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[16371] 【習作】ファントムⅡオブインフェルノ
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/02/10 23:41
ぬる


 USAロサンゼルス。アメリカでも屈指の栄華を誇る街。煌びやかなネオンが街を彩る。
 大通りから外れた小さな小道には申し訳ない程度にいる客引きの娼婦や物乞いが道行く人を引き止める。
 この街を昔から知るものはそれをおかしく思うだろう。
 何故なら人通りの少ないその小道を通ったとしてもそれらにたまに引き止められるだけであり、街に無頼するチンピラに一切出くわさないのだ。
 いや、最も大きな変化は大通りを見れば明らかだ。まだ日は沈んだばかり。LAを楽しむにはこれからだというのに人気が少ない。道行く車もどれも家路を急ぎ、猛スピードで走っていく。
 建物から出てきた者はまるで上空から魔物が襲ってくると言わんばかりの様相で道を走っているのだ。

「ガイドブックや人に聞いた話とはずいぶん雰囲気が違うが……一体何があったんだ?」

 旅の男は知らず知らずのうちにそんな言葉を漏らしていた。すると建物と建物のあいだの暗がかりから何かが飛び出て行く手を塞ぐ。
 みすぼらしい格好の男は気味の悪い笑顔を振りまきながら口を開いた。言うまでもなく、物乞いの類だろう。

「旦那。旦那はこの町は初めてですかい?」
「え、ああ、そうだけど」

 嫌悪感を露に眉間に皺を寄せその男の問いに答える。

「へへ、でしたら仕方が無い」

 その男は相手の表情などお構いなしに、何かを要求するかのように黒く汚れた手を差し出した。
 舌打ちと共にその手に置かれた1ドル札。黄色い歯を剥き出しにして笑い、話を続ける。

「噂ですよ、噂」
「噂?」
「そう、ファントム(幽霊)の噂」
「幽霊だと馬鹿馬鹿しい。そんな作り話に皆恐れているというのか」

 まんまと一杯食わされた。この男にやったドル札は無用心な自分に対する授業料だ。踵を返し、その小汚い男の前を去ろうとしたのだが、彼が服を摘んで引きとめてきた。

「何をする! 離せ!」
「旦那! ファントムがもうすぐやってくるんだ! この町に住む奴ならあの音をいかに早く聞き取れるかが生死を分けるんだ!」
「ハンッ! 幽霊の音だってそいつなら俺にも聞こえるさ。ほら、あいつの音だろ?」

 彼が指差す先にあるのはそれは悠然と道を走る一台の車だった。

「ロールスロイス ファントム」
「へ?」
「あの車の名前だよ。」

 高級車とは縁のない物乞いの男には車のメーカー。それも大衆車ではなく高級車メーカーの名を浮かべても理解できることは出来ない。
 ただ、その車がどのような人種が乗っているのかが理解できただけだった。

「い、いけねぇ」

 物乞いの男は顔を青くすると旅行者の男に何の言葉も残さずに路地裏へと駆け込んでいった。それはまさに何かから逃げるかのように。

「何なん……」

 彼は己が出した声を最後まで聞き取ることが出来なかった。
 轟音。空から低く重い轟音だった。
 その重く原に響き渡る騒音が声を遮ったのだ。
 轟音を空に撒き散らすそれが何をしようとしているのか彼は知らない。故にその場に立ち止まって空を見上げたのだ。その周囲に彼と同じことをする人間は誰もいない。野良犬や野良猫すらも。
 

 空から舞い降りる一羽の鳥の幽霊。黒いそのシルエットは大きな轟音、いやエンジン音と共にその姿形を隠すことなく地上に誇示する。

「ひ、こうき?」

 そのシルエットを見れば、彼が一目で車種を見分けたように、その鳥の正体を一目で見破ったであろう。

 地上の建造物にぶつかるかと思うほど降りてきたその鉄の幽霊は、地上を這いずり廻る哀れな幽霊へと黄泉へ誘うプレゼントの使者であったのだ。


 激しい爆発と共に吹き飛ぶ高級車を目で追いながら彼は思わず呟いてしまった。

「空軍は何をしているんだ?」

 それが吾妻玲二が一般人であった時の最後の言葉であった。





[16371] あいん
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/02/10 23:47
『ツヴァイ、どうした』

 激しいG運動により一瞬意識を失った彼は無線機から呼ばれる声により、すぐに意識を取り戻した。

「大丈夫だ、アイン」
『……そうか』

 どこか年若い女の声はそれっきり押し黙る。

『コントールよりファントム、ミッションディザートへ移行せよ』
『ファントムアイン、コピィ。ファントムアインよりファントムツヴァイ、これよりミッションディザートへ移行する』
「ファントムツヴァイ、ネガティブ。何をするんだ?」
『サイ……』
『コントロールよりファントムアイン、説明を忘れていた。頼むぞ?』
『……コピィ』

 スーハーとパイロットが大きく息を吸って吐く音が無線機にもしっかり流れる。彼、ファントムツヴァイはそれにもノイズ交じりの無線にも慣れてしまっていた。

『ファントムアインよりツヴァイ、作戦を説明する。サボテンに陽気なメキシカンを縛り付けてある。そいつの頭だけをぶち抜け』
「コピィ……とでも言うと思ったか? ネガティブ! そんなの無理だ。オーバー」
『ファントムライダーならそれくらい……』
「できるか!」

