なぜWiiが失速し、現代のベーゴマが炸裂したのか[前編]プレジデント7月19日(月) 10時 0分配信 / 経済 - 経済総合
--------------------------- ■少子化、不況、生活必需品でもない! 「プラレール」「トミカ」「リカちゃん」「トランスフォーマー」。大人から子どもまで、誰もが知るオモチャたちをそれぞれ世に送り続けてきたタカラとトミーが合併したのは2006年3月のこと。それから4年、新生タカラトミーは合併後最高収益を記録した。2010年3月期の連結決算では純利益が前期比6.5倍の89億円となり、連結売上高は1787億円、営業利益は前期比2.1倍の104億円となったのだ。 なかでも「ベイブレード」人気が目覚ましい。現在、累計出荷数は1800万個を超えており、玩具業界全体のけん引役となっている。 現代版ベーゴマである「ベイブレード」の初代が発売されたのは、今から約10年前の1999年。01年にはアニメもスタートし、少年たちの間で爆発的な人気となった。日本国内のみならず世界55カ国で発売され、累計1億6000万個を売り上げる記録的大ヒット商品となった。 数年間の空白期間を置き、満を持して二代目「ベイブレード」が発売されたのは08年8月のことだった。その名も「メタルファイトベイブレード」と、より一層“最強”感を打ち出したネーミングで小学生男子たちの心をがっちりとつかんだ。競うように群がる子どもたちにより店頭からは商品が消え、街の玩具店からは「早く在庫を補充してほしい!」と矢の催促だ。 この不況、少子化で玩具が売れている。その理由は何なのだろう。さらに言えば玩具は生きていくうえでまったく必要ない。衣食住の中で真っ先に買い物リストから外される確率の高い生活不必要品だ。しかも世の中にはテレビゲームや携帯ゲームがあふれている。ニンテンドーDSやWiiシリーズ、屋内外を問わず液晶画面に張り付いて黙々とゲームに興じる子どもの姿を見るのは珍しくない。そんな中、いくらカッコいい名前をつけたところで所詮ベーゴマの進化バージョンである「ベイブレード」が少年たちの間でこれほど人気を博したのはなぜなのか。 そもそもあらゆる商品の中で、玩具ほどヒットするかどうかの見極めが難しい商品はない。何しろ相手は子どもである。 「なんでこんなものが欲しいの?」と大人が訝るガラクタを収集してくる気まぐれな彼らの需要を予測し数値化するのは相当な困難が予想できる。 日本の玩具黎明期、最初に歴史に名を残す大ヒット商品となったのは、何といっても「ダッコちゃん」(現だっこちゃん)だろう。腕にぴたりとくっつくビニール製の肢体、見る角度によって閉じたり開いたりする愛らしい目。定価180円のキャラクターに日本中が夢中になった。 ■なぜ売れたのかさっぱりわからない しかし「ダッコちゃん」を世に送り出したタカラ創業者の佐藤安太氏(NPO法人ライフマネジメントセンター理事長)は、当時を振り返りこう語る。 「あれはまったくの偶然のヒット商品です。そもそも私は『ダッコちゃん』という名前になったことすら知らなかったのですから。どうしてあんなものが(と言っては何ですが……)売れたのか、いまだによく理解できません」 「ダッコちゃん」大流行の陰には、いくつかの幸運な「偶然」が潜んでいた。ビニール人形を発売してしばらくたったある日、相撲中継をしていたテレビカメラが、観客の中に妙な人形を腕にくっつけている女性を発見した。気になったのだろう、クローズアップしてその妙な物体をテレビ画面に大映しにした。それが「ダッコちゃん」だった。 「いったいあれは何だ?」と一気に“時の人”となった「ダッコちゃん」は、その後銀座を闊歩する女性たちの腕に次々にぶら下がるようになった。まったく意図したことではない「偶然」の産物。だがマスメディアの威力を思い知らされた経験は、次のヒット商品である「リカちゃん」に活かされた。玩具としては初めてのTVコマーシャル、子どもたち向けのリカちゃん電話。それまで1年限りの一過性のものとして位置づけられていた玩具は、「リカちゃん」以降、毎年発売しても一定の売り上げを見込める定番商品としての地位を確立したのだ。 60年代、日本の玩具業界はまだまだ後進国だった。視察団を派遣しても、欧米の玩具見本市に日本人は入れてもらえなかった。理由は「日本人は『コピー屋』だから」。極端なことを言えば、当時の日本人の作る玩具はすべて海外製品の模造品。海賊版が横行する今の中国を非難できない状況だった。