地上波テレビ放送の完全デジタル移行の1年前にあたる24日、石川県珠洲(すず)市と同県能登町の一部で、全国に先駆けてアナログ放送が停止される。テレビの買い替えや工事が進まず、完全移行を危惧(きぐ)する声もある中、アナログ放送終了の「リハーサル地」では、ほぼ準備が整った。その立役者は都会で姿を消しつつある「町の電器屋さん」。現地で話を聞いた。
珠洲市は人口1万7500人。高齢化率41.3%は、県内1位だ。高齢者世帯も多く自発的な対応は難しいと予想された。
そこでデジサポ(総務省テレビ受信者支援センター)は「電器屋さん」に協力を要請。昨年7月、11軒の店が全6600世帯のうち珠洲中継局がカバーする2800世帯を訪問し、テレビの形態や保有台数を調べて簡易チューナーも設置した。
「分からないことがあると、電話が来る。こっちはすぐに飛んでゆく」と話すのは市中心部で電器店を営む坂茂昭さん(57)。約250世帯を担当した。
その一人、同市正院町の無職、堂端トシ子さん(72)は次女と2人暮らし。3台のテレビをすべて買い替える余裕はなく、1台だけのつもりだった。だが無償貸与を知り、すべてにチューナーを取り付けた。押してはいけないボタンは粘着テープで覆ってある。「人の声がしないと寂しいので」1人の時はいつもテレビをつけており、「ありがたい。みんな喜んでます」。
同市正院町、サービス業、橋詰充一さん(49)もチューナーを3台借りた。補助対象でない同県七尾市で1人暮らしをする高2の長男宅は、「パソコンで足りているようなので買い替えない」という。「アナログ時代に見られた隣県の放送が見られないのが残念」と話した。
総務省は全国の自治体に「リハーサル地」を募集し、昨年4月に珠洲市が選ばれた。能登半島の先端に位置し、区域外からのアナログ波の受信が起こりにくいことなどが理由だ。
同省によると、全国のデジタル対応テレビの世帯普及率は83.8%(3月現在)。集合住宅が対応していないなどの問題もあり、実際に視聴可能な世帯は77.7%だった。【長沢晴美】
【ことば】地上デジタル放送への完全移行
地上波のテレビ局が行ってきたアナログ放送は11年7月24日に終了し、03年段階的に始まったデジタル放送に完全に切り替わる。それに伴い電波の枠に空きが生じる。この跡地は、携帯電話のデータ通信を円滑にしたり、災害時の通信システムや携帯端末向けの新たな放送などに利用される。視聴するにはデジタル対応テレビに買い替えたり、チューナーを取り付けるなどの対応が必要となる。
毎日新聞 2010年7月22日 20時08分(最終更新 7月22日 22時36分)