【ハノイ米村耕一、マニラ矢野純一】東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の外相会議が22日、ハノイで開かれ、南シナ海の島や環礁の領有権を巡る問題について協議した。中国側は従来、多国間協議の場で南シナ海の問題を議論することに抵抗していたが、開催国のベトナムを中心としたASEAN側が押し切った格好だ。
会議では、南シナ海での関係国の行動を規制する新たな合意に向けて協議を進める方針も決まった。ASEAN側出席者によると、中国の楊潔〓外相は、02年にASEANと中国が署名した「南シナ海における行動宣言」を見直すため、「適切な時期にASEAN側と協議する方向で検討している」と述べた。
中国側がこれまで南シナ海の問題を巡る多国間協議に消極的だったのは、軍事力、経済力で圧倒的な優位に立つ中、経済協力や共同開発をテーマに2国間対話に持ち込む方が有利なためだ。特に軍部は、南シナ海問題の“国際化”に反対していた。
しかし、南シナ海では昨年ごろから中国とASEAN諸国が相互に漁船を拿捕(だほ)する事件が頻発。中国側が高性能な監視船を投入したことなどから緊張が高まった。ASEAN加盟国の外交官などによると、中国が2カ国間交渉で油田など天然資源の開発を進めようとすることについても「中国が南シナ海をコントロールしようとしている」との警戒感を生んだ。こうした中、ASEAN側が結束を強め、中国側も柔軟姿勢を示さざるを得なくなったようだ。ASEAN側は、中国の「パワー」に国際的な歯止めをかける道具として、法的拘束力の弱い現在の「行動宣言」に代えて、より拘束力の強い「行動規範」の締結を目指している。ASEANのスリン事務局長は21日、ベトナム紙に「南シナ海の紛争解決には透明度の高い枠組みが必要だ」と規範の重要性を強調した。23日に開かれるASEAN地域フォーラム(ARF)の議長声明にも、規範作成をにらんだ協議の必要性が明記される見通しだ。
毎日新聞 2010年7月23日 東京朝刊