『ツヴァイ、どうした』
激しいG運動により一瞬意識を失った彼は無線機から呼ばれる声により、すぐに意識を取り戻した。
「大丈夫だ、アイン」
『……そうか』
どこか年若い女の声はそれっきり押し黙る。
『コントールよりファントム、ミッションディザートへ移行せよ』
『ファントムアイン、コピィ。ファントムアインよりファントムツヴァイ、これよりミッションディザートへ移行する』
「ファントムツヴァイ、ネガティブ。何をするんだ?」
『サイ……』
『コントロールよりファントムアイン、説明を忘れていた。頼むぞ?』
『……コピィ』
スーハーとパイロットが大きく息を吸って吐く音が無線機にもしっかり流れる。彼、ファントムツヴァイはそれにもノイズ交じりの無線にも慣れてしまっていた。
『ファントムアインよりツヴァイ、作戦を説明する。サボテンに陽気なメキシカンを縛り付けてある。そいつの頭だけをぶち抜け』
「コピィ……とでも言うと思ったか? ネガティブ! そんなの無理だ。オーバー」
『ファントムライダーならそれくらい……』
「できるか!」
ツバイと呼ばれる青年は今コックピット……西側の傑作ジェット戦闘機の一つであるF4……ファントムⅡと呼ばれる戦闘機の前席に座り、操縦桿を握り締めていたのだ。
『引き起こしには注意を。地面にキスしそうになったら先にベイルアウトするわ』
そしてアインと呼ばれる、未だ少女がその後席に座っていたのだ。
『警告!南東より高速で接近する機影あり』
『リジィ、ボギーは何機?』
『五機だ。接触まで20,19,18……』
『タリホー、こちらでも視認したわ。機種は……F-15』
「どうするんだアイ……ン?」
ツヴァイがアインに指示を請おうとしたが、それは適わなかった。後ろから響き渡る爆発に似た音と吹き込む鋭い風が彼に襲い掛かった。
一瞬ミサイルの直撃でもしたのかと考えたが、ロックオン警報も鳴らなかった。機銃にしても爆発がコックピットで起こるとは考えにくい。
そんな時、彼の目にふと一輪の花が目に入った。空に咲く一輪の花……俗に言うパラシュートだ。
「べ、ベイルアウトしやがった!?」
『ファントムツヴァイ、撤退は許可できない。繰り返す……』
無線機からからは冷酷な命令が飛び出してくる。最も彼はその命令を無視する気はないない。何故なら彼の座るコックピットにはロックオン警報が響き渡っているからだ。
しかし幸いにも敵……5羽の鷲は無警告で獲物を仕留めたりしない。
幽霊に対して威嚇の機関砲が唸りをあげる。
「ファントムツヴァイよりコントロール……」
鷲は先ほどから無線機を通じてギアダウンしろと、次は当てるぞと口うるさく喚きたてる。どう考えても勝ち目はない。故に本部の指示を請おうとしたのだが・・・。
『コントロールよりファントムツヴァイへ。こちらの位置がばれるかもしれないので無線を封鎖する。グッドラック』
通告は非情。組織には温情の欠片というものが欠如しているのではないか。そんな思いを彼に抱かせるには十分な話であった。
はらを括ってギアダウンをしようと車輪を降ろそうとした、そう降ろそうとしたのだ。
しかしコンソールにはレッドランプ。
分かりやすく言えば車輪が出ない。故障中です。
「まぁ、こいつはぼろいからな」
ツヴァイが一人納得していたが5羽の鷲たちはそんなことは露ほどにもしれない。
『FOX2』
「え!?」
鷲の1羽が業と無線を開いたまま、これまた非情な言葉を投げかけた。
鷲より放たれた獰猛な蛇は幽霊を喰らいつくそうと猛然と襲い掛かる。そんな蛇に幽霊は対抗できるはずはない。ファントムツヴァイは冷静にレバーを引いて空に飛び出ることにしたのだ。
幽霊は空の藻屑と化したがそのライダーは無事地面に降り立った。
そんな彼は目の前のサボテンを見上げていた。
「ハハハ、ヘイアミーゴ。ミーをヘルプしない?」
サボテンに縛り付けられた陽気なメキシカンがそこにいた。彼は一体何をしたのだろうか。
「アミーゴサイスも冗談がすぎるね!テキーラの中身をタバスコに替えたぐらいでこんなことするなんて」
本当に組織は、サイス・マスターは何なのだろうか。疑問は尽きない。
しかしそれよりもこの目の前のメキシカンは何なのだろうか。やけにムカつく。
そう、自衛の為に持たされていた拳銃を思わず抜いてしまうほどに。
「アミーゴ、ミーと早撃ちしたいね?これでも荒野のッ!?」
気が付けば引き金を引いていた。放たれた弾丸は見事にメキシカンの額を貫いていた。
「任務完了ね」
「アイン、お前……」
一体いつからいたのだろうか。それよりも気にかかることがある。
「拳銃で打ち抜いてもOKなら、何でF-4に乗る必要があったんだ?」
「……そのほうが面白いからかしら?」
「そんな理由で!」
「しっ、黙って頂戴」
アインはそういうとツヴァイの口元を押さえた。そして耳に飛び込む不自然な人工的な空気を切り裂く音……。
「コブラね」
「アイン、コブラって……」
「貴方の想像している通りよ。私たちがベイルアウトしたからそれを狩りに来たのでしょうね」
「来たのでしょうねって、事無げに言うがどうするんだよって、いねぇ!」
そばいたはずのアインの姿が忽然と消えた。そして激しい砂埃がツヴァイを襲う。
「もう見つかった? 畜生ッ! アインの奴、覚えとけよ!」
あとがき
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