チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』00
Name: 柘榴◆454d41cc ID:d4172e56
Date: 2010/07/20 14:19
こんにちは。

柘榴(ザクロ)です。

以前、このサイトに3rdループものを投稿しようと思ったんですが…なんだかんだで進まないので、たまるまでと思って一度消してしまいました。

しかし、10周年記念PVを見て、再び書き始めました。

もしかしたら、ここから3rdループに飛んでいくかもしれませんし、このまま霞や茜と戦うかもしれません。

どちらにせよ、『無名の英雄』には、もう少し頑張ってもらおうと思います。

駄文ですが、よろしければ感想などお待ちしております。

でわでわノシノシ



[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』01
Name: 柘榴◆454d41cc ID:d4172e56
Date: 2010/07/20 14:19
『『20世紀末期。人類は衰退の一途をたどっていた。

その衰退は人類同士の戦争によるものではなく,地球外生命体『BETA』によって引き起こされたものだった。

それまで,航空機を主戦力としていた人類は光線級BETAによってその羽をもがれ,その圧倒的物量戦力によって,人類の数は全盛期の二割,10億人にまですり減らされた。

その後…世界は戦術機を生み出した。既存の戦力では,BETAの拠点であるハイブを攻略することは難しかったからだ。

いや,この日記を読んでいる時点でこのあたりのことは理解しているんだろう。

ついでにいえば,俺もこのあたりのことに関しては,詳しく知らない。

俺が参加したのはこの後からだ。

XM3の開発とトライアル。

人類が生き残るためのXM3。これが、世界中の衛士の命を救えると信じている。それを実証したのがこの時だ。

しかし、ここで、俺はかけがいのない教官、神宮司まりもを失った。

甲21号作戦

人類の反攻の始まり。

この作戦で俺たちは大切な伊隅大尉と柏木を失った。

その後も,横浜基地にBETAが攻めてきて,速瀬中尉と涼宮中尉を失った。

それでも俺たちは,彼女達の思いを継いで,2001年,12月31日…人類の存亡をかけて,大反攻作戦に出た。

作戦名『桜花作戦』

極東国連軍の提唱したこの作戦は,世界中の戦術機部隊が…,いや,世界中のほぼ全ての軍隊が投入され,オリジナルハイブ,『甲1号目標』を攻略する作戦。

そして,作戦発動翌日,2002年1月1日。人類は,BETAの地球侵略の最大の拠点,オリジナルハイブの攻略の攻略に成功した。数々の犠牲とともに…

御剣冥夜

榊千鶴

珠瀬みき

彩峰慧

鎧美琴

鑑純夏

そして、陽動作戦に参加した数多の将校。

 その中で、社霞と俺,白銀武は生き残った。

数週間後には,先生がヴァルキリーズのみんなが,人類のために戦ったことを公表してくれるらしい。でも,そこに俺が加わることはないだろう。それは別にかまわない。彼女達こそ英雄だ。誰がなんと言おうと,俺はそれを疑う気はないし,誰にも文句も言わせない。

ただ,残念なのは,俺がもう,この世界にいられないことだ。あいつらと一緒に,あいつらの思いを継いで,戦えないことだ。

霞や夕呼先生はまだこの世界に残される。もし,許されるなら,まだこの世界で,霞や,生き残ったヴァルキリーズのみんなと戦いたい。純夏も霞も、俺に平和な世界で暮らしてほしいと願った。だけど、俺は、霞や、生き残ったヴァルキリーズのみんな、そして、これまで一緒に戦って散った数多の英雄のために、戦いたい。

 だから、もしまた呼ばれるなら、俺は喜んでこの世界に戻ってくる。苦しむくらいなら、俺を呼んでくれ。俺はとてもガキっぽいけど……『救世主』だから。』



社霞・著『とてもちいさな,とてもおおきな,とてもたいせつな、あいとゆうきの ものがたり』2002,12,16初版

P3012,最終章。『武さんの日記』より

尚,この物語は社霞の完全なるフィクションと考えられている。ヴァルキリーズのほかのメンバーは,主人公の白銀武という人物、あるいはモデルになった人物に心当たりはないらしく,データにも残っていない。

これは,ヴァルキリーズが公開したXM3の機動データ操作ログの集大成である『プラチナデータ』の仮想人格として考えられているが,著者であり,本人も現在富士教導所属特別連隊『ヴァルキリーズ』に所属している衛士の社霞氏は2003年現在,彼について、明言していない。


******


「風間大尉…」

戦術機母艦、赤城の上で、茜は隣に立つ先任衛士であり、数少ないヴァルキリーズのオリジナルメンバーである風間祷子に話しかけた。

「何?涼宮中尉」

「霞ちゃんの本…読みましたか?」

「ええ…」

 社霞が著した一冊の本。これが今、世界中を騒然とさせている。オリジナルハイヴを攻略して『唯一』帰還した彼女が書いた本。この中に描かれており、物語のキーマンともいえる人物『白銀武』。 
  
 しかし、この人物は、あらゆるデータを洗っても出てこないのである。元々秘密部隊として存在したヴァルキリーズの中で、未だに公開されていないだけではないか?という世間の疑問もある。

 そうなると、民衆は必然的にヴァルキリーズの生き残りである茜や風間、宗像に、彼の存在について問いただす。

 だが、

「白銀なんて人…いませんでしたよね…」

「私も、そう思ってる」

茜も祷子も、そんな人物は知らない。

知らない『はず』なのだ。

「忘れてるなんてこと…ありませんよね…」

 これから、この戦術機母艦は、中国に向かう。練鉄作戦。人類は五つ目のハイブを攻略すべく、戦力を結集している。その中で、ヴァルキリーズは、主力部隊として期待されている。ヴァルキリーズがこれまで行ってきた戦歴に、世界は期待している。

 だが、最近、茜は、違和感を感じるのだ。

 佐渡島で、A-02スサノオを守るために、要塞級の壁を抜ける必要があった。誰かが陽動を行ない、数多の要塞級を単機で葬った。だが『だれ』が?

 あるいは、横浜基地が襲撃されたとき、茜の尊敬する速瀬中尉は誰かとメインシャフトに突入した。

 『誰』と?

 そして、最大の謎。XM3と、それを生かし切っている最高の衛士の操作ログ『プラチナ・コード』。
 
 いまや世界中の衛士の目標となっているそれは、桜花作戦の前から茜や、あの速瀬中尉も追いかけた。その異常で、ともすれば見とれるような機動は、今も目に焼き付いている。

 だけど、あの中には『誰』がいた!?

 数少ないメンバーを忘れるわけがない。

 だが、記憶にぽっかり穴が開いたみたいに、207小隊の真ん中にいたはずの『誰』かを茜は思い出せない。

散って行った人たちに、茜は胸を張って言える。ここまできたと…。だが…。

「わたしが言えるとしたら…」

沈黙を、祷子が破る。

「Need To Know」

「っ!!」

任務において、必要な、最低限の知識のみを持つ。

 それは自分たちが知る権利はないという意味。そして、知らないからこそ責任を持たなくていいという意味も込められている。

「香月副指令が、記憶を封印したっていうんですか?」

似たようなことは今までいくらでもあった。しかし…

「それは分からないわ。ただ、私たちは知らない。それが、私の中の事実よ。それでも私たちは、ヴァルキリーズとして、みんなの意思を受け継いでいくわ」

「そう…ですよね」

茜はうつむき気味になっていた身体を起こして、海を見た。周囲には大量の戦術機母艦がひしめいている。

人類は、勝利に突き進んでいる。

「伊隅大尉、神宮司教官、速瀬中尉、お姉ちゃん、ついに人類はここまで来たよ。

千鶴、晴子、多恵、そしてみんな。

とうとう私たちは、ここまで来たんだよ」



******



******


「っ痛!?」

「長野少尉!早く離脱しろ!」

鉄源ハイブ攻略戦『練鉄作戦』

「来るな!来るな―!」

「コード991、コード991。畜生!偽装縦坑だ!」

目の前には真っ赤な戦車級が、わらわらと群がってる。

(これが…白銀さんたちがいた世界…)

「社少尉、一度広場まで後退するぞ!急げ」

「了解」

硝煙と、油と、BETAの肉片と。

さまざまなものが入り混じったこの密閉空間で、数多くの命が、火花を散らしている。

突入部隊としてハイブ内を進行していた霞の部隊は、偽装縦坑からの奇襲にあい、一時後退を余儀なくされていた。しかもそれは、銃弾をばらまきながらの後退で、その中で、数機の戦術機がBETAの波に飲み込まれていった。

「社少尉、大丈夫?」

「はい、涼宮中尉は、大丈夫ですか?」

「ええ、平気。ありがとう」

正直なところ、戦況は芳しくなかった。

風間や宗像とは別ルートを進行していた茜たちの富士教導団所属第11中隊スクルドは、中継基地として確保した広場で、前後をBETAに挟まれ、閉じ込められる形になっていた。

