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2010年7月25日(日)付

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スーダンPKO―目立たぬからやめるとは

南北統一の維持か、南部の独立か。アフリカ大陸のスーダンは、来年1月に実施する住民投票で岐路を迎える。20年以上にわたった悲惨な内戦が終結した後の和平プロセスの節目である。[記事全文]

内向きの学生―世界は君を待っている

米ハーバード大学でサンデル教授が担当する「正義」の授業は、日本のテレビでも放送されて話題になった。大教室で交わされる刺激的な議論とともに、驚かされるのは居並ぶ学生の多様[記事全文]

スーダンPKO―目立たぬからやめるとは

 南北統一の維持か、南部の独立か。アフリカ大陸のスーダンは、来年1月に実施する住民投票で岐路を迎える。20年以上にわたった悲惨な内戦が終結した後の和平プロセスの節目である。

 その支援のために、日本は国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊ヘリコプター部隊の派遣を打診されていた。投票箱を運んだり、選挙監視要員を動かしたりといった活動に、国連や米国は期待を寄せた。

 しかし、菅政権は派遣を見送った。アフリカ内陸部にヘリ機材を送る困難さや安全性を主な理由に挙げている。

 破綻(はたん)国家再建の試みとして、世界の注目を集める国連平和維持活動(PKO)だけに、残念だ。

 スーダン南部では、2005年の内戦終結に伴い、70カ国近くのPKO要員約1万人が停戦監視や難民支援などにあたる。日本も08年から自衛官2人をUNMIS司令部に派遣してきた。

 「PKOへの積極参加」を掲げる民主党政権は、政権交代後、自衛隊によるインド洋での洋上補給活動を中止する代わりに、スーダンPKOへの部隊派遣を前向きに検討してきた。

 ところが最終的に、北沢俊美防衛相が100億円にのぼる経費や準備期間の長さなどをあげ、積極的だった岡田克也外相を押し切る形となった。

 気になるのは、防衛省が「自衛隊の評価につながらず、士気も上がらない」と、アピール度の低さを理由に難色を示した点だ。

 あまりに内向きな発想だ。まず考えるべきは、スーダンが日本の役に立つかどうかではない。日本がスーダンの役に立てるかどうかだろう。

 平和構築の大切さをわかっているのか。そんな疑いさえ抱いてしまう。平和構築は、民族紛争や内戦などで疲れ切った人々に救援の手をさしのべるためだけではない。

 国家が破綻していくのを放置すれば、国際社会へのとばっちりは計り知れない。テロや犯罪組織の温床となり、世界の安定を脅かす。平和構築は、それを阻む国際的な安全保障の意味合いが大きい。各国が協力する取り組みにできる範囲で加わる。それが回り回って日本の安全にもつながる。

 平和構築は「日本の存在感を世界に示せるかどうか」といった計算ずくで判断するべきことではない。

 今年のハイチ派遣でPKOの参加規模は増したものの、国際社会の期待はなお大きい。連立政権の複雑さや普天間移設問題の混迷があったとはいえ、鳩山由紀夫前首相、菅直人首相はもっと指導力を発揮できなかったものか。

 スーダン和平は住民投票を無事終えたとしても、さらに幾多の障害が予想される。まだまだ外からの支えが必要だ。菅政権は、次なる支援策の検討に大きな判断を示してもらいたい。

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内向きの学生―世界は君を待っている

 米ハーバード大学でサンデル教授が担当する「正義」の授業は、日本のテレビでも放送されて話題になった。

 大教室で交わされる刺激的な議論とともに、驚かされるのは居並ぶ学生の多様さだ。アジア系の学生も目立つ。

 しかし、その激論の輪の中に日本の学生は少ない。昨年のハーバード大の留学生666人のうち韓国からが42人、中国36人、シンガポール22人、インド20人……。日本人は5人である。

 今春、来日したファウスト学長は「中国人も韓国人も増えているのに、日本人留学生だけが減っている」と、大学関係者に訴えた。

 米国への留学生は昨年、インドと中国が10万人前後、韓国も7万人を超え、前年より1、2割増えている。ところが、日本は3万人足らずで14%減らした。米国以外への留学が大きく増えているわけでもない。

 便利で居心地のいい日本を出たがらないのか、留学で将来が保証されるわけではない、と冷めているのか。

 少子化による競争のなか、大学は国際化をうたう。多くの大学が海外の大学と留学生の交換協定を結んでいる。

 同志社大学は約120校と協定がある。だが、短期の体験プログラムを用意したり、奨学金を設けたりしても、なかなか希望者が枠に達しないという。同じ悩みを抱える大学は多い。

 「外国のことはネットでわかる」と、あえて異文化の中に身を置いて冒険や苦労をしたがらない若者が増えている、と担当者は話す。

 学生や大学だけの問題ではない。若者を海外に出して鍛えようという意識が、社会全体に薄いのではないか。

 高校は日本の大学への進学しか眼中にない。英語教育すらその手段である。ところが、韓国には外国の大学を直接目指す高校がいくつもある。

 3年生から就職活動を始めないといけない企業の採用態勢も、学生の自由を狭めている。就活に追われる学生に海外に目を向ける余裕はない。

 「ヘリコプターペアレント」という言葉が、大学関係者のなかで飛び交う。大学生になっても監視下に置いておきたい親が増えているというのだ。

 「入学式にはスーツを着せた方がいいでしょうか」などという問い合わせはまだましだ。履修科目の相談まで親がしてくるという話もある。

 入り口も出口も国内にしばられ、親に空から見守られた中では、内向きな若者が育っていくのも無理はない。

 食糧、資源、気候変動、感染症……。世界の議論に加わらなければならない難問は山積している。企業も国際的に通用する人材を欲している。次世代を担う日本の若者が、なま暖かい繭に閉じこもっていていいはずはない。

 カチンときた学生諸君。思い切って海外に飛び出してみないか。

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