ここから本文です
[PR]

発掘捏造から10年、癒えぬ傷 相次ぐ「発見」にも学界は懐疑的

7月20日1時15分配信 産経新聞

 一研究者が石器を自分で埋めていた「旧石器発掘捏造(ねつぞう)問題」から10年。この問題で、国内の最古石器は後期旧石器時代(3万5千〜1万6千年前)とされ、前・中期旧石器時代の発掘は否定されたままだ。最近も各地で石器の発掘が相次いでいるが、捏造の傷跡が深い考古学界は認定に慎重で、今も激論が続いている。(猪谷千香)

 昨年9月、島根県・砂原遺跡で12万年前(後に12万〜7万年前に訂正)の地層から“石器”が出土、「日本最古」と発表された。石器とは人為的に作られた石の道具を指し、人がいた証左になる。調査団の見解が正しければ、中期旧石器時代に日本に人類が住んでいた大発見につながる。

 しかし、学界には懐疑論が少なくない。

 理由のひとつは砂原遺跡が学界の本格的な検証を待たず、公表されたこと。捏造問題のときも発掘し、すぐに「○万年前」と発表するパターンで、報道陣の目の前で発掘してみせたこともある。

 「学界として検討する機会を作ることが大事だ」。稲田孝司・岡山大名誉教授は砂原遺跡の発掘に慎重な姿勢を示す。

 もうひとつは人為的に作られた“石器”か、自然に割れた“偽石器”なのかだ。捏造問題以前からあった課題だが、問題を契機にさらに慎重に認定せざるを得なくなった。

 学界は、5、6月に都内で相次いで開かれた関連学会で砂原遺跡を俎上に。発掘された“石器”の実物が持ち込まれ、議論は白熱した。

 「前・中期旧石器時代は“石器”か“偽石器”かの区別が難しい。10人中9人が認めなければ石器とはいえない」と稲田名誉教授が訴えれば、砂原遺跡の調査団長、松藤和人・同志社大教授は「研究者によって経験が異なり、石器の共通認識を持つことは困難だ」と話す。

 捏造問題以降も、砂原遺跡以外に岩手県・金取遺跡(9〜5万年前)や長崎県・入口遺跡(9万年前)など中期旧石器時代とされる遺跡から“石器”発見が報告されているが、定説には至らず、論争が繰り返されている。

 こうした現状を打開しようと、捏造を契機に設立された日本旧石器学会は後期旧石器時代の遺跡をデータベース化。これまで約5千とされていた遺跡が1万200カ所もあることが判明し、比較研究がしやくすくなった。

 日本考古学協会で捏造の検証に携わった安蒜(あんびる)政雄・明大教授は「今後、韓国の中期旧石器時代の遺跡で日本産の石材が見つかれば、国内で石器が発見されなくても、日本列島に人類がいたことが証明できる。捏造問題から10年、学界は何もしてこなかったと言われても仕方ない。これからの10年に向けた新しい取り組みが必要だ」と話している。

 ■旧石器発掘捏造問題 民間の考古学研究団体「東北旧石器文化研究所」(解散)の副理事長(当時)が、前・中期旧石器時代の石器を自ら埋めた上で発掘していたことが平成12年に発覚。日本考古学協会による検証の結果、捏造は160カ所以上で行われていたことが判明。教科書の内容が書き換えられるなど多大な影響が出た。

【関連記事】
米テロ跡地の隣から木造船 NYで発掘、18世紀建造か
小学生が大型ザリガニの化石発見「ジュラ紀最大級」福島県
日本唯一の弥生博物館20周年、正念場 橋下知事が廃止案
平城宮跡・東院地区で建物跡、食器類も出土
平城宮初の大地震痕跡 大極殿ズレの要因、仁和南海地震か
おごれる人も久しからず… 民主党が敗北

最終更新:7月20日1時15分

産経新聞

 

関連トピックス

主なニュースサイトで 島根出雲・砂原遺跡 の記事を読む

注目の情報
夏こそお得に旅しよう! 夏ですし、どこか行きたいと思う

格安のツアーや航空券は早いもの勝ち。でも、ときどき急にお得なプランが売り出されます。今からでももちろんお目当ての旅行情報は見つかるはず。さて、今年はどこへ行きましょうか?
ハワイとかグアムとか沖縄とか→
PR
ブログパーツ

国内トピックス

注目の情報


主要メディア6紙の過去記事2年分を瞬時に検索。
全国紙の社説を比較する毎日新聞の企画「社説ウオッチング」。産経新聞の「社説検証」とあわせてチェック(本文有料)。

PR

注目の商品・サービス

PR