チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20607] 【初投稿・習作】信ONをネタに書いてみた【VR物】
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:24
数多あるVRMMO物が大好きで、自分でも書いてみた。

VR物多いけど1年2年更新ないのも多いですよね。
続き読みたいものが沢山あります。

文章書くのも初めてなので駄文です。
投稿しようとしたら、赤線だらけでした。
駄文なりに完結目指して、ぼちぼちやりたいと思います。
信長の野望オンラインをネタにしてるので、脳内補完してて分かりづらいかもしれません。
よろしくお願いします。



[20607] 序章
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:19



――――信長の野心VRオンライン合戦場での一幕――――

街道沿いの小高い丘の陣をめぐって、激しい戦いが始まった。

敵の傾奇者(かぶきもの)が地勢操作で場の火属性を上昇させると同時に陰陽師達の攻撃術『火弾・壱』が降り注いでくる。
このゲームでは遠距離ほど低級の術に適性がある。
味方の陰陽師も迎撃に入っているが人数差で圧倒されている。
合戦が始まってから十幾度目かのの『孔雀明王法』を使う。紫煙の靄が大部分の炎を散らすが、僅かだが着実に『生命力』を削ってくる。
術の一斉射の後に敵の突撃が開始された。
鉄砲隊と陰陽師隊が射程の長いものから順に迎撃に入る
丘にいる分こちらの方が射程が長いし有利ではあるが、相手もさるもので、侍と鍛冶屋を前面に神職は補助を薬師は頭を下げながら回復に専念、前衛が弾や術を打ち払い、時には体に受けつつ、じりじりと前進してくる。

皆の注意が前方に注がれている中、後方で幾人かの叫び声が上がった。
忍者ばかりの別働隊がほぼ崖に近い側面を駆け上がってきのだ。

やや後方に近い所にいた自分は一人の忍者を相手取る。
忍者の動きがこれほどまでに厄介だとは思わなかった。
数値的には自身の1.2倍程の素早さだが、先手先手を取られ、防戦一方だ。
敵が安直に急所を幾度となく狙ってこなかったら数十秒で倒れていただろう。
『一喝』を放つ、レジスト判定・・・どうやら失敗したようだ。
『魅力』はさほどないせいだろう、1秒ほどのディレイがかかる。
首を狙い攻撃する。
クリティカル発生、血しぶきが飛ぶ。
瀕死なのだろう、背中を見せ逃げに入った。
追い討ちをかける。
攻撃術『凍気壱』こちらの術発動の早さに驚いたのだろう驚愕の表情を浮かべている。
こちらの後衛職を数人倒していった忍者達の一人をようやく倒す。


後衛職とはいえ、攻撃技能がない訳ではない、多数で囲み残りの忍者を駆逐していった。
しかし、被害も大きかった。この陣ではもう数少ない薬師が全滅した。『転生』は使用されたが、1時間ほど技能の使用不可及び身体能力が低下する。
『蘇生』が使える者がいなくなった事で踏ん切りを付けたのだろう。
「右陣先鋒撤退に入る。」この陣のリーダー格の侍が号令をかける。
後10分ほど耐え、忍者共の死体が消えるのを待つべきだろうが、欲をかけば撤退の時期を逸する可能性もあった。

敵も特攻した忍者を見捨てるつもりもないのだろう。
混乱した隙をつき、幾人かの敵が陣に取り付き乱戦になりつつあった。
その中に刀を持った巫女装束姿の女性もいた。
このゲームで徐々に有名になりつつあった敵国のエースだった。

この状況下での無理な撤退はさらに犠牲を生むだろう。
NPCを突撃を掛けさせPCが撤退する時間を稼ぐのが最近の定石のようだが、劣勢な国力・軍資金温存の為、この国では、PCから前衛の決死隊を募り、陣守備に有用な後衛職はNPCと共に撤退させる。
合戦の場合、個々の技量も大事だがNPCも含めた人数がより重要だった。
開戦から休憩を挟みつつ3時間ほど、比較的劣勢な人数でよく守った方だろう。
自分はあらかじめ決死隊への参加を希望していた。
どうせ後1時間ほどで今日のログイン時間は終了だった。
――明日は墓場からリスタートか。


