牧太郎の大きな声では言えないが…

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牧太郎の大きな声では言えないが…:「寛容」を忘れて…

 テレビの参院選開票番組。谷垣禎一総裁以下、自民党執行部の面々が“人さし指”を天に向け、ニコニコしている。自民党は「勝った!」とでも思っているのか?

 選挙区の全得票で民主党は2275万票。自民党は1949万票。自民党は320万票も負けている。比例代表で民主党は1845万票。自民党は1407万票。440万票も負けている。

 確かに1人区では21勝8敗。それを根拠に「自民圧勝!」と書いたメディアもあるが、比例代表の12議席は結党以来最低の記録である。無党派層の半分は「みんなの党」に移り、半分は民主党に残った。自民党は無党派層に見放されている。

 谷垣自民は参院選で負けた! その責任は?と厳しい分析をしたいのだが……“人さし指”の面々も(敗北を知ってか)複雑な笑い。ここは寛容の精神! 負け続けの自民執行部にも、たまには花を持たせよう。だから「復調自民!」と主張するメディアを真っ向から否定するつもりはない。

 「寛容」は日本人の隠れた美徳。キリスト教にも「他人の罪過を厳しく責めない」という徳目があるじゃないか。

 ところが……昨今、日本人は「許すこと」をすっかり忘れてしまった。精神的に余裕がなくなったのか(自分のことは棚に上げ)過ちのない“完全無欠な他人”を要求する。その揚げ句、当事者が「弱い」と見ると徹底的に失敗を追及する。その先頭に立つのがメディアである。

 例えば……力士の違法トバク。

 ギャンブルは人類最古の文化である。それが証拠に古代エジプトの墳墓からは人間や神々がダイスを振っている絵、陶器が多数発見されている。

 人々を熱狂させるから、多くの為政者は賭け事を禁止・弾圧する。ローマの時代からヨーロッパでギャンブルは禁止と公認の繰り返し。日本でも、つい200年ほど前までは、博徒と十手・捕り縄(警察権力)の“二足のワラジ”がバクチを取り仕切っていた。時代と共に「賭け事」に対する価値観は変わる。

 暴力団の取り締まりは必要だ。が、客になった力士が仕事をなくし路頭に迷うほどの「巨悪」なのか?

 多くが、賭け事の精神的高揚に囚(とら)われ、自らの意思でやめることができないギャンブル依存症である。可哀そうに!と情けをかけるのが「寛容の日本人」ではあるまいか?(専門編集委員)

毎日新聞 2010年7月20日 東京夕刊

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