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[GEN 763] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第10回】

発行日:7/14

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 763号 10年7月14日
         ご意見・ご投稿 → このメールに返信

         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第10回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する                原田 和明

第10回 隠されていた抗体検査

口蹄疫の診断は、症状を観察する臨床所見と、ウイルスや抗体を検出する実験
室的 方法(エライザ検査、PCR検査、CF検査、抗体検査)の組み合わせで行な
われるというのが基本です。このうち、PCR検査は 実験中のウイルスの混入を
防止するために特別の施設で行なわれるため、国内では唯一、動物衛生研究所
だけでしか実施できません。今回の宮崎口蹄疫 騒動では、そのPCR検査だけで
診断しているため、検査結果の検証ができないのです。ところが農水省はこれ
までPCR検査を行なった すべての検体について、抗体検査も実施していたこと
が発覚しました。農水省はなぜ抗体検査の結果を隠していたのでしょうか?

問題の記事は6月26日付宮崎日日新聞に掲載されています。(以下引用)

 感染気付かず拡大か 数十検体から抗体確認

 口蹄疫の遺伝子検査により感染疑いが見つかった複数の農場で採取された数
 十検体から感染後1〜2週間程度でできるとされる抗体が確認されていたこと
 が25日、農林水産省が公表した疫学調査チームの検討会資料で分かった。抗
 体が確認された農場では一定期間、感染に気づかなかった可能性があり、同
 チームはそれを感染拡大の要因の一つとして推測している。 

 遺伝子検査は動物衛生研究所海外病研究施設(東京)で行われ、その後にす
 べての検体で感染の履歴を調べる抗体検査を実施する。検体は1農場当たり
 3〜5検体を送付しているが、抗体が確認された農場数は不明。(引用終わり)

このことを伝えたマスコミは宮崎日日新聞以外には見当たりません。今回の騒
動で、宮崎県から送られてきた検体は発症したばかりの家畜のものですから、
抗体はまだできていないはずです。それなのに、抗体が確認できた検体が多数
見つかったというのですから、「今回の発症前に(農場主の気が付かないうち
に)、既に口蹄疫に感染したことがある家畜が多数いた」ことになります。

つまり、口蹄疫はこれまで多くの農場で、人間が気付かないうちに家畜の間で
感染と治癒を繰り返していたと考えられます。もともと口内炎程度の病気なの
ですから気が付かなくても不思議ではありません。すると、今回の大騒ぎはい
ったい何なのでしょうか? 27万頭もの家畜を殺す意味などまったくなかった
のです。これこそが、農水省が抗体検査の結果を隠さなければならなかった理
由でしょう。

いままで日本が口蹄疫に対して清浄国であったというのも、人間が見落として
検査をしなかった、だから発見できなかったというだけに過ぎません。今回、
これほどの大騒ぎになったのは、たまたま検査してしまったからだと考えられ
ます。

さて、この記事は「疫学調査チームの検討会資料」を基にしていますが、その
資料はうっかり公表されてしまったのではないかと推測されます。この資料が
配られた疫学調査チームの検討会は6月24日に開かれています。(2010年6月25
日付 宮崎日日新聞より以下引用)

 車両、人関与か 飛び火感染で疫学チーム

 本県の口蹄疫の感染源や感染ルートを調べている農林水産省の疫学調査チー
 ム(チーム長・津田知幸 動物衛生研究所企画管理部長)は6月24日、同省で
 第3回検討会を開いた。

 ワクチン接種区域(半径10キロ)以外で発生した都城、西都市などの飛び
 火感染について、動物、飼料を運搬した車両や人が関与しているとの見方を
 強めたものの、特定には至らなかった。

 同チームや、22日に発足した現地調査チームの聞き取りなどを基に協議。会
 合終了後に会見した津田チーム長によると、同区域外での発生原因について
 「いずれも人の出入り、飼料搬入の回数が多く、そういったことがリスクに
 なったのではないか」「(家畜の)出荷時に同じ会社を使っていた事例があ
 る」と車両、人の可能性が高いとの見方を示した。

 空気感染に関しては「発生地点が同心円上ではなく点で広がっている」など
 の理由で可能性は低いとの見解。また、発生地域に残る敷きわら、ふん尿に
 ついて早期の処理方針が示されたが、焼却や埋却などの方法は各農場の状況
 で異なるとした。

 チームは今後も現地に入るなどして調査を進め、可能な限り早期に中間報告
 などをまとめる方針。(引用終わり)

