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[20558] 【習作】海鳴在住、天河くんの家庭の事情(ナデシコ×なのは・退行・ハーレム)
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b
Date: 2010/07/24 09:38
─=≡ 挨拶 ≡=─────────────────────────────────────────────────────

初めまして。
ナデシコ板で【天河くんの家庭の事情】という拙い話を書き連ねている裕ちゃんと言います。
なのはSSを読み漁っていたら書きたくなってしまい、気がついたら出来上がっちゃってました。

ただ、あちらが主になるのでこちらはぼちぼちと更新する形になるのでご了承下さい。

─=≡ 内容紹介 ≡=───────────────────────────────────────────────────

まず注意として...
ナデシコとなのはのクロスオーバーになります。
ご都合主義満載です。
ハーレム化もしちゃう事になります。

ですので、苦手な方や嫌いな方は退避した方が精神衛生上よろしいかと思われます。

そしておおまかな内容ですが

・アキト、ルリ、ラピスがなのは世界へ移動
・アキトの少年化
・ルリ、ラピスの少女化(とはいっても元々少女ですが...)
・ハーレム化予定
・基本はなのは、少しだけとらハ分

こちらで狙ってるのはお兄さんなアキトです。
黒い王子様っぽいのを望まれてると肩透かしになってしまうと思います。

─=≡ 更新履歴 ≡=───────────────────────────────────────────────────

■2010/07/24
 【更新】
   01話投稿
   01話訂正
 【コメント】
   こっちが先に書き上がった件。
   初っ端からご都合主義満載です!
   目的はほのぼのなのでシリアスはまとめてドン!

   何個か書き間違いを発見したので訂正しました。
   推敲し切れず申し訳ないです。

■2010/07/23
 【更新】
   00話投稿
 【コメント】
   気がついたら投稿してた罠。
   ぼちぼち掲載ですがよろしくお願いします。



[20558] 【習作】海鳴在住、天河くんの家庭の事情_00話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b
Date: 2010/07/23 17:42
一匹の子狐がいた。
その子狐はずっと捜し物をしていた。
何故か朧気にしか思い出せないが、とても大切な人だという事だけはわかっていた。
曖昧な記憶の中にある大切な誰かの【おひさまのにおい】を想う度に泣き叫びたくなるような郷愁を感じる。
長い間何も食べずに捜し続けているのか、小さい身体をふらふらとさせながら暗い森の中を歩いている。
軽く空いた口から吐き出される息からはどこか諦観が感じられた。

(みつからない...どこにもいない...おひさまのにおい...みつからない...)

それから数時間ふらふらと当てもなく彷徨った子狐は自然に出来た広場のような拓けた場所に出た。
月明かりが降るその広場へと進み出るとふと足を止めた。
その明かりに引かれるように空を見上げると、もう見つからないのかな...と頭の何処かで考えてしまった。
後ろ向きの考えをした子狐は諦めたようにその場にしゃがみ込んでしまう。

(あいたい...でもあえない...)

長い間捜し続けたのに会えない寂しさに押し潰されて、もう立つことも億劫になってしまう。
そのまま目を瞑ってしまおうとしたその視界の端に何かが見えた気がした。

(?)

何故か酷く気になり、億劫な身体を半ば引き摺るようにしてそちらへ近づいていく。
そこには吸い込まれそうな程、蒼く光る石が転がっていた。
子狐はその石を見たとき、それが何かを叶えてくれると感じていた。
そこで何を考えたのか、その石を抱き込むように丸まると心の底から願った。

(あいたい!!あいたい!!!あいたい!!!!)

一心不乱に願う子狐の脳裏に朧気だった想い出がありありと浮かび上がってくる。
おひさまのにおいがする二人。
優しくて、綺麗で、ご飯をくれて、一杯撫でてくれた【みつ】と呼ばれていた少女。
優しくて、格好良くて、会いに来てくれて、名前をくれて、愛してくれた【弥太】と呼ばれていた少年。

(あいたい!!みつになでてほしい!!!やたにだかれたい!!!!)

