[GEN 764] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第11回】
発行日:7/21
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世界の環境ホットニュース[GEN] 764号 10年7月21日
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宮崎口蹄疫騒動を検証する(第11回)
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宮崎口蹄疫騒動を検証する 原田 和明
第11回 生産者組合が宮崎県に謝罪要求
少し前のことになりますが、5月29日に、肉牛と豚の生産者団体が 宮崎県に国
への報告を怠ったと抗議し、種牛の早急な殺処分などを求めた「事件」があり
ました。私にとって、山田副大臣(当時)の「示しがつかない」発言に続く、
違和感を覚えた出来事ですので、今回はこの事件を考察します。
生産者団体の抗議内容を朝日新聞(2010年5月29日20時54分)より紹介します。
(以下引用)
種牛の早急な殺処分求める 生産者団体、宮崎県に
家畜伝染病、口蹄疫(こうていえき)の問題で、肉牛と豚の生産者団体が29
日、殺処分を実施していない種牛49頭の一部の発症について宮崎県が国に報
告しなかったことに抗議し、種牛の早急な殺処分などを求める文書を同県に
提出した。
抗議したのは全国肉牛事業協同組合(東京都)と日本養豚協会(同)、みや
ざき養豚生産者協議会(宮崎市)。
抗議について、組合などは「生産者は全国の仲間を口蹄疫から守るために犠
牲になったのに、宮崎県が本来殺処分するべき自分の牛を残そうとするのは
神経を逆なでする。国際市場への復帰も遅れる」などとしている。49頭の早
急な殺処分、感染拡大に関する謝罪などを求めている。
農林水産省などによると、49頭の殺処分は29日現在、始まっていない。
全国肉牛事業協同組合は組合員約700人で全国の肥育牛頭数の3割を占め、同
県内にも57の組合員を持つ。記者会見した山氏徹理事長は「全国に素晴らし
い種牛がおり、宮崎牛がいなければ全国のブランド牛が成り立たないという
ことは全くない。法律に基づき早く措置することが宮崎の畜産のためだ」と
話した。(引用終わり)
このニュースを聞いたときの違和感はどこからくるのでしょうか? 生業を失
った多くの農家の救済に奔走しているはずの宮崎県に対し、謝罪要求というの
が、尋常ではありません。まず、抗議のきっかけから検証します。
「種牛49頭の一部の発症について宮崎県が国に報告しなかったことに抗議」と
のことですが、農水省と宮崎県の見解は真っ向から対立しています。
(2010/05/29付 西日本新聞朝刊より以下引用)
宮崎・口蹄疫 国「報告遅い」県「義務ない」 種牛症状めぐり応酬
宮崎県の「口蹄疫(こうていえき)」問題で、県が殺処分回避を求めていた
種牛から口蹄疫とみられる症状が現れたと28日午前に明らかにしたことにつ
いて、農林水産省は知らされていなかったとした上で「発熱などの症状が出
た時点で報告すべきだ」と批判した。県側は記者会見を開き「(家畜伝染病
予防法では)発熱だけで報告する義務はない」と反論。情報の伝達をめぐり
国と県が批判の応酬をする事態になっている。
農水省によると、担当者が同日昼の報道で種牛の感染疑いを知り、県に連絡
して事実を確認。未報告について県に再発防止を求めると「県側は口頭で謝
罪した」という。これに対し、県幹部は同日夜の会見で、49頭が既に殺処分
対象になっていたため「経過を逐一報告する必要はない」と反論。謝罪につ
いても「していません」と農水省の対応に不満を示した。(引用終わり)
家畜伝染病予防法ではただちに「疑似患畜」を殺処分することを求めています
ので、「疑似患畜」の発症について報告の規定はありませんから、宮崎県の主
張に一理あります。では、なぜ農水省は未報告を問題視するのでしょうか?
