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[20513] レプリカライフ
Name: Aki◆150fffe7 E-MAIL ID:f734379d
Date: 2010/07/21 18:39
俺は退屈だった。
何故なら対等の存在がいないからだ。
俺が今まさに感じてるのは、孤独でもあり、やり場のない憤りでもある、複雑な感情だ。 それはアドルフ・ヒトラーが全てを失い、迫りくるソビエト軍を目前にして、塹壕で自害した時のような無念さ、寂寥感が入り混じった感覚だろう。
まぁ俺はヒトラーじゃないし、そんな目に遭ったことなんてないからフィーリングだけど。
つまり何が言いたいかというと。
「退屈だ」と俺はわざわざ口に出してみた。
もちろん口に出しても意味なんかないので、どうやってこの退屈を紛らすか考える。
ゲーム、映画、外出、読書、すべて飽きた。つまらない。
いや、そもそも、一人だから退屈なんじゃないか?
そこで俺はふと思いついた。エリを呼べば退屈しのぎになるんじゃないかと。
「俺にしてはまともな考えだな。今日は最高に冴えてるわ」
ってなんだそれ。自画自賛かよ。
いつから俺はナルシストになったんだ?
最近になって。自分で突っ込みを入れることか増えている。意志と行動が一致しない。 これは異常なことだと思った。しかも突っ込み自体寒いし。
「いや、中二病こじらせてるだけだろ。ただ単純に」
……下らん。なんて意味のない思考回路なんだ。俺は自分自身のギャグセンスに呆れた。
そんなことよりも、俺はなにかやろうとしてた気がする。
ああ、そうだ、思い出した……というか、エリのことだろ。暑さで脳に虫でも湧いたようだ。
「痴呆症か、俺は」
ため息混じりに寒い突っ込みを呟くと早速エリに向けてメールを打ちはじめた。内容は、暇だし、暑いから俺の家に来ない?と言うもの。
理由になってないがそこは気にしない。会えればいいのだ。
それに何も用事がなければ来るだろう。あいつは一匹狼とみせかけた寂しがり屋だからな。
「これでよし」
俺は打ち終わったメールを送信し、エリからの返信をソファーに座りながら待った。
俺がエリと初めて会ったのが中学に入って一年後、つまり中二の時だ。
クラス替えで彼女と一緒になった時に、俺は運命を感じたのだ。
陶磁器のように白い肌と澄み切った茶色の瞳、肩まで伸びた美しい髪、そして制服を盛り上げる発育のいい胸は、母なる愛を連想させた。
何より目を引くのは整った顔立ちだ。娼婦のように媚びすぎず、刃物のように切れすぎず、といったエリの美しさと可愛さを兼ね備えた顔はクラスの奴らの関心を独占した。
勿論、最初はクラスの奴らと同じく俺もエリを眺めるだけだったが、俺は確実にエリを陥落させるため、誰よりも速く行動を開始した。
結果的に陥落はしなかったが、外堀を埋めて友好を結ぶ事が出来たのは、まさに誇るべき戦果だろう。
払った犠牲はかなり大きかった。俺への嫉妬による第三者の攻撃を受けたが、結果的に大勝利することが出来たのは、俺とエリとの信頼関係のおかげだった。
つくづく恋は戦争だと思ったものだ。そして戦争は行動と戦略で勝敗が決まると奴らに思い知らせてやったのだ。
死者に鞭を打つような物言いだが、俺も酷い噂を流されたり殴られたりした。 そこら辺はプラマイゼロということでいいだろう。
ん?ちょっと待て。何か大切なことが抜けてる気がする…けど、まぁ、いいや。
何だか、中学の頃がとても昔の事に思えてきた。エリの取り合いで熱くなってた自分がひどく懐かしい。
酷く不愉快なこともあれば爽快な事もあった。簡単なことで、悩み、葛藤し、熱くなって衝突した。
今の自分に純粋さとか、熱さとかはない。
高校に上がってからは、そんなものはすっかり消えてしまった。つまり、中学の最後の時、死んだのだ。
そこで、間抜けな電子音が聞こえた。そう、携帯の着信音だ。
心待ちしていたエリからのメールについ、にやついてしまう。
メールの数は二件ある。え?なんで二件?と思いつつ、とりあえず確認してみる。
「おいおい、生徒会かよ」
一件は生徒会で、内容は学園祭の準備のために明日来いとのことだった。
こちらは華麗にスルー、で、二件目を確認。エリだな。
『今行くからまってて』
ふ、まんまと釣れたな。釣った感覚は皆無だけど。餌も付けてねーし。
ということは、思った通りあいつも暇だったか。ま、普通そうだよな。連休はやること何もないからな。