いつしか子狐の身体が少女の姿に変わっていた。
少女に変わった彼女は子狐の時と同じように丸まりながらその胸で祈るように蒼い石を抱き込んでいる。
そしてその想い出は悲しい記憶も呼び覚ましていく。

寝ている間にいなくなった【みつ】。
【みつ】の匂いが途切れた崖で憎々しげに叫んで、悲しんでいた男の事。
何度も何度も神社に会いに行ったのに二度と会えなかった事。
それから何年も経って出会った【弥太】。
抱かれて寝ていたらいなくなっていた【弥太】
匂いを追って見に行ったら、【みつ】のいた神社から【弥太】の匂いのする血が流れていた事。
神社の境内では【弥太】だった肉の塊を振り回すニンゲンみたいな何かがいた事。
そして自分の足元には見たこともないくらい苦しげに歪めた表情をした【弥太】の頭だけ転がって来た事。

そこでようやく捜し続けていた【みつ】にも【弥太】にも会うことが出来ないとわかってしまった。
だけど、少女はそれでも諦めなかった。
例え死んでいたとしても、それが本当に願いを叶えてくれるなら【みつ】に【弥太】に会わせてくれるはずだと心から信じていた。
そんな少女は女性の姿へと変わっていた。

(会わせて!!【みつ】と【弥太】に会わせて!!!次は私が守るから!!!!絶対絶対守るからぁ!!!!!)

すると、その女性が固く握りしめた蒼い石がその強い想いを総て解き放つかのように光を放った。
そしてその場は溢れ出す光に総てが包まれていった。

── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ──

太陽系にある木星よりも土星に近い一角に白亜の戦艦が浮かんでいた。
その『ユーチャリス』と呼ばれる戦艦の艦橋に黒尽くめのの男が座っている。
彼の名前はテンカワアキト、先の蜥蜴戦争と火星の後継者が起こしたクーデータによって大切なモノを手に入れ、そして喪った男である。
その彼も復讐の為に火星の後継者を壊滅させ、ようやく気を安める事が出来ている。
今は彼が火星の後継者に拉致された際の実験により減退した視力、聴力を補正するバイザーをつけていない。
バイザーを外すとおぼろげな輪郭しか見えなくなるが、それよりも彼女達に表情を隠す方を嫌ったためである。
そしてそのアキトに二人の少女が寄り添い身を預けている。

「ルリちゃん。ラピス。準備はいい?」

そう問いかけられた二人の風貌は少々通常とは異なっている。
ルリちゃんと呼ばれた少女は『ホシノルリ』。
薄水色の髪と金色の双眸、そして抜けるように白い肌が特徴的だ。
水色の髪はピースランド王国の国王とその妻からの遺伝、その双眸、肌は今は禁止されているIFS強化体質者の証である。
そんな彼女は世間からこう呼ばれている。
曰く『最年少美少女艦長』『電子の妖精』。
望んだ訳ではないその能力により戦争の道具として利用され、容姿により民衆からの票集めの道具にされる。
そんな彼女には心休める所がほとんどといっていい程無かった。

そしてラピスと呼ばれた少女は『ラピス・ラズリ』
ルリを少々幼くしたような容姿をしているが、髪の色が薄桃色なのが違う所である。
『ホシノルリ』の量産を目指した研究により生まれた少女である。
ルリの遺伝子を元にして研究をされた為、ルリにとって妹と呼べる存在になるのかもしれない。
研究の際はまだオペレータの経験や技術、常識をIFS通じて直接叩き込まれ感情も生まれていた。
だが、火星の後継者による研究所からの拉致、それからアキトに助けて貰うまでの日々で感情を忘れてしまったかのように無表情である。
アキトがその風貌とは似つかわしくない程に優しい声色で問いかける。

「はい、いつでも」
「うん」

そう返す二人の仕草が余りに似通っているためにアキトは一瞬見惚れてしまった。
だがそれも一瞬、微笑みながらわかったと目線で伝える。

「持ってきた積み荷は大丈夫かな?」
「えぇ、問題ありません」
「今頃びっくりしてるだろうね」
「当たり前ですよ」

ルリはすぐにコンソールで調べると、全く異常が起こってはいなかった。
それをアキトへ報告すると、アキトは悪戯っ子のような顔をした楽しそうに行った。
ルリはそれに対して呆れたように突っ込んだ。

「まぁ、これで争いの種もなくなるし後はアカツキ達に頑張って貰わないとね」
「えぇ、そうですね」

そう言うとアキトとルリ、ラピスは懐かしそうに目を細めた。
しばしの間そうしていたが、アキトが思い出したようにルリへ声をかけた。

「そういえば、ルリちゃん。何書いてたの?」
「あ、はい。ユリカさんにミナトさん、ユキナさん達ナデシコの皆さん、それとサブロウタさんやハーリー君達宇宙軍の皆さんにお手紙書いてました」
「へぇ、なんて書いたの?」

