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[9853] 非力なネクスト戦記(マブラヴ×Acfa) 【久々に本編更新】
Name: 博打◆19d1c82a ID:e0064ab9
Date: 2010/07/21 19:26
初めまして、博打と名乗っている者です

大好きなマブラブとAcfaを頑張って書いていこうと思います
ご都合主義全開のフロム脳とコジマ汚染され尽くした作品などでご容赦のほどをお願いします

白銀武がマブラブの世界をループしているように、Acfaの世界を延々とループしていたオリ主が介入する話です
基本的にマブラブの絶望感を崩したくないので他の作品で書かれているようなスーパーネクストは出ません
変わりにオリジナルの[ネクスト戦術機]で頑張らせていくつもりです

初めての小説なので完結出来るに尽力したいと思っています

ご指摘により再度修正

書いている内に作者が207などの口調を把握し切れていない面が判明
なので書いている内に奇妙な点がソコカシコに現れるので注意してください
あと設定集発売以前に書き出しているモノなので設定との大きな矛盾が露見する可能性があります
受け流していただけると助かります



[9853] 一話[彼のスポンサー]
Name: 博打◆19d1c82a ID:e0064ab9
Date: 2009/06/29 19:01
 俺がいるのは差し詰め[虚数空間]とか[世界の狭間]と言うべき場所なのだろうが……図書館が存在している。
 この図書館はフロムソフトウェアが販売している”アーマードコア・フォーアンサー”の世界での俺の活躍を記した本で一杯である。

 まぁ事の始まりは俺こと”古島=純一郎:享年25歳”が俺の世界で父の役職である新エネルギーの開発研究者であった頃だ。

 科学者である父に憧れた俺は努力に努力を重ねて父の背中に追いつき、バイオエタノールなどの研究に従事。
 仕事一筋の堅物であった俺は結婚もせず、恋人も見つからぬままに人生を過ごしていたがゲームだけはそれなりだった。
 元々ロボット好きでありガン○ムなどにハマッテイタ俺はアーマードコアシリーズにはまり込み、これを完全網羅するほど。
 無論休暇でだが、ゲーマーとやらの才能もあったのかクリアを重ね幾度と無く周回プレイを楽しんでいたが……


 ―――新エネルギーになりうる新粒子の発見


 父と俺が見つけ出した新粒子は世界に震撼を与えたが、余程恨みを買っていたのかあっさりと殺される羽目に。
 なんて事はない…実験器具が少々危険だったのも追い討ちであったが、仕込まれて大爆発して死んだ。
 いやだって新粒子を作り出すには核の原料が必要なんて言う危険性だったからそら注意はしてたけど、まさか爆死とは。


 死んだ俺の意志は研究よりもやりそこなったゲームをしたい想いが強すぎた。


 気づけば[虚数空間]に存在し、人の形をした光の塊であり我が至高の神様である[デウス=エクス=マキナ]に拾われていた。
 デウス=エクス=マキナ様は究極の因果律であり、ありとあらゆる因果を操作する至高の神様である。


「交渉しよう」


 即座に俺は交渉しAcfaの世界を周回プレーをするように幾度と無く輪廻転生を繰り返し、ゲームには無いルートの発掘。
 そしてそのループで俺が四苦八苦する様を見て楽しみたいと言うなんとも興じた娯楽である。
 しかし俺にとって科学者としてネクストなどの機動兵器を、父と俺が見つけた新粒子の現物を見る為に交渉する。
 無論交渉は成立し、俺は周回プレーする度に能力と記憶の選択継承権と独自ルート開拓権を頂けた。


「あと君の精神と魂がループで壊れないように少しさせて貰うぞ」


 頭の中と心か何かを弄繰り回され、何でも魂と精神を超絶マ改造してくれたらしく、周回プレー300も平然としていられるように。

 やったぜマ改造だよ父さん! 魔改造を意見する側だけどね!!

 元々与えてくれた記憶の選択継承で辛いのは全部忘れて、新たな周回プレーに乗り出せるので楽なものである。

 そして俺が一周……現実の死を体験するまでの活躍が本として形をなす。

 これを神様が娯楽の本として楽しみ、代わりに俺はループ経験値で最初は10もなかった操縦能力も今では1000と言う化け物ぶり。
 大抵の奴で少なくともネクスト同士の勝負ならしまいには五対一の勝負で勝てるようになってしまったのはツマラナイが。
 だから時としてループには100程度の雑魚クラスの実力で頑張ってみたりと色々と楽しませてもらっていたが……


「この世界にも飽きたな、次の世界に行って貰うとしよう」


 どうやら神様が先に飽きてしまったらしく、俺は唐突に辞令を下され別の世界の異なるループ探しの旅へと出張。

 さてどんな世界に行く事やら―――


「出来るならマブラブの戦術機とG元素ってのを拝みたいですな我が神様」


 ただの冗談で言ったつもりだったのに。


「そうか、ならマブラブと言う世界に出張してもらうとしようではないか」


 その発言を真面目に捉えてくださる神様に唖然しながら、俺は自分の発言を呪った。
 あんな絶望しかない世界に行く事になるとは…と。

 なにより――――――


「ネクストとお別れするのは嫌だ―――!!」


 あぁこればかりが心残りだ…いや本当に。

 □□□

 ご指摘により6月29日に修正



[9853] 二話[絶望への介入]
Name: 博打by別パソ◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2009/07/03 13:22
 マブラブの世界に介入する前に、俺はループする直前に行う能力や記憶の選択継承を行うのが定例だ。
 良くゲームなどで【クリア記念に能力や武具などを引き継げます】と言うのが多いのは、ゲーマーなら周知の筈。
 俺の場合は今までのループ経験で培った【操縦適性】や【汚染耐性】のようなスキルを引き継ぐか否かを自由に選択できる。
 たとえば良くある最強状態でのゲームスタートも出来れば、あえて継承せずに真っ白な状態からのスタートも可能。

 とりあえずあの世界でネクストに乗れないならば、生まれた世界の能力である【科学者】としての能力を継承しておく。

 しかしここで追記しておくが俺の能力継承は無限ではなく、れっきとした有限である事を説明しておく。

 たとえば今の継承限界は数値なら【5000】であり、【科学者】を継承するだけでその内の【1000】を消費してしまう。
 さらに操縦適性などを継承をこの【5000】限界までどう切り詰めて能力を継承するかがそのループの鍵となる。
 前線の名もない一兵士ならば余裕を持って引き継ぎ、それこそ鳴かず飛ばずの日々を送ればそそれはそれで面白い。
 逆に現在のような英雄志望なら数値限界まで能力を引き継ぎ強化してループに望めば、モテモテのウハウハ生活が待っている。

 ”まさに人類(俺)に黄金の時代がやってくるのだ!!”

 お陰でループによっては重婚した事もあったし、あえて結婚せずに世の女性や子供達に夢を与え続けた事もあった。
 あと継承数値はループを経験し、そのループでの活躍次第で我が神様が増やしてくれる給料形式である。

「では奇想天外ビックリ仰天のストーリーを期待しているよ」

「はい、全ては貴方様の因果の示すままに―――」

 いつもながらその逝ってらっしゃい発言は神様としてどうかと思いますよ?

 神様の示す先に開かれた光の扉を押し開き、幾度となく経験しこれからも経験するいい世界への介入を開始した。


 □□□ループ一回目□□□


 とりあえず【マブラブ】の世界で本当の意味で”初めて見た景色”は、Acfaの世界でも良くお世話になった無骨な鉄の天井。
 天井の明かりのお陰か周囲の状況は良く確認できる、何分ループは神様の気紛れでとんでもない事とが多々ある。
 たとえば目覚めた瞬間が戦争に巻き込まれた街で、燃え盛り襲ってくる炎やら瓦礫に加えて兵士達の銃撃のカーニバルと言うのもあったのだから。
 敵に包囲されてまさに絶体絶命の窮地を脱出する為に無能な上官と対峙しながら、友軍と逃げるってのもあったな。
 本来は人型兵器で【最強】のネクストを乗りこなして俺様無双をしたり、複雑な世界を駆け抜ける世界なのに歩兵からとかな。


「……見る限り軍の病院か医務室で、しかも集中治療室のように個室とは豪勢だな」


 しかし見た景色や風景を幾ら見てもここが何処で、どういう場所なのかも判らず、さらにはどう言う位置付けなのかも不明。
 少なくともこの物語の主人公の【白銀武】ではないのが確かな以上、俺はキラリと光る名脇役か主人公の座を奪い取る役かも不明。
 でもこの世界の人型歩行戦術機に乗った事がないので、すぐに継承補正で慣れるとは言えど油断は出来ないしヘッポコには乗りたくない。
 ネクストと戦術機の性能差は……最悪【旧式プロペラ機vs最新鋭ジェット機】くらいの差があると思われ、高性能慣れした俺には恐らく機体が付いて来ない。


「目が覚めましたか?」


 とりあえずこの世界のスタートは、金髪の美人女性とのコンタクトとスタートダッシュ成功か?

「あの…ここは、何処なんですか?」

「ここは旧横浜ハイブ【甲22号】跡地に建造中の国連太平洋方面:第11横浜基地の病室の一つです」

 おいおいあんまりマブラブに詳しくない俺でもここが何処で、そしてこれからどんな渦中に飛び込むか一発で特定できたぞ。
 間違いなくマブラブであり白銀武が主役として活躍する物語の中心地にして、スタート地点である横浜基地。
 何の改竄も行われていない歴史ならば現場に置いて間違いなく人類の反撃地であり、最大の敵であるBETA施設が無事手に入った唯一の場所。
 そして前線寄りの癖に空気が腑抜けで、副司令が密かに捕獲したBETAを使ってまで修正された場所で結構な人間が死んでいく場所でもあった筈。
 でも【建造中】と言う事はおそらく奪取したてか、あるいは2001年までのいずれかの時間と言う事である。

 ―――これは、まぁ面白い事が出来そうだな

「失礼ですが自分はどうしてこんな場所に?」

 まずループしてくる白銀武の回数が判らない以上は、判るまでこちらで好き勝手させて貰うとしよう。
 原作では3回しかループ出来なかった筈だが、その3回程度で終わった人間か、それともそれ以上のループを経験した存在か。
 まぁどっちにしろ俺と神様にとって世界とループは娯楽の種に過ぎない、真面目な連中には悪いが好き勝手させてもらうさ。

「貴方は負傷した状態で警邏中だった警備兵に発見され、ここに搬送されました
  幸い傷も軽く大事には到っていませんが頭部を負傷していたので記憶関係に支障があるかも知れません」

 成る程ね、つまり俺は何処かの兵士や職員ではなく、まったくの異邦人で敵が居るかもしれない場所で負傷して倒れていた。
 結果として現在基地は警戒態勢を取っているらしく、おそらく副司令殿から言わせればある種の行幸であり少しは基地の空気も変わる筈。
 そして俺は危険がパレードしている場所にいた謎の人物として保護および監禁され、現在に到るという訳か。
 判りやすいって良いね……それにスタートで重要人物の一人である副司令に出会える可能性があるのはこちらにとっても行幸。

「自分の名前は小島=純一郎で年齢は30歳の筈です」

「判りました、それでは少し戸籍を調べてきます」

 適当に30歳などと答えたが、初めてこの世界に干渉した俺に国籍や戸籍が存在する訳がない。
 なんせまだこの世界での戸籍や歴史を神様が因果律改変、またの名をご都合主義を使っていないので俺はまったくの異邦人。
 幾ら探そうと”この世界の小島=純一郎”でありそれが生まれるに到る歴史や血脈が存在する筈がない。

 だからこそ! それを本来ならば会えるはずもない人物への鍵とする。


「申し訳ありませんが、もし戸籍が見付からなかったから【香月夕呼】様にご伝言願えませんか?」


 立ち上がり病室を後にしようした女性……確かなイリーナ=ピアティフ(?)と言う名前の副司令の秘書役の人が立ち止まる。
 ビンゴッ! あとは確実に香月博士に届くようなメッセージであり同時に出会った瞬間に眉間を撃ち抜かれないようにする必要がある。
 確か【オルタネイティブ4】と言う計画の主任と言うか最高責任者も務めていた筈だ、それと人工のエスパーも抱えていた筈。


「”枯れた三葉・成長せぬ四葉・主なき戦乙女・我は叡智携えるグノーシスの人形”とお伝えくださると助かります」


 女性は小さく「判りました」と言った後にそのまま病室から退室した、しかしイリーナさんはこんなに早くから居たか?
 そもそもこの時点で香月博士との接点があるのか? さらに不審者の発言をそのまま伝えるだけの力はあるのか?
 最悪即座に兵士達のマシンガンや拳銃の鉛球の世話になってループ一週目とのさよならが早いか…いや絶対に早い。
 その時はその時で始まって即座に死ねる癖に大冒険を駆け抜けれるスペランカー先生のようだと思えば良い。
 むしろネクストに乗るまでに、ネクストの高い操縦性を実現している装置との接続した瞬間に脳が情報によって焼き付いて死んだ事もある位だ。

「……あとは俺が不誠実とバレないように精神に防御壁を造って、それからこのループでネクスト建造を目指して
  それと科学者としてG元素の現物なんかを拝ませてもらったり、あとは俺の科学者としての実力向上だな
  高くて問題になる能力はない筈だし……それと俺が30歳相応の話し方を取り戻してそれからは、まぁ行き当たりばったりか」

 次がある俺と違い”今”を生きているこのループの存在達からすれば間違いなく俺は最低の存在であり屑と言われるだろう。 
 だがそれでも俺は今の俺を確立させ、なおかつ俺に飽きずにずっと自らの娯楽を託してくださる神様への忠義があるのだ。
 それに比べれば俺にとって無数に存在する枝の一つ一つに集中できる余裕など皆無であり、枝の事など知った事ではない。
 思考の防御壁を建築すると同時に自分がループに対して抱く罪悪感のようなモノを掻き消して自分を守る意識も建造する。
 逐一救えなかった世界や壊れた世界に対して罪悪感など持っていては【心】と言うべき存在が持つ訳がない。


「人の呼びかけを無視して思考に没頭するなんて良い度胸ね…アンタ?」


 ゴリッと添えられ慣れた金属の銃口が、結構痛みを感じさせるように左のコメカミに添えられて初めて気付く。
 幸いエスパーなどに対する思念や思考を読ませない防御壁を完成し、少なくとも心を読まれ即バットエンドはない。

「これはまさか副司令殿が自ら来て下さるとは、この良い歳したオジサンも捨てたモノじゃないな」

「下らない話を聞くつもりはないわ、さぁさっさと答えなさいッ!」

 ゴリッとさらに銃口が押し付けられるが、実際はあと少しでも引き金を引く動作をすれば即座に強化人間としての能力で取り押さえさせて貰う。
 継承能力【強化人間】は身体的能力を常人の何倍までも跳ね上げ、さらに脳髄も改造しているので後天性の情報処理に特化した天才である。
 最小限の動きで、最速の動作で敵の……それもただの科学者の銃を取り上げるなど朝飯前に等しい。
 だが苛立ちようを見るにこの頃から既に自らの研究がある種の限界を向かえ、書き直しては消し、書き直しては消しの繰り返しの日々なのだろう。
 同じ科学者としても常にスポンサーから資金提供などをして貰っているのに成果が出ない時の苛立ちの辛さは良く分かるつもり。

「初めまして香月夕呼博士…自分はまったく事となる世界から次元を超えてやって来た、元の世界では最強の英雄・新エネルギーの開発者です」
  
 香月博士は仮にも天才であり、交渉関係の達人でもある……真っ向勝負は分が悪すぎる。

「それから人類のヴァンガード(先駆者)とも企業のヴァンガード(尖兵)とも呼ばれた此処とは異なる世界からやって来た人間」

 突拍子もない発言に”ハァ?”と顔には出していないが、おそらく呆れると同時に大馬鹿か精神異常者と思っているだろう。

「このままでは貴方が目指す最高の演算ユニットが完成してもそれは人類の現場を悪化させるに過ぎない物となります」

 呆れたと思った、思わせた瞬間に香月博士が開発しようとしている存在の欠点を大きくして話す。
 上手く言ったのか目が微かに驚いたかのような動きをし、銃口を押し付けていた力が確かに弱まる。

「信じる信じないは勝手ですけど、そのまま引き金を引きますとメデタク暴発して死にますよ?」

 突拍子もなく中ニ病や精神的に間違いなく狂った人間しか言わなそうな発言に、思わず思考が一瞬だがフリーズした香月博士。
 この一瞬のフリーズを逃せば俺にこれ以上の勝機は訪れない、だからこそ畳み掛ける必要があるのだ。
 現に止めの拳銃ウンヌンの話をしてみた所、なんと完璧なまでに引っかかりふと拳銃に視線を落としてしまう。
 無論の事だが俺が見逃す筈がなく、香月博士で視線と拳銃を合わせずに撃てないと悟ったからこそ素早く銃口を額から外す。

 気付いた時には時既に遅し、銃口は天井を向き、俺が添えている爪が博士の華奢で綺麗な喉を引裂く支度が完成。

 こう言う相手がいかねないからこその護衛だと言うのに、余程慌てていたのか、それとも俺の発言を信じたからこその行動か。
 まぁどっちにしろあと少し俺が行動を起こせばメデタク博士は死亡、人類逃亡エンドが確立する訳だが面白くない。

 
「博士、自分もこんな物騒な事は是非とも避けたい所存です…こちらの要望を飲んでくださるなら引きますが?」


 この世界で今の俺が何処まで通じ、そしてネクストと言う【勝利による滅び】と【敗北による滅び】を実現出来る刃を造り上げる為に。
 俺は科学者として極東の魔女と手を結び、最凶の剣を造り上げる為に必要な最高級の魔女の釜を手に入れた瞬間であった。

□□□

 7月3日 ご指摘により加筆修正しました



[9853] 三話[彼の兵器独白]
Name: 博打◆19d1c82a ID:e0064ab9
Date: 2009/07/03 13:26
 交渉が成功したのは良かったが、何分だが俺は異世界から転移してきた存在であり戸籍など元より無い。
 また仮にも副指令の直属になるに当たってどうしても階級が必要であり、同時に戸籍も必要なのは明白。

「明日までに俺の世界で最高クラスの戦力として君臨していた兵器の設計図を届けましょう」

「へぇ…まぁ期待せずに待っててあげるわ」

 あの強引な交渉の後に即座に部屋の一つと設計などに必要なパソコンを一つ借り、心臓部と機体の機構を書き上げていく。
 無論だがネクストはまだ作れないし作らない、香月博士が俺を信用していないのと同じで俺も信頼などしていない。
 下手な駆け引きは俺の死を意味している以上は余計に……だがだからこそ駆け引きの遣り甲斐があるもの。
 この目先にある形を明確に持った死の危険が生きている事を実感させてくれる、どうしようもない快楽に繋がっていく。

「……さて、水素タービン機関と補助燃料電池にコア機構の設計図は完成だが書き写すだけじゃ面白みの欠片もないな」

 自分の兵器の事くらいはループの間の暇潰しの一つとして記憶しており、念の為に継承しておいたのが幸いした。
 
 【人型汎用機動兵器:アーマードコア・ノーマル】

 コア機構と言う機体の各部を自在に継ぎ接ぎ出来る設計思想により、パイロットの戦闘適正を100%生かせる。
 この世界で言うなら撃震と言う機体に不知火と言う機体の腕を付けて戦闘に出来るようになれるようなモノ。
 他にも脚部を二脚ではなく四脚やタンク式にする事により二脚以上の積載量と安定性が約束されるのだ。
 機動性を優先するならば二脚にし、砲撃戦などを優先するならばタンクにすれば積載量に飽かせた武装で圧倒出来る。

「改造の余地が大きいのは第一世代戦術機の撃震か、重装甲なのはうってつけだな」

 このコア機構と水素から発電と蓄電を行い、更に水分や水素のカスを電気分解して機動力を得る水素ブースター。
 燃料電池と発電した電力を蓄電する大型コンデンサーによる従来機を遥かに超える電力を有すアーマードコア。
 その電力を攻撃性に特化させて武器としたのがレーザー兵器やプラズマ兵器であり、絶大な戦力として君臨出来た由縁。
 膨大な稼動時間と人型の柔軟性を持ちながらも改造の幅の広さ、兵装の多彩性に活動領域の大きさも合わさり最高戦力へと昇華出来た。

「コジマ粒子機関である核融合炉はまだ秘密としても……問題はこの世界の技術力で何処まで製造出来るか…か」

 俺が抱える難題はまさに”ここ”

 幾ら強力な兵器だとしても肝心の【製造と補給】が整わないんじゃぁただの新機構を搭載した鉄屑に成り下がるだけ。
 かと言ってこの世界の戦術機の性能は機動力は申し分ないが火力はノーマル以下であり、大型兵装の搭載を考えていないのが痛すぎる。
 アーマードコアは肩に大型グレネードカノンやレーザーカノンの搭載も前提に開発されたからこそ火力が設計次第で”化ける”のだ。
 特に敵であるBETAの物量を前に炸裂榴弾の一つも使用しないのは正直正気沙汰とは思えない設計だ。

「ノーマルはあくまで【火力を優先した戦術機】として売り出し、あとは操作系統のOSの改良と補助AIの作製か」

 もう一つ、この世界の戦術機の機動性と反応速度の割りに衛士…この世界のパイロットが死ぬ原因にOSがある。
 アーマードコアは戦闘機構に補助AIを搭載する事で柔軟な対応と、その処理能力による素早い反応が約束されていた。
 だがこの世界の現状のOSははっきり言えば【劣悪】であり、動作入力の悪さなどが大きすぎて間違いなく衛士の技能を殺している。

 紙切れの装甲・火種程度の火力・短すぎる稼働時間・技量を殺す統轄機構

 正直な所…良くこんな戦力で数十年も耐えていけると関心させられるぜ、特に火力の一面においては。
 小型自立誘導弾であるミサイルを除けば36mm突撃砲と120mm滑空砲が関の山と言う貧弱な火力は涙すら誘う。
 せめて炸裂榴弾の一つでも搭載するなりしなければ物量の前に確実に押し切られる、特に戦線の最前線ならばなおの事。
 更にこの世界の制空権を掌握する光線級と言う目玉野郎を殺す為の狙撃砲すら存在しないのたどう言う事だ?

 圧倒的な物量において制空権すら奪われ、それと真っ向勝負を挑むなんて馬鹿を通り越してお気楽だ。

「……新型戦術機【鎧心】と命名で兵装はレーザー兵器も考慮に入れるがスナイパーライフルの搭載も考慮
  それから大型炸裂榴弾の搭載や兵装担架システムの強化と積載量の増加も考慮して作らないとな」

 あとは機体の性能を生かす為の新型補助システムとしてAIの作製だが、さて間に合うか?
 何分材料こそあれど作り上げるのは時間が掛かる、機体の設計図は完成したから問題なしとしてもAIは時間がマズイ。
 
 ―――時間も、もう夜中の11時だが来客がやって来た。

「…? 納品の催促か、開いてますよ」

 てっきり催促かと思いきや、やって来たのは銀髪でツインテールの美少女だが…髪留めにしているのがまるでウサギの耳に見える。
 入って来たのは良いがね、挨拶の一つもせずなおかつ人の顔をまるで怯えるように見るのは失礼だろ。
 少なくとも明日にはこの鎧心のデーターを使って香月博士に一泡吹かせようとしている最中に来客は正直イラつく。
 だがここは年配のお爺ちゃん精神で我が孫を可愛がるかのような優しさで美少女に対応する。

「こんばんわお嬢さん、オジサンに何かようかな?」

「……えませんでした」

 ―――はい?


「見えませんでした…初めてです」


 あぁ! そうだ間違いない!
 この子はこの物語の重要人物の一人であり、人口エスパーでも最高クラスの読心力を持っている【社 霞】だ。
 間一髪で俺が精神に【良い子は見ちゃだめだよ(ハート)】と防壁を張った所為で香月博士の交渉を援護出来なくて悔しいんだな。
 まぁ俺も仮にも長生きしているだけあってそうそう心を読ませないし、人の心を読まれるのは正直癪で気に入らない。

「で、三つ葉の落とし子がオジサンに何の用かな?」

「貴方は人の心が読めるんですか?」

「答えはNOだが……人の心はいつも【サイレントライン:不可侵領域】だ」

 顔を俯かせて、いまにも泣きかねない社を前に正直内心では大慌てです。
 美少女を泣かせたとあっては漢失格であり、まして社を泣かせたら香月博士に銃殺されても文句言えない言えねぇ。
 しかもこんな夜中にわざわざ俺が読めるか否かを確かめるだけに来るなんて、よっぽど悔しいんだろうね。
 それが【良い子は~~】はやっばり少女には色んな意味で衝撃というか、良心と能力の間で葛藤があったんだろう。

「誇りなさい」

 俯いていた社の顔が少しだけ上がる。

「力は自分が正しいと思える為に使いなさい、そしてそれを社霞の証明にしなさい」

 すっと片手を伸ばしてみる。
 ビクッと震える社相手に罪悪感があるが、そのまま伸ばして小さな頭に手のひらを乗せて。

 ―――グリグリグリグリ(エンドレス)


「オジサンとは年季の差があるんだ、焦らず行けば良いんだよ」


 笑顔でそう言ってやって社の滑らかな髪と小さな頭を十分にグリグリと堪能させて貰いました。
 いや白銀君でもした事の無さそうな事をやってやったぜ!
 まぁ嫌わるのは確実だろうが、まぁこれっきりの楽しみと堪能すればそれで良いだろう。

「……名前」

「古島=純一郎だ」

 聞かれたので教えるとなんと社がほんの少しだけ笑顔で……


「トリースタ=シェスチナ…今は社 霞です」


 本名を教えてくれたよ! おい!?
 そんなにオジサン気に入ってくれたのか!

 ハッピー! ラッキー! イッャフゥー(某赤いM風に)!!


「……手伝います」


 パソコンの画面が自分でも出来ると気づいたのか、なんと協力までしてくれるらしい。

 断る理由? 皆無だよッ!!


「よろしくな、トリースタ=霞ちゃん」


 またほんの少しだけの笑顔で……


「……はい…コジマさん」

 
 転移初日は最高のスタートダッシュを決めた……

 あと協力のお陰でAIの雛形が完成しました。

 どんだけ天才なんだこの子は……

□□□

 7月3日 ご指摘により修正しました



[9853] 四話[鴉(レイヴン)の産声]
Name: 博打◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2009/07/06 18:51
 視点:コジマ
 今にもなって判ったが現在の日付は2000年6月だと言う事が判った。
 主人公たる白銀武がやって来るまでおよそ一年と半年の猶予があり、同時に人類の終焉まで時間もまた同じ。
 少なくとも確実にBETAは確実に戦線をその圧倒的な物量を持って押し広げ、日本本土も既に西半分が制圧下。
 さらには佐渡島に連中の基地であるハイブを建造され、もはや東日本も猶予など残っていない。

 ……んや、ハイブじゃなくてハイヴだな

 少なくとも実戦配備を始めた純日系戦術機【武御雷】が現行の最高戦力と言えるが、それでもスズメの涙だ。
 この機体は記憶が確かなら全ての性能において充実しているが、それでもやはり接近戦を主眼に置かれた設計だ。

 シュミレーターでデーターとして再現された新型戦術機【鎧心】を操縦しながら、あまりにも退屈な”人殺し”を行っている俺。

 第一世代【撃震】をモデルに改造と水素機関を搭載した新型である愛機は、実剣である長刀を片手に突っ込んでくる第三世代【不知火】を蜂の巣にする。
 この世界の仮想現実体感式の訓練は何処までの現実的で、あらゆる事を限りなく現実味を持たせて再現される為に楽しいが敵が弱すぎる。
 なんせこっちは36mm程度の小口径では一撃で鎧心の重装甲には火力不足、蜂の巣にされる前にさっさと物陰に隠れるなり射線から離脱すればそれで済む。
 無論120mmは流石に一発は耐えれても同地点へのピンポイントは間違いなく大破となるから全力で回避するなり発射元を叩く。

「……余裕か? だと良いな」

 戦場は荒廃した市街地であり、射線から離脱するのに必要な場所や物は腐るほどあるのでさっさと機体を滑らせて逃げ込む。
 アーマードコアは地面を滑りながら時速300kmと言う某スカート付きすら真っ青の機動力で地上を動き回りながら重火器を振り回す。
 ちなみに今の鎧心の兵装は以下である。

 【破砕尖兵:ブレイク=ヴァンガード】
 【兵装:80mm支援速射砲(80mmアサルトライフル)
     120mm長距離狙撃砲(120mmスナイパーライフル)
     200mm大口径榴弾砲(200mmグレネードカノン)
     肩武搭載大型誘導弾フェニックス
     試作光線剣(レーザーブレイド)×2】

 とりあえず練習程度だからと適当に引っ提げて来ただけなのだが、現行機から言わせればまさに馬鹿げた火力だろう。
 そしてレーザー兵器の存在に技術者連中は驚きのあまり倒れるか、真っ先に技術提供をせがむのは間違いない。

<四方から不知火四機、このままでは囲まれます>

「問題ないな”セラフ”! 跳躍後滞空を行いグレネードで一気に仕留める」

 四方から包囲戦術を敢行してくる不知火を尻目にブースターを最大出力で吹かし、遥か頭上へと飛翔し折り畳まれていたグレネードの砲身を展開して狙いを定める。
 新型兵器その一【200mm大型榴弾砲:弾数4発】と言う少ない弾数だが充分過ぎる爆発を着弾と共に眼下へと見事に咲かせる芸術品。
 ただでさえ機動力を優先する為に装甲が紙な不知火にとって直撃せずとも大爆発によって四方八方へと飛び散る瓦礫や鉄片は充分な武器となり襲い掛かるのだ。
 まさに眼下へと撃ち込んだ一撃は耳を貫かんばかりの爆音と機体全身が反動で後退する心地良さを感じながらその様を見届ける。

 真ん丸のクレーターを作り出し、周辺の瓦礫と土砂が飛び散り先程までレーダーに存在していた不知火四機の反応を消し去った。

<続いて不知火五機投入……弾数の回復はなし>

「不要だ、こんな底辺にリロードはいらない」

<了解、狙撃砲による狙撃が有効と思われます>

 続いて即座に次の不知火五機が編成を組みながら、噴射行動しながら高速で迫ってくるが遅すぎる…もうこちらの射程である。
 ましてや霞ちゃんの協力よって生まれたまだまだ赤ん坊だが【高性能処理AIセラフ】が的確に起こすべき行動を進言してくる。

「良し、一機一撃で仕留める」

 新兵器その二【120mm長距離狙撃砲:弾数16発】を人間で言うなら肩甲骨に備え付けられた兵装担架システムから取り寄せ、視界に死を刻む十字架が表示される。
 戦術機にはこの兵装担架システムと言う武器を携帯し、弾倉交換などの支援を行う優れもので本場のアーマードコアにも欲しい位だ。
 とまぁ話は元に戻すがこちらは空中に滞空しながら支援の為に全速力で接近しつつある不知火の管制ユニット…コックピットに狙いを定め、引き金を引く。

 酷く澄んだ音がして間もなく五機編成の一機が地面に墜落し、その衝撃からか爆破を起こし大破炎上。

「雑魚が」

 網膜投影と言う直接視界をリンクさせるシステムによって、機体の視界と機体の狙撃がまさにリンクした状態は狙撃をとてもし易くさせているのが判る。
 狙撃を警戒したAI達が四散するがの内の一機に狙いを定め、そしてセラフが敵機動を先読みした位置に銃口を運ぶ、あとは引き金を引くだけ。
 澄んだ音がする度に高速移動している筈の不知火の管制ユニットに風穴が開き、中の衛士を即死へと導き乗り手を失った機体はただ地面に墜落するだけ。

 対する不知火達の上空への射撃はまったくと言って良いほど当たらない。

 理由は戦術機が自分より上の存在に対する攻撃プログラムを構築していないのと、その所為で予測射撃出来ない為。
 一方こちらは機体を浮かすのに必要な電力を維持しながら時速100kmを維持しつつ後退し、狙いを定めて撃つだけ。
 タンタンタンと三つの音がすれば現行において最高クラスの反応速度を持つ筈の不知火達が無様な姿を晒しながら地面と口付けしている。


「弱すぎる―――慰みにもならんな」


 そのまま続ける、今度は六機編成だが肩部搭載大型ミサイル:弾数6発をセラフにロックさせ、一機一発の割合で発射。
 搭載していたミサイルは内蔵していた小さな爆弾達を空を優雅に飛行しながらばら撒き、地上に異様な炸裂音と一直線に爆風の柱が作り出す道を風景としていく。
 流石にこの攻撃は回避した不知火達がまたばら撒いて来るが、こっちは適当に左・右と進路を変えながら後退し狙撃砲てで狙い打つだけ。

「……少しは強くなってきたか?」

<敵弾幕を突破、長刀を装備しこちらへの近接攻撃を目論む模様>

「狙撃砲を収納した後に支援速射砲を装備、および左光線剣稼動」

 新兵器その三【80mm支援速射砲:弾数200発】は中口径アサルトライフルであり発射速度はタタタタタッ! と言う具合。
 取り回しの効き易い大きさと一つの弾倉に多くの弾を収めれ、なおかつ威力としても充分な近・中距離での主力と言える武器だ。
 高度を落としながら群がってて来る不知火に対して80mmを精確に狙いを定めながら連射し接近してくる不知火の管制ユニットを撃ち抜く。
 こちらは地走速度200kmと決して速くない速度で後退しながらライフルを発射し、撃ち殺しながら距離を取る。
 どうしても危ない時はこの世界の技術力では本来の性能を造りきれないとは言え……接近戦での優位性は覆らない。


「煌け試作型【月光】!!」


 アーマードコアの世界において代々最強の威力を誇り続ける蒼き刀身を発生させるレーザーブレイド【月光】が輝き、横から奇襲してきた不知火の長刀を一方的に切り裂く。
 正確に言えば切り裂くのではなく【溶かし切る】と言うのが正しいが、長刀の刀身を一方的に溶かして切り裂き、そのままその不知火の管制ユニットとまで刀身が届いた。
 結果としてもたらされたのは敵の管制ユニットが溶け、そのまま中にいたであろう人間もまた液体一つ残さず蒸発した事だけ。
 レーザーブレイドは本来の短刀を搭載しているナイフシースを取り除いた部分に積載しており、腕の振りがそのまま軌道となる。
 ゲームでは同時装備出来なかったが、本来ならば装備出来てもオカシクなかったし発生装置の小ささから腕の運動性能も損なわない。

<目標全滅……続いて―――>

 俺はそのまま雑魚過ぎて話にもならないAI戦術機を相手にただ武器の性能を確かめる為の行動を続ける。
 アーマードコア・ノーマルを乗りこなす者達はレイヴンと呼ばれる傭兵達であり、支配から独立した存在として君臨していた。
 無論俺もループの合間にノーマルを乗りこなし、中々長生きをしてきた事もあったがやはり不満は多い。
 とにかく今は訓練とデータだけだがそれでも集めれるだけ集め、実機は出来るだけ最高の状態として造り上げたいな。


 視点・???
 副司令に呼ばれシュミレーターを見ているが……私は幻でも見ているのだろうか?
 手元の資料にはまるで新しい【水素機関と光線兵器】の設計図とそれを搭載しているでろう新型戦術機が次々と不知火を仕留めていく様子。
 従来の戦術機を笑い飛ばすような重火力と空中に滞空と言う光線級の餌食になる自殺行為を行いながらも、次々と不知火が仕留められていく。
 原型は性能で劣る撃震だと言うのに、あれは原形よりも大型でなおかつ重装甲でありながら非常に動きが軽いのが一目で判る。

 ―――ふと自分の手足があの機体と衛士の動きを再現しようと動いている

 だがまったく追いつけない、手足の動きも脳裏に思い描く最高の反応速度を持つ筈の不知火ですら自分の入力に付いて来ない。
 やがて脳裏の不知火の関節が悲鳴をあげ、噴射剤切れを告げて力なく地面に落ちるはずがあの機体は地面に降りない。

「水素と水分がある限りあの機体は動き続けられる……半永久機関のようなモノね」

 副司令の呟きに悔しさが滲み出ているのが良く判るが、こんな風に聞くとはまったく思っていなかった。
 やがて『慰み者にすらならんな』と私達の戦闘データを基にして造られたAIは36mmの傷以外を付ける事すら叶わない。
 悲しいのはやはり先日のBETA侵攻で死んでいった部下であり新人の子達、あの子達のデータもまた再三四度殺されていた。

 やがてハイヴ攻略シュミレーション:ヴォールグデータをあの衛士は始めた。

 そしてまた私はその衛士に驚かされる事となった。


「BETAを……無視する!?」


 そんな事をすれば後方の安全が失われ、死ぬ危険性が跳ね上がるだけの筈だが…少ししてその意味を理解させられる。

『こんな数を逐一相手してたら命も武器も足らんな』

 声からして男…おそらくは年上だろうか……
 確かに無尽蔵なのではと思われるBETAを相手にしていては幾ら武器があっても足りない。
 だがそう言うあの衛士は光線剣を振るいながら突撃級を切り裂き、要撃級を踏み台にしながら上層を悠々と突破。
 中層に入って初めて重火器を使い始める。

『この距離なら突撃級も飛ぶか……壁か、セラフ!』

 副座式なのか、まるでもう一人の誰かに話し掛けるかのように言葉を漏らすと左肩に搭載している大型砲の砲身が展開され銃口はBETAの壁に。
 轟音と共に吐き出された弾丸は直撃したBETAを中心に爆発で消し飛ばし爆風で焼き払い衝撃で四散するモノが小型を蹴散らす。
 さらに可動式兵装担架システムはおそらく副座の人が行っているのだろうがあまりにも的確すぎる射撃が足場と道を作り出していく。

 心が躍るのが判る。

 もしあれが実戦配備される事となれば、戦線は大きく変わるだろう。

『ちっ…爆風が強すぎるな、要撃と突撃級の破片が装甲に食い込むか』

 先程の爆発が強すぎたのか、あの機体の各部にめり込み入り込んだ破片や残骸によってモニターの機体状況が悪化していた。
 だがあの威力ならば閉所でなければ無数のBETAを一網打尽に追い込み、前線の負担を大きく減らす事が出来る牽制射となりうる。
 そのまま肩部クラスターミサイルを使い再度地上を一掃、そのまま出来る限り跳躍しないように地上を滑りその後、再度飛翔する。
 地上にいなければ戦車級などの小型級に取り付かれる危険性は激減する、現にあの衛士は一度たりとも小型級を取り付かせていない。

『下層まであと少し』

<ラジエーターに異常発生! ジェネレーターの稼働率低下! および電子…解…ロ―――>

『セラフ!? セラフ!? くそこんな肝心な時に!!』

 機体の動きが急激に悪くなり、先程までの俊敏な動きがなくなるがそれでも私達よりも俊敏に動いている。
 だが推力を得るのに必要な電力の供給源を断たれたあの機体は光線剣を振るう事ができなくなり、接近戦に対応出来なくなった。
 さらに滞空する事もままならなくなり、地上に群がるBETAを少しでも撃ち殺し破片による大破覚悟の砲撃で前へ…前へと進んでいく。


『くそ…いやまだだ! まだ行けるだろ!? 鎧心ッ!!』


 あの衛士は愛機に問い掛けるかのように言葉を漏らしながら、それでも前へと少しでも進んでいく。

 そして下層を目の前にして精根尽き果て機体が停止し、一斉にBETA達が我先にとばかりに群がり機体が破壊されていく。


『人類の未来の為に…黄金の時代の為に…一つの命の為にッ!!』


 ガツンッ! と音がした直後に機体が自決装置を作動させ、残っていた榴弾とS-11が連動爆発を起こし全てを吹き飛ばす。
 そうして状況は終了を告げ、私は自分の顔が…いや身体がどうしようもなく熱い事に気付かされる。

「副司令、あれの実戦配備はいつになるのでしょうか?」

「……まだまだ掛かるわ、でも急がせるつもりよ」

「ありがとうございます」

 やがてシュミレーターから一人の衛士が手提げカバン程度の大きさの箱を抱えながら出て来た。
 階級章がついていないが腕で判る…彼は間違いなく名を知れていない最高クラスのエースと言う事。

 そして、あの磨耗しきったかのような眼が物語る何かを―――

 この時の私はどうかしていた…

 少なくとも他人の人生を分かりきったかのように思うなど……

 傲慢にも……程があったのだ……

□□□

 視点移動に挑戦、でも難しいですね
 7月6日 ご指摘により修正



[9853] 五話[英雄を拒む英雄]
Name: 博打◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2009/07/20 18:01
 視点:香月博士
 気に入らない……たった一日で書き上げてきたアイツの世界の人型機動兵器は、この世界の兵器を凌駕している。
 衛士の技量に答える事の出来るOS・水素機関と大型コンデンサに燃料電池による長時間の稼動率・馬鹿げた火力の装備・装甲に不釣合いな機動力。
 現在稼動している戦術機は第三世代なのに、コジマが提出してきた兵器は第五世代と呼んでも何ら過言じゃない。

 現にコジマは単機でハイヴを下層直前まで突破してしまった。

 あれと同程度の僚機が十数機完成すれば低層ハイヴの攻略など、おそらく…いや確実に夢ではなくなる。
 更には私が完成を目指している”あれ”を平然と【人類を窮地へと追い込む存在】と言い切るあの科学者として勝っているとでも言いたいかの発言。
 おまけにあの社が一晩一緒に手伝って完成させたとか言う高性能処理CPUは、本当に機体の火器管制を跳ね上げているだけでない…機体の性能を完全以上に引き上げているある種の到達点に等しい。


「気に入らないわね……」


 私の横でアイツの戦闘機動をリアルタイムで見ていた私の私兵でありA-01の生き残りである伊隅ですらもう惚れていた。
 光線級の照射が開始された瞬間…初期照射で装甲が僅かな熱を持つ前に照射軸より退避し、反撃とばかりに空爆を敢行し瞬時に制空権を奪還。
 飛べないのが多いBETAを見下しながら攻撃していき、対戦術機戦は1個大隊ですらまるで赤子の如くボロボロにされている。
 ハイヴ攻略はあくまで反応炉への到達を最優先として可能な限りのBETAを無視し、あくまで一呼吸の為と突破の為のみ攻撃するだけ。

 ―――ふと自分の手が悟られないようにデータを打ち込んでいた

 直後にアイツの機体の発電ジェネレーターが異常を起こし、それによって戦闘力を失った機体はBETAに飲み込まれた。
 もしこうしなければ間違いなくアイツは下層まで単機で到達すると言う…もはや人外の領域の戦闘力を見せてつけいる。

(恐れている? この…私が?)

 ―――あんな男を恐れてしまう

(……ありえないわ)

 良く考えれば分かった事だった……恐れていなければ”あんな”事をする筈がないのだから。
 恐れていなければ、自分より若そうな男を相手にこんな階級を用意するなんて有り得ないのよ……絶対に。


 視点:コジマ
 頭の隅に残っている白銀の機動と戦闘方法を真似て戦ってみたが、まぁ機体の各部は見事に真っ赤であり一度の戦闘でポンコツ扱い出来る。
 整備兵一同がどんな想いで白銀が駆る戦術機を見ていたかなんとなく……てか絶対に分かるぞ。


【無茶しやがってッ!!(怒】


 とでも内心思いながらも叩き出す戦果とか衛士の無事の生存を喜んでいたに違いないが、やはり各部への負荷が大き過ぎる。
 特に光線級のレーザー回避に到ってはまさに”こう言った”存在であると言っているかのような身体への負荷だ。
 先天性戦闘適合者……アーマードコアの世界で【ドミナント】と言われるのような存在であり、戦局が戦局ならば戦えない人々の為に磨耗して死ぬ英雄様として実に立派に戦ってくれるだろう。

 少なくとも俺は英雄なんて御免だ、英雄はいるだけで依存を生み弱者を強者へと引き上げる妨げとなる。

 何より俺は大多数の皆様の為に磨耗するなんざ御免こうむるな。

<システムを自主学習モードへ移行…今回の訓練を元に本機の性能向上に従事します>

「あぁやっててくれ、それとシミュレートに高機動戦闘を追加…予測射撃の読みが悪かったからな」

 セラフは与えられた指示に従い電子回路内で勝手にシミュレートを行い続け、勝手に処理能力を向上してくれるだろう。
 幾らBETAが物量だからと言って敵が必ずしも奴等とは限らない…記憶が確かならクーデターが起きた筈だしな。
 その時に備えて高機動戦で少しでも優位に立てるように機動予測による予測射撃などはOSに叩き込んでおきたいが、クーデターそのものをぶっ潰すのも―――

 そうこう考えている内になんか一人の遠目からでも美人と分かる女性を引き連れてやって来たよ。


「単機でハイヴを下層直前まで突破・単機で1個大隊近くの不知火を壊滅・従来機を遥かに超える性能を見せ付けた新型機【鎧心】
  幾らAIが弱くてなおかつ現行機との性能差があるとは言え、この戦果を認めないというのは傲慢ではないでしょうか?」


 香月博士の眼は『気に入らない』と言うのをもう丸出しとばかりに、と言うか丸出しである。
 そら確かに”あれ”にケチを付けるわ強引な方法で衣食住を取り付けたりしたがそこまで嫌われては流石に罪悪感も生まれてしまう。
 だがまぁ俺をこの場で殺すならそれも良し、それはそれで次回への教訓として生かさせて貰うなりするだけの話だ。
 俺には【次】がある―――確約された【次】が存在し、この世界がどうなろうとそれはもう知る所ではなくなるのだから。

「……まぁ無言を貫くならそれでも良いさ…んで? そちらさんは?」

 いやずっと気になってる赤茶色(?)の美人さんがね、俺にとってあまり気に入らない眼をしてるからね。
 まぁあの感じが意味するのは【憧れ:尊敬:畏敬】とか結局英雄嫌いな俺にとってされるだけで苛立つそれだ。
 しかしまぁ良いスタイルしてるなぁこの人? 階級は大尉……まてよ、大尉で香月博士付きと言えば。

「A-01所属・第九中隊・部隊長伊隅みちる大尉です」

「……あぁ特務連隊A-01の生き残りですか、てっきり先の明星作戦で全滅したとばかり思っていましたよ大尉殿」

 嫌味たっぷりに言ってやると流石にあの眼ではなくなったが、現場ではおそらく伊隅・速瀬・涼宮・宗像・風間だったか…この前線四人と管制一人しかいなかった筈。
 まぁ戦術機100機以上で構成されていた特務連隊も今や先のメンバーのみであり、もうすぐ配属となる連中もあっさり死ぬ運命。
 女ばっかり良くもまぁ配属される所だが……ぜひとも男所帯の方々がゲイブンになっていないか心配である。

「それは失礼しました、私の部下は非常に優秀な者達なので……そちらこそそれ程の腕を持ちながら名もお顔も知りませんが?
  それに随分とお若いようですが……あの腕はシミュレーターを上手く調整したからでしょうか?」

 ―――小娘が吼える吼える…戦士の良い眼だ

 それに俺が気にしている四角眼鏡を掛けないと青二才に見えて、眼鏡を掛けると少し老け顔に見える俺の面。
 成る程な、この程度の嫌味は特務部隊配属と辛い現実なんかで慣れてるのか、悲しい現実って奴か。

「古島=純一郎・今年で三十歳だしこちらには転属したばかりで階級は……」

 ちらっと香月を見る。
 転属もクソもない俺の階級は全て香月が握っているが、あれだけの戦果をそのまま何処かへと捨てるのは彼女としても許せないだろう。
 帝国なりアメリカに新型戦術機の設計図なんかを手土産に渡れば、おそらく相当な階級が待っているだろうしな。
 オルタネイティブⅣとは敵対関係でありⅣが失敗した瞬間に始動するオルタネイティブⅤに欠陥品の真実をバラされる危険も無視は出来ないだろう。


「階級は中佐よ…新型戦術機および新型OSの設計・開発者の古島=純一郎中佐よ」


 中佐ねぇ……戸籍の作成から何から本当に世話になっているが、よもや中佐とはまぁ高く見られたモノだな。
 あるいは中佐・衣食住・新型戦術機開発援助などで俺をここに踏み止まらせる心積もりなのかも知れんが…喰えん人だな。
 まぁ成果の挙げられない計画であるにも関わらず長々と踏み止まれたのもこう言う能力あってこその産物だろう。

 外道の術によって世界を救うか………まぁそれすらこのままなら滅びを加速させるだけだがな

「ちゅっ!? 失礼しました古島中佐!」

 戦術機に乗る際に装備する強化服なので軍服ではないが、念の為に持っておいた眼鏡を掛けて三十歳の俺を取り戻す。
 ちなみに眼鏡は伊達で視力は元の世界での強化人間補正があるので両目とも現在は3.0なので本来は掛ける必要がない。
 しかし掛けないと本来の年齢(サバ読みした)に見られないので、さっさと掛けて年配とでも振舞うなりさせて貰う。

「……失礼なのは俺の方だ大尉…戦友を死なせた俺よりも、生き残らせている伊隅大尉の方が立派だ」

「……中佐の部隊は……」


「……全滅したよ、若い奴も同期の奴も―――先に死んで逝った」


 元の世界じゃ一個人としては異例の億単位の人間を直接手を掛けた人間が仲間について語れた義理でもないが。
 だがアーマードコアの世界でたとえ同じ姿・声・性格をしていてる別の人間だとしても、共に幾度となく死線を越えた人達がいた。

 今を生きる人を守る為に戦い続けた【剣の女性】

 後世の人類の為に贖罪と大罪を背負った【宇宙を求めた旅団】

 全ての者達に等しき改革の痛みを求めた【思想家の歌を愛した男】

 戦う理由と意味を磨耗してなお欲した【閃光の名を継いだ英雄】

 魂に刻み付けられた記憶に宿る英霊と呼ぶに相応しき人々の姿は、300回のループを持っても今だ追いつけない。
 悔しくなどない……むしろ追いつけない事がどうしようもなく嬉しく、目指すモノがあれば俺はまだまだループに何かを求めれる。

 どうせならばこの絶望がヒシメク世界でなお求めてみるとしよう。

 あの世界の英雄達の背中と言う奴を、求めてみるのも悪くはないか。


「伊隅…これから私はコイツと話があるわ…アンタは訓練に戻りなさい」


 ……サシでの話し合いね。

 私兵にすら計画は教えていないという訳か、徹底してるな。

「はっ! では訓練に戻ります!」

 返礼と敬礼をした後に特別シミュレーター室を後にする伊隅大尉、あとしっかりと俺も軍人として敬礼を返しておいた。
 あの俺が嫌な眼は止めてくれていたが、何処かしら哀れみがこもった眼で見ていてくれていた伊隅大尉はまぁ不思議と言うか新鮮。
 ぜひともあの感動の名シーンは起こさないようにしないとね…佐渡島が消し飛ぶのも嫌だしな。
 てか伊隅四姉妹って確か一人の幼馴染の衛士に全員惚れてんだよな……いやぁモテモテで良いねぇその衛士は。


「……中佐なんて階級なんだから、少しは教えてもらうわよ?」

「えぇ無論です、現在のままでは00ユニットは整備の際に反応炉からのハッキングを受けて情報が全てBETAに漏れます
  それからユニットの調律にはこの世界本来の因果であるシロガネ=タケルが居なければ不可能です」


 俺と香月博士との誓約で【対価に応じた知る範囲内の情報交換】

 無論、俺も生まれ育った世界でマブラブを少しはプレーした人間の一人だがそこまで詳しい訳では無い。
 むしろ戦術機や00ユニットなどの科学を見てみたい方が大きく、その為がそっちの方面の方が記憶がしっかりとしている。


「確かBETAの人体調査で快楽漬けにされた挙句があの脳髄ですから、記憶と言うか精神はBETA一色
  しかし調律の為に身体を与えてもすぐにBETAの事で自閉を繰り返しで調律がままならない」


 快楽漬けについては本気でBETA死ねと思ったが、科学者として俺達もまた動物でそうしたりして来たのだ。
 結局は同類と言う一点は変わらず、むしろあぁあれは俺達なんだなぁと思わされた瞬間でもあったな。

「……そう、他の欠点は?」

「それはまだ教えられませんな…香月博士」

 元々俺が知っている情報はそう多くない、下手にバラすのは俺の延命に関わる故にそう教える訳にはいかない。
 少なくとも白銀武が来るまではどう頑張っても00ユニットは動かせないのだから、そう焦る必要もないだろう。
 白銀が作り出した新型OS【XM3】の早期開発を進めれば原作以上の戦力でハイヴ攻略作戦に望む事が出来る。

 今は忍耐期と言うべき時代だ。


「ところでアンタ……本当に三十歳なの?」


 急に話題が逸れたな。

「あぁ三十歳だ、眼鏡を掛けないとまったくそう見られないのが苛立たしいがな」

「…あっそアンタの童顔になんて興味はないけど」

「なら聞くな、まぁ良いさ…少しは良い女なんだから良い男引っ掛けると楽になるぞ」

 本当に香月博士は美人でありダイナマイツボディであり、ワンダフルボディで正直男が勝手に寄ってくるだろうに。
 いらぬお節介を焼く気はないし、他人の色恋沙汰に手出しする気など毛頭もないし馬に蹴られて地獄には落ちたくないしな……


「じゃあトリースタの話し相手するので一足先に失礼させて貰う、では副司令! 本官は特務に従事させて頂きます!」


 敬礼をし、シミュレーター室を後にする。
 何処かの【8】と言う名前のとてつもなく人間臭いAIに似た手提げカバン位の大きさのセラフは忘れません。

 その後、少しして何故かクシャミが出てしまうが誰か悪い噂でもしたか?

 ついでに背筋が物凄く冷えて来た……博士が何か企んでいなければ良いが。

□□□

 7月20日ご指摘により誤字修正



[9853] 六話[吹けよ初風・吼えよ狂犬]
Name: 博打◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2010/06/02 22:59
 視点:コジマ
 あの香月博士と伊隅みちる大尉との出逢いから二週間とあっという間に時間が経ってしまい暦は七月へと突入していた。
 俺こと古島=純一郎は香月博士の巧みな人脈と戦術によって無事戸籍と階級を手に入れ、今は古島中佐として戦術機開発に向き合っている。
 まぁ正確に言えば現在の俺に出来るのは白銀が造り上げ、後の世に【衛士の戦死者数を半減した】とまで謳われる性能を持つ新型OSの開発と改良。
 まだ建造を続けている横浜基地の数少ないシミュレーター室で、現在は伊隅ヴァルキリーズが使用している一部屋を貸しきりで使わせて貰っている。
 ちなみに伊隅大尉達は現在座学の真っ最中であり、少し訓練を強引に強行しているように見えたので休憩兼ねて座学をさせている。

『コジマさん…状況を開始します』

「あぁ、よろしく頼む」

 そして空いている間のシミュレーターを占領し、霞ちゃんを管制に(本人ご要望です…念の為)据えて新型OSの試し運転を行っている。
 ただし現在のXM3は未完成も良い所であり処理能力は遅いしバグは多くて動きが止まると散々な結果を叩き出している。
 動きたくても俺は戸籍の作成などの最中で全く動く事が出来ず霞ちゃんは元々歩く機密なので自由に動く事など出来る訳がない。

 戸籍が完成するまで俺は満足に動く事とも出来ず、丸二週間を隠れ過していたので相当ストレスが溜まっている。


「老人どもが……人の傑作品を蹴飛ばしやがって……」


 シミュレーターに映し出されるBETAを相手に、企業の老人どもに対する苛立ちと鬱憤を晴らす。
 現在のポジションは最前線の【突撃尖兵:ストームヴァンガード】であり、装備は射兵装が突撃砲二丁で弾倉が36mm:120mmが8:4の割合で装備。
 接近兵装が74式近接長刀を二本背負っており、腕の短刀を取り外した代わりに近接光線剣二基を装備した別の型式。
 また【試作100mm大型光線銃:カラサワ】を引っさげており、アーマードコアの常連ならばこの名だけで威力は重々承知だろうな
 通常の不知火ではレーザー兵器は装備出来ないのだが、企業の老人達が俺の【鎧心】蹴飛ばして代わりに水素機関搭載の不知火を造って来たのだ。


「だが流石は第三世代試作改良型の【不知火:改】こと【初風(はつかぜ)】と言うべきかね」


 それが現在シミュレーターで使っている【試験試作型不知火改:初風】であり、初風の意味は季節の始まりの風と言うらしい。
 香月博士の話では老人達はわざわざ時代遅れになりつつある撃震よりも、最新型の不知火で試験した方が良いと考えて勝手にしたらしい。
 仮にも虎の子の新型機関搭載するのにどうして装甲が紙切れの機体を選ぶかな? 普通は激突や転倒を考慮して重装甲だろが……
 だが香月博士が強引に推し進めなかった所を見ると本人もあまり関心がないのか、あるいは功績次第と言いたいのか。

<反応速度に問題なし、キャンセルおよび先行入力に問題なし>

「……問題はコンボか、どうも連続行動に関節系統が悲鳴をあげるな」

 幾ら鎧心と言えど機体の性能を完全に操るには現場ではセラフくらいの高処理機構に、俺くらいの実力が要求されるのは確かだ。
 気付けば1個小隊しか残っていない私兵に対して実力を信じてそんな虎の子の機体を寄越すとは考えにくい。
 先日の戦闘で風間少尉の同期が本人を残して全員戦死したのも追い打ちなのか、やはり彼女等に対しての実力の信頼が良くないのかも知れない。
 このXM3の性能を完全に活かす為の並列処理回路は香月博士の研究物を応用しなければ、XM3は完全な性能を発揮できない欠点がある。

「しかし純粋に兵装担架が四基になるだけで大分戦闘継続能力が良くなるな」 

『代わりに整備費用が大変な事になっていますが』

<整備費用と建造費……安上がりを理解出来ないのは関心出来ません>

 ……何か訓練とかテストしてるって雰囲気じゃない気がしてくるな、特に霞ちゃんが何処か突っ込みが厳しい気がしならない。
 しかもセラフはまぁ人間臭くなって機械的な声をしてる癖に中身はまさに人間とでも言いたくなるような完成具合。
 でもやっぱり機械であり、あくまでこの世界での戦術機を動かす際のサポートシステムの一つでしかない。


「良し、カラサワを発射するッ!」


 気を取り直すためにアーマードコア歴代で最強のレーザーライフルであるカラサワを装備し、迫り来るBETAの連中に一発だけ気合を入れて発射。

 ―――結果は射線上に存在した大型・中型・小型を問わずBETAがレーザーの塊によって融解し風穴を開けて沈黙。
 しかもカラサワの威力は留まる事を知らず貫通に貫通を重ねて、塊がもう何体目のBETAか分からない奴を仕留めてやっと一つの塊が消滅。
 高熱であるレーザーを照射するのではなく一つの高圧縮した塊として撃ち出すハイレーザーライフルの最高峰の一品だが、その威力は容赦無く敵を融かしてしまうほど。

「威力が高すぎるな…こりゃあ」

 第二射は大型である要塞級の胴体と頭を狙って撃ってみたが、結果は同じく一撃が直径が本来の100mmよりも遥かに大きい風穴を開けている。
 確かに超高温のレーザーの塊を撃ち出す兵器だが……これは幾らなんでも威力が高すぎて取り回しに困る。
 最前線で友軍にウッカリ誤射しようものなら要塞級の衝角の溶解液や光線級のレーザー照射並に跡形もなく消えてなくなってしまう。
 しかも二発撃っただけで砲身が冷却警告を表示し、即座に背中に納め別の突撃銃を片手に迫り来るBETAを撃ち殺す。
 砲身の一部が強制開口する事により直接熱を外に一気に逃がすとは言え二回に一度は休憩がいるなんて問題がありすぎる。

「後衛が使えば味方の誤射は確実……最前線で使えば使い所の難しい問題児」

『コジマさんの専用武装になりそうですね……でもコジマさんなら大丈夫です』

 うん、ありがとうね霞ちゃん。
 何処かカタコトだったりまるで哀れむような眼を逸らしながら言ってなければ最高でしたけど。

 だがレーザー兵器の利点は【電力などの塊】と言う点である。

 カラサワは五発しか連射出来ないが(現場のあの威力と発熱量じゃ五連射は無理だが)代わりに機体のジェネレーターから直接弾薬を補充出来る。
 つまり機体のジェネレーターが稼動し余剰電力を銃に補充し続ければ、レーザー兵器は事実上は弾薬が無限に等しくなる利点がある。
 代わりに砲身の異常加熱などに気をつければ常に戦い続ける事が出来る訳であり、カラサワ級ならば戦艦砲クラスが常に飛んでくると考えれば良い。

「老人どもが…まぁ少しは良い仕事をしてくれたようだな」

<技術力不足で製造出来るかが不安でしたが、再現率は90%と良い完成度です>

 幾らシミュレーターとは言え、既に現物は秘密の格納庫で実戦は今か今かと虎視眈々と活躍の時を待っている。
 この威力の兵器が量産の暁にはこれを装備した部隊を横一直線に並べて一斉掃射するとさぞ面白い光景になるだろう。
 
 そんなこんなで笑いながらXM3と初風のシミュレーター上での試験を続けていたら懐に要撃級が飛び込まれる。

『…あ』

<あぁ>

「あッ」

 ”あ”の三重奏が見事に奏でられた瞬間に要撃級の二つのハンマーのような腕が管制ユニットを直撃。
 俺はあえなく見事なミートパイになって戦死してしまった。
 幾ら【キャンセル:コンボ:先行入力】の三つで優れているXM3と言えど、反応出来ない領域は存在する。
 現に咄嗟にブースターを吹かせて後退しようとしたにも関わらず機体は反応が遅れて、見事にミートパイの完成であった。
 とりあえず集中してやらなかった怪我の功名か、XM3の改良点と思われる操作の高速伝達が急務となった。

「おいセラフ、気付いていたなら何故避けなかった?」

<あの状況で後退噴射を行った場合は後方から迫って来ていた要撃級の攻撃で大破していました>

「そう言う時こそ飛ぶんだよ、今回のパターンを中心に跳躍回避と滞空回避を念等にシミュレートするように」

<了解>

 戦場は荒廃した市街地であり、上昇すれば前後関係なく攻撃を回避出来ていた筈だ。
 特にXM3の反応速度とキャンセル行動なら光線級の初期照射で射線から退避が出来る筈なのだ。
 だが俺の不注意がもたらした事もまた事実であり、実戦においてあんな事は断じて許されない。
 俺自身が実戦から少し離れて温くなってきているのかも知れない……気合を入れ直す為にも早く実戦が起きて欲しい所だな。

「よし……今度はこの装備でハイヴ攻略に」

『コジマさん……お昼です』

 出来れば訓練したい所だが……『ご飯』と捨てられた子犬のような眼で訴えかけてくる霞ちゃんに誰が勝てようかッ!?

 断じて言わせて貰う! 勝てないッ!!

 しかし白銀武め……こんな可愛い子とキャハハ・ウフフな生活に甘い甘いヒトトキを味わうなんて世のロリコンを敵に回す行為だ。
 だがまぁ俺は三十歳であり年上を希望すのはもう結構無理な話であり、少なくとも年下でなければいけない。
 かと言って若い連中に階級を後ろ盾にして手を出すほど落ちぶれている訳じゃないぞ、あくまで純愛派だ。

 待たせるのも悪いので、さっさと出て軍服に着替える。

 ちなみにあの若本司令官とは面会させて頂きました……威圧感がありすぎて恐かったよ。


 *注:狂犬なお方は子ウサギについて知らないと言う事で


 視点:???
 PXで食事を頼んでいると入り口の方が何やら騒がしく、ふと視線を向けると中佐階級の四角眼鏡を掛けた男性が小さな女の子を連れてきている。
 その女の子は銀色の長い髪がとても特徴的でもあるが、傍にいる中佐と同じ何処か不思議な眼が気になって仕方ない。
 
「霞ちゃんはどうする?」

「合成サバ味噌定食でお願いします」

「そこの美人さん! 合成サバ味噌定食二人前! か弱い美少女のお腹を救ってくれ!」

 ……ふふ、変だけど小さな子を大切にする辺り優しい人なのかしら。


「あいよ! そこの色男、巧く言っても大盛りにはならないよ」


 食堂のおばさん特製の合成サバ味噌定食が置かれ、中佐の方が二人分を受け取って持ち運んでいるけど。
 空いている席が私の周辺だと気付いたあの子がそれを教え、それに合わせて中佐が歩いてくる。

「すまないが軍曹、ここは良いか?」

 さっきとは違う威圧感のある軍人……と言うよりも威圧感を持つ殺し屋と言う感じの声に思わず寒気がする。
 現にふと周囲の騒ぎ声も静まり、まるで無音のように静まりかえったPX全体が私の返事を待っている。

「はっ私等に遠慮なくどうぞ」

「そうか、無理を言ってすまないな」

 机にトレイを置き、席に座って何事もなかったかのように食事を始める……それに合わせてPXに騒がしさが戻っていく。

「コジマさん、これを食べたら……」

「シミュレーターを占領するのは悪いから香月博士の手伝いだな」

 香月……そう言えば夕呼が三十歳で中々骨のある奴が横浜基地に転任した来たって言ってたわね。
 中佐ほどの人物が突然現れるなんて不自然ね……でも夕呼の手伝いと言う事はあの子も助手と見て間違いないわね。
 でもあんな小さな子が手伝いなんて……

「……軍曹、社の顔に何かついているのか?」

「えっ? いっいえ! ただこんな小さな子が―――」

「それは貴官の預かり知る所ではない」

 眼鏡越しにとても冷えた視線を当てられ、食べていた料理の温度がグンと下がったような錯覚に襲われた。
 無言のまま黙々と食事を続け、隣の……ヤシロだったかしら? あの子が食べ終わったのを確認しトレイを片付けに行く。
 先に食べていた筈の私はいつのまにか追い抜かれ、気付けば料理は本当に冷めてしまっていた。


「ヤシロに……たしか……コジマ中佐だったわね」


 PXから去っていくその後ろ姿を、ただ私は怯えと去っていく安堵を感じながら見続けていた。
 もし可能なら夕呼に聞いて見るしかないわね。

 特に……夕呼が骨のあるなんて言うだけの男なんて……久々だもの。

 神宮司まりも……今年で2(ピー)歳・独身……まだ恋人はなし。

 鬼軍曹と恐れられている私の最大ノ敵ハ”結婚適齢期”

□□□

 ご指摘により再度誤字修正



[9853] 七話[山猫の特訓]
Name: 博打◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2009/10/08 20:41
 視点:コジマ
 一言言えば、どうやらこの世界は主人公である白銀武が来るまで激動と呼べる事件が少なすぎる。
 確かに白銀がやって来てから軍将校達によるクーデター・爆薬満載のHSST墜落・佐渡島奪還戦・横浜基地壊滅・オリジナルハイヴ攻略戦……激動すぎる。
 少なくとも白銀が来るまで予想とストーリー通りなら一年と数ヶ月の猶予があるが、それがある種の充電期間なのかも知れない。
 まぁこの間にも動いている事や物はあるし、少なくともこれから行う事は間違いなくこの充電を強制的に停止させ放電させる行為に等しい。

 本来ならば来年に公開を迎える筈の新型OS【XM3】を、俺はなんとしても今年中に公開させるつもりだからだ。

 このXM3は純粋に物語の分岐点となりうる登場人物達の生存時間を伸ばす物であり、それは原作から離れた物語を生み出せる。

 我が神様が望むまったく異なる物語であり、そして俺が足掻くであろうこの一回をより彩らせる絵の具を作り出すのだ。


「……では伊隅大尉、これより新型OSおよび新型戦術機【初風】のシミュレーター訓練を開始する
  先んじて言っておくがこのOSが旧OSと比べて遥かに遊びが少なく、より高度な技量が必要な事になる
  だがこれを極めた暁にはあの時見せた単機での中層突破を実現する人類の牙となりうる事は心に命じておけッ!」


 大げさにも取れるかも知れないが、俺が言っている事は誇張する事でこの白銀が作り出した物の重みを知りたいからだ。
 俺のような高処理AIによる機動操作は量産には向かない、一連隊に搭載しようものならさぞ金が飛んでいくだろう。
 それに対してこのXM3ならば量産にも対応でき、更にはこれはオルタネイティブ4の副産物との組み合わせで始めて完成した存在だ。
 香月博士がこれを原作よりも早く手に入れ交渉素材にする事が出来れば、特務部隊A-01全体の強化とこちらの行動範囲拡大に繋がる。

 たった一つのシステムがここまでの事を可能に出来る実感が、俺はまったく理解出来ない。

 そしてこのXM3がどれだけ知らない存在にとって大きな存在か…その反応を見なければ次のループには活かせないからだ。
 まぁどれだけカッコつけようとようは【俺が実感出来ないから他人の様子を見て理解したい】だけの話だ。


『はっ! では訓練開始しますッ!』


 管制はなんと香月博士が直々に来てくれているのだが……まぁ来た理由はスッ転ぶ様を見に来たのだろう。
 伊達に昨日「このOSが史実通りなら大抵の人間が見事にコケル」と言ったのでさぞ期待しているのだろう。

 ―――頼む! コケテくれ伊隅大尉! 全ては人類の為なんだァ!!


『―なッ!?』


 シミュレーターは機体を格納庫から出撃させる場面なのだが、願いが天に通じたのかああの伊隅大尉が見事にコケタ……機体の頭部が見事に凹んだ。
 遊びが少ない理由は先行入力やキャンセルの代償として今の場面で機械が自動的【転倒回避】の行動を起こさないからだ。
 従来OSは一定の行動に対して自動的に何らかの行動を起こす事が決定しており、それがキャンセル出来ないので咄嗟の行動が出来ずに死ぬ。
 たとえば長刀を横薙ぎに振るったにも関わらず敵戦術機に回避され、敵は突撃砲を構えていてこちらが回避を入力しても機械が受け付けない所為で回避不可能。
 一定の動作を完遂するまで何も出来ないこの弱さが欠点であり、またこれを一つ一つの部品にすると随時行動入力の必要が要求される。

 たとえばマシンガン系の武器はゲームではボタンの押し続けで勝手に連射してくれるのが、部品に直すと数千発を一々連打しなければならないこの苦労を。

 俺達はかの伝説の連打名人ではない、ましてやロボットゲーム伝統のオートロックの有無がないだけでも十分に苦労すると言うのに。


『…ぷッ……続けなさい』


 確かに笑った……まぁ戦術機のようなデカイのがコケルのは見ていて悪い気分ではない。
 ましてや生真面目の生き字引のような伊隅大尉が見事にコケル様は本人には悪いが、想像するだけで笑いが込み上げてくる。
 しかもこの訓練はシミュレーター中なので機械のログにばっちり記録されているので、これからはさぞこれを題材に脅され…もとい逆らえなくなるだろう。
 ……ご愁傷様だな。

「伊隅大尉、まずはこれから立ち上がる・歩くなどの基本的な行動に慣れる事から始めよう
  少なくとも伊隅大尉程の腕前がコケルんだ……派手に皆コケルんだ、気にせずいこう」

『了解』

 あっ、気にしない振りでやり過ごすつもりだな。
 XM3対応型シミュレーターは衝撃や管制を強化服の伸縮なんかで強引に再現させているので、相当今のは答えた筈だろうに。
 少なくとも網膜投影で知らさされる機体の損傷は間違いなく頭部は真っ赤になっており、あの胴部の損傷ならば黄色だろう。
 とにかく操作を入力し、懸命に伊隅大尉の初風が立ち上がろうとしているが動作がとくかくカクカクしている。

 俺はあんな転倒をしなかったので基本処理コンボに立ち上がり方が記録されていないのだ……失敗したな。

「成る程…一定の行動は従来と同じでも所々でその行動を強制終了させ、そこに別の行動を割りこませる事で反応性を上げているのですね?」

 まるで怪我人が一歩一歩全力を込めながら歩いているかのような歩き方で、重心もまだ覚束ない感じだがもう歩いている。
 しかもたった数分で新型OSの利点と違いを見抜き少しずつ自分の操縦を合わせようとしているのも驚きだ……化け物め。

 しかし抜かった―――『伊隅が立ったッ!!』が言えなかったじゃないか!!

 結構言いたかったのだが残念…他の隊員には伊隅大尉が教えてくれるだろうから俺がお眼に掛かれる事はないだろう。
 派手にコケテからフルフルと震えながら立ち上がった奴に『〇〇が立ったァ!』と言いたかったのだが……惜しい事をした。

「概ね正解だ、ではそのまま基本移動を一式終えた後に休憩し私と一騎打ちで実戦形式の訓練と行こう」

 急ぎ過ぎかも知れんがね、こうでもしないと正直世界に加護された凄腕達に同型で勝ち星を重ねれる気がしないのだよ。
 目の前の女性は始めて数分で並みのやり込み並の実力を会得してしまうような存在である、まとも戦いなど御免被る。
 それに香月博士の前であまり無様な姿を晒すのは俺としても脅迫材料をムザムザ増やさせる行為は避けたいところ。
 少し悩んだのか返答が遅れたが、確かに『…了解』と返し、そのまま基本動作行動の練習を終えそのまま軽く武器の慣らし。
 まぁこの調子だと実力はカナードランクは二桁と一桁の絶望的な現実を突きつけられるまで上り詰めるだろう。

 ゲームなら楽だが……現実の【白き閃光:アナトリアの傭兵】の実力は単機で数国家に匹敵する大企業と対等クラスなのだ。

 それがトーナメントランク30中およそ⑨であり、政治的な要素もあったとは言えその実力でも九番目なのだ。
 上の連中は政治的な駆け引きで上り詰めた裏の連中か、純粋にそれすら超えた俺よりも強い連中が住処とするランク一桁。
 ゲーム中には語られなかったが、一桁と二桁の間には絶望的な差があり純粋な実力者の⑨はまさに最強の名に相応しかった。
 少なくともレギュレーション1.0のあの多弾頭分裂ミサイルのホーミングだけでどれだけの友軍機が殺され、水底に叩き落されたか……

 俺はただ目の前の既に軽々と跳んでいる初風を見ながら、ただその実力と成長に怯えさせられていた。


 視点:伊隅大尉
 凄い…これは従来のOSがまるで子供遊びに思えるような反応と軽さだ、まるで機体の重さと遅さを感じさせない。
 中佐がウォールグデータで行っていたBETAを踏み台にし、上下左右の壁などを使った三角跳びなどの立体的機動や変則機動。
 長刀の刀身が半分食い込んだ所でモーションをキャンセルし後退噴射を行いつつ迫り来るBETAを36mmの弾幕で接近させない。
 従来ならばこの時点で振り切るまで機体が動き、下手をすれば死骸を越えたBETAの強行によって撃破されていたかも知れない。
 だが要撃級が絶命したと思える半分まで振り危険と判断し即座に長刀を斬っていた要撃級から引き抜き、即座に武器を交換し後退しつつ弾幕を展開。


「大尉、このOSはフィードバックが蓄積すればするほどより柔軟な行動が可能になるが……背負いすぎるな」


 ……中佐は今の私の姿に自分を重ねているのかも知れない。
 副司令の話では中佐の部隊は中佐を残し全滅、今の私のように実戦の度に部下が死にそれに苛まされる日々に生きている。
 もし中佐が来なければ私はきっとこれまでのように訓練のし過ぎで、取り返しのつかない事をしていた。

 ―――背負いすぎるな…か。

 今や私はその言葉に勝てず、シミュレーター訓練を中断しそのまま休憩を取る。
 この次には中佐との実戦形式の訓練が待っている……出来るならこの【迎撃尖兵】にももう少し慣れておきたいが、命令だ仕方ない。
 
【迎撃尖兵:インターセプト=ヴァンガード】
【兵装:36mm突撃砲・120mm滑空砲×1
     80mm支援速射砲×1
     74式近接長刀×1
     多目的追加装甲×1
     近接光線剣×2】

 これが私の新しい愛機の武装であり、中距離支援が可能な兵装が一つ増えただけで戦い方が大きく楽になった。
 120mmは弾数が少なく支援には向かない、36mmは小さすぎ弾がバラけるので遠すぎると支援にはまったく役に立たない。
 だがこの80mm支援速射砲は違う、中距離でも威力の減衰がなく安定した威力を約束し一撃で突撃級すら撃破が可能な威力。
 連射力も高いので数の多いBETAに対して効果が薄い筈の武器も、これならば充分な火力として援護に役立てる。

 私のは現在光線銃の搭載は見越されているが、いずれは搭載される…多くの仲間と部下を消し去ったあの光を……


『大尉、準備は良いか?』

「勿論です中佐」

『随分とご熱心ね? コジマに惚れた?』


 副司令の言葉で私は思いっきり機体を転倒させ、また頭部関係の損傷がレッドを表示してきている。
 わっ私にはアイツがいる……そう、今は数多くの(現時点で三人はいる)アイツこそ私が想いを寄せているのよ。
 ちっ中佐に想いを寄せるなんて階級も歳も違うし……でも眼鏡を掛けていない中佐は若々しくて―――違う! 私はアイツ一筋だ! 一筋なんだッ!!

『(注:秘密通信)少し脅かしすぎじゃないですか、伊隅四姉妹は確か一人の衛士に惚れてる筈ですけど?』

『(秘)だから言ってみたのよ、本人は口に出してないつもりなんでしょうけど随分と自分の想いを再確認してるわ』

 そもそもアイツはすぐに姉さんに鼻の下を伸ばすし、まりかには若いとかどうとかで甘いし、あきらに到っては甘すぎるのよ。
 しかもアイツが所属している部隊の人からの密告文には隊の女性と随分と仲良くしているって話だったわね。
 ふふふ……久々に四人の連携の恐ろしさを見せるのも悪くないな。

『(秘)……なんか色々と女と部隊長とかが混じって大変恐ろしいモノに変貌しつつありますが、香月博士?』

『(秘)もう良いわよ、これだけ取れればさぞ面白くなるわ』

『伊隅大尉、伊隅大尉ッ! 香月博士の口車に乗せられて貴官は何処に行くつもりだ?』

「はっ! 申し訳ございません、訓練を開始しましょう中佐ッ!!」

 今の私はこんな所で立ち止まる訳にはいかない。
 よほど気合を入れて返事したのか中佐がたじろいでいる。


『じゃっ、状況開始ーーー』


 副司令が緊張感の欠片もない声で状況開始を宣言。
 間髪入れずに私は追加装甲を中佐目掛けて”投擲”し、そのまま空いた手に支援速射砲を持ち36mmと合わせて掃射を開始。

「私はアイツ一筋! それ以外の寄り道などない!!」

『待て伊隅大尉! 君は何処を見ている!?』 

 流石は中佐、投擲した追加装甲を回避しそのまま市街地戦である事を利用し建物を利用して掃射を回避する。
 だがこの近距離での支援速射砲の威力ならば建物など容易く撃ち抜きその向こう側の戦術機にも損傷を与えれる。
 ましてやこの初風の元となった機体は撃震に比べれば遥かに装甲の薄い不知火だ、一撃でも当てれればその時点で私が勝つ。

「姉さんにも! まりかにも! あきらにも!」

『だから大尉! 何処を見ているってまて! その36・80・120mmの一斉射撃は初風には禁止……』

「問答無用です中佐! 私の想いを掻き乱す存在は今ここで負かしますッ!!」

『だから君は何処を見てるんだァァァァァァ!?!?』

 しかし私の一斉射撃は遮蔽物から上へと飛び出した影を捕らえ、容赦無く蜂の巣にしたが即座に撃ち抜いたそれが中佐でない事に気付く。

 放り投げられたのは長刀に匹敵する大きさを誇る中佐がカラサワと呼ぶ大型光線銃であり、中佐の機体ではまったくない。

『カラサワ!?』

「相手が人間である事を忘れたか!」

 真横から回り込んでいた中佐の初風は長刀一本を両手で持ち、光線剣以外の武装を破棄し限界まで機動力を優先していた。
 また機体は地面スレスレを飛んでおり、私が即座に弾幕を展開しつつ後退するが中佐の機体は多少の被弾では揺らがない。
 そのまま距離を詰められ長刀は管制ユニットを貫き、私は長刀によって貫かれ即死となり敗北を副司令が告げた。

『中佐! もう一勝負お願いします!』

「いやまずは反省を―――」

『状況開始―――』

 中佐の言葉を待たずに副司令が再戦を告げた。

「では行きます!」

『香月博士ェェェェェェェェェ!!』

 ―――結局その日は一度も勝つ事無く、私は中佐に連敗を刻み続けた。

 そしてその日の私の錯乱具合を記録した映像を見せ付けられ、私はもう完全に副司令に逆らう事が出来なくなった。

 更にはいつのまにか見に来ていた神宮司教官にまでその様子を見られ、私は人生最大の恥を晒してしまったのだった。

□□□



[9853] 八話[雌伏と通信]
Name: 博打◆19d1c82a ID:a29bd983
Date: 2009/10/08 20:42
 視点:神宮司軍曹
 目の前の戦闘映像……あの伊隅が夕呼の悪ふざけで半ば暴走気味とは言え、あのコジマ中佐に完封されている。
 無論回数を追う事に中佐の被弾は確実に増えているが、奇襲・強襲・狙撃などのあらゆる戦術と方法を持って伊隅に勝ちを決して譲らない。
 また戦術機同士の戦闘に慣れているのかは判らないけど、コジマ中佐は確実に管制ユニットに直撃を与え一撃での撃破を心掛けている。
 十数回の敗北の内…三回は管制ユニットへの120mm直撃であり、しかもそれを高機動戦闘中に平然と行いやってのけている……殺し慣れているの。

『貰った!』

 伊隅が中佐の弾幕を直進から機体そのものを回転させた強引な機動変更でほぼ真横に機動変更して回避し、そのまま建物の影を沿って一気に接近。
 だが中佐は即座に突撃砲を破棄し変わりに素早くあの大型光線銃カラサワを両手で持ち、高速移動している伊隅の先を読むかのように銃口が動く。
 
 そして銃口からあの多くの衛士の命を奪った光が放たれる。

『くっ!』

 放たれた光は塊として飛来し進路上に存在する全ての障害物を融かし、嘲笑うかのように飛び獲物へと飛来していく。
 だが伊隅も十数回の戦いでコジマ中佐の異様な先見からもたらされる先読み射撃が当たると踏み、即座に反転噴射を行い機体に急制動を掛ける。
 そのまま今度はビルを飛び越え中佐の頭上を取り、一気に手に持つ36・80・120mmの一斉砲撃による弾丸の雨を降らせるが中佐の方が一枚上手らしい。

 構わずカラサワを撃ち、それによって直撃弾の大半を撃ち落し空中を伊隅を強引に動かす。

『しまっ……』

『あと一歩だったな』

 カラサワを躊躇わず捨て、長刀の一振りを突き出し最大速度…機体の噴射装置や胴部に増築された噴射装置の一斉稼動による音速寸前の高速移動。
 【オーバーブースト(OB)】と言うあの初風と言う機体の圧倒的な突破力を実現させている噴射であり、その速度は900kmに到達し一瞬にして間合いを詰める。
 中佐の機体はカラサワの光線によって作られた安全な道を飛び、そしてそのまま伊隅の機体の管制ユニットへの一撃によって勝負はまた伊隅の敗北。

 伊隅は私が育てて来た子の中でも優れている方だ……それをあそこまで容易く殺すなんて

「アンタ達、データーはもう充分よ切り上げなさい」

『『了解』』

 夕呼の顔は伊隅の暴走によって湧き上がる笑いを懸命に堪えており、余程満足しているのか気分が良い。
 伊隅……貴方の犠牲はきっとA-01を救うわ……安心して働きなさい。
 少なくとも夕呼相手に弱みや恥を知られると言うのはもはや永遠に逆らえず、そのまま良い手駒として馬車馬の如く働かされる運命にある。
 在学中でも学院教授や軍の教官が『香月に決して手を出すな』とまで恐れて恐がった位に夕呼は容赦がない。

「副司令、あのコジマ中佐は何者なのですか?」

「そうねぇ…あの機動を可能とする新型OS・初風の開発責任者であり凄腕の前線主義の衛士って事は確かね
  もっとも指揮関係に関しては悪いわね、腕が良い分前線で戦うのが性に合ってるってて奴かしら」

 確かに、教え子の実力を過大評価する訳ではないが伊隅を完封出来る程の腕前ならばむしろ友軍が連携を取り辛いはず。
 あまりにも速く・的確で・鋭すぎるあの挙動にそうついて来れる衛士がいるとは思えない…連携が取れないのは衛士としては致命的だ。
 だがそれを補ってあの腕は強すぎる……どうしていまもその名前が挙がらないのか不思議な位だが、あれはお手本にするには人殺しの動きすぎるわ。

 少なくとも私は実戦で戦いたいとは思えない…あんな躊躇いもなく・容赦もなく相手を殺せる相手なんて特に……


「じっ神宮司教官ッ!?」

「伊隅大尉、今の私は軍曹です」

「神宮司軍曹はいつまでも私達の教官です、これは変えれません」

 本当に硬いわね伊隅、でもそれが貴方の良い所でもあるのだけど。

「貴女は食堂の……」

「コジマ……中佐?」

 えっ? 食堂で会ったコジマ中佐と同一人物とは思えない程に若々しく見える、少なくとも二十歳前半に見えてしまう。
 でもあの時の中佐は眼鏡を掛けてて見た目は年上の人に見えて確か夕呼も三十歳って言ってたわよね?
 まさか本当は三十歳じゃなくて二十代前半で、あれは眼鏡を掛けるとそう見えるから私をからかう為の嘘?

「本当にアンタは眼鏡掛けないと歳相応に見えないわね」

「気にしてる事を言わないでください」

 そう言ってコジマ中佐は強化服に掛けていた眼鏡を取り出し、そのまま掛ける。
 そうすると眼鏡を掛けたコジマ中佐は三十歳相応の何処か渋さを匂わせる顔となり、あの時とは違う優しい眼をレンズ越しに見せて来る…ついに来たわ。

「古島=純一郎中佐だ、眼鏡を掛けないと見えないが立派な三十歳でな」

「あっいえ! 神宮司まりも軍曹です!」

「私達の教官で今も新兵達の訓練を行っています」

 ほぅ、っとコジマ中佐が品定めをするような眼で私を見ている。
 階級を後ろ盾に手を出すような下衆ならすぐにでも始末するけど、夕呼の口振りからそれらしい事は聞いてない。
 それにやっと来た良さそうな年上の男性がしかも中佐……顔や背丈も程良く眼鏡を掛けると何処か渋さが匂う。
 だけど眼鏡を付けてない時は不思議と年下に見えるが、そけはそれでこう……そそるわね。


「伊隅大尉ほどの実力者の教官か…ならば香月博士?」


「えぇ良いわよ、まりもしばらくはアンタも暇があったら古島に鍛えて貰いなさい」


 それは突然の命令だった。


 視点:コジマ
 しかし本当に化け物揃いだなこの横浜基地の連中は……確か神宮司まりもと言えばあの”パックン”事件で有名な人だったな。
 白銀がいつまでも落ち込んでる所為で兵士級に後ろから襲われて頭をガブリと食い潰された悲劇の女性の筈。
 腕前は流石は伊隅大尉達の教官と言うべきか、XM3にも伊隅大尉には遅れるがすぐさま対応し下手をすれば負けかねない腕になっている。
 だが歴戦故の弊害か、飛んだ直後に回避行動を入力し光線級の照射を回避すると言う行動に抵抗がありしようとしない。

「神宮司軍曹! だから包囲された時は飛んで包囲を脱出し空爆をすると何度言えば判るんだ!?」

『しかし光線級の照射が……』

「だからそれは初期照射の間に新OSの特製を活かして回避すると何度言えば判るんだ!」

 なまじ歴戦なのが邪魔してどうも光線級の照射は回避出来ないと思っている節があるらしい。
 それ以外は回避にしろ攻撃にしろ全て優秀と言える実力を遺憾なく発揮しており、正直前線に出ないのが惜しい位だ。
 だがこれだけの実力者に鍛えられたのがあのA-01の実力と言うのは良く判る、これだけの実力者の特訓はさぞ辛いだろうに……


「敵に包囲される! 飛ばないと死ぬぞ!」


 なので管制をしてくれている霞ちゃん、余程オジサンを気に入ってくれたのか話す練習も兼ねて管制をしてくれている。
 こちらの本心は読ませないが、今のような場面で”こちらから”意思を読み取らせすぐに設定を追加して貰うような事をしているのだ。
 今もBETAが地底より奇襲して来て各個撃破の危機にあり、カラサワは放熱中で発射不可能で突破は不可能。
 生還する為には光線級の照射を回避し、空中を飛翔し包囲網を突破する以外に生き残る術は残っていない。

「二秒後に飛ぶぞ! 合わせ!」

『―――了解』

 突撃級の体当たりを飛ぶ事で回避するが、視界は光線級からのロックによる警告で真っ赤になっている。
 だがそれも白銀武が行っていたアクロバット戦術…レイヴン(アーマードコア乗り)にとって空は戦いの場であり支配する者など誰もいない。

『コジマさん回避してください』

 地平線が光りそれが光線級の照射を告げる光であり、少しでも回避が遅れれば機体も自分も原子一つ残らず蒸発する。

『軍曹!』

 即座に初期照射であり唯一回避する段階に全力噴射で照射軌道から機体を逃がす。

 ―――俺は回避出来たが軍曹は?


『……回避…完了』


 ―――出来ないつもりでやらせたが、本当に回避しやがった。


 伊隅大尉は何度失敗しても成功するまで挑戦し、成功した負けず嫌いと言うよりもやるべき事と背負っていた。
 だが神宮司軍曹はたった一度で回避を成功させ、自分でも回避は不可能と言われていた光線級の照射を回避した事実に驚愕しているのか返答が甘い。

 まぁ現役衛士達から言わせればこの回避が不可能と謳われる攻撃を回避できれば、そりゃあ驚いてこうなるのは良く分かる。


「軍曹…おめでとう、君もXM3を習得出来たようだな」


 休憩の為にシミュレーターが停止し、俺も大きく息を吐き出して一息つく。
 たった一度…たった一度であの驚異的な弾速を誇る照射を回避する事を成功させる驚異的なまでの理解と適応能力。
 アーマードコアの世界でも本来”二度目”は存在しない、全てたった一度で作戦を成功させ敵を一人残らず殲滅させねばならない。
 だが人外と呼ばれるだけの実力も幾度とないループによって手にした再三四度の結果にすぎないのに対して、この世界のエースはたった一度でそれを成功させた。

「……化け物か」

 驚異的な吸収と応用力…神宮司軍曹は初風に乗ってまだ数回で、XM3にもやっと慣れ始めた矢先でもあれを成功させれるのだ。
 A-01を始めとしたこの世界のエースと呼ばれる存在の人間は、間違いなくランク一桁クラスの化け物揃いである事は間違いない。
 言い訳かも知れないが俺の本来の力はネクストに乗って初めて発揮される…戦術機ではおそらく六割も出せていないのが現状だ。
 
 ―――深く考えるのはよそう、今は俺に出来る事をしてみるだけだ 

 シミュレーターから出て、眼鏡を掛ける……ネクストを製造するよりもAMSのような新型操作機構の建造が急務かも知れない。
 元々ネクストはAMSと言う機体との神経接合による機体は自分が纏う一種の鎧であり、機体は自分そのものとする特殊な操作システム。
 人が手足を動かせるのが当たり前のように、それを機械と接合する事より機械もまた当たり前として動かす事を可能とする本来は義手などの治療に持ち入られる筈であったシステムであり、ネクストがネクストたる所以の一つ。
 つまり機体の動きの全てを脳に直結させる事で、極自然に動かせるようにし本当に人間の動きを可能とさせる驚異的な自由度を誇るシステムなのだ。

「中佐…私は……」

「おめでとう軍曹、そしてようこそ…敵の光を避け、その手で光を手にする新時代へ」

 初風は戦術機に革命をもたらす、自意識過剰かも知れないがXM3と組み合わさればまさに革命と言っても過言ではない。
 もしこれが一年早く広まれば世界は実に面白い方向へと加速するだろう、ただ現状でこれに適合しているのは俺合わせて三人だけ。
 A-01は現在伊隅大尉が地獄の如きシゴキでXM3を習得させようと躍起になっているらしく、まぁそう遠くない内に人数があと三人は増えるだろう。

「神宮司軍曹、今育てている新兵達も戦術機訓練はこのXM3での訓練を基礎とする事が香月博士から許可された
  これからは死者数が確実に減り、教え子が減る苦しみも減っていくと信じている……そう信じたい」

「はっ! 粉骨砕身の努力を持って必ず新兵達にもこの新OSを会得させてみせますッ!!」

 ビシッと敬礼をして来るので俺も敬礼を返す。
 好印象を持たせる為の演技は欠かさない……プロの演劇顔負けだ。

「……ところで中佐は……」

「コジマさん、博士が呼んでます」

「香月博士が…成る程な、では軍曹! 少しは肩の力を抜きつつ新兵の訓練をよろしく頼んだ」

 そうして俺は霞ちゃんを連れてシミュレーター室を後にする。
 結局神宮司軍曹は俺に何を聞きたかったんだろうね……謎だ。


 視点:???
 注:会話文のみです

『よもや極東の魔女が通信に答えてくれるとは…』

『そんなのどうでも良いわ…で?』

『魔女の要望通りと言っておこうか【降り注ぐ雷】も試作段階に進みつつあるよ』

『それだけ? 伝説の衛士がそれだけとはねぇ……』

『手厳しいな、先の【不死鳥構想】に【新型および旧式機体改造計画】も始動し始めているのも現実だ
  だが如何せん…いやどうしても横浜基地の古島と言う人物が設計した不知火改:初風だが、これは本当に一個人が?』

『……そうよ』

『我々が計画している不知火弐型に非常に類似しているのは気のせいだと信じたいが、この水素機関についても正直眉唾ものだ』

『伝説の衛士…いや開発衛士(テストパイロット)も目の前のそれを理解出来ないなんて、古島も本当に不運よねぇ
  何せ古島の本来の水素機関搭載型は撃震を不知火…武御雷すら凌駕する改造を実現させたのに実物も見ず不知火として勝手に改造されたんだから』

『……そのような報告は知らないが』

『それは残念ねぇ…一枚岩を気取っている筈の帝国軍が一枚岩じゃないなんて笑いものよ』

『それは……』

『まぁ良いわ、あいにく【降り注ぐ雷】の現場の欠点もあの古島ならすぐに見つけるでしょうし』

『だからこその今回の【新型および旧式機体改造計画】だよ、なんとしても帝国にこの計画を納得させねばならない
  米国などの改造能力や開発能力を吸収しより広き視野を持たねば帝国は、持たなくなってしまうからな』

『だけどこの条件は飲めないわ』

『そこをなんとか出来ないかね?』

『【降り注ぐ雷】だけで古島の【水素機関・光線兵器・新型OS】と対等だと本当に思ってるならお気楽も良い所ね
  そもそも突き詰めた設計の所為で改造が難しかった不知火を改造したのも古島と言うのも忘れてるのかしら?』

『まったく化け物だな…古島中佐とやらも』

『人を気軽に化け物呼ばわりとは関心しません、伝説の開発衛士』

『いつからそこに?』

『この通信の初めからですが?』

『本人がいるなら交渉もし易い……この件についてだが』

『人の開発を”たかが発電機”と馬鹿にして蹴飛ばした方々と話す舌などない』

『器量が狭いな』

『なんとでも……交換とまではいきませんが、ならこちらとしても少し交渉させて頂きましょうか―――拒否する余裕はないでしょう?』

『喰えんな―――君は……』

□□□

 会話文だけで通信を表現してみました
 フォーアンサーお茶会みたいにいかないのが腹立たしいです

 7月20日ご指摘により誤字修正および少し加筆



[9853] 九話[逝ってらっしゃい、出張です]
Name: 博打by学校パソ◆ae18cf9e ID:047f63f1
Date: 2010/06/02 22:58
 視点:コジマ
 待ちに待った新兵でありAー01への任官が決まった五人が着任し、本日を持って特務部隊【伊隅ヴァルキリーズ】に配属となった新任五人。
 そして原作ならば五人の内の二人は来年の十一月までに、残った三人は来年の十一月に戦死ないし病院送りとなる運命にある。

「……伊隅は凄乃皇(すさのお)の自爆・速瀬は反応炉で自爆・涼宮は闘士級によって死亡・宗像と風間は負傷でそれぞれ戦線を離脱
  今日着任したのは来年の十一月までに全員が戦死ないし病院送り、その後のメンバーも同様なんて…まりもが聞いたら」

「その神宮寺軍曹は兵士級に頭を噛み砕かれて死ぬ、満足に生き残れる奴なんて何処にもいない」

 私兵たる者達の俺が知る限りの死に様を語った瞬間の香月博士の顔は確かに失念などが入り混じった顔をしていた。
 動揺を見せたのは親友たる神宮寺軍曹の死に様くらいであり、その同様ですら微かに眼が開いたくらいである。
 まぁ交渉人としても活躍しているであろう香月博士ならば動揺などを隠すのはお手の物だろう…隙を見せては交渉には勝てない。

「問題の白銀武が来るまでおよそ一年と少し、それまでの期間に00ユニットの問題点や現状戦力の強化をすれば良いだけの話だ
 特に白銀武が開発した新型OSは【衛士の戦死者数を半減させた】とまで謳われるものだ、今年度に配布出来るのは大きいだろう」

 初風と新型OSは既に今頃水素機関について賛同した者達や企業が九機を製造し、もう少しすれば届く頃だろう。
 帝国兵器局の人間との交渉は済んでいる……あとは伝説の開発衛士殿がどれだけ帝国を動かせるかに掛かっている。
 最低でもこちらが指名した人物はなんとしてでも今度の武御雷と初風の実機よるデモンストレーションに連れてきて貰わねばならない。
 凄腕を負かすのも目的だがあの男を……狭霧尚哉大尉をこちら側へと引き込むのが最大の目的だ。

「さて……ビニールについてだけど私が全部剥がせて貰うわよ、ついでにアンタは一切剥がないように命令よ」

 しかしこの香月博士はどれだけビニールを剥ぐのが好きなのだろう……わざわざ命令まで強調してくるくらいなのだ。
 だがまぁそれが香月博士のストレスなんかを少しでも和らげれるならば儲けモノだろう。

「ビニールについてはどうぞご自由に……」

 今の目的はヴァルキリーズの強化と出来るならば狭霧大尉のこちら側への引き込み、清清しいくらい実直な男は嫌いじゃない。
 綺麗ごとを抜かしながらもその手に武器を携える奴は嫌いじゃない……ループ五十三回目の俺がそうであったように。
 全身を殺した相手の返り血だらけにしながら『皆さん仲良くしましょう・俺は平和が大好きです』なんてのは最高だ。
 
 そうして数億人をぶっ殺した時の快感と狂気は代えがたいモノだ―――I'm a shooter

 人ではなくともこの世界には殺しても殺したりない程の化物達が息づいている。
 もしお前がこの世界にいたならば……どんな答えを持つ【思想家の歌を愛した男】?


「……なに歌ってんのよ、気色悪いわね」


 どうやら口に出ていたらしい。
 どうもこの歌だけは鼻歌では済ませれないらしいな、本当に良い歌だよこの【Thinker】は。 


「―――亡き戦友が残してくれた仲間としての絆だよ」


 一億人を殺害し、五人の精鋭と戦いそれすら共に殺害してさらなる狂気を求め合った戦友は一人先に逝った。
 あまりにも早すぎる死であり、まだまだ殺したりないと嘆いていた戦友が口ずさんでいた歌である。
 その時の俺はその歌を良く知らなかったが、それをもっとも詳しく教えてくれたのがお前でありお前だけでもだった。
 ふと声のトーンを落としつつも共に視線を逸らしたのを理解したのか香月博士はそれ以降何も言わない。

 俺は目的地たる格納庫に着くまでただ壊れた人形のように小さく歌い続けていた。

 I'm a thinker~~♪

 それは思想(理想)の為に自分すら破壊してしまった者の歌。

 自らすら破壊(ころ)した射手は撃つ事だけを楽譜代わりにした歌。

 思想が深(重)すぎたが故に高き理想には続かず沈み続ける呪いの歌。

 深海で唯一の理解者を手に入れてただその人だけを愛し続ける狂った歌。

 考える事(戦う事)が出来なくてもただ理解者だけを愛し続ける矛盾の歌。

 理解者が望んだ”あの場所へ”その身を投げ打って大空(戦場)へと飛び立つ歌。

 あの場所に”誰かが居ると”信じただジェット音を歌声代わりに飛び立って消え去った歌。

【……良い歌だな?】

【俺達のような狂った人間には似合わねぇよ】

【これから殺す相手への鎮魂曲に相応しいだろ?】

 我が友オールドキング、お前は本当に鼻歌が巧かったな。

 揺り篭の人間だけを殺すお前にはお似合いの歌だったよ。

 お前は選んで殺す、選んで殺された自分のように。

 もう会う事なき戦友よ……お前の思想は成し遂げられたか?


「……さて剥ぐわよッ!!」


 香月博士のその言葉で何故か急に力が抜けていく。
 普段会う時がキリッ! としているのでこういう時のギャップに少し付いていけない。
 それにあまり俺にそういう一面を見せないので、慣れるのも出来ないがそれは信頼が薄いからだろう。
 信頼の厚い相手ならばそういった一面を見せても大丈夫と思うが、そうでない相手に見せる余裕はない。
 オルタⅣの中心であり責任者としていなければならない香月博士に取って弱みはそのまま命に繋がる。

「あれは弱味にはならんのかね?」

 ふと思った事を口にしながらも、嬉しさから単に晒しているあの顔なのか。
 もしあれが俺だから見せている顔ならば、それはそれで漢冥利に尽きるのだがな。
 まぁあれは間違いなく嬉しさからの顔だ……さて俺も行くかな。


 ―――この世界で初めて見た複数の戦術機が並ぶ倉庫の風景は中々のモノだった。


 既に搬入されビニールを剥ぐのを待つだけの十機の初風とその先頭にある姿を晒している俺の初風。
 ふと視線をやるとA-01の面々と思われる十人が俺の初風を前に眼を輝かせている。
 確かに新型戦術機が目の前にありしかもそれが自分達の機体となれば輝くのも良く解る気がしない訳では無い。

「これはこれは中佐殿! ついに届きましたな!」

「あぁ見ろあの若い連中を顔、まさに子供だな」

 俺の初風はA-01の面々のよりも早く運搬され密かに機関部の試験運転や光線兵器の軽い稼動もしていた。
 その際等に口の堅く信頼出来る整備班の男共とは良い仲になっており、初老から年上の集まりとして話が合う。
 良く合成の酒を仕入れて整備班の初風に対する感想を聞き愚痴を肴に飲み交わすのも楽しい。

「あぁいう娘っこが先に死んでいくのかと思うと……」

「湿気た話は抜きにしよう、今はあの子達を少しでも生かす為にあれを知るだけだ」

「そうですな……ではこっちはこっちでしっかりと仕事をさせて頂きます!」

 敬礼する整備班に俺も敬礼を返す。
 ふと整備班が苦笑いする先には超ハイテンションでビニールを剥いでいる香月博士の姿。
 ……自重して下さい”香月副指令”。


「あぁ私は私の仕事としてあの子達を鍛え生かすだけだ」


 そのまま敬礼を崩し整備班は初風の支度や新しく搬入された現状では初風用と言える武器の数々。
 特に武装方面は彼ら整備班のしっかりとした処理がなければならない、特にマッチングについては。
 俺は中佐としての顔でツカツカと歩くが余程今回の初風搬入が嬉しいのかA-01誰も気付いてくれない。

 まぁ伊隅大尉以外とは顔合わせもしてないし、俺はあくまでこの基地に来た中佐と位しか知らないだろう。

 出来るだけ会わないようにPXの時間もズラしたりして何かと空腹と戦ったのも良い記憶だ。
 歩き続け伊隅大尉の隣に辿り着き機体を見上げたままの伊隅大尉に話しかけた。


 視点:伊隅大尉
 部下が騒いでいるが、その気持ちは良く解る……中佐の技術と努力の結晶が目の前に鎮座している。
 最初から鎮座しいる初風は大型光線銃や高出力光線剣の装備で非常に扱いが難しくて、電力の調整と維持が困難すぎる。
 その所為かあの機体は既に中佐の専用機にもなっており左肩には桜のエンブレムが描かれているけど…綺麗。

「良い機体だな」

「はい……これは中佐の技術と努力の結晶です」

「そこまで褒められた物でもない、これは始まりに過ぎないのだから」

 ふと聞き覚えのある声に隣を見れば、そこには自分の初風を見上げる中佐の凛々しい横顔。
 しかし格好は普段の軍服の上に副指令のような白衣を着ており、階級が見えなくなってしまっている。


「あの大尉…誰ですかこの人?」


「馬鹿者ッ!! この人こそ今目の前にある初風や新型OSを研究・開発した古島中佐だッ!!」


 格納庫全体に響き渡ったのでないか?
 そんな大きな声で思わず部下の一人である速瀬に怒鳴りながら答えを返してしまう。

「伊隅大尉、顔を知らないのだから……」

「敬礼ッ!!」

 その場で九人全員が私に合わせて敬礼し中佐もキリッとした軍人の顔で敬礼を返してくださった。


「伊隅ヴァルキリーズの諸君、私が古島=純一郎中佐だ……歳は三十・独身・仕事は伊隅大尉が言った事だ
 これから諸君には私が開発した初風に乗り共に地獄すら生温い道のりを歩いて貰う、拒否権などと言うモノはない」


 骨髄が震えるのが、全身を巡る血管に流れる血がとても冷たいのが解る。
 眼鏡越しに放たれる眼光は戦場で感じる恐怖すら生温い……ある種の極まった殺意。
 殺される! 殺される! 慈悲も情けもなく疼かせている手によって身体を引き千切られて殺される!
 あぁ視線だけで人って殺せるのね……アイツもきっとこんな気分を私達から味わってたのね。

「恐怖が麻痺している訳じゃないか……いやすまない、試すような事をして」

 すっと殺気を放っている間中細めていた眼を一度閉じ、それによって全身を絞め殺すような殺気が姿を無くす。
 怖かった…戦場で無数のBETAに囲まれた時よりもたった一人の目の前にいる人の方が何倍も。
 再び開いた眼にはまるで父親が見せるかのような暖かさのある眼であり、さっきの恐怖が嘘のように晴れてしまう。


「そしてようこそ戦乙女達―――時代の新しい風を担う”ここ”へ」


 前言撤回です中佐。
 貴方はとことんにして徹底的にこの子達にプレッシャーを掛けるんですね。
 優しさの中にもさっきの殺気よりも厳しい何かがふんだんに混ぜられている気がしてなりません。

「香月博士がビニールを破いている間に君達に伝えなければならない事がある、心して聞くように」

 暖かさを持ったまま発言は続く、微笑みと暖かさを持った奥には何処か恐ろしさが潜んでなりません。
 現に中佐の口元はまるで妖怪のように卑屈に歪み、それが私達に降りかかるであろう事を暗示している。
 ましてや副指令の直属であり普段は共に研究している仲ならば……その恐ろしさが何倍にも跳ね上がる。


「間もないが伊隅ヴァルキリーズは私と共に帝国軍との合同演習として新潟に飛ぶ事になった」


 一瞬世界が止まった気がしました。


「新潟に飛ぶのは佐渡島から侵攻して来ているかも知れないBETAの奇襲を防ぐ為の方便であり
  あくまで目的は軍事演習と言う名目による軍の新潟派遣であり、我々は国連部隊として出兵する」


 それは―――


「まぁ良くて演習―――悪くて実戦……それだけの話だ」

「――――――私達に死ねと?」


 あぁ中佐相手に殺気を込めて発言するなんて、私も随分と強くなったわね。
 だがここで引き下がる訳にはいかない……たとえそれがいつか来るものだとしても。
 まともな実機訓練もせずに演習に加えて最悪実戦など赦される筈もない、もはや死ねと言っているようなものだ。


「―――演習には完勝・実戦は欠落なしで勝利しか我々に道は残っていない、元々死なす気など毛頭ないよ」


 それは私が出会ってから始めてみた中佐の屈託のない笑顔だった。
 続けるように『出発まで一週間と少しあるから練習は出来る』と大事な部分を今になって付け足した。
 本当に中佐は副指令と同じで人をからかう事が得意なんですね。


 視点:???

 2000年七月―――多くにとってそれは突然だとしても、それは起こるべくして起こった。

 キリスト教恭順主義へと傾倒した国連議員によるG弾の実験およびその被害の実態の暴露。

 これにより米国内でのオルタネイティブⅤへの不信感とG弾脅威論が発生する。

 反G弾運用派…知る者にとって反オルタネイティブⅤ勢力が米国内にも生まれ、計画そのものを疑う声まで現れる。

 そしてこれを極東の魔女が見逃す筈がなく、即座に行動を起こし始める。

 ―――まさにこの時、世界の濁り水は流れる道を手にした

 ―――それもまた新たなる澱みへの僅かな延命だとして

『反オルタネイティブⅤ勢力が米国内でもG弾運用反対派の兵器局などの取り込みを開始しているそうだ』

『それに関してもこちらの計画に賛同し合同戦術機開発が承認された』

『それで?』

『アラスカのユーコン基地に試験部隊を設置する名目での防衛戦力の増加と試験候補機による実機訓練だな』

『反オルタネイティブⅤ勢力ともそう遠くない内に接触出来るでしょう』

『これで各国がG弾脅威論の下に連合体となる……皮肉ね』

『コジマ中佐の開発した技術についてだがあれは?』

『………膿の吸出しにでも使えば良いわ』

『改革にも等しい技術を膿の吸出しとは、なんともお厳しい』

『………今度の合同演習が終わった後に兵器局からコジマ中佐の副官代わりに優秀な人材を提供する』

『本気? 元斯衛が独断で人材を国連に寄越せるのかしら?』

『技術に対する足りない分と思ってくれれば良い、私にとって最善すべきは帝国の未来だ』

『それとこちらでもコジマ中佐がご指名した人物の演習参加をこぎ付けたがしかし何故”彼”なのでしょう?』

『さぁね……アイツ自身が”満足出来る相手”でも探してるんじゃないの?』

『まさか中佐は同性…』

『確かに女関係の噂は聞かないけど、まぁ全滅した連中の中にでもいたんでしょうね』

『あぁ副指令、実は私の息子の様な娘であり娘のような息子がそちらに……』

□□□

 再び通信による会話だけです
 いやこう言う型式のは楽ですね…書く側は

 7月26日ご指摘により誤字修正しました



[9853] 十話[人生経験は意外と宝]
Name: 博打◆ae18cf9e ID:047f63f1
Date: 2009/10/08 20:43
視点:コジマ
 初風搬入と伊隅ヴァルキリーズ十人の出会いはや数日……流石と言うべきか全員が”使える”レベルに到達している。
 当初は新型OSに対する適応の遅さや戦術機による滞空戦術に対する戸惑い、光線兵器や新型機のピーキーさへの文句。
 決して少なくは無いがそれでも無事に初風を乗りこなし原作で知るよりも確実に面々の実力は上昇している。
 これならば少なくとも”今年のBETA”には勝てても”来年のBETA”には勝てない、奴等はまだ戦術機を理解しきっていない。


「これは賭けだ―――今一度航空戦力を取り戻す代償として古い戦術機も全て巻き込んだ」


 BETAは白銀武がやって来るまでの一年間で確実に戦術機を【対抗戦力】と認識して攻撃優先度を塗り替えてくる筈だ。
 ここにいるA-01はまだ良い、世界中で戦っているエースと呼ばれる人種ならばなおの事【好都合】と言い切れるだろう。

 だがそうでない人種はどうなる?

 新兵・物資不足でまともな戦術機に乗れない奴・旧型に乗る奴のような人種にとって優先的に狙われると言うのは最悪に他ならない。
 現状では単機で国家戦力に匹敵するネクストもなく、ましてやそれを上回る【AF:アームズフォート】がない現状において戦力は一でしかないのに。
 乗り手の能力によって国家戦力に匹敵するネクストがあれば、苦しい戦いでもその力で周囲を護りながら戦う事は不可能ではない。
 AFのような……大多数の凡人によって安定した戦力として君臨できる巨大・桁違いの火力・分厚い装甲を兼ね備えた兵器は存在しないのだ。

 XM3にも限界は有る……どれほど努力しようと凡人は凡人に留まりエースにはなれない。

 そしてエースも不死身ではない、不死身のエースなんて……絶対に存在し得ないのと同じで


「我ながら外道だな―――惚れ惚れするよ」


 どれほど努力しようと量産性を優先させている戦術機は無数に対して一としてしか君臨し得ない、組まねば無数には対抗できない。
 今はまだ無数が戦術機よりも戦車などを狙っているから良いとして、狙いが戦術機に集中したとしてどれだけ凡人が粘れる?
 ネクストは数字で言えば平均して十万…俺が俺の機体に乗って数十万、AFは最高級の超弩級浮遊列車:グレートウォールならば三・四十数万くらい。
 だが戦術機はどれほど頑張ってもエースが百、凡人は十や一が数値として限界であり無数から狙われて生き残れる手段がある筈がない。

 戦術機の問題は前線での修理や補給の問題もあるが……光線級がいる戦場でどうやって修理と補給が出来る?

