<追跡>
集配の遅れが続いている日本郵政グループの郵便事業会社の宅配便「ゆうパック」をめぐる問題で、ゆうパックとペリカン便の統合に伴う業務マニュアルが現場の一部に届いたのは直前の6月半ば以降だったことが5日、分かった。宅配便の遅れは同日現在で32万個に増え、郵便事業会社は社員の「不慣れ」を強調するが、「準備不足」を指摘する声が強まっている。
郵便事業会社の東京都内の支店に勤める男性社員が、ペリカン便と統合後のゆうパックの作業手順を書いた140ページにわたるマニュアルを受け取ったのは統合直前の6月半ばだった。「訓練も1回だけ。わずか2週間で習得するのは無理。押し切った経営陣が現場に責任を転嫁するのはおかしい」。男性はぶちまけた。都内の別の集配拠点の社員によると、マニュアルが届いたのは6月下旬だ。
郵便事業会社は集配拠点で混乱が続いていると強調する。だが、拠点から荷物が配送され、各戸に届ける支店でも混乱していると男性は指摘。「荷物の受領書などを発行する支店内の新システムは、7月1日の新サービス開始まで動かず、触れることもなかった」
混乱は1日以降も続く。ゆうパックでは従来、着払いで客から受け取った料金は、配達員が午前中にいったん支店に戻って精算してきたが、7月から、1日の最後に支店に戻った際に精算するペリカン便方式に変更。戻った配達員で支店がごった返す事態となった。
郵便事業会社が統合を急いだ背景には、財務上の理由がある。08年に日本通運と共同出資で「JPエクスプレス(JPEX)」を設立、日通はペリカン便を先行移管した。ゆうパックも09年10月に移管されるはずだったが、総務省がゆうパック移管後の郵便事業会社の収益を懸念し認可を見送った。結局、ペリカン便をゆうパックが吸収する形で事業統合は完了。統合を急いだのはJPEXが月50億~60億円の赤字をたれ流してきたためで、取扱個数を増やし黒字化させることが最重要課題だったためだ。
7月統合が決まったのは昨年12月にさかのぼる。ある郵便事業会社幹部は「繁忙期の統合に異論を唱える声もあった」と明かす。当時は年賀状の繁忙期で「意見する余裕が現場になかったのだろう」とみるが、その後も判断変更の余地はなかったのか--。
配達の遅れは、早期統合という経営課題を最優先させた結果、起こったとも映る。だが、鍋倉真一社長は4日の会見で「いろんな研修や予行演習は行ったが、やや不慣れの人間が多かった」と現場の責任を強調。拠点での混乱が明白となった2日の時点で「土日の対応で正常化できる」(鍋倉社長)と判断したが、結果的に「経営側の準備不足と甘い見通しによる見切り発車」(都内の支店に勤める社員)の感は否めない。
集配拠点の作業手順の検討を始めたのも4月。都内の集配拠点に勤める男性社員は残業に疲れきった様子で、「マニュアルを完ぺきに理解している人間はいないのでは。混乱は当たり前だ」と語った。【望月麻紀、永井大介】
宅配便「ゆうパック」の遅配は5日も続き、郵便事業会社、業者、利用者のすべてに混乱が広がった。郵便事業会社の東京都内のある集配所。40歳代の男性は、冷凍室の広さが限られるため、要冷蔵のものが保管できない恐れが出てきていると明かす。「統合時期もなぜ中元シーズンなのか。日付の古い宅配物が現場に残っている」と憤りを隠さない。
茨城県鉾田市飯名の「ファーマーズマーケットなだろう」では、購入翌日に配達されるはずのメロンが届かず、5日までに顧客から10件の問い合わせがあった。店員は「箱詰めで熟成が早く進むのが心配だ」と話す。
また、岡山県の通販業者によると、山形県から九州に発送したサクランボが1日遅れの3日に到着。顧客から傷んでいると苦情を受け再発送したが、「早めに伝えてもらえれば対処できた」と批判する。千葉県山武市の農事組合法人「さんぶ野菜ネットワーク」に至っては、顧客からゆうパックで発送した野菜が届いていないとの苦情が相次いでいる。職員の一人は「腐ると困る。当面、ゆうパックの利用は控える」。
生もの以外にも被害は広がる。埼玉県は発行窓口がある川口市などに、ゆうパックでパスポートを発送しているが、1~2日に発送した250冊が到着するまで最大2日間遅配となった。
流通大手各社も引き続き対応に追われた。ダイエーは、一部で到着が半日~1日遅れ、生鮮品は傷まないよう配送センターに戻して保管し、再発送の手続きをするという。小田急百貨店(東京都新宿区)は、配達期日が指定された一部の荷物については、以前から契約している日本通運の航空便などに切り替えた。地方店舗の一部と通販でゆうパックを使う三越伊勢丹ホールディングスの石塚邦雄社長は、「通販で苦情が殺到するようなら別の業者への切り替えも検討せざるを得ない」と話している。【飼手勇介、寺田剛、井出晋平、岩本直紀】
毎日新聞 2010年7月6日 東京朝刊