「各小隊長、状況を報告して」

「ビリー小隊、長野と雪村が食われました」

「チャーリー小隊、全員無事です」

茜率いるアルファ小隊も、一名の犠牲が出ていた。

戦力の25パーセントを損耗して、さらに他部隊との交信も切れている。唯一の救いは、この広場が中継基地として弾薬と推進剤が運び込まれていたことだろう。

一瞬の空白の後、すぐにBETAの大群が広場に押し寄せてきた。

「来るな、来るなーーーー!!!」

「畜生、キリがないぜ!!!」

広場の両出口から、大量のBETAが、仲間の死体を乗り越え、はいずり出てきた。

「死にたくない!死にたくない!」

すべての戦術機が、突撃砲を乱射し目の前に迫りくる死にあらがおうとしていた。

「畜生!とりつかれた」

一機の不知火・弐型の脚部に、死骸の間から湧き出てくる戦車級がわらわらと取りつこうとしていた。

「カバーする!!!」

その声を聞いた瞬間、隣で二機連携をとっていたパートナーがナイフを装備し、戦車級を取り去ろうとした。しかし、

「横溝!前だ!突撃級が来てるぞ!!!」

「え?」


グシャリ…



不知火・弐型が、一体の突撃級に押しつぶされた。S11を使う間もなく、コックピットがひしゃげていた。

「くそ!よくも横溝を!」

両入口には十分な弾幕が張れず、スクルド中隊の六機はもはや完全に周囲をBETAに取り囲まれている。

「涼宮中尉!後ろです!!!」

「え!?」

茜が振り返ると、そこには要撃級の右腕が迫っていた。

「……!?」

声にならない声を発し、茜の不知火・弐型は吹き飛ばされ、天井にたたきつけられた

「涼宮中尉!!!」

小隊長の誰かが茜に叫ぶ。だが、茜は反応しない。

「まさか…」

霞は茜のバイタルデータを出す。そのデータは、茜が生きてはいるが、意識を失っていることを示していた。

「涼宮中尉!!!畜生!来るな!来るな―!」

オリジナルヴァルキリーズである茜を失い、誰もが、霞すらも…目の前の圧倒的な数のBETAに絶望しそうになっていた。

「白銀さん…」

霞は、かすかに、彼女がすがるのをやめようと思っていた彼の名前を呼んだ。呼んで…しまった

その時…



どおぉおおおっぉぉん






突然。ハイブ全体が揺れる爆発が起こった。

「な…なんだ!?」

「爆発!?」

この時、ハイブ内部で戦っていたヴァルキリーズには知る由もない。地上で『試作戦術五次元効果爆弾』がつかわれたことは。

だが、それは確かに、ヴァルキリーズの助けになったのだろう。

BETAたちは、なぜかわからないが、突然動きを止めた。

だが、霞にとっての変化は、外部ではなく、霞の戦術機の中で起こった。

「白銀…さん?」

「やっと、呼んでくれたな…霞」

霞のコックピットの座席の後ろに、彼は立っていた。

「なん…で…」

ここにあなたがいるの?

 そこに立っていたのは、二年前に、桜の下で『またね』といって送り出した…霞の初恋の相手だった。その顔は相変わらず優しそうで、BETAに囲まれているのに安心できる。

 霞は夢を見ているのかと思った。だって彼は元の、幸せな世界に帰ったはずだから…

 なんで?と聞かれた彼は、座席についている霞の頭に、大きな、温かい、手を載せた。

「俺が戦いたいからだよ。霞…座席を譲ってくれるかい?」

そういうと武は霞の身体を固定していた四点ハーネスを外し、脇を抱えて持ち上げて、その席に武が座ってしまった。

「ちょっと揺れるから、しっかりつかまっててね」

霞に予備のハーネスをつけると、武は自らもハーネスを装着し、音声認証を呼びだした。

「データリンク。ヴァルキリー13。白銀武」

『了解。音声認識完了。プラチナデータ起動』

「ちょっと待ってください。白銀さん!」

霞は、ようやく目の前にいるのが、幻覚ではなく、本物だということを認識した。

「プラチナデータ?まぁいいや。つもる話は後でね、霞」

そういうと、武は長刀を抜き…不知火・弐型を走らせた。

「っっっっっつ!!!!!」

霞が、声にならない悲鳴を上げる。

天井を、壁を、地面を蹴り、霞と武の不知火・弐型は舞った。強烈な慣性が霞の身体を見えない縄で縛りつける

『『『!?』』』

みている友軍機すべてがその動きを見入った。

「霞、ここにいるのは全員ヴァルキリーズ?」

ありえないような戦術機動をとる中、武は、落ち着いた口調で聞いた。だが、三半規管をかき回されたようになっている霞は、口を開くことすらできなかった。

かろうじて、首を縦に振ると、武もうなずき返して、オープンチャンネルにした。

「うわわぁぁああぁぁぁ」

そのとき、一人の衛士が、戦車級に取りつかれ、自分の戦術機の跳躍ユニットに向かって突撃砲を打とうとした。

ガンッ!!!

だが、武は長刀を振って峰の部分で突撃砲を払うと返す刀で取りついていた戦車級を薙ぎ払った。

「ヴァルキリーズ隊記復唱!」

武はオープンチャンネルで、その場にいるすべての衛士に向かって叫んだ。

「…え?」

 武の知らない衛士が、武の顔を見て気の抜けた表情を見せていた。極度の緊張から、逆に緊張状態が解けて、何も考えられなくなった衛士は、そう言った。

 武も以前なったことがある。それは、初陣の衛士には仕方のないことなのかもしれない。だが、彼女たちが生き残るためには、もう一度、あの言葉を思い出させる必要があった。

 武は体に染みついたその言葉を、この場にいるすべての衛士の身体に響かせるように叫んだ。

「死力を尽くして任務にあたれ!」

『『『『し…死力を尽くして任務にあたれ!』』』』

「生ある限り最善を尽くせ!」

『『『『生ある限り最善を尽くせ!』』』』

「決して犬死はするな!」

『『『『決して犬死はするな!』』』』

「全員落ちつけ!前を見ろ!あきらめるな!」

『『『『了解!』』』』

見ず知らずの衛士によって、スクルドは再び息を吹き返した。



……

………

「白…銀…?」

「涼宮…久しぶり」

茜が意識を回復させると、そこには、BETAの死体と、懐かしい戦術機機動が映っていた。

「なんで…白銀がここに?」

「説明は後で、とりあえず今は、目の前のBETAを倒そう」

だが、その後も、武の独壇場だった。ほかの衛士が、自分に向かってくるBETAを一生懸命倒している間、武は単独で、広場にいる敵を、ある時は撃ち抜き、ある時は切り裂き、その撃墜数を増やしていった。

「はああああっぁあぁぁっぁ」

 切り裂き、薙ぎ払い、貫通し、その場にいたすべてのBETAが武を優先破壊目標と認識し、目指し、そして殲滅されていった。

 初めて武の戦いを見た衛士たちにとって、BETAの屍の山の上に立つ不知火は、武神、あるいは闘神という言葉を連想させるほど、圧倒的な存在だった。





……

………

「涼宮中尉!データリンクが復旧しました。風間大尉と宗像大尉の部隊が、反応炉の破壊に成功したそうです!」

数分後、BETAがいなくなった広場に後続の部隊が到着し、データリンクが復旧。それに伴い、人類が勝利したことが分かった。

「そう。勝ったんだ…私たち…」

「はい!」

茜は淡々とそういった。

あれだけの窮地から六機、半数の戦術機が帰還した。これは奇跡だろう。

「生き残った!勝ちましたよ!私たち!」

後続の部隊が興奮して、茜たちの部隊に合流した。

「生き…残れたんだね…」

茜は涙があふれる顔を両手で覆った。

死ぬかもしれないと思った中で、生き残ることができた。

まだ戦えるとわかった。

その場にいる全員が…今生きていることを喜び…そして涙した。



……

………

******


******


「そう…帰ってきちゃったんだ…あいつ」



   to be continued……



[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』02
Name: 柘榴◆454d41cc ID:d4172e56
Date: 2010/07/20 09:23
それは、初めは大したことのない違和感だった。

冥夜と悠陽が隣に引っ越してきて、霞が純夏の家にやってきて、球技大会という名のサバゲーをやって、みんなで温泉に行って…そんなどんちゃん騒ぎの日々が一通り落ち着いて、一年ぐらいたって、冬が開けるころだった…。

「武ちゃあああああああああぁっぁああん」

「待て!開けるな純夏!」

今日も今日とてまったく罪悪感のない顔で,武の両サイドには美人の双子が,あられもない姿で横たわっていた。

「なぜだ?武。そろそろ起きねば、さすがに我々も遅刻するぞ?」

「そうですわ、武さま。私も名残惜しいですが、学生たるもの勉学は怠ってはなりませんよ」

「お前らがいるからだ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ガチャガチャという扉を激しく揺さぶる音は、徐々にその激しさを増していき、俺の命を守る扉の鍵『ゲートガーディアン(五世)』は、悲鳴を上げていた

「もう、こうなったら実力行使だ!!!」

「やめろ純夏!お前一か月前にも扉の鍵(四世)を破壊したことを忘れたのか!?」

「問答無用!!!!!!」

ガシャンという音と共に扉の鍵(五世)はその短い生涯を終え…

「たあぁぁぁぁけえぇぇぇぇぇるぅっぅぅちゃあぁぁぁぁぁん」

俺も星になりましたとさ(キラッ



……

………

「おはよう、鑑」

「おはようございます鑑さん」

「なんで二人とも武ちゃんのベットにいるのさ!?」

俺だって聞きたいよ…。

そう言おうと思って、しびれまくっている体に鞭を入れ、顔を起すと、怒りくるった純夏の後ろからぴょんとかわいい顔がのぞいていた。

「霞?」

「そう。今日は社さんも一緒におこしに来たんだよ!」

純夏は笑顔で、後ろに隠れている霞を引っ張って、自分の前に突き出した

(社…さん?)


