【シリーズA】
金賢姫KAL機事件ねつ造疑惑A
しかし安企部は、いまだにその後の明確な物証を出していない。安企部は世界的に注目を集めた重大なテロ事件の犯人の身柄について、まともに確認もしないで発表した。
外交官はほかの職業と違って、海外公館で政府を代表する職業である。外交官の娘である金賢姫の犯行は、ただちに北韓の犯行と印象づける効果を狙ったものと推定される。
<疑惑四>金賢姫の服毒自殺の方法は、北韓の工作員だけが使用するのか。
金賢姫一行がバーレーンで服毒した劇薬は、国立科学捜査研究所の鑑定の結果、青酸カリであることが明らかになった。青酸カリを液化ガス状態にしてカプセルにつめたものだが、致死量は〇・〇六グラムの毒薬である。
政府は、このような種類の毒薬は北韓工作員のよく使う方法だと、北韓の犯行を立証する小道具として使ったが、北韓だけが使用しているものではない。一九七二年五月初、密使として北韓を訪れた李厚洛当時の中央情報部長も、万一に備えて青酸カリ入りのカプセルを所持していた(「東亜日報」発行「南山の部長たち」第一巻、三百四十六―三百五十ページ)。
韓国情報機関の最高責任者が服毒自殺用として所持する程度なら、すでにこの分野の機関では一般的に使用されていることが検証されたものだ。したがって劇薬服毒の方法だけで北韓工作員の犯行と断定するのは、スパイ小説にでも出てくるような筋書きではないか。
<疑惑五>金勝一はほんとに国際テロリストなのか。
KAL機爆破工作に金賢姫とチームを組んだ金勝一を、政府では相当な国際工作員のように描写しているが、実際に確認されたところによればまったく違っていた。
「月刊朝鮮」の趙甲済編集長が著した「金賢姫の神様」と題する本の五十九ページを見れば、「金勝一は七十歳をこえている上に、極度に衰弱していた」と金賢姫が陳述したくだりが出てくる。バーレーンで服毒自殺をした金勝一を国立科学捜査研究所で解剖した結果、身長百七十一センチ、体重四十五・九五キロで、胃と胆のうの手術を受けた痕跡があった。とくに胃の大部分を手術で切除しており、健康状態が良くないと確認された。
金勝一のこのような健康状態は、バグダットでKAL機に搭乗するとき目撃した乗務員の陳述でも確認されており、一九九一年に出版された金賢姫の手記内容を総合してみると、「金勝一は今にも死にそう」な患者だったと記している。
国際テロリストが備えていなければならない基本的な英語の実力も話にならない、と手記と日本の資料で確認された。結局、四か国語に堪能(たんのう)との安企部の発表は、うそであることがばれてしまった。つまり政府が発表した国際感覚に優れた国際工作員のイメージとは違い、いつ死ぬかわからない老人であった。
胃の大部分を切除していることは、医学的に見て正常な活動には不利だということだが、それではなぜこのような老人をテロ工作に加え、劇的な瞬間に服毒自殺させたのか。
初めから金勝一は自殺班、金賢姫は自白班と決められたシナリオではなかったのか。(つづく)