怪我人は馬に乗せ先行させ、他は徒での逃走に入る。
敵の遠距離攻撃を打ち払いながらの逃亡戦。
殿の決死隊の面々が叫ぶ、

「そろそろ、いきますか」
「やべwwwいっぱいきたおwwwww」
「うちの軍師様使えないwwwwワロスww」
「ここの撤退で俺の知行領地陥落ww俺涙目ww」
「無双系!?そんなゲームじゃねぇからこれ!」
「これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!」
「逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ(ry」
アドレナリン全快で頭がやられたらしい。

足を止め、振り返る同時に、準備していた技能を放つ。
『手裏剣乱射』・『大喝』・『大音声』・『乱射乱撃』、相手も心構えがなかったのだろう、大概がレジストに失敗している。
数瞬遅れて、残りの面々が首を取りに掛かった。
一気に乱戦になってしまえば、後衛も手が出しにくい。
お互いに庇い合いながら、距離をとられない様に、取り付いていく。

この国の精鋭だけはあり、こちらの倍する敵を討ち取った所で決死隊全滅と相成りました。






―――とある国境での会話―――

「やっと抜けたぞ。」
「なんとか全滅は免れましたね」
「半分以上がやられたのか」
「抜け道の敵は現状のレベルで狩るのは不可能ですね。殿はほとんど全滅だそうです」
「合戦場の様子は?」
「全ての先鋒が落ちたようです」
「もともと少ない人数をさらに割り裂いたのによく戦った方だ。我々もやるぞ!」
「残り制限時間1時間です。」
「では、敵国城下町に向けて出発する。狙いは『両替商』だ!システム的に殺せなかったら火を付けろ!」
「おおおおおおお!!!!」






以下、公式ホームページの『戦国週報』より

両軍が国境で激突する戦いが4つも発生した先週。
当然領土の変化は大きく、順位もかなり変動している。

先週注目だったのは国力・兵力共に相手国を上回っていたA国とB国の戦い。
下馬評どおり、A国の完勝かと思いきや、B国は進入不可能と思われた山を越え、
A国城下町に攻め入ったようだ。

幸い、少数だったようで、残っていたNPCで撃退したようだが、
門は突破され、両替周辺は徹底的に燃やされたそうだ。
A国GMによると「両替商に預けてある皆様の荷物と貫は無事です。」とのコメントを頂いた。
これはB国にとって誤算だったのではないか。

また、両替商については、現在、後任の育成に取り組んでおります。
しばらくは、他国でのご利用をお願いしますとの事だ。

この事によりA国は、国境より攻め入っていた軍を一時退いたようだ。

各国に驚きを与えた、今後のB国の戦術に要注目だ
今週は合戦が多い。 お正月ではあるが、のんびり出来る情勢とは言えないかもしれない。
これからの年末年始、諸将とも忙しくなると思うが、自国の情勢にも注意を払って欲しい。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※火弾・壱:陰陽師の攻撃術の一つ。熟練度を上げれば十分実用レベル。射程が長い。
※孔雀明王法:僧の範囲術結界。制限時間が短い。
※転生:後衛職多数が使える怪我状態でのPCの復帰が可能。このゲームでは死ぬと一日のログインが終了する。
※蘇生:リスクなしで復帰可能な術。薬氏の特権。
※生命力:いわゆるHP。ヒットポイント。0になると死亡
※一喝・大喝・手裏剣乱射・乱射乱撃・大音声:基本痺れる術。大小ディレイがかかる。確立低~
※魅力:ステータスの一種。




[20607] はじまり
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/24 22:24
あの伝説のMMO!信長の野心オンライン50年のときを経て、がバーチャルリアリティになってきて帰ってきた!