最初に感じた違和感は、そんな、本当に些細な、呼び方の変化だった。





……

………

…………



それから一週間ほどたった、2003年4月9日…

「おい純夏!霞はどこに行った!?」

「だから、武ちゃん!その霞って誰!?」

「武…残念ながら、私も姉上も、社霞という人物に心当たりはない」

武が違和感を感じ始めてから一週間、たった一週間でみんなは、ほとんど社霞という存在を忘れ始めていた。

「何言ってるんだよ!?純夏も冥夜も!社霞だよ!ロシアからの留学生で!ウサギっぽい!純夏の家に一年近くいただろう!」

だが、武がいくら力説しても、純夏も冥夜も首をかしげるだけだった。

「くそ!」

武は、それだけ言って、その場を後にした。

(霞…どこだ!?)

武はこの三日間、霞を見ていなかった。クラスメイトはみんな、社霞という生徒がいたことを忘れていて、それどころか、もう霞の机すらない。

「4月10日までに、霞を見つけないと…」

4月10日に、何があるかわからない。だけど、武にはとてもやなことがあるような気がしてならなかった。

(『霞ちゃんが車にはねられて…』 『霞ちゃんが工事現場で…』)

いやな夢の記憶が、武の頭を駆け巡っていた。

このままでは、霞が危ない。

たかが夢。だけど、武には、それが夢とは思えないほどリアルに記憶の中にあふれかえっていた。

(畜生!あの夢は一体何なんだ!?)

 その中で、武が唯一理解できない夢があった。もっともリアルな夢であるそれは、霞が巨大ロボットに乗って、わけのわからない化け物に食べられるという荒唐無稽のものだった。

そして、武には、それがどうしてもただの夢には思えなかった。

(それになんだよ、この知識!?)

記憶の流入、因果導体、並行世界、BETA、記憶の流出、忘れないよと泣きつく純夏の顔。純夏の絵日記。そして、異世界に伝播する死…

こんなものを、武は知らない。だけど、なぜか笑い飛ばすことができない…。

町中を走り回り,汗まみれになって,もう,足を上げることすら億劫だった。

正直なところ,目の前のコンビニが,武の家から一番近いコンビニか,2キロ以上はなれた同系列の店舗かすらも思い出せなかった。

「…そうだ、夕呼先生」

なぜ,このことをもっと早く思い出さなかったのだろう,と思った。困ったときの夕呼先生。とにかく、武は、棒のようになった足を無理やり引きずって,夕呼のところに向かった。



……

………

…………


「そう、で、そんな荒唐無稽な話を私に聞かせて、あんたは一体何がしたいの?」

「先生に助けてほしいんです」

 どこをどうやって歩いてきたのかは,判らなかったが,武は,学校の夕呼の物理科の部屋にいた。

話している間,いつ,笑われて一蹴されるかと思っていた武だったが、意外なことに、夕呼は武の話を真剣に聞いてくれた。

「白銀…あんたの言い分じゃ,社は明日どうしても死んで,この世界の社が死なないためには,どっかの世界にいる社を助けなくちゃいけないから,私にその世界に飛ばして欲しいみたいね。だけど,私に人を他の世界に飛ばすなんてことができる,ほんとに思ってる?」

「先生の因果律量子論なら…できるんじゃないんですか?」

因果律量子論。半年前,夕呼が学会に発表し,世界中で最もノーベル賞に近い学論といわれているらしい。正直なところ,武には最初に出てくる微分方程式すら理解できない。

だけど,その理論こそ,武の求めているものだと…武は妙な確信を持っていた。

「…あんた,BETAとか言う化け物が,地球に攻めてくる夢,いつごろから見てたの?」

武が夕呼に話した話の中で,最も荒唐無稽なものについて,夕呼は武に聞いた。

「よく…覚えてません…多分…一年ぐらい前だと思います」

その内容に出てくるのは,大抵,霞と夕呼,そして,なぜか,アメリカに水泳留学しているはずの涼宮茜だった。

「そう…」

夕呼はそれだけ言って研究机の上においてあるメモをぱらぱらとめくった。武は疲労しきった目で,そのメモの動きをおった。

00unit

量子電導脳

そんな,見覚えがないのに,妙に気にかかる言葉が,夕呼のメモには記されていた。

「時機は一致している…。そして,今日,新型核融合炉の試運転があるのは…偶然か…必然か…」

夕呼は武の聞こえないような,小さな声で,少し楽しそうにそうつぶやくと,

「行くわよ!」

「え?」

「ほら,おいてくわよ」

あっという間に武は赤いスポーツカーに乗せられて,爆音を響かせながら,夜の道を駆け巡った。

「ゆ…夕呼先生,どこに向かってるんですか!?」

命を危険を感じた武の身体は,疲れきった体をさらに酷使し,その恐怖の源に,自分の将来を聞いた。

「んー?臨海部の実験施設」

しかし,そんな武の悲鳴はなんのその。もはや口笛すら吹きそうなぐらい上機嫌な夕呼は臨海部に設置され,試験運転を繰り返している発電施設に急いだ。



……

………

「着いたわよ」

「い…生きてるってすばらしい…」

武はそうつぶやくと,目の前に,巨大な施設があることに気がついた。

「ここは…」

「ほら,急ぎなさい」

夕呼にせかされながら武はダンボールのようなものと,銀色のシートを,スポーツカーから担ぎ出して,裏口のようなところから入り込んで行った。

「警備員もどっかに行ってるし,なんか,空恐ろしいぐらいついてるわね…」

二人がたどり着いた空間は,若干広いが,特にこれと言った特色もない実験室だった。

「白銀」

「はい?」

夕呼に言われたとおり,銀のシートとダンボールを組み立てていると,夕呼は,珍しく,真剣な顔で,武に言った。

「確かに,この方法なら,あんたを別の世界に飛ばせるはず。だけど,あんたは失敗したら悲惨なことになるわ」

「死ぬ…んですか?」

「死んだほうがましかもね…失敗して虚数空間に取り残されれば,最小単位まで分解され,実数部分はいろんな世界に投げ捨てられ,虚数部分は情報として,無限の時間をすごすことになる…」

武には正直なところ,それが,どんな感覚なのか,想像もできなかった。

「もしうまくいって,あんたが望む世界にいけたとしても,受けて側,この場合,社ね。あの子があんたの事を呼ばない限り,あんたが世界に認識されることはない」

「でも,霞が呼んでくれれば,俺は霞を助けることができるんですよね」

武は,人一人が入れる程度の,奇妙なものを完成させると,立ち上がって,夕呼にそう聞いた。

「ええ,じゃあ行きます。俺は霞に,生きていて欲しいですから」

「ふん,ガキがいっちょまえのことを言うようになったわね」

夕呼はそう言って笑うと,武を装置の中に押し込んだ。

『これより,新型融合炉の試運転に入ります。各職員は,持ち場についてください』

管内アナウンスで,夕呼は実験の始まりが近いことを知った。

「向こうのあたしにあったら,適当に言っておいてね」

「判りました。ありがとうございます。先生」

『実験5秒前,4,3』

「じゃあ,行ってらっしゃい」

『2,1』

「ガキ臭い,救世主さん」

「え?」

次の瞬間,夕呼のいた空間は,すさまじい光に包まれた。光が収まると,そこには,夕呼一人しかいなかった。

「まさか,こんなに早く,因果律量子論の実証に立ち会えるなんて,やっぱりあたしは天才ね」

夕呼は笑いながらそういうと,警備員が駆け込んでくるまでのわずかな時間。自分の実験の成功と,生徒の男らしく成長した姿,そして,あの瞬間だけ開いた『向こうの世界の香月夕呼』との記憶の共有の余韻に浸っていた。



……

………

武が目を開けると,そこは真っ白な空間だった。

「ここは…」

『ようこそ,虚数空間へ』

「!?」

武が身体を起こそうとして,自分の下に何もない事に気がついた。

「あんたは…」

『うん。今回の俺は,ここに来る中じゃ,ずいぶんましな実力の持ち主みたいだな。やっぱりそれぐらいスキルがないと,霞は助けられないし,助けに行く価値もないからな』

目の前の男性を,武は知っている。この空間を,武は知っている。

この空間は虚数空間。ここを通っていけば,確かに霞の元へいける。そして,武がこの空間に来たのは初めてじゃない。

そして目の前の男は,何とも違和感のある,一種の同族嫌悪さえしそうな顔だった。なぜならそこに立っているのは…

「また邪魔するのかよ,おれ!」

そこに立っているのは,今の武より少し年を取った,そして,英雄として完成された『白銀武』だった。

『おいおい,何度も言ってるけど,俺が邪魔してるわけじゃないぞ。霞を助けられるような実力を持たないと霞には呼ばれない。これは必然だ。精神的にも肉体的にも,弱いと,二人ともBETAに殺される。それが判ってるからこそ,霞が呼ぶのは強い『白銀武』だけなんだ』

「じゃあ,あんたが助けに行けばいいだろ!」

悔しいが,目の前の『白銀武』は,武よりはるかに強いことがわかった。だが,目の前の『白銀武』は,決して霞を助けに行こうとはしない。

『それはだめだ。霞を助けるのは,『英雄になる前の,白銀武』が体験しなくちゃいけないことだ。俺にできるのは,白銀武を少しでも強くするために,訓練してやることぐらいだ。だから…思い出せ…』