だが、そこから這い上がることで、「人生ゲーム」「チョロQ」「トランスフォーマー」と、次々にヒット商品を打ち出していった。経済が豊かになるにつれ、日本の玩具業界も好景気に沸いた。 しかし、時代は徐々に玩具にとって不利な状況へと移り変わっていく。80年代に登場したファミコン、90年代から人々の生活に浸透した携帯とPC、00年代にはニンテンドーDSやWiiが登場したことにより、玩具は役割を終えたかに見えた。ところが、子どもたちは玩具を忘れたわけではなかった。 タカラトミーの「ベイブレード」と熾烈な競争を繰り広げるライバル商品は、バンダイの「ハイパーヨーヨー」である。両者に共通するのは、すでにかつてあった伝統的玩具の復刻版であるという点だ。 「すでにあるものをいかにして玩具に落とし込んでいくか」。それが、玩具ヒットのカギであると語るのは、タカラトミー代表取締役社長の富山幹太郎氏である。 「自社に限らず他社の玩具でも、ヒットする商品というのは必ず『あー、やられた!』と思わず叫ぶような発想の転換から生まれています。商品化されてみれば、なんてことのない復刻バージョンでも、思いつけなかったら、こちらの負け。玩具開発に必要なのは“コロンブスの卵”的発想なのです。 そもそも玩具の原型なんて、すでにこれまでの歴史の中で出尽くしてしまっている。『ベイブレード』の元祖ベーゴマの起源は平安時代まで遡ります。メンコ、ヨーヨー、ビー玉……。かつての子どもたちが『面白い!』と思った玩具を、いかに発想転換させて現代に蘇らせるか。それが、私たちの勝負どころです」 ■なにも変えないことがじつは重要 あえて完成度の低い商品を出す“ゆるさ”も、玩具には必要だと心理学者の植木理恵氏は指摘する。 「実は、子どもにとって究極の玩具は棒きれなんです。道端に転がっている棒きれを拾わずに無視できる子どもはいないという臨床データがあります。武器としてブンブン振り回したり、何かに見立てて遊ぶ。想像と改造の余地があればあるほど、子どもたちは夢中になって遊び続けます」 あえて確信犯的に商品の完成度を下げて余白をつくるところが、大人向けの遊びと異なるところ。大人は完成度の高いものを求めるからだ。今年発売40周年を迎えた「トミカ」の遊び方は、ほとんど余白だらけだ。 「ブランドを守り続けて40年。82%の子どもがトミカを一人で遊んでいます。お父さんの乗っているクルマや、街で見かけるゴミ清掃車などを中心に買い、思い思いに遊び方を工夫します」(トミカマーケティング本部・本多秀光氏) トミカは発売からほとんど機能も形も変化せずに売れ続けている。 「作り手はいろいろな新機能をつけようと考えてしまうものですが、いつの時代でも子どもが欲するものは、丸くて、自由度が高くて、やわらかくて、派手なものです。だから基本的なフォーマットを守ることが重要です」(植木氏) それでは、「ベイブレード」のヒットの秘密はどこにあるのか。現代に蘇るベーゴマが子どもたちの心をとらえて離さぬ理由を、開発チームの高岡悠人氏はこう分析する。 「ボーイズホビー、いわゆる男の子向けの玩具にはヒットの三条件があります。(1)バトル (2)カスタマイズ(改造) (3)コレクションです。 とにかく男の子は勝負ごとが好きですから、対戦相手との勝敗が明確につく『ベイブレード』は少年を魅惑し続ける。昔のベーゴマは、自分で削ったりして改造していましたが、現代版ベーゴマ『ベイブレード』は一つのコマを四つのパーツに分解することができるため、それらを自在に組み合わせることでオリジナルのコマを追求することができる。“俺の『ベイブレード』最強! おまえのより強い!”と自慢できる。組み合わせは最大で14万通り。当然コレクション魂にも火がつきます」 子どもたちは平均して7、8個の「ベイブレード」を所有している。コアファンだと20個以上もザラで、「僕は100個持っている!」と豪語する子もいる。子どもは負けず嫌いなのだ。 (後編につづく) ----------------------------------------------------- 三浦愛美=文 【関連記事】 ・ ベイブレード、パパのハートと財布をがっちり掴んで1億6000万個 ・ なぜ「映画と時計」からロボットが生まれたか ・ なぜ任天堂は社員数がソニーの50分の1で稼ぎは3倍なのか ・ バンダイ社長 上野和典:時間のオキテ
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