農水省が、発症した場合の報告を指示していたかどうかが問題となっているよ
うです。(東国原英夫オフィシャルブログ「そのまんま日記」より以下引用)
《5月27日》
何方かが、「(事業団の)49頭はウィルスを撒き散らしている」と仰ったら
しい。真偽は分からないが、それが事実であれば、「撒き散らしている」と
いう表現は如何なものか? 現時点で、49頭に症状は出ていない。勿論、ウ
ィルスが潜伏している可能性はある。
豚は牛の1,000倍以上のウィルスを増殖させる。よって、家伝法に 基づいた
防疫指針にも、豚の殺処分を優先させるよう明示されている。その指針に則
って、豚の殺処分及び埋設を優先している。
(※筆者注:「記者会見で山田副大臣は『49頭が今でも生き残っていて、ウ
イルスを まき散らす(恐れがある)のは 許せない』と述べた。(日本経済
新聞 2010/5/25 0:19 ) )
《5月29日》
今日、ぶら下がり記者会見のとき、メディアから、「農水省は、49頭に対し
て、異常があったら直ぐに農水省に報告してくれと県には指示していた」と
聞いた。
農水省からそんな指示は受けていない。そもそも既に疑似患畜(殺処分対象)
なのに、どうして症状が出たことを報告しなければならないのか?
家伝法に基づく防疫指針に従って、ウィルス増殖の強い豚の殺処分・埋設か
ら先に行っており、結果的に49頭が後回しになっていたというのが実情であ
る。(引用終わり)
政府現地対策チーム本部長の 山田正彦・農林水産 副大臣は23日、記者会見で
「(殺処分されたはずの 49頭が)いまだに生きていると聞き、驚いた」(5月
24日読売新聞)と、助命を認めない意向を示していますから、県に異常時の報
告を指示していたとは考えにくいです。
それに、東国原知事が言っているように、農水省は豚の殺処分・埋設から先に
するよう指示していますから、種牛49頭が生き残っていたのは、農水省の指示
に従った結果だと考えられます。(毎日新聞5月25日より以下引用)
一方、搬出制限区域の家畜を早期出荷させて緩衝地帯をつくる政府の方針に
ついて山田副農相は、感染した場合にウイルスの発散量が多い豚の食肉処理
を優先し、一定期間、肉を保管させる意向を明らかにした。(引用終わり)
すると、3団体の抗議も 農水省の代弁をしているだけで、お門違いのクレーム
と言えそうです。山田副大臣の暴走発言は論外としても、農水省はなぜ、メデ
ィアに「49頭に対して、異常があったら直ぐに農水省に報告してくれと県には
指示していた」とのうそまでついて、宮崎県を陥れようとするのでしょうか?
その疑問は一旦置くことにして、次に抗議理由について問題点を列挙します。
(1)誰の「神経を逆なでする」?
(2)「国際市場への復帰も遅れる」ことを懸念するほど日本は牛肉輸出国?
(3)「宮崎牛がいなくなっても問題ない」はホント?
まず、誰の「神経を逆なでする」というのでしょうか?(毎日新聞 5月25日よ
り以下引用)
◇「特殊性考慮を」
東国原知事は種牛49頭の殺処分方針について、宮崎県の東国原英夫知事は24
日「種牛は日本の畜産の大切な財産。一般の肉用牛とは違う特殊性を考えて
ほしい」と述べ、49頭の救済に向けた協議を国に求めていく方針を示した。
6000人の嘆願書
23日には49頭の救済を求める畜産業者ら約6200人の署名が県に提出された。
24日に県庁であった口蹄疫対策の会議後、知事は記者団に「子牛は三十数都
道府県に出荷されている。大切な財産を守ってほしいというのは多くの県民、
畜産業界の思い」と強調した。
特例で避難した種牛「美穂国」と、殺処分対象の種牛「糸茂勝」の両方の育
ての親の宮崎市高岡町の 穂並典行さん(73)は「何とか2頭とも生き残って
ほしい」と声を詰まらせた。(引用終わり)