「何を…ガッ!?…ハッ!?」

『白銀』がそういうと,武の中に無数の記憶が流れ込んできた。それは,この虚数空間の中に蓄えられたものだった。

『無理して全部思い出そうとするな。今のお前に記憶できるのは一週目と二週目,そして,この空間で体験したことぐらいだ』

「何が…」

言いたいんだ…と武が叫ぼうとした。しかし,流れ込んでくる情報の渦は,武に意識を集中させない。

『情報を選別しろ,整理しろ,活用しろ。それができなきゃ,俺たちは永遠に弱いままだ…』

一周目…オルタネイティブⅤの発動,G弾を使った大反攻。その結果として起こった地球規模の重力偏重。あの時,俺は何もできなかった。

二周目…甲21号作戦…横浜基地強襲事件…そして,桜花作戦。みんなの犠牲の上に,俺は,世界を救った…。

そして,純夏の願いによって俺に与えられた,楽園。

だけど,その影で,生き残ったみんなは戦い続けた。錬鉄作戦…。その作戦で死ぬ霞の情報は,本来俺の楽園に存在しなかった,自ら介入していた霞にも影響した。

そう,俺がここに来たのは初めてじゃない。

そして,ここで,何度も鍛えられた。目の前の英雄『白銀武』によって何十年も,何百年も…。

『記憶は整理できたか?じゃあ,始めよう』

『白銀』がそういうと,周囲の世界は一変した。そこは…佐渡島だった。

『その段階なら,もう精神的に負けることはないだろう…だから後は…実戦訓練だ!』

目の前の『白銀』はそう言うと,嬉々として,どこからか現れた不知火に乗り込んでしまった。

「望むところだ!」

武もすぐそばにあった不知火に乗り込む。

XM3搭載型のそれは武が最も慣れ親しんだ戦術機だった。

『ほら,始まりだ!』

『白銀』がそう言うと,四方からBETAの大群が押し寄せてきた,要塞級,突撃級,戦車級

武は,不知火を,走らせる。

要塞級の足を潜り抜け,突撃級の前殻を踏み台にして,BETAの間をかけた。

長刀の刃をできるだけなでさせるように,BETAに触れさせていく。戦術機の速度があれば,それだけで,傷口が広がり,致命傷となる。

突撃砲を単発で撃ち続ける。主にBETAの首や間接部に…。それだけでほとんどのBETAは行動不能になり,生きた動けない要撃級はレーザー種に対する盾となった。

『上がお留守だぞ!』

目の前の敵にだけ,注意を取られていると,突然,上から不知火が舞い降りてきた。

「くっそ!」

武は,不知火を無理やりひねり,突撃砲で,不知火を追い払った。だが,

『おっと,悪くない反応だ』

『白銀』は楽しそうにそう言うと,再び,空に舞い上がった。

次の瞬間…無数のレーザーが『白銀』の不知火を貫こうとする。だが…

『当たらないさ!!』

そういうと,空中を舞う不知火は,跳躍ユニットを細かく吹かしながら,追尾してくるレーザーの発射源,レーザーを撃ち終わってから防御殻が閉まるまでのわずかな間にのレーザー級に,36ミリを叩き込んでいった。

以前,武が『白銀』にあの機動制御を聞こうと思ったのだが,『全身青タイツの,赤枝の騎士にもらうんだな』といって,取り合ってもらえなかった。それでも,この空間で訓練しているうちに,今のように,10以上のレーザーをよけるのは無理でも,5~6個のレーザー源なら,よけながら空中機動を取れるようになっていた。

気がつくと,百体近くいた要塞級は,武によって,全て葬られ,小型種もそのほとんど全てを狩り尽くしていた。

『悪くないな…。今のお前なら,霞も呼んでくれるだろ。まあ,それまでの間…格闘戦でもやるか』

『白銀』がそう言うと,『白銀』の不知火は二本の刀を取り出した。

「結局それかよ…」

これも,英雄『白銀』の一つの特技。なぜか,あの『白銀』は二刀流が得意なのである。それも強い。だが,武が教えてくれ,と言うと,『赤い弓兵に,そのうち教えてもらえるさ』といわれてしまう。英雄になると言うのは,結構お徳なのかもしれない,と武はいつも思っている。

『お,でも,その時間はないかな?』

「え?」

武はそういうと自分の両手を見る。その手は少しづつ,光を発しながら透明になっていく。

「これは…」

『お姫様がお呼びのようだな』

通信画面に映っている『白銀』は,嬉しそうにそういった。

そう言っている間にもどんどん身体は透明になっていく

≪≪≪白銀…さん≫≫≫

「霞!」

それはとても小さな,とても懐かしい声だった。

『じゃあな,ガキ臭い,英雄候補さん』

その声を聞くと,武は,返事をする間もなく…世界を飛んだ…。



to be continued…













後書き…時系列的には第一話より前というか,武側の視点から見た世界ですね。

あと,作者は型月厨です。あしからず

さて,いろいろ書いてもいいんですが…皆様のご想像にお任せしますww

それから,たくさんのご感想ありがとうございます。ご期待に添えたかな?

武がこの世界で本格的に生きるのは次からです。

ではではノシノシ

なお,武が本格的な英雄になるための3rdループも読みたいという方は感想で『あがぁー』と打つと,いいことがあるかも…



[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』03
Name: 柘榴◆454d41cc ID:d4172e56
Date: 2010/07/22 13:59
『HQよりウィスキー戦隊各機、ポイントブラボー2に集合せよなお中破、及び大破した戦術機は…』

『チャーリー中隊よりHQ、集合完了、これよりハイブ内部の定時捜索に向かう』

『ドラグーン大隊よりHQ、集結完了、全機補給、点検に入る』

『アップルジャック大隊よりHQ、BETAの追撃より帰還。これより予定通り補給に入る。補給部隊の位置を…』

『HQより、ジョイントワン、第二階層、ポイントSW21に中破機体あり、回収に向かってください』

数多の将兵が、不自然なほど平らな大地で、泥まみれになりながら駆け回っていた。だが、そのいずれにも、疲労の色は見られない。彼らは人類の5つ目の反攻に参加し、つい先ほど勝利を勝ち取った。

参加している将兵の中には、かつて、この周囲に暮らしていたものも少なくない。そんな彼らも、いまは、変わり果てた故郷を嘆くのではなく、再びこの地に立てたことを心から喜んでいた。

BETAの死骸と戦術機の残骸、戦術機の突撃砲から吐き出された弾丸の数々が、戦場を赤と鋼色に彩っている。

周囲の地面に開いた門からは、今まで地中深く、ハイブに突入していた精鋭部隊が、次々と飛び出してきていた。

その度に、彼らを迎える大きな歓声が地上のあちらこちらから沸きあがった。

そんな中、ひときわ大きな歓声が、大地を揺らした。

出てきたのは露軍カラーの試作02号戦術機「月虹」の部隊だった。

『『『『宗像大尉いいいいぃっぃぃぃ』』』』

『『『『風間大尉いいぃぃっぃいい』』』』

それらの衛士をたたえる声も、大きく鳴り響いた。

何しろ彼らは、今回の作戦で、反応路の破壊に成功したのだから。

「HQへ、こちらヴァルキリー連隊所属ウルドワン。宗像大尉。指示を願う」

宗像は自分達の向かうべきポイント。変えるべきヴァルキリーズの所在をHQに問うた。

「HQよりウルドワン。お疲れ様です.ヴァルキリー連隊は現在ポイントSEアルファワンに集結中です」

若い女性の通信兵から、すぐに返答が入った。

「了解した。ウルドワンより各機.ポイントSEアルファワンに匍匐飛行で移動」

「「「「「「了解」」」」」」

「生きて帰ってこれたな、祷子」

戦術機越しとはいえ、重金属雲の向こうに太陽を見た宗像は、感慨深そうに、秘匿回線で、風間にそういった。

「わざわざ秘匿回線で言うことですか?でも…そうですね。生きて帰ってこれました」

祷子はそう言って、宗像を少したしなめた後、一緒に空を見上げた。

「茜も無事に帰ってきてるみたいだ。良かった」

宗像は、HQとのデータリンクで、ヴァルキリーズ各部隊の損害状況を見た。多くのものが散ったが、それでも、半分以上の衛士が生きて帰れたことを、どこかで見守ってくれているであろう先任たちに感謝した。

「美冴さん。あれを見てください」

「どうした祷子…あれは…なにかあったのか?」

ヴァルキリーズの集合地点が見えてきて、異様な雰囲気なことに、二人は気がついた。

一機の不知火・弐型を僚機を含む複数の戦術機が、突撃砲を向けて囲み、地面には機械化強化兵、およそ一個中隊が、臨戦態勢でその周囲を囲んでいた。

「あれは…社少尉の機体ですね」

「とにかく急ごう、なにやらただ事じゃないぞ」

宗像たちの月虹は最大戦速で大地を駆けた。



……

………

「なにがあった!?」

美冴は集合地点に着くと、すぐに月虹から駆け下りて、傍にいた衛士に問いかけた。

「む…宗像大尉!お疲れ様です」

話しかけられた衛士は嬉しそうに敬礼して返したが、周囲が緊張している中の、その態度に美冴は苛立ちを覚えた。だが、それを表に出すことなく、再び同じ問いをした。

「あれはいったい何があったんだ?」

美冴は再び霞の不知火・弐型を指差して問いただした。その横には、祷子も合流していた。

「ああ、何でも、所属不明の人間が社少尉の機体に乗り込んでいたそうです」

「所属不明?」

「ええ、何でも出撃時には乗ってなかった人間がいるって言うんで大騒ぎになってて、本人は敵意はないって言ってるらしいんですけど、まぁ何があるか判らないって言うんで、歩兵部隊の展開が済むまで、二人とも戦術機内に待機してろって命令みたいです」

