前原誠司の「直球勝負」(43)
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ゲーツ米国防長官との会談
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去る11月9日の昼、シーファー米駐日大使の招待により、大使公邸でゲーツ米国防長官と昼食をとりながら懇談を行った。会合ではシーファー大使のほか、自民党の谷垣政調会長、二階総務会長、山崎・元幹事長、公明党の佐藤代議士が一緒だったが、ゲーツ長官は日本での一連の会談が終わり、次の訪問地である韓国へ旅立つ前とあってリラックスした雰囲気だった。
冒頭、ゲーツ長官から自衛隊のインド洋における給油活動の意義に対する説明と日本の活動に対する謝意表明があり、活動継続に対する強い要望が示された。私は発言を求め、まずシーファー大使に感謝の言葉を述べた。実はアメリカ国内では11月16日をめどに、北朝鮮のテロ支援国家指定解除の手続きがとられようとしている。これを進めているのはライス国務長官とヒル国務次官補だが、日本政府は拉致問題が解決されていない現況で、アメリカがテロ支援国家指定解除を行わないように強く働きかけてきた。しかし、アメリカにはアメリカの事情がある。あと一年余りしかないブッシュ政権にとって、何らか外交成果は何としても欲しい。イラクは泥沼化し、アフガニスタンも改善の兆しが見えない。中東和平も頓挫している状況が続き、イランも思い通りにはいっていない。何とか北朝鮮の核開発を思いとどまらせるだけでなく、無能力化も進めることができれば核や関連物資の拡散も防止することができる。イランなどを睨んで良き前例を築き上げることになり、外交面での成果を得ることになる。恐らく、来年はライス国務長官のピョンヤン訪問、そして米朝国交正常化交渉の開始、さらにうまくいけば、米朝国交正常化が実現する可能性もある。アメリカからすれば、如何に同盟国である日本から頼まれようとも、テロ支援国家指定解除は進めるべきプロセスになっている。しかしシーファー大使はこの流れに対して、日米関係を重視する立場から「待った」をかけるべく行動を起こしている。異例とも言えるブッシュ大統領に対して直接公文を打電したとも巷、言われており、アメリカのメディアにも報道された。もちろん、だからと言ってアメリカ政府の方針が根本から代わると考えるのは楽観論に過ぎず、ましてや駐日大使としての責務からの、日本向けのパフォーマンスかもしれない。しかし、そのような行動をとってくれたことに対しては、日本の国会議員として、感謝と労いの言葉をかけるべきだろうと私は考えた。
私がゲーツ長官に聞きたかったのは、日本の立場をどう考慮しているのかという点と、イスラエルがシリアにピンポイント攻撃を行ったことが、テロ支援国家指定解除とどのように関連するかという点だった。実は、アメリカ連邦議会では北朝鮮に対するテロ支援国会指定解除に疑問を呈する声が高まっている。残念ながら、同盟国・日本を慮っての動きではない。9月6日未明、イスラエルのF15戦闘機がシリアの核施設をピンポイントで爆撃し、破壊した。この核施設は北朝鮮・寧辺(ヨンビョン)のものと酷似しており、北朝鮮の協力で作られた疑いが持たれている。米シンクタンク「科学国際安全保障研究所(ISIS)」によると、プルトニウムが製造可能な2万〜2万5千キロワットの原子炉だった可能性があるという。このことがアメリカ議会に火を点け、北朝鮮に融和的なブッシュ政権批判につながっている。10月25日に行なわれた米下院合同小委員会の公聴会にはヒル国務次官補が出席したが、「情報機関の問題に答える立場にはない」と苦しい答弁に終始した。ゲーツ長官の答えは、こうだった。
「日本における拉致問題の重要性は十分に理解している。ただ、テロ支援国家指定解除は国務省の管轄だ。帰国すれば、ブッシュ大統領とライス国務長官に必ず伝える。しかし、最も重要なのは朝鮮半島の非核化だ」。
「シリアの件については、大統領も大変心配している。もし北朝鮮が関与しているとすれば、非常に深刻な問題だ。北朝鮮の各技術がシリア・イランに移転されていないか、情報機関も大きな関心を持っている」。
「私は1994年の米朝枠組み合意のときは政権の外にいたが、初めから構造的に欠陥があった。北朝鮮は最初から、遵守する意思はなかった。だが、今回の合意は違う。定期的な確認によって、北朝鮮の実施状況が分かる仕組みになっている。北朝鮮が6者協議の合意を遵守するかどうかは、ステップを見れば分かる。すべての核に関する申告の時、北朝鮮が本当のことを言っているのかどうかがわかる。我々は無限に時間をかけない。北朝鮮もブッシュ政権の間で、つまり437日以内(前原注:ブッシュ政権の任期の残り日数か)で解決させると言っている」
以前「直球勝負」で述べたように、日本も日朝平壌宣言の原点に戻り、拉致問題で上げすぎたハードルを是正し、北朝鮮が核の無力化を6者協議の合意どおり進める場合には、残りの国が行う経済支援には日本も参加し、日本外交の裁量を残す。そして、そのことで日朝協議に北朝鮮を引き摺り戻す。拉致問題の実質的な協議も行えるはずだ。日本は、アメリカの北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除に、甘い幻想を持つべきではない。アメリカは自らの国益観で決断を下す。ただ、指定解除が福田総理の訪米に重なったり、訪米直後に解除がなされないよう、外交面での働きかけはしっかりと行わなければならない。 |