 ツバイと呼ばれる青年は今コックピット……西側の傑作ジェット戦闘機の一つであるF4……ファントムⅡと呼ばれる戦闘機の前席に座り、操縦桿を握り締めていたのだ。

『引き起こしには注意を。地面にキスしそうになったら先にベイルアウトするわ』

 そしてアインと呼ばれる、未だ少女がその後席に座っていたのだ。

『警告!南東より高速で接近する機影あり』
『リジィ、ボギーは何機?』
『五機だ。接触まで20,19,18……』
『タリホー、こちらでも視認したわ。機種は……F-15』
「どうするんだアイ……ン?」

 ツヴァイがアインに指示を請おうとしたが、それは適わなかった。後ろから響き渡る爆発に似た音と吹き込む鋭い風が彼に襲い掛かった。
 一瞬ミサイルの直撃でもしたのかと考えたが、ロックオン警報も鳴らなかった。機銃にしても爆発がコックピットで起こるとは考えにくい。
 そんな時、彼の目にふと一輪の花が目に入った。空に咲く一輪の花……俗に言うパラシュートだ。

「べ、ベイルアウトしやがった!?」
『ファントムツヴァイ、撤退は許可できない。繰り返す……』

 無線機からからは冷酷な命令が飛び出してくる。最も彼はその命令を無視する気はないない。何故なら彼の座るコックピットにはロックオン警報が響き渡っているからだ。
 しかし幸いにも敵……5羽の鷲は無警告で獲物を仕留めたりしない。
 幽霊に対して威嚇の機関砲が唸りをあげる。

「ファントムツヴァイよりコントロール……」

 鷲は先ほどから無線機を通じてギアダウンしろと、次は当てるぞと口うるさく喚きたてる。どう考えても勝ち目はない。故に本部の指示を請おうとしたのだが・・・。

『コントロールよりファントムツヴァイへ。こちらの位置がばれるかもしれないので無線を封鎖する。グッドラック』

 通告は非情。組織には温情の欠片というものが欠如しているのではないか。そんな思いを彼に抱かせるには十分な話であった。
 はらを括ってギアダウンをしようと車輪を降ろそうとした、そう降ろそうとしたのだ。
 しかしコンソールにはレッドランプ。
 分かりやすく言えば車輪が出ない。故障中です。

「まぁ、こいつはぼろいからな」

 ツヴァイが一人納得していたが5羽の鷲たちはそんなことは露ほどにもしれない。

『FOX2』
「え!?」

 鷲の1羽が業と無線を開いたまま、これまた非情な言葉を投げかけた。
 鷲より放たれた獰猛な蛇は幽霊を喰らいつくそうと猛然と襲い掛かる。そんな蛇に幽霊は対抗できるはずはない。ファントムツヴァイは冷静にレバーを引いて空に飛び出ることにしたのだ。


 幽霊は空の藻屑と化したがそのライダーは無事地面に降り立った。
 そんな彼は目の前のサボテンを見上げていた。

「ハハハ、ヘイアミーゴ。ミーをヘルプしない?」

 サボテンに縛り付けられた陽気なメキシカンがそこにいた。彼は一体何をしたのだろうか。

「アミーゴサイスも冗談がすぎるね!テキーラの中身をタバスコに替えたぐらいでこんなことするなんて」

 本当に組織は、サイス・マスターは何なのだろうか。疑問は尽きない。
 しかしそれよりもこの目の前のメキシカンは何なのだろうか。やけにムカつく。
 そう、自衛の為に持たされていた拳銃を思わず抜いてしまうほどに。

「アミーゴ、ミーと早撃ちしたいね?これでも荒野のッ!?」

 気が付けば引き金を引いていた。放たれた弾丸は見事にメキシカンの額を貫いていた。

「任務完了ね」
「アイン、お前……」

 一体いつからいたのだろうか。それよりも気にかかることがある。

「拳銃で打ち抜いてもOKなら、何でF-4に乗る必要があったんだ?」
「……そのほうが面白いからかしら?」
「そんな理由で!」
「しっ、黙って頂戴」

 アインはそういうとツヴァイの口元を押さえた。そして耳に飛び込む不自然な人工的な空気を切り裂く音……。

「コブラね」
「アイン、コブラって……」
「貴方の想像している通りよ。私たちがベイルアウトしたからそれを狩りに来たのでしょうね」
「来たのでしょうねって、事無げに言うがどうするんだよって、いねぇ!」

 そばいたはずのアインの姿が忽然と消えた。そして激しい砂埃がツヴァイを襲う。

「もう見つかった? 畜生ッ! アインの奴、覚えとけよ!」


あとがき
リハビリ中です



[16371] つばい
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/03/12 18:14
 ツヴァイは目の前のその金属製の大きな鳥を見上げていた。
 辛くも州兵たちの追撃を逃げ切った彼にアインは告げた。

『代わりの機体が納入されたわ』

 心のどこかで期待していたのかも知れない。
 『代わり』という言葉に惑わされたのかも知れない。
 だって仕方がないじゃない。そんな代わりの機体なんて言葉を聞かされたら誰だって期待してしまう。
 もしかして代わりの機体って言うのはF-16? まさかの愛しの猫たんことF-14かもしれないと。
 しかし現実は非情だ。彼の目の前にいる大きな鳥の名はF-4、通称ファントム。見慣れた機体だった。
 それでもこの機体が出来立てほやほやの新品なら、彼もテンションをあげて喜々としてコックピットに乗り込み、その特有の匂いをその肺に吸い込んだであろう。
 だがそれは適わぬ夢である。
 せめて塗装ぐらい確りと塗り替えればいいものを、そのファントムの機体には剥がれ掛けた塗装とU.S.NAVYの文字。あからさまに中古品だ。
 コックピットに乗り込めば恐らくむさ苦しい海兵の臭いが染み付いているだろう。