「美冴さん。どういうことでしょう?」

「さぁ?判らない」

三人はそのまま霞の不知火・弐型を見た。その戦術機は、BETあの細胞液を大量に浴びており,本来のロシアンカラーの塗装は,見る影もなかった。戦闘を終えてから,少なくとも一時間以上はたっているはずだが,機体全体から,未だに細胞液が滴り落ちており,不知火・弐型がいかに激しい戦闘を行わせたかをうかがわせた。

「あ,降りてくるみたいですね」

カシュッ,と言う音とともに,戦術機のコックピットが前方にせり出した。

そこから,二人が捕まったロープが,ゆっくりと降りてきた。一人は、美冴たちがよく知っている衛士,社霞。もう一人は、

「男?」

「の,ようですね」

美冴と祷子は遠目に見たが多くのことは判らなかった判ったのは体格のいい男性の衛士と言うことともう一つ。

「あの方,強化装備が帝国軍のものではありませんでしたね」

「そうだな」

強化装備が緑を基調とした帝国軍のものではなかったのだ。
男性が装備していたのは濃紺を基調とした強化装備だった

「宗像大尉、風間大尉。あれって確か…」

「美冴さん…」

「ああ…国連軍の強化装備だ」

ヴァルキリーズに所属していた二人は、その強化装備を見たことがあった。帝国軍に所属していた目の前の衛士ですら見覚えがあったあれは、明らかに国連軍の強化装備だった。そして、それ以上に、美冴と祷子の二人には、あの社霞と並んで降りてきた見知らぬ男性に、懐かしさを覚えていた。

「美冴さん」

「ああ、急ごう」

「あ!宗像大尉!風間大尉!」

後ろから呼び止められても、一切気にせず、二人は機械化歩兵部隊の包囲網の中に飛び込んで行った。



……

…………

「動くな!両手を頭の後ろで組め!」

「はいはい…」

不知火・弐型を降りた直後、霞と武は機械化歩兵部隊に完全に包囲されていた。

「社少尉、こちらへ」

一人の女性兵士が、包囲網の中を進み、霞だけを連れ出そうとした。しかし…

「この人は私の大切な人です!銃を向けないで下さい!」

霞は、普段部隊では決して見せない様子でそういうと、両手を頭の後ろで組んでいた武に抱きついた。

「「「!?」」」

普段は無表情で、お人形のよう。そしてあの『桜花作戦』の唯一の生還者。その二つが相まって、ある種、神聖化すら されている霞がそのような行動を取ったことは、普段遠くから眺めているだけの富士の憲兵隊はもとより、包囲網の外側から見守っていた同僚衛士にすら意外なものだった。

霞がそんな行動を取ったことで、とっとと手錠をつけて営巣に放り込もうとしていた富士の憲兵隊は、どのようにすればいいかわからなかった。

「失礼。通してくれ」

「失礼しますね」

そんな中、歩兵部隊と憲兵隊の囲いを抜けてきたのは、

「む…宗像大尉!?と風間大尉!?」

憲兵隊の隊長である少佐は、自分より階級がしたにもかかわらず、現れた衛士二人に敬礼をした。だが、二人には少佐のことは目に入っていなかった。二人の目に映っていたのは、見覚えがないのに、思い出があふれ出てくる、かつての戦友の顔だった。

無意識のうちに、二人は少佐を通り越して、霞と武の目の前まで歩いていった。

「白銀中尉…か?」

美冴が確認するように、その言葉を小さな声でつぶやいた。

「はい。お久しぶりです。風間大尉、宗像大尉」

武は、頭の後ろで組んでいた両手を解き、右手で敬礼の姿勢を示した。

(また…会えた…)

美冴や祷子の主観時間時間では、一年少々、武も『楽園』にいた時間はたいして変わらない。だが、あの虚数空間で過ごした日々、霞を救うことができず、何度もあの虚数空間に取り込まれ、やり直した時間を含めれば、もう、何十年もあってないような感覚すら感じた。もちろん、表立って涙を流したりはしない。この気持ちは、確かに尊い気持ちではあるけれども、表に出せば、それは相手の重荷になるかもしれない。そんなものを、与えてはいけないと、武は思った。

だが、このとき、武の予想外のことがおきた。

「白銀中尉…」

武の目の前に立っていた祷子が、突然涙を流し始めたのである。

「え!?えっと…風間大尉?」

その様子に、武は動揺を隠せなかった。

「白銀中尉…あなた、今まで…」

祷子は顔を下に向けて、武の肩に手を置いて…

「どこに行ってたんですか!!!!!!!!!!!」

思いっきり拳で武を殴り飛ばした。

(な…何ゆえ!?)

俺は星になりましたとさ(キラッ



……

…………

「本当に…お久しぶりですね。白銀中尉」

祷子は目元に流れ出た涙を指でぬぐって武に微笑みかけた。

まぁ,見事にあご先にストレートを食らって、頭がぐらぐらして、倒れそうになったところを霞に支えられている情けない格好の武に…であったが…。

「お…お久しぶりです。風間大尉」

「白銀、お前今までどこにいたんだ?それに何で社の機体に乗ってたんだ?」

美冴はまるで何事もなかったように武に話しかけた。

「いや、一応横浜基地にいたんですけど、霞の出撃が心配だったんで乗り込んだんです」

正直…かなり無茶のある言い訳だと思うけど、武には、他にまともな言い訳が思いつかなかった。

「そうか、でも、お前のおかげで助かったみたいだ」

「え?」

「白銀、今日はずいぶん激しかったみたいだな」

美冴はにやりと笑いながら武にそう言った。

「えっと、どういうことですか?」

「私たち、ウルド中隊はそっちと平行な道を進んでいたんだ。だけど、正直なところ、あのG弾の前後で…」

「G弾!?また撃ったんですか!?」

武はその単語に驚いて叫びそうになった。G弾を使わせるなんて間違いは、絶対にさせちゃいけない。武はそういおうと思った。だが

「ああ、今回は問題ないわよ」

「え?」

「G弾って言うより、今回はラザフォードフィールド発生装置を搭載したものを空中に飛ばしてレーザー級に対する的にしたのよ」

「あ…ゆ…夕呼先生?」

迷彩色や濃紺の軍服の兵士達の包囲網の内側に、戦場には似つかわしくない真っ白な白衣をまとった懐かしい恩師が立っていた。

「どうやらBETAは有人飛行物体よりもG元素、あるいはラザフォードフィールドを優先迎撃目標にしてるみたいね。おかげでG弾が大気圏突入してからBETA群直上で爆発するまでの約96秒間、この戦場一帯の制空権は人類にあったわ。ついでに言えば、比重の軽い空気中で小規模な爆発しか起こしてないから、重力偏重の心配もないわ」

武は先ほど不知火・弐型で地上に飛び出したときに、G弾で抉られた様な後がなかったことを思い出した。

夕呼はそこまで説明するとふぅ…とため息をついて、武の腰元に抱きついている霞を見た。その視線の中に、彼女が普段見せることのない…親しい人が生きている安堵を、武は垣間見た気がした。

「それから白銀、囮役、ご苦労様」

「囮役?」

武は突然言われた感謝の言葉に戸惑った。

「そ、あのG弾の前後にハイブ全体で一斉に偽装縦坑や母艦級の奇襲が起こったの。だけど、途中からある区域に多くのBETAが引き寄せられたの。そのおかげで同時並行で進行していた突入部隊は、たいした被害も受けずに反応路破壊に成功した」

「ああ」

武はそこまで言われて、ようやく先ほど、美冴が言おうとしたことを理解した。

「そういうことだ。あの前後、私たちもちょうど母艦級の奇襲を受けていたんだ、どうしようかと迷ったんだが、私たちが後退すると、なぜかほとんどのBETAが追って来ずにわき道に消えてしまったんだ。おかげで、私たちは反応炉までたどり着けた…」

そこまで言うと、隣にいた祷子も、にっこりと笑って『ありがとう』といった。その笑顔はとても素直なものだったのだが、武の体が反射的に防衛体制をとろうとしたことは、自意識過剰とは責められないだろう…。

「そういえば、涼宮は一緒じゃないのか?」

夕呼は周囲を見回してそう聞いた。

「涼宮なら、医療艦に向かいましたよ。要撃級に吹き飛ばされて、肋骨が何本かいったそうです。まぁ、肺には刺さってなかったみたいだから、重症ではないみたいですけどね」

この世界の医療技術なら、骨折はたいした怪我のうちには入らない。一ヶ月もすれば前線にもどれるだろう。それが、この世界の常識だった。

「そう…あいつがいれば、こんなに取り囲まれることもなかったんでしょうけどね。とりあえずいらっしゃい。白銀、あんた一応極秘要員なんだから。社も、日本に着いたら横浜にいらっしゃい。あんただって帝国軍に出向してるだけで、本来は国連軍なんだから。上には話を通しておくわ」