エリと俺の家は結構近い、だいたい自転車で約八分位かな?
「家片付けないとな…」
ということで、 一応、女が来るので家を片付ける事にした。
今現在、両親と姉はハワイに旅行しているので、家には俺しかいない。まったく、掃除が面倒でたまらんよ。
と言っても俺は散らかさない性格だから、今は布団を押し入れにしまうくらいでいいんだけど。
さすがに布団出してるとアレをやる気満々にみえて警戒されるからな。礼節は保たないとダメだろう。
ま、あいつはそんなこと気にしないと断言出来るが、俺が意識してしまうから。
で、布団をしまって、昨日掃除機掛けたし、床は綺麗だよな、とか、いつ飯食ったっけ?とか、エリと飯食いに行こうかな、なんて考えてると控え目なチャイムが聞こえた。
きっとエリだ。俺は玄関まで行ってドアを開けた。
「よう。襟、元気?」
俺は目の前の女に挨拶した。
凄く凹凸が強調されたスタイリッシュなノースリーブに、周囲にとけこみそうな薄手で、淡い桜色のカーディガン、触ったらとても艶々してそうな、長くストレートな美足を惜し気もなく晒している純白のホットパンツ。
完璧だ。高身長ということもあり、まるでパリのファッションショーから、抜け出したみたいだ。
「熱い、中に入れて」
エリはめんどくさそうにいった。でも、嫌という感じには見えない。
嫌なら最初から来ない。そんな奴だ。
纏ってる雰囲気はとてもクールだけど意外と人懐こいんだよな。そこが、神宮 襟の良いところ。あと、細かいことは気にしないところとかが俺は非常にそそられる。
「俺の部屋に来ない?クーラーつけといたから涼しいよ」
俺の呼び掛けにコクリと頷く、髪の毛が僅かに揺れ、ほのかな香りが鼻腔を優しくノックする。
優しい香りだ、何だかやすらぐ。
ああ…そうだ、エリの格好はクーラーに弱そうだから、適温にしないと。
エリは玄関のドアを閉めた後、スタスタと先に行ってしまった。
いつまでも突っ立ってる訳にはいかないから。俺は少し表情を緩め、エリに続いて冷えた自室に入った。
「部屋をきれいにするクセは昔から変わらないのね」
リモコンを操作し、室温を設定してるところで、俺の耳たぶにエリの吐息交じりの言葉がかかる。
いつのまにか、近くに居たようだ。
そんな猫みたいに、気配を消して近づいたエリを愛しく思う。
「俺の変わったところってどんなところ?教えてよ。襟」
俺は肩が触れ合うくらいエリに近づき、耳たぶに優しく、吐息交じりの疑問を投げ掛けた。これは仕返しだ。結構くすぐったいんだぜ、エリ。
それに、エリの俺への評価はそこそこ気になる。それは、今にしろ、…昔にしろ、どっちもだけど。
俺の軽薄な態度が気に食わなかったのか、エリは急に少し沈んだ声で俺に語り始めた。いつもの鈴を転がすような美しい声よりも、少し低い声は、自然と乱してはいけない、侵してはならないような、そんな空気を作りはじめた、そして、エリの整った顔立ちもあり、俺はひどくこの雰囲気を神聖なものに感じた。
俺は不安になった。
「昔は真面目で、あつくて、常に真剣なひと、でも今は軽くて、つめたくて、常にふざけたひと」
エリの視線が真っ直ぐ突き刺さる。なぜか、心に鈍痛が走った。なんで?
でも、とエリは続けた。
「貴方はやさしい人だと思うわ」
「そんなことないね。俺は優しくなんかないさ。襟」
即答で言った。出来るだけ軽く、軽薄に、いつの間にか張り詰めた空気、神聖な雰囲気をあえて壊すように、…しかしおどけて言えた自信はなかった。声が震えていた。動揺と不安を隠せない。
ふと、エリが俺から一歩離れた。まるで、冷えたそよ風に吹かれて、地に落ちる枯れ葉みたいだ。エリの悲しげな顔。でもそれは、ほんの少しの時間でいつもの無表情に戻った。
「ごはん、食べてないでしょ」
エリが、淡々と俺に語り掛ける。無表情の奥に見えるのは、微かな気遣いと同情。
でも、俺はほんの一瞬の悲しげな表情が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
「わたしがごはんつくってあげるから」
あまりにも美しすぎて、あまりにも儚くて。
「だから、待ってて」
結局何も言えなかった。
何もいわなくて、よかったのかもしれない。
「襟、お前が俺をこんな奴にしたんだ…」
俺は1人で喋っている。エリはさっき、買い物に行った。
「なぁ…襟、俺は退屈だ。…だから、傍にいてくれ」
そうだ、俺は退屈だ。
第一話
怠惰ライフ