いつも通りの朝、いつも通り新聞を広げ朝食をとっていると、テレビからそんな大仰なCMがででーんと流れた。

「信長の野心オンラインか・・・。」

誰もが一度は耳にしたことはあるだろう、KOUEYの名作SLGである。
若い頃、信長の野心オンラインに嵌り、人生設計の大事な部分で躓いた経験があった。
今でも、たまに後悔する事がある。やってなかったらどんな人生だったかと。
今がそんなに悪いわけでもないが、何もかもが普通の人生だったなと晩年思う所がある。
あの時こうしていればとか、年をとる毎に考えてしまう。

「・・お迎えが近いせいかの。」

齢83歳、購買意欲というものが絶えて久しい。
発売日が今日というのも何か運命的に感じられ、胸にふつふつと滾るものが芽生えた。

「久しぶりに、遠出するか・・・」

婆さんにに先立たれ数年、独り言が多くなってきたものだ。

歩いて1時間の駅に着き、昔とは比べ物にならないくらい快適になった電車に乗り隣町のベター電気を目指した。
過疎に悩まされている町を観ながらふと思う。

―――潰れてなけりゃいいがな




 
無事、潰れず残っていたベター電気で商品を見せてもらう。
よくわからない長ったらしい名前の睡眠式VR用の高級筐体だと紹介された。
まず、その大きさに驚く、6畳ぐらいの部屋は余裕で、専有しそうだ。
値札を見ると中古車の軽ぐらいの値段はした。車検的なものまであるらしい。
田舎の家電屋におくぐらいだから売れ行きもいいのだろう。

店員の話によると若干小さめの汎用の物は既に売り切れていて、これが最後のひとつということだった。
信長の野心は睡眠式筐体専用のソフトで、予約なしで今買えるのは運がいいとのこと。

年金暮らしにはきつい出費を強いられたが、まぁ他に買うものもないしと踏ん切りを付ける。
家に取り付ける費用でまた諭吉が飛ぶ。

寝床の隣の仏間においてもらう。婆さん、すまん。
店員に手伝ってもらいユーザー登録を済ます。店員は何か問題があれば呼んでくださいといい帰っていった。
ソフトの説明書を開くとまず、でかでかと注意事項があった。
年齢制限18~65歳。若干の体力が必要なので安全の為ご了承くださいとのこと。
あまり体力には自信はないのだが、飛んでいった諭吉を思えば、今さらやらないという選択肢はなかった。

「ま・・棺桶を買ったと思えばいいかの。」

気持ちが高揚する。十数年ぶりにwktk(死語)しながら筐体に入る。
死ぬかもしれないからか?いやいや。

睡眠式という事だったが、どういうこだろうか、筐体の説明書を中で開いた。

「・・・電源オン。」

スタート、開始、筐体の中でならなんでも音声認識するらしい。
老人に優しい設計でなによりである。
自動でコクピットのような扉が閉まり、前面の3DTVからゲームのオープニングデモが始まった。
音楽は前作のOPの曲ををアレンジした物だったので、それはもう懐かしい気分に浸った。
プロデューザーは 渋過コウ というらしい。

「信長の野心VRオンライン。お買い上げありがとうございます。サーバーの始動は明日午後11時よりということになります。キャラクターの作成及び、操作の習熟はオフラインでも可能です。お客様は現在起床モードでのご利用なさっています。思考操作に若干の支障をきたします。一人称視点モードがご利用いただけません。信長の野心オンラインは睡眠式~(長ったらしい英語)~専用となっております。」

腰まで伸びた黒髪の見目麗らかな巫女服姿の女性が説明してくれた。

「キャラクターの作成及び初期設定は起床モードでも可能です。起床モードでのキャラクターの作成を開始いたしますか?」

手元のコンソールらしい物から、イエスを選択する。

いつの間に撮られたのか、画面に下着姿の自分自身が投影された姿が映し出される。
同年代の爺婆には、若いと言われるがやはり初老の域は過ぎつつある姿だった。
その他、設定すべきキャラクターシートが大きな画面いっぱいに並べられている。