「ツヴァイ、どうしたの?」

 落胆の色が隠せない彼を心配したのかアインが声をかける。

「いや、ファブリーズ買わなくちゃ」
「言っていることがよく分からないけど、この機体に不満でも?」
「不満というか……その」

 言葉を濁す彼に、彼女は珍しくうっすらとその顔に笑みを浮べて口を開いた。

「インフェルノという組織を貴方がどう思っているのかは知らないわ。けど覚えておいて。この機体はデイビスモンサン空軍基地から盗んできたのよ」
「お前がか?」

 彼の問いかけに彼女は誇らしげに首を縦に振る。

「さすがだな」
「そうでもないわ。伊達に飛行機の墓場と呼ばれているわけでなく、警備がざるだったわね。一つ心残りがあるのだけれでも……」
「何だ?」

 少し言いよどむ彼女にツヴァイは続きの言葉を促す。色々と突っ込みたい所があるが、今はそれを抑えて。

「一緒に行ったサイス・マスターを置いてきてしまったの」
「置いて来てしまったって……どうしてなんだ」
「だって、エンジンを取り付けて、燃料を注入した後も『宝の山だ!』とか言って居座るんだもの」
「そうか、なら仕方がないな」
「ええ、仕方がないわね」

 しばしの沈黙……ハンガーには静寂が広がる。しかしそれに耐え切れなくなったのかツヴァイはゆっくりと唇を動かした。

「少し……いや気になるわけというか、その、聞きたいことがあるんだが」
「何かしら?」
「何でまたコイツを?」

 そう言いながらツヴァイはF-4を指差した。その視線はジッとアインの顔を見つめながら。
 聡い人間ならばその視線が雄弁に語っていることに気付き、その語らいに答えただろう。
 しかしアインは少しコミュニケーション能力に何があった。その視線の問い掛けに気付かなかった。

「意味が分からないわ」
「ならこいつを見ろ。これでもそんな事が言えるのか?」

 そう言うと彼は端末を動かし、IEを開くとググった。キーワード『デイビスモンサン空軍基地』で。

「……こ、これは」
「オレの言いたい事が分かっただろう」
「き、気が付かなかったの。だってほとんどがファントムだったから!」

 アインは己の失態に気付いたのだ。画面に映された空軍基地の全体画像。そこでそれに気が付いたのだ。彼も彼女も愛してやまない、愛しのトムの姿に。
 項垂れる彼女の肩にツヴァイは優しく肩に手を置いた。

「あまり自分を責めるなよ。だって仕方がないさ。オレだってそうさ。認められないんだろう? こんな墓場に我らのF-14がいることなんて」
「それでも! すぐにその御姿を拝見することができたのよ! それなのにっ!」
「落ち着けよ。そうだ、話は変わるが、何でこいつを盗んだんだ? 素直に買えば楽なものを」
「経費削減のためよ」
「経費削減ってどうして……」
「その質問には私が答えよう。ツヴァイ、これを見なさい」
「クロウディア? 何だこれは」

 突如として現れたインフェルノ幹部、クロウディアの姿にツヴァイは少し驚いた。しかしそれも束の間、彼女に紙束を渡されたのだ。

「あの計画がついに実現するのね」

 アインの言葉に彼女は少しだけ表情を曇らせ、頷いた。それを見届けると彼は紙束に目を通した。そこで驚きの文字を発見することになるとは夢にも思わなかった。

「F-22……ら、らぷたー」
「三機……一機は予備機としてアインとツヴァイの機体として購入するつもりよ」

 ツヴァイは思わずカレンダーを見た。今日は4月1日ではないか確認するためだ。

「そ、そうか。え、えふにじゅーにか、楽しみだなぁ」

 彼は顔がにやけるのを隠すことが出来ない。だがそれは仕方がない。だって男の子だもん。憧れのF-22に乗ることが出来る事になったら誰だってそうなるというものだ。
 現に普段は冷静を装うアインもその顔から喜びを隠すことが出来ない。
 ただ一つ気掛かりなのはクロウディアの表情に陰りがあることだけだ。

 その表情の理由を知った時、彼と彼女はどのような感情を抱くのだろうか。怒り、悲しみ、絶望。それとも冷静にフランカーに乗るからいいとでもなるのだろうか。

 今は唯、幽霊に乗り込み大空を翔るのみ。いつか猛禽に乗ることを夢見て。

 幽霊は空を飛ぶ。ベトナム戦争以来、時を越えて現代の空を。



「よくあんな骨董品に命を預けられるわね。本当にクレイジー……あ、空中分解した」

 クロウディアの言葉が誰もいないハンガーに響き渡る。






[16371] どらい
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/04/04 00:01
『ブレイク、ブレイク』

 ツヴァイそう口にしながら操縦桿を懸命に握る。
 操るF-4はその身に受けるGに悲鳴をあげながらも操縦者の命令に懸命に従い、急速なマニューバーを行う。
 悲鳴をあげるのは機体だけではない。その操縦席に座るライダーとフライトオフィサも過酷なGなに耐えなければいけない。
 一歩間違えればブラックアウト。そのまま機体と共に地面と熱いキスを交わすことになるだろう。
 しかし、そうでないとしても機体は無事でいられるだろうか。
 急激な旋回機動を行う幽霊を討ち滅ぼさんと一条の矢、地対空ミサイルが危なげなく追ってくるのだ。