疫学調査チームとは名ばかりで、少しも感染源、感染ルートの解明に近づけて
いません。本来、疫学調査とは、口蹄疫が発生した農場だけでなく、周辺、近
県の農場のエライザ検査、抗体検査を一斉に行なって、感染の範囲を面で把握
しなければならないはずです。2000年の宮崎口蹄疫騒動ではこれらが行なわれ
ていました。発症した家畜のPCR検査だけでは 感染源、感染ルートの解明は難
しいといわざるをえません。そこで、検討用資料に抗体検査の結果が添付され
たのでしょう。しかし、それも点のデータにすぎません。

今回のスクープは、疫学調査チームのメンバーの誰かが気軽に、顔なじみとな
った宮崎日日新聞の記者にその資料を見せてしまったことから発覚したという
のが真相ではないかと推測されます。

さて農水省は、農場主の知らない間に口蹄疫は感染と治癒を繰り返していると
いうことを知っていて、今回、宮崎県に27万頭も殺処分させたのでしょうか?
農水省は抗体検査の意味を知っていて忌避していたことをうかがわせる記事が
あります。(宮崎日日新聞 2010年06月20日より以下引用)

 宮崎市で目視検査継続 「抗体検査行わず」

 政府の現地対策チーム本部長・篠原孝農水副大臣は19日、記者会見し、宮崎
 市で18日に2例目の感染疑いが確認されたことを受け、現状では 周辺農場に
 おける抗体検査は行わず、目視検査を続ける考えを示した。

 また、飛び火先で新たな発生があった場合、国はワクチン接種や特別措置法
 に基づく予防的殺処分など踏み込んだ防疫措置を示唆していたが、篠原副大
 臣は「(新たな感染が)同時多発的に起きたら考えないといけないが、今の
 ところ1日1カ所に抑えられているので考えていない」と述べた。(引用終わ
 り)

篠原副大臣は抗体検査を行なわない理由を述べていません。都城市では、周囲
1キロ以内ではありますが、抗体検査が行なわれました。(6月16日毎日新聞よ
り以下引用。)

 口蹄疫(こうていえき)問題で、農林水産省と宮崎県は15日、都城市の発生
 農家から半径1キロ内の11農場を対象にした遺伝子検査と 抗体検査の結果、
 牛豚97頭のすべてで陰性を確認したと発表した。現時点では周辺にウイルス
 のない清浄性が確認された。遺伝子検査が口蹄疫ウイルス感染の有無を調べ
 るのに対し、抗体検査は、過去にウイルスに感染した痕跡があるかどうかが
 分かる。自然治癒して症状の消えた家畜がいる可能性も否定できず抗体検査
 を併せて実施した。(引用終わり)

ところが、宮崎市では 2件も感染疑いが確認されたにも関わらず、「抗体検査
は行わず、目視検査を続ける」という。疫学調査として片手落ちの奇妙な決定
であり、しかもその理由が示されていません。恐らく、周辺農場で抗体が多数
見つかるというような事態を恐れた農水省の官僚が篠原孝農水副大臣に入れ知
恵したのではないかと思われます。

そういえば、「発生農場から半径1キロ以内」という 最初の抗体検査の範囲は
どのように決まったのでしょうか? 調査範囲はまたまた牛豚等疾病小委員会
の勧告でした。(6月14日宮崎日日新聞より以下引用)

 農林水産省は13日、動物衛生の専門家らによる牛豚等疾病小委員会を同省で
 開いた。ワクチン接種区域以外の都城市などで今後新たな発生があった場合、
 発生農場を中心に1キロ以内の農場で 抗体検査を実施し、感染の有無を調べ
 ることでまとまった。(引用終わり)

ところが、小委員会は、都城のことしか関心がなかったのか、翌日に発生した
日向市、宮崎市、西都市には言及しなかった模様ですし、1キロ以内は 狭すぎ
て、「農場が一つもない場所もある」など論外です。小委員会の提言は今回も
ボロボロです。(6月15日 宮崎日日新聞より以下引用)

 抗体検査は13日に開いた牛豚等疾病小委員会が、発生農場を中心に 半径1キ
 ロ圏内で実施することで意見を集約。篠原副大臣は「きちんとした指示は受
 けていないが、(都城市以外でも)検討したい」と述べた。

 実施範囲については「農場が一つもない場所もあるので、1キロ以内なのか、
 3キロ、5キロかまちまち」と柔軟に対応する可能性も示唆した。(引用終わ
 り)

これでは、とりあえず抗体検査をやったというアリバイ作りでしかないことが
ミエミエです。ところが、農水省のアリバイ工作も、6月22日に破綻します。
(産経ニュース2010.6.22 09:40より以下引用)

 政府の現地対策本部と宮崎県は22日、被害が飛び火した都城市で、発生地か
 ら半径10キロ圏内の約1300農場を対象に安全性調査に乗り出した。(中略)
 都城市によると、調査はまず、3キロ圏内を中心とする 96農場の牛と豚計約
 1700頭の血液を採取し、抗体検査を実施。その後、3〜10キロ圏内の 家畜に
 よだれなど口蹄疫の症状がないか獣医師が目視で確認する。(引用終わり)

