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日本の障害児教育が、大きな転換を迫られている。政府の「障がい者制度改革推進会議」が先月まとめた意見書に、「障害の有無にかかわらず、すべての子が地域の小中学校に在籍するの[記事全文]
東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が、東アジアサミット(EAS)への米国とロシアの参加を認める方針を出した。この秋のASEAN首脳会議で正式に認められれば、すで[記事全文]
日本の障害児教育が、大きな転換を迫られている。
政府の「障がい者制度改革推進会議」が先月まとめた意見書に、「障害の有無にかかわらず、すべての子が地域の小中学校に在籍するのを原則とする」との提言が盛り込まれた。これまでの原則と例外をひっくり返す形だ。本人や親が望んだ場合に、特別支援学校・学級で学ぶようにするという。
障害児と健常児を分けない「インクルーシブ教育」などをうたう障害者権利条約が4年前、国連で採択された。意見書は、批准のための法整備を促すものだ。今週から、中央教育審議会で専門家による議論も始まった。
多様性を尊重しあう共生社会をつくるためにも、すべての子が共に学べる教育が重要だ――。世界ではそんな考えが広まりつつある。しかし、日本では障害児を盲・ろう・養護学校に振り分ける形が、長く続いてきた。
2007年には、機械的に分けるのでなく、一人ひとりのニーズにより細やかに対応しようと「特別支援教育」が始まった。発達障害の子が初めて対象となり、障害の程度によっては普通の学級の中でも適切な支援をしてゆく考えに、改められた。
だが、3年たって起きているのは、特別支援学校・学級の子どもの数の急増だ。「学習障害」といった診断で、普通のクラスから安易に押し出されてくる子が目立つ。学校はパンク状態で施設不足や質の低下が心配だ。
障害のある子が普通の学校に居づらい状態は、変わらない。重度の子を特別に受け入れても、親の付き添いを求めたり、授業で「お客さん」扱いのままだったり。そんな例もよく聞く。
インクルーシブ教育の理念と日本の現実の隔たりは、まだまだ大きい。
学校現場や文部科学省からは「急な転換は混乱するだけだ」「財政負担が大変だ」と懸念の声が上がる。でも、ここは一歩ずつでも現状を変えるしかない。同省は教員養成や少人数学級のあり方を検討中だが、普通の学校が障害児をより多く受け止められるような条件整備を、しっかり考えてほしい。
障害のある子の学ぶ場の決め方も、より丁寧な形に変えた方がいい。
入学する前年の秋の健診時ではなく、もっと早くから親の相談に乗るようにできないか。情報を提供し、子どもの能力を最大限発達させられるような就学先や学習環境を、安心して選べるようにする。そのうえで親・本人の決定権を保障すべきだろう。
埼玉県東松山市のように、すでに教育委員会による就学先押しつけをやめた自治体もある。東京都や埼玉県は、特別支援学校で学ぶ子が地域の学校にも「副籍」「支援籍」を置き、仲間として受け入れられる形をとっている。参考にしたい試みだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が、東アジアサミット(EAS)への米国とロシアの参加を認める方針を出した。
この秋のASEAN首脳会議で正式に認められれば、すでに参加している中国、インドを含め、中南米をのぞくアジア・太平洋地域の大国が勢ぞろいすることになる。
世界金融危機のあと最も早く立ち直ったのが中国を中心とするアジアだ。いまやこの地域が世界の経済を先導しているといっても過言ではない。
中国は台湾とも経済協力枠組み協定を結び、地域の大国としての存在感をますます高めている。中華経済圏ができつつあるという見方もある。
米ロはこうした現実に突き動かされ、アジアに直接関与する道を選んだのだろう。米国には、アジアで影響力が低下しつつあるのではないかという危機感もある。テロとの戦いという点で、イスラム原理主義につながるネットワークがある東南アジアに地歩を固める意味もあったと見られる。
また、大中華圏にのみ込まれたくないASEANが、バランス感覚を発揮した結果でもあるだろう。
日本は、日米同盟は地域の安定のための公共財だとして、米国がEASに関与する必要性を説いていた。今回の方針は、日本には歓迎すべきことだ。
しかし、米国が直接EASに参加すれば、米国の考えを代弁する国は必要ない。日本の影が薄くなることも覚悟しなければならない。
だからこそ今、日本独自のアジア外交の構想力が問われる。
EASは元来、東アジア共同体の可能性を探ることが大きな目的だった。米ロの参加によってその性格が変わるのか、目を凝らさねばならない。参加国が増えれば議論の収斂(しゅうれん)は難しくなるし、大国の利害の衝突もあるだろう。
立ち上がりつつある中華経済圏には日本も分かちがたく結ばれている。その現実を踏まえ、東アジア共同体構想の道筋との折り合いをどうつけていくのか。それをどこで話すのか。
共同体はそのメンバーも決まっていないが、少なくともASEANと日中韓が中心になることは間違いない。
ASEANは2015年の統合を目指して経済の一体化を進め、憲章も制定した。そこには共同体づくりで一歩でも先んじ、より広い地域統合の核という地位を確保する意図もある。
日本は中韓との連携を強めねばならないが、歴史問題をはじめ乗り越えるべき複雑な課題がなおある。
一方、ASEANとはこれまでに積み重ねてきた協力関係の厚い蓄積がある。まずそれを強化し、重要なパートナーとして関係をさらに深めることも、アジアで日本が存在感を増すためには欠かせない。