 グレートウォールは全長七kmを超える超弩級アームズフォートで大型炸裂榴弾をガトリング砲で撃ち出し、無数の多連装ミサイルを撃ち出す装甲列車。
 キャピラで全てを踏み潰しながら侵攻し、圧倒的な積載量に飽かせた武装で焼き尽くし、列車型と言う事を活かし内部に様々な小型戦力を積載しつつ蹂躙する化物。
 ゲームならば内部の積載部隊を別働隊が陽動したから良かったが……陽動に失敗した時の内部戦力はまさに動く基地として無数と言えた。
 しかもあれは内部戦力の修理補給から乗組員の慰安施設から生活施設の全てを兼ね備えた……まさに【地上最強】の動く要塞として君臨していた。


「造れれば……あれを造る? あの地上最強を? 一機製造するだけで国家予算がなくなりかねないあれを―――だが武装を……」


 とにかく問題なのは補給と修理……大多数の凡人と言う囮を造るにはその凡人を少しでも生かす必要がある。
 現在の発案としては装甲列車型にし、ありとあらゆる外壁に光線機銃を取り付け動力炉からの馬鹿げた電力の全てを機銃照射に廻す。
 AF本体の巨体さから高地射撃が可能であり、巧くいけばBETAを轢殺しながら近づく奴等を蜂の巣にし前線部隊を護りつつ補給する事が可能になる。
 光線級はエースによって優先的に排除させて安全を確保しつつ無数の全方位光線機銃による飽和攻撃で全てを撃ち抜く怪物が生まれる事になる。

 別の案としてはAF本体を超高出力エネルギーシールドで覆わせ、取り付くBETAを焼き殺し飛来する光線を同様のEシールドで防ぐ動く城砦。
 内部は全て前線での補給機能を優先させ積載量に任せてせめて二個連隊を積載しつつ戦える機動要塞と言うのがある種の理想とも呼べる。
 武装コンテナを射出しながら本体は動き続け無数のBETAをその巨体で分断・轢殺し、発進する連隊によって分断したBETAを撃破する。
 出来るならば治療班などを待機させつつ負傷者の救助などが可能になれば、囮になる連中を生かす事を出来る……囮は居て困らない。

 
 共通の問題は製造コストと維持コスト……これの運用に喰われる人材だ。


 だが確実に生き残れる要塞であり最初の案ならば動力炉が生きている限り電力による弾薬供給で絶えず飽和攻撃が可能。
 毎回の戦闘で艦隊の一つや中隊が喰われるのと比べ、もしこれならば損害なしで切り抜けられるかも知れない。
 それに実弾を搭載していない設計ならば消耗する物資の量もたかが知れているのも大きい、原作の佐渡島の悲劇は回避出来る筈。
 僅か一回のハイヴ攻略で日本の弾薬物資の半分を消耗するなんて馬鹿げている……数回と持たずに日本は枯渇して死ぬ。


「となると問題は各コストとこれ自体の指揮権に国家の切り札を預けられるだけの人材か……」


 小型に造りA-01の専属補給列車として造れば指揮権を香月博士のモノにし続けられるとしても、やはりAF自体の運用員の問題か。
 これに人材をそれだけ裂けば裂いた分だけ確実に他の部隊の数が減り、それだけ厳しい戦いが待っている事がない訳では無い。
 戦車隊の火力は特に捨てる訳には行かない……AFも所詮は【強力な個体】で数そのものの増加に繋がる訳じゃない欠点がある。
 

「いっその事…ギガベースのような量産型を数機生産すると言うのも手か、あの長距離射程ならば……」


 拠点型AFギガベースはキャタピラを装備しながらも艦船のように水上運用が可能であり、双胴戦艦と言うのがイメージだ。
 ゲーム中ではAF最高クラスの超遠距離から精確すぎる大口径二連装砲を主兵装に二連副装砲数機にミサイルランチャー数機。
 これが水上で戦艦・イージス艦・空母に護衛されながら侵攻する様はまさに大艦隊相応の光景であり、その迎撃と攻撃は熾烈と言える。
 これをスペックダウンさせ、スペックダウンさせたグレートウォールのようにすると言う方法もあるが、やはり費用が掛かる。
 グレートウォールと違い水上滞在と言う利点があり、その通常戦艦では不可能な積載武装で水上の彼方からBETAを実弾の風圧や爆風で薙ぎ払える。
 ちなみにフォーアンサーの特報ムービーではあのギガベース三機が陣形を組んで乱射しており、その総火力は下手な艦隊数個分に匹敵するだろう。


「現存の戦艦に大口径光線砲や光線機銃を積載させて即席AFと言うのも面白いな……」


 一番手っ取り早いのは現在損傷している戦艦を接収し、機関の一切を水素機関や核機関にしてあとは適当に大型光線兵器なんかを積み込む事だ。
 出来るなら艦首と艦尾に高出力シールドを設置し艦全体を包み込む防御と、出来るならば浮遊装置を積載し地上へと侵攻する事が可能な戦艦。
 あとは要塞級やそれ以下の小さなBETAの全てを焼き払い迎撃機構でとにかく撃ち落して貰えば僥倖と言えるが、補給関係が壊滅的だ。
 かと言ってこの世界の戦術機母艦はただの戦術機を運ぶタンカーだ……武装も沈められるからか機銃が数機付いているだけと質素なモノ。
 整備する機構もなければ補給する武器も満足に搭載出来ないモノを”母艦”と呼ぶのは滑稽だか光線級の前では確かに沈むのが前提なのかも知れない。

 キーボードに淡々と思い浮かんでは消えていく案の全てを書き込んでいく。

『コジマ中佐』

 入り込んだ通信によって手が止まる。

『ピアティフ中尉か、どうした?』

 ここに来てからピアティフ中尉には良くして貰っている。
 上に満足に出る事が出来ない香月博士や霞ちゃんの食事を持って来てくれたり、訓練での管制をしてくれたりと中々に優秀だ。
 まぁ優秀でないならば香月博士が秘書とかの仕事を任せる筈がなく、俺としても足を引っ張るような奴はいらない。
 正直言えば原作よりも俺からの情報で確実に苦労が減っているとは言え……油断など出来ないしする気もないがそれでもな。

 万が一にでも香月博士が倒れれば【その瞬間に人類が敗北する】

 そう言っても過言でない程に香月博士はマブラブの世界で重荷を背負っている…そしてそれは本人が思っている以上に精神を蝕んでいる。
 でなければ00ユニットの理論の間違いが最初の一点であると言う難しいからこそ簡単な現実に気付けない筈がない。
 過剰な期待かも知れないが間違いなく香月博士の手腕でなければオルタⅣが今日まで延命している筈がないだろう。
 俺が想像しているよりも香月博士の根は深い……帝国情報局を始めとしたそれが良い例であり、今回は帝国兵器局の重役にも届いた。

『至急A-01専用シミュレーター室にお越しください』

『事件か?』

『………本日は13:00よりA-01の訓練の予定です』

 ふと時計を見れば時間はもうゆっくり食事をしてギリギリと言った所である。
 腹が減って戦は出来ない……急いでAF計画を簡潔にまとめそれを香月博士の下に送っておく。
 俺の方は急いでレポートや書類が散らかっている部屋から今日のミーティングに必要なファイルを見つけ出す。
 何分忙しくてまともに掃除する機会がなく…全人類の強敵であるゴキブリもさぞ生活しているかも知れない。

 ―――やはり一人じゃあ研究なんかは出来ないか、せめて生まれた世界の皆や父さんがいれば……な。


 視点:伊隅大尉
 伊隅ヴァルキリーズは―――満身創痍と言っても過言ではない。
 理由は単純明快【古島中佐の訓練の厳しさ】であり神宮寺教官の厳しさとは次元の異なる厳しさだ。
 神宮寺教官の怒鳴り声や時として軽い体罰で事済まされるが、中佐の処罰の仕方はそれとはまったく異なる。

【えっと速瀬水月中尉……君はいったい大尉から何を学んだ?】

 それは最初に速瀬水月、伊隅ヴァルキリーズのヴァルキリー2のコールサインを担う数少ない先任での生き残りが失敗した時だった。
 失敗の内容は速瀬がジェネレーターの残量を確認せず混戦中の光線剣の使用によって残量がなくなり、完全な孤立の後に大破。
 ジェネレーターから供給される量は無限でもなければコンデンサーに納まる予備電力も決して多くないのは何度も言った筈だった。
 だが突撃尖兵と言う最前線を担える人材は、今は速瀬しかいない……速瀬をワントップに置きすえた危険な陣形を取るしかなかった。

【大尉もだ、君は速瀬中尉に危険な陣形を敷いているのを百も承知でありながらその体たらくを直せないのか?】

 あの時と同じ―――怒鳴るのではなく脊髄を凍らせる静かで通る声がただ静かに怒るのみ。
 神宮寺教官が怒るのは”怒鳴る”だがある程度すればその怒鳴るに対しても耐性が付き、受け止められるようになる。
 中佐の静かに怒鳴ると言うのはこちらの心まで見透かし貫いているような眼と共に内臓の隅々にまで静かな筈なのに響く。

 けどこれは違う―――いつ聞いても恐怖で真っ白になってしまう…怖さで全てを奪われてしまう。

 この恐怖はまるで初めての実戦で無数のBETAと対峙し包囲され、今にも怪物の形を持った死が私を食い殺そうと歯を鳴らしながら迫って来るような。
 全身に氷嚢を押し当ててもまだ足りないような身体の体温を奪い尽す冷気が肌に突き刺さり全身を巡る血が冷え切るのに、冷汗ばかりが無駄に出てくる。
 中佐の氷の様な視線と身体から放たれている殺気が容赦なくこちらの精神を削ぎ落とし、視界を霞ませ身体の直立を赦さない……手足が笑って立っているのも辛い。
 それが全て、ただ怒鳴るだけならば誰にでも出来るが”静かに怒鳴る”なんて事を出来るのは間違いなく中佐だけ。
 私達の事を思っての事であっても決して殺気を緩めず、ただ殺気を放ちながら問い詰めるだけなのに。

【申し訳ありません】

【謝りなんぞ聞いてない…私が聞いているのは具体的な訂正案と出来るか否かだけだ】

【いっ今のは私が残量を確認せずに光線武装を使ったのが原因です! 大尉は悪くありません!】

【わっ私達の支援も問題がありました!】

 自然とこうなると階級も年功序列もなくただ何が問題で、誰がどう問題であったかを指摘しあう。
 中佐はその間は黙り続け私達の問題の指摘やそれに対する訂正案を聞き続け、纏まった物を聞く。


【ならば強襲尖兵の一条少尉と神村少尉の支援の薄さと速瀬中尉の機体に関する熟知の無さが問題
  改善点は部隊そのものの味方への支援をもっとしっかりする事と機体と武装への見解を深める
  出来ると思うならやって見ろ、ある程度したら私が光線回避などの見本を見せるので用意しておけ】


 そうして私達は再びシミュレーター訓練を再開し、中佐の指摘が入る度に再度お互いの動きを指摘しあう。
 この時になって良く解るのが自分の事だけでなく他人の動きをどれだけ見ているかがすぐに判ってしまう。
 たとえば一条のポジションは強襲尖兵でエレメント(二機編成)の相方である神村を良く見ているが、自分の事はあまり見れていない。
 味方を気遣うあまり自分への攻撃に対し反応が遅れる事で、咄嗟の判断が遅れ撃墜されてしまいそのまま一条も撃墜される。
 速瀬は腕は良いがまだ機体への慣れが悪い所為で跳躍分の電力すら残せず孤立しかけ全体への負荷が格段に増えてしまっている。
 打撃尖兵の葛城は支援速射砲の消費が激しく、逆に突撃砲などの接近用も武装の消耗が少なく元々弾薬の少ない80mmをすぐに使い切る。
 制圧尖兵の渚は弾薬全体の消耗が激しいが支援はしっかりしている……だがやはり弾薬の消耗率は部隊一で射撃支援がすぐに尽きてしまう
 砲撃尖兵の穂波は弾薬の消耗よりも後衛組みの前線と言う事を気負っているのか長刀による接近戦での敵の陽動が非常に目立つ。


【今日はここまでにしてこの後は座学に変更……私から直接機体の説明をさせて貰う】


 対して中佐は自分なりの修正点を教え、それに対する私達の意見を一つ一つ丁寧に聞き取ってから更なる修正案を出す。
 ある時は自ら戦術機を動かし武装とポジションを自在に変えてからその動きと言うのを見せて納得させる。
 中佐の本来のポジションは突撃尖兵……だが中佐はどのポジションだろうと凄腕と呼べる実力を見せつけこちらの自信を奪っていく。
 そして座学ではしっかりとした説明とまたこちらの意見に対してもしっかりと考え自らの見解や考えを答えていく。
 たとえそれが階級を無視した口論や口調になろうと中佐は何も言わず、ただお互いに話を続けるだけ。


【では本日の改善すべき点をまとめ明日には提出するように……忘れた場合は問答無用で飯のおかず一品抜きとする】

 最初は何故?
 そう思ったが甘かった……要求してくるレポート内容が非常に難しいのだ、生易しいなんてものじゃない。
 そして一番初めに速瀬が間に合わず、結果として不提出として処理されおかずを一品抜きされた。

【……だからこの時点でのOSの差は反応速度とフィードバックデータによる特異的な回避運動の優位性は―――速瀬中尉ッ!!】

 あまりの空腹から座学中に転寝していた速瀬の額にヒュッ! と風を切る音と共に一本のチョークが投擲され見事に額を直撃。
 そこから一時間あまり地獄の様な説教が続き、その間に更にレポート提出を命令されもし提出し損ねればおかずが二品もなくなる。
 ひたすらに空腹による悪循環を要求し、その為ならば手段をいとわない。

 簡単に言えばこちらに常に後はないと、背水の陣を強い続けさせる極限状態を作り出し続ける地獄。

 中佐の訓練の厳しさは大切な事などにはおかずをそのまま人質として強引に訓練などを行わせる事だろう。
 食べ物の恨みは何より恐ろしい、だからこそそれを人質に取り平然と階級権限を使ってこちらの好物などを掠め取っていく。
 既に速瀬は失敗によって一度食事のおかずを一品抜かれた所為で訓練に対する真剣さは今まで以上だ。
 ときおり乾いたような笑いを漏らしながらおかずの一つ一つを味わって食べるようになった……良い事なんでしょうけど怖いわね。

「今日もある…今日もあるわ」

「速瀬先輩が食事の度に怖いです大尉」

 言っちゃダメよ渚…貴女は抜きにされた事がないから解らないでしょうけど、抜きにされるのは異様にキツイのよ。
 私もレポートをまとめ切れずに一度好物の生姜焼きを抜きにされたけどその時の辛さと悔しさは今も忘れられない。

「そもそもあの中佐の訓練厳しすぎなんですよ! 神宮寺軍曹のが可愛く見えるなんて」

「私達のも急に教官の訓練が厳しくなったけど古島中佐が原因だったんだねぇ」

「………でも確かに強くなっている事が判る」

 それに関しては同感出来る、中佐の訓練は全て実戦を考慮に入れた訓練であり極端なまでに辛く苦しい。
 だが代わりに見返りは大きい、確実に自分が強くなっていると言う事が理解できしかも隊の連携も訓練の度に深まっている。

「中佐と実機で戦うのはもぅ勘弁して欲しいです」

「戦闘で欲求不満を解消する速瀬中尉はむしろもっとして欲しいのでは?」

「宗像ァ!」

「と、渚少尉が言っておりました」

 年功序列も無く騒ぎあう…この関係がいつまでも続いて欲しいと思う。
 だけど実戦になれば確実に誰かが死んでしまう…今まで実戦で死傷者なしで乗り越えて来られなかったように。

 でも中佐は違う―――【死なす気など毛頭ないよ】

 BETAとの実戦を知る衛士にとってこの言葉は軽々しく言えるものなんかじゃない。
 むしろ不可能を遠回しに言っているに等しいのに中佐は真剣な顔でこの言葉を述べた。


「おやおや……麗しき乙女達から嫌われるとは、私も中々だな」


 騒ぎの合間に中佐がすぐ隣までやって来ていた…隊の誰も気付いていなかったと言う事は気配を消していたのですね。

「敬礼はいらない、食事の時まで堅苦しくされたら面倒だしな」

 トレイにラーメンセット(半チャーハン)を机に置き、湯気で眼鏡が曇ってしまうのか眼鏡を取りすぐ傍に置く。
 いつも不思議ですけど中佐は眼鏡を掛けないと本当に三十歳とは思えない程に素顔は若く見えてしまいます。
 そしてトレイと一緒に置かれたレポートの中身が昨日の反省点などでなければどれだけ良かったでしょうか。


「今日はこの一週間の集大成の発表と我々が対決する事になるのであろう帝国軍の手に入った限りの情報の公開だ」


 そう言って放り投げられたファイルを開いてみれば今回の合同演習に参戦するであろう帝国衛士達の名前と機体が書き込まれている。
 帝都守備第一戦術機甲連隊:沙霧尚哉大尉【要注意人物:光州作戦の生き残り】と書かれているがあの光州作戦の生き残りが相手。
 本土防衛作戦以外で帝国と国連が味わった絶望と悲劇が光州作戦であり、光州作戦では綾峰中将事件と呼ばれる事件もあった。

 現地市民の脱出支援の為に綾峰中将が大東亜連合の支援要請に答えた結果……国連司令部が陥落し大損害を被る事件。

 綾峰中将は体裁の為に銃殺刑となり、その綾峰中将の命によって護られた体裁などを護る為に真実すら闇の中に消えてしまった。
 中将が残した名言『人は国の為に成すべきことを成すべきである・そして国は人の為に成すべきことを成すべきである』
 あの事件はごく一部か現地の事を知る人間しか真実を知りえない、この沙霧大尉もそれを知っているのだろうか?


「まぁ言っておくが俺達に敗北は許されない―――命令はただ一つ”勝て”だけだ」


 ラーメンの麺を啜りながらそんな事を言われてもまったく説得力がありませんよ、中佐。

「あの中佐…」

「何だね、渚少尉?」

 大盛りであった筈のラーメンセットをいつのまにか中佐は食べ切ってしまっていた。
 もしかしてあの時の麺が最後の一口だったのかしら?
 しかしこの新任の渚は私達の中で間違いなく一番中佐に惚れ込んでいる…好意ではなく尊敬として。

「中佐の訓練なんですけどやはり中佐の教官が……」

 渚の質問に対して中佐の顔に影が差し込む。


「あぁそうだ、俺達の教官は俺以上に厳しかったがほんの少しだけ優しくてそれに強かった……桜のエンブレムも受け継いだ奴だ
  いつも厳しくて優しさなんてない冷血女と皆言っていたけど実戦で苦しくなった時に『勝手に死ぬな―――色々と無駄になる』
  そう言ってくれたんだ、自分達の訓練を面倒だ、面倒だと言いながら罵倒していた教官が俺達に”死ぬな”と言ってくれたんだ」


 その言葉は悲しさで一杯だった…目元にも微かに涙が浮かび苦しそうだった。

「……その人は」

「本土防衛戦で戦友と一緒に死んだ、俺だけ負傷し後方に護送されながら俺は歪む視界で友軍が…皆が死ぬのを眺める事しか出来なかった」

 心底辛そうに言葉を紡いでいる。
 本人にとってその本土防衛戦は戦友も教官も家族も全て失った大き過ぎる傷跡の筈なのだ。
 軽々しく語れる筈か無い、下手に語れば語るほど辛さが蘇えり中佐の精神を蝕んでいるのだから。


「今でも後悔してる―――あの時にあれ(新型OS)があれば! あれ(初風)があれば! きっと…きっと何かが違っていたんだよ」


 握り締める拳から血が流れている、強く握り締めすぎているのだ。


「もう俺は俺の目の前で”誰も”死なせたくない、これ以上寝覚めと夢見が悪くなるのはご免だしな」


 空元気とばかりに見せた笑顔はとても脆く見えた。
 きっとこの人は虚勢に生きているのだと、そして殺意の奥に誰よりも仲間と部下を大切に想う心があるのだと。
 そう私は想いながら目元に涙を微かに浮かべる中佐の笑顔を見ていた。


□□□□

 8月10日になってやっと加筆修正……良くなったか心配です



[9853] 十一話[帝国と国連の演習]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/10 23:33
 視点:コジマ
 新潟での帝国との合同軍議演習、帝国も新潟がこの日本の最前線と言うのは理解しているらしい。
 実機による手合わせ程度の演習である今回は演習と言う名の派遣であり、ペイント弾などの装備機はおそらく全体の一割にも満たない。
 まぁこっちのA-01もペイント弾の弾倉以外にも運送車輌に実弾を搭載させた武装コンテナを運搬させている。
 双方の演習部隊が準備している慌しい場所の真ん中に作られているテントの下で初めて実物の本人と対面する。

「こうして顔を合わせるのは初めてだな…帝国陸軍中佐・技術廠第壱開発局副部長の巌谷=榮二中佐だ」

「国連太平洋方面第11軍・横浜基地所属・古島=純一郎中佐…まったく何処の極道者ですか貴方は?」

 通信でしか知らなかった、かの伝説の開発衛士巌谷中佐の外見は顔にデッカイ傷を持つ渋い小父さんだった。
 確かマブラブ外伝の登場人物の一人で……

「かの伝説…撃震の改良機である瑞鶴で当時の最新鋭のF-15を撃破した凄腕の斯衛は今も性能が全てではないと言う事の証明
  優れた戦術眼と勘を持ち合わせ今も帝国の切り札として鎮座している貴方が……要求したとは言え、まさか直接来てくれるとは驚きです」

 第一世代に毛が生えた程度…とは言い過ぎかも知れないがとにかく撃震を強行改造した機体で当時最新鋭機の陽炎を撃破。
 実力から言わせれば間違いなく当時でも屈指の実力者であり現在はその道の熟練として兵器開発に携わっていると言う事らしい。
 事前に香月博士から教えられて良かったがこれでもし、巌谷中佐の事を全く知らなかった暁には帝国衛士から何をされていたか。

「しかし……思ったより老けているな、中佐は」

 この世界に来て初めて【若い】ではなく【老けている】と言われて内心喜んでいる俺がいるが享年25歳なので少し複雑だ。
 しかしそういう巌谷中佐も年齢を感じさせない人であり、全身から歴戦の雰囲気や眼からはこちらを品定めしている視線が放たれている。
 俺の事を喰えんとぬかしていたが、自分の方がよっぽど喰えんだろうに…俺の一件で自分の計画を推し進めたのも策士の片鱗だろう。
 国連のぽっと出の俺が瑞鶴よりも確実に高性能と言える鎧心を提出し、挙句の果ては計画していた不知火の改良すらしてしまった、されてしまった。
 これを国連嫌いの連中や今まで開発に困っていた連中が黙っている訳がなく、俺に負けないと理由から賛同者増加で計画は無事採用されたらしい。

「君のおかげで私の計画も採用されたよ……帝国でも高い金を払って手に入れた物と開発局の皆が躍起になっているよ」

 ……それで初風が九機も同時投入出来た訳か。
 人の研究物をあの口調からだとかなりの値で吹っ掛け、お得意の挑発などで買わせたと言うのが正しい流れだろうな。
 光線兵器を初めとした新兵器はまだ安定した生産ラインや成果を挙げていないのによくもまぁ平然と九機も追加とは…そうとう吹っ掛けられたな。

「良い気付け薬になったのではないのですか?」

「その通りだよ…一部では国連の技術は米国の犬だとか、米国の犬の技術は、と煩くてかなわないよ」

「なんと器量の狭い……面倒は大変でしょうに」

「まったくだよ」

 予想以上に国連も嫌われているな……まぁ米国が日本に行った無差別G弾爆撃の強行や条約の一方的な破棄を考えれば当然か。
 どうしてやる事なす事を全部【米国の犬】と文句言われたり否定されたりするのは正直気分も良くないが、気持ちも解らなくはない。
 だがそれでもあそこで日本の事を想い戦っている衛士はいる、帝国だけが日本の事を重んじているなどと考えているなら見当違いも良い所だ。
 まぁある種の極致があの沙霧大尉のクーデターなのかも知れんが……

「現在国連軍は広範囲に展開しBETAの万が一の襲来に備え防衛戦を構築中、演習部隊もあと少しすれば準備が完了
  武御雷と初風……この演習を持って私の発明を馬鹿にした貴方達兵器局の眼を覚まさせてやるとしますよ」

 これは技術屋としての今の俺の本音でもあり、微笑みながら巌谷中佐への助言と援護も兼ねている。
 巌谷中佐はこちら側の人間であり巌谷中佐は俺の発明を推薦している側の人間でもあり、俺が勝利すれば推薦している人間が有利になるのは当たり前。
 ましてやかの最強の第三世代とまで認知されているような武御雷を倒す事が出来れば、それだけ初風の価値というのも上げることが出来る。
 無論相手が八百長をするような人間ではないし、俺としても純粋な殺し合いで勝つほうが優性を謳うのに都合が良い。

「それは頼もしいが同時に私達も負ける為にここに来ている訳では無いのでな……勝たせてもらうよ、古島中佐」

「それはこちらの台詞です、巌谷中佐」

 通信でよく話している所為か話が気持ち良いくらいに通じる。
 話が判る技術屋というのは好きだ―――だが相手はこの世界屈指の実力者とそれが選び出した精鋭部隊。
 なによりの障害は俺自身が選び出し、そして後の未来を大きく書き換える為に引き抜く人材だ。


「巌谷中佐、篁中尉から準備が完了したので指揮車輌にお戻りして下さいとの事です」


 噂をすれば影!
 俺の目の前に現れた眼鏡を掛けた青年より少し上の男こそ、オルタ最強衛士の一角でありクーデターの首謀者。
 かの彩峰中将と深い親交を持ち、その娘でありこの物語の重要人物の彩峰慧に手紙を送り続けていた彩峰家と親しい男。
 今回の演習も全てはこの男をこちら側に引き込み手に入れる為の一種の隠れ蓑であり、クーデターの元凶の一つを断つ為のモノ。

 ―――実直で愚直なまでに真っ直ぐで軍人な男、沙霧尚哉大尉

『古島中佐、こちらも準備が完了したので至急お戻りください』

 左耳に着けておいた通信機からこちらも演習の支度が済んだと涼宮中尉から通信が入る。
 だがすぐ帰る訳にはいかない……この目の前の男へ少し釘を打たねばならないのだからな。

「【人は国のために成すべきことをなすべきである・そして国は人に成すべきことを成すべきである】」

 唐突に漏らす俺の言葉に予想通り沙霧大尉は敬礼状態のまま俺を睨むが、それでも階級は俺が上であり相手は中佐だ。
 軍人としての自覚はあるらしく、睨みこそやめたがそれでも【国連が】と言いたいばかりに威圧感などを放ってくる。
 だがそれは甘ちゃんの領域を出ない人間の威圧であり、殺しに慣れた俺にとってそれは微風に等しいくらいに軽い。

「彩峰中将は人としてその命を持って国を繋ぎ止め、命によって繋ぎ止められた国は懸命に生き長らえ人を生んでいる
  榊首相は彩峰中将から託された命を自らは泥水を啜り・侮蔑や嘲笑を浴びせられようと誓いを下に人として国を護っている
  ならば我等軍人は人として……何を成すべきで、軍隊は国として何を成すべきなのだろうか?」

 榊首相は土下座してまで彩峰中将を説得し、中将もその意味を理解し自らの命を持ってこの国を守り抜いた。
 そして今もなお理解されずとも懸命にこの国を護る為に粉骨砕身の如く自分に出来る事をただ成し続けている。
 だが理解されずに目の前の男に一方的な理由で殺される相応の終わりが待っているが、今回沙霧大尉にはそれを辞めてもらうつもりだ。


「惨劇の地である横浜の異常な大地の影響を自らの身を持って調べ上げ、世界にその悲劇と悲痛さを叫ぶ者達
  人類の反撃の証として国に微かな希望を持たせ、今もなお繋ぎとめる為に命を賭している者達
  帝国の義があれば国連の義があり、その懸命な義憤すら国連と言う枠組みの中と言うだけで侮辱され否定される」


 ―――悲しいな


 そう背を向けながら言い放つ……特に最後の【悲しいな】は力を入れて小声でも確実に聞える声で言った。
 沙霧大尉としても俺が言い放った言葉に対して頭ごなしに否定など出来る訳がないだろう、その為の中将の名なのだからな。
 まぁこれで階級なんかを無視してそれでもこちらの意見を国連だからと否定するような器の小さな男ならば“消えてもらう”つもりだ。


「では巌谷中佐……時代の新しき風を担う戦乙女の勇姿をとくと御覧下さい」


 後姿を向けたまま俺は伊隅大尉達が待っている国連テントへと向う。
 既に見上げる視界には俺の初風も起動しており、合計十機の初風が帝国をモノも言わずに見つめている。
 対する帝国の演習部隊は見える限り陽炎十二機の一個中隊・沙霧大尉の不知火を含む十機……って、おいおい全力すぎだろう!?


「赤一・白三・山吹一の計五機の武御雷に黒の瑞鶴一機―――本気で潰しに来たな巌谷中佐!!」


 帝国にも意地はあるがよもや真紅の武御雷に僚機の純白の武御雷三機と言うことは【第19独立警備小隊】の筈。
 あの沙霧大尉を打ち破り驚異的な力量を見せ付けていたトップクラスの帝国斯衛の衛士である月詠真那中尉とそれに鍛えられた白の三人組。
 しかもそれに山吹色も追加され最終的には黒色で偽装しているつもりなのかも知れないが間違いなく巌谷中佐が出てくる。

「神宮寺軍曹を連れてくるべきだったな」

 後悔してももうどうにもならないが、巌谷中佐の意気込みを見せ付けられ内心不安が膨れ上がりつつある。
 トップクラスの衛士が三人に機体性能面での優位はあっても衛士自体の性能ではあちらに分があるのは明確だが…どうにかなるだろう。
 気分を入れ替えさっさと指揮車輌に入り込む、向こうの初戦の相手である陽炎中隊はこちらを待っているだろう。

『武御雷五機なんて腕が疼くわねぇ!』

『戦う前から欲求不満ですか? ぜひとも頑張ってもらいたいですな』

『まったくだ、速瀬にはしっかりと武御雷を抑えてもらわねばならないな』

『大変ですね、速瀬中尉』

 ちらほら聞える通信に涼宮中尉が微笑みながら俺の方をむいて何となく申し訳なさそうな顔をする。
 通信機から聞える通信が怯えているようならば激励の一つでも言おうかと思ったが随分と意気込んでいるらしい…心配いらずだな。
 先任の四人はもうBETAとの実戦を体験し充分な実機訓練も行っているのだから、この位の意気込みは当然だろう。
 気迫で負けるような面々だとは思っていない、それにこちらにも史実通りならばトップクラスが二人いるのだから質では負けていないはず。

『よりにもよって初めての実戦が帝国の武御雷なんてないよぉ』

『大丈夫、大丈夫! こっちには先輩達に中佐もいるんだし』

『……神村、楽天過ぎだよ』

『中佐と先輩達がいれば負けなし! それにこっちは中佐の傑作に乗ってるから絶対に負けないよ』

『渚ちゃん落ち着いて、まずは目の前の数の多い陽炎を倒す事を考えないと』

 新任達は予想ではもっと泣き喚いているかと思ったが、むしろ逆に俺や大尉達の強さを知って気楽にしているらしい。
 確かに神宮寺軍曹に鍛え上げられ伊隅大尉達にさらに磨き上げられれば実力も自信も立派につくものだ。
 九人中八人が既に撃震や不知火など撃破出来る心積もりであり、残り一人である穂波少尉はあくまで目先を確実に倒す心積もり。
 良い感じで出来上がり始めている前線での氷嚢……燃え上がりやすい面々を冷やして冷静さを取り戻させられる才能は貴重だ。

「どいつもこいつも余裕だな」

「中佐の特訓に新型機とOSを信じてるからですよ」

「だが目の前をもう少し見なければな、敵は帝国だ…衛士の質は互角だろう」

 傭兵経験から決して俺は過小評価をしない……能ある鴉は鷹すら容易に殺せるように。
 かつて伝説とまで謳われたレイヴンがネクストへと乗り換えた際に彼のリンクスとしての才能の無さから誰もが彼を時代遅れと嘲笑した。
 だが彼は……アナトリアの傭兵は周囲の嘲笑をよそに時代遅れの力で次々と新世代を撃破し壊滅へと導いていった。
 新世代のことごとくを叩き潰し、同じ古い世代の傭兵ジョシュアと共に全ての国家を滅ぼした六つの企業の二つを壊滅させた。
 それと同類の存在が巌谷中佐であり彼があそこまで本気ならばあの演習部隊は彼が知る限りの最精鋭で構築されている筈だ。

「余裕があるのは良いが……敵の大将はあの巌谷中佐だ、それが選びぬいた連中相手に手を抜いて良い道理はないぞ」

「……はい」

 指揮車輌に増築されている更衣室でパパッと軍服から強化装備に着替え、軍人の私から傭兵であり殺し屋の俺に全てを切り替える。
 罪悪感も持ち合わせず、相手が女子供…たとえ赤子であろうと任務成功の為に躊躇う事無く引き金を引ける存在に自分を入れ替える。
 戦いに情念は必要ない、必要なのはどこまでも目的に対して辿り着ける道を見つけ出す事だ。
 それが友軍を見殺しにする事になろうと、僚機を殺す事になろうと、求められるのは作戦の成功ただ一つ。
 演技するのは嫌いではない……それで多くの役に立つ奴等が勝手に盾になってくれるならば儲け以外に他ならないからな。

「相手のクロス中隊から催促が来てますけど……」

「【武人には静かに相手を待つ気概もないのか、勝ち易いものだな? 羨ましいよ】とでも伝えておけ」

 生憎こちらは匪賊よりも堕ちた場所で暗躍を続けている外道だ…綺麗な武士様ほど真面目ではない。
 かの宮本武蔵も佐々木小次郎に確実に勝つ為にあえて決闘に遅刻し、相手の心を大きく乱す事で勝利を掴んだのだ。
 それ以外でも決闘場に数日前から潜伏し相手を不意打ちすることで勝利するなど、最強の二刀流の極意は【過程】ではなく【結果】

 ―――【過程は関係ない、最後に立っていれば!】

 本人とは戦った事はなかったがアンジェのW月光とあの台詞は、いま思えば女宮本武蔵というべき人だったのかも知れないな。
 そしてあれの弟子であり大切な人であった俺の剣術の師匠である真改もまた、宮本武蔵と呼んでもよかったのかも知れないな。
 ゲームではお目にかかれないらしいが……本気になった真改はW月光に加え背中に大型の追加ブースターを引っ提げてくるので大変手強い。
 瞬間最大速度が2000kmオーバーの超音速で何の躊躇いも無く踏み込み、一瞬を持って敵を斬り捨てる様はまさに剣豪。

「この世界の剣豪は紅蓮大将・御剣冥夜・月詠中尉くらいか…もう少し剣術相手が欲しいな」

 正直剣術に長けている人材など御剣冥夜か月詠中尉とか位しか思いつかない……記憶力が悪い。
 むしろ紅蓮大将が本当に剣豪であるのか正直定かではない、だが接近戦に長けた武御雷に乗る人物で接近戦が弱いのは話にならないだろう。
 乗る機体の特性と設計思想を理解するのは乗る人間として最低限の責務だ、重量機で機動戦を仕掛けるのは相当の力量か…馬鹿にしか出来ない。
 作戦や勝つ手段として取られるとしても、成功させれるのは間違いなく一部の運や適正のある人間だけで失敗の方が多いだろう。

「では涼宮中尉、先日説明した統合処理システム【セラフ】と一緒に戦闘管制をよろしく頼む」

「了解です、中佐」

<そういう君も負けない事だ…敵の戦績はいずれも実戦を潜り抜けて来た猛者と呼ぶに相応しいのだからな>

「実戦経験の差は機体の性能と連携で穴埋めすればいい」

 随分と生意気な口を利くようになったセラフの言葉に同じく実戦を潜り抜けてきた男として言葉を返しておく。
 そのまま指揮車輌を降りてすぐ傍に待機させてある自分の初風に乗り込み、機体を起動させる。
 網膜投影に切り替えられ、視界に映る様々な情報に眼を通し、機体の通信回路を開き各機との通信を開く。

『遅いですよ中佐!』

「相手側の責任者と話していたら長くなってな、歳を取ると話が長くなっていやになるな」

『その相手の責任者とは何者なのですか?』

「……帝国兵器局の巌谷中佐だ、伝説の瑞鶴乗りと言えば解ると思うが」

『!?!?』×10

 日本の衛士ならば誰もが知っているであろう紅蓮大将と知名度ならば互角と言える人物であり、実力としても間違いなくトップクラス。
 第一線を退いているとは言え実力が錆び付いているとは考えられない、むしろこの数日間でこちらと同様に磨き上げてきた筈だ。
 こちらの優位は機関から何から新軸で造られている初風の優位性と新型OSの柔軟性を活かさねばそうそう簡単に勝てるとは思えない。
 負けるなんて事になれば香月博士からどれだけ陰湿に責められるか解らないだけでなく、俺自身の発明を馬鹿にした連中を見返すことが出来ない。

「目の前の陽炎十二機は前座だ……とっとと叩き潰して武御雷からこっちを見下している連中に一泡吹かせるぞ! 良いな!?」

『ヴァルキリー1・伊隅、了解!』

『ヴァルキリー2・速瀬、了解しましたよ!』

『ヴァルキリー3・宗像、了解です』

『ヴァルキリー4・風間、了解です』

『ヴァルキリー5・一条、了解です中佐』

『ヴァルキリー6・神村、蟹のように吹かせてやりますよ中佐!』

『ヴァルキリー7・葛城、了解しますけど6は緩みすぎだよ』

『ヴァルキリー8・渚、了解! 中佐と私達の力を見せ付けます!』

『ヴァルキリー9・穂波、用心しながら了解です』

 現状で俺入れて十機の初風が戦闘体勢に入り、待ちかねたとばかりに帝国の十二機の陽炎が陣形を取り武器を構える。
 巌谷中佐が選びぬいた本気の演習部隊と言うだけあって布陣に隙や歪みが見当たらないのは、流石帝国の精鋭とも言えるか。
 だが隙がないならばまずはその一角を崩し自らの手で相手に欠点や隙を作り出せば良いだけだ…情報通りならば迎撃後衛の一機が指揮官。
 戦闘管制のCPが乗った指揮車輌は撃破出来ないので真っ向勝負による戦術機による落し合いであり殺し合いになる。


「大尉! これは実戦と思って欲しい! ……指揮権は伊隅大尉のまま、俺は指揮が苦手でね」

『了解しました! 隊規復唱!!』


 この世界でぜひとも聞いておきたかった伊隅ヴァルキリーズの隊規。


 【死力を尽くして任務にあたれ】
 【生ある限り最善を尽くせ】
 【決して犬死するな】


 十人の乙女が復唱するこの部隊の隊規であり、彼女達の戦場で決して忘れてはならない心得。
 聞いた瞬間に鳥肌がたった……心の奥底に突き刺さり身体を突き動かすような覇気に溢れた言葉。
 機体の操縦桿を握る手に不思議と力がこもり、普段よりも身体が冴えている気がしてならない。

 ―――これが本物の隊長か!

 不思議と俺も、もう歳に合わない……新兵時代を思い出してしまうじゃないか。


『よし! ヴァルキリーズ、続けぇ!!』


 伊隅大尉の言葉によって九機の初風が飛び立ち、それが演習の開始を告げるゴング代わりとなった。



「さて…俺も行くか……ハスラー・ワン、古島! 目標を排除する!!」



 セラフを使い、最強を名乗った以上はやはりこのコールサインがしっくり来る。

 OBを使い一気にヴァルキリーズの先頭を奪い取り、敵の先陣を務める突撃前衛の陽炎に一気に迫る。

 帝国史上に残る惨敗の記録を……残せるよう尽力するとしようじゃないか。

 そして俺の発明の力を帝国の生贄部隊の方々に痛感してもらうとしよう。

□□□□

 やっとやって来た実戦
 そして本気の中佐同士の対決
 陽炎部隊の方々に黙祷をお願いします

 描写が出来ているか見直しても不安でなりません

 8月10日 ご指摘により修正



[9853] 十二話[風が吹くとき]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/05 09:11
 視点:コジマ
 ついに始まった帝国との実機を用いた限り無く実戦に近い形式で行われる合同演習。
 そして演習の名を借りた次期主力戦術機の戦力評価試験でもあるこの戦いは決して負けられない。

「ハスラーワン、インレンジフォックス3!」

『ヴァルキリー2、インレンジフォックス3!』

 初風のOB、時速900kmと言う通常では考えられないような最大噴射で敵の前衛四機の中央に入り込む。
 G緩和ジェルなどが存在しない戦術機でこの速度を出すとかなり加速時と減速時の二重のオーバープレッシャーが身体を押し潰さんばかりに襲い掛かる。
 敵さんは戦術機でこれほどの速度を出した事に戸惑い、さらにこちらがそのままこの速度で後衛を強襲するとでも思ったのか中隊全機が減速および停止した。
 そこを手の平を返して前衛の四機の丁度ど真中でOBを終了させ腰に付けられている可動噴射装置で慣性と速力を殺し、強引に減速する。
 かなり強引な減速に身体が襲い掛かるGに軋む、強化装備なしならば骨の一本や二本が壊れるかも知れないかなり大きなGだが意識は繋がっている。

 ヴァルキリー2:速瀬と共にお互いの背中を預け360度回転しながら36mmを一弾倉使い切るように連射・連射・連射の弾幕。

 旧OS特有の硬直により今だ減速と停止によって動きが止まっている前衛の陽炎四機にとってまさにこれは強襲であり奇襲、回避不可能と言えた。


「オフェンスのキル4……脆いな」


 硬直で防御も出来ず、支援すら受けられない陽炎は無数の36mmの直撃によって、実戦ならば管制ユニットの中で原形すら止めず死んでいるだろう。
 現に直撃を何の抵抗も出来ずに貰った陽炎はペイント塗れであり、さらに実戦形式なので機体の制御がCPによって強制的に切られ戦場に無様に横たわる。
 今回の演習は撃墜判定が出れば強制的に操作が不可能となり、さらに強化装備が異常に伸縮し【死んだ痛み】を再現し敗北の現実を色濃くする。

『ヴァルキリーマムよりハスラー1・ヴァルキリー2! チェック12・フォックス1! 散開してください!』

 CPのヴァルキリーマムである涼宮中尉から12時方向への警告および敵からの砲撃が散開の必要性があると言う事が告げられる。
 即座に速瀬は左・俺は右へと機体を飛ばせ、その一瞬の警告がなければ俺と速瀬はまさにそこに居たであろう場所へのミサイルの猛攻で死んでいただろう。
 流石は特務隊のCPでありオペレーター……良い眼と勘をしている―――この部隊はオペレーターに恵まれているらしいな。


『一条(5)と神村(6)は速瀬の背中を護れ! ヴァルキリー1、フォックス2!』


 既に前衛を全機失い、部隊そのものの壁を失ったクロス中隊残存9機は後退噴射を行いつつ36mm・120mm・自律誘導弾(ミサイル)で弾幕を展開。
 だが中距離での36mmは予想以上に弾がばらけ易く、勢いが殺され易いので思った以上に中距離戦では役に立たない…それでも当たれば死ぬ。
 装甲の分厚い撃震ならばともかく装甲が薄く機動性と反応性に特化した不知火ではバラけた36mmですら最悪装甲貫通によって大破の危機が待ち受けている。
 速瀬の突撃尖兵は光線剣を一基無くした代わりに腕に重火器を持つ際にも邪魔にならないような多目的追加装甲…実盾を持っているので突破出来る。
 発射されこちら目掛けて一目散のミサイルを迎撃、撃墜判定を受けたミサイルは推力が強制的に停止させられ、更地の地面に大きな音と共に横たわる。

「ハスラーワンよりヴァルキリーズおよびマムへ、フラッシュ1で敵フォーメーションをブレイクさせる!」

 あいにく俺の機体は盾を持つ分の積載量をカラサワに廻しているので、目の前の36mmと120mmの弾幕を正面突破するだけの防御力が無い。
 さらに流石に敵も本腰を入れ始めたのか左翼へと回り込み砲撃と突破を試みている速瀬・一条・神村を巧く寄せ付けず、弾幕を展開しつつ距離を開いている。
 右翼で単機戦闘を行っている俺にとって左翼と正面の伊隅達の五機への火力が集中しなければ、近接戦闘す敵わない現状なのが歯痒い。

『ヴァルキリーマム了解、セラフより敵機行動予測データを送信します』

「全機聞えたな! 涼宮からの敵機行動予測が送信され次第行動を開始、中佐の砲撃に巻き込まれるな!」

『了解!』×8

 【フラッシュ】は光線兵器を使用する際のコールサインであり、特にカラサワは遠距離の1・中距離の2・近距離の3のどの距離でも使用出来る。
 しかしその貫通力と威力から射線に味方が重なると使用出来ないと言う大きな制約があり、その為にカラサワはフラッシュ1とコールするのだ。
 以前シミュレーター訓練中使用したのは良かったが廻りこんだ速瀬機を巻き込み誤射によって速瀬は蒸発して戦死すると言う悲惨な最期を造ってしまった。
 それ以来から光線兵器は威力はあるが乱戦中は味方の誤射の危険性を持つ武器としてヴァルキリーズ内でも安全な使用法が検討されている。


<セラフより各機へ、行動予測完了……データ送信する>


 セラフの演算よって敵機がフラッシュ1によってフォーメーションを崩した際の行動予測機動が送信される。
 高速演算よってもたらされる起こり得る結果を常に涼宮中尉に教え、このような敵機の行動予測なども行う高性能処理機構。


「良し、フラッシュ1……発射ァ!」


 伊隅大尉達の敵を落とす射撃ではなく”相手を一点に固める”射撃によって程好く固まっているクロス中隊9機に狙いを定め、引き金を引く。
 ただでさえ大型の砲身……大きく開かれている口から吐き出される眼を焼き尽くすような青白い光が巨大な弾丸となって放たれる。
 地表に痛々しく、そしてその熱量を予想させるであろう本来の威力ではなく直撃しても中の衛士が少し感電する程度に威力を落とした演習用の一撃。
 それでさえ自らを消し去ろうとする実弾達を嘲笑うかのように焼き尽くし、固まっていたクロス中隊は即座に散開するがお互いが邪魔をし合う。
 しかし流石帝国か? 相当団子状態に固まった状態からの散開で機体を衝突させないのは単に錬度の差と訓練によるものかも知れんが。

 逃げ損なった迎撃掃討の副隊長機に直撃し、CPから自分が辿ったであろう末路を今頃崩れ落ちる陽炎の中で聞いているだろう。


『今だ! 一斉射撃ッ!!』


 あえて当てていなかった砲撃が一斉に直撃へと姿を変貌させ、その脅威をクロス中隊の視界に刻み込む。
 80mm支援速射砲と120mm狙撃砲の弾速と正確さが一斉に牙を向く、今まで当たらないと踏んでいたであろう陽炎達が次々と撃墜されていく。
 各機がこちらのカラサワでフォーメーションを分解された所に飛び込む無数の弾と900kmで突撃してくる三機の変則編成の突撃部隊。

『ヴァルキリー5は左! 6は右! 正面は私がやる! 中佐に取らせず私達で全部平らげるわよ!?』

『ヴァルキリー5、了解です』

『ヴァルキリー6了解! 先輩には負けませんよ!』

 俺が右翼から攻め立て、単機の俺を強行突破しようとする陽炎の特攻を容易く交わす……少し機体をズラすだけで敵の長刀が外れる。
 そしてその長刀の硬直で回避すら出来ない陽炎の管制ユニットがある胴部に36mmの銃口を押し当て、敵の小さな悲鳴と共に引き金を引く。
 ダダダダダッ!! と言う高速連射で無数のペイント弾が陽炎の管制ユニットを護る装甲を黄色へと染め上げ、撃墜判定によってこの陽炎が死ぬ。


「死体にはこういう使い方もある!」


 その陽炎を初風の角ばった肩に引っ掛け、俺が友軍機を落としている隙を突いて来る別の機体へその死体であり残骸を噴射と共に叩き付ける。
 ショルダータックルような格好であるがあいにくこちらはクロス中隊の一機を盾代わりにした状態であり、味方を盾にされて攻撃が出来ないクロス中隊。
 長刀で切りかかろうとしても盾にしている友軍機が阻み、36mm・120mm共に陽炎の装甲を貫いてさらに初風の装甲まで貫く威力は持ち合わせていない。
 だが120mmの直撃弾を貰うと陽炎が大爆発し、その爆発判定によってこちらまで吹き飛びかねないので120mmは紙一重で避けながら36mmの弾幕を展開する。
 俺を突破しようと試みていたクロス中隊はあっさり友軍機の盾の前に躊躇い戸惑い足踏みをした結果が……右翼から回り込んできた三機からの集中砲火。
 新潟は最前線であり戦場跡で一切の遮蔽物がないので移動する側にとって素早く移動出来る、ましてや自分達への砲撃から少ないならなおさら。


「俺を突破するつもりか? まぁ一機だから出来るだろうな……狙撃がなければな」


 あくまで俺を倒しての突破と打開を試みるクロス中隊現時点で六機まで減ってなお、俺を”倒して”突破しようとするのは計画ではなくおそらく意地だろう。
 しかし俺を狙って36mmを連射しようとこっちは先程と同様に盾を持ちつつ適当に機体を滑らせているだけで回避でき、弾幕を展開しながら敵を引き寄せるだけで良い。
 その間にクロス中隊の背後を三機が突き、もはやこうなっては自分達の後ろにも弾幕を展開しなければならないがそれでも気休めにもならない。
 前の俺は友軍の盾・後方からの弾幕・さらに軟らかい横腹を突く形で突き刺さる狙撃の嵐がクロス中隊の精神をガタガタに崩壊させていく。
 味方を盾にされ、後ろから無数の弾を浴びせられ、前後の処理でも大変な状態に頭部や管制ユニットへの直撃弾によって機体が地面に叩きつけられる。

 止めに前方には光・後方には弾幕・さらに六機の初風から放たれる80mmと120mm狙撃砲の三重奏の前にクロス中隊はこちらを一機も落とせず全滅。

 最初の奇襲によって前衛を全滅させられた事が終始足を引っ張り続けた結果であった。
 さらにこちらは機動力で大きく勝っており、高機動戦闘も可能な機体であり、接近戦でも優位にたてる光線剣がある。
 カラサワは見せてしまったが帝国お得意の接近戦を赦さず、こちらは巧く砲撃戦だけでこの一戦を制す事が出来た。


『ヴァルキリーマムより各機へ、状況終了……弾薬の補給に戻ってください』


 どうやら次の沙霧大尉の部隊との戦いでは光線剣と言う切り札が残った……嬉しい誤算だ。
 最悪こちらの手をこの一戦で全て見せてしまう覚悟があったからだ。
 あえて弱い奴等をぶつけて来たのか――――――それとも帝国の精鋭がこの程度の実力なのか。

 良くも悪くも不安は、少しずつ膨れ上がる。


 視点:沙霧大尉


「情けない! 米国の手先たる国連に大敗するなど……それでも気高き帝国の一員か!?」


 ……私は自分の眼を疑う。
 クロス中隊は決して弱くはない、数で勝り国連などと言う米国の犬に接近すら赦されず大敗するような衛士達ではない。
 確かに相手は不知火の筈だがあれはまったくの別物であり、その力量はここが精鋭と呼ぶに相応しい力量を持っている。

「しかし相手も不知火……次の沙霧大尉率いる部隊ならまだしもクロス中隊は性能で劣る陽炎ですので」

「確かにそうだな! ましてや敵は卑怯にも奇襲を用い足並みを崩して来たから勝てたのだ! 再戦すれば確実に我等が勝つに決まっておる!」

 奇襲は卑怯ではない、むしろ彼等はこちらの戦い方を良く調べ上げ最善の方法が奇襲と辿り着いたからこその戦術に過ぎないだけだ。
 それに彼等のあの動きは不知火の反応速度というだけでは済まされない速さがある……こちらの不知火にはない”何か”が。

「ご自慢の新兵器もあの程度の武装……貧弱ですな」

 あの光を見て貧弱だと言える自らに何も思わないのか!?
 そもそもBETAの力である光線を武器として現実のモノにしている時点で相手が特異的なのは火を見るよりも明らか。
 光線級が放つ光でいったいどれほどの友軍が今まで薙ぎ払われ、軍にどれだけの被害が生まれたのか知らないのか!?
 周辺から聞える国連軍への罵倒と帝国自体の体裁を保つ為の声に……同じ帝国軍人として恥じたくなる。

「……これが誇り高き帝国か」

 彼等のような者達だけが帝国ではない、しかしそれでもほんの一握りであろうと恥晒しを見るのは気分が良いものではない。
 懸命に体裁を取り繕い自らの保身に走るような輩は、売国奴たる榊と何一つ変わりはしない。

『こちら国連演習部隊の古島中佐だ、まだ支度に時間が掛かりそうか?』

 外見は不知火と似ているが間違いなく改良機であり、新型光線兵器などの運用を目的とした射撃寄りの国連らしい機体構成。
 クロス中隊を瞬く間に撃ち落した80mmの中距離支援砲と120mmの大型狙撃砲は戦術機・BETA戦双方に有効と言える新武装。
 だが所詮は射撃、懐に飛び込めばこちらのモノだが敵の実力を考えれば考えるほどそう容易く接近を赦す相手とは考えられない。
 そして開幕と同時に飛び込みクロス中隊の陽炎を四機撃墜し、単機で残った九機と互角以上の勝負をしていた桜の文様付きの不知火。

 入り込んだ通信で見た顔はあの時、巌谷中佐と親しく話していた国連のあの中佐であった。

「……こちら帝都守備第一戦術機甲連隊の沙霧大尉、先程の貴官が桜の」

『そうか…次の相手はアンタか、沙霧大尉と言ったな?』

 国連の義を説き、帝国が誇った中将の憎き仇である榊を擁護しその榊が中将から国を託されたなどと世迷い事を平然と謳ったあの男。
 惨劇の地である横浜に堂々と居座る国連に組する男で、最初は後方で前線の兵士達の苦悩も知らぬ男だと思っていたがそれがあれ程の腕を持っている。
 この一戦………我々が思っている以上に苦戦するかもし知れんな。

「それ程の腕を持ちながら……何故国連などに」

『二度も言わす気か? 若いのに耳が随分と遠いな? あぁそれもそうか……狭い視野と考えしか持ち合わせない帝国様だから仕方ないか』

 ギリッ! と思わず奥歯が欠けかねない程に歯を噛み締める。
 だが落ち着け沙霧、これは姑息な国連の戦術だ……直接では勝てないからこそ、このような手段を取っているのだ。


「ならばその狭い帝国の力を中佐殿にお見せしましょう、カリバー1よりカリバー各機戦闘用意ッ!」


 今回の演習の為に編成されたカリバー隊の同志から次々と『了解』と言葉が返ってくる。
 相手が新型であろうと、新武装を搭載していようと、我々の……帝国の剣技の前では無力とあの中佐に教え込めば良い。
 国連に組する者達の接近戦の力量など程度が知れている! 先程の戦いで貴官が行った戦術をそのまま返そう!


「全機! 私に続け!」


 私の不知火を先頭に一本の槍の如く敵部隊へカリバー隊全機の最大噴射による強襲突撃。
 こちらの突撃を無数の弾幕が押し止めようと展開されるが、こちらは多目的追加装甲の盾と収束しすぎる弾幕を全機が一糸乱れず軌道をズラし回避。
 表示される追加装甲の耐久度はまるで湯水の如く減少するが、120mmの直撃でもない限り盾を貫いてまでこちらを大破させる勢いは残らない。

『カリバー12・フォックス1!』
『カリバー9・フォックス1!』

 最後尾の制圧支援が積載している多目的自律誘導弾が垂直に飛び上がり、ミサイルそのものの噴射調整によって軌道を自ら変換し目標へと飛来する。
 一機につき二基まで積載させる事が可能なこれは、一基につき32発もの小型ミサイルを放つ事が可能であり打ち切りと同時にパージする事で機体の機動性を取り戻す事も可能。
 それが現在四基からなる128発のまさに”雨”による牽制射撃であり、これの直撃を回避するにはこちらの突撃を止める為に展開している弾幕を裂く。
 あるいは前進ないし後退するしかないが前進すればこちらは全機格闘戦によって全滅させれる……後退するとしても後退と前進では速度差が大き過ぎる、間合いなどすぐに摘む。
 ……だが敵は私達が画策した戦術を遥かに上回っていた『ありえいない!』『ありえる筈が無い!!』と発射したカリバー9・12が叫んだ。

 ―――同じく敵の不知火から発射された128発全弾による【全弾迎撃】と言う偉業を相手の制圧支援は行って見せた。

 確かに牽制射撃の為に距離が少し開いていたかも知れない、こちらの突撃速度とミサイルの弾速が噛み合っていなかったかも知れない。
 だが飛び上がりまさに相手へと飛来しようとするミサイルを弾幕ではなく、同じミサイルによってまったく外す事無く全弾命中による全弾撃墜。
こちらの作戦を先読みをしたとしてもこんな事を人間が出来る筈が無い、ミサイルの捕捉したとしてもそれを自らが放った弾が当たるなどと言う保証は何処にもない。
視界に降り注ぐ黄色の雨は被っても被害および撃墜判定は出たりしない全機そのまま一つの槍と化して一気に敵編隊との距離をさらに詰める。

「カリバー1より各機へ! 桜の機体は私が討ち取る、各機は他を抑えろ!!」

 だがこちらの突撃自体は止められていない、つまり突撃を成功させる為の陽動は問題なかったのだ。
 たとえこちらの策が読まれていようとそれを押し止める力量が相手には無い、これ程の弾幕であってもこちらはまだ一機たりとて落とされていないのが何よりの証拠。
 懐に飛び込みさえすれば接近戦を軽んずる米国の手先の国連衛士ごときに我々帝国が負ける要因など一つも有りはしない。

『――― 来たか』

 先頭の一機……あの桜の機体がマウントしている長刀を担架から取り外し、そのまま空いている担架に突撃砲二丁を納め長刀一本でこちらを押さえるつもりらしい。
 構えは見たこともない構え、戦術機の剣術は搭乗者が自ら動きを読み取らせ、その動きをプログラムに変えて初めて戦術機に行わせることが出来る。
 無論基本の型はあれどそれでは限界があり本当の意味で極められた戦術機の剣術とは搭乗者によってもたらされる者……おそらく我流、軽んずる者に敗れる筈がない。
 あの構えも……所詮は付け焼刃にすぎない! かつて手合わせした斯衛の衛士が見せた構えだけではっきりと解る熟練のみが持つ覇気と雰囲気があの構えには無い。
 
 最大噴射の勢いを乗せた全力の振り下ろし―――この一撃に断てぬ敵など存在しない。


『俺のコールサインはハスラーワンだが……アンタは【ハスラー】の意味を知っているか?』


「クロス中隊に姑息な手を用いた貴官に相応しい名だッ!!」


 戦術は認めるが……それでも姑息な輩である事には変わらない。
 ましてや国連の者達となればなおさら赦す事は出来ない! この手で引導を渡すだけだ!
 長刀が桜の不知火に風を引き裂き迫る、所詮は国連の衛士……接近戦に持ち込めば勝利は揺るがない。


『【ハスラー】の意味は―――』


 桜の不知火が振り上げた一撃がこちらの長刀と一際大きな火花を散らす。
 直撃―――それもこちらは全推力を乗せた一撃だと言うのに何故長刀が折れない!?
 刀は円の軌道であり引いて斬るモノであり、こちらの長刀自体の自重も合わさった一撃を容易く受け止める事等出来る筈が無い。


『解りやすく言えば【能ある鷹は爪を隠す】だ』


 その言葉と同時に左肩の関節の中破を告げる警告と管制からの後退指示、同志達の私を護ろうと陣形を崩してまで割り込もうとする声と機体の動き。
 視界に映る美しい…穢れも無い海と空の色を混ぜ合わせても出来ないようなゾッとする程に美しくある蒼い光が機体の左肩の関節に突き刺さっている現実。
 その全てがゆっくりと流れていく最中にも関わらず私は今になって目の前の存在が【ハスラー】なのだと理解させられた。
 なるほど―――私が激昂すら計算の内だったという事か。


「―――だか負けんッ!」


 私は持てる全てを本当に用い、目の前の桜を散らす為に機体を動かし始めた。

□□□□

現在の伊隅ヴァルキリーズの配置

ヴァルキリー1 伊隅 迎撃尖兵 [   2   ]前衛:突撃
ヴァルキリー2 速瀬 突撃尖兵 [  5 6  ]前 :強襲
ヴァルキリー3 宗像 迎撃尖兵 [       ]中衛:掃討
ヴァルキリー4 風間 制圧尖兵 [ 1   3 ]中 :迎撃
ヴァルキリー5 一条 強襲尖兵 [   9   ]後衛:砲撃
ヴァルキリー6 神村 強襲尖兵 [   7   ]後 :打撃
ヴァルキリー7 葛城 打撃尖兵 [ 4   8 ]後 :制圧
ヴァルキリー8 渚  制圧尖兵  上記の図で配置している
ヴァルキリー9 穂波 砲撃尖兵

前衛3・中衛2・後衛4の数不足故の変則的な編成

コジマは現在最前線の突撃尖兵だが本人の実力とあらゆる距離で一撃必殺を実現させるカラサワのおかげで何処でも出来る
ただし中衛・後衛では36mm突撃砲一丁を80mm支援速射砲に載せ変えたりしないと支援火力が不足してしまう

そして戦闘描写難しすぎです……ロボットモノの難しさを改めて痛感させられました



[9853] 十三話[十人十色だから正義も十色]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/30 02:45
視点:コジマ
 もし月光の発生した刀身が少しでも沙霧機の関節に突き刺さらねば、間違いなく俺の初風は管制ユニットを両断され撃墜されていただろう。
 鍔競り合いする寸前に月光を起動させ刀身を安全出力……色ばかりの光の剣の先端を巧く関節に突き刺し不知火の剣速そのものを殺し受け止めたのだ。
 別にこんな危険な事をせずとも月光を実戦出力で起動させ敵の長刀を溶かし切ってしまえば安全はもちろん、そのまま沙霧機の管制ユニットを斬る事は出来た。

 しかしそれでは”ツマラナイ” ”面白くない”

 一戦目でこちらが見せた突撃強襲を槍のような一本の直線陣形で見事真似て見せ、さらにミサイルによる弾幕拡散戦術など指揮官・参謀としての才能がある。
 友軍機を率いる事の出来る気概とそれに全機一糸乱れず連なる連携力にここが伊隅ヴァルキリーズに対して優勢を作り出せるほどの精鋭達。
 その部隊の指揮官をこんな言葉による扇動・煽り・さらにたった一回切り札を使った程度で撃墜するなんて……そんな勿体無い事を出来るはずが無い。

『―――だが負けんッ!!』

 鍔競り合いしていた剣が沙霧機が一気に長刀を横に振るう事で終了を告げるが、突き放された機体を操作し再び長刀を振るう。
 右から左への薙ぎ払いをするがそれを真下へと振り下ろす一撃によって阻まれ、今度は勢いが強かった所為で鍔競り合いになる事なく刀身が離れる。
 機体が激突の反動で二歩・三歩と後退する中……俺は沙霧大尉への通信回路を開く。

「手強いな……それほどの実力がありながら何故! 中将と帝国に固執する!?」

 傭兵の俺から中佐の私に切り替え、兼ねてからの目的の一つである沙霧大尉の説得を試みる。
 無論説得とカッコ良く言っているが実状は彼が国連や現状に対する考えを少しでも変えさせ、もう少しでも現実を直視させようとする程度だ。
 本来ならば可動兵装担架システムに敵機への砲撃指示を出せばさっきの長刀のぶつかり合いで硬直している沙霧機を36mmで撃墜させれる。
 だがそれは相手も同じ筈だがそれをする兆しはない……つまり沙霧大尉も何かしら思う所があるのかこちらを撃墜しようとしない。

 ―――話せそうだ

 そう思ったからこその敵機への通信回線を開いたのだ。

『祖国を重んずる義と恩師を……中将に忠義を誓う事が固執か!』

「それは妄執だよ! 君達の語るそれは現状の不満から目を背ける為の言い訳同然の正義だ!」

 沙霧大尉の咆哮に答えるかのように帝国仕様に染められた黒い不知火の二つの蒼い眼の光が増す。
 再び長刀を交えるが勢いで押し負け機体が衝撃で再び数歩下がり体勢を即座に立て直し、沙霧機の追撃の突きを機体の軸を逸らし回避する。
 もしあと少しでも機体を逸らすのが遅れれば管制ユニットで串刺しとなっていただろう……観測計器から不知火の出力アップが表示されている。
 おそらくあの一瞬の間に機体の各部への動力伝達の割合を変化させ接近戦に特化させたのだろう、機体各部の出力は上がっているが担架は無起動状態。


『貴官に何が分かる! 恩師を…父親のような人を亡くし! 言われもない罪と侮辱を背負わされたまま死した中将の無念の何が分かるッ!?』


 担架に廻す出力の…エネルギーの全てを機体の五体に廻し一時的なリミッター解除でありオーバーロードに機体が出力負けする。
 こちらは水素機関で常時発電によって従来の不知火よりも常に高い出力で安定した力を発揮させれるが、下手なオーバーロードは機体が崩壊しかねない。
 高出力にする事など幾等でも出来る、その気になればジェネレーターを潰すかわりに200%の出力を発揮する事が出来るがその出力に機体がついていかない。
 関節が悲鳴をあげ、ブースターが火を吹き、光線兵器の尽くが出力に耐え切れず発生装置が融解を起こして二度と使い物にならなくなってしまうだろう。
 しかし相手は脆い筈の不知火で一時的なオーバーロードを行いこちらの性能を上回り、出力ですらこちらを追い抜きジリ貧へと追い込んでいく。


「不幸なのが貴様だけだと思うか!? 私も大陸防衛戦線で戦友・恩師・家族―――全て亡くしたッ!!」


 不幸な物語など探せば腐るほどに存在する……それをまるで一人だけ悲劇の主役ぶるのは正直虫唾が走るが仕方ない。
 俺はどちらかと言えばその不幸な物語を造る側であり、目的の為ならば外道な手段にも手を染めて成功を欲した男なのだ。

『ヴァルキリー8撃墜! 中佐そちらに一機向います!』

 涼宮中尉からヴァルキリー8:渚少尉が撃墜されたと言う報告に加えて沙霧機の相手で手一杯の状況に追い討ちとばかりに一機こちらに漏らしたらしい。
 説得の最中に横槍を入れられて撃墜なんぞ洒落にもならん……視界に映る戦況ではこちらが九機に対して敵は既に六機にまで減少しているが穴が大きい。
 主戦力である沙霧機と互角に対峙している俺をここで撃墜し主力の復帰と共に戦局を一機に打開させるつもりらしいが、落とされるつもりはない!

『ならば明星作戦の悲劇に対して何も感じないのか! あれ程の暴挙を赦し、それに対して媚びる榊を赦すのか!?」

「あぁ憎いさ! それでも生きる為に……若者をこれ以上死なせない為に戦う手段を媚びるとは言わない! 彼が自らの戦う術を見出した結果があれなのだ!」

 左関節が死んでいる筈にも関わらずそれを感じさせない俊敏な不知火の動き……いやむしろ逆だ、強引に機体を動かしているのだ。
 今度は向こうからの振り下ろしをバックステップで紙一重で回避しこちらの突きを管制ユニットに直撃させようとするが、旧OSの硬直を強引に全力噴射で掻き消す荒業で対抗。
 振り下ろした姿勢のままガツンッ! ではなくドガンッ! と言う大きな音と共に機体が大きく揺れる……振り下ろした姿勢のまま体当たりしてきたのだ。

 言っておくが不知火で体当たりは自殺行為の一つだ……薄い装甲の不知火が激突なんぞすれば装甲が凹み最悪管制ユニット近辺が破損して衛士が破片や湾曲で潰れかねない。

 しかも沙霧機はこの体当たりを計算していたのかこちらの左肩を右手が捉えており、張り手の如くゼロ距離からの一押しによって機体が沙霧機から見て良い間合いを開かされる。
 ―――いつ腕をそんな風に動かしたなんて見えなかった、良い腕だよ本当に!

「私達が戦術機で戦うのと同じだ! 彼は自分が為せる事を為せるようにしてるだけに過ぎない、行為の侮辱は今の私達がしている事そのものの否定と同じだ!」

『違う! 断じて違う! 売国奴と私達が同じなど決してありえん!』

 この正面ですら手を焼く状況にレーダーに左横から現れる敵性反応に思わず舌打ちをしてしまう。
 アーマードコアの世界で不意打ちやそれに準じた敵の増援など日常茶飯事であり、正直呆れるくらい体験して来たので舌打ちよりも溜め息の方が多いのに舌打ちが出た。
 つまり自分でもこの現状が苛立ちに分があると理解しているから……現状が俺にとって厳しいモノだと実戦の勘が告げているのだ、面倒なくらい正確に。

『ヴァルキリー4、フォックス1・2! ハスラーワンはそのままカリバー1に集中してください!』

「ハスラーワン了解! 思ったよりこのカリバー1は手強い! 渚が落とされた現実を良く見ておけ!」

 レーダーに映った敵性反応の赤色の真後ろから友軍反応を告げる青色が現れ、巧く敵の足止めに来てくれたヴァルキリー4:風間少尉に半ば本気でありがたさを感じる。
 何分アーマードコアの世界で誤射しない友軍やしっかりと援護してくれる友軍と言う存在は稀有だった……傭兵ゆえに明日には敵対する故なのかも知れないがな。


『ヴァルキリー6撃墜! ヴァルキリー5はヴァルキリー2とエレメントを組んで対処を!』


 クソッ! 今度はヴァルキリー6の神村少尉が落とされた……新任に帝国の不知火は重すぎたか!?
 幾等新型OSや新型機と言えど実戦経験が持つ圧倒的な経験の差は埋められないのは判っている、敵は実戦を生き抜いた精鋭部隊だ…手強いのは百も承知。
 だが強敵と戦わせる事はそれだけでグンと成長に繋がる……説明文では最弱と謳われるローディーさんが実体は最強クラスのイジメ機体だったりする。
 ローディー大先生と謳われる彼は初心者キラーとも呼ばれ、彼に討つ勝つ事が手馴れのリンクスとしての出発点と言われ有名な話だ。
 帝国の彼らにはそれになってつもりなのだ―――機体性能を覆す圧倒的な実戦経験と訓練の差を身を持って体験する事で一気に成長させる強攻策。
 強引だか効果はあるはずだ……こちらが国連と言う事で帝国衛士達は殺す気概で向ってくる本物の敵対者と戦い仮初の生き死にを体験して実戦慣れさせる。


『カリバー1より各機…私と戦っている敵機には手を出すな―――コイツは私が倒す!』


 この言葉の最後に小さく『これで邪魔者はいない』と小さく言った……まったく良い男だよ本当に!
 銃火器一切抜きのただ一つ、刃による語らいに割り込むモノはもう誰も居ない……あとは沙霧大尉と殺し合うだけ。

 ―――我が師匠・真改……世界は広いな?

 切り払いを弾き飛ばし・突きを掠らせ・振り下ろしを回避し・袈裟切りを逸らしながらぶつかり合う度に後退していく。
 ある時は一歩・ある時は二歩・ある時は三歩と沙霧大尉の意思を汲み取ったとばかりに猛攻を掛ける不知火の殺気に満ちた蒼い眼。


「不幸はどれだけ語ろうと虚しい背比べだ……不幸の比べあいはよそう―――そして大尉には詫びねばならない」


 正直に言おう―――俺は貴方を舐めていた・馬鹿にしていた。

 俺は説得を優先して本気で戦う事を抜きにしているのに、機体が潰れるかも知れないオーバーロードをしてまで戦いに興ずる沙霧尚哉を舐めていた。
 次ばかり考えて目の前の強敵に対してまったく視線を向けていなかった実状に対しても、必ず打算と保身が何処かにある自分に対して不甲斐無く思う。
 でも負けるわけにはいかない理由がある―――そして沙霧尚哉と言う愚直なまでの忠臣を説得する意味が俺には存在する。

 だから戦うよ…………保身も打算も説得も抜きで―――この一騎打ちに甘えさせてもらう!!


「アンジェ流剣術……勝利こそ全て―――本気で貴官を、沙霧尚哉をここで倒(殺)す」


 機体の各部リミッターを解除・担架システムに廻すエネルギーも全て推力と各部関節などに廻して機体をただの人間へと変える。
 この機体に残った武器は手に持つ長刀一本と腕に備え付けられた二基の劣化月光だけ、射撃などしたくても出来ないしする気など毛頭もない。
 ただ一人の武人として沙霧尚哉の相手をする甘ったれた理想を抱えた戦人として―――この男をツマラナイ策謀から救い出す救世主となる!
 原作でも愚直な男だがここまで愚直だと本当に清清しさを感じる、喪った真っ直ぐさを見ているようで余りにも明るいこの男を計画に殺させはしない。
 

「国も・人も見る事の出来ない盲目な武人にはここで理想と共に潰えて貰う―――それが国の為だ」


 俺のフィードバックデータに存在するアンジェ流剣術の全てを解禁し、機体の構えを変える……マラソンランナーのようなL字の腕構え。
 自分でも判るくらい甘ったれた事を吐き捨てた、計画に殺させない為にこの男を―――俺の計画で救うなど矛盾している。
 居場所と殺す計画が変わるくらいで本質としてはまったく脱していない、むしろ自らの手元に置く事で不穏な動きと共に殺せるようにするのだ。
 殺す事を救う? 違うな、殺す事はどれだけ綺麗に語ろうと殺す事には変わりはしないし殺しは最大の大罪だ……救われる事等ない。
 自分の内側を駆け巡る矛盾とそれを容認し娯楽として受諾する本能に対して狂気のような快楽が迸り、全身の血液が熱く滾るのが判る。

 ―――最悪の気分だ……聖人君子にでもなったつもりか?

 【人類種の天敵】とまで謳われるほどに虐殺した俺がたった一人の人間を救う? 馬鹿な事だ、世迷いごとだ。
 本質と本音はただ沙霧尚哉と言う男を自分の手で殺したいだけだ……俺は皆を護ろうとする白銀とは根本から異なる存在だ。
 護るなどしない・救うなどしない・助けるなどしない・ただ俺が面白ければそれで全て良いんだ、その結果が殺し救うだけの話。


『―――本気か…構えも機体越しに感じるこの殺気も……手を抜いていたのなら相応の報いを受けて貰う!!』


 再び沙霧機が踏み込み横薙ぎに長刀を振るいこちらも長刀を真横に一閃とばかりに振る。 
 激突し濁った音が耳に響き機体を振動が襲い掛かるがもうこちらが後退する番ではない。

 衝撃に対して根負けした沙霧機が三歩ほど後退し懸命に姿勢制御に明け暮れている……見逃す筈がない。

「どうした、息切れか? あぁそうだな、理想と綺麗ごとにしか見えず汚物から目を背け逃げ続けるのは疲れるだろう」

 今度はこちらが猛攻を仕掛ける番となり、出力の増した初風に対して息切れを始めた不知火はただ受け手に廻るのみ。
 腕の出力が上昇している事によって長刀を逆手で持ちながら振ると言う荒業を見せ、防御した沙霧機を一方的に吹き飛ばす。

『中将への、この国への忠義は……』

「忠義? 貴様は現状に対して面影と美化した日本を勝手に求めているだけだ!」

 潔癖すぎる忠義心や偉大すぎる人物は残した人間に対して大きな影を残し、月日が過ぎ去れば面影は自然と美化されていく。
 そして美化された人物をより美化する対象を求め、自分の行いを正当化する為に最良の敵となる存在を求めそれをひたすらに欲する。
 そんなモノで殺される榊首相達が不憫でならないが首脳陣に米国贔屓な人物がいるのは確かだ、一方的に彼等の存在を肯定する事は出来ない。

『ならばこの国の現状を……』

「知るか! 私は大局を、国を見て背負いながら戦えるほど立派な存在ではない!」

 ご立派な事だな? 自分はこの国の未来を背負って戦っているつもりなら妄想と誇大も良い所だ。
 あいにく俺は表から何かを為すタイプではなく裏手から色々と暗躍するタイプだ、表沙汰で背負うのは殿下と榊首相がやってくれるだろう。
 殿下…煌武院悠陽が立ち上がらないのならば俺はそれで良いつもりだ、少なくともクーデターを起こしてまであんな若い娘を決起させようなど考えん。
 もし立つ気があるならばもう若かろうと何かしら行動を起こしているだろう…2000年八月時点で年齢は15? 16だったか?
 とにかく行動を起こすなら起こしているだろうし、周辺の人間も何かしらの説得や教育の一つや二つ叩き込んでいるだろうが……そこまで俺は知らない。

『兵士ならば大局を見て動くべき! それを自ら捨てる貴様に謳えた事か!』 

「だからご大層な理念を携え吼えあがる事が正義か? ただでさえ佐渡島にハイヴを建造され無数の刃を突き立てられた死体同然の国の現状を見ずになにを」

『この国に突き刺さった刃はまだ浅い……抜けば間に合うからこそ!』

 沙霧大尉は保健体育を勉強しましたか?
 下手に突き刺さっている状態で蓋をしている物を抜き取ると出血多量で瞬く間にショック死などが待ち構えているんだぞ。
 既に半身をその無数の刃によって蹂躙され残った半身が突き刺さりながらも何とか延命出来ている状況で、これを引き抜くなんぞ自殺行為だ。
 この男が本当に計画的にクーデターした事すら怪しくなって来たな―――参謀役かそれに座った人間が第五計画の差し金か。

 既にレーダーに映る敵性反応は沙霧の反応一つのみ、対してこちらは七機健在で突撃砲を構えいつでもこちらごと敵機を倒せる状況。

 表示される各機の損害状況を見るとやはり無傷はヴァルキリー1のみで、残った六機は何処かしら被弾による被害がある。
 残った新任三人の被害は深刻でなんとか生き残ったが現実ならば機体は中破の分解されて新品待ち状態にまで被弾している。
 撃墜された二人にはこの後でしっかりと説教が必要だな……それも二度と落とされないと思いたくなる位の説教が必要だ。


「ヴァルキリー各機は手を出すな、これは私と彼の決闘だ……馬鹿げた決闘だ」


 今度は酷く澄んだ音と共に剣劇が交わり、その衝撃でまた沙霧機が後退する。
 そろそろお終いにしようか―――決闘そのものがツマラナクナッテキタ。
 沙霧の実力のほども知れた、オードブルもまずまずだったがエクスカリバーのコールサインほど強固ではない敵などさっさと咀嚼して頂くとしよう。
 さっさとメインディッシュに移るか、冷めては美味い物も不味くなるしなツマラナイオードブルともお別れとしよう。


「誰がその刃を抜く? 誰がその穴を塞ぐ? 一体誰が改革に伴う”業”とやらを背負うんだ……沙霧大尉」

『親愛なる国民全てを救う為に……私がその業を背負えば良いだけだ!』


 沙霧機が長刀を構えた状態で最大噴射を行い、最初の一撃と同じ方法で残った噴射剤の全てを賭して俺を倒すつもりらしい。
 対する俺はただ機体で受け止める構えを取りその全力を真っ向から受け止める姿勢で沙霧尚哉の全力を受け止める。


「はっきり言おう、沙霧尚哉の改革は日本国民全てを背負えるほど立派なモノではない……そして背負えない私怨の全てをかのお方に擦り付けるだけだ!!」


 目前にまで迫った敵機に対して長刀を振り上げ、対する沙霧機は推力の全てを乗せた全力の振り下ろしを敢行。
 酷く濁った音と共に対峙した長刀が二本とも衝撃によって機体の手から離れ、沙霧機が真横を過ぎ去ぎ長刀はすぐには手の届かない場所へと着陸。


『ならば貴様には出来るとでも言うのか! 全ての業と私怨を背負いながらこの国を救う事が!!』


 オーバーロードで関節系がガタガタの筈の沙霧機は不知火の細い足で地面を抉り、まだ長刀が届く至近距離で急停止し長刀担架のボルトを発破解除。
 そのまま反転する回転の勢いを乗せた二段構えの全力が……咆哮と共に空を切り裂きもう一本の長刀の鈍い光が初風を横薙ぎに切り裂こうとする。
 こちらはカラサワを背負う関係で長刀は一本しかマウントしておらず、さらにカラサワの弾薬エネルギーの全てを機体の駆動系に廻しているので発射は不可能。
 そもそも可動担架の可動分のエネルギーすら廻しているので今から供給するのではとても間に合わない…だがそれは背中の武器の話しだ。


「そんな大層な事は出来ん、一個人にそんな大層な事を完遂出来る人間など何処にも居はしない!!」


 ―――月光起動

 真っ青な刀身が両腕に備え付けられた発生装置より現れ、出力は実戦出力であり長刀だろうとBETAの甲殻だろうと問答無用で溶かし切る光線剣。
 二振りの刀を振るい迫り来る長刀を右腕による左斜め下から右斜め上への袈裟切り上げによって沙霧機の両腕を肘から先を切り飛ばす。
 正確に言えば切り落とすなのだが機体の回転による慣性が腕に残ってしまった事によって身体から離れた肘から先が宙を舞う事になったのだ。

 そのまま間髪入れる事無く左腕を突き出し沙霧機の頭部、右目の部分を実戦出力の月光が捉える。


「ご大層な理念諸共――――――消えろ」


 そのまま実戦出力の月光を振り上げ沙霧機の不知火の頭部が切り飛ばされ腕のように宙に舞い上がり、少して地面に激突し戦闘は終了。
 カリバー隊は既にヴァルキリーズによって全滅し、残っていた最後の一機であり隊長機であった沙霧機は今この瞬間に撃墜判定を下された。
 もし俺を無視して最初から十機による部隊戦闘ならばヴァルキリーズは二・三機を残して壊滅していただろう。
 俺という架空の隊長に踊らされ本物の隊長機を見つける事無く、自分達は指揮官機なしで戦った帝国の連携の悪さが敗因と言うべきだろう。

『戦闘終了を確認……次が本番ですよ』

『すみません中佐…落とされちゃいました』

『初風とOSを過信しました……』

「自覚があるなら良しとしよう、補給と休憩を挟みながら作戦会議だ」

『ついに本番ですね! まさか武御雷と戦えるなんて!』

 苦笑いが零れる、どうやら速瀬中尉は本当にバトルマニアと呼ばれる存在なのかも知れないな。
 そして良くからかわれる……通信からいつものように宗像中尉にからかわれ怒り、その怒りが逸らされ別の人間に向う。
 疲れている様子はない、むしろ自分達は帝国の熟練達相手に善戦したと言う結果と現実が自信を付け後押ししているようだ。


「メルツェル……俺はやりすぎたのかな?」


 小さく『私は…中将は……何を』と完膚なきまでに敗北し俺との対話で何かを見出し葛藤している沙霧大尉の声が聞える。 
 これで良かった筈だ、少しでも国連のあり方や帝国のあり方を見つめ直しクーデターの目論みを崩してくれるだけで良い。
 だがもし現状に原作よりも早く絶望し決起するような事になれば第Ⅳ計画は早急に潰え、この世界は終焉を迎えることになるだろう。
 国連の戦力も横浜基地もA-01も207訓練部隊も満足でない状況での決起など止められる気がしないからだ。

 ―――参謀メルツェル……宇宙を目指し大罪と贖罪を背負ったオルカ旅団の参謀であり知恵でナンバー2に座する俺が知る最高の策士

 アーマードコアの世界でもある程度は策士としての教育はされたが、彼は結局満足してくれるような策士として成長は出来なかった。
 未熟な俺が策士を……世界を相手に策謀を張り巡らす滑稽さに失笑しながら俺は補給の為に機体を動かした。
 しかし削り合いに向かない機体だな、既に関節系統が少し悲鳴をあげだしており正直次の演習で機体が持つか判らない。
 こんな事ならタンク型戦術機でも造って砲撃戦に持ち込めば良かったかも知れないな……それかもう少し関節系統の強化が必要だな。


 視点:巌谷中佐
 周囲があれやこれやと五月蝿いがそんな事は別にどうでも良い、問題はあの沙霧大尉が一騎打ちで敗れた事だ。
 そもそもカリバー隊は今回の演習の為に沙霧大尉が選び抜いた精鋭九人と自身を含む沙霧大尉が連れて来れる中での最精鋭部隊のはず。
 軍の記録に存在する戦績や演習による結果を見ても優秀の一言に尽きる筈だが……油断していたのだろうな。

「巌谷中佐、敵部隊は本当に後方に存在する一部隊程度の相手なのでしょうか?」

「今までそう思っていたならばそれは貴官の落ち度だ、私は敵機が新型である事などは事前に説明していた筈だが?」

 佐官や軍・企業のお偉いさんが集まる戦場全体をリンクしながら監視している指揮車輌内で私は第一戦からずっと観戦させて貰っていた。 
 クロス中隊は古島中佐の強襲突撃によって前線が崩壊し、あとはそのまま前衛の欠けた部隊をジワジワと押し潰しただけねおそらく実力の三割も出していなかっただろうな。
 第二戦はあの沙霧大尉の特務演習部隊だったが隊長機が古島中佐に拘り部隊行動を疎かにした結果、指揮系統の乱れが生じあとは整った連携の前に潰された。

「流石は我が社の開発した【試験試作型不知火改】です…実力の差を性能差で軽くあしらってくれます」

 良く言う……根元を開発したのが自分のつもりか?
 そもそも我々が開発しようとしていた光線兵器をこの短期間で実現させた古島中佐の才能と努力によるモノだろう。
 光線兵器に必要な各素材の指定も古島中佐が行っていたのならば、彼の技術屋としての才能は比類なきモノと呼ぶに相応しいだろうな。
 
 それにあの動きが新型OS一つで確立する訳ではじゃない、その特性を理解してしっかりと操る力量がなければただのゴミ屑だ。

 乗り手一つで性能差など容易く覆せる……あのA-01と言う部隊は間違いなく精鋭揃いの部隊だ、でなければあの動きは不可能だろう。

「ふっ…だが所詮は不知火、斯衛が駆る武御雷の前では赤子同然! あの小賢しい光線剣など当たらねばどうとでもなる!」

「ご自慢の長刀をあぁも簡単に溶かされた貴方様が言えたモノではないでしょうに」

 光線剣については事前に教えて貰ってはいたが予想を遥かに上回る威力を誇示し、接近戦における圧倒的な優位性を示している。
 実刀に対して光線剣は一方的にその刀身を溶かし切りそのまま管制ユニットを切り裂いて衛士を蒸発させる事は出来た筈だ。
 中の衛士が原形を止めて生きているだけマシと言うべきだな―――最後のあの連撃でも実戦ならば容赦なく管制ユニットに刀身を突き刺していただろうな。


【巌谷中佐……沙霧中佐以外に出来れば企業や極右派…帝国の固執派の人間を連れて来て貰えないか?】

【何故そんな面倒な事を?】

【どうせなら派手にいこうじゃないか、徹底的に叩き潰し殲滅すれば企業の思惑に乗るとしても衛士が救われるなら安いものだろう?】

【なるほど、それならば私もそれに乗らせて貰うとしよう―――色々と面白くなりそうだな】

【お互い本気で潰し合おうじゃないか?】

【人選はこちらで構わないのか?】

【沙霧大尉は絶対だがそれ以外は好きにしてくれ、巌谷中佐が楽になるならそれで良いさ】


 そうして連れて来た国連に対して良い印象を持たない帝国衛士の中でも、実力を軽んずる者達を演習部隊に選出した。
 初風の存在……古島中佐の発明に真っ先に飛びついたのは名を知られていない【有澤重工】と言う今までそれほど大きくなかった弾薬製造社。
 その社長にはお会いした事はないが『これは戦場を変える』と断言し、率先して初風の開発・製造に乗り出し今に至る。


「社長の眼は間違いではなかった……この場に社長が居られない事だけが残念です」


 ここに来ている代表社員によれば社長は非常に決断力に優れ、率先して社員の前に立つ英雄・武将の様な人物らしく社員から慕われているらしい。
 今回はどうしても外せない仕事が重なったという理由からこの場には来ていない、それに有澤重工が製造に携わった事実を古島中佐は知らない。
 どう言った風の吹き回しか知らんが製造に携わった自分の会社の名前をまだ明かして欲しくないと要求し、魔女も『面白そうだから』と容認している。

「しかし有澤重工如き小会社に初風のライセンスや製造件を半ば独占されたのは手痛いですな」

「はっ! あの程度の小さな会社にいつまでも戦術機を造れる資金など存在せんわ!」

 別の企業…少なくとも有澤重工よりも大きいと言える会社や企業の代表達は、有澤重工に対して嫌味を全開にしている。
 元々の原因は初風などの存在を軽んじ爪弾きした自分達やその上官達にあるのだが、それでも目の前の初風を格下に取られた事が悔しいのだろう。
 だがそこは有澤重工社長の眼の良さと言うべきなのかも知れないが……飛びつく速さが幾等なんでも速すぎる。
 様々な企業が古島中佐の発明に懐疑的で思惑・資金・利益などに奔走する中で有澤重工は何の躊躇いも無いかのように、存在を知った直後に名乗りを挙げた。


「それは失礼しました―――我が社の社長は眼に優れていますので……」


 自分と比べれば遥かに大きい大企業に対して公然な態度を崩さず、凛と武人としての態度を崩さない有澤重工代表の女性。
 これほどの社員を抱えながらその頂点に立ち機体などに対して優れた観察眼を持つ有澤重工の社長。
 資料通りならば四十を超えた初老で妻子の記録はなく、前線の元戦車部隊に所属していたらしいが企業を継がざる得なくなり一線から後退。
 それから突然に有澤重工の会社方針を【圧倒的な物量に対する堅牢さと一撃】を変更し奔命する会社を一手に率い、密かに安定した弾薬供給が売り。
 特に炸裂薬に関する技術は一級品だが現在の社長になってからのあまりにも新参の開発ゆえに小さな企業であり、会社でしかない。


「有澤重工か……何か裏があるのか?」


 要注意として候補に挙げないといけないな。
 社長の名前は確か…………


 ―――有澤隆文だったか?


□□□□


 突然ですけど、有澤の技術は世界イチィィィィィィィィィィィィィィッ!!

 沙霧大尉の扱いや性格に対して少し酷いとか悲惨とか言われそうで心配です
 でも作者個人は正直あの人の死に様って気に入らないんですよね
 他人にあぁも無責任に近くて自己満足で死んでいった彼って結構嫌いなんですよ
 大義とか正義とか幾等飾ろうと所詮は人殺しになる事は予想出来たと思うんですけど
 おそらくあの人って説得などには奔走したが計画そのものは既に第五計画の手先が作ったと思うんですよ
 もし最初から最後まで計画していたなら少し位は歪みなどに気付き計画の練り直しをしそうなんですけど
 沙霧大尉に【カルネアデスの舟板】や【トロッコ問題】を投げかけると全部強引に斬り捨てるタイプと思います

 オルカ旅団の正義も絶対に受け入れずに敵対するタイプでか、オルカ旅団の正義を妄信して殺しに躊躇わなくなるタイプでしょう

 民間人を救う為に味方を見殺しにするか、それとも味方を優先して民間人に死んで貰うか……

 味方を見捨てれば味方殺しで銃殺・民間人を見捨てれば人命を厭わない冷血軍人として不名誉と結局二択はどちらも苦いモノのみ

 御剣や彩峰にこんなお題を出すとさぞかし面白くなると思うのは作者だけでしょうか?


 ご指摘により誤字修正



[9853] 十四話[伝説の黒き鶴]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/30 02:48
 視点:コジマ
 沙霧大尉との一戦を終え、現在機体は出来る限りの調整・補給を行っており衛士の面々は指揮車輌の中で機体と同じく休息している。
 しかし次の相手は帝国の本当の精鋭部隊である斯衛と元斯衛で伝説の瑞鶴乗り、ただ漫然と休める訳が無い故に過去のデータを閲覧しながらの休息。
 戦闘ログに関しては巌谷中佐に許可を取り、こちらも伊隅ヴァルキリーズの戦闘データを渡してはいたが沙霧大尉達の動きを見るに見たとは思えない。
 もし閲覧していたならば光線兵器に対する警戒や接近戦での圧倒的不利を見込んでそれなりの対策を講じてきた筈……斯衛の生贄か。

「映像で見る限りやはり斯衛は帝国でも頭一つ分抜きん出ている……これが一個人防衛の為の私兵とはな」

「殿下を護る為です、中佐」

「ほぅ? 殿下の為ならばこんな馬鹿げた整備費用が赦されて俺達一般兵は満足な整備もなしに死ねと?」

 武御雷の整備に掛かる費用の詳細をまとめたレポートを伊隅大尉に渡し、大尉が費用を見て石化している間に今度は速瀬が手に取って見てみる。

「えっちょっと! 武御雷って一機の整備にこんなに掛かるんですか!?」

「速瀬先輩見せてください、――――――(声にもならない絶句」

「一条少尉、少し借りるぞ……なるほど、確かにこれでは文句の一つも言いたくなりますな」

 次々とレポートがタライ廻しにされている間に眠気覚ましのコーヒーもどきを一口啜り、指揮車輌に取り付けられている映像再生機に眼を向ける。
 良く手に入れたと関心したくなるような第19独立警備小隊のシミュレーションや実機による模擬戦での機体の動きに関するデータログ。
 山吹色の戦闘データはここには無いが内密的にとてつもない自慢話と共に送られてきた覚えがある……見合いの写真ほど大きなものだったな。
 ちなみに武御雷一機に掛かる総合的な費用は不知火クラスの戦術機一個小隊で四機分ほどの費用などが必要で、正直特機すぎて笑えない。

 戦闘データを見ればまさに日本の接近戦術の為に生まれた存在であり、設計や機体各部の部品などもそれに合わせて非常に強固なモノになっている。

 底辺クラスの衛士の動きですらまさにトップクラスであるが所詮は単機であり特機だ……一振りで百の敵を薙ぎ払える訳じゃない。
 倒している撃破数も確かにエースの名に相応しいかも知れないが、出撃している小競り合いなどですら撃墜されているならば本来用意すべきではない。

『コジマ中佐、機体の整備の方が終わりました』

「ご苦労さん…すまないな些細な調整の為だけに連れて来てしまって」

『なんのなんの! おかげであの武御雷を見れるとなれば文句なんて言えませんよ』

 演習と言えど実機を用いれば部品の疲労や沙霧機との機体への衝撃が大きく、なおかつ多い戦いで何処かが悪いかも知れない事は多々とある。
 整備に限界が有るとは言え出来ないよりも最低限でもする方が何倍もマシ……その些細な整備で生き死にが決まるのだから。
 幸い整備兵達には最新鋭機の武御雷を生で見られる事を条件にしたら志願者多数であり、その中から経歴や口の堅さなどを選びぬいた面々で構成されている。
 彼らから整備の終わりが告げられると言う事はこの休憩の終わりを意味している……まだレポートは読み回し中か。

「今回の敵は武御雷五機と瑞鶴一機で構成された今回の演習最後の敵であり、間違いなく機体性能・実力共にこちらを上回る存在だ」

 ヴァルキリーズの面々に衝撃を与えたレポートが手元に帰ってきた、コーヒーもどきも一機に飲み干し休憩も終わりを告げる。
 幸い他の面々も食事などは済ませてあり、顔に疲労の色は見えていない……まぁ地獄の如きシゴキをして来たから当然と言えば当然か。
 下手な正規兵とは桁違いに色々と持久力がついてしまった、空腹の極みの状態での実機訓練やBETAの数が二十万のハイヴ攻略戦訓練とか色々とした所為で。

 連中曰く―――【中佐の教官はどんな人(女)でしたか?】

 確かにセレンの訓練は厳しいの一言では済まされない、40kgの武装など引っ提げた状態で100km持久走は記憶にも鮮烈に残っている厳しさだった。
 強化人間で下手な怪物とも互角に戦える頑丈さを誇る筈の肉体が悲鳴をあげ、翌日には筋肉痛と骨格などに使用している特殊金属などがとても疲労していたのを覚えている。
 だが自分の口から仮にも不滅の恩師に対する悪口を言うのは精神的に非常に悪い……いつかセレンが【壁】を超えてでも殴りにきそうで怖い訳では無いが。

 それなので―――【とりあえず鬼軍曹状態の神宮寺軍曹が暴力とは無縁で可憐な女性に見える位だな……ある意味、副指令より敵に回したくない存在だった】

 これだけを言ったのち誰もセレンについて聞こうなど考えなくなり、身体の鈍りを取る為に訓練に参加していると何処か哀れみの篭った眼で見られるようになった。

「特に注意するのは赤・黄色の武御雷……そして黒の瑞鶴…伝説の瑞鶴乗りが乗っていては分が悪すぎるな」

「中佐、巌谷中佐から通信が入ってます」

 ……向こうから通信とは珍しい。

『こちらの準備は済んだがそちらはどうだ?』

「問題ない、しかし容赦が無いな……こちらは新任を五人を背負ってるんだぞ?」

『それはこちらも同じだ、白の三機は三人とも優秀だがまだ若い新任だ……殺し合い形式の演習は良い教訓になるだろう』

 あの白三人組はこの時点ではまだ新任で実戦経験なしか……それならばそう遠くない内に小競り合い程度の侵攻がある筈。
 あるいはBETAの間引きを行う為にこちらから仕掛けるのが初の実戦となるか―――こっちの五人もそれが初めになるか。

 運命の―――因果の定めならば渚と穂波が連れていかれる

 回避出来るのに超した事は無いが、それでも因果と言うのは強力であり容易く変えられるほど甘ったるいものじゃない。
 だが俺に与えられた原作にはない物語の作成能力の影響によって助けられない訳では無いが……さてどうするか。
 少なくともこの五人に生きて貰う代わりに適当な少なくとも俺がまったく知らない人間に死んで貰う他ないが、その死の影響の範疇が判らん。

 衛士としての能力に優れる渚か…冷静で宥め役の新任参謀の穂波を生かすか。

 ――――――悩むな。


『どうした?』


「……いったいどれだけの衛士が教訓を持って実戦に臨んでいるのか、そんな事が気になった」


 涼宮が指揮車輌にいる九人に手話で退室を促し、九人は声なく敬礼を行い指揮車輌を後にした。
 インカムを片手にしていた俺は涼宮に手話で指示し一時的に通信を止めて貰っている間に指揮車輌を後にする。
 ふとここからでも見える最後の敵性演習部隊の威風堂々たる立ち姿に感銘と同時に、その外装が金色に見えて反吐が出そうになった。
 せめてあの映像の強さが機体性能の恩恵でない事を切に願う限りだ―――ツマラナイ奴が強者の座に鎮座しているならば叩き潰すだけだ。

 モノも言わぬ鎧とその傍で言葉なくただ親指をたてて幸運を祈ってくれている整備兵達に同じようにグッ! と親指を返す。

 あんな予算ばかり喰う金食い虫の機体如きに負ける訳にはいかない……リンクスは金の代わりに絶対の成功と功績をもたらす存在。
 今回の演習と名目上とは言え部隊を展開させてくれた香月博士や巌谷中佐…戦地に赴いて来た国連の同胞の為にも必ず打ち勝つ。


「外道が……綺麗ごとを語るなよ? 所詮は殺し合いだ……報酬(金)に合わせて刺激的にやるだけだろ」


 管制ユニットに入り込み、機体を起動させセラフとのリンク接続を確認し視界に映る機体状況や各機とのリンクを確認。
 そして自分を中佐の私に戻してから通信回路を開き、巌谷中佐との通信を再開した。
 あっ……落とされた奴等に説教するの忘れてた、まぁ大丈夫か…どうせこの一戦で落とされるだろうしな。


 視点:巌谷中佐
 黒い瑞鶴の管制ユニットに座ったのは一体いつ振りだろうか?
 あの戦いで唯依の父親を死なせて以来か、それとも増加する衛士の死亡者数に耐えられなくなって開発局に異動した時か。
 斯衛から帝国陸軍へと異動する際に投げ掛けられた言葉は今でも思い出すと苛立つな……エリートがお気に入りな連中だったし余計に。

『すまない、待たせた』

「聞いたよ……君も全てを無くしたらしいな」

『不幸な話の一つだな、不幸だとは思わんよ……生きてるからな』

 とても冷めた声だな……全てを無くした人間が行き着く先は崩壊か狂気の復讐劇だ。
 幸い復讐の対象となるBETAは無数に存在する、多少の事で復讐が終えたりしないがそれはそれで危険だ。
 ましてや”全て”となれば本当に全てなのだろう、男としても喪いたくなかった者の一人や二人居ただろに。
 折れず・曲がらず・真っ直ぐ自らを保ち続け立ち続けると言うのはどれ程辛いのだろうか? あるいは歪みが正しさに見えるのか?


「……君は強いな―――友を死なせ罪滅ぼしとばかりに子を背負った私とは違うな」


 戦友を喪い、その罪悪感から逃げたい一心でその戦友の子供を引き取るなどと言う下種な行為に走った私とは違う。
 今ではそれを大いに感謝している(すっかり美人さんに成長したからな)が、彼女が何処かで私を怨んでいないか心配だ。
 何が伝説の瑞鶴乗りだ! 何が斯衛だ! 私はこんなにも弱い…現実から逃れ何とか体裁を保ち続けていると言うのに。


『子供を背負えるのは強い証拠だ……私は子供なんて綺麗な輝きを背負えんよ』


 罪滅ぼしが出来る強さ・背負わず立ち続ける強さ・形は違えど強さには違えずか―――まったく達観しているな。
 そして私は気付いた…古島中佐は光から目を背けている・温かさから逃げて自ら極寒の暗闇に身を落としていると。

「……君も沙霧大尉の事は言えんな」

 忠義と過去に固執し逃げていると古島中佐は沙霧大尉を酷評し、実力でも八割程度の実力で撃破して今頃自称エース達は困惑しているだろうな。
 帝国では国連の実力を馬鹿にしすぎている、だから今回の新任が五人も含まれる部隊を相手に手玉ように取られ完敗するのだ。
 立場などにアグラをかいて座っている分余計に今回の大敗は堪えただろう……ましてや自慢の接近戦ですら大敗をしたのだから当然。
 帝国内でも腑抜けた者達や帝国が悲劇と立場だから国連を罵倒して良い等と逃げている連中への一喝としては申し分ない結果だろう。

『あぁこれから敵対する巌谷…一つ良いか?』

「敵対者に階級や敬語は確かに不必要だな……何だ古島?」

 軍人としてではなく敵対者としての一面を見せ合う、故に相手に敬語など不要だしな。
 大方今回の計画について話て来るかと思ったが甘かった―――古島と言う一人の狂人の一面を見る事なる。


『どいつもこいつも物足りなくてな……俺に全力を出させてくれ―――そして満足させてくれ、頼むぞ? レイヴン』


 もし通信で顔が見えていたならば、この世の人間で出来る筈がなかろう狂気に満ちた笑顔をしているだろうな。
 弱さ故に全てを喪い、護る為に強くなりすぎていつしか違う道へと堕ちた衛士の成れの果て……
 もはや彼を満足させれる人間はいないのかも知れない、あれほどの力量と共にあり続けた衛士は全滅している。
 満たされていた状態から空っぽになってしまったのだろう…そして自分を満たす術を失ってしまったのかも知れない。


「これでも生きた伝説だ……侮るな」


 人間と言う皮と身体を持った狂気を前に冷汗が流れるが、回線は声のみなので顔色までは見えていない。
 通信が一方的に切られ、レーダーに映る十機の敵性反応を示す点滅する赤い点滅に今までにないほどに恐怖する。
 ゲテモノ共であるBETAを示す赤色がレーダーを埋め尽くすあの恐怖とは違う…たった少数の敵に怯える恐怖。

 ―――対戦術機戦における古島中佐の戦績は一機で一個大隊(旧OS+従来撃震の36機編成)相当

 これで全力でないならば言える言葉は【人外】の一言に尽きるだろう…それの全力をたった六機で受け止める。 
 うち三機は幾等性能面で勝っているであろう武御雷と言えど新任が操るのでは性能が生かされるとは考えにくい。
 最悪たった一機の怪物に即座に撃破され数で劣っているこちらが更に状況を悪化され敗北する危険がある。
 この言葉を最後に通信が切られる……オープンチャンネルでない事を感謝するよ。

「…背押しくらいは必要か、レイヴン各機は通信回路開け」

 私を一番機とした特殊演習部隊【レイヴンズ】各機の通信回線をこちらから開かせる。
 もし相手を甘く見ているようならばこの一戦は確実に負ける…一個人が一個大隊に匹敵するなどと言う恐怖。
 それもまだ試作段階の機体でそれほどの戦果を叩き出すならば六機程度など赤子の手を捻るようなものだろう。


『レイヴン2月詠=真那…よもや伝説の開発衛士と共に演習と言えど戦える事を光栄と思います』


 赤い武御雷を乗りこなす衛士としても信頼厚き実力を持つ月詠中尉、瓜二つの大尉がいる事で斯衛内では有名な美人さん。
 現在は独立した行動権限を持つ独立警備小隊の隊長として新任三人を率い、遠くない内に国連へと出張する予定らしいな。
 ……キナ臭いが魔女や殿下関連と知れば誰もが追求などせぬだろう、殿下の勅命とあれば帝国内での安全は確定している。
 しかし月詠中尉は殿下直属と言うだけあって国連に対する態度は決して軟らかくない…古島中佐辺りと喧嘩しそうで恐ろしい。

「今は廃れた伝説だがそこまで光栄に思われるならば、私もまだまだ捨てた者ではないな」

『元斯衛にして生きた伝説である貴方に憧れる衛士は数多くいます、ご自分を卑下なさらないで下さい』

「月下美人と持てはやされる君に鼓舞されると男として立つ以外に選択肢がなくなるな、この一戦でも新任を任せるぞ」

 若い頃から美人で有名だが義と任務に忠実な事から男をまったく寄せ付けず付いた異名が【月下美人】…届かぬ月と言う事だ。
 上層部や一部の人間しか知らないとある特殊任務に従事しており、実戦における実力も多くの斯衛が認め師事するほどの腕前。
 現在白の家系の者を三人部下にし警備小隊として活動しているが部下の子は不運か幸運か……あの厳しさは二人といないだろう。


『レイヴン3神代=巽です!』


『レイヴン4巴=雪乃です!』


『レイヴン5戒=美凪です!』


 何故か三人で一括りしなければならないと思わせる新任であり、月詠中尉に選ばれ独立警備小隊に所属している白の新任達。
 斯衛では三人揃う事で一人前の戦力と呼べるがまだ単機としての実力は決して一人前とは呼べない、だがそれは斯衛内での話だ。
 機体性能に助けられる部分があっても構わない……この実戦で少しでも自信や実力を身につけてくれる事を切に願うばかりだ。
 しかし何故…こう……一括りにしなければならないと思うのだろうか? 不思議とそう思ってしまう【白の三人組】と読んでしまうのだ。

「月詠中尉から話は聞いている、敵にも新任が五人いるそうだ…新任同士力量を確かめてみると良い、援護は任せて貰おう」

『伝説の衛士に見て貰えるとは光栄です!』

『斯衛の誇りを国連に見せ付けて見せます!』

『御教授のほどをよろしくお願いします!』

 頼られるのは嬉しいが、自分から支援すると言ったが今回の私の瑞鶴は特製で機動戦闘には向いていない。
 今回の演習で試す事となった新兵器【降り注ぐ雷】は大型のミサイルコンテナであり、瑞鶴の背中の担架一基を丸々使ってしまう。 
 発射後は強制排除する事で機動力は取り戻せるがそこに行き着くまでの数秒が生死を分けるかも知れない相手だ。
 ………敵の戦術次第では私が一番早く撃墜されるかも知れないな、手厳しい戦いになるだろう事は明白だ。


『レイヴン6篁=唯依……巌谷中佐、中佐の瑞鶴は中佐専用に改造された機体です―――性能では武御雷に匹敵する筈です』


 あぁ我が友の娘にして私の自慢の義娘の唯依ちゃん……今回は新任を後ろから支援する役回りでレイヴン6となっている。
 山吹色の武御雷を駆り【白の牙】隊を率いる隊長でもあるが、今回は私が連れて来れる数少ない斯衛として演習部隊に来て貰ったのだ。
 腕は無論良いに決まっているが何分硬いので良い男との噂も聞かない、そんな男が現れたら私が直々に試すのだが今は良しとしよう。
 そして今回の演習での国連に対する見解などがもっとも厳しくて正直……古島中佐に話そうか悩んだ程に辛口で心臓に悪かったな。

「そぅ硬くしないでくれ唯依ちゃ―――」

『心配は無用だったようですね、今回はかの月詠中尉も来て下さっているのですから支援は無用ですね』

「いやだから私は敵を侮るなと言いたい訳で―――」

『斯衛に匹敵する沙霧大尉が撃破された事は確かに油断なりませんが、今度は機体性能でも勝っています……敗北は赦されません』

 うわ唯依ちゃん物凄くヤ(殺)ル気になってるなぁ……空周りしないと良いけど義父としては心配だな。
 ここは宥める為にも少し言っておくのが隊長の為すべき仕事…それすら出来ないのでは笑いものだ。
 ―――そろそろ切り替えるか。


「全機言っておくがあの桜は単機で一個大隊に匹敵する戦闘力を持っている……機体性能で勝っている等と考えているようなら撤回しておけ
 最悪あの一機でこちらが全滅させられる覚悟で臨め――――――相手は沙霧大尉【程度】では満足出来ないらしいからな……喰われるな」


 この一言に各機から息を呑み・絶句する声が聞える。
 機体が撃震とは言っていないがそれでも単機で大隊戦力に匹敵し、あの沙霧大尉ほどの実力者で満足出来ないのだ。 

 ―――我々は対等ではない

 古島中佐にとって我々はあくまで自らの欲求を満たす為の餌であり、自らの狂気に対する生贄程度の認識なのだ。
 相手は人の皮を被った人外……いや高度な知能と戦闘能力を持つ人型BETAと認識しても問題ないのかも知れない。
 あまりにも強すぎる力をあの魔女が恐れない筈が無い、だからこそあの計画を私に持ち出して来たのだ…恐怖の権化か。 

「言う事はそれだけだ、油断出来る相手ではない……追い詰められているのは我々なのだからな」

 これは本音だ。
 確実に追い詰められている…斯衛が一級の腕前と言えど人外の前では赤子同然なのだからな。
 選択兵装を【降り注ぐ雷】にし、目標をあらかじめ設定しておく……これは本来BETA用の兵器。
 だが古島中佐ならば――――――

「レイヴンズ戦闘準備良し!」

『ヴァルキリーズ戦闘準備良し』

 双方の管制が準備が完了した事を告げ、管制やレーダーがリンクし演習用の部隊が整う。
 今回の演習の最大の目的であり武御雷と初風のデモンストレーションであり、機体そのものの性能比べ。
 そして新米達の訓練と新潟に一時的な防衛線の構築と色々あるが……今はこの一戦に全てが掛かっている。


『状況開始ッ!!』


 四機の武御雷が戦闘開始と同時に突撃し、こちらも既に目標設定が完了していた【降り注ぐ雷】を発射する。
 大型のミサイルコンテナから射出される一発の大型ミサイルをあえて斜め上に撃ち出し、ミサイルは孤高のハスラー1へと飛ぶ。
 月詠中尉・篁中尉を突撃前衛に置きねその後ろを白三人組の強襲前衛の弾幕が護り、私はその後ろから強襲掃討(ミサイル装備)で砲撃する。
 今回だけの特別な部隊編成であり、既に第壱の矢は放たれた……そして放たれた矢は避雷針となり無数の雷を誘導していく。

 【多目的拡散多弾頭ミサイル:降り注ぐ雷】

 大型自律誘導弾(大型ミサイル)を運搬役とし、その腹に最大16発の小型自律誘導弾(小型ミサイル)もの内臓し何らかの形で捕捉されて自動的に腹を開放。
 クラスターミサイルが小型爆弾を地上に大量に散布する事で無数のBETAを一瞬で撃滅するのに対し、こちらは光線級を優先して仕留める為に造られた物。

『敵の布陣は崩れた! まずは作戦通り敵の新任を叩き数的不利を無くすぞ!』

 もし捕捉されないならば16発分の火力を孕んだ大型ミサイルがBETAの群れに直撃し、大型故のその突破力で小型の小型を跳ね飛ばしながら目標へと飛来。
 捕捉され照射が開始されるより先に腹から16発の小型ミサイルが放たれ、あらかじめ飛来予定されている目標へと一直線に飛来し撃滅する多弾頭ミサイル。
 大型と言えどミサイルならば直撃すれば即死は免れず・小型ならばその爆風や鉄片によって致命傷は免れない光線級への新たなる切り札となる武器。
 こちらの切り札に慌てたヴァルキリーズは弾幕を展開しているが目の前には全力噴射で一気に接近する五機もの武御雷…眼を逸らせはしないだろう。

 カリバー隊の時とは違い小型ミサイルを同じ小型ミサイルで迎撃するなどと言う離れ業が出来はしない、距離が近すぎるのだ。

 カリバー隊の時は無数の弾幕を当初から裂く為に距離が開きすぎているにも関わらず発射したが、こちらは山なりになるような弾道に加えて運搬による接近があった。
 捕捉し迎撃弾を発射した頃には既に本体からは小型弾の切り離しが完了し捕捉自体も既に完了している……前と上からの二種類の雷による電撃作戦。

『レイヴン2インレンジフォックス3!』

『レイヴン6インレンジフォックス3!』

 一回戦目と同じような状況が生まれ、既に迎撃が間に合わないミサイルの回避の為に大空へと飛翔するヴァルキリーズだがやはり新任の五機が遅れる。
 ヴァルキリー5がヴァルキリー2を庇い自機そのものを盾してレイヴン2の36mmを受け止めるが不知火と同程度の装甲で近距離の36mmは受け止めきれない。
 36mmが装甲の各所にペイントを付けていくが実戦ならば最悪貫通し機体の大破は免れられない……まずは一機仕留めた。

『レイヴン2左肩被弾、左腕および左肩兵装担架は機能停止!』

 だが相手の新任は驚くべき事に落とされるならば一矢報いるとばかりに装備している主腕と兵装担架の一基の計三丁の36mmと120mmの撃墜判定が出るまで乱射。
 とても新任がミサイルを回避した直後に出来るような反応ではない、敵と自分の動きをしっかりと理解していなければこんな芸当は出来たりしない筈だ。
 更に月詠中尉も敵が新任ながらこれほどの芸当が出来ると言う事に驚かされたのか一瞬の反応速度の遅れが120mmの直撃へと繋がってしまったようだ。

『レイヴン6右腕被弾、兵装担架は起動可能ですが右腕はもう使えませんッ!』

 ヴァルキリー6はミサイルの迎撃に全力を挙げていた所為で他の友軍機のように飛ぶ事が出来ず、そのまま地上でミサイルを撃ち落すもレイヴン6に長刀で斬られ撃墜。
 管制ユニットを掠るように斬り、実戦ならば管制ユニットごと機体を袈裟にかけて切り裂かれ中の衛士も人の形は保ってはいなかっただろう。
 こちらは反撃の間を与えず斬り捨てたが後方からの狙撃によって機体の右腕を的確に狙い撃ちされ、実戦ならば右腕は爆発ないし弾速でモゲテ大破と言うところ。
 あえて右腕を撃ち抜いたのか・それとも狙撃になんらかの障害が生じて管制ユニットへの直撃を回避出来たのならばレイヴン6は命拾いした事になるな。


「冷静に分析している場合ではなかったな、レイヴン各機は【降り注ぐ雷】第二射を放つ! 巻きこまれるな!」


 眼前に迫るのは桜の文様が肩に描かれた初風…隊長機による敵指揮官の撃破と言うのが作戦だろう。
 この遠距離用の重荷を背負った状態ではとても捌ける相手ではない、たとえ効果が薄くとも発射しコンテナを担架から外さねばならない。
 自律誘導の性能に頼り即座に残った一発を発射し、接近されるよりも早くコンテナを切り離し機体本来の機動性を取り戻す。 

『―――コールレイヴン……ホワイト・グリンドか』

 開かれた通信からふと漏れた言葉……ホワイト・グリンドは直訳すれば【白き閃光】と言う意味になるか。
 古島の初風の兵装担架の一基、カラサワを背負っている担架が起動しその砲身からあの蒼い光を撃ち出す。
 しかし本来ならば捕捉された瞬間に分裂する筈のミサイルが起動しない―――まさか……


『高速飛来物に対するノーロック…マニュアルシュート……今の若い連中で出来るのはそうそう居ないだろうな』


 高速移動している段階でミサイル本体を捕捉するのではなく、ミサイルが飛来する軌道の一足先に銃口を向けたマニュアルによる射撃。
 人間の射撃と同じだ、機械の様なロックする物等なく自力による全てを先読みしての人間の手による分裂弾の封殺劇。
 だが高速移動している状況で高速飛来するミサイルの軌道を先読みし撃墜する…そんな神業が可能な筈が無い! ”人間”に出来るはずが無い!

『レイヴン3管制ユニットに120mm直撃! 致命的損傷により大破!』

『申し訳ありません…ですがヴァルキリー9は撃破出来ました』

 36mmと120mmをばら撒きながら一気に接近するハスラー1に対し、こちらは長刀を担架から引き寄せ弾幕を掻い潜りながら接近する。
 その間に敵編隊後衛まで突破した白三人組の一人が後衛防衛の要の砲撃支援を斬り捨てたが直後の打撃支援からの弾幕を掻い潜れず大破。
 いやむしろ撃破判定が出ると理解しての”仲間ごと”撃つ心積もりで撃たねば36mmのばら撒きなど出来ないだろう…不知火型の装甲では36mmは防げない。

『余所見をしている暇が有るのか、レイヴン!』

 ほんの一瞬の報告への眼通しの間にハスラー1は突撃砲の一丁をその場で放棄し、長刀を左手に・突撃砲を右手に装備しての突撃体勢。
 意地の悪い突撃前衛……いや、本人は突撃尖兵と称していたがまったく持って冷酷な突撃を敢行する尖兵だなハスラー1!

 ―――近接戦闘では長刀による剣技もさる事ながら、最大の敵は実刀である長刀を一方的に切り裂く光線剣の存在

 それをチラつかせながらの接近戦闘に加えて初風の正面突破の機動力相手で、瑞鶴では到底後退しきれない…つまり逃げ切れない。
 たとえ逃げ切る為に背中を向けようモノならば容赦なくカラサワの光が私を消し飛ばすだろう。

「どこまでも悪趣味だな! 貴様はッ!」

『あぁ良く言われてた!』

 猛撃とはこの苛烈な攻めの為にあると言っても相応しいほどの、機械である筈の存在がまるで人間のような素早く柔軟な攻撃を繰り返す。
 接敵を意味するこちらとあちらの長刀の交わりは私専用に改造された瑞鶴だからこそ為せたほぼ互角の剣劇……だが次の手は容赦なく迫る。
 即座に遊ばせている右手の突撃砲が至近距離から火を吹く、幾等瑞鶴と言えど至近距離からの砲撃に耐えられるような装甲は持ち合わせていない。
 噴射装置を最大稼動させ距離を開きこちらも36mm突撃砲を乱射し、間合いを今一度開かせる。

 ―――運が良くも悪く、双方の突撃砲が双方の突撃砲を破壊すると言う因果な事に

『運の良い!』

「まったくだ!」

 こういった展開になれば担架が二基しか存在しないこちらが武装積載数によって圧倒的な不利を余儀なくされてしまう。
 更に相手にはカラサワが控えている以上砲撃で勝てる道理はもう残っていない……後は武人としての一振りの長刀のみ。


『レイヴン4・ヴァルキリー4・7・8大破ッ!』


 正直悪いが目の前の敵を前にして味方の損害報告を聞き取り、その詳細を聞き分けている余裕など皆無。
  

『レイヴン5・ヴァルキリー3致命的損傷大破ッ!』


 鍔競り合いに持ち込もうも牽制に振りかざされる光線剣の蒼い光が、容赦なく踏み込む魂胆を木っ端微塵に破壊し切り刻む。
 通常の長刀同士の戦闘ならば長刀で足止めしている間の友軍機の援護、あるいはこちらの出力を生かして叩く事が出来るかも知れない。

 だがあの蒼い月光は一度その存在を見せ付けるだけで容赦なく覆せぬ接近戦での不利を照らしつける。

 一方的にこちらの長刀を切り裂きそのまま管制ユニットごと衛士を蒸発させれる……そんな脅威が人の柔軟さを携え襲い掛かる恐怖。
 戦場を巧く飛び回り大破して友軍機から零れ落ちた支援突撃砲を拾い上げ、なんとか弾幕を手にするも付け焼刃だろう。

『どうした? 動きが鈍いなレイヴン?』

「旧OSにそちらのような柔軟性を求めてもらっては困るのだよッ!」

 こちらの後退速度は速くて100kmに対し敵の前方速度は最速で900km……亀と兎が競走をするようなものだ。
 支援突撃砲の弾幕を展開しようと機体はまるで地上を軽やかに疾走する猫の如く・飛び立てばそれこそ鷹の如くしなやかに動く。
 右へ左へ機体の可動噴射装置を操作しながら機体を滑らせ、一振りの長刀と二本の光線剣に加えて光線銃を背中に提げての突撃。
 
 ……何が武御雷と同程度の改造だッ!