ここ数日の事を思い出すように答えるルリの頭を撫でつつ更に尋ねる。

「幸せになりますって...ダメでしたか?」

軽く頬を染めながら上目使いにそう問いかける。
アキトは少しだけ眉を顰めると

「間違ってはいないけど...戻ってこれるとしても戻ってこない方がいいかもな.....」

戻ってきた後にかつての仲間達、特にミナトやユキナ、ウリバタケといったルリを特に大事に想ってくれている人からの反応を考え、思わず口に出してしまった。

「アキトさん?」
「あ、なんでもない。それじゃあ、二人ともどこに行きたい?」

アキトは自身の失態に苦笑いすると余り突っ込まれたくない為に話を変えた。

「「アキト(さん)と一緒ならどこでも」」
「そうだね...この際どこでもいいのかも知れない。
ずっと俺についてきてくれるかな?」
「アキトさん。私もラピスもアキトさんと一緒に行きます。
アキトさんの為に出来る事があればなんでもします。
だから、アキトさんのしたいようにして下さい」
「アキトとルリと一緒ならどこでもいい」

ルリとラピスはアキトの言葉にとても嬉しそうに微笑みながら頷いた。
そしてルリの言葉を聞いたアキトも同じように嬉しそうに、安心したように微笑む。

「ルリちゃん、ラピス。ありがとう」
「「はい(うん)」」

アキトは二人に感謝を述べると、気合いを入れ直したようにその表情を真剣なものへと変えた。

「よし、行こう。ルリちゃん。ラピス。ジャンプフィールド展開」
「「はい!」」
「ボース粒子増大。ジャンプフィールド展開完了。いつでもいけます」

オモイカネへ呼びかけると、三人の周りに沢山の【了解】【わかった】【OK】というウィンドウが開く。
そしてユーチャリスがジャンプフィールドを展開し、アキトが行うジャンプの演算を補助していく。

「ルリちゃんもラピスも【ここではないどこか幸せになれる所】って事だけを考えるんだ。いいね?」
「「はい」」
「よし、それじゃあ行こう。離れないようにくっ付いてね」
「「はい!!」」

アキトがそういうと二人の身体を抱き寄せる。
二人もそれぞれアキトの身体に抱きつき、うっとりしたように目を閉じる。
ルリもラピスも自分に言い聞かせるように何度も【ここではないどこか幸せになれる所】と呟いている。
そして、アキトが息を深く吸い込むとそれに合わせて二人も口を軽く開けた。

「「「ジャンプ」」」



[20558] 【習作】海鳴在住、天河くんの家庭の事情_01話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b
Date: 2010/07/24 09:36
ユーチャリスのAIであるオモイカネは酷く混乱していた。
アキト達とボソンジャンプした事は記録に残っている。
ただ、ボソンアウトした所はレーダーにもソナーにも何の反応がない場所だった。
現在時刻も現在座標も全くの不明。
その中でオモイカネが安堵したのは、アキト、ルリ、ラピスが無事だったこと。
そして、アキト達が運び込んだ荷物が無事だったことだ。
ランダムジャンプだった為に最悪の可能性も視野に入れていたが、一番の懸念は払拭された。
場所がどこであれ彼らが無事である事がオモイカネの第一優先である。
しかし、今の問題は外部カメラに映っていたものが何なのかわからないのだ。

『ソナー範囲内に反応なし』
『各種レーダー範囲内に反応なし』
『全回線応答なし』

何度も何度もレーダーやソナーの反応を確認するが何もないという答えしか帰ってこない。
同じく何度も全回線を開いて呼びかけるが、全く反応が帰ってこない。
しかし、外部カメラにははっきりと映っている。
そこに浮かんでいたのは

『街』

一つの巨大な街だった。
そしてユーチャリスがその街へと入った瞬間オモイカネは外部からの何かによって強制的に落とされた。

── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ──

夢を見ている。
知らない夢を見ている。
その夢では自分は狐だった。

生まれてすぐ親狐と死に別れてしまう子狐。
何とか生きながらえたある日、妙な石に呼ばれてそこで過ごしていた。
その石が子狐に何かを渡してからはまた一人で生きていく。
放浪していたある日、子狐は神社で少女と出会った。
子狐はご飯をくれて、優しくて、おひさまの匂いがした少女が大好きだった。
しかし嵐が続いたある日、少女と会えなくなってしまう。
いつか会えると神社に通ううちに子狐は女の子へと変身出来るようになる。
それからまたしばらくすると、弥太に会えた。
弥太もご飯をくれて、優しくて、おひさまのにおいがする。
その上子狐に久遠という名前をつけ、久遠を愛し、抱き、結婚の約束をした。
しかし、弥太もいなくなってしまいそれを追いかけた先には...

── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ──

「「「!!!」」」

少年と少女が2人、同じタイミングで弾かれたように起き上がった。
3人は畳敷きの部屋で寝ており、少年を真ん中にした川の字で寝ていた。
3人とも浴衣を着ていたのだが、うなされていたのか寝崩れている。
混乱しているのか辺りをキョロキョロと見ている。
そこで、お互いの顔を見合って動きが止まった。

「「「あの...」」」

今度は同じタイミングで話しだしてしまい、3人とも困った顔をする。
何とも言えない空気が流れる。
その時、部屋を仕切っている障子が開いた。
そこに立っている少女は3人が目を醒ましているのを見て呆然と立っていた。
そしてその目には涙が溜まっていき、それが溢れた瞬間

「やた!!みつ!!!」

少女はそう叫びながら3人へと飛び込んだ。
巫女の格好をした見た目6-7歳の女の子である。
金髪の髪の毛を後ろでまとめた少女はその瞳からは涙を溢れさせながらやたと呼んだ少年へと抱きついていた。
そして、その少女を見た3人は驚いた顔をしている。

「「「久遠?」」」

久遠と呼ばれた少女は顔を跳ね上げて少年と2人の少女を見つめた。
驚いたように大きく目を見開いたが、それも束の間またその瞳から涙を溢れさせた。
そしてまたやたと呼んだ少年へしがみつくと泣きじゃくる。

「やた...みつ.....」

3人はいつまでも泣き止まない久遠を困惑したように見つめていた。
それからしばらくすると久遠は泣きつかれたのか、少年の膝枕で寝入ってしまった。
その少年は久遠の頭を撫でながら傍らにいる2人の少女へと話しかける。

「...この子が起きる前に確認したい事があるんだが」
「「はい(うん)」」

それは少年が出したとは思えないような言葉遣いだった。
そして2人の少女はそれに全く動じていない。

「君達は、ホシノ・ルリとラピス・ラズリか?」
「はい、そうです」
「うん、そう」
「...そうか」

2人の少女の返答を聞いた少年は頭痛がした時のようにこめかみを抑えた。
そんな少年へ、少女の一人が問いかける。

「では、貴方はテンカワ・アキトで間違いないですか?」
「...自分でも信じられないが、そうみたいだ」
「そう...ですか」

その少年の答えに少女も声色重く呟いた。
しばらく沈黙していたが、やがてその少年が大きく溜息を吐いた。

「ルリちゃん、ラピス...」
「なんでしょう、アキトさん?」
「なに、アキト?」
「なんで俺たち小さくなってるんだ?」
「私が知りたいですよ...」
「知らない...」

そうして3人は何度目かの溜息を吐いた。

── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ── ◇ ──

3人は久遠が寝ている間に今の状況を確認しようとしたのだが、全く出来なかった。
何故ならジャンプした際に気絶して起きたら布団の中。
その上、身体が小さくなってるのだからどうしようもない。
ただ一つ、3人に共通していたのが久遠の記憶を見たという事だった。

「そういえば、そっくりだったな」
「そうですね、弥太はアキトさんにそっくりでした」
「うん、エッチな所もそっくり」
「...み、みつもルリちゃんとラピスにそっくりだったな」
「ラピスの言葉について詳しくご説明願いますか?」
「いや...あの.....」

アキトはラピスの言葉に冷や汗を流しながら話を逸らそうとしたのだが、無理だった。
それからアキトは詳細を話すまでルリから追求されてしまった。

「今度私にもして下さいね」
「ワカリマシタ」

最終的にはそんな約束をさせられてしまった。
それから3人は久遠を起こそうとしたのだが...

「ごめん、ルリちゃん。俺には起こせない」
「私も無理ですよ」
「久遠、可愛い」

余りに幸せそうに寝ている久遠の寝顔を見て、久遠の記憶でかなり感情移入している3人には起こせなかった。
そこで悩んでいる時に思いついたのが、ユーチャリスのオモイカネへと通信することだった。
幸い服やコミュニケは枕元に置いてあったため、すぐに試すことが出来る。
3人は緊張しながらコミュニケの電源を入れると、オモイカネへ呼びかけた。

『お久しぶりです。アキト、ルリ、ラピス』

そのウィンドウを見た瞬間、アキトとルリ、ラピスの3人は心底安堵したように力が抜けた。
気を抜いたままだと話が進まないため、アキトは気を取り直してオモイカネへと尋ねる。

「オモイカネ、現状はどれだけ把握している?」
『この次元空間、この世界、アキト達がいる座標についてでしたらお答えできます』
「なら、最初から一つずつ説明してくれ」
『まずこの次元空間は元々いた所は違いますしそれ自体も完全に別物です。戻る事は不可能と考えてください』
「次元空間が違う?」