範囲が広がったことで、抗体が見つかりました。次は都城の事例です。(朝日
新聞 2010年6月27日23時45分より以下引用)

 宮崎県は27日、同県都城市と日向市で家畜の伝染病・口蹄疫(こうていえき)
 の終息を確認するため22日から実施していた家畜の抗体検査で、都城の1頭
 を除き陰性が確認されたと発表した。問題の1頭は検体を採取し直し再検査
 するが、陽性となれば、蔓延(まんえん)防止のため都城で設けられている
 家畜などの制限区域解除も遅れる。同じ農場の牛24頭は陰性であるこことな
 どから、県は「状況として感染の可能性はほとんどない」とみている。(引
 用終わり)

ここでは、25頭のうち1頭が陽性でした。この農場でも 農家が気付かないうち
に家畜の感染が過去にあったと推測されます。ところで、気になるのは再検査
の方法です。「目視でも異常は確認されていないため『陽性となる可能性はか
なり低い』(県畜産課)という。」(6月28日 宮崎日日新聞)ことですが、理
屈に合いません。

抗体検査は過去の感染の履歴を調査するためのものです。ですから「目視でも
異常は確認されていない(現在)」ことと、「「陽性となる可能性(過去)」
とは何の関係もありません。同じ牛を検査するなら、一度「陽性」だったので
すから、再検査でも「陽性となる可能性はかなり高い」はずです。それにも関
わらず、県畜産課の担当者が「陽性となる可能性はかなり低い」というからに
は、検査機関につながる誰かからそう聞いたということではないかと思われま
す。

「陽性となる可能性を低くする」手口は簡単です。陽性となった牛とは違う牛
から血液を採取すればよいのです。その場合、「陽性となる確率」は 1/25=4
%ですから、「陽性となる可能性はかなり低い」といえます。

なにしろ、「都城市では1714頭、日向市では 299頭から採血し、動物衛生研究
所海外病研究施設(東京)で検査していた。」(6月28日宮崎日日新聞)という
膨大な検体数なのですから、個々の検体と家畜が1対1で対応させていたかどう
かは疑わしいのです。検体は農場ごとに A農場-1、A農場-2、・・、B農場-1、
B農場-2、・・、などのように一括りで管理されていたとしたら、A農場が陽性
だったということしかわからず、陽性だった家畜を特定することができません。

通常、このような場合、新たに最初からやり直す、つまり25検体以上を再検査
することになります。確率4%のクジ引きで1本だけ取り直せば、「当たり(陽
性)の可能性が かなり低い」のは当然のことです。しかし、記事によると、1
頭だけを再検査したと考えられ、これもインチキの類です。さて、宮崎市でも
清浄性調査で抗体が見つかりました。(7月5日13時4分配信 毎日新聞より以下
引用)

 制限解除ずれ込みへ 抗体できる前に発症

 農林水産省と宮崎県5日、宮崎市内の農家で口蹄疫(こうていえき)の症状が
 ある牛が見つかり、感染の疑いが強いと発表した。発症した牛は4日前に 採
 血した抗体検査で陰性だったが、まだ抗体ができていなかったとみられる。
 292例目で、この農家で飼育の16頭は5日、すべて殺処分・埋却した。同県は
 6月18日を最後に発生がなく、7月16日に全域で移動・搬出制限区域の解除を
 目指していたが最短でも同27日にずれ込む見通し。

 この農家では6月30日、制限解除に向けた清浄性検査のため9頭から採血。抗
 体検査の結果、3頭で陰性が確認できず4日、再検査のため県が農家に立ち入
 った際、陰性だった別の 1頭が よだれなどの症状を示し、感染疑いと判断。
 遺伝子検査で5日夜、陽性と確認された。【石田宗久】(引用終わり)

制限解除に向けた清浄性検査ですから、検体採取の時点では、この農家はこれ
まで家畜に発症はしていないとの認識のはずです。ところが、「9頭のうち、3
頭で抗体が確認」ですから、この農家の知らないうちに家畜が口蹄疫に感染し
たことがあるということになります。

それでも、農水省は殺処分を押し通すつもりのようです。(産経新聞 7月8日7
時55分配信より以下引用)

 宮崎県の口蹄(こうてい)疫問題で、感染拡大を防ぐための殺処分を前提と
 したワクチン接種に同意しない畜産業者をめぐり、国と県の見解の相違が表
 面化してきた。この畜産業者は県内の民間では唯一、種牛を飼育。東国原英
 夫知事は7日、“延命”の方向で 検討することを表明した。一方、農林水産
 省は殺処分が必要との立場を崩さず、成り行きが注目される。(引用終わり)

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