逆なでするのは、どうも、家畜を失った生産農家の気持ちではなさそうです。
「山氏徹理事長は同日記者会見し、『県は大事な種牛だから残したいというが、
(普通の)農家の牛はそうではないのか』と指摘」(5月29日 時事通信)と息
巻いていますが、理事長の言い分にすぎません。逆上しそうなのは、どうも山
田副農相のようです。(毎日新聞 5月25日より以下引)
宮崎県で多発している家畜伝染病の口蹄疫を巡り、山田正彦副農相は24日、
県側が高級牛ブランド「宮崎牛」保護のため、殺処分をせずに経過観察とす
る特例を要望していた県家畜改良事業団(高鍋町)の種牛49頭について、要
望を認めない方針を正式に表明した。山田副農相は「できるだけ特例は認め
るべきではない」と説明した。
県内の畜産関係者からは経過観察を求める声が上がり、殺処分を実施してい
る県も救済を求めている。
国の現地対策本部長を務める山田副農相はこの日、赤松広隆農相に状況を報
告するため一時帰京。その席で49頭は殺処分することで一致した。鳩山由紀
夫首相や平野博文官房長官にも理解を得たという。
山田副農相は会見で「ウイルスをまき散らすことは許されないことだと、県
には申し上げている。県などは率先して順法を貫かねばいけない」と述べた。
(引用終わり)
山田副農相の考え方は農水省の方針そのものです。
(2)「国際市場への復帰も遅れる」?
口蹄疫非清浄国である中国は、豚肉生産高で世界トップ、牛肉も 世界4位です
から、口蹄疫 非清浄国だからと言って「国際市場への 復帰も遅れる」ことは
ありません。清浄国への輸出ができないというだけですから、中国への輸出も
できます。
(3)宮崎牛がいなくなっても全国のブランド牛に影響なし?
「松阪牛の場合、子牛のルーツは4割を宮崎県産が占めている。」(5.18産経
新聞)とのことですし、JA宮崎中央会の羽田正治会長は5月16日の記者会見で、
「宮崎県は全国に年間 4万頭の子牛を出荷している供給基地であり、全国的に
も大きな影響が出ると思う」と述べ、今後影響が全国に広がるおそれがあると
いう見方を示しています。(5月16日 NHKニュース)
このように、抗議3団体の主張は いずれもとってつけたようなものばかりで、
抗議する要件をまったく満たしていないと言わざるをえません。ところで、JA
宮崎中央会の羽田正治会長は、種牛延命派かと思ったら、49頭の種牛の殺処分
について、山田副農相や農水省の考えと一致していました。
「同じ会議に出席したJA宮崎中央会の羽田正治会長は「(延命という)特例
を要求するのは問題だ」と県の姿勢を疑問視。JA関係者は「49頭の価値は十
分分かるが、今燃えさかっている口蹄疫をなめたらいかん。接種したくない
ワクチンを打っている農家の方もいる」と、封じ込めが優先との考えだ。」
(毎日新聞5月25日)
しかし、この直前までの彼の言動はまったく逆でした。(5月16日 NHKニュース
より以下引用)
JA宮崎中央会の羽田会長は16日記者会見し、(中略)宮崎県家畜改良事業団
で飼育されている「宮崎牛」の種牛49頭も新たに処分の対象になったことに
ついて、「種牛の育成は非常に時間と経費がかかるブランドの能力やノウハ
ウの中枢部分であり、どれだけ大きな損失になるかは計り知れない」と述べ
た。(引用終わり)
さらに、スーパー種牛・忠富士が殺処分された直後には、「『このままでは
宮崎の畜産がなくなってしまうかもしれない。1頭でも2頭でも残してほしい』
と沈痛な声を出した。」(2010年5月22日16時29分 読売新聞)。
ところが、羽田会長はその2日後に、49頭の種牛がまだ生きていることが わか
ると、手のひらを返したように「(延命という)特例を要求するのは問題だ」
と矛盾した発言をしているのはどうしたことでしょう?