 遊ばれている―――まるで一進一退の勝負をしているかのような戦いをこの戦いを観戦している新潟全域の衛士に……見せられている。
 新任達の現在の状況は本物としても私と彼では、腕は同程度であっても機体性能が赤子と大人の如く違いすぎる。

 装甲などの機体として押さえねばならない点では勝っていても、武装面では涙さえ誘うような悲惨な程までの歴然とした差。
 横薙ぎの一撃をこちらの一撃で叩き落し長刀が地面に叩きつけられた隙をついて支援突撃砲を乱射するも、長刀をその場に放棄しての回避によって避けられる。

『これで光線剣二本とカラサワだけか―――厳しいな』

「どの口がそう語る! レイヴン2! レイヴン6! そちらはまだ片付かないのか!?」

 距離が開きレーダーに敵性反応がいない事に気付いた瞬間には手足が危険を感じ取ったのか、既に回避運動を機体に入力していた。
 視界に表示される機体の関節が見たくない色へと変貌し内蔵されている噴射剤の残量も心許無い量へと一気に消費される。
 常に水素があれば動力を得続けられる敵機に対しこちらは有限の噴射剤と常に相談しながら戦うのだが……常に全力噴射の代価が現れていく。

 ―――余裕があると思われるレイヴン2・6に怒鳴りながら支援を要求してしまう

 現場の辛さを知らない者達から言わせれば不利になった故に友軍機に無理な支援を要求する無茶な者と見られるだろう。
 しかし目の前の敵を前にした状態で、単機で…古島の中佐の駆る初風を相手出来るのは紅蓮大将くらいやも知れない。

『レイヴン2…現在ヴァルキリー1と交戦中―――まさかこれ程とは……甘く見すぎたか』

『レイヴン6! ヴァルキリー2と交戦中! こちらも手一杯援護出来ません!』

 ヴァルキリーズの残った隊長機と副隊長機の二機相手に互角の勝負をして動けない二人。
 機体のカメラにも移る大空を優雅に飛行し武御雷の遥か頭上を悠々と滞空しながら、無数の弾幕が雨あられと降り注いでいる。
 そしてこちらは眼前で大地にその爪痕を容赦なく残しながら飛来する蒼い光の塊が機体のすぐ右横を掠め、力を失うまで大地を抉り続ける。
 もし避け損ねれば間違いなく消し飛んでいただろう、容赦ないな…いや避けると解っていたから実戦出力で放ったのだろう。


『悲しいなぁ……ここまで機体性能に差があるのはもはや子供を大人が虐めているようなものだな?』


 どこまでも侮辱による扇動などで勝利を掴みたいらしいな。
 ……本気を出せば現状の私など容易く狩れるだろうに。


「レイヴン2・6……決死の覚悟で最低でも相打ちに持ち込め………彼らは強い」


 残った噴射剤の量を確認し、機体各部のエネルギーの全てを突破と突撃に関する位置に廻し後は全てカット。
 先の戦いで沙霧大尉が初風を一時的とは言え圧倒したあの戦術を使い最悪相打ちへと持ち込む…斯衛に敗北は赦されない。 

『承知しました』

『了解です』

 慢心や油断などあって勝てるような相手ではない……こちらも化物だが纏う殻の性能が違いすぎた。
 悔やむはこんな特攻と相打ちに持ち込むと言う事へと部下を強制した自らの実力と戦局か。

 長刀を構え、地に降り立っているハスラー1に対して悠々と構える。

 可動担架のカラサワの銃口が外れ、まるでこちらの要求を理解したかのように二振りの蒼い光を構える。
 接近戦における圧倒的優位の権化たる月光と言う刀が名の元となった蒼い月光を放ちながら獲物を待つ。

「伝説か―――時代はもう変わったのか」

『その機体で良く粘ったな…次は水素機関搭載型の武御雷に乗って死合おう』

 桜が後手を打つ・先手はこちら。
 瑞鶴の残った噴射剤の全てを賭したまさに最後の一撃に賭ける。


「―――すまんッ!」


 ヴァルキリー2を撃墜したレイヴン2が後方から長刀を振りかざす……ヴァルキリー2が接近戦を行ったのをレイヴン6が撃破。
 そのままレイヴン6はヴァルキリー1へと特攻し無数の弾丸によって大破させられるも、辛くも相打ちに持ち込む。
 結果手持ち無沙汰となったレイヴン2があの間に初風に追い着き、後方からの奇襲と正面からの同時攻撃と言う咄嗟の策。
 こんなツマラナイ終わりなど迎えたくはないが斯衛に敗北は赦されん故にたとえ卑怯だとしても勝たせてもらう。

『セラフ、コントロール・カラサワ』

『了解…演習出力で発射』

 兵装担架がまるで意思を持っているかのような動きで背後から迫るレイヴン2の武御雷に銃口を合わせる。
 旧OS特有の硬直を回避する術がない訳では無い……だがその術すら恐らくこの一撃は笑い飛ばすかのように必中するだろう。
 現に既に攻撃を取り止め回避機動を行おうとしている赤い武御雷の赤い軌跡の一歩先を蒼い光が追い詰めているのだ。


『セラフ……管理者システム―――システムの全てにリンクし衛士の危機を自動で回避し狂おしい愛で衛士の生還を約束させる試作機構』


 なるほど―――機械も共に戦っていたと言う訳か。
 頭脳が違いすぎる、技術力が違いすぎる。 

 ―――実戦に対する”何か”が違いすぎる。

 神が与えた二才よりも優れ、凡人から言わせれば無慈悲なまでの圧倒的な才能。

 ―――非凡で年の功を持つ天才を相手に勝負など無謀の極み


『レイヴン2! 管制ユニットへの光線直撃により致命的損傷……』


 全力の一刀を嘲笑うかのように右手の月光が煌き、その軌跡を残すと同時に実戦出力と言う容赦なさから長刀は半ばで溶かされ上部刀身が地面に沈む。
 残った左腕がまるで救い上げるかのように振り上げられ管制ユニットに斬られたコゲ後を微かに残す。
 こちらも実戦出力ならば慈悲無く一瞬を持って走馬灯とやらを拝む事無く私は蒸発し、この世から生を失っただろう。



『……レイヴンズ全滅…伊隅ヴァルキリーズの勝利……です』



 演習場はまるで悪い夢でも見ているかのように静まり返った。
 帝国最強の斯衛が国連相手に九機中の二機を残し全滅、新任三人がいたがそれは国連五人も同じ。
 更に伝説とまで謳われた衛士であり元斯衛と互角以上の勝負を繰り広げ最後に僅か二閃にて撃墜される伝説。

 ―――技術屋は涙すら誘うその武装面での性能差に泣き

 ―――帝国衛士は伝説が撃墜された現実に凍りつき

 ―――国連衛士は圧倒的な強さを持つその存在に恐怖する

 今頃色々と国連の魔女の元に話が舞い込んでいるだろうな。

「まったく君は本物のハスラーだな……最後の最後でこんな手とはな」

『良く言う……こちらは詳細を教えていたのに友軍に一言も伝えていない古狸が何を』

「私が狸ならば君は狐か? いや魔女に仕えているのだから賢しい猫だ正しいか」

『……時折手厳しい事を言うから私は貴方が恐ろしいのですよ』

 恐ろしい? 私を相手にしながら遊べる力量の持ち主が何を言うか。
 だがこれで国連に対する警戒などが少しでも解ければ…色々と楽なんだがな。



『緊急通信ッ! こちらへ向ってくるBETAを捕捉しました!!』



 どうやら地獄はゆっくりと迫って来ていたらしい。
 周囲に展開していた実弾装備の護衛部隊などが一斉に防衛戦の構築を始め、我々も実弾装備への換装を余儀なくされる。
 見せて貰おうか古島中佐……対人の成績はこれでもBETA相手の実力を見せて貰わねばな。



□□□


 一言……集団戦術機戦闘って書くのが難しいッ!
 ましてや第三者視点ではなく当時者達の視点なのでとても書き辛い
 現実的に考えてあの数が群がっている状況で冷静に各機の状況把握は不可能でしょうし
 いっそ第三者視点にする方が良いのかも知れない

 武御雷の性能っていつみても懐疑的なんですよね……あの物量相手に質だけで耐え切れるか不安

 貫通兵器なんて装備していないから弾薬関係ではオリジナルハイヴが良い例でしょうし
 ミサイルコンテナが装備不可能な時点で後衛の連携はズタズタ、支援もクソもない
 接近戦特化と言えば聞えは良くても長刀が折れては元も事なし……ガチ砲撃派の作者では理解出来ない設計思想

 今回の圧倒的な敗北原因は古島と言う最悪の思想家の発明とセラフの所為に間違いない

 何せ敵は衛士の実力に加えて【管理者】まで十機全てを統括し操作を援護してくれる……ゲームで言う全項目解除の強化人間状態
 的確なコンピューター制御の下に人間では出来ない筈の操作や咄嗟の処理をしてくれるゼロシステムならぬ⑨(ナイン)システム
 格闘ゲームなどで顕著なCPU特有の超反応が支配下の全衛士に―――人間の入力(行動)が判ってるから幾等でも手が打てる鬼畜ぶり
 そんな天魔外道のシステムなしでこの戦果はありえない、動きを見てから【0,~】の反応で衛士が反応出来てなければ救済するのだから
 真面目に戦っていた面々に合掌……ヴァルキリーズはフォアンサーの白栗の分裂ミサイル並みのバランスブレイカー(レギュ1.00)装備なのだから


 ご指摘により誤字・クロスとは関係なかったモノ等を修正



[9853] 十五話[不可解なる初陣]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/30 02:51
 視点:コジマ
 
 こんな筈じゃない……こんな筈じゃなかった筈だ。

 レーダーには無数の敵性反応……この世界の敵であり太陽系銀河とは違う銀河からの侵略者であるBETAを示している。
 そもそもBETAと言うのも地球人が勝手に付けた名前だが本名など知る由もなく、連中も教えてはくれないだろう。
 原作では炭素生命体を全否定し全宇宙から撲滅する為に行動する珪素生命体の無尽蔵の尖兵達であった筈だ。

『敵BETA総数500、支援砲撃とミサイルの嵐で殲滅は時間の問題です』

 物量が武器であり、圧倒的な物量で人類を苦しめてきた筈のBETAが無慈悲な爆炎と砲弾の嵐によって壊滅しつつある。
 そもそも演習部隊と海岸線に展開している部隊が六個大隊……国連・帝国総合して二個連隊しか存在しない少数精鋭の部隊の弾幕を前に敗れる。
 水上に展開した艦隊や潜水艦隊の爆雷と魚雷の洗礼を生き延びた連中が上陸出来る、たたじこの時点で既に5000はいる筈だ。
 しかし今回のレーダーで観測され水中で確認された総数は僅か3000の少数であり物量で押し捲る相手としてはあまりにも不自然すぎる。
 
『突撃級が第一防衛線を突破しました! カリバー隊・レイヴン隊が先行しクロス隊とヴァルキリーズは後方支援に徹されたしだそうです』

 既にBETAの上陸後の足止めの為に空中散布された遠隔操作可能な地雷が足腰が自慢の突撃級を見事に爆殺、玉突事故が発生。
 時速170kmを六本足の多脚で実現しながら身体の前身を覆いつくすモース硬度15以上と言う無類の盾を纏う突撃は脅威に尽きる。
 ダイヤモンドより硬く衝撃を受け流しやすい形をした装甲を引っ提げで突撃して来るまさに突撃級の名に相応しいそれは、機動力のない相手には絶大すぎる威力。

「……仕方ない、全機帝国の厚意に甘えクロス隊と後方近接支援を開始する! ヴァルキリーズは伊隅大尉の指示に従え、涼宮中尉も報告は頻繁に頼む」

『了解! ヴァルキリーズ、演習で勝ったクロス中隊に遅れを取るな? 九機編成で陣形を維持しつつ砲撃を開始!』 

『了解ッ!』×8

 36mmを弾き飛ばし120mmを数発当てねば止まらない特攻兵…戦車の様な鈍亀にとってこれほど脅威となる存在はないだろう。
 戦術機など壁にはならん、むしろ避ける所為で壁となる仲間はなく自分達の遅い足で懸命に後退しながら弾幕を展開するしか手段がない。
 それで前線の戦術機隊は無様にボロボロにされて支援砲撃を要請してくるのではあれば、彼らの苦悩も頷けるな。

『レイヴン1よりハスラー1に通信要請が来てます』

「ハスラーワンよりヴァルキリーマム(涼宮中尉の事)回線を開いてくれ」

『了解、回線周波634で開きます』

 玉突事故から抜けてきている突撃級を威力を抑え狙撃ライフルのような細い線で撃ち出す、既に最前線は接敵済み…これで最大出力での発射は不可能。
 それに今は少しでも弾幕を展開しこの突撃級の後方への突破を阻止しなければならないのだ…獲物は欲しいが数は少なくあって欲しい。

 ―――贅沢な悩みだな

 一定高度以上で滞空しつつ味方が被る事ない射線で36mm・120mm・カラサワの三丁からの総攻撃で突撃級に降り注ぐ。
 攻撃優先度はセラフが自動で設定し前線の味方が防げない可能性があるものや弾幕を突破しそうにあるモノを優先して撃ち殺していく。
 突撃級の装甲甲殻も万能ではないらしい、36mmの一点集中や120mmの複数発着弾で突破出来る…カラサワは無論一撃で風穴が開き絶命。
 あるいは甲殻に覆われていない六本の多脚に狙いを絞り射抜く、足を失った突撃級は見事に転げて何も出来ず味方に同胞に踏み潰されてしまう。

『(秘)こちらレイヴン1、ハスラー1応答されたし』

 上空から見える景色では突撃級のすぐ後ろを担当するBETA戦力の中でも接近戦に優れた要撃級が、武御雷や沙霧大尉の不知火達に切り伏せられている。
 モース硬度15以上を誇るサソリの鋏(ハサミ)やカマキリの鎌のような外見をした二つの前腕で装甲だろうがシェルターだろうが殴り壊す脅威の格闘家の要撃級。
 突撃級を掻い潜っても次に待ち受ける要撃級に殴られれば最後……装甲の硬度で負けている戦術機が粉砕されぬ道理はなく確実に殺されてしまう。
 風間少尉・穂波少尉がミサイルを全弾撃ち出し、放たれた小さくも獲物を追い求める獰猛な獣達はセラフと言う天使に導かれ要所・要所に見事に着弾。
 よほどの恩知らずでなければ今の砲撃で助けられた事に感謝の通信くらいしているだろう(今の俺はレイヴン1との秘匿通信中で解らない)

「(秘)ハスラー1通信回路良好…どうしたレイヴン1? 歳の癖にそんな重い物を提げてるから飛べないのか?」

 対光線級を意識して造られたあのホワイト・グリンドのような分裂ミサイルには恐れ入った……殺された記憶が蘇えり偽りなく怯えさせれた。
 だが性能面ではガタ落ちも良い所だ、まぁ量産性と特機用に造られた火器管制システムの差がもたらした誘導面での甘さで顕著だった。
 うしろ全弾がそれぞれ設定・捕捉すれば自律誘導する面には驚いたがそれでも甘い、あれの本物の誘導は音速飛行にすら平然の追い着くのだから。
 レーダーに映り続けるあの無数のミサイル反応とアラート音を今でも覚えている…しかも目の前にには伝説のレイヴンがライフルを構えいる地獄付きで。

『(秘)妙だ』

「(秘)まるで”戦術機”やこちらの戦力の下見だな…まさに足下を見るだな」

『(秘)笑い事ではないな、伏兵の可能性もなくはない…あるいは援軍の可能性もあるな』

 要撃級はまさにサソリの外見でありながら異様な旋回力を誇り尻尾には人間の顔の様な感覚器を携えたエゲツナイ外見を持つ。
 見た目云々はBETA全てに言える話であり、新任衛士達が実戦で実力を発揮出来ないのは本能が恐れ拒むような外見も一因だろう。
 ドコゾの変態企業でもこんな見た目の生物兵器は作らなかった、数では古代文明の特攻兵器にも劣らずゲテモノと一言であらわせる外見。
 生物的嫌悪が全開で見ているとイライラしてくる、さっさと皆殺しにして不味いコーヒーもどきで一杯したい所だな。

「(秘)………勘弁して欲しいなっと! 武御雷も新任か駆れば殺されかけるか」

『(秘)この程度の戦車級の数に慌てふためくようならばその程度と言うだけだがな』

「(秘)その膨大な葬儀費用はぜひとも返金して欲しい所だがな、少しはこっちを見習って欲しい所だ」

 BETAの物量の権化である戦車級の登場に少し地上戦力が慌て始める。
 蜘蛛のような外見と胴体に巨大な口を持つ戦車級は衛士殺害数が依然としてダントツのトップであり、戦術機最大の敵に等しい。
 小型だがとにかく数が他の種類に比べ比類なく多いのが特徴で、要撃級を掻い潜りつつ戦車級の処理までそう容易く手が廻らない現実。
 しかもこの戦車級の口と顎は戦術機の装甲をいとも簡単に噛み砕き、中の衛士も纏めて咀嚼してしまうまさに化物のような歯茎や顎だ。

 ―――地上に展開するその様はまさに”赤い津波”や”赤い蠢く森”と表現しても過言ではないだろう

 もう地獄だ…圧倒的で無慈悲なまでに差の付けられた戦力差を眼下に見る。
 飛んでいなければあの津波や森によろしく揉まれて最悪捕食されるか殴り殺されるか踏み潰されるか…死に方は多彩で助かるがな。
 戦車級に取り付かれ半ば錯乱状態だった黒い武御雷に狙いを絞り、セラフの高速演算でもたらされる”最善の未来”を引き金に託す。

 ―――36mm・120mmによる戦車級だけ、機体を傷つけずに射抜く神業

 声もなく硫黄の匂いがすると言う体液を風穴から流し、取り付いていた戦車級は力なく地面に転がり錯乱状態に近かった黒い武御雷は平常心を取り戻す。
 上空でプカプカと浮びながらしている仕事はこんな所でありようは見下しながらこの世界の味方の実力とやらを拝ませてもらっている。

『第三陣要塞級の上陸が確認されましたッ! ヴァルキリーズ各機は光線級の上陸に備えてください』

 本当に下見のような足取りだ……原作ならばこの時点で光線級が上陸し即座に制空権を掌握されてしまう筈だ。
 小型光線で380万km・高度1万km先の敵対存在を捕捉・30kmの有効射程を誇り決して友軍を誤射しない照射レーザーを持つ。
 重光線で380km・最低高度500mm以上の高度の敵対存在を捕捉・100万km以上の有効射程を誇り決して誤射しない照射レーザーを持つ化物。
 
 ―――ふざけている

 しかもこれが登場すればミサイルなどは確実に無効化(撃墜)され、その迎撃対象は砲弾すら捕捉し容赦なく撃ち抜き溶かす。
 衛星破壊砲や衛星照射砲並みにふざけている、大気による減衰すら嘲笑うかのような破壊力にもはや呆れて溜め息くらいしか出てこない。

「秘匿通信終了! ハスラーワンより各機へ、無理しない程度に着陸地点を確保しろ! 迎撃回避用の電力を今のうちに確保しておけ!」

『了解ッ!』×9

『安全着地地点およびBETAの密集が手薄な地点を表示します! 皆気をつけて…』

 視界に表示される戦場全体で手薄な場所とクロス中隊などが切り開いてくれている着地地点が表示される。
 更に俺には伊隅ヴァルキリーズ各機の損害状況・残弾情報・バイタルデータなどが表示され、それに即座に眼を通す。
 全機健全と言っても過言ではない、無傷で機体の自らの挙動で疲労した関節関係などもまだ持つ…全機健在でいけるか?

『後方より80mmなどの補給コンテナが届いたと通信がありました!』

「良し、伊隅ヴァルキリーズは一時後退し弾薬を補給し光線級の上陸に備えろ! 各機良い動きだぞ、これなら全機無事に生き残れそうだな
  レイヴン1! ヴァルキリーズは一時補給で下がる……まさか援護なしで戦えないなど帝国の衛士様が言わないよな―――なぁ帝国隊の皆様?」

『ふんッ! 舐めて貰っては困るな! レイヴン1よりレイヴン・カリバー・クロス隊各機は戦乙女の休息を邪魔させるな!
  これ以上無様な姿を見せてはあの詐欺師どころか美人揃いの戦乙女達にすら失望されるぞ! 帝国衛士の気合を見せてみろ!
  それとも帝国衛士は馬鹿にしている者達に背中を絶えず護って貰わねば戦えぬ腰抜け揃いか!? 私を失望させるなよ!?』

 ……自覚はあったらしいな。
 散々馬鹿にしている砲撃寄りの戦術機に背中を護って貰っている現実に、そもそも米国と日本は役割分担がしっかりしている。
 日本は接近戦に特化しているが砲撃面での甘さがある、さっきの様な場面でどうしても砲撃での救助が出来ない。
 対する米国はとにかく弾幕の展開と砲撃の嵐、日本が前衛を勝手に担うのならばその背中を護り敵を寄せ付けねば良い。
 でも米国の一部上層部がやらかした馬鹿で前線の人間は良い迷惑・帝国は米国全否定で援護すら”無用”とバッサリ斬り捨てる始末。
 それで喰われては笑い者も良いところだ………まぁ人間が『はい、手を取り合って助け合いましょう』など出来る訳がない。

 ―――たとえそれが滅びが目の前に迫った世界であろうとも

 手を携えて助け合う? 皆揃って生きて帰りましょう? 人種や国籍は関係ない? 

 ―――否否否否否否ッ! 断じて否ッ! 在り得ないッ!

 人間は醜く同族であろうと争うのが宿命ッ! 卑下し自分より低い存在を欲し続ける醜い命ッ! 下を欲し上を認めない理性の醜態ッ!
 疑い・妬み・憎しみ・怒り・そして生命体において唯一報復する種族であり、その貪欲に貪る様はまさに悪魔ッ! 天魔外道ッ!
 そしてそれを隠せる巧みな仮面と演技が出来るのもまた理性のなせる業ッ! 全てを偽り全てを騙し尽くしてなお生きる者こと人間ッ!
 それが人間であり、これこそが人間……それが俺の求める人間の姿―――綺麗事など不必要であり戦う姿こそ人間だと俺は思っている。

 欲望に真っ直ぐで手段を選ばない姿―――幾多モノ傭兵生活で得た俺の仮面と本性を携えて生きて来た俺の理想。

「涼宮少尉、戦場全域のBETA展開図を廻せ」

 機体は既にクロス中隊に護られながら安全な着地地点に降り立っており、機体の電力も順調に予備コンデンサーに逐電されている。 
 しかし妙だ……不気味すぎて興醒めするような不気味さだ―――戦場全域の総数が3000程度と言うのは妙すぎるだろう。
 極東侵攻の最前線拠点である佐渡島から派遣出来る数は2000年の時点でも万単位の部隊派遣すら可能の筈だ…それが3000程度。

 上陸を許した数など物の数にも入らない、そして不気味な程に多い戦車級の数……威力偵察とでも言うつもりか?

 広範囲索敵や戦場の味方の間接リンクによる戦場全体のBETAの分布図もまるで殺してくれと言わんばかりの手薄で脆い布陣。
 要塞級の上陸で慌しくなるような訳では無い、所詮はデカブツと言う利点を活かした質量任せの衝角攻撃と光線級の盾程度の存在。
 外見はそれなりに他の種族に比べ落ち着いており足が異様に長い蜂……と言うべきか、何より脅威なのは圧倒的な巨体がもたらす威圧と質量。
 全長50mを超える高さを持つだけの威圧感とその巨体による光線級の防壁としての防御力、更に十本の多脚と衝角がもたせす質量故の一撃。

『―――中佐?』

 衝角には強酸分泌機能が搭載されており、一撃を与えられた時点で強酸による融解……ドロドロに溶かされる死に様が待ち受けている。
 量産が利く個体ではないらしいがそれでも、もう少し数を派遣出来る筈にも関わらず目の前の二体を除き二桁にも昇らない極少数。
 足下にも光線級の姿は確認されていないようだが、何の為の要塞級出撃なのか…既に面倒な突撃級の殲滅は完了し要撃と戦車級の殲滅に取り掛かっている。
 面倒な盾にもご退場を願うとしようか。

「いや、涼宮中尉は本当に優秀だな……私の教官もオペレーター仕事が多かったがそれに劣っていない……むしろ血の気が少なくて気が楽だな」

 最大出力で要塞級の胴部に狙いを定め一射。
 放たれた蒼い光は要塞級の胴体に巨大な風穴を作り、大気や塵・埃による自然減衰で消滅するまで大空へと飛んでいった。
 今頃実戦出力の威力を…本物を拝んだ技術屋連中や衛士達の恐怖と希望に満ちた顔が容易に想像出来る。
 崩れ落ちる巨体を支えていた巨大な足は地面へと倒れ、見事に周辺に存在していたBETAを轢殺してしまう。
 残っていたもう一体も弾薬補給を終えたヴァルキリーズが発射したミサイルと120mmの集中砲火で吹き飛ばされ地面へと崩れ落ちる。

『……そんなにですか?』

「あぁとにかく恐ろしくてな、昔どこぞの馬鹿が喧嘩を売って顔をシコタマ殴り飛ばされていたり、立場が上の筈の佐官が土下座で許しをこいたりとな」

 ヴァルキリーズ九機が近接支援に復帰し、今度はクロス中隊が後退し弾薬や噴射剤の補給に戻るようだ。
 面倒だね噴射剤の供給とやらは……こっちは幸い水辺の近く故に水素はどうやら充分過ぎるくらいある。
 絶えず動力は回転し続けラジエーターも問題なく稼動し機体の冷却や放熱も滞りなく行われている。
 取り付こうとしてくる戦車級の一体を射殺し、右手に装備している突撃砲を長刀に換装し接近戦の対応も始めるがツマラナイ。


『しかし流石斯衛ですよね、もう演舞ですよ”アレ”』


 赤い武御雷が次々と仕留めていく様は速瀬中尉が言うように、鍛え上げられた剣術とそれを再現する為に造られた機体の人機一体の剣舞。
 武御雷は噴射装置などにカーボン製の小型ブレードを装備しているので、ちょっとした回転などが回避と攻撃が合一した行動へと豹変する。
 縦に・横に・斜めに、普通の戦術機ではそれだけで間接が潰れかねないような柔軟で人間のような舞踊は礼節の欠けた観客を切り捨てていく。

 それに劣るとは言え山吹・白・黒も決して負けてはいない。

 やはり金の掛け方の違う機体…設計コンセプトも接近戦の為に生まれた接近戦の化身である選ばれた精鋭の侍が纏う鎧に相応しい出来栄え。
 惜しむべきはやはり実刀でそう褒められた耐久力を持たない長刀の存在とXM3に比べて致命的な遅さと選択の狭さを持つ旧OSの存在か。


「だが一振りで百の敵を薙ぎ払える訳じゃない……そしていつか折れる―――物量に任せた攻撃は最悪の局地戦だからな」


 眼前に広がる舞踊の主役は赤色・名脇役に山吹・脇役に白……黒はそのまま黒子だな。
 だがやはりネクストのような一騎当千は実現出来ない、最新鋭機一機に対して敵は旧式百機と言えばいかに無力が解るだろう。
 全方位攻撃が出来る訳では無い・人間の動きを完全にトレース出来る訳では無い・一切の補給なしで戦い続けられる訳では無い。

 ―――いっその事…AMSやトレースシステムでも作ってみるか?

 援護に戻ってそうそうに軽口を叩ける速瀬中尉は流石と言うべきか、現在は数も少なくなって気負いも少なくなった新任五人も良い動きをしている。
 舞踊に夢中の斯衛様を後方から危なそうな戦車級や要撃級を撃ち殺し、自分達に取り付こうとする戦車級を斬り捨てながらそのまま近接支援を行う。
 レイヴン1は流石に距離を置いている……瑞鶴では武御雷に付いて行く事は出来ないから一歩後ろでバッさバッさ斬り捨て撃ち殺しながら前線の陣頭指揮。
 沙霧大尉も斯衛と伝説が傍にいてしかも後ろでは憎たらしい程に的確な支援をしているこちらを一泡吹かせようと相当根性を入れて斬り捨てている。

『中佐…私達って活躍してますよね?』

『ヴァルキリー8! 戦場で軽口が叩けるとは随分と浮かれているな……帰ったらしっかりと鍛えてやるから楽しみにしていろ』

『たっ隊長! 私はただ中佐に……』

「渚少尉の負けだ、大尉! 帰ったら地獄のコジマ式基礎訓練の実行を許可する」

『感謝します』

 ―――胸糞が悪い

 ―――実戦の匂いがしない

 ―――殺し合いの匂いがしない

 表面は冷静でこの実戦でも安定しながら支援を行う歴戦の衛士という立場を取っているが物足りない。
 もともと数で圧倒する筈の敵が僅かな勢力で謎の行動を行っているのだ……ツマラナイ訳がない。

 ―――死体の数

 ―――残骸の数

 ―――降り注ぐ砲弾の数

 ―――視界を覆いつくす爆炎と爆風

 ―――阿鼻叫喚・回線が入れ混じる戦場の通信

 あの風が懐かしい……あの戦場が懐かしい……あの揺り篭を叩き落し燃え盛る人間達の苦悶する姿が忘れられない。
 突撃しか能のない連中、主役の座は金銀煌く衣服を身に纏った女傑が舞踊で既に奪い取ってしまっている。


(………ツマラナイ)


 主役になりたい訳では無い、脇役になりたい訳では無い。
 ……何になりたいのか判らない…まぁいい、今はこの退屈な戦場をもう少し楽しむとしよう。
 戦場各地でも既に勝敗は決しつつある、小競り合い程度とは言え既に二個小隊規模の損害が報告されている。
 無傷なのはここだけか、まぁ精鋭中の精鋭が集まった地点だ…仕方ないと言えばそれまでだろう。


『こちらクロス中隊! 弾薬補給に手間取りましたがこれより支援を―――』


『光線級の上陸が確認されましたッ! 全機警戒を―――』


 頭上に幾つモノ光の線が奔った。

 後方から弾薬や噴射剤の補給を行い戻ってきたクロス中隊……十二機の陽炎が一瞬にして貫かれる。

 対人索敵能力からもたらされる自覚なき管制ユニットへの無慈悲なまでの正確すぎる狙撃に十二機の陽炎は爆炎となって消える。

 減衰率0%の光線による遠距離狙撃、弾速も光なのだ……照射が始まってから回避しても旧OSでは間に合わないだろう。


『レイヴン1より各機へ! 【降り注ぐ雷】を使う!』

「ヴァルキリーズはレイヴン1を死ぬ気で護れ! もたもたしているとこっちまで撃たれるぞ! 風間・渚両名は狙撃で少しでも光線級を削れ!」


 照射の射線軸が開きすぎている。
 壁となるBETAを殺しすぎた…これすら計算の内とでも言うのか!?
 最前線で今も斬り殺している面々はまさに一転して活躍からすぐ其処に地獄の使者が待ち受けていると錯乱しかねん。

『うそ…だってあれは帝国の……』

『あっ…あぁ―――』

 ちっ! 舌打ちしながら目の前の死に動転し始めている新任の渚と一条に苛立つが理解は出来る。

 一瞬だ―――眼を一度マバタキさせた一瞬の間に十二機もの戦術機が火を吹き、物言わぬ残骸となって撃墜された。

 今までBETA相手に優勢であれていただけにその光景はあまりにも衝撃過ぎたのだ。
 確かに制空権を掌握されるのも頷ける……これでは飛ぶなと教育されてしまうのも本当に良く理解出来る。
 だがこのままでは光線級を殲滅する前にこちらが照射され壊滅しかねない、大地は今だBETAが数に任せて占領状態。
 ドコゾのエリート侍達が斬り殺すのも追い着かない、むしろこのままでは殺す前に消されてしまう。

「レイヴン1まだか!? ヴァルキリーズはヴァルキリー5・8を支援しろ! 大尉は光線級撃滅後に秘匿コードB使用ッ!」

『発射ッ! 怒鳴るなハスラー1!』

『ヴァルキリー1了解! 各機は秘匿コード使用まで耐えろ!』

 瑞鶴から発射された分裂ミサイルは飛来物を捉えた光線級…一度照射すれば12秒のインターバルが必要と言うがたった12秒。
 既に捕捉されている分裂ミサイルは腹から小型自律誘導弾を放つが、BETAはどうやらこちらの予測を上回る行動を取った。

 要塞級が十本の足を深く突き刺し、身体そのものをある程度地面に沈めその巨体をまさに巨大な盾にしたのだ。

 降り注ぐ小型自律誘導弾は巨体ゆえの防御力を誇り、尚且つ巨体ゆえの範囲で自律弾十数発全てを受け止めた。
 知能がないと言う相手が取った自らの身を盾にした狙撃者である光線級達を脅威から護った要塞級は沈黙したが爆風で敵が見えない。


≪光線級健在・ハスラー1緊急機動パターン16を使用≫


 機体がセラフのコントロールによって強制的に緊急上昇、直後にインターバルの終了した光線級からのロック警告で視界が赤色に染まる。
 強化人間でつくづく良かったと思わされる緊急機動だ……並みの人間なら上昇時の身体への負荷や脳味噌から血が引いて気絶しかねない勢いだ。
 だがそれはこの実戦の―――本物の狙撃でもしっかりと強化人間の身体能力を使わされるがな!

『中佐回避を!』

 上昇機動をキャンセルしそこから最速で今度は緊急降下機動を入力し、照射開始と同時に何とか回避出来る筈だ。

 ―――鼠色の爆風に複数の風穴が開き、直撃するよりも速く機体が急降下、照射軸からの退避に成功する

 爆煙を貫いたのは人と同じ程度の大きさしかない光線級の大人の頭よりも大きく、見てると苛立つような目玉から放たれた光線。
 人と同じ大きさ…カラサワよりも遥かに高威力と射程を備えながら小型の存在が極平然と存在している。
 ……ドコゾの女を誑し込んで護衛機にしたがる狙撃好きの老人が手に入れれば大変な事になる代物だ。
 そんな物を大量生産し、しかもまだインターバル中だが更に強化した重光線級が絶えずこちらを捉えた状態にある。

「―――左足の膝下からが消し飛んでる!? クソ何処からだ!?」

『左翼からの照射です!』

『光線級が射線軸を回避先にズラしたのか!? 中佐、これでは秘匿コードが』

「構わず秘匿コードBを使って役に立たなくなった二人を下げろ! 砲撃はこっちで引き付ける!」

 戦場全域に存在する光線級の総数が表示されるが……初陣で絶望とはこの事だろう。


 ―――光線級総数50


 極少数の戦力をあて勝利を目前に浮き足立った部隊を圧倒的な正確性と命中率を誇る狙撃隊で一気に撃滅する。
 まさにあの老人が好きな戦術だ、護衛機や通常戦力を先行させ混乱している最中に平然と狙撃してくる。
 本人が二流だから良かったがBETAは違う……正確すぎる…救いだったのはその総数50の第一射で落とされたのがクロス中隊のみ。
 各地で既に前衛の数が減った光線級はBETAのお得意の物量戦術を展開するよりも早く叩き潰されている事だろう。


『夜の虹、黒い霧、血の雨に打たれし者よ
 月の雫、白い水面、魂に導かれし者よ
 朽ち逝く地平に幾万の鐘打ち鳴らし、鋼の墓標に刻まれし其の名を讃えよ
 いざ我等共に喜びに行かん、死と勝利に彩られた約束の地へ』


 伊隅大尉から使い物にならないくなった二人へ許可した強力な催眠を始動させる為の言葉の羅列。
 【秘匿コード】【催眠暗示キー】とも呼ばれるそれは強力な催眠で強引に兵士達の足を動かし安定させる為の最終手段。

『『命令を』』

『ヴァルキリー5・8は後方へと退避! ヴァルキリー2はヴァルキリー6とエレメントを組んで対処しろ!
  これ以上中佐に負担を掛けるな! 左足の欠けた機体のバランスは長く持たん、最悪我々で引き付けるぞ!』

『了解ッ!』×6

 この暗示は能力が下がる、だから怯える兵士に使っても本来の力量を活かす事なく戦死していく。
 もっと効率良く出来ないかと考え物だが……落ち着いていられるのも今のうちか。 
 左足に内蔵していたブースターの欠落で推力が足りない、別のブースターを全開で廻しているがそう長くは持たない。
 表示されるブースターの状態が見る見る悪化していく……初陣でこの様か、情けない!

『光線級・重光線級の第二射来ます! 予想照射軌道送信します! 中佐回避して下さい!』

 3Dに表示された機体と戦場から俺に狙いを定め、どの光線級がどう照射しようとているかの図式が見える。
 俺に狙いが集中している事から突撃による撃滅が出来ると踏んだ判断力のある部隊が次々と撃滅していくが間に合わない。
 ヴァルキリーズの120mm・80mm・36mmの掃射を持っても次の照射までに全滅は不可能。

 回避しろと言われて回避しない馬鹿がいたらぜひとも見せて貰いたいよ涼宮中尉!  

 セラフが予想した最適な回避予想軌道に各ブースターを操作し、真上へへの緊急上昇による回避機動に移る。
 各部隊の奮戦もあって照射の数は激減するが、それでも今度はつい先程まで頭部や管制ユニットが存在した高度に光の筋が幾つも走る。
 再度行った急上昇に身体がメキリと嫌な感覚を放つがその程度で止まっていられるほど甘い戦いをして来た訳では無い。
 ネクストとの神経接続では脳味噌に機体に起こった状況の全てを報告する所為で一歩間違えば脳味噌が焼き切れる可能性があったのに比べれば可愛い痛みだ。

『海上の艦隊より支援砲撃!』

『帝国軍の衛士達よ! いつまで遊んでいるつもりだ! 実力を見せてみろ!』

『ヴァルキリーズ! 全機突撃……あの光線級を黙らせろ!』

 海上から本来の戦闘ならば光線級の上陸を許した瞬間に照射され、横腹やブリッジに直撃を許し轟沈する筈の艦船の健在。
 戦術機とは桁違いの砲撃の雨が降り注ぎ後方からBETAを根絶やしにし吹き飛ばしていく。
 電力切れによって墜落し片足のない所為で地面に惨めにも尻餅をつく機体を護るように展開する帝国と国連の部隊。
 近づく戦車級や要撃級を切り裂き薙ぎ払い、一体とて接近を赦さないその様はまるで夜叉の群れ。

『ハスラー1、援護感謝する…カリバー1よりカリバー各機へ! 恩を仇で返すな! 我等の底力を国連に見せ付けるぞ!』

『レイヴン1よりレイヴン各機へ! 敵をハスラー1に寄せ付けるな! 気高き刃を持って護りぬけ!』

 数が少なくなり支援砲撃の雨を突破したのも束の間、無数の侍の刀が切り刻む。
 三枚卸や一刀両断ではない、ズタズタである……容赦なくズタズタに切り刻む。

『弾幕を絶やすな! 光線級を優先的に仕留めていくぞ!』

『おやおや? 対人戦では鬼神の如きお方も……妖魔相手では鈍りますか?』

「……宗像中尉も帰ったらコジマ式基礎訓練を叩き込むとするか?」

『謹んでご遠慮させて頂く所存です』

 狙撃砲やセラフによる砲弾や照準アシストの存在するヴァルキリーズの正確な射撃で既にこの地域の光線級は全滅。
 剣舞の壁を展開している帝国軍を背中から援護し、光線級のいなくなった戦場を今一度飛翔し上空から爆撃再開。
 味方の重なる事なき射線軸を確保し、あるだけの弾薬を乱射に継ぐ乱射……僅かな手勢の壊滅は早かった。


『全戦闘地域でのBETA殲滅を確認……』


 たった3000のBETAは殲滅された。
 損害は二個小隊(八機)と一個中隊(12機)……艦船および戦車などの機甲部隊の被害は極軽微だそうだ。
 こっちは俺の初風が片足を吹き飛ばされ各ブースターが過剰な稼動に大破寸前・関節各部が演習との連戦で真っ赤に染まっている。
 部隊の直接の損失はないが今回の実戦で感じた死の恐怖で衛士生命が絶たれる危険にあるのが二人。
 あまりにも簡単すぎる初陣に注意力などが散漫になりかねない新人が多数……見えない所で他の部隊はボロボロだろうな。

「レイヴン1」

『……妙だな』

「……回避先への照射、捕捉が遅れた個体が行ったと見て大丈夫か?」

『だと良いな、たった3000での侵攻…不可解な要塞級の行動……不釣合いな光線級の数』

 周囲が実戦以来…数が少ないとは言え手に入れた勝利に酔いしれる最中、俺と巌谷中佐は不安で一杯だった。
 我が身を盾にした要塞級・こちらの回避を先読みしたかのような光線の照射・不自然なまでの数の少なさ。
 おそらく実戦を数回体験した衛士や兵士達は今頃俺達のように妙で拭いきれない不安を抱いているだろう。

「囮か?」

『何の為の?』

「……本土奥深くへの穴掘りや戦術機の偵察」

『……前者に警戒しておく必要があるな、水中でしか一方的に叩ける場所が存在しない今は』

 尻餅をついている機体の管制ユニットで考え込む。
 最有力説は佐渡島が奪還した際に起こった残党の攻撃時の為に造られているであろう、地中での道程。
 あるいは自分達からたとえ少数であっても攻撃するに値する何かがあった…それは何だ?
 
 ハイヴ内が限界まで数が増えたから極少数を叩き出して、侵攻させて来たか。

 あるいはそれに備えて極少数を出撃させてこちらの防衛戦力を減少させたかったのか。

 どちらにしろ警戒は必要だ―――白銀が来るまで安全とは言え、警戒は必要だろう。

『XM3だったか、その君が開発した新型OSは?』

「……機体が見違えるように軽くなるぞ」

『私の権限で出来る限り早い導入を検討しておく』

 ……宣伝は完了か。


『BETAの残党などの排除完了! 全機帰還してください! 皆…良かった』

『遥は心配しすぎ! もっと信じなさい!』

『古島中佐の支援や援助なしでは危なかった気がしますけど……』

『一条ちゃんと渚ちゃん大丈夫かな』

『……一番損傷してる中佐のフォロー』

『そうだ! 中佐大丈夫ですか!?』


 とりあえずこの娘共にはセレン式の地獄訓練が必要らしいな。
 損傷が極軽微に済んでいるとは言え今回は本当に特別だ……あまりにも不思議すぎる少なさ。
 次の侵攻はこうは行かない、渚と穂波の両名が死ぬか病院送りになるかの瀬戸際となるだろう。

 ……鎧心の導入を急ぎたい、やはり初風は脆すぎる―――軽量機は動いていて心臓に悪い。


「ミッション完了―――全機帰還する」


 殺し足りず、無様な姿を晒した初陣に不満を募らせながら。
 不自然な今回の侵攻に対する不安もまた募らせながら。

 戦術機達は一斉に飛び立ち帰るべき家へ向けて飛び立った。

 一部の機体が噴射剤足らずで歩いて帰っていたのは……情けゆえに語られず。


□□□


 初のBETA戦は、不可解な数の少なさ等に助けられとりあえず快勝
 一番損傷していけないコジマが左足を消し飛ばされ関節などが機動について来れずボロボロ
 他の面々は比較的軽度なのに一人だけボロボロ……香月博士にセッツカレルのは火を見るより明らか
 それで彼が香月博士から離反しない事を願うばかり


 ひたすら独善でガチ砲撃派の作者にとっての東方不敗流(感想と自分がもたらした惨事に対する身勝手で長い返信文章です)
 正直言えば決闘とかある程度整ってないとあんまり強くない気がする
 生身の限界は幾等でも有るだろうし、トレースシステムのない機体では宝の持ち腐れ
 あまり策謀などに乗ってくれなさそうな師匠とドモン…むしろ香月博士のような人だと反感する気がする
 しかも対東方不敗流…超要撃級とか人型BETA級でも造られ二人が破られればその級によって人類破滅
 と言うかあの二人に付いて来れる機体はゴット・マスター以外にあるのだろうか?

 二人が何処の陣営に属するかも盛大に問題

 香月博士のような存在が盛大に利用して好き勝手して米国とか他国に反感買い過ぎて二人が暗殺の危機に
 直接の暗殺は不可能でも毒物なり人質なり戦場でお得意の事故でした、でG弾などで諸共消し飛ばされる
 強力なカード代わりに振り回される事をあの二人が容認するとは到底思えない…不信感全開へ 

 何より生身が最大の問題

 焼夷弾使えばうっかり・ミサイルの嵐でうっかり・支援砲撃でうっかりと生身の行動であの戦場は生き辛いでしょう
 機動力の問題もある・手足が殴り続け走り続けに何処まで耐えられるか・弾薬の劣化ウランの放射能汚染も無視できない
 師匠ただでさえ病気なのに余計寿命が短くなる……汚染でボロボロになって死ぬなどあのフォルテシモ師弟では想像出来ないですけど
 人付き合いが巧いとは到底思えないあの二人……レインさんなどの間接役が必要不可欠で人件費が掛かりそうだ

 こう書くとやっぱりDG細胞?

 戦術機に感染させて自己強化と自己修復・兵士はゾンビなっても親玉(デビル)の統率で問題なし……問題は親玉の暴走と管理
 BETAがどれだけの時間でこれに対抗する個体や方法を取るかも問題……強い手ほど返される手は当然強くなってしまう
 あとはこれほどの存在を各国が逃さない訳がない、戦後を予想して確実に確保に乗り出し人類の戦争勃発など洒落にならない
 どうせならデビルジュニアがある意味では人類統率に適してるけど方法がデビルジュニアによる人類の洗脳では人類も黙ってない

 ぜひとも本編でデビルの元であるアルティメットガンダムを見たい

 あれならばノープログレム、人間による操作者に負担を強いない操作による自己強化・自己修復・自己増殖で戦力は無限大に
 しかも暴走もしてないから自然の為に人類撲滅や人類洗脳など考えない、とても安定した管理が出来て修理など手間いらず
 操作者次第では常に強化・修復・増幅し親玉護りながら一斉にハイヴ侵攻……光線へも適当に当て馬を出し学習させ全機光線用の防御フィールド装備 
 こう考えると本当にアルティメットガンダムはデビルの元だけに化物ですよね―――ウルベさんは別の意味で本当に良くやった
 最悪カッシュ家とミカムラ家の技術の結晶にあのドモンが乗りでもすれば、さぞかし大変なネオジャパンの連覇による支配時代がやってきただろうに

 ―――むしろウルベはネオジャパンなんだから邪魔しなかった方が、自分の野望を叶えられたのでは?

 単に支配だけを目論むならばしっかりと優勝して貰い代表として支配すれば良かっただけだし…でも問題はシャッフル同盟の方々か
 最悪師匠が復帰ないしドモンを新人とした旧シャッフル同盟がボコボコにしかねない、と言うか確実に潰しに来るだろうあの人達ならば

 そしてアルティメットやデビルは最終手段として人体にすら影響するDG細胞をナノマシン化して、機械だけではなく人類すら一度完全に粛清しかねない

 なんと言うターンエー…なんと言うターンX……こうなったらもはや宇宙が本当に滅びかねない……対抗手段がなかったらの話だが
 最悪の三大要素を備えた弟を良く兄はツギハギの身体で抑え切ったと褒めるべきか……兄弟喧嘩したからあぁなったのでしょうけど


 書いてて楽しいんですけどこれ以上はカット。
 大変な事になりそうなんで……とにかく大変な事になりそうなので。


 ご指摘によりクロスモノに関係ない文章や単語を削除




[9853] 十六話[魔女と山猫と子兎]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/08/30 12:12
 視点:香月博士
 対人戦においては最高クラスの巌谷…一線を退いたとは言えそれを完膚なきまでに叩き潰し他の一切を寄せ付けない圧倒的な強さ。
 その後の想定はしていたBETAの襲来に対しては二名の衛士が実戦に当てられたとは言え、結果としては全機健在で帰ってきた。
 もっとも本人は光線級の回避を失敗して片足を消し飛ばされ、強引な機動で機体の各部は大破寸前…まったくもって惨めな結果ね。

「あの秘匿コード…あれは役に立ちませんね」

「それが使った人間の言う事かしら?」

「使ったからこその意見ですよ博士、安定を手にする代わりに弱体など論外……この世界の衛士の死因の一つはこれですね」

 ……私の執務室でコイツは、古島は実戦から帰還した直後とは思えない飄々さと殺気を抑え科学者としての古島として対話している。
 脱帽するような変わり身の早さ、元の世界でも傭兵として戦っていたのだからこれ位の転身はお手の物で油断も隙もない訳ね。


「どうせ死ぬなら強化(狂化)する方がよっぽど正当でしょう、使い捨てで見ず知らずの駒などむしろ敵を一体でも多く道連れにして貰わねば」


 ……自分が外道など言わずとも理解しているつもりだった。
 だけど目の前の存在は私など追い越している、人生経験の差としか…現実を体験し続けてきた本物の外道がここにいる。 
 背中を向け古島の顔を見ないようにし私の顔を見せないようにする、こうでもしなけれ目の前の本物の狂気に当てられる気がしてならない。 

「どうせ人の道を外れているならばトコトン外れるべきですよ…戦えない兵士に薬を使い脳髄を改造するなど極普通の世界でしたから」

「アンタもその一員な訳?」

「一員でもありその被検体の一人でもありましたよ? 嫌がる彼を弄繰り回し、より強化された存在を目指す為に自分を改造させたりと……色々ですね」

 追申するように『お陰で……彼は”フラジール”ながら良く頑張ってくれましたよ』と言う。
 背を向けているから顔は解らないけど―――声の割りにどうしてか泣いているように聞えてしまう。
 幻聴ね、幻聴よ香月夕呼…この男はそういう演技も出来る男よ……今更になって慈悲を請うような男じゃないわ。

「それとアンタの機体はもうダメね、噴射装置を始めとして各部がボロボロ……片足も喪失してるからむしろバラして新型を持って来た方が速いわね」

「ハハハハッお恥ずかしい限りですが、新機が届けばまだビニール破りが出来ますしね」

 一杯食わせるつもりが、こちらが喰わされてしまった。
 悔しさから思わず握り拳を作り歯を食いしばりそうになるが、そんな事するような香月夕呼じゃないわ!
 私が古島に弱味を握られる訳にはいかない……むしろ私が何としてもこの狂気を犯した猫に首輪を付けないといけないのだから。
 その為には何としても古島の弱味で私の本当の言いなりになるような強力な弱みが必要。

 ―――それにおいて役立つ社は役に立たない

 初めて会ったあの瞬間から精神の色などに特殊な防壁を展開しているとあの子は言ってたわね。
 だからあの子は兄弟や姉妹以外で初めて出会った思考の読めない古島に懐いている訳なんだけど……
 このまま強力なカードを掠め取られる訳にはいかないのに、その取られたクイーンを取り戻す手立てがない。

(耐える…耐えるのよ天才科学者・香月夕呼ッ! 三十路の猫すら躾けられなくて魔女は名乗れないわよッ!)

「しかし巌谷中佐の賢しい猫とは本当に的を射た発言で驚かされました」

「……へぇ?」

「元の世界では傭兵統括機構【カラード】の【リンクス】として戦友から”首輪付き”と呼ばれていましたから」

 リンクス(山猫)の首輪を担う統率機関……カラード(首輪)とは良く言えたモノね。
 一個人が国家戦力に匹敵するような現状を野放しにする程、人類同士の戦争は甘くなかった訳ね。

 でも裏を返せば一個人が国家戦力に匹敵させれるような兵器が存在し、それが極普通に激戦を繰り広げる。

 それならばあの対人戦の異様な戦績も理解出来る、幾等群がろうと古島の前では等しく食い散らかされる定めと言えるわね。
 無数の実戦と人殺しによって培われた長い歴史と経験に裏付けられた殺しの技術……本当に”嗤えない”わ。

「魔女なら魔女らしくもっと強力な催眠でも施さねば未熟な使い魔達は、成熟する前にあの化物共に食べられてしまいますよ」

「その前にアンタでも外せないような強力な首輪が要るわね?」

「ハハハハッ! それならばグレイプニルの足枷でも創らねば―――この最悪の山猫を縛る事など出来ませんよ?」

 グレイプニル……北欧神話で世界を喰らう狼(フェンリル)を縛る為に造られた最強の頑丈さを誇る魔法の紐。
 この世(現実)に存在しない物……遠回しに『自分を縛る事は架空の存在でも連れて来なければ不可能』とでも言いたいらしい。


「もしもっと強力な催眠や薬が必要になればご所望ください―――ご期待に副えるよう貴女の協力者として努力させて頂きますよ」


 座っていた椅子から立ち上がる音がした。


「それと貴重な天然モノのコーヒーを分けて頂き有難うございます、それと良く寝ている見たいですね? 肌に艶が戻って絶品と言える美貌ですよ
  やはり別品な人は良く寝て良く食べて影ながらに太らないような誰にも知られない極秘の減量術を持っているのでしょうねぇ…いや体質でしょうか?」


 歯の抜けるような言葉をイケシャアシャアと言い放つ古島に鳥肌がたつ。
 バッ! っと振り返ると既に古島は部屋から退室している……綺麗にコーヒーメーカーの中のモドキの方のコーヒーを飲み干している。
 一度ならず二度までもペースに嵌められ手の平で弄ばれた! 屈辱―――この私があんな男に弄ばれるなんて屈辱よッ!

「天然のメーカーは手付かず…飲んでない? ふんッ……気を利かせたつもりかしら」

 希少な天然モノを一杯飲みつつ、私はアイツの首輪を考案し始める。
 提出されたアームズ・フォートと名づけられている凡人によって統率され管理され、確約された戦力として君臨すると言う兵器の設計図。
 これだけを提出されても悔しいが技術力が追い着かない、光線兵器も本人から言わせればスペックが落ちていると言うのだから。

「造ってやろうじゃない―――要塞だろうと架空の首輪だろうと、極東の魔女の手に創り出せない物はないわよ」

 材料はある……そしてその為の人脈は他ならないアンタが私に手に入れさせた。
 アンタが望むようにアンタすら怯え竦み膝付くような魔女になってやるわよ。

 ―――そして私は全てを救う聖母になってやるわ

 どれほど非道だろうと、アレを完成させ人類を救済する魔女であり聖母になる。
 まずはその第一歩として動く必要があるわね……まずは試作の鎧心を早急に取り寄せさせて……


「……その前に一寝入り必要ね、整備無しじゃあ動く物も動かないし」


 思考を休ませ、私はそのまま真っ白なベットに横たわり程なく寝てしまった。


 視点:コジマ

「……肋骨の一本がヒビ割れてるか? 一・二ヶ月の合間の検査で引っ掛からなかったから何処となく気付いてはいたが」

 実戦の高揚感も欠けた脱力感が支配していた身体は良く寝て翌日になって初めて、自慢の強化の弱体化に気付く。
 検査に検知され、損傷した場合の修理が出来ない世界なので……何かしらの処理はあると踏んでいたが弱体化か。
 
「それにしても翌日になって気付くなんて実戦離れして身体への気遣いが減ったからか?」

 強制回避パターン機動を行った際にビキリッ! と痛んだが強化装備越しにまさか肋骨をやるとは驚いた。
 実戦感覚を体験させる為のシミュレーターでの強化装備の異常な収縮ですら痛まなかった身体が実戦でこうとは……情けない。
 計算よりも実戦では身体に掛かる負担が大きいのか、あるいはあの回避で片足が損失した事による機体バランスの喪失が原因か。

 激痛は右から襲ってきている。

 無視してもこの強化人間ならば治りそうだが、次の作戦がいつか知れない以上は早めに治しておくに越した事はない。
 人間として強化されたスペックだが機械のような高スペックでない身体―――昔の生身時代と思えば大丈夫だな。

「それにしても軍服のまま寝るなんてよっぽどダラケテルナ、あぁあの世界の空気が懐かしい」

 情けないホームシックに陥りながら寝転げていた身体を起こす。
 些細な行動で右の肋骨が痛むが気合と根性で感覚を麻痺させ、何事もないように振舞えるようにする。
 こういう時にアスピナ研究所で培った人体についての情報が役立つ…何処をどうすれば脳や感覚を麻痺させれるか解るのだから。
 しかし何の武器も仕込めない国連の軍服を着たまま寝るなど、いつ暗殺者の手があるか解らん世界に居たとは思えないダラケだ。 

「ナイフは良しとしても小型の拳銃すら袖に仕込めない……本当に相手がゲテモノだけと信じているような服だな」

 これでも襲撃者などに備えて拳銃一丁に予備の弾倉三つ…袖や靴などの仕込めそうな場所にナイフを数本仕込んではいる。
 だがやはり心許無い、せめて刀の一本やワイヤーなどの人だろうと殺せる強力な糸などが欲しい所だ。
 それにあのBETAの小型級を前にこんな装備が役立つとは思えない……やはり斬れる刀の一本や二本欲しい。

「刀ならばやはり帝国に行くのが手っ取りの早いが、この世界の軍内でそんな物騒な物を自由に持たせてくれるか判らんな」

 出来るならば名刀菊一文字・虎鉄・千鳥……もっとも望めるならばスーパーカーボン製で特注して月光を造らせるのも良いかも知れない。
 真改が持っていた特殊な技法で作られたと言うあの斬る為に生まれた二振り【月光】と【斬月】の二振り。
 師匠であり最高の好手敵であった真改が免許皆伝にと託してくれた俺が知る限りの至高の一振り【月光】がやはり欲しい。
 スーパーカーボンだからだったのか斬月を手にした状態の真改に斬れないモノは、同じ素材と技法で造られた月光だけであった。

 この二振りがあるだけで接近戦での優位は凄まじかった。

 混戦に持ち込めば銃火器は味方との誤射を恐れ、ナイフなどで勝てるほどこちらの白兵戦能力は脆くない。
 二人で敵施設をオルカの同志達と共に白兵戦で制圧したあの時ほどの真改の技の冴えを超えた時はなかった。
 特に真改は下ろされた隔壁だろうと『無力』の一言で斬り捨て、先陣を斬る鬼神となって俺達の道を切り開いてくれた。


「……免許皆伝か―――人を斬る為の剣技が人助けと化物討伐とは、真改が嘆いてそうだな」


 汗やコーヒーの臭いが染み付いた軍服を脱ぎ、別の国連の軍服を羽織りその上に白衣を纏う。
 一見すれば厚着で変人かも知れないが俺なりに気に入っており、この格好で基地内をウロツクのはもはや趣味の領域である。
 だが意外と威嚇効果のような物があり、俺の事を避け無用な喧嘩を仕掛けようとする連中が来ないのだ。

『……コジマさん』

「んっ霞ちゃんか? すぐに開ける」

 この士官部屋への数少ない来客出来る立場である社霞。
 原作でも脳髄の少女の記憶から朝起こしに来ると言う行為を学び、それを白銀にも実行していた筈。
 つまりこの訪問も俺と言う人間が居る事によって起きた言わば予行演習のような行為だ。

「おはようございます」

「おはよう霞ちゃん……”彼女”が教えてくれた事か?」

 この言葉に霞ちゃんは無言のまま頷く。
 解っている…解っているがこんな美少女や”彼女”に毎日起こして貰っていたなどと、その世界の連中を敵に廻す行為だ。
 間違いなく白銀はロリータコンプレックスッ! 略してロリコンだッ! 幼女たる存在をカドワカス最大の敵だ。

 ―――言っておくが俺はロリコンではない

 こう見えても霞ちゃんのような娘の世話など、研究員・父親などでしっかりとこなして来た男だ。
 欲情するなどあってはならない……欲情などすれば香月博士に殺されてしまう、文句も言えず。
 だがこんな被検体の世話をした事があるだけに接し方は人一倍理解はしているつもりだが…不安だな。

「……はい」

「これからは”彼女”の行為ではなく社霞として小父さんを起こしに来るように、こんな可愛い子に毎日起こされると小父さん嬉しくて泣いちゃいそうだから」

 困惑した表情で首を傾げる霞ちゅん―――畜生! なんて可愛い仕草を平然とするんだこの子は?!
 初めて娘を持って世話に四苦八苦しながら大きくなっていくのを見ていた父親の気分が蘇えってくる!
 あるいはお父さんと実験の被検体の少女から懐かれ、結局子供として引き取る事になってしまった日を思い出してしまう!
 いかんいかん……完璧に毒されてるな…香月博士がカードとして以上に過保護なのも理解出来てしまう。

「コジマさんが喜んでくれるなら…頑張ってみます」

「ぜひそうしてくれ! それと私はこれからボロボロになったアレの所に行くんでな、今日はこれで……」

「その事で博士から格納庫に行くように伝言を言われてました」

 あの香月博士からの伝言とは―――今日は格納庫関係は近寄らないようにするべきか。
 槍が降るか・銃弾の雨が降るか・麻酔を撃たれて意識や身体が動かない間に解体されるか。
 いかん昨日カラカワレルと踏んでかなりやり返したから相当不機嫌になっていただろう。

「すまない霞ちゃん…身の危険を感じたから格納庫へはまた―――」

「ダメです、でないと博士に私が怒られます」

 すっと小くて無垢な手が俺の血だらけで汚れきった手をおそらく力一杯に握り締める。
 ”彼女”から教わった強引な方法だとしても人の感情などが読める霞ちゃんにこんな行為は本来凄く勇気がいる筈だ。
 心を読ませてはいないからと言うだけでは出来ない、持てる勇気の全てを持って人の手を握り締めたのだろう。


「―――なら一緒に行くか? セラフと新OSを造った我等が小さな女神様も称えられないとな?」


 へっ? と驚いている霞ちゃんを神速の如く背中に背負う。

「降ろしてください」

「嫌だ」

「降ろしてください」

「格納庫についたらな」

 この瞬時のやり取りでもう諦めたのか、霞ちゃんは何も言わずそのまま背中が静かになってしまう。
 そういえばこの背中に誰かを背負うなんて本当に久々だな―――罪や懺悔は背負っても人は背負わなかったからな。
 アスピナの研究員としても確か周囲から良くこうして懐きにくい奴を懐かせれるって驚かれてたよな。


『しかしあの被検体NO.168が笑ったり人に懐くなんてな』

『あの子はいつもあんな感じではないのですか?』

『むしろ逆だ、全てを拒絶して感情の感の字すら見せない冷めた子だ』

『それは”フラジール”の被検体全てに言える事ですか?』

『特にあの子は酷い……妙に頭が良いからここに居る理由や私達が何なのか悟っているのかもな』

『……自分よりも先に引き取られた仲間達の行く末もですか?』

『恐らくな……そしてそう遠くない内に”フラジール”に食い殺される現実も何処となしか理解しているのだろう』

『外の戦争に繰り出される事すら悟っている訳ですか、賢い分だけ苦しむなんて悲惨ですね』

『あぁそうだ―――フラジール計画やGA社の粗製リンクス量産計画に当てられるだろう』

『―――お父さんか』

『お前は、古島君は優しすぎる……国家解体戦争の英雄の血脈がそうさせているのかも知れんが』

『さめて人らしく接してから殺してあげようと考えていましたから』

『あれは生物ではなく生産され廃棄されリサイクルされる”部品”の一つだ…辛くなるだけだぞ』

『その部品の一つが欠陥品で製作者が引き取るのは…会社としては当然ですよね?』

『本気か!? 部品と言えど持ち出す…下手をすればこの計画に携わる全てから命を狙われる事になるぞ!』

『欠陥品を作った研究者は責任を持って辞職するのは当然だと思いますが?』

『優秀な君を手放すのは惜しいが……退職金代わりに部品の一つでも貰っていくのは権利だろう』

『……所長』

『さて私は仕事に戻る…辞職届は早めに提出しておいてくれ』

『――――――ありがとうございますッ!!』


 あの子も銀色の髪をしていた。
 研究所を辞職し外へ出た事の希望と恐怖が入り混じった眼でこちらを見上げていた。
 度重なる薬の投与と改造によってボロボロになった身体でも、小さな手は俺の手を掴んでいた。


『―――怖いかい?』


 手から振るえを悟り、顔を見合わせそういった。
 カゴの中の方が幸せだったと言うかも知れない、俺の偽善だと悟って罵るかも知れない。
 この緑の雨や雪が降り注ぐ世界を前に素直な死を望むかもしれない。

 ―――望めば殺す

 だがあの子の心は俺の予想の上を行っていた。


『お父さんと一緒だから大丈夫……行こッ!!』


 満開の笑顔で、力強い足取りで俺の手を引きながらあの子は歩き出した。
 絶望と戦争しかない世界でもあの子にとって世界は希望に満ち溢れていたのかも知れない。
 俺という麻薬が存在したからそう言えた言葉だったのか知れなくても、ただ頼もしかった。
 そしてこの後に俺はセレンにリンクスとしての素質を見出され…あるいは誰かにリンクスの素質を売られリンクスとなった。


「……古島さん?」


 掛けられた声にハッとする。
 心を読まれないと安心してはいるが、いつ霞ちゃんの能力が俺の防壁を超えると限らない。
 それに昔の記憶に意識を沈めすぎていた……既に格納庫行きのエレベーターに乗っている。


「少し昔の事を思い出しただけだから大丈夫……大丈夫だ」


 スッと背中から降ろし、降りていくエレベーターを無言の静寂が支配する。
 我ながら女々しい記憶を引き継いでしまったモノだ、基本的に殺しの技術や科学などに関するのが主流だと言うのに。
 あんな弱弱しい記憶など悟られた日には弱味となって大変な日々を送る事になりかねん…特にロリコン疑惑で。

 懐かしき電子レンジの作業が完了した際に出るような音と共にエレベーターが止まる。

 そのまま扉が開いた先は―――


「酒持ってきなさい酒ェェェェェェェェッ!!」


「誰だッ!? 一体誰が神宮寺軍曹に酒を飲ませたッ!?!?」


「全員退避ッ! 退避ィィィィィィィ!」


「アハハハハハッ! もっともっと飲みなさいよぉ? 折角の酒が……」


「水月も早く逃げて! あっあそこに中佐が来てる!」


 酔いに酔った狂犬が暴れ周り辺り一帯を巻き込んだ戦場が広がっていた。
 しかし料理が並んでいたであろう机の上の料理は既に脱出を始めている者達が大切に抱かかえながら逃げている。
 もし料理や食材を粗末にするようならば料理の鬼神である京塚さんがこの場にいる全員を血祭りにあげてしまうだろう。
 それを悟って料理や酒を抱えて逃げている整備兵達にはあとで何か別の差し入れをいれてやるとしようか。

「ヴァルキリーズはこちらに逃げ込めッ! 霞ちゃんは彼女達に護って貰え……」

 あのままあの狂犬に暴れられては流石にこの後の作業に滞りが出来る。
 そもそも朝や昼時にこんな宴会染みた行為を行おうとした首謀者は嬉しいが……お仕置きが必要だな。
 だがあの酒乱状態の神宮司軍曹が俺を困らせる為の刺客ならば、相手は香月博士か―――まだ勝てんな。

「中佐、何を!?」

「その酔いどれとそこの社を…副指令の助手を安全地帯まで護送しろ! 私はここであの狂犬を食い止めるッ!」

 エレベーター内に入り込んだヴァルキリーズと入れ替わるように外へ出る。

「古島さん」

「とりあえず衛生兵の支援要請を頼むな?」

 カッコ良く背中を向けたままエレベーターを外部から上昇させ、扉が締まる音を背に覚悟を決める。
 別れ際の言葉はしっかりと援護を要請しておいた……さて麻痺しているとは言え右肋骨には一撃も入れさせる訳にはいかない。
 体術で狂犬の異名を頂くほどの計算されながらも荒々しく戦う姿は一度しか見た事がないが、勝てはするが無傷ではすまない程度だろう。

「女ヴァオーと割り切って戦うしかないか…あのフォルテシモ&トリガーハッピーに例えられる神宮司軍曹が不憫だ」

 オルカ旅団の火力を担ったヴァオー…ずっと叫んでばかりの男だったが火力による圧倒的な支援は味方にして安心・敵にして絶望だった。
 何せ武装が大型ガトリング二基にバズーカ一丁と小型ガトリング一基に加えてパイルバンカー二基のあの地獄の業火の火力。
 ガトリングから撃ち出される無数の弾幕に混ぜ込まれる凶刃の如きバズーカの一撃は当たれば瞬く間に機体が穴だらけにされ吹き飛ばされる。
 下手な砲撃戦を掻い潜っても待ち構える漢の武装であるパイルの大釘が待ち構え、接近すれば容赦なく身体に風穴を開けられる事になる。
 機動力で懸命にあの弾幕を掻い潜りながらメルツェルの核ミサイルを回避するのは中々至難だったな…あぁやはりあの空気が懐かしい。

 ―――絡む相手がいなくなった事に気付いた神宮寺軍曹が唯一残っているこちらに気付く

「……確か合成モノの酒の筈だがあんなに酷く酔えるのか?」

 身体から発せられる覇気のようなモノは、100m近く離れている筈にも関わらずこっちに冷汗をかかせる程の強さ。
 女でこれ程の覇気は怒ったウィン・D位だと思っていたが、どうやら世界は本当に広いらしいな。
 マズイ、マズイ、マズイ……勝てる想像よりも勝てない想像が増えてきたぞ……山猫では狂犬には勝てないのか?


「あぁ中佐~~♪ ご無事の生還とあの子達全員を無事に帰って来させて下さってありがとうございますぅ~~♪」


 人物(キャラ)違ェェェェェェェェェェェ!?!?
 いやこっちが素か! 軍人としての体裁と言うのもあってきっとあの仮面を手にいれたのだろう!
 だがその普段は絶対にしないであろう満開の笑顔はあまりにも綺麗でふと警戒心が解けてしまいかける。
 見慣れない笑顔と言うよりも酔ってるけどこの人は絶対に酔ってない口だな、クソ香月博士の計算の内か。


「あっあぁ、新任が二人ほど実戦の恐怖に食われたみたいだが宴会に出られるなら問題ないだろう」

「中佐って気が利きますよね? それも若い子ばっかり……」


 ユラリユラリと一歩一歩踏みしめるように近づいてくる狂犬こと神宮司軍曹。
 よほど強力な酒を飲んだのか顔は真っ赤であり泥酔状態と一目見て解る状態だ。
 しかし異様に威圧感がありもう俺は狂犬に立ち向かう山猫ではなく、食べられるのを待つ怯えた子猫状態になっている。
 間合いを詰めると即座に叩き潰される光景が脳裏を過ぎり、怯えを除いたとしても一歩近づかれる度に一歩下がって距離を取る。

 ―――だがこの時、俺は自分がエレベーターから出てきたばかりと言う事を思い出したッ!!

 すぐに背中が壁にぶつかる。
 しまったと後悔するにはもう遅い、咄嗟に上の階へと昇っているエレベーターを呼び寄せようと手を伸ばす。
 だが鋭い空気を斬る音と視界の片隅に映った飛来してくる酒ビンに驚き思わず手を引っ込めてしまう。

 ―――そして神宮司軍曹が投擲した酒ビンが操作盤に直撃

 見事一撃の下に破壊された基盤はもう最寄の脱出手段を呼び寄せる事は叶わない。
 他の脱出通路やエレベーターへの道は重荷を捨てた神宮司軍曹がその身体一つで完全に封鎖している。

「若い連中を注意するのは大人の責任だ! 中佐としての職務もあって!」

「”私も”若いですけど気にかけて貰ったりしてませんけど?」

 墓穴を掘ったか!?


「”私も”って! 神宮寺軍曹はまだ二十前半だろう! なのに何を言ってるんだ!」


 そもそも神宮司軍曹ほど美人が年齢なんて気にするものじゃないだろう!
 普通にお淑やかなんかにしていれば男なんぞBETA並みに寄って来るだろうが!

 シリアスに生きるつもりが……まさかこんな形でギャグになるとは予想外だ!

 今はとにかく神宮司軍曹を落ち着かせて何とかしなければならない。
 こんな所で捕食されるような山猫であって堪るか、特に酔いどれ相手に負けるなど論外だ。


「中佐……私…2○歳なんですよ? もう若くないんですよ?」


 瞳から光がなくなり、また墓穴を踏んだらしく一気に息苦しくなる。
 確実に二十前半だと思っていたがよもやそんな瀬戸際の年齢に到達していようとは…何と若作りな美人さんだな。
 もう後ろへの逃げ道もなく真横へ飛び出そうモノならば即座に捕まる光景が予想できてしまう。

 ゆっくり一歩一歩近づいてくる神宮司軍曹を相手にこちらも覚悟を決める。

 無手の実戦は久々だがもう後がない以上はやるしかない。
 ……とりあえず神宮司軍曹相手に酒と年齢の話は厳禁と言う事を良く良く覚えておこう。


「相手になってやる……来い神宮司ッ!」


 相手が殺せない相手である以上仕込んであるナイフや実弾が装填されている拳銃が使える訳もなく、無手で抵抗させて貰う。
 徒手技は決して得意じゃないがこれでも強化人間の端くれだ……負ける筈はないはずだ。


「なら受け止めて下さいね中佐♪」


 地面を蹴り飛翔する姿はまさに獲物を狩る狩猟犬の如く。
 
 ―――確か酔えば酔うほど強くなる酔拳なる武術が存在していたな

 見下す様はまさに虫の息の獲物に牙を突き立てるように。

 ―――狂犬だから酔拳ならぬ酔【犬】か


「我ながら巧い事を言えた気がす―――」


 鈍い音と共に意識が刈り取られ、消え逝く意識が最後に見たのは黒色の布切れ。
 何故か幸福な気分を最後にこの後の記憶がまったくない。
 だが意識がない筈であったのに幸せな気分であれた事だけは確かであった。


 視点:???

『生きた伝説も堕ちたモノね?』

『あんな怪物相手に抵抗しろなどと幻想を言えるかね?』

『自分を縛るには架空の鎖を持ってくる必要があるって堂々と宣言したわよ』

『大きく出たものだが相応に大将がぜひとも一手合わせたいとご所望していたよ』

『見せたの?』

『被害がたった二個小隊と一個中隊で済まされた勝利と言う事でな』

『……本命は?』

『……斯衛の尽くを撃破し無数の光線級の迎撃を掻い潜り大空を取り戻した英雄と従者について少しな』

『―――異様すぎる能力よ…特に対人における能力は人外と言って差し支えないわね』

『同感する、極東の魔女も首輪をつけるのが大変だろう?』

『首輪のつけれない存在を手元に置く気はない…けど野放しに出来るような存在じゃない』

『どうするつもりだ?』

『カラード計画…強大な力は縛られてこそ意味がある―――あの牙が何処に向くか解らない今だからこそね』

『首輪計画か…面白い―――こちらでも内部の一部将校で妙な動きを察知した』

『それで? 粛清でもするつもり?』

『今はその時ではない、まだ確たる証拠や実働戦力がない現状ではな』

『これまたカードの少ない男ね』

『厳しいな……そこであの新型OSを少しこちらに廻して欲しい…教官役として古島中佐をな』

『面白いわね―――その話乗らせて貰うわよ』

『心強い限りだ』


□□□


 Acfaとのクロスの癖にガンダムやらエースコンバットの単語を出して読者の皆様を混乱させてしまった件について謝罪させてください

 大変ご迷惑をお掛けしました

 作者も書ける事でテンションが上がってしまったのか例え易さからあんな行動に走ってしまいました
 もう二度とあのような事がないようにしっかりと自分を律して書いていく所存です
 どうかお見捨てになる事なくこれからも呼んでくださると助かります
 そして初めて書いた作者があまり得意ではないギャグの話……正直言って笑えない
 これはひどい様や日本武尊様のような読んでて笑える話がまったく思い浮かばず、そして書けない
 現実だと友達関係から天然で将来お笑いに向いていると言われるのですが……天然と言うのが自覚出来ないのです



[9853] 十七話[狂犬の春とシャチの集い]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/09/25 22:05
 視点:神宮司軍曹


「良かったわねぇま・り・も? ついにアンタに春が来たわよ?」


 夕呼が本当に良い笑顔……もう笑いを堪えきらなくなっている。
 それでも笑いを我慢している所為で顔は既に見慣れたあの憎たらしい笑顔をしている。
 顔が熱い―――目の前の画面で酔っていた自分がしでかした事にもう顔の熱が引いてくれない。


「これでもかってくらいブチューーーッ! とキスしてしかもこれでもかとキスとマーキングの嵐ッ!」


 酔った自分がしている事を捉えた格納庫の監視カメラの映像。
 気絶している中佐に膝枕をするだけならマシなのに―――数分間も長くキス。
 それから顔や首筋に自分の物だと言いたいばかりに何度も何度もキスをしている。


「本人が意識がない事を良い事に本当に熱烈よねぇ?」


 古島中佐は酔った私が放った一撃を何の抵抗もなく受け止めて気絶。
 夕呼はその様を大笑いしてたけど殴った私にとってもう全身の血液が冷めあがるわよ。
 でも普段の古島中佐の体術練習や模造刀の太刀筋を見てるけど、私じゃ敵わない程に強い。

「でっでも古島中佐が酔った私に負けるなんて」

「アイツ検査で右の肋骨一本ひび割れてたらしいわよ? (それに酔ったまりもに勝てる相手なんていないわよ)」

「えっ!?」 

「しかもアイツそれを感じさせず戻って早々話したりしてたし、検査もしてなかったから平気なんでしょうね」

 顔色にまったくそれらしい色など見えてなかった。
 真っ赤だった筈の顔が一気に冷えて顔色が真っ青になってるのが判る。
 それに映像で殴っていた場所は完全に頭部でしかもかなり酷く地面と激突させてしまった。


「だからアンタがそんなに気負う必要は「すぐに謝ってくるわ!」ってまりも!?」


 私はすぐに夕呼の執務室を後にして全力疾走で中佐の病室まで急行する。
 せっかく来た春を酒なんて物に台無しにされる訳にはいかないのよ!

 でももう手遅れかも知れない。

 だって酔った勢いで殴り飛ばす女なんて中佐の好み所か男の人で好みな人なんていないわ。
 それにあられもない事言っちゃったし……それから…それから……あぁ私の馬鹿馬鹿ッ!


 後日、神風の如く疾走する神宮司伝説なるものが横浜基地で流行る事に―――


「ここね…中佐の病室は……」


 今まで走ってきた中で最速だったわ。
 佐官に見つからなくて良かったけど……


「そもそもあの程度の数は実戦にはならん! ましてや周辺の援護があれだけ優遇されていればなおの事だ…そもそも―――」


 病室の扉越しに物凄い怒鳴り声でまくし立てている中佐の声が聞える。
 ピアティフ中尉が病室に入りたくても入れないのか、困惑した表情で立っている。

「あの…これは?」

「実はお見舞いに来たヴァルキリーズの面々に先の実戦の事でずっとお説教をしているらしいのですが」

「どっどの位ですか?」

「これで3時間ほどだと思います」

 さっ3時間も伊隅達は説教されてるのね…それもあの中佐が怒鳴りながら怒ってる。
 中佐の怒るは、怒鳴るではなく静かに殺気を放ちつつ細めた眼で見つめながら声も低い音で怒るのが主流。
 内臓が震えるような低く重く響く声と嘘・誤魔化しを赦さない殺気が特徴なのに、こんな怒り方をするなんて。


「―――だが良く全員揃って生きて帰って来てくれた、本当ならば感涙に浸りながら褒めるべきなんだろうが…私にはそれが出来なくてな」


 そしていつもの良く通り、澄んだ声で

『ありがとう』

 と、直接顔は見えなくても優しい笑顔が幻想出来る様なとても優しい声でそう言った。
 BETAとの戦いで全員が無事に生還して来るなんて事は今までなかった。
 いつも部隊の誰かが死んで…いなくなって……伊隅達や皆が悲しそうな顔をしていた。
 今回はたとえ規模が小さく恵まれた環境と言ってもそれでも初めて全員が無事に生還してこれた。


「神宮司軍曹の酒乱だがあぁなるほど嬉しかったのだろう…もし私が軍曹と同じ立場ならきっとあぁなっていただろうな」


 とりあえず中佐が怒ってないし怨んでないと言うのは解ったわ。
 とにかく一番確かめたかった事はもう確認完了したわ……まだよまだ私の春は終わってないわッ!


「外で待っている人もいるようだから説教はこれで終わりにするが、明日には訓練と同時進行でするからしっかり胃薬飲んでおくように」


 ……幻想したくない最高の笑顔と引きつった顔をしている伊隅達の表情が鮮明に浮んでしまう。
 それに『あっ脚が』『しっ痺れたよ~』と聞える…ずっと正座させられていたのね”3時間”も。

「とりあえず中佐から許可も下りたので助けてあげましょう」

「そっそうですね……今なら中佐も機嫌が良いから謝り易いでしょうし」

 ピアティフ中尉が懐から夕呼に手渡されたであろうカードキーで外からロックを開ける。
 開かれた扉の向こうに広がっていた景色は病人のベットに横たわらず、その隣を病人服で仁王立ちした中佐。
 その眼下には綺麗に整列させられていたであろう伊隅達が懸命に肩を支えあい脚の痺れと戦っている。

 自分の涙腺が潤んでいるのが判る。

(3時間も良く頑張ったわね)

「神宮司教官…私達は成し遂げました―――」

 何も言わずヒシッ! と伊隅を抱きしめてあげる。
 目元には3時間も正座に耐えた事と中佐が気にしてない事への安堵から来た涙が浮かんでいる。
 でも抱き方が悪かったのか伊隅を大きく揺らしてしまった所為で相当痺れていた脚に衝撃を……


「―――ごめんなさい皆…私は一足先に……」


「えっ伊隅? ちょっと伊隅しっかりしなさい!?」


「大尉(隊長)ィィィィィィ!?!?」×9


「いやはやカオスと言うべき状況ですね」


 私の抱きとめが止めの一撃となってしまったのか伊隅は気を失ってしまった。
 懸命に立ち上がろうとしている速瀬達に気を失った伊隅、当の原因たる中佐はケラケラと笑っている。
 カオスッて何なんですか中佐!? それに思ったより中佐が元気すぎで私の心配は一体何なんだったんですか!?

「とりあえずピアティフ中尉、来てそうそう失礼だが伊隅達をよろしくお願いします」

 中佐が流石に現状を把握したのか凄く申し訳なさそうな顔でピアティフ中尉に頼んでいる。


「…やっと入れた(来た出番)のですが解りました、それと副指令からこれを……」

 
 ピアティフ中尉が物凄く不機嫌ながら手に持っていた資料を中佐に手渡す。


「ピアティフ中尉は優秀なのだから(原作なら横浜基地襲撃)皆気付いてくれているとも!」


 何か中佐の人物が激変している気がします。
 もしかして私が殴った所為で人格が豹変してしまったの!?
 笑顔とグッと立てている右手の親指・左手はしっかりと資料を受け取っている姿勢。
 病人服でとても様になっていない……いや軍服でも様になりませんけど中佐って三十でしたよね?

「とりあえず副指令から言い渡された事は果たしました…それでは行きましょう」

「あっピアティフ中尉まって下さい、脚が…脚が痺れて動けない……」

 ズルズルと芋づる式の如く引きずられていく伊隅達。
 拗ねているのは解りますけど痺れた状態の人を引きずるのは相当過酷だと思いますよ中尉。
 そのまま私と中佐を残し全員が退室、中佐はベットに座りながら机に広げた資料を読み始める。

「やれやれ三十の良い歳した小父さんが若い娘相手に騒ぐなんてらしくない事をしました」

「でもあの子達も本当は判っていると思いますよ? 叱りすぎて元気付けようとした中佐の想いの一つや二つ」

「いえ単純に若い連中をちょっと虐めたらどんな反応を示すか気になって…つい」

 ハハハと笑ってますけどその笑顔がとても怖いです。
 夕呼が物凄い何かを閃いた時のような笑顔で言われると尚更怖いです中佐。
 何となく夕呼と気が合うのが解る…と言うよりも同族ねこの二人は。

「先の実戦では運が良かったと言うのは本心です、むしろ一度でも本物の実戦を体験した人間にとってあれは新しい恐怖の火種にすぎない」

 手元の資料には伊隅が話していた要塞級が自らの身を盾にしたと言う部分の写真が見える。
 そもそもBETAには戦術はないと言われているけど、光線級の決して誤射しない性質や地中侵攻などを考えると決してそうは言えない。
 それに今回あったと言う要塞級が我が身を盾にして光線級を護ると言う行動は、今後の戦いに大きな影響を響かせる事になる。

「今でさえこれだけ苦戦していると言うのに、そこへ厄介な行動パターンの増加に戦術染みた……いえ戦術を伴った圧倒的物量の侵攻
 『質よりも量』とは軍”隊”たる私達にとって名言なのかも知れませんが、その量では決して勝てない相手が質すら身につけようとしている」

「……中佐」

「……教え子を失う悲しみや痛みは知らん、ですがあの子達は初めて軍曹を悲しませない帰還をしたと信じている
  流石は軍曹の教え子だけあって実戦でも演習でも立派なものでしたよ、たたじ専用機械のサポートを含めてですがね」

 苦笑いしている顔は本当に嬉しそう……
 でも私は少しずつ涙腺を押さえられなくなって来てる……どうして?


「―――泣いてないなら秘密にしますから盛大に泣いて下さい……嬉し泣きは今の内にするべきですよ神宮司軍曹」


 ―――中佐の一言でやっと涙腺の緩みの意味に気付かされた。

 中佐はあの子達も褒めていたが私も褒めてくれ、そしてずっと泣けといってくれていた。
 これが私の殴った影響でも構わない、泣き崩れる私を抱きしめて頭を撫でてくれる優しさが、抱き止めてくれている身体の温かさが。
 堪らなく嬉しい……初めて来てくれた教え子の全員生還と言う冬の終わりに中佐の優しい春が抱き止めてくれた。


「やはり軍曹も女の子なんですね……ですけど……」


 この幸せが長く続いて欲しかった。
 脳天に奔った激痛に意識を刈り取られ、私の意識はそこで途絶えてしまった。


 視点:コジマ
 とりあえず酔っ払った勢いで殴られた一発を返した結果…神宮司軍曹が沈黙してしまった。

「仮にも強化人間の意識を一撃で刈り取るなんてどういう強さしてるんだこの世界の人間は?」

 脳天に一撃貰ったとは言えその程度で本来気絶するような柔な強化はしていない筈だが。
 ネクストとの接続に耐える特殊な神経回路に高機動戦や機体を襲う衝撃に耐える用に造られた特殊金属製の骨達。
 実際のところのリンクスは人の形をしたコンピューター…人の脳髄を中枢核にした生体コンピューターの一種だ。
 無論生殖機能なども素材が素材なので備わっている、もっとも強化の工程で使われる薬や改造によっては無くなるが俺はあるタイプ。

「幼少期から合成食料の過剰摂取とあの世界とは違うこの世界なりの地獄がこんな強さをもたらしているのか?」

 少なくともこの世界はかなり前からBETAと戦い、炭素生命体を全て殺すのが使命たる存在によって土地や人間は蹂躙される定め。
 また航空戦力の無力化と地上での圧倒的にして無情な物量差を前に人類は容易く戦線の拡大を赦し、結果として今に到るようだ。
 戦術機と言う兵器も所詮は進行速度を緩やかにする程度の存在であり、選別が必要な事もあって軍隊では数を容易くは揃えれない。


「……自律ネクストか、あれの量産も悪くは無いか……こちらには偉大な天使が今だ成長中だからな」


 自律型ネクストは名前の通りコンピューターによって完全制御される無人型の事だ。
 しかしネクストの複雑かつ高性能なソレを操るにはあの世界のAI技術では不可能であり、結果として試作機止まりとして終着した存在。
 そもそも有人型に大きな欠点を孕むリスクを避ける為に数機だけ製造されたのが自律型……汚染リスクなどは知らぬ振りの製造でもあった。
 開発当時の世情などが絡み正式な製造には到らなかったが、一部企業では製造し密かに戦線に投入されていた事実はある。

 月光が子供に見える超高出力ブレードと高出力レーザー砲を携え、感情無く無情に襲う自立型はまさに恐怖。

 どれほどの弾幕であろと、どれほどの壁であろうと後方からの命令遂行の為ならば決して立ち止まる事なき無情な尖兵。
 アレをもっと製造し完成にコギツケていれば生産を目論んでいた大企業レイレナード社は最強の傭兵すら退けていただろうな。


「――――――コジマの呪われた血脈か」


 アーマードコアの世界に国家は存在せず、複数の軍事企業が世界を管理する世界。
 平和と怠惰の果てに生まれた人口爆発と国家の組織としての機能低下は世界に不満と言う名の渦を作り出していった。
 代わりに名実共に国家を超えつつあった企業は世界国家に対し”経済による世界安寧”を謳い宣戦布告―――後に【国家解体戦争】と呼ばれる戦争の幕開け。
 企業連合と世界国家の戦争は企業連合の秘密兵器【アーマードコア・ネクスト】の戦線投入によって大国家の半月にも満たない日付での陥落。
 まさに従来の兵器を遥かに超えるネクストは単機で当時の国家戦力を黙らせ、世界国家を一ヶ月で黙らせ無条件解体へと追い込む程だった。

 その国家解体戦争の数年前にコジマ博士によって発見された新粒子【コジマ粒子】こそネクストの心臓。

 有機物・無機物問わず汚染し、崩壊へと導くソレは世界に受け入れられる事無く、平和の為に見つけられた筈のソレは最強の殺戮兵器の母となった。
 同類とは硬く結び合うが他の存在を決して赦さず拒絶する性質であり、磁場などの影響を受けやすい性質を利用した無数の兵器達の母となった粒子。

 機械であるネクストに人と同じ動きを可能とさせたAMS……これも本来は医療の為に作り出された存在だった。

 しかし人間ではない機械を常に脳髄に接続し、異物を理解させ続けると言うのは異常なまでのストレスを人間へ叩きつけた。
 結果として医療用として受け入れられなかったシステムは真逆の殺戮兵器をより高める為の装置として有効活用される。

「戦争と破壊に愛されソレを支える一族……あの世界では良く言えたモノだと関心していたがここでも結局は同じか」

 悔やんでなどいない…むしろ歓喜を覚える程だ。
 戦争と言う正当な理由の元にあらゆる事が赦され、あらゆる手段を講じる事が赦された世界。
 だから虐殺をしてテロリストとして活動し、時として企業の犬となって他人事のように殺戮を繰り返してきた日々。
 他人を弄繰り回し世界の為だと言い聞かせ表面は優しくとも内心は他人の不幸を肴に悦に浸れる外道の様な日々。

 生まれた世界では粒子の発見や開発一つに論理や道徳と言う邪魔な存在が居続けるがこの世界は違う。

 最高の言い訳たる【戦争】が存在する……それも勝利なき戦争がまさに存在しているのだ。
 【勝つ為】と言う綺麗な旗の名の下に行っても赦される非人道・外道染みた行為が許される世界。
 戦争屋・科学者にとってこれほど恵まれた世界は存在しないだろうな。

「さて神宮司軍曹も寝かしつけた…本当に美人だが―――山猫すら殺す狂犬とは良く鍛えられる事で」

 伊隅達が説教するまで寝ていたベットに気絶させた神宮司軍曹を寝かせ、風邪を引かないように毛布も掛けておく。
 真っ赤にされていた顔はどうやら衛生兵が拭き取ってくれたらしいが鏡を見ると僅かに赤さが残っている。
 弱味にはならないがやはり気恥ずかしさと言う奴はある…しかし酒乱にキス魔なんて聞いてないぞ。
 おまけに酒乱状態のあの強さも冗談ではない、ピンチには酒を飲ませるのが良いのかも知れないな。

 殴った時の強さはセレン並みだったな―――と言うか怒った時がセレン似すぎて正直怒らせたくない。

 セレンの声は冗談抜きで怖い、以前GA社の部隊が援軍に来れなくなったと言う事に対して火山が大噴火。
 いや相手が散々来ると言ってた癖に来なくなったり当て馬代わりにして敵を倒さないと金払わないなんて言うから。
 そもそもこの時の以来は強攻部隊とその突撃強襲型AF【カブラカン】を”停止”させる事であって”破壊”ではなかったのだ。
 それなのにいきなり『周りの奴等を潰さないと金は払わないからな♪』なんて言うからセレンがキレテ大変だった。
 アレ以来だったな……GA社が無茶な依頼やあんな事を言わなくなったのは…大部隊を通信越しに黙らせるセレンは強かった。

「仕方ない―――屋上で一風浴びるか」

 病人服のまま屋上目指して歩き出す。
 道中で親しい連中から話しかけられたり、酒の件などの謝罪で盛り上がったりと中々有意義な散歩。
 資料は下手に見られると不味いモノなのでしっかりと脇に抱え込んだ状態で歩いている。
 この世界の治療技術は賞賛するほどであり脇腹や頭部の痛みは全然無く明日からでも訓練は再開出来るだろう。

 さっさと歩いて屋上に上ったがどうやら先客がいるらしい。

「……君か」

「ラダビノッド基地司令! 申し訳ございません!」

 よもや若本司令官がいるとは思ってもいなかった。
 この人は飾りの司令などではなく正真正銘の准将閣下…下手に探られるのは避けたい。


「これは私の独り言だが……実戦を知る者達にとってあの勝利は勝利ではないだろう」


 背中を向けた状態で立ち止まる、少し視線を後ろに向けると司令は暗くなり始めている夜空を仰いでいる。
 どうやらこの司令官は報告書を見ただけで現場の人間の不安を読み取ったらしいな。

 やはり行動を起こす場合の”障害”はこの司令官かも知れない。

 だが本人も旧インド戦線の英雄であった筈だ……現場と実戦を知る将軍と言う訳か。


「……これは私の独り言ですが…BETA相手の勝利とは一体どんなモノを言えば良いのか解りません」


 今回のような少数を叩いて喜ぶ事が勝利なのか?
 それとも万単位のBETAを被害0で撃破するのが勝利なのか?
 ハイヴを犠牲を強いてでも攻略するのが勝利なのだろうか?


「たとえ地球上からハイヴを根こそぎ破壊しても月があります…それに今より更に各国の利権などが絡み合う世界が来る
  土地・金・人間・権利とあらゆる存在を巡り人間が殺しあう”戦後の戦争”が来るのは確実です…平和ではありません」


 ハイヴを全て破壊してどうなる?
 地上でのBETAに占領されていた土地・そこに眠り生き残った貴重な化石燃料などの物資を巡り世界は争う。
 そんな戦後がやって来ても勝利と凱歌を歌うことが出来るだろうか? それに頭上の月には無数のBETAが待ち構えている。
 戦術機を宙域戦闘用への改造やその為の前線基地の構築に資材が割り当てられ、時間と人間を浪費する事になる。
 宇宙と言う新たなフロンティアを目の前にして利益に走らない存在がいない筈が無い…それを巡って更に世界は争い対立していく。

「……勝利とは一体何なのだろうか私にも解らん、だが若者達が戦争と言う手段以外の事にも従事出来る事は勝利ではないのだろうか?
  殺す術しか教えれぬ我々が未来の若者達の為に礎となり、いつか戦場へと送る事なき世を作り出すのは勝利ではないのだろうか?」

「―――それは敗北です、人の歴史は戦いの連続であり戦争なくして人の闘争本能は満たされず矛先はいつも隣人へと向けられる
  人は汚い生き物であり高潔とは無縁の存在です……裏切りなんて行為を行えるのは人間だけなのがそれを指し示しています」

 冗談ではない! 俺は俺の為に生きているのにどうして見ず知らずの連中の為に戦わなくちゃならない!?
 人間は平然と裏切れる、表はヘラヘラ良い奴を演じても裏では何でも出来る殺しだって裏切りだって何だろう出来る!
 自分で戦わない奴はいつも他人に縋りつくだけで、調子の良い時だけ味方面して悪い時には手の平を返して敵になるような奴等だ。

 いつだって俺は俺の為に戦って来た! 誰かの為に戦ってその誰かに裏切られて殺されたんだ!

 誰かの為に戦って戦って戦って戦って! 磨耗して・被曝して・汚染しても誰かの為に戦い続けて嘲笑されながら死んだ人達を知っている!

 俺だって戦った…大切な人達の笑顔の為に戦って、その最後は『強過ぎで手が付けられないから殺す』だった。

 何度もこれわ繰り返して、繰り返して、繰り返して……でも結果は強すぎる存在がバランスを崩すから原因には退場願うだ。

「―――敗北か…それも悪くはないな」

「戦いを知らない若者達の為に戦争をなくす……では我々のような”戦争しか知らず教えられなかった”人種は平和の何処に住むのですか?」

 珍しく感情的になっている自分をとにかく宥める……もう昔の事だ忘れろ水に流せ俺。
 それにこの世界に【勝利】の文字は未来永劫に浮かび上がらないように作り出された世界。

 平和での生き方を知らない俺達や戦争しか知らず教えられなかった人種達が平和の何処に生きれる。

 きっと何処にも生きれる場所がない、戦争しか知らない人種にとって戦争は全てに等しい。
 それを失った人種がどうなるか…戦争を求めて戦争を起こす人種になるか旧き良き時代を求めて死ぬか。
 まぁ百年程度しか生きれない人間にとって考えている間に墓石の世話になるのだがな。

(しかし今回は引き継いでいない筈の記憶が多いな―――我が神が混ぜ込んだか)

 どうも記憶が平和嫌いで戦争好きになるような内容に傾倒している気がしてならない。
 初回だからあまり傾倒しないように考えた筈だがどうも傾倒している気がしてならない。
 大事な事だから二度言っておいたが、さて司令官殿の返答は?


「死ぬまでに時間を掛けて見つければ良い」


 ……ツマラナイ返答だな。

 だが嫌いな答えじゃない、このいつ死ぬか解らない世界で死ぬまで”時間を掛けて”と言うのだ。
 長生きする気全開であり中々骨のある人間のようだ……英雄の器は今だ朽ち果てずだな。
 そのまま何も言わず来た道を返して病室へと脚を進める、短いが司令官と対話と言うのは貴重な時間だ。

 死ぬまでか―――因果律体の【死】って何なんだろうか?

 見捨てられる事?

 魂と精神の崩壊?

 それとも一回一回の全てが死が全て死?


「これは新しい探求テーマが生まれたかも知れないな」


 俺はスキップランランと上機嫌に病室へと戻っていった。


 視点:お茶会(旧???)

『極東の件だがどうやら彼がいるらしい』

『なるほど? それで? 【人形】はどうする?』

『まだ動くには早計だ…個体では強力なシャチも群れでなければ生きてはいけない』

『極東にはどうやら【翁】もいるようだ、彼の事も気に入っていた【翁】ならば接触するだろう』

『日向へと出たい気持ちは解るが今は辛抱だぞ【扇動家】?』

『だが動かねば【星】・【灰色】・【土竜】達は集まらないだろう?』

『行灯の光は彼が担ってくれる……我々はそれを利用し同志を集えば良いだけだ』

『……彼が赦すとでも?』

『篝火は強ければ強いほど虫達を集める…後は集まった虫の自由だとは思わないか?』

『男なのに口説き落すのが巧い【人形】らしい一言だな』

『誰かがロマンチストな所為で私が【紅】や【甲虫】を口説き落す嵌めになったのを忘れたか?』

『それに関しては本当に感謝している』

『老人達はまだ少なく弱味もそれなりだ…我々はまだ動くべきではないだろう』

『今一度シャチの群れが集い土竜のような生命力で幾度と無く蘇えり奴等を喰らい尽くす』

『それで大空を護る【白鴉】もいるのだろう?』

『進化の現実を前に立ち止まっている……亡霊の栄光はもうこの世界には無い』

『……トルコ共和国のデータバンクでは敗北の連続になっているぞ』

『ふっ鴉の戦場に山猫が入り込む余地などない』

『…………未熟』

『『居たのか【名刀】!?』』

『…………無念』


□□□


 とりあえずACした事のある人にとって後半のお茶会は何の意味もなし
 そもそも【扇動家】などの時点で原作体験者には正体がバレテシマイマスネ

 それとこの作品・作者・コジマが【イタイ】と呼ばれました

 その内大先輩たる【これはひどいオルタネイティブ】様みたいに【イタイ】が褒め言葉になるかも知れません
 まぁ作者は【これはひどい】様のような執筆力がないので未来永劫に褒め言葉でなく貶し言葉として使われていくでしょうけど……

 あとまったく関係ありませんけどヘタリアって面白いですね
 見てたり読んでると何故か地理とか国について覚えてるんですよ

 9月25日 ご指摘により修正



[9853] 十八話[出発と無理のある再会]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/09/25 22:11

 視点:コジマ
 しかし何でこんな状況になってしまったか良く解らない。

「王手です」

「あっ!? 流石は副指令と中佐の補佐官だけあって手強いわね……でもまだ」

「王将を右に逃がすなら手持ちの金で詰みです」

 検査の結果、どうも速瀬もあまり身体が良くないと判明しどうせ二日程度で治ると聞き中佐特権で強引に休息させている。
 強力な暗示の後遺症で一時的に能力が下がっている二人の事もあって実機関係は期待できないので踏み込んだ休息。

「社ちゃんって本当に強いねぇ…これでもう全滅になっちゃったよ」

「社! もう一回勝負して! 次は勝つ!」

「速瀬中尉、次は私の番なので代わって貰えますかな?」

 しかし遊ばせておくのも勿体無いので新型OSと前回の実戦・演習での座学で出来る範囲での反省をした。
 実戦後のメンタルケアの一環として貴重な木材を分けて貰いコツコツと職人顔負けに彫っていた将棋をAー01の面々とするつもりだったが…

「宗像! もう一回! もう一回だけッ!!」

「速瀬さん……順番は護りましょう」

「そういう事ですな速瀬中尉?」

 どうもあの軍曹暴走でA-01に護らせ、俺が気絶している間に霞ちゃんは勇気を振り絞って他人との干渉を行ったようだった。
 そして悪い人間がいない筈のA-01は霞ちゃんに対して下劣な感情は抱かなかった(約一人物凄く不安だったが)のか、霞ちゃんは少し懐いてしまったらしい。
 この反省会で本人を新OSを完成させた天才美少女と紹介した所面々が喰い付き、霞ちゃんにとって亡くなってしまった姉分が一気に増えてしまったようだ。
 A-01の面々にとってもこんな小さな子が造り上げた現実に驚愕されながらも、急に出来た妹分を溺愛する事は微笑ましい。

「微笑ましいな」

「本当に……」

 急に出来た姉達に対して困惑し、懸命にリーディング抜き(でも勝負では容赦なく使っているが)で生身の人としての付き合いをしようと四苦八苦している霞ちゃん…いや可愛いなぁ。
 でも勝負ではしっかりとリーディングし手加減抜きで将棋に没頭する所はやはり変わらないが、それは割り切りの一環なのだろう。
 コーヒーモドキを一服しながら宗像と霞ちゃんが勝負を始め周りが真剣そうにその勝負の行方を見守っている。
 他の面々になると『ここで金だ!』『いやここで銀です!』と騒がしく色々言い合いながら、笑い合いながら勝負になったりしている。

「涼宮中尉と伊隅大尉は相手にするのが手馴れている感じだな?」

「私は妹が二人いまして……姉と一緒に色々と世話をしていましたから」

 すぐ傍で霞ちゃんに抱きついたりしている涼宮中尉にはA-01に配属となる涼宮茜少尉が妹としている筈。
 A-01のメンバーの筈がいつからか霞ちゃん側に寝返りしてここには居ない妹を愛でてるかのように抱きついたりしている。
 ……邪まな情念を抱いていれば霞ちゃんは拒絶反応の一つでもするだろうが、そうしない所を見るにどうやら平気な人間らしい。

「くっそろそろ厳しい」

「……これで王手です」

 霞ちゃんが宗像を追い詰め、速瀬などからは『早く負けてしまぇ~私に代われ~』と怨念の如く耳元で囁いている。
 その様子に伊隅大尉が妹達を見ている時にしているであろう姉の顔であり、女の顔で微笑んでいる。

 ―――これで意中の人が振り向かないとは勿体無い

 普段厳しい一面を見ているだけあって霞ちゃんと他の面々の騒がしい戯れを見て微笑んでいる伊隅大尉の笑顔は貴重だ。
 泣いている赤子が見れば泣き止んでしまう、その微笑を見ているだけで幸せになれるような強すぎず心地良い日光のような笑顔。
 これを意中の相手に見せれば一撃で陥落に追い込める気がするが……幼馴染故の抵抗と言うのかも知れないな。

「ところで速瀬中尉、身体は大丈夫か?」

「少し痛めた程度で何の問題なしです!」

「なら良いが早めに治して次の訓練を行いたいからな」

 他の面々には異常が見られないが速瀬のみ身体を痛めていた……俺と同じように痛めていたらしい。
 同じ点は演習で行ったOBによる奇襲戦術…最高速で接近し接敵に合わせてOBを切り慣性を殺し急停止する逆噴射。
 これによる衛士への負担は計器から取り出した数値から言わせれば『酷い』であり、強化人間でもない速瀬は良く痛める程度で済んだと言える。
 仮にも強化装備によって護られているにも関わらず俺も結局肋骨にヒビを入れられてしまったのだ、思った以上に衝撃緩和が甘い。

(強化装備の対G緩和対策と強化装備そのものの操縦者の操作パターンへの対応力・再現力の強化と色々とやる事は多いな)

 ノーマルクラスの機動で操縦者を傷つけてしまう防護服に用など無い、もっと強く強化しなければならない。
 確かに冷暖房・戦闘服・生命維持装置としての装置まで持ち合わせているこの多機能性には賞賛の言葉が尽きない。
 だがこれでネクストクラスの機体に乗るとなればゾッとしない……音速の領域を頻繁に入ったり出たりするのだ。
 現状の衝撃緩和では最悪機動に伴う衝撃によって身体が押し潰されて即死などと言う笑い事ではない現実が待ち構えている。

(意思と思考の電波を読み取り動作パターンへの変換と記憶……衛士が複雑かつ高度な程反応や対応が遅れている…一度に記憶出来る要領も少ない)

 コーヒーモドキを一啜りし、思考の渦に沈みかけていた自分を現実へと叩き戻す。
 今はそんな事を考えているよりも目の前の霞ちゃん達の戯れを見ている方が何倍も気分が良くなる。
 この世界は娯楽に金や資材を投じる余裕がない所為でメンタルケアが凄まじく欠乏し悲惨としか良い用の無い世界。

 生まれた世界ならばカラオケ・ゲーム……売春などの慰安施設は探せば幾等でもあるような世界だった。

 アーマードコアの世界ならば酒・女・博打などで癒せる世界だった……生きる為に切実な一面は多かったが。

 だがこのマブラブの世界はこれらがまったく無い―――娯楽関係の欠如は人としては致命的な欠陥を持ち続ける事になる。


(酒・煙草はあれど合成の不味さ、一昔の将棋やチェスの娯楽……女は売春でもない限りやはり気が引ける)


 女に対するヘタレぶりに自ら溜め息の一つでも漏らしてしまう。
 マブラブの世界に来てからまったく女を抱いていないが、別にどうと言う事はない。
 と言うよりも目の前の美女達やらこの基地の美人揃いを前にするとどうも気乗りがしなくなる。
 何処のコンテストか判らない程に美人揃いであり変に耐性が出来てしまって正直参ってしまう。

「しかし中佐は将棋の駒まで彫れるのですね」

「一昔前に色々な縁で色々と学んだからな……裁縫・炊事・洗濯・武器機体の開発・設計・操縦と何でもござれだ」

「……もはや何も言えませんね」

「言わないでくれ、今はあの子達の笑顔が見れていると言うだけで彫った甲斐があったのだからな」

 嬉しそうな悲鳴を挙げながら突然出来た妹を愛でてるのに忙しい面々と突然出来た姉達に振り回される妹。
 明日にでも死ぬような地獄の世界で垣間見る幸せの風景に心癒される……だが次の侵攻で確実に二人連れて行かれる。
 その次で三人…結局この場の面々は全滅する運命にあるのは残念な話だ…折角出来た姉達が皆消えてしまうのだから。

 見えているあの笑顔も皆消えてしまう―――あの子に悲しい思いをさせるのか

 香月博士に殺されそうだな。


「―――さて行くか」


 伊隅と敬礼の一つを交わし、嬉しそうに戯れているA-01の面々を風景を脳裏に焼きつけ部屋を後にする。 

 早朝、香月博士から帝国への新OS配備に伴う試験部隊の教官役として帝国に赴く特務を言い渡された。

 目的地は片足の欠けた愛機が解体され搭載されているC-5輸送機が離陸準備に入った滑走路。

 滑走路前には初風に携わっていた整備班の兵達が敬礼をした状態で整列してくれていた……風に油の匂いが混じった良い匂いが鼻をくすぐる。

「ここの油の匂いとも当分お別れか…少し寂しいな」

「帝都への出向なんて日本人の私達からすれば最高に名誉な事です!」

「こんな時に他人行儀は止してくれ! いつも通り気軽に話しかけてくれ…向こうじゃ拝めないかも知れないからな」

 帝国はこちら程の自由は存在しないのは覚悟の上だ。
 国連の此処で好き勝手出来るのはひとえに香月博士の権力と影響力があるからこそ、帝国ではそれなど通用しないだろう。
 巌谷中佐を味方に付けていると言っても香月博士のような相手の弱味を持っている訳でも、霞ちゃんのような能力者を持っている訳でもない。
 ただの栄光を持つ中佐でありそれ以上の後ろ盾を選れる訳では無い、だからこそ帝国内部であまりヘタな動きは俺を気に食わない存在にとって絶好の機会。
 帝国内部ではあのG弾投下の悲劇を根に持ち国連=米国の犬と蔑み迫害するかのような深刻な現状が広がっているらしく、命の心配も生まれてきた。

「中佐は不思議な人ですさぁ…操縦だけなら知らず整備・開発までこなして現場の意見やワシ等の意見を聞いた上での改修を考えて」

「蛇の道は蛇さ、その道はその道の先達に聞いてみるのが一番手っ取り早く理解出来るからな」

 『ちげえねぇ』と整備長の年老いた笑いを皮切りに他の整備兵達も一斉に笑い出す。
 この場に居合わせている整備兵達はこの横浜基地でも信頼出来る兵達で構成されており、初風の整備を任せられるだけの連中だ。
 男連中と笑い合いながら酒を愚痴と意見を肴に交わし、女連中は馬鹿騒ぎする男達相手に溜め息ながら混じって騒いだりする。
 そんな家族の様な温かさと騒がしさを持てる連中とも当分はマズイ酒を飲み交わす事すら出来ない……向こうの酒には期待したい所だな。

「……ところで」

 ガシッと整備長の油塗れの手や腕を肩に廻され、身体全体を抱き寄せられ耳元で囁かれる。

(神宮司の譲ちゃんとは一発”やった”んですかい?)

 このオヤッサンは基地でも高齢の方で色々な連中から頼られる基地の親父、豊富な人生経験で皆から『オヤッサン』と慕われる老人。
 京塚さんとは違う人徳の持ち主でこの人の手に掛かれば新型機だろうとその人生経験に裏付けられた力量で瞬く間に理解されてしまう。
 現状で出来る最大限の整備・調整をこなす事が出来て新兵達の教育も手馴れた者でオヤッサンの教え子の質の高さは眼を見張るものがある。

 ―――このお節介も皆から良く慕われる理由だろうな

 自分は色恋には疎く疎遠なのに他人の色恋には敏感で、これが不思議と妙な説得力を持った言葉で色々と丸め込んでしまうらしい。
 成立したカップルの数は数えるだけ無駄らしく年老いたキューピット……老人があの格好をするなど吐き気を通り越して吐血するわ!

(仮にも女性とのソレをそんな簡単に……)

(良いか古島の兄ちゃん! 神宮司の譲ちゃんは歳の事で凄く悩んでる! 本人の好みは年上でそこに現れた兄ちゃんと言う絶好の獲物だぞ!?)

(…………あぁ)

 オヤッサンの声に妙に気合やらが篭ってて言いたい事は理解出来た。
 現に一撃で気絶されられ本来ならば気絶している間にもっとされててもオカシクはなかったんだろう。
 狂犬の気まぐれで山猫は捕食を免れたんだ……代わりにしっかりと自分の獲物とマーキングされてしまったがな。
 あんなに優良物件なのに男がいない理由が良く解った事件として一生忘れられないよ。


(やっとこれから手を出し始める矢先にその獲物が手の届かない所へと行く苦痛! 狂犬の怒りが何処に向うと思う!?)


 ―――そんな事は知らないよオヤッサン


(とにかく一週間! いや二週間に一度で良いからこっちに連絡を頼む!)

(霞の事もあるからそれはするつもりだが……神宮司軍曹の事はどうにも出来ない)


 俺にどうしろと?
 オヤッサン……自分を狙っている相手に『丸々と太り始めてますよ』とでも言えと?
 原作の事を考慮して月詠中尉と親しくしておいて色々と情報なんかを聞き出したい所なんだが……
 特に御剣冥夜について・独立警備小隊の国連への派遣・帝国剣術についてなど聞き出す事は山程ある。
 その事を『帝国の女性と親しくなって体術などの指導をして貰っています』なんて言った暁にはおそらく神宮司軍曹が暴走しかねない。

 ―――香月博士からは『ソイツが重要ならチッャチッャと頼むわねぇ~~』なんて言われてしまっている。

(それにそこは悪友の副指令が何とかしてくれるだろう)

(あぁ無理だな…幾等副指令でも狂犬状態の譲ちゃんを止めるには役不足だ)

 この一言に凍りつく。
 あの香月博士ですら止められないなんて、どんな怪物ですかあの人は?
 しかし神宮司軍曹に必要なのは俺以上に強力な首輪…飼い犬の首輪だな。


 邪まな念が働いたのか犬耳と尻尾が生えてて赤い首輪をした神宮司軍曹の姿が脳裏を過ぎった。


 ……似合いすぎて恐ろしい画像だ、修正が必要だ修正が!
 特にタンクトップ姿なんて反則だ! 胸が! 胸が! 胸がァ!!

(おっと長話がすぎたな、とにかく神宮司の譲ちゃんをよろしく頼むぜ)

 顔を寄せ合って話していたがそれも打ち切り。
 これ以上は流石にアチラの合流に遅れる事になってしまう。
 時間厳守・無断欠席遅刻は首が飛ぶ事になる原因の一つだ…潜り込み味方を作るには愛想は良くないとな。


「中佐に敬礼ッ!!」


 今一度敬礼の見送りを持って横浜基地を後にする。
 正直言えば落とされそうな気がしてならない飛行機など乗りたいとは思わない。
 だが今だ完成せず建設を続ける横浜基地を上から眺めたいと思っていたので乗った。
 帝国へと…目的地の帝都を護る為の盾であり絶対最終防衛線たる存在に輸送機は飛んでいく。
 巌谷中佐が滞在している機密を孕み無数の失敗作と一握りの成功作を産み落とし続ける過酷な運命を背負った妊婦の館。

 帝都技術廠・帝国群馬基地―――俺が初風とXM3を宣伝するに当たって着任する場所。

 群馬基地なのだが実際は限り無く東京寄りの開発とある種の隠れ蓑として造られているのが見え見えの基地。 
 湧き上がる睡魔に飲み込まれ到着するまで格納庫の待機室で一寝入りする事になった。 



 しばらくして……



『古島中佐、目的に到着します』



 夢を見る事なく目的地についてしまった。
 そういえば霞ちゃんに何も言わず出てきてしまったが、香月博士から一つや二つ聞いているだろう。
 もう少しA-01の面々を鍛えたかったのだが帝国のコネ作りの方が大切だ…巧く利用出来る様にならないとな。
 それに神宮司軍曹と伊隅大尉は教育が巧い分、ヘタに俺が教えるより俺から吸収した技術を噛み砕いて面々に叩き込んでくれるだろうし。

「帝国にも教え上手がいれば良いんだがな」

 輸送機が降下体勢に入ったのか身体にグンッと負荷が掛かるが戦術機の急降下に比べれば可愛いモノだ。
 小さな待機室から覗ける風景に横たわる五体満足の状態の初風……付いたら即座に解体される運命にある新品は悲しい雰囲気を醸し出している。
 だがこの初風が帝国に風を吹かせる大任を背負った新品であり、これの犠牲で戦力増強と国連への貸し借りが作れれば儲け物だろう。

「私が降りたらすぐに機体を指示された格納庫に収めてくれ、戻ったら副指令によろしく伝えておいてくれ」

『了解、御武運を……』

 おい操縦士、まるで俺がここで死ぬような縁起の悪い物言いは止してくれ。
 開放された後部から輸送機を後にし、俺が降りたのを確認した輸送機はジェットを吹かしながら格納庫へとゆっくりと移動していく。
 そして俺の視界に映ったのはいやに礼儀正しく俺を出迎えてくれている帝国衛士や巌谷中佐達の姿だった。
 ……香月博士が何か変なものでも届けて飲ましたか? いや自白剤なんかは提供したが使うとは思えないが…あの人なら。

 不気味さに気圧されながら国連中佐としての、歴戦の勇士を臭わせながら巌谷中佐達の下へと歩いた。

 しかし出迎えの衛士が異様に多かったりあの巌谷中佐がビシッ! とこちらを出迎えてくれるなんて何があった本当に?

「国連軍極東横浜基地所属・古島純一郎中佐、本日を持って帝国群馬基地に臨時中佐および新型OSや戦術機の教官として着任する事になりました!」

「良く来てくれた、帝国軍は貴官の着任を歓迎する」

 そう言ってくれてはいるが巌谷中佐が引きつった笑顔をしている。
 周囲の出迎えに来てくれている衛士や兵士達も引きつった・あるいは今にも緊張で倒れそうな感じである。

「……どうした巌谷中佐? 私はこれ程の人間に出迎えられるような人間ではないが」

「君も人が悪いな、よもや准将閣下と親しき仲と言う事を黙っているとは……」

 戸籍・存在そのものが本来は存在しない架空の人間に親しき仲などない。
 俺という存在がやってきたのも数ヶ月以内の事であり、帝国の知り合いなど巌谷中佐位だぞ?
 帝国の准将閣下に対して親しいなどありえないのだが巌谷達の態度を見るに、その准将はかなり俺に対して口うるさく言っているらしい。

「そう言われても准将閣下だぞ? とてもじゃないが親しいなんて」

「しかし”銀翁”准将閣下は君とは幼き頃から親しくしていたと言っていたが?」


 ”銀翁”の名前に思考が停止する。



「―――コジマ君は相変わらず【人形】顔負けの策士だな」



 この声に思考が再び動き出し、更に巌谷を筆頭としていた出迎えの連中が一斉に左右に別れ道を作り敬礼をする。

 仲間達の間で銀翁と呼び慕われていた極めて高いAMS適性と実戦経験によって裏付けられた歴戦の圧倒的な実力を持つリンクス。

 オルカ旅団創設に携わった【最初の五人】の一人であり宇宙への移民計画に賛同し共に戦い続け、時として対峙した最古参のリンクス。

 彼の愛機は【月輪】……コジマ粒子を縮退されて撃ち出す背中武装が特徴で、機体の磁場発生装置の性能からコジマ粒子防御幕【プライマルアーマー】が強力な機体。


「……ネオニダス?」


 敬礼の道をゆったりと従者を伴って歩いてくる老人の名前を零してしまう。
 オルカ旅団に在籍中は確か五十を超えた長老だったがそれを感じさせない若々しさがあったがこの世界でもそれは変わらず。


「久しいな、いや? この場合は初めましてにもなるなカラードのリンクス【先駆者】にして【罪人の一族】」


 声の座り方に殺意を感じ傭兵としての本能が懐に仕込んでいる銃に手を伸ばそうとする。
 だがそうするよりも速く銀翁のガッチリンとした老人とは思えない身体に抱きしめられ、メキメキ身体が鳴る鳴る法隆寺。

「いや君がいると聞いて飛んできたのだが周りが五月蝿くてな」

「ぎっ…銀翁……身体が折れ…折れ」

 銀翁は重度の改造を施されていたのが反映しているのが本当に老人とは思えない筋力で全身が悲鳴を挙げる。
 この爺は本当にこう言う所があって嫌いだ……変に悟って色々と動く所があって迷惑を被るのはいつもこっちだ。

「君の名前を聞いた時に同姓同名かと思ったがリンクスに反応するならば本人に間違いないだろうと踏んでな
 いや本当に君は変わらないな、そしてあの戦いでの動きを見たが腕は衰えていないようで皆も安心していたぞ?」

「だから…人の話を……」

 もうだめだ―――俺はここで銀翁に身体をへし折られて死ぬ。
 ごめんな霞ちゃん……小父さんは別れも言わずに出てきちっゃたね。


「銀翁…加減」


 眼がいつも閉じてて誰も開いた所と長い文章を話した所を見た事がない奴の言葉で銀翁が気付いたくれた。
 メキメキと悲鳴を挙げていた身体が開放され、痛む身体を他所に無言で差していた二振りの内の一振りを投げ渡す”奴”こと名は真改。
 銀翁同様に帝国の軍服を羽織っているがどうやって刀なんて差してたんだ真改?

「助かったぞ真改」

「無用……手合わせ……唯一無二」

「接続詞を話せ、もう少し長く繋げて話せ、そして少し待て」

 今のを翻訳すると『礼なんて言わんで良いからこの世界で気兼ねなく戦えて同門なのはお前だけだ』と言っている。
 オルカ旅団創設に関わった【最初の五人】の一人であり、最強と謳われるアナトリアの傭兵に滅ぼされたレイレナード社の数少ない生き残りの一人。
 アンジェ流剣術の唯一の皆伝した男であり俺にその剣術を叩き込んだ唯一無二の師匠でもあったオルカ最強の剣士。
 愛機【スプリットムーン】は背中に追加ブースターを装備し圧倒的な加速力で間合いに踏み込み、一瞬を間で敵を斬り捨てる最速の剣士。
 レーザーブレイド月光の正当な所有者であり真改の手で振るわれる月光は全てを斬り捨て無へと還す最悪の一振りへと化す。

 投げ渡された刀を鞘から抜き取る……カーボン製の月光か。

「不変…安心」

「国連には私を徒手で黙らせれる女性がいる…お陰で腕は衰えていない」

 左手に鞘を持ち右手に真剣の月光を持つ。
 鏡合わせのように構える真改……四十を超えるいい歳した奴とまた斬り合うとはね。
 俺を【先駆者】と呼んだと言う事は誰も死なせずクローズプランを成功させ、一部企業すら味方につける事に成功した周か。
 とりあえず殺されるような事もなく銀翁の性格から考えればコチラ側についてくれるだろう、他の連中も来ているのか?