『振り切れない』

 パイロット特有の冷静で落ち着いた声で現状を正しく後部座席に座るフライトオフィサ、アインへと伝える。

『ダメだ、ベイルアウトを』
『ウィルコ』

 アインはツヴァイの操縦技術を責めることなく、また、襲い来る脅威に対しても悪態を一つも口にすることなくレバーを引いた。
 風が、冷たい風がコックピットに吹き荒れる。その風を受けながら彼もイジェクションシートのレバーに手をやる。
 今日も……幽霊は飛び立ったまま天に還るのだ。



 始まりは一台の車両だった。いつものように暗殺任務を請け負い、アインと共にF-4を飛ばしていた時のことだ。
 この時、もしもこの時、それを爆撃でもして潰していたら、また結果は変わっていたのかも知れない。


 地表を走る数台の大型トラック。その荷台に乗せられたのは……パッシブレーダー。
 もはやこの大空を、幽霊が自由に飛ぶことは許されないとその存在は語る。


 幾度となくこのくたびれた風体の幽霊と共に翔けた空、それを邪魔するのは鷲や鷹達であった。だからこそ注意を空に向けていたのだ。
 目的地に向かって幽然に飛ぶ彼らは地上の狩人に狙われていることに気が付かなかったのだ。それに気付いたときには遅すぎた。
 地上の狩人は必殺の思いを込めてその矢を放ったのだ。

 アラート。
 コックピットに響く不愉快な警告音。
 即座に回避運動を取るも全てが遅かったのだ。
 機体に愛着があれば最後のその時まで必死に逃げたであろう。だが機体に彼らはそれほど愛着を抱いていない。いつか憧れのあの機体に……そんな思いを持つツヴァイだからこそ冷静にベイルアウトの指示を出せただろう。
 彼自身もイジェクションシートのレバーを引き、機外に射出……されるはずだった。一回、二回、三回とレバーを引いても何も起こらない。その意味することはつまり、

『射出装置の故障……だと?』

 次いで訪れる激しい衝撃、狩人の矢が幽霊を撃ち落す。
 ツヴァイの脳裏に『死』という言葉が浮かんでくる。だが幽霊はその言葉を打ち消そうと羽を懸命に広げていた。
 コックピットからは真後ろの、ミサイルが直撃した部分の惨状は伺うことが出来ない。だがその位置からでも空を飛ぶものの命と呼べる羽が傷みながらも健在であることは確認できた。
 何より『彼』が地上を嫌い、懸命に滑空飛行を続けようとしているではないか。

『付喪神?』

 ふと唇から漏れたその言葉はどこの国の言葉なのだろうか。ツヴァイは自分の故国を忘失した。その忘れた故国の言葉だろうか。
 彼……このファントムⅡは、あの飛行機の墓場から運び出された廃棄される予定の機体だったのだ。空を翔る雄大な翼を持ちながら空を飛ぶことを禁じられ、長い月日をただ空を眺め続けた彼が、ずっとこの大空を飛び続けたいと思っても不思議ではない。
 ではツヴァイが彼にしてやれることは何なのだろうか。彼を見捨てて機外に飛び出すことか。否、最後の時まで空を飛び続け、無事彼と共に地面に降りることだ。

『頼むぜ、相棒』

 口元が緩み、自然とそんな言葉が飛び出てきた。彼の手はレバーより操縦桿へ……未だ空を飛び続けるために。
 しかし、狩人はそんな彼らの行動に不満であった。それもそのはず、必殺の思いを込めて放った矢を受けて尚、幽霊は空に留まり続けていたのだ。
 狩人は考えた。獲物は既に死に体、高い矢を放たずとも地に堕ちるのは間違いがない。だがそれでは面白くない。狩人の性格は残酷だった。いたぶり地に堕とそうと考えたのだ。
 ツヴァイは残酷な狩人の仕打ちに絶望を感じた。眼前に飛び込むそれは地から天に穿ち放たれた曳光弾の軌跡。対空機銃より放たれた弾丸がファントムへと殺到してきているのだ。
 無論バンクでもすればそれを容易に避けることが可能だ。エンジンが生きていればの話ではあるが。
 現実には彼は唯惰性で空を滑空しているに過ぎないのだ。もしバンクでもしようものなら直ちに地面へと落下を始めてしまう。
 万事休す、ツヴァイはそう思った。しかし、次の瞬間彼は機外に投げ出されていたのだ。
 爆発、いや確かにそれは爆発だ。但しそれはキャノピーを吹き飛ばし、シートを射出するための必要最低限の爆発なのだ。
 とにかく、結果としてイジェクションシートは射出されたのだ。
 だからと言って彼が助かったとはまだ言えない。
 パラシュートが開き、周囲を見渡す余裕が出来たツヴァイが目にしたのは見るも無残に蜂の巣になる『相棒』と呼んだファントムⅡの姿。その次は彼かもしれないのだ。
 残酷な狩人なら無防備な彼さえを誤射といいつつ撃ち抜くかもしれない。だからといって、風の為すままの彼には足掻く事すら出来ない。
 ファントムは羽をもがれ、黒煙を上げながら地面へと不自然に加速し始めた。
 彼の、風を切り地に向かうその音が何かを語っているかのようだった。それは怨嗟かそれとも執念……いや、所詮モノである。そんなものは関係ないはずだ。
 ではあれを説明しろと言われてもツヴァイには説明できないだろう。まるで狙ったかのように対空機銃車両に向かい落ちていったのだ。
 激しい爆発、それは彼方でも聞こえただろう。先にベイルアウトしたアインもきっとそれを聞いたはずだ。
 
