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(1113)漢方(下) 五臓強化する生薬 |
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北國新聞(朝刊)2010年07月07日付 |
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膵臓がんの治療に使われる補中益気湯と生薬=金沢医科大病院 |
北陸大薬学部の劉園英准教授(東洋医薬学)によると、西洋医学でうつ病と診断されるストレスが主因の心の病気には、漢方の考え方では大きく分けて二つのタイプがある。
●滞りなくす気剤
一つは「鬱滞(うったい)」と呼ばれるタイプだ。ストレスによって全身を流れる生命エネルギー「気」の流れが滞り、血液やリンパ液の流れが乱れる。その結果、五臓の一つで食べ物の消化吸収をつかさどる「脾(ひ)」の機能が低下し、食欲不振や腹痛を引き起こす。ここから、さらに情緒不安定や慢性的な疲労感に陥る。
気の流れを良くする漢方薬「気剤」としては、サトイモ科の植物の根茎「半夏(はんげ)」と、ホオノキなどの幹や皮を乾燥させた「厚朴(こうぼく)」を主な成分とする「半夏厚朴湯」、ハッカ、シャクヤクなどを混ぜた「加味逍遙散(かみしょうようさん)」などがよく使われる。
弱った脾の機能を強化するには「加味帰脾湯(かみきひとう)」「六君子湯(りっくんしとう)」など、朝鮮ニンジン、甘草、ショウガなどの生薬を配合した薬が有効だ。
また、気の流れをコントロールする機能は五臓の一つ「肝」が担っている。「肝を強くするクルミ、ゴマ、キクラゲなどを日ごろから食べて養生しましょう」と劉准教授は助言する。
●抗うつ薬と併用
もう一つのよりメンタルな要素が強いタイプは「憂鬱(ゆううつ)」と呼ばれる。ストレスが続くことで精神をつかさどる五臓の一つ「心」の機能が低下し、不安や悲観が強くなる。これらがやがて集中力や自信、意欲の喪失などの症状に発展する。
ある程度の症状を伴ううつ病の場合、あくまで抗うつ薬での治療が基本となる。その上で、「不眠などで消耗した体力を回復させるため、漢方薬を併用するのがしばしば効果的です」と劉准教授は話す。
「補剤」と呼ばれるそれらの薬の代表格は、朝鮮ニンジン、マメ科の植物の根「黄耆(おうぎ)」、ミカンの皮「陳皮(ちんぴ)」などから成る「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」や「十(じゅう)全大補湯(ぜんたいほとう)」などだ。
嘆きや悲しみなどの精神症状が主な場合には、甘草、コムギ、ナツメを配合した「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」などがお勧め。もちろん、コムギやナツメは普段から食べていれば心の機能強化につながる。食事の中に取り入れる工夫をしてみよう。 |
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