「驚愕」

「あぁまったくだ! だが人殺しの技じゃない…それじゃあスリルがないだろう?」

「……同意」

 この一言を皮切りに真剣を振るう。
 俺と真改の戯れ程度の斬り殺しあいが始まる。

「准将閣下! 幾等あの国連衛士が親しき仲と言えどこのような」

「私と彼の十数年来の再会と真改の同門の再会に君は水を差すつもりか?」

 巌谷中佐は何も言わないがすぐ傍に立っているお嬢さんが抗議行動をするが、銀翁はあっさりと一蹴。
 お互い急所狙い切り結びをしているが子供のチャンバラ遊びのようなヤル気のなさで刀を振るう。
 首筋・手首・喉仏などを狙ったチャンバラに驚愕している面々の姿が視界に映るが真改と切り結ぶなら遊びでの急所狙いは極普通の事だ。
 
 真剣での脚払いを飛んで回避・そこから身体を縦に捻り踵落としならぬ爪先落としを狙うが鞘で防がれる。

 逆に斬月での切り上げがこちらの脚を切り落とそうとしてくるがそのまま身体を更に回転させ避ける。

「無茶」

「本気で脚を切り落とそうとする奴に言われる筋合いはない!」

 何とか後ろに回り込め体勢を立て直し薙ぎ払うが、真改は一歩前へと踏み込み距離を取って避けた。
 背中にすら掠らせれないとは鈍った……そして変わらない真改の前への踏み込む力に驚愕させられる。
 本気の殺し合いならば開幕を待たずして即座に踏み込み心臓を貫かれ殺されるなんて事がある…真改の本気はそれ位に強い。
 
 何よりアンジェ流の極意たる【最後に立つ事】に忠実であり、勝利の為の手段を厭わない一面を隠さないのだから。

 少しずつテンションが上がってくる、冷めていた人殺しの感覚が蘇えってくるのが解る……顔が歪む。

「同門!? あの真改さんと国連の者が同門だと言うのですか!?」

「正確に言えば彼は幼き日に真改から剣術を学び、真改から唯一無二の皆伝者と認められた剣術と才覚の持ち主だ
 先の演習でも最初からあの剣術を使っていれば接近戦でもさぞ悲惨な結果となっていただろう…手加減に感謝する事だ」

 間合いが開いた事で仕切り直しとなった。 
 これから本番だと言うのに真改の方が先に鞘に刀を納めた。

「仕事」

 あぁ解ったよ……『遊ぶのは今度にしてやるから今は軍人としての仕事をしろ』だな?
 確かに少しフザケスギタのは解ってるが折角こちらに来たのだから再会を祝して欲しい所だ。

「真改の言うとおりだぞ【先駆者】」

「その名で私を呼ぶな銀翁……私には古島という立派な名前があるんだぞ?」

 しかし銀翁や真改はそれがそのまま名前なのか?
 帝国の上層部は色に関する名前が多いな…紅蓮とか彩峰とか本来の准将の立場を奪って居座っている銀翁と言い色繋がりか。

 【なりかわり】

 白銀武に”シロガネタケル”がなったのと同じような別の存在が本来ある存在を食い殺して居座る行為。
 白銀の場合は白銀武が存在していたので正確に言えばまったく同じ存在だが、決して同じでない存在が居座るようなモノ。
 俺という存在を支援する為に我が神が戯れにもっともリンクス達から好印象を会得した周回の記憶を与えてくれているらしい。
 企業側のリンクス達もいるならば味方に引き込むに越した事はないな……オルカと企業のリンクス勢揃いした最強の旅団設立も悪くは無いな。


「貴様! 准将閣下に対して……」


 ごもっともな注意に謝罪をするよりも早く銀翁と真改の睨みが相手を黙らしてしまう。


「いや二人とも彼の言う事は間違ってはいないぞ…旧友と言えど双方軍人で公私混同は控えるべきだから」


 弁解とした後にその注意をした帝国兵士に頭を下げ謝罪する。
 謝罪した相手は銀翁と真改の黙殺する睨みによって放心状態らしく、頭下げた意味すらないなんてのは酷すぎないか?
 そして何を思いついたのか銀翁は俺の首根っこを掴み引きずり始める。


「巌谷中佐、しばらく彼を借りるぞ」

「拝借」

「なっ!? 私には新OSと新型機の説明の仕事が―――」


 弁解待たず銀翁に引きずられその場を後にする事となった。
 巌谷中佐や一緒に出迎えに来てくれていた様子の独立警備小隊の面々や沙霧大尉とは何の話も出来ず。
 相手が准将とあってか巌谷中佐は『助けられないな♪』と言いたいような生暖かい視線で俺を見送りやがった。
 とりあえず今日一日はこの二人に振り回される一日となるのは火を見るよりも明らか……明日からの訓練が無事に出来れば良いが。


 視点:お茶会

『久しいな【先駆者】』

『……なんだ団長か、アンタも居たのか?』

『ランク1にして団長たる私に対してなんだとはなんだ!?』

『五月蝿い叫ぶな騒ぐな喧しい! こっちは【翁】と【名刀】の相手で忙しいんだ! 察しろロマンチスト!!』

『【先駆者】、ワシの杯が乾いているぞ!?』

『喧しい! アンタのような奴はコジマ濃度100%のウォッカでも飲んでろ! 日本酒なんぞ勿体無いわ!』

『……ビットマーーーン・ビッビッビッアクアビットマーーーン』

『【名刀】が二字熟語以外喋ってるぞ!? カメラカメラ! と言うかアクアビット製の酒は止せ、死ぬぞ!』

『色々と立て込んでいるようだが……【先駆者】』

『【人形】…旅団の知恵袋が何用か?』

『いつ”この世界”に来た』

『今年の六月だ、戸籍などは存在せず名前と記憶ばかりの存在だったが【極東の魔女】に拾われて今になる』

『我々の共通点は”あの世界の記憶”でありお前が誰一人死なせず……企業すら傷つけずに計画を成功させたあの記憶だ』

『綺麗事が全てを救った”都合の良すぎる”アレに不服だったのか?』

『……痛みなき贖罪に揺り篭と老人達は何を学んだ? 何か変わったのか?』

『【人形】酒が不味くなる、今はただ集いつつある同志と乾杯するべきだろう』

『【翁】の言うとおりだぞ【人形】……今は我々も国家と世界を憂う同志なのだから』

『二人とも……』

『信じたくない…敵と思うなら思ってくれて良い……策謀に生きている方が似合っているからな』

『………勝てないな、ところで【先駆者】…オルタネイティブ計画について何か知らないか?』

『何処でそれを!? …いや【人形】ならば辿り着くか』

『二者択一計画とは嫌な名前だな』

『クローズプランが言えた義理ではあるまい』

『簡単に言えば連中とも対話などを目的とした計画だ……アスピナの真似事やクローズプランのような宇宙脱出計画もある』

『……詳しいな』

『俺のマスターの【極東の魔女】が第四計画の主任でな、色々と暗躍をな…第五計画たる宇宙脱出計画と対立中でな』

『幾ら逃げれる?』

『揺り篭ではないただの船の脱出だ、最大で十万人が限界だそうだ……あのアメリカ主体の計画であのG弾による決戦も視野だそうだ』

『却下だな、人類の生きれない計画など何になる? 逃げた所で追いつかれるのが目に見えている』

『意外だな…宇宙脱出計画の考案者の一人が否定するとは数奇な事もあるな』

『だが第四計画とやらに信頼する訳でもない【極東の魔女】の悪名は轟いているからな』

『良い女だぞ…覚悟も信念も持ち赦しを請わずただ戦う姿は惚れるものがあるぞ………会いに来るか?』

『それは良い縁談だな…っとそろそろ感づかれるな、また会おう”人類に黄金の時代を”』

『さてワシも寝るか―――会える日を楽しみしてるぞ”人類に黄金の時代を”』

『……就寝”時代を”』

『オルタネイティブ計画がアスピナの真似事をしているらしいな?』

『人工エスパー…その親戚のような奴等を造って奴等に訴えかけていたらしいがな、心当たりでも?』

『………ソビエトにいるがそれらしいのを見ている…まぁ害はないだろう』

『そうか【人形】の知略と謀略に全額賭けるだけだ…”人類に”』

『注意はしておこう……”黄金の時代を”』


□□□


 やっとオルカのメンバー登場
 この世界での銀翁や真改はあだ名ではなく本名です(笑
 色繋がりで准将にした銀翁と名前と剣術から帝国軍人にした真改
 お膝元の基地に准将がいるのは少し無茶があるかも知れませんが、ポンッと国連のコジマを帝都に招く訳にも行かず
 白銀のように殿下に固執している訳でもなければ冥夜の件で脅す訳でもなく、帝都に侵入させれる理由がなかった

 また関係ない余談ですが現在【ボーダーブレイク】と言うゲームにハマッテマス

 機体の設計がどう見ても戦術機であり、自分の機体を撃震(笑 と名付けて毎回後方支援に明け暮れる毎日です
 キャラ名はベテランのソリダス……今日までに白銀さんや冥夜さんと戦い兵士級BETAさんと戦っています……
 もし戦場で撃震ばりの重装甲機で支援ばかりしてる奴を見かけたらお手柔らかにお願いします
 こっちは容赦なくショットガンのゼロ距離射撃で応戦させて頂きますけど(おい



[9853] 十九話[人は彼を天才と言う]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/10/08 20:40
 視点:コジマ

 シミュレーター室とは違う別室で合成玉露を片手にノンビリしているが、まだ来て二日目だがさっさと訓練を開始したい。
 配属する事になった群馬基地で、国連衛士と言う事で嫌がらせの一つでも受けると覚悟していたが拍子抜けしてしまう。
 無論最大の理由はネオニダスこと”岩見銀翁”准将閣下と真改こと”井上真改”補佐官の後ろ盾である。

 ―――帝国で紅蓮大将に匹敵する戦術機乗りとして名高き銀翁

 ―――その銀翁の補佐官にして【裏】の斬り殺し屋として恐れられてる忠臣真改

 巌谷中佐も乗り手としては伝説と呼ばれており、帝国内部で巌谷中佐を慕う人間も多く元斯衛と言う肩書きも後押している。

 【斯衛】

 帝国内部でも武人にして、武芸者や武家の者達によって構成された凄腕の戦術機部隊であり【征夷大将軍近衛】でもある斯衛。
 専用戦術機である2000年時点において最強の接近戦をコンセプトに造られた【武御雷】の搭乗と支給を赦された部隊。
 しかし前線への出撃は少なく護衛部隊とあって自ら出る事がなく、各部隊から切り集めた所為で他の部隊は要のエースを失いバランスを欠く。
 防衛を意識して造った筈の機体は護衛対象から離れねばならない接近戦を重視され、砲撃戦にはまったく配慮のない設計思想の採用された【護衛機】

「……こんなので良くもまぁ」

「私もせめてミサイルコンテナの装備は進言したのだが受け入れられなくてな」

 銀翁の愚痴も無理はないだろう。
 真改ならともかく砲撃戦が主体の銀翁に接近戦機体で戦えなど『死んで来い』と言っているようなモノに等しい。
 帝国=接近戦ではなくエースと呼ばれる人種全てが接近戦の達人ではないのに、切り抜いたエースは無理矢理にでも乗せられる。
 部隊を想い、仲間の為と断れば将軍の近衛を断ったと罵倒の嵐と……胸糞の悪くなるような現実に苛立ちを覚えてしまう。

「しかし本当に良いのか? 武御雷式月輪とスプリットムーンを改造に解体しても?」

「あんなノーマルにも劣る機体にいつまでも乗っていては命が幾つあっても足りんよ」

「……強化」


 銀翁専用武御雷【月輪(がちりん)】
 産業用の大型電磁投射砲一基を背中の担架二つを使って強引に背負った固定砲台に等しい機体。
 代わりに通常戦術機では有り得ないような瞬間火力を有し、銀翁の機体管理能力の高さから的確に放熱される為に弾薬と電力補充が出来れば戦闘が可能。
 ただし電磁投射砲の問題上、過熱などの問題で投射砲自体の磨耗率が高いので交換や修理する必要が多く、連続戦闘が出来ない欠点を持つ。
 また投射砲の電力を確保する為に機体の電力の大半を費やす為に武御雷本来の近接戦闘が出来ない…本物の固定砲台と言える機体となってしまっているようだ。


 真改専用武御雷【分月(スプリットムーン)】
 通常よりも更に高出力の噴射装置を装備し乱戦するのではなく、斬り捨て斬り抜けて常に移動して戦う切り込み隊長である真改を体言したような機体。
 突撃砲と長刀を各二つずつ装備しての接近戦でBETAの群れに斬り込み小さな群れならば一陣の下に分断してしまう程の突破力を持つ高機動機。
 前衛を担えない銀翁の前衛を担い後方からの弾幕支援を巧く利用しつつ傷口を作り出す、銀翁の支援と立ち止まらない戦闘スタイルで生き残ってきたようだ。
 たたじ常に高機動である為に噴射機関は常に全開であり噴射剤はもりもり減少し斬り込み帰って来ては噴射剤の補充を繰り返す燃費の悪い機体のようだ。


 キーボードを叩き続け【武御雷】のデータを開き、技術屋の知性を最大に回転させ改造案を捻り出す。
 接近戦馬鹿など俺の設計思想と相反する……だが元々の高性能を低下させる理由はなく、むしろその長所の強化を図る。
 武御雷の能力に光線剣でも装備させれば接近戦では無双の降臨だが、やはり武御雷だけの運用となると射撃の強化も必要になる。
 XN3による反応関係の強化は問題なし…担架の数を三基に変更して機動と装甲の両立にミサイルコンテナの装備を――― 


「准将閣下! シミュレーターの換装が完了しましたッ!」


 案がまとまり始めていたのに空気の読めない奴に考えていたプランが消し飛ばされてしまう。
 忌々しさから包み隠さない殺気を込めた眼で睨み、さっさと俺の前から消え失せさせる。
 武御雷の改良も大切だが瑞鶴……どうせなら量産の利くこちらを改造するのも悪くはないな。

「重装甲型のホワイト・グリンドか―――良いな」

「どうした?」

「いやなんでもない、さて訓練といきますか」

 瑞鶴の改良機【白鴉】……少し考えおくのも良いかも知れないな。
 撃震をモデルに造り上げただけあって撃震ともパーツの相性も良い、中古を漁れば試作機の建造は問題なしか。
 展開型のオーバード・ブースターを取り外して凡庸性を高めて行く行くは白鴉で構成されたオルカ隊なんてのも悪くはないな。

「……妙案?」

「そんなところだ」

 先頭に銀翁・右隣に俺・左隣に真改と豪華な顔ぶれ(銀翁だけだが)に道行く兵士達は一律して敬礼をする。
 流石は准将閣下とだけあって影響力と権力は計り知れない、しかしこの世界の設定は改竄を赦さなかった。
 せめて銀翁の進言が受け入れられ武御雷がもう少し改良されていれば斯衛の連中も戦いやすいだろうに……
 浪漫(理想)だけで生きれるような世界ならさぞ良かっただろうに―――乗る事にならなくて助かるよ。


「本日より我々の新型OS・水素機関搭載機の指導を行う古島中佐に敬礼ッ!」


 XN3対応型シミュレーター室に俺の要望で集められた帝国衛士達。
 国連に教導されるのがそんなに嫌なのかかなり嫌悪感を出している…隠す気なんてないのだろう。
 まぁ理想や小さなプライドに縋りつく程度の連中ならば、結局はその程度の器と言う事になるだろうさ。


「先の実戦と演習に出ていた人ならば知っているかも知れないが【桜の文様の描かれた新型不知火】あれに搭乗していた」


 こちらの要望で新型OSの訓練に廻して貰った人員は以下の通り
 月詠中尉、神代・巴・戒少尉こと白三人組、山吹の篁……難しい字だがタカムラで合っているな。
 そして責任者としてまとめるのが巌谷中佐と豪華すぎるメンバーだ、ここでパイプをしていおくのは後に役立つ。

「久しい…と言うほどではないが答えは見つかったか? 沙霧大尉」

「………まだ解らない、いえ解りません」

 俺が帝国に【惨敗】の文字を刻ませた桜と知って月詠中尉は品定めの視線で、お供の三人は国連衛士と言う理由からか眼は険しい。
 巌谷中佐は別に問題なく極普通であり、篁中尉は最初に出会った沙霧大尉のような日本人の俺が国連にいる事に納得していないような感じを出している。
 そして当の沙霧大尉はむしろ雰囲気が軟らかくなった……と言うよりも俺の言葉で信念や自分が揺らいで懸命に手探りで【答え】を探しているようだ。

「そう容易く答えが見つかってはツマラナイぞ大尉…答えはその人が納得するモノで事ならば【答え】だが、どうせなら良く探すべきだな
 安易で簡潔な答えで納得させても結局綻びが生じてしまう、それで何かを起こして失敗してからでは間に合わない…後悔だけではすまなくなる
 大尉はもう少しゆっくり色々とその眼で良く見ていく事をお奨めするぞ…私より若い(?)のだからもっと人生を有意義に使うべきだろう?」

 訓練と言う名目でこちらの監視をする為に呼び寄せた沙霧大尉。 
 あの時の話は沙霧大尉にとって顔面へのストレートに等しかったらしく、色々と悩んでいるらしい。
 これで少しでも国連や榊首相に対する事や帝国の現実を良く見直して決起軍の解体にでも奔ってくれれば万々歳と言える結果だ。
 最強クラスと名高き沙霧大尉を【こちら側】に引き込めればそれだけで旧彩峰派の空中分解を誘発出来るのだからお得すぎて笑えるよ。

「……私は」

「……コジマ……訓練」

「そんな男のムサイ話など後にしろ、今はこの新しき力を試したくてウズウズしているのだからな」

 空気の読めない真改と銀翁の二人も訓練に参加する気満々。
 特に肩書きを件を忘れているのではないかと思いたくなるような銀翁の振る舞いに頭痛がして来る。
 白の三人組なんて准将閣下と訓練すると言うだけでもうガチガチに固まってしまっている…雲の上の存在か。
 そう言えば銀翁は彩峰中将とは面識はないのだろうか? あるならば沙霧大尉の説得でも手伝って貰えば楽に……


「ではこれよりこの選別された九人による新型OS【XN3】の操作訓練を開始する! 初心に帰り訓練に望んで欲しいッ!
 それと私が国連だからと言う理由で反抗・手の抜いた訓練をするようならばこちらのも相応の事をすると覚悟しておけッ!」


 ……剣術の師匠を、オルカ五本指の大ベテランを指導すると言うのは妙に足踏みしてしまいそうになる。
 真改とは互角の勝負は出来ても【勝てる・勝てない】の領域に突入すれば真改は最悪の汚染戦争【リンクス戦争】の生き残りとしての底力を発揮してくる。
 ”あの世界”でそれまではテロリストや反動家の名を借りた企業の手先や利用されていた小規模戦闘で、安定した世界を一変させた最悪の戦争。
 大企業同士のルールも論理も無視した全面戦争は禁止されていた汚染兵器・居住地区への無差別砲撃などの終わりなき経済戦争の火蓋として歴史に名を残す。

 ―――当時の新米同然だった真改・とある企業で乗り慣れない新型を乗りこなして生き残った銀翁

 真改が新米ながら生き残れた若きエースならば銀翁はこの頃からのエース・オブ・エースの一人だった、つまり俺が体験出来なかった戦争をその身で知っているのだ。
 覆しがたい圧倒的な魂が記憶として刻み込んだ地獄が二人を帝国屈指の存在として存在させているのだろう…それを同志とは言え”教育”する事になるとは。

「機体が桁違いに軽い! AMSには劣るがそれでも今までの挙動と比べれば遥かに軽い!」

「感動」

 ……なんか物凄くハイテンションな帝国衛士の方々が目の前にいる。

「これが新OS! 魔女が旧式をあれだけ侮辱出来る訳だ!」

「これが国連の不知火の改良機……」

 何かイメージが音をたてて崩れていくんですけど?
 中佐とかの仮面抜きでイメージしてきた【威風堂々・冷静沈着・勇猛果敢】な帝国衛士の面影が凄いハイテンションな方々によって崩されていく。
 
 崩壊? いえいえ―――超大口径グレネードカノン【老神】の直撃で消し飛ぶ如くです

 こう…どんな状況でもキリッとしているのが帝国衛士のイメージだったのに目の前のハシャグ子供のような大人達によって消し飛ばされていく。
 五十代の銀翁に四十代の真改・巌谷中佐の姿が特にこれを増長させていく…銀翁や真改は良くとも巌谷中佐……

「これが古島中佐の造り出した新たなる風と言うのか…」

「これでは武御雷を馬鹿にするのも理解させられてしまうな」

 とりあえず歳相応(?)の冷静な雰囲気を保っている沙霧大尉と月詠中尉。
 でもシミュレーター画像の初風を一番酷使しているのはこの二人……搭乗している初風の各部分が真っ赤ですけど気付いてますか?
 表に出さずハシャグタイプなのだろう、こう口と行動が本心とまったく異なる行動をするようなタイプ。

 ―――暗器として複数仕込むのが定例の短刀が性質上同類を持つ事を赦されず、本当は仲間と居たいのに経験と性質がそれを赦さない・赦されない短刀。

 口では単独行動を好む女性であったが何だかんだで群れている時が一番生き生きしているように見えた…それが一番綺麗に輝いていたと思う。
 そういえば銀翁達がいるならば彼女達もいる筈…なにより警戒せねばならないテロリストも今頃どこかで色々としているのだろうか?


「操作適応力はやはり銀翁・真改…最小限の負担で最大限の動きをもう再現している、ついで巌谷中佐・沙霧大尉・月詠中尉、次に篁中尉
 及第点は白の三人組としても、まぁ身体も成熟せず実戦も経験したばかりの子供に”人殺しの英雄”の動きを要求するのは酷と言うモノか」


 表示されるデータに眼を通しながら損傷・磨耗の大きい部分を調べ上げ、その原因と思われる部分を見つけて修正案を考え出す。
 少なくとも世界に加護された存在達と戦争の記憶を持つ二人だけあって訓練し始めてまだ少しだと言うのにXN3の特性を理解している。
 敵も味方もいないただの練習空間で装備されている長刀を振り回し、今までのOSでは出来ないキャンセルを生かした太刀筋や機体機動の変更。
 先行入力とコンボによる複数の行動を次々とこなしていく姿は不知火クラスで武御雷クラスの動きをこなし、見えない敵を相手に武闘をする練習。

「練習はもういい、これから同じ練習をしている者同士で軽く実戦形式で戦ってもらう」

「古島中佐! まだ新型OSでの訓練を開始して間もないと言うのに実戦形式など」

 まぁ確かに数分で実戦形式に賛成出来ないのは当然だろうが、人類にはもう時間が残されていないのだ。
 それに一人で反復するよりも対等な条件の相手・あるいは泣く事すら無駄に思える圧倒的な差の相手との戦いは覆し難い成長を促す力がある。
 極限に追い詰めれば追い詰めるほど【火事場の馬鹿力】は発動し、自分でも気付いていない・勝手に決め込んだ限界の愚かさに気付くいていく。

 ―――それこそローディ大先生のような模倣的な敵対者・あるいは先達はそれだけで成長を促せるのだから

「生き死にの現実がもっとも人間を成長させるのは自明の理……戦場は明日にもやってくるやも知れない状況で随分と悠長だな?
 言っておくが国連の私が指導した衛士達はこれを平然と受け入れ、毎日戦場に身を置くような決意と覚悟を持って訓練に臨んでいる
 天下の帝国衛士様が毎度の如く侮辱している国連衛士にすら劣るとは―――やれやれ斯衛と言う存在は護衛の任ばかりで腑抜けて…」

 そして脳天を大噴火させれば見返そうと躍起になり、それだけで感情の不必要なリミッターが外れて気付かない内に秘めた力を発動しているものだ。
 良くある激昂によって感情の爆発と理性がどうしても鎖となって起動しない、使っても問題ない力が発動して自分を超えてしまうと言う奴だ。


「そこまで言われて引き下がるような斯衛でない事を教えれば良いのですな?」


 ……良くぞ食いついてくれました月詠中尉。


「そうだ……機体管理は銀翁・近接機動は真改・砲撃機動は巌谷中佐が先達だ、謙遜なく今の月詠中尉達では敗北の色が濃すぎて賭けすら成立しない
 プライドなど汚水に捨てろ、己が何をする者で何をするべきなのかを知れ・考えろ…そしてその目的の為ならば手段など選ぶ必要はないだろう?
 もし護る為にその刃があると言うならばその【答え】を手にする為に迷って倒れて、泥水を啜って小石を頬張る覚悟で全てを賭けて初めて手に入るだろう」


 綺麗なままで手に入れられるものではない事は月詠中尉とて百も理解しているだろう。
 それでも今の自分を成り立たせる【帝国の誇り】を捨てれる訳でもなく、穢れた身で傍にいる事すら赦されない存在の護衛と言うのも理解しているだろう。
 だがそんな俺から言わせればそんな綺麗で甘い夢など―――あの世界の記憶がある時点で見る事も言う事も出来なくなってしまった。
 
 綺麗事を語る本人が一番汚れなくちゃならない、言っておいて汚れるのが嫌だから他人に任せるなど卑怯以外の何者でもない。

 誰かを護るならばたとえ醜い生き方になり、無様な姿になろうと【護る】と言う答えを支えに最後の一瞬まで生きた壁として生きるべきだ。


「……ある女性がいた、その人は誰よりも一個人を重んじ護る事を生き甲斐にしてその手に持つ剣を血色に染め上げていった
 自分が護った人達の儚い笑顔が変えがたい程の綺麗な笑顔を護る為に、全身を血に染めて穢れ堕ちてなお人々に尽くす事を選んだ
 殺す理由・戦う理由に【人を護る】を提げて多くの者達を犠牲にして蔑まれても決して自分の生き方を曲げず、支えとして生きた人
 個人を護る為に大勢の人を犠牲にするとしてもソレを受け入れてただ誰かを護る最後の一振りの剣として生き抜く事を選んだ気高き女性
 血染めの剣を持ち・全身は血だらけで・美しいなんて言葉とは永劫に無縁でも、その生きる姿に大勢の人が憧れと尊敬を抱かせた孤高の一振り」


 その名前をウィン=D=ファンション……とは言わなかった。

 たとえ世界を敵に廻そうとただ【護る】為にその命の全てを賭して、穢れる道と答えの為に破壊と殺戮の道を選び取った剣持つメイデン。
 護る為ならば殺す事を厭わず省みず、ただ無慈悲なまでに自分が護る者達の害となる敵をひたすらに斬り殺し続け生き続けた英雄の姿。
 自分の信義に反するならばたとえ世界を敵に廻す事すら行い言葉を飾る事無く、ただただ自分の生き方を貫いた血に染まったメイデン。
 愛剣【レイテルパラッシュ】を片手に戦い続けジャンヌ=ダルクの転生とも言われ、敵対者から【ブラス・メイデン】とまで恐れられ蔑まれた女性。

「……乙女―――アンジェ」

 あぁ解ってるよ真改。
 お前とっての本物のオルレアの聖女はあの人だと言う事を、国家解体戦争の英雄の一人でありお前の大切な人。
 俺達の剣術の開祖であるあの人こそがお前にとっての聖女であり戦いに生涯を賭した剣士と言う事もな。

「あの女の事か? 身勝手に動くクイーンなどチェスでは役に立たぬと言うのにな」

「それが彼女の選んだ生きる道だ…復讐の四葉も結局は彼女の従者として最後まで生き抜いたのだからな」

 ウィン=Dを知る銀翁にとって確かに彼女の様な企業の犬で無ければならない存在が好き勝手動くのは何か感じる所があったのだろう。 
 自分達の計画こそ人類と言う大衆を救う道と信じて狂気のテロリストとしての道を選んだ銀翁にとって、彼女の生き方は絵空事だった。
 何より自分達を生み出した企業を長い年月見続けた銀翁にとってはそれこそ企業と言う組織は信頼出来ない存在だからこそ。

 ―――かつて初代クローズプランを多くの仲間達と共に駆け抜けようと走り出した山猫隊はたった一羽の大鴉の前に食い殺された

 真実を知らなかった大鴉の行為・真実を黙認する為に平然とリンクス戦争を勃発させ、多くの人達を殺した企業と言う組織。
 それは過去の遺産と自らの保身に満ちた戦争の真実の姿であり、それを知ったからこそセレンはリンクスをやめて流浪する事を決意した。
 戦争に勝つ為と銀翁自身も重度の粒子汚染を共用されクローズプランで共に戦っている時点で何とか延命装置や処置をしながら命を繋ぎとめていたのだ。


「……古島中佐、昔話に花を咲かせる暇があるのか?」


 巌谷中佐の指摘に『すまない』と謝りながらシミュレーターを操作し、自動的に様々な組み合わせで対戦するように設定する。
 実力が伯仲する組み合わせ以外にも複数vs一人・タッグマッチのような変則する組み合わせも即座に打ち込み戦闘を開始させる。

「……沙霧」

「かの真改殿と戦えるとは稽古に申し分なし」

 信念に生きる似た者同士。
 信念を刃に込めて戦い抜く事を決意した真っ直ぐな侍。

「准将閣下とは…運のない」

「お互い腕が錆び付かぬ様にせねばな」

 双方とも伝説級の衛士であり高年齢の戦い。
 とりあえず衝撃でギックリ腰にならない事を切に願う。

「白き牙中隊の隊長の実力を今一度垣間見るか」

「同じ斯衛として、全力を賭すのみです」

 斯衛の優秀な女衛士同士の戦いだが女の戦いではないので危なくはない筈。
 物凄く眼福な組み合わせであり共通点として厳格と言う所か? とりあえず心配はいらない。

「あの私達は?」


 余ったお前達が一番最初の犠牲者だ。


「余ったお前達三人はまず私が相手をしてやろう、安心しろ……淑女に私は寛大だぞ」


 軍服の下に着込んでおいた強化装備…決して変態的な意味ではなく常時戦闘の心がけはなくしてはない。
 多機能で便利な強化装備は着込んでいて損はない、多少の攻撃ではビクともしないあたり防具としては優秀だ。


「まずは貴様等の身体にミッチリと新型OSの使い方と言うのを叩き込んでやる、しっかり学べッ!」


 シミュレーターに入り込み、目の前に立ち塞がる白い初風三機と対峙するが既に相手は退き腰に感じる。

「てっ手加減無くお願いしますッ!」

「元からそんなものを出来るほど器用ではないぞ? 神代少尉」

 やるからには【徹底的】がセレンの教えだ、化物にボコボコにされれば嫌でも実力と言うのを思い知るだろう。
 そしてボコボコにされた事を悔しがり月詠中尉に泣きつき特訓され、原作よりも早く成熟すると言うのは期待出来るな。

「よろしくお願いします」

「礼儀正しくてよろしいが今の私は君達の敵対者、君達を殺し護衛対象の殺害を目論む者と考えておけ 巴少尉」

 敵対者に礼を尽くす理由などない、先程言ったように今の俺はそういう存在だと思えば良いのだ。
 BETAばかりが敵であるような世界ではないだろうに、人間相手の警戒心や容赦なさを教える必要があるぞ月詠中尉。
 いや……これからそれを教えて行き着くのが原作の三人と考えれば良いのか、なら対人戦術を叩き込むのが急務か。

「ではお言葉に甘えて三対一で叩きのめさせて頂きます」

「実戦知らずの生娘三人相手に私が翻弄されるなど考えるとは、身の程知らずだな戎少尉」

 個人的には理想の回答を返して来た戎少尉……エビスで良いんだよな君の苗字?
 相手が自分より上と思うならばその実力よりも大勢で叩きのめせば良いだけ話だ、一騎当千の相手ならば万の兵をぶつければそれで済む。
 それに三人組と呼ばれるだけあって三位一体の連携は確かに自分達の実力を信じれる要因になっているのかも知れない。
 ならばもっと連携の取り易い機体を造ればその長所はもっと伸びていく、将来的には三人ならばメルツェル程度の実力は欲しいな。


「巴! 戎! 行くぞッ!」

「「了解ッ!」」

「―――アンジェ流剣術皆伝・師範代・古島=純一郎…推して参る」


 縦一陣のトレイルフォーメーションで突撃してくる白の初風三機に対したった一機で対峙するこちらは桜の文様を持つ蒼い初風。
 相手が武御雷でないのは一言で言えばXN3に対応した武御雷のデータが存在しない故であり、現在対応しているのは初風のみと言う現実から。
 慣れない機体で戦場に出撃しなければならない、整備不良の機体で出撃するなんて事はより濃厚な現実を叩き込み教え込める。

 先陣を駆ける神代機を支援する形で巴・戎の二機が続き、慣れていない機体ながら動きだけならば斯衛と言うだけはある。

 だがこちらは勝利すれば、最後に立ってさえいればそれで良い精神と教訓の剣術だ……二丁の36mmとカラサワの総攻撃で陣形を乱れた瞬間にOB。

「終止ッ!」

 あの演習で行った隙を作りもっとも回避の遅い、あるいは先陣を担う機体に全力加速による高速の一撃を直撃させる奇襲戦術。
 ただでさえ慣れていない機体とOSで避けれるほど甘くはない一撃で神代機を袈裟に斬り捨て機体は大破・炎上の即死の戦死。

 そしてこの訓練の恐ろしさの一面を垣間見る事になる。


「痛い痛い痛いイタイイタイ―――」

「神代!?」

「神代さん!?」


 実戦によってコンピューターが導き出した衛士の負傷を強化装備の伸縮機能が、激痛と言う形で再現するシステムの導入。
 ましてや”戦死”したのであればその痛みは最悪にして最大のレベルであり成長途上の身体にはよろしくないだろうが、この苦しむ姿が良いんだ。
 あまり人の殺せないこの世界で激痛に喘ぐ連中の顔と言うのはやはり見ていて優越感に浸れるモノがあるのだろうな。

 唐突に激痛で痛みを訴える神代少尉の声に気を取られ機体の操作が疎かになる残り二人。

「実戦ならば痛いなんて声など出せずに死んでいるぞ!」

 巴機の管制ユニットに既に突きつけてある36mmの銃口。
 高機動戦闘に重視した初風ならば容易い事であり、巴少尉の言葉を聞く事無く零距離での36mm一弾倉、全弾連射。
 画面に幾度も火花が散り咲き、映る巴機の管制ユニットに無数の風穴を開かせ中の衛士は実践ならばめでたく人間の原形を止めてなどいない。

「やぁぁぁぁぁぁッ!」

 フォーメーションを取っている以上は三機の距離は密接かつ支援のし易い距離を保ち続けていた。
 だからこそ間近で見せられた空想と言えど仲間の戦死する姿と通信に割り込んでくる激痛に苦しむ声に手足が震えているのかも知れない。
 36mmが躊躇い・怯える事無く撃たれていれば回避出来なかったのにも関わらずその一瞬を遅らせる原因によってタイミングがズレテイル。
 素早く残ったエネルギーを使い切って機体を射線軸から退避し掠る事すらなかった砲撃を避け、そのまま長刀を一閃。

 戎機の管制ユニットを左から右へ切り裂く形で衛士を押し潰し、長刀の刃先にはリアルに描かれた鮮血がこびり付いていた。

 抉られた管制ユニットには潰された際に飛び散ったであろう血がベッタリと付いており、そこにいた人間であった物の死を明確に示唆していた。

 ―――訓練の為にどこまでもリアル(現実)を追求した訓練システム

 それにも関わらず敗北などに伴う痛みや死んだ者達の末路ような映像はお目にかかる事が出来ずして何がリアルと言える。
 誰だって痛いのは嫌だろう、だからこの痛みを知って逃げるか戦うかは別としても本物の死と言う奴は痛みなんぞ無いとも言えればあるとも言える。
 少なくともBETAならば捕食・融解・圧殺の三拍子が整っているのだから特に捕食と言うのは食べられる所によっては痛みで死ねるだろう。


「開始して数分持たずして武芸揃いの斯衛だと? 笑わせるッ! 新任だろうと仮にも祖国の誇りたる斯衛の名に相応しい実力を見せてみろ……」


 即座にコンピューターが再起動と再設定を行い、戦場や機体の装備を強制的に変更し再度状況開始。
 全身を襲う痛みでまともに身体が動かせないであろう三人の機体はほぼ棒立ち状態であり、ただの的同然に等しい状態。
 始めてやった時は伊隅大尉や神宮司軍曹でも痛みでまともに機体が操作出来ていなかった…むしろ気合と根性で動いていたに等しかった。
 実戦でも負傷や何らかの事故で強化装備でも防げない痛みが襲い来る、それに慣れ対応する為にもこの痛みには慣れて貰うほか無い。


「さぁこれから数時間みっちりと不平等な地獄の始まりだ……国連横浜基地の訓練と言う奴をお見せしよう」


 数時間の間に幾度となく落とし、落とされを繰り返し実戦形式で訓練を続けてく。
 その度に激痛に喘ぎ苦しみ苦悶の表情を隠す事無く見せ、ただ勝つ為の訓練をひたすらに行い続けた。
 全ては人類の未来の為と言う崇高なる理念の下だからこそ、こんな所業が赦されてしまう。
 祖国の為に鬼となる中佐を演じつつ心の奥に秘めた狂気に浸りながら銀翁や真改と戦い続ける。

 ―――昼食抜き・休憩なしの容赦ない耐久勝負

 訓練初日からやり過ぎたと後悔するのは三人組が倒れてしまってからだった。


 視点:銀翁


「とりあえず斯衛の理想と現実の違いに苛立ち強行した事を謝罪させて欲しい…申し訳ない」


 数時間もの訓練漬けに若い三人が倒れてしまい、衛生兵を呼んで初めて訓練が打ち切られたるとは…
 私や真改は強化人間に準じた身体能力と……あの世界での戦争の記憶があるからこそ耐え切れたが周りはそうとはいかないようだ。

 慣れない機体・慣れないOS、追い討ちとばかり極限状態の強要に強化装備による激痛による【死】の再現。

 即席で鍛え上げるには確かに強引と言えど間違っていないだろうが、彼のは少々荒療治すぎる。
 あの世界ではメルツェルすら敵わないと言わせた策謀で出来る限り少ない血で改革と開拓の道筋を切り開いた者とは思えない手荒さ。


「国連に属すると言えど日本人としての血潮の誇りくらいは持ち合わせいる……帝国の英雄であり殿下を護る最精鋭部隊【斯衛】
 大陸防衛戦などで理解はしているつもりだったがやはり現実をまだ直視出来ない、こんな腕で殿下と国を護れるなど信じたくない
 そんな身勝手な理想や抱いていた幻想を否定するのが恐ろしくてこんな事をするなど……私は出兵者としては失格の烙印が相応しいだろう」


 ……緑の狸の悪知恵は落ちずか。


「私は確かに国連で戦う道を選んだ人間だ、しかし帝国をッ! 祖国を想う心は誰にも負ける事はないと自負しているッ!
 祖国を護る為に戦友を…部隊を失い一人のうのうと生き延びてなお無様に生きるはこの国を護り救いたいと想っての事ッ!
 立場・身分は違えど私は国連衛士として帝国を護り祖国を愛する心を持つ、この志を曲げる事無く私はこの国の為に戦うッ!」


 さて【国】と言う組織を滅ぼした企業の犬であった我々やその端くれの傭兵であった君にそれが言えた義理とは思えんが。
 確かに榊首相と言う男は企業ならば頂点に立つだけの賢しさと狡さを持っている男だ…私は首相の方が馬にあいそうなのだがな。
 それに私は【国】も【企業】も信頼するような男ではない、殿下にはお会いしたがあればただの若い女にすぎない。

 しかし恐ろしいのはただそこに居るだけで惹きつけるような美しさと上に立つべくして生まれてきたようなカリスマの匂いだ。

 あれはテルミドールに通じるものがある…あれは成長すれば比類なき為政者として名を残せるかも知れんが知恵者がこの国にはいない。
 【極東の魔女】・【自動人形】そして目の前に【先駆者】としてでなく災厄と汚染の元凶の血筋たる呪われた血脈の【緑の狸】。
 彼を初めて苛立ちながら呼んだメルツェルにはオルカのリンクス全員で爆笑させて貰ったのも良い記憶だ、もっともすぐに仲良くなったのも本人だが。


「数日間は各自で体調管理と自己鍛錬に勤しんで欲しい、ここで今一度まったく新しい力に直面した自分を見て欲しい
 しばらく私は初風を母体にした新型戦術機の基礎設計の仕事もしなければならない…今の戦術機はただの鉄塊だ
 初風を数時間も乗りこなし帝国のエースや銀翁准将閣下のような精鋭と戦い生き抜いた事実を持つならば理解出来るだろう
 この新型OSをより実装しそれによる部隊が完成すれば人類の反撃の糸口を掴める、あの悲劇を繰り返さぬ為にも
 私は天魔外道の悪鬼羅刹と謗られようと茨の道を歩み祖国へと―――友が命を賭して守り抜いた祖国を守り全てを取り戻す」


 よくもこれだけの口先ばかりの覚悟をあたかも真剣にして己の無力さを訴えているように言えたものだ。
 目薬を使わず涙を流し握り締めた拳からは血がポツポツと滴り落ち、あたかも祖国を憂いBETAを憎しむ男を演じている。
 あの世界の記憶がなければ祖国を救う為に国連に身を置き同胞から非国民の謗りを受けながらも戦い続ける悲劇の英雄と見えるだろう。
 しかし天魔外道や悪鬼羅刹の件が必要とは思えんが狸なりの考えか……訓練に参加していた面々は黙ってこの言葉に耳を傾け続け。


「―――その為に私に力を貸して欲しい」


 額を頭につけての土下座。


 中佐と言う階級も【極東の魔女】の腹心としての立場を殴り捨てたその姿勢が止めだろう。
 帝国から最悪の印象しか持たれていない【極東の魔女:香月=夕呼】の腹心でありその中佐と言う事で本人を知らない者にとって彼の印象もまた最悪だ。
 新型の開発から今まで無名であった事が不自然な程の実力を持ち帝国准将と深い交流を持つ衛士が魔女の腹心であり使い魔の猫の如く従順に従っている。
 多くの帝国衛士はそれこそ色気に走ったとも魔女に心酔している非国民とも……ともかく散々な言われようであったがそれを逆手に取った言葉の数々。

 良くも言える言い訳と現状と自らの境遇を謳い帝国の祖国と殿下の為ならば非道に堕ちる事を厭わず戦う姿勢を罵倒出切るな者達はいない。

 日本の童話にある狸の泣き落としそのものだ―――綺麗事に動く人間を動かすのはやはり綺麗事と言うことか。


「各自身体を休め自己鍛錬に励め、この者には私と真改から良く言っておく」


 土下座しているコジマの襟首を持ち引きずりながらその場を後にする。
 すぐに誰もいない個室へと連れ込み…… 

「流石はメルツェルが認める智謀と言うべきか?」

「綺麗事には綺麗事・あとはこちらの悲劇や祖国を想う心を謳えば勝手にあちらは信頼する
 汚い事には見向きもしない、しても自分には理由があると言い訳できる連中ならすぐにオチるさ
 わざわざ自分から飛び込む馬鹿に憧れる…観客を主人公に惹きつけさせるのは主人公の不幸だよ」

「外道」

「お褒めの言葉をどうも」

 監視のない監視カメラと声が記録されない程度の静かな声での対話。
 小さな円卓に座りながら世界と星の明日を憂い対話していたあの頃のような話し合い。
 役者がまったく足りていないのが残念だ。

「さて准将閣下のご推薦あれどまだあの武御雷を国連技師の私が色々とするにはまだ恩義も功績も足りない
 地盤を固める為に巌谷中佐に少し肩入れを頼めないか? なに小型電磁投射砲に投資すると考えれば良いだけだろう?」

 電磁投射砲(レールガン)

 火薬ではなく電磁によって弾丸を撃ちだす速射砲・あるいは圧倒的な弾速と破壊力を売りとする単発砲もある。
 戦術機の火力不足を補う為に戦術機クラスのモノでも積載を可能とさせつつ破壊力などを下げない物を開発しているが巧くいかない。
 責任者として巌谷中佐などがいるがやはり巧くはいかない…技術士としても能力の高いコジマと魔女の力が必要なのは明白。


「数年もすれば劣化ノーマル部隊が直属になると考えれば安いだろう?」


 卑屈な笑みを浮かべながらそう提案するコジマの顔は……英雄ではなく魔王のようだ。
 だがその提案の旨みにあえて乗るとしよう、失策すればその時は消えて貰うだけだが。

 ―――そこは元リンクス(傭兵)だ

 ―――覚悟の一つや二つはあるだろう?

 ―――仮にも准将を手駒しようとするのだからな


「そういえば企業の一つで――――――」


 ならばやはり彼等を引き入れる為に少しは労して貰うとしよう。

□□□

 作者のボーダーブレイク
 ランク:B2
 名前:蛇のクローンの一人
 仕事:支援一筋
 内容:索敵して修理してボンバーマンしての繰り返し、重装甲とショットガンのゴリ押しと自爆上等のリモコンボム

 トップランカーを含めたAランクと戦う機会にお目にかかって言える事は皆して強襲の三種の神器装備ってなにこれふざけてるの?
 真上にもヒット判定のある現行最強の長刀ディアダウナー・サブマシと呼ぶのが失礼なスコーピオ・サーペント・爆風&威力の強化手榴弾 
 ダッシュ斬り一つで重装甲の撃震(笑)が大破するのはシュールにして飛んでくる有沢ロケットより強力な手榴弾の雨もシュール
 シュライクの慣性飛びでスタート位置から30秒でコアまで突撃してこれるので後方に必ず一機は護衛がいなければならないなんて苛めですか?
 
 なんて愚痴を零していますが敵対した際にはどうかご容赦の程をお願いします
 先日、霞スミカと鑑純夏を発見するも戦う事は出来ず……友人が凄く苦戦していたのが記憶に残ってます
 そして昨日Aランカーでテルミドールがお味方でいた、無茶苦茶強かった、流石はオルカランク1位だけありました


 そして少しずつ古島に仮面を付けさせるのが面倒になってきた今日
 遠くない内に素の古島が色々と暴れ回るのは確定事項…緑狸と赤眼の黒い狐の策謀にご期待を
 なにより今回空気にしてしまった帝国の皆様の出番を追加せねば、本気で殺されかねない
 きっとその内に鎧衣課長が現れて帝国の(出番の)敵と言う事で殺しに来るやも知れません


 コジマ酒:アクアビット社が作り出しているコジマ粒子の平和利用作品の一つ・劇薬にしてや麻薬と同類であり一部から熱狂的な支持者あり
 売り文句:一口飲めばあなたも今日からアクアビットマンの仲間入りッ! さぁコジマ酒を一口含んで変身しようッ!!
       そしてダンボール超人”GAマン”を倒す為にアクアビットマンは良い子も悪い子の仲間を募集中だッ!
      体調不良を訴えられても本社は責任を負いません、購入者ご自身に全責任があるのでご了承の程を
      コジマ酒は変身する覚悟なんかが出来れば0歳からでも飲酒可能、ただし保護者様の責任なので(以下略




[9853] 二十話[山猫でもあり狸の首輪と動き出す者達]
Name: 博打◆ae18cf9e ID:047f63f1
Date: 2009/10/17 01:27

 視点:沙霧大尉

 私は手元の資料を……【古島中佐の副官着任】に関する資料を読んでいる。
 中佐は銀翁准将・真改補佐官と深い交流を持ちながら汚名と侮蔑を覚悟し国連へと赴き、祖国の為に日夜戦い続けている人物。
 その実力はかの巌谷中佐を、演習では戦術機一個大隊すら退け、新型戦術機などの開発も手掛ける事が出来る頭脳を持つ衛士。
 誇りなどに固執する事無く、魔女の腹心である事を自ら選びながらも必要であれば頭を下げてでも行うその決意と行動力。

「あのような話がなければ……この資料もこのような気分で読まなくて済んだのだろうな」


 ―――数時間前―――


『沙霧大尉・篁中尉……君達には特務について貰う事となった』


 突然巌谷中佐に呼び出され、かの白い牙中隊の隊長である篁中尉と巌谷中佐の執務室を訪れる事になった。
 そして真剣な眼差しと手渡された資料を見ながら、特殊任務に就けとの事例が下される事となる。
 無論だが納得出来るようなモノではない……古島中佐の人柄を知るとは言えどあの人は何処か”オカシイ”臭いを持つ。


『私も最初に聞いた時は驚いたが……飼い主である魔女ですら彼の存在を危惧している』


 巌谷中佐の手元には古島中佐について可能な限り調べられたであろう資料が散漫している。
 しかし三十歳の人間の資料にしては少ない? いや見える限りでも資料の種類が多くないのか?

『体術・剣術においてはかの真改補佐官と互角・戦術機の操作能力は私を超え・その頭脳は今までに無い発想と現実を平然と生み出す
 戦術機の改良と平行しての旧式機の性能と衛士の実力をより反映させる新型OSの開発に加え、彼は統率システムすら作り出していると言う
 先の演習での敵戦術機のあまりにも良すぎる対処はこれによる援護によって行われ、システムによる衛士の救済すら考え出しているそうだ』

 あの演習での国連衛士達のあの動きの一因がやっと理解出来た。
 いかに訓練を積もうと実戦でなければ…対人をなさねば出来ぬ事もあると言うのに新人があれ程の動きを行っている。
 窮地において機械による衛士の救済、より衛士を生還させる事を考えたモノをどれ程の科学者達が日夜考えているだろうか?


『そこで帝国・国連合同による古島=純一郎と言う”危険分子”を監視する事が…私と魔女の間で決定した』


 巌谷中佐とあの魔女が密かに通じていた!?

『おじっ! ……巌谷中佐ッ! それはどういう』

『篁中尉ッ!!』

 本来ならば私が言おうとしていた言葉を彼女に言われてしまった。
 だがどちらにしろそのような事を言えばどんな厳罰が待っているか解らない……しかしそれでも魔女と通ずるなど。
 激昂し一歩踏み出していた篁中尉を直立不動の状態から叱責し、なんとか落ち着かせ彼女も再びあるべき姿勢へと戻る。
 対する巌谷中佐は何も言わず、先程の上官に対してあってはならない事に対しても何も言わず右手で額を押さえた。

『気持ちは解るがもはや我々に立場を気にしながらどうこうする余裕など何処にもないのだ
 古島中佐の見せた新しき希望を帝国内部に広め、佐渡島を奪還し西日本を取り戻しあるべき帝国の姿を取り戻す
 そうしなければ米国への食料・物資輸入による貸しはより肥大化し、米国の増長と発言力の強化を押し止めれなくなる』

 故に旧帝国派であり、彩峰派の中心人物である私にそのような任務を任せると言う事か。
 平然とG弾を投下し人畜無害などと主張する米国……他国を防衛線に自国は今だ無傷で他国に侵されていないが故の輸出で発言力を持つ国。
 確かに米国を始めとした無傷の国から贈られる天然物・物資がなければ帝国は数年とせずに確実に全てを失う。
 しかしこのまま帝国があるべき姿を取り戻せねば米国に頼らざるえなくなり米国は輸出の件を恩がましく言いながら祖国を蝕む。

 ―――その状況を打開するには帝国の自力による佐渡島の奪還とあるべき姿への復興

『魔女ですら手に余らせるような存在が万が一にでもこの帝国に牙を向く存在なったその時は……』

『私達の手で古島中佐を殺害する…と言う事ですか』

『そうだ、殺害せど魔女と我々の力で全て消せば良い……だが素直に消えて貰っても困る故に引き出せるだけ引き出すのだ』

 ”消す”事は国連派では任せる者に躊躇いの一念が生まれ、殺すべき時に殺せず仕損じる可能性が存在する。
 だが帝国派ならばそんな躊躇いなどなく殺す事が出来る、無用な心配や躊躇い等なくこの手で殺す事が出来るだろう。


『いつでも消す為に貴官達にはこれより副官として古島中佐の傍で働き、信頼を勝ち取り警戒心を削ぎ落とせ…いずれ消す為に』


 殺す為に信頼を勝ち取る。
 その為の副官であり人類を憂い、帝国を憂い、殿下の為に戦う同志としてその傍に仕えながら監視をする。
 そして少しでも仇なす存在と判明すれば培った信頼を武器にその命を奪い、知識の全てを奪い取る任務。

『故に明日にでも二人には副官として就いて貰うが―――特例としてこれの所持を赦す』

 私達の前に立ちながら両手に持つ黒光りする二つの拳銃を差し出す。
 懐にしまえ即座に取り出せる仕舞いの帯も追加された二丁の拳銃を私と篁中尉は受け取り、すぐさま軍服の下に着込み装備。
 更にその拳銃とは別の二つの小太刀もまた差し出される…本来小太刀などの銃剣の装備は歩兵などの憲兵に定まっているがそれを装備するか。

 どうやら念には念を入れての任務―――あの魔女すら手に余すとは

『篁=唯依中尉』

『沙霧=尚哉大尉』

 小太刀をしまう部分もあの帯に含まれており、双方共にいざとなれば即座に懐から抜き間髪入れる事無く相手を殺せる。
 非常に小さく軍服越しでは解らないこの装備は私が帝国の為にこれから為す始まりの一つ……


『貴官等に帝国の未来を託す』


『『全ては帝国の為に』』


 ―――時は戻り―――


「あの時の中佐の言葉も涙も血も…全てが偽りだったと言うのか?」


 あの演習で交わした言葉は今でも響いている…だがそれでも逆臣榊を赦す事は―――出来ないのか?

 【道は違えど戦っている事には違わない】

 戦いの最中に榊を認めれない私に対して言ったあの言葉達が今だ頭の中を反響し続ける。
 もし本当に私の独り善がりのような事だから慧は私の手紙に答えくれないのだろうか? 私が間違っているのか?
 中将は素晴らしい人だ……誰からも慕われ驕る事無く下々の者達をその眼で見つめ自分の家族同然に接してくれる温かい御仁だ。


「国も人も見る事の出来ない―――盲目な武人か…だが……だがッ! この国の現状を見ていない訳では無いッ!」


 多くの同志がこの国を憂い【計画】に賛同し始めている。
 だが……この正義の為に誰が犠牲になるのだ、本当に我々だけでこの国を―――帝国を背負う事が出来るのだろうか。

 今日を過ごすのもやっとな難民・他国で不自由な想いをしながら生活をしている難民達の全てを背負う?

 政治に長けているとは言えない私が殿下のお傍で多くの民の命を背負うのか……【計画】を殿下が御赦しになるか、いやおなりはしないだろう。
 中将のように多くの者達を惹きつけれる訳でもなければたった一人の同志の説得すら困難とする私に紅蓮大将や中将の代わりなど……
 それに私は背負う事が出来るのか【計画】の為に斬り捨てねばならぬ者達とその家族の憎しみを背負えるのか、こんな小さな手の平しかない私のような者に。


「古島中佐ほどの人物ですら大局を制す力はない、虚を突かれた? 元より相手を調べず過小評価した私がいなければあのような失態はありえなかった
 私は相手を貶し見下す事しか出来なかったと言うのに古島中佐は全てを失いなお止まる事無く今を生きている…より多くの【仲間】を生かす為に
 あえて汚名や謗りを甘んじて受けながらも、同胞より非国民と謗られながらも止まる事無くこの国の為に出来る事を出来る様になしていると言うのに」


 相手を見下さずしっかりと調べあげ対策を練ればあのような失態はなかった、少なくともあれ程の惨めな結果にはならなかっただろう。
 戦友・家族・教官などを失いながらも私達のように亡き人を見るのではなく、ただ前を向いて為すことを為せるようにしている古島中佐の姿は綺麗ではない。
 鬼のように事を行い、本来ならば准将閣下の縁を頼れる状況であってなお国連に属し生きる事を決意し魔女の下でただ自分に出来る戦いを今もなお行っている。
 中将を喪い、祖国を侵され三年と言う月日が経ちながら私は祖国になにをしてこれた……慧に私は中将の輝かしい日々しか書き連ねていない手紙を一方的に送っていただけではないか?
 戦友達と共に相手の事も考えずただ慰めの言葉をならべ慧の事を傷つけているだけではないか? 自分達の事ばかりで慧の事を少しでも考えていたか?


「あの涙が…あの滴る血が嘘など信じれん―――信じたくはないッ! 私とて、私達とて祖国を憂い想っているからこその……」


 解らない―――私達の【計画】は古島中佐の言葉通りただの子供の駄々同然の行為なのか、この国に仇なしてしまう行為なのか。
 本当に榊のような売国奴の行為こそがこの帝国を救うのか? 私達の【計画】は間違っているのか、帝国を救う事は出来ないのか。
 
 解らない。

 古島中佐の言葉がどれほど別の事を考えてようと、この事になると呪いの如く繰り返し頭の中に響く。

 あれほどまでに決意と自信に満ちていた筈の……同志を造る為の言葉がいとも簡単に撃ち砕かれる。

 曇りなく見えていた筈のモノに深く拭い去れない曇りと霞が掛かりまったく見えなくなってしまう。


「中将…私達の…私の義とは本当に帝国と貴方の為にあるのでしょうか」


 どれほど問い掛けようと返って来る筈のない言葉が虚しく私室に消える。
 このような体たらくを同志に見せる訳にはいかん…だがこの重さは私でなければおそらく……

 目の前の机においた黒光りする銃身と微かに鞘から向いた銀色の刀身の光が、今の私にはあまりにも直視するには強すぎる。


 視点:篁中尉

「巌谷中佐から話は聞いている、帝国在住の間は沙霧大尉をハスラー1・篁中尉をハスラー2とし私の副官として行動を共にして貰う
 沙霧大尉は衛士方面・篁中尉は技術方面で私の副官として行動してもらい、護身術はあれど武器のない私の身辺警護もかねて貰うそうだ
 純帝国派の斯衛の中隊長格と爆発しかねない彩峰派を統括している大尉の二人を要望通り副官とは……銀翁の後ろ盾の賜物か」

 群馬基地の格納庫。
 帝国在住の間は古島臨時中佐であり新型戦術機初風の前で正式に沙霧大尉と共に副官として任官する。
 私達の副官任官が向こうの要望、更に銀翁准将閣下に交渉してとは……この人の人脈はいったいどれ程まで帝国に侵入している?
 更に相手は叔父様の話通りならば魔女ですら持て余す程の”ナニカ”を持っており、わざわざ副官と言う形で監視者を作らねばならない程の。

「早朝からすまないが……」

 古島中佐の初風は無数の技術者達によって装甲解除・内部機器の解明・心臓部である水素機関にそれのコンデンサーに発電機が剥き出しにされている。
 遠目で見ても今まで知らない・見た事のないような間接機構・兵装担架の独自的配置基盤……あれをたった一人の人間が作り出したなんて眉唾の良い所。
 でもそれを作り出した本人が目の前にいて、実力は叔父様と……機体性能の恩恵があって同格で魔女の腹心に相応しい知恵を持つ魔女の黒猫。
 初風の解体作業と成功しながら私の武御雷と沙霧大尉の不知火にあの新型OSの積み込みが行われていて、作業に従事してくれている一人が油塗れで現れる。

「国連の中佐、頼まれてた仕事は出来ましたぜ?」

 その眼は国連の機体の物を積み込む事が気に食わず、更に国連から来た衛士が斯衛の私や帝国に忠義厚き沙霧大尉が副官として着く事も気に食わないと言っている。
 更にたとえ国連であろうと出向してくれば臨時中佐として帝国にいる人間をあえて”国連”と名指しで呼ぶとは、だがそれは私達も同じと言う事か。
 油塗れの手で手渡される資料はもちろんその手の油がついて資料が変色し、資料として読み辛いものになってしまっているが古島中佐は躊躇いなくそれを受け取った。

「流石は帝国…横浜基地のオヤッサンに比べれば鈍亀だが最低限の仕事はこなせるらしいな―――腕が違えば同じ油でも違うか」

 国連のオヤッサンと親しまれている人物がどれ程の力量を持つかは判らないが、その言葉は完全に蔑みを含んでいる。
 油塗れの資料を真剣な眼差しで次々と読み、一枚ずつめくり上げ整備兵の眼差しどころか私達の姿すら眼中なくただ手元の資料を確認していく。
 だがそのただ立っているだけの姿勢は洗礼にして隙がなく、少しでも危害を加えようと加えようと踏み込めば即座に反撃の一撃を放たれるような錯覚すら覚える。
 かの真改補佐官と同門にして師範代を名乗るだけありあの演習で見せたあの剣筋もまた本物と言う事になれば……殺せるのは深い睡眠や毒物を用いるくらいしか。


「…たか……たかむ―――篁中尉ッ!」


「あっ、はっはいッ!」


 …しまった。
 中佐は私に対して何も言わないが失望したと言いたいような視線を少しだけ向けてくるが、すぐにその視線は消える。
 なにをしているのッ! 私は中佐の信頼を勝ち取らねばならないと言うのに初手で躓いては後に響くと言うのに……


「……もう一度言う、沙霧は不知火・篁は武御雷に新型OSを搭載した―――本日はこれの試運転およびこちらが指示するデータを集めて貰う
 こちらが指定した課題を迅速かつ的確に完了させた後はそのデータをシミュレーターに積み込み、シミュレーターによる軽い訓練を行う予定だが
 これは二人がどれ程まで【国連の人間】の為に働け、同時にどれだけその指示に動けるかも見せて貰うがチンタラするほどシミュレーターはお預けだ」


 言葉を飾らず直接これ程の事を言うなんて。
 周囲の眼なんて関係ない、自分は自分の目的の為に動いていると体言しているようなもの…この発言でどれだけの人間を敵に廻すか…解っているのですか?


「気に入らなければチンタラすれば良いが、その遅れが多くの同胞の死に直結すると理解出来て背負えるならそうしても一向に構わない
 もっともそんな事をすれば巌谷中佐の顔だけでなく帝国の顔を潰す事になる……そうなれば帝国の逆臣として粛清されるだろうな
 せめて私を失望させない程度に努力してくれ、最初に言ったが迅速かつ的確かつ徹底的にな? 国連の部下は今日の仕事を一日で終わらせたと言っておく」


 いや【身辺警護】と言う私達の任務と後ろ盾を最大限に活用しているだけ……それに下手な腕では返り討ちが関の山。
 取り巻く状況を理解しながらその状況を最大限に活用し、自分がその中で出来る行動を取っているだけとしても性質が悪い。
 もし自分に刃が迫れば私達は護らねばならない、もし護らねば帝国の一員が国連の中佐を負傷させたとして魔女に有利に一因を産む。

「……了解」

「了解しました」

「管制も行いたいがあいにくこの初風の説明会があるので、私は一足先に失礼する」

 油塗れの資料を片手に中佐はそのまま格納庫を後にし、私と沙霧大尉は言い表せない雰囲気に取り残されてしまう。
 最初に口を開いたのは沙霧大尉だがその視線は中身の変わったであろう愛機たる黒い不知火に向けられたまま動かない。
 その右隣には咲き誇る桜が肩に描かれた…不知火と似ているが性能に関しては第三世代と同類と扱う事すら失礼になる新型戦術機【初風】。
 
「もしこれが帝国全軍に支給される事になれば…」

 だがその左隣には私の武御雷がある…純日系戦術機にして本当の第三世代であり、帝国の誇りを体現したこの愛機は生まれて間もない。
 帝国の思想の為に純粋な接近戦に特化し自律誘導弾の装備などを考慮せず撃震の装甲・陽炎の機動性・不知火の反応性を組み合わせた接近戦特化機。
 対する初風は中佐の開発した新型OSと水素機関の積載を前提とした不知火の改良機でありながら総合した性能では武御雷を遥か…とはまでではないが超えている。

「しかしこの機体は国連の機体であり、古島中佐の設計思想から砲撃戦を意識した造りとなっています」

「だが光の刃を携え全てを斬り捨てる事も出来る……せめて一部だけでも支給されれば戦局は大きく変わるだろう」

 広き視野が必要なのかも知れない。
 でもこれ程の物を造り上げ、衛士としての実力も最高位にいるような人が何故国連なのだ!
 どうして帝国はこれ程の人材をむざむざ十数年間も国連から引き抜こうとしなかったのだ…そうすれば……
 そうすれば今の様な事態にはならず叔父様も魔女に頭を下げる事無く帝国の自力だけで佐渡島を取り返せるかも知れないのに。


「今はせめて新型OSにどれだけ旧式が付いて来れるかの訓練を急ごう、明日にでもシミュレーターに積載したい」


 沙霧大尉はそのまま顔を見せる事無く自分の不知火の下へと歩いて行く。
 純帝国派の中でも殿下と亡き彩峰中への忠義厚き者達を纏め上げてある衛士として有名な沙霧大尉にとって中佐の下で働くとはどんな意味を持つのだろう?

 国連の者に手足の如く使われるのは癪だが、帝国の為に苛立ちなどを隠しているのか。

 それとも中佐の言葉を信じ、たとえ任務抜きであろうとその言葉の為に尽くすのか。


「―――はい」


 親兄弟もなくただ一人、たった一人の肉親の如く親しかったと言う彩峰中将の死に対して沙霧大尉はどんな想いを抱いてるのだろう。
 遺族とどんな風に接したった一人で生きると言う事はどれだけ辛いのか…私には叔父様がいてくれてそれが最高の居場所だから生きてこれた。
 かたや光州作戦で数少ない生き残り・かたや大陸防衛戦で全てを喪いながら戦う道を選び続けている衛士にして武人。

 そんな似ているようにも見える姿に対して沙霧大尉は、どのような想いを抱いてるのだろう。

 今の私のように国連にいる事をただ怒る事なのか、それとももっと別の歴戦の勇士にしか解らないのような別の感情を持っているのか。
 たとえ斯衛からの誘いを蹴っても亡き彩峰中将の為に戦い続ける忠臣たる沙霧大尉に私は……もっと聞かねばならない。

「整備は?」

「機体に搭載は問題なしですが、あの国連の中佐様が何か仕込んでなければ問題なしです」

「解った……私の機体は地上に出る運送頼む」

 あのような言葉とそれを示すあの姿をするような人が、そのような事をするとは考え辛い。
 だが叔父様や魔女は首輪を付けれない存在してならない……最悪の場合は殺害しろと命令を下した。

 制服越しに触る銃と小太刀の感覚が―――異様な罪悪感を伴い重たく感じる。

 でもこれは自分が選んだ道であり叔父様が与えてくれた任務。
 いつかきっとこの重さもなくなる、気になくならなくなると信じながら私は地上を目指す。


 視点:巌谷中佐

 群馬基地の技術主任や第壱開発廠の部長などの重役を集めての新型戦術機【初風】およびこれに関する新技術の説明会。
 銀翁准将閣下がこちら側の後ろ盾として来てくださり、帝国内部での我々国連派の発言力・権力の増大は非常に喜ばしい限りだ。

「ではこれより新型戦術機および新技術の説明を始めさせて頂きます…まずお手元の資料の第一項を……」


 第一項【現行戦術機の改修・新型戦術機開発】

「この場に居られる方々ならば理解しているとは思いますが我が帝国の不知火は戦場に出すには一年早かった、いえ早すぎました
 元々正確に第二世代運用もままらずデータ不足に加えてあまりにも突き詰めすぎた設計によって後期発展性に欠けた2.5世代の遺児
 整備・稼動に優れ、対レーザー装甲に加え稼働時間の低下に目を瞑れば最高速度は700km/hを叩き出す機動力と反応性
 しかし先程も申しましたが突き詰めた要求設計故に【完成】された機体であるが故に発展性に欠け後に繋ぐ事が出来ないのは欠点と言えます
 そこで私は現行戦術機の最低限の改修ないし大幅改修……そして初風のような最新機関を搭載した新型戦術機を旧世代から製造する計画を発案します」

「具体案として最低限の改修に【新型OS】の搭載とあるが……本当にこのようなもの一つでどうこう出来るモノなのか?」

「データ上では四割近く戦術機の柔軟性を高め【先行入力・コンボ・キャンセル】とフィードバックの強化によって更なる動きを可能とされます
 これを武御雷に搭載出来ればより柔軟な接近戦が可能となり、長所をより高めれるだけではなく国連の新人が駆る不知火ですら歴戦の旧式を超える
 先の演習における旧式部隊の壊滅と言うのが何よりの証拠であり……この映像における新型OSだからこそ出来る機動をお見せしましょう」

 映像が展開される、内容は無論先日の演習の全てとその後に現れたBETAとの戦いで見せた古島中佐の部隊の動き。

 特筆すべきはやはり……

「空中で光線を回避するだとッ!?」

 光線を回避しながら滞空しそのまま持てる限りの火力を投入しての対地爆撃、空中からは友軍が射線に重なる事無く砲撃が可能であり光線級さえ潰せば制空権はこちらにある。
 中佐の部下である伊隅ヴァルキリ―ズがその新型武装の数々で光線級を仕留め、光線剣と長刀の二種類の刃を使い分けながら次々と着陸地点を確保していく。
 80mm支援速射砲は中距離支援の為に新造された武装の一つであり威力・弾数・射程のバランスが良く映像の機体も次々と発射しながら時には突撃級すら一撃で仕留めている。
 120mm狙撃砲は名が示すとおりの遠距離からの光線級の撃破を目的として新造され、120mmの威力をそのまま重光線級に叩き込める後方にとって有難い武器だ。


「新型OSを搭載すれば上昇直後に回避行動の入力によって旧式特有の硬直なしで機体を動かせ、初期照射内ならば回避が可能であり滞空による空爆も可能です
 現在のBETAは対空戦力はあれど滞空戦力はなく、優先して光線級を叩く事が出来ればより衛士達の安全は確保でき、なおかつ支援砲撃の迎撃なしでの着弾も見込めます
 また撃破されなければ必然的に新造と修理の費用差が生まれ財政を圧迫する必要がなくなり、今まで以上に資金を保有した状態での新型開発などに望めるでしょう」


 「おぉッ!」 と声があがる。

 軍部はただでさえ苦しい生活を余儀なくされている国民から更に搾取しながら存在している…ある種の負い目がない訳ではない。
 更に搾取した資金も開発廠同士の予算の取り合いなどの醜い一面によって厳しい政戦をこなさなければ、新しい技術どころか今すら支えれない。
 衛士そのもの……いや兵士そのものの育成などは時間が必要であり、生き残る時間が延びればより熟練が生まれ新人達の生還や祖国奪還に繋がる。
 失わずして勝ち・損なわずして手に入れ・憂いなく戦力を増強出来ると言うのは軍部として歓迎すべきであり、否定する理由などないが……


「更に水素機関は名の通り水素さえあれば推力などを得られる代物であり、周辺の水素残量に気をつければ長時間の戦闘と噴射剤などの補給を必要としません
 ましてや帝国は島国であり海岸線防衛に最低限設置すれば水素に困る事はなく、また専用の補給装備を開発すれば噴射剤などの輸入で他国にとやかく言われません
 この水素機関を装備すれば憎き光線級の専売特許であった光線武装の運用が可能になり、更に実弾経費すら削減が可能となっていくでしょう
 資金面において軍部の袋小路を脱する為に私はここに水素機関などの搭載を前提とした旧式の最新型への改造計画案をここに提示させて頂いた次第です」


 資料のページの一つに掲示されている新型戦術機案


 【撃震・瑞鶴改修案:水素機関・新型OS・光線兵器搭載前提試作量産機:大鴉】


 これの説明に関しては何の問題も起きなかった。
 いや……両腕を組んだ状態の銀翁准将閣下が、誰かが妙な動きを行おうとすればスッと細めた眼で威圧してくる。
 無論資料とシミュレーターにデータだけを入力し、理想の完成体を仮想空間で試しただけの数値など信じれるようなものではない。
 だがこれの大本となっている【鎧心】の叩き出している平均的な数値は雛形が撃震とは思えない程の数値を叩きだし、ハイヴ攻略は単機で中層突破。

 更に初風とは比較にならない最大積載可能数値から【大型榴弾砲および高出力光線砲】の詳細な設計図すら書きとめられている。

 魔女の猫め、君はいったいどれ程の先見と技術力をその頭脳から叩き出す……それは本当に帝国の為の技術と知識なのか。

「更にもう一つは現在帝国が開発中という戦術機級でも積載および機動戦可能な電磁投射砲についてお話があります」

「貴様ッ! 我々が極秘に開発しているソレに対して何処でそのような情報をッ!?」

「……魔女の腹心と言う時点で既に情報は流れていると言う事か」


 電磁投射砲(レールガン)

 電磁圧を火薬代わりにし弾薬を撃ち出す武器であり、現在は産業用の大型の物しかなく戦術機では装備した所で動く事はできず発電力も不足気味。
 重量ゆえに戦術機では動く事すら困難であり戦術機の機動性を殺し、ただの砲台としてしまうだけならばまだしも電磁投射砲の戦闘運用には問題があるのだ。
 瞬間火力の代償として砲身などがその高速連射に付いて来る事が出来ず定期的かつ分解修理と言う一つ二つではない手間を要する武器はBETA相手では心許無い。
 銀翁准将が自らの機体に積載しデータを集めてくださるが小型化への道は見つからず、現状ではどれだけ修理間隔を短く出来るかしか見つかっていない。


「いや私が情報を公開しただけだ」


 その場が騒然とする。
 文句を言いたくとも相手は准将閣下だ……が技術廠の我々に何の相談もなく電磁投射砲の事を教えられては困るではすまされない。
 しかし確かに魔女と古島中佐の知識と頭脳であれば打開策は見出せるかも知れないが、このような勝手な行動をされては我々とて困るのだ。

「准将閣下」

「……解っている、降格などで電磁投射砲が完成するなら安いモノだろう」

「いえ私がお話しするのは電磁投射砲自体ではなく……第二項を読んでください」

 准将閣下の地位がなくなれば、我々の後ろ盾の急激な弱体化は避けられない事態。
 電磁投射砲の実験などに予算を割かねばならない状況での新型戦術機開発は決して容易ではない……最悪どちらか”だけ”にせねばならない。
 東西合一の共同開発計画などもようやく始まった状態に舞い込んだ准将閣下と言う後ろ盾をここで失ってはならないのだ。

 恐る恐る第二項に希望を抱きながら眼を通す。


「なっなんだこの馬鹿げた計画は!?」

「こんな計画をよくも考えれたものだなッ!」


 技術者達からも批判や嘲笑に似た声が次々と挙がる。
 私とて書かれている計画内容にどれ程の夢を見ているのか正気を疑う程だからだ。


 【AF(ARMS・FORT)計画】
 【超弩級双胴戦術機空母を建造―――これに簡易的な補給・修理機能および無数の機銃と高出力対光線防御機構を搭載し無数の凡人による安定した戦力の建造
  水素機関などによって陸上・水上を問わず運用を可能としつつ一定の機動力を持たせ、その航空甲板に大型電磁投射砲を装備させた戦術機部隊を配備し固定砲台化
  双胴空母は高速移動と光線防御に集中しつつ攻撃は甲板の電磁投射砲などの大火力を装備した戦術機部隊によって行われ、移動する補給地点と共に敵を殲滅する
  一人の英雄ではなく、大多数の凡人の協力と連携によって初めて機能し、一個人の戦力を遥かに凌ぐ圧倒的な固有戦力として君臨しいずれは帝国の象徴として存在する】


 最低でも全長400m・全高50m・甲板幅100m級の双胴空母を建造するなど資金も資材もどれだけ取られかなど想像も出来ない規模だ。
 しかし同時に電磁投射砲を突破ではなく殲滅に運用するのであれば足場そのものを補給地点と言うのは電磁投射砲の欠点を解消出来るのは確かだ。
 その巨体故の積載量と排水量を持ち合わせつつ大気中に存在する水素によって動力を得つつ同時に攻撃と防御手段も手にする事が出来る。
 従来の戦術機空母はあくまで運輸目的だけであり、光線級の照射を受ければ大破し攻撃手段も機銃しか持ち合わせていないなど支援すら出来ないただの運び屋。


「絵空事に見えるでしょうがこれが完成すれば数隻分の運搬力を持ちながら戦場での安全かつ高い生存力を確立し、更に艦載部隊による弩級攻撃力も実現
 幾多モノ実戦の全てを生還し戦場の希望として、動く要塞として君臨し続けた証にはこの巨大空母はその巨体と共に帝国の象徴に相応しいモノとなるでしょう
 まったく新たなる兵器……ジャイアント・キリングは奇跡の親類として―――奇跡の体現者としてこの世界に産声を挙げ帝国の不動なる姿の体現者となるのです」


 その言葉・立ち振る舞いは”結果が見えている”と言いたいばかりに不安も怯えもなく、さも当たり前の如く言い放っている。
 失笑も何もかも自然と静まり、この場の人間全てがこのページや資料にしっかりと眼を通していく。
 履帯(キャタピラ)による陸上と水上における絶対的な象徴として君臨しつつ、艦載部隊は固定砲台として過剰積載武装の火力で敵を沈黙。
 戦場でも赦されて中破までであり、大破などは乗員に厳罰を処してでも回避せねばならないが前線でも士気を高める為に打って出なければならない。

 人造的に生み出された巨人殺しの奇跡。

 本当にこれは一個人が作り出し、更にまるで結果を知るとばかりに強きに言える代物か?
 だが魅力的だ…帝国の象徴ある最強の水上戦力となれば佐渡島攻略すら夢ではない。
 ハイヴ内から可能な限り引きずり出し圧倒的な火力で殲滅しつつ、補給と修理を繰り返し前線部隊の長期戦闘を可能とさせる。


(【降り注ぐ雷】……【降雷】の垂直発射運用(VLS)すら決定済みとは―――どこまで帝国に食い込むつもりだ狸と猫の化物が)


 技術主任達を前に演説と様々な兵器の説明を行う古島中佐の姿を……私は何処か恐ろしく見続ける事となった。

 魔女が私に首輪を任せたのは、はたして正解だったか失敗だったかは……これからの私の動き一つと言う事か。

 そう全ては帝国の為に。

 今は彼の好きなように動いてやろう―――仇なすならばそれまでだ。

 遠くない内に鎧衣課長との連絡が必要だな、後は違う道での後ろ盾か。

 十一月の白い雪が帝国の大地を染め上げつつある一日の事。


 視点:お茶会

『こちら【先駆者】…応答されたし』

『こちら【人形】、私の考えたプランはどうだ?』

『【翁】、順調だな、合ってもいない人間達を相手に交渉術とその手順を考えるとは…【人形】の本領発揮だな』

『【団長】だ、こちらも少し悶着があったが問題なく極東支部に出られる事になった』

『【白鴉】も同行…いや今はアナトリアの英雄と呼ぶべき人か、そうだろう? アナトリアの英雄の片割れ様?』

『ナンバー1兼団長を舐めて貰っては困るな……アメリカで妙な動きがあるのは知っているか?』

『アメリカで?』

『それだけではないな、私の情報網によれば世界各国で妙な動きや戦闘を行う衛士が増えているそうだ』

『―――妙な戦闘』

『アスピナが来たか…あるいはローディーを始めとした企業リンクス達が来たのか……あるいは今まで隠れていたのかだな』

『幸いなのは君を除けば純正技術者が存在しない事だ』

『ネクストを運用すればBETAの殲滅そのものは出来ても対価は数十年間の汚染によるただでさえ少ない地上の争奪戦』

『他国の土壌での汚染兵器使用は戦争の火蓋を意味すると言う事だな……企業か』

『グレートブリテンのBFF・アメリカのGA・オーストラリアのオーメルサイエンス・極東の有澤重工―――世界が動くか』

『グレートブリテンの7英雄に【蒼星】や【破壊天使】は存在していなかった筈にも関わらず、我々以外の全ての人間が忘れている』

『まるで神様の悪戯だな、神などあの世界ですっかり信仰する心など失せたが信じたくなってきたな』

『……無意味』

『神などいはしない…ましてや捨てられた人間などに慈愛を賭ける神などいはしないだろう』

『敵は化物にあらず、真の敵は人間か―――神様の最後の使徒は人間だと言うしな』

『…………真理』

『企業もまだ小さな状態だ、最低でも一年は掛かるだろう…こちらで牽制も試みる』

『注意すべきはBFFのあのロリコンジジイとオーメルの重役共だな、連中は政戦に長けすぎる』

『権力なきオルカに出来る事は数少なきだな』

『だが【蒼星】の居場所も判り、私も有名になった……遠くない内にこの回線に全員が揃う日が来るだろう……その日こそ』


『『『夜空の旗を掲げ人類の為に今一度、この牙を振るい星の海への道を切り開かん』』』


『―――オールハイル』


『『『『『オルカ旅団』』』』』


□□□


 やっと書けた二十話……話数的にもそろそろギャグなんかがいるのでしょうか。
 企業の影とアナトリアの英雄、やっとの事でチラつかせ始めれた企業や他のリンクス達の存在。 

 アナトリアの英雄は無論あの傭兵の事…この世界だと傭兵なんて呼べるモノじゃないでしょうし。

 ふと考えると国家解体戦争でもっとも多くのレイブンを殺害しノーマルを破壊した初代リンクスの一人であるオルレアのアンジェ。
 彼女の台詞からはアナトリアのと戦った経験があるような口振りであり、アナトリアのが瀕死の重傷を負ったのもおそらくネクストとの戦闘。
 そしてオルレアの体力を半分以下の時にした時の台詞にアナトリアのとの戦いを思い出すような言葉を口漏らしながら再度戦いを挑む。

 つまりアナトリアの英雄はノーマルでネクストを中破させたと言う事実があってもおかしくないッ!

 性能差が子供VS大人よりも酷い虐め同然の性能差を腕で補い手傷を負わせたアナトリアの英雄の操作技術は間違いなくナンバー1。
 音速戦闘を行いながら相手のメインブースターを撃ち抜くと言う離れ業すらやってのける辺りがその証明だと思います
 敵対させれない…敵対すればその瞬間にノーマル同士だと敗北が確定してしまう―――ので彼のオルカ側の参入に怒られないように今の内に言い訳を……



[9853] 二十一話[英雄と遺産と腹の探りあい]
Name: 博打◆ae18cf9e ID:047f63f1
Date: 2009/10/30 11:33
 視点:???

 2000年十一月の初めにその二人の英雄はトルコ共和国:アナトリア方面防衛軍より名乗りを挙げた。
 甲9号:アンバールハイヴより二個師団(一個師団・一万規模)が大侵攻を突如開始、多くの研究者の測定を上回りそれは起きた。
 こうなる事態を避けるべく行われる間引き作戦すら嘲笑うかのように進行を開始した無数のBETAの群れ群れ群れ群れの群れ。
 トルコ共和国および国連軍トルコ共和国駐屯部隊は総力を挙げてこれの迎撃に当たり、多大な被害を被りながらも撃退に成功。
 この作戦……オペーレーション:ストップ・パラダイス作戦の最中に驚異的な機動戦術と戦いを見せ生き残った二人の衛士。

 アナトリアの英雄―――オブライア=ネフェルト中尉とマクシミリアン=テルミドール少佐の二名。

 専用のカスタムを受けたファイティングファルコンを駆り、単機で一連隊・二機で一個師団を撃破したと言う神話を生んだ。
 無論真実は二機と部下達・友軍の決死の戦いや自爆攻撃によって数千のBETAを道連れ、奇跡的な撃退と言う結果だがこれをトルコ共和国は宣伝として誇張。


【二人揃えば一個師団に匹敵するトルコの切り札】


 と言う形に大々的に宣伝を行うが、トルコ共和国の被害は大きく……同二名の部隊もまた本人達を残し甚大な被害を被り事実状の壊滅。
 大量の物資・人員消耗によってトルコ共和国は防衛線・在地防衛隊に莫大な被害を被り進退窮まりこのままでは祖国の大地を放棄しての他国への撤退すら選択肢の一つ。
 多くの生き残り達がなんとしても踏み止まる事を要望するが、上層部は他国への難民受け入れと残存勢力の吸収を膨大な金額や条件を付けて各国に要請した。

 特に残存戦力の金銭的・難民などの優先的保護などの条件に売り渡される事となったトルコ残存戦力は混迷の一途を辿る。

 その混乱の最中に一斉に動き出した者達が存在した。

 まず日本の香月=夕呼博士と腹心である古島=純一郎の二名が素早くその破格金額の条件を巧みな交渉術で自分達に有利な条件に変え承諾、アナトリアの英雄二名を確保。
 
 次にアメリカの企業GA社がアメリカ上層部との会合によって一部難民と技術者を手に入れる。

 一部衛士達と難民をアフリカ・エジプトの新設企業インテリオルユニオンのとある衛士の強い要望によって受け入れられる。

 更に残った難民・衛士・技術者をグレートブリテンのBFFとオーストラリアのオーメルが合法かつ国家上層部との交渉操作によって入手。


【国家ではなく大企業による救済】


 この事柄に対して国連軍上層部は今回の様々な衛士と技術者の吸収と分散を恐れ、各国と各企業に対してとある要望を唱える。

 それは各国・各企業に身柄などは買い取られているが、重要拠点であるトルコ崩落を避ける為に現地に駐屯を続けて貰うと言う内容であった。


『日本:我が国で、限り無く安価でアナトリアの英雄二名を本国に滞在させるなら了承する』

『アメリカ:日本と同じくこちらの要望を飲んで貰えるならば、特に技術者の本国滞在を希望』

『エジプト:我が国の戦力滞在および優先待遇を良しとするならば』

『グレートブリテン:こちらが要望する衛士の吸収を了承されるならば承認しよう』

『オーストラリア:トルコ共和国首脳陣・駐屯戦力が指示に従うならば黙認』


 国連軍上層部とトルコ共和国という数少なき人間の土地と食料生産地区の消失を恐れた者達によって行われたこの一件によって、する側とされる側が逆転。
 様々な国家とそれを裏から手に取り、あるいは莫大な金銭・権力などで操作し始める企業がトルコに対して要望を押し付けると言う悲劇となってしまう。
 トルコ共和国首脳陣はこれに同意する他なく、事実状……トルコ共和国は無数の国家と企業によって分割支配される遠くない世界の縮図を示すモノへと。

 様々な試験運用兵器などが搬入・各国の情報部が入り組み調べあう裏の戦争・手の掛かった衛士達の駐屯と現地戦力の吸収。

 それはトルコ共和国という国家の名と土地を借りた小さな小さな――――――代理戦争の始まりを意味するモノとして世界に警戒の鐘を鳴り響かせてしまう。
 今まで変わらない現状でも現地衛士達は自分を買い取った国の手の平一つで仲間を撃ち、時として護るべき人達すら切り捨てなければならない現実へと叩き落された。

 祖国から多くの国民が難民として裕福な国・あるいは交渉材料として売り渡され、残った人々も事実状の人質であり各国から送られる物資に一時の安らぎを感じるのみ。

 そして企業は自分以外の政敵・経済競争の敵を見つけ、これに対する警戒と撲滅手段の考案へと奔る。
 表向きには世界各国の協力によって再建されるトルコと言う図式も、知る者達にとってそれは人間と言う敵対者の存在を浮き彫りにさせてしまった悲劇にしか見えない。
 ただ世界は”誰の手によって改竄される”事なく、まるで関係しないとばかりに世界の歯車は人間の鮮血の油を持っていつものように廻り続けるだけだった。


 ―――見守るべき神から見捨てられた世界はただ一人で懸命に生きるしかなかった。


 より多くの血を流して、より多くの何かを消滅させながら侵食に耐える為に……生きる為にただそうするしかなかった。

 愛されない者達にとって、愛なんて絵空事は何一つ救ってくれない残虐なモノでしかないのだから。


 視点:コジマ

 銀翁め……俺一人にこんな大任を任せるとは良い度胸だ。
 だが帝国内部で俺が一ヶ月もの間に安全かつ心配なく、そして腑抜けた生活を送れたのは間違いなく銀翁准将閣下の後ろ盾あっての事。
 文句を言えばキリがないが銀翁も決してあの男と……有澤重工社長兼リンクスの有澤隆文とは連携や古参として戦っている所を知らないので親しいとは言えない。
 リンクスは戦場での邂逅が少ない訳では無い、そして古参でありオリジナルの一人である銀翁が他のリンクス達と接触してはいれど親しいとは決して限らないからな。
 しかし奇妙な謎と言えばやはり実弾であり特にグレネードなどの大量破壊兵器の製造を得意とする有澤重工がレーザー(光線)兵器を作れるとは。

 侮辱でも侮蔑でもなく純粋に有澤重工は信頼第一であり、実弾一筋の会社であり他の兵器開発などに対する技術者は多くない。

 無論実弾の生産ラインとタンク級ネクストやミサイルなどの生産ラインでレーザーなど作っている余裕はなく、汚染兵器に対する見解なども厳しい。
 特にコジマ粒子汚染に対しては厳しいが、グレネードで大量の粉塵を巻き上げて黒い雨を降らせている時点でかなり似た者なのだがな。
 その粒子嫌いの企業社長が銀翁とのパイプを持っているのは驚きだか、やはりいつの間にこのパイプを手に入れ何処まで親しいのかが引っ掛かる所だ。


「しかしこれが有澤重工か―――既に何社か危険スレスレの吸収や人望・手腕によって吸収しての大企業化とは相変わらず恐れ入る」


 有澤隆文

 自社で制作した超弩級重装甲タンクネクスト【雷電】に同じく自社製作のグレネード兵器しか積み込まず戦う姿にはもはや感服と呆れの感情だけ。
 しかし味方になれば”当たれば”その圧倒的かつ驚異的な破壊力で全てを焼き尽くし、姿一つ残さず消し飛ばし全てを灰燼へと還してしまう火力を持つ。
 タンク型故に機動力は悲惨の一言で尽きるがそれでも全速力ならば音速の領域…どうしてか有澤専用雷電は音速の領域に突入出来るような馬鹿げたチューンがしてある。
 戦艦よりも硬く・戦闘機より速く飛んでくるタンク型ネクストが戦艦クラスの主砲を引っ提げて突撃して来ては、その圧倒的火力で全て吹き飛ばされてしまう。
 ゲームと違い現実では最強の超特大バレル・口径の老神砲の直撃はプライマルアーマーと言う防御幕を衝撃波が貫通しそれによって軽く薄い機体ならば大破と言う悪夢。
 地面に打ち込めば………膨大な爆風と衝撃波によって小石すらヘタな装甲を貫通し、めり込むなんて事が可能となり一撃で広範囲の敵を殲滅撃破出来る。


「しかし大きいな……既に帝国の軍港すら所有なんて一体いつから銀翁と関わりを持っていたのか知りたくなるな」


 かのグレートウォールのグレネードガトリングの設計・製造に携わったのも有澤重工であり、粒子関係の変態企業がトーラスならば実弾の変態企業が有澤重工と言える。
 そんな企業が幾等俺が設計したと言えど簡単にレーザー兵器を製造してしまえるとは考えにくい、そもそも生産ラインなどの問題が大きすぎるからだ。
 さて銀翁を通してアポは取ってあるのだからさっさと目の前の本社とは思えない…それこそ企業本社で三階建てとはこれぞ下町の町工場と言うべなのか解らないが。
 とにかくせっかく手にした帝国の茨城軍港よりもこんな小さなビルに居を構えていると言う事は表の小さな工場やビルは囮で本命は―――



「久しぶりだぜコジマァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」



 ―――耳が…耳が……なんでコイツが有澤重工にッ!?


「っとふざけるのもここまでだよな?」

「無理して叫ぶのが仕事みたいにする必要はないだろうッ! あぁ鼓膜が…まだキーーーンって耳鳴りがするぞ」

「いや悪いなぁッ! あの頃の癖と工場ってのが思ったより五月蝿いからこうでもしないと届かなくてよッ!」


 筋肉ムキムキマッチョで工事現場のしっかりした制服を着ている2mはあるこの大男こそオルカ旅団の火力を担う男……ヴァオー。
 重装甲タンク×弩級火力でなんとなくここにいるのが解るが……コイツが精密機械に精通出来るとは到底考えれないがこれでもリンクスの一人だ。
 元々はリンクス戦争以降のオルカでも新参でありリンクス経験も決して多くない新人であったがそれにメルツェルが目を付けて勧誘し仲間となった経緯。
 騒がしい奴―――と言えば良く解る人間だが、とにかくサッパリした生活でウジウジしなければ即座に立ち直り努力するなり行動する姿は尊敬させられる。

 むしろ落ち込むなんて言葉が辞書にないような奴だが、それでもやはりオルカ旅団の仲間でありメルツェルと共に戦い…時として戦死した男。

 火力だけの機体だがガトリングとバズーカで構成された機体とその弾幕はまさに小型AFと呼んでも間違いはない、ネクスト戦よりも通常戦力が本分だ。
 ほって置いても勝手に無数の弾丸で弾幕を展開しながら蹂躙し雷電とは違う形で敵を焼き尽くし攻め滅ぼす、謙遜なくヴァオーはオルカ旅団の炎と言える。

「とにかく銀翁の連絡で有澤隆文と話をしに来たんだが?」

「おぅ、社長なら……おっと盗聴の危険なんかがあるからとりあえず中に入れ」

 相変わらず―――変な単純馬鹿だな。
 しかし油塗れの作業服で作業と言うより絶対に伝言役だな…大きな声で作業しているメンバーに報告が仕事って感じか。
 銀翁や真改は気付いていたのか? いや知ってるなら帝国に招くと言うよりもヴァオーの徴兵はどうした……仮にも成人している奴を取りこぼすなんて。
 老人を中心に小さな部品を製造する為の機械から巨大な部品を製造する為の簡易的なラインまであるがおそらくこれは表向きの姿だ。
 本命はおそらく足下から微かに感じる微振動、それもリンクスのような強化された感覚か精密機械による探索がなければ気付けないような極々微振動。

「ヴァオー…お前徴兵はどうやってかわした?」

「ん? あぁあの化物共に片足やられてよッ! 使い物にならなくなって銀翁達の話でここに来たって訳よッ!」

 バッと長ズボンを捲くり左足を見せるので少し叩いてやると―――音が違った。
 少なくとも人間の足が出すような音ではなく涼宮中尉よりもおそらく精度の悪い義足が左足の膝下から繋げられている。
 銀翁の推薦とは名ばかりでおそらくオルカ旅団の仲間を内部に送り込み調査なりパイプ役と言う事にしたかったのだろう。
 ヴァオーはリンクスだ、だがリンクスと言えど少し生身になればただの少し強い機体を操れるだけの人間だがそれでもヴァオーの負傷は内心響く。


「―――気にすんなッ! 役立たずかも知れねぇが銀翁達を後ろからバックアップよッ!」


「……そうだな――――――お前の単純馬鹿は死んでも治らんだろうしな」


 あぁやっぱり単純馬鹿で助かる。
 だが本当にヴァオーの戦線離脱は厳しい、神経が生きているならば幾等でもAMSを繋げてネクストを動かす事は幸い出来る。
 ヴァオーの愛機はタンク型と言うのもあり人間で言えば正座で乗り物に乗っている状態のようなものだから足の動きはそう関係はない。

 オルカ旅団のリンクスは総勢十二名しかおらず、簡単に言えば量より質であり一人一人がカラードランク上位に食い込む実力を持つ猛者ばかり。

 たった十二名しかいない……俺を含めれば十三人目だがそれでも数が足りない、全員揃ってやっと中隊規模だと言うのにな。
 銀翁は准将で軽々しくは動けない、オールドキングがいるならばテロリストととして活動中…良く揃って十人であったオルカ旅団もヴァオーを抜いて九人。
 独自に動く為にはこの世界でオルカ旅団の同志を集いそしてAMS適性を見出し戦力するしか方法がないが、この世界でそれが出来るか。

「あっヴァオーさん」

 目的の部屋でおそらく表向きの有澤の部屋なのか、かなり綺麗に掃除され机には整理された書類や多くのファイルが置かれている。
 そして社長席には本命はおらず代わりに秘書と思われる女性がヴァオーとは違う作業服ではな制服で書類整理を行いながら気軽にヴァオーの名を呼ぶ。
 見て気づいたがこの女性は左眼が見えていないらしく、書類を見たりする際も忙しく顔を動かしている……おそらく彼女も負傷兵帰りと言う所か。

「コイツが例の国連のだ、社長に会うから後を頼むぜ」

「解りました、では……」

 部屋の壁に手をかざし、隠されていた端末のキーボードを素早く叩いていく。
 パスコードは位置からして**********か、有沢らしいパスワードだがやはり本命は地下室か。
 
 壁から専用エレベーターの扉が開かれ、ヴァオーと俺は言葉なくそれに乗り込む。

 スッと動き出したエレベーターは感覚的に言えばかなり深い位置まで降下を続け、地下の底へと近づけば近づく程に作業機械の振動が身体に僅かに届く。
 おそらく初風などの本命を製造している地下工場であり、各地に点在させている支社や工場は他企業の妨害を回避する為の身代わりなのだろう。



「良く来たなコジマ君、我が有澤重工が抱える最高かつ……最低の工場だ」



 有澤隆文―――五十歳を超えた高齢リンクスとは思えない四十代の外見と声を持つ弩級タンク雷電を駆る有澤重工43代目社長本人の出迎え。
 本来ならば誇るべき自社の工場を”最高かつ最低”などと言う雷電の姿に驚愕されられ、どうやら驚きが顔に出てしまったらしい。


「ある意味―――君にはもっとも見せてはいけないモノなのだが同時に君でなければならないモノがある」


「……有澤?」


 胸騒ぎがする。
 そのまま俺の顔を見ずに歩き出す有澤に対し、胸騒ぎが邪魔をして……心の何処かでその正体を理解していて足が踏み出せない。

 無言のままヴァオーに背中をポンッと叩かれてやっと俺は歩き始めた。

 視界には組み立て状態に入っている初風に大鴉、ただのノーマルもどきが立ち並ぶ姿に対して恐怖など抱かない。
 だが戦術機クラスの兵器を製造出来る地下工場なんてモノを僅か一ヶ月で仕上げれる筈がない、つまり本来はもっと早くからこの世界に居た。
 そんな有澤重工が他の企業に遅れを取る理由があるのか? そもそも何故に俺から姿を隠しそして今になって俺と言う存在を必要とするのか。


「……その顔から何故貴様が必要なのか解った様だな」


 地下工場の最深部と思われる空間…核などの危険物をマークが振られている扉を有澤が懐から取り出したカードで開く。
 一歩中へと入り光一つないような空間であろと、リンクスとして強化された眼には本来あってはならない兵器が其処に鎮座していた。
 特にコジマ粒子に関して厳しい意見を持っている筈の有澤重工が持っていてはあまりにもいけない最悪の遺産の一つ。
 だがこれがあると言う事がレーザー兵器製造を不得意とする有澤重工が何故にそれらを建造するに至ったか容易に想像させれる代物。



【プロトタイプネクスト】



 ネクストや戦術機の平均的な大きさを15m級だ、無論この大きさは前者は工場などへ・後者はハイヴ内への突入を考えての大きさだ。
 だがこのプロトタイプネクストは”プロトタイプ”故に全てにおいて【無計画かつ無関心】に造り上げられた機体であり大きさも30m級に匹敵する大きさを持つ。

 過剰な積載を可能とさせる為に巨体かつ巨大な身体を持ち、巨体ゆえの積載範囲の余裕を持って馬鹿げた出力のコジマ粒子機関を装備した機体。

 圧倒的な出力…それこそ完全なネクストですら嘲笑える出力と大きさでその重い機体を音速の領域へと突入させれる事が出来てしまう圧倒的かつ馬鹿げた出力特性。

 プライマルアーマーがノーマルネクストがアーマーならばプロトタイプはウォール、自分の加速で自分が壊れないような城砦級の分厚さを誇りヘタな攻撃は無意味。

 主力兵装は小口径×6で一基のガトリングを”五基”も搭載し一纏めにした多連装ガトリングキャノンとコジマ粒子の超高縮退を可能とする超大型コジマキャノン。

 この二つの”キャノン”を背負うのでなく”片手で”一つずつ、右手にガトリング・左手にコジマキャノンを持って、音速の領域で平然と戦闘を可能とする兵器。


「有澤ッ! これを造る事がどういう事なのか解ってるのかッ!? 最悪の遺産、究極の汚染ッ! 乗り手殺しの首輪を付けられない山猫の母だぞッ!」


 兵器としては優秀の限りを逝くが、プロトタイプ一機が稼動するだけでノーマルネクスト数機分もの高濃度粒子汚染を戦闘空域に撒き散らす。

 更にAMSを用いればその無慈悲なまでに単純な脳細胞の汚染と襲い来る情報の濁流に飲み込まれ……どれ程のテストパイロットが殺されたか。

 比較にならないブースター出力によって生み出される機動性によって襲い来る加速Gで潰れて死んだパイロットも少なくはない…複数の対G装備があってもだ。

 汚染も死も何も考えずただ”他者を圧倒する究極の強さ”を追い求め、その強さと汚染の凄まじさ故に姿を消した筈のプロトタイプネクストが俺の目の前に存在する。

「これはあくまで脅し用だ……世紀の開発者である貴様の頭の中にはあるだろう―――核融合式粒子炉の設計図がッ!」

「有澤ッ! こんな世界で汚染兵器を使えばどうなるか、それは企業であるお前が一番良く知っている筈だッ!」


「だが死者は減らん、これを造り上げ…雷電達を造り上げ……そして我が社の開発したA-10改:ライトニングボルトを正式採用させる
 劣化タンク式ノーマル級と言えどこれが戦車部隊に配備されれば機動力のない支援砲撃部隊の前線展開とより確実な生還が可能となるッ!
 理想と理念ばかり語り前線の将兵を考えない鉄屑を造り上げッ! 砲撃部隊には何の計らいもなく、アメリカが砲撃主義だからと頭ごなしに否定する
 そんな国家に何が出来る、銀翁のような砲撃主義者すら立場だからと乗せられ幾度も出撃しては、機動力のない戦車隊がどれだけ死ぬような思いをしたか
 この世界に来てまだ一年も経験していない若造の貴様に我々の何が解るッ! この時の為にどれだけの犠牲を費やし生きて来たか知らぬ貴様にッ!」


 ―――銀翁め、付き合っている間に情でも移ったか。

 喋りすぎだな……だが頼れる最寄の企業は有澤重工だけであり、極秘に行動を起こすのにもそれ等に慣れているであろう企業を頼るのは確かに理解出来る。
 それにヴァオーと有澤は数少ないタンク型に乗るリンクスとして話や気が合う一面はあっただろう、だからこそおそらくメルツェルの差し金でそうしたか。
 独自の方法で粒子炉の作成を試みていた情報を手に入れたメルツェルが負傷したヴァオーを通してゆくゆくはネクストを手に入れる為に利用していたのか。

 どちらにしろここでヘタな動きは死を意味する。

 有澤の口振りからすると帝国の接近戦至上主義を嫌っているらしく、あまり肩入れしては帝国と言う土壌を汚染され穢されてしまうのは美味しくない。
 さてここで相打ちに持ち込むか―――激昂し無防備な状態に見える有澤に数発撃ち込むか…さてどう動くべきか。


「……悪いなコジマ」


 聞き慣れた声がすぐ後ろでしたと思えば後頭部にゴリッと……この世界でも一度押し当てられた代物の硬さが皮膚越しに頭蓋骨に押し付けられている。


「……どういうつもりだヴァオー?」


「脅してるだけだぜ……コジマ」


 腑抜けた………目の前の障害をどうするかに没頭して後ろの気配一つ感じないなんて腑抜けも良い所だ。
 脱出路の扉は既にヴァオーが封鎖済み、正面も既に有澤が黒光りする拳銃を構えこちらに狙いを定めている。

 場所は飛び降りれば下のの機械にミンチされる、居る場所は一本通路の細い通路。

 横に飛べばめでたくグチャリ……動かねば頭を射抜かれ脳漿を撒き散らす………残った手は降伏と交渉の道のみ。
 ヴァオーが裏切るのか、それともこの行動すらメルツェルからの指示なのかはさておき後で覚えていろ白い【甲虫】風情が。



「……良いだろう、ただし私に協力する事――――――このプロトタイプ・ネクストを私に寄越すのが最低条件だ」



 ネクストを造ると言う事はあるんだろう? 人間と機械を一つにしてしまうAMSが?
 増え始めた奇妙な戦い方をすると言う衛士達はおそらくアスピナが投薬や改造で作り出した擬似アナトリアの英雄…人造英雄。
 そもそもネクストはAMSがなければただの高い出力機関炉を装備したノーマル被れに過ぎないモノを企業が造る訳がない。

 それに有澤重工から言わせればコジマ粒子の塊であるプロトタイプなぞ、今すぐにでも破棄したい筈だからな。

 プロトタイプを使うのは本来は避けるべきだが……早い段階でそれなりに見せ付けておくのは悪くはないだろうからな。
 この世界で操れる者少なき”世界”を破壊する者として、そしてそれを駆る者として動くのも悪くない。


「ふんっ…こんなモノなどいずれ脅す為でなければ誰が作るものか―――さぁ書き出して貰うぞ…コジマ粒子炉の設計図を」


 有澤隆文自身がもっとも痛感しているであろうこの世界とあの世界の圧倒的すぎる”技術力”の差。
 これが存在する限り設計図を渡した所で造れる様な簡単な造りをしていないのがコジマ粒子炉だ。

 時間稼ぎは充分出来る……今はお前の思惑に乗ってやるさ有澤―――だが邪魔になるならば消す。

 有澤重工の42代で紡ぎ続けた歴史に終止符を打つのはお前の行動一つなんだからな。
 AMSの情報を転がせば喜んで飛びつくような女博士がすぐ傍にいる、与えて動かないなんて思えば大違いだ。


 視点:お茶会

『【人形】…【甲虫】にくだらない知恵を仕込んだのはお前か?』

『類は友を呼ぶとは日本のコトワザと言う奴だが?』

『情報を露見させすぎだと言っているんだッ! 【翁】! お前も軽々しく情報を横流しするのが准将の仕事かッ!?」

『信頼を得るには仕方ない事だ……山猫なくして我々がどうやって企業に対抗する?』

『仕方ない? ――――――せっかく手に入れた操作しやすい土壌を捨てるつもりか』

『所詮は国だろう? 企業に滅ぼされるならばその程度だったと言う事だ』

『……静観』

『今は為せる事を為すようにだ、それに有澤重工がプロトタイプを交渉価値もなく造るとは思えんが?』

『酷いぜ【先駆者】ッ! 俺だって幾等【人形】の指示だからってお前に銃向けるなんて心臓が壊れるくらいビビッたんだぜ』

『情報は流すからこそ意味がある、それにソ連を初めとしたユーラシア残党があの事件で動かなかったのが気になる…手は抜けれないさ』


『………すまん、少しカッとした…【人形】の予定と計算通りなら手に入ったあのプロトタイプには試作AMSなどが搭載されてるんだな?』


『予想通りならな、日本の……北海道だな? ここから暗号通信で【狩人】と【紅】からアスピナの存在が確認されているからな』

『雪国に【狩人】とは、【無音の雪崩】隊でも作っているのか? ……あの部隊はBFF秘蔵隊だろう』

『帝国内を洗っても出てこなかったと言う事は帝国ではなく国連か、あるいは私兵部隊か……とにかく准将とは動きづらくて敵わんな』

『【紅】って事はあのガキかッ! さっさと合流して色々とカラカッテヤリタイぜッ!』

『【甲虫】止めてやれ、アイツだって自分が最年少って事を色々と気にしてるんだからな』

『【紅】を除けば全員30以上のおっ……頼れるオジサン達だからな』

『……【人形】、貴様まだ実年齢の事を気にしてたのか?』

『オルカ旅団は【蒼星】でさえ―――』

『……自殺行為』

『もしこの回線に【蒼星】がいたら死ぬぞ【団長】』

『それに今日の今日…うちの【戦乙女】の味見を英雄としてしんだろ? 若さの充填はアイツ等でするんだな』

『あれは中々の美人揃いだな、もしこんな世界でなければファッション企業オルカでも創設すれば豪遊出来そうだ』

『むしろ昔通り音楽隊でもすれば良いだろう、この世界はどうも娯楽に欠けていかん』

『いつか本当に全員揃ったら……また全員でオーケストラしようぜ』

『――――――人類の行進曲が良いか?』

『いやここは人類の円舞曲をだな』

『鎮魂曲の一つでも奏でれば勘違いして後ろ盾となる者達が増えるだろう』

『ここはこの世界で培い殿下にも絶賛された演歌でも一つ………』


『『『『『却下』』』』』



□□□


 さて増えてきた企業やらリンクス達…お茶会も喫茶店の賑わいだけど描写抜きの会話だけだとどうしても口調やらなんやらが被る
 ここは不評になりやすいと言う台本書きと言う手段に移すべきなのでしょうか……どうしようもなく不味い

コジマ「コールサインは【先駆者】だな」

テルミドール「私こそ【団長】だ」

メルツェル「【人形】……彼女からは自動人形とも呼ばれていたな」

銀翁「【翁】とは親しみの込められた名よ」

真改「【名刀】……月光・斬月」

ヴァオー「俺は【甲虫】が好きなんだぜぇッ!」

 ……解りづらそうです

 さて話題を変えて、コジマの愛機(?)となる最悪の遺産の一つプロトタイプ・ネクスト……その強さは戦艦が音速で地上を航行するようなモノ
 圧倒的な火力と装甲を持つ戦艦が音速航行しつつ場所を問わず戦う事が出来て、しかもこれが一個人に委ねられるなんて代物がプロトタイプ
 AFと違いあくまで人型兵器の延長なので製造が可能・また脅すのにはある意味では最適なので有澤重工はこれを素早く建造と言う流れです

 言うなれば「前の件だがな…賛同しないならお宅の国に核弾頭降り注がせるが……それでもまだ断るか?」 と言うような脅しが出来るモノと考えてください

 そしてコジマ暗殺などに二人では役不足や難しいと言われていますが、コジマも人間です
 疲れもすれば眠りもするので深く寝ている所をサクッとしたり、時間が経てば信頼してくれるのでソコをついてサクッと殺す
 食べ物だって必要なので毒殺可能、事故に見せかけたり戦場の混乱を利用してサクッと殺す事だって出来る
 不死身なのは魂と精神だけで死ねばループ……殺す事なんて幾等でも出来るけど殺されないのは権力の利用とコジマが利用出来るから
 上っ面を良い子ちゃんしてれば大概の人間はコロッと騙されてくれる…あとはしっかりと骨の髄まで利用して出し汁取ってゴミ箱へ
 
 けど迂闊殺すとソレを口実に色々とされてしまうが、素直にほおって置くと時間が経つにつれて世界を汚染させていく悪質な存在

 狸は鍋・猫は三味線になるのがオチですよ

 あぁそろそろ戦闘入れないと―――と言うか未熟な腕だけど入れたいです
 あと設定資料やリンクス達の紹介文などが入れたい所です

 10月30日 ご指摘により修正



[9853] 二十二話[動き始める時]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/11/04 14:54
 視点:コジマ

 この世界の十二月は吐き出す息が白く、強化装備越しでも感じる事が出来る白雪の感触が自然と子供らしい喜びと楽しさをもたらしてくれる。
 あの世界だと俺の……コジマの血脈が産んでしまった粒子の所為で雪や雨は緑色で一度生命体に付着すれば最後―――重度の汚染で患部を破壊される。

 コジマ粒子は極小の粒子で、自分が入り込める隙間があれば平然と入り込み同族を引き寄せ強く結びつく性質が最悪の能力として発動してしまう。

 小さな隙間に入り込んだ粒子が最初は小さく肉眼で確認出来ないが、次第に他の粒子と連結・肥大化し内側から膨らむ風船のように傷口を広げていく。
 侵入された場所によってはまた助かる可能性があるが心臓やその近辺の筋肉や内臓ならば、パンッと破裂してグチャグチャになってさよなら。
 有機物・無機物問わずその侵入・結合・肥大を行い存在する全てを分解し誰かが”溶かしてしまう”と例えた最悪の殺戮粒子の色をした地獄の雪と雨。
 特に酷い地域ならばゲル状になるまで粒子に侵され続け死んだ有機物と極小の砂になった無機物が地面を埋め尽くす世界となる。
 唯一の救いは粒子が結合するよりも早く形状変化と侵入口を全方位遮断出来る水と粒子そのものが干渉され易い超強力な電磁場ならば粒子を操作出来る事。

 そんな粒子を最大限に戦闘利用出来ないかと調査する為に実戦にも耐えうる機体として構築されたのが、プロトタイプ・ネクストだ。
 だが同時にプロトタイプの戦闘能力は粒子に依存している部分が大き過ぎる……それでも動力が核融合炉と言う事で危険な代物だと言うのに。

「……ふぅ、雑念あれば太刀筋も乱れるな」

 模造刀を両手でしっかりと持って、ただ振る。

 面・胴・籠手(こて)・突きを軽くこなし、そこから刀での足払いに強引な切り上げ、右上から左下への袈裟切りにそこからの斬りかえし。

 敵がいる訳でもなければ、剣術の基本である基礎基本を身体に覚えたり錆び付かないようにしている訳でもなくただ振るだけ。

 ただ速く・何よりも速く・閃光の太刀筋を実現させる為にただ素早く振りぬく為に空気を切り裂く、その時に発する音を鋭くさせるだけの修練。

 しかしプロトタイプや大鴉の事…武御雷の改造計画にAMSの問題やどうやって運用にこぎ付けるか、と現状はまさに堅牢な倫理とプライドの城砦を前に困惑する軍。
 気持ちが迷えば必然と太刀筋は乱れ、これではただ筋肉を鍛える為の鍛錬であり”より速く振る”と言う訓練にはならない…腑抜けた溜め息ばかり出てしまう。


「心中思わしくないようで」


 出来れば会いたくない分類に入る斯衛であり、重要人物である御剣冥夜の護衛を務めている有力武家である事を示す赤色の軍服を羽織っている月詠中尉。
 まぁ訓練場の一角で強化服を着た状態で模造刀を一人寂しく振り回すなど帝国広しと言えどおそらく俺くらい……データ収集の為と言えど変わり者なのは確かだ。
 だがこの月詠中尉は一ヶ月たった今も警戒心の塊であり常にあの三人組を侍らせているので一対一での話し合いも出来ない、話すのも訓練と反省会の時くらいだな。

「自ら選んだ道と言え……同じ日本人に謗られたり否定されるのは心に響きます」

 本心はまったくの嘘…別に人に謗られるのは慣れている。
 むしろ傭兵稼業など謗られるのが仕事とも言える、企業の依頼一つで民間人の虐殺や邪魔な企業の工場を破壊し、ライフラインすら平然と破壊するのが仕事。
 いわば汚れ役であり謗られたりするのが怖くて人殺しや破壊行動が出来るなら世の中の人間はさぞ寛大な心を持っているだろうな。

「………手合わせをお願いしても良いでしょうか?」

「あの三人はどうしました? 私の所為とはいえ一ヶ月前に倒れてしまいしたが」

「今は沙霧大尉から少し指導されていますので問題はないかと」

 ふふっ、と少し女らしい顔でそう言うのは流石に卑怯だろう月詠中尉……いや女の笑顔は涙を超える武器なのは何処も同じか。
 しかしあの三人組がいないならば話も出来るし、多少本気を出しても横槍の心配もなく、いやな視線というモノを感じずに戦える。
 元々有力武家である月詠中尉とヘタな接触を続けるのはマズイがやはり親密になりせめて御剣冥夜か殿下に会う為のコネくらいになって貰わねば困るからな。

 だがこちらは強化装備を着込んでいるが、月詠中尉はただの斯衛の軍服であり模造刀と言えど直撃すればただではすまない。

 ―――死なない程度・怪我しない程度に実力を抑えつつ月詠中尉の相手なんてのは疲れるとしか予想出来ないが…まぁやるしかない。


「…ならばお相手願おう」


「……そうこなくては」


 お互いに模造刀を手に構える。
 静かに…ゆっくりと息を吐き出し身体の緊張を解し気持ちを入れ替える、目の前の敵に打ち勝つだけに全てを賭す事だけを考えるように自分を作り変えてしまう。
 周囲の音もない、あったとしても聞えない、聞えるのはシンシンと降り積もる雪の微かな音と月詠中尉の吐息の音や足が踏む雪の音だけを耳に通す。

 音をたてぬように足裏の雪の感覚を確かめる……幸い硬い、全力で踏み込んだとしても滑りはしない安全かつ最高の場所。

 自分はネクスト……俺はネクスト……粒子残量・ジェネレーター確認―――問題なし、対象との距離を確認―――問題なし。 
 月光出力全開・OBによって一瞬で間合いを詰め一撃で対象を殲滅する事がアンジェ流であり勝利こそ真髄……敗北する事は赦されないからこそ斬る。


「……初めて見る構えだ」


 言葉を使って相手を乱せ、少しでも相手の事を知り、これに対する手段を講じる。
 こちらは強化装備だかあちらは普通の軍服だ………ゆっくりと時間を掛ければ自然とこの装備の差が生まれて来るのは眼に見えている。
 あとはその装備の差で生まれているモノを集中力を逸らして認識させれば良いだけ、簡単な崩落術だ。


「【無現鬼道流】……紅蓮大将から賜りし剣術だ」


 ほぅ? 構えはただの剣道などの正眼の構え……刀を前に構え腕は斜め下に伸ばした人間が自然と行き着く自然体の構えが基礎か、厄介だな。
 正道と王道は強いからこそそう呼ばれるのではあり、万人を強くする術でありそこから先に進むのは才能と努力と言うが踏み込めない…か。
 何処にでもあるような構えを”初めて見る”と発言してしまったのは、見てくれは同じでも中身がまったく違うかららしいな……発見とは素晴らしい。

 ―――さて先手を打つか? だがあの構えはヘタな攻撃は合わされ返されるだけ―――暗器を使うのも印象を悪くするので却下。

 ヘタな正々堂々って奴はこれだから始末が悪い、さて真面目に飛び込んで負けでもすれば真改に何をされるか判ったものではないが後手は面白くない。
 かと言って下手に【太陽と夜】の関係を知っている素振りも警戒心を強めるだけでは済まされないが……崩すには最適か。

「その剣術は多くの者達に?」

「……多くはない」

「成程……選ばれし御身は夕陽を護る鞘か―――剣なき鞘の群れか」

 適当な詩を歌う。
 大将直々に叩き込まれた剣術と斯衛と言う攻勢に出てこない守り専門の部隊を【剣なき鞘の群れ】と言い表したつもりだが。


「――――――!?!?」


 やはり”知る人間”にとってこの言い表し方は”そういう事”を意味していると感じ取ってしまう。
 だから俺のような国連で武家でもなく、帝国の深くに居るわけでもない、殿下にお会いした事のない人間が知るなどあり得ない情報。
 それを知っていると勘違いし集中力は大きく乱れ、驚愕によって身体が震え視界が揺らぎ、そう言った言葉の一撃が先手となって月詠中尉を崩してしまう。

 どんな強力なモノだろうと一度体勢を崩してしまえば脆い……一気に勝負を決める為に踏み込む。

 相手との距離は10m程度、この程度を踏み込めず詰めれずしてネクストであろうなど笑止千万、強化人間としての能力ならば余裕で詰められる。


「速いッ!?」


 10mを詰め狙うは月詠中尉の足首。
 機動力である足を獲れば後は弄り殺すか、相手が勝負にもならず降伏するかの二択だ。

 だが流石は月詠中尉と言うべきか、驚愕に揺らいでいた眼は既に武士の眼となり即座に模造刀を逆手に持ち直しこちらの足払いを真っ向から受け止めてしまう。

 仮にもリンクス型の強化人間に順ずる筋力で薙ぎ払っているつもりだがそれを常人が止めるなんて、やはりこの世界の人間は何処かしらオカシイ気がするな。

「…止めるかッ!」

「重い―――だが甘いッ!」

 こちらの足への横薙ぎを縦にまるで柱のようにして一撃を受け止めていた模造刀を、逆手のまま強引に振り上げる。
 その軌道は丁度踏み込みと足払いの為に屈んでいる俺の右肩を直撃するモノでありこのままでは逆に肩を潰される……流石は無現鬼道流か。

 バックQB(クイックブースト)で間合いを開けるか?