その聞きなれない言葉にアキトはともかく、ルリやラピスも眉を顰める。
思わず問い返すとオモイカネは説明を始める。
ウィンドウで細かく図解入りで説明していくためかなりわかりやすくなっていた。

『はい、以前いた次元空間は一つの宇宙に一つの時間軸でした。
今の時空は一つの次元空間にいくつもの次元世界が泡のように存在していて、それぞれ独立した時間軸で動いています』
「...む?」

しかし、元々中卒だったアキトにはよくわからなかったらしく首を傾げている。
対照的にルリとラピスは大体把握したのかアキトへと補足する。

「アキトさん、次元世界を私達の所でいう宇宙と考えてください。
その宇宙が次元空間という所に無数に存在するんです」
「それぞれが独立した宇宙だから、世界ごとで恐竜がいたり、科学が進歩してたりするって事?」
『そうです。そして、それぞれの次元世界を行き来する技術も確立されているようです』
「へぇ...」

あまりに途方も無い話だったのでアキトには生返事しか返せなかった。
だが、説明は終わっておらずオモイカネは先を続ける。

『次にアキトがいる座標、時間です。
そちらは私達の世界でいう地球の日本国、時間は2004年時点になります』
「日本?2004年?」
「嘘...」
「昔?」

3人思わず呆然としてしまった。
約200年前の世界に跳んできてしまったのだ。
呆然とした頭ではどうすればいいかなど考えもつかず。
3人はまた盛大に溜息を吐いた。

その後もオモイカネの説明は続いていった。

─地形や国名は変わらないが、地名が全く違うこと
─歴史も大まかな流れは同じなのだが、関わった人名が異なること

そうしてアキト達を取り巻く世界の状況を説明し終わると、アキトは本題へと入った。
ルリとラピスもその質問に身を引き締める。

「で、何で俺達は子供になってるんだ?」
『...』

その問いにオモイカネは沈黙を返した。
そしてしばらくアキトとオモイカネの睨み合いが続くと、観念したようにオモイカネのウィンドウに言葉が表示された。

『わかりました、言いたくありませんでしたがお答えします』
「あぁ...」
『ですが、これを見ても怒らないですください』
「わかった」
『それは...』

勿体付けるような言葉に思わず3人は唾を飲み込んだ。
緊張してるのかギュッと手を握り締める。

『記録にはありません』
「「「は?」」」

その言葉に目を疑い、3人はハモってしまう。
唖然としたアキト達へ弁解するようにウィンドウが表示される。

『ジャンプアウトして街のような所に入った瞬間私は強制的にダウンさせられました。
その後復帰した時点で既にアキト達は小さくなっていました』
「「「なっ!!」」」
『その街のようなものがなんなのかは記録にありますしその街の歴史も記録されています。
ですが、その街の誰によってかも方法も目的も不明です。その記録は全く残っていないんです』
「「「...」」」

あまりの事に言葉が出ない。
人体実験させられた事は間違いないのに、小さくなっただけで身体に "違和感がない" 。
それなのに自分達は今生きていて、そして拘束されてる訳でもなく監視されてる気配もない。

『それは私にも言えることです。気がついた時の私には人格と呼べる物が存在しており、改造を施されてました。
そしてその時には保護されたと思われる街の歴史と次元空間についての事、更には数多の技術を刷り込みされていました。
最後に、一連の事を行ったと思われる者からの伝言がありますが開きますか?』
「伝言?」
『はい、伝言です』
「...開いてくれ」

アキトはしばし逡巡したが、意を決するとオモイカネへと開くように伝えた。
そうすると大きなウィンドウが開き、そこ一杯に文章が書いてあった。
それは同じ文を地球で使われる総ての言葉で書かれているようだ。

─異世界からの旅人へ
─我々は君達との出会いという幸運に感謝が絶えない
─まず、勝手なことをしてしまった事を謝罪しよう
─そして記憶や記録を見てしまった事を伝え、重ねて謝罪しよう
─我々は君達の世界の歴史、そして遺跡を巡っての戦争を知り心を痛めた
─そんな異世界から呼ばれた君達に新しい人生をと願い身体を少し弄らせて貰った
─テンカワ・アキトという者の身体は小さくなったが五感は戻っているはずだ
─ホシノ・ルリ、ラピス・ラズリを加えた3人のナノマシン自体は君達に必要な物だと考えた残してある
─オモイカネというユニットには君達への助けになるよう我々の知識を託してある
─魔法科学という技術であるそれを有効に使ってくれ給え
─遺跡については勝手ながら誰にも触れられぬようにこちらで隠蔽しておこう
─我々も君達と同じく遺跡の技術を使い、旅に出る事にする
─君達を呼んだ者の下へと送った後に旅立つ事になるので二度と会うことはないだろう
─最後にお互いに良き旅が出来るよう願う

