けさからツイッターで話題になっているが、バーナンキは議会の質疑でこう答えたようだ:
So he said "there is not a high probability that deflation will become a concern." Contrasting the U.S. to Japan, he said the latter has lower productivity growth, a contracting labor force and bank problems. He maintained the U.S. banking system, on the other hand, is "strengthening."ここで彼は日本がデフレに陥った原因を、次の三つだとしている:
- 低い生産性上昇率
- 労働人口の縮小
- 銀行の不良債権
ドマクロでも,基本ミクロでも,現代的なモデルでも負の生産性ショック(生産性の定常水準の低下)はインフレ要因なんですがねぇ・・・という。どっちが正しいのだろうか。
いうまでもなくバーナンキである。岩本康志氏も解説するように、生産性上昇率が下がると潜在成長率が下がり、自然利子率が下がるからだ。ニューケインジアン理論では、
GDPギャップ=α(自然利子率-金利)+需要ショック
で決まり(αは定数)、物価上昇率はGDPギャップの増加関数である(飯田氏のような話は、どんな教科書にも出てこない)。日本の自然利子率はマイナスなので、ゼロ金利でも(需要ショックを別にすると)右辺はマイナスになり、GDPギャップもマイナスになってデフレが生じる。
国際マクロで考えると、Balassa-Samuelson効果によって生産性上昇率の低いサービス業でデフレ(厳密には相対価格の低下)が起こる。さらに国際金融市場でも実質金利の均等化が起きているので、生産性上昇率の低い日本では名目金利が低くなり、
物価上昇率=日本の名目金利-世界の平均実質金利
という式で、日本のデフレはかなり説明できる。つまりデフレの大きな原因は世界と日本の生産性上昇率の差なのだ。特に新興国との競争で製造業に賃金低下圧力がかかる一方、サービス業の生産性上昇率が低い(部門によってはマイナス)ために収益が上がらないことが大きな問題だ。バーナンキもいうように、生産性を高めないかぎり、日銀の力だけではデフレを脱却できないのである。
GDPギャップ=α(自然利子率-金利)+需要ショック
で決まり(αは定数)、物価上昇率はGDPギャップの増加関数である(飯田氏のような話は、どんな教科書にも出てこない)。日本の自然利子率はマイナスなので、ゼロ金利でも(需要ショックを別にすると)右辺はマイナスになり、GDPギャップもマイナスになってデフレが生じる。
国際マクロで考えると、Balassa-Samuelson効果によって生産性上昇率の低いサービス業でデフレ(厳密には相対価格の低下)が起こる。さらに国際金融市場でも実質金利の均等化が起きているので、生産性上昇率の低い日本では名目金利が低くなり、
物価上昇率=日本の名目金利-世界の平均実質金利
という式で、日本のデフレはかなり説明できる。つまりデフレの大きな原因は世界と日本の生産性上昇率の差なのだ。特に新興国との競争で製造業に賃金低下圧力がかかる一方、サービス業の生産性上昇率が低い(部門によってはマイナス)ために収益が上がらないことが大きな問題だ。バーナンキもいうように、生産性を高めないかぎり、日銀の力だけではデフレを脱却できないのである。
コメント一覧
バーナンキ氏は成長率と言っていて、
> the latter has lower productivity growth
飯田泰之氏は、日経の訳を見た(?)のか、
> 負の生産性ショック(生産性の定常水準の低下)
と勘違いしたので、モデル内で動かすパラメーターが異なる議論になっていますね。
生産性の成長率が下がれば自然利子率は下がるし、生産性そのものが下がれば生産不足でインフレ要因になるでしょうから、学術的な話は何も無い問題のようです。
新進気鋭の学者先生方が議論の一端を見せてくれることは有意義だ。
けれども、*マークが付いているとおり、上の文章を理解するには中級マクロ(とその基礎としてのミクロ)を知っている必要があり、twitterやBlogで経済討論をやってる人の2/3はまず完全に理解できない。
かくして、「日銀がカネ刷ればいいんじゃないの?」という素人でも何となくわかった気になる主張が幅を利かせることになる。
飯田氏を弁護すると、
>飯田氏のような話は、どんな教科書にも出てこない
というのも事実ではなくて、10年ぐらい前の教科書では
「長期には、垂直の総供給曲線と右下がりの総需要曲線の交点で、物価水準Pと産出量Yが決まる」
と教えていた。(総供給曲線が左にシフトするとPは上昇)
ただし、現代的なモデル(DSGE)にまで話を拡張すると、池田氏や岩本氏のような説明が正しく、「現代的なモデルでも」と飯田氏が筆を滑らせたのが間違い。
しいて飯田氏の話の辻褄を合わせると、「負の生産性ショック」という言葉で「供給の低下」といいたかったんでしょう。しかし両者はまったく違う概念。彼が自分で「定常水準の低下」と書いているように、生産性は長期の概念で、ドマクロには入ってこない。
そもそも「供給が低下してインフレが起こる」などという話も、どこの教科書にも書いてない。そんなことが起こるのは、旧共産圏のように日常的に供給が不足する場合だけ。こんないい加減な自称マクロ経済学で、政治家をミスリードするのはやめてほしいものですね。
> こんないい加減な自称マクロ経済学で、
単なる読み間違えでしょう。低い生産性成長率を、生産性の低下と読み違えれば、同じモデルで違う結論になるようですし。
さて、バーナンキの指摘した、日本は低い生産性の成長率は本当なのでしょうか?
以下のPDFの2枚目右側の図では、日本も米国も労働生産性上昇率はほとんど変わらないように思えます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0514-2b_0006.pdf
深尾先生の分析だと日本はTFPも上昇しています。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/08041801.pdf
21世紀になってから日本の生産性が向上しているのであれば、バーナンキ発言の前提が怪しくなるのかも知れません。
労働生産性については延々と論争があり、これは計測誤差も大きいので決着はついていません。ただ製造業については、日本の労働生産性はOECDの平均以上で伸び率も高い、というのがコンセンサスでしょう。
問題はサービス業で、絶対的な水準は必ずしも低くないが、生産性上昇率は低い(最近はマイナス)。OECDなどもいうように、日本経済の問題はほとんどサービス業(いわゆる内需型産業)の問題なのです。