 それともサイドQBで真横に逃げるか? 

 フロントQBでの前身は自ら肩を潰されるだけ、確実に殺せる反撃を出来る訳でもない……総じて却下。

 反撃と回避の両立しているQT(クイックターン)の実行が勝利への最善たる選択肢、即実行。

 片足を強引に伸ばし支点へと変え、雪で揺らぐ足裏だが筋肉を限界まで使い足を地面に差し込む。
 そのまま右回転し切り上げを避け殺さないように刀身ではなく模造刀の柄で月詠中尉のがら空きの脇腹を狙う。


「獲らせる訳にはいかんッ!」


 模造刀を放棄すると言う帝国の理念たるモノを捨てた!? 捨てないと踏んでいたがどうやら割り切りは出来るらしい。
 身軽になった月詠中尉は自分の脇腹を狙っているこちらの模造刀の柄を女性らしい手を使って強引に受け止める。

 バチィッ! なんて生易しい音ではない―――確実に手の平を痛めたゴキッなんて音がした。

 強化装備ならば衝撃緩和装備としての役目があるので無難に防げたかも知れないが、ただの手の平で模造刀の柄の一撃を防ぐのは愚策だ。
 更に男女の覆し難い体格や体重の差が攻防にも大きく現れ月詠中尉は丸腰のまま吹き飛ばされ、背中から白雪に叩きつけられ無防備なその姿を晒す。
 アチラの体勢が治られ再び構えられると勝てる気がしない、真改には悪いがあの流派の防御の構えはアンジェ流とは相性が良くない…不意打ち慣れしている感覚があるからな。


「獲ったッ!」


 不幸中の幸いだったか…月詠中尉は手の平を痛めてくれたらしく起き上がりに手間取っている。
 雪の冷たさあれど強化装備などの防御策もなく一撃で沈めるつもりの柄の一撃を受け止めたのだ……これで平然としているようならば人間ではない。
 左手で月詠中尉の白く細い首を鷲掴みにしながら押し倒し、潰してあると言えど模造刀を腹に押し当て下手な行動を取れば即時に腹に模造刀の一撃が入れれるようにした。

 ―――悪いがリンクス強化もない女性の筋力で押し返せるほど俺の筋力は生易しくない。

 白い肌と言うが雪の背景も相まって思わず息を飲みたくなるような…男なら誰しもが持つであろう支配欲・独占欲が疼く……だがそれ以上にこの手で壊してしまいたい。
 
 纏っている赤い服のように背景の白雪を血で真っ赤に染めあげたい、独占でもなく支配でもない―――破壊してしまいたい衝動に駆られてしまう。
 自然と首を絞める手の力が強くなっていく、苦悶の表情を浮べ懸命に俺の手を解こうとする月詠中尉の姿に下種染みた感情が湧きあがり自然と顔の筋肉が緩む…このまま……


「貴様ァ! 真那様になにをしているッ!」

「真那様から離れろッ!」

「離れなさい…出なければ撃ちますッ!」


 白三人組の怒声にハッと意識が”天敵”から”軍人”へと戻り、下種染みた感情も奥底へと消え自分のしている事に驚愕しているような振りをしながら離れる。
 出来るだけ肩を上げ下げするように息をし、手を震わせ自分がしてしまっていた行動に怯え恐れるように……まるでもう一つの自分に恐れるように丁寧な演技を。

 手に持っていた模造刀を白雪に沈ませ、両手を震わせ申し訳無さそうに月詠中尉を見る。

「ちっ中尉…私は―――なんて事を」

 神代・巴少尉の二人に支えられながら月詠中尉が咳き込みながらゆっくりと立ち上がる。
 対する俺はコメカミに戎少尉の拳銃の銃口が向けられている……良く保有していると褒めたい所だがここで曲がり間違っても撃つような真似はして欲しくない。

「……大丈夫です…警戒しなくても良い、元々私があまり調子の良くない中佐との手合わせを願ったのだ」

「しかし真那様ッ!?」

「それよりどうした…沙霧大尉の訓練を受けていた筈だぞ」

 お優しいですね月詠中尉? あの動揺ぶりからこちらが夕陽とその光を照らす御剣の関係を知っていると思っているったと思ったが違うのか?

 まぁこちらを消したいと思ったならば上層部に『古島中佐は帝国の極秘情報を知っていた』の一言で消せる絶好の機会だが戎少尉に命令は下されない。

 死ぬなら死ぬだけだ、別に俺から言わせれば寝て起きてをするようなモノだ――――――殺そうと文句は言わないがな。


「実は――――――」

「解った、三人は先にいけ…私も中佐と後から向う」


 問いただす気か……まぁ誤魔化しは幾等でも利く。
 こっちは伊達にオルカの参謀から知恵は授かってない…多少の問いただしなど容易く受け流せる。

 ―――今の俺は”天敵”か?

 ―――それとも”軍人”か?

 マズイ、頭の中で掻き混ぜられて混乱してきた……あんな行動は”天敵”の時くらいしか取らない筈だが今の俺は”軍人”の筈だ。
 いや確かにここ数ヶ月女を抱いてないがそれでも間違っても物語の重要人物に何の計算もなく手を掛けてしまうのは本当にマズイ。
 自分で混ぜ込んでない筈の記憶まで入り込んでいるのは間違いなく我が神の悪戯だが、それでもノイズみたいに思考の邪魔になるなんて初めてだ。

「しかしッ!」

「命令が聞けぬのか?」

 そうこうしている間に月詠中尉の命令で三人組が俺を睨みながら一足先に戻っていく。
 残った月詠中尉はそれこそこちらを試し、見定めるような眼でこちらを見ながら言葉を発する。


「先程のあの歌は……斯衛の事を遠回しに『攻勢に出ない』と非難した歌なのでしょうか?」


 そう思ってくれるとこちらとしても助かる。


「……えぇ、あれ程の金と人材を費やしている部隊が幾等殿下の護衛の為と言えど私から言わせれば…剣なき鞘としか言い表せません
 それよりお手は大丈夫ですか? かなり勢い良くこちらが放った一撃を何の装備もなく受け止めたので痛めているのではありませんか?」


 こちらを試すような…見せない殺気等に満ちた雰囲気に当てられて少しずつだが落ち着いてきた。
 やはりこういった人間が放つ冷気に当たるのが変に火照った身体を冷ますのには丁度良い、冷めすぎるのは浮気現場を見られたとき位だな。

 後で無理を言ってでも真改と手合わせをしよう……真改の手合わせがもっとも身体を冷ませる冷気を感じれる。

 さてこれを済ませたら銀翁に許可を取ってプロトタイプとAMSの調整と比較的安全な運用や兵装担架の搭載などの改良も必要。
 香月博士にAMSの事を明かし量産して貰うにしろ帝国ご自慢の理念や人道とやらが運用に大きな支障をもたらすのは明確、さてどう捌くか。

「……問題ありません、それよりも急ぎ銀翁准将の下へと行きましょう」

「―――作戦ですか?」

 銀翁准将は曲りなりにも准将だ……だが武御雷の改造もまだであり、初風や大鴉の導入も帝国では出来ていない。
 帝国ご自慢の国連嫌いの所為で国連中佐の開発・設計し極東の魔女の配下と知れば現物を見る事無く徹底かつ極端なまでに批判・反対。
 特に内装・外装を大きく入れ替える新型機に対しての言葉は酷く、目立たないXN3ですから現場の連中の声など知らぬのばかりに否定。
 米国も米国なら帝国も帝国……有澤の支援でもして滅ぼして貰うか? 別に俺としては殿下様にはこれと言って用がある訳でもないからな。


「間引き作戦の決行が決定したそうです」

 
 真剣な眼差しと重苦しい言葉でその作戦の事を言われ、怯えなどの演技を解いてこちらも真剣な姿に戻る。
 御剣についても言及しない所から今の所は俺をほおって置いても問題なしとでも判断したのだろう。
 それに間引き作戦となればかなり大規模戦闘となるのだが所詮は数万いるBETAを少しでも数を減らす為の言わば”チョッカイ”である。

 そして毎回の如く数万の内の数千を倒す為に、数千の内の数百が破壊し戦死し死んでいく。

 戦力の規模が違いすぎる。

 10000にとっての100は少なくても、1000の100はあまりにも甚大な被害だ。

 言って置くが本当にただの前哨戦や橋頭堡の確保の為だけに毎度の如く戦力の10分の1を削られるなど悲惨どころか絶望の領域だ。
 それも以前の戦いでは戦艦を含めた一個艦隊を丸々横腹に大穴を開けられて『運良く壊滅を免れた』などと言われるのは最悪。


「……では急ごう月詠中尉、銀翁を待たせては悪い」


 BFFのイージス艦隊とギガベースの強大さをあまりにも弱すぎる時代遅れの艦隊を知り改めて実感させられる。
 さてどうやって帝国でAFを作り出すかも考える必要があったな……素直にGAに粒子炉を売り渡すのが簡単なんだがな……


 視点:伊隅大尉

 何度戦っても圧倒的すぎる……なんだこの力は? 本当にあの二人はただの人間なのか?
 弾幕を展開しても恐れるどころか逆に僅かな弾と弾の合間を縫ってこちらとの距離を平然と詰めて来る。
 そして装備している120mはこちらの機動性を嘲笑うかのように…まるで中佐と戦っているように一歩先の軌道を読んで放たれる。

『ヴァルキリー6管制ユニットに直撃・大破ッ!』

 こちらは第三世代の不知火をベースに中佐が設計し造り上げた初風…新型OSや水素機関を搭載した最新鋭機だ。
 それが新型OSを積んだだけのFファルコンに圧倒されている……ファルコンは第二世代の機体だぞ! それが機動力でこちらを超えるのか!?
 
 九機対二機と数の差。

 世代を超えた性能差。

「くっ宗像ッ! フォーメーションを切り替えて後衛防御を―――」

 無限とも思える動力と有限の推力の機動力の差。

 第三世代の反応性に追いつけない筈の第二世代が追いつく。


『どうした…それでもコジマの教えを受けた衛士か? 話にならんな』

 
 可動噴射装置を瞬間的にバースト噴射し……瞬間的な擬似OBによる瞬間移動とも錯覚する高速移動。
 それによってこちらが軸線を合わせて幾等発射しようと左へ・右へと機体に逃げられまったく攻撃を当てられない。

 近接戦闘を挑んだ速瀬はこの機動で長刀の一撃を避けられ、側面から無数の36mmの直撃で大破した。

 速瀬の撃墜で前衛が一気に崩壊し一条と神村がなんとかエレメント(分隊:二機編成)で受け止めようとするがここでオブライア大尉が仕掛ける。

 初風に比べればFファルコンは確かに装甲は頑強だか……右手の突撃砲を放棄し、あの擬似OBによってまず神村に肉薄し取り付く。
 そのままゼロ距離で36mmを管制ユニットに浴びせられた神村は即撃墜され、更にこの時点で既に背中の担架の突撃砲を操作して真横の一条まで撃ち抜く。


「これが……アナトリアの英雄」


 機体性能差を覆す圧倒的な実力。

 戦局を見通し最大限に機体の能力を活かす技能。

 こちらはセラフや涼宮の管制による支援があると言うのに……それを超える勢いと戦術でこちにを蹂躙していく。

『ヴァルキリー3管制ユニットに直撃ッ! ヴァルキリー1はヴァルキリー4とエレメントを組んでくださいッ!』

≪敵戦闘機動解析―――システムを人間が超えるか≫

 セラフの驚きも無理はない…高性能処理コンピューターを超える戦闘能力など私が知る限り古島中佐以外にありえないのだから。
 だが同時にシステムも決して万能ではない事が解る、XM3にも挙動や反応限界がありそこを付けばどんな強力な機体でも容易く倒せる。
 セラフもあくまで”驚異的な算出で支援”するだけであり部隊の規模が大きくなれば支援する対象が増え難しくなり反応速度が遅れていく。

 そんな状況で動きを読めたとしても更に一歩を先を進む敵がいれば自然と負ける……問題は私達と英雄の圧倒的過ぎる実力差だ。

 これを覆さない限りどう努力しようとシステムや機体性能の援護があっても勝てるモノも勝てるようにはならない。
 ―――英雄を超えるか難しいが私達も伊達にヴァルキリーズ(戦乙女)の名前を名乗ってはいない、必ず追いついてみせる。


『貴様が残りの二機…私が隊長機を取る……良いな?』


『―――』


 テルミドール大佐がこちらの合流を防ぐ魂胆らしい…ならば一騎打ちで一矢報いるッ!


「ヴァルキリーズを…初風を舐めて貰うのは今日までだッ!」


 36mm・80mm・120mmの一斉砲撃をセラフの砲撃修正の援護を受けながら放つ。


『新型OSだからこそ出来る擬似QB(クイックブースト)か、思ったより使えるな』


 QBと呼ぶあの噴射で左にFファルコンが消えるが…その機動は連続して同一方向には出来ず噴射剤の有限燃料ではそう何度も気軽に使えるものじゃない。
 これまでに使わせた回数は九回だけだがそれでも瞬間的な全力噴射で消耗する噴射剤の総量は熟知している…そしてこれ以上の左への回避機動は出来ない。

 80mmを背負った担架がセラフの処理でテルミドール大佐の機体を捕捉し捉えた。

 あとはこちらが算出した右へとQBで辿り着く位置に再度砲撃すれば大破はさせれなくても被弾くらいは――――――

『おい…アナトリアの』

『―――』

 こちらを向いていた筈の大佐の機体は私に背を向け装備している突撃砲の銃口を宗像に合わせる。

 ―――同時に被ロックを告げるアラートが鳴る。

 驚愕するより速くテルミドール大佐の機体が影になっているが宗像に背中を向けているオブライア大尉の突撃砲の銃口がこちらを捉えている。
 意図は理解出来るがそれでも今の二機はお互いがお互いを狙い撃つ敵が見事に重なり、このまま撃ったとしても味方機に直撃するだけ。

 だが万のBETAを相手に生き残った二人の連携ならは必ず成功させる……私の直感はおそらくこの戦いを見ている人間ならば誰もが行き着くだろう。
 もしこの攻撃を回避されれば同士討ちするのはこちらだが、それでもこの瞬間にしかおそらく好機はやって来ない。


「宗像ッ!躊躇うなッ!」


 一瞬の迷いが倒せる瞬間を逃す。

 たとえそれが味方を失う結果でも……迷う訳にはいかない。


『了解ッ!』


 返答の言葉と同時に斉射。
 更にXM3のキャンセル機能を使いお互いの攻撃が当たる前に機体を上昇させ退避する。
 過信する訳では無いが頭上を取り上昇回避は頭から弾を降り注がせれ、頭上を一度取ればセラフの演算による追撃も可能。

 ……勝てるか? いや……勝たねば中佐の背中に追いつけない。

 ―――だが英雄はあり得ない動きでこちらを撃破した。


 二機のFファルコンは跳躍……お互いの機体の”足”を合わせコンマ数秒とズレル事無くお互いの機体の足裏を蹴り噴射突撃。


 戦術機の動きは無数のパターンの塊であり少なくとも友軍機を蹴り三角飛びをするなどと言う機動を組み込むのはあり得ない。
 もしお互いの機体を壁代わりに飛ぶ瞬間が少しでもズレれば空中で無様に墜落するだけだと言うのに…英雄はそれをこなして見せた。


『惜しかったな…まぁ時間潰しにはなり始めたな』


 反応が遅れた……抵抗するよりも早く36mmの至近距離連射で腕を破壊され、そのままゼロ距離で管制ユニットに直撃。
 セラフの演算ですら導き出せなかった回避手段と前線の激戦で裏付けられた二人の英雄の信頼とコンビネーション。 
 まったく勝てない……今でも『惜しかった』と言われているが本人達からすれば時間潰しの有象無象の雑兵の一人に入るのだろう。
 強化装備の身体を痛めつけるこの異様な縮退が私が行き着いた【戦死】を簡単な痛みで教えてくれる…この痛みはもう味わいたくない。


『ヴァルキリー1・3管制ユニットに直撃……大破、状況を終了します』


 シミュレーター台から全員が息絶え絶えに出てくる。
 この痛みを体感するようになって数ヶ月になっても慣れる事が出来ない、むしろ次第に痛みに敏感になり始めてる。
 むしろ私達の間でこの痛みは女の象徴を奪う最悪の異物であり……そしておそらく……

「大尉~~」

「……どうした渚」

 痛みによる涙ではないけどナイアガラの滝の如く号泣している渚の言いたい事は解る。
 むしろ女所帯であるヴァルキリーズだからこそ言え…そしてだからこそ危惧するモノ。

「まっまた胸が……これで2cmも小さく」

「CからBに戻ったね、中佐ってもしかして胸ない人が好きだからこんな装置を……」

「…変態だね…きっと昔いた部隊の隊員も貧乳の集りだったんだよ、私は関係ないけど」

「そりゃあ葛城は元からあってないようなモノだし、むしろ宗像から胸を取ったら本当に男になるわね」

 中佐の死を再現するアレの所為で確実に胸が縮んだ……私や速瀬は幸いまだ縮んでいないが……
 もし小さくなったら姉さんに勝てなくなる所かアイツに振り向いてもらえなくなる、それだけは避けないと。
 でもこんな事態を予想して造ったと言うならば幾等強くなる為と言えど絶対に中佐を赦すことは出来ない…する訳にはいかない。


「コジマが自慢するだけあって中々の腕前だが……まぁまだまだだな」


 本当に四十代の中年とは思えない若々しい外見と声をしているテルミドール大佐。
 オブライア大尉と共に一個師団のBETAを撃破したと言うおそらく現状最強の衛士であり、そしてこの基地での最高階級の前線衛士。
 これでも二時間ほどシミュレーターで戦いこちらは疲労困憊に対し…あちらは汗一つかいていない、むしろ平然としている。

 もう一度言うがテルミドール大佐は四十代…オブライア大尉に至っては五十になる高齢衛士だがまったくそれを感じさせないタフさを誇る。

 そして年の功とも言うべき圧倒的な実力はまさに英雄と呼ばれるに至るモノがあるが、対人に対しても優れすぎている。
 敵対するような事態にならねば良いが……もし敵対するような事になればいったいどれ程の衛士が立ち向かえるか解らない。


「まぁ…なんだ? ありじゃないか……お前達も磨けば光る宝石の原石みたいで」


 否定したと思った矢先に妙な肯定の仕方をするテルミドール大佐。

『大佐・伊隅大尉、副指令が至急来るようにと連絡がありました』

 涼宮の放送でテルミドール大佐はそのままシミュレーター室を後にし、オブライア大尉と私達が取り残された。


≪テルミドールはコジマが散々自慢していた君達に期待しているんだよ…素直ではないのが解り難くさせてるんだがな
 それより伊隅大尉も急いだ方が良いのではないか? コジマの話では香月副指令は随分と恐ろしい人と聞いているが≫


 もう一人のアナトリアの英雄であるオブライア大尉は…事情があったとは言え戦友を殺し、そして恋人を先の戦いで失った。
 そのショックで言葉を失い人と話すのは身振り手振りのジェスチャーと手話であるが……手話を軍で教えられて良かったが流石は片割れ良く解ってる。

 しかし中佐が私達を自慢していたとは少々恥ずかしいがそれだけ私達の実力を信じてくれると言う事だ。

 だが気になるのは―――

「大佐やオブライア大尉はトルコの方ですが…日本人の古島中佐とはどう言ったご縁で?」

≪コジマとは私は若かった頃に父親と少し縁があってその時に色々とな…最愛のフィオナの父である博士と色々と研究仲間だったと言えば良いか≫

 ―――もう少しゆっくりとしてくれなければ見逃しそうになるが…どうやらそうらしい。

 古島中佐の父親が科学者と言うのは驚きだが、確かにあの機械に対する知識は独学では到底不可能であり恩師と言うのは必要。
 となるとテルミドール大佐も同じように当時から軍人と科学者と言う事で色々と接点を持ち、そうして知り合ったという事なのだろう。
 でもあれ程の開発の基礎を築き上げた人物の発明品が息子の手によって完成されそして少しずつ認められてきているのは中佐としても嬉しい限りだと思う。


≪それより大丈夫か? 伊隅大尉も呼ばれていた筈だか?≫


 この言葉(?)にハッとし急いで副指令の下に向う。

 散々他人に時間でとやかく言っている私が時間に遅れるなんてあってはいけない。

 急いで副指令の下へと向うが……もう少しゆっくりするべきと後で後悔する事になった。 


 視点:お茶会

『甲21号…佐渡島ハイヴに対する間引き作戦か』

『【翁】・【甲虫】、有澤重工の動きはどうなってる』

『【先駆者】の要望通り間引き作戦には少数だが試作A-10改の【雷雲】も間に合いそうだぜ…アナトリアの奴と【団長】の大鴉も間に合いそうだな』

『【先駆者】の初風は内部構造の交換で組み立ては間に合いそうにない……間に合って一個中隊規模の凡人仕様:初風が限界だ』

『新型OSも【翁】と俺のお膝元が限界…さて次の戦いでどれだけ被害が出るか楽しみだな』

『しかしプロトタイプを使うつもりか? あれは【紅】でも死に掛ける代物だが……企業に対する牽制位にはなるだろう』

『でも【人形】よ…お世辞にも護りきれるか知れねぇ試作新型強化装備とセイフティーのないAMSだぜ、幾等本人が良いと言ってもよぉ』

『まぁ粒子炉は最後の手段だ、あくまで水素機関だけの戦闘が何処まで通じるかのテストとこの世界の初めてのAMSデータ収集が目的だ』

『そこは【壊れ物】がなんとか実用に耐えれる物を作ったと信じよう、仮にも我々と敵対するならばどうなるかは……知っているだろう』

『やれやれ血気盛んで困るな…だがプロトタイプをチラつかせ企業から莫大な資金と資源を奪えばAFも夢ではないからな』

『……犠牲』

『おい不吉な事を言うな【名刀】…ところで本当に良いのか? 今なら彼女の仇を討てるんだぞ?』

『詮索無用―――未来…過去……離別』

『………なら心配ないな、だが殺したくなったすぐにでも言え―――傭兵も邪魔だからな』

『誰がその後始末をすると思っているんだこの若造が』


『『『『『【翁】』』』』


『こっの…准将と言うのがどれだけ動き辛いと思っているッ!』

『私は国連大佐だ、帝国准将の辛さなど知らんな』

『俺も国連中佐で後ろ盾の女が色々と利用しているつもりらしいが……まぁ自由の為に利用させて貰うさ』

『情報収集の為に動いているかに理解出来ない訳ではないが出来んな』

『小さな工場社員だしなぁ』

『……補佐官…安心』

『………もぉ良い、ところで【先駆者】・【人形】と少し話したいから席を外してくれ』

『珍しいな…なら次に話すは間引き作戦で生き残れたらか』

『…就寝』

『なら俺も明日が早いから失礼するぜ』


『さて……帝国の殿下の影武者であり実の妹である少女が国連への人質のような形で行く事になった』


『正確に言えば帝国の要人の娘で固められた連中だな』

『帝国も必死だな…そしてお姫様を邪魔に思っている者達も居るという事か』

『…………帝国も一枚岩ではないからな、それで丁度【紅】の歳が近いのを利用してこれらとの接点を作って置こうと思ってな』

『その為にその基地の副指令に近く、お前と繋がっている俺が上から見つめる役であり【紅】は同じ訓練兵としてか?』

『成程、ならこちらで情報改竄と【紅】への連絡はつけておく…そちらはそちらで巧く頼むぞ』

『了解した…さてあの女にも一働きして貰うか、良い女は働いてこそ光る…そして親は子に弱いのは摂理だからな』

『まぁこちらでも巧くやろう、仕損じるなよ? 我々の未来を掛けているのだからな』

『わざわざ【団長】に黙って実行計画を練るあたり自信がないんだな』

『策謀は【先駆者】・【人形】が担当……ワシ等は実働部隊よ―――あとこちらで斯衛の動かせる部隊も出せるように交渉しておく』

『帝国ご自慢のロイヤルガードを出陣か、私も出来る限り協力はしよう』

『さてオルカの胎動を始めよう』


『『『全ては人類に黄金の時代を…………』』』


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 とりあえず一言……設定集(人物集:未完)だけで二話か三話分のPV稼げるって凄いぞ設定集パワーッ!?!?

 慰め程度の戦闘も入れられて作者的にはとりあえず保身完了できましたし、とりあえず影が薄くなり始めてる国連の方々も少しだけだせて何より。
 でもだんだん本当にコジマの演技が外れてきて終いには天敵としてのヤバイ人格を早くから出してしまって…かなり書いてて崩れてる気がしないでもありません。

 そしてとりあえず台本書き型のお茶会を導入してみますが正直言って無茶苦茶怖いです。

 以前練習などを書いていたサイトでは『台本書きは死ね』みたいな風習があって書くだけで批判と罵倒の嵐でした。
 努力を重ねて今に至っていますがお茶会は描写を入れれないので誰がどう話しているか判断させるのが増えると難しくなってきます。

 とりあえず今回だけ導入してみます……出来れば感想で『こっちの方が解りやすい』・『台本書きは止めよう叩かれるよ』と言われると助かります。

 とにかく解りやすいの意見が多ければこれからの導入していきます、解りにくいが多ければ数日して修正してこれ以降の使用はしません。
 何事も試してみるモノと踏んでいますが今回のこれで大荒れしないと嬉しいです……昔パクリされた側の騒ぎで大荒れの対応で死に掛けましたから。
 本当に荒れた際の対応って難しいし、叩き合いになってそれこそ傍観していても脂汗が出て気分が悪くなるので本当に今回のこの試みは怖い限りです。
 そして次回は間引き作戦―――原作で言えばA-01で作者オリジナルの三人が死ぬか死なないかの瀬戸際である戦いになる世界と因果律者との戦い。

 11月4日 台本書き型お茶会修正



[9853] 二十三話[英雄の光・凡人の恐怖]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/11/11 20:37
 視点:コジマ

 【間引き作戦】

 BETAの大規模侵攻はハイヴ内でのBETA総数が飽和状態に達する事によって起こる。
 ハイヴの大きさによっては数万規模・数個師団もの数が制空権を制圧しつつ、死も恐れずただ捕食する為だけに侵攻してくるなど地獄だ。
 この大侵攻を回避する為にハイヴやハイヴ周辺に展開しているBETAに攻撃を仕掛け、強引にハイヴ内のBETAを引っ張り出し数を減らす。

 いわば巨大な蟻の巣を突いてその総数を減らすのが【間引き作戦】。

 そして十二月も別れを告げようかと言う時に佐渡島ハイヴ間引き作戦の決行が帝国上層部によって決議され、今日…実行に移される。


『輝かしき新年を迎える為に、別れを告げる2000年を笑顔にする為に、ここに佐渡島ハイヴ間引き作戦を決行するッ!』


 帝国側の最高責任者たる青葉中将閣下が大層な演説を延々としているのがやっと終わるが……この男は銀翁曰く。


『先任の彩峰に比べれば中将に就く価値もない男だ…無能ではないが中将の位に相応しいほど有能ではないよ』


 先日そう教えられたがとにかく帝国・国連の立場に囚われる事無く的確な前線指揮と判断に期待したい限り。
 仮にも決行すれば一個艦隊の壊滅し戦術機・機甲隊が一個大隊が毎回の如く全滅するなど笑える冗談にして欲しいが、それがこの世界の定例だ。

 しかも今回は前回の戦いよりもある意味で状況が悪すぎる。

 まず中将が前線に出てくるのが問題だ……何分も先任たる彩峰中将は人格者として名高く沙霧大尉の態度や今もなお忠誠を誓う人々を見れば良く解る。
 対する後任の青葉中将の評価はお世辞にも高いとは言えず、先任の能力や人格の大きさが邪魔をしているのが良く解るのは本人だろう。
 だから自分を認めさせる為にも今回の作戦で大勝利を収めなんとしても旧彩峰派を解体へと追い込み、自分の勢力にするか帝国の亡霊の除去に尽力する絵が欲しい。

 ―――立場故の暴走と言う奴が起きない事を願う。

「コール:オルカ1よりオルカ隊各機へ自己紹介くらいはしておいてくれ」

 テルミドールが合流した事により本来のコールサインであるオルカへ鞍替えした、いやラストレイヴンがいる状態でハスラーワンなど名乗りたくないのが本音だが。
 間違いなくレイヴン相手にハスラーワンなどと言う名前を使うのは縁起が悪すぎる……後ろから撃たれなければ良いが心配だ。
 なお今回の任務の為に特殊編成される事となった国連・帝国混成特務隊が【オルカ】隊であり、香月博士の腹心・銀翁と親密である俺がオルカ1を担う。


『オルカ2:マクシミリアン=テルミドール大佐……それとオルカ3:オブライア=ネフェルト大尉だ、アナトリアの英雄と言えば解るか?』


 もう一つの懸念は国連から特務隊として派遣出来るA-01隊の存在であり、そして組み込まれているアナトリアの英雄出撃の報告が帝国に少なからず影響している。

 国連と嫌う者ばかりではない、この戦いが新兵な者達や巌谷中佐や銀翁のような国連派に属する衛士達にとってアナトリアの英雄の伝説は否応にも士気を高めてしまう。

 虚偽と言えど実際に数千のBETAをたった二機で撃破してみせるその人間離れした実力は人類屈指のエースであり、並みの強者ですら怯え屈服し敵対しない道を選ぶ。
 そんな英雄が二人揃って国連と言えど日本支部が引き抜いて見せて、今回の作戦のヴァルキリーズ九機とオルカ隊五機の一個中隊規模で戦線に参戦してくれると言う現実。
 これがどれほどまでに新人にとって心強く存在するモノかなど聞くよりも明らかであり、帝国派ですら帝国の為に力を貸してくれる事に立場抜きで感謝し共闘を望む。

 だが今回の参戦は銀翁准将が強く推した筈にも拘らず表向きには青葉中将の要請に国連が応じた…などと言う形に変わっているのだから驚きだ。

 今回の作戦に国連の部隊であるヴァルキリーズや俺が堂々と参戦出来るのだが、銀翁派である俺達にとって本人から【価値なし】の烙印者に使われるのは気分が悪くなる。

『こちらオルカ4:沙霧=尚哉大尉…かのアナトリアの英雄と共に戦場を駆けるとは、音に聞く武勇をお見せ頂きます』

『オルカ5:篁=唯依中尉です、今回は特例として共に戦う事となりますが英雄と共に戦えるとは光栄です』

 たった五機の一個小隊規模だが構成員はおそらく原作のマブラブオールスターでも勝てるか解らない最悪の編成だ。

 オルカ1:古島=純一郎中佐:新型戦術特機【山猫(プロトタイプネクスト)】
 オルカ2:マクシミリアン=テルミドール大佐:新型戦術機【大鴉(白色)】
 オルカ3:オブライア=ネフェルト大尉:新型戦術機【大鴉(白色)】
 オルカ4:沙霧=尚哉大尉:【初風(黒色)】
 オルカ5:篁=唯依中尉:【初風(山吹色)】

 以上・五名で構成されたあの世界最強と名高き傭兵とランク1にこの世界で最強クラスの実力を持つ沙霧大尉を組み込んだ…世界でも屈指であろう現オルカ隊。
 部隊のエンブレムは無論オルカ旅団のエンブレムである、夜空に連星が描かれ大きくORCAと書かれた旗であり全機の左肩に特注で描いてもらったのだ。
 そして俺が登場している劣化プロトタイプネクストの巨体も充分に注目を集めるが、今回は部隊の仲間四人に護られながらの性能実験となる。
 脳髄への直結回路を作り出し現状で可能な限りのAMS改造を行い、今もAMSを使ってネクストを操作しているが概ね順調で問題なし…バイタルや脳波も安全。

『ヴァルキリーマムよりオルカ1、ヴァルキリーズも今作戦に参加し支援します』

「了解した、ただし指揮系統は伊隅大尉に任せる…全機―――死ぬなよ」

 ヴァルキリーマム(涼宮)からの通信に少し緊張する……何せ今回の戦いで新人五人のうちの三人が持って逝かれるであろう戦いだ。
 おそらく予想以上のBETA侵攻が来るかそれとも地中侵攻によって戦場そのものを大きく分断されて各個撃破の危険に陥るかも知れない。
 原作でも詳しく語られていない以上はとにかく用心する必要があるが、今回は伊隅ヴァルキリーズも原作以上に奮起する必要がある。

 ―――原因は間違いなく俺にある。

 あの演習と戦いで全機生還と言う偉業と圧倒的な新型の可能性を示した伊隅ヴァルキリーズは表沙汰にならずとも、必然的にその存在が知られていった。
 国連が抱える精鋭部隊とも言われ、今回の作戦においてある意味ではアナトリアの英雄以上にその存在が注目され過度の期待に晒されているのだから。
 帝国において敵が少なかったと言えど完勝とも言える勝利に貢献した事が帝国にとって【利用価値のある存在】として認知させてしまった…だからこそ危険。

『シルバー1よりオルカ1へ…第三機甲師団の準備完了まであと少しだが準備は出来ているか?』

「オルカ隊良し、しかし1200mm超水平線砲を使用とは中将閣下の気合の入れようも凄まじい」

『そう言うな…あの男にとって今回の作戦は中将としての自分を確立させる為であり、せめて帝国に一花と意気込んでいるのだよ』

 戦意高揚の為に国連部隊の極少数の援軍要請や本来ならば殿下護衛の為に存在する斯衛達のごく一部だが戦列させているのも自分の為。
 無論だが銀翁の要請もあったからこその出撃としても今回の戦いに月詠中尉達は別戦域に参加している……中将権限と言えど月詠中尉まで出てくるか?
 言っておくが月詠中尉は優秀だが本分は殿下の大切な御剣冥夜を護る為の存在であり、信頼出来る護衛が死ぬかも知れない戦いに出すとは考えにくい。

 ―――青葉中将への貸しとして連れて行かせるにしても大き過ぎる。

 ―――銀翁准将の要望に答えて引き連れて来たにしても、銀翁准将や青葉中将の二名が来ているだけで帝国の士気は上がる。

 となると月詠中尉の出兵の意図が理解出来ない、ただ三人を鍛える為に出てきたにしては妙な感じが臭わない訳では無い。
 それに今回の帝国の士気の高さは異様だ…英雄・戦乙女隊・彩峰中将のお気に入り・中将・准将の出陣に斯衛出撃とはっきり言って異様なまでに上がっている。
 低いよりマシだが高すぎるのは決して良い事ばかりではない、ましてやここで下手な大勝を上げでもすれば勢いが出過ぎて佐渡島攻略を謳いかねない。

 母艦級の存在を知る俺にとって万が一にでも佐渡島が製造に成功していたら……侵攻軍は間違いなく崩壊する。

 今回の作戦でもおそらく対岸のこちらの動きを観測する役目の―――簡潔に観測級が存在しこちらの動きを読んでいるだろう。
 地中侵攻は既に始まっているが遠いのか深いのか解らないが、こちらの観測に引っ掛かるような馬鹿ではないらしい…懐に入り込まれれば機甲師団が壊滅する。

「セラフシステムのリンク完了…ほんの数分程度なんだ、持てよ俺の脳味噌」

 この世界で初めてのネクストであり、試作AMSと粒子炉を搭載した新型ネクスト戦術機【山猫】はオリジナルとは大きく外見と装備が異なっている。
 細くシャープな装甲で造られていた外装は有澤重工の方針である重厚で分厚く四角い……オリジナルのデザインが台無しだが装甲強度などの為には仕方ない。

 そしてオリジナルと大きく異なるのは肩甲骨に装備している可動兵装担架システムだ。

 これは言わばライフル系統の装備を背中に予備武装として装備しながら、そのまま肩武装として使用する事の出来るACにはなかった凶悪な武装。
 プロトタイプの圧倒的積載量と大きさによって可能となった武装補給コンテナを直接”背負っている”と言う事であり、これがオリジナルを超える由縁。
 四基ある大型可動兵装担架システムの内の二基・右肩と左肩の一基ずつにコンテナを装備し、武装を装備していない担架を使いコンテナから直接武装を取り出し使う。
 あるいは担架アームを操作し機動戦闘中の友軍機への簡易的な武装および弾薬供給と……これでは動く補給基地と笑いたくなるがエゲツナイのは確かだ。

 【新型補給コンテナ:左肩】
 【36・120mm突撃砲×4】
 【80mm支援速射砲×4】
 【36mm予備弾倉×4】
 【80mm予備弾倉×4】
 【120mm予備弾倉×4】
 【74式近接長刀×2】

 【新型補給コンテナ:右肩】
 【内臓式広範囲音波索敵レーダー×1】
 【内臓式広範囲地中振動レーダー×1】
 【補給水素散布弾頭ミサイル×2発】
 【レーザーブレード発生装置×2】
 【ガトリング予備弾倉×3000発】

 五連装ガトリングは有澤が俺の要望通り、長期戦闘用に五基の内の三基をレーザーユニット型・残り二基を実弾型と言う複雑な機構を見事造り上げてくれた。
 高出力ジェネレーターのエネルギーを内臓ブレードだけではなく常に使用する形として左腕のレーザーキャノンと右腕のガトリングで使用する安全形態の作成。
 有澤隆文もコジマ粒子に頼らない方針であったのか賛同してくれ、結果として水素機関で安全に戦う事も出来る形態というモノを造り出してくれたがそれで戦えるか。
 
 ―――俺の腕前次第か。


『こちら第三機甲師団:第二旅団・旅団長の遠峯大佐―――そこの大型機、応答されたし』


 一個師団(一万相当)であり、二個旅団(一個旅団:五千相当)である五千人の兵士とそれに相当する装備を預かる旅団長が直接通信で俺に通信して来ている。
 帝国の人物がそんな事をすれば本来の指揮権を持つ青葉中将や帝国派の連中から何をされるか判ったものではないと言うのに、わざわざ通信して来ていた。
 言っておくが俺は直属部隊もなければ今の部隊も本来はテルミドールの部隊であり俺はあくまで権力的な問題で隊長に座っているが……それでも俺か。

 1200mm超水平線砲の射線から全ての部隊が退避し、佐渡島までの射線が開ける。

 こちらの眼(カメラ)の倍率を上げて佐渡島の地上を改めて見るが……我が物顔で佐渡島の地表を歩く無数かつ複数種のBETA達。
 幸いな点は現時点で光線級が展開はせどこちらを認識していないのか無防備かつ照射される危険がない事がせめてもの救いの状態だ。
 あとは要塞級の足に押し潰されないように突撃・要撃級が歩き回り、その要撃級達に踏み潰されないように戦車級・兵士級・光線級が歩いている位だ。

「こちら大型戦術特機【山猫】・衛士は古島=純一郎・階級は中佐で今回の作戦では特務隊オルカ隊のオルカ1を務めています」

 馬鹿丁寧にモノを申してやる、今はとてもじゃないがアンタのような路傍の小石に構っているほど脳味噌の余裕がないんだよ。
 応答してやらねば不味いだろうから通信は開いたが向こうからは解らない様に銀翁への秘匿通信回路を開いておく…負担は掛けたくないが。
 網膜に映し出される旅団長の姿は意外にも若々しい女性だがこの世界の状況ならば女の身でも立身出世は難しくはないだろう。


『貴様が帝国に恥辱を味合わせ巌谷中佐や銀翁准将閣下に取り次ぎ帝国で色々してくれ、あの魔女の腹心と名高き蛆虫のような猫か
 随分と豪勢な機体に乗っているが所詮は最新鋭機に乗らねば戦えぬ臆病者と見えた…大陸防衛戦線でも仲間を盾に逃げ帰った口だろう
 聞けば三十程度で女ばかりで構成された特殊部隊を率いているそうだが随分と立派な逸物を持っているらしいな?
 まぁ魔女に尻尾を振り地位を確立している時点で貴様の程度など知れるが……成り上がりの非国民が一度活躍した位で良い気になるなよ』


 ……殺すぞ。

 劣化とは言えプロトタイプネクストの戦闘力ならば時代遅れの機甲師団なぞ数分と掛けずに全滅させる事など造作でもない。
 粒子炉を全開にし攻撃を仕掛ければ粒子汚染で歩兵を溶かし、あとはガトリングとアサルトアーマー展開で終わる。
 ましてやこの世界の兵装担架システムを利用したプロトタイプはオリジナルを遥かに凌ぐ継続戦闘能力と火力を持っているのだ。
 機甲師団の存在には感謝するが間違っても後ろから撃とうモノならば……その成り上がりの本領で皆殺しにしてやるよ糞女が。


『だが私も気高き帝国機甲師団の第二旅団を率いる軍人だ……戦場でのこう言った感情は抜きにして戦う事はそう難しくはない
 故に万が一にでも文句を言う前に死なれては困る故に事前に言わせておいて貰った、気分を害する事だろうが多くの帝国兵士を代表して言わせて貰う
 帝国軍全てが貴様の味方でなければ敵でもない、かのアナトリアの英雄に戦乙女隊・沙霧大尉まで率いる以上はそれに相応しい実力を見せてくれ
 何せ我々が乗りたくても乗れなかった戦術機を乗りこなしているのだからな? せめてその翼の希望の一つでも見せてくれ……我々は飛べぬのだから』


 軍人と言う職業も難しい事だな。
 まぁ言い訳してくれなければ本気で殺していた所だが、今の言い分からそんな気分もすっかりと醒めあげてしまった。
 確かに戦術機は適性を…才能によって選ばれてしまう部分がある、機甲師団のような死亡率の高い部隊にとって飛べる部隊は羨ましいそうだ。
 機動力を考えれば戦車など一度肉薄されればそれで終わるのだから尚更悪い…逃げれる連中への僻み・妬みをあえて言う旅団長も珍しい。
 さて有澤重工が今回運び込めたタンク型戦術機【雷雲】の総数は一個大隊であり少しクラックして編成を見れば、全機第一旅団に持っていかれているようだ。


『間引き作戦―――開始せよッ!』


 全ての準備が整い、全回線に対して青葉中将閣下の掛け声に呼応するように帝国軍から雄叫びが挙りだし一昔前の合戦の様相を思わせてくれた。

 こちらの海岸から少数のロケットと大型ミサイル降雷が発射され、一直線に佐渡島地表を目指すがこちらの攻撃を感知した光線級による迎撃で十割が着弾せず。
 簡単に言えば全弾迎撃されてしまったがこちらに気付いたBETAがノロノロと海に潜り始め、新潟の海岸で展開する部隊に緊張と実戦と始まりが告げられる。
 海中では既に帝国水軍が展開し今頃スティングレイ隊を初めとする潜水艦隊の魚雷に揉まれ数を減らしているだろうが、さて削れてどれだけか知れたモノか。


「さら貴女の投げキッスを無視しようとする虫共を見事駆逐して御覧にいれましょう……山猫を舐めて貰っては困る
 先程の文句の文句を言いたいのでぜひとも生き残ってくださると助かります、何せ我々では掃討と言うのは難しいですので」


 初手に対する光線級の迎撃など百も承知…本命たる1200mm超水平線砲の砲弾を光線級の迎撃から護る為の言わば陽動の一撃。
 あの武器は原作でHSSTを撃ち落した超射程狙撃砲であり、衛星との間接リンク射撃をすれば500km先の艦船を撃ち抜く事が出来る兵器だ。
 そして砲弾と砲弾を押し出す炸薬は有澤重工製の特殊弾……原作よりも遥かに素早く安定しつつ圧倒的な速度で対象を破壊する超遠距離砲撃武装。

 何処の誰かは知らないが1200mm超水平線砲を引き金を担っている戦術機の衛士が命令に従い発射、発射された1200mm砲弾は音速の領域で佐渡島モニュメントに直撃。

 巣の象徴を撃ち砕かれた事に怒りでもしたのか佐渡島からかなり…いやこの機体のレーダーで観測出来るだけで既に旅団規模のBETAが地表に現れこちらを目指し始める。
 さて最低でも旅団規模の相手と言うのがかなり厳しいが、今回の戦いの帝国の士気の高さと少しでも普及したXM3と戦場の部隊全てに期待し祈るしか方法がない。 


『それは期待するとしよう、焼き尽くすのがこちらの本分だ……なんならこの戦いでお互いに生き残る事が出来たら報酬に逢引きでもしてやろうか?』


 戦場の右翼を月詠中尉と白三人組・伊隅ヴァルキリーズ・中央を銀翁・真改と直属XM3搭載戦術機部隊・左翼をオルカ隊が主力として担う間引き作戦。
 帝国の戦術機部隊もこちらに展開し上陸してくるであろうBETAを迎え撃つ為に布陣し、展開そのものは完了…戦闘準備は完了している。
 戦術機の盾と機甲隊の矛が海岸線を睨む、海中では既にスティングレイ隊を初めとする潜水艦隊や部隊・海上の艦隊による魚雷攻撃が始まり海中の一方的な攻防。

 だが気になるのは佐渡島の地表に展開している光線級が馬鹿正直に海中に次々と飛び込み、一体たりとも佐渡島地表から狙撃照射して来ない。

 確かに初手による光線級のレーザーはインターバル中であり、戦艦・巡洋艦を初めとした艦隊の砲撃に晒されているのにまったく反撃しないのだ。
 おそらく海上の艦隊も不気味に思いながら地中から地表に際限なく現れるBETAに対して飽和攻撃をしているが光線級の抵抗は艦船ではなく砲弾に集中。
 従来の戦い通りならば今頃戦艦の横腹に多数の照射を受けて風穴を見せるか、あるいはメインブリッジに直撃し艦長達が見事に消し飛んでいるかしかないだろう。


「……お互い生き残れたらこの話を肴に杯を交わしましょうか――― 来たか」


 レーダーに無数の敵性反応を示す赤色が映りだし、海岸からノソノソと突撃級を先陣に要撃級などが姿を現す。
 だがあらかじめ進撃に備え埋め込まれている無数の地雷がまずやっと上陸した先陣中の先陣を一気に吹き飛ばしていく。
 まずは地雷原で出来る限り数を減らすと同時にBETAの上陸範囲を把握しそれに合わせて部隊の展開を再度調整する必要性があるのだ。
 とにかく海岸入り口では無数の炸裂音に合わせて連中の肉片が飛び散り、要撃級の腕が宙を舞うなど惨劇的な光景が広がり始める。


『HQより戦場全域の部隊へッ! BETA第一陣の上陸確認ッ! 攻撃を開始せよッ!』


 左翼の部隊を統括するHQより攻撃開始の号令が掛けられた……間引き作戦の始まりであり新潟海岸線を死体と残骸の山を築かせるであろう戦いの始まり。
 それに呼応するように自分を含めた青い味方の反応が動き始め、頭上を機甲師団を初めとする戦車部隊などの重火力による支援砲撃が駆け抜けていく。
 
 上陸直後の無防備な敵勢に降り注ぐ無数の砲弾・ロケット・ミサイルの総攻撃は海岸線を紅く染め上げてしまう。

 背景が相対的な色である青い事がその色合いを増徴させその紅さをより強調してくる……呻き声もなくただ獄炎と表現するべき炎の海に焼かれるBETA。
 撃ち出した砲弾の一部に焼夷弾を混ぜ込んでいたのかBETAの肉そのものを薪木代わりに盛大に燃え盛るが、確か焼夷弾の使用は歩兵隊なんかの影響で使用禁止では?
 だが連中も陸専用だからこそ地上ではその本来の力量を見せつけて来るつもりなのか、炎の中でも動き続ける赤い反応に一気に気が引き締まる。

 プロトタイプの五連ガトリングユニットのモーターを起動させ、発射準備を整わせ他の四機も既に各々の武器を構え戦闘体勢。


「連中を巧く足止めし後方からの支援砲撃で一陣を突き崩すッ! この帝国の地を踏ませた事を後悔させてやるぞッ!」


 炎の壁をその巨体でありながら並みの戦車よりも速く、なおかつモース硬度15を誇る突撃級が連中の定番通り先陣を担う。
 実弾に対してその圧倒的防御力を誇る前部を覆いつくすような甲殻は機動力のない機甲師団にとって脅威の何者でもない。
 もしこれでもう少し軟らかく・足が遅かったならば機甲師団を初めとする機動力のない部隊が辛苦を舐めさせられるような事態にはならなかっだろう。

 ここで奴等の足止めを担うのが俺達……戦術機部隊の仕事だ。


「第一分隊(オルカ2・3)は俺の後方、第二分隊(オルカ4・5)は俺の前方に展開し周辺友軍機の先頭を担うッ!」


 ―――さてここから地獄の始まりだな。

 一抹の不安は微かに計器が計測した振動が地下からの侵攻か解らない事。
 まさかな……連中に自分達の地下侵攻を悟らせない為にこちらの大砲撃などで起こる振動を隠れ蓑にするなんて知識がない…とは言えない。
 不安を取り除いておく為に帝国本隊のHQと銀翁にこのデータを送っておくが、さて帝国が国連の人間の進言を信じるかに賭けるしかないな。

 ―――死の8分……越えてやるか。


 視点:遠峯大佐

 実戦の始まりを告げる突撃と共に、実戦が始まった…何人か死ぬか解らない間引き作戦が。
 あの男……あれ程の文句を言った私に対して返しの言葉一つ言わずなんて、腰抜けとは思えないとするなら間違いなく”本物”の男。
 それにカラカイで言った逢引きの言葉に『お互い生き残れたら』なんて言い残すなんて……まったくあの夕呼の腹心に要られるだけあるわ。

「大佐、こちらに二千のBETAが接近:突撃100・要撃200・要塞10・戦車級および小型種多数ッ!」

「光線級が確認されていないなら我々で要塞級を殺(と)る、周辺戦術機部隊に機甲師団後退の時間を稼がせながら支援砲撃ッ! 距離を取り次第デカブツを殺るッ!」

 こちらの空域に展開しているのは五機編成のオルカ隊の他に武御雷編成の斯衛一個小隊・不知火編成一大隊・陽炎編成一個大隊・撃震編成一個大隊の総計一個連隊。
 一個大隊が36機編成でありこの何人が新人であるかなどこちらでは把握するなど不可能、もし各大隊に一個小隊(四機)ずついるならば一個中隊が当てにならない。

 ましてや今回の作戦にはトルコ共和国の英雄であるアナトリアの双英雄・帝国の伝説を叩き潰した古島中佐・光州作戦の生き残りである沙霧大尉・斯衛の篁中尉。

 はっきり言えばあまりにも希望になりうる存在が多すぎる。
 これだけならまだしも帝国の青葉中将閣下が全体指揮を担い、銀翁准将閣下が補佐官と共に専用の武御雷を駆り戦場に出てきてしまっている。
 軍の士気は最高潮とも言える状況であり戦場全体に展開している戦術機部隊も三個連隊の旅団以上・師団規模とも言える300機を超える戦術機が戦ってしまう。


「……凄い」


 戦闘指揮車輌のレーダーは戦術機部隊の間接リンクによってBETAの数および展開は把握しているが、青い反応が無数の赤い反応が作り出す森で生きている。
 カメラで映し出されている風景も今まで我々が苦戦してきた事をまるで嘘であったかのような戦いが展開されているが……特にオルカ隊は異様ね。

 そもそも30m級大型戦術機なんてモノが異様に目立つのに、右腕にガトリング・左腕に高出力レーザー砲を装備出来てしまうなどもはや戦術機ではない。

 五連装ガトリングから撃ち出されるのは実弾だけではなく、小さなレーザーの粒も混ざっていてそれが突撃級に対して今までにない程の効力を見せていた。
 突撃級の甲殻は実弾に対してはモース硬度15を遺憾なく発揮するが、レーザーのような高熱に対しては防御力が考えられていないのか甲殻が溶けそのまま中身も溶かされる。
 凄鉄(すさがね:A-10の和名)ですらやっと二基背負うのがやっとなガトリングユニットを【五基】を装備した専用ユニットを”片腕で”持ちながら正確無比な弾幕。
 眩い光が左腕に装備している規格外のキャノン砲から撃ち出され、射線上に存在した全てを溶かし異様な爪痕を残していく。


『隊長ッ! あの部隊なんなんですか!?』


 おそらく今こう叫ぶ衛士の言いたい事は誰もが理解出来る。
 前衛を担う分隊不知火二機が長刀と腕から造り出す光の剣……光線剣(レーザーブレード)が煌く度に突撃級や要撃級の屍が作られていく。
 今まで厄介でしかなかった突撃級の甲殻や要撃級の腕の硬さを硬さで対抗するのではなく、超高温による切断で破壊すると言う新たな道は圧倒的な勝利を見せている。
 基本的に帝国の長刀は他国のように【長刀そのものの質量で切る】に対して【技で斬る】と言う主流である所為で万人が簡単に突撃級などを切り捨てれない。

 だが派閥争いや製作者が国連などでこの戦いには極一部の人間にしか配給されなかった新型戦術機が装備しているあの剣は違う。


『特務隊だよッ! 斯衛が特務的に搭乗しているらしいがよ……何なんだよあの強さはッ! なんであんなに簡単に斬れるんだよッ!?』


 前衛を担っている二機は長刀の扱いに長けているのか、それこそ一度も斬り損ねる事無く次々と中級BETAを斬り捨ててしまっていた。
 だがそれとは異なり中衛もだが腕に取り付けられている発生装置からその刀身が姿を現す度に、技でも質量でもなく【熱量】によってBETAが斬り捨てられていく。
 長刀のような明確な実体を持たず短刀のように素早く振る事が出来るので戦車級などにも対応でき、それでいて長刀のように折れる心配が存在しないなんて反則よ。 

 折れる心配がなく、一方的に甲殻を斬り捨てる事が出来るその剣の輝きは帝国の新たなる姿を示すようで戦術機に関連ない私ですら希望と共に恐怖を抱く。

 もしあの剣が万が一にでも敵となれば……どれ程の装甲でも意味はなさない、分厚さで時間を稼ぐしか防ぐ術はないが戦術機は柔軟性と機動力が売り。
 こちらの反撃を容易く回避しつつ再度攻撃されればそれで終わってしまう……輝きはあまりにも希望である事におそらく本能が気付いてしまった。

『オルカ4は前に出すぎだ支援し辛いッ! オルカ5はレーザーブレードに頼りすぎだ、コンデンサー残量を良く見ながら戦えッ!』

 あの剣はそう遠くない内に必ず大きな争いの火種になるわ。
 それも強すぎる力を独占しようとする連中や派閥争いの切り札にしたがる連中が群がるのが確かになってしまう程の力を見せ付けている。 

 輝きは決して強ければ良いなんて事はない……英傑の光は凡人にはあまりにも強すぎる光なんだから。

『何で撃震があんなに速いんですかッ!? どうしてあんなに軽く動けるんですかッ!?』

『馬鹿野朗ッ! 余所見してる暇があったら英雄様の撃ち漏らしに気をつけやがれッ!』

 前衛の二機だけでなく、後衛を担っている二機……いやあの二機こそがこの戦場でもっとも強い輝きを放っている。

『HQ! あの二機が例の英雄かッ!?』

「その通りです、トルコ共和国:アナトリア方面防衛軍に所属し二機で一個師団規模のBETAを撃破し祖国延命の為にその命を国連に売り渡した二人の英雄
 まさに人類屈指のエースと呼べるその二人が国連軍オルカ隊として現在私達の目の前で戦っています……足を引っ張らないように注意しつつ戦ってください」

 四つの担架に背負った突撃砲と主腕に持っている突撃砲の計六丁の突撃砲と支援速射砲の一機の戦術機が持つには明らかな過剰火力が火を吹き続けている。
 肩のミサイルは今だ放つ事無く、それこそあんな物を肩に抱えた状態にも関わらずその動きは撃震とは思えない…いや撃震の改良機で大鴉って新型だったわね。

 とにかく手足が大きく厚く・不知火のような細腕なら大幅にブレてしまう照準はブレる事なく淡々にして凄まじい勢いでBETAを仕留めていく。

 前衛の二機に取り付こうとする戦車級を近寄らせない弾幕と突撃級や要撃級を接近させない弾幕の二種類を常に展開しながら大空を軽々と飛翔し続ける。
 上空にいる事で味方機が射線に重なる事はなく上から正確な砲撃が戦車級を仕留め続け、前衛が戦車級や横からの一撃に対して意識を取られる事なく戦っている。
 光線級が存在しないからこそ出来る滞空だがそれでも無数の敵の真っ只中を暴れまわる友軍機の機動を読み、それに当てる事無く敵のみを撃ち殺す。


『人間じゃない……あれが英雄? 化物の間違いだろ』


 その言葉には大いに賛同する。
 重い筈の機体が不知火よりも軽く・速く戦っているように見えてしまうなど……私の眼も衰えたのかしら。 
 速いは機動力ではなく機体の挙動の事…あの五機はそれこそ軽く流れるように動いているのに、他の部隊の機体がまるで児戯の如く重々しくギコチナイ。
 全身に重りを付けた状態のような圧倒的な挙動の差がそのまま戦果へと繋がるかのように、オルカ隊の五機は次々とBETAを喰い散らかしていく。

 ―――その戦う姿はシャチの群れが獲物を包囲し、ジワジワと自分の腹を満たすような錯覚を与えてくれる。

 ―――包囲している筈のBETAが、包囲されている筈の小さな五つの反応を掻き消す所かそれに次々と消されていく。


『安全圏まで後退完了、砲撃を開始しますッ!』

「要塞級を殺る、周辺部隊に【味方の攻撃で死ぬな】と打電しておけ……特に前衛で頑張ってる特務隊には口酸っぱくね」


 ひとまずの安全圏まで離脱した機甲師団だが兵士級・闘士級のような小型種は戦術機に群がる事無く、一目散にこちら目掛けて猛進してくる。
 歩兵や装甲車の弾幕で塞き止められてはいるがもし突破を許せばそれだけでも危険すぎる…そしてそれ以上に中級BETAの突破をさせる訳にはいかない。
 こちらの砲撃が要塞級を仕留めると信じ懸命に足止めをし続けている戦術機部隊の為にも要塞級は我々で仕留めなければならない。

 既に数機だが喰われたり、押し潰され戦死している衛士がいる。

 オルカ隊の活躍も目覚しいがそれでも次々と現れる増援を前に突破を許しているが、周辺の戦術機連隊も努力してくれている。
 だが戦車級に取り付かれ錯乱状態に陥り捕食される者もいれば、それを助けようとして味方の弾丸で戦闘不能へと追い込まれてしまう者もいる。
 要撃級の腕の直撃を受け粉々に吹き飛ばされたり、あるいは機体を上下に千切られ脱出しても運悪く逃げ切れなかった者と種類は多い。


「あの邪魔な要塞級を沈めろッ! 支援砲撃再開ッ!!」


 戦車・自走砲の主砲が・ロケット砲が・陸上の火力を担う私達の怒りを込めた砲火が一斉に火を吹く。
 完全迎撃を可能とする光線級の上陸は確認されず……つまりどれだけ乱射しようと迎撃される心配なく着弾率100%を叩きだせる。

 ノロノロと歩いていた要塞級の巨体に降り注ぐ無数のロケットの着弾によって炎に包まれ、肉片となりながら沈み潰れる。

 戦車隊の主砲によって無数の風穴を開けられ、その巨体を保ったまま地面へと沈み真下に存在していたBETAが推し潰れた。

 これを繰り返せば要塞級の巨体そのものが一種のバリケードを築き上げ、機甲師団などの安全に役立つ者へと化す。
 それに光線級が上陸されれば最後……戦局は逆転してしまいかねないからこそ、今の間に全力を賭すしかない。


『ハァハァ……オルカ1よりHQ、再度地下振動を確認…部隊に後退指示を』


 部隊ごと後退して来たオルカ隊の隊長……あの男がそう打診してきた。
 背負っている武装コンテナを開き部下の四機が次々と武装を交換していく……その為のコンテナか。

 全機無傷と言う奇跡だが、代わりに衛士の挙動について来れなかったのか機体は何処かしらボロボロに見える。

 更に息を切らしながら通信して来ているが確かにバイタルデータは決して良い数値を出してはいない。
 肉体的疲労・精神的疲労はもちろんだがあの軽い挙動は強化装備ですら軽減出来きると言う訳でないらしく、かなり負荷が掛かっているようね。

『オルカ2・3は射撃武装と弾薬を廻して貰うが、4・5は長刀と弾薬だけで大丈夫なのか?』

『問題ない…一本あればまだ戦える……弾薬よりも身体が思ったより厳しいな』

『私は…長刀と…突撃砲に弾倉を……一つ、すみませんオルカ4……私が無茶をしたばかりに』

 支援砲火の弾幕と戦術機連隊が今は壁として活躍してくれているが、それでもそう長く休憩はさせてやれない。
 常に最前線を担い難攻不落の壁役を演じてくれていたのには感謝するが……だからこそすぐにでも前に出て貰わねばならない。
 それに一言で『振動を観測したから後退』と言われても先程の総攻撃で起きた振動かも知れない可能性かせある状態で迂闊にラインは下げられないのよ。

 何処に? どんな振動? 規模は? 大きさは?

 それ等のデータが提出されない事には仮にも師団の分隊である旅団長の私の権限だけでは『はい解りました』と後退したくても出来ないのよ。
 ましてやこの戦場には中将・准将閣下が来ている事で大規模の指揮権は向こうにあり、あちらからの指示でなければ下がりたくても下がれない。
 上の納得させられるだけのデータでなければ撤退など出来ない……なによりアンタ達の活躍と存在が周辺部隊を後退させ辛くさせてしまった。 


『オルカ隊の休息を邪魔させるなよッ!』

『アンタ達ッ! たった五機に大隊が負けるようじゃ大恥も良い所よ、ここで踏ん張りなさいッ!』


 この通信のように散々壁役をしたオルカ隊の穴を補う為に…帝国の意地を見せる為に連隊が奮起してしまった。
 光線級の上陸を海中の艦隊や部隊が塞き止めてくれているのも悪影響で、脅威がいないのを良い事に高すぎる士気が悪い方向に向い始めてる。
 
 常に海岸線を砲撃可能ラインに抑えられている事と致命的な突破を許していない事が、機甲師団内でも後退を認めない雰囲気を作り出していた。

 それに下手に上陸を赦すよりもまだ海岸線を抑えられる方が戦場としても良く、水上の艦隊からの支援砲撃を受けれなくなればこちらの独力撃破を望む事と。
 支援ラインが崩れればそれだけ危険度は増加してしまい万が一の事態への対処がし辛くなる―――退かない事こそ正しいのよ…きっと、いや必ず。


「後退は出来ない…このまま海岸線を押さえ上陸直後の無防備なBETAを叩くのが”最善策”だ―――よって後退は許可出来ない
 それよりも補給が済んだならさっさと前に出ろッ! お前達が散々頑張ってくれた”お陰”で頑張ってる部隊がいるのだからなァ!?」


 最低と解っていても……私は彼等に真実を伝えてやる。

 『誰の所為でこうなっていると思っているッ!?』と遠回しに伝えてる為に。



『―――オルカ1了解…オルカ隊は再度前に出るぞ、英雄様の宿命って奴らしい』


 心の奥底で『すまない・ごめんなさい』と言う。

 たとえ伝わらなくても、懺悔くらいせねばならないのは解っているから。

 でもそれはアンタ達が連れてきて、持ってきてしまった罪のようなモノなんだから…背負って貰うわよ。


『……謝る必要なんてありませんよ』


 そんな言葉を残し山猫は今一度巨体を叩き起こし、僅かながらの分け前をボロボロの配下に手渡して眼に炎を宿した。
 まるで山猫が立ち上がり目の前の戦場を見る姿が人間そのものに見えてしまう程に人間臭く…何処か脆そうだった。

 機体も補給? 僅かな弾薬・武装を受け取って噴射剤補給もしてやれない事が補給なんて言えるの?

 外見ではなく中身から悲鳴を挙げ始め……私達の為に、今も盾となっている無数の群れの為に山猫は立ち上がった。


「……大佐」


「念の為に全部隊に後退準備を指示・それと中将・准将閣下と向こうのHQにこのデータを送信しろ……無駄だろうけど」


 あまりにも長く感じる戦場。
 勝てると本能が確信しているのか、身体が熱く高揚するのが良く解っていた。
 そしてこれが指揮官には決してあってはいけない感情と状態であったとしても……私は興奮している自分を諌めれなかった。

 ―――私には愛用している懐中時計がある。

 ―――時計の針は……8分を過ぎていた。

 だが戦闘は終わらず、むしろ長期戦の兆しすら見せ始める始末…雪もない新潟の海岸線は砲火の轟きが消えない。
 あと何分戦えばこの戦闘は終わるだろうか? そんな考えを生む時計を懐に納め、再度陣頭指揮を執り始めた。
 観測されていた旅団規模が水中で揉まれ生き残った残党最後尾の上陸に合わせて再度一斉射撃、上陸直後の無防備な所を狙うと。

 これを私は後悔する…正式な命令を下した中将閣下を怨むと……取り返しのつかない事態への引き金を引いた―――と。


□□□


 何か戦闘らしくない……そして無駄に長いキャラの考えや戦場の説明で二話構成に
 そして今回はオリキャラ使っての凡人から見た英雄や絶対強者を書けたけど、何かこう凡人故の恐怖が書き切れてない気がします
 でも戦場の強い奴は居て活躍してくれるのは決して良い事ばかりでない・人間は一枚岩にはなれないと言う内容が書けたのは満足です

 そういえば久々にお茶会なしの話を書きました……アレって作者としては物凄く楽なモノなんですけどやっばり甘える訳にはいきません

 あと来週木曜からから執筆速度が大幅に遅れます

 理由は新作の戦極姫のPSPを買うからです、作者の天下統一モノは引き抜き・暗殺・賄賂・裏切りのオンパレードなんですけどコレはそれがないらしい
 ならば正々堂々と戦いながらギャルゲーしてやるぜッ! と戦国物だから買うと短絡かつ直感的に決めましたので……そしてシミュレーションなので長くなります
 あと【飯盛り侍】と言う漫画を探して色々と古本屋を廻ったりして時間を喰うので、いや作者のドツボに入る料理漫画で金がなくて買い逃した作品
 重版ないわ何処にも在庫がないわで泣いてますけど努力して探してます……いつかもっと都会のデカイ店で探したいです、通販関係はまったく出来ない人間なんで

 無論ゲーム買って最初にする軍勢は毛利家・中四国は作者の地元ですから、あと【飯盛り侍】の主人公の弥八さんは九州の人間
 このペースだとこれを書き終わるのがいつか解りませんが次回作は戦極姫×飯盛り侍(弥八さんのみ出演)×オリ主と行きたいです
 それでは無駄に長い後書きでした 



[9853] 二十四話[覆らぬ因果・変わる歴史]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/11/22 22:35
 視点:???

 攻撃観測・攻撃観測

 エリア21に攻撃を確認―――観測開始 

 観測終了

 エリア1へ緊急報告 

 以前より観測されつつある非因子因果律体を確認

 四体の内二体をエリア9で確認・内二体をエリア22にて非因子因果体と確認済み

 最重要存在指定……一体の因果律体を確認

 情報照合を申請―――申請承諾確認

 各エリア戦闘における観測なし

 各エリア捕獲解析調査における調査確認情報なし

 因果事変より情報確認……対象の情報なし


 …………対象因果律体の情報なし


 よって世界を変えうる存在と認識・捕獲許可を申請

 ―――捕獲許可の了承を確認

 世界改変を伴わない現存ユニット出撃

 最大級ユニット出撃開始

 対象の捕獲を最優先事項と認定

 対象の脳髄回収を最低条件と認定・障害の排除承認

 行動開始


 視点:コジマ

「オルカ4・5は無茶をするな……無理に倒さず向ってくるのだけ倒せッ! 持たないぞッ!?」

 常人である沙霧大尉と篁中尉も最前線で絶えず現れてくれるBETAを良く相手にし、確実に斬り捨ててくれるがバイタルデータは危険域手前となっている。
 あらかじめ主腕が持っていた長刀は酷使について来れずへし折れ、先程の補給があったとは言えど既に残った本数は二機共に残り二本しか残っていない。
 本来ならば武装限界でもっと後退させてやれるがレーザーブレードの存在が本人から戦う意志を奪わない、精鋭で周囲からの期待に答え護ろうとする意志もそうだが。

『しかしッ!』

「自分が頑張らないと周囲が死ぬとでも思ってるのか? 馬鹿野朗ッ! そういうのは死ねなかった連中の自惚れなんだよッ!!」

 こんな所で沙霧大尉に死なれたら誰が爆発寸前の彩峰派を抑える? まだクーデターを起こされるのはこっちとしても利益にならないんだよ。
 戦闘開始から既に10分を過ぎ【死の8分】を超える事は出来たが、BETAが退いてくれる訳でもなくレーダーには無情なまでに波状攻撃が展開されていた。
 おそらく1200mmのモニュメント攻撃がBETAにとって余程癇に触る行為だったらしく、休む事を赦さない攻勢が戦術機部隊を襲っている。
 そんな状況で気負いすぎる沙霧と実力がもっとも劣っている篁中尉がリンクス組みの足を引っ張っているのは確かであり、その所為で無茶をするのもあった。

「オルカ5も現実見ろッ! 後ろにはお前の牙がいるんだろ…なら自分の事を考えて少しは手を抜けペースを考えろッ!」

『ハァハァ…りょう…かい』

 出来る事なら常人組みは後ろに下げてやりたい……死なせるにはまだ利用もしてなければ、クーデター回避すら出来ていない。
 砲撃戦が主流のリンクス組みと違い常人組みは常に最前線で一体でも多くのBETAを切り裂き、その戦う姿は舞踊ではなく死兵の悪足掻き。
 より一体でも多くのBETAを道連れにせんと最後の一花を咲かせようとするようで見ているこちらてとしては冗談抜きで心臓に悪い。


「オルカ各機は私から離れるなよ……」


 気取って口調を何とか軍人に戻そうとするが、どうやらそんな余裕は何処にもないらしく怒鳴り声が多くなり人間としての冷静な判断が下せなくなり始めた。
 リンクス組みはあの世界の記憶とリンクス強化に順ずる肉体能力があるから耐えれているが、それでも疲労しない訳では無い。
 なにより武器と弾薬が心許無くなり始めた……最前線で一体でも多く仕留める役目だからこその消耗でもそろそろ不味い。
 最前線を担うと言うのには慣れているが、戦場と言う場所をストレスとして受け付けなくなった身体でも別の事で精神的に”狂い”始めた。


【試作型AMS】
【脳髄に専用の改造とコネクター処理を施す事で使用する事が出来る人機一体を可能とする特殊制御システム
 このシステムを介する事で機械を自らの手足と同じように動かし操作する事が出来る様になる画期的なシステム
 だが脳に機械と言う異物を肉体と理解させ続ける事と機械操作に伴う情報処理によって起こるストレスは比類ない
 また情報処理をし続けると言う特質性から”生まれつき物事などを【情報】として処理出来る”才能が必要とされてしまう
 この才能と素質を【AMS適性】と呼び、これが高い程このシステム使用に長時間耐える事が可能でありまたより自然な動作が可能となる
 適性の低い人間がこのシステムを使い続ければ重度のストレス障害や病気の併発などに見舞われ、必然的に短命である事を余儀なくされる
 なおこの適性は薬物投与・致命的な精神汚染によって脳を自ら書き換える事で上方補正する事が出来るが人道的にこれを行う事は危ぶまれる】
  

 AMSリンクさせて戦う事は問題ないが、この使用に伴う脳味噌に叩きつけられる情報量に自慢の処理能力が追いつかなくなって来る。
 たとえば100mを全力ダッシュしても人間はそれこそ無意識に『あぁ疲れた』程度で身体の何処が? どんな風に疲れたかなんて知らない。
 だが機械の身体はそうも言っていられない。
 100m走った事で機械部品がどんな磨耗をしたか、何処がどれだけ磨耗したか、脈拍や血圧がどれだけ上がったか、それを情報として叩きつけられる。
 そんな情報計算を四六時中させられると言うのはストレス以外のナニモノでもなく、これが原因でこのシステムは医療用として用いられる事はなくなってしまった。
 だからこそ軍事用に転換され絶大な威力を発揮するのだが、それでも一個中隊規模の情報を常に見ながら数千のBETAを捌きつつ自機の事も理解し続けるなんて仕事。
 ハードワークどころではない………常人ならば数分でストレスで潰れるか精神的に狂うか約束出来る、ひとえに改造のお陰で持ち堪えているもんか。

『……大丈夫かオルカ1』

「思ったより良くない……セイフティー1つないだけでかなり負荷が大きい」

 システムによる脳の崩壊を防ぐ為にセイフティーシステムが存在する。
 内容はごく簡単なモノで過剰な情報を流さない・処理機械による選別で出来る限り脳への情報量を下げ崩壊を防ぐと言う、簡素だか無ければ死ぬ最後の防壁。
 このAMSには試作でありより高度な操作を求めた事によってこのセイフティーが存在せず、絶えず軽度の損傷などでも情報が頭に叩きつけられる。
 逐一擦り傷程度の事まで見る必要はないんだが……それすら頭に流し込まれ続けるのだからいい加減…脳がアラーム代わりの頭痛を発生させているのだ。

 更に俺はヴァルキリーズの機体・衛士の状況やオルカ隊各機の状態・武器・弾薬の残量などにも全て眼を通していた。

 本来ならば安全地帯からこれをCPが行うのを、未来と因果の末端を知る事が災いして前線で戦いながらずっと見ていた。
 他人など知った事ではないリンクスが他人を気遣い戦い続けるのはそうとうなストレスらしく、確実に精神的な磨耗が危険域へと近づき始めているのに後退出来ない。


『HQより戦術機部隊へッ! 次のBETA上陸に合わせて支援掃射を行うッ! 時間と爆撃範囲に注意し持ち堪えてくださいッ!』


 HQより情報が転送されて来た。
 支援砲撃の範囲は幸い俺達の眼と鼻の先であり、水中艦隊から送信されてくるBETAの詳細な移動データから上陸時間も割り出されている。
 あと二分ほど持ち堪える事が出来れば支援砲撃の攻撃範囲からの撤退を理由に正式な後退も可能であり、コンテナの交換や安全圏への退避が出来る。
 いかに英雄だろうと味方の砲撃で殺されるなんぞ堪ったモノじゃない……脳が悲鳴を挙げ始めているので個人としても早期撤退したい。


「全機ッ! あと少し持ち堪えろ……それで仕事も終わる」


 実弾ガトリングの直結弾倉2000発は既に撃ち切り予備弾倉の3000発も使い切った。
 予想以上に36mmとガトリングと言う事で弾道安定がせず突撃級の甲殻に阻まれ突撃級には役立たずだが、他のBETAには効果絶大だった。
 とにかく弾幕展開量が桁違いであり、戦車級や要撃級など近寄らせる所か瞬時に肉片へと変えてやれたが消耗が激しすぎる。

 今はレーザーユニットの三基で継続的に弾幕を展開しているが、稼動モーターと砲身が持たない。

 そもそもガトリングは砲身稼動をさせる為のモーターユニットが存在するが五基ものガトリングを稼動させるなどモーターが長時間持つ訳が無い。
 冷却剤がある訳でもなく長時間の後退・休息出来なかったモーターは断続的な稼動でオーバーヒート寸前のを騙し騙し使っているようなモノだ。
 こちらのガトリングの弾幕が薄くなって一気に四機の負担が増えたが、既に計器が叩き出す数値で砲身融解していないのは奇跡のような数値。
 モーターもあと少し無茶をさせればオーバーヒートによる大破か長時間使えなるなるなんて……笑えない冗談が待ち構えている。
 幸い水中部隊の活躍で光線級の上陸も無く、現在厄介なのは要撃級と戦車級で突撃級がまったく上陸して来ないと言う奇跡があるから持ち堪えていた。
 要撃級の身体を・戦車級の身体を無数の小粒が撃ち貫き、死骸のバリケードが出来上がるがすぐに乗り越えられ踏み均されてしまう。

『オルカ2・3ッ! 弾薬が切れたッ!』

 大鴉はミサイルコンテナを肩に背負っていたが、あれにはミサイルは入っておらず代わりに予備の弾薬を詰め込めるだけ詰め込んでいた。
 だが突撃砲・支援速射砲の計六丁の銃火器の継続的な弾幕による弾薬消費は、当初の予定を遥かに上回ると同時に戦闘の長時間化で遂に弾切れ。
 主腕に持っていた突撃砲を放棄し、レーザーブレードを展開し俺の機体の後方を護るように接近戦をするが……あの二人は接近戦は不得手だ。
 元々中距離戦の達人である二人は下手な奴等よりはよっぽど出来るが、達人や慣れている連中から言わせれば決して巧いとは言えてやれない。

「さっきの後退時のコンテナ補給はラストだッ! 肩に背負ってる奴はッ!」

『そんなモノがあれば使っているッ! あと1分30秒ッ!』 

 レーザーライフルの一丁でも持って来るべきだった……大規模戦闘で先陣を担うなど予想してなかった事がここに来て大きく響き始める。
 更にまともな熟成訓練も出来なかった本人達の要望でレーザー系統の武器をコンテナに詰めて来なかったのも、俺の頭がボケてたからだ。
 もしもっと最悪の状態を想定しレーザーライフルの一丁でもあれば、現状はもっと違っていただろうが、そんな夢ごとを語っている余裕は皆無。

『オルカ2・3は…これをッ!』

『私達は…一本と……レーザーブレードがあれば、持ち堪えれます』

 沙霧大尉の長刀をテルミドールに、篁中尉の長刀がオブライアに投げ渡される。
 本当ならば最前線の二人が持っておくべきだが、常に使う事が出来る長刀なしで戦うなどはっきり言って現状では自殺行為。
 レーザーブレードもコンデンサーの貯蓄とジェネレーターの発電が間に合わなくなれば、使う事が出来なくなり丸腰となってしまう。
 これを回避する為に二人がとった……取ってくれた懸命な行動で何とかリンクス組みも持ち堪えれそうだがどれだけ持つか。

 中身が空になった左肩のコンテナをパージし、足下に群がる戦車級を押し潰し、取り付いてくる奴等を担架アームを使い削ぎ落とす。

 前衛の常人二人は要撃級の相手もあると言うのに、最後の一本を折る事無くレーザーブレードとの併用で次々と変わらず仕留めていく。
 討ち取ってきた数を物語るように機体元々のカラーリングを感じさせる事が出来なくなる程まで浴びた返り血が撃破数を物語っている。
 更に本人達の要望で短刀を人間で言う腿(モモ)の部分に増築し、長刀・短刀・レーザーブレードの三種類を巧みに使い分け戦車級にも対応していた。

『助かるッ!』

『――――――!!』

 中衛のリンクス二人が砲撃主体だからこそ、そこまで返り血を浴びていなかったがこうなっては…もう浴びないと言う選択肢は存在しない。
 白いカラーリングを返り血で赤く染まっていき、レーザーブレードで蒸発した血がまるで霧のように周囲に漂い始めていた。
 そして視界に映る【オーバーヒート】の警告文字と共にモーターが沈黙し、気付けば銃口から白煙がモクモクと吐き出されていた。

 硝煙の煙・死体の匂い・微かに拾える帝国衛士の断末魔・各自の獅子奮迅と生き残る為の最大の努力を示す咆哮。

 身体(機体)を通して感じるまだ向ってくるBETAが起こす振動と身体を齧って来るその痛みが今を生きている事を実感させてくれる。
 歯を鳴らし肉(装甲)に喰らいついてくる戦車級を振り落とし握り潰す・腕を振り回してこちらを殺(壊)そうとしてくる要撃級を砲身で叩き潰す。

 30m級の巨体を活かして踏み潰し・叩き潰し・握り潰し・拾い上げ強引に投げ飛ばし押し潰させる。

 AMSが人間の動きをさせれるからこそ出来る荒業で、ついに沈黙したガトリングは棍棒代わり薙ぎ払うが砲身が壊れるのも時間の問題。
 齧られ・食い千切られた部分も決して少なくない……脳に伝達する情報と身体の動きの悪さがそのを物語っているがなんとか動ける。
 

「あと1分だ……勝った…ん?」


 すぐ傍とまではいかずとも近接支援をしていた戦術機部隊が急速後退を開始し始める。
 だがまだあと1分も足止めが必要であり、いま後退されては上陸済みのBETA群を支援攻撃の有効範囲に押し止めれない。

「オルカ1よりHQッ! まだあと1分も時間は―――」

『なにをしているッ! 爆撃時間が来てるんだぞッ!?』

 まるで敵中に孤立するように放置され離脱し損ね……そしてレーダーが感知した”支援砲撃”によ大気の大幅振動で何が起きたかを知った。
 遠峯大佐の叫び声で起こった事に気付き、そして帝国の現状や相手が中将閣下である事を思い出し……全てを…利用された事に気付く。

 四機も戦術機を身体に抱え込んだ状態での離脱は不可能。

 粒子OBを使えば離脱出来るが、この戦場には無数の歩兵部隊と共に粒子汚染対策が取られていない無数の部隊が存在する。

 もしここで高濃度粒子をばら撒きながら友軍のど真中に飛び込めば……どれ程の人間が粒子汚染によって死ぬか解らない。
 それにただでさえ常人の二人が何の強化処置もなく、音速の領域に突入して無事で済む保証など計算するよりも早く”あり得ない”と算出出来る。
 今でさえボロボロでバイタルデータが危険域だと言うのに加速Gを叩きつければ常人は間違いなく壊れてしまう…壊れて貰ってはまだ困るんだよ。


「オルカ2・3ッ! 粒子炉開放ッ! プライマルアーマー(PA)展開ッ! 爆撃を耐え切るぞ、良いなッ!!」


 三人とも即断だった。
 粒子炉の安全装置を解除・あらかじめ有澤重工によって製造された試験試作型コジマ粒子炉心に……核融合炉が点火・起動。
 戦術機の顔…人間で言えば口の部分やあらかじめ造られている放熱口から、緑色の粒子が無数に吐き出され機体の設置されている磁場発生装置も稼動。
 30m級だからこそ搭載出来た大型粒子炉は15m級とはスペックそのものが桁違いで必然的に吐き出す粒子量も桁違いだ。


≪粒子放出量―――PA形成可能域へ到達・磁場展開と同時に高濃度・高圧壁PA展開確認・着弾まで……≫


 そんな情報はどうでも良いッ! 砲撃・爆撃の予想火力と衝撃を算出し完全にこれを防げるだけのPAを展開しなければ俺達は消し飛ぶ。
 オルカ隊の機体には試験試作型の対粒子防御機構や管制ユニットそのものの密閉率を跳ね上げ、粒子の侵入を防げるように造られているが成功するか。
 プロトタイプ・ノーマルモドキから放出出来る粒子が五機を覆い尽し護るようなドームを作り出し、降り注ぐ無数のロケットや流れ弾から俺達を護る。

 ネクストが従来兵器とは一線を開け、その差は海溝にも匹敵すると言わせたコジマ粒子の特質を利用した全方位防御幕プライマルアーマー(PA)。

 その防御力は粒子をどれだけ凝固させられるか・どれだけ放出するか・どれだけ安定させられるかによるが防御力は大抵は小口径砲程度の砲撃は防げる。
 散布率によっては絶対防御とも呼べるPAは五機もの戦術機を護る為に大きく、そしてあの世界でも展開した事の無い程の分厚いドームを作り出し強大な壁となっていた。
 本来は肉眼では確認出来ない粒子が肉眼で確認出来るまでに肥大化し、その粒子を磁場で操作し粒子の壁によってあらゆる攻撃から身を護ると言う防御。

 周囲一帯に降り注ぐ榴弾・ロケット・戦車砲などの攻撃で消し飛ぶBETA。

 戦車砲やロケットの直撃は幾等PAでも防御力の低下は免れない、運が味方してくれているのか直撃弾は少ないが至近弾が多すぎた。
 その肉片・僅かな血飛沫すら拒絶し弾き飛ばすPAは絶対にも思えが、大気の振動である衝撃波には弱く……僅かな隙間を縫って衝撃が機体に貫通してくる。
 無数の粒子は巨大な爆撃や砲弾は防げても、衝撃波という凶器までは完全に防げず衝撃波によって巻き上げられた小石などが肉にめり込む。


「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソッ! 畜生ッ! 何が帝国だッ! これが義憤の帝国様かァ!?!?」


 痛みから逃げる為に悪態をつきながら脳をフル回転させ、爆風などで結合を分解されるよりも早く粒子を放出し、弱まっていくPAを補う。
 幸い他の四機に覆い被さるようにしてるので四機には被害がないが……代わりに俺が”壊されていく”

 肉が爆風で焼け爛れ・放出する粒子が入り込み壊し・衝撃で齧られていた部分が抉られ・小石がめり込み言いようの無い無数の痛みが襲い掛かる。

 肉だけではなく骨と内臓(内部機器)まで壊され始め、脳味噌にそれに伴う無数の情報が叩き込まれ脳がショート寸前まで追い込まれていく。

 頭が割られるッ!

 鼓膜が破けるッ!

 肺が溶けるッ!

 心臓が燃えるッ!

 手がモゲルッ!

 足が砕けるッ!

 脳(俺)が――――――壊される。

 雪崩の如く流し込まれる情報と言うリアルが本体を蝕み、内臓や筋肉が有りもしない怪我や損傷によってオカシク動き始める。
 たとえ周囲からは一瞬でも……俺には永遠のように長くて苦痛だった。
 そんな苦痛から俺を一番に目覚めさせたのは戦友の声でも、生きたいと言う本能でもない、パージしていなかった地中振動を感知するレーダーの情報。
 下からの振動が確実に大きくなり、そしてそれは複数かつ数箇所に散布していると同時に俺達を囲むように下からの反応が増大していた。


『■■■! ■■■■!!』


 通信して来ている相手すら識別できない、何を言っているのか解らない。
 ただ脳に送りつけられるこちらを包囲してきている赤い群れと切り崩しながら突撃してきている少ないが青い反応。
 常人組み二人のバイタルデータが危険な事を示しており、とにかくこの二人を離脱させる為に動く必要があるが本人達は動けそうにない。

 砲撃の損傷か全身が錆び付いたの様に動きが悪いが、ガトリングとレーザーキャノンの砲身で戦車級を薙ぎ払う。

 だが薙ぎ払っても殺せるのは極僅かで要撃級くらいは吹き飛ばす事は出来ても殺す事までは出来ず、この包囲は簡単には崩せないようだ。
 どうやらリンクス組みは無事に動けるらしく俺の言いたい事を理解していたのかテルミドールが沙霧機・オブライアが篁機に肩を貸し…あれは銀翁の部隊か?
 その部隊が切り開いてくれている退路を使いこの包囲から脱出出来ているようだが、連中の目的は俺かコジマ粒子かは知らないが包囲を解いてはくれない。

『中佐ッ! 支援します、撤退をッ!』

 頭が落ち着いてきたらしく誰が何を言っているか判る様になってきたな。
 逃げ道は銀翁の部隊が斬り開いたモノが残っていて欲しかったが、既に更に地中から現れてくれる戦車級や要撃級に押さえられもう使えない。
 光線級がいないので飛んで離脱したい所なんだがPTネクストの30m級の巨体と重武装を飛ばせるには推力が足りなさ過ぎる…数値の二倍は必要だ。
 それに安全圏と言っても機甲師団は地中からこちらの包囲を確立させる為に陽動としか言えない無数かつ拡散的な奇襲に機甲師団は混乱しきっている。
 まぁこっちを撃ってくれた【帝国】の機甲師団なんぞ幾等死んでも【国連】の俺達には良心を痛める必要も無く、救援する必要もなければ余裕も無い。


『ヴァルキリーズ各機…帝国の銀翁准将の所まで逃げるぞ? 生きて―――』


 ヴァルキリーズの面々も余裕はない、武装面でもかなり弾薬が心細い状態だが退路を切り開いて貰うには頼るしかない。
 ガトリングも棍棒代わりに振り続けたツケで砲身が歪み砲撃すら出来ない、パージし腕部内臓のレーザーブレードを起動させて対抗するしかないか。
 機体は中破くらいで武装もレーザーブレードとレーザーキャノンだけ・友軍部隊はたった九機ノーマルと言うのに何故か死ぬ気がまったく湧かない。

 確信に等しい感覚で『生き残れる』と信じていた。
 
 そう信じていたが振動の増加を察知すると同時に起きた地面の陥没とセラフによる≪強制回避パターン89≫によって機体が強引に垂直に飛び上がる。
 意識していなかったのに加え、ただでさえ重たい機体を垂直に上昇させるには自重の三倍以上の物を浮かせるだけの推力が必要であり急加速に伴うGも馬鹿にならない。


『一条ッ! 神村ッ!』


 無数のBETA諸共飲み込もうと大きな口を開けた状態で地上に浮上してきた巨大な穴掘り機であるシードル機のような外見をした母艦級。
 大きく開いた口から覗くその底が見えないような暗闇の中には明かりの代わりなるような、無数の赤い光がビッシリと存在するように見えた。
 機体の損傷か…あるいはセラフの処理指令が間に合わずあの二機だけ上昇が遅れ、助けに戻ろうとする穂波機を咄嗟に伸ばした腕と手で掴み動きを止める。

『離してッ! 離してください中佐ッ! 静香が、空が逃げ遅れて』

『もう……間に合わん』

 俺を飲み込みたかったが飲み損なった母艦級は原作よりも小さな身体だが素早くその巨大な口を閉じてしまう。
 体内には無数のBETAを搭載する最大級の強襲輸送BETAの体内には要塞級すら搭載されている筈。
 嫌味でも見せ付けたいのか・レーダーの性能が良いのか母艦級の体内で懸命に暴れまわる二つの青い反応が赤い反応に飲み込まれていく。
 通信回線を俺だけに回させ伊隅達には聞えないように細工する……俺と言う存在の所為で起こった改竄なら聞くのは俺だけで良い。


『助けてッ! 助けて伊隅隊長ッ! 中佐…古島中佐ッ!』


 一条の悲痛な叫び声が……俺達に助けを懸命に求める声だけが繰り返される。


『来ないでッ! 来ないで来ないで来ないで来ないでッ! 私を食べないでぇッ!?!?』


 通信越しに戦車級が管制ユニットの装甲を齧る音が聞えてくる。
 神村は既に取り付かれ振り解く事すら不可能な状態…初風の両腕は大破し、どう努力しようと戦車級から逃れる手段はない。
 友軍機の状態を正確に把握出来るシステムだからこそ、その機体の損傷なども解る……見たくはなかったがな。


「セラフ……対象衛士が自爆困難な状況と判断しコード―――」


 噛み締める口から鉄の味が染み出し、空腹になりつつあった腹に嫌な満腹感を与えてくれている。
 まるであの母艦級のように大きな鉄を腹に直接流し込んだように、食道を流れて胃の中に血が流れ込むのが良く理解出来た。
 おそらく俺の捕食を不可能と理解した母艦級が地中に潜り直し始め佐渡島への撤退を考えているらしいが、ここでお前を殺さないと後に響く。
 80m程度の縦の大きさに納まっている母艦級の口近辺にあの二機は存在し、S-11を有澤重工が改良したA-12があの機体には搭載してある。
 老神や戦艦などに使用される大爆発を可能とさせる特殊炸裂薬を限界まで押し込んだ筒状のソレを外部から起爆させれば殺す事が出来る筈。


「……【スーサイドアタック(跳躍ユニット暴走による自爆攻撃)】を一条・神村機に実行」


 外部から強制的に自爆攻撃を可能と出来る様に回線を操作しておいた。
 元々はセラフによる外部操作を受け付けさせる為のモノを万が一にでもヴァルキリーズが敵対する可能性を考え追加した最悪の装置。
 こんな形で使用するなど考えてもいなかったと言えば嘘になるが、出来る事ならばこんな形での使用だけは避けたかったが”仕方ない”んだ。
 アレが佐渡島に存在すると言う現実を残しておく訳にはいかない。

 仕方ないんだ、だから一条・神村……俺達の為に死んでくれ。


≪強制自爆コード起動≫


 直後、内側からまるで風船のようでキノコのように膨れ上がった小さな母艦級。
 そのまま爆風と衝撃を体内で押し殺す事は出来なかったらしく、派手な音と共に破裂し膨大な量の体液と肉片を周囲に撒き散らす。
 母艦級の陥落が今回侵攻してきたBETAの撤退条件だったらしく一斉に出てきた穴などに潜り直し撤退を開始するBETA残党。

 巨大な口を吹き飛ばされた母艦級の体内に赤い反応はなかった。

 だがそれは二つの青い反応の命の爆発が見せた人類の……人間の意地が咲かせて見せた大花火。

 言葉を発する事無く地面へと着陸した俺達は、ただ残骸と成り果てた母艦級を見上げながら無言だった。
 粒子放出口が閉じられネクストとしての活動を停止する山猫に同調するかのように俺も意識を暗闇に沈める。

 ガキ二人の命使って勝って・味方に撃たれて・無様に壊れかけて……終いには穴掘りの虫ケラ相手に逃げ出す始末なんて最低だ。
 今日は最高の夢が見れそうだ……PTネクストに乗りながらこんな無様な戦いしか出来なかったのだからさぞ良い夢だろう。
 何せ死ぬ因果は返れなかったが死ぬ時期と死ぬ人間をズラす事が出来たんだからな。
 これは明確な物語を改変させれ始めた証拠であり、この結果はある意味では満足と呼べる結果なんだから。
 

 視点:銀翁

 あの戦いから戻ったワシは今、あの戦いで記録した映像をあるお方と付き人二人に見せている。
 味方を砲撃した卑劣なる者として捕らえるべき青葉と言う邪魔な男は、今は悠々としているがワシがココにいる事を知らん。
 わざわざ隠れ蓑や影武者を使ってまでココに来たのは無論だが青葉と言う邪魔になる男を消す為にある。


『HQより全部隊へッ! 2分後に支援砲撃を行い最後尾上陸を果たすBETAを一掃します、持ち堪えてくださいッ!』


 改良型電磁投射砲【試作:百式】

 水素機関による内部電力でも稼動に必要な電力供給が可能となり、本来の設計を大きく変え冷却機構や放熱関係を大幅に強化する事で長時間戦闘を可能に。
 更にコジマ粒子をコントロールする為に製造された小型でも強力な磁界を発生させられる発生装置の導入にも成功し、威力の増大・安定に成功。
 だがそれでも大型砲の枠を出る事は敵わず、更に磁界発生装置などの電力を本体のジェネレーターから供給する形式故に戦術機ではまとも動く事すらままならない。
 あくまで機動戦を捨て代わりに絶対的な火力による掃射戦術が可能となり、そして有澤重工のタンク型戦術機【雷雲】の存在が大きく後押ししていた。

 元々地面への接地要領の大きいタンクの売りは機体の安定性能であり、地面に設置してさえいればその安定性に勝るものは無い。

 そして人型の細足ではなくタンクのキャタピラが誇る積載量は比べるまでも無く、大型武装だろうと何の問題なく積載する事が可能。
 タンク型は人型と違い両肩ではなく片方の肩だけでこれの積載が可能であり、これによって何も背負わなくて良い片側に大型の追加弾倉を装備出来る。
 十二機の雷雲隊が撃ち出す電磁投射砲の弾丸は一瞬にして弾幕を展開。
 火薬よりも初速・貫通力に優れる電磁弾は36mmですら接近しようとする突撃級の甲殻をいとも簡単に貫き、肉片へと変えてしまう。
 要撃級の腕の盾ですら防ぐ事は出来ずただ無数の弾丸によって風穴を開けられ、体液を噴出し流れ出させその場を穢しながら死んでいく。
 その貫通力は戦車級を貫いた弾丸ですら時として甲殻を貫き、要塞級ですら集中砲火を受ければ秒として持たずその巨体を沈めてしまう。

「これが第壱開発廠が開発中だった電磁投射砲の改良機か」

「改良型だがまだ人型のような機動性を持たせる必要な物に装備出来るほど軽くはない」

 しかし断続的な波状攻撃とも取れる攻勢を仕掛けてくるBETAを前に少しずつ弾薬欠乏機体が増え、弾幕が薄くなる。
 そこを突破してくるBETAが増加するが帝国衛士達の本領である近接戦闘の化身たる無数の長刀の刃が壁を作り出す。
 その防壁の先頭を担い長刀三本と言う類見ない近接戦に特化した武装を装備した武御雷が君臨した。

『シルバー2より各機……斬ッ!!』

 壁を担うのは新型OSと水素機関を搭載した武御雷を駆る真改を筆頭とし、ワシの直属の部隊にも新型OSを搭載させた軽く俊敏な動きを可能とさせた部隊。
 斬り捨て・斬り刻み・踏み潰し・残骸が宙を舞い・レーザーブレードによって斬り捨てられたモノは蒸発するかゲル状に融解し散る。
 無数の刃による防壁によって近づこうとするBETAは無数の刃と連携によって三枚にも卸され、それこそ死骸のバリケードが築きあげられていく程。

「流石は井上=真改か、それに直属部隊の動きが異様に軽いな」

「搭載するに値する物だからな……頭の固い連中にとっては見たくもない結果だな」

 カメラに映るテルミドール・コジマ・アナトリアの英雄の活躍も目覚しく、やはりランク1・先駆者・最強の傭兵の実力は鈍っていないようだ。
 しかし何故あんなにも敵中に孤立するような配置を? と知らぬ者と周囲の帝国部隊の配置を見れば誰もが問い尋ねるだろう。


「これが件の事件なのですね」


 あのお方は口を閉じ続け、沈黙を護りながら鋭い視線で将兵の動きと映像を見続けていた。
 だがこの青葉が犯した最大の罪であり帝国の名を地に貶める行為の直前になって初めて沈黙を自ら破いた。


「はっ、かの青葉=智久が起こし帝国にあるまじき行為の一部始終を偶然写した物です」


 確かに向こう側はあの三人を除けば決して優れた衛士がいる訳でもないが、それでももっと後方で時間を稼ぐ事は出来る筈だ。
 准将権限による通信記録を漁り始めた矢先に……周辺の戦術機部隊が指定した時間よりも早く後退し始めた事に気付く。


「「「…………」」」


 おそらく周辺の戦術機・機甲師団には正式な時間を告げているのだろう……オルカ隊の隊長コジマは国連の人間。
 そして青葉にとって眼の上のタンコブのような存在である旧彩峰派を束ねている沙霧はオルカ隊に編入されている。

 万が一にでも国連所属のコジマが帝国の後退指令を無視し、それが原因で沙霧が”砲撃に巻き込まれて”死んだとしても言い逃れ出来る。

 何せ帝国衛士や兵士達にとって国連はアメリカの犬と言う見解が多く、そこに居るだけで非国民などの謗りを受け周囲から迫害される。
 沙霧を命令違反による後退が遅れた事によって支援砲撃に巻き込まれ死んだとしても、その原因を国連に押し付け自分は正当性を謳う。
 敵意の全ては国連へと向けられ国連を明確な敵役にする事で旧彩峰派が今だ抱く国連の敵意を爆発させ……その勢いを扇動すれば権力は増大する。

『何故国連部隊の撤退時間がズレテイルッ!?』

『わっ私は指示された通り……』

 まるで最初から知らないと言いたいばかりに困惑し怯えながらそう答えて来ていた。
 だがそれは大根役者同士、あるいは下手な三文芝居の意味や価値を理解しない愚者にしか通じぬような嗤える演技。
 少なくともこの場にいる者達に通じるようなものではない……容易く看破出来るような演技力。

 コジマへの通信を送るよりも速く、周辺機甲師団より砲撃が開始される。 

 後退し損ねたコジマ達に降り注ぐ無情な砲撃によって視界が遮られてしまう。
 飛び出しそうになった真改を他の武御雷が押さえてくれたが……機体は暴れ周り爆炎の嵐に武御雷程度の機体で飛び込もうなど無茶だ。

『シルバー1…銀翁』

 周囲でも沙霧大尉や篁中尉の部下から無数の抗議通信が青葉に届いているが『国連中佐殿の命令違反』と一点張りだったな。
 すぐさま虚偽報告の通信内容をコピーし機体のデータバンクの一部に厳重ロックと無数のプロテクト構築で保存に成功していた。
 大隊規模の抗議通信が隠れ蓑になってくれたらしいが……どうやらその必要もないかったな。

 微かに爆炎の隙間から見えている緑色の防御壁―――PAの存在を察知。

 そして周辺にコジマ粒子警告が発信され、部隊が後退を開始する。
 表向きには山猫の起動動力に核融合炉を補助動力にしていると報告しており、つまり放射能が漏れ出していると周囲には報告されていた。

「銀翁、あれは」

「かの【山猫】を乗りこなす衛士の亡き父親が見つけましたとある粒子であり、磁場などの操作によって結合や指向性をもたせれば強力な兵器となる物です
 しかしあの粒子は特殊な核融合炉から生成される物資であり眼に見える物になり、結合すればする程に毒性が高まる物で公になる事なく消えた代物
 今回の作戦においてあの衛士…かの巌谷を打ち破りし古島=純一郎が間引きを確実な物とする為に私と相談し密かに今作戦において運用する事となった所存」

 あのお方やもう一人の付き人の渋っていた顔が少しだけ解けてくれる。
 この情勢で何故あれ程の機体を作り出せ、支援砲撃の地獄から友軍機を護れるだけの強力な防御力を誇るPAなどの存在を公開しなかったのかと言う怒り。
 しかし【毒性が強い】の一言の前では迂闊な公開をしてしまい各国によってこの汚染がばら撒かれれば、世界がタダでは済まないと理解してくれている。
 更にワシは情報や詳細を公開し追撃を仕掛けたのが成功したらしく、ワシを除く者達は『もしこれが横浜に落ちていれば』と言う事を想像したようだ。


『せっ生存ッ!? 嘘でしょう、弾薬が少なかったからって大隊規模の砲撃に耐えるなんて……』

『馬鹿ッ! そんな通信を……』


 この通信を拾えたのは不幸中の幸いであったとしか良いようがない。
 もしこの会話を拾う事が出来なければ今のようにあのお方にこの映像をお見せする事は出来なかったのだから。


「―――獅子身中の虫が」

「月詠」


 この一瞬まで沈黙を護り続けていた付き人の一人である月詠=真耶がその沈黙を崩した。
 余程赦せない事だとしてもあのお方の前でそのような言葉を漏らすなど赦される事ではないな。
 即座にもう一人の付き人に指摘され、取り繕っている平常の仮面の底から滲み出ていた怒りの色を隠す。


「申し訳ございません」


 そう謝罪しながらも明らかに映像を見続ける眼は最初よりも断然厳しくなっている。
 指摘したもう一人の付き人の眼もかなり怒気を孕んでいるようで、かなり険しいとしか言いようのない。
 作戦直後に無理をしながらやって来たワシには少しキツイがこれも歳か……まだまだ現役なんだが。


『HQより地中よりBETAがッ! 第23ソード中隊が全滅!? 第38トライデント中隊はカバーをッ!』


 そしてどう言う訳かコジマを包囲する形で無数のBETAが地中より一斉に姿を現してくれた。
 知性があるかと疑い者達もいたがおそらく奴等は知性を持つ…おそらく地中の奥深くかあの群れの何処かに指揮官級とでも言うべき奴がいる筈。
 出なければもっと早い段階で出現し帝国軍を崩壊へと導く事も出来たと言うのに、現れたタイミングはまるで【捕獲】を目論むかのような動き。

 更に四方八方…大きく海岸線を射程に納めるように三日月のように展開していた帝国軍の腹の中に計算していたかのような小数部隊の出現。

 それも一箇所は精々小型種九割の200前後としても出現箇所の多さとその多くが機甲師団の腹の中へと現れ、これを食い破るかのように暴れまわっている。
 そしてこれを駆除する為に後退していた戦術機部隊が機甲師団内部へと入り込み駆除を開始する為にコジマ達から主力部隊が離れてしまう。
 これでは突撃したとしても退路を確保するのに部隊が絶対的な足りない……せめてあと一個中隊あれば帝国軍の中へは撤退する事が出来た。


「BETAには知性がないと信じられてきましたが、これは明らかな奇襲作戦としか言いようがありません」


 帝国軍の配置は決して大きく変わったとは言えなかった戦い。
 つまり本来ならば戦闘開始から少しした段階で帝国軍の真下に無数のBETAが息を潜めていたと言う事になる。
 もっと早い段階で帝国軍を奇襲し混乱に陥れる事が出来たにも関わらず潜伏し続け、ここ一番のタイミングを求め続けるなど知性の証拠。
 たとえどれ程までに低かろうと知性は知性であり……なによりこの戦いでは佐渡島地表の光線級がまったく抵抗を見せなかったと言う事実。

 それはまるで迎撃や攻撃ではなく”何か”に対して視線を集めていた、あるいは注目していたと言うような感覚すら覚えさせる。


「―――なんと大きな……これ程のBETAが」


 コジマを捕食しようと地中から現れた……魔女は母艦(キャリアー)級と呼ぶ確認されているBETAの中でも最大の大きさを誇る新種BETA。
 いや、正確に言えばBETA大戦開戦当時より地中から大規模部隊の運送を受け持っていたのはおそらくこのBETAで間違いはない。
 つまり新種ではなく未確認であり、開戦から幾年もの年月が経っていると言うのに決して全体が観測される事のなかった用心深い奴までもがコジマを狙った。

 ……コジマではなく、コジマの山猫が放出し続けていたコジマ粒子が奴等を惹きつける”何か”があるのやも知れん。

 安易にコジマが何らかの形で狙われているなど決め付けるべきではない、ましてやコジマはただの人間でリンクスなのだ……ワシ等は同類なのだから。
 もし狙われるならばワシや真改も狙われるべきだが狙われているのは必ずコジマであり、コジマ粒子を吐き出している機体か。

 逃げ損なったヴァルキリーズの二機がそのまま丸呑みにされ、助けようと戻ろうとする一機を強引に押し止める
 そしておそらく飲み込まれた衛士が内側からS-11…いや有澤重工の改良型のA(ありさわ)ー12を自決装置で起爆させたのだろう。
 その巨体ですら押し殺せない爆風と爆発によって母艦級の口と頭(?)の部分が吹き飛び母艦級は活動を停止させ残存BETAは地中へ撤退。
 二人の部下の自決によって為された勝利だとしても帝国も奇襲によって機甲師団や戦術機部隊の損害は決して軽くはない。

「これにて今回の作戦にて起きた全てを記録した映像が終わります」

 映像の再生が終わった。


「銀翁准将……貴殿はこの映像を殿下にお見せし何を望む?」


 口を開いたのはあのお方―――殿下ではなくもう一人の付き人。

 帝国軍の頂点に君臨する日本最強の衛士として誉れ高き紅蓮=醍三郎大将。

 おそらくワシが知る中で最強の常人と呼べる相手であり、少なくともノーマル同士で戦うなど赦されない相手だ。


「紅蓮大将…知れた事だとは思いますが青葉=智久は帝国の名を地に貶めた逆賊、味方を撃つなど我々が嫌悪する米国と同じ穴のムジナ
 青葉にいかような”理由”があろうとこの行為は赦されるモノではなく、殿下の名の下に厳しき処罰を持って事を起こさねばならぬと存じます」


 殿下…帝国の象徴たる若干十七歳の煌武院=悠陽にワシは『貴女様の名の下に粛清をさせろ』と言う。
 そして殿下は非常に聡明でありおそらく今回の事件の原因が何なのかを理解しているとは思う…いや立場がら理解せねばならない身。

 どうして帝国が一枚岩になっていないのか? どうして今回の様な事件が起き、その原因と裏側には何があったのか? 

 これ等を理解しなければならない身には同情するが、だからこそ今日まで彼女は安全に日常を過ごせているのだ。
 ましてや精鋭を強引に集めてまで作り出されている斯衛に護られている殿下には、むしろ必要な事であり享受している安全の対価。
 もし背景などを理解する事無く偽善染みた事や『国連だから』などと言う理由で無罪などと言い渡すならば帝国などと言う国に用はない。
 すぐにでも国連に鞍替えをすると同時に別の国か企業を頼り、少なくとも日本帝国と言う国の下で戦うなどしようなど思わん。


「……それはたとえ青葉が帝国を想う故の行為だしても」


 殿下の言いたい事は理解出来る。
 帝国が想うが故の暴走ならば状量酌量の余地があり、何とか出来ないかと模索したい。
 仮にも中将にまで上り詰めた能力は中将には足りずとも大佐などでは優秀と呼べる…殺さず帝国の為に働かせ続ける。
 征夷大将軍である自分の言葉を持ってすればこれが可能と考えているならば合格点だが、それでは甘すぎていかん。


「もし処罰せねば『帝国の為ならば国連の者を幾等殺しても処罰されない』などと言う赦されぬ事が赦されるというモノになりましょう
 かの機体を操る国連衛士である古島=純一郎中佐こそ電磁投射砲の改良に水素機関・新型OS・光線兵器を実用化させた天才科学者
 帝国の為に国連に身を置いていますが、このような事件が続けば必然的に帝国に対する忠義は薄れ技術的な支援を受ける事は不可能
 更にこのような事件を起こした将校を処罰しないと言う事になれば諸国に帝国は笑い者とされ、甘い国と認識されてしまいますでしょう」


 癪だがアメリカなどの大国の支援なしでは帝国は持ち堪えるには小さく生産力も足りん。
 支援するに値する国と認識させ続けねばこの国を取り戻すのは不可能…早く西日本を取り戻さねば国民と言う搾取する存在が消えてしまう。
 名実を共に取る為に……反逆者・愚者には容赦しない国であり統率ある屈強な軍隊を保有する国家を宣伝せねばならない。


「……紅蓮・銀翁」

「「はっ」」


 覚悟を決めた眼をしている。
 だが実際言えるかは別物だ。


「煌武院=悠陽の名において――――――」


 どうやら期待は裏切らないようだ。

 この国の行く末……もう少しだけ有澤に待つよう依頼するとしよう。

 後はコジマと魔女の説得か…さてコジマは良くとも魔女が応じるかどうか。


□□□


 木曜に間に合いましたッ! でも突貫工事で少し雑な面は諌めない気もしますが

 そして帝国中将様が行った取り返しの付かない出来事は彩峰派の瓦解を目論み、国連衛士の所為による事故で消そうと友軍砲撃。

 一見すれば悪役にしか見えない人物ですが実際は沙霧と同じ事で規模と行動が違うだけ。
 帝国の純帝国派ですら完全に取り込めず不穏な動きばかりする彩峰派のトップである沙霧が死ねば派閥は瓦解し不安の種解消。
 更にその人員を取り込めば国連派との勢力図も塗り替えられ、一気に帝国統一への動きを加速出来るが殺せない相手。
 そこに現れたコジマと言う国連出向兵とこれの副官と言う形で同行する沙霧……まさに千載一遇の大チャンス。
 国連に責任と憎しみを押し付けて帝国兵の更なる離反や取り込みが出来れば問題なく、自分の罪も国連に擦り付ければ軽く済む

 しかしこんな事をすれば当然上層部は激怒どころではなく、最悪国連からの物資支援が断ち切られどれだけの人間が路頭に迷うか……

 帝国の軍閥統一の為に動き続けた無能でなければ有能とも言えない凡人の戦いと政治的な背景に巻き込まれる前線の兵士達
 もっと文才があって巧ければもっと泥沼で隠蔽しようとする動きや暴こうとする動きに、醜い一面が書けるのに…作者には書けない


 作者のボーダー
 ランク:A5(長刀と手榴弾で簡単に死ぬ)
 武装:支援専門・現在は狙撃の練習中

 あまりマブラブ関係の名前は見ませんが、代わりにアスラーダやAC関係の名前を良く見る
 つい先日はジェラルドやジュリアスを見かけました……そしてステイシスに手榴弾でボロボロにされるヘッポコ衛生兵
 今日も狙撃銃を片手に狙い撃つぜッ! ―――でも先日ロックオン×単発威力最強狙撃銃のコンビに逆に撃ち抜かれました

 ご指摘により修正



[9853] 二十五話[策謀のチェス板へ]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/12/01 22:07
 視点:銀翁

 あの事件……表向きにはただの間引き作戦だが帝国では【青葉事件】と呼ばれるようになったあの日から数日。
 憂鬱な気分で新年を迎えるかと思っていたが青葉の馬鹿が犯した行動と殿下のおかげで、随分と良い気分で迎えられた。
 そのまま国連の魔女との密会もスムーズに決まり、表向きはコジマの見舞いと言う事にしているが……問題ないだろうのぉ。

 それにしても殿下は実に良い仕事をしてくれた。

 純帝国派にとって煌武院殿下は神域・神聖なる存在であり、決して逆らう事は赦されず一身に尽くす存在に他ならん。
 つまり彼らにとって殿下こそ真の当主であり殿下の安全と平和こそ尊ばれる事であり、その為ならば純帝国派は軽々と命を差し出す。
 行き過ぎた忠義心で随分とご立派だがそれであのような暴走を起こすようならば程度も知れるだろうに……国の名声を穢す馬鹿共が。
 しかしコジマが帝国派の人間を副官に引き入れるのが利用するだけだと思っていたが、その利用と言う形がこんな形になったのはワシとしては幸運に尽きる。
 帝国派最大の後ろ盾で邪魔でしかったが、階級に対して能力が比例せぬ青葉を切り捨てる良い口実になった事件の引き金になって貰ったのは悪かったがな。

「それで? 大切な殿下様に頭の一人を潰された連中はどうなったのかしら?」

「無論壊滅だよ、なにせ奴等にとって殿下は唯一無二の存在……それに咎を指摘され処罰されればどうなるかなど知れているだろう?」

「流石は帝国新中将閣下―――岩見=銀翁だけあるわね」

 純帝国派の連中はワシが密告したあの事件の情報から、ワシの理想通りに動いてくれた殿下の命令によってもはや内部抗争と取り込みで壊滅状態に陥っている。
 なにせ純帝国派でも階級だけならば頂点に立つ存在だった人物の暴走に見せた策謀も、メルツェルの先見と行動指示の前には看破され結果として統一に利用された。
 会ってもいない人間の行動を予測するメルツェルの先見も凄まじいが、巧く誘導したつもりだが殿下の下した勅命はまさに純帝国派を壊滅させるには充分な一撃。

 煌武院=悠陽の名の下に罪人【青葉=智久】を公開処刑。

 更にその協力者を捕らえ重罪に処する。

 紅蓮辺りがいらん知恵や情念を吹き込むかと恐れていたが、殿下は決意と覚悟と共に青葉を処刑し更に本人以外の協力者達に厳罰を与えた。
 これだけで充分過ぎるほど純帝国派にとって最悪と呼べるモノはないと言うのに、そこへ新中将となったワシや部下達による抱き込み作業。
 家族と身の安全を保証するだけではなく味方となった者にはあの事件ではこちらの間者の一人であったなどの偽のアリバイを繰り出し救済する。
 簡単だが実に効果的な策を前に我先にと飛びついてくる蛾を捕獲し、その性質や生きの良さを選別して【価値】を付けて利用するだけの話。

「これでかなりの勢力がコチラについたな……今は7:3だが明日には8:2にでもなっているだろう」

「随分と穴があるようにも見えるわよ? 特に忠義心のありすぎる連中や旧い人種なんかは」

 ほぅ……穴について指摘してくるという事は中々見所があるがやはり”青い”な。
 裏事に長けているとコジマが少々自慢したり【極東の魔女】などと大それた異名を持つから期待していたが、やはりまだ二十数の若い娘。
 となれば異様な交渉力の強さや人の心を読む様な言動は【オルタネイティブ3】の忘れ形見を抱き込んでいるからか。
 人工的…遺伝子段階からBETAに対する対話などの目的に合わせて命を生み出す計画が確か【3】らしいが……メルツェルの情報なしでは危うかったか。
 エスパーなど信じんのだが、あのメルツェルが調べ上げ『信じろ』と言う以上は信じるだけ―――メルツェルの言葉は真剣そのものだったから余計にの。


「そこは紅蓮大将が巧くやってくれているよ…なにせ奴は純帝国・国連の両派とも違う”煌武院派”と言う消えぬ第三派の当主なのだからな
 こちらの思惑に乗せられているのではなく”あえて乗っている”のだろうが、巧く生き場に困っている最古参達を引きこんでいる
 このまま数日とせぬ内に殿下の身さえ良ければ良い”煌武院派”との抗争も無く国連派によって帝国は統一され、これから少しずつ好きに出来る」


 紅蓮の奴が行っている抱き込みは最古参や狂気にも似た忠義心を持つ者達にとって【天恵】と【天啓】に他ならん。
 これに対して飛びつく者は無く堅物や知恵の廻る者達は紅蓮の手駒とされたが、紅蓮の目的は殿下の守護であり戦争や政戦ではない。
 丸め込めるのには苦労するだろうが本当にその行動が殿下の為となるならば紅蓮や配下達は喜んで汚れ役だろうと引き受ける気骨者ばかり。
 簡単に言えば利用しやすいのだよ……目的と主旨が確立しそれに合わせて動く事の出来る集団と言うのはこの世界だろうとあの世界だろうと。
 かつて企業のアルゼブラ社が英雄アマジークとその組織【マグリブ解放戦線】に対して極秘裏に支援し、他企業を妨害していたようにな。

 戦争を制すのも大切だが―――勝者は政戦を制す者だが紅蓮にそれ程の知恵者はいない。

 こちらには世界すら手玉に取れるメルツェル・コジマに加え圧倒的なカリスマを持つテルミドールがいる。
 本当ならば動かぬ高嶺の象徴のままであって欲しい殿下が今回の一件で随分と成長して面倒だが、テルミドールの求心力とは性質が違う。
 テルミドールの言葉は自然と相手を引き込むだけではなく、この世界では屈指の英雄として君臨し第一線で戦う大佐とあって憧れる者達は多い。

 殿下は国の中心から命令を下す賢王。

 テルミドールは常に第一線で兵士達や民衆を魅了する英雄将軍。

 例えるならばこんな所か。
 まぁこの問題は手早くメルツェルをなんとか呼び寄せ解決して貰えば良い……むしろ問題は粒子炉とコジマか。
 新潟も今は粒子汚染を放射能漏れと言う事で隔離・汚染を水などで少しは軽減しているがあの量なら三・四ヶ月は無理だな。


「ところでコジマやテルミドール……オブライアはどうしている」


「テルミドールとオブライアなら『少し壊れた位で問題ない』らしいわ、まぁコジマ粒子については製作者本人から聞いてるから最低限はしたわよ
 コジマ本人は高濃度粒子の爆心地に加えて帝国”が”してくれたうっかりの所為でかなり脳に負担が掛かって……今は専用カプセルで寝てる
 本人の設計もあるけどあの【アスピナ】のフラジールって名乗った妙な男が絶妙なタイミングで送りつけて来たおかげで随分と楽してるわよアイツ」


 馬鹿がッ!!

