2010年5月27日 21時15分 更新:5月28日 0時36分
日本経団連は27日、東京都内で定時総会を開き、住友化学会長の米倉弘昌氏(73)が新会長に就任した。任期は2年。旧財閥系企業からの就任は初めて。米倉経団連は、デフレ脱却や成長戦略作り、社会保障の安定化など多くの課題を抱えるが、課題の実行には意見の食い違いが目立つ鳩山政権や与党・民主党との関係改善が不可欠。米倉新会長は会見で「政治とは建設的な対話を重ねていく」と述べたが、早期に実現できるか、「財界総理」の手腕が注目される。【米川直己、立山清也】
米倉新会長は27日の総会で、副会長らを前に「民間活力による日本経済の再生・復活に全力を挙げる」と決意を述べた。そのために不可欠なのが、経団連が4月に発表した成長戦略の柱に位置付けた法人税の引き下げだ。大手電機や自動車から鉄鋼、化学まで欧米だけでなく、中国やインドなど新興国勢ともシェア競争が激化する中、「国際水準に比べて高い法人税のままでは競争力が保てない」(大手自動車幹部)からだ。
ただ、昨夏の政権交代後、政府・与党から距離を置かれた経団連は、御手洗冨士夫前会長でさえも鳩山由紀夫首相になかなか面会できない状況が続いた。このため政策提言を国の政策に十分に反映できず、経団連内でも「いくら立派な成長戦略を作っても絵に描いた餅」(副会長)との嘆きの声が上がるようになった。
経団連は民主党の支持基盤の連合を通じて、政府・与党幹部にアプローチする苦肉の策まで取った。しかし、看板政策の2020年に90年比で温室効果ガスの排出量を25%削減する目標に反発したことが不興を買い、鳩山政権が経済同友会を重視する姿勢を示すなど、状況はより複雑化した。
旧自民党政権と親密だった御手洗前会長から米倉新会長にバトンタッチされ、体制が刷新されたことで、大手企業の間では「政治との関係改善の好機」(大手電機幹部)と期待する声が出ている。ただ、27日の経団連総会では来賓として訪れた鳩山首相が「みなさんの高い技術力と知恵や工夫で、環境面で世界をリードしてほしい」と温室効果ガス削減への積極的な協力を要請。これに対して、化学業界出身で反対の急先鋒(せんぽう)の一人だった米倉会長が総会後の会見で「(25%削減は)可能なのか」と発言するなど、政財トップの主張の溝は開いたままだ。
今年3月には、企業の政治献金への関与も取りやめた経団連。米倉会長は27日「非常に正しい選択。献金に関与しなくても経団連として十分活動できる」と述べたが、経団連内では「政治への影響力がますます無くなるのでは」(幹部)との不安も消えない。
これまで経団連と距離を置いていることをアピールしてきた鳩山政権の雰囲気も最近は少し変わってきた。菅直人副総理兼財務相は25日の会見で「鳩山政権は成長、アジアとの連携を重視している。経団連とも積極的に意見交換をしていきたい」と述べて、財政や税制政策、成長戦略などで経団連の主張に耳を傾ける姿勢を示した。
米倉会長は27日の会見で成長戦略とともに「税財政・社会保障の一体改革」を取り組むべき最重要課題としてあげた。これは菅財務相が財政立て直しの立場から年明け以降、展開する主張とも合致する。民主党の反発で菅財務相の方針は停滞を余儀なくされているが、米倉経団連の主張は使い方次第で、菅財務相の政策論を補強し得る。
トヨタ自動車出身の直嶋正行経済産業相は、もっと経団連と接近しているように見える。同省が18日に発表した成長戦略案は法人税の実効税率(現行約40%)を中国や韓国並みの25~30%に引き下げることやアジアでのEPA(経済連携協定)拡充など、経団連が掲げる政策課題と重なる。
ただ、消費税増税など税制の抜本改革をめぐっては「衆院任期中の4年間は上げない」とする鳩山首相自身が本格論議に慎重。さらに、7月に参院選を控える与党・民主党内は「消費税を引き上げて、法人税を大幅に引き下げることは、家計重視の鳩山政権の方針とま逆」との声が根強い。また「これまで多額の献金で自民党政権を支えてきた経団連とは仲良くできない」(中堅議員)との感情的な反感もある。