『してやったり』

 爆散するその機体が今際の際に、にやりと笑った……そんな気がした。


 地面に降り立ったツヴァイは初めて、適うならばまたファントムⅡに、F-4に乗りたいと心から思っていたのだ。






[16371] ふぃーあ
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/05/29 21:11
「風が強い……左から流れてくる」

 スコープ越しにターゲットを視認しているツヴァイにアインが抑揚のない声で告げる。

「42インチ……」

 地べたに降り立って何度目かの仕事……一度目の仕事で彼女の有能さは思い知った。ビル街の複雑な風を読む。それは観測手として一流の証明であった。
 ツヴァイは彼女の指示通りに目標を合わせ、引き金を弾く。それが彼の仕事だった。
 今も彼女の指示通り、スコープの中央に捉えた標的の頭から42インチ、銃弾が真っ直ぐ飛んだならそこに着弾するであろう所に標準を付ける。

「5インチアップ……そう、今」

 彼女の声に合わせ、乾いた銃声が広がる。目標の頭には言うまでもなく風穴が開いた。

「逃走ルートの確認」
「オレはBルート。お前はDルート」

 事務的な会話。互いに余計なことは喋らない。いや、喋る気などおきないのだ。
 彼らの胸の中には未だに空への未練があるのだ。

 アインと分かれた彼は空を見上げる。騒音を撒き散らすあのヘリが妬ましいのだ。



 終わりのときと言うものは唐突に訪れる。F-22という名の新しい翼。それが手に入らなくなった時、今迄共に空を翔けたF-4まで失ってしまったのだ。
 何もない格納庫。そこで彼は翼を失った事を告げられた。


「F-22が生産中止!? クロウディア、どういうことだ?」
「正確には生産縮小。大量に生産される機体の余剰パーツで組み上げた物を持ってくる予定だったがそれができなくなった」
「何だと!?」
「詳細は国防省の役人さんをゲストとして招いている。地下の尋問室にサイスが……」

 ツヴァイは彼女の言葉を最後まで聞かず、足早に地下の尋問室に向かった。そして、ノックも無しに扉を開けると、そこには椅子に縛られ、青い顔をした男とサイス・マスターがいた。

「ツヴァイ、ちょうどいい所に。今から食事なんだ」
「ま、待ってくれ。組織を裏切ったわけではない! 大統領の指示なんだ。なぁ、あんた分かるだろ? 俺みたいな一役人にどうこうできるレベルでは……」
「もはやどうこう出来る問題じゃないという事位分かっているさ。これはただの落とし前。さぁ、お腹がすただろう? 楽しい食事の時間だよ」

 まるで図ったかのように扉が開かれる。そこにはカートを押すアインの姿があった。

「サイス・マスター。指示通りジャパニーズフランチャイズのコンビニエンスストアに行ってきました。開店セールで全品10パーセントオフで予定より安く済みました」
「浮いたお金はお小遣いとしてあげるよ。さあ、火を」

 カートの上にはカセットコンロと土鍋。そしてその中身は……

「おでん?」
「そう、ODENだよ」
「ODENだとぉ!?」

 おでんという言葉に何より反応したのは椅子に括られた男であった。

「お、お前まさか……」
「言っただろう? 楽しいお食事だと。お、もう煮えたようだね」

 グツグツと煮えたぎる土鍋。アインは器用に菜箸を扱い、サイスに問う。

「最初は白滝? それともジャガイモ?」
「いや、大根……薩摩揚げなんかも」
「タマゴだ」
「な、なにぃ!?」
「ツヴァイ、君は……」
「あなた、本気?」
「タマゴだ」

 ツヴァイはアインから菜箸を奪うと鍋から熱々のタマゴを取り出した。

「や、やめ」
「いいか、これはF-22に乗れなくなった恨みなんかじゃない。だってF-4があるからな。だからこれは純粋にこれ以上隠し事がないかどうか調べるためにしているんだ。
 決して八つ当たりではない。最後に言い残すことは?」
「あんた、箸使いがうまいィィィぃッ!! あァふっひゃめ、らめぇぇ!!!!」
「次は厚揚げ。お、餅巾着もあるのか」



 その時はまだ空をまた飛べると思っていたのだ。ツヴァイは暗い格納庫の天井を見上げる。
 彼は狙撃が、暗殺の仕事が終わる度に何もない格納庫へと来ていた。電気は付けない。唯一出入り口に灯りがあるだけだ。万一全ての電気を付ければリズィに勿体ないと怒られてしまう。
 暗闇の中を探しても見慣れた機体の姿はない。
 ツヴァイは溜息をついた。

