれを満足そうに見守ると、その場から去ろうとする。

「!?」

ふと、右手に痺れる様な痛みが走った。

「……あの少女」



それは昨夜のこと。

例の少女からライフエナジーを頂く際に、今までとは違って苦戦を強いられた。

その少女はいつもと異なり、特徴的なゴーグルをしていなかった。

そして少女は抵抗の末、逃げてしまった。

その時、右手に電撃のような攻撃を受けたのだった。



「まあいい」

月が雲に覆われ、辺りを闇が支配し始める。

男は深い闇の中へと消えて行った。


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