ドイツ語好きの化学者のメモ

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大学・研究・論文

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携帯電話電磁波がDNAを損傷させるという研究はねつ造だった

Der Spiegel 誌によると、携帯電話電磁波がDNAを損傷させるという研究はねつ造だったそうだ。
http://www.spiegel.de/netzwelt/mobil/0,1518,555130,00.html

ウィーン医科大学で行われ、2005年と2008年に発表された研究では、
携帯電話の高周波電波は低出力であっても、細胞DNAを損傷させることが判明したという。

しかし、実験の再現性がないと疑う研究者が、学術雑誌のエディターに報告したため、
ウィーン医科大学は調査委員会を設置し、データは実験値ではなく、でっちあげだと推測した。

2008年の論文については、矛盾点が指摘されたが、主著者の Hugo W. R?diger 教授は反論していた。
http://www.springerlink.com/content/j0k74456855588uv/fulltext.pdf (A. Lerchl 教授の問い合わせ)
http://www.lab-times.org/editorial/InOrdnung.pdf (反論)

それにも関わらず、両論文に関与した女性研究者がデータねつ造をしている現場を取り押さえられた

ウィーン医科大学のニュースリリースは次のとおり。
http://www.meduniwien.ac.at/homepage/news-und-topstories/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=216&tx_ttnews%5BbackPid%5D=471&cHash=44de76750f

学長はこの調査結果を受けて、その研究者を解雇し、ねつ造論文の取り下げを申請中とのことだ。

携帯電話電磁波の危険性については、かなり前から議論されている。
高周波電波もエネルギーを持っているから、作用がゼロということはない。
ただ、放射線の議論と同様に、病気との関係が明確ではないため、いろいろなウソが入り込む。

ねつ造論文の著者には、ドイツの財団 Verum Foundation の研究者 Franz Adlkofer が入っている。
http://www.verum-foundation.de/

彼が主導した電磁波がDNAを損傷させるという研究も含めて、4年間で300万ユーロ以上が使われた。
このプロジェクト REFLEX の成果発表時点で、疑問点が提示されていたのに、今まで発覚しなかったとは。
http://ec.europa.eu/research/rtdinfo/46/01/print_article_2943_en.html

この財団では重点プロジェクトの一つとして、電磁波の人体への影響について、研究費を出している。
財団への寄付金も含めて、ねつ造論文のために、多額の資金が無駄になった。

それにしても、他研究者の追試で簡単にばれるのに、どうしてねつ造をしてしまったのだろうか。
まともな研究ならば、「出力○○の電磁波では変化が見られなかった」 でも、成果として認められるのに。

ねつ造が発覚しても、電磁波の脅威を誇張する団体は、この削除された論文を根拠にするのだろうか。
また、電磁波の影響を否定する団体は、このねつ造をもって、健康影響の研究全体を否定するのだろうか。

このように科学研究は純粋なものではなく、ある意図を持って政治的にも利用されるのだ。

最後にそのねつ造された2論文の抄録を、長くなるが、削除される前に以下にコピーしておこう。

【Mutation Research/Genetic Toxicology and Environmental Mutagenesis,
Volume 583, Issue 2, 6 June 2005, Pages 178-183
Non-thermal DNA breakage by mobile-phone radiation (1800 MHz) in human fibroblasts and
in transformed GFSH-R17 rat granulosa cells in vitro

Elisabeth Diem, Claudia Schwarz, Franz Adlkofer, Oswald Jahn and Hugo R?diger

Cultured human diploid fibroblasts and cultured rat granulosa cells were exposed to
intermittent and continuous radiofrequency electromagnetic fields (RF-EMF) used in mobile phones,
with different specific absorption rates (SAR) and different mobile-phone modulations. DNA strand
breaks were determined by means of the alkaline and neutral comet assay.

RF-EMF exposure (1800 MHz; SAR 1.2 or 2 W/kg; different modulations; during 4, 16 and 24 h;
intermittent 5 min on/10 min off or continuous wave) induced DNA single- and double-strand breaks.
Effects occurred after 16 h exposure in both cell types and after different mobile-phone modulations.
The intermittent exposure showed a stronger effect in the comet assay than continuous exposure.
Therefore we conclude that the induced DNA damage cannot be based on thermal effects.】

【International Archives of Occupational and Environmental Health,
Volume 81, Number 6, page 755-767.
Radiofrequency electromagnetic fields (UMTS, 1,950 MHz) induce genotoxic effects in vitro
in human fibroblasts but not in lymphocytes

Claudia Schwarz, Elisabeth Kratochvil, Alexander Pilger, Niels Kuster, Franz Adlkofer
and Hugo W. R?diger