「お手元のコンソール及び思考により操作可能です。容姿の設定には制限があり人間の姿より過度にかけ離れた姿にはなれません。キャラクターシートは格項目を二度選択しますと詳細が分かります。その他疑問がありましたら、お声をおかけ下さい」

容姿の設定を選択すると、アバターが前面に出て、横には細かい設定が表示されている。試しに年齢の項目をいじってみる。若くはなっていくが明らかに若い頃と姿が違う、これは手こずりそうだ。

身長は168体重55kg中背中肉、若くしすぎると、違う自分になってしまうので、60半ばで年齢の設定を終える。
あまりいじるつもりはなかったのだが、髪はもう少しとか、目元の皺がとか、気になってしまう。何度かやり直しつつ、納得のいく60代の頃の自分が出来上がる。多少、美化されダンディズムを漂わす感じになってしまったが・・・その頃のわしを知ってる奴が見ればわしだと分かる程度に収まっていると思う。たぶん。声の年齢も若くしておいた。

ようやく、キャラクターシートの設定に入った。能力値関係の攻略情報を調べておきたかったが。βの情報等、たかが知れてると思い、このまま続けることにした、何よりアバターの設定をもう1度やるのは勘弁して欲しかったからだ。
前作は後から救済措置も多々あったので、気楽にやるべきだろう。

初期職業は僧。紹介文:仏道を極めし者。仏となり味方を治癒し、仏道の術を用いて敵を倒し、兵となり攻防す。
用は万能職であり器用貧乏な職である。前作では七人徒党(パーティ)が基本の戦闘において一番、はずされやすい職であった。

僧の初期能力は
腕力4       木属性4
耐久4       火属性6
器用2       土属性4
速さ3       金属性4
知力4       水属性6
魅力4       

ステータスの説明をすると腕力は攻撃力に 耐久は生命力に 器用さは主に生産能力に 速さは全キャラの基本身体能力が1.00ならばこの場合となる1.03。
この基本身体能力は男性の体操選手並みに設定されている。レベルが上がれば超人並みの動きができるようになる。
知力は主にの攻撃術の威力や気合値の最大値に、魅力は特定技能の攻撃力や、耐久能力に、属性値は特定技能の攻撃力や耐久能力にかかってくる。

このステータス表だけでも僧の器用貧乏っぷりが分かろうってものである
これに、ボーナスポイント17を属性値以外に割り振り、以降、それに応じたステータスが上がっていくということらしい。

初期勢力、今川:勢力ボーナス耐久-1水属性+3

腕力6       木属性4
耐久3       火属性6
器用10       土属性4
速さ6       金属性4
知力8       水属性9
魅力4

なんだか苦労しそうなステータスではあったが、全く何も考えずに作ったわけでもない。
まぁどんなシステムか分からない以上、大はずれかもしれないが、昔の信ONではステータスが全てという訳でもなかったし、救済措置も多々あった。
どうしても戦闘で足を引っ張るようなら、職人にでもなろうと思っていた。

「決定かの・・。」


「キャラクターの名前が入力されていません」

微笑んでいる巫女様の声が心なしか冷たかった。




名前は前作の信長の野望オンラインと同様に設定した。

「名前は 小林 正巳 (こばやしまさみ)と。」

はっきりと覚えていた。大学生という大事な時期に5000時間はやりこんでいたのだから。

「小林正巳様ですね。名前の重複はありません、ご使用可能です。前作のプレイ経験がおありであれば、前作のIDとパスワードをご入力下さい。なければそのまま次へお進み下さい。」