 対粒子用のスーツもない・G緩和ジェルもない・技術力で遥かに劣る機体で造り上げられた劣化ネクストで戦うなど短命を更に短くするだけと言うのに。
 コジマにいたっては試作AMSのデータを集める為などと豪胆な事を言っておきながら既に虫の息など、どれだけ心配させるつもりだあのカラードのリンクスはッ!?
 しかしあのフラジールが、アスピナ研究所が善意で贈りつけてくる訳がないだろう小娘……おそらく満足出来るデータを手に入れられた材料が欲しいだけ。
 おそらくそのカプセルも治療と同時に間接的にデータを送信し随時コジマの身体を調べあげ、脊髄やコネクター改造の精度などを確認しているだろう。
 それに気づかんとは魔女も名ばかりか―――いや、心を読める存在に弱味を中心とした交渉術をしている所為で自分より演技出来る人間を知らないか。
 ともかくテルミドールにはきつく言っておく必要が有るな、アイツはなんだかんだ言おうとロマンチストだ……周りの意志など関係なく自分の犠牲を厭わん部分がある。
 少なくともBETA大戦が終結すると仮定すれば間違いなくテルミドールの存在は必要不可欠だ、今の内に壊れられてはメルツェル達に申し訳がたたんだろうに。

「それと粒子炉搭載型の大鴉二機と山猫だけど【アレ】は本当に有澤重工に任せて良いのかしら? コジマの話だと異世界では敵対者の一つらしいけど」

「ほぅ、そこまで知っていると言う事はコジマからはある程度は聞いているみたいだな?」

 信頼される事で利用するかコジマ。
 メルツェルのように信頼されず口先と態度で巧く誘導し、自分達にとって良い方向に事態を転がせると言うのとはやはり違うな。
 

「信頼される為にね……他にも聞いてるわよ? 企業・リンクス・オルカ・英雄は最強の傭兵とか一通りね」


 信用? 信頼?
 笑わせるな小娘が、貴様などコジマにとっては自分が動き易く・隠れ蓑や都合の良い権力を持つ利用するだけの存在。
 だがメルツェルがあえて智謀のある奴ならば気づく落とし穴に気づけると言う事はそれなりに使えるか、やはりメルツェルと馬の合いそうだ。
 コジマの話通りならば特殊CPUと人間の脳髄の複合物を使用した対BETA諜報員による対話行為が【4】の目的であり最終地点。
 更にその特殊CPUは人間に搭載出来る程の小ささでありながら性能は世界のあらゆる妨害を突破し電子世界を掌握出来る程の超高性能だという。

 それがあれば企業……いや敵ネクストに対して膨大な情報を外部から叩きつけリンクスの脳を瞬時に情報によって押し潰せる兵器になるか。

 コジマが欲しがる訳だな、これがあれば企業の主力を沈黙させこちらはネクストで黙らせれば良いだけと言うなんとも気楽な仕事になる。
 わざわざあの世界の全てを話してまでこの世界の部外者に利用され・利用しようとはメルツェルも顔負けだが、この類は手こずりそうだな。
 消すよりもせっかくの女もある……メルツェルと相性が良さそうだしのぉ、出来れば夫の為ならば一心となれる良妻になれる器なら良いが。

「……失礼な事を考えているのかしら?」

「ハハハハッ! 君も良い年頃の娘だ、なんなら私の知り合いに年頃の良いのがいるが紹介しても良いぞ?
 三十代でワシ等の中では若い分類だが君のような優れた智謀とそこ等の衛士など比較にもならん実力がある
 世に言う美青年だが腕も気遣いも聞く良い男だ……君の様な心労の多そうな女性にはお似合いと思うが」

「余計お世話よ、まぁオルカの人間を取り込めるなら確かに悪い策ではないわね
 それと本人に無断でこんな事が本当に赦されるの? 撃たれるのはご免被るわよ」

 新型OSの機動性・反応性・適応能力を爆発的に上昇させる性能を体験した現場の衛士達はすぐさま、他の部隊への搭載を要望してきた。
 無論だがワシのような前線で戦う准将の推薦やあの演習で起こった新型OSと新型戦術機部隊による帝国の完敗も大きく影響しているんが、やはり意見は前線だ。
 沙霧大尉のような前線の衛士からの信頼や影響力の大きい人物が『新型OSと戦術機があれば帝国を取り戻せる』とでも言えば影響される人間はすぐに受ける。
 そしてワシの階級も邪魔者の存在しなくなった中将と言う異例の昇進に加え殿下のお墨付きもある、一声呼びかければ手足になる連中は腐るほどいるのだからな。
 実際に体感した者達の講談に加え前線主義の権力と無関係な者達は派閥など無視してでも生き残る手段として取り入れるように声を荒げてくれるのだ。
 あとは資金・資源的に劣る帝国を補給させる為に優れた性能を持つノーマルを先んじて国家に対して売りつければ莫大な資金・資本となって帰って来る。

 だが問題はネクストとその心臓部である粒子炉だ。

 一言で粒子炉と表現したとしてもこの世界とあの世界ではあまりにも【技術力】の壁が存在してくれているのだ。
 あの世界の粒子炉は当時の最新鋭技術力の結晶であり、それがこれ程までに時代遅れの過去の世界で同程度の性能を叩き出せるなどまずありえん。
 素材の生産から生成・BETAが積極的に占領した土地と奪取され枯渇状態の資源から何とか搾り出され作り出されている戦術機とノーマルの性能差。
 技術力の差から生まれる性能差がそのまま巨大な壁として君臨し技術者達に絶望を与え、その運用に対して疑問と懸念を抱こうと企業は強行するだろう。

 この世界の技術力に合わせながらもあの世界の性能に持ってくると言うのは言葉以上に難解かつ困難であり、調整と考案できる人間が必要だ。

 補給出来る素材の耐久力や粒子汚染に対する耐性を調べ上げながら、大きさと重量を調整し戦術機の様な積載容量に優れない兵器に搭載すると言う問題。
 コジマはそれを容易く解決してみせただけではなく実戦での運用においても満足出来るデータを叩き出しているのだから才能とは理不尽だな。


「問題ないだろう、むしろ企業相手に売り渡し資源と資金を掠め取りこちらはそれを使って悠々と戦力を増強すれば良いだけの話だ
 それこそ国家予算規模・企業予算規模の金や資源を要求したところで企業とリンクスから言えば粒子炉には足りんだろう
 なにせ一機あれば下手な戦術機師団よりも戦力価値があり、存在するだけで脅しとなる最強の兵器の心臓だ……欲しくない筈がない
 多少無茶な要求だろうと企業ならば飲むよ、なにせ企業は既に奴等との戦後ばかり考えているだろうからな―――勝てる見込みがなくともな」


 魔女との密会はコジマ達の容態を確認するだけではない。
 利用するに足りる人間か確かめる為でもあると同時に今回のこの話をする為に色々と画策してきたのだからな。
 元々この作戦に対してコジマとワシ等の間で既に可決させておいた作戦であり、少しでもオルカの戦力を増強させると同時に企業への牽制をする為。
 世界最低クラスの国力しかない日本帝国ではAFを所有するだけの力量はないが他国や企業から搾り出せば数機ほどはギガベースを保有出来るだろう。
 
 価値の判る者達は価値のない者達を死に物狂いで説得し粒子炉保有へと奔走する。

 企業を疲弊させる為に奔走させ・資金と資源を搾り取り、利用させて貰う日本帝国は数機のAFによって世界最高規模の戦力を持つ。

 オルカ旅団十三機のネクストに続く新型戦術機および機甲師団・機甲化師団複合AF部隊による佐渡島攻略。
 世界から警戒されるなら本望だッ! 価値ある土壌ならば各国は挙って技術を欲しその為の機嫌を手に入れる為に手厚い支援を行う。
 明確な商品となる技術を示し続ければ技術を欲し、帝国が強者であればこれに助けを求め様々な理由で手付きの衛士や兵士達を送り込める。
 邪魔であろうと必ず必要となる戦力をツマラン抗争で潰す位ならば利用しようと保護を謳い馬鹿な連中などを制す勢力が現れてくれるのを利用すれば良い。
 世界屈指の戦力として酷使されるともそれで難民や国民に対する生活援助などが向上するとあれば、国民第一主義のような者達は喜んで飛び込む。
 意志があり動けるような者達には帝国の為に犠牲になってもらい、ワシ等のような本国者は内側で悠々と目的を果たしていけば良いのだからな。


「……まぁ良いわよ、中将クラスとパイプが出来れば帝国に対しても色々と出来るから
 各国から呼び寄せるのはこの名簿の連中で了解はしたけど帝国は私達に対して何の賠償もないの
 まさかウチに駐屯している世界屈指の三人を瀕死に追い込んでおきながら何の謝罪もないのってどう?」

「だがAFや新型戦術機の生産工場を握っているのはこちらだ……有澤重工は手強いぞ
 いかに魔女と言えど容易く落とせるような軟弱者がいるような企業ではないからな
 それにあの三人は元々”こちら側”の人間だぞ、ワシ等はオルカという絆に繋がった同志
 あの三人が謝罪を求めず表沙汰にしようとしないというのに無理矢理行うつもりなら止すのが懸命だ」


 お互い不気味に笑い合っていたがやっと魔女の顔に敗北を臭わせるシワを浮びあがらせれたな。


「そもそも魔女は勘違いしているらしい……あの三人は元々”こちら側”の人間でありその手の連中を頼れば行く先など腐るほどある
 もし邪魔と思い立ち消そうとしよう物ならば米国のGA社に助けを求めれば喜んで保護され、立場や戦力を提供されるだろう
 それにオルカ旅団は一つの目的・思想に集った複数の個体だ、コジマが味方にいる=オルカ全員が味方ではないのだよ?
 少なくともワシは小娘風情が少し知恵を持ち手下に恵まれているからと図に乗っているのは気に食わん……邪魔ならば消すだけだがなぁ」


 『それはコジマが赦さん』とまでは続けん。
 老いてこそいるがこの部屋にある防衛装置がワシを蜂の巣にするよりも早くあの細い首をへし折れる自信はある。
 リンクスに順ずるだけの身体機能を持ち合わせながら機械的な改造を施していないこの素体の強さは言うまでもない。
 もう少し余裕が有りネクストが支給されればすぐにでも改造を施し、機械の身体で暴れる事が出来るのだがアスピナは遠いようだ。

 ―――ワシを護衛も無くこの部屋に入れた時点で貴様の敗北は決定しているのだよ魔女。

 下手にワシ等に対して妙な行動を起こせば少なくともワシはこの魔女を廃してでも生き残り、戦う道を選び取る。
 知恵者を失うのは惜しいがワシ等の戦いを延命させるには仕方ない事だ……それに魔女を消して欲しいと思う者達は腐るほどいる。
 帝国中将が敵に廻ってはいかに魔女と言えど分が悪いだろうに、ましてや現時点の帝国企業で唯一新型を作り出せる有澤重工は手中にあるのだからな。
 ワシへの敵対はテルミドール達の離反すら意味するのであれば戦力のない魔女にとって何を意味するかは言うまでもなかろうに。


「あくまで【協力者】として居させて貰うが【敵対者】となるならば単機で国家戦力に匹敵する兵器を十三機相手にする気概を持つのだな
 だがワシも手元がおぼつかず優秀な味方が国連にいると言うのは素晴らしく喜ぶべき事だ……その力を借りたいと言うのは本心から来る言葉
 それに企業にこちらを勘付かせる以上は即座に他の者達を集める必要性があるが如何せんこの国は閉鎖的で他国の内情にまでは手が出せん
 魔女ならば優秀な千里眼の魔術の一つや二つあると想定してオルカの仲間達を集める仕事を任せるのだ、単なる人探しで国家戦力を貸す
 実にレートの釣り合わん仕事だとは思わんか? 世界からたった数名の人間を見つけ出すだけでこれ程の対価が得られる仕事など無かろうに……」


 魔女のシワが増えている。
 美人が台無しで勿体無いがこちらとて魔女を相手に油断・余力を残すような余裕などない。
 メルツェルならばもっと楽なのだろうがワシはこういった仕事は好きではないからな。
 だがこの様子ならばワシが言いたい事は理解してくれているらしい……国連という場所の便利さは理解しているようだ。


「……乗ってやるわよ、ただしこっちも相応のモノを要求させて貰うわよ?」


 さて……あとはメルツェルの智謀次第か。
 十四番目のオルカ旅団員となるか、あるいはメルツェルの補佐官と言うのが妥当な立場か。
 利用するつもりなら生憎だな魔女香月=夕呼……ワシ等は利用されるつもりなど毛頭もない。
 むしろ貴様の特殊CPUを手に入れ国連側の強力な権力として精々利用させて貰うだけよ。

 ―――貴様がワシ等の過去について知っているように

 ―――ワシ等も貴様について良く知らされている

 ここからは魔女と冥府の腹の探りあい・読み合い・裏切り・利用し・変えあう策謀(チェス)の始まり。

 さてメルツェル?

 この場合のオープニングはどうするべきだと思うか?


「―――頼もしい限りだ」


 すまんなコジマ。
 お前の命を危険に晒すが代わりにお前の満足するだけの資金と資源を必ず手に入れる。
 そしてオールドキングは無理だとしても必ず全員を集わせてみせよう……その為の生贄になってくれ。

 『人類に黄金の時代を』

 世界とのチェスはまだ先の先、今はこの小さくも外せん局面を楽しむとしよう。
 出来る事ならば将棋のように敵の駒を奪い取れるならば良いのだがチェスはそれが利かんからな。
 クイーンに化けるかも知れんポーンを切り捨てるのは―――止むおえんよな? メルツェル。


 視点:真改

 ……やはり目立つ。
 元々国連の基地と言うのもあるがやはり帝国の斯衛の軍服と言うのは日本人に対しては非常に目立つ。
 アンジェが日本の侍の剣術を好み俺はそれを弟子として学び、会得した際に俺から某と自分の事を指し示すようになっていた。
 東洋の剣術は技と速さによって敵を斬ると言う西洋人の某には最初は理解しづらかったが、アンジェはそれを好み某に叩き込んだ。
 剣術を知る為にはこれ等を創り出し磨き抜いた者達の事を知る事が大切と色々と東洋について調べ、任務で赴いた事も有る。

 日本語はあの頃から話せていた、剣筋も本場に負けぬ程に鍛え上げこの世界の本物の侍相手だろうと遅れはとらん。


「……視線集中」


 この世界に来て銀翁は准将……今は中将となり某もそれに伴い護衛の補佐官としてではなく少佐相当官と言う面倒な役職まで得てしまう。
 リンクスは個人で戦う種族故に部隊など引き入れる訳もないと言うのに、下には無用な部下と弟子になりたがる者達が増えていく。
 更に某が所属する部隊【斯衛】は西洋で言えば王族を護る近衛隊であり言わば【ロイヤルガード】のような役職で、日本では羨望と尊敬の的。
 日本の国連基地とあって日本人が多く斯衛の黒い軍服と襟に付けられている少佐相当官の階級章によって視線が嫌でも集まる。

 祖国の最精鋭部隊に所属する人間が悠々と基地を歩いているのだから当然なのだがな。

 銀翁は今頃魔女と対話をしている最中だろう、某はテルミドールとコジマの見舞いに来ているだけなんだが。
 なにぶん上司に当たる銀翁が仮にも極秘に来ているので本来ならば視線を集める訳にはいかないが避けれんようだ。
 ましてやここはBETAのハイヴ跡地を利用した地下基地らしく上は偽者なのか、あるいは対策かコジマは地下の部屋にいるらしい。
 コジマの病室までのICカードを貰ったのは良いが案内役をする筈だったテルミドールは迎えに来ず……結果さ迷い歩く嵌めに。

「テルミドールめ……憎悪」

 内心ではこれ程までに語れると言うのに……某はアンジェを失ってからまともに話す術を失った。
 剣術の師匠であり・リンクスとしての先達であり・某の叶わなかった初恋相手で当時は新兵だった某と最精鋭でジャンヌ=ダルクの再来と尊敬されたアンジェ。
 アンジェは単機で敵対企業のリンクスを撃破し、補給などを終えた後にあのアナトリアの傭兵を迎え撃ち撃破する為に出撃した戦闘で返り討ちにあい死んだ。

 某にとってアンジェは当時のナンバー1であるベルリオーズよりも強いと某は思っていた、信じて疑わなかった。

 良く同じ新兵だったテルミドールと某はアンジェでテルミドールはベルリオーズのどちらが本当のエースかッ! と良く酒の勢いで言い争っていたな。
 あの頃は心中のように色々と口煩く話しては良く仲裁を受け、他の仲間達と笑い合いながら戦い生き残って行く事が出来ていたが変わってしまう。
 最強と信じていたアンジェ……最愛の人であったアンジェの戦死によって某は人と巧く話す術を忘れ、いつしか妙な話し方しか出来なくなっていた。
 ベラベラと話すような昔の話し方は―――あの頃を思い出させ不意に涙を呼び起こしたりする奇妙なモノとなり、某は話すと言う事が出来なくなっていった。

「……伊隅=みちる・神宮司=まりも・イリーナ=ピアティフ、コジマ……所在把握」

 魔女に会った際に手に持たされた病室を知る三人の女性の顔写真。
 出来るならば基地の内部構造図を渡して欲しかったが、それを持ち帰られる事を防ぐ為か渡されず。
 二度目だが合流し案内する筈のテルミドールは迎えに来ず色頃何処かで食事をしているか、もしくは体調が悪くなり治療を受けているか。
 いや完全な粒子防御を持たないこの世界のノーマルでPAを展開したのだ……おそらく、いやかなり粒子にヤラレテイル筈だ。
 死にはしないだろうがそれでもリンクスはネクストとAMSの性質によって短命を余儀なくされる、あの世界の銀翁にいたっては延命装置を使っていた程。

 医療技術に関しては中々だが粒子治療の技術があるとは考えられない。

 テルミドールは多少粒子に侵食された程度ならば問題はないだろうが、コジマはかなり脳を破壊されている可能性がある。
 昔を思い出すからと言うのもあるが、やはりAMSによる脳への負荷によって話す力を失っていった可能性がない訳では無い。
 しかもプロトタイプのAMSはセイフティーがないらしいが、あれは一歩間違えば情報によってリンクスが破壊される代物だと言うのに運用するなど。
 魔女め―――コジマの了承があったからと言えど万が一の事態になれば某は容赦しはしない。

 腰に月光と斬月を差した状態で歩くのもやはり目立つ、元々帝国でも刀を常に差している事が赦される将兵は決して多くはない。

 それをしているというのもやはり目立つ……テルミドールが約束を破らなければこんな事にならずに済んだというのに。
 そうこう歩き回っている内に手元にある写真の一人である国連軍服姿の伊隅=みちる大尉らしき人物を見つける事が出来た。
 出会った場所が格納庫と言うのも我ながら方向音痴なのか? いやBIGBOX基地では迷わなかったがあれは地下基地ではないからか。

「伊隅=みちる大尉か?」

「はっ! 斯衛の少佐相当官殿が私に何用でしょうか」

 言葉に棘がある……青葉の屑が行ってくれた事が早速帝国嫌悪へとつながり始めているのだろう。
 なにせ彼女の部隊がコジマを助ける為に無茶をする事となり、あの巨大な母艦級BETAによって部下を二名も失う事となったのだ。
 原因たる帝国を嫌悪するのは当然の事だろう、本来ならば帝国の兵士が犠牲になれば良かった局面だと言うのに国連の衛士が戦死した。
 遺体の欠片一つ残す事無く、無数のBETAを道連れにする為に自決し自決装置の火力によって灰の一つ残らず消し飛んだのだ無理もない。

 帝国が殺したようなモノだ……怨むなと言うのが無理な話だ。

 それにテルミドールやコジマのようにあの話し方ではおそらく理解出来ないだろう、努力するしかないか。

「古島=純一郎とアナトリアの英雄二人とは旧友だ……今回の一件に対する謝罪と見舞いに来たが病室が解らん」

 ……こんなに一回を長く話すのは久しぶりだな。
 伊隅大尉は随分と顔をしかめているが、某の真剣な眼差しに折れてくれたのか少しだけ警戒を解いてくれるようだ。
 敬礼こそしていたが少しでも妙な行動を起こせば何かしでかすような雰囲気を持っていたが、まぁ殺される前に殺していただろう。
 ん? 伊隅? もしやあの伊隅ヴァルキリーズの中隊長か、ならばやはり彼女と生き残りに対する謝罪が先決か。

「……すまん、帝国の内輪揉めで貴官の二名も部下を死なせた……赦されるとは思わんが謝罪させて欲しい」

「―――三名です、二人は遺体も残せず死にッ! 一人はPTSDになり戦線を離脱する事となりましたッ!」

 頭を下げるよりも早くこの怒りの言葉が某に向けられ放たれた。
 階級は関係なく、眼は怒りに満ち溢れ、握り締められている拳からは赤い血がポツポツと流れ出している。
 気持ちは解らなくもないがあの世界の記憶を持つ某達にとって敵は人間でありBETAと同じ存在……少なくとも意外とは思わん。
 所詮は戦争であり戦争で人が死ぬのは当たり前でありその死に方が違うだけと言うのにどうしてそこまで怒り狂えるのか理解し辛い。 

 いや―――アンジェの教育の所為か自分を殺す相手にすら『誇れ』と言える人間の教育を受けたからか。

 人間も敵として見れる人間と敵はBETAのみと見る人間の差か、彼女は綺麗なんだな。
 だから人間に殺された部下の為にあそこまで怒り狂う事が出来る……階級すら無視して亡き者達の為に怒れる。
 良い隊長だ、ベルリオーズ風に言わせれば『別の形で出会いたかった』と言うべきか。

「……そうか」

「何故ですッ! どうしてあの子達は人間に殺されなければならないのですかッ!? 護るべき人達に、仲間にどうして殺されなければならないのですかッ!?」

「人間だ……世界は綺麗ではない」

 某達が見てきた世界はそんなモノだ。
 手と手を取り合い世界の為に戦うなど夢幻よりも儚い戯言であり、人間は自分の為ならば平然と他人や無関係な者達を犠牲にしてしまえる。
 銀翁が帝国で生きる為に某は闇夜に紛れ幾人もの邪魔な者達を斬り殺してきた……そうしなければ生きれなくなり殺されるからだ。
 青葉のあの行動も帝国を想いすぎたが故の暴走であり帝国から見れば奴は立派な忠義者だったが、やり方が強引過ぎただけの話としか言えない。
 もし奴の手による改革が成功していたならば帝国は国連に対して何もせず、むしろこの一件に対して青葉を保護するように動き国連派の大半が辞職するだろう。
 そうなれば今は帝国にいる某がもしかすればコジマの縁を頼り国連に流れ着いていたやも知れん……それはそれで良かったと言えるんだが。

「中佐がッ! 教官がッ! 私達がッ! どれだけ死なないように努力を重ね苦労して生きて来たか」

「…………死ぬ時は死ぬ」

 ―――若いな。
 死ぬ時は死ぬ、それは戦争だろうと日常だろうと当たり前の事だ。
 努力? 苦労? そんなモノなど唐突に訪れる【死】の前にはゴミ屑同然だろう。
 達観するか・絶望するか・あるいは人間の死に感情の起伏を失うまで彼女を見る限りあと三十人程度か。
 コジマから聞いていた総評よりも随分と若さがあるな『指揮官として優秀であり、一癖ある部下を束ねられる稀有な前線指揮官』らしいが。

 あと五年もすれば良い年頃で理解出来るだろうが今の様な他人の為に怒れると言うのは……あの世界の人間にとって新鮮だな。

 たとえ仲間が死のうと感慨なく戦えるリンクスにとって【感情】と言う存在は疎ましくも有るが、同時になくせば悲しいモノでもある。
 笑い合う為に戦い続け磨耗の果てに感情を失い笑うと言う行為を忘れ失い、精神的なバランスを欠き崩壊して処分されたリンクスも少なくない。


「その死を作り出したのは……帝国ですッ!」


 伊隅の女性らしい手が軍服の襟を掴み外そうと思えば簡単に外せるが外すのは流石に酷だ。
 それにあまりコジマが褒めている衛士に敵対感情を刷り込んでおくのはあまり良い事ではないらしい。
 本来なら某のような斬るだけの存在がこんな外交に気遣うなどないのだが……どうもメルツェルは口煩い部分がある。


「…………少なくとも某達シルバー隊は全力を尽くした、だが救えたのは身内とテルミドールとアナトリアのだけだ」


 視線は逸らさん、逸らすのは臆病者がする事だ。
 散々人を殺し・人の死を目の当たりにしてきた某はもう眼は逸らすなどせん……アンジェの死からも逃げなかった。
 本来ならばアナトリアの傭兵を殺したいと殺意を持たねばならない時ですら、この心は殺意よりも悲しみばかり生み出してくれる。
 当時の俺は某のような強さがなかったから無意識の内に憎むべき相手の強大さを前に殺意を造らず悲しみで逃げる事を選んだ。

 そして某はその事から逃げず立ち向かった。

 ―――自分の弱さから。

 ―――相手の強さから。

 認める事から逃げず、全てを認め達観し絶望し諦めていく事から逃げず立ち向かい受け入れた。
 アンジェは死ぬ事を覚悟し強敵との闘争に満足しながら散ったならば、某が邪魔するような道理はない。
 どれだけ苦しくとも様々な理由を持って怒りを失わせ、復讐から自分を切り離しテルミドールやジュリアスと共に生き延びる事を選んだ。

 ―――達観と諦観。

 愛する人を失い、尊敬する人達を失い、居場所を奪われ無様だが代わりに某は手に入れた事。
 これがある限り某はたとえテルミドールが死のうと、コジマが死のうと感慨なく生きていくだろう。
 他人の死に逐一悲しんでいては剣客は出来ん……リンクスも傭兵も殺し屋も出来ん……悲しい考えだが生きていく事など出来ないだろう。

「えぇそうですッ! 帝国は身内を助けました……その為に私は三人も部下を失いましたッ!」

「なら某に何が出来る? 謝罪か? 贖罪か? 部下の死に毎回悲しむようなら君の衛士生命も知れている」

 襟をいつまでも掴んでいる手を振り解く。


「某は誰が死のうと立ち止まらん……もう悲しむ感情は戦に捨ててきた」


 部屋を聞くつもりだったがここまでキザな事をしておいて今更聞くのはカッコがつかん。
 周辺に視線を走らせる限り彼女の部下らしき人物達の姿も見られない……一度会っておきたかったが仕方ない。
 コジマからは中々優秀と称されていた速瀬という少女には特にあって色々と腕を見るのも仕事だが出来ないな。


「だが部下の死に感情を持てる……甘いが羨ましいな」


 親友にして戦友の死にすら何一つ感じなくなった某に比べればどれだけ綺麗か。

 消えて欲しくない綺麗さか、それに若々しさもある。

 少なくともオルカ旅団にはない若さの色気だ……ジュリアスも実際は良い年だからな。
 若い年頃の娘達に囲まれ教育しているとは、テルミドールやコジマめ……いつからセクハラをするようになった?
 それにソレを羨ましいと思うなど某もまだまだ若いのか、アンジェが明日にでも枕に立つやも知れんな。

 結局病室を聞く事無く格納庫を後にし通路に出た某を待っていたのは待ち合わせに来なかったテルミドールだった。
 悠々と腕を組み壁に腰掛け無駄なく、それでいて妙に様になりカッコがつく姿勢でいると言うのも妙に苛立たしい気がする。


「違反者が」


「いやすまんな、思ったより身体がだるくてな」


 顔色はまさに健康そのものと言えるが、突っ込みは無しにしよう。

「どうだ、あの伊隅は?」

「コジマが自慢するだけはある……リンクスには向かんがな」

「彼女達は良くてノーマル乗りだ、まぁリンクスという者を知って受け入れるなら喜んでオルカに誘うだろう」

 ……オルカへの勧誘はメルツェルがしている気がするぞ?
 まぁやはり突っ込むのはなしとしよう、某はただ目的の為に邪魔な連中を斬るだけだ。
 しかしあの伊隅との話の所為が珍しく長く話している気がするな。

「珍しいな? お前が昔のように話すのは」

「あんな話し方はお前達くらいだからな、説教出来るような立場でない癖に説教などした所為だな」

 壁にもたれていたテルミドールがそれを止め、先導するように歩き出す。
 某はそれと肩を並べて歩く……昔のように肩を並べて。

「どうやらお前と彼女達を合わせたのは良い意味で成功らしいな」

 なる程……テルミドールともあろう人間が他人にいらぬ心配をし成功して笑うか。
 昔から貴様は色々と揉めてきたがどうしてこう、良い頃合に限ってそんな気の利いた事をするのか。
 我々の大先輩であるベルリオーズが期待し、技術を託していた理由も良く解るな。

 ―――ロマンチストで甘い部分で今も昔も変わらんな。

 だが約束をスッポカサレた挙句彷徨った恨みはチャラには出来ん。
 スッと腰に下げている月光と斬月に手を伸ばし柄に手を添える。


「そこになおれテルミドールッ! 彷徨った怨み辛みをここで晴らしてくれるッ!!」


「まっまてッ! 確かにスッポカシテしまったが本当に体調が悪くて」


「問答無用ッ! 終止ッ!!」


 某が鞘から二本を抜刀すると同時に風を切るような音と共に走り出すテルミドール。
 月光と斬月の刀身を通路の照明に輝かせながら先行するテルミドールを全力で追撃する。
 せめて峰打ちで一撃入れなければこの彷徨った怨み辛みと利用された事への憎しみは消えん。

 なんとしても一撃入れてみせるぞテルミドォォォォォォォルッ!!


『……お前達の価値観、誇れよ』


『良い戦士になった……感傷だが、あの場に居たかったな』


 そんな声が聞えたが……きっと幻聴だろう。

 後ろにいるかも知れないあの二人の影もありはしない。

 振り向き立ち止まるよりも今はなんとしても一撃入れるのみッ!!

 でも目頭が熱いのは、きつと長々と話した所為だ……そうに決まっている。

 この冷め切った心が少しだけ温かいのもきっと気のせいだろう。


 視点:お茶会

『まずは国連派による帝国統一おめでとうございます……で良いの?』

『茶化すな魔女、こちらもあの事件の所為で内部が大混乱状態なんだ……今日で二日は寝てないんだぞ』

『ご愁傷様』

『だが銀翁中将閣下との会見はどうだったのだ? 良い話だと信じたいが』

『……えぇ良い話ね、帝国の完全統一と新型戦術機は無理でも新型OS積載はどの位掛かりそう?』

『無論そちらが協力すると前提ならばOSは早くて二月の終わりか、三月の初めには間に合うな…新型戦術機は極一部の精鋭限定になりそうだが』

『規模の小さい帝国でもやっぱり掛かるわね……新型戦術機は無理でもOSは急がせる必要があるわ』

『前線の要望も多いので急ぐのは当然だがどうしたんだ? 魔女にしては怯えているのか?』

『例の粒子炉や三種の神器達を世界に売り渡す事になったのよ、資金と資源を手に入れる為にね』

『たしかに秘匿にし続けるのは惜しいがあの汚染元凶の粒子炉を売り渡すなど―――まさかAF計画を中将は実行に』

『それと自分の昔馴染みで世界各国に散ってるエースを集めて一気に戦力増強を図るらしいわよ、名簿は転送してあるわ』

『……グレートブリテンの七英雄にロシアなどのまさに各国からか、権力が大きくなった事で北海道などの防衛軍からまで引っ張ってくる気か』

『それに売り出す値段まで化物よ、有澤重工の専売だからってこの金額と要求資源量もありえないわ』

『だがあの戦いで見せた粒子炉搭載機の防御力と圧倒的な戦闘能力は確かに炉心一つで造られるなら安い……この値段も納得出来るがしかしな』

『あんな化物が量産される世界なんて冗談じゃないわよ、ましてや汚染兵器が単機で下手な師団規模の戦闘力なんて笑い者じゃないのよ』

『強大すぎる力か……BETAを退けるには確かにスガルしかないが、戦後はどうなる? 世界が崩壊するぞ』

『一個人に依存する新世代(ネクスト)戦術機と無数の凡人によって構築されるAFの二大兵器によって構築される軍隊ね』

『BETAを討つ為の戦争が人類同士の戦争にならない事を願うだけか……私に出来るのは要望通り動くだけか』

『ならこっちが要請した新型強化装備の量産は出来てるの? このまま新型戦術機に乗せるとかなり使い物ならなくなるわよ』

『先の戦いでも数名が新型戦術機の機動に従来の強化装備で赴き骨を折ったりと散々だ、これの生産も急がせるつもりだ』

『ご自慢の部隊も随分と軟弱ね』

『反応性が上昇しすぎた結果に機体と衛士がついて来ていなかったのだよ、機体はともかく衛士は不味いと急ピッチで改良開始だな』

『あっそ、まぁこっちも色々と収入がありそうだしまだ未完成の電磁投射砲の完成にも目の前ね』

『有澤重工のタンク型戦術機部隊に榴弾砲装備の申告があったが、データ通りならば相当な火力掃討が可能になるがこれでは有澤重工の独占だ』

『他企業との連携を取るよりもいかに巨大化し他企業を取り込むかね……極東産業の支配も遠くないわね』

『だがそれで戦力統一が出来るなら安いモノだよ、危険ならば権力で押し潰せば良いだけ国家に勝てる企業などないだろう』

『(…………その国家に企業が勝てた原動力がネクストとリンクスなのよ)』

『どうした魔女?』

『アイツ等も企業も甘く見たら死ぬわよ、むしろ絶対的な脅威として見ないと危険なんてレベルじゃないわよ』

『BETAよりも脅威か……敵は身内にありなど笑えんぞ』

『人間なんて敵ばかりよ、ところで例のヤンゴトナキ方々はどうなってんのよ?』

『それなんだが……入隊が早まるらしい』

『ハァッ!? なんでそうなんのよッ! 死なせない為にこっちに来させるのに早めてどうするつもりよッ!?』

『それは私が聞きたい位だッ! 私とて上層部に通じている訳では無い、何故こんな事を思い立ったのか聞きたい位だッ!』

『…………強くなりすぎた?』

『戦乙女隊とオルカ隊の存在が帝国に決意をさせたのか? だが仮にも要人の娘を差し出すような事で死なさぬようにすると言うのに』

『猶予は三月までね』

『内部統一すら万全でないと言うのに上層部は、少しはこっちの苦労を考えろッ!!』


『(……歴史の変遷ね―――どうやら休むのも今日までね……アレやML機関の搬入を急がせる必要が有るわね)』


□□□


 難産×戦極姫に手間取ったッ!
 毛利家を頑張ったけどバグにやられ主力部隊が動けなくなり断念
 島津家は威光&石高クリアじゃないとエンディング見られないの知らずに天下統一
 んで織田家をするも武田六神将(風林火山の四人+雷の幸村と陰の勘助)相手に大苦戦したが、後は問題なくなんとかクリア
 たった一家のキャラエンドを見るのに丸々二週間掛かるという失態……だいたい100ターンでクリア出来るのですが
 
 さてやっと書けたこちらは銀翁と香月博士密会は腹の探りあい利用価値の見つけあい。

 そして作者のコジマ粒子汚染によって真改の過去が作り出されました。
 テルミとは旧レイレナードの新兵時代よりの戦友・ジュリアスはその途中から来た仲間でテルミとは悪友的なイメージ。
 アンジェの弟子が真改なら、ベルリオーズの弟子がテルミとリンクス戦争時の行方が知られないテルミの過去すら勝手に製造。
 暴走一直線なうえに肝心のコジマ達被害者の出番は皆無……病室で寝てると思ってもらえると助かります。

 ネクスト関係は世界に対して隠すのではなくこちらから大々的に宣伝し資金と資源を搾り取りその勢力を衰退させる。

 企業に対する牽制と同時に搾り取ったモノでこちらは一気に戦力を整えれるだけでなく、世界に対する牽制にも。
 元々オルカや企業にとって国家は隠れ蓑・最悪滅ぼす存在であり忠誠心などある訳がない。
 こういった世界はは利用するかされるかの世界であり、一度は世界すら敵に廻し暗躍したオルカの方が一枚上手。
 これで香月博士達が二週目などの記憶持ちならば厳しいのですけど……この世界では記憶の継承がないので後れを取る。

 帝国は行動を起こした殿下の影響力と銀翁・紅蓮両将軍の素早い行動で混乱はあれど帝国派の吸収は順調そのもの。
 だけどこれでどうこうと言う訳でもない、行き過ぎた忠義心や巧く行き過ぎる物事に対して不満がない人間などいないのだから。

 最後に―――書く量が少しずつ多くなっている気がします

ご指摘により誤字修正



[9853] 二十六話[繋がる者・山猫・傭兵]※微グロ注意?
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/12/13 15:01
 視点:コジマ

 草なんて一つもない……黒い砂が入り混じる砂漠になってしまった都市コロニーの跡地に国連軍服姿の半透明な俺がいる。
 もう住む人間なんていなくなり廃墟と化して戦争と戦闘によって薙ぎ払われた大勢の人達が住んでいた筈のコロニー跡地。
 ここに2000万もの人間を乗せて高度7000mの大空を飛翔していた全長数十kmの巨体を誇る翼を広げた鳥の様な姿をした揺り篭が墜落した。
 ゲームでは容量や表現の関係上極小の大きさとしてされてしまったその巨体と共に自分達が生きる為に食い物にした荒廃した世界へと叩きつけられる揺り篭。
 名前を【クレイドル】と呼ぶ超巨大航空プラットホームは他社・他国との経済戦争を制す為に企業が行ってしまった最大の罪である致命的な無人迎撃兵器【アサルトセル】を造った張本人達が住んでいた。
 他者が自分達よりも先に行く事を認められなかった企業がお互いを妨害しあった結果としてAC世界の宇宙への進路は失われ、企業は自分達の身の安全の為に人々の視線を戦争と戦闘によって地上へと釘付けにする世界となった。
 その所為で地上は繰り返される戦争と戦闘によって荒廃の一途を辿り既に人が住める所等少なくってしまったにも関わらず企業は自分達が粛清されるのを恐れ何の対策もせず、解決策を導き出さずにノウノウと数十年間生き続けてきた。
 解決策を導き出した企業であるレイレナード社を戦争と言う形で消す事で自分達の罪の露見を防ぐと同時に戦争によって邪魔な存在を消し去り、あたかも支配者として威厳を見せ付けている。
 だがその裏側で自分達の生活の為に地上で懸命に生きている無数の命を食い潰すだけでは飽き足らずついには地球と言う星すら滅ぼす企業に対してオルカ旅団は決起を決め最悪の反動勢力として名乗りを挙げた。
 その身内などを乗せて地上の荒廃など知らずに毎日腹一杯に飯を食い・汚染されていない水を飲み・身体を荒い・土埃一つ付いていない衣服を着込んで地上の戦争を娯楽に毎日を享受している連中を護っていたクレイドル。
 今まさに俺とコイツの手によって汚れきった世界に叩き落して、現実を思い知らせてやったんだよ。

『一億ッ! 一億だッ! おい首輪つきッ!』

 この記憶の時の俺が通信越しに狂った声とテンションで呼び掛けられる……遥か上空にいる自分の行動が理解出来るのは不思議だな。
 オルカ旅団でも異端児でありテログループ、クレイドルによる選民思想反対グループの中でも過激派である【リリアナ】のリーダーを務めながら最前線でネクストを駆り虐殺を行う男であるオールドキング。
 テルミドールの勧誘に乗りオルカに入った俺に極秘通信が送られ、その通信でオールドキングなりの理由と大義を聞き今回の大虐殺に賛同し今に到る……懐かしい記憶だな。
 神経が繋がっているネクストが小躍りをする位なのだから相当喜んでいる……もっとも空中で滞空しているとは言え小躍りしながら滞空するなんて操作は相当技術とAMSの慣れがいるんだがやはりオールドキングの力量だよな。

『……たった一億になに喜んでやがる、3~7を落としただけだぞ?
 あと1・2と8~21までいるんだから、しっかり落としてやろうぜ』

 地面に激突し大炎上する五機のクレイドルを見下す……一億人が生きたまま焼けて、一億人が瓦礫に押し潰され死んでいく無情な光景がそこには広がっている。
 オルカ旅団の命令ではなく、俺とオールドキングの二人による独断行為による自分の手でクレイドルを落とし革命に伴う犠牲を捧げ自分達が背負う明確な反逆と革命の意思であり、甘ったるい革命とは違う。
 この全てを背負う覚悟がある、『革命の為に』・『人類未来の為に』・『人類に黄金の時代を』の大義名分に伴う無数の犠牲を自分の手で作りだしてその全てを背負う覚悟がある……革命に伴う無差別な虐殺を背負う覚悟がある。


『そうだな……オルカの連中は温すぎる、革命なんぞ結局は殺すしかないんだ』


 オルカ旅団のクローズプランは革命の最後の為だけに、言わば結末の為にクレイドルの人間が“巻き込まれてしまうだけ”で言い直せばクレイドルの人達は事故に巻き込まれて死んでしまうだけだった。
 いや……そうなるように考えに考え抜いて道筋を決めて行動してきたメルツェルの智謀のおかげだが、もう一つは旧レイレナード社が計画していたこの計画を再度実行に移そうと決定したレイレナードの亡霊達。
 当時のクローズプランにクレイドルのような存在がなかった事によって何の犠牲もなくこの計画は完遂され、人類は閉鎖されてしまった地球から広大な宇宙へと飛び出し別の惑星へと避難する計画であったこの計画。
 だがこの計画にレイレナードの利益が絡んでいなかった訳じゃない、アサルトセルの真実を世界に発表し自分達はその贖罪としてクローズプランを決行し世界から非難される事すら恐れず民衆の為に立ち上がった英雄。
 何の行動も起こさなかった他企業を民衆の手によって崩壊され、英雄となった自分達は厚い民衆支持の下に宇宙開発を推し進める事が出来て急速な成長が可能でありながら邪魔な他企業を崩壊へと導ける一石二鳥な結末。
 綺麗に見えて所詮は企業であり、企業だからこその計画だったと今になってみれば本当にそう思えるような計画でありオルカ旅団がクローズプランを成功させて誰が一体儲けを得る事が出来るのか?

『そうだな、まぁ俺達のこの行為を後世が【英雄】か【愚者】のどちらに書くかは知らんがな』

 燃え上がるクレイドルから命からがら逃げ出せた生き残りを眼(カメラ)が捉えている。
 気分が良いのか悠々と歌っている、本当ならばこんな大事件を起こした俺達を殺す為に殲滅部隊が派遣されていると言うのにお互いそれならそれ、とばかりに悠々とここにいる。
 あちらも何を言わないからこそ俺は俺なのに動かせてもらった、地面に機体を下ろしローゼンタール社製のライフルの銃口を生き延びた人間に合わせているがツマラナイ事に合わせられている人間は何の反応も見せない。

 舌打ちをしながらライフルの引き金を引く。

 撃ち出された30mmの小口径ライフルがその人間の胸元から上を綺麗に吹き飛ばすだけではなく、螺旋回転している銃弾によって残った下側がバラバラに引き千切れるだけでなく原型を留めていた臓物や血が宙を舞う。
 それはあまりにも綺麗で狂気で俺に嗤いをもたらすだけでなく、上空で歌を歌いながら小躍りしていたオールドキングを焚きつけ二人で墜落したクレイドルから奇跡の生還を遂げた人間を絶望させる為にこの手で殺す作業へと。

『助けて』

 黒コゲの人間が着陸しているネクストに対して懸命に懇願している。
 ネクストに乗っている俺は言葉の代わりに一発進呈。

 苦しみから救ってあげたんだぞ? 確かに『助けた』ぞ。

『死にたくない』

 言葉の代わりにネクストの片足を振り上げて、何が起こるのか理解した恐怖に歪んだ賢い顔ごと一気に踏み潰す。
 感覚のない鋼鉄の身体だからしょうがないが折角殺したくて狂いそうだった奴等を踏み潰した感覚がないのは悲しかったな。

『私を敵に廻すとは……』

 地上では決して見る事のない丸々と肥え太った身体をしている奴を左手に持っていたレイレナード社製マシンガンを地面に突き刺し、手の平の上に迎え入れるように片膝を折って座る。
 してやったり汚い笑顔を浮べ燃え上がるクレイドルと脱出してきた人間を見る、その顔と同じ汚い眼を見た瞬間に……いや元々コイツのような地上の俺達の懸命な生活を馬鹿にして食い物にしている奴の最後など決まっている。
 地面と水平にしていた左手を地面と垂直にし、落下するコイツを容赦なくグッ! と握りつぶす……グチャリなんて音と一緒に握り締めた手から血が垂れ落ちていくのが見えて俺の顔が狂気に微笑む。
 『革命』と言う大義の下に行われる粛清と虐殺は『悪』ではなく『正義』であり、革命が世間に認められれば後世はこの革命と虐殺を正当な行為と呼ぶだろう、そこにどれ程の狂喜があったとしても。
 現場を知らない人間達から言わせれば当時の事など絵空事のような本当にあったかも判らないような出来事の一端となって歴史に姿と真実を埋めていく、オルカ旅団の革命もまた時間が経てば自然と何もかも意味がなくなる。

 生き延びた連中を一人、また一人と丁寧に見つけ出しては殺す。

 そんな作業を狂ったように続ける俺達二人……会って間もないと言うのに親友のように笑い合う。

 二人で息を合わせて歌を歌いながらまた一人殺す、仲良しの子供が手を繋いで一緒に歌いながら歩いていくように。


『おいオールドキング……いや、相棒』


 右手に持つライフルの銃口を相棒に向ける。


『首輪つき……いやよろしく頼むぜ、相棒』


 対する相棒はショットガンの銃口をこちらに合わせながら、俺のライフルの腹にショットガンの腹をカツンと当てる。

 まるで西洋の騎士が決闘前や違えぬ契りを交わす時にするような、狂気に満ちた惨劇の地で行われた虐殺者の誓約。

 この世界ではオールドキングのような親友や相棒と呼べるような奴がいないな、どんな状況でも憎まれ口を叩きあいながら背中を任せて戦える……そんな存在がいない事に今更になって気付く。
 だが相棒のような実力もありながら狂った“天敵”としての俺の思考や考えについて来られるような思想が必要になる……だがこの帝国でそんな人間がいる筈がない。
 帝国軍に『殿下を殺して帝国民を救うか、帝国民を殺して殿下を救うか』の二択を突きつける様なモノだ……殿下と言う『人』を救う為に帝国民と言う『人類』に死んで貰うか自分達で殺すか。
 帝国民を生かす為に殿下に死んで貰うかの答えのない二択であり、彩峰中将が行った民衆の為に軍を裏切ると似たようなモノだが帝国人間に対してそんな選択を迫れば俺が殺されかねない。

 生体反応を観測出来なくなり、俺達二人はアジトへと帰り次の虐殺のプランを寝ずに話し合った。
 そうそんな時に俺達のアジトを突き止めた企業から明らかな罠と言える依頼が舞い込んだ。


『すまねぇな、相棒…この辺りが俺の器らしい……良かったぜ? お前とは』


 その依頼が四機のネクストを相手にオールドキングと共に戦った最後の戦い。
 激戦の果てに勝利した戦いだが……相棒は自分の生き様に満足したかのように嗤ったまま死んでいった。
 何故だが解らないが俺は泣いていた、信頼出来るオールドキングが死んだからかだったか? それとも狂った人間が俺一人なったからか?

 解らない……解らないが一つだけ解っている事が有る。


「―――起きないとな」


 俺がのうのう寝ていると言う間抜けな事だ。
 もしこれが前世の記憶なんて自覚がなければ、このまま夢の世界を現実と思いながら死ぬ事が出来たかもしれない。
 戻れないかも知れない世界の相棒と共に自分が一番輝いていた世界を謳歌し、満足しながら死ねるかも知れないのによ。

 これは夢だ、嘘偽りの非現実だ。

 そう俺自身が訴えかけてくる、寝るな・起きろッ! 起きて戦え、数万の化物を相手に!人間相手に戦う為に起きろと訴えてくる。
 だがそんな訴えよりも俺を起こそうとする理由がある……三十すぎたいい歳のオッサンがこんな事を言うと変態確定なんだが。


「さてガキ共を慰めないとな……それに俺も神宮司軍曹あたりに慰めて貰わないとな」


 俺の意識は何もない筈の手に握られている拳銃をコメカミに添える。
 夢の世界だからなんでもすぐさま用意出来るのは便利だよな。
 そのまま眼を瞑り引き金を何の躊躇いなく引く……鼓膜を破る音共に銃弾が頭を横から撃ち抜きその痛みで俺は現実へと帰った。


 視点:テルミドール

 今も集中治療室のベッドの上で昏睡状態のまま眠りについているコジマが横たわっている。 
 カプセルでの治療は終わったと言うのに今もこの男は夢の世界を見続けているらしい……私達がどれだけ心配しているかなど知らずに。
 この数日間に何人もの人間が足を運んでは極東の英雄と呼ばれてもオカシクナイ人間の弱弱しく眠る姿を見に来ていた。

「伊隅大尉も無理はするな……部下のメンタルケアもだが、自分のケアが一番大変だろう」

「いえ真改補佐官に言われましたがこれでも部下の死には慣れているつもりです」

 ここ数日間で随分と顔色などは良くなったがそれでも不安などに怯えているように見えるが、隊長として気丈に振舞わねばならんらしいな。
 しかし真改に会わせるのは今後の行動で帝国とのワダカマリを回避する為に行ったつもりだが……どうやら思ったより効果が出たらしい。
 だが生まれて二十年程度しか生きていない兵士が【死】を割り切るのは難しい、ましてや死なない為に努力してきた部下や味方が原因で死んで素直に納得出来ないだろう。
 伊隅大尉に限らずこの世界の人間はBETAと言う明確な敵対存在がいる所為で綺麗にも『人類は全て友軍』のような考えが多いらしいが我々はそうは思わん。


「……すまない、我々がもっと巧くしていればこんな事には」


 銀翁や真改がいる事で油断していたとしか言えない。
 あの世界で日常の如く人間と敵対し殺しあってきたが、この世界に来てから敵はBETAと言う地球外生命体なんて事に戦うのは奴等一色だ。
 裏切る事のない無数の僚機に協力し協同して数万の敵と戦う連中をいつからか『仲間』として見る様になってしまった。 

 ……温くなったな、私も。

 壁に背中を預け、腕を組みながら椅子に腰掛けている伊隅大尉の小さな背中を見つめる。
 あれは昔の私みたいだ……アナトリアの傭兵とジョシュア=オブライエンの戦闘によって故郷を失った日の私だ。
 懸命に理解しようとするも理解しきれない、理不尽に嘆き・無情に泣き・手に入れた筈の力のあまりにも非力さを痛感されられたあの日。



『殺すッ! アナトリアの傭兵は絶対に殺すんだッ!』



 真改・ジュリアスと共に別地区の戦闘に参加している間にレイレナードはアナトリアの傭兵によって滅ぼされた。
 信頼し当時の私に技術と戦い方の全てを叩き込んでくれた当時のランク1ベルリオーズ先生もアナトリアの傭兵に殺された。

 そして故郷グルシアがジョシュア=オブライエンとアナトリアの傭兵の戦闘に巻き込まれ、重度の粒子汚染によって崩壊した。

 立ち会う事も出来ず、防ぐも出来ず……何一つ出来ずにまるで他人事のようにたった一人の男の手によって全てを奪われた。
 ……全てが過去の『た』としか言い表せない、リンクスの手に入れたのに人間としての身体を捨ててまで手に入れたのに。

『よせダルヴァッ! 私達のような実戦経験もない新人が勝てるような相手じゃないぞッ!?』

 アスピナから合流した当時は同じ新兵だが当時の私よりも強かったと言えるジュリアス=エメリーが懸命に私を取り押さえる。
 オーメルサイエンス社に吸収された私達が行き着き落ち着き始めたばかりだと言うのに、そんな状況で起きたあの事件。
 格納庫の愛機の前で背中から抱きしめられる様に取り押さえられていた……あの時はそんな余裕もなかったが今になればジュリアスの豊満な胸を堪能していたんだな。

 今の様な冷静さが持てるならぜひとも帰りたい一瞬でもある、全てを変えれるあの瞬間に……若さもあったあの頃に。

『それがどうしたッ! 故郷をレイレナードをベルリオーズ先生を……母さんを殺した奴を赦せと言うのかッ!?』

『辛いのがお前だけだなんて思うなッ! 私だって今すぐにジョシュアの仇を取りたい……一矢報いたいと考えているんだぞ』

 ジュリアスはジョシュア=オブライエンをモデルにアスピナでその戦闘技術を複製されられた存在。
 言わば父親であり先生とも言える人間に当たる、その人間が死亡確実なPTネクストに乗ってアナトリアの傭兵に戦いを挑む。
 当時は単に雌雄を決する為に戦いを挑んだ……あるいは何処かの企業がアナトリアの傭兵を疎ましく思い消す為に派遣したと思っていた。

 間違ってはいなかった。

 だがそれは皮肉にも私達を取り込んだオーメルサイエンスが二人とも疎ましく思い、強すぎる力を排除する為に同志を目論んでいたのだ。
 そして両者が戦い疲弊した所に当時のオーメルご自慢リンクスを戦わせ両者を撃破させる事で他企業に対する圧倒的な戦力差を誇示する。
 言わば体裁と今後の世界情勢の為に犠牲にされたあの二人の傭兵とアナトリア……私の故郷……女手一つで私を育ててくれたたった一人の母さん。

 奪ったのは世界だった。

『ならどうして……』

『お前はいつから騒ぐだけの低脳になったんだ……リンクスだ、某達も覚悟してきた筈だ』

 ジュリアスに取り押さえられている私を蔑むように現れ、腰に下げているアンジェの遺品たる東洋の神秘【刀】の柄に手を添えている真改。
 本来は西洋の剣を下げる為のベルトに強引に刀を差しているが散々鍛えられた成果か、その立ち姿は凛としていながら刀が人の姿をしているようにも見える。
 『寄らば斬る』のような敵意を潜ませながら近寄れば殺気を放つ事無く斬り捨てる様な錯覚すら感じさせる東洋の剣士たる【侍】になっていた。 
 死を享受するように……傭兵でありリンクスについて達観と共に諦観してしまった一歩先を歩いていた親友。


『俺は…俺はこうならない為にリンクスになったんだッ! リンクスになって戦って報酬で母さんを楽させる為に』


 それがオッツダルヴァとしての戦う理由。
 国家解体戦争によって父さんを亡くし、働かねば糧食を得られない企業の支配は働かない人間を誰も助けてなどくれない。
 私を養う為に母さんは毎日無理をしながら懸命に育ててくれた……軍人になり楽な生活をさせてあげようと辛い日々に耐えた。

 人間としての部分の大半を捨ててまでリンクスとしての適性を高め、戦闘経験も積み始めようやく動き出そうとしていのに。

 親不孝にも程がある……何の為にリンクスとなったのか、あの瞬間は本当に理解出来なくなっていたな。

『ジュリアス……離してやれ』

『真改ッ!?』

『こういう馬鹿は話しても聞かんだろ』

 ジュリアスが私を離し、開放された私がステイシスに乗ろうと歩き出す。

 そんな私の肩を真改の手が力強く掴み身動きを封じる……当然私は苛立ったな。

 文句の一つを言う為に振り返った瞬間、顎を鋭い一撃が直撃し私は力なく鋼鉄の地面に崩れ落ちる。
 真改の右腕の強烈なフックが顎を砕く事無く強烈な脳震盪を起こすように撃ち抜き、私は見事地面に沈んだ訳だ。
 立ち上がろうとするも僅かに残っている人間の脳は命令を発令しようとも伝達しきる事無く命令は消滅する。
 完璧と言える一撃によって私の意識は掠れ、暗闇に沈んでいく。

『あのセロが出ていたらしい』

『セロ? 歴代AMS適性が最高の?』

『あぁ……オーメルの手の平らしい』

 それがあの時聞えた会話の最後。
 この後に当時のオーメルの切り札であるリンクス・セロが出撃しアナトリアの傭兵を追撃したが返り討ちにあい戦死したのが解った。
 おそらく真改はあの時既に悟っていたのだろうな、全てがオーメルサイエンス社が起こした喜劇だという事に。

 そしてセロと言う適性者が消えたオーメルが私の適性に眼を掛け重用するという事に。

 あの頃の真改は何処まで知っていたのかは解らないが、もし真改がいなければ今のマクシミリアン=テルミドールは戦死していただろう。

 私の……私達の全てを奪ったオーメルに対する復讐と反抗の機会を得る事無く、あの世界とリンクス戦争の真実を知る事なく。

 オルカ旅団を立ち上げた際にも真改は何も言わず付いて来る事を宣言し、戦う道を選んだ。
 最初の五人でありながら議会に参加する事は決してなかった、それは私との関係を考え自分の進言に流れ易い事を悟っていたのだろう。
 今更だが、アイツには昔から叶わないな―――だがその真改がいる事に油断した結果が若い子供達を死なせる事となる。



「……あの日から数十年経つと言うのに、私は何一つ変わっていないのか」



 リンクス・オッツダルヴァとして戦い、リンクス・マクシミリアン=テルミドールとして革命に殉じたと言うのにたった一つの言葉すら掛けてやれない。
 昔の自分のような死を受け入れようとしているが、それまで行ってきた努力・行動・決意が無駄であった事を理解したくないが為に認める事が出来ない。
 BETAの侵攻によってこの世界の人口は既にあの世界の末期にすら及ばず、残っている人間は妊婦・小さすぎる子供・老いすぎた老人以外は皆兵士状態。

 教えるべき老兵や新人達を護る為に率先して死んでいく。

 模倣となるべき人間の死によって学ぶべき事を学べず、若い兵士達は未熟さ故に死んでいく。

 そんな悪循環の犠牲者の一人が昏睡し横たわっているコジマを見つめている。
 あまりにも若すぎる隊長ながら才能一つと懸命に学べる事を手探りで見つけ出し、それを実戦で活かそうと日夜努力を重ねている伊隅大尉。

「……当初のA-01連隊規模の部隊でした」

「そうか」

「ですが明星作戦において壊滅し生き残ったのは私のヴァルキリーズ中隊だけでした」

 【明星作戦】

 横浜に建設されたハイヴを攻略する為に決行された決死の反抗作戦。
 帝国軍・国連軍などの複数軍が連携し人類はBETAの象徴たるハイヴと言う巣を攻略する図式を描かれる筈だった作戦は……アメリカの裏切りに潰える。
 正確に言えばアメリカ上層部であり当時から食い込んでいたオルタネイティブ第5計画を擁護し進めようとする一派とそれに属する者達の犯行。

 強力な重力偏差によって範囲内に存在する全てを破壊すると言う【人畜無害:安全安心】を謳ったG弾の無差別爆撃。

 人類から選ばれた10万人を選出して片道60年掛かる惑星への移住と残された地球の人類はG弾を主軸とした反抗作戦が【5】の全容。
 確かに資源物資が奪われ枯渇し・食料自給率は安定せず・土壌を巡り政戦が始められている地球を脱し選出された10万は選ばれ逃がされた責務を持つ。
 資源・食料満ちながら開拓地を多くある新惑星で体勢を立て直し反攻する事が可能かも知れない、確かに意味がない訳では無い作戦だが……
 この計画を推し進めたいが為にアメリカの上層部は条約破棄・自軍だけ後退させ友軍を無差別殺害・果ては汚染兵器の真実を隠しての強行運用。

 第五計画派閥と無関係な人間には悪いが……救われないな。

 どこまでが本気なのか理解出来ない計画の為に日夜世界から冷たい眼で見られ、息苦しい生活を送るのだからな。
 そういう面から見れば確かに彼等もまたBETAと言う無数の怪物と取り返しの付かない情勢の犠牲者か。


「先輩は死に……速瀬と涼宮が恋の鞘当を繰り広げていた鳴海も戦死し同期の仲間や後輩が死んで逝きました
 私達が助かったのはまったくの偶然で、運が良かっただけだと言うのに私は生き残った人間の責務を全うする事すら出来ません
 実戦を知る者として教える事をしても、知る限りの技術を叩き込んでもッ! 私”は”いつも生き残るッ! 部下一人護れませんッ!」


 そして懸命に涙を堪え丸イスに座っている伊隅大尉の背中が震えている。
 本当に無力な頃の私ソックリだ……ふと自分の右手に視線を落とす。
 今の私にあの日の真改のような事が出来るだろうか?
 奮い立たせるだけの言葉を心に届かせ、なおかつ身体の面からも一発重いのを入れて立ち直らせる。

 殺すしか能がないリンクスの手で人を救う?

 失笑ものも良い所だ、そもそも骨に特殊な金属を使用しているこの手でただの人間に一撃入れれば殺しかねん。
 真改―――どうせならばもう少し何かして欲しかった所だな。


「……死ぬ時は死ぬ、軍人だろうと一般人だろうと死ぬ時は死ぬ
 君の所為ではないさ、ただ時代が悪いからこそ生き残った者はこの時代を変える為に戦うのではないか?
 少なくとも私やオブライアや銀翁……コジマに真改などの今は世界に散らばっている多くの同志はそうしている」


 良い言葉が続かん。
 演説染みた行為は得意だと言うのにこんな小さな背中を押す行為すら出来んとは……団長が笑わせる。
 幾千モノ人間を救い護る英雄ではなく、数万の怪物を殺すしか能のない英雄など腐るといると言うのにな。

 伊隅大尉の肩にそっと片手を置く。

 お互い無言のまま静寂が病室をいつも通り包み込む。
 聞えるのは弱弱しいコジマの呼吸音と心拍数などを告げる淡々としたリズムを刻む音。


「……カラードのリンクス」


 それはコジマをコジマと呼ぶ前に愛称のように呼んだ呼称。
 オールドキングは『首輪付き』とカラードの飼い猫である事を蔑むように言っていた。
 あの世界で青臭い理想を手に入れた……犠牲者なくクローズプランを成功させた人間がこのまま眠るのか?

 あれ程の力を見せつけPTネクストすら操ってみせた適性を持つ君がこんな軟弱な死に方をするのか?

 ―――起きろッ!

 そう空いている左手で握り拳を作り全力でコジマの腹にでも叩き込めば起きるのではないか? と踏んだ時だ。

 重く閉じていた目蓋が突然勢い良く開かれ、そのまま何事もないかのように左手でコメカミを押さえながら上半身を起こす。


「……生きてるか」


 目覚めてそうそうかなり不機嫌な態度を取る。
 その視線は何の変哲もない人間としての左手であり左腕に集中しているが……まるで腫れ物を見るような視線だな。
 確か報告では神経関係は何の問題もない筈らしいが、何か本人にしか判らない様な改造でも施されたか?

 伊隅大尉に到っては悪態ついているコジマが珍しいのか、あるいは突然目覚めたのが驚きなのか眼が開いたままだぞ。

 とりあえず背中を数回叩き意識をハッと覚醒させてやると伊隅大尉は素早く立ち上がり敬礼の姿勢を取る。
 コジマはそれを苛立ったままの視線で見るが伊隅大尉はなんとかその苛立ちをブツケラレテモ耐えられるらしい。

「伊隅、何日寝てた」

「ハッ! 三日程です」

「その三日間で起きた事全てを伊隅の判る範囲で報告しろ」

 必ず呼ぶ際に階級をつけていたコジマが階級を付けずに相手を呼んだ。
 どうやら牙を抜かれていた山猫が帰ってきたらしい……綺麗な事を言いながらその奥底に狂気を隠した山猫。
 本当のリンクスと銀翁が認めメルツェルが信じるに対するとまで称えさせたその策謀が帰って来てくれるのは非常に喜ばしい。
 

「一条・神村は何一つ回収出来ませんでした、葛城が二人の戦死のショックで重度のPTSDになり軍を去りました
 私達や社には別れの言葉を残しましたが中佐に対しては何も言わず……発砲音一つでかなり錯乱する程でしたから
 もし昏睡状態の中佐を見たらそれだけでかなりの錯乱が確認されると言うので何一つ残す事無く葛城は軍を去りました
 帝国の中佐達を撃った青葉=智弘は殿下の命によって公開処刑となり、軍内部の混乱は銀翁新中将の手によって収束
 ……先日、銀翁新中将と真改補佐官が副指令との密会に来ていましたが中佐に対する事は特にありません
 新型戦術機隊は先の戦いにおける放射能浄化と修理・補修の為に有澤重工へ運搬され今も修理中の為こちらにはありません」


 伊隅大尉の話を自分の左手を未練がましく疑念の視線で見ながら聞き流している。
 

「葛城か、上官に置手紙の一つも残さない……せめて一つくらい詫びの言葉を言わせて欲しかったな
 あれでも【死】は叩き込んだつもりだったが所詮は偽物の痛みか、偽物はどこまでも偽物だったのか」


 左手を握っては開き、開いては握り締めると言った動作を延々と繰り返す。
 苛立っていた顔や眼はスッカリ鳴りを潜め普段の軍人としての落ち着いた一面へと戻った、出来るならアレを維持して欲しかったんだが仕方ないか。
 リンクスは物事を情報として処理出来る、左手に関する苛立ちか何かも処理出来るような事だったのだろう。  


「……いえ、葛城は中佐に対して『ありがとうございました』と言い残していきました
 あの子も本当は理解しています、私達のように中佐がどれだけ私達を生かそうと努力してくれたかを
 私達に行ってきた訓練が決して無駄ではなかった事を知っています……ただ生きれなかっただけです」


 敬礼姿勢のまま伊隅大尉は、穏やかな眼と共に敬礼と言う硬い姿勢ながら軟らかい雰囲気を醸し出す。
 コジマが聞いてなかったから良かったものの、先程の心から吐き出したあの言葉を聞いた身としては無茶をして心配させられる。
 自分も処理しきれず理解し切れていないと言うのにリンクス相手に慰めの言葉を投げかけられる……成る程なこれが優れた上官の素質か。

 リンクスを知り受け入れられるなら、ぜひともオルカに欲しい人材だな。

 オルカは個人があくまで思想の下に仮初の如く集まっているだけ、何処かで思想が違えれば分裂しても仕方ない事だ。

 そんなオルカ旅団が『群』として行動するには連携行動を指示出来る優秀な観察眼を持つ人間が素体のリンクスがいる。
 もし脳髄と最低限の臓器が回収出来てそれで再利用が可能ならばアスピナにぜひともそうしてもらいたい逸材だな。

「……生娘が自分の整理も出来てないのに一人前を気取って先達に慰めなんぞ二十年早いんだが、すまないな、伊隅」

「……いえ、私も宗像に頼ってばかりですから」

 自然と顔が緩むのが解るのも歯痒い。
 今この瞬間に自分が安心し和んでいるのが理解出来るのが……腑抜けている事が少々苛立つな。
 少なくともこんな風に笑うなど随分としておらず、するのもオルカの集い位だというのにこんな場所で和むなど。

「香月博士に私が蘇生した事を伝えてくれ……あと霞にも心配させた分はしっかり引っぱたかれないとな」

「はい、本当なら私からも心配させられた分を叩き込みたい所ですが一番はやはりあの子に譲るべきですね」

「その時は真改や銀翁を心配させた分として私も一撃入れるぞ」

「……野朗に殴られるよりその分をしっかり神宮司にやられ方が役得だ、遠慮させて貰う」

 シレッと言うコジマを本気で一撃入れたくなったが、伊隅大尉に気付かれないようにこっちに『動くな』と眼で打診してくる。
 その眼はオールドキングのような殺す事に慣れすぎた人間が持つ……殺し屋の眼をしていた。
 だがその眼もこちらが一度目蓋を瞬く間に普段の優しく、少なくともリンクスであった事を匂わせない眼へと戻るが変わり身の早い事だ。

「では中佐」

「よろしく頼むぞ、伊隅」

 私とコジマが敬礼し伊隅大尉が病室を後にした。


「おいテルミドール……何かリンクスの機械義手でも砕けない物ないか?」


 伊隅大尉が退室した瞬間にまるで別人のように苛立ちを表に出し、顔も凄まじく引き攣っている。
 あまりの苛立ちが怒りと混ざって分別不可能になったが当たり所もなく、それをあの会話中ずっと我慢していたようだ。
 しかし本当に器用だな……オッツダルヴァとマクシミリアン=テルミドールを使い分ける私でも脱帽する仮面作りだな。

 ふと伊隅大尉がつい先程まで座っていた鉄製の足を持つ丸イスの四本ある足の一つを持ち、それをコジマに手渡す。

「流石にナイフや月光などの刀を渡す訳にもいかないだろう?」

「別に構わん……俺の予測が正しいなら」

 先程から随分と疑わしげに見ては色々と試していた左手で丸イスを受け取る。
 そのまま『出来れば外れて欲しい』と言いたいような何処か諦観染みた顔でイスの鉄製の足の一本をグッ! と握る。
 リンクスの改造ならば確かに程度によっては鉄パイプすら握力で握り潰せない場合があるが、代わりに腕の動きが極めて滑らかで俊敏だ。
 しかしこの両方を両立させられる生体義手は難しく、かと言って完全な機械義手は人間とのマッチングに大きな問題を孕んでいる物が多い。

 だがコジマの生体義手は容易に鉄パイプを握り潰してみせるだけでなく、変形し尖った鉄が突き刺さる所かまったく刺さらない。

 この世界の生体技術は確かに眼を見張るものがあるが……だからと言って鉄を容易に握り潰すだけでなく頑丈さまで補強されている。
 更にコジマの左手の動きはまるで本物の如くシナヤカでなんの動作不良も見られない―――アスピナの最新作を使われ苛立っていたのか。

「クククッ…ハハッ……」

 まるで爆笑しすぎた所為で笑えなくなったような、掠れた笑い声。
 あるいは瀕死の人間が懸命に笑おうとしているようにも聞える本当に聞き取れるかどうかの笑い声。

 コジマは左手に握り締めていた丸イスを全力で投げ飛ばし、病室の壁に激突させた。

 『どうしたッ!?』とこちらが驚きながら問いただすよりも早く…………



「アハハハハハハハハハハハハハハハハッ! アッハッハッハッ!! あぁそうかいアスピナの屑豚共が随分と調子にのっているなァおいッ!?」



 ベッドから飛び起き、左腕に突き刺さっていた注射器と薬品を注入する為の管を強引に引き抜き、それも壁に叩きつける。
 そのまま左手で鉄製の壁を何度も殴りつける・何度も何度も何度もッ! まるで腕の頑丈性を確かめるかのように殴り続ける。

 ―――やめろッ!

 この言葉が出ない。
 眼前に広がるのは狂ったように嗤いながら左手で壁に殴りつけるコジマの姿と一向に壊れる気配を見せない左腕。
 生体義手でありながら機械義手の如きオカシナ破壊力を見せつけ壁を豪快にヘコマセテいる左手に疑念を抱くのは簡単だった。


「コジマ……それは本当に”アスピナ製”の義手か?」


 壁を殴るのを止めたコジマはまったく損傷していない左手……いや左腕全体を天井へと突き上げる。
 その腕は明らかに萎縮させる為に何らかの加工や投与がされた痕跡が見える異様な腕だ。
 そして私はあの腕と右手と大きさの合わない少し大きな手や指に身を覚えがあった、だがそれは有り得ないだろ。

「―――BETAだよ」

 左腕を突き上げたまま、虚ろな眼が私を捉えていく。 


「あァそうだよBETAだよッ! 兵士級は人間の再利用品らしいからな、アスピナ程度の連中になれば再利用の再利用をしない訳がないッ!
 ツギハギだッ! そうだ連中は捕獲したBETAを解体して人間と繋ぎ合わせてるんのだよ……巧くいけば強力な腕力を持った兵士達の完成だからなッ!
 この左腕は動いていた可能性があったかも知れない本物を破棄して俺に無断で接続して、今日までノウノウと俺が寝ている間にデータを取ったんだよッ!」


 哀れとしか言えない。
 そしてあまりにもアスピナの連中がどういう連中が忘れたコジマの失態と言いたいが、あの化物共の腕を、技術を無駄遣いして造られた新生体義手。
 確かに人間の数倍の筋力などを平然と持つ連中の腕を持った兵士が白兵戦を挑めば……乱戦において”人間同士”ならば優位には変わらないな。
 どこの要求かは知らないがアスピナの連中は試作AMSや適性改造の代金をコジマをモルモットにする事で『勝手に了承』していたのだ。


「あぁそれと帝国だっけ? 散々こっち馬鹿にしといて馬鹿にしてるアメリカと同じ味方撃ちしてくれた自称大義・正義のご立派な国は?
 俺はセレンから『ツラマライ裏切りは葬って見せしめにしてやれ』と教えられてな……あぁあぁあぁクーデターも起きないかな?
 そんな馬鹿な事を起こした連中を一人残らずぶっ殺せば認識の一つも改めるだろ? そんな敵になりたいなら喜んでぶっ潰してやるよ」


 『それがリンクス(戦争屋)だろう』 

 温厚誠実が売りの優良物件として基地の女性陣に騒がれる人間の本性……いやリンクスとしての本来の姿か。
 セレン=ヘイズも随分と物騒な教育をしたものだ―――だがそれを隠し通してきたのはコジマの演技力と言ったところか?
 誰も血を流さない綺麗な改革と革命の為に尽力し奔走し続けたリンクスでありながら、私に匹敵する実力を持ちながら人を殺したがらないリンクス。

 牙など元からないとばかり踏んでいたが、東洋のコトワザの『能ある鷹は爪を隠す』だな。

 メルツェルや銀翁が信頼した理由も……真改が剣技を託したのもこの一面を読んでの事か、節穴だったのは私の眼だな。
 だが平和ばかり謳う姿よりも今の様に、殺戮を欲し懸命にそれを隠し通し機会を待ち望む姿の方が何倍も私好みだ。

 本物のリンクス―――ついには敵である筈のBETAとすらリンクするか。

 お前の器は私には測れんな? そうだろうカラードのリンクス【首輪付き】にして先駆者。


「まぁ待て? 銀翁が巧く帝国を手中に収めている、だが体制に反発する人間は必ず生まれるのは必定だ……だからこそ今は待て
 それに帝国と言う国そのものを足掛かりに出来るのはオルカとしても喜ばしい限りだ、裏切りの対価は今は金と生活にしておけ
 こんな世界だがすぐにでも戦争が始まるような火種は腐るほどある……火種が小火になるまで今は色々と下準備の時間だ
 メルツェルがそう言ったんだ、それに銀翁が世界に色々と商売をして他の面々を集めるらしい、どうせなら全員揃ってからにしよう」


 私の含み笑いにコジマは合わせるように嗤う。
 純正なこの世界の人間がどれだけ人間を敵として見ているか解らない……もし本当に敵となった時に対抗出来るのは我々のみ。
 躊躇いなく・懺悔を乞わず・自分達の胸に秘める正義と大義の為に無数の人間を斬り捨てる事が出来る最悪の反動勢力【オルカ旅団】

 人類の為に全てを、罪を背負い、贖罪の為に大罪を犯す矛盾と狂気の反動勢力に本物の狂気が新たに加わる。

 その胸の内に秘める正義と大義が何であるかなど問う事すら無用だろう。

 どの道……似たり寄ったりなのだろうからな。


「……だがコジマ」


 伊隅大尉がしなかった分をさせて貰おう。

 ―――右手による全力平手。

 パンッ! のような小さな音ではなくパァァァァァンッ! のような壮絶な音を叩き出す。
 今にも私を殺そうと飛び出しそうなコジマに言い訳の如く。


「神宮司軍曹のような良い女を泣かせておいて平手の一つも受けないとでも思ったか?」

「……手を出したのか?」


 叩かれた左頬を擦りながら、軍人としての落ち着いた眼に戻っているコジマが不安そうに言葉を漏らす。
 ……まさかと思っていたんだが、よもやセレン=ヘイズが居るやも知れないと言うのに他の女に手を出すつもりか?
 シレッと答えみるか。

「まだだが?」

「あんな良い女はそうそういないから手を出すなよ、手をつけようと思ったのはこっちが先だ」

 まるでオモチャを取られるのを怖がる子供のような、迫力の一つもない声でそう答えを返してくる。

 ―――軍人としての凛とした姿。

 ―――リンクスとして冷酷な姿。

 失礼かも知れんが、今の女一人取られるのを恐れている姿を見れば誰もがこう言いそうだな。
 自然と小さく笑い声が零れ、コジマがまた怪しむような視線を送りつけてくる。
 やはり伝えておくべきだな……たとえ片腕がBETAとなり身体の一部を機械にしても送るべき言葉があるだろう。



「いや、BETAとすらリンクした君は”まだ人間”だ……とな」



 この言葉にコジマは何も言わず、そのまま自分が粉砕してしまったイスの残骸を手探りで集め始める。
 左手の精度を確認するかのように左手を優先的に使いながら、時折鉄の破片を砕きながら”人間”である事を確認するかのように集めていく。

 そんな子供のような行為は魔女と神宮司軍曹達が大急ぎでやって来るまで続けられた。

 ”人間”である事を自分に信じ込ませるように、偽物の腕で欠片を拾う姿は『どこまでも惨め』に見えて嗤ったなど言える訳がないが。
 だが何処までが魔女の仕業で、どこまでがアスピナの仕業か確認する必要が有るな……なぁメルツェル?
 シャチは非常に知性が高いが【戯れる】事によって何人もの人間が死ぬ―――我々と戯れる覚悟があるか、極東の魔女。


□□□


 ……また突貫工事になってしまいました、それと一文の延長に挑戦
 そしてまたやってしまった粒子汚染による過去の捏造……でも原作でもテルミ最後の僚機はジュリアスではなく真改。
 だが企業ストーリーなら主人公の手でジュリアスや上位を含めたオルカの大半は殺されていて残っていたのも真改だけなので消極方の可能性もありますけど。

 今回は一変してコジマとテルミだけの話。

 本当ならマブラブならもっと本家の人達を出すべきなんですけど、どうしてか出せない……もう一度知り合いから借りて皆の口調を再確認するべきか。
 このままですとコジマ達の影響を受けたからと言う理由ではサポートしきれないありえない考えや口調を話す人達になりかねない、叩かれないと本当に良いです。
 
 そしてコジマはかの人体変態企業たるアスピナに再利用品の再利用を承諾なしでされてしまうと同時に”天敵”としての温かい記憶を見つめなおす。
 帝国や国連に対する忠義など既に崩壊済みとなり転覆と破壊する気は満々だが、それが何の利益にならない事位はまだ理解出来る”人間”として生きている。
 だが山猫のリンクスではなく『接続する者』である”リンク”スになってしまいおそらくこの世界でオリジナルの一人となったコジマの行き着く先はどうなるのでしょう。
 今一度矛盾ないようにプロットを見直す必要性がありそうです。

 あとまたいらない事だとは思いますが、自分はモンハン畑の出身の所為でグロテスクの範疇がどうも曖昧になって来ています。
 どなたか『今回』のあのシーンはグロテスクに入る・入らないなどをご指摘くださると助かります。
 モンハン畑だと平然と鮮血が飛び散るだとか、内臓が零れ落ちるとか、上半身を食い千切られ内蔵や背骨が剥き出しの死体の描写などを書いたり見ていたので。
 ……でもマブラブの原作ぶりだとやはり『グロテスク注意』は入れるべきでしようか?
 長々と失礼しました。

 ご指摘により修正



[9853] 二十七話[円卓の商談]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/12/21 01:51
 視点:コジマ

「……合成梅茶漬け・合成鮭焼き・合成天丼の弔い盛りだよ」

「ありがとうございます京塚さん」

 原作にもあった死んだ奴等の好物を特製盛りにしてくれる京塚さんらしい戦死者への弔い。
 死んだ奴が食べたかった分まで好物を知る生き残りが食ってやる……天国で満足するように。
 伊隅に神宮司やA-01の面々は既にかなり喰わされたらしく喰っていないのは別部隊の英雄二人と寝込んでいた俺だけらしい。

 出されるお盆に載っている明らかに量のオカシイ料理に苦笑させられる。

 一条・神村・葛城については、仮にも殺し合いの武器などを与えておきながら知っているのは情報の範疇でしかない。
 長々と話した事もなければやってやれたのも訓練中の怒鳴りや座学での言い合い程度の、その程度でしか知れない範疇。
 そんな俺がこの弔い盛りを喰うのは……むしろ俺が人間を信じたばかりにあの一条と神村は戦死し葛城はトラウマから軍を脱退した。
 原因は俺にある、俺の行動によって帝国派閥抗争は一気に終局へと向かいクーデターの規模など原作に比べれば縮退するのは目に見えている。

 ―――横浜基地の戦力増強・帝国とのパイプ・沙霧=尚哉の監視と擬似拘束・帝国内部の早期統一

 これらの対価として世界は三人を持って逝った、まるで歯車を早めるかのように本来ならばこの時期に死ぬべきではない人間達を殺して。
 物語の改竄に伴う犠牲を乗り越えられなかった……何処かの英雄のような甘ったれた心はその甘ったれた心によって皮肉にも撃ち砕かれた。
 生かそうとしていた伊隅大尉や神宮司軍曹の努力を粉微塵に破壊し、霞には折角出来た姉を三人も一気に失わせてしまった。
 後ろから撃ってきた帝国の連中は銀翁が動かせる範疇以外は幾等死のうと知った事じゃない、むしろ味方撃ちに対する世界の制裁とでも思えば良い。


「……そんな顔しちゃあダメだよッ! 男手一つで何とかしてたのはアンタなんだから胸を張りな」


 カウンター越しに京塚さんが俺の心中を読んだかのようにバシンッ! バシンッ! と笑いながら俺の肩を盛大に叩く。
 鍛えられていない身体ならその力の強さにトレイを落としそうになるが、鍛えられているこの身体は微動だにしない。
 年齢でいえば俺の方が遥かに年上で、人生経験もある筈にも関わらず必ず京塚さんやオヤッサンのような、勝てないと思う人間がいる。
 知識や実力などではなく人格者と言うべきか、自然と人間を言論や行動で負かしてしまうそんな不快感を持たせない勝利を造ってしまう人間だ。

 嫌いな分類の人だ。

 ズカズカと決意なんかを鈍らせる優しさを無差別に振り撒く……その無意識の生き様が気に入らない。

「ありがとうございます」

「あぁそれと霞ちゃんのような良い子や神宮司ちゃんを泣かせたら赦さないよ?」

 右肩におかれた京塚さんの手が軍人でも出せないような強力な握力で俺の肩をミシミシへこませる。
 料理仕事で培った筋肉と握力でもう指が肉に食い込みかねないまでに右肩にまるでフォークのような指先が突き刺さっている。
 あぁ京塚さんも神宮司軍曹なんかの年頃の娘達を心配する世話焼きの良いオバチャンらしい、まぁ女として色々見ているのだろう。
 しかしこうも周囲から神宮司軍曹が俺に懇意を持っていると示唆されると色々とやり辛い……何処かの魔女は利用するだろうしな。

 実戦なら百戦錬磨な俺も色恋だと三百回もループしているのに百戦錬磨になれない。

 場の雰囲気に流されて・お互いの生還を確かめる為に・死ぬかも知れないから一度は体験しておこうなど色々と”夜”の機会には恵まれていた。
 それが恋愛と言うには少々複雑であり、単に行為として行った事も有れば慰める・慰められる為に行うだけで色恋とは言えないモノが多い。
 まぁ情けない話だが”ヘタレ”と言う奴だ……自分から一心に迫った事はない、むしろ強すぎると俺を拘束する為に女を嫁がせる連中は腐るほどいた。
 子飼いの女を俺に与え、身体を重ね子供を産ませ情愛が芽生えさせてから自分達の為にその力を使わせる政略結婚のようなものだ。

「……冷めますよ」

「おっとそうだね、冷めても旨いのがここの飯だよ」

「横浜基地の食事を知る人間の常識ですね」

 京塚さんは少しだけ寂しそうな眼を俺に向けていた。
 胸糞悪い同情の視線だ……だがあの人はリンクスを知らないだけだ、だからあの人は年長の一人として純粋に心配してくれているだけだ。
 その優しさを無碍にはしたくないが、あぁ言うのが意外な障害になりかねない私情は出来るだけ切っておきたい所だな。

 調整の利き辛い左腕の操作を間違えぬようにしているが少しでもストレスなどで集中が途切れると筋肉を押さえられなくなる。

 最悪トレイを握力だけで破壊しかねない、そんな事になれば必ずこの腕を怪しむ連中や素材について探り始める連中が出始める。
 そういう邪魔にしかならない連中が出ても俺単独では除去する・させられる人材がまだいない、故に下手に勘付かれれば色々と面倒になってしまう。
 一言『殺す』と言ってもこういった政治背景なんかに気遣う必要がある世界と言うのも向こうに比べれば生きづらい世界だな。


「もっともその政治背景に護られている現状があるのだから言えた義理じゃないか」 


 そう呟く。

 霞の能力や諜報部によって得られる弱みなどで周囲を抑制しコントロールしている香月博士による戸籍や経歴の詐欺。
 俺が来るよりも早く来てたとえ成り代わりだとしても実績を挙げた銀翁や真改の帝国上層部の権力による権力が出来るからこその防衛。
 有澤重工の技術力があるからこそ劣化ノーマルや劣化ネクストを製造し揃える事が出来た……そうでなければ今頃旧い機体で四苦八苦していただろう。
 ソ連から世界各国の動きを読み取り、各国に散るオルカを繋ぎ合わせその策謀を持って今日までオルカの影として支えてくれているメルツェル。

 あと少しすれば……いやもう企業に対しては嫌でも有名になっている俺が殺されないのはそう言った色々な連中のお陰だ。

 特に表の軍事産業にとって既に戦術機分野の最先端を進み、圧倒的なカタログスペックを持つ日本帝国・横浜基地合同開発戦術機達は疎ましい限りだろう。
 いや帝国内部でも純正戦術機にして帝国最高峰の性能を誇る武御雷ですら、接近戦の一戦では勝ろうと総合的な戦闘力ならば新型は幾分もスペックが有利。
 帝国の誇りとやらの為になんとしても潰しに掛かるか、あるいは何としても横浜基地にライセンス許可など無しでの【三種の神器】を使うのは眼に見えている。
 国連派が統一に成功したとは言え純帝国派の残滓は簡単には消えやしない……テルミドールの口振りかも連中の火種が残っている事が言われたからな。

 ならどうして開発元である俺を叩きに来ないのか?

 答えはアメリカならば既に総合軍事産業を支配しているGAが、イギリスならばBFFが、この日本帝国ならば有澤重工と言ったその道の小物を統べる連中がさせないからだ。

 暗殺が来ないのはおそらく素早く潰している・あるいは検査の時点で判明させて泳がせて俺を殺した直後に正体をバラさせ利用するつもりか。
 沙霧が帝国の起爆剤ならば俺は世界の起爆剤……企業が欲しいのは粒子炉の技術とこの世界の技術力に合わせた高効率で粒子を生成させられる粒子炉の設計図。
 そして俺の頭から生み出されるであろう様々な新兵器の設計図などが欲しいから、だから俺は”今は”殺される事はないがそれもいつまで持つか。


「どうしました中佐?」


 先程から待たせていた神宮司軍曹と向かい合うように座る。
 本来ならば賑わっているだろうPXは昼を過ぎ去り夕方との合間の時間の所為か俺と神宮司軍曹を除いた軍人はいない。
 元々昏睡状態だった俺に弔い盛りを喰わせる為に京塚さんが時間を指定してきたのだが、ピーク時の喧騒が嘘のように静かだ。
 神宮司軍曹も俺より少しだけ早く同じ弔い盛りを頂いている、伊隅大尉達とは食べず俺が起きた時に合わせて食べるようにしてくれたらしい。
 それに原作通りならばそろそろ訓練生となる主要人物達の情報の一つや二つ届くであろう時期であり、教官職に戻る為の相談もあるだろう。

 京塚さんと話していた所為で待たせてしまったが料理は冷めていない。

 あの世が俺が還る所であるあの場所ならば温度などないが、やはり喰うならば温かいのに限るのは理解出来る。
 ……次のループではもう少し長生き出来るように努力してやるから、今は黙って成仏していてくれよ。

 遅くなった事を謝りながら手を合わせ、この旨い食事を食べる事が出来る事に我が神への感謝を捧げる……キリスト教ではないので十字は切らん。
 それに合成米が小山になるように盛り付けられている二つの丼の相手をするのは楽だが、やはり量が量だけに素早く食べねば冷めてしまう。
 あの世界でのリンクスの食事だが……栄養液かゼリーのような物が多い、特に高速戦闘に加えて栄養を確実に取る必要があるのもあったから。

「あの中佐……左腕は大丈夫なのですか? 副指令からはあの戦いで神経関係を損傷したと」

「”直して”くれた企業が良いからな、まだ少し慣れない部分はあるが数日もすれば嫌でも良くなる」

 神宮司軍曹の問い掛けに思わず左手に力が入るが、間違っても天丼の米と具が満載されている丼を握り割る訳にはいかない。
 もしそれで左手が怪我でもしなければ必ず疑われる……神宮寺軍曹に対して色々と疑われるのはマズイ。
 これからやってくるであろうこの世界の加護受ける主要人物達の教育に携わり、色々と教え込む神宮司軍曹と親密になっていればオコボレの一つはある。

 訓練の教育課程の話し合いで早い段階で原作の問題点を修正出来るだけではない。

 たとえばその教育に俺も携わりオルカのような思想を植えつければ、あるいは俺達のような存在を擁護してくれる味方にする事が出来る。
 帝国の要人達の娘達であるあの五人は特に懐かせておきたい……将軍・故人だが信仰者多き中将・外交官・現帝国を支える政治家・帝国の暗部を束ねる一人。
 親は娘に弱いモノだ、それに要人娘五人は世界の加護によって常人離れした能力と成長速度を持つ、味方にしておいて役に立つ駒と言うのもある。
 それに狂気の思想への共感者は一人でも多い方が良い、もし世界との戦争になった際に人間を相手に躊躇わず戦えるような兵士は一人でも多い方が良い。
 あるいは表向きは正義の味方を演じながら裏では連中の命を握り少しばかりカードとして利用させて貰うのも悪くない……目的の為ならば手段は選べん。

 合成天丼の味を噛み締めながら間食し、あと半分残っている鮭焼きを梅茶漬けの渋さと一緒に頂く。

 丁度お茶代わりにもなるので喉を潤すことも出来て一石二鳥だが……これでも早く食べているつもりだが神宮司軍曹が平然と付いてきている。
 いや風間少尉の食事速度が一部では『暴食』と囁かれ、現物を見たので理解は出来るが神宮司軍曹の予想以上に驚かされる……凄いな。
 やはりどんな状況でも素早く食べる・食べられる訓練でも受けているのだろう、俺の訓練は失敗する度に食事抜きなのでむしろ空腹に対して耐性が出来るのだが。
 今度からは長期戦への対応や耐性の為に振動や映像BETAを相手にしながら食事させる訓練も必要になるか? 頑丈な精神は必須だ。


「「ごちそうさまでした」」


 そうこうしている間に胃袋に全ての弔い盛りを流し込む。
 俺と一緒に……おそらくペースを合わせてくれたからだろうが、少し男としては傷付くな。 
 腹に限界まで収めた所為か大きな溜め息が一つ零れる、胃袋を満たすのではなく栄養を取る食事ばかりしていた反動か?

「……ペースを合わされるとは、これも女の食欲を侮った報いか」

「いや中佐ッ! むしろ私がついていくのに精一杯でしたッ! ……ですから―――」

 ゴニョゴニョと何かを小声で言っているが、運悪く聞き取れなかった。
 だが言っていた事はどうせ『今度二人で食べる時はもっとゆっくり』とでも言っていたのだろう。
 ……こんな時代でなければ男がゴロゴロしていただろうに、だがこんな時代だからこそこんな形での出会いがあるのだから贅沢は言えないな。
 やれやれお互い臆病と言うのか奥手と言うのかもっとズバッと出来れば楽だろうに……しかし香月博士は随分と正直に包み隠さず言いそうだ。


『私からアンタへのプレゼントよ』


 なんて言いながら怪しげな薬品百点セットでも渡して来そうだ……いや確実にあの人ならばやるだろう。


『なら小人から魔女へのプレゼントだ』


 と言いつつメルツェルはとある怪しい繊維で造った魔女の衣装を渡しそうだ。
 そしてお互いに黒い微笑みと小さな笑い声を漏らしながらお互いのプレゼントを受け取るなんて微笑ましさの欠片もない景色になるな。
 常にお互いの本心を読み合い相手の先を行き手玉に取る……主導権の握り合いになり言論と知識の抗争が起きるだろう。 

 ……寒気がする事は考えないようにしよう、とにかく何か話題を。

 出来れば207訓練二小隊に繋がるような話題にする必要があるが、三人も失ってそうそうに補充兵の話題をするのも失礼だな。
 そういえば訓練兵が乗る練習戦術機の吹雪の改良に着手する必要があったな、水素機関機が主力になるであろう後世に新兵達を合わせる必要がある。

「神宮司軍曹、伊隅達の初風はどうなっている?」

「あの初風は現在有澤重工で正式配備型への修理を兼ねた換装作業が行われ、それと今まで取れたデータを元に総合的な改良も施すそうです
 帝国に正式配備となる初風・大鴉の二機をより完成させると同時に旧型を回収し可能な限りの改良と修理を行いそれ等を正式配備型とするそうですが
 ついに中佐の作り出した新しい風が……そしてその風に乗り羽ばたくヤタガラス達が多くの衛士達を生還へと導いてくれるでしょう
 【水素機関・新型OS・光線兵器】の【三種の神器】を搭載した新型戦術機や有澤重工の新型兵器を主軸とした帝国・国連の統合軍がようやく出来るのですね」

 神宮司軍曹は嬉しそうな口振りとは裏腹に、視線は机におちていて悲しそうだ。 

 新型戦術機が普及するとなれば今までの歴戦の衛士達も訓練兵とまったく変わらないスタートになるだけじゃない、それに合わせた訓練期間が必要になっていく。
 従来機とはまったく異なる動力・XM3の柔軟になった行動にあわせた衛士への負担増加……なにより問題になるのは光線兵器の主力化だ。

 今までの戦いでは幸い光線級がそれほど脅威になる事がなかったからこそ使われなかったALM兵器との兼ね合いが最大の問題になっていく。

 物資に乏しい国への対処手段として・実弾に頼らない戦いをする為に考案した光線兵器もレーザーの一種であり、ALM兵器を使用されればその威力が大きく減衰してしまう。

 光線級の攻撃から身を護る為にALMによる重金属雲を展開するが、代わりにノーマルの売りであるレーザーを自ら使用不可能にするか?

 それとも攻撃を優先する為にALMによる重金属雲を展開しないが、代わりに光線級の正確無比なレーザー照射の恐怖を戦場の味方全てに強要するか?

 安全か? 攻撃か? 経費か? おそらく新型戦術機が広まれば広まるほどにこのジレンマが広がり、抗争や論争の元になるのは眼に見えている。
 神宮司軍曹もそれに悩む一人なのだろう……戦場での光線級の正確無比なレーザー照射を知る人間の一人としてどうしていくべきなのか。


「神宮司軍曹、新しい訓練兵が来るのか?」


 俯いている神宮司軍曹の態度からおそらくこれからの教育方針に悩んでいると踏み、良い感じで207の話へと持ち込める。
 神宮司軍曹も顔を上げ、鬼教官である神宮司=まりもとして凛とした顔をしながら俺と視線を合わせる……思わず心臓が高鳴ってしまった。

 ―――その真剣な表情があまりにも……セレンに似ていた。

 いや……むしろ鬼教官や恐ろしい一面を持つと言う事から言ってるんだよな? セレンはもう少し年…熟女の魅力があったからな。
 ジュリアスは四十になるって言うのにどうみても二十代か十代にしか見えないあの若々しさがあったが、あれも恐ろしい人だな。

 神宮司軍曹が何処からともなくファイルを取り出し、それを俺に手渡す。


「来月の三月に入隊する事になっている十人です……夕…副指令が選出したそうですがこれと言って」


 実際訓練学校は学校でもあるので入学と言うべきではないだろうか、それに兵士は実戦や生き死にを経験して初めて兵士になる。
 それまでは学生を呼ぶべきではないかと思うが、それはあの世界の価値観であってこの世界ではない……押し付けるのはいかんだろう。
 さてA-01は00ユニットへの適性がある人間を片っ端から集めた集団だった筈だ。
 つまりあの207訓練二小隊の十人は死後00ユニットへの実験への転用され利用される事になっているが、さてどうやって適性を調べているのか?
 B小隊の御剣=冥夜・榊=千鶴・珠瀬=壬姫・彩峰=慧・鎧衣=美琴の五人は帝国から国連に対する人質であると同時にある意味ではもっとも安全な場所への移動。

 将軍の縁者で瓜二つであり、要らぬ勘繰りをされる訳にはいかない【御剣=冥夜】

 現政府の敏腕政治家だが沙霧のような帝国との折り合いが良くない人物の娘である【榊=千鶴】

 外務官であり新生帝国と兵器達をこれから売り出して貰う人物の娘である【珠瀬=壬姫】

 沙霧達のような旧帝国派にとって信仰者である中将の忘れ形見である【彩峰=慧】

 表向きは帝国貿易部門の課長を務めるがその実態は帝国諜報員のトップである人物の娘である【鎧衣=美琴】

 この五人をこちらで手綱をつけるか巧く懐かせられれば帝国に対する強力なカードになると同時にこの世界でもっとも世界の加護を受ける五人組。
 原作では帝国からの圧力で試験を落ちた所為でチームワークが悪かった筈だが、神宮司軍曹には悪いがなんとしても合格出来るようにして貰う。
 圧力に対しては銀翁を通してなんとか殿下に対して説得を促すと同時に……彩峰を使い沙霧一派の説得を行い巧く五人の護衛戦力に廻せるか?

 だが俺達の価値を思い知らせる為に最低限のクーデターが起きないと舐められっぱなしってのは癪だ。


「もっとも過酷な訓練を受ける代わりに恵まれた環境を得られる世代か」


「はい、だからこそしっかりと訓練する必要が有ります……死なせない為に」


 ファイルには涼宮の妹である【涼宮=茜】の資料も載せられている。
 だが207訓練A小隊には政治的な要素はない、利用も出来ないが鍛え上げれば強力な政治的要素を気にしない衛士でありカードになりうる。
 特にA-01の戦力増強は現在ではそれなりに慕ってくれている伊隅達の戦力の増強へと繋がり、ひいてはオルカの強化に繋がるからな。
 この世界で解った事は少なくともリンクスの一人や二人では戦場は動かない……もっと大部隊による戦局を変えられる力が必要だ。

 そのまま資料の最後のページを見て、思わず顔が綻んでしまう。

 流石はメルツェルだ……どうやって改竄したのかぜひとも会って聞きたくなるな、完敗だよ。

 だがそのまま最後のページを見た瞬間、綻びが消え嗤いが込み上げてくる。
 メルツェルにも完敗だが最後の一人の名前と姿に嗤いを抑えられなくなってしまう。


 【リリウム=ウォルコット】


 カナードランクNo.2の実力者にしてBFF社の秘蔵であり最高の一品をこの横浜基地に送り出してきたのだ。
 あの老人が俺の存在を知ったならばやりかねない……あの世界のループでも俺を手に入れる為にリリウムを嫁がせてきた位なのだから。
 なんとしても粒子炉を少ない費用で手に入れたい企業にとって確かにリンクスは最高の一品だ……おそらくリリウムは卒業後にBFFに連れ戻される。
 王大人(ワン・ターレン)なら確実に出来るだろう、あるいはリリウムを捨てる覚悟で俺をなんとしても手に入れるか・完全な粒子炉を手に入れてくる。


「神宮寺軍曹ッ! この訓練二小隊は私も協力させて貰うぞッ!」

「ちっ中佐ッ!? しかし中佐には新型戦術機の研究や新型OSの改良作業が」

「同時進行すれば良い、訓練:開発=3:7ですれば良いだけの話だッ!」


 驚愕している神宮司軍曹だが、俺はそんな事に気にかけている暇はない。
 来月の入学以降は戦争だ……とにかくテルミドールやメルツェル達に相談する必要が有るな、色々と問題が出てきたぞ。
 ようやく人間の戦争らしくなってきた、あの世界に置き忘れたかと思っていたあの空気と感覚が戻ってきた。

 ―――楽しくなりそうだな。


 視点:???

 国連……各国の代表・外務官が集まる会議の席に今回は各国の軍事企業の代表達が腰掛け集まっていた。
 諸国の最新鋭機・あるいは売り出す商品を映像とデータで見せ合い取引をし合う巨大なオークション会場である国連の円卓。

 2001年2月……後に戦術機革命と呼ばれる大きな出来事がこの場に起きる。

 極東の小国【日本帝国】から世界へと宣伝された四機の戦術機・無数の新型兵器・日本の神話になぞられ【三種の神器】と呼ばれる物達。


 水素を動力としエネルギー得ることが出来るまったく新機軸の動力機関【水素機関】
 コンボ・キャンセル・先行入力の三点を追加し、更に実戦では歴戦の衛士が光線級の照射を回避したと言う【新型OS:XM3】
 BETAの独占状態であったレーザーを水素機関と合わせる事で使用可能とさせた無限の電力兵器【光線兵器】
 この三点の素晴らしさを開発国家である帝国の神話になぞられ【三種の神器】の名誉を与えられた新機軸の発明品。


 帝国の精神を体現したかのような設計思想を持ち、世界最高の近接適性を持つ純帝国製・近衛隊専用近接特化機【武御雷】
 その近接戦闘能力の高さは帝国最大の売りであり唯一の武器である長刀の扱いと合わさり、接近戦では無双とも評価される。
 実戦投入された際にはまるで本物の人間が舞うかのような滑らかな動きで次々とBETAを斬り捨て、圧倒的な存在感を醸し出す。
 また近衛隊専用と言う一騎当千の兵達が乗るこの機体がいると言うだけで士気が跳ね上がり、帝国兵士達にとってまさに英雄を意味する。
 帝国のエース・オブ・エースの為に作られた機体であり、帝国の理念を世界に広め知らしめる為に作り出された帝国の剣そのもの。


 反応・機動・柔軟性に長け武御雷には劣るが高い近接適性を持ち、軽さと素早さを誇る純帝国製・高機動型機【不知火改:初風】
 前線衛士達の要望に答えるべく突き詰めた設計により、完成しすぎた機体であり実戦投入が早すぎたとも言われる不知火の改良機。
 この世界において初めて【三種の神器】を搭載し実戦投入された機体であり、雛形を良さを生かしながら更に強化した新型の一つ。
 従来機を圧倒するその柔軟性と機動力はまさに”風”であると同時に、その風と共に光線級が我が物顔で支配する大空を飛ぶ軽量機。 
 原形機体である不知火の普及関係から近衛になれないが、エースに相応しい人物達が乗りこなす帝国に吹く新しき時代を示す風。


 装甲・安定性・積載量に長けながら第三世代である不知火を超える性能を持ち、人型戦術機では考えられないような火力を誇る純帝国製・重装甲型機【撃震改:大鴉】
 もはや取り残されつつある第一世代である撃震・ファントムを原形に三種の神器を搭載し旧型機体を現代第三世代にも劣らない機体へと伸し上げさせた新型。
 三種の神器を搭載する為に改良と修正を受けまったく新しい物へと生まれ変わった機体であり、重装甲故の安定性を誇り積載量から高い火力を保有出来る。
 エースの駆る初風の風と共に戦場を飛翔しつつ、巨大な群れを成して地上を支配するBETAの名を持つ虫達を喰らい尽くす為に生まれた高火力かつ重量機。
 また従来の撃震などを利用すれば安上がりで造り上げることが出来る機体であり、苦しい経営を続ける帝国の経費削減も兼ねている金銭に恵まれなかった鴉。


 他三機とはまったく異なる設計思想から生み出された企業【有澤重工】によって開発された下半身が戦車という新型戦術機【雷雲】
 戦術機の売りである機動性を捨て圧倒的な火力のみを求め作り出された新型戦術機であり、なによりの売りは圧倒的な積載量が可能とさせる圧倒的な火力。
 人型戦術機の追従を赦さない積載量があるからこそ赦される暴挙の如き武装の数々は辛苦を舐めさせられ続けてきた地上部隊の新しき希望。
 また戦術機のような適性を必要としない選定する必要がない戦術機であり、機動力はなくともそれを補う圧倒的な火力を保有する戦車型戦術機。
 戦術機部品を上半身しか必要とせず、下半身を必要としない事から今までの大破寸前などから回収し作り直すことが出来ると言う大きな利点を持つ雷雲。


 そして帝国で開発中であった九十九型を改良した新型電磁投射砲【百式】と有澤重工が生産する榴弾・レーザー兵器の数々。


 特に新型電磁投射砲【百式】は電磁投射砲の難点であった過熱を機体本体からの電力供給・磁界発生装置の小型化によって放熱機構の大型化で解決。
 連射性を優先したその設計は従来兵器を寄せ付けない連射性と初速・貫通に長け、巧く調整すれば長期戦闘にも耐えられる代物。
 これを搭載した雷雲はまさに【積乱雲】であり、支援する対象である武御雷・初風・大鴉との連携はまさに”嵐”と呼ぶべき戦闘力を示す。
 国土の半分をBETAによって制圧され崩壊寸前の小国である帝国の底力を体現するかのように起きた今回の一件は諸国の認識を大きく改めさせる。


『我々日本帝国はこれを独占するつもりはない、相応の報酬さえあれば我々はこれらを放出する』


 宣伝において各国を唖然させた技術をあの誇り高き帝国が”金銭と物資”を対価に売買する事を明言した事もまた諸国を驚かせた。
 帝国は古来より礼儀などを重んじ非常に古風かつ硬いと知られており、武人の国として諸国にとって硬く懐柔しにくいと思わせていたのが一変。
 まるで方針を変化したかのように他国の技術などを嫌っていた帝国が自分達の技術を対価に諸国に対して商売をし始めるのだから。
 無論この発言を帝国に容認させる為に奔走した人間達は数多く、また説得の為に帝国の現状などを説き伏せた人物達がいるのだが伏せられている。

 編集された実戦での新型戦術機が見せる活躍の映像と様々な実戦などからもたらされたデータの数々を見せられ、諸国は唸るしかなかった。

 戦術機を生み出したアメリカですらここまでの新機軸によって稼動し従来機を凌駕する戦術機を見せられて欲しくないとは言えない。
 だが開発国家である大国アメリカが飛びつくと言うのはその技術力を認めてしまうと同時に開発力で自分達が劣ってしまった事を容認する事になる。
 それは大国としてのプライドが赦せるようなものではなく同時に今回自分達が売り出した【ラプター】と言う新型を認めさせる事そのものが頓挫しかねない。

 そしてそれは諸国も同じであった。

 大国に対して自国が開発した商品を容認させ大量の資金や物資を手に入れ、少しでも祖国防衛や奪還を願うのは何処も同じであり違うのは侵略を受けていない国くらい。
 特にアメリカは戦後の指導者として諸国を導いていく為にも名実共にトップであらねばならない……それをここで頓挫させられる訳にはいかない理由がある。
 まったく被害を受けていない国であるオーストラリアもまた戦後を考えなければならず、また様々な国の支援に赴いている兵士達の事もあり簡単に膨大な物資は明け渡せない。
 なにより崩壊寸前の小国である日本帝国に対して今更頭を下げられない……そんな考えを持つ者もいれば帝国が今すぐにでも崩壊するのでは? と不安にしている者達も居る。


『……決断しかねるならば有澤重工から世界の企業に対してこれを見せる、これを見てからでも決断は遅くないだろう』


 名乗り出ない静寂に対して有澤重工は、出来れば切りたくはなかった切り札を見せる。
 たとえそれが世界を汚染し崩壊させる最凶の力だとしても……世界を気にして勝てるような情勢でないのは有澤自身が良く理解しているからだ。

 表示される30m級の大型戦術機【山猫】

 モデルとなったPTネクストのシャープなフォルムとは異なり四角く重厚な外見へと修正されているが、諸国の企業はその存在に眼を見開いた。
 30m級戦術機の圧倒的な火力・機動性・積載量と巨体が可能とする大型装備の数々による支援砲撃の濃厚さと武装コンテナを背負うと言う暴挙を可能とさせる性能。
 更にあの戦闘でコジマとアナトリアの英雄二人が見せた天才であり英雄の圧倒的な戦闘機動とそれに追従する数機の初風と大鴉が見せる活躍の数々。
 その様子は今まで苦戦と辛苦を舐めさせられ続けていたBETAとの戦闘においてまったく次元が異なると同時にこの映像そのものが諸国に警鐘を打ち鳴らす。


『先の戦いにおいて新型戦術機が実戦運用されると同時に撃破・確認された新型であり超大型BETA:母艦級を詳細だ』


 山猫の詳細と同時並行するように見せ付けられる母艦級の詳細映像と国連横浜基地などの基地で解体・検査され手に入ったデータ。
 それは世界とって今まで確認されていなかったBETAの地中進行においてもっとも重要な要素であり、たとえ機体抜きでも充分な収益と言えた。
 たとえ利権抜きでもBETAの情報は諸国にとって、世界に取って共通の財宝であり平和と戦後わ望む者達にとってこれ程までの有益なものはない。

 日本帝国はアメリカの無差別爆撃によって世界そのものに対して決して良い感情がなかったが、各国は日本が真に世界を重んじ動いていると思い心象を良くする。

 また世界のトップ達はオルタネイティブ計画を知っており、今回のこの情報公開はその成果の一つとしてオルタネイティブ4への感情も一気に良くなる。
 元々成果が芳しくなかったオルタネイティブ4に対して眉をひそめ始めていた老人や代表達も今回の成果に対しては寛容かつ寛大で、大きく評価を改めていく。
 母艦級のような巨大なBETAを撃破する兵器の製造などの実績は評価へと繋がるだけではなく、圧倒的な勝利そのものがある意味では重要なのだ。
 もっともそれはオルタネイティブ5にとって最悪なまでに都合が悪いのだが……G弾強行戦術に対して懐疑的な国家は少なくなく、また脱出計画に賭けている者達も少なくない。


『更に我々は有人格型の新型CPUを開発中であり、現在でも既にハイヴ同士での情報網が形成されBETAが何らかの戦術・戦略を持っている事が判明している
 また今回の間引き作戦で判明した高性能機への攻撃収束と高性能CPUに対してBETAは攻撃優先度を決定すると判明した……これはあまりにも大きな収益だ
 そしてこれ等の事実を見つけ出した極東の魔女と三種の神器を開発したとあるたった一人の開発衛士……古島=純一郎は今も新型CPUの改良に従事している』


 有澤隆文の口から告げられた各企業に対する最後の切り札。

 【国家】にとって古島=純一郎の名前は何の意味もない、あくまで魔女の腹心と言うだけでありそこまでの価値はない。

 だが【企業】にとって古島=純一郎の名前が意味する物は全てのモノよりも優先されるべき存在を示唆している。

 ひいてはそれこそが戦後を望む者達にとって最強の力であると同時に、最悪の汚染リスクを突きつける物だとしてもそれだけの価値がある。

 だからこそ今回の円卓オークションには企業の代表達が来るように工作した……既にその存在を知るとしても国家を納得させる為には彼等の力がいるのだから。

 有澤重工を初め世界各国の軍事産業を牛耳り、国家の頂点に位置しているとも言える【企業】の発言力が必要だったからこそ。


『有澤隆文……その古島は【開拓者】か』


 BFF社代表・老人であり、リンクスでもある王小龍(ワン・シャオロン)は既に日本に秘蔵っ子であるリリウムを送り出している。
 だが他の企業に古島がコジマである事を認知させる為に打ち合わせのない演技を行う……企業にとって他企業は競争相手であり成長素材。
 他企業との抗争があったからこそ兵器は進化した、他企業に打ち勝つ為に莫大な予算を手に入れ様々な商品を売り出し膨大な利益を得た。

 しかしこの世界ではBETAが存在した。

 彼等がいる限り安定した戦争が出来ない、成長と野心のエネルギーを得るどころかいつ膨大な数の怪物に飲み込まれるか判らない。
 安定した経済戦争を経験した企業とリンクス達にとってコントロール出来ない敵は不要な存在であり、ひいては世界そのものへの障害に他ならない。
 安定した世界を手に入れる、だからこそより強大な兵器が必要とされるが強大すぎる兵器がもたらした破滅については企業とリンクスがもっとも熟知している。
 企業にとって味方とは吸収対象・敵とは安定した経済競争相手……平和の為ではない、彼等にとっての共同とはあくまで利益と収益の為でしかないのだ。


『だからこそ【山猫】とノーマル達だ』


 有澤隆文が放った切り札の最後が静寂に包まれていた円卓を一気にザワツカセル。

 企業は理解した―――極東の小国に最強兵器の生みの親が存在する事を。

 リンクスは理解した―――本来の力を取り戻せる、無数に対抗しうる『個』の力が存在する事を。

 すぐさま日本が提示した莫大な資金・資源に対しての支払いを国家に承諾させる為に企業のトップは国家を説得し始める。
 他国の兵器を鵜呑みにするだけでなく技術などに対して法外な値段ならともかく貴重な資源を売り渡すのには抵抗を持つ国は多い。
 それは本来企業も同じ……戦後の復興などを考えれば考えるほど一箇所への資源集中はそれだけ不利になるだけではなく、売った資源を売られる可能性もあった。
 特にユーラシア大陸を押さえられているこの情勢において資源に恵まれた国は多くない、だからこそ自分達の手でユーラシアを取り戻し、採掘権利を押さえる。
 この世界で戦後を制すには無数のBETAだけでなく戦後復興においてどれだけ磐石を敷くことが出来るか? これに掛かっているのだから。

 簡単に国家は首を縦に振りはしない……ましてや小国の日本に一時的でも屈服するのをプライドが邪魔するからだ。


『各国の現行開発戦術機や兵器などを譲渡してくれるならば資金・資源の割合を下げる事は出来る
 更にこちらが提示する人間達をそれと一緒に譲渡してくれるならば、かなり割引して進呈出来るが』


 これが円卓において有澤隆文最後の言葉。

 それはアメリカを初めとする各国で開発されている、開発中である戦術機……巧くいけば各国が開発しているノーマルを回収出来る最後の策。
 更にコジマが要望した最大の一件である世界各国に散ったオルカのリンクス達を一箇所に集め、旅団を再建するという目論みが完成する。
 同時に各国にとってはたとえ秘蔵の一品を進呈するか、失敗作を騙して進呈すれば日本の強大な技術力を安価で手に入るという旨味しかない商談。
 またたった数人の人間を探し出し売り渡すだけで更に安価で手に入ると言うこの商談を蹴るような事はしない、そうすれば敵の力は自分の力になるのだから。

 円卓の更に表示される要求する人間達の名前。

 その中には既にグレートブリテンの七英雄の一人であるジュリアス=エメリーの名前も含まれていたが、イギリスは即座に商談承諾に踏み込んだ。
 たった一人の人間と数々の失敗作などを売り渡すだけでこの世界でのネクストを作り出せるならば……あまりにも安すぎるのだから。
 なにより既にイギリスを掌握しているBFFにとって、あの世界でレイレナードの亡霊の一人でありアスピナとの関わりのある人間を保有したいとは思わない。
 むしろ一箇所に亡霊達を固め”不慮の事故”で処分出来るほうが、たとえ手元に置けずとも戦後や経済戦争時に都合が良いからだ。


『BFF社・イギリスはその商談を呑もう』


『GA社・アメリカもその商談を承諾しよう』


『オーメル社・オーストラリアも承諾する』


『インテリオル社・アフリカも商談成立だ』


 企業の説得により国が動く。
 開発国家であるアメリカですら企業の言葉で了承させられる……既にアメリカと言う国は崩壊しているとも言えた。
 いや、すでに多くの国が企業の言葉で方針を変えねばならない程に侵食され、舵取りを奪い取られてしまっていた。

 あまりにも事が巧く運びすぎるこの商談は、ある企業の密約によって既に可決していたからこそ。

 各企業は各々の国家を説得する・代わりに有澤重工は必ずこの商談を日本帝国に納得させる。

 簡潔に言えば既に企業は”グル”であり、最初から繋がっていたとも言え踊らされていたのは国家のみ。
 結末を約束されたこの商談は誰の懐も痛めず、誰のプライドも傷つけず……ただ利益だけを得た。
 それを何処まで魔女と従者が知っていたのか、誰が知っていたのか、それは各々のみが知る答え。

 ―――世界は利益によって繋がった

 ―――安定した世界の為に反撃の狼煙が挙げられる

 ―――平和の為でなく……利益と自分達の未来の為に  

 黄金で造られた円卓の間で無数の敵に対して一時的な同盟が可決される……どれほど儚いとしても。  
 シロガネタケルの歯車が組み合わさるよりも早く、無数の歯車が世界を加速させ異なる方向へと導く。

 たった一人の因果律体の正義も理念もないただの娯楽が世界を救い始める―――滑稽な物語(おとぎばなし)の始まり。

『ボスッ! 一体どこへ?』

『少し日本に行ってくる……なぁに昔馴染みと会いに行くだけだ』

『わかりやしたッ! 不在の間はお任せくだせぇッ!』

『連中からの依頼はしっかりやっとけよ……出資者様なんだからな』


 首輪のついたテロリストを束ねる思想家。


『では沙霧=尚哉……辛い道を歩ませてしまいますが、そなたに帝国の未来を託します』

『身に余る光栄ッ! この沙霧=尚哉……元より帝国の為に散る覚悟ですッ!』

『銀翁、ご老公と言うのにそなたにも無理をさせてしまいますね』

『いえこの身は既に殿下の為に散る所存、必ずやご期待に答えて見せましょう』


 義に生きる武人と偽りに忠義を抱き強大な権力を持つリンクス。


 それぞれがそれぞれの思想と思惑の元に動き出す。

 加速するように世界は一気に動き出す、まるで部外者のテコ入れに反応するかのように。

 小さな歯車が組み合わさって、大きな流れを変えて、大切な結末を狂わせて、意外な結末へと導いていく。


 ――― 改変確認


□□□


 やっと書けたッ!
 書いていて自分が億劫になりかねない説明文に満ちた今回は難産でした。
 PVが伸び悩むだろう回であると同時に見つけていない誤字がありそうで怖いです。 
 さてやっと次回にはオルカの完全結集とマブラブオルタネイティブ本編へ行けそうです。

 原作だと白銀が来るまではこの世界の人間にとっては世界が突きつける無情な準備期間だったでしょうし、香月博士も数式回収にはまだ動けない。

 本当の意味でオルタネイティブ4計画の始動とゲームで言う本編開始……二十数話も掛かってしまいましたけど。
 人造英雄のリンクスと人造奇跡のAFが何をもたらすのか、これからがプロットを作っていても作者の腕次第になりそうです。