その文の内容が信じられずに3人は何度も読み返した。
そして、アキトは自分の身体を確認する。

「そうだ、確かに俺に感覚がある」

起きた時から驚く事ばかりで自分の身体に "違和感がない" という事に全く気がつかなかったのだ。
それはルリやラピスにも同じ事が言える。

「あぁ...そうか...感覚が戻ってるのか...」
「アキトさん」
「アキト」

アキトはようやく自分の身体の異変に気付き、自身を抱きしめるようにして涙を流した。
どれだけ望んだかわからない、どれだけ願ったかわからないその願いがついに叶ったのだ。
ルリとラピスはアキトが落ち着くまで二人で優しく抱きしめていた。
そして、アキトが落ち着いたのを見計らってオモイカネはウィンドウを開いた。

『先程の文で納得出来たことがあります』
「納得?」
『はい。少々長くなるので、しっかりついて来て下さい。
今から話すのは私達が保護された街の歴史になります』

それからオモイカネのウィンドウが開くと、また図解入りで説明が始まった。

─遥か昔に想像しうる総ての事が魔法科学で可能になった世界があった
─そしてその世界の者達は次第に奢り高ぶった
─そんなある日、奢りが油断を生み自分達の力で世界を壊してしまった
─壊れた世界は次元の狭間へと落ちていき、大半の者が死に絶えた
─そんな中なんとか街は崩壊を免れ、少ないながらも生き残りがいた
─なんとか戻ろうとするが魔法が働かない所ではどうしようもなく細々と生きながらえるだけだった
─長い年月が経ち、研究を重ねた結果何とか街の中で魔法が使えるようなフィールドが使えるようになっていた

「そこに俺達が現れたのか...」
『そうなります。それ以降は先程の文にあるようにアキト、ルリ、ラピスの身体改造。
私への刷り込みと改造。後は遺跡の研究でしょう』
「オモイカネ、一ついいですか?」

そこでルリが質問をした。
納得出来ないことがある為か、眉を顰めて難しい顔をしている。

「文の中に『異世界から呼ばれた』と『呼んだ者の下へと送った』とありますよね。
そして、オモイカネの説明を見ると私達がその街に着いてから送られるまでは時間がかかるはずです
呼ばれて来た私達に処置を施して、そして遺跡の研究をして呼んだ者へと送るなんて矛盾してませんか?」
『一見矛盾しますが、思い出してください。ボソンジャンプは時空間移動です』
「!!!」
「じゃあ、そいつらはボソンジャンプで俺達をこっちへ送ったってことか!?」
『そうなります。そして遺跡の技術と魔法科学という技術を組み合わせた彼らは何処かへ旅立った』
「魔法科学がわからないけど、それこそ途方も無いな...」
『状況から考えて呼んだ者というのはそちらで寝ている少女になるでしょう』
「久遠が...」

3人とオモイカネはアキトへしがみついて寝ている久遠を見つめた。
目的も何も見当はつかないが...

「ただ、会いたかっただけなのかもな」
「私もそう思います」
「うん、私も」

久遠の記憶を垣間見た3人にはそうとしか思えなかった。
それからアキトはオモイカネへユーチャリスがどこにいるか尋ねた。

『今は地球の軌道上を周回しています。科学的にも魔法科学的にもステルスは完全です』
「そうか...そっちへ行くにはどうすればいいんだ?」
『今まで通りボソンジャンプも使えますし、魔法技術を使ってそちらから転送させる事も出来ます』
「便利だな...」
『魔法科学については追々教えますので安心して下さい』
「あぁ、わかった」
『おおまかな疑問は払拭出来ましたか?』
「俺は大丈夫だ」
「私もありません」
「私も」