夕呼はそういうと周囲の警備兵や憲兵隊を解散させると、夕呼が乗ってきた機動指揮車に武と二人で乗り込んだ。



……

………

「宗像大尉。今の白銀ってもしかして…」

隣にいたスクルズの衛士の一人が、美冴に恐る恐る話しかけると、美冴と祷子はクスッと笑って

「今のは誰だったかな?」

「誰でしたっけ?」

といって、月虹に乗り込んでしまった。



……

………

「あんたが、来た瞬間向こうのあたしと記憶がつながったわ」

機動指揮車に乗り込むと、挨拶も適当に、夕呼はそういった。

「あ、そうだったんですか」

「多分、宗像とかは、あんたのことを極秘人物として隠してたって言う記憶になったわね、あの様子だと…」

夕呼はそういうと、まったく都合のいい話ね、と呆れ顔をした。

「で、あんたはこれからどうするの?」

夕呼は藪から棒に、武にそう聞いた。

「えっと…どうしましょう…」

正直なところ、霞を助けようという思いで一杯一杯だったので、その後のことは考えていなかった。

「ああ、向こうの世界だけどね。多分明日からは社のいない世界として、普通に続くと思うわ」

「え、あ、えっと…」

「社が向こうの世界にいたのはあんたを忘れないため。あんたがこっちの世界にいる以上、あの子が向こうの世界にいる必要はない。そして、あの世界は、鑑純夏があんたにとっての楽園として再構成した世界。その世界にあんたがいないなんていう事象は許されない。まぁ、しばらくは社っていう妄想上の女の子を追いかけてた痛い子ってレッテルを貼られるだろうけどね」

夕呼はそこまで言うと面白そうに笑っていた。

「だから、あんたはこっちの世界で思う存分戦いなさい。それが、あんたの願いなんでしょう?」

「はい…」

武は両手を足のうえで組んだ。先ほどの戦いは、あの虚数空間での訓練ではない、武には久しぶりの『実戦』だった。だが、今の武なら…霞たちを護れる。そんな気が…武にはあった。

「とりあえず、俺がこれからどうするにしても…」

「ん?」

「一度帰りましょう。横浜基地へ…」

夕呼の目の前にいるのは、おそらく分かれてから一年ちょっと、夕呼の主観時間と大差ない程度の成長を遂げた外見の青年だった。だが、その中身は、始めて会った二年前とは、比べ物にならないほど男らしくなっていた。

(なかなか男前じゃない…)

夕呼はそう思いながら、目の前の青年の恩師であり、上官であり、彼を気遣っていたかつての親友を思い出した。

(まりも…あんたの男を見る目も…意外と節穴じゃなかったのかもね…)

そんなことを表に出すつもりはない夕呼も、久々に、親友に会いに、桜を見に行こうかと思った。

「そうね…帰りましょう」

4月10日、ちょうど、日本では、桜が満開になり、舞い散る直前の、春の日だった…。



to be coutinued…











後書き…

祷子ファンの皆さん。すいません。笑いが欲しかったんですww

さて、実は最初、武を殴るのは美冴さんでした。だけど何で祷子さんにしたかって?



だって…………美冴さんって婚約者持ちですよ?本編スキーな俺は、もともとのカップリングは成立して欲しいんですよ…。だったらわざわざ美冴さんにフラグっぽいの立たせても意味ないじゃないですか!だったら大人のおしとやか女性の祷子さんにフラグ立たせたいじゃないですか!

親友の結婚式!

未婚の負け組同僚!

なのに、結婚式でその同僚(*読み仮名:負け犬)をエスコートするのは人類の英雄!

言いようのない敗北感!!!!

亀裂が走る二人の友情!!!

そのまま大人な衛士二人は大人な関係へ!!!!!(この話だけXXX版へ!)






(笑)







そんな修羅場みたいな事、予定してませんよ?

今書いてて『めっちゃ面白そー!』とか思ったけど、このオルタはシリアス、時々笑いありぐらいにする予定だし…。何よりみんな幸せハッピーエンドが目的だし。

まぁこういうダーク(若干欝ゲー)的なのに関しては次のあとがきで少し語るかもww(現時点で本編に比べてあとがきが長くなりすぎww)

とりあえず,『Nameless Hero』は、いろいろハッピー&暖かエピソードがいっぱいあるし、結婚式ネタはそのうち書く予定です。みんな幸せになりましょうww

今本編は伏線回収とか伏線配置とか設定説明とかしました。

俺はギャグも好きだけど、長くまじめだからこそ感動できる話を、そしてみんなまじめに恋愛に悩むからこそニヤニヤできるものがたりを書きたいです。

だからこそ、柘榴はマブラヴオルタネイティブの世界観を大事にします。そして合理的、理論的に武ちゃん無双&ハーレムを行います(キリッ

まぁ無駄に長いあとがきでしたが、そろそろ閉めたいと思います。

読んでいただきありがとうございました。感想おまちしております。

ではではノシノシ



[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』04
Name: 柘榴◆454d41cc ID:4ef7d171
Date: 2010/07/22 14:20
「やっぱり、陸の上はいいですね」

だが、そういった武の顔は、青ざめており、とても健康な人間には見えなかった。

「あんた…戦術機はあれだけ変態機動とっても平気なのに、飛行機酔いするなんて…、ちょっとした不思議ね」

隣にいた夕呼は、何事もなかったように、すたすたと飛行機のタラップから地上、横浜基地の飛行場に降り立った。

「あれは自分で操縦してるからいいんです」

武口を押さえて、顔を真っ青にしながらどうにかこうにか地上に降り立ったが、その足取りはとてもおぼつかなかった。

横浜基地は、2001年末のBETA急襲で、多大な被害を負った。しかし、現在では修繕は完全に終了し、BETA大戦開始以来、最大の国連軍基地となるべく、改修が進められていた。

「ん?夕呼先生、あれ、なんですか?」

武が指差した、滑走路のわきには、巨大なレールが二本、地上に突き出しているような形でそびえたっていた。周囲を見ると、それ以外にも何組か、似たような二本一組のレールがそびえたっていた。

「ああ、あれ?詳しくは知らないけど、地上からレールを通して戦術機を迅速に展開するための射出機らしいわよ」

「へー」

武もよく見てみると、突き出ているレールの横幅は、確かに戦術機一機分にぴったりかもしれないと思った。しかし、そこで武は一つの疑問を思いついた。

「でも、あそこから小型種が逆に、中に突っ込んでくるんじゃないですか」

そう、戦術機が通れるということはBETAも通れるということである。そんな簡単にあちらこちらに入口を作るのは、得策とは思えなかった。

「確かにそういう意見もあったわ。でも、使用するのはあくまで初期展開だけで、BETAが侵入してきそうになったら充填封鎖をするらしいわ。戦術機一機分の通路なら、そんなに時間もかからないし、他の地上部隊なんて、本部の外円部に配備したって奴らのえさになるだけだしね」

夕呼はそういうと、まっすぐメインゲートに向かった。

「なるほど…」

確かに、あのBETA急襲戦では戦術機が展開できたのはメインゲートの三か所からだけで、戦術機が複数同時に出撃できる代わりに、充填封鎖が時間がかかり、さらにはそこから防衛拠点へわざわざ推進剤を使っていく必要があるので、多くの被害を出したという情報があった。

そういう意味では戦術機一機ずつ基地外円に連続で射出する出入り口というのは、作るメリットがあるのかもしれない。

「でもまあ、この基地がBETAの攻撃にあうことは、もうないでしょうけどね」

夕呼はメインゲートを通りぬけ、エレベーターを待っている間そういった。

「そう…ですね」

朝鮮半島の鉄原ハイブが陥落した今、すでに反応炉自体停止している横浜に侵攻してくるBETAは存在しないだろう。

そんなことを思いながら、武はエレベーター前の通路を見た。

真っ白い壁紙と床に囲まれた空間。

しかし一年前、ここは病室に入りきらない負傷兵と血とうめき声に満ちていた。

「行くわよ」

武がそんな考え事をしている間に、夕呼はエレベーターに乗り込んでいた。





……

………



「そういえば、どうする?久々に見ていく?」

夕呼は自分の部屋に入る前に、その向かいにある部屋の扉を見て、そういった。

「そうですね。会っていきます」

そう…というと夕呼は一人で自分の部屋に入って行ってしまった。

カシュッという音とともに夕呼が入った部屋とは反対の部屋の扉が開く。

中に進んでいくと、そこには、台の上に、静かに横たわるものが居た。

全身を覆う白い布の一部をめくる。そこには、懐かしい彼の幼馴染で…おそらくは…好き…だった彼女が、横たわっていた。

「久しぶり…だな、純夏」

そこには静かに目を閉じて、一年前と変わらぬ姿の彼女が居た。

ぱっと見れば、いまにも目覚めそうなぐらい血色がよく、知らない人間が見れば、彼女が死んでいるとは思わないだろう。いや、夕呼先生に言わせれば、もともと生きていないのかもしれない。



生物根拠0
生体反応0



それが、この世界で出会った『鑑純夏』という少女の正体だった。

それでも、以前の彼女は、横になって目を閉じていても、呼吸するように胸が上下していた。肌を触れば温かく、ぬくもりを感じた。

「…」

何も言わずに、武は純夏の手を握る。その手は冷たく、柔らかく感じたその肌も、いまはゴムのような違和感を感じた。

武は胸の奥からこみ上げるような、熱いものを感じた。だが、武はそれを必死に押し込めようとした。

「ごめんな、純夏…でも、もう、泣かないって決めたんだ」

流れ出そうになる涙を、上を向いて、必死にこらえる。

正直なところ、目の前の風景は滲んでおり、いつ流れ出してもおかしくなかった。だが、袖で一度目元をぬぐうと、武は再び純夏を見た。

「…お前が守ったこの世界。お前と守ったこの世界。今度は俺が、守って見せる。だから、少し待っててくれ」

それだけ言うと、武は、部屋を出て、夕呼の部屋に向かった。





……

………



「あら、意外に早かったのね」

部屋に入ると開口一番でそういった。

「しばらく抱きついて泣きわめくかと思ったのに…」

「泣かないって決めたんですよ。泣き言も、弱音も吐かないってね」

武はそう言って夕呼の机の前に立った。

「そう、だてに救世主じゃないわね」

夕呼は目の前に立っている青年の目が、わずかに充血していることに気がついた。だが、頬には涙が伝ったような跡はなかった。

(だいぶ、ましになったかしらね)