[20513] ツインライフ
Name: Aki◆150fffe7 E-MAIL ID:f734379d
Date: 2010/07/21 18:48


俺は歌を歌っていた。


昔、気に入ってた曲だ。その歌を晴天の青空の下で、緩やかな声で歌った。周囲は、部活動の声援と蝉の合唱でとても騒がしい。俺の声はほとんど掻き消されていた。

歌うことに意味はないが、なんとなく。そう、フィーリングだ。

「暇だし、襟とカラオケ行くのも悪くないな」
俺が静かに呟いた言葉はすぐ周囲に溶け込んだ。



エリに会いたい。



昨日のエリとの雰囲気は最悪だったが、それでもエリは俺の為に飯を作ってくれたので、嬉しかった。それに俺は、最近ろくな飯を食った覚えがないので、正直助かった。
エリが作った肉じゃがは上手かった。


エリは料理の腕前も完璧だ。頭も切れ、顔も体も最高な女を見たことがないな。どれか一つだけ優れた女とは土台が違う。


そこで、俺は昨日の事を考えた。エリは細かいことは気にしない女だ。後でじっくり考えると、俺の軽い態度が気に入らないということはまずないだろう。
どちらかに非があったというわけではないと思う。いつか起こるべくして起こった事だった。

なんと言っても、俺もエリもトラウマを抱えているんだから。ただ、それでも、俺はエリと一緒に過ごしたいと思ってる。

「俺もバカだなぁ」

恒例の寒い突っ込みを自分に入れ、空を見上げる。

綺麗だ。濁り一つない空に目を奪われる。
でも、きっと空を見る俺の目は濁りきっているだろう。

俺は、やり直したいのかもしれない。





「先輩、ここにいたんですか?探しましたよ」

後ろから突然声をかけられた。


「暇でさ、少しだけ黄昏てたんだよ。」
俺は、厚みのない軽口を後ろに投げ、 緩慢な動作で振り返って挨拶をした。

「よう、咲。ご苦労様」


こいつは生徒会の役員で一年生、つまり後輩だ。

愛らしい顔で、未発達な体が特徴のサキは保護欲をそそられるらしい。男子にも結構人気だ。聞いた話では、しつこい男に付きまとわれてると言っていた。

「お疲れ様です。あの、生徒会室に来ません?」

何だか遠慮がちだが、好意的な雰囲気だ、しかし、用が済めば、生徒会にとって俺は部外者だ。だから俺は断る事にした。

「これから用があるんだ。それと、学園祭の事は会長に伝えたから大丈夫だよ」

それと、なぜ俺が学校にいるのかというと、夏休みが終わって、すぐにある学園祭の準備を、委員会と連携をとってやるという生徒会側の方針のためだ。それで、部外者の俺も呼ばれたのだ。

「そうですか…残念です。せっかく先輩と仲良くなれるかと思ったのに」

サキは笑いながら言った。おいおい、下心ありまくりじゃねぇか。現金な奴。

でも、こいつの笑みは人を心地よくさせる。

「ねぇ、襟先輩とは最近どうですか?上手くいってますか?」

そう、こいつはエリと親交がある。俺がサキと知り合ったのも、エリを通しての紹介だ。

「ん、そこそこ。昨日は料理作ってもらった、けど、ただの友達だ」

だいたい友達以上恋人未満くらいか。

俺が友達と言ったところで、サキの顔が明るく輝く、どうしてそんなに嬉しそうなんだ?

「じゃあ、私にもチャンスがありますよね!」

いや、ないない。俺が揺れるとしたら、エリを完全に失った時だろう。つーかこいつは彼氏が居たはず…

まぁ、こいつは軽口が得意だから、いちいち振り回されてはダメだ。多分俺をからかってるだけだろう。

「そろそろ時間だ。会長によろしく頼むわ、咲」

別に時間なんて関係ないけど、ちょっと帰りたい。今日はもう切り上げよう。

「了解です。さようなら、先輩」

ほら、やけにあっさりしてる。俺は簡単に騙されないぜ。サキ。



サキと別れた俺は、自転車を10分くらい漕いで、帰宅した。

「ただいま」
もちろん、誰もいない。ソファーに座った俺は静かに息を吐いて、ゆっくり目を瞑った。


少し、心細かった。














そういえば中二の時に、無人の教室で、俺はぼんやりと空をみていたんだ。




赤みがかった夕暮れの空は、とてもロマンチックだった。


そうだ、『僕は』あの時、ここに、彼女がいればいいな。なんて考えていたんだ。クラス分けで一緒になり、初めて彼女を見たときは衝撃的だったから。 そして、あの時の僕は運が良かったんだと思う。僕にチャンスが訪れたんだ。