長い間喋っていたので喉が乾いてしょうがない。
飲み物でもとアキトが立ち上がろうとした時、オモイカネが爆弾を落とした。

『言い忘れてました。私がダウンしてから復帰するまでに100年が経過しているようです』
「「「はぁ!?」」」

先程から驚きっ放しの為に3人ともぐったりしてきた。
しきりにこめかみの辺りを揉んでうんうん唸っている。

『大丈夫ですか?』
「頭痛くなってきた」
「アキトさんじゃありませんが、それこそ漫画の世界ですね」
「うん、疲れてきた...」

突飛な話が続きすぎて疲れ果てた為、休憩を取ろうという事になった。
そこで初めて長い間話しているのに家の者が現れていない事に気付く。

「オモイカネ、家主の場所はわかるか?」
『ここには家主はいません』
「.....どういう事だ?」
『私が行政機関等へハッキングして調べた限りではそちらの家は半年前から空き家になっています。
ジャンプアウトしてからアキト達をモニターした限り住み込んでいる者もいません。」
「...そうか」
『そちらの久遠という女性が全員を運びこみ布団へ寝かしたのが2日前、皆さんはそれから寝続けていたんです』

オモイカネの言葉にアキト達はしがみついて眠る久遠へと目を移した。
3人はその幸せそうな顔を頬を緩ませて眺め続けた。
そして久遠をどうするか3人で話し合った

しばらくして、久遠は目を覚ました。
ぼ~っとした顔でアキト達の顔を見渡すと、嬉しそうな顔でアキトへと抱きついた。

「やたにあえた!みつもいる!」

アキトは久遠を抱き留めると安心させるようにその背中をぽんぽんと叩いてやる。
そして久遠へと問い掛けた。

「久遠。俺達をここに連れてきたのは久遠かい?」
「うん!くおんおおきくなってもってきた!えらい?」
「うん、久遠は偉いな。ありがとう」
「~♪」

アキトに褒められた久遠は更に強くアキトへと抱きついている。
ルリもラピスもその純粋な行動を微笑ましそうに眺めている。

「それで、俺達を呼んだのは久遠なんだね?」
「そう!ずっとずっとやたとみつさがしてた。でもみつからなかった。
いっぱいさがしてつかれてねようとした。そしたらあおいいしみつけたの。
あおいいしにおねがいした。あおいいしひかったらやたとみつがねてた」
「そっか、一杯お願いしたんだね」
「うん、いっぱいいっぱいおねがいしたよ」
「そっか...」

そこまで聞いてアキトは悲しい思いを隠せなかった。
ルリとラピスも同じ気持ちだ。
何故なら、アキトは弥太ではないしルリとラピスはみつではないのだ。
そして残酷だが、このまま弥太とみつと呼ばれていてはいつか気付いた時にショックが大きすぎる。
アキトはルリとラピスに目配せすると、二人は頷いた。

「久遠、大事な話があるんだ」
「?」

久遠はアキトの真剣な声を聞いて、抱きつくのを止めるとそのままアキトの膝の上に座って見詰める。
アキトはその目を見詰め返すと、久遠の両肩に手をやって口を開いた。

「よく聞いてくれ」
「うん」
「俺と彼女たちはな...弥太でもみつでもない.....」
「?」

久遠にはアキトが何を言っているのか理解出来ない。
久遠にはアキトは弥太である事が間違いないし、ルリもラピスもみつである事は間違いないからだ。

「やたへん。やたはやた。みつはみつだよ?」
「いや、俺はアキト。テンカワ・アキトなんだ。それに彼女たちはホシノ・ルリとラピス・ラズリであってみつじゃない」
「あきと?」
「そう、アキト」
「いまのやたはあきと?」
「今の弥太?」
「うん。たましいがやただからやたはやた」
「魂が弥太?」
「そうだよ」

アキトとルリ、ラピスもそれで納得してしまう久遠が理解出来ない。
確かに長い間日本で育ったアキト達は魂という概念を知っている。
しかし、久遠の話ではそんな非科学的な物で判断したようにしか聞こえない。

「久遠、じゃあ俺の魂が弥太と同じって事かい?」
「そう。りんねてんしょうっていうやつ」
「ルリちゃんとラピスも?」
「うん。みつがふたつにわけられてる」

益々もって理解不能になってしまう。
困った顔をしつつ3人で見詰め合うが、何もいい案が浮かんでこない。
アキトは諦めたように溜息を吐くと久遠に言い聞かせるように声をかける。

「久遠。それじゃあこれから俺の事をアキトって呼んでくれるかな?」
「あきと?」
「そう、アキト。そう呼んでくれると嬉しい」
「あきと...あきと!」

久遠はそう呼ぶとアキトの首っ玉へギュッと抱きつく。
それからはルリとラピスも同じように呼び名を変えてもらった。
久遠は二人の名前を教えてもらうと、アキトの時と同じように二人へも抱きついていく。
ルリとラピスは少し驚いたが、軽く微笑むとゆっくりと抱き締め返した。