初めて会ったとき…、どうしようもないガキだと思った。



自分の不幸を嘆き、世界の不幸を嘆いた。

恩師の悲劇を叫び、世界の不条理を叫んだ。

現実に絶望し、逃げ出したことすらあった。




それらの気持ちは、夕呼にだってわからなくはない。

世界はあの時、絶望に満ちていた。

何もしなければ、人類はさらに絶望的な選択をしただろう。

その未来さえも、あの青年は知っていたのだ。いや、あの時点では神宮司まりもを喪っているという点で、彼の知る世界よりさらに絶望に満ちていたのだろう。

だが、目の前の青年は戻ってきた。

逃げ切れないと知ったからかもしれない。

だとしても、目の前の青年は、もう一度舞い戻り、再び剣を手に立ち上がった。

そして、悲しみを飲み込み、絶望をかみ砕き、進み続けた。

その結果、彼は、彼の愛するあらゆるものを喪いながら…世界を救った。

これだけ聞けば、彼は悲劇の英雄しかないように聞こえる。

何もなすことができず、愛する者をすべて失い朽ちていった者が、この世界には数多く存在する。

そう考えれば、彼は恵まれているといえるかもしれない。

だが、彼という救世主を利用し、彼を愛する者たちの気持ちを最大限利用して、彼が絶望する結果しかないと知りながら、それを知らせず、己が目的を遂行した魔女を殺したいと思う気持ちも、夕呼には想像できた。むしろ、その衝動こそ、人間らしいとすら夕呼は思った。

だが、目の前の青年は、誰にも八つ当たりすることなく、再び夕呼の前に立っていた。

渡した銃は突き返され、いままた、世界を救うために、この世界に立っている。

(ここら辺が、魔女と救世主様の違いかしらね)

「夕呼先生」

夕呼は、目の前の青年が首をかしげていることに気がついた。

「なに」

「いや、何って…突然ボーっとするからどうしたのかなって…」

「別に…何でもないわよ」

柄にもなく、人のいる前で物思いにふけってしまったようだった。

「白銀…」

「何ですか?」

「あんたの次の任地だけど、三つ、候補があるわ。」

夕呼は、考えている三つの候補を挙げた。

「一つは、アラスカ…ユーコン基地。二つ目は日本…富士教導団。三つ目はイギリス。ドーヴァー基地」

いずれも現在、ハイブ突入部隊を育成している巨大基地だった。

「ここじゃ、だめなんですか?」

「横浜基地は、もう前線に立つことはない。ここに置かれるのは防衛部隊だけよ。この三つの基地はいずれも、近場のハイブ攻略を計画していて、その主力部隊を育てている。別にどこに行ってもいいわ。どこに行っても大して状況は変わらない。だから、あんたが行くと決めたところに、国連総軍の支援を向けるわ」

「え?そんな大事なところを、俺が行くところで決めちゃっていいんですか?」

「別に一か所ってわけじゃないわ。あんたにはすべての基地を回ってもらう。救世主なんだから、それぐらいはしなさい」

夕呼は笑いながら言った。つまり、まだまだこき使ってやるということだ。

「別にどこでも変わらないから、それぐらいはあんたにまかせてやるわ」

正直、夕呼がそういう以上、本当に変わらないのだろう。

「ああ、あと、どこに行くにしても霞と一緒に行くことになるでしょうから、二人で決めていいわよ」

「え?」

その言葉には、さすがの武も驚いた。

「なんで霞を連れていくんですか!?」

「あんたねー。あの子あれでも衛士適正あんたに次いで歴代二位よ?優秀なんだから使わなくちゃ損じゃない」

(生きてるってわかった時あからさまにホッとしてたくせに!)

「それに、あの子が戦いたいって言ったのよ。だったら下手なところより、あんたのそばのほうが安心でしょ?」

そこまで聞いて、武は納得した。

「そう…ですね」

「じゃあ、この話はここまで!あと何かある?」

夕呼は強引に話を切ると、話題を変えようとした。

「じゃあ、墓参り、行きませんか?」

目の前の青年は、そう言って夕呼を誘った。

「…そうね…」

そう言って、二人は、地下深い穴倉から、再び、地上に戻った。






……

………



「花買ってきたほうがよかったかと思ったけど…必要ありませんでしたね」

「そうね…」

二人が立つ並木には、桜がいくつかの花をつけていた。

すべて開いても三分咲きがいいところであるが、それでも、きれいな花を見せていた。

「お久しぶりです。まりもちゃん。伊隅大尉、速瀬大尉、涼宮中尉」

かつて自分を育て、共に戦った。先達たち。

「柏木、冥夜、彩峰、委員長、たま、美琴…」

共に学び、戦い、愛した友人であり、戦友であり…英雄たち…

「俺はまだ、この世界にいる。みんなが守ったこの世界。俺が守る」

武は、かつての仲間たちに誓った。この世界を守ることを。

「一応、あいつらにも立派な墓が造られたのよね」

「そうなんですか?」

武が夕呼の話を聞くには、彼女たちは、英雄として、大理石の立派な慰霊碑が造られたらしい。だが、

「一度作られたときに行ったけど…やっぱりあいつらは、ここにいる気がするわ」

夕呼はそういうと、日本酒の一升瓶を、地面に流した…。

「そうですよね…」

武もそう同意して、地面にしみ込んでいくアルコールのにおいを楽しんだ。

伊隅大尉はわからないけど、速瀬大尉やまりもちゃんや207小隊のみんなは、お酒が好きだった。楽しんでくれればいいと、武は思った。

「みんな、笑ってるといいですね」

「…そうね」

空を見上げると、青く澄んだ空が、どこまでも続いていた。



     to be continued……







あとがき。

テスト勉強せずに執筆している柘榴です。

さて、今回は結構本編が長く、しかも一気に書き上げたので結構疲れたので、あとがきは手短に。鬱ゲーとかについて語るのはまた今度ww

さて、次回は…どうしよっかな?イギリス編は読んでないからまだ書けないから、TEか富士かどっちかなんだよな。どっちでもいいけど。

というわけでアンケート

富士がいい人は『悠陽ノシ悠陽ノシ』あるいは『祷子ノシ祷子ノシ』

アラスカがいい人は『唯依タンノシ唯依タンノシ』あるいは『イーニァノシイーニァノシ』

と打ってください。それによって、(あんまり関係ないかもしれないけど)つぎどっちを書くか決めます。

次回予告。


in横浜基地

霞『白銀さん、海の近くがいいですか?』

武『海の傍もいいね。水着とか買いに行かなくちゃね』

霞『それとも山のほうがいいですか?』

武『山も捨てがたい。白いワンピースもって行こう』

霞『北のほうという選択肢もあります』

武『霞はロシアの生まれだから、それもありかもね。一緒にオーロラ見よう』

霞『白銀さんはどこがいいと思います』

武『霞の好きなところでいいよ』

霞『白銀さん。まじめに考えてください』

武『どこでもいいよ。霞と一緒にいられれてBETAをぶった押せれば』

霞『じゃあ、順番に回りましょうか』

武『世界一周か。楽しみだね。いろんな世界を一緒に見ような^^』

霞『はい^^』

各基地の偉い人(((そんなデートいく場所決めるみたいなノリで決めるな!!!)))

海:国連大西洋方面第1軍 所属 英国・ケント州ドーバー基地

山:日本帝国軍 所属 富士第一基地

北国: 国連太平洋方面第3軍 所属 アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地



ではではノシノシ



[20343] Muv-luv Alternative 『Nameless Hero』 Last&First Day
Name: 柘榴◆454d41cc ID:4ef7d171
Date: 2010/07/22 10:54
あがぁーと言う声が聞こえたので一応再うp

ちなみにこの話は、武が現在進行中の物語を経た後、3rdループに入る際の繋ぎ、あるいは導入部分です。

いつかはたどり着く予定なので、ネタばれてきな要素も含むので物語の流れを重要視する方は読まなくてもいいかもww

一々消すのもあれなので、しばらくあげておきます。





















桜花作戦…

00ユニット…

鏡純夏…

『つくづくあんたも、因果胴体にされやすい存在ね』

『さようなら、ガキ臭い救世主さん』

夕呼先生…

『私、あなたのことが 』

『またね…』

霞…

夕呼先生の仮説が正しければ、俺は、2001年10月22日の自分の部屋に目覚める…。

 霞と同じ時間を過ごせないのは…少しさびしいけど…後は残った俺がどうにかするだろう。

 だから俺は…もう一度あの世界に、あいつらに会いたい。今ならできる気がするから。誰も喪わずに進むことが、出来ると思うから…。

 現実から夢、そして、白銀武だけが通れる虚数空間を通り、再び、武の望む世界の夢へとはいりこむ。

身体が覚醒していくのがわかる…。ゆっくりと目を開けると、そこにあったのは見慣れた天井…ではなく…

「そら!?」

武がガバッと上半身を起こすとそこには見渡す限りのきれいな自然が広がっていた。
草原があり、森があり、川があり、湖も見える。

「ここは・・・?」

武が立ち上がってもそこにあるのはほとんどが自然でところどころに半径三メートル程度の大理石の休憩所のようなものも見えた。

「ここは…天国か?」

人がいないか探してみると湖のそばに二人の人間が釣りをしているのが見えた。

「とりあいず、聞いてみるしかないか…」

武は二人の場所を目指して走り出していた。目測で約三キロ程度。息もほとんど乱れることもなく、武は二人のもとへたどりついた。

「すいません」

声をかけると二人とも振り向いた。
二人とも男性で片方は赤と黒を基調とした服で、もう一人は青い体に密着した服装をしていた。両方とも二十代前半から中盤といった感じで、体はかなり鍛えられていることがわかった。