パスワードなんか覚えてるわけがなかった。自動的に入力してるものだったからである・・・。

「前作をプレイしとったら、何か特典でもあるんかの?」

巫女様が微笑みながら説明を始めた。

「はい。ゲーム中、若干の特典があります。それはゲームバランスを崩すほどの物ではございませんのでご安心下さい。」

幾度のアップグレードがあったとはいえ、サービス終了から50年以上経つゲームなのでそういう物言いなのだろう。

「IDは HARAHETTA パスワードはなんじゃったかの・・・。」

巫女様の微笑に、忘れかけていた情熱が蘇りそうだった。

「パスワードを忘れた時の為の合言葉が設定されています。1~~~2~~~3あなたの旧姓は?4~~~5~~~。です。番号と設定された言葉をご入力下さい。」

巫女様が右手を上げながら表示された文言を説明する。

「3の旧姓で 小林」

安易な考えて得したの。

「はい。パスワードは●●●●●●となります。初期の持ち物の中に景品を送らせていただきます。またゲームを進めて行く途中でも特典があります。ささやかなものですので、過度な期待はないようお願いいたします。」

パスワードは学生時代に使っていたノートパソコンのパスワードと同じだった。
セキュリティ意識ゼロの頃とは恐ろしいものである。

「次の項目ではIDとパスワードの設定でしたが、このIDとパスワードは継続されますか?」

「イエス、と。」

「起床モードでの可能な事はここまでとなります。」

「今晩は初回起動時による睡眠モード使用時における注意事項の説明をを行います。規定によりゲーム開始以前に1度は受けていただかなければなりません。睡眠モードでご利用になれます。その後アバターの動作テスト及びゲーム内におけるチュートリアルを行います。現在午後9時です。このまま睡眠モードに以降いたしますか?」

 イエスを選択する。

座席が、介護用のベッドのごとく、自動で寝やすいような姿勢を取らせた
いい香りがすると思ったら、ものの10秒ほどで眠りに就いた。

「では、お休みなさい。良い夢を」

巫女様の心地いい声が聞こえた気がした。





[20607] はじまりはじまり
Name: ノミの心臓◆9b8a3f51 ID:ee8cef68
Date: 2010/07/25 22:23

次の日、朝起きると若干の気だるさが残った。この程度の疲れなら、若い連中は楽なものだろう。

取り説によると午後11時からの午前3時までの4時間の思考を加速させ、ゲーム内での主観時間を2倍に引き延ばす事が出来るのだという。
ログアウトの後、覚醒まで深い睡眠を取らせ、脳の疲れを取り、通常とほとんど変わらぬ起床を実現させるということらしい。
深夜の通販で、これで睡眠時間が半分に!とかいう胡散臭い物をやっていたが、その技術なのかもしれない。


ついつい熱中してしまい、主観時間においての8時間、時間制限目一杯、小学校の体育館程度の空間ででアバターの操作習熟を行っていた。
チュートリアルは1時間程度で終わり、後はいくらでもやってていいとの事だったので、戦闘の際の基本動作に費やした。

戦闘の基本は自動(オート)である。攻撃の意思をもって相手と対峙すれば、体が勝手に攻撃をしてくれる。
攻撃する意思、防御する意思、これらを戦闘中に維持するのが、存外難しかった。
ともすれば、じりじり下がって防御一辺倒の末、逃げてしまうのだ。
ダメージを受けてもせいぜい爪でかぐられた程度だと分かってはいても、刃物は本物の輝きを放っているのだ、恐怖を感じる。
そういった嫌悪をもよおす感情はゲーム内では多少緩和されているらしい。

練習に付き合ってくれたおっさんAIが言うには、コツは初動を少し自分で動かすつもりで考えていれば、大体狙った所を、思考を読み取りやりたいような攻撃してくれる。
防御や回避に関しては、危機回避の本能を信じて、目を瞑らない事だそうだ。熟練してくると自分で動作しているような感覚になり、それ以上は自分の技量次第とのこと。
それは一種の睡眠教育みたいなものなのかもしれない。
ある程度融通が効く様にはしてあるが、細かな機能のオンオフもできるので好きなようにカスタマイズしてくれとの事だ。