 ……特に一気に増えるであろう登場人物の処理とか、それに合わせた戦闘の大規模・多視点化への対処が。

 あぁ出番を巡った戦争にならないといいです……既に影の薄い技術官さんとか、出せない本隊の六人とか。 
 あとは実力不足から来る描写の悪さに対する対応やそろそろ模擬戦でも良いから戦闘シーンを入れなければならない。
 問題山積みです

 誤字発見修正……どうして見落としたんだ自分。
 ご指摘により再度修正、ご指摘ありがとうございました



[9853] 二十八話[集い始まるオルカの物語]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/06/02 23:00
 視点:コジマ

 国連軍:横浜基地は今まで無い程に賑わっている。
 無数のアントノフやC-5空輸機に、本命を搭載したHSSTを着陸させる為に急遽増設された滑走路や格納庫は満席状態。
 搬入されてきた戦術機や機材を搭載したトラックなどを受けて入れる格納庫もまたしかりであり、凄まじい量のトラックが停まっている。
 各国が資金・資源代わりに僅か一ヶ月で納品してみせ送ってきた様々な種類の戦術機が最低限の予備パーツと共に搬入されているのだから。
 はっきり言って渋滞であり、格納庫の整備班だけでは搬入作業が追い着かないので、その場で何機かの戦術機は伊隅達に稼動させて搬入させる程だ。

 元々要求した人材はオルカの人間達だけなので、機体だけ寄越され動かせる人間が動かして搬入する為になっていた。

 それに搬入には必ず基地の人間かつ極秘検査なので合格を受けた信頼出来る連中による少数精鋭による作業も渋滞に拍車を掛けていたが仕方ない。
 搬入の為に来ている外国の連中は全員が全員なんとしても基地に入り込もうと躍起であり、横浜基地を襲う際の内部構造の一つでも欲しいのだろう。
 更に現状では外国から運搬されて来た戦術機は表向きの格納庫にしまうが後で内部の改造や整備が出来る区画に移動する事になっている。
 そこを企業や敵対勢力に知られる訳にもいかず、伊隅達を無給勤務させながら雷雲による信頼出来る搬入班に外部の人間を入れないようにさせている。

 無論アイツ等にもしっかりと搬入作業を行って貰っている。

 また本人達専用のカスタムを受け機体は一箇所に集め、無論そこは整備と改造が可能でありながら基地でも極一部の人間しか赦されない聖域。
 もし無断で入り込もうものならば禁断の領域に踏み込もうとする咎人を通路や格納庫内にハリネズミの如く仕掛けた対人兵器達が火を吹く。
 あとは無惨な死体が出来上がるかお縄を頂戴し拷問などに掛けてしっかりと裏事情などを吐かせて、それから洗脳なり薬で潰し言いなり人形になって貰う。
 誰の良心も痛めず使い捨てる事が出来る賢いお人形さんだ……だが欠点として短命であったりすぐに使えなくなったりと散々な結果に終わる事が多いのが欠点だ。

「流石は皆さんです、あんな面倒な操作を自分でいとも簡単にしてしまうなんて」

「それよりお前はその肩のソフィアとレンガの二人をしっかりしまわないと……うっかり踏み潰されるぞ」

「それは困りますね、トーティエイトの仮面顔ならともかく鎧土竜の美しさが理解出来ない人にソフィアとレンガは殺させませんよ…えぇ殺させませんよ」

 右肩に乗ってモゾモゾ動いている鎧土竜……俗にゴキブリと呼ばれるソレを愛でているのがオルカランク9のPQ本人……本名はPQに合わせてコロコロ変えるので本当に知らない。
 あの世界ではアンデス山脈の南アメリカ開放戦線のゲリラ戦術を看破し、これを壊滅させると言う戦場と戦況を読む事に長け乱戦での冷静さも売り。
 しかし山脈ゲリラ殲滅の英雄と言っても過言ではない所為で様々な企業が子飼いのゲリラやテロリストを滅ぼされ、邪魔となったPQを消そうとした。
 これを助けたのがメルツェルとテルミドールであり、本人はテルミドールやメルツェルの為ならば死ぬ覚悟があるが……どうしてかそれ以上に鎧土竜の為に死ねるらしい。
 腰のベルトには虫篭が下げられソレには布が掛けられているがその布の下にある虫篭を見ようとしてはならない―――闇がモゾモゾと動いているからだ。 

 あぁ初めて見た時のあのオゾマシサを思い出すだけで鳥肌がたっていけない。

 横30cm・縦20cmの虫篭の中には無数のゴキブ……じゃなくて鎧土竜の子供達が蠢いているのだから絶対に女性は見ない方が良い。
 でも自然動物が激減したあの世界では鎧土竜オス・メスセットで10万するのだから信じられん、この世界でも良く見つけて育てれる物だと感心する。
 ユーラシア大陸を占領されたこの世界は食料供給の為に耕せる土地は強引にでも耕す、その所為でかなり自然は破壊され絶滅した種族は数知れず。
 そんな最中で食料が希少な最中にも関わらず平然と鎧土竜を育てられる環境と資金などを持っているが、この世界でもゲリラ関連で企業と結びついているらしい。
 邪魔だが子飼いを強化する為に蛇の道は蛇に聞くが功名だからな。

「……そういえばPQはどうやってコッチに来た? 君のPQの名前の関係から諦めていたが?」

 テルミドールが出来るだけ肩の鎧土竜を視界に納めないようにしながら話す……そこまで苦手か団長。

「えぇトーティエントとは南アメリカで色々としていましたから、それで彼が呼ばれた時に私も一緒に来た訳ですよ」

「んで、今は何て呼べば良い?」

 PQは右肩の懐いている2匹の鎧土竜に視線を落としたまま、ほんの少しだけ考えた後に名前を決めた。


「パトリック=クエスチョンなんてどうでしょう? この世界ではそう名乗っていましたから、えぇもっとも戦術機とやらに関しては素人なので頼みますよ」


 本当にこの男の本名は知るは本人のみだな、年齢も35とオルカ旅団では中間点に位置する年齢だが独特の口調からそう思えない。
 その癖……鎧土竜の飼育に一生を捧げながらゲリラ掃討で金を稼ぎPQの名前に合わせてコロコロと名前を変える所為で最初はあっても誰か分からなかったからな。
 そしてPQは適性はあったが戦術機の操縦能力はあまり高くないが、やはりゲリラ掃討で培った指揮能力を買われ少し前からトーティエントと共に南アメリカで従軍していたそうだ。
 アメリカお得意の派遣軍ではなく本国の甘ちゃんを少しでも鍛える役柄だったらしいが、本人曰く『誰もこの子達の魅力を理解しないのでやめてきた』そうだ。
 それと舐めるような口調と鎧土竜の良さを理解してくれない連中に『えぇ~~』と言うのが多かった所為か口癖になりつつあるらしい……判断がし易くて助かる。


「やれやれ相変わらずのゴキブリ好きだねPQは? このアクアビットマンの造形美が理解出来ないなんて哀れだね」

「いやいやトーティエントのようにフェンシングマスクに興奮する人の性癖の方がえぇ私には理解出来ませんねぇ」

「ハハハハッ! 相変わらずの仲良き風景だな、しっかしアクアビットマンの頭部を持つ戦術機か……トーラスやアクアビットも苦労しているようだな」


 ズモモモモなんて効果音が似合うフェンシングマスクのような外見をした頭部をした戦術機【アクアビットマン】を駆る南アメリカの開発衛士トーティエント。
 オルカランク8だがリンクス戦争直後に頭角を現し一時期はカラードランク一桁を誇った強者であり、その実力は単機で企業戦力と表して謙遜無い程。
 しかしローディーなどの旧世代やリリウムのような新世代の台頭による没落と企業と世界の真実に加え銀翁のように重度の粒子汚染で余命も幾ばくも残されていない状態。
 オルカ旅団の誘いに応じせめて最後に一花咲かせ、未来を切り開くと言う言葉を信じ戦う道を選んだ一流であった二流であり、二流と一流の狭間に立つかつてのランカー。
 企業アクアビットの独特の造型をした頭部を非常に愛し、同じ特定物を愛好するPQとは何だかんだと仲が良いんだがあのお面に興奮する性癖は良く解らん。

 この世界では南アメリカの固い岩盤の下に作られた研究施設で様々な新型機関や極秘戦術機などの開発に従事していたらしい。

 そしてアメリカ本国で起きる作為的なゲリラやテロに対してその兵器をPQと共に運用し戦果を挙げる功績者らしいが、アクアビットも粒子炉の開発は出来ていないそうだ。
 だからこそ自分を派遣し代わりに粒子炉の設計図を手に入れ本物の企業戦士【アクアビットマン】を完成させなんとして戦後の開発で優位に立ちたいらしい。
 実弾の変態企業【有澤重工】と正反対の粒子の変態企業【アクアビット】はコジマ粒子に関しては変態と言われるだけの実験回数と様々なデータを持っている。

「とりあえずコジマ、アクアビットから軽く頂いてきたこれまでの色んなデータだよ」

「助かるよトーティエント……なにぶんこの国は色々と五月蝿いし有澤重工は極力コジマを使わず・開発せずの安心と信頼の企業だからな」

「いや苦労したよ? スーパーホーネットの索敵機能を利用した広域戦術機の開発で色々と無理をしたから」

 アクアビット頭のスーパーホーネット……見ると必ずズモモモな効果音で出てくるアクアビット頭にされた元の頭部には涙せざるを得ない。
 資料などで見る限りは他の戦術機との広域リンクによる支援戦闘を目的として造られると同時に電波干渉などの電磁的な妨害にも耐性を持った対人戦術機。
 それに赤外線ロックなどの自動捕捉システムに対する対抗手段として特殊塗装や加工を用いられているラプターだろうと容赦なく捕捉出来るようにされている。
 ラプターを複製された際のカウンターとして造られた索敵や捕捉関係に特化した戦術機―――アクアビットも随分とアメリカを嫌っているようだな。

 だが流石は開発リンクスの一人であるトーティエントだ。

 テルミドール達のように40代とは思えない若々しい外見であり、口調もあの世界で死ぬ寸前だろうと飄々としていただけある。
 筋肉ダルマのヴァオーに負けないボディビルダーな身体と筋肉が軍服越しでも躍動しているのが解る……粒子汚染に対抗してとにかく鍛えていただけあるな。
 しかしそれ以上に目立つのはあの世界でも付けていたアクアビットマンの頭部と同じ外見をした、フェンシングマスクのような被り物だ。


「いや実験中に顔を少々”崩して”ね、悪いけど見せられるような状態じゃないんだ」

「なに私達はリンクスだ、その程度で驚きはしないさ」

「……そういって貰えると助かるよ、この世界で初めての女性をこれで逃したからね」


 ……トーティエントの顔は、面(ツラ)はあの世界では実験中の失敗で爛れ落ち・この世界でも同じように特殊機関の実験に巻き込まれて無くなったそうだ。
 だから被り物の下の素顔は歯茎などが剥き出しで目蓋もなんとか閉じられる程度しか残っておらず、鼻は潰れ最低限の呼吸が出来る程度の穴しか空いていない。
 そんな素顔を笑いながら話せるのは流石アクアビットのリンクス経験と褒め称えるべきか、常人なら崩れた時点で狂い死ぬだろうからな。
 そういう状況だと言うのにトーティエントの被り物から覗く眼や口は笑い、テルミドールとパンッと手の平を叩き合う程に死期を感じさせない明るさがある。
 むしろ死ぬのが解りきっていて『悲しむ位ならせめて人生や運命に対して俺は笑ってやる』と決してなく事はしない、いつも笑顔を絶やさない強い人でもある。


「やれやれ、これでこんな鉄屑に乗らなくて済むと思うと楽出来る」

「……だがラスター、まだまだゲテモノの相手はする必要がある」

「だからやれやれなんだ―――やはり相手は人間に限る」


 アメリカの最新鋭量産機の座を賭けて死闘を演じ【世界一高価な鉄屑】と比喩されるブラックウィドウに乗らなくて済むとは豪勢な事だ。
 メルツェルと同じくGA社の粗製リンクス計画の一環でリンクスとなり、カラードランクの上位であり旧ランク11を保持していた優秀な奴だがオルカランクは最下位のランク12。
 五十手前の熟練の中年リンクスで肉体は全盛期を保持しているのだが、本人曰く『AFやノーマル部隊の相手ばかりで鈍った』らしく、落ちぶれてはいるがそれでも実力は本物。
 AMS適性の低いリンクスはノーマルの操縦技術も必要とされる為かこの世界での戦術機部隊でも一個中隊の運用権を持ちながらブラックウィドウに乗れているのが良い証拠。
 煙草とキセルをコヨナク愛し日本人の家系なので日本語に対してもかなり流通しており、俺が来る以前は良く日本への一時的な派遣部隊として銀翁とも交流があったらしい。

 その割には色々と帝国の被害も大きいが……まぁ農業プラント制圧で調子に乗って死に掛けたうっかりラスターなら仕方ない事か。

 しかし【いぶし銀】と言う強者でもなければ弱者でもない中間点に位置するラスターがいるからこそ、時としてオルカの話し合いや戦闘は巧く機能したりする。
 テルミドールは対リンクスには特化しているが対大部隊だと装弾数の関係で不利になりやすかったり、真改は近接専門・銀翁は機体が特殊などオルカは尖った人間と機体が多い。
 そんな旅団で安定しつつ決して強すぎず・弱すぎないラスターが戦闘に参加すれば安定したその堅実さで色々と助かる……アメリカでの出世もそれが原因だろう。
 だが所詮は出来レースでありアメリカの戦術機思想の関係から帝国の近接適性を取り込んだブラックウィドウは次期量産期として採用されず敗退したらしい。
 色々と苦労してきた所為なのか『やれやれ』と溜め息交じりで言葉を漏らす、人生に疲れてるのかこの中年親父は? 必ずやれやれと言っている気がしてならない。


「しっかしブラックウィドウ(黒の未亡人)ねぇ?」

「GAからアナトリアの傭兵に対してだそうだ……やれやれ拙者の苦労は何処へいくのか」

「拙者とは、いつ日本人被れになったんだラスター君は?」

「拙者は元々も日本人の家系だッ! ラスター君などと呼ぶなテルミドール団長ッ!」


 真改の『某』に続いてラスターまで『拙者』とは―――日本の影響力は侮りがたしだな。
 テルミドールもカラカイを兼ねて『ラスター君』などと呼ぶ辺り内心会えて嬉しいのだろう、何だかんだと役に立つ男だからな。
 それに数少ない五十手前の中年と言う事でテルミドールも色々と考えているのだろう……中年として身の振り方などについて特に。
 もっともオルカ旅団は平均年齢が40・30なのだから年齢など気にしても何の意味もないと言うのに、色々とあるんだなテルミドールにも。


「コジマ、四脚のノーマルやネクストの開発は出来てないのか?」

「こうも資源や資金に乏しいと開発する余裕もない、加えて四本足の機体を造る位なら戦術機を二機造れッ! だからな」

「それと北海道支部で試作開発して貰った36mmロングバレル支援突撃砲をギッテ(盗って)来た、役立ててくれ」


 北海道の防衛部隊で精密狙撃の名手として名高きプッパ=ズ=ガン……極道などの言葉で約すと【射手の銃】や【銃を放つ】で、これを本気で本名にする位なのだから恐れ入る。
 オルカランク11とオルカ内では低ランクだがオルカ内で唯一にして最高の狙撃主であり、特に動く相手の急所を射抜きここ一番を外さない集中力は『猟師』を自称するだけある。
 猟師を称するのはあの世界で元自然観察保護官と言う汚染によって激減した動物達を護ると同時にその飼育も担当すると言う……実は表の顔でもっとも高給取りだったりした。
 しかし戦争の激化に連れて観賞しか出来ない動物達を飼育する余裕はなくなり、生産能力が高く食べる事が出来る動物以外をその護ってきた手で殺傷させられた辛い過去を持つ。
 それは25歳と俺の享年と同じ若い人間にとってあまりにも厳しく、その仕事の為に一生を費やしてきた人間にはあまりにも辛い仕打ちで世界に絶望と憎しみを抱かせるのは簡単。
 だからこそブッパはオルカ旅団に自ら入団し戦争の舞台を宇宙へと移し、世界を荒廃から救い今一度動物達を蘇えらせ安定した仕事と満ち足りた生活を取り戻そうと戦いを挑んだ。
 ある意味では人類を宇宙へと追放し動物達による世界・自分がもっとも満ち足りていた世界を作り出す為に、戦争の根源を殺戮し末端を消し去るなんて自分の欲望と願いに忠実すぎる若者。

「流石は【無音の雪崩】……サイレント・アバランチの技術をその身に宿しているだけある」

「褒めないでくれ……歳の似通ったコジマに言われると嫌味に聞える」

「ハハハハッ! やれやれメルツェルも認める口車が一本とられたな?」

「貴重だよ? 録音しておけば良かった」

 銀翁が権力で本州部隊に移転させたかったそうだが現地の戦力図などが崩れかねないと言う本人の理由から招集は頓挫し、長距離通信も本人の権限では使えず。
 それ故に今日までオルカ通信にも参加することが出来ず、北海道防衛部隊に優先して新型機や部隊を配備すると言う名目で何とか納得して貰いこちらにやって来た。
 プッパは享年25の俺と唯一オルカ旅団内での二十代の人間であり、年齢の後輩は一人しかおらず居るのは年上の先達ばかりと色々と若者扱いで揉みくちゃにされる。
 歳の似ている俺とはそんなからか色々とライバル心があるのだが今回の俺は中佐でプッパは中尉……権力では俺が圧勝している、精々こき使ってやるさ。
 なにせ狙撃の名手だからな、珠瀬の師匠になるなり17か18の新米に25の先達が色々と丁寧に教えてやり―――やがて二人は銃によって結び付けられた絆から恋人に。

 そして珠瀬が手紙で父親にプッパを紹介し、あとはブッパに頑張って貰い正式に婿として認めて貰い色々と後ろ盾を頂く。

 更にブッパが俺達や銀翁と繋がっていると知れば逆に外務次官を通して色々と俺達への接触を目論む連中が現れる、それ等を利用するなり美味しく頂いて勢力を高めれば良い。
 もっと強固な防御陣営を構築する為にもっともっと有力な人間達の後ろ盾がいるだろう……少なくともまた後ろから撃たれず人類の味方でいる為に必須だろうしな。


「久しいなダルヴァ」

「今はマクシミリアン=テルミドールだジュリアス……相変わらず君は若いな」

「それは遠回しに外見ばかりで中身は老いたと言いたいのか? あぁそうなんだなテルミ」


 グレートブリテン七英雄と称される七人の英雄の一人として名を連ね、オルカ創設に携った【最初の五人】の一人でもあるオルカ唯一の女性リンクスのジュリアス=エメリー。
 【蒼き閃光:ブルーグリンド】の異名を駆る超高速戦闘を得意としたとえ積載超過の武装を装備しようとその機体の機動を完全に発揮する事が出来る縦横無尽の戦闘機動を誇る閃光の後継者。
 リンクス戦争時からのテルミドール達と共にあったリンクスであり、リンクス戦争で双璧の強さを誇ったジョシュアの戦闘機動を脳にインプットされた人造英雄の生き残り。
 同じ七英雄【高貴なる騎士:ノーブルナイト】のジェラルド=ジェリンとは同じ目的で造られ出会ったリンクスであり、渋く戦争によって引き裂かれた愛情を持った者同士。
 もっともジェラルドはレオン=ハルトをモデルにして造られた自分の事を『偽物』と蔑み、なんのモデルも存在せず強力なリンクス達の事を『本物』と羨む【破壊天使】に成り損なった騎士。
 Gカップと言うとんでもない胸の持ち主でありながら同時にリンクスの肉体改造によって常に二十代の最高の美貌を維持しているジュリアスは勿体無いと思ったが、施設以来の馴染みでは踏み込むことは無粋。
 ただジェラルドは遠回しな言い合いや湾曲させて言葉を使うのが凄まじく下手なので……うっかりジュリアスや女性の年齢を言ったり問いただしてボロ雑巾となって帰ってくる事が多い。


「いや待とう、待って下さいジュリアスさん、それよりも良くタイフーンなんて機体を引っ張ってこれましたね」

「……(ちっ)命拾いしたなダルヴァ……技術関係は良く解らないが私専用のカスタムを受けた機体でほぼ専用機になってしまったから貰ってきたまでさ」


 舌打ちしたように聞えたが空耳だろう。
 それに加えているとても不味くて有名な合成煙草を加えている部分が前歯で押し潰されているのや、視線が子供が一発で泣きそうなほど恐ろしいのも気のせい。
 女のこういった所をむやみに指摘すればどんな事をされるか判らない……最悪胸を押し付けられる幸せと共に後頭部をコンクリートに叩きつけられるか?
 ジュリアスはトーティエントのようにデータを盗んでは来れなかったのか、このタイフーンについては色々と一から解体して調べる必要が出てしまった。

 国が違えば戦術が違い、戦術の違いはそのまま戦術機の特徴や強化の重点などに直結する事が多い。

 この日本帝国ならば間接などの近接戦闘に必要な部分……なんだが破壊されるコストなどを考えるとあまり間接などの細かい部分には金を懸けられない状況。
 正直なところ武御雷がある意味ではもっとも近接戦闘の為に間接などの部分を強化した機体であり、そう言った部分などに金を懸けすぎた所為でオカシナ数字が出た。
 アメリカならば高機動・砲撃戦なので必要なのは反動に耐える為の機構や素早く狙いを付けられる高速さ、捕捉能力などに重点を置く……この国とは対極にある。
 イギリスなどの欧州連合については良く知らないので、このタイフーンをありがたくネジの一本まで解体してその機構などを解明させて貰う。
 どっちにしろAMSに対応している劣化ネクストは手元の大鴉しか存在しない……それ故にタイフーンなどには早々に退場して貰うだけなんだが。


「ここに居たのかッ! 皆探した」


 円陣を組みつつあるオルカの輪の中心に一人の少年がダンッ! と痛そうな音と共に落着する。
 どうして上から降ってきたのか解らないが、おそらく機体の管制ユニットからここへ直接”跳んで”来たんだろう。
 オルカ旅団リンクスで唯一の17・18歳の未成年だがジュリアスのように特定の人間の戦闘パターンを脳に刷り込まれ、叩き込まれた人造リンクスの生き残り。
 モデルはアナトリアの英雄オブライア=ネフェルト……この最強のレイヴンを量産しようと試みたった一人を残して全滅した計画の生き残りでありジュリアスとは姉弟にもなる。
 しかし未成年だが与えられた力は膨大であり8分程度しか戦闘継続が出来ない代わりにその8分内ならば全盛期のアナトリアの傭兵であり英雄の動きを再現出来る最悪のカード。
 オルカランク10にしてカラードランク10でもあり、メルツェルに口説かれオルカ旅団に入団し最強の殲滅戦闘能力を持って一時的な最強として君臨した糞ガキのハリ=クラースナヤ。
 もっと正確に言えばジョシュアの細胞を培養して造りだした身体にアナトリアの傭兵の戦闘パターンを染み込ませた者であり……PTネクストを乗りこなす事も出来る。
 少年と言うには外見的には成熟しており20代に見られてもおかしくなく背丈も程好く高くて間違いなく美形と呼べる顔に腰まで伸びた赤い髪に加え身体は訓練で引き締まっている……間違いなく外見株価トップだな。


 ただ欠点として……


「パスポートと地図はどうした?」


「あぁあの紙切れなら道中で落としたと思う」


「取りに帰れ」


 ……戦闘能力を強要された結果として知能が決して高いとは言えない。
 戦闘関係となれば天才なんだが私生活ではどうも抜けた部分が多く、生みの親であるアスピナの教育がどれだけ悲惨か物語っているようなモノだ。
 たとえば対物ライフルを目の前で一度だけ分解作業を見せればその一回で全ての工程と部品を覚えてしまう、そしてそれをとにかく最速で最高の状態に組み上げてしまう。
 たった数回ライフルを試射しただけで特性や特徴を見極め目的に最適な武装アセンブルを考え抜き、そして装備し必ず依頼を成功させてくる。

 時間限定の天才で覚醒状態のハリにとってAFは鉄屑……下手なリンクスは子供同然であり瞬殺されてしまう。

 だが再現出来る筈のない最強のレイヴンの機動を強制的に再現させられるハリに掛かってしまう肉体的負荷と自分が自分でなくなり殺戮を行う精神的負荷は比類ない。
 8分間で全てを完了させられなければただの低級リンクスに成り下がり、時としてノーマル相手ですら苦戦を強いられる程までに実力が低下してしまう。
 非常に不安定な兵器で、非常に不安定な再生装置で、とても壊れやすい記録装置であるハリが戦闘を繰り返したり実験の果てにこうなってしまったのはもはや言い訳できない。
 むしろ狂人的な精神力があるからかハリは一思いに狂い・壊れる事が出来ず生半可か精神汚染と負傷と磨耗に苛まれながら生きていく、実験の為に生かされる人生を強要されてしまう。
 
 そんな地獄から逃げ出す為にハリは旅団員となり、自分を苦しめる者達全てを皆殺しに、その道を示した人を護り抜くと決めたのだ。

 18歳のガキが……そんな選択をする、躊躇いも懺悔もなくただ自分に道を示した人間の為に数億人を無差別虐殺してしまえるだけでなく最悪の遺物すら制す。
 最初に見た時はどこまでも気色悪い糞ガキにしか思えなかった……未成年が確たる道を見つけて血だらけになって壊れたくても壊れられない人生を謳歌する様子は気色悪すぎた。
 すぐ隣の子供が『僕は総理大臣になって国を立て直すッ! でもその為には数千万人に死んで貰うから自分が殺します』なんて不気味で夢見がちな奴くらいにしか見えないからな。


「ハリ、忘れ物だ」


 ヒュッと鋭く空気を斬る音と共に投げられた物をハリがスパッと取る。
 もっとも機体搬入が遅く同時にテルミドールや俺達が怒ったジュリアス相手にビクビクしている様を機体から悠然と見ていたオルカ最高の智将様。
 劣悪なAMS適性を持ちながらその実力はオルカランク7に位置する程であり、同時にオルカ旅団創設作業の九割はメルツェル一人の手によって行われている。
 計画の為ならばどこまで冷徹になれながら潜伏するとなれば数年だろうと潜伏し、その口車と智謀から構築される情報網によって世界の動きの全てを知り掌握出来てしまう。
 戦闘において団長だがロマンチスト故に計画が徹底出来ないテルミドールを智謀で支え、代わりに自分が冷徹になり計画を考案する実質の行動方針はメルツェルが握っている。
 またメルツェルが居たからこそハリやヴァオーなどのリンクスはオルカ旅団に入団してくれ……数多のテロリスト達を裏から支配操作してオルカ旅団は旅団として君臨しえた。

 まさに最高の叡智であり、俺が香月博士相手に頭脳戦を出来るのもメルツェルがループの中で後継者として選び叩き込んでくれたからだ。

 シロガネにとって神宮司軍曹が恩師ならば、俺にとっての恩師はメルツェルと……セレンになる訳だ。

「あぁ助かったよメルツェルッ! コジマが凄く冷たく『戻れ』って言ってた所なんだ」

「それは仕方ない事だ、それはコジマが君をこの場所に連れ来る為の特別待遇書だ……流石になくしたら大変な代物だぞ」

 そういうと流石にハリも理解したのか懐にパスポートと地図をしまう、もし外部の連中の手に渡ったらと思うと少しゾッとさせられたが問題なしか。


「良く来てくれた、メルツェル」


「遅くなったなマクシミリアン」


 硬い握手が交わされる。
 テルミドールの事をマクシミリアンと呼ぶのはメルツェルだけであり、同時にマクシミリアンと親しく呼んで良いのもメルツェルだけだ。
 【最初の五人】の内の他三人はテルミドールと呼んだりもう一つの名前であるオッツダルヴァや略称してダルヴァ・テルミと呼んだりする。
 だが旅団リンクス員の半分を勧誘したのはメルツェルなのでどちらかと言えばメルツェルの方が慕われ、テルミドールは団長として尊敬されている。

 驚異的なカリスマを誇りたとえ勧誘せずとも自然と仲間を作り出せてしまうテルミドール。

 智謀と口車によって地道に仲間を増やしその勢力を拡大させていくメルツェル。


「ふぅ……以前よりも更に帝国の人間が入り辛くなった」


「苦労」


「コジマァァッ! テルミドォォォルッ! メルツェェェェェルッ! 帝国軍から銀翁・真改と専用武御雷と改良用の武御雷三機届けに来たぜッ!!」


 格納庫に最後に到着した帝国軍の新中将である銀翁とその補佐官である真改がようやく到着。
 と言うのもあの青葉事件の一件で帝国が国連を敵視したり邪険したりするように、国連軍:横浜基地も帝国軍の事を邪険にし蔑みなどを平然と言うようになった。
 因果応報としか言えない……散々アメリカの無差別爆撃を理由に非国民だの敵だの言ってくれていた偉そうな帝国が、こちらに対して作為的な砲撃をしたのだから。
 しかもその砲撃で伊隅ヴァルキリーズは二名の隊員を戦死させられ、一人の隊員をそれによるPTSDによって軍を離脱させられたのだからこちらも容赦はしない。

 破壊された戦術機・失った人材などの損害賠償を要求させて貰った……本当ならば山猫で帝国軍を壊滅させても良かったが今は我慢した。

 賠償金と言う名目で数機の武御雷を拝借し尚且つ自由に改造しても良いと言う権限を頂いた、巌谷中佐や銀翁は万々歳しながらこの条件を飲んだらしい。
 既に軍部は国連派である銀翁などによって掌握されているのでむしろなんとしても国連との繋がりを深め、佐渡島攻略を目論んでいるそうだがまぁ帝国独力ではまず不可能だからな。
 それに帝国内部でもその存在が大きくなりつつある英雄部隊【伊隅ヴァルキリーズ】が何としても協同で動かせるようにしたいらしいがアレは香月博士の私兵だ。
 下手に動かそうとすればどんな事を吹っ掛けられるか解らないと言うのに―――まぁ完全な軍部統一を行い配備機体の第4世代(初風・大鴉)化を勧めたいのだろう。
 それまで迂闊に軍は動かせずまったく動作機構などの異なる新型に歴戦の衛士達が慣れるまでの時間稼ぎが欲しいのだろう、造っておいて熟成期間をまったく配慮してなかったのは失敗だった。
 当面は帝国軍も動けないだろうからもしこの状態でBETAに侵攻されれば最悪全滅なんてのも考えられる……造る事ばかりで慣れる事についてまったく考えなかったのは失態すぎる。
 まぁそれもなんとかなるだろう―――頼るのも癪だが仮にも帝国だ、上等な餌になるまでなんとかしてくれるだろう。


「これで全員か?」

「メルツェル、オールドキングの奴がいないぞ?」

「彼は今頃世界の何処かで難民解放戦線辺りで暴れているだろう、公に呼ぶのはマズイ」


 やっぱりテロリストの親分になってるのか相棒……まぁそれが一番お前らしいしな文句はない。
 とにかく相棒を除いた十二人のオルカは結集した、人類最高にして最悪の勢力が一箇所に集結したんだ。

 ようやくここから始まる、始める事が出来る―――俺達の物語を。

 シロガネタケルとは違う人類救済の『おとぎばなし』をようやく書き連ねる事が出来る。
 だが油断は出来ない……俺が神の加護を持つならばシロガネタケルのよう元々の登場人物は世界の加護を持つ。
 世界の修正力は侮れない、現に既に一条・神村・葛城の三人は原作同様に戦線離脱させられてしまった。

 ほんの少しの油断が【マブラブ】と言う世界にとって異分子である俺達が排除されかねない……だが負けはしない。
 それを三人の犠牲と左腕で学んだのだから。


「なら拙者が本国から拝借してきた天然ウォッカで固めの杯といこう」


 ラスターが何処からともなくボトルに入ったリッチランド産と書かれたウォッカを取り出す。
 俺を含めた周囲が一斉に怪訝な顔をする……あの世界で天然食料自給率を支えていた農業プラント【リッチランド】が制作した酒は文句ない。
 だが問題は幾等なんでもこの世界で下手な富豪ですら簡単に手が出せない天然酒を簡単に企業が差し出すとは考えられないからだ。
 もしかしたら毒が入っているか実は合成モノの不味いのでした―――なんて言うのは勘弁して欲しいからな。


「まぁ良いじゃないか? ここはテルミに先陣を担って貰えば良いだけだ」


 加えていた短くなってしまった合成煙草を携帯灰皿に納め、ニヤついた顔でテルミドールに無理難題をふるジュリアス。
 Gカップもあるのに癖で前に腕を組むのに加えて右足を左足の後ろ側に廻して立つので、色々と眼のやりどころに困る姿勢になる。
 腕を組むのに加えて訓練などで腰周りが引き締まっているので余計胸が目立つのに加え今は加えていないが煙草を加えると更に凛としてしまう。

 本国でジュリアス姉様なんて呼ばれて同性愛者に狙われていなかったか心配になる程……ジュリアスは凛としていて胸がなければ男にも見間違う。

 ―――いや心を読んだかのように睨まないでくださいジュリアスさん。


「なっ私かッ!? ここは粒子汚染に耐性のある銀翁やトーティエントに任せるべきだろうッ!!」


 対する団長は慌てふためく、いや確かに毒物が入ってそうなウォッカを煽れなんて言われたのだから当然と言えば当然。


「仮にも帝国中将に毒があるかも知れない酒を煽れと言うのか?」


「いやここはぜひとも団長らしさを見せて欲しいよ」


 粒子耐性のある二人も流石にテルミドールの救援要請は無視するそうだ。
 テルミドールは血涙を流しながら他の面々にも助けを求めるが……


「いやですよ私が死んだら誰がソフィア達の世話をするのですか?」


 相変わらず右肩でワサワサしている鎧土竜を愛でているPQ。
 誰も世話したがらない鎧土竜を引き合いに出されては反論出来ない……ゴキブリを何十匹も飼育する度胸はない。
 メルツェルが目元に涙を浮かべ、片手で腹を抑えながら懸命に嗤いを堪えている。


「ここは組長として威厳を僕に見せてくださいッ!」

「組長じゃなく団長と呼べッ!」


 意気揚々とテルミドールに酒を煽るように言うブッパ、少年のように眼を輝かせながら言うのだから性質が悪い。
 しかも懐からワイングラスのような凝った物ではなく本物の杯を取り出し、テルミドールの手にしっかりと握らせるのだから更に悪い。

 ―――あっ今少しだけ腹黒そうに口元がニヤつきやがったぞブッパ?

 意外に腹黒いなブッパ……いや日本の極道に精通しているのだから当然か、きっと北海道にはブッパ組なる組合が存在しているんだな。
 小太刀や短刀のような刃物握らせると意外と白兵戦が出来るからやはりあの世界で保護官らしい仕事をしていた所為だろう。


「じゃあ俺はグラスとって来るぜメルツェル」


「クックックックッ……あぁ、頼むヴァオー」


 グラスを取りに輪を離れるヴァオーと懸命に嗤いを堪えているメルツェル……そんなにツボに入ったのかメルツェル。
 さり気なくヴァオーももっともらしい理由で酒を飲むのを回避しているのでテルミドールはヴァオーに話題を振る事すら出来ない。
 メルツェルは本当に腹の底から嗤いを我慢しているらしいが今にも転げまわりながら大笑いしそうで恐ろしい……正直言えばメルツェルが大笑いしたのは見た事ない。

 『フフフッ』のような嗤いしか見た事がなく、今のように懸命に堪えている姿を見るのはかなり新鮮でもある。

 企業を騙したりして大成功した時ですらメルツェルは大笑いせず、何処か虚しそうに笑っていたりと大笑いが似合わない眼鏡と思っていたのに。


「しっ真改ッ!」


「……すまん」


 最高の親友である真改にすら捨てられたテルミドール……血涙を流しながら前のめりに倒れる。
 流石に可哀想過ぎるがこんな一面を見るとやはりテルミドールも人間なんだな、と思わせられるのが不思議だ。
 リンクスも素材は人間なのに時として人間らしい部分を見せない、あるいは傭兵仕事故に弱みになりかねないと見せない。

 そんなリンクス達が今のように感情と本当の姿を剥き出しで笑い合う姿と言うのは―――見ていて何処か微笑ましい。

 そしてそんな一面を”見せている”と言うのはそれだけ俺達を信頼しているからこそ、だからかも知れないがな。

 ヴァオーからグラスを受け取り、ラスターからウォッカを受け取りグラスに注いでいく。
 ジュリアスがテルミドールを叩き起こし立ち上がらせ、ブッパから受け取っている杯にウォッカを注ぐ事で全員に酒が行き渡る。
 ウォッカを水などで割らずに飲むのは結構キツイんだが贅沢も言ってられない、なにせ天然モノなのだから水で割るのも邪道になってしまうからな。


「……さて遊ぶのもここまでにしよう、これでようやく始められる」


 真面目になったテルミドールに合わせて俺達は真面目な顔に戻る。

 リンクスとしての一面たる姿に、本来の自分達に戻る。


「知っての通りこの世界は侵略を受け人類は存亡の危機にある、故に我々はここに結集しその存在意義と目的を果たそう」


 ―――人類を護り導く

 たとえどれほど非道な手段を選び取ろうと、オルカはその為に存在する。

 
「夜空の旗を掲げ人類の為に今一度、この牙を振るい星の海への道を切り開かん」


 円陣が組まれ、テルミドールが中心に腕を伸ばしグラスを差し出す。
 それに合わせるように皆グラスを差し出す。


「「「「「「「「「「「人類に黄金の時代を」」」」」」」」」」」


 澄んだ音と共にグラスを打ち合わせる。
 お互いのグラスの天然ウォッカがお互いのグラスの中に入り込み合う。
 本来乾杯の為にグラスを打ち合わせる行為はお互いの酒の中身を混ぜあう……つまり毒を混ぜあう行為だったそうだ。

 もしこの場で毒が入れられていればオルカは消滅するが、それはないと誰もが確信していた。


「オールハイル」


「「「「「「「「「「「オルカ旅団」」」」」」」」」」」」


 グラスのウォッカを一気に煽る。
 無論だが全員なんともなく、平然としている。
 幸い酒にも皆強いので一杯で酔い潰れたり、暴れたりするような事はない。
 流石に割らないウォッカを何杯も飲まさせられるとアルコール中毒で死んでしまうが、二杯目はなかった。

 仮にもハリはこの基地の訓練兵として来ている、今日これからその入学であり入隊式がある。

「そういえば一応入隊する手筈だけどやっぱり英語じゃなくて日本語で話した方が良いのか?」

「まぁそうだな、翻訳装置を支給される訳じゃないから日本語で話してやれ……どうせ主要国語はマスターしてるだろう」

 リンクスは国籍などを跨いで行動するので全員主要国の言語はマスターしている。
 言っておくが俺達の会話は翻訳機なしでの英語会話だが、その気になれば全員日本語くらいペラペラだ。
 だが外国語をあえて使っておけば役立つ事もある……特に盗聴や撮影によって唇の動きを読まれ解読されるのも塞げるからな。

「じゃあここからは独自行動だな」

 メルツェルはラスターが持ってきたウォッカを手土産に香月博士との会談があり、銀翁と真改はすぐにでも帝国に戻らねばならない。

 ブッパ達の外部の人間はテルミドールと共に基地指令であるラダビノッド司令官と顔合わせしなければならない。

 実際俺もここの指示をした後は物語の重要人物達である入隊兵達に合わねばならないと、結局ほんの少しの間だけしか集えない。


「すみません中佐、少々よろしいですか?」


 後ろから整備兵の一人に呼ばれ、そのまま振り返り俺は驚愕させられるよりも早くグッと物陰に引っ張られていく。
 そこは丁度運ばれてきた予備パーツが積みあがり監視カメラからは見る事が出来ない場所になっているようだった。

(なにしに来てんだッ!? 仮にもテロリストの親分だろうオールド)

(おっと言うなよ相棒? まぁ聞け)

 今……確かに俺の事を『相棒』と呼んだがテルミドール達が持っている記憶のループでオールドキングとは敵対していた筈だ。
 仮にも無血の革命を求めた青臭い理想家と流血による改革を求めた思想家として対立し、殺し合いにも発展した仲だった。
 少なくとも相棒と呼び合うような仲ではなく、進んだ物語の筋書き自体が大きく違いすぎるのに……相棒と呼ぶのはどうして?


(メルツェル達とはどうも記憶って奴が違っているらしいが、まぁ気にする必要はねぇ)


 ―――良いのかよ。


(俺はピース・ベルって部隊を率いてアラスカに潜伏してる……どうもそこでキナ臭い話を見つけてな)

(……キナ臭い話?)

(簡単に言えば共同開発の名を借りた他国戦力の調査と技術奪取って奴だ、それと色々と俺達の仲間が集まり始めててな)


 現在アラスカは本国を失ったソ連に租借されている土地であり、現在のソ連などの本拠点と言っても過言ではない。
 ペンジナ湾と言う場所が現在の最終にして最前線防衛地帯でその後ろは複数の基地や産業地帯の結集地でもあるが、そこはユーラシア最北端で甘くはない。
 極寒で産業地区の再建も簡単ではなく、非戦闘要員などはアラスカに後退済みでむしろアラスカこそ彼等の国とも言える状態らしいがそれをアメリカが赦す筈もないだろう。
 そしてアメリカ本国の最北端でもあるアラスカで各国の戦術機を結集しての技術大会は、むしろ企業の戦争に等しい場所……優位に立つ為に子飼いを送り込んだか。

 改革し過ぎたか?

 いやこうでもしないと逆転は無理だ、有澤重工の技術力には感謝するがやっぱり何処か急ぎすぎていたのかも知れない。

 せめてもう少し早くメルツェルと接触し世界情勢を把握していれば……下手な警戒をさせずに済んだのかも知れないのに。
 クソッ自分の無様さが苛立つ、俺は正しい事をしてるんだぞ―――世界を救う為の改革と革命をしてるんだぞ、なのにどうしてこうなる?
 企業に期待しているつもりはないがそれでも”こんな世界”だぞ? せめて地上から連中を一掃してから喧嘩してくれ頼むから。

(情報はメルツェルを通して送ってやる……それと何人か俺の部下をここに潜伏させておく)

(……おい大丈夫なのか、使えないパイプは勝手に切るぞ?)

(この温さで大丈夫も糞もないだろう? あとで接触させておくが合言葉は『人類未来の為に』だ)

 ……ほぼリリアナだな相棒。
 だが相棒としてのお前と会えたのは幸福だし、まさかメルツェルの情報網がオールドキングなのは驚きだな。

 なにより相棒、お前が飼われる道を選んでるのがなによりも驚きだよ。

 自然と懐から銃を取り出しソレを差し出すと相棒は何の躊躇いもなくソレを受け取る。


(死ぬなよ相棒)


(死ぬかよ、俺様を殺せるのはお前位だよ相棒)


 俺はもう一丁の拳銃を取り出し、お互いの銃の横腹を軽くブツケル。
 揺り篭を落とした際に行った相棒としての契りであり、狂気を共に背負いあう仲間としての誓約。

 それをもう一度を行う。 


 そのまま相棒は俺の拳銃を懐に納め、恐らく内部に潜入していると言う仲間に引き連れられ姿を消した。


「さて俺も主役達に会いに行くか」


 拳銃を懐に納め、周囲を良く確認してからその場を後にする。

 ようやく手に入れた本物の仲間と共に仕事をこなす為に。

 俺にしか出来ない事をする為に、成し遂げる為に。

 その仕事が16・17の少女を篭絡したり懐かせたりすると言うのが…言いようもなく犯罪の匂いがしてならないのは気のせいだろうか?



□□□


 一言「無茶苦茶後悔させられました、感想150番目を自分で飾ってしまいました」

 一気に登場させるモノだから台詞の難しさが半端なく、当初のプロットのように段々出せば良かったと心底後悔してます。
 口調が被ったりしないようにしたり、解るように原作にない口癖を造ったりと原作ファンの人達からキャラ崩壊しすぎと怒られそうです。
 特に次回は主役達の登場なんてのも追い討ち……本当にどうしましょう御剣達は良くても原作でも出番の少なかったA分隊数名とか。
 これから少々荒れていくとは思いますがどうかお見捨てにならずご愛読されると助かります……作者も努力します。
 あと自分で150番目の感想を飾ると言うのも喜ばしいのか、はたまた悲しいのか複雑な心境です

 あと、ふと思い知人と口論になったのですけど人間の動きを再現する機体の間接とかどうなっているのでしょう?

 ネクストは特殊モーターと複雑高等な間接機構が使われているそうです―――電磁加工でもしてるのでしょうか。
 戦術機の武御雷は知人曰く『専用の人工筋肉』を初めとした機構が使われているそうです。
 今度の設定集がでればもっと詳しく書かれているのでしょうけど……自分の無智具合が恥ずかしい限りです。
 ガンダム種死のストフリなどの高性能機の間接はフェイズシフトによる加工によって防護・強化しているそうですけど内部機器がついてくるのでしょうか。
 パトレイバーでは『どんな性能良くても機械は人間じゃない、人間の動きをさせればレイバーは一発でオジャン』だそうです。
 まぁあれはレイバーの性能が知れていると言うのもありますし、仮にも警察が危ない兵器を持つ訳にもいかずと言うのもあるからあんな性能らしいですけど。

 長い蛇足のオルカメンバーとそのランクと年齢

 ランク1.マクシミリアン=テルミドール・40代
 ランク2.ネオニダス(銀翁)・50代(延命状態)
 ランク3.ジュリアス=エメリー・ギリギリ30代(禁句)
 ランク4.オールドキング・40代
 ランク5.真改・40代
 ランク6.ヴァオー・30代
 ランク7.メルツェル・30代
 ランク8.トーティエント・40代(延命状態)
 ランク9.PQ・30代
 ランク10.ハリ・10代
 ランク11.プッパ=ズ=ガン・20代
 ランク12.ラスター・40代
 ランク13.古島=純一郎(実力はランク1相当)自称30歳で享年25歳……ループ累計は300×平均寿命50=15000歳


 人類数十億人を宇宙進出させる為に数億の個人を殺害した最悪の反動勢力【オルカ旅団】のリンクス達で彼等を支える非戦闘や補充兵などもかなりいる。
 オルカランクは政治的要素が殆どなく、ほぼ完全な実力によるランク付けなので数字=旅団内での戦闘力の高さになる。
 ただしランク12のラスターですらその実力はカラードランク上位に位置するので、それ以上の数字を持つ人間達はまさに化物揃い。
 それぞれがテルミドールとメルツェルの言葉とカリスマに惹かれ集った集団だが、それぞれが独自の正義が信念を持つので決して集団ではない。
 あくまで人類に黄金の時代を導く為に集まっているだけで、その方法は千差万別であり旅団員の行動を指示はせど従うかどうかは旅団員に委ねられる。
 テルミドールとメルツェルのカリスマと智謀が合わさる事で初めて機能する旅団にして、ハリなどの一部旅団員は心酔までしている。
 コジマはこの十三番目のリンクスとなる存在であり、皮肉ながらその十三番目が敵対する事でオルカ旅団は崩壊すると言うまさにキリスト(1)を討つユダ=ジューダス(13)。
 
 テルミドール・銀翁・ジュリアス・真改・メルツェルの五人が創設に携ったリーダー格である【最初の五人】

 五人中のテルミドール・ジュリアス・真改の三人がレイレナード社の残党である事から活動時は『レイレナードの亡霊』と呼ばれ、オーメル以外の企業にとって障害だった。 
 原作中のメルツェルの発言から創設以前からテルミドールが潜伏していたような発言が見られ、その間は首輪のついたテロリストを演じ各地を転戦していた模様。
 特に原作中のクレイドル21奪還戦ではテログループ【リリアナ】を鼓舞する声が銀翁と同じ声だったりとリリアナのリーダーであるオールドキングが参加していた影響もある模様。 
 複数のテログループの集合体と言う意味合いで【旅団】と言う名前を付けたのかも知れない……オルカは揺り篭を落とす冥府の使者と言う意味にもなる。

 ご指摘により再度修正



[9853] 二十九話[集い明かす主役達]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/01/06 23:35
 視点:ハリ

 この横浜基地に来てから一週間が経ってようやく僕を含めた十二人の分隊分けの期日になった。
 本当はメルツェルやコジマに言われて接触する筈だったんだけど下手な接触を怪しまれる訳にもいかなかった訳がある。
 少なくとも四人か五人の人間が、僕が要人組みに接触しようとする度にその『見られている』と感じる何かを感じさせて来ていたから。
 特に御剣って日本女性の美学を収束させたような人の事を『そなた』呼ばわりする紫髪のポニーテールの子には厳しい監視がある。
 体力も僕やリリウムを抜きにすれば上位に立てる体力があるし身のこなしがかなりの訓練者だって事は解らせてくれる。

 それに歩き方が真改やコジマと同じ剣道を学んだ人の歩き方をしていていたので、先達二人を出汁に巧く接触しようとしたのに……

 とにかく誰かが見ているので下手な事は出来なかった。

 次に接触しようとしたのは黒髪で肩口まで髪を伸ばしていて中々胸のある子の彩峰。
 体力だけならおそらく十人の中ではトップで御剣とは違うけど、おそらく軍隊格闘術か何かを習っている感じがする。
 現に基本的な訓練だと御剣と互角に動けたり耐久力を見せていたから近接戦闘関係で巧く取り入ろうとするんだけど御剣とは違う監視がいた。
 眼鏡を掛けた中年と言うには若い人でかなり気配を隠せるのに加えて廊下をすれ違う時に手馴れだと思わせる感じの人。
 しかも悪い事にコジマの副官と言うか……帝国から強奪した武御雷の改良手伝いとして来た人で迂闊な事が出来ない人でコジマに指示を仰ぐと。


『いやすまん、ソイツはかなりの手馴れで銀翁が支配しつつある帝国内部の不穏分子の頭目の一人なんだ
 オマケに元上官が彩峰=慧の実父で暴走しかねないから監視ついでに派遣されたんだが……目立つよな
 んで御剣=冥夜には四人の護衛がいてな? ソイツ等も表向きには武御雷の改良を手伝う為に来てんだよ
 一応色々と釘をさせる立場だから言っておくがとにかく中隊の分隊分けが済むまで接触は避けてくれ』


 とコジマらしくない手際の悪さを見せてくれるので、命令通り分隊分けが済むまでリリウムを元より十人とは出来る限り接触せずにいた。
 向こうからもあまり接触がなかったので問題なし……それに今日から基礎基本的な訓練と座学で判別された能力を均等にするように分隊分けされる日。
 少なくともデータを弄くってリリウムはAで僕はBになり、更にB分隊は目的の要人達で固められた部隊になるらしいから手間が省ける。

 ここ一週間の間―――何の行動も接触も見せないリリウムだけが心配で仕方ないけど別に良い。

 どうせ目的はコジマだろうから僕が気にする必要もないし、下手な接触でBFFに難癖付けられるのも回避しないといけないからね。
 出来れば未来の敵になるだろうリリウムは事故死して欲しいんだけどそれだとコジマがマズイ……邪魔だし殺せないかな?


「中隊集合ッ!!」


 タンクトップ姿で十二人が神宮司教官の前に整列する。
 僕の中でこの人はかなり好感度が持てる、少なくとも教官って立場で要人組のような人間だろうと教導する立場として色々と知っている筈。
 おそらく僕の経歴についても知っている筈なのに訓練などでは手を抜かず、要人相手だろうとまってく容赦のない訓練と座学。
 だけどそれだけ真剣かつ公平な姿は教官役として理想で今日までがお試し期間だとしても決して無茶はさせず限界ギリギリの測定をしていた。
 訓練を受けている身だから解るけど鬼教官の恐ろしさと一緒に、名教官として相手を知り知ったうえで色々と出来る柔軟性がある人。

 間違いなく逸材って言えるし、これでノーマルの腕も中々とコジマが褒めるんだからよっぽどだね。

 美人だしスタイルが良いし……一度だけ会った事のあるセレン=ヘイズに何処か似ている気もするから。
 だからコジマも眼を掛けてるのかもね、コジマにとって彼女は全てと言える人だから尚更面影を追ってるのかもね。


「分隊分けを発表する―――A分隊は涼宮・柏木・築地・麻倉・高原・ウォルコットの六人・分隊長は涼宮・副官にウォルコットが付け」


「はっはいッ!」

「承知しました神宮司教官」

 あの涼宮って子は自分が分隊長を任せられるのに驚いているらしい。
 確かにリリウムの方が体力・座学共に優秀だけどリンクスは元々単独で戦う兵器で、指揮とは無縁の存在だ。
 それに対して涼宮って子は周りを見られ明るくて接触し易いのに加えて努力家と思える一面があるのも要因だと思う。
 分隊長は難しい役職で色々とする必要があって優秀すぎて接触し辛いのに対して、平均的で親近感も湧いて接触し易い方が隊員も楽だ。
 そこに努力家な一面が加わって仲間と話し合ったり、色々と独力で頑張り引っ張れる奴なら仲間も付いて行き易い……そこまで考察してたら凄いな教官。 
 それとなんと言うか本当にバランス良くと言うか……リリウムを除けば一般人で構成された部隊になっている。
 まぁそうしてくれた方が少なくとも要人五人に接触されて親密になられるのも回避出来るけどさてどう邪魔するべきかな?
 理想としては訓練中に不慮の事故で死んで貰うのなんだけど、後ろに大企業がついてるのに加えて相手はウォルコット財団のご令嬢。
 メルツェルとコジマの情報操作と相手が王小龍がコジマに会わせる為に色々としなかったら間違いなく要人組に接触していた。

 あの世界でも改革者として優秀な実績を誇るコジマには色々と縁談があった。

 多分この世界でもリリウムとくっ付けてBFFに取り込むつもりなんだろうけど、コジマは30歳って戸籍にしている。
 それが17・18の少女に手を出すとなれば世間体は大変な事になる……流石にコジマはそれを良しとしないから断固反対するだろう。
 メルツェル曰くそんな感じらしいけど―――お世辞にもリリウムの体格は成長してないから安心だと思うけど。


「B分隊は榊・御剣・彩峰・珠瀬・鎧衣・クラースナヤの六人・分隊長は榊・副官にクラースナヤが付け」


「はいッ!」

「了解しました教官」

 こっちは予定通り要人で固められた部隊で出自もかなり濃いが、能力面でも向こうのように安定していないのも少し厳しい。
 涼宮のようなこの一週間で見た範囲でラスターのように良い方向へ転ぶ器用貧乏もいなければ、悔しいけどリリウムのような文武共に優秀過ぎる人選もいない。
 一人一人が何かに特化したような感覚で擬似オルカのようなモノでとにかく特化しすぎる面々を繋ぐバランス役がいないのは少しな。


「この一週間で貴様等がどれだけの能力を持つのか理解させて貰った……が貴様等同士が自己紹介をしているとは思っていない
 これからの訓練は分隊単位での懲罰などが課せられていくようになるッ! 仲間の能力や特徴を把握しないのは愚の骨頂だッ!
 それにこの一週間で疲労が取れる様な身体にはなってないだろう? 自己紹介の時間で少しでも体力を取り戻す事、良いなッ!」


「「「「「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」」」」」」


 ようやく接触の時が来た。
 A・Bの分隊で分かれるように円陣を組み、訓練場のトラックの一角に座り込む。
 おそらくこっちの事情を知る神宮司教官の配慮……正確に言えば露見を嫌がる上層部と言うべきかな?
 おいそれ要人の娘です、なんて言われればやっぱり連携や付き合い方に差し支えが出るだろうし仕方ないよ。


「まず分隊長になった榊=千鶴よ、まだまだ訓練も始まったばかりの任命だけど任された以上はしっかりこなすわ」


 凄く大きな丸眼鏡をつけた長くて明るい茶色髪三つ編みをした子……その眼鏡って訓練の邪魔じゃないの?
 この一週間の訓練で見た限りだと文は優秀で武はそれなりで努力家と言うか少し硬い感じがするので分隊長に就任か。
 あまり硬すぎる思考だとここ一番の情勢に対応出来なかったりするから、分隊長って役職で柔軟さを身につけて欲しいのかも。

「じゃあ順番に副官のハリから」

「あっ僕は締めで良いよ、言い慣れない人が来ると詰みそうだしね」

「でもここは順当に……」

 あっ、やっぱりお堅いタイプだ榊って。
 言い合いになりそうな予感がしたけど……


「彩峰=慧……よろしく」


 黒い髪を肩口まで延ばして……一番胸の大きい子の彩峰がサラッと何事も無いように紹介する。
 この一週間だと文はそれなりで武はかなりだ、多分軍隊格闘術を教わっているからか体力も中々あって頼れると思う。
 でも自己紹介が淡白すぎるなぁ―――こういう時はもっと触れ合い易いように嘘でも色々言うべきだろう。
 本当は一週間の間に本当は接触しておきたかった相手なんだけど眼鏡のお兄さんが監視してたりするから接触出来なかった。
 少なくともコジマから釘を刺されたのか知らないけど少しは見なくなった……本当に少しだけだけど。

「まだ私とハリが話してる途中でッ!」

「後が止まる?」

「詰るの間違いじゃないの?」

「ご名答?」

「なんでお互い最後に疑問風になるのよッ!」

 そんなに叫ぶと喉が枯れるよ榊。
 あと人を指差さない、失礼だよ。


「「……お堅い」」


 何でか凄く彩峰とは息が合う。
 それにお堅い榊をちょっとカラカウのって楽しいなぁ、こう振り回されてる姿がなんとも言えないね。
 癇癪寸前の如くムキー!!としている榊を見て彩峰と黒い笑顔を浮かべあう。


「いき合わせないッ!! もぅ次よ次ッ!」


 あっ規律に煩そうなのに飛ばした……あぁ仲悪くなったかな?
 彩峰って規律に疎そうだし、なんとも言えない不思議な感じやソレを演じている感じがあるし。
 とりあえず悪ふざけを続行するよりも早く次に流された、うん榊は少しだけど成長したよ。


「……なら次は私だな御剣=冥夜だ、剣道を少々嗜んでいる、よろしく頼むぞ」


 バッと強引に振られながらも御剣は冷静に自己紹介をすませる。
 文武共にそれなりに優秀で、体力では彩峰と良い勝負をしているから頼れるかも知れないかな?
 紫髪のポニーテールに胸は大きい方で、剣道や剣術を嗜んでいるらしくやっぱり立ち振る舞いに型がある。
 真改やコジマのアンジェ流を出汁に接触しようとしたのに、妙な四人組が交代制で監視しているので気になってしょうがない。
 御剣も剣術なんかを嗜んでいるなら気付いているだろうし、時折曲がり角なんかを睨んでいるから気付いているんだろうね。
 コジマ曰く『護衛』らしいから多分剣術の宗家の家柄なのかも知れない……夜中に真剣を振るっていたしそうなのかも知れない。
 しかし人の事を『そなた』とか『頼むぞ』とか、真改やラスターのような似非じゃない本物って良いなぁ風流があるよ。


「たっ珠瀬=壬姫ですッ! 運動とか苦手ですけど頑張りますッ!」


 顔を真っ赤にしながら……凄く体格も胸も小さな珠瀬が自己紹介をする。
 リリウムと良い勝負をする幼児体型でどうやってセットしてるのか解らない猫の耳のように固まっているピンク色の髪。
 文はそれなりだけど武が壊滅とまでいかないけど酷い、体力では207訓練中隊だと最低レベルだから確かに足を引っ張りかねない。
 だけどそれを皆でカバーしていけば良いだけの話だし、それにそういった皆を繋ぐ役目を終えるのはそうそういないからむしろ頼もしい。
 出来れば険悪にならない程度に失敗しては皆でフォローしていくそんなチームの緩和剤的な存在であって欲しいのは贅沢かな?
 あと本人は気付いてないのかも知れないが呆れるくらい視力がある……リンクスでもないのに下手な距離でも相手を判別している節があるから恐ろしいね。

「珠瀬大丈夫?」

「みっ壬姫は平気です」

「顔を真っ赤にして眼をグルグル廻しながら言われても説得力ないよ?」

 もぅパンク寸前な珠瀬を少しカラカッテあげた。
 グルグル今にも倒れそうな珠瀬を榊が支えてあげ、珠瀬も少しずつ落ち着き始めていた。
 うん好印象だね榊、そうやって部隊員のサポートがしっかり出来る様になれば立派な分隊長だと思う。


「ボクは鎧衣=美琴ッ! 父さんから習ったサバイバルには自信があるしそれから榊さんみたいにクラースナヤさんを下の名前で呼んで良いの?」


「僕は構わないよ、これから一緒に戦っていく仲間なんだからフレンドリーにいかないとね、早速だけど美琴さ?」

「んっ何々なんですか?」

「……女の子だよね? 正直男の子にしか見えないんだけど」


 この美琴は珠瀬より胸がない、誹謗中傷風に言えば『まな板』でしかもボクと自分を言ったり背丈も珠瀬と似た者同士。
 明るい青髪のショートカットだから余計男の子に見えてしょうがない……いやこういうのも物珍しさがあって良いけど天然体でこの体型ってのも珍しい。
 文武共に平均より少し上程度だけどナイフの扱いやサバイバルに関する知識や動物関係に非常に優秀で、下手な人間よりよっぽど知っているかも知れない。
 それに凄く接触しやすくてフレンドリーだし仲良くやっていけそうと思わせてくれる感じが滲み出ていて、彩峰のように仲良く出来るかもしれないかな。

「酷いよハリッ! ボクだって御剣さんや彩峰さんみたいにボインボインのムチムチになりたいのに、気にしてるのにッ!!」

「そうですよッ! 壬姫も今のは酷いと思いますッ!」

 何故か体型の話題で復活した珠瀬が意気揚々と指摘し、ヨヨヨともたれ掛かる美琴に肩を貸しながら厳しい眼をしてくる。

「うむ、クラースナヤは女子に対するデリカシーと言うモノがなさすぎるな」

「……内部摘発者?」

 両腕を組みながらこちらを睨んでいる御剣だが、そのバストサイズで両腕を組むと余計に胸が目立つ。
 現にこっちを見ているから気付いてないのか珠瀬が凄く羨ましそうに胸を見ているけど……気付こうよ。
 そして彩峰そのたとえはちょっと違うと思うよ? 内部摘発者ってなんか凄く違う気がするんだよね。
 それに警戒してますと言いたいばかりに構えないで欲しいな、絶対そっちだって思ってた事を代弁しただけなのに酷い。

 ここは分隊長に副官から内部抗争を止めるように救援要請しよう。

「榊、副官の立場が凄く危ういから救援を」

「えっなっ何よクラースナヤ」

 ……下の名前で呼んでたの指摘されて今更直さないでよ。
 それと男の名前を下で呼んだ位で顔赤くしないでくれ、僕としては名前で呼んで貰えるだけで嬉しいんだし。
 僕は君達のように”天然体”じゃなくて”人工体”の形式番号で呼ばれる方が多かったんだからさ。

「ここは美琴に続いて皆で下の名前で呼び合おうよ分隊長? それとも毎回クラースナヤなんて長ったらしい名前呼びたい?」

「そういうのはどうかと思うわ、いきなり相手の事も知らずに下の名前で呼ぶのはむしろ不快に思われる可能性もあるわ」

「だからこそ今の内に呼ばれる事になれて連携出来る様に呼び合うべきだと副官として進言してる、あと身の上話をする必要も申請する」

 名前の件は別に譲っても良いけど、身の上話はなんとしてもさせなければならない。
 仮にもメルツェル達から引き入れるように言われている相手の事を知らずに親密になるなんて不可能だし、これからの訓練にも差し支える。
 榊の顔がかなり渋ってるのに加えて、御剣や彩峰達も同様にかなりするべきかしないべきか悩んでいる顔をしていた。
 仮にも要人の娘である事を自認しているだけあって公開すると逆に訓練に差し支えて、仲間との間隔を開かせてしまわないか悩んでるんだと思う。
 だけど正規兵になって命を預ける相手が自分の事を語らない、踏み込む事を拒絶するのは逆に仲間から違和感や反感を抱かれかねない。

 特に僕達は顔をこれから嫌と言う程に見合わせていくのだから余計に―――ね。


「……分隊長として必要ないと判断するわ」

「私もそう判断させて貰う」

「二人に同感」

「みっ壬姫は……え~っとその」

「ボクは問題ないと思うけど?」


 反対3・中立2か。

 メルツェル達から教わった榊達の出自を公表するしかないのか。
 ふと御剣の視線が泳ぐので後ろを振り向いてみるが……やっぱり居るよ地上寮の屋上からこっちを狙撃する姿勢で。
 他の面々が気付いてないようだけどあいにくと後ろから撃たれる経験は多かったから『なんとなく』で見えるし把握出来る。
 そんなに監視をつけないといけないほど御剣は名家の出身なのかな? いい加減イラついてくるんだけど。


「副官として、ここは引けない意地でも言って貰う特別なのが自分達だけと思ったら大間違いだよ?
 名前からどういった家系か一週間もあったからある程度は把握出来るし、知る事くらい別に造作ない
 僕はこう見えても色んな情報網を持つ人達を知ってるからね……少しのギンバイを進呈すればすぐに解る
 それにこのままだと僕達はどう努力しても正規兵にはなれない訳だし、まぁ取り下げるならお好きにどうぞ」


 挑発と侮蔑を込めた笑顔で五人を見る。
 ギンバイとは簡単に言えば備品などをチョロマカシタ品物の事を指し示し、この世界では中々の賄賂として機能していた。
 それはあの世界でも言えた事でほんの少しでも相手の要望に答える物を盗み出し進呈すれば口など容易く割れる。
 少しばかりの天然酒をチョットした相手に進呈したところ、メルツェル曰く『これ以上ない程に口を割った』そうだ。
 ある程度の情報……この瞬間の為にメルツェルから叩き込まれた情報を記憶回路から取り出し明確な言葉に代えていく。


「榊は首相の娘・彩峰は名将彩峰の娘・御剣は帝国剣術宗家の娘・珠瀬は事務次官の娘・美琴は帝国贔屓の貿易会社課長の娘
 苗字だけ見たり聞けば大抵の人が連想出来るよ……そして要人の娘達がここにいる理由は安全な場所で安全に過ごさせる為
 本当に良いよね君達は? そんな風に護ってくれる人達がいて護られる日々があるのに対して僕はチョット出自の暗い程度の人間
 別に受かりたくないなら本当にそうしてれば良いし、帝国上層部の過保護な方々としても胃潰瘍の原因もなくなって非常に万々歳だね」


 飄々と振舞う。


「そこまで我々の事を知っているならば聞きたい」

「なにかな御剣?」

「正規兵になれないとはどういう事だ? いかに我々が要人と言えどむしろ長期滞在させ続ければマズイものがあるのではないか?」


 自分の出自を考えてそれを言って欲しいなぁ御剣。
 それに気づいてるでしょう? 五人ばかりの護衛兵が常に穴が開きかねない視線でこっちを見ている事くらい。
 ついでにこっちを何らかの手段で盗聴しながらいざとなれば狙撃して僕を殺害する事くらい辞さない連中だって。
 帝国でも選別された人間だけが学べるらしい【無現鬼道流】の宗家の娘たる御剣は帝国から見れば大切な宝だろうね。
 監視役があれだけいれば必然的に納得出来るし、同時にこれだけの人選が国連に来ていると言うのはソレを対価に何かしていると言う事だ。

 もっともそれを考えるのは僕じゃない、考える必要もないし……そう設計された訳でもないからね。

 元々僕は殲滅用に開発されたリンクスなのにこんな事をさせるなんて、メルツェルやコジマも無茶が過ぎるから嫌いだよ。
 さっさと実戦配備してくれれば嫌でも活躍するのに外交なんて面倒な事をさせてさ、嫌になるよ本当に。


「じゃあ帝国内部で起きた派閥抗争は知ってる? 彩峰中将の真実を知らない人達が密かに色々と動き回っていた事とか
 つい先日まであった帝国内部での派閥抗争に伴う粛清と内乱の醜い現状って奴については、どきまで知ってるのかな?」


 さぁ食いつけ彩峰……敵前逃亡の汚名の元に死んだ父親の事件に真実がある。

 そう言われて食いつかない訳がない、そうコジマからもお墨付きを頂いたのだから。


「真実って何ッ!? お父さんの事件にあった事ってなにッ!?」


 彩峰に首を絞められる……死ぬ死ぬ死ぬよ彩峰。
 あぁ視線を落とすと女性として魅力の谷間がタンクトップから覗く、ちょっぴり男冥利に尽きる事態だけど死ぬ。
 と言うか胸がデカイだけなら施設暮らしの時にジュリアスのを堪能させて貰ってるから耐性が付いてるんだよね。

 そんな首を絞めてくる彩峰を珠瀬が懸命に宥めてくれる。

「あっ彩峰さん落ち着いてくださいハリさんが苦しそうですよッ!」

「あっ……ごめん……でも教えて、お父さんの事件の真実ってなに?」

 落ち着いた彩峰がゆっくりと離れてくれ、全員の視線が僕に集中している。
 帝国の要人とだけあってこの話題には食いついてくるって自信満々に言われてたけど、流石はメルツェルだ。
 その先見や世界屈指だけあるよ……それをもう少し色恋沙汰に使えば良いのに勿体無いよなぁ。


「光州作戦の戦場は予想以上に道路整備が出来てなくて避難民の撤退・収容に市民の反対もあいまって困難だったらしい
 そして戦線はどんどん押し上げられついにBETAの群れが現地市民を捕捉し、護衛部隊は窮地に追い込まれ支援要請をした
 だけど同時に前線も非常に苦しい現状でどの部隊もその救難信号に応答する事が出来ず苦い思いをして矢先に彩峰中将が呼応
 汚名上等の如く避難民救援に向かい、多くの部隊がこれに便乗した所為で前線は崩壊し国連軍は膨大な被害を被ってしまった
 当然国連軍は中将の身柄を要求して来るが榊首相と当時の上層部は……板挟みかつ窮地に追い込まれてどうするべきか奔走する」


 かいつまんだけど、コジマ曰くこんな感じらしい。
 人命を優先した結果として軍部が大被害を受けてしまう、人としては最善でも軍人として落第だった人物。
 でも優秀で多くの人間から慕われ頼られて光州作戦まででも立派な指揮官として君臨して分、余計に混乱してしまったのだろう。
 銀翁が相当愚痴ったりその結末があの味方撃ちに発展するのだから禍根と言うのはあまりにも深く根ざしていたんだろうね。


「中将の身柄を優先すれば帝国は世界から孤立し、支援物資は打ち切られ多くの国民達が迷走と混乱の境地に立たされる
 将兵から信頼厚き中将の身柄を引き渡せば軍部で大混乱と最悪クーデターが起きて帝国軍が崩壊するかもしれない
 だからお……首相はあんな決断をした……でもそんなオカシイッ! 人命を尊ぶ兵士として最善を尽くした人を敵前逃亡にするなんて!
 その所為でどれだけの人が迷惑して混乱して、それにならどうして脱出した現地市民や帝国内部だけでも公開されなかったの!?
 そうすれば最低でもそのクーデターや今でも忠節を誓ってくれる人達が妙な事をする事もなくなんとかなったかも知れないのにオカシイわよ」


 実の娘である榊は信じれないとばかりに拳を握り締め、苦しそうに言葉を吐き出す。
 父親って子供から見ると尊敬の念を抱かせる存在であるモノが……そんな決断をして情報すら遮断してしまった。
 結果として帝国内部は大規模な奔走に見舞われると同時に現政府への不満などが爆発こそせど時期を待ち続ける。
 そんな事態を招いてしまったそうだから銀翁の苦労も理解出来る、ようは身内に敵が出来てしまったのに証拠がないので始末出来ない状態なんだろう。
 一番憤慨したい彩峰が沈黙しているのだからと、まだ全てを話し終えていないので榊の発言を切らせて貰い続きを話す。


「……公開すれば中将の犠牲が無駄になってしまうかも知れない、内部の爆発を抑える為に真実を闇に葬ったのだからね
 でもそれが結果として一部上層部などを除いた人間以外の誤解を招き、中将は敵前逃亡の反徒として名を残し首相は汚れ役を買った
 BETAの脅威を目の前に孤立しない為に汚れる道を選んで、当時若かった殿下に汚名がいかないように…国が壊れてしまわないように
 だけどソレが帝国と世界の垣根の元凶になり、アメリカの砲撃による膨大な被害を決め手に国連と帝国の隔離が決定してしまう
 敵を撃つ軍人として失格でも彩峰中将は人命を尊ぶ人としては立派だった……それが内部の派閥抗争や不穏分子に繋がるなんて皮肉だけどね」


 話し終えた。
 あとはこの要人達がどう解釈して、どうしていくか次第だね。
 僕に出来るのはそこからどうしていくかを聞いて補佐してあげる位だし、全員が努力しないと正規兵への道はあまりにも遠い。
 どうせ試験にも圧力の一つや二つ来るらしいからどう対抗するかコジマ達もかなり悩んでるらしいし……こっちも頑張りたい。

「これが僕の知る限りの光州事件の真実……少しばかり欠落してる部分はあるかも知れないけど」

「どうしてそなたはそこまで知っているのだ? 私達ですら知らない、おそらく帝国内部でも極秘事項の筈だというのに」

「言っただろう? ギンバイしたって、ギンバイってのは備品なんかを盗んで進呈する賄賂みたいなものだよ
 真実を闇に葬る過程で姿を消した人に少し友人を頼って聞いて貰ったら、全部話してくれたらしいから
 『中将の愛娘に真実を伝えたいから』って言ったら謝罪に泣き崩れながら言ってくれたらしいよ……良い話だね」

 おそらく一番問題になるだろう事はクリア出来た筈。
 あとは本当に周囲次第だ、僕は別に気にしない人間だし最悪訓練に落ちてもコジマに拾って貰えるから安心。


「それで分隊長? もう隠す必要もないと副官として進言するよ、巧くバラさせられたしね」


 慣れない事をした所為で凄く疲れた、やっぱり僕に政治的な動きは無理だよメルツェル。
 でも本人はなんとしてもこの基地の副指令をオトシテクルって凄く躍起になってウォッカ進呈しに行った。
 コジマはなんでも好意を寄せられている女性がいるらしく、その人が教官らしいから巧く答えようとはしているらしい。
 結局こうして接せれるりは僕だけでこれからもこんな苦労をさせられていくとなると…結構シンドイよ。


「……もう解ってると思うけど榊首相の娘の榊=千鶴よ、私はお父さんとは違う道を選ぶ為にここに来てる
 私は衛士になりたい、衛士になって多くの人達を救いたい……だから私に力を貸して欲しい私も出来る限りの事をする
 それと彩峰―――私が謝っても決して赦されるようなものじゃないと思うけど、ごめんなさい父を赦してあげて」


 榊は彩峰に頭を下げるけど、結局彩峰はあの話の間一度も発言してない。
 衝撃だったのか信じられないのか信じたくないのか……とにかく彩峰の表情を窺う事が出来ない。
 でもこうでもしなかったら実戦段階になってこの事実を明かして衝突するような事態になったら眼も当てられない事態が来る。
 それを回避する為にメルツェルはこの段階での公開をさせたんだろうけど、メルツェルの先見も万能じゃないんだよね。

 博打だと意外に良く外すし。

 ここに来て初めて彩峰の唇が動いた。


「きっとお父さんはこの事実を知ってる人がいてくれて、助けたい人を助けられて満足してたと思う
 むしろお父さんの無茶の所為で死んだ人や迷惑をした人に対してあやまらないといけないと思う
 だから榊があやまる必要なんて……多分ない? いやきっとない? それとも確実にない……かな?」


 うぅぅぅん、どうせならもっと罵倒なりなんなり飛んでくれた方が良かったんだけどチームとしてはこれがベストかな。
 僕もホッとしているけど御剣や珠瀬・美琴もホッとしているようでとりあえず一番問題になりそうだったこの二人の問題は解決かな?
 もし騒動になったらなったで二人を融和させようと奔走して人物評価を上げたり、二人と仲良くなったりするように言われてたんだけど。
 まぁメルツェルの先見も、たまにはこういう風に良い方向に外れるのもありだよね。

「……ありがとう彩峰」

「さてさて因縁にもケリがついたから次は彩峰ッ!」

 仲良き風景に……巧く行き過ぎている気がする事に違和感を感じながらも安堵させられる。
 そのまま手を叩いて次に自己紹介を強引に流す、このままだと他の紹介が出来ずに終わりそうだし。


「彩峰中将の娘で彩峰=慧……今でも色んな人から心配の手紙が来たり家に来てたりしてる
 だけどハリの真実を聞いて少しだけ前を向ける気がする―――急には変われないけどね?」


「疑問で締めるなよ違和感あるなぁ」


「そこはご愛嬌」


 ハハハと皆で笑う。
 やっぱり慧とは巧くやっていける気がする、気が合いそうだから。
 でもそれが【=】でオルカの肯定者になる訳じゃない、むしろ父親の関係から僕達の敵対者になるかも知れない。
 綺麗事の多いこの日本帝国は僕達のような異端者を肯定するように人は多くないだろうとメルツェルも踏んでた。
 ……せっかく仲良くなれそうなのにちょっと残念かな?


「帝国剣術【無現鬼道流】宗家の御剣=冥夜だ、宗家の血筋として恥じない剣術を持ち皆の力になりたいと思う
 私もこの国の民と日本帝国と言う国を護りたい……その為に衛士になる故に皆の力を貸して欲しいのだ頼めるか?」


 『もちろん』と全員が力強く言葉を返す。
 御剣の言葉は宗家の誇りというのがあるのか知らないけど、不思議とこっちを引き込み納得させ力強くしてくれる。
 まるでテルミドールの出撃前の演説のように不思議と力の湧き出る言葉で聞いていてあまり不快にならないのも不思議。
 テルミドール辺りに差し出して旅団長の後継者にして貰うのも悪くないかもね……呪いの如く他者を惹きつけるんだから。


「事務次官の娘の珠瀬=壬姫です、皆さんのように体力がある訳じゃないですけど足を引っ張らないように努力しますッ!」


「うん僕から言わせると珠瀬は眼が凄く良いし、集中力もあるから射撃関係で皆お世話になると思うよ」

「そうね、この一週間でも一度集中しだすと凄かったしすぐに追いつけるわよ」


 まだ訓練一週間と言う事で銃火器には触らせて貰っていないから解らないだけだ。
 座学で見せた集中力は凄いからすぐにこっちに追いついてこれると思う……あとは。

「上がり症を克服しないとね」

「ここ一番で茹蛸になると大変ですからねぇ、壬姫さん髪の毛が茹蛸みたいにひん曲がるかも」

 慧はともかく、おい空気読めそこのサバイバル。
 なんで茹蛸なんだよ……西洋人にとってタコは悪魔の使いなんだよ例えたら可哀想だよ。
 あぁでも日本にはたこ焼きって料理があったりお刺身で頂くくらいだからなんともないのか、うん流石サバイバル美琴。
 いつか貿易商のお父さんにあって天然物を用意してもらえないかな? 出来ればお菓子物の天然とか特に。

「ゆっ茹蛸って……壬姫ってそんな真っ赤ですか?」

「茹でた海老・カニの如く真っ赤だね、少しずつ直していかないとね」

 『ハウハウ』言いながら両手で顔を隠す壬姫。
 うぅぅぅんやっぱり狙撃関係に向いてそうだからブッパに会わせると良いかも。
 男日照りのヤモメ暮らしのオルカに少し位女の潤いがあってもバチは当たらないだろう。


「じゃあ帝国ご贔屓の貿易会社課長の娘の鎧衣=美琴ッ! お父さんから教わったサバイバル技術が自慢です
 でもボクのお父さんは普通の課長なのにどうしてこんな要人ばっかりの集まりにいるんだろう?」


「実は課長ってのは嘘で本当は社長なんだよ美琴ッ!」

「なんだって~~」

「超棒詠みだね」


 また皆に笑いが込み上げる。
 美琴はムードメーカーって言う周囲を結び付けらたり、雰囲気を和ませられる素質があるのかも。
 でも人の事を茹蛸と言ったりしたりと結構グサリとくるような発言はキツイよなぁ。
 真っ向から罵倒されるのは慣れてるけどこぅ意外な一撃ってのは結構堪えてしまうんだよね。


「さて締めにハリ=クラースナヤだけど、僕は脊髄関係は機械で強化されて薬品付けの強化人間なんだ
 施設難民で明日の食い扶ちにも困ってた矢先にBETAに襲われ両親は胃袋に納められて僕は瀕死の重傷に
 僕は生き延びる為にその道を選ばざるを得ず、そして今回の訓練で正式配備になる為にここにいるって訳だよ
 簡潔かつ要約すると僕は強化人間で戦う為に色々と弄くられた哀れな子供その1で君達とは別の意味で重要なんだ
 正式配備に到るまでのデータを元に後継機が頑張ってくれるだろうし、正式配備で活躍すれば身体の修理の目処も立つし」


 さらっと流れを崩さないようにメルツェルから教えられた偽造履歴を思い出し、笑顔のまま流暢に話す。
 まぁあながち強化人間である事や(研究)施設育ちは嘘じゃないのに加えて、この身体はジョシュア=オブライアンの複製品。
 元々皆のように父親と母親の愛の結晶なんて比喩を受けられない……冷たい試験管の中で生まれ育った人工生命体。
 頭の中にある記憶回路のほとんどが戦闘に関する知識で埋め尽くされていて僕自身の記憶なんてそんなにない。

 特に根深く残っているのはPTネクストを駆っている”俺”と対峙するアナトリアの傭兵の姿。

 そして一人の女性の―――”俺”の名前を呼ぶ多分お母さんの笑顔だと思う鮮明な記憶。

 それが僕と”俺”であるジョシュアの複製された戦闘関係の記憶に残るモノ……遺体から回収出来た最後の記憶。
 少し目付きが悪くなった所為か、あるいは用意された悲劇のエピソードを語った所為か皆の目が険しい。

「そなたにそれ程の暗き過去があろうとは……我々と同じ特別な人間と言う事か」

「まぁね、僕の異様な能力も薬品付けによるモノだから欲しかったら研究施設に紹介するよ?
 もっとも……この改造を受けた素体の平均寿命は30・40が限界らしいからそれは覚悟してね」

 僕にとってこんな事は苦にならない、今はメルツェル達が居てくれるから。
 それにこの特別があるから僕は皆と出会えている……まぁメルツェル達のような親愛なる人になるかはまだ解らないけど。

「あぁそれと皆の事は下の名前で呼ぶからそれはよろしくね」

 そうしている間に神宮司教官から召集命令が発令され、少しは晴れた気分で仲間になれたと思う。


「今日の訓練には光州作戦などの激戦を生き抜き剣術などでも優れた実力を持つ古島=純一郎中佐が見てくださるッ!
 貴様等は中佐の開発した新型戦術機を乗りこなす者達として厳しい訓練をする……恵まれた世代などと陰口を叩かせるなッ!」


 国連軍服の上に白衣をまとうコジマの異様さは相当なモノだ。
 だが服の下から覗く鍛え上げられ引き締まった身体はリンクスである事を示し、同時にその頭脳には無数の知識と情報が詰め込まれている。
 僕のこの世界で取れたデータを元に製造された脊髄改造とAMSを使っているのにまったく負傷や障害を持つような仕草はない。
 ”完全体”と呼ぶのは早すぎるかも知れないけどコジマの知識ならここでも必ず何かしらの改造や対処方を考案している筈。
 PTネクストや劣化ノーマル・劣化ネクストを有澤重工と結託し世界に先んじて投入する事を可能とさせた屈指の知識を持つ優しいリンクス。
 さてリリウムとの接触だけど―――どうなるかな?

 現にリリウムが発言許可を求めていた。


「なんだリリウム=ウォルコット?」


 コジマの前に立ち貴族の令嬢がするドレスの裾を持ち上げる仕草を流れるように行うリリウム。
 流石はウォルコット家の令嬢貴族で英才教育を受けていたというだけあって慣れている。
 僕は知っているから驚かないが他の面々は相当驚いている節が見える、話しても信じられなかった口かな?

「お久しぶりです純一郎様……早速ですがBFFの王大人より『改革の叡智を我々BFFの元で揮って欲しい』と言付けられています
 BFFはアメリカのGA社と深い関係にあり財力・人材共に豊富でこのような場所で燻るべきではないと重役の方々が仰られていました
 ウォルコット家も戦術機革命と新世代戦術機をもたらした純一郎様に期待し欧州奪還の為にお力と開発者の血筋をお借りしたいと考えています」

「仮にも純潔の日系人に祖国で燻るなとは―――煽りも度が過ぎると考え物だぞリリウム」

 コジマの冷ややかな視線と明らかに怒っている声がリリウムに突き刺さる。
 あの世界でもウォルコット家はリンクス戦争で没落したが、リリウムのそのリンクスとしての素質とBFF重役の寵愛で立て直した。
 そこに様々な改革技術と案件を持ちアサルトセル掃討や宇宙開発に尽力したコジマの血筋を取り込もうと様々な企業が縁組を行う。
 それに全部出席して全部丁寧に断ったコジマの実力と言うか甲斐性のなさと言うか……コジマは皆跳ね除けてしまうという暴挙を起こす。
 企業の明確な意思が見えすぎるのに加えて何処かの女性を取れば何処かから命を狙われかねない状態ってのもあったかも知れないからだけどね。


「ではそのように伝えておきます……そしてここからは純一郎様を”あの日”からお慕いする一人の女性として言います
 苦しい道にいたリリウムに今一度立ち上がる力を下さった純一郎様のお言葉と私だけに見せてくれた”あの日”の笑顔
 未熟なリリウムを撫でてくださり優しさをくださり政争からお救い下さったご恩と共にこの想いを忘れた日は一日もありません
 いつか、いつか必ずリリウムは一人の女性として純一郎様を振り向かせ見せます、それが子供ではない私の戦いなのですから」


 神宮司教官の顔が固まってる。
 ふと視線を隣に向けたりしてみれば周囲の女性陣はあまりにも真っ直ぐな言葉の所為か神宮司教官同様に固まっているようだ。
 リリウムの表情は窺えないけど多分かなり綺麗な顔でコジマを誘惑しながら言葉をあれだけ連ねられるんだろう。
 様々な場所に出て色々と喋る立場であった事もあって流石と言うか……恋する乙女の恐ろしさを心神に感じさせる言葉の連続。

「……全員10kgの装備を背負って30km走れ」

「ちっ中佐?」

「今すぐ10kg分の装備を背負い30km走れッ! 今すぐにだッ!! あまり遅いと飯がなくなるから巧く分隊内で連携を取れ
 仲間が負傷したと過程して背負ったり装備の譲渡も許可する、分隊結成直後にこの訓練は厳しいだろうからな……連携の連の字もない状態だからな
 せいぜい迫り来る夕食の時刻に怯えながら懸命に走る事だなッ! 貴様等が合格した暁には私の開発した新型に乗って貰うのだから頑張って欲しいものだ」

 うっわぁぁぁぁコジマが本気で”黒い”よメルツェル。
 これって絶対に僕のアレが成功前提で計画してたよこの人……良かった成功してて。
 僕は多少絶食しても問題ないけど美琴や壬姫辺りは食べられないと本人達が望んでいる膨らみも手に入らないだろうし。 
 御剣・榊・彩峰は新型機に乗れるかも知れないと言う真実に凄く燃え上がっている、ヤル気の炎が眼がはみ出しているように見える。

 一部は装備+30km持久走+制限時間付きに絶望しているようだけどご愁傷様だね。

 本当にゴメンね特に一般人集団のA分隊。
 日本語を知りすぎてると何か色々と言えたりするからかえってマズイ気がする……英語で誤魔化せそうなのを言いそうになるから。
 すぐに神宮司軍曹が命令を復唱し、用意周到に用意していた10kg分の装備が入ったリュックを背負いその場でトラックを走る事に。

 ふと横目でコジマを見てみると真剣にこちらのペースを図っている。
 対する神宮司軍曹は時折コジマに視線を移したりしながらだがこちらのペースを図ったりしている。
 うんやっぱりセレンに似ているけど、そんなにあのリリウムの言葉が響くものなのかな?


「おらキリキリ走れッ! そのペースだと全員食堂のおばさん達にシバキ上げられぞッ!!」


 結局この日は横から飛んでくるコジマの罵倒を鞭代わりに全員が潰れるまで走らされる事となった。
 とりあえず潰れた面々を背負ったり装備を分担して走ったりと色々と確認させられたけど問題ないだろう。
 食堂のオバサン達は事前に潰れて間に合わなかった事態に備えて色々と用意してくれていたので207訓練中隊全員が感謝する事になる。

 その配慮が神宮司軍曹とコジマの配慮って事を知るのは当面後の話だけど。

 あと


「貴様等訓練兵に個室があてがわれるのは今日が最後だ、こちらが指定した大部屋で分隊単位でせいぜい狭い穴蔵を堪能するんだな
 あぁ言っておくが文句を言うのは中佐と国連・帝国両軍の開発部を相手にする覚悟と努力があるなら……墓場に行きたいなら言え
 強大な権力と暴力に屈服しないなんて幻想なんぞ粉微塵にぶっ壊してやる、せいぜい地獄への片道を謳歌する事だなハーハッハッハッ!」


 コジマ……演技に浸るのも良いけど支離滅裂って言う事態になってるよ。


 視点:お茶会

『―――これが本日の報告だね』

『ご苦労さんハリ、どうやらメルツェルの先見も良い方向に狂ったな』

『そうだな……私も未来が見える訳では無いのだよ、何故か香月女史にはウォッカ以外でも随分と好評だったんだが?』

『意外に初手から巧くいって脈ありって奴なんじゃないかな?』

『……さてどうだろうな? あの魔女は手強いぞ(自分にとって最善の未来を選択出来る素質は”00”の必須だからな)』

『どうしたコジマ?』

『いやなんでもない、しかしこうも巧くいくとむしろ不気味じゃないかメルツェル? 仮にも親の仇相手だぞ?』

『そこは私も思う……まるで”誰か”がそうなるように仕向けでもしなければ到底なし得ないような予定調和だ』

『まぁ僕は皆とそれなりに仲良くなったし問題なし、とりあえず相部屋生活は施設暮らしの頃を思い出すよ』

『辛くないかハリ』

『メルツェルは心配性だね……問題ないよ大丈夫任せてよ』

『……なら良いが』

『それと僕も明日の訓練に備えて寝るよ、あまり長話するとこの通信ラジオも怪しまれるだろうし』

『あぁハリ、お前の山猫は用意されているから実戦になったら適当な理由で引き抜くから用意はしとけ』

『了解……この頃戦えなくてウズウズしてたんだよ、あとアスピナに連絡頼めるかな?』

『なんだ? メルツェルと出来る範囲で言え』

『実は記憶装置の調子が少し悪い気がするからアスピナに調整を頼んでおいて欲しいんだ
 ついでに強い調整薬の供給も少し多めに頼んで欲しいんだ、抗体が出来て効き目が薄くなってきたから』

『……何歳まで持ちそうだハリ』

『なんの問題なく50歳かな? 調整とか薬品投与あるなら40歳が良いところかな』

『さっさと寝ろ糞ガキ』

『寝ていろハリ』

『はいはい……心配性だな二人は、簡単に壊れるような”俺”じゃないよおやすみ』

『『おやすみ』』

『なぁメルツェルさっき言った予定調和とそれを造ってる”誰か”心当たりでもあるのか?』

『ない、だがあまりにも仲良くなれすぎだ……神様でも加護しているのかも知れないな』

『―――神ね』

『明日にはアメリカがご丁寧に解体して送ってきた例の兵器の組み立て作業もある、君も寝ろ』

『メルツェルは?』

『もう少し香月博士やオルタネイティブ計画について調査する、それとアラスカの妙な動きについてもな』

『負担を掛けるなメルツェル』

『なに、私の本分はこちらだからな……戦闘はマクシミリアンとお前で私が情報面と言うだけさ』


□□□


 年内間に合ったッ!
 なんでこんなに強引な融和話に死に掛けないといけないんだろう……つか本当は無理です
 正直原作の融和をとっている余裕はコジマにはない、香月博士も承認しないのでハリとメルツェルに頑張って貰うしかない
 でも凄く無茶苦茶すぎるッ! 榊の頭の硬さが出てこないし彩峰のモノ解りが良くなり過ぎてキャラにソグワナクナッテシマウ
 御剣の虚実過去についても苦しいし―――あぁ批判が殺到しそうな話になってしまいました。

 あと公式メカ設定集を手に入れる事が出来ましたッ! クリスマスの金の半分が飛ぶ4500円と高いですけど価値はあります

 今回出てきたギンバイも作者のドツボにはまる小説【整備兵の戦い】で出てきた単語と設定です
 舞台が九・六事件と重慶撤退戦で起きた事件など語られざる物語のパレードと最高ですッ! 本当に買った甲斐がありますよッ!!
 人類の剣を支え、共に剣として戦い続ける整備兵達の知られざる物語
 撤退線の困難さと彩峰事件でも結果として繋がってしまった道路整備などがもたらす軍事行動の支障の詳細などが掛かれてて本当に良いものです
 それと間接の謎が解明されました

 電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)と言うものだそうです

 簡潔に言うと電圧によって伸縮し捻ったり出来る特殊炭素繊維帯だそうです
 柔軟・軽量・強靭の三拍子揃ったゴムの親戚の様な存在らしく、そんな間接機構で転倒しないのも電気信号を受信しない間は最後の伸縮を維持する性質
 これのおかげで戦術機はあの柔軟な動きが出来てなおかつ量産出きるです、肩などの関節は複合機構で代行しているようです
 むしろ武御雷の高級化は装甲の大半がカーボンブレイド装甲だからだそうです、原作では活躍させる暇がなくて明確にならなかった存在らしい
 無論間接系等などの高性能化もあるそうですけど細大の原因はこの全身刃物鎧らしいです、近接特化は装甲まで及んでいたそうです

 さてこれで一年も終わりますけど、来年もよろしくお願いしますッ!

 ご指摘により修正



[9853] 三十話[一休みの夜と朝]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/01/17 14:39
 視点:コジマ

 深夜の机の照明しか点いていない自室でペンを走らせ、端末のキーボードを叩き続け様々なデータを作っては消し、シミュレートしている。
 香月博士が現段階で出来る限りの高性能基板など搭載し改良したセラフがそのシミュレートデータを簡潔かつ要約して報告し、俺はそれに合わせて更に調整する。
 締め切り間際の仕事人の如く栄養ドリンク片隅に黙々と仕事に没頭するのは吹雪・武御雷の更なる新型戦術機化に向けての仕事だがそれ以外にも理由があった。

 それは俺の失念だったとしか言いようがなかった。

 水素機関は水素を動力として動き、そして動いた機関から電力供給を受ける事で光線兵器は使用可能となる。
 日本帝国は島国かつ国土が小さい事で常に水素供給がしやすく、目前のハイヴである【甲21号:佐渡島】も小さな島であり海面に常に接している。
 様々な方法で水素が補給出来て国土が小さい事から補給路・進撃路が確保出来る日本と違い……世界が広く戦局も多様化している事を忘れていた。

 特に占領されているユーラシア大陸は地球最大の大陸であり、同時にハイヴが建造されている位置は湖などの水素供給源にまったく恵まれていなかった。

 イギリスも島国で海峡を挟んでいるので水素供給が可能であり効率の良いが、進撃するとなれば内陸への侵攻となり水素供給率が格段に低下してしまう。
 そしてそれは元々内陸かつ砂漠などの国土が水素に恵まれていないエジプトなどにも言えた事で日本の事ばかり考えて世界国土の事をまったく考慮していなかった。
 戦況が好転した後にオリジナルハイヴなどへの侵攻時もおそらく水素には恵まれない、そうなれば水素機体の戦闘効率が……兵器効率がガタ落ちし窮地に陥る。
 更に水素機体が何百機も同時に戦闘するとなれば周辺空域の水素減少率の酷さは見るまでもなく解る、日本のことばかりで世界を見ていなかった。
 
 浅はかだった、愚かだった―――救いようのない愚鈍さだ。


「水素を満載した弾頭搭載のミサイルは売り出したが限界が有る……だが水素タンクなんて代物を今更開発するのも戦術機に内蔵する余裕はない
 外装型のドロップタンクを改良して水素供給も可能とするべきか? いやあれ一つ背負うだけで兵装担架を二基も消費する事になる
 ハイヴ攻略だと山猫は自重と装備で飛べなくなる事態を回避する為に装備を軽量化するか―――やはりネクスト運用するしかないか
 新型戦術機には出来る限りの粒子対策を施しているがそれで足りるかどうか、それに新型強化装備【一式】の限界もある、あぁ山積みだな」


 水素補給弾頭は名前の通り戦場に日常の間に集めておいた水素を弾頭に詰め込んだミサイルだ。
 これ自体はかなり早い段階で開発し製造に成功しているがこれまで戦場でそうお世話にはなっていない、シミュレーターではお世話になりデータもある。
 外装型ドロップタンクは原作で珠瀬の武御雷が背負っていた大型タンクで、噴射剤の他に様々な化学物質などを搭載し原作で活躍させていたアレだ。
 アレならば大量の水素を内蔵したまま戦闘が可能かつ、新型戦術機ならば担架が四基なので最低でも二つの予備武装を携帯した状態で戦闘に望める。
 元々噴射剤などの薬品関係を内蔵し長期戦闘を行う為に作られた補給ユニットだが……なにぶん戦術機の戦闘時間がお世辞にも長いとは言えない、死ぬからな。
 あと凄まじくアレは”重く”大規模部隊での侵攻なんて足並みの合わせ辛い事になればその重さが命取りになる……凄乃皇に積載するのもありか?

 白銀流ハイヴ攻略戦術はスピード&タクティクスであり、足並みは必須だ。

 原作では五機+高火力要塞の凄乃皇がいるから出来た荒業で、実物のドロップタンクの重量は推力不足の軽量機を一発で積載超過に叩き落す代物で重過ぎる。
 だがネクストに積載するとなればPAとの兼ね合いが大きく阻害しまさか護衛部隊を汚染で皆殺しにする訳にもいかず困難な代物になってしまう。
 山猫ならば積載量・速力ともに充分だがあれば自重が重すぎて長期浮遊できない……数万のBETAが蠢く洞窟で”飛ばずに侵攻する”なんて事は不可能だ。
 足場の確保から水素消費に掛ける労力に加えて粒子炉の負担など無視出来ない数値や現実が腐るほど待ち構えている状態で頭痛がしてくる。


「はぁどうしてこんな事にも気付かないんだッ! やっぱりカンニングで活躍してるだけじゃ知らない分野や場面で落第は必須か」


 やれ最強だッ! やれ叡智だッ! と胸を張ってもそれはアーマードコアの世界で培ったモノでこの世界はやっぱり情勢や技術力が違う。
 世界各国の利権争いなどももっとメルツェルに頼み深くまで覗かなければ解らない事もある……知らないといけない事がまだまだある。
 あの世界で通じる事もこの世界だと通じない部分が多い、歴史が違えばそこから生まれてくる感情や思想も大きく異なっていくのは明白だった筈だ。

 ―――腑抜けてる、何処かで優れているなんて感情が手抜きか浅ましさを産んでいたのにまったく気付いてなかった。

 戦闘面ならあの日の後ろから撃たれた事と仮にも部下のような奴だった三人を失い腑抜けていた、堕落しているのが解った。
 だが本職たる科学者であり技術者としての一面は今日までまったくソレに気付かず、気付いてもおそらく認めてなどいなかっただろう。
 極東を支配する統合大企業たる有澤重工も統合化の整理に新型戦術機の早期配備に加えて、軍港を接収しギガベース建造を開始している。


「……対レーザーのイージス艦隊建造もまだなのに巨大空母建造か」


 光線級BETAの降臨によって航空兵器を運搬する旧世代空母の役割は終わったと言える。

 飛べと飛ばせど正確無比な狙撃によって次々と落とされていく戦闘機に変わる兵器として戦術機が生まれた訳だしな。
 一部は戦術機母艦への修繕や解体へと追い込まれ、アメリカは世界に先駆けて戦術空母を建造し海上戦力を整えた。

 今更知ったのだが戦術機母艦は俗称で、正式名称は【戦術機揚陸艦】らしくタンカー輸送艦に限り無く近い揚陸艦だそうだ。

 原作佐渡島では揚陸艦隊の大半がまともな接近すら赦されず轟沈していたが……あれで揚陸艦とは少し泣けてくる。

 そして帝国の軍備倉庫の奥深くで解体を待ち望み様々な兵器の装甲へと生まれ変わる筈だった空母を解体済み含め何隻も接収し建造を開始した。
 旗艦として機能し得るだけの高性能電子能力・戦術機を収納しなおかつ簡易的な整備と補給能力を持ち・圧倒的な火力を保有する最強を目指すギガベース。
 装甲には対レーザー装甲の他にレーザーを防壁のように展開して盾とする高出力シールドなどの対防御装置も装備するが、この盾は艦船専用になってしまう。
 戦術機で使おう物ならばレーザーブレードが使えなくなると同時に光線級の照射を防ぐ為には凄まじい消費が必要で……一瞬でコンデンサーが空になる。

 絶えず海面に接地出来るか、あるいは高性能かつ大容量の水素貯蔵庫などを搭載出来る艦船でなければ本当に一瞬で空っぽになってしまうのだ。

 それに戦術機は機動力と柔軟さを活かして避けるのが主流なので、装備する必要性からも回避力のない艦船に限定すれば良い。
 あとは母艦を護る為に展開する壁となるBFFご自慢のイージス艦隊を真似た護衛艦隊を展開させればBFF艦隊完成である。
 特にBFFイージスは大型・小型の二種類に加えて破壊力のある二連装カノン砲とVLSミサイルの弾幕は脅威であり、リンクス戦争時は最”硬”の艦隊して君臨。
 一時は支配海域を我が物顔で徘徊し接近するモノの尽くを藻屑に変えていたがアナトリアの傭兵駆るネクストの単機突撃を前に首脳陣壊滅によって崩れ去った。
 これ以降から長射程・高破壊兵器によるネクスト迎撃理論が持ち上がり、そしてギガベースなどのあの主砲が建造されていった履歴がある。


「BFFの技術提供なしでどこまであの主砲が再現出来るか、あるいはイージス艦船のレーザーシールドが何処まで出力を得られるか……これは企業頼りか」


 机の隅に置いてある合成栄養ドリンクを一飲みして徹夜姿勢を固めた。
 明日は【武御雷改:雲耀】のデータ状でのシミュレート運用でデータ回収に、新型強化装備【一式】のデータも回収しなければならなかったかな?
 出来れば朝日が昇るまでにこの内陸部や水素供給の難しい戦場での水素兵器の有用な運用法や援護手段のレポートをまとめて香月博士に提出。
 香月博士の知識や裏事情なんかを聞き修正して、そこから更にメルツェルから世界情勢などを聞いて更に修正して完成品をまとめて再度提出すれば良いか。

 あとは伊隅大尉達とテルミドール達の模擬戦をセットして実力検査他に機体の試験運用も必要だ。

 それとAMSの精度検査から解体した各国の戦術機達から特徴や国ごとの強化部分を検査して……それらをこっちで運用出来ないか検査。

 そう悩んでいると机の照明しか付いていない暗い部屋の扉を誰かが叩いた。


「――― 殺し屋か? 早いな」


 この時間に来訪する相手は俺の事を疎んじて殺しに来た刺客くらい……嫌な経験法則だな。
 拳銃を懐から抜き出し弾倉などに実弾が装填されている事を確認し、入り口のすぐ横の壁に背中を合わせ侵入に備える。
 こんな生活久しぶりだな、こっちに来てからこういった事態にならないから腑抜けていく所だが来てくれて感謝するよ。
 握り締める手に自然と力が入りスッと集中していくのが解ったが、この集中は来訪者の声によってあっさり解けてしまう。


「……コジマさん、霞です」

 
 とそのまま部屋に侵入してくる霞に拳銃の銃口を向けそうになったので慌てて懐にしまう。
 部屋にやって来た霞はいつもの服装で……お気に入りなのか大きなウサギさん人形を抱きかかえて来ていた。
 あまり唐突に来られるとこっちも困るので叱ろうと思ったが、涙目でこちらを見上げてきている姿に叱るのも叱れなくなってしまった。

 そしてそのままウサギさんと一緒に俺に抱きついてきて震える霞に父親本能が刺激されてしまう。

 この頃やらせて貰ってなかったのであやす様に頭を撫でてあげ、解いている髪の毛を好きにしながら久々の父親気分を満喫させて貰う。
 若いからか髪の毛の触り心地は天然最高級の麻や絹などの布を触っているようで思わず病み付きになりそうだが、男の汚い手で触りすぎると流石に悪い。
 抱きついている霞と視線が合うように視線を落とし、右手で頭を撫でてあげながら急にやってきた霞に質問する。

「どうした霞ちゃん、怖い夢でも見たのか?」

「真っ黒なんです」

「どうした部屋の電気でも付け忘れたのか? 香月博士はどうした?」

「博士は今あの人と……真っ黒なメルツェルさんと話してます……だから」


 ―――あぁこの子はリンクスの心を見たのか。


 それもよりによって智将メルツェルが香月博士と色々話している最中のお互いの魂胆を読ませず、相手の魂胆を読む策謀中のメルツェルの心。
 いやそれこそこの子の役目だとしても分が悪かった……いや悪すぎるだろう、相手はあのメルツェルでしかも人生を一度経験して色々と達観している状態だ。
 元々オルカ旅団は目的の為ならば幾等でも殺せ、手を汚す事が出来る者達の集りであり俺もそんな人間の一人として幾度となくその革命に参加した。
 正義を名乗りはしない・正義を執行する訳でもない……ただ自分達の願いと欲望と信念に忠実でソレに順ずる為に無数の殺戮と破壊を行えるテロ集団。
 そんな人間達を策謀面から支え企業を相手にしようと口車一つで支配者であり管理者たる企業重役を振り回せる相手の心を見たのだ色々有りすぎたのだろう。

 あまりにも無数の考えと一面と言う奴が混ざり・組み合わさって”黒く”なってしまったその考え達が作り出した天然の防壁とは恐ろしい。

 むしろ良くこの子は耐えられたと思う、下手をすればその黒さを前に壊れてしまうかも知れないのに霞は耐える事が出来て耐えられてしまった。
 おそらくリンクス達は皆そうなってしまっているのだろう……人類同士の戦争で磨耗しきった精神と狂ったモノを持ち合わせながら正常であれるのだから。

「怖かったか?」

 頷く霞の細く弱弱しい腕や手が懸命に俺を抱き寄せようとしている。
 つい経験から片膝を折り自分の肩の高さに霞の頭が来るように合わせ、抱き寄せる。

「よしよしもう大丈夫……でもな霞ちゃん、メルツェル達も色々あって黒くなった―――多くの戦争と悲しみを経験しすぎてな
 だから怖がらないで欲しいんだ? 皆して性根は馬鹿だったり優しかったりロマンチストだから、普通の人間だったんだ
 それこそ俺だって元々は彼等の世界から来たんだから真っ黒かも知れないぞ? もしかしたら因果律体な分もっと黒いかもな」

 これは本音だ。
 一回の記憶しかないメルツェルですら『黒い』と言わせるのだから、何回も何回も経験している俺はもっと酷いだろう。
 きっと心を見られたら今のようにこうして抱き寄せたり愛娘のようにあやしてあげる事も出来ないだろうな。


「そんな事ありません、同じウォルコットさんの心はとても温かい色です……コジマさんへ想いを向けている時はとても綺麗な白みたいです」


 リリウムの心も見ていたのか。
 まぁメルツェルの事だからリリウムの詳しい情報やBFF関係の事も教えて、それに警戒した香月博士が霞に命じたのだろう。
 しかしリリウムか……リリウムにとってアナトリアの傭兵は進みたくもなかったリンクスへの道へ引きずり込んだ張本人だ。
 本当ならば殺したくてしょうがない相手への殺意を押さえながら俺だけに本心か、王小龍が描いた台詞を言えるだけ成熟しているのか。
 無血の革命を行った世界で『リンクスなんて嫌だッ! 自由に生きたいッ!』と泣いていたあの子を慰めた記憶だとしても想いが強すぎる。
 ましてやあんな所だろうと堂々とあんな言葉を連ねるだけでなく18歳になり成長した自分の魅力で必ず振り向かせて見せるとまで言うのだから。

 無垢な王女リリウムもリンクス……BFFの兵器方針を狙撃へと導いた女王メアリー=シェリーを超える狙撃の王女。

 取り込みたいのは山々だが下手に手を出せばおそらくBFFが釘を刺し様々な理由で確実に俺や様々な物を抱き込むのは眼に見えている。
 手強い相手がここで来るか、とにかく香月博士とメルツェルに期待するしかないか。

「それにウォルコットさんはズルイです」

「ズルイ?」

「私だって……コジマさんはコジマさんなのに『純一郎様』なんて」

 とあの霞がリリウムに対して嫉妬しているのだ。
 震えが止まったかと思えばこんなに子供らしい部分を見せて可愛いなぁ本当に。
 しかし本当に良く話しようになって今のように相手に感情らしい部分を見せるようになったのはプラスかマイナスか。

 まぁ可愛いので慕われる身としてはプラスで小父さん冥利に尽きるってモノだ。

 でもリリウムやメルツェルの事を明確に香月博士に報告されたなら必ずあの人は自分なりに動くだろう。
 だが人生一回分の有利さがある王小龍達を相手にするにはあの人は科学者であり、真っ当な科学者でありすぎる。
 やはりメルツェルと肉体関係を持たせてあの人には00ユニットに集中して貰い策謀面はメルツェルに任せるしか打開策がない。
 なんでもっと早くシロガネは落着しないんだッ! もっと早く落着してくれればもっと行動出来るのにどうしてこないんだ。
 あぁこんな事を考えると目の前の幸せが逃げるッ! 今は考えるなッ! 目の前の事に集中してなんとかしてれば良いんだッ!

「なら『純一郎さん』とでも呼んでくれるか?」

「純一郎さん」

 迷いなく霞はその呼び方に変更してくれました。

「なら俺も霞ちゃんから霞にするべきかな?」


「霞ちゃんの方が良いです……」


 『そっか』と言いながら頭を撫で続けていると小さな寝息が聞えてくる、羊を数えながら言ってのかな?
 安心したのか霞ちゃんはスゥスゥ穏やかに寝ており、良い夢でも見だしたのか微笑んでいる。

 起こさないようにスッと抱きかかえ、右腕と右胸などで巧く霞ちゃんを支えながら左手で机の照明を消す。

 精神的に夜目に目玉が切り替えるように思い込み、真っ暗闇を彷徨わないように歩きベッドのシーツを持ち上げる。
 両手で丁寧に霞ちゃんをベッドに置きそれから俺もベッドに入り込みシーツを持ち上げ肩口まで掛けてあげる。
 軍服のままだが要らぬ誤解が生まれないように着込んだまま眠りに落ちる……今日は2匹のウサギの抱き枕で安眠出来そうだ。
 そのまま俺の意識はゆっくりと夢の中へと堕ちていった。


 視点:沙霧大尉

 あれはまだ2月の事だ。


「沙霧=尚哉大尉ッ! 大至急身支度を整え出立の支度をして欲しいッ!」


 あの青葉事件により古島中佐の副官職を解かれ原隊復帰して間もない私に突如届いた岩見中将閣下からの指令。
 それは私……いや我々にとって千載一遇であり天恵と言っても過言でない程の出来事であった。


「岩見中将が貴官と将軍殿下の謁見を取り繕ってくれたそうだッ! 殿下も先の一件について貴官と話をしたいそうだぞッ!!」


 周囲から湧き上がる声に対して私は素直に喜ぶ事が出来なかった。
 青葉中将閣下のあの味方撃ちと言う行為も我々の存在に勘付き、帝国内部での戦いを防ぐ為に私を殺そうとしたならば話が通る。
 我々のような彩峰中将閣下に忠誠を誓う者達は変わり行く帝国にとって邪魔に見えるだろう、そして義憤の決起すらする我々など。
 青葉中将閣下はおそらく情報相か何かを通じて我々の存在を知り、戦闘時の事故に見せかけて私を殺害し我々を吸収し帝国派の増長を図ったのだろう。

 そして青葉中将の行動からおそらく岩見中将閣下や紅蓮大将閣下が知り……そして殿下に知られてしまった。

 国連派が統一し支配する帝国において我々が行おうとしている行為は、彼等から見れば邪魔であり障害にしかならないだろう。
 ここで殿下を使い私を説得するのか……それとも全てを吐かせて大罪人として処罰するのか?

「どうした尚哉? そんなに殿下にお会いするのが緊張するのか?」

 同じ部隊の仲間が……何も知らない彼が心配そうに手を肩に置く。
 周囲からも同様に緊張している私を宥め、励ましてくれる声が続々と挙がっている。

「青葉中将閣下の乱心には驚いたが結果として殿下と謁見出来るなんて、沙霧大尉の怪我の功名です」

「馬鹿ッ! 沙霧隊長の実力と貢献を殿下のお耳に岩見中将閣下が届けて下さったのだろうよ」

「けどあの行為で落ちた帝国の品位は簡単には戻らないでしょうけど」

 そぅ……知らない者達にとってあの行動はただの乱心に見えただろう。
 だが原因が私にあり、我々にある事を知る私にとってそうさせてしまった負い目や苦しみがる。
 なにより私だけを御呼びになると言う事はやはり追及してくる……そうなれば共に決起を決意してくれた者達にまで重罪が及ぶ。
 それだけはッ! それだけはなんとして回避しなければ、咎を受けるのは私だけで良い……そぅ彩峰閣下のようにただ一人全てを背負えば。

 そうして真実の全てを私の胸の中にしまい墓へと持ち込めば皆は護れる。


 ―――あぁそうか、逆賊榊もこのような想いを背負い秘めながら生きていたのか


 似たような立場になって初めて理解させられるモノがあるとは、人の心とはどうしてこうも計りがたいのだろうか。
 彩峰閣下……あの時の貴方は笑顔で全てを受け入れられたのでしたらそれはどれだけ寛容で寛大でお強かったのか。

「では行ってくる」

「お気をつけて」

 そうしてその場を後にし、強化装備を脱ぎ用意された礼服に袖を通す。
 だが手から汗が滲み出てくるのが理解出来る……手足が普段のように動かないまるで何かに固定されているようだ。
 なんとか礼服をまとい迎えの車が来ていると言う場所へと向う道中で、全てを知る同志達が通路に集っていた。

「沙霧大尉……これは覚悟を決め全てを話すべきです、我々の想いの全てを貴方に託します」

「たとえ殿下に裁かれる事になろうと我々は後悔せん……君の望む通りにしろ」

「必ずや将軍殿下に我々の想いを届けてくださいッ! 我々も覚悟は出来ていますッ!」

 憂国の烈士達が皆……私を励ましてくれる。
 たとえ私が全てを打ち明けそれが原因で自分達にまで飛び火するのを厭わない、命を預けてくれると言ってくれる。
 本当の意味で”全て”を託すと……コレほどまでに重いモノを背負っているとは、今更になり気付かされるとはやはり未熟。

 だが確かにこれはもう二度とないであろう我々の全てを打ち明け、語り、伝える最後の好機。

 逃す訳にはいかない、今日まで共にあってくれた仲間達や憂国の同胞の為にも失敗は赦されない。


「皆の命と想い……この沙霧=尚哉が確かに殿下に届けてみせるッ!!」


 気付けば手足の震えは止まり、戦場にいる時のような確かな足取りで私は一歩一歩踏みしめるように歩いていた。
 背中を押してくれる存在がこれ程までにありがたいとは……なんとしても皆の想いを殿下にこの国に届けてみせるぞ。

「沙霧大尉、帝都城へは私が案内します」

「月詠中尉……ありがとうございます」

 斯衛の赤を纏う月詠中尉がそこにおり、私は導かれるままに車へと乗り将軍殿下の待つ帝都城へと向った。
 おそらく見納めになるであろう周囲の景色を噛み締めるように見ながら、私はただ決意を固めていく。

 慧……私に力を貸してくれ。

 常に肌身離さず持っている閣下に肩車された慧の隣に私が立っているあの頃の写真を取り出す。
 ほんの少しだけ眺めた後に懐にしまい込み、私は最後の謝罪を小さく呟き決死の覚悟を固めた。

「良く来たな沙霧大尉……古島の副官職ご苦労と言いたい所だが今の君には殿下しか眼に見えまい
 月詠はもうよい、貴様ももう少しすれば出立の任が下される―――内容は貴様の知るとおりだぞ」

「はッそれでは私はこれで」

 殿下の御前に入る前に月詠中尉と別れ、私は岩見中将閣下に引き連れられるようにその間へと足を踏み込む。
 紅蓮大将閣下が一段下に鎮座し私を睨み、岩見中将閣下の指示通りの場所に座り頭を下げる。
 そのまま岩見中将閣下はまるで仁王のように左右一対の如く紅蓮大将閣下と同じ正座の姿勢を取り警護する。

 ふと視線を走らせればおそらく右後ろと左後ろに一人ずつ護衛の人間が私が不穏な動きをとれば即殺害できるように伏せている。

 やはり悟られている、ならばやはり散る覚悟で全てを殿下にお伝えしなんとしても我々の想いを知って貰う他無い。


「沙霧=尚哉」 


 名を呼ばれ身震いしそうになるのを懸命に抑える。


「はッ!」


「面を上げよ」


 ゆっくりと表を挙げる。
 そこには見惚れる様な美しさを持ちながら、悠然とそこに座しこちらを細めた眼で見ている煌武院将軍殿下が居られた。
 儀礼服に身をまとい私の様な末端の兵士に謁見してくださる殿下が……彩峰閣下が護ろうとした殿下が目の前に居られる。
 我々の憂国の想いを伝える為に幾多モノ手段を講じ、幾多モノ苦労を水泡なきそうとも挫ける事なくお会いする事を夢見た殿下。

 今まさに夢幻ではなく目の前に居られるッ!