「ここはどこですか」

その問いに青い方の男性が

「どうした坊主?そんなに息を切らして。ここには見目麗しいヴァルキリーなんていないぜ」

と答えた。

どくん、とヴァルキリーという言葉を聞いて心臓が鳴った。

「ふむ、彼はどうやら俺と同じかそれ以降のようだ。服装から見てな。ということはヴァルキリーを信じている海賊、という訳でもないだろう」

赤いほうの男性が、そう説明すると、青いほうの男性は、そうか?と言って気持ちよさそうに笑いながら釣りに戻ってしまった。

武は、ヴァルキリーって、ヴァイキングが信じてたような本物のことを言ってたんだな。と納得する一方でそんな事を云う二人がいるここは、どこなんだろう。という疑問が武の中に渦巻いた。

「ここは、英雄が休む場所だよ。少年」

赤いほうの男性は真面目に丁寧に答えてくれた。しかし武はその答えを聞いてもなお納得が出来なかった。

「英雄って何ですか?俺は英雄じゃない!英雄なんて柄じゃないですよ」

本当の英雄とは、武のよく知る彼女たちこそが得るべき称号だろう。

「英雄とは平凡ならざる奇跡を起こした者。そして、その偉業を語り継がれた者。そういう者たちがここに集う」

武にはいまだに英雄というものが理解できなかったが、それでも自分はここにいるべきではないと思った。

見渡す限りの平穏。確かにここは理想郷といえるだろう。しかし、

「でもまだ、おれは救えなかったんですよ。恋人も親友も!」

ふむ、といった感じで男性は下を向いた。
そして考えがまとまったのか立っている武を再び見て言った。

「しかし、君の人生は終了したのだろう」

そうだ、と武は思った。普通に考えればおれの人生は終わっている。

「でも、おれはやり直せるはずなんです。10月22日に戻って、世界を救わなくちゃならないんですよ」

霞に言われたことが脳裏をよぎった。

『白銀さんは、もう因果胴体じゃありません』

『もう、戦わなくていいんです』

でも、たとえ俺が純夏にたどり着いたとしても、まだハッピーエンドじゃない。

霞や夕呼先生は、再構成された世界に戻されると言った。俺もあと少しで、あの世界に戻れたはずなんだ!

そんな武の言葉を聞いた、赤い男性は武の眼を見て再び言った。

「そうか、それが君の奇跡であり、宝具か」

「宝具?」

またも知らない単語の登場に武は戸惑った。

「しかし、ならば君の英雄譚はまだ終わっていないはずだ。それとも、ここに来ることも君の英雄譚には含まれているのかな?」

赤い男性は再び物思いに耽っていた。

「二人とも、魚は釣れましたか?おや、こちらの方は」

横の林から飛び出してきたのは金髪碧眼でとてもきれいな少女だった。

「さーな?新しいお仲間じゃねえか?魚の方はぼちぼちだな」

そう答えたのは釣りに戻っていた青い服の男性だった。

「まさか私のお魚を!?それはできません。残念ですがあなたの分はありません」

可愛い容姿をした少女は、ワタワタとあわてる動作をした後、まるで、剣を構えるような動作を取った。すると、何も持っていない少女を中心に風が舞い起こり、武は、飢えたライオンににらまれているような錯覚をおぼえ、思わず身構えた。

しかし、いままで黙って座っていた赤い男性が立ち上がって少女を片手でけん制した。

「君は黙っていてくれ。別に彼は食事を求めてここにいるわけではないようだ。そして、もしこれが世界の意思なら、私は召喚者として彼を彼の望む場所へ送り届けることができるかもしれない」

武はその言葉、異世界に人を送れると取れるような言葉に驚いた。

「あれ?あなたは魔術師では?」

赤い男性のとなりにいた少女は赤い男性に聞いた。

「魔術師の側面として、そういう面を持っているんだよ。君だって王と騎士と統治者を兼ねているだろう?」

赤い男性は少女にこたえると、少女はなるほどと云って一歩引いた。

彼が行使する魔法は二つ。

ひとつは召喚の魔法。

被術者を望むところに送り届ける魔術。

もう一つは、彼が彼自身にかけている魔法。

幾度も世界を救おうと願い戦い、無数の戦いの記憶を自身の中に納める為の術。

彼の恩師である赤い少女が用いた、無数の並行世界を写す、万華鏡の剣を見本に作られた小さな奇跡。

その赤い少女に無茶だと言われても、左腕を使うために探し、左腕に収められていた、どこかの彼が鍛えた、小さな魔矢。

並行世界の自分から、戦う術を学ぶ為を引き出す、戦い続ける者のための祈り。

赤い彼には、なぜこの魔術を目の前の青年にかけようと思ったのか、判らなかった。あえて言うなら、『必要だと思った』からであろう。

「では改めて君に問おう。君は答えて、それを思い浮かべてくれ」

武はこの男性の問いに答えなければならないような気がして、上官に対するように背筋を伸ばした。

「はい」

するとその男性はどこから取り出したのか、一冊の本を広げて牧師のように片手でその本を持ち、武に聞いた。

「君はどこに行くか、その場所を覚えているか」

「はい」

武は目を閉じて、思い出す。あの懐かしい自分の部屋を。そして、彼女たちの元へ。なぜ忘れていたのだろう。

「君は守るべき物を覚えているか」

「はい」

思い出す。彼女たちの笑顔を。その意味を。なぜ忘れていたのだろう。彼女たちそれぞれと愛し合い、共に過ごした日々を。

「君は、なすべきことを覚えているか」

「はい」

先生に会い、XM3を作り00ユニットを守りBETAを倒す。なぜ忘れていたのだろう。これまで積んできた無数の経験を。

以前これらの並行世界のことを思い出すとき、武は頭に異常な痛みを覚えていた。

ましてやまとめることなど不可能だった。だが今は必要なこと、大切なことをすべて覚えている。知識も、経験も、彼女たちとの大切な思い出も。

「少年。無数の世界を渡るということは、非常に難しい。そして、その世界に在り続けることは、さらに難しい。もし、その世界に居続けたいのなら、自分で、自分自身を観測しつづけることだ。シュレディンガーの猫は自らを観測することで、あらゆる世界を跳躍する」

 シュレディンガーの猫。その存在は箱の外部からは確定できない。シュレディンガーの猫が、いるかどうかは、その猫にしかわからない。だが、猫がいると思えば、猫はどこにでもいられる。

自分を強く意識しつづけること。それが、武がすべき事だった。

「これは私からの餞別だ。持って行け少年」

目をあけると、彼は本を持っていない方の手に矢をもっており、その先端を額に当ててきた。そこから流れ込んできたのは無数の戦いの経験の記憶。

彼が戦ってきた無数の英雄、天才、人外たちの戦技。それともう一種類、無数の戦いの中で、目の前の赤い英雄によって鍛え上げられた、自分のような凡人にも可能な、剣の使い方。

「では、私も」

右を見ると、先ほどまで幼さが残っていた少女が、圧倒的な存在感を持ち、剣を持っていた。

装飾が見とれるほどに美しい、剣。その剣の先端を武の右肩に乗せて言った。

「汝に幸運を」

たったそれだけの言葉。しかし、武にはそれが百万の盾より強固なものに思えた。

かつて、人の心が分からないと言われた高潔な騎士王。しかし彼女は、誰よりも人を護りたいと願い、渇望したのだろう。そんな彼女の願いは、不屈の意志を、最後まで後悔せずに戦える身体をくれるだろう。

「しょうがねーなー、坊主。俺もなんかやるか」

そう言うと青い男性は立ち上がり、どこからか取り出した紅い槍を武の左肩に乗せて言った。

「汝に風のルーンの加護を」

元々はおそらく、最愛の人が戦場で流れ矢が当たることのないように作られたおまじない。

だがそれも、英雄のものとなれば、いかなる飛翔攻撃も捻じ曲げることができる護りにまで昇華されていた。武とは違う意味で、因果を捻じ曲げる奇跡…。

英雄の集うところ。

その意味が武にはようやくわかった。彼らは紛れもない英雄。
彼らに会わなければ、おそらく永久にたどり着けないであろう究極のハッピーエンドが武には見えていた。

「では、また会うことを楽しみにしている。青年」

赤い男性がそういうと、武の身体からは無数の光が立ち上り、身体自体は、ゆっくりと透明になって言った。

「はい。ありが…とう…ござい…ま…」

感謝の言葉を伝えきる前に、武は光にのまれた。しかし。武にはある種の確信があった。彼らとは、また会えるであろうという確信が。



******


「…………ここは……俺の部屋か?」

 目を覚まして周りを見渡すと、武は元の世界の自分の部屋にいた。
カーテンを開けるとそこには撃震の残骸があった。
ここは確かに、武の知っている最悪の世界である。

しかし、武の顔には笑みが浮かんでいた。

「さぁ、英雄伝を始めよう…」


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.884977817535