朝のうちに、少し体力をつけたほうがいいのかもしれないと思い、久しぶりに出歩いてみた。
老人ばかりの町内、日本の総人口7352万人、日本は緩やかに衰退を続けている。
最近では、豊かな労働環境を求めて!のスローガンの下、夜勤者には通常の5倍以上の給料を払う事が義務化された。
夜勤者とそれ以外とで統計を取ると寿命に10年ほどの差があることが、追い風となった。
今の時代、寿命をかけて高給を貰いたいと思う人も、それなりの人数しかいなかった。
この団体は、大概の事は、ロボットで代用できると、将来夜勤の禁止を求めて活動中である。



昼から、ネットで情報の収集を始めたが、βテストは数日で終了した為、全くといっていいほど情報はなかった。
もっとコアな場所のスレッドも観て回ったが、数十年ネット社会から離れていたブランクは大きく、もはや日本語の体をなしていないネットスラングから、何かを読み取ることなど不可能だった。

 

現在午後9時、11時に装置の起動をセットし、早めにVR装置の中で寝てしまうことにする。
しかしこの中、空調も完璧で普通ののベッドより快適に寝れてしまうの凄い。


ゲームのOPが始まる、睡眠モードでは初めてみる、天から見下ろす形で派手なエフェクトが飛び交っている戦場を飛び回る。最後に戦国武将らしい人物が勢ぞろいして終わった。

IDとパスワードを入力後、ゲームを開始を選択する。

夢の中で段々と意識がはっきりしてくるような感覚だった。。
舗装されてない広場、ビルに囲まれていない高い青空、正面には天守閣、日本風の庭園も見てとれた。
周りは、職によって様々だが基本灰色でボロい装いの、若い男女数百人がキャーキャーと騒いでいた。
髪の色は金銀蒼赤緑黒白なんでもござれだ。和風のゲームということで黒が若干多いだろうか。

広場中央のお立ち台に立っている女性が何やら印を結んでいるのが遠めに見て取れた。

「はーい。注目して下さい~。」

若干、間延びした声が拡声器ごしに聞こえた。

「皆様、こんばんは?おやすみなさい?この度は、信長の野心VRオンライン、ご購入ありがとうございます。私、この度、今川家担当のGM(ゲームマスター)となりました。高度AIの 有馬桜(ありまさくら) と申します。以後、宜しくお願い致します。」

2mほどの木製のお立ち台の上に、茜色に豪奢な絞りの花々を、風にそよいでいるように豊かにあしらった着物を着て、髪を結い上げている女性が立っていた。
周りから黄色い歓声が飛ぶ。

「皆様方のいるここは、駿河の土地、駿府城下の中堀になります。ここでは今川家幕僚下の方々が働いております。皆様方の身分は今川家の家臣の最下位もののふとなります。様々な方法で勲功を貯め、身分を上昇させ、義元様以下幕僚方々に献策をし、今川家を発展させ、軍備を整え、天下統一を目指しましょう。及ばずながら合戦の際は私も一兵卒として参戦いたします。今川家が滅ぶと私もお役御免になっちゃいますので・・・」

と黒髪の美女によよよよという風情で言われ、おおおお!!大丈夫だ!頑張ります!とか主に男性陣から歓声が上がる。

「もちろん、出奔し他家に仕えるも、商人として店を構えるも、職人として諸国に名を轟かす事も、諸国を旅する武芸者となるも、観光に勤しむのも各々の自由ですが、出奔すると1年は今川所領の兵に謀反人として追い掛け回されるので注意して下さいね。」