それからアキト達はオモイカネから今いる場所についての事を聞いた。
それによると、今いるのは海鳴市という街らしい。
海沿いにある風光明媚な街で都市部こそビルが立ち並んでいるが、山や海に囲まれ自然が多く残っている。
都市部も緑化がされており、計画的に整備された街並みのお陰でとても過ごしやすい。
アキト達は海鳴市郊外の山の麓に建っている八束神社と呼ばれている所で匿われている。
半年ほど前に神主が交通事故で亡くなったらしく、身寄りもいなかった為に継ぐものがおらず半ば打ち捨てられているようだった。
久遠はアキト達を森の一角で拾った時、気が動転していたのだがオモイカネがなんとか落ち着けて誘導してきたらしい。

「へぇ、よくオモイカネの言う事聞いたね」
「しきがみからあきととらぴすのにおいがしたから」
「式神?」
「しきがみ」

聞きなれない言葉にアキトは聞き返すと、久遠は可愛く頷きながら返した。
その言葉をフォローするようにオモイカネがまた画像や図解交じりの説明を開始した。

『日本では陰陽道や古神道、古くは仙術や方術といった架空での話のようです。鬼や神、神霊と呼ばれる存在を使役する事だそうですが...』
「うそじゃないよ。わたしはせんじゅつつかうから」
「...だそうだが?」
『俄には信じられません...』

オモイカネの架空という言葉が気に喰わないらしく、久遠は少しむくれながら突っかかった。
その様子を見てアキトはオモイカネに問い返すのだが、オモイカネは困ったようにウィンドウを表示する。
そしてそのウィンドウを見て更に久遠がむくれていた。

「む~...くおんうそいわない!」
「「「『!!』」」」

むきになったように久遠が叫ぶと、その身体が光りに包まれた。
アキト達は突然の事に驚くが、次第に光は収まっていった。

「これでしたら信じて頂けますか?」

そこには妖艶な色香を纏った女性が現れていた。
その姿はアキト達が夢で見た久遠の姿が成長したような姿だった。

「久遠...か?」
「えぇ、その通りです」
「綺麗...」
「ふわぁ...」
『.....理解不能です』

アキトとルリ、ラピスは見惚れたように呆然としている。
オモイカネは科学技術は元より、刷り込みされた魔法科学技術を使ってもその原理が判断つかず混乱していた。

「この力は元々私のではありませんでした。古くは妲己、こちらでは玉藻前と呼ばれる狐。
白面金毛九尾の狐と呼ばれた者が私に渡してくれたものです」
「それって、あの石の?」

アキトは夢の中で見た死骸に埋もれる石の事を思い出していた。
異常な光景だったにも関わらず、その石の傍にいる久遠はとても安らいでいた。

「はい、持っていた怨みから殺生石と呼ばれる呪いを吐き出す石へと変化をしていた彼女です。
長い年月を経て、その呪いも薄れた彼女は何かを残したかったのかも知れません。
私にも彼女の想いは想像することしか出来ませんが、あそこにいた時は母といる時のようでした...」

その郷愁に溺れる彼女の姿は素直に守ってやりたいと思えるほど弱々しかった。
同時にその総てを奪ってやりたいと思える程の色香を放っていた。
それはまさに傾世、傾国と呼ばれた妲己の面影に他ならない。

「そうか...その妲己という人のお陰で俺やルリちゃん、ラピスは久遠に会えたのか...
もう会えないんだろうけど、会えたらお礼を言わないとね」
「...アキト」

しかし、そんな久遠の色香もアキトの鈍感には効かないのか久遠へ柔らかく微笑むとそう伝えていた。
その言葉に久遠は大きく目を見開くと、嬉しそうに瞳を濡らしてアキトへとしなだれかかった。
見た目6-7歳の少年へ絶世の美女が愛しむように寄り添っており、それを少年が柔らかく包んで頭を撫でてやっている。
それは未来の機動六課課長が見れば涎を垂らして喜びそうな場面であった。

「女の私でさえ妙な気持ちになってしまいそうなのになんでアキトさんは大丈夫なんでしょうか?」
「...鈍感だから?」

そんな様子を眺めて、ルリとラピスはしきりに首をひねっていた。
鈍感は何よりも強いらしい。
そして久遠はアキトから離れると困ったような表情をした。

「この姿は疲れるのであんまり長くはなれないんです」

そう言うと少女の姿に戻っていた。

「おなかすいた...」

お腹を抑えて辛そうに眉を顰めるとぽてっとアキトへ倒れかかった。
アキトは驚いたような表情を見せたが、すぐに納得すると真剣な表情に変わる。

「よし、ルリちゃん、ラピスご飯を作ろう」

そう言って立ち上がった。


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