教室の扉が勢いよく開く音が聞こえ、体がぶるりと震えた。あの時、僕は振り向いて、言ったんだ。

「うわ!ビックリした。誰なの?」


その時僕は、彼女と目が合った。しっかりと、問い掛けた言葉は、確実に彼女に届いた。僕と襟はこの時薄い糸で繋がった。

「あ、ごめんなさい」

彼女の返事はあっけないくらい簡単だったが、彼女の様子は、可愛かった。それはまるで、驚いた子猫みたいな顔をしてたから。


僕はこれが運命だと思ったんだ。だから、その運命を逃さないために、もう一度彼女に声をかけた。


「え…襟さん、あの、わ、忘れ物かな?」

僕の喋りは、不自然極まりなかった。ひどく緊張してたからだ。それは、自分でも怪しいと思うほど不審な言動だった。
彼女も、そう感じたらしい。


「…貴方は、何をしてたの」

彼女の声音が若干硬い。うわ、警戒されてる…?。

僕は、冗談を言おうとした。それは、彼女に和んでほしいと思ったから、笑ってほしかったから。でも、そんな咄嗟に冗談が出るほど器用じゃない。
あたふたしていたら、幸運は過ぎ去ってしまう。


「僕は、この夕日をみていたんだ」


だから、僕は彼女に本当の事を喋った。


そこで、彼女は外に意識を向けた。彼女の頬は暖かい日差しで、朱色に染まっている。丁度、太陽が沈みかかり、街や校舎を柔らかな暖色に染め上げている。雲もなく、赤い空が広がっている景色は、美しかった。
その夕暮れを見つめる彼女はとても幻想的で。まるで、絵画の一枚のような光景に、僕はただ目を奪われた。鼓動が速くなり、心臓が音をたてはじめた。

彼女の目が細くなり、整った、艶のある唇が小さく開かれる。

「きれい…」



僕の顔は真っ赤になっていたが、それは、きっと夕日のせいだ。

それが僕と襟が初めて交わした言葉だった。









俺は眠ってた?これは夢なの?


あれ、どんな夢だっけ?思い出せない。



「つーか、今何時だ?」




ソファーから起き上がり、あわてて外を見るともう日が落ちて暗くなってる。このソファーは、西日がよくあたり、座り心地もよいので気に入っている。どうやら、俺はいつの間にか、眠っていたようだ。

あーあ、1日が終わっちゃった。

今日は午後からエリを誘って、遊ぶつもりだったのに、まぁ、仕方ないか。

さて、飯でも食って風呂に入るか。今日は汗をかいた気がする。俺はソファーからキッチンに移動し、冷蔵庫からドリンクタイプのゼリーを取り出して、一気に飲んだ。



…毎回思うがこの泥を吸ってるような感覚は止めて欲しい。手頃だが、味が悪いので、進んで飲もうとはどうしても思えないんだよね。


まずい飯を食べ終えた俺は、木製の床を踏みならしながら風呂場へ向かった。
我が家の風呂場は結構でかい。大人でも三人くらいは余裕で入れるのだが、問題は、水道料金がかかる事と、家族にシャワーを使えと言われてる事だな。俺は普段、シャワーを使わないのでこんな時はイラっと来るが、俺一人じゃもったいないと思うので、シャワーで我慢する。

水温を熱めに設定して、頭からシャワーを浴びる。最初は水だったが徐々に熱くなり、お湯になった。

こうやってシャワーを浴びてると、最低だった昔の思い出も洗い流される気がした。




いや、止めよう。そんな事は思い出さなくていい。
俺は体を洗い、さっさと風呂場から上がった。


バスタオルで髪の水分を拭き取る。全身が入るくらい大きな鏡に映った俺の端正な顔立ちは、醜く歪み、目が腐った色をしていた。


鏡の中の汚れた自分と視線が合う。


「こっち、みんな」


これが今の俺の顔か。俺は心底嫌悪した。いつから俺はこんな目になったんだよ?




思いだしたくもない。俺は、思考を停止し、耐えきれなくなって、自分から視線を逸らした。


俺は、過去を無くしたい。 そうだ、俺は全部を忘れたいんだ。




第二話
ツインライフ








誤って削除してしまったため、再度投稿しました。処女作ですので、暖かく見守っていただけると凄く嬉しいです。

どんな感想でも楽しみに待っています。


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