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知事、農相対立 関係悪化に県職員不安、焦り

(2010年7月23日付)
 未曾有の危機をもたらした口蹄疫への対策で、県は財源の確保に頭を悩ませている。“虎の子”の財政調整積立金を取り崩したほか、対策費捻出(ねんしゅつ)のため、各課に口蹄疫で執行できない事業の報告も要請。国にも粘り強く財政支援を訴えている。ところが、トップの東国原知事は民間種雄牛をめぐり山田正彦農水相と“大げんか”。県幹部からは「国が快く協力してくれるかどうか不安」との声も聞こえる。

 「基金はいつになったらできるのか。国に掛け合っても答えがない」。ある県幹部は、口蹄疫対策特別措置法で認められている復興のための基金がいまだに創設されていないことに、焦りを隠さない。県が復興計画を立てたとしても、財源の裏付けがない「絵に描いたもち」となる恐れがあるためだ。

 県は4月以降、5回にわたり592億円もの予算を計上しているが、国からの財政支援が足りずに、財政調整積立金を67億円取り崩し、残金は約50億円に減少した。県財政はまさに“火の車”。県総務部からは「もう県にはお金はない。何度でも国にお願いしていくしかない」との声が漏れる。

 しかし、民間農家の種雄牛救済を求める知事、殺処分を指示する農相の対立は泥沼化。知事はブログや会見で、「『あくまでも殺処分ありき』という論理矛盾を押し通し、自分のメンツや意地だけを優先し、強引・高慢な方針を突っ張られた」「どれだけKY(空気が読めない)なんだ」などと農相批判を展開。農相も、知事が手渡そうとした嘆願書を「そこ(机)に置いといて」と直接受け取らず不信感を示した。

 こうした状態に、7月臨時県議会では議員から苦言が相次いだ。「知事がネットやマスコミを通じて不満をぶちまけることが、果たして県の利益につながるのか」「今回のブログを見て、政府が金を出そうという気になるか。(職員は)なぜいさめないのか」。野党である自民党県連関係者でさえも「殺処分した家畜に十分な補償を出してくれた農相を怒らせてはだめだ」との声を上げた。

 一方の知事は「僕は地方として言うべきことは言う姿勢。感情的ではなく、理不尽な強要に一石を投じただけだ。問答無用に命令して対立しようとしたのは山田大臣だ」と悪びれる様子はない。「個人的な意見の対立が、国と県の関係悪化につながらなければいいが…」。県職員の一人はつぶやいた。

 一方、農水省幹部は「予算総額はまだどうこう言えないが、終わってみて足りないことはない。申請されたものはきちんと交付されるし、交付されなかったものは申請漏れや、そもそも対象外としか考えられない」と説明。知事と農相との関係が予算配分に影響することはないとの考えを示す。

 宮崎公立大の有馬晋作教授(行政学)は「今までのような知事の発信力があれば、対立構図でも国から予算を引き出すことは可能だ。しかし、発信力はもろ刃の剣になりうる。冷静な議論を通じて国を説得する態度も大切だ」と指摘している。

【写真】民間種雄牛の殺処分をめぐり、意見が対立した東国原知事(左)と山田農相