前作に比べても自由度は高くなっているようだった。

「私自身、プレイヤーの皆様のコミュニティに入り何か意見することはございません。身分が上昇する毎に皆様方の献策は今川家にとって重要なものになってきます。献策は出きる限り統一されたほうが大きな影響を外交・内政に与えます。その為、このゲームの花である合戦は半年程度は起こらない物と考えております。その辺りは、皆様方のコミュニティの形成次第という訳です。皆様方の多数の要望があれば、コミュニケーションを取る場を設けるお手伝いもさせていただくかもしれません」

コマンドで現在、城内にいるプレイヤーを検索してみる。総プレイヤー数783名。ゲームの初期出荷が10万ということだから、現在中部、関東しか実装されていない中では弱小勢力であることは間違いない。

「最後に注意事項を言って終わりたいと思います。駿府の城下町はおよそ半径2km、人口およそ1万人のAI搭載のNPCが日々の暮らしを営んでいます。AIはファジィに作ってはありますが、私よりは賢くないので過度なストレスを与えないようお願い致します。また、ご質問がございましたら、まずコマンドよりFAQをご覧の後、コマンド覧よりGMにメール及びボイスチャットでお願い致します。職業毎に初期クエストをご用意致しています。まずは、これをやってみましょう。では岡っ引きに捕まらないよう、よい信onライフを。」


そういうと壇上を降りて、城に向かって走っていった。またそれを数十人の主に男性プレイヤーがぞろぞろと追いかけて行くが内堀の門より先は通してもらえないようだった。

戦国時代に何故、岡っ引きがいるのかとGMにメールで聞こうかとも思ったが、一々突っ込むのも大人気ないと思い、やめておいた。

プレイヤーは思い思いにその場を去っていく。さっそく仲間を募っている人もいる。走って行ってるのはβからの連中だろうか、大概は和風な雰囲気を楽しみながら町に向けて歩いていった。

「ちょっと、そこのお爺ちゃん。」

周りを観察していると、先程から、こちらをじっと見ていた女性から声をかけられた。

「なんじゃ、お嬢ちゃん。」

年の頃は、20代後半だろうか、青黒い髪をショートカットにしている、凛々しい感じの女性だった。
水干をまとっていることから、後衛職だろうか、前作同様生足出しすぎだった。

「お暇してません?よかったら徒党組みませんか?」

「すまんが、今日は一日情報収集に費やそうと思っていてな。」

「あら、ならご一緒に情報集めいたしません?」

「あまり群れるのは好きではなくてな。」

多少、嫌そうな風にはっきりと断る。

「捻た爺だね」

先程までは余所行きの声だったのだろう。低音が耳に心地よい

「美人の申し出を断って、申し訳ないの。」

言うと女性は嬉しそうな顔をし、言った。

「そう。残念ね。では、またの機会を楽しみにしておくわ。私、服部阿修羅(はっとりあしゅら)陰陽師よ。フレンド登録していただけるかしら?」

「初対面でいきなりフレンド登録申請かね。」

「そう。私、中年以上の方が好きでね。お爺さんキャラはレアだから、キープしておきたくてね。」

女性は組んだ片手を頬に当て微笑を浮かべて言った。周りにいくらでもいる美男子をスルーしてる辺り、真性なのかもしれない。
そういうと手際よくフレンド申請を行ってきた。なんとも強引な女性である

「・・小林 正巳。僧じゃ」

そう言いながら、断れない日本人の性か、フレンド申請に了承の返事を返すと、挨拶もそこそこに去っていく。
しかし多少白髪はあるものの、中年といった風体にしてある。

「爺はないじゃろ、、。」

とポツリと漏らしながら、堀の傍の桜の木の下へ腰を下ろす。
しばらく初期クエストや地図を確認しつつ、風景を眺めていると後ろから声をかけられた。

「じゃあ、お友達になったことだし、自己紹介がてらお話でもしましょうか?」

「・・・あん?」

振り返ると、生足出した陰陽師こと、阿修羅が楽しそうに笑っていた。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00242900848389 / キャッシュ効いてます^^