「今の仕事は慣れない?」
「クロウディア?」

 ツヴァイが振り向いた先にはクロウディアがいた。その彼女は何か大きな袋を持っている。

「おかしい人ね。やっている事は同じ人殺しでしょう。それに飛行機なんかを飛ばすよりよっぽど経済的で安上がり。仕事時間も少なく済む」
「いや……」

 否定しようとしたができない。いくら言葉を言い繕っても結局は人殺し、彼女の言う通りなのだ。

「そもそもおかしいのよ。インフェルノは軍隊じゃない。何も飛行機を飛ばして殺しをやる必要はないじゃない。あなたはそう思わなかったの?」
「……」
「……サイスは軍と繋がっている」
「何?」
「よく考えれば分かる話よ。巨大とはいえ、マフィア風情がそう何機も戦闘機を飛ばせるわけがないでしょう」
「確かにそうだが、サイスは何の為にオレたちを空へ飛ばしたんだ」
「実践に勝る訓練はない。対テロ訓練を目的とした訓練、いえ、実践。あなた達のしてきたことは傍から見ればテロそのもの。例え失敗しても死ぬのは自分たちにとって邪魔な人間……」
「何故それをオレに聞かせるんだ?」
「あなたにはこちらに来て欲しいから」
「どういうことだ」

 その質問に彼女は言葉を返さず、手帳の様な物を差し出した。

「パス……ポート」

 それは消されたはずの彼の過去の記憶。

「あなたをニンジャ・マスターと見込んでのお願いよ」
「は?」
「ここに来たときからおかしかった。いくらサイスの手によって洗脳とか訓練されたからといってそう簡単に戦闘機なんて操縦できやしない。
 狙撃もだ。いくら観測手が優秀だからといってヘッドショット連発とかあり得ない!」
「おい」
「私のゴーストが囁いたわ。あなたはニンジャ・マスターだって」
「ゴースト? 囁くって……」
「それは違う! ツヴァイはニンジャなんかじゃない!」
「リズィ? よかった。クロウディアを」
「ツヴァイはニュー・タイプなんだよ! だから戦闘機をすぐ飛ばせたんだ!」
「お前まさか……ガンダム知ってる?」
「ジャパニメーション大好き! 色々と見たさ。クロウディアと一緒に」

 そしてあーだこうだと語りだす彼女たちを見ながらツヴァイは、吾妻玲二は呟いた。

「日本に帰りたい」




[16371] ふんふ
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/06/23 22:19
 彼女は一人空を眺めていた。日が昇り、日が沈み、また日が昇るまで、途中何度も食事と花を摘みにでたりしながら。

「そうだ。ヘリに乗ろう。そして、ガンナーになって機銃をぶっ放し、本当に戦争は(略)……いえ、違うわね」

 それはC○Nの報道ヘリだろうか。それとも警察車両の……そのどちらでもいい。ヘリの撒き散らす騒音はジェット機のエンジン音と違いどこか不愉快だ。
 ふらりと立ち上がり、当てもなく歩き始める彼女……アインと呼ばれる少女。その足は自然と格納庫へと向いていた。

「灯りが……」

 格納庫には灯りが点いていた。彼女は格納庫内の気配を探ってみるが誰もいる様子はない。
 彼女の知らないことだが、クロウディアとリズィの熱論の最中、ツヴァイは逃げ出し、ヒートアップした二人が部屋で語るぞ、とうっかり灯りを消し忘れて帰っただけのことだった。
 慎重に扉を開け、格納庫の中へ忍び入るアイン。そんな彼女の目に飛び込んだのは少し大きな袋だった。
 爆弾。そんな言葉が頭を過ぎった。しかし、それも違うような気がした。
 そっと袋に手を伸ばす。そして手に触れたのは棒状の硬い何か。それは爆発物とは思えなかった。
 何を隠そうその袋こそ、クロウディアがツヴァイの為に用意したニンジャセットなのだ(通販価格・驚きの$220!!今すぐアメリカン直販へご連絡を)。
 さて、そんな事を露とも知らぬアインは袋からセットの目玉、ニンジャ・ソードを取り出した。

「サムライ・ソード?」

 日本文化に然程詳しくないアインはサムライ・ソードとニンジャ・ソードの区別がつかない。故に……

「ツヴァイ、あなたはブシドーだったのね」

 無表情に呟き、携帯電話を取り出し、誰かへと通話を始めた。

「……わたしです。ええ、そうです。新しい飛行機が欲しいです。……分かりました。すぐに向かいます」

 通話を終えると格納庫の電源を切りに歩き出した。

 スイッチを押すとそこは暗闇。

「あの青い空を飛びたい」

 暗闇に向かって彼女は囁いた。



 一方その頃、ニンジャやらブシドーだと好き勝手言われている自称・一般的なジャパニーズの吾妻君ことツヴァイは車の中でハンドルを握っていた。
 当てもなく車を走らせながらクロウディアとの会話を思い出していた。