Objective Universal Mobile Telecommunication System (UMTS) was recently introduced as the
third generation mobile communication standard in Europe. This was done without any information
on biological effects and genotoxic properties of these particular high-frequency electromagnetic
fields. This is discomforting, because genotoxic effects of the second generation standard
Global System for Mobile Communication have been reported after exposure of human cells in vitro.
Methods Human cultured fibroblasts of three different donors and three different short-term
human lymphocyte cultures were exposed to 1,950 MHz UMTS below the specific absorption rate (SAR)
safety limit of 2 W/kg. The alkaline comet assay and the micronucleus assay were used to ascertain
dose and time-dependent genotoxic effects. Five hundred cells per slide were visually evaluated
in the comet assay and comet tail factor (CTF) was calculated. In the micronucleus assay 1,000
binucleated cells were evaluated per assay. The origin of the micronuclei was determined by
fluorescence labeled anticentromere antibodies. All evaluations were performed under blinded conditions.
Results UMTS exposure increased the CTF and induced centromere-negative micronuclei (MN) in
human cultured fibroblasts in a dose and time-dependent way. Incubation for 24 h at a SAR of 0.05 W/kg
generated a statistically significant rise in both CTF and MN (P = 0.02). At a SAR of 0.1 W/kg the CTF
was significantly increased after 8 h of incubation (P = 0.02), the number of MN after 12 h (P = 0.02).
No UMTS effect was obtained with lymphocytes, either unstimulated or stimulated with
Phytohemagglutinin.
Conclusion UMTS exposure may cause genetic alterations in some but not in all human cells
in vitro.】

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すごい情報ですね。
スイスの研究機関ITIS(だっと記憶)のサイトにも
同様な捏造・・・・の見解が公表されていました。

2008/6/1(日) 午後 3:17 [ vyj*13*4 ]

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ヨーロッパでは研究費をかけて検証していたので、大きく取り上げたのだと思います。もしものことを考えて、電波出力を抑えた基準を作っていましたから、ウソの論文を基にしていたなんて、かなりの金額が無駄になりました。

日本では、携帯電話の電磁波が危険とも安全とも、何も報道していません。医療機器の誤作動について少しあるくらいです。
電磁波関連のサイトはたくさんあるようですが、今回のねつ造研究についてのコメントは見当たりません。
やはり外国語能力がないと、情報収集範囲が限定されてしまうという例でしょうか。

2008/6/1(日) 午後 4:51 [ ドイツ語好きの化学者 ]

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>やはり外国語能力がないと、情報収集範囲が限定されてしまうという例でしょうか。

まさにその通りと思います。
スピーゲルのトドイツ語は私も駄目ですが、
英語だけは何とかなるので、英語のサイトは見ています。

2008/6/1(日) 午後 11:58 [ vyj*13*4 ]

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後で続報を載せますが、この研究の真の主導者である Adlkofer 教授は、タバコ産業のためのロビー活動もしているそうです。

所属する研究財団 Verum Foundation は、なんとタバコ産業の資金で設立されています。

これまでもニコチンとがんとの関連性を指摘する研究について、公表しないように圧力をかけたことも暴露されています。

これは憶測ですが、タバコ産業の意向を受けた Adlkofer 教授は、携帯電話電磁波に発がん性があると宣伝することで、タバコの有害性から市民の目をそらせようとしたのかもしれません。

こうなると科学者やその研究論文については、誰が研究費を出したのか、これまでどのような活動をしたきたのか、全部調べないと、信用できないことになりますね。

2008/6/2(月) 午前 8:34 [ ドイツ語好きの化学者 ]

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>後で続報を載せますが、

vyj*13*4 ことBemsjです。
続報に期待しています。

REFLEXプロジェクトはVerumも資金を出していますが、大半はEUからの研究資金であったはずです。 削除

2008/6/2(月) 午後 3:59 [ bemsj ]

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続報というほどでもないですが、トラックバックした記事で補足しておきました。

完全に中立な立場で議論したり、研究したりすることは困難なのかもしれません。資金提供した方も、「金は出すが、口は出さない」としてほしいものです。

2008/6/2(月) 午後 6:33 [ ドイツ語好きの化学者 ]

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その後の情報が出たみたいです
REFLEX project cleared of fraud claims
http://www.mast-victims.org/index.php?content=news&action=view&type=newsitem&id=4420

「電磁波でDNA損傷の研究公表を産業界が妨害」告発・爆弾証言(米国議会公聴会
http://ameblo.jp/kitakamakurakeitaing/entry-10360551692.html
の米国議会公聴会の証言でも話がでてきます 削除

2009/11/9(月) 午前 9:24 [ これ ]

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携帯電話電磁波に関する実験データねつ造の責任を教授は否定

携帯電話電磁波がDNAを損傷させるという研究が、全くのねつ造であったことが発覚した。 5月24日にドイツの週刊誌 Der Spiegel が報道した後、ドイツではこの記事を引用した報道が続いていた。 5月26日には、独自取材をまとめた Der Spiegel の続報が出ている。 h

2008/6/2(月) 午後 6:30 [ フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ ]

自説に不利な報道を知っていても取り上げないのは科学的態度だろうか?

このブログへのアクセス数は、一日当たり100件を超える程度で、注目度は低い方に分類されるだろう。 個人的な興味から記事を書いているため、社会一般でのトピックスとは無関係のことも多いだろう。 外国語の勉強も兼ねて、興味を持った海外の報道を記事にすることもあ

2008/7/11(金) 午後 11:59 [ フリーランス英独翻訳者を目指す化学系元ポスドクのメモ ]

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