それでもアメリカはイスラエルの言いなりニューズウィーク日本版6月 3日(木) 12時 7分配信 / 海外 - 海外総合ベン・アドラー(ジャーナリスト) 5月31日、支援物資を届けるためにパレスチナ自治区ガザに向かっていた支援船団をイスラエル軍が拿捕し、少なくとも9人の死者と数十人の負傷者が出た。パレスチナ支援団体や左派系ブロガーなどイスラエルを批判する人々は、この事件がアメリカとイスラエルの関係の「転換点」になると期待している。 「転換点」とは、イスラエルの国防政策を断固支持してきたアメリカがその姿勢を修正するということ。オンライン雑誌「サロン」のコラムニスト、グレン・グリーンワルドは「イスラエルの目的が、可能な限りの反感と軽蔑を招くことにあるとしたら、この事件以上の成果は望めないだろう」と書いている。 国際世論の大部分と国連の反応を考えれば、グリーンワルドの分析は正しい。「ガザ封鎖を止めさせるヨーロッパキャンペーン」のアラファト・シュークリ代表は4月のインタビューで、支援船団派遣の目的はイスラエルのガザ封鎖が逆効果だと思い知らせるためだ、と語っている。 しかしアメリカに関して言えば、今回の事件によってパレスチナ紛争をめぐる外交姿勢が変わることなど期待できない。今のアメリカの政治情勢、特に今秋に中間選挙を控えていることを考えればありえない話だ。 ■外国人が死んでも気にならない 国連の潘基文(バン・キムン)事務総長と、バラク・オバマ米大統領の声明を比べれば一目瞭然だろう。潘は「今回の暴力行為を非難する。イスラエルはきちんと説明すべきだ」と糾弾した。 オバマの声明はこれよりずっと慎重だった。ホワイトハウスの発表によると、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との電話協議で、オバマは「今回の出来事で亡くなった方々への深い哀悼と、イスラエルの病院で治療を受けている負傷者への気遣いを表明した。さらに、すべての事実関係を解明する重要性を伝えた」。これは方針転換ではないし、今後もそうはならないだろう。 イスラエルを批判する左派の人々は民主党の方針転換を望んでいるが、時期が悪い。11月の中間選挙で民主党は上下両院で敗北する可能性がある。まともな選挙参謀だったら、有権者の注目度が高い金融改革や失業対策など「共和党に勝てる」政策課題に集中するよう忠告するだろう。 パレスチナを実効支配するイスラム過激派組織ハマスに味方して、中東で唯一の民主主義国家イスラエルと敵対する。そんな行動を民主党が取るだろうか? それでは、共和党に格好の攻撃材料を与えるだけだ。 ■党派を越えたイスラエル支持 共和党に比べて内政問題に強い民主党のこと、中間選挙の年に外交政策の議論などしたくないはずだ。だから中間選挙のあった02年には、民主党の多くの議員がブッシュ政権の対イラク武力行使決議案を支持し、得意の内政分野に世論の関心が移ることを望んだ。さらに民主党の有力議員、ニューヨーク州やカリフォルニア州の有力献金元の多くはいわずと知れたイスラエル支持者だ。 今回の事件をめぐるメディアの報道にも、アメリカの親イスラエル政策に反対するような論調はない。議会におけるイスラエル支持は党派を越えており、「共和党対民主党」というお決まりの対立構造は成立しない。 アメリカで活動する親イスラエルのロビー団体は、イスラエルの人権侵害など黙殺している(むしろイスラエル国内の人権団体の方が批判的だ)。これに対抗できるような親パレスチナのロビー団体はないため、世論形成につながるような反イスラエルの意見はどこからも聞こえてこない。 たとえそうした意見が出てきて、そこにどれだけの正義があっても、評論家は判断に迷うだろう──アメリカ人が蛮行の犠牲になった外国人のことを本気で気にかけているという証拠がどこにあるのか。 アメリカが先頭に立ってスーダンのダルフール虐殺を止めさせなければならない、と訴えた活動やメディアの主張が、その後どれだけ成果をあげたか、知っている人はいるだろうか? 私も記憶にない。 【関連記事】 ・ ゴア夫妻、熟年破局の不都合な真実 ・ 鳩山辞任の責任と無責任 ・ 鳩山辞任が象徴する二大政党制の機能不全 ・ ガザ支援船襲撃とイスラエルの愚策
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