「そういえば、オレに何か頼みたかったのか?」

 彼女との会話、ニンジャ・マスターとしての頼み事、そう言っていたと彼は記憶していた。

「気になるな。忍者じゃないけど一応聞いてみるか、頼み事。パスポート返してもらったし」

 そうと決まればツヴァイは車を路肩に止め、環境に配慮してエンジンを切った。日本人なら当たり前の行動、運転中の携帯電話の使用は御法度だから。

『もしもし?』
「あ、クロウディア…」
『ちょうどよかった! さすがニンジャ・マスターね! 今あなたに連絡をしようとしていたところなの』
「だから忍者では……何かあったのか?」
『もう聞かなくても分かっているくせに。まぁ、一応説明はするけどね』
「ああ、頼むよ」
『組織の方針は知っているわね。従来の戦闘機を使用した暗殺ではなくて、極普通の小火器による暗殺を中心とするようになった』
「それで?」
『あなたの様にそれに順応し、組織の方針に従うものばかりではない。中にはこの方針をよしとしない奴らもいる』
「だろうな」
『そしてその中心人物がサイス……』
「飛行機フリークスだから驚かないぞ」
『そうね、不満を持つだけだったらそれでよかった』
「まさか……」
『あいつは組織を裏切るつもりよ。』
「な、何だって」
『バラライカ』
「バラライカだって?」
『知っているの?』
「心当たりがある」
『なら話が早いわね。バラライカの乗っている船に対し、組織が出した答えは不干渉』
「だが、サイスはその船に押し込み強盗をしようとしている」
『ちょっと待って……そう、分かったわ』
「どうした」
『いまリズィから連絡があったわ。サイスはもう行動を起しているわ』
「……どうすればいい」
『冷静でいてくれて助かるわ。リズィがファントムを、アインを撃ったと言っているわ。サイスの始末は私の部下がつける。あなたはアインを追って』
「何故オレに?」
『空の上ではバディだったんでしょう? どこに逃げたか、彼女の行動を予測して欲しいの。それに手負いとは言え相手はあのアイン。
 リズィの銃弾が当たったのはまぐれでしょうね。手負いとはいえあのファントムの称号を持つもの。あなたじゃなければ勝ち目がないの』
「ファントムの称号って何だ? 初めて聞くぞ」
『ツーツー』
「おい、切りやがった!」
「あら、電話は終わり?」
「誰だ!?」

 何者かがドアを開け車内に潜り込んで来る。後部座席に図々しく座るその人物は見覚えある少女だった。

「アイン!?」
「運転手さん、取り合えず車を出してくれないかしら?」
「あ、ああ」

 アインに言われるがまま、エンジンに火を入れ、シートベルトを締め直すとアクセルを踏み走り出した。そして何から尋ねようかと口を開いては閉じていた吾妻、いやツヴァイはバックミラーに映る彼女の苦しげな表情を見た。

「クロウディアから聞いたよ。撃たれたんだって?」
「ええ……」
「どうして……何故組織を裏切ったんだ。何か不満でもあったのか?」

 車内に沈黙が奔る。ツヴァイはミラー越しにアインを見つめ、彼女の言葉を待った。
 ミラーを見ていてもツヴァイの目はしっかりと信号を捉えている。赤信号なのでゆっくりとブレーキを踏む。そしてアイドリングストップ、エンジンを切る。

「あなたにはドゥルルゥゥーン
「何だって? 悪い、エンジンかけた音で聞こえない」

 青信号。エンジンをかけてアクセルを踏む。

「だから、あ」

キキーッ!! ドムッ

 急ブレーキ、車体のフロントに激突する人。シートベルトをしていない後部座席に座るアインの頭が前部のシートへ激しく打ちつける。

「や、やってしまった」

 バックミラーには倒れる黒人と思われる女性の倒れる姿と後部座席に横たわるアインの姿。聞こえるは銃声とサイレンの音。

「やばいぞ、クソッ! こんなとこでドンパチを始めやがって!! おい、アイン生きてるか? 全く、シートベルトを着用しないから!」

 ツヴァイがその黒人女性を跳ねたのは故意ではない。彼女が突然車道に飛び出してきたのだ。周囲から聞こえる銃声からして彼女は銃撃戦から逃げるたのだろう。そして運がなかった、それだけだ。
 この場から立ち去るためにアクセルを踏み込んだ。その時だ。

「おんどりゃぁ、いてまうぞ、ごらぁッ!?」
「ん? 何かパンチパーマのやくざっぽいの轢いたが気がするが、気のせいか……」

 ツヴァイはバックミラーを見ることなくその場から立ち去ったのだ。しかし、彼の心の隅に残された良心が疼く。この疼きを失くすための行動が彼に新たな出会いをもたらす事になるのだ。
 翌朝、彼は轢き逃げをした現場へとやって来ていた。そこに新たな出会いがあると言うことも知らずに。

 ちなみにアインはもぐりの医者の所に預けました。



あとがき

原作っぽくするためにあえて擬音表現使ってみた。

いまさらだけど感想ありがとうございます。モチベーションとかあがります。感謝感謝。



[16371] ぜくす
Name: あん惨◆72635785 ID:4aa75bfd
Date: 2010/07/24 22:40
「おいクロウディア、やってくれたな」
「それは責任逃れですか? ミスタ=ワイズメル」
「何ィ?」
「LAはあなたの管轄。むしろ世界萌え戦車博は任せろー、と言っていたではありませんか」
「だがあのサイスの件こそお前が任せろといっていたじゃねぇか!」
「その件と今回の件は関係がないかと」
「やめねぇか」

 二人の言い争いにマグワイヤの一括が割り込む。

「あのAKIBA系YAKUZAの反応は?」
「知るかよ、あんなジャップの……」
「お前じゃない、クロウディアに聞いているんだ」
「その件については抑えは聞いているかと。ただ……」
「ただ?』
「『∩( ・ω・)∩チハタンばんじゃーい』とか『チハたんハァハァ(;´Д`)』と言っており不気味です」
「一刻も早く奪われたチハとか言う戦車買取費用を回収してお帰り願おう。アイザック、君の仕事だぞ」
「ちょ、待てよ!何で俺が」
「それでは私はこれで……彼らとジャパニメーションDVDを鑑賞する約束がありますので」