 震え始める手を握り締め、噴出しかねない汗を気合と此処に送り出してくれた同志の言葉と姿を思い出し押し止める。
 そうだ今の私は個人として来ているのではないッ! 憂国の同志達の想いを背負い代表して来ているのだ、醜態はさらせん。


「この度は私の様な末端の兵に謁見の機会を頂き、恐悦至極に存じます」


「うむ、銀翁や紅蓮……なにより彩峰よりソナタの武勇や志は幼き日より聞き及んでいます、この体たらくを前に良く来てくれました
 もっとわたくしに力があれば、よりこの国の民の方々を束ね率いるだけの力があれば彩峰の様な事件を起こさずに済んだというのに
 ”ソナタ達”にとってわたくしは現政府に政権を奪われ国に一心に仕えてくれていた者達を差し出した未熟者……その気持ちは解ります」


 やはり殿下は我々の存在に気づいていたッ!
 そして我々が何を成そうとしているかさえ知っておられるとは、やはり情報省を通して知っておられたのか?
 それとも岩見中将閣下や紅蓮大将閣下が今まで通していなかったのを今回の事件を契機に話す事を決意したのか?
 だがどちらにしろこのままでは私が始めた【事】に多くの同志を犠牲にさせねばならないだけでない……いま再び殿下に辛き決断を強いる事になってしまう。

 我々は殿下をお救いし政権を取り戻す為に集いたと言うのに、それで殿下を傷つけるような事態になっては本末転倒過ぎる。

 しかし彩峰閣下のご無念を晴らし逆賊榊を討たねば……本当に榊を討てば良いのか? それで正しいのか?
 現政府は着実に手腕を見せ始めている、古島中佐の技術売買によって手に入った無数の資源と資金を元手に帝国復権を始めている。
 難民達にも可能な限りの手当てを行い殿下の御意思を優先していると思われる政策も打ち出している今日の現政府。
 これを討ち晴らしたとしてどれだけの被害が生まれる? その被害が向うのは何処だ? 殿下ではないかッ!!


『……悲しいな』


 初めて古島中佐と出会い刃を交えながら、交わしたあの言葉の数々が脳裏を過ぎり始める。
 まるで呪詛のように頭の中を流れては消え……そして再び流れ始める、洗脳するかの如く流れてくる。
 だが今頃になってあの日の言葉を思い出すとはあの時はなんとも思わなかった言葉がこうして今になって響きだす。
 なんとも面妖な事だが、それでもいま立ち止まる訳にはいかんのだッ! この時を逃す訳にはいかない。

「沙霧大尉……殿下は寛容なお心を持って貴公の真意を求めておられる、だからこそ呼んだのだ」

「岩見閣下」 

 紅蓮大将閣下は沈黙を護っているが、その眼は確かに『害なすならば討つ』と物語っているように細めている。
 対する岩見中将閣下は微笑み『全て話せ』と言っているが、おそらく話させるのが目的なだけだろう。
 殿下は眼を瞑りただ私が吐き出す言葉を待ってくださっている……天は私に味方しているのだ逃す訳にはいかん。


 ―――私はこの胸に隠す想いの全てを吐き出した。


 ―――私はあの日から多くの同志と語りあった想いの全てを話した。


 ―――たとえこの身がここで果てようと、伝えねばならない事の全てを話した。


 殿下はどうして現状を赦す事がお出来になるのか?
 ご自分の御意思が反映されない現政府に対して不満や怒りが持たれないのか?
 なにより先の一件でご自分の名を持ってして罪人を裁かねばならない事の辛さ、様々な事を立場を忘れて聞いてしまった。

 もはや処罰される事すら忘れ、私はただ自分の疑問の答えを求めて言葉を吐き出し、言葉を待ち望んだ。

 何かを聞けば殿下はなんの躊躇いもなく一つ一つ手寧にお答えくださった。

 自らの非力を呪い、現状を変えられない現実を憂い、民の現状を心配しているご自分の言葉と答えを返してくださる。
 その言葉の数々は私にとって古島中佐が言っていたように『押し付け』でしかない事を気付かされるばかりのものだった。
 殿下は覚悟のうえで、日々我々のような存在の期待に答える為に何かをしていたと言うのに我々の行為は雌伏を強引に引き出す蛮行。


「……申し訳ありませぬ殿下ッ! 私は我々が言葉ばかりで殿下ご本人を見ていない事を気づかされましたッ!
 どうか私に、私だけに処罰をお願いしたしますッ! 私の未熟故に多くの同志を誤った道へと引きずりこみました
 統一へと動いていた帝国内部で燻るばかりで何もしていなかった我々にどうかご容赦の程を……どうか……どうか」


 何の支度も出来てない相手を強引に表舞台に引き出すだけでなく、あまりにも大きなモノを背負わせようと我々はしていた。


「いえ沙霧……そなたは爆発しかねなかった者達をその手腕を持って束ね、今日に到るまで多くの者達の未来を護りました
 それが罰する所かむしろ賞賛すべき行い、銀翁もまたそなたが居てくれたからこそ帝国派は爆発せず間違いを犯す事がなかったと
 そう褒め称えそなたの事を……この国を護る為に散った英霊達に報いているそなたを私に紹介し今日の今を取り申してくれました
 ソナタ達の行いと憂国の想いは間違ってはおらぬ”まだ”ソナタ達は踏み止まれるのです、憂国の想いはここにわたくしに届いたのですから」


 なのに殿下はこんな私に微笑み、それどころか我々の存在が帝国の為にあると……亡き彩峰閣下に報いてくれているとおしゃってくださる。
 なんという寛大なお心ッ! やはり我々は殿下の為に戦うとしていた事は間違っていなかったッ! 殿下は理解してくださった。
 この手を……多くの同志に同胞の血で汚すものとばかり覚悟していたが間に合ったのだ我々の為すべき事は十全と言えずともここに果たされた。
 これも彩峰閣下と亡き帝国の英霊達のお導きあっての事だ、帝国の為に散って逝った多くの英霊達に感謝の言葉を述べなければならない。

「沙霧=尚哉」

「ハッ!」

「そなたの忠義を信じ、そなたに密命を与えます……ですがこれはそなたを隊から引き離し再び国連の元へと送り出す事になるでしょう
 ですが代わりに必ずやソナタ達【憂国の烈士】の身柄の安全は保証しましょう、紅蓮と銀翁がすぐにでも動いてくれる故安心して欲しい」

「もはやこの身は死したモノッ! 殿下の為になるならばどのような事だろうと行える身にありますッ!」

「ならば……月詠」

 殿下のお言葉により私を後ろから監視していた人物の一人……月詠中尉? いや眼鏡を掛けていたのか?
 それに首筋の階級章も大尉になっているが、よもやあの後すぐに昇進したのやも知れないな。
 手渡される資料には―――慧を初めとして聞きなれた名の者達の名前と顔写真がそこに記されていた。 

「こっこれは?」

「……国連と帝国の絆を深めると同時に帝国に置いては危険となるであろう要人達が、かの横浜の地に訓練兵として往く事になったのです」

 ……耳が痛い限りだ。
 少し前の我々ならば慧を憂国の烈士達の頂点として祀り上げ、なおかつ大義名分とばかり利用していただろう。
 榊や珠瀬の娘の身の危険と言うのもどうしてか……少し前の私ならば害なす側だったと言うのに今の私は心配する側になっているとは妙なモノだ。
 そしてその名前の中には情報省の鎧衣に加え、煌武院家と関わり深く帝国剣術でも精鋭の者のみ赦される【無現鬼道流】の宗家たる御剣の名まで。

「そなたの忠義を信じ、そなたには武御雷開発の名目で派遣される第19独立警備小隊・月詠の部隊に編入し往って貰うことになるでしょう
 またそなたにはその部隊の名目を成し遂げる為に黒の武御雷を授け、古島=純一郎の下で我々の剣を打ち鍛える役目を負って貰います
 これは彩峰の遺志を継ぎ帝国本土を幾度と無く守り抜いたそなたにはあまりにも酷な下知……そしてその影響は帝都防衛部隊の一兵までに及ぶ」

「いえ殿下……青葉閣下が罪を犯したのは我等が咎です、罰されるどころかこれ程の大任を仰せつかるなど光栄の極み」

「では沙霧=尚哉……辛い道を歩ませてしまいますが、そなたに帝国の未来を託します」

 スッと手を差し出す殿下のお姿は、私が信仰していた……信じていたモノよりも遥かに脆く見えてしまう。
 我々はあんな小さな手に義憤に混乱する帝国を支えさせようとしていたのならば、どれだけ不義者だというのだ。
 義か―――結果に囚われ我々は過程も周囲もなにも見えなくなってしまっていたのだろう、愚かしい限り。

 国連に赴いている古島中佐の方がよっぽど殿下を見ていたではないかッ!

 謗られ・咎められ・多くの者を失いながらもなお魔女に仕え帝国の為に戦う方がよっぽど忠義者ではないか。


「身に余る光栄ッ! この沙霧=尚哉……元より帝国の為に散る覚悟ですッ!」


 今一度頭を垂れる。

 対して殿下はただ一言発するだけであったが強く想いの篭った一言であった。



「……そなたの忠義に感謝を」



 そうして私は月詠中尉率いる第19独立警備小隊に編入され、いま再び横浜の地に舞い戻ってきた。
 第19独立警備小隊の一隊員として月詠中尉の指揮下に付き表向きは武御雷開発に従事し、裏では要人達を護衛する大任。
 帝都防衛部隊の友や同志には既に殿下の下知として知らせが届き、多くの者達が私を祝福し同時に心配してくれたその時の私は晴れていた。

 彩峰閣下を失いしあの日からずっと冷たい雪雲の下を彷徨い続けていた日々を殿下の太陽が救い出してくれたのならば当然の事。

 憂国の同志を集め『殿下に我々の想いは届いたッ! 殿下は雌伏しておられる、我々が起こす事は殿下の雄飛の妨げになるッ!』

 公開するのはマズイ事も多くあるのでかなり話を変えはしたが、大切な部分を変える事無く多くの同志もまた感涙に泣き崩れた。
 我々の想いはまさに国へと届き……喃々辛苦に耐え続けてきた日々もまた救われた、我々の手は同胞の血に穢れる事はなくなったのだ。
 たとえどれ程の苦難が訪れようと私はもはや迷わん、殿下のお言葉と想いが胸にある限りこの日本人の魂は決して朽ちぬ。 


 与えられし黒の武御雷と共に我が剣はもはや曇る事はない。


 今の私に出来うる事はこの日本の魂をより鍛え上げる事と慧や要人達を守り抜く事。
 たとえこの身と魂が砕け散ろうとも動きたくても動けぬ殿下に代わりこの国の為に戦う事こそ使命。


「我が道にもはや曇りなし」


 懐から抜き出すあの日に巌谷中佐より与えられし短刀と拳銃の直視出来なかった鈍き光と重さ。
 気付けばそれは自然と懐に存在し月夜に晒そうとも曇り一つなく、ありのままの姿を私に見せつける。
 もしや私はこの短刀と銃を無意識に”私”として捉え自然と自らの在りように疑問を抱いていたのではないだろうか?

 なんとも神妙な話だが―――この手をBETA以外の血に汚す事にならずやはり安心している自分がいる。

 甘さを捨てきれていなかったと言う事か。


 視点:神宮司軍曹

 落ち着け……落ち着きなさい神宮司=まりもッ!
 古島中佐は30歳で相手は18歳の徴兵直後の少女、伊隅達に囲まれてもまったく動じない中佐が動じる訳ないわッ!
 そもそもあの口振りだと出会ったの小さい日の本当に少女だった頃よ、つまり徴兵されるなんて信じてなかった頃。

 中佐も若かった時はお父様の研究片手間で、きっとウォルコット財団は何らかの線で投資していたに違いないわ。

 それにテルミドール大佐を初めとした人達も元々そういった研究などの縁で色々と出会っていただけって言っていたわ。
 記録だとウォルコットには本来財団を引き継ぐ二人の候補者がいたみたいだけど双方共に戦死し、急遽後継者にしなければならなくなったのね。
 つまりお父様の研究などの相談に付き従っていた若かった頃の中佐が財団を継ぐ英才教育に苦しみ泣いていたウォルコットの相談乗った。
 そうして幼く小さな女の子にとって年上で相談にのってくれて優しくしてくれる人は一発で初恋の相手になる……私ならなる。

 きっとこんな感じだったのよ。


 イギリス随一の財閥の豪邸に研究成果の報告にあがる軍人の青年とその父親であり博士。
 青年は報告会には入れない為に豪邸の整えられた庭園を散策していると一人の少女の泣き声が。
 不思議に思った青年が辺りを探してみると上品なドレスを身に纏い、美しく人形の様な少女が噴水の傍で泣いていた。
 青年は少女にどうして『泣いているの?』と聞いてみると涙ぐむ声で少女は自分の辛い今を話していく。

 本来の後継者の戦死。

 それに伴い自分が後継者とらなければならなくなり、苦しい訓練や教育の毎日。

 初めて会いまったく知らない相手だからこそ少女は全てを話すと青年はそっと少女を抱きしめる。
 少女は驚き頬を朱に染めながら自分を抱きしめた青年を見上げる……青年は笑顔ながら少女の頭を撫でていた。

 そして青年は少女に様々な事を教え元気付け、後に戦火の苦しみに飲まれるであろう事を知らない笑顔を少女に晒す。

 少女が泣き苦しみを吐き出す度に青年は元気付け、色んな話や青年自身の失敗談などで少女を楽しませ笑顔にさせた。
 自分に優しくしてくれて軍人のたくましい肉体が見せるその強さに自然に少女は惹かれていき自分の家に入らないかと誘う少女。
 しかし青年はその誘いには乗らず、それどころか少女を優しく叱りつけていく、それが逆に少女の恋心を灯らせていく。

 だが時間は無情にも二人を引き裂く。

 少女にとってそれは淡い初恋・青年にとって少女を元気づけただけ。

 大きな意識と年齢の差があった……だが無情な時間は少女を女性へと、青年を英雄へと成長させた。
 財団を保つ為に優れた血を欲するのは当然であり、女性へと成長した少女は淡き初恋が実る事を夢見て外国へと旅立つ。
 英雄を取り込み祖国の大地を護り取り戻す使命を抱きたった一人未開の他国の地へと踏み入る本当の理由はただ一つ。

 初恋の青年を振り向かせる、女性として・英才教育を受けた優秀な生徒として振り向かせる。

 長い年月を経て再び二人は戦地で出会う。


「……いつのまに私ってこんなに想像力豊かになったのかしら?」


 夕呼が聞くとお腹を押さえながら爆笑して、転げまわるような三文芝居のストーリーに自分でも恥ずかしくなってくる。
 でもきっとこんな感じよッ! これなら充分に勝てるわ。
 ウォルコット、あの子は……お世辞にも女性の魅力があるとは言えないわ、むっ胸とかの女性の魅力は私が圧倒しているのよ。
 それに私はあんな熱いキスだってしてる、それに中佐もマンザラじゃないのような態度もとってるから脈はある。

「でも中佐は社のような小さい子に甘いわよね? となるとついなんて事も……」

 あぁもぅッ! どうしてこんなに想像力豊かになるの、下手にこんな事考えずに素直にいけたらどれだけ楽か。
 とにかく今の私は中佐と一緒に新型戦術機を白紙の状態から載るであろう新兵を鍛え上げる絶好の協力関係状態。
 訓練を口実にすれば中佐と一緒に居られるだけじゃないッ! 優秀な事を見せられる絶好のチャンスじゃないッ!

「それに中佐は第一線で活躍する凄腕衛士……私も実力はある方だから追従も出来る」

 確か学説か何かで【つり橋効果】ってのがあったわよね。
 呼吸が整っているのに胸の鼓動が沈静化しないのを恋と勘違いするって言うあの【つり橋効果】が狙える。
 BETAとの戦いで窮地に陥った中佐を救い出せば狙える筈なんだけど、中佐のあの山猫に追従するのは難しい。
 それにあの機体は単機でも対抗出来るように造られるから余程の事態じゃないと危険にはならない、むしろ私が助けられるわね。


「そうよそれも良いわよッ! 助けられ恋心を抱き告白するッ!」


 追従している時に中佐に助けられ、恋心を抱く幾多モノ激戦を戦い抜き常に中佐の背を護り護られる友軍機。
 どんな激戦でも常に背中を護ってくれる友軍機の存在は頼られる、私がそこの位置につければ中佐も必ず頼ってくれる。
 最初は一歩後ろでも信頼を勝ち取っていけば中佐から隣に立つように手を伸ばしてくれる筈……あとはその手を取れば良いだけ。

 公私共に優れたパートナーになるのもそう遠くない道ね。

 出来るわッ! もぅこの出会いを逃す訳にはいかないのよッ! 絶対に手に入れないとッ!
 年上・優秀・頼れる相手なんてもう一生探してもいない筈よ……だから絶対に手に入れてみせるわ。


「……早速明日朝から訓練刀指南の為に私が指導されるのが違和感なし」


 そうと決まればッ! と私はベッドに飛び込み深い眠りについた。
 明日はいつもより早く起きて失礼かも知れないけど訓練に手を抜かない為にも指南して貰わないといけない。
 御剣は剣術の宗家の家柄らしいからそれに負けない為にも帝国で優れた剣術家の兄弟弟子の中佐に指南してもらう必要があるわ。
 公私共に理由は充分……あの子達をしなせない為にも訓練には……手を抜けない……から……


 ―――翌朝・早朝


 身支度を整え、気合を入れた私は中佐の個室の前に来ている。
 心臓が高鳴っている・初陣のときのように何処か震えているような気がするのに酷く冴えていた。
 軍人……鬼軍曹として培ってきた経験の全てが今の私に味方してくれているのが良く解る。


「古島中佐、朝早く申し訳ありません……神宮司軍曹です」


 この時間なら中佐はまだ寝ているか丁度起き上がる筈……良く通路で会うのだから間違いない。
 訓練する教官が劣るような事態にならない為にも急だが訓練して欲しいと頼めば良い、そぅそれで良い。
 とにかく軍人としてまず振舞えば良い、下手な態度なら逆に中佐の怒りを買いかねないから。

 だけど室内から私の耳に届いたのは中佐の声ではなかった。


「……今……開けます」


「やっ社?」


 あまりにも想定外の事態で軍人の私が解けてしまう。
 そんな嘘よッ! 社はウォルコットよりも年下なのに中佐と……まさかそんな関係なのッ!?
 あんな凛々しくて何処か渋くて頼れる中佐がそんな性犯罪者なんて―――いえ早まってはダメよまりも。

 スッといつもの服を着込んでいる社が片手に大きなウサギの人形を抱きかかえて出てくる。

 眠いのか空いている片手で懸命に寝てしまわないように眼を擦っているのが可愛いわね。


「どっどうしたの社、中佐の部屋で寝るなんて」


 でも私の声は確実に震えていた。
 社はいつもの服を来ているけど髪をまとめていない、まさか中佐が服を着せたままする変質者なんてそんな訳ないわよね?

 そんな私の懇願を肯定するように社が眠そうにしながら発言した。

 
「怖いモノを見たので……一緒に寝させて貰いました、『純一郎さん』は悪くありません」


 じゅ純一郎さんッ!?
 まさかそんな社が懐いているなんて、いやきっと夕呼が昨晩何かしてるのを見て怖くなって中佐の所に逃げてきたのよ。
 そして震えてる社を宥めている間にわがままか何かで社が『純一郎さん』って呼ばせて貰えるようにした。
 いや大丈夫よ、中佐にとって社は可愛い姪っ子のような子供で社も頼れる小父さんとして懐いているだけ。

「おや早いな神宮司軍曹?」

「あっハッ! こんな朝早くから申し訳ありませんがお頼みしたい事が有りますっ!」

 服を着込んだ中佐がベットから起き上がってきた。
 幸い私の同様も既に抑えられていたから軍人としての自分を出せる。

「本日は訓練刀による近接格闘術の訓練を予定していますが、御剣は剣術の名家ですので」

「なる程な……解った、丁度早朝訓練の相手が欲しかったところだ」

 思わず嬉しそうに喜んでしまいそうになるのを抑えて軍人として敬礼の姿勢を保つ。
 そうして私は中佐と早朝訓練をする事となった。

 まずは確実に一歩前進したわ。

 女の幸せを必ず手に入れて見せるわよッ!

 でもその訓練で私の身体の所々にに青あざが出来てしまう。
 中佐の剣術や訓練が容赦ない事をこの私が忘れるなんて……あぁダメね私。


□□□


 一言……沙霧と殿下が書き辛いッ!
 乙女モードの神宮司軍曹が書き辛い……あぁ把握不足と再現力の無さに泣きたいです

 そして王大人をボコボコにしてきましたけどやっぱり死にませんねぇあの爺さん

 次回作ではぜひとも殺したい人です、でも次回作次第では寿命で死んでそうです
 だって数少ないリンクス戦争自体から存命している老兵ですからゴホゴホで死んでいる気が
 
 ハリに悲壮感が感じられず尚且つ黒く感じられたならキャラとして完成です
 やっぱりアスピナの弊害者でありながらそれを感じさせないとか、自分の運命を享受しているような感じ
 諦観でもなく達観でもなく、元々そんな事を思わせずありのままに生きていてそしてソレに忠実なキャラですから
 まぁそれも御剣達との付き合いで変わっていくように書いていきたいのが一番望みなんですけど

 そして皆様の考察もありますけどフラジールがこの世界だと最強クラスッ!?

 あれをトッツケル人はATXチームに入隊出来でしょうね
 ミサイルと重金属雲の盾を使って接近し零距離から榴弾ぶち込んで光線級壊滅なんて芸当が出来てしまう
 機動が自慢のシロガネタケルも吃驚仰天のスピードで飛び回る最速のオトリ兼攻撃機体

 しかし無理があった感が残る御剣の偽戸籍や経歴関係 

 親類縁者かつ護衛が置かれるに最適そうな理由として宗家・本家・嫡子なんですけど……無理がありましたかね?
 あとは沙霧の武御雷登場と説得までの道のり……なんで紆余曲折出来るんだこの沙霧は

 ご指摘により修正



[9853] 三十一話[最強の称号]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/01/26 00:17
 視点:ハリ

 射撃訓練場の荒れた地面で遠距離狙撃用のアンチマテリアル(対物)ライフルを組み立てては解体する。
 銃火器の組み立ては必ずしも教室のように安定して安全な場所で出来る訳ではない。
 だからどんな場所・どんな状況だろうと故障部分を瞬時に確認し、原因を特定し修理出来るなら修理し、瞬時に調整を完了させないといけない。
 今日はそんな荒れた場所でも修理・組み立てが出来るようにする訓練であり、手渡されるライフルにはそれぞれ違う故障がある。
 素早くベルトポーチに入られている布を広げてライフルを順次分解していく……どうやら簡単な石詰まりらしく別のポーチから工具を取り出す。

 ……ん? なんでピンセット?

 いや普通ベルトポーチに工具を入れたり下げたりするのは整備兵の仕事なんだけど、さてどうしてピンセット?

「ハリ……ピンセット貸して」

 隣で整備している慧が手を差し出してくる。
 どうやらピンセットでないと修理出来ない部分なのかな?
 ……となるとやっぱり一人一人ポーチに強引に詰められているのは別々の工具なのだろう。
 僕のは銃口部分を外しただけで解るような位置なのですぐに組み立て直せるが、慧のは結構分解してある。
 足下に広げているシートにもかなりの部品が転がっていて、分解作業は手馴れてきたらしい。

「慧は?」

「ポンチだからここの故障には要らない」

 ポンチはドリルなどで何処を貫くかのマーキングをする円錐状の道具だ。
 僕の銃口の石詰まりは指では取れそうにないし、ピンセットでも取れるようなものじゃない。
 だからポンチと……あとはハンマーで石を銃口に出来るだけ傷付かないように砕くしかないか。

「なら貸して、あと誰かハンマーないハンマー?」

「うむ、私が持っているがどうして修理にハンマーなのだ?」 

 慧にピンセットを手渡して冥夜からかなり小さいハンマーを受け取る。
 銃口に詰っている石にポンチの先端を押し当て何度か当てる練習をして……一発でポンチで砕けるように全力で打つ。

 ガキンッ!

 と少し嫌な音がなり小石が砕け銃口から自然と転げ落ちて地面に落ちてくれた。
 何度か中を見て残った石がないか確認してから今度はバラしていた銃を組み立てなおしていく。
 この型の長距離狙撃型はあの世界でも流通してたから幸い頭の中に情報があるので素早く組み立て直していける。

「なんとも乱暴な手段だな」

「現状の工具だとこれしか方法がないからね、千姫はどう?」

「大丈夫です、幸い工具なしでも出来る処理ですから」

 やっぱり銃火器になると千姫は強い……素質と才能って奴かな、羨ましいよ。
 既に組み立て直しを完了させ各部分の調整や組み立てなおした際に出来てしまうズレなどを確認しなおしている。
 本当に最初は皆組み立てなおしたり、分解するのでも四苦八苦してたのに今では皆結構素早くかつ正確に出来てしまう。
 これで訓練3・4週間目なんだから当然なのか? それとも早すぎるのかは知らないけどとにかく皆才能に溢れているのは確かだ。

 コジマやメルツェル達が欲しがる訳だよ―――君達は本当に天然体なのか?

 脳に刷り込まれて身体が自然と覚えてしまうくらい反復してやっとなのに、目の前の皆は刷り込まれている訳でもないのに出来てしまう。
 努力の文字で終わらせてしまえるならどれだけ楽か……副官でなかったら少しは楽だったかも知れないのに。

「ハリ、手が止まってるわよ」

「あっ……ゴメン」

 千鶴の指摘で手が止まったのに気付かされる、普段なら無意識でも組み立てられるように改造されてる筈なのに。
 ……忘れてきてる訳じゃない、ここ当分ネクストに乗ったりAMSに接続していないけど間違いなく自分を機械には出来る。 
 なのに・なのにどうしてたった訓練数週間の皆に遅れをとる様な事になってるんだ、僕はこれでも刷り込まれて素早く出来るのにな。

 組み立てが完了し、今度は調整に移る。

「珍しいねハリが考え込むなんて、もしかしてボク達が追いついたの気にしてる?」

 隣で同じ調整に入っている美琴がこれまた鋭すぎる程にこっちが考えてる事を的中させてくる。
 ここまで来ると同心術の類だけど本当に美琴の勘ってのは鋭く、同時に恐ろしいまでに正確で頼りになるけどやはり怖い。
 対人戦で大切になるのは堅実さもあるけどそれ以上に直感・本能とも言える部分で相手の挙動を読んだり動きを読んだりする事だ。

 特に僕の戦い方がそれに依存している……最強の戦闘能力と本能にも似た反応能力で対象を瞬時に殲滅させるのだから。

「……鋭すぎるよ美琴」

 悔しいけど本当にそうなんだ。
 だけど顔には出さない、流石に散々自慢していた『強化人間』の部分で劣等感を感じてるなんて言える訳ないのだから。
 それにまさか『そんなに出来る皆が怖い』なんて言える訳がない、僕は皆よりも優れていると証明して頼られないといけないんだ。


「ハリって何でも出来るからボク達も負けないように頑張ってるからだよ、ハリはボク達の憧れだからね」


 『憧れ』か。

 そっか、うんまだ勝ってるんだな僕は……”まだ”勝ってるんだ。
 それに今の技術は歩兵や整備兵などの技術だから本命の技術なら余裕勝ちしてる、それに僕はそっち方面の特化人間勝てなくなって当然。
 歩兵の技術は最低限しか入ってないのだから当然だし、ここは皆に勝ちを譲るのが良い……これでノーマルまで均衡されたら流石に怖いけど。


「中隊集合ッ!!」


 おっと時間だ。
 幸い全員組み立てが完了しているから問題なし、調整も完了している。
 千鶴が素早く現場を確認し全員に完了確認を取り、僕はそれに合わせて報告をして千鶴は分隊長として了承するだけ。
 確認が取れ次第即座に対物ライフルを担いだ状態で素早く教官の下に集合するんだけど、見慣れた顔が一つあった。


「今日の射撃訓練には北部防衛戦線の英雄【サイレント・アバランチ】隊の隊長を務めていたブッパ=ス=ガン中尉に見て貰う
 豪雪と吹雪の最中でも無数のBETAを仕留める英雄部隊の生みの親たる中尉の実力は言うまでもないッ!
 貴様等は本当に恵まれた世代と言う事だ……聞ける事を聞き、教えられる事を教えられ、学ぶべき事の全てを学んで見せろ」


 【サイレント・アバランチ】

 BFF社の最精鋭ノーマル部隊であり、吹雪とECMによる有視界・索敵双方を潰した状態で遥か彼方や意外な場所から強力なスナイプカノンで敵を撃破する部隊。
 吹雪の音に掻き消され銃声が聞えないのに味方が次々と撃破されていく様子を『雪崩だ』と表現した人間達から【無音の雪崩】と恐れられたノーマル部隊。
 その強さは天候条件とECM濃度などにもよるがネクストすら撃破してみせるその正確無比な狙撃とそれを可能とさせる狙撃装備の数々はBFFの象徴の一つ。
 もっとも対ECMと吹雪対策なんかをすれば簡単に攻略出来る部隊なんだけど、それでも簡単に崩壊しないのはBFFの兵器性能と乗り手達の実力だった。
 元々BFFの兵器は遠距離からの一撃必殺や一方的な攻撃を主眼にしているので、他の企業と比べても狙撃や正確さに関する事はまさにトップと言えるからね。

 しかしその部隊長がブッパね……本場を知ってる人間から言えばきっとまだまだだろうけど。


「初めまして、北海道防衛部隊【サイレント・アバランチ】隊の隊長を務めていたブッパ=ス=ガン中尉だ
 今はこの横浜基地のオルカ隊の一人として着任している、友人のコジマ中佐が造りだした新型機を白紙から乗る
 そんな君達の射撃訓練を今日は覗かせて貰うよ、普段通りにしてくれれば良い、何かあったら指摘させてもらうから」


「今日は対物ライフルによる遠距離狙撃だッ! まずは500mから順じ当てていけッ!」


「「「「「「「「「「「「了解ッ!」」」」」」」」」」」」


 神宮司教官の指示で自分達の組み立てたライフルを担いだまま順次射撃訓練に移っていく。
 歩行から射撃姿勢を取って500m先の的を狙撃していくだけの訓練だがそう甘くは無い。
 僕やリリウムはリンクスとしての能力が恩恵として自然と合わせられるが射撃が得意な方でない面々は中々苦戦していく。

 的に当てる為に時間を掛けて狙いを付ける。

 的に当てられるか心配で不安に駆られて時間が掛かってしまう。

 何より自分達の後ろには日本でも随一の狙撃の腕を持つ軍人が腕前を見に来ている。

 色んな要素が皆が皆の実力を奪い、普段通りでなかったり外したりして落胆してしまう。

「流石ですねランク10」

 700m先の的に的中させられているのはリリウムと僕だけ。
 千姫なら800m先だろうと当てられそうだったんだけど後ろの存在がプレッシャーになって600mで外した。
 なので全員の視線が僕とリリウムに集められているが、僕は僕に取って言われたくない言葉を言われて引きつってる。


「僕をランクで呼ぶなッ!」


 明確な怒りが込み上げて、自分でも此処に来てから初めて怒鳴った、手に持つライフルの銃口をリリウムに合わせていた。
 あの世界で受けてきた薬と実験での拷問の記憶が蘇えってくる……あの白服どもの歪んだ笑顔が脳裏に過ぎる。
 真っ白な部屋で頭に無理矢理情報を送り込まれたり、暴れる度に薬を投与されて、ネクストに乗る時は必ず何かを投与される。

『この試験体ですが』

『あのランク39か? 投与量を上げろ』

『そのような事をすればせっかく完成した素体がッ!』

 僕がネクストとの接続に苦しんで嘔吐している、投与された薬の副作用で苦しんでる時にアイツ等は高みの見物。
 苦しんでる僕に手を差し伸べてくれる人は誰もいない、いるのは同じ訓練や実験をしていた仲間達だけ。


『素体を作り出すのは成功しているのだ、壊れたなら造れば良いだけだろう』


 歪んだ顔で……僕達が苦しんで死んでいく様子を喜んでいる笑顔で僕達を見下す連中。
 殺したくても刷り込まれたセイフティーの所為で手を出す事すら出来ない、出そうとすれば全身を激痛が支配する。
 その無力が・痛みが・悔しさが僕をリンクスとして完成させ、そしてメルツェルが僕を見つけ出してくれて助けてくれた。

 『ハリ』って名前で呼んでくれて、僕を人間として見てくれて、仲間として大切にしてくれたオルカの皆。

 僕は製造番号のついた人形なんかじゃないッ! 僕はランク付けの為だけの実験体なんかじゃないッ!
 お母さんの腹から生まれてお父さんの温かさを知って、天然体しか持ち得ないモノを持ってるお前にそう呼ばれる筋合いなんて……ないんだよ。

「……失礼しました、ハリ」

「二度と僕をランクで呼ぶな」

 歯を食いしばりながら気持ちを切り替えてライフルの銃口を的に合わせなおし、撃つ。
 800m先の的にも的中させられたが……これ以上は流石に無理だな。
 そもそもここまで当てられただけでも中々の性能だ、僕は元々高機動戦闘と近距離砲撃戦を主体にしているからね。
 遠距離狙撃本家のリリウムと互角に撃ち合えるだけ立派なモノだよ、少なくとも僕はここまで遠距離を当てるのは中々出来ない。


「君達集合してくれ」


 800m先の狙撃が完了した所で、ブッパに集合をかけられた。
 全員即座にライフルを担いで走り素早く整列して集合する。

「まず……君達が目指すモノは何だ?」

「戦術機を駆る衛士です」

 人型機動兵器のノーマルモドキの戦術機に乗る為に僕達は訓練している。


「我々衛士が戦うのは物量に任せて攻撃してくるBETAだ、はっきり言ってこんなにも悠長に構えたり一発必中をする余裕はない」


 それもそうだ……実戦投入されたけど奴等はとにかく圧倒的な物量で津波や雪崩……山崩れの如くこちらに行進して来る。
 まるで天災の如く無慈悲で圧倒的なそれに対して一発必中は必要ない、必要なのは一体でも多く敵を捌いて行く冷静さ。
 まぁ確かに悠長には狙えないね―――特にあの対空迎撃をしてくる光線級を潰さない事にはこっちの航空攻撃はまったく無意味だし。


「それと遅くなる前で良かったが君達の射撃は訓練時の『当てないと』に固まりつつある、そんな感情や不安は必要ない
 むしろ外れて当然なんだ? BETAの群れの中から一発で目標を撃ち抜くなんてぼ……私でも無理だからな
 必要なのは外してでも必ず当てることッ! 外して当然・マガジンに5発あるなら5発内で目標を潰せば良い
 まずは落ち着くか気楽に狙っていけるようにしていこう、そして射撃は体勢をとってから一呼吸おいて撃つ様にしよう
 実戦で狙ってすぐ撃つ癖があるとオートロックなどでどうしてもムラや無駄が出来てしまう、ゆっくり落ち着いていこう」


 おぉ……ブッパの教官姿が凄く様になってるよ。
 そういえばあの世界だと自然観察保護官だったんだ、後輩への指導なんかはお手ものだろう。
 それに僕はブッパとは一緒に実戦投入はされなかったが、実戦経験者が戦闘に関する事を語るとやはり重みが違う。
 ちょっと厳しさがないのは甘いとしか言いようがないけど厳しさは神宮司教官の仕事だし問題ないか。


「それにこれは訓練なのだからもう少し気楽にいこう、上がり症がある子は特にね
 困ったら分隊長を頼れ、もし分隊長が出来ないなら分隊長は部下に命令すれば良い
 分隊長も頼られる為に努力するのは良いが、少しは部下を頼っていく癖をつけていこう
 最初から100点は望まない、0点から100点を目指して努力していくのが大切だよ」


 それでブッパは言葉をきる。
 対する僕やリリウムはともかく他の十人は勉強させられたとか、尊敬とかの眼差しでブッパを見ている。
 現役の英雄が言う言葉だから下手な人間が言うよりもよっぽど説得力があるから凄い。

 それに隊長職の人間が隊長はもっと部下を頼れなんて言えば当然部下との接し方を考えていくだろう。

 なんとも命を背負ってきた隊長とは思えないような威厳もなんにもないような人間だけど、これでも怖いところは怖いんだよね。
 動物の為なら平然と人間なんて種族根絶やしにしようなんて考え出すし、ある意味では僕達でもっとも欲望に忠実な人。
 きっと本心では皆の事なんてどうでもよく思っているか……メルツェル達の命令どおりどうしようか考えているだろうから。 


「では今日は少し手本を見せてあげようか」


 その後はブッパの手本を見ながらひたすら射撃訓練をする事になった。
 ただ900m先だろうと的の真中を的中させていくブッパの狙撃術と言うのはやはり頼もしい。

 そうして後は所々指摘を受けながら訓練は終わり、夕食を食べる為にPXで席と食事を取ってからやはり聞かれた。

 僕が終止不機嫌な顔をしながら合成秋刀魚の塩焼きを頭ごとバリバリ食ってる所に美琴がおずおずと聞いてくる。

 皆の前で怒鳴るなんて今までしてなかった……皆から見てもやっぱり凄かったんだろう、他人の頭部にライフルの銃口を向けるのだから。

「ねぇ……ハリのランクって何?」

 バリバリ頂いていた頭を口の中で細かく噛み砕き、合成茶で一気に流し込んで一息つく。
 一口も運ばす真剣な眼差しで僕を見てくる……仲間になる為に少しだけ本当を話す必要があるみたい。
 だからごめんメルツェル、僕は少しだけ言いつけを破ってもう少しだけ……もう少しだけ皆と近くなるよ。
 僕だけ嘘をつくのは―――なんか卑怯な気がするからね。


「……僕達のような存在を戦術機に”載せて”戦わせあって確かめた性能ランクだよ、僕は十番目だからランク10」


 本当の意味のランクに流石に皆驚愕していた。
 この世界では人間同士で戦い合う余裕はない、戦局を打開させる為に製造された兵器を敵ではなく身内に向けて使う。
 兄弟同士で戦わせ合いその性能を決めていくなんて不毛な事をするなんて、きっとこの世界の人達は理解出来ないだろう。
 今はこれだけしか話せないけどいつかきっと本当の意味で全てを話せる日が来たら、その時は精一杯謝るからさ。

 もう少しだけ嘘つきキノピオで居させてね。

 そうして皆が重々しく沈黙していると何やら外が騒がしくなって来た。


 視点:コジマ

 ブラックウィドゥⅡ
 高いステルス性能・アメリカの砲撃性能に日本帝国の近接性能を持ち合わせた高性能機体。
 その性能は武御雷に匹敵するか、あるいは上回るかも知れない高い性能を誇り次世代戦術機としてラプターと死闘を演じた。
 性能面ではラプターを近接能力面で上回り次世代確実かと思われたが、武御雷にも劣らないその整備費用の高さがネックとなって敗北。
 またラプターの方がG弾運用を考えるアメリカにとって戦闘継続能力や航行能力の高いラプターが魅力的であるのは当然。
 結果として整備性・航行能力・継続能力の三点からブラックウィドゥはラプターに敗北し、試作の二機と予備パーツを残して沈黙。

 その後は博物館で戦えない人生を送るかと思われていたが、俺達との商談で丁度良く予備パーツと共に売り払われた訳だ。

 近接戦闘を考慮したシャープなデザインと高機動バーニアに専用の銃剣装備の36mm突撃砲が特徴的な機体。
 ラスターが乗りこなしていたおかげで内部にも充分な戦闘データが残っているのですぐにでもそれらを他の開発に転用出来る。
 むしろこの近接能力と砲撃能力双方を高く兼ね備えているこのブラックウィドゥのデータが回収出来たからこそ武御雷の改良は滞らなかった。

「主任、これが新型の一機ですか?」

「篁中尉は一生乗らないだろう機体だろうがな……元々予備パーツも生産ラインもないから数回運用して壊れ次第解体だ」

 篁中尉も月詠中尉の19警備小隊の特殊編入者としてこちらに派遣され、俺の新型戦術機開発などに協力して貰っている。
 巌谷中佐からの指示などはこちら方面で俺に伝わるようになっているが……この”主任”と言う呼び方がなんとも言えず痒い。 
 博士・中佐・リンクスなどの呼び名は慣れているのだがどうも主任と言うのは慣れない、確かに国連での改造は俺が主任だが。
 それに軍服の上に白衣を着込んでいる時点で言われても仕方ないのだが、それでも主任と呼ぶのはどうかと本業ではないのに。

「試験機なのですか?」

「米国だと正式採用されなかった機体だからな、予備パーツもだいたい四回分・二機分しかない機体だからな
 まぁラスターが巧くデータを持っていてくれたから必要なデータは回収してあるから投入するだけして後は破棄だ
 武御雷の改良機【雲耀】に役立つデータの塊だったんだ……せめて戦火に死なせてやるのがコイツへの報いなのだろう」

 近接・砲撃双方共にバランスの良いブラックウィドゥが幾度か投入された際に叩き出したデータは本当に役立った。
 だがどうもこの篁中尉はこう言った米国の技術転用などを酷く嫌う、まあ帝国人間ならば仕方ないだろうがそれでもマズイ。
 仮にもここには技術開発面での俺の副官として来ているにも関わらず他国の技術などを嫌って貰っては困るのだ。
 他国の機体を一手に集めたのも様々なデータや実物を回収して新型機開発に役立てる為なのだから、それを嫌って貰っては仕事にならない。

「しかし武御雷に技術転用するというのは」

「帝国内部の技術限界があるからこうして他国の技術を吸収するんだろう」

 片手に詳細資料を持ち、ブラックウィドゥ一号機【スパイダー】の解体作業を見ながら少し苛立つ。
 選り好みしているような余裕はないんだ……武御雷はそれでも近接機の完成形として相応しい精度を誇るのだ。

 間接系等の重点強化・ブレード装甲による近接特化・高い推進力を持つ噴射装置。

 原作で最強の第三世代なんて言われるのも良く解るが、それでも近接戦の完成度だけで別の視点から見れば欠点は大きい。
 このブラックウィドウと同じように整備性や高スペックを生かす為の様々なシステムの欠落は、兵器としてはあまりにも大き過ぎる欠点。
 だから他国の技術を取り込み組み合わせて、様々な問題に対して戦いを挑み解決していかねばならない。

「帝国の象徴だからこそ敗北は許されないのだよ」

「帝国の象徴だからこそッ! 真に帝国の力のみで成し遂げるべきなのですッ!」

 お堅い人間だとは思っていたが、ここまでとはな……だがあながち間違ってはない。
 他国の技術を盛り込むというのは整備に他国の手を必要とする事になっていく、ここ一番で整備が出来なくなっては本末転倒だからな。
 だが本当に高い完成度を誇る武御雷を現状の技術力で強化するには、現状の技術力で別の点を特化させている他国が必要なのだ。
 元々量産性は無視してた機体だ【三種の神器】を搭載するだけでも充分な強化だがやはりより高い完成を目指すのは技術屋の性質だ。


「……そうか」


 目の前で【三種の神器】を搭載しているブラックウィドゥ二号機【グレイゴースト】。
 灰色の亡霊か……企業も随分と皮肉なプレゼントを寄越すものだな。
 まぁ俺もその皮肉に賛同しているからこそ一号機を解体して予備パーツに廻し、二号機を改造しているのだからな。

 剥き出しになっている管制ユニット周辺には基盤の積み替えやXM3を搭載しているCPU関係の整備屋。

 動力炉や噴射ユニットの心臓部を抜き出し、水素機関を代わりに埋め込み接続し軽く動かしてデータを取る技術屋。

 逆に抜き出された動力炉などはすぐさま帝国の巌谷中佐や有澤重工に廻され、データ解析を受ける手筈になっている。

 それぞれの部署が忙しく動いていて、手並みの良さもさる事ながら新米は随分と怒鳴られながら仕事をしている。
 ……まるで昔の頃に帰ってきたみたいだ、お父さんの背中を追って科学者になって研究研究の毎日を送っていたあの頃みたい。
 皆が居てくれて、お父さんが居てくれて、皆で一生懸命研究をして充実していたあの頃のようだ……もう戻れない日々なのにな。

 篁中尉が後ろへ敬礼をしている事に、やっとコイツの乗り手が来た事に気付かされる。


≪私に何のようだ≫


 アナトリアの英雄・オブライア=ネフェルト大尉……通称はレイヴン。
 この未亡人の旦那となるべき人間であり、最強のレイヴンにして傭兵たるこの男。
 この男への皮肉すぎる言葉を伝える為にこの機体は送られてきた、企業も暇なんだな。


「来たなレイヴン、これがアンタの新しい愛機ブラックウィドゥ【グレイゴースト】だ
 企業からアンタへもっとも相応しいだろう品物だが……流石に名前から自分に対する皮肉は解るだろう?」


 この言葉にレイヴンは何が言いたいのか気付かされたらしい。


「そうだよな、真っ黒な鴉(レイヴン)が【白き閃光】の異名を名乗るだけならまだ良しも……黒い筈の機体を白く染め上げている
 滑稽千万だなレイヴンッ! そんな事をしようと貴様の犯した罪は消えない、黒は白にはなりえないのは明確だというのにな?
 自分の手で討っておきながら贖罪とばかりにその名と機体を受け継ぐなんてなぁ、だからこそ今の貴様には相応しい機体だよ
 黒き番いを失い・白き戦友をその手で亡き者にして・贖罪とばかりに黒を白に染めようとして灰色になって彷徨う亡霊なんてな」


 我ながら悪役だと自負できる……だがこれこそ企業が今のレイヴンに伝えたい最大限の皮肉と嘲笑。

 だからこその【黒の未亡人】であり二号機【灰色の亡霊】だ。

 フィオナを失い、戦友ジョシュアを殺し、そして今はこの極東で戦いの日々を送るだけの無報酬生活を送るレイヴン。
 自らの強さ故に第二の故郷アナトリアを失陥させるだけでなく、小さな反抗勢力だったラインアークに強大な戦力として利用される。
 どこまでも馬鹿で不器用なレイヴン……そしてリンクスされた雑種たる存在でありながらその戦力は単機で企業戦力と同等。
 平和と戦いのない生活を求めて彷徨い歩いたというのに、辿り着いた自由を謳うラインアークですら戦いを強要される日々。

 更には戦友にして自身の最大の好手敵だったジョシュアの愛機【ホワイトグリンド】を造り上げたアブ=マージュまでいる始末。

 そして選び取ったのは二代目【ホワイトグリンド】の名と二代目【ホワイトグリンド】の名を与えられた新たなる愛機。


≪言いたい事はそれだけか?≫


 そう手話をした後に……俺はレイヴンから怒りの右フックを賜る。
 だがリンクス同士ならばこの程度の拳はなんの問題にもならない、本人も随分と手加減してくれていたから余計にな。
 珍しく怒りを曝け出しているレイヴンは殴る事に使った右拳を今だ震わせながらただ立っている。
 あまり痛みのしない右頬を擦りながら左手に持っていた資料を篁中尉に投げ渡す……どうせだ鈍った身体を暖めるとするか。


「……ミッションはこの新型機の試験運用、成果に応じて報酬を支払う」


≪了解した、相手するのだろう?≫


 ふっと怒りの失せた顔で微笑みながらその言葉を手で紡ぐ。
 対する俺は久々に手強い奴との模擬戦に燃えているのか両手の指を器用に鳴らす。
 周囲は既に作業の手を休め俺とレイヴンの喧嘩勃発の様子を黙認している……と言うのもこの横浜基地でちょっとした賭けが流行っているのだ。
 この基地に世界屈指の衛士が何人もいる事で出来てしまった模擬戦トトカルチョって奴だが、俺はあまり模擬戦をしないので人気が悪い。
 少し評価を挙げておかないとな。


「全員ッ! 私の武御雷:雲耀とグレイゴーストを出す準備をしろッ! 訓練地はC-5を要請しておけッ!」


 この格納庫にいる整備兵全員が一斉に『イエッサー』と元気良く返事をし、先程までとは打って変わって元気良く準備を始める。
 俺は普段の白衣をバッと脱ぎ去り、普段は白衣で隠れている軍服と中佐の階級章を格納庫の照明よって輝かせる。
 対するレイヴンは普段通り両腕を前に組んだ状態だが、こちらを見ている眼はおそらく本当のレイヴンとして本気の眼だ。
 強敵に対する本気と言うのか……あるいはレイヴンも本当は戦闘狂なのか随分とその眼は笑っているように見て仕方ない。

「主任ッ! 殿下より賜りし武御雷を賭博に用いるなど」

「レイヴンとの模擬戦は下手な実戦並みにデータが取れる、せっかくなのだから派手にいこうじゃないか」

「しかし……いえ解りました」

 反論するかと思っていた篁中尉があっさり引き下がるので拍子抜けと言うか唖然してしまう。
 確かに武御雷を賭博に用いる(賭博しているのは整備兵の皆さん)のは許されることではないが、レイヴンのような実力者との勝負は訓練にもなる。
 それにレイヴンは最強のノーマル乗りだ……この先の実戦を考えるとレイヴンほどノーマルを扱えなければ戦死してもおかしくない。
 腕が鈍る前に少し全力で戦ったほうが自分の為にもなる―――それに俺の武御雷にはAMSも搭載してある、試験運用には持って来いだ。

「中佐の武御雷はッ!?」

「94番にあります、いつでも出せるそうですッ!」

「よっしゃあッ! 中佐の奴とここにあるブラックウィドゥすぐに出せッ! おい誰か司令部に許可取れ許可ッ!」

 まぁ万が一に備えてすぐにでも出来る様に司令部には許可を取ってここに来ている。
 すぐにでも市街地の模擬戦場が空けられるだろう、テルミドール達には前もって連絡を入れてあるからな。
 その市街地で模擬戦中の伊隅達をしっかり揉んでくれているテルミドール達がすぐにでも譲ってくれる筈だ。

 俺はすぐさま更衣室に向かい新型強化装備【一式】を着込んで地上に出た。

 レイヴンはどうやら愛機になるアレの簡単な説明を受けてから上がるらしく一足遅れとなった。
 


『中佐、準備はよろしいですか?』



 荒廃した市街地……旧横浜市外に配置された殿下より開発の為に俺に預けられた武御雷:黒の管制ユニットから夕陽を眺めている。
 あれから20分程度で模擬戦用意を完了させた整備兵達には感謝するしかないが、それでもそこまで熱中するかトトカルチョは?
 直立不動状態の武御雷の格納されていない管制ユニットから見る夕陽は中々の光景で、夕陽の映る海が中々綺麗だった。

「いやすまんな涼宮中尉、急に管制を担当して貰って」

『いえ……久々に中佐の管制が出来ますから良いです』

 この頃、伊隅達と訓練していない所為で中々面々と話せていない。
 新型開発で机に付きっ切りなのもあるがデータ回収はテルミドール達に任せていると言うのも大きい、いつ振りだろうか戦術機に載るのは。
 しかも久々に載るのが武御雷の改良機とはなんとも豪勢な話だが……流石に山猫を市街地戦で使うつもりはない。

 汚染などよりもその巨体と重量が市街地戦だとかなり不利になってしまうからな。

 それよりもせっかく許可の下りた機体だ、自分が設計した機体には乗っておかねば解らない部分も有るだろうし新型強化装備の精度も確認したい。
 あとはアスピナが寝ている間に調整したAMSの精度なんかを確かめる必要性があるのも大きい、コイツは特に自分の命に直結するからな。
 座席に座り込み、管制ユニットが内蔵され網膜投影が起動し機体のコンディションや装備品などの状態が克明に表示されていくのを眼に通す。


「さて久々の実機訓練だ……行くとするか」


 【武御雷改:雲耀】

 武御雷に【三種の神器】を搭載すると同時に更なる性能アップを行ったコストを度外視した完全精鋭専用機体。
 帝国も武御雷は『精鋭専用で良い』と割り切ってコスト度外視や性能重視を優先した結果としてかなりの性能上昇に成功した試験機体。
 より高い運動性能・間接の更なる強化・スーパーカーボンブレイド装甲の強化・内蔵水素機関の高出力化など本当にコストを考えていない。
 兵装担架を四つに増加と肩甲骨部分の装甲変化を諦め、代わりに肩にミサイルなどを背負えない分を他に廻した。
 二の腕内部に短刀を内蔵したり、手甲にはレーザーブレード、股関節を覆う装甲内部ある予備弾倉数の増加など別の面を色々と弄った。
 だが元は最強の近接能力持つ第三世代戦術機……シミュレーターなどで叩き出したデータはかなりのモノでハイヴ内部などでの乱戦も考えてある。
 特に内部機構に予備コンデンサーを追加内蔵してなんとか誤魔化せる程度だが水素を補給できない状態での戦闘継続能力を強化もした。


『オブライア大尉、戦闘用意完了したそうです』


 レーダーに反応が追加されている。
 一度深呼吸して呼吸を整える……相手は最強のレイヴン、ノーマル同士の戦いなら確実に負けるだろう。
 だがこちらは近接専用の分厚い装甲・高機動・衛士の描く太刀筋を再現させられる高性能な間接を持つ機体だ。

 間合いを詰めて瞬時に【斬る】しかない。

 あとは俺の実力次第だが、相手は磨耗なき全盛期のアナトリアの傭兵ことレイヴンなのだから勝てる見込みは少ない。
 何せ単機で数個師団……いや軍隊に匹敵する評価を持つ相手だ実際1VS4のネクスト戦だろうと乗り越えた相手。

 思い出せ”天敵”としての俺を。

 テルミドール・ウィンD・ローディー・リリウム……そしてセレンの五人を相棒と一緒に相手して勝ったあの日の俺を思い出せ。

 たった一人で数億人を殺害し全てのクレイドルを落としたあの日の俺を思い出すんだ。


「I’m a shooter」


 それが”天敵”の引き金。

 自然と卑屈な笑顔が零れ、涼宮中尉からは俺の姿が見えないように通信に制限をこちらから掛けた。
 そしてプラグを引き出し普段は隠してあるコネクターに接続し、脊髄に太い注射針を自ら差し込み痛みを堪える。
 全身の皮が”何か”と引っ付く感覚と内蔵や骨に見えない支柱が突き刺さり、全身を電気信号が駆け抜けていくのが解る。

 そして世界が俺の眼から武御雷の眼に変わる。

 睨み目と呼ばれる頭部の独特なカメラを覆うカバーから見える世界は……普段と変わらないがな。


『―――状況開始ッ!!』


 その言葉と同時に地面を蹴った。


 視点:???

 多くの人間がその模擬戦を見ていた。
 バリバリと合成魚の頭を食べていた訓練生一同・横浜基地の英雄部隊である伊隅ヴァルキリーズ・国連最高峰の人間が集まるオルカ隊。
 武御雷改良の為に派遣されて来た帝国軍第19独立警備隊の面々や終いには副指令や訓練生の教官に到るまでがこの模擬戦を見ていた。

 片方はトルコ防衛の英雄であり単機で師団に匹敵すると言うオブライア=ネフェルト大尉こと愛称はレイヴン。

 もう片方は極東の魔女の懐刀であり幾多モノ実戦を潜り抜けた凄腕であり戦術機革命の元凶技術士たる古島=純一郎中佐である。

 倍率は【オブライア1.2倍:コジマ3.0倍】とこの頃模擬戦をしていなかったコジマの倍率の方が遥かに高い。

 戦場は旧横浜市街地。

 遮蔽物も多く瓦礫などを盾にした戦術や奇襲戦法が可能な場所であり、横浜基地の実機訓練場として機能している場所である。
 本来は薬莢などを復興するかもしれない場所に放置しかねない実機訓練は避けるべきなのだが、それ以上に訓練場としての機能が大きい。
 市街戦は戦術機にとっては基礎戦場となりうる場所であると同時に……本土防衛などで市街地戦の経験が不足していた部隊は喃々辛苦を舐めることになったからだ。


『―――状況開始ッ!!』


 今回の模擬戦の実況を担当する事となった涼宮遥中尉の言葉と共に両機共に動いた。
 黒い雲耀を駆るコジマは市街地の瓦礫を踏み砕きながら地上を前身に、ブースト噴射による地上スレスレの機動を行いながら一気に突き進む。
 対する灰色のブラックウィドゥを駆るレイヴンは開幕と同時に上昇し、両手に持つ80mm支援速射砲ことアサルトライフルの狙いを定める。

 先手を取ったのは当然ながら遮蔽物のない上空から戦場を見渡すレイヴンであり、80mmアサルトライフルが火を吹く。

 だが遮蔽物のない空中にいるという事は当然ながら相手からも見えており、銃口が銃弾を放つ光が当然ながら見えている。
 
 素早くコジマは機体を廃墟のビルの一つに隠し、その廃墟を盾にしながら砲撃を回避する……模擬弾はペイント弾なのでビルを貫通出来ない。
 本来ならばビルが倒壊してもおかしくないがペイント弾に貫通・倒壊するだけの威力がないからこそ出来る回避方法だが適切だった。
 またアサルトライフルは搭乗者にもよるが一つの弾倉に200発内蔵されており、迂闊な射撃ばかりしていてはすぐに弾倉が空になってしまう。 
 無駄弾を撃たせてここ一番での射撃戦で優位に立とうとするのが見えていたからこそ、レイヴンは射撃を止めて高度を落とす。

 ノーマルでは高度を維持するのでもかなりのエネルギー消費になってしまう、だからこそレイヴンが高度を落とした所で今度はコジマが動く。

 目の前にあるビルを足場に三角飛びを行い、レイヴンの頭上に素早く出ると同時にQBで接近しつつ右手の36mm突撃砲の弾をばら撒く。

 
「真改戦術か、冥夜は良く見といた方が良いよ……多分完成形だからさ」


 訓練生の一人が呟く。
 それは彼や彼の仲間達にとって親しい人物の戦術であり、自分達の仲間であるコジマがその戦法の生みの親から直に教わった戦術。 
 【弾幕を展開しながら接近して斬る】……ただこれだけで言い表せるその戦い方だがこれがどれ程難しいかは行う人間でなければ解らない。
 
 現に36mmの弾幕は集弾性能の悪さから見当違いな方向にも飛んでいるが、そのバラケがむしろ回避には邪魔になる。

 だがレイヴンは多少の被弾には目を瞑り、即座に右へと瞬間的にバースト噴射して最大速度突入直後に瞬時に通常速度に減速するトリッキーなブーストであるQBを使う。

 36mmのペイント弾が掠るが明確な被害にはならず、むしろ被弾しても報告されない程の小さなダメージしか与えられていない。
 しかしコジマは右手に持つ長刀を構えたまま追撃するように右へとQBを使い接近するが、二丁の80mm支援速射砲の弾幕に阻まれ接近出来ない。
 いかに武御雷の硬く分厚い装甲でも正確でそれなりの威力を持つ80mm弾は数発で深刻な被害を与えかねない、だからこそ接近でありコジマの奇策の一つ。

 全力で胸前から腕をピンッと延ばすように長刀を投げ、長刀はまるでブーメランの如く真横に円を描きながらレイヴンへと正確無比に飛来する。


『オブライア大尉ッ! 80mm大破自動放棄されますッ!』


 投げられた長刀はレイヴンの右手に持っていた80mmの砲身を見事に捉え、一撃で大破判定を繰り出すと共に自動的にレイヴンの右手から支援速射砲が放棄される。
 コジマがその隙を逃す訳はなく、瞬時に残り少ないエネルギーの全てを背中の普段は装甲に隠されているOBユニットを開放し一気に大気の壁を盾に接近した。
 本来ならば空気の壁を越えられるだろうが人型兵器のような空気抵抗の大きくなる面積で大気の壁に激突すれば……最悪空中分解が待ち構えているからだ。

 故にコジマがOBを使用したのは極一瞬だが、少しでも加速すれば噴射を止めても慣性が残り続け急激な加速に繋がるのは明確。

 そしてコジマの身体はAMSを介して雲耀自身になっている、つまり一時的ながら本体を無視した機動が可能であり鋼鉄の身体は大気と加速による痛みを感じない。
 右手の手甲内部に存在する月光にコンデンサー内部の残っている電力を廻し、刀身が展開させられだけのエネルギーが送り込まれた発生装置は月光の刀身を作り出す。
 狙いは管制ユニットでありレイヴンの本体である肉体が内蔵されている部分……ここを突けばその瞬間にコジマの勝利が確定する。


≪―――ッ!≫


 だが仮にも最強のレイヴンはそう簡単には勝利を譲らない。
 自身の心臓部へと突き出されている月光の輝きに怯える事無く、逆に左手に持っている80mmを突き出し慌てる事も怯える事無く普段のように狙いを付ける。

 そう”極自然”に銃口は右腕を突き出しているコジマの心臓を狙う。

 AMSに繋がれたレイヴンの左手は何の躊躇いや導きもなくゆっくりと動いている世界の最中から正確無比に相手の心臓を捕らえる。
 染み付いた殺しの技術と幾多モノ実戦が身体に・本能とも言える部分に刻み込んだその技術は無慈悲なまでにレイヴンを相手を殺す事へと導く。
 たとえ世界がゆっくり動いてなかろうとレイヴンの眼には敵対者の動きがゆっくりと見えている、一歩間違えば自分が死ぬだろう瞬間でもその狙いはズレない。


「取られるか?」


 オルカ隊の一人の女性が呟くが、皆心配一つしていない。
 むしろ溜め息交じりで彼女達の隊長であり団長が言葉を返す。


「ないだろう」 


 その言葉を裏付けるかのようにコジマは月光の展開を止め、そのまま自分の心臓を狙っているライフルの銃身を蹴り抜く。
 雲耀のモデルとなった武御雷の爪先やカカトはカーボンブレイド装甲が施されており、鋭く尖らされたその一撃は十分過ぎる破壊力を生む。
 腕を突き出し相手を貫くと言うモーションをキャンセルしQBによって素早く旋回するQT(クイックターン)による左回し蹴りは80mmの銃身を粉砕する。

 銃身が蹴り砕かれ粉々となったライフルに用はなく、レイヴンはすぐさま担架から新しい武装を取り寄せようとするが腹を更に蹴られる。

 左足が80mm支援速射砲を蹴り砕いた瞬間に更にコジマがこの行動をキャンセルし、そのまま強引に左足を伸ばしレイヴン押し飛ばしたのだ。
 そしてそのまま蹴られた勢いで落下していくレイヴンを重力による落下で追撃しながらコンデンサー内の電力を再度充填しつつ追撃。
 四つの担架に背負っている長刀:36mm突撃砲=2:2で背負っている状態から二丁の突撃砲を取り寄せ両手に装備しレイヴンに向けて一斉射撃をするコジマ。

 だがエネルギー面でレイヴンは現在大きなアドバンテージを持ち、更に担架にはまだ80mm:36mmが2:2で背負われている状態でもある。

 被弾する前にレイヴンはOBにエネルギーを集中させそのまま起動、その推進力を利用して落下追撃して来ているコジマの真下を通り抜け即座にOBを停止。
 両手に予備の80mmを装備すると即座にQTで右回転180°でコジマの背後と下を取り、担架に残っている36mmも起動させ全ての狙いを背後を晒しているコジマに定める。


『やるじゃないかレイヴンッ!』


 一斉射撃に対してコジマは逃げるのでなく自由落下中にチャージしたエネルギーを使いQT……自分に迫る弾幕に対して真っ向から撃ち合いを始める。
 空中での撃ち合いは一切遮蔽物のない純粋な機動力と捕捉能力の高さがモノを言う、その二つのリンクスもまた少ないエネルギーを巧みに使い互いの弾幕掻い潜る。

 コジマは右へのQBによってペイント弾の集中砲火から逃げるのに合わせて応戦の36mm・120mmの弾幕を展開していく。

 レイヴンはあえて推力一時的にカット・重力によって高度を落としてその弾幕を掻い潜るとすかさず推力を復活させ、そのまま一定の距離を保ったまま砲撃を継続させる。

 XM3によるキャンセルやフィードバックシステムの強化による擬似OBによる縦横無尽に飛び回りお互いの側面・背後を求め合い二人は踊りあう。
 時に高度を落とし、高度を上げて頭上や足下を見上げ見下しながら常に最適な距離を保ちあうそれはまるで戯れにも似たソレがあった。
 光線級の迎撃の真っ只中だろうと大空を羽ばたき続け無数のBETAを撃滅してきた凄腕だからこそ出来るようなその戯れは同時にお互いの技量を示す。

「動きませんね、大尉」

「いや動くぞ、先手はオブライア大尉だ……私はオブライア大尉に賭けてるから勝って貰わねばな」

「えっ大尉賭けてるんですか?」

 四丁VS二丁では純粋に吐き出される弾の数が違うのと同時にレイヴンの装備している新機軸突撃砲は銃剣の他に通常よりも大型の弾倉を使用している。
 日本帝国の36mmの弾倉は1200発に対してその大型弾倉は1500発もの弾薬を内蔵しており、撃ち合いになれば必然的に弾数でレイヴンが勝つ。 

 この300発差が勝負を動かす。

 空中での砲撃戦の最中でも弾薬交換を完了させられる技量を見せ付けるが、その僅かな弾幕の停止と弾倉交換の為に落としたスピード。
 レイヴンの捕捉能力は必然的に好機と判断し、弾幕量を調整してまだその弾倉に弾の残っている80mmが連続して火を吹く。
 高度を落とし瓦礫の市街地に逃げ込むコジマだが、着地点の瓦礫が僅かだか機体の右足を不安定にさせ結果として体勢が僅かに崩れ逃げ切れず右肩に直撃弾を頂いた。


『古島中佐、右肩間接直撃ッ! 右肩・右主腕の操作をこちらで落としますッ!』


 大空を平均500km/hの急加速と減速を織り交ぜあう機動戦闘と瞬時に後退し瓦礫にその身を隠そうとしたが、逆に瓦礫が邪魔となり間接を撃ち抜かれる。
 管制の手でコジマの右腕は電力を断ち切られ力なくぶら下り、装備していた36mmも自然にその場に放棄されてしまう。
 コジマは腹を括り左手に装備していた36mmを放棄、左肩に残っている一本の長刀を装備し、動かない右肩が背負っている長刀を操作して放棄。
 残っているのは内蔵してある短刀・レーザーブレード・長刀の各種近接装備に対してレイヴンはまだ四丁の銃火器に健全な機体。

 いかに瓦礫によって起きた事故と言えど一瞬で敗北寸前にまで追い込まれたコジマだが、レイヴン相手に非常に良く粘っていた。

 レイヴンも高度を落とし市街地に降りてきているが、こちらは健全な機体が存在すると共に既に予備弾倉へと全銃火器を装填しなおしている。
 1500発の36mm・15発の120mm・200発の80mmが待ち構えて、距離を取ればすぐにでも危険は去る状態。
 僅か一瞬だろうとレイヴンは体勢を崩した瞬間を逃さず的確に装甲と装甲の隙間を狙い撃ち、そしてそれが一撃で右腕を沈黙させるに到っただけ。
 最強と謳われるレイヴンの実力を垣間見た瞬間であり、大勢から見ればラッキーパンチだろうとも本人や狙われたコジマから見れば恐怖すべき実力。
 更にもしこれが実弾による模擬戦ならばレイヴンは乱射に乱射を行い射線上に存在する廃墟を倒壊させコジマを撃ち殺しているがペイント弾故に出来ない。


「沙霧大尉……あれを幸運な一撃と思いますか?」


「ない、おそらく意図的に撃ち抜いた……悪魔か神の技だ」


 帝国軍でも屈指の実力を持つ衛士ですから恐怖するその実力は、彼等には決して理解出来ない戦争によって手に入れた力。
 性能差は互角と言える高スペック機体同士の戦いで勝利を呼ぶのは純粋なまでの実力と僅か一瞬の運気だとしても、レイヴンが示したその一瞬は悪魔に等しい。
 元々レイヴンやリンクスは同じ機体に乗る事はなく自分の戦い方などにもっとも適した機体に乗り、戦いあうからこそ武装差程度ではまったく障害にならない。
 常に相性の悪い戦いや圧倒的なスペック差を誇る相手に対して絶望的な戦いを繰り広げあう戦争を経験したからこそ身に付いたその技量と実力。


 対するコジマは仮にも幾度とない転生を繰り返し、凡人には想像出来ないであろう人生を経験した事で手に入れた力があるからこそ”均衡”出来ている。
 機体を細部まで理解した上で乗りこなす・乗りこなせるようになった技量と実力は相棒と謳う人間と共に5体の企業戦力を相手に勝利を手にするだけの力量。
 たった一機で世界を敵に廻すその存在感を持ち合わせ、歴史上においてもっとも自らの手で殺人を犯した”人類種の天敵”とまで恐れられた存在でもあった。
 その”天敵”としての技量に加えて高スペック機体である武御雷:雲耀を持ってしても接近できたのは僅か一回だけ……互角になれる筈にも関わらず互角でなかった。


『フハハハハッ……化物が』


 それは嘲笑にも似た笑い……全盛期を相手に”天敵”ですら互角手前の勝負しか出来ない自分への嘲笑。
 自分も化物と認識していたが目の前に自分を遥かに超える化物が降臨し、その翼を羽ばたかせている。

 灰色の大鴉。

 幾多モノ山猫を食い散らかし、たった一羽にも関わらず無数の存在に恐怖を与えていく最強のレイヴンであり傭兵。

 意を決してコジマは今一度ビルを壁に飛び上がり、レイヴンを見下すように飛び上がり左手の長刀を振りかざす。
 大空はレイヴンのモノだとしても、市街地と言う”森”は山猫たるコジマの戦場であり世界……飛ばせた時点が敗北する。


≪―――ッ!?!?≫


 再び同じ戦法を取ってきた事もだが、巧く自分の頭上への逃げ道を塞ぐように上から現れてきたその奇襲に対してレイヴンは逃げなかった。
 全銃火器の銃火器を自分目掛けて落ちてくる黒い山猫たるコジマに向けてひたすら弾倉内の弾を撃ち出し続ける。

 黒い機体が黄色のペイント弾に染まっていくが、重装甲である武御雷は簡単に大破判定を叩き出しはしない。

 レイヴンは咄嗟に80mmを放棄し担架に背負っていた36mmを装備し、被弾しながらも振り上げていた長刀を真上から真下へと振り抜くコジマを受け止める。
 新機軸突撃砲に備え付けられた銃剣を使い両腕を限界まで稼動させて重力・全力の雲耀の一刀をレイヴンは受け止めたのだが当然ながら出力が違う。
 もし左腕だけでなく右腕も揃っていたならばいかにブラックウィドゥだろうと近接特化の武御雷:雲耀の全力を受け止める事は出来なかったが片腕だけの出力。

 ―――それは判断であり、直感だった。

 そして斬撃を右腕の銃剣で逸らし、逸らされた長刀は地面を砕き肝心のレイヴンを捉える事は出来ず、空いている右手の36mmの銃口がコジマの心臓部を捉える。

 撃ち出される36mmのペイント弾が管制ユニットへと吸い込まれ、その位置を更に黄色へと染め上げていく。


『古島中佐、管制ユニットへの直撃弾により大破……状況終了です』


 この言葉を持って戦いは終わった。
 高スペック機体同士が見せたその機動戦闘・大空を自在に飛びあい戯れるように戦い合うにどんな感慨を見た人達が得たのか。

 賭けは結果としてオブライア大尉ことレイヴンの勝利に終わり、コジマに賭けた面々は大損失である。

 だがこの日の戦いが見る事を許された訓練兵達に、この地で戦友として君臨している者達にどんな想いを抱かせたのか。
 英雄と技術屋が見せ付けたその戦う姿に部下となる純粋な人間である者達にどんな恐怖を抱かせただろうか。


 ほぼ無傷で君臨するレイヴンと見下される傷だらけのコジマ。


 圧倒的な実力差を示すかのように、灰色の未亡人は公然と片膝をついた雲耀に何をする事もなく大空を飛翔して基地に消えた。

 2001年4月初旬の出来事。


『…………化物め』


 沈み逝く夕陽照らされながら、英霊眠る桜の花はまだ咲かなかった。 


□□□


 ※注:レギュ1.20ver

 名前:エンディング

 頭部:GAN02-NSS-H
 コア:CR-HOGIRE
 腕部:GAN01-SS-AL
 脚部:GAN01-SS-L
 
 右手:ER-O705 レーザーバズーカ
 左手:03-MOTORCOBRA 重マシンガン
 右背:GAN01-SS-GC 重ガトリング
 左背:RC01-PHACT レールキャノン
 両肩:EUPHORIA PA強化装置

 内蔵右:EB-O700 居合いブレード
 内蔵左:EB-O700 居合いブレード

 火器管制(FCS):OMNIA  高負荷・バランス型高性能
 ジェネレーター:ARGYROS/G  最重量・トップクラスの高性能
 メインブースター:MB107-POLARIS  1.20強ブースターの一つ
 バックブースター:BB103-SCHEAT  1.20強ブースターの一つ
 サイドブースター:SB128-SCHEDAR  1.20強ブースターの一つ
 オーバーブースター:GAP-AO.CG   AA展開可能で1.20強ブースターの一つ

 頭部スタビライザ:SAUBEES-HEAD-1 オールドキングのトレードマーク

 ステータス強化:積載量・EN供給・EN容量・KP出力・旋回性能・ロック速度・運動性能・照準安定はフルup
         440前後あるメモリポイントをとにかく何かに使って強化した状態
 

 三種ルートをコンプした時の浪漫×外見×強パーツで構築した作者の重量寄り機体
 メルツェルの機体・銀翁の内装・テルミドールのレーザーバズーカ・真改のマシンガン・ヴァオーのガトリング・ジュリアスのレールキャノン
 ラスターのPA強化装置・そしてオールドキングのスタビライザーを装備した騎兵隊の隊長のような外見をしていて機体バランスは完全無視
 レギュレーション1.20だからこそ戦えて、1.20でないと生きる事も出来ない時代に取り残されていく愛機の一つ
 近接砲撃による瞬間火力の高さは並大抵のネクストなら本当に瞬殺出来るが、代わりに弾道安定武装がないので遠距離・高機動戦は貧弱そのもの
 幸いこの頃のブレードホーミングが壊れ・剣豪再来時代なのでCPUならばこの重い機体でも斬れるので右手のレーザーバズーカを月光に換装する事もある
 5vs2の時でも当てられるならば勝てる、PAを剥がしたらガトリングとマシンガンの同時攻撃で瞬殺可能に加え至近距離のバズーカの威力も味方
 ただレールキャノンくらいしか遠距離武器がないのが最大の欠点……少し距離を取られると弾道安定の悪さと拡散率によって涙目必須の機体構築
 あとEN効率とQB乱用を考慮して平均速度が300km/hの遅さも欠点……遠距離戦と高機動戦の弱さに拍車を掛ける要因だが腕でカバーするしかない
 飛んでくるミサイルは根性と弾幕で回避、それくらいしか本当に抵抗手段がない、正面の撃ち合い様にPA強化装置を積んでフレア抜きなのも手痛い

 ネットにつなげないので1.20でレギュがストップ状態なのでこの機体が最高傑作、繋げれば1.40版に修正するのですけど……

 ただ1.20は色んな機体が簡単に壊れ・強機体に化けるバージョンなので相性や勝てない機体にはとことん勝てないので注意してください
 そしてコンセプトは無論『殺(ヤ)られる前に殺(ヤ)れ』です―――音速を超えて光速で蜂の巣にしてやんよッ!!


 感想で聞かれたコジマの愛機設定。
 見ての通りガチの強パーツで構築された機体・これさえあれば5vs2もマジで勝てます
 とにかく殺される前に殺しましょう、セレンだろうが何だろうが瞬殺しないとこっちが殺されますから


 さてアーマードコア5発売決定ッ!!


 ファミ通など曰く設定ではネクストの大きさはなんと平均5mとフロントミッションのヴァンツァー並みの小ささ
 戦術機が平均15mなので比べても3分の1程度しかないんですね、それが音速戦闘をしながら戦艦並みの火力で襲い来る恐怖
 大きさ低下なので戦車や航空機が再び強敵かすると共に、そんな小さなネクストが背負うのがあのオーバードウェポン
 確かにネクストならば出来るだろうけど凄いですよあの武器……ドリルブレードですよドリルブレード
 
 そして久々に書く事が出来た実戦モドキ、そして4主のこのネタをやりたいが為に接収させたグレイゴースト

 満足ですけど、戦闘描写がどうも満足出来ない……やっぱり難しいですね
 あとはレイヴンのノーマル戦での圧倒的な実力を見せ付ける為にかなり強キャラとして描いてしまった、でもやっぱり強いんですよねあの人
 でも今は本当にこの灰色の亡霊や未亡人ネタが出来て満足してます…課題とテストに死にそうですけど


 ご指摘により修正



[9853] 三十二話[研究と焦燥と対価]
Name: 博打◆19d1c82a ID:11184927
Date: 2010/01/26 01:17
 視点:???

 アスピナ研究所……国家解体戦争では医療用であったAMSの軍事転用を積極的に推進すると同時に【リンクス】と言うシステムの完成を目指した。
 あらゆる企業と秘密裏に接触しこれらの研究成果を売り渡す事で【研究所】でありながら下手な企業よりも【企業】と呼ぶに相応しい規模へと成長。
 ネクストの根幹たるAMSとリンクスの二つの商品を持って莫大な利益を企業から手に入れると同時にアスピナは絶対的な安全を手に入れる事が出来た。
 開発当初はアスピナしか大規模な整備装置などを保有して居ない事と調整手段の難しさなどからアスピナの存在はリンクスにより体裁を保つ企業には不可欠な存在。
 国家解体戦争ではリンクスにより勝利と世界を手にした企業にとっては当時のリンクス達は絶対不落にして必要不可欠な存在であり、これの欠落は【死】を意味する。

 だからこそ企業は『アスピナに手を出す事を禁止する』と言う不文律を作り出す。

 大企業の加護の下で研究所ではない規模の研究を行い、リンクスを確立させたアスピナだったが、時間の経過と共に整備装置などの普及が完了し立場は一転。
 アスピナの支援を不必要とした大企業達からの支援は断ち切られアスピナは致命的な経済危機に直面すると同時にその研究成果の保存に迷走をきたす。

 【パックスエコノミカ】

 国家解体戦争においてリンクスを主力に腐敗・荒廃を続ける国家に対して戦争を挑み勝利した企業が決定した理念。
 【経済による世界安寧】であり人々は生活区画に押し込まれ糧食を得る為に労働に従事する日々を確立させ、働けない者や経済安定しない者達を地獄に叩き込んだ理念。
 アスピナ研究所もまた【コロニー:アスピナ】を建造し糧食を得る為に従事するが決して楽な日々ではなく、企業からの支援もまた最低限しか存在しない。
 様々な形で研究を転換し経済危機を脱しようとするがそれは叶わず、致命的な打撃を受け続けるアスピナは研究成果の発表として皮肉な方法を見出す。


『研究中・開発に成功したリンクスを”様々な形で”実戦投入する』


 後にリンクス戦争と呼ばれる戦争が起こる以前・そしてAFが君臨するまでの間においてリンクスは企業が欲する最大の戦力であり、圧倒的な強さの化身。
 だがこのリンクス達は素質を必要とされるので数を揃える事が非常に困難であり、大企業と言えど保有リンクス数は良くて一桁後半であり二桁は在り得ないレベルだった。
 またこの当時は『企業への直接攻撃は禁止』と言う企業同盟により禁止されており何らかの遠回りな形で企業は他企業を牽制するほかなかった。
 そしてこの選択肢が大規模支援を打ち切られたアスピナを今一度【研究企業】の頂点として再臨させる事となる。
 独立傭兵やテロリストに偽装させた所属リンクス、あるいはテロリストへの秘密裏な支援においてアスピナはまさに格好の隠れ蓑かつ通路だった。
 アスピナへの攻撃を不文律で決定したのが災いしアスピナは各企業から莫大な資金提供と共に、開発したリンクス達を売り出し彼等のリンクスを調整したのだ。

 売り渡されたリンクス……それがジュリアス=エメリーを初めとしたリンクス達へと繋がる。

 一方でアスピナ自身が単体での経済危機脱出の為に戦線投入した試験リンクス達もまた数多く存在していた……コロニー:アナトリアの技術漏洩を後ろ盾にして。
 同時期において第一人者の死亡によって生まれた情報漏洩で商品を失い経済危機となったアナトリアは同じ技術を売り物にするアスピナにとってまさに宿敵かつ好手敵。
 この二つのコロニーかつ研究機関は経済危機を脱する為に似たような手段であり、同時にリンクス戦争時において圧倒的な強さを保有する二人のリンクスを生み出した。
 後に『最悪の汚染戦争』と称されるリンクス戦争の勃発と共にこの両研究機関は当時の大企業に匹敵する成長と共に、世界から注目されていく事となる。

 最初期型AF【ソルディオス】の多数同時投入……リンクス戦争時において投入され、リンクス戦争の引き金となった世界初の実戦投入AF群は圧倒的”だった”

 だがその群れはたった黒のレイヴンと白のリンクスの前に沈黙を赦す―――漆黒にして一羽の大鴉と純白にして一匹の山猫であり最強を二分した二人の傭兵。

 この二人の傭兵は単機で企業を崩壊へと導き、単機で企業戦力と同等とまで謳われ最強を二分したこの当時畏怖と畏敬を集め君臨した戦いの戦友にして恋の宿敵。


『アスピナはどの企業に対しても属さず、かつどの企業に対しても支援を行う』


 直感的に危険を感じた当時のアスピナ研究所の所長は素早く企業に対して、このような形で保身を行った……強すぎる力を持った事に対する弱者の保身。
 そしてそれが決定打となり、リンクス戦争の勝利者達はアナトリア攻撃を決意しアスピナの傭兵を献上させる形でアスピナから武力を奪い取りアナトリアへとぶつけた。
 当時の技術力や対策では死亡確実であった最悪のPTネクストにアスピナの傭兵を乗せ、最強のレイヴンであるアナトリアの傭兵と戦わせて双方の崩壊を目論む。

 たとえアナトリアの傭兵が勝とうとも、コジマ粒子汚染でアナトリアは遠からず崩壊しアナトリアの傭兵はその存在を保てなくなる。

 たとえアスピナの傭兵が勝とうとも、PTネクストに殺されアスピナは最高戦力を消失し企業に対して従順になるしか生き残る術がない。

 それは勝利なき戦いであり、生き残ったアナトリアの傭兵は戦友たるアスピナの傭兵を殺し崩壊するアナトリアを背に世界から姿を消す。
 最高戦力を失ったアスピナは昔のように他企業からの依頼に応じてリンクスを作り出しては売り捌き、何らかの形でテロリンクス達の調整などを行う。
 リンクス戦争時において保身に成功した代償として自由を失う……がそれ以降においてもアスピナは様々な形で奔走していく。

 ソフトウェアと言うリンクスを製造する事に長けたアスピナ。

 ハードウェアと言うネクストと粒子技術を製造する事に長けたアナトリア。

 技術屋に翻弄された二人の傭兵と振り回され理念を失い戦争を続ける世界がそこにはあった。


「所長、実験準備が整いました」


 そんな世界の記憶を持つ所長と呼ばれる男性は、小さな研究機関の所長だったが大企業との接触を契機に急激な躍進に成功する。
 それは倫理に厳しい日本帝国の大地だろうとも人知れず、だが確かに研究を行いその技術を確立させ企業を発狂寸前まで喜ばせた。
 戦災孤児や難民キャンプで生活している人々を甘い口車で誘いこみ……地獄のような実験数々を施し屍へと変えていく研究だとしても。

 一瞬の幸福に満ちた生活欲しさに多くの難民達が誘いこまれ、世界を救う英雄を生み出す為の実験に消えていった。

 脊髄などに機械を埋め込み違和感などをなくさせる為に、リンクスの根幹をなす【AMS】を埋め込む為の最初にして最大の難関。

 あの世界とは圧倒的な技術力差があるこの世界において、あの世界の技術を再現すると言うのは非常に困難かつ素材の収集や開発もまた非効率だった。
 だが救いだったのは生体修理・義手などの技術が非常に発達しており生体部品の開発だけは当初のよりも遥かに発達しており【神経系統】だけは即席だが完成した。
 元々AMSは機械義手などを生体に繋いで自在に動かす為の物で、高度な神経再現が必要だったがこの世界の生体技術のおかげでその神経だけはすぐに完成。
 そして所長はすぐさま機械部品の製造に取り掛かり、何人もの難民達を誘拐・勧誘しては実験材料として『解体』し本人の意志など無視して機械化していく。


『困ったら我々企業連合を頼りたまえ……全ては世界平和の為の必要な犠牲なのだから』


 老若男女問わず送りつけられる実験体を相手に、アスピナは手術を行い様々な機械部品を埋め込み脳が受けるストレスなどデータを集めた。
 苦しむ実験体に対して様々な抗体薬などを嘘と笑顔を駆使して使用させ、その薬の反動や副作用で何百人もの実験体を殺害して……ようやく完成したのだ。
 リンクスを生み出す最初で最後に必要なAMS……人間を【生体処理CPU】に豹変させる、一種の処理機械へと変えてしまう最悪の機械を作り出す。

 だが完成するだけでは不完全なのだ。

 今度は完成したAMSを実験体に搭載し、更に戦術機に積み込んだそれらで実験してもらう必要がある。
 生き残った実験体や新しく送りつけられる実験体達を有無言わせず改造し、今度は実際にAMSを行使するデータを集める。

 シミュレーターに接続された瞬間に脳が情報に飲み込まれた崩壊した少年。

 強制的に世界の衛士やリンクスの起動を再現させられ死亡した女性。

 修理する目処もない戦術機の実機に載せられ、様々な機動をさせられ実験中に機動に耐えられず人間の形を失った少女。

 何人もの人間が実験によって死んでいく、だが研究者達は感慨を抱かずただ自分達の糧食を得る為に……いつ来るか解らない恐怖を振り払う為に研究に没頭していく。
 前線で戦う力を持たない研究者達に出来る戦いは様々な兵器などを自分の頭脳を持って、限られた時間・資金・資源の中から手掴みで戦う力を掴み取るしかないのだから。


『平和の為の犠牲』


 そう称されながら無数の人間がこのたった一つの製品の為に殺されていった。
 本命たるリンクスを護る為に、リンクス達が長持ち出来る様に、リンクス達が英雄になれる様に。
 必要な犠牲と称されて何人もの人間達が研究によって殺されても、国家は気付く事無くアスピナは研究を続行していった。

 AMSそのものの完成・機械を埋め込む事に対する抗体薬の開発・実戦に耐えられるだけのデータ収集。

 狂気と呼ぶならば幾等でも呼べるだろう。
 何百人もの難民に一時的な幸せを与えた代償として実験を行い、結果として一人として生き残らせていないのだから。
 だがその犠牲が古島を筆頭としたリンクス達を生み出した……人造英雄達を生み出し世界に英雄と言う名の希望を生み出したのだ。
 英雄の希望があるから弱者は奮い立つが出来る、兵士全員が立つべくしてたった訳でなく立たねばならない時代ならば尚更に英雄は必要なのだ。

 ―――英雄と言う名の危険を背負う強大な存在が。

 狂気と希望を比肩して……さてどちらが大きいだろうか?

 無数の犠牲か? それともたった一つの希望か?


「よし、開始して下さい」


 所長と呼ばれる男性の眼下には、企業からの膨大な資金提供によって完成したとある実験場が広がっている。
 地下深く……とても奥深くに建造されたとある実験施設、とても広いドームでありネクストや戦術機を自在に動かせるだけの大きさを持つ。
 幾度となく機動実験を行い実験体達の死骸と残骸が散らばってはこれらを回収し、AMSが戦術機に与える情報などを手に入れ売り出してきた実験体の墓場。
 AMSが実戦に耐えうる性能を持ち抗体薬も完成した事によりアスピナは企業よりまったく新しい研究を命令され、この場で行おうとしている。

 極東の英雄:古島=純一郎に施したとある実験。

 BETAと人間を”リンク”させる……狂気の実験の大規模なモノ。
 AMSを初めとした発達した神経開発は企業とアスピナにある希望と疑念を抱かせるには充分なモノであり、また回収された兵士級からその疑念は更に深まる。

 何故BETAは人類を生命体として認知していないにも関わらず、人間を回収していたのか?

 そして横浜ハイヴで生存者は確認されなかったが、BETAが脳髄だけで保存していた人間は奴等にとって何なのか?

 戦場で確認され素材が捕獲された人間の成れの果てである事が確認された兵士級の存在こそ、本当に何なのか?

 探究心は深まり、かつて行われた計画が判明した人類の否定をBETAが撤回したのではないか? そんな疑問を撃ち砕くかのような人間の再利用。

 考え付いたのは―――必然だったのかも知れない。


「了解しました、要撃級ナンバー4・5を搬入後に警備システム作動」


 戦場で捕獲された二体の要撃級が無人トラックに載せられ、そのドーム内に侵入する。
 所長を初めとしてその場にいる研究者達全てがこれから起こる事に希望と不安を抱く。
 コジマに施し充分なデータを回収した人間とBETAのリンク……生体への影響面だけだが確かにデータは回収出来ている、ならば研究は必然的に大規模なモノとなる。
 圧倒的物量に任せて攻撃してくるBETAは、その物量による行軍の他に砲撃などで絶対に味方BETAを誤射しないと言う性質を保有しているのが判明していた。
 今までの実戦においても特定衛士が狙撃されそうになった際に運良く前方を覆うように要撃級が出現した事で、レーザー照射を回避した事例も確認されている。

 少なくともBETAには友軍を識別する何かを持っている、そしてこれを利用する事が出来ればBETA戦線を打開する事が出来るだろうと。

 どんな乱戦状況だろうともその擬似信号を利用すればBETAはこちらを攻撃せず、こちらは友軍信号を逆手に一方的な反逆行動を起こす事が可能になっていく。
 物量の森・海に対して群れに同化し厄介な光線級などを叩き潰す、あるいはハイヴ攻略戦においてこの擬似信号が決定的な攻略兵器になるかも知れない。
 たとえどれ程の群れが存在しようともBETAは友軍を疑わないならば、その擬似信号により何の抵抗もなく反応炉へと到達し破壊出来るのでは? と言う一抹の希望。
 アスピナの科学者達はこの擬似信号と友軍識別方法を特定する為に……いまこれからその実験を開始しようとしていた。


 覚醒する二体の要撃級。

 
 様々な薬品が込められた特殊弾頭の使用によって一時的に行動を制限し、あるいは活動を停止させ捕獲した要撃級BETA。
 身体に備え付けられた受信・発信装置から見下している管制室へ無数の情報が流れて来るのに合わせて管制室からある指示を下す。


「ナンバー4にナンバー5攻撃命令発信」


 片方の要撃級がもう片方の要撃級に自慢の一対の腕を振りかざし、その尻尾を薙ぎ払う……払われた尾は千切れ飛びドームの壁に衝突した。
 攻撃されたナンバー5は何の抵抗も見せない……が暴力を振りかざし続けるナンバー4に対して何もしないとは限らない。
 眼下で繰り広げられる同士討ちを黙したまま見届ける所長は何の反応も見せないが、周囲の研究者達は叩き出される数値と現実に対して懸命に喜びを隠す。
 これでは満足出来ない所長は眼下で繰り広げられている実験に対して眉をしかめながら次の指示を下す。

「ナンバー6・7を投入してください」

「了解しました、ナンバー6・7の解凍作業を……」

 だが喜びを撃ち砕くかのように殴られる一方だったナンバー5が突然態度を翻し、同胞である筈のナンバー4に対して振り上げた腕を突き刺す。
 身体に衝角を突き刺されたナンバー4は引き抜かれた穴から赤いモノを覗かせながら一撃で沈黙し、二度と動く事はなかった。

 逆に同胞を一撃で絶命させたナンバー5は、頭上に存在する炭素生命体反応を感知したのか昇れないドームの壁を登ろうとする。

 ナンバー4の攻撃によって足の数本がへし折られ尻尾も失っていると言うのに、それは生命活動を維持しつつただ昇れない壁を登ろうとする。
 受信・発信装置は既に機能はせず、束縛するモノのないナンバー5はどうしてナンバー4を攻撃したのか理解する事もできない。
 所長がスッと右手を振り上げると素早くその操作が行われた。

 ドームの壁や天井から姿を現す無数の銃火器の銃口。

 これに対して要撃級は何の反応も見せず昇れない壁を懸命に登ろうとするが、昇れる事など決して出来ない。
 そして無数の銃口が火を吹く、吐き出される弾丸は要撃級を四方八方から撃ち貫き肉片へと変えていく。
 飛び散る肉片や硫黄の匂いを振り撒く謎の体液……その身体の中に埋め込まれた機械製品の数々の破片をばら撒きながら死んでいく、沈黙へは時間を必要としなかった。

「……ナンバー5沈黙を確認」

「ナンバー6・7の解凍作業中止と共に回収班Cを派遣……”残骸”の回収をお願いします」

 完全防備の研究者とボロボロで動けているのが奇跡とも言いたくなるような状態の撃震がゲートから現れる。 
 無数の銃弾の回収作業や穴だらけとなり沈黙した要撃級の肉片回収もあるが、彼等が回収を優先したのは味方を攻撃したナンバー4の要撃級の”中身”だ。

「いったいどうして最初は攻撃しなかったのに……」

「さてまだまだ私達はBETAに対して無知です、今はどんな事をしてでもその秘密を解き明かすのです」

 所長の強化された眼には潰されてしまった”中身”が生々しく見えている。

 かつて人間の皮と骨を纏っていた人間であった人間の内臓や臓器達の潰れた姿が……リンクスである彼には見えていた。

 ナンバー1・2の場合は完全な人間をAMSを使用して要撃級と接続し、人間がこれを操る事に成功するも今回のように何の改造も施さない要撃級に破壊された。
 今回は搭載する人間の皮・骨・筋肉を排除し内臓器官などや脳髄のみを特殊な試験培養液で満たしたシリンダーと実験中だけ生命活動を維持出来る機械を載せたモノ。
 外部から特殊信号をその脳髄と内臓だけの”モノ”に対して発信し何の改造も搭載もしていない要撃級ナンバー5と戦わせて、どこまでが敵なのか確かめる実験。

 BETAがどこまでを敵対反応として確かめるのか、何処まで内臓などが残っていれば敵で・何処まで削れば無反応なのか確かめる実験。

 もしこれが成功すれば、その部分だけを搭載し戦闘が可能な兵器を作り出せられれば、人類の戦いは一変する。
 BETAからは敵対者と認識されないのにこちらからは一方的な戦闘が可能な兵器……擬似信号とは違い使い捨てなどが前提に出来る特攻兵器などが完成するのだ。
 誰にも危険を強いる事無く敵に叩きつける事が出来る、それがどれだけ神秘的で魅力的で”平和的”なのかは言うまでもなく誇示できる代物。


「……私は貴方のようには行きませんね、ですがこの擬似信号が完成すれば―――戦争を終わらせられるでしょう」


 人間を解体してまで……生きていたいと願う実験体達をバラバラにして何処まで内臓があれば生きられるのか今も実験している。
 その内臓だけになってしまった人間を生かす為の培養液の開発も決して巧くは行かず難航するばかりで、今回もこれ以上減らせば脳が崩壊する寸前の解体。
 リンクス達をネクストから護る為の対G緩和ジェルの開発などアスピナは現在世界でもっとも悲惨な実験をひたすら行い未来を掴み取ろうとしている。

 もっともその未来が必ずしも『平和で安全か?』

 と問われれば決して彼等は断言出来ない、自分達の研究が異様な生命体の建造すら意味しているのを理解しているからだ。
 現に企業からは『BETAに対抗する為のBETAを建造しろ』と明らかに狂気で……同時に余裕のなさを示唆する命令すら下されている。
 横浜基地に独占されてしまったが母艦級のような巨大BETAを人間の手で自在に操れるならば大規模部隊による地中からのハイヴ直接攻撃が可能になるのだ。
 わざわざ群れに護られている地上を通る必要もなく、本命たる反応炉へと地中から中枢へと直接攻撃・雷撃戦が可能になるという魔性の魅力が確かにある。
 他にもBETAと人間の融合が完成しBETAの指揮系統などを解明出来れば、指揮を混乱させ同士討ちなどが可能になるかも知れない、物量を逆手に取れる。

 研究には確かな未来のビジョンがある―――少なくとも完成すればどうする事が出来るかと言う明確な未来が。


「フラジール所長、ジェラルド様とジュリアス様より通信が入っていますが?」


 フラジールと呼ばれる彼はリンクスであり、最速のネクスト【ソブレロ】を唯一扱える実験リンクスの完成体でありジュリアス・ジェラルド・ハリなどの兄弟を持つ。
 CUBEと言う名前があるが彼のネクスト【フラジール】の意味である『壊れ易い』を自分の様な実験体やリンクスを意味するモノとしてフラジールを名前にした。
 この世界でアスピナ研究所を立ち上げ小さな研究機関から大企業連合支援の下で対BETA研究とリンクスを実戦投入する為の基礎を築いた功績者たる彼は壊れている。
 実験の為に自分の身体を差し出し機械化された脳にあるのは兄弟と実験の数々の記録のみで、ある意味ではもっとも実験によって壊れた・壊れる事を選んだ所長。

 そしてコジマの左腕を無断で切除し、当時実験段階であった兵士級の腕を改良した義手を無断で接続した罪人でもある。

 だがそのコジマの左腕がもたらしたデータが現在の人間をBETAに搭載して利用する研究の礎を気付き、今日のあの成果へと導いた。
 企業に対して希望を抱かせ資金提供を濃くさせ実験を更に濃密な内容にしていく……対価として生まれた一つがPTネクストでありAMSなのだ。
 フラジールは壊れてしまうモノ、既に壊れた彼は倫理も世間体もなくただ未来の為に崩壊へと自ら歩み、その描く未来を手に入れようと足掻く。


「えぇ廻してください、久々に皆さんと話したいですし」


 リンクスとしてではなく科学者として彼は抗い・足掻き・戦う。

 たとえ斬り捨てられのが解っていようと、彼は贖罪とばかりにただ研究に没頭していく。

 無数の屍によって支えられる研究を始めた自分が背負った十字架に報いるべく。

 犠牲にしてきた人々が掴み取れなかった平和と言う儚い幻想を掴み取る為に……今日も彼は実験を行った。

 犠牲と流血なくして発展はありえない、だから今日も殺して殺して殺していくのが彼の役目。


 視点:香月博士

 どうしてよ……この理論でも違う訳ッ!
 最初の理論は古島に否定された、ループでシロガネタケルが違うと証明して異世界の私が見つけた?
 初期段階で躓いているからどれだけ努力しようと完成しない、何年も賭けて造ってきた私の努力が全部無駄?
 まったく異なる世界から来るだけならまだしも……来た連中はどいつも英雄クラスの化け物で世界と戦える戦力。


『香月君……我々企業連合がどれだけ君に投資してきたか理解しているかね?』


 解ってるわよッ! そんなの解ってるわよ、そんな事は造ってる私が一番わかってるのよッ!?
 でもどれだけ努力してもまったく通じない・届かない―――あと一歩と思っていた研究がまったく届いていなかった。
 最初から躓いてるだけ、でもその最初がもっとも重要で根幹を成すのにそれが完成していない何てなんの冗談よ。
 私は00ユニットを完成させる為にどれだけの時間と人生を捧げて来たと思ってるのよ……どれだけの人間を殺してきたと思ってるのよ。

「理解はしてるわ」

『ならもう少し成果を出してくれないか? 我々も無限ではないのだよ』

「XGー70bの改良は順調よ、00ユニットの開発と搭載も順調……必要なのは時間と戦力」

 決戦兵器【XGー70b:凄乃皇弐型】と【XGー70C:凄乃皇参型】の搬送と組み立ては完了してる。
 あと必要なのは制御不可能なML(ムアコック・レヒテ)機関を制御する為の演算装置である00ユニットを完成させるだけなのに、それが出来ない。
 G元素を利用したG弾は強烈な偏差で範囲内の全てを崩壊させるのに対して、ML機関はG元素による高重力偏差による防御や機動を可能にさせる機関。
 現状だと指定方向のみの展開を可能とさせる処理が出来ない、でも全方位に展開すれば中に乗る衛士まで崩壊させる究極の欠陥を抱える決戦兵器。
 00ユニットは表向きにはソレの制御を可能とさせる特殊CPUにしている以上……これが完成しないから別世界の私は今年の12月25日に”降ろされた”

 異世界の私の失敗が何よ。

 この私はそんな失敗しないわよッ!

 クリスマスプレゼント?

 上等よッ! それまでに完成されてアンタ達に代わりに屈辱をプレゼントしてやるわよッ!!

 私は天才―――究極の天才『香月=夕呼』なのよ、聖母になる位わけないのよ。


『少しはコジマ君を見習ってくれないかな、彼の功績は素晴らしいぞ?』


 またその名前を出す。
 いい加減聞き飽きるのよッ! アイツの功績なんて一番理解してるわよ、そして屈辱も。
 無人配列機械の癖に人格を宿していて規模が規模なら途方もない処理を可能とさせる【高性能処理システム:セラフ】なんて私にとって屈辱の極みよ。
 アレを改良すればML機関によって発生させられる重力偏差フィールド【ラザフォードフィールド】内部でも何の心配もなく活動する事が出来る。
 リーディングのような能力さえ諦めれば【非生命体】と【処理システム】を持つ擬似00ユニットに仕立て上げる事が出来る……でもそれは敗北になる。

 私が何年も賭けた代物を横から何の拍子もなく現れた男に横取りされる……ふざけんじゃないわよ。

 社の言うとおりならあの脳髄も以前に比べて格段に落ち着いてきてる、巧くいけばシロガネの調律なしで戦線投入出来るかも知れない。
 でもそれで自閉を繰り返して劣化が早まり作戦をする間もなく整備を繰り返せば古島の言うとおりなら人類の情報がBETAに漏れる。
 もし言うとおり今はBETAが人類や戦術機に対して監視と観察を行う時期なら、まだまだ安全で安心した時間を手に入れ続ける事が出来る。
 それは『逃げる』事になるわ……訳のわからない子供に人類の未来を託すほかない? 冗談じゃないわ真っ平御免こうむるわよッ!

 たとえシロガネタケルが落着するまでの安定でも、人類は今日も戦って生きてるのよ……文字の羅列じゃない。

 BETAが安定期にある間に決行出来れば強力な雷撃作戦になる、巧くいけば限りなく少ない損失で人類は絶滅を先延ばしに出来る。
 桜の花びらが散る如く無謀で勝率のない【桜花作戦】での人類の失敗やBETAのこちらへの対処を潜り抜けられる可能性も飛躍的に高まる。
 私達の人生はシロガネタケルが来るまでのお膳立てじゃないッ! 私達の未来は古島の言うような決まった予定なんかじゃないのよッ!!


『戦術機革命による戦術規模の改革に加えて世界中の科学者が苦難していた新技術の確立と普及、更には高度な適正プログラムの製造
 いやはや素晴らしい限りだよ、我々の戦力も飛躍的に高まるだけでなく弾薬を気にする必要のない武器を手に入れ長期戦も可能
 もっとも水素補給に関する失態は見逃し辛い失敗だが……ここで彼への印象を悪くしては戦後復旧に大きく差し支えてしまうからな』


『いや、極東の魔女が見つけ出した【BETAの攻撃優先度】についても実に計画の一環としては収益であり成果だが如何せん足りん
 もっと……もっと情報を集めてくれなければ我々も容易くは君達の計画への投資を増額出来ん、我々は第五とも通じているのだからな
 資金面で彼等を色々と支援しているがコジマ君の出現によって世界各国の傾く情勢に色々と堪忍と言うモノが出来なくなっているのだ』


 それが帝国衛士を後ろから色々と焚きつけてこの国の中で内乱に起こす……に繋がるわけ。
 目の前に佐渡島ハイヴがあるのにそんな正義だとか政権だとか馬鹿らしい事を言い触らしながら内乱なんて御免被るわ。
 連中がいつ攻めてくるかなんて解らないのに貴重な戦力同士で戦争モドキなんてしてる余裕が有るなんてのも、ある意味腑抜けてるわね。
 でもそれを利用出来ない訳じゃない―――少なくともこの国内で連中に通じている奴等を一掃するには充分過ぎる事件。
 まだまだ統一出来ていないこの国にとって有益な事。

 裏返せばコチラも危険な賭けになる。

 連中にとってこの事件はこの国の能力を一気に低下させると同時に低下しつつある発言力を取り戻す作戦になる。
 古島が世界各国の大企業から強大すぎる後ろ盾と護りを持つから手出しできない、もし手を出せは最悪産業を支配する企業との軋轢を生む。
 アイツ等が来た世界では機能低下した国家を大企業連合が総力とネクストを持って僅か一・二ヶ月程度で陥落させ世界から国家を解体した。
 連中は間違いなく企業に悟らせないように、あるいは企業に対して兵器の対人データ回収を理由に必ず行動を起こす。

 こっちで排除出来なかったその時は……この国は終わる。


「まぁ待って欲しい」


 私の後ろから現れた男……古島の戦友であり異世界から来た男の一人であるメルツェル。
 異様な先見力を持って異世界では世界を支配する企業すら操り・騙し・強大なテログループの後ろ盾とさせたこの男。
 社が心を読めなかった相手―――『真っ黒です』なんて言わせた、思考が複雑すぎて多色になり黒へと変色する程の狂った精神を持つ相手。
 衛士としての実力もかなり高い上に政治術に関しては化物染みた能力を見せ付けるだけならまだ良い……でもオカシイくらい先読みが出来る。

 まるでこっちの手を二つ・三つも読んで先手を打ってくるコイツ……メルツェルの自動人形とは良く言ったものね。

 最善の未来を思い描き掴み取る事の出来る能力は00ユニットにとって必要不可欠な要素。
 そしてコイツの身体の大部分は機械で補修され常人を超える白兵戦能力とリンクスとして機能するだけの機械が埋め込まれ生きている。
 ODLのような緩和剤を用いず薬だけで生命活動を維持しつつ、襲い来るストレスなどに対しても飄々としているその図太すぎる神経。
 なにより私はこの部屋への侵入を許可していないのに部屋のロックを解除して侵入してきた……どうやったら解除出来るのよ。

『その声は自動人形か』

「香月女史も非常に苦労している、今はコジマの功績や”我々”の活動を評価してもう少し投資額を増やすか彼等を制すべきだろう
 情報収集の面でも今回の攻撃優先度や大型輸送を可能としていたBETAの捕獲も第四計画の成果……そう頭ごなしにはいけないさ
 新型OSの必要基盤やフィードバックシステムの強化などの香月女史の協力あっての賜物だ、今はそれで満足しておこうじゃないか」

『だが我々とて現状において国家を手に廻す余力があるとは決して言えんだけではないぞ?
 国家を乗っ取るにしろ明確な大義がない、この現状で乗っ取った所で民衆の協力など知れている
 使えぬ難民は増える一方と言うのに……アスピナにバレん程度に送っているが向こうもそう成果をあげん』

 メルツェルが私の座っている椅子に片手を置き、上半身を乗り見込むように延ばす。
 丁度メルツェルの上半身が肩に乗っかるような姿勢で、ふと覗く首筋には確かなプラグ接続の『穴』が見えている。
 脊髄を機械化した証拠でありリンクスと言う生体処理機械にされた証拠で、最強の戦闘兵器の証でもある傷跡。

 そういえばアスピナ……たしか生体機械であるリンクス製造に精通した研究機関だったわね。

 難民を送ってる?

 まさか企業の連中、戸籍や管理体制の悪さを利用してそこに人体実験の被検体を提供しているの。


「リンクスを作り上げたではないか? 簡単に出来るとは思えんよ、そちらの小賢しい計画のようにな」


 さっきまでの声と違い、この声は可能な限り低く内臓を響かせるような声で言う。
 思わず身体が震える……隣にいるのがただの男ならマシだけどその正体が最強の戦闘兵器なら震えるわよね。
 それに相手は国家の手綱すら取る相手なのに平然と挑発するような発言を行い、まるで対面しているような錯覚すら与える対話。
 通信越しなのにまるで相手の顔が見えるようね―――とびっきりムカツク顔をした老人の顔が見えるわ。


『……まぁいい……含む所があるなら戦場ですれば良い、そして論を通したいならば成果を挙げる事だ』


「ならもう少しコジマや”我々”に投資する事だな王大人?」


『貴様に”大人”で呼ばれる由縁などないわ、出来損ないの自動人形が』


 スッと勝手に通信に割り込んで好き放題言い荒らして挙句、勝手に手を伸ばし通信を切った。
 しかも本人はムカツクくらい良い笑顔で『すっきりした』なんて言う始末……喧嘩売ってるわね。
 人が色々としてたところに不法侵入した挙句、勝手に通信に割り込んで相手に不評を買う発言ばかり堂々と。


「ちょっとメルツェルッ! アンタ自分が何をしたのか―――」


 視線に何かのデータディスクが入った透明なケースがゆっくり宙を舞っている。
 私はそれを受け取るのは良かったんだけど、私はそんなに器用に取れるわけじゃない所為で眉間にディスクのケースの角が……角が。
 しかもメルツェルの奴は私が眉間に直撃して苦しむ様を見ては懸命に笑いを堪える始末、腹と口を懸命に抑えて笑いを堪えてる。
 くっ屈辱よッ! 極東の魔女と恐れられる私がこんな男に笑いを堪えられる挙句、良い様にあしらわれるなんて。


「ククククッ……まぁ怒る前にそのデータを見てみると良い」


 引っぱたこうかと思った私はその眼に何故か従う。

 逆らってはいけない―――そう思わせるような嫌な眼。

 流石は何億人も殺した連中の知恵袋だけあるわ、眼で黙らせるとはこの事ね。


「……なによこれ」


 開いたデータが画面に表示するデータとそれに関する映像はアスピナが行っている研究についてのモノだった。

 捕獲したBETAに解体した人間を搭載して『人造BETA』にする実験と研究データと画像。
 画像には脳髄と胃袋や生殖器などの生体部品が残された人間だったモノが特殊な培養液に満たされたシリンダーに浮ぶ姿。
 そしてその液体に関するデータはBETAがあの脳髄を生かす為にシリンダー内に満たしているODLに非常に性質が似通っている。
 そんなまさか……あれは少なくとも現状の技術力じゃあ出来ない代物で、それに何処からこんな延命装置の情報が漏れ出たのよ。
 人間の脳髄が搭載された要撃級と搭載されていない要撃級の戦い……奴等の敵味方の識別判断方法を特定する為の実験。
 
 どうしてどうしてどうしてどうしてッ!?!?

「君はアスピナについてどこまで聞いている?」

「ただのリンクス製造なんかに長けた研究機関としか聞いてないわよッ!」

「コジマも人が悪いな、アスピナは人体実験の天才達が集まる魔窟だ
 我々がいた世界でも”究極の延命”について色々と研究していたからな
 その情報を仕入れるのも楽ではなかったよ、警備が厳重で強固だからな」

 脳髄だけの延命に挑戦していた?
 だからODLにも似た培養液の開発やそれらを機能させる為の機械が完成している。
 AMSを利用した異物とのリンク・接続による完全な乗っ取り兵士の作成が可能になればBTEA戦線が激変していく。
 肉体の負荷を無視した液体内に込められ機械で固定化された”無人”なのに”有人”の判断が可能な突入兵器が完成する。
 非炭素生命体条件を満たしながら一切の反動などを気にせず戦線投入し使い捨てる事が出来る兵器……リンクスより性質が悪い。

 ハハハハハッ―――私なんて魔女気取りの小娘なのね。

 世の中にはまだまだ上がいるなんて、思い知らせれるとは思っても見なかったわよ。
 だけど表示されるデータには何処か肝心な場所や情報が欠落してる、それも肝心な一部分が。

 バッと顔を向ける先にはもう一枚のデータディスクのケースを持つメルツェルが微笑んでいた。


「そしてここにはその君などとは格が違う研究の我々の協力者が集めたデータの真実がある」


 ヒラヒラと挑発的に私にその姿を晒すメルツェルに対して、私はらしくもなく飛びついた。
 身長差でどれだけ延ばそうとも届かない手の先にヒラヒラと挑発的に動かされているデータディスクには、きっと私の未来に必要な何かがあるッ!
 たとえコイツの身体が強化人間でどれほど努力してもダメでもッ! 私は手を伸ばさないといけないのよッ!
 あの手には私が求める何か情報がある……今から銃を取り出して構えたところで相手は熟練の傭兵なのだから脅しにもならない。
 押し倒すこともどれほど爪をたてて手からそのデータディスクを落とすようにしようともまったく相手の手は動じない……まったく揺らぎもしない。


「格が違う? ふざけんじゃないわよッ!! 私を誰だと思ってるのよ―――天才で極東の魔女で聖母香月=夕呼よッ!!」


 餓鬼臭い台詞に吐き気がするわ。

 でも後悔はないわよ。


「……やれやれ思った以上に私好みだ」


 メルツェルが延ばしていた腕を普通に戻し、スッと私にデータディスクを手渡してきた。
 受け取った私は私らしくもなく気分が高揚し身体が熱くなるのが判る、まるでプレゼントを貰った子供のように。


「だが対価は頂く」


「対価? なによ戦術機や人材ならッ!?!?」


 メルツェルの唇が私の唇を塞ぐ。
 そして両腕を廻して私を抱擁し、力強く自分の身体に抱き寄せて離さない。
 幾等モガイテモ緩まない力と押し付けられる唇……なにより閉じられていない眼の奥に覗く機械のレンズ。
 生気がないとは良く言うけど―――まさか目玉まで機械なんて、あぁ相手して欲しいなら相手してやるわよ。

 そうこちらからも腕を廻してやろうとすると呆気なく抱擁が崩れた。

 二歩・三歩と距離を取り何事もなかったかのように私の唇を奪った相手は佇んでいる。

「……あらどうしたの? いきなりキスしてきたかと思ったから離すなんて」

「……なに、少しだけ惚れただけだ――― 予想以上に若く甘い魔女に、甘くて弱弱しい魔女の姿にな」

 歯が浮くような台詞を真顔で言うなんて……ね。
 最強の兵器が聞いて呆れるわ、ただの優男じゃない。
 これじゃあ本当に世界を相手に大暴れしたテロリストの参謀かすら怪しいわね。


「もし困ったら私を頼れ、企業に対して発言力は持っているつもりだ……それに報酬次第でコジマ達も説得して見せるさ」


 ふっと微笑む顔に自然と顔が熱くなる。

 そんな顔を見られる訳にもいかないから顔を逸らして見られないようにしながら話す。


「あっそ、なら精々期待させて貰うわよ……報酬は金? 人材?」


「なら魔女の熟れた御身体でよろしいですかな?」


 まったく、本当に世界を制した革命集団とは思えないわよこの色欲魔がッ!


「ならさっそく依頼するわよ、内容は”アンタ達”の情報網で連中の動きを回収するのと佐渡島ハイヴで妙な動きが確認されているわ
 政府と帝国軍より国連軍・伊隅ヴァルキリーズ・オルカ隊に協力要請が銀翁中将から来てるわ、万が一には頑張って仕留めなさい
 それとアンタと古島のコネでアスピナへの連絡網……それも所長格の相手とのパイプが欲しいわ、出来るなら相手―――してやるわよ?」


 スッと両腕を広げて相手を誘う……私がこんな姿勢をする日が来るなんて思いもしないわよ。


「では先払いで頂こうか」


 そしてまたメルツェルに抱きしめられながら唇を奪われる。

 そのまま夜遅くのベッドに連行されて私は一晩中相手させられる事となった。

 成功させなかったら引っぱたくじゃすませないわよッ!


 視点:???

 ―――エリア21での新型建造完了確認

 エリア21より21近辺に炭素反応多数増加中

 ―――因果律体接近まで侵攻の必要性なし

 了解……新型出撃準備

 ―――エリア22の因果律体・因果因子体の集結まで待機

 シリアルナンバーXXXXXXXXXおよびXXXXXXXXXの殺害は?

 ―――最新型投入を持ってして完遂せよ

 了解……1万規模の部隊出撃許可

 ―――承認

 出撃準備開始 

 ―――因果体の捕獲を最優先事項と認定

 承認


□□□


 はい……文字通り二重な意味でやっちゃいました。
 香月博士焦るとアスピナの研究風景が主体ですが……視野を広くしすぎた所為で当初のプロットよりも此処の人間を書けないです。
 作者の実力不足が原因なんですけど、伊隅大尉達の出番が―――どうも書こうにもプロット段階の書いていると出てこれない、あぁ未熟が憎いです。
 
 さて作者の中でアナトリアの傭兵の強さは簡潔にするとドミナント・XA26483・イレギュラーが伝説的なレイヴンの称号。

 これに国家解体戦争時でのノーマルでネクスト中破とリンクス戦争時での圧倒的過ぎるその強さを掛け合わせるので、最強となりました。
 ガチでこの作品最強の衛士です……間違っても戦うなんて選択肢は自殺行為よりも愚かで勇敢な選択に等しい位です……ゲームで勝てるのは磨耗のおかげだと信じてます。
 最強を二分した戦友とのあの死闘における勝者たるアナトリアの傭兵は作者の最強の化身です、最高の相棒は無論オールドキングです

 だってウチのオールドキングは遊び半分で固まって行動してやったらローディー大先生とリリウム先生の二人を倒したんですよッ!?!?

 どんだけその時のルーチンが強いのか、まぁその自分の目の前でどうやら無傷だったセレンに撃ち抜かれて死にましたけど。
 それでもあの相棒は強かったです……本気を出せばオールドキングはオルカランク5本指なんですし、不可能ではないと思いましたけど
 あとはまだ出せてない企業リンクス達の現状を書くのや……どうしてか出してあげられないA分隊の皆さんとリリウムの日和とか書かないと(これ必須ですよね)



[9853] 三十三話[先陣の軍旗]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/06/02 23:01
 視点:コジマ

 新潟と群馬の県境にて前線へと急行していた横浜部隊は、前線からの通信によってこの場……【絶対防衛線】を死守する事となってしまった。
 87式自走整備支援担架(輸送車輌)に搭載されている戦術機を急遽叩き起こし、突貫作業で起動させ噴射ユニットなどを確認し戦闘準備を完了させていく。
 戦術機を叩き起こしたらすぐにでも輸送車両は安全領域まで後退すると同時に【絶対防衛線】に向ってくるBETA群を僅かなコンテナと戦術機で防ぐ羽目に。
 帝国軍の絶対防衛線に展開している部隊もあるが正直これからこちらに向かってきている旅団規模のBETA群を迎え撃つには数字の戦力的に不安が残る。

「だからあれほど地中侵攻を警戒しろと言ったんだッ!」

『銀翁の部隊が後方から来ているそうだがさて間に合うか……やれやれだ』

 横浜から車輌に乗って移動中に前線の帝国軍より緊急入電が送られてきた。
 それは絶対防衛線を越えてやれこれから前線の部隊に合流しようと意気込んでいたこちらの戦意を叩くには充分過ぎる情報。


『地中ヨリ旅団規模ノBETA出現、戦線ノ後方ニヨリ突破ヲ赦ス……国連軍ハ絶対防衛線ヲ死守サレタシ』


 海岸線……水際で帝国第13・14師団が順調過ぎるほどに順調に迎撃していた新潟の戦地。
 その帝国軍が展開していた布陣の完全な後方に旅団規模のBETAが地中より出現し、海岸線の死地にしている帝国軍を無視してこちらに全力疾走。
 平均時速60kmの超高速移動で突破を赦せば帝国に残された数少ない本州主要生活圏をBETAに蹂躙されてしまうのは明確すぎる。
 それを完全に防ぐ為に旅団規模のBETAを最寄の基地から寄越せるだけの戦力を集結させ、集結の間に合わない部隊は高速移動するBETA郡を横撃しているらしい。
 だがそれすら無視してBETAは一直線に防衛線突破を目論むかのように、どれだけ横から撃たれようと無視してこちらに向ってきているのだから最悪に等しい。

 