そこで、「羽田正治」で検索すると、この人物は独立行政法人・農畜産業振興
機構の野菜安定供給基金で平成14年10月1日から1年間非常勤の理事を務めてい
ます。(農畜産業振興機構のホームページ)この「羽田正治」がJA宮崎中央会
の会長と同一人物ならば、彼は農水省OBでいわゆる「渡り」を繰り返して今は
JA宮崎中央会の会長に納まっている、農水省側の人物ということになりますか
ら、農水省の見解と一致するのは仕方ありません。
それにしても、抗議団体に地元の生産者団体であるはずの「みやざき養豚生産
者協議会(宮崎市)」が入っているというのはどういうことでしょうか?
「みやざき養豚生産者協議会」とは、「日本養豚生産者協議会」の下部組織で、
同協議会のホームページによると、「2003年、対メキシコ FTA交渉の過程にお
いて、日本養豚の存続を守る為に立ち上がった FTA等対策協議会を前身とし、
2006年3月に発足しました。」とのことです。
ところで、日本養豚生産者協議会会長の志澤勝は、日本養豚協会の会長も兼務
しており、「同協会は農水省傘下の団体であり、農水省からの補助金のほか、
独立行政法人の農畜産振興機構からも およそ7千万円(平成19年度)の補助金
を受け取っている」「農水省からの天下り役員が2名いる」(総合情報誌「ザ・
ファクタ」2009.2.24)という関係にあります。
つまり、日本養豚 生産者協議会は、日本養豚 協会と実質似たようなもので、
FTA 交渉という外圧を利用して、農水省が新たに作った天下りポスト用の団体
だと考えられます。そして、みやざき養豚生産者協議会(宮崎市)が抗議団体
に名前を連ねたのは、日本養豚協会と同類の「養豚生産者協議会」が主体であ
ることを隠すための「名前貸し」だったと考えられます。すると、朝日新聞の
記事の見出しは、次のように改める必要があります。
× 種牛の早急な殺処分求める 生産者団体、宮崎県に
◎ 種牛の早急な殺処分求める 農水省の外郭団体、宮崎県に
つまり、抗議3団体は、農水省の依頼を受けて、「仲間である はずの畜産業界
までもが、種牛の助命嘆願に批判的」という印象を国民がもつようなニュース
をでっちあげた可能性があります。農水省は、49頭の種牛を残していた宮崎県
を陥れるために、「報告を指示していた」とうそをついてメディアに追及させ
ただけでなく、息のかかった外郭団体まで動員して抗議させていたことになり
ます。
では、なぜこの時期に、農水省は宮崎県を叩く必要があったのでしょうか?
その動機は以下の情報ではないかと推測されます。(日本経済新聞 2010/5/29
11:59より以下引用)
「種牛の殺処分慎重に」国連機関の主席獣医官
国連食糧機関(FAO)の主席獣医官のファン・ルブロス氏は 29日までに、日
本経済新聞に対し、宮崎県で口蹄疫に感染した可能性がある種牛が全頭殺処
分されることに関して「慎重に対応すべきだ」と述べた。
理由について同氏は「殺処分は感染の初期段階では非常に効果的だが、拡大
した今は長期的な視野を持つ必要がある」と説明。「殺処分は(畜産)資源
に大きな損失をもたらすとも語った。(引用終わり)
おそらく、日経新聞の記者は、ウラとりのために、5月29日より もっと早い段
階で、FAO のアドバイスに対する農水省にコメントを求めたと推測されます。
(※「29日までに」となっていて、インタビューの日時が特定されていません)。
このアドバイスは農水省の方針と対立するものです。FAOは「畜産資源の保護」
のために「殺処分の見直し」を提案しているのに対し、農水省はワクチン政策
失敗の証拠隠滅のために少しでも早く家畜を皆殺しにしたいところでした。
そこへ、農水省に、宮崎で49頭の種牛がまだ生きていることが伝えられたまし
た。(どちらの情報が先かは不明)農水省としては、宮崎県が 国連 食糧機関
(FAO)のアドバイスに気付く前に、49頭の殺処分を敢行しなければならなかっ
たのだろうと 考えられます。この問題は、民間の種牛6頭の取り扱いをめぐっ
て、再び農水省と宮崎県が対立することになりました。
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