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ママは毎週日曜と月に一回土曜日に休みをとってあたしといてくれる。その土曜日。あたしが起きてしばらくするとビューネくんがやって来た。やって来たって変だけど、あたしはやっぱり緊張して、おはようとか言えなかった。ママは嬉しそう。ビューネくんと一緒にキッチンで冷蔵庫あけたりしながら喋ってる。今夜のメニューを考えてるのかな。今日はこれから買い物に出かけてここで夕御飯作って食べようって言ってた。でもママ、あんまし料理得意じゃないのに大丈夫かなあ?
「車出そうか?」
「いいわ、私ので行きましょ」
キーを受け取ってビューネくんが運転席に座った。あたしはビューネくんのすぐ後ろでドキドキしてた。妙だ。こういうのはじめて。ママのシトロエンクサラがすっごい小さく思える。いつもふたりで乗ってるには十分なのに、男の人が乗ると違うんだ。あ……。ふっと視線下げてギア(っていうのかな?)を握るビューネくんの薬指に指輪発見。結婚指輪だ。エンジンの音と重なってあたしの胸、ドクンって大きく揺れた。ママはパパの指輪外しちゃったんだ……。それは間違いなくショックだった。ママがビューネくんを選んだってことがはっきりそこにあらわれていたからだ。この人があたしの新しいパパだって……。
車をとめて恵比須でしばらくウィンドーショッピング。ビューネくんは黙ってママとあたしの後ろに付いて歩いて時々タバコ吸っていた。あたしは振り返ってそれを見たりした。そう言えばお昼食べてないわってママが言ってレストランに入るとサンドを頼んだ。ランチタイムぎりぎりだったのでお店は空いていた。あたしは時折ママと喋りながらサンドを食べた。雰囲気はよかったけどやっぱりビューネくんとは話せなかった。
「澪ちゃん、今晩何が食べたい? 作ってもらうから何でもリクエストしなさい」
食品売り場ででママが言った。あたしはえっと思ってママの顔を見た。
「上手なのよ」
「何でもっていわれるときついけど」
ビューネくんが笑った。あたしはまたどきどきしてきた。いちいちどきどきしてバカみたいだ、あたし。早く何か喋らないと。でも思い浮かばなくて今度はあたしがママとビューネくんの後ろについて歩いた。ふたりは仲良く商品を手に取ってはあれこれ言っていた。ママはいつもお惣菜や冷凍食品のコーナーしか覗かないのに……。喋ってる内にふたりは腕を組んでいた。あんまり自然すぎてあたしはすぐに気付かなかった。その絡んだ手の先のママの指輪を見てあたしはまたジェラシーを感じる羽目になる。ママはビューネくんのことを「トキ」って呼んでいた。
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