 そう言って組織御用達の会議室から出て行ったクロウディア。マグワイヤは扉が閉まり、彼女の足音が聞こえなくなってから再び口を開いた。

「クロウディアに任せたらいつの間にか奴らがこの街に住み着いていましたってことになりかねん」
「……オーケイ、当たってみるよ」




 その頃ツヴァイは一人、昨夜人を轢いたと思われる場所に足を運んでいた。時刻はもう昼、路上に砂のようなものが撒かれたあとがあるだけでそれ以外に事故の痕跡はない。

「なぁ、あんた」

 唐突に声をかけられ、彼は思わず懐に手を伸ばしそうになる。ツヴァイに声をかけてきたのは薄汚れた金髪のローティーンの少女。見るからにストリートチルドレンといった出で立ちだ。
『金を出せ』そう言ってナイフを取り出してもおかしくはない。だが、少女が口にしたのはそんな物騒な言葉ではなかった。

「昨日の夜さ、ここで事故があったのって知ってる?」

 背筋に冷や汗が流れる。この少女は一体何を知っているというのか。その穢れなき済んだブルーの瞳がツヴァイの目をジッと見つめる。思わずその視線から目をそらした彼を一体誰が責められようか。

「い、いや知らないな」
「本当か、黒人の女の人なんだけど」
「……」
「知ってるんだろ?」

 それでも何も語らないツヴァイに構わず。少女は話を続ける。

「もしかして秘密警察? 探偵? あたし知ってるんだ、ここで何があったかを」
「へ、へぇ~」
「何だよ歯切れが悪いな。襲われたって大声出すよ」
「やめろ」
「だったら答えてくれよ。あんた何なのさ」

 その問いにツヴァイは窮した。ここで港のヨーコ云々と歌えば間違いなく通報されるだろう。それは避けたい。かといって正直に言えばどうなる。
 いや、正直に伝えればそれでも間違いなく通報される。無難な回答、それはやはり……。

「探偵、ということで」
「その『ということで』って言うのが裏がありそうでカッコいいな! あたしキャル、キャル=ディヴェンス。あんたは?」
「002(ヌルヌルツヴァイ)だ」
「ど、独逸語? 何か秘密組織っぽくて凄いっ! ね、あそこで何か食べよ。聞きたい事は食べながら話すからさ」
「ああ、そうだな」

 とっさの偽名。彼は自分の不始末の後片付けがこれでうまく行くと思っていた。しかしそれはすぐに覆されることになろうとは思いもしなかった。
 むしろ後悔していた。何故調子こいてヌルヌルツヴァイ等という独逸語の偽名を口にしたのかと。

「だから聞いてる?」

 某ファーストフード店内、うず高く積まれたハンバーガーと彼女の熱弁で店内はおろか、店外からも奇異の視線に晒されているのだ。

「あ、ああ聞いている。聞いているとも。いやーさすが閣下、ルーデル閣下。すごいなー」
「むっきぃー! あんたぬるぬるツヴァイとか独逸語のコードネーム持っていながらドイツが世界に誇る大英雄ハンス・ウルリッヒ・ルーデル閣下の事知らないの!
 信じられない! 何度でも説明してあげるよ! いい、閣下は(以下グーグルで閣下の事を検索して下さい)」
「そ、そうか閣下って(ウィキペディア等で閣下の凄さを読んで下さい)みたいな戦果を誇るんだ。凄い。あーすごい」

 そして気が付けば時刻は閉店間際。この店は24時間営業ではなかったのだ。

「お客様、まもなく閉店時間になりますので……」
「へ? じゃあ続きはあんたの部屋で。あ、店員さん、ハンバーガー持ち帰りで20個。ピクルス抜きで」
「まだ食うのかよ……じゃなくてオレの家で続きを?」
「ポテトはどうなさいます」
「聞けよ」
「……そんなにポテト食いたいんだ。一番でっかいサイズで」
「畏まりました」
「……はぁ」
「溜息ついてどした?」
「テリヤキバーガー食いてぇ」

 注文を待つ間、ツヴァイの携帯が震える。一応マナーモードにしておいたのだ。キャルに一声かけて席を外す。

「こちらツヴァイ」
『わたしよ、クロウディア』
「どうしたんだ」
『客分のヤクザが轢き殺され、娼婦の女が重症。何か知らない?』

 ツヴァイは冷や汗を流しながらも平静を装って答える。

「やはり関係あったか。その娼婦の女の関係者らしき人間と接触中だ」
『さすがね。ゴーストが囁いた? とにかく、そこで500万ドルが消えたの。その行方を捜して欲しいの』
「分かった」
『頼んだわよ。ところで……その関係者って女?』
「ああ、そうだが……」
『朴念仁に見えたけど以外にやるのね』
「いや、18歳以上のまだ子供だぞ?」
『何ですって! 18歳以上の子供って注釈がつくとはそうことやあんな事を子供にするつもりなんでしょ!?よね! 最低ね、このロリコンッ!』
「ッ!? 切りやがった」

 電話が切れ、一息つくツヴァイにキャルからさらに非情な言葉が突きつけられた。

「ねー、お金たんないよ~」
「もしもし、リズィ? 済まんが3丁目のマ○クまで来てくれ。金が足りない……もしもし、もしもーし?」


その後、DOGEZAする男の姿があったとか……。



あとがき

登場人物はみな18歳以上。


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