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なぜWiiが失速し、現代のベーゴマが炸裂したのか[後編]

プレジデント7月20日(火) 10時 0分配信 / 経済 - 経済総合
初代ベイブレードは世界中で1億6000万個の販売を達成した。そして二代目も大ヒット中である。
■最強が存在しないじゃんけん方式

 そんな少年たちがハマる理由は、「ベイブレード」が一種のスポーツのようなものだからだと高岡氏は言う。いくら新作「ベイブレード」を次々に購入しても、それだけでは強くなることは不可能だ。どんなに高価なバットやミットを手に入れても、練習しなければ絶対に野球は上達しないように、「ベイブレード」もより強者になりたければ、ひたすら地道な練習を続け戦略を練らなくてはならない。
 仕事抜きで「ベイブレード」大会に熱中するという高岡氏によると、「勝敗を左右するのは、“テクニック”“改造”“時の運”が、それぞれ33.3%ずつ」なのだそうだ。つまり、練習も研究もしない怠け者選手は、絶対に勝率を上げることはできないということだ。

 実は、“最強”の「ベイブレード」というものは存在しない。「ベイブレード」の仕組みはジャンケンと同じ。守備型、攻撃型、安定型の三つのタイプに分かれるコマは、どんなにカスタマイズしようとも、常に弱点を抱える宿命にある。回転が速いコマは高速移動ができるが持久力はなく、反対に重心が低いコマは安定しているが攻撃力に乏しい。「ベイブレード」の勝負は、相手を弾き飛ばすか、自分が最後まで回り続けているかで決まる。ベイゴマのように重心を低く改造すれば勝てるという必勝法が存在しない。

 今回の「ベイブレード」復活にあたっては、二代目には初代にない工夫も随所に凝らした。コマの周囲に金属を取り付けることで、ぶつかり合うと「ガキーン、ガキーン」と激しい衝撃音を生じさせたり、デザインやネーミングも最近のおしゃれな小学生のレベルに合わせ、よりストリートテイストを前面に打ち出した。四つに分かれる部品それぞれをフェイス、ウィール、トラック、ボトムと名付けたのは序の口、王道なところでモチーフに星座もあしらった。さそり座だとスコルピオ、うお座だとパイシーズと、自分だけのモチーフに魂を込めて戦うのである。

 さらにWBCを意識したWBBAの名称は「ワールド・ベイ・ブレード・アソシエーション」の略。わざと大仰な名前をつけることで「ベイブレード」の公式組織があるという前提をつくり、公式ショップも認定した。現在、WBBA認定の公式ショップは全国で900店舗。要は街のオモチャ屋さんが希望を出して公式ショップになるわけなのだが、そこでは毎月公式試合が組織され、全国で最強の「ベイブレーダー」を決定するのだ。

 実は初代「ベイブレード」が社会現象ともいえる大ヒットを記録したにもかかわらず、数年で失速したのには理由があった。子どもたちの世代交代である。「ベイブレード」に熱中した世代の下が参入してこなかったのだ。
「ベイブレード」はバトルゲームだ。一人コマを回していても面白くもなんともない。対戦相手がいてこそ改造やコレクションのしがいもある。ということは、いかに多くの対戦者たちの熱中を持続させ、さらに下の世代へと引き継げるかが、今回の二代目「ベイブレード」が流行し続ける最大のカギとなるのだ。


■コロコロを読み、ゲーム機を持つ現代っ子

 高岡氏は足しげく子どもたちの遊びの現場に通う。「よう! どう最近? 元気?」とタメ口で小学生に溶け込んでいく私服の彼を、何者か怪しむ者はいない。やたら「ベイブレード」に詳しいお兄さんという認識で、最近の小学生の日常生活や流行っていることを教えてくれる。自分自身、「中身的にもほとんど子ども時代から成長していない」と笑う彼は、現場の子どもたちに溶け込むことで、数値として上がってこない危機情報の機微も吸い上げていく。少年たちが読むのはコロコロコミック、見ているテレビは、ピラメキーノ、世界の果てまで行ってQ。携帯電話はあまり持っていない。そのようなことをさりげない普通の会話で聞きだしながらクラスの子たちが最近「ベイブレード」から離れて別の遊びに行った情報や、塾やスポーツに移行していった話などを聞きだすのだ。

「最近の子どもは本当に忙しい。学校に行って塾や習い事に行って、DSやって『ベイブレード』やって、カードゲームやって。膨大な選択肢の中から『ベイブレード』を選んでもらうためにはどうしたらいいのかを考えています」
 その作戦の一つが先のWBBAであり、毎月行われる公式試合である。玩具を与えて「はい、これで自由に遊んでね」と放置するのではなく、対戦場所を用意することで子どもたちに遊ぶ場をも与える。会場となるのは公式ショップである街のオモチャ屋さんだが、大会告知のポスターや景品などはタカラトミーが念入りに用意する。多い場所では200人、300人もの子どもたちが集まるが、定員は75人のため、抽選で敗れた子どもたちのために別種のトライアルイベントを催したり、店内に常に子どもが自由に無料で遊べる「ベイ太」と呼ばれる機械を置くこともある。

 このような地道な戦法は、タカラトミーを象徴する営業方法ともいえる。
「営業、開発、マーケティング。タカラトミーさんからは、とりあえず誰かが毎週来ている」というのは、荻窪で創業26年の街のオモチャ屋さん「喜屋」の取締役、関口佳三氏だ。
「街のオモチャ屋にとっての最大のライバルは、ネット販売と大型家電量販店です。正規の価格より大幅に安く販売している彼らと、価格帯では勝負できない以上、我々にとって工夫できるのは売り場のレイアウトとイベントのみ。実際に子どもたちが店頭に遊びに来てくれてこそ、街のオモチャ屋の存在意義はある。そこをきっちりとサポートしてくれるおかげで、子どもたちの集客率はものすごいです。学校が終わればうちの店に集合し、店頭の『ベイ太』で遊んで帰っていく。新製品が出たときなどは、1日に400個以上売れることもあるし、土日の賑わいも素晴らしい」

 リーマン・ショック以降、確かに客単価は下がった。しかし、それでも高価な商品が売れなくなったというだけで、意外と低価格商品の売り上げには影響していない。
「ベイブレード」が不況下で売れているというのも、1000円前後で買えるその価格帯に理由がある。クリスマスや誕生日など、いわゆる物日には両親も財布のひもを際限なく緩めるわけにはいかないが、子どもたちが小遣いで買える程度の低価格帯のものなら、むしろ買ってやりたいと思うものだ。
「流行は繰り返します。アナログ玩具のいいところは、世代を超えて共通の遊びを追求できるところです。テレビゲームでは世代の隔たりがあるところも、『ベイブレード』ならば、親子二世代、三世代で楽しむことができる。

 タカラトミーの強みは、タカラとトミーが何十年と培ってきた定番商品にこそあります。
 玩具とは、触って使ってみて初めてわかるもの。我々の意識としては、モノを売っているというよりは、タカラトミーの世界観を売っているんです」
 営業として日々街のおもちゃ屋を巡る佐野中哉氏はこのように言う。街のオモチャ屋さんと玩具メーカーが、手を携えて再び三次元の玩具へと子どもたちを引き戻してきた。
「店頭に子どもたちが帰ってきてくれた今年の冬の商戦が楽しみですね」(佐野氏)ズラリと並んだオモチャの前で、二人の笑顔がはじけた。


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三浦愛美=文

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  • 最終更新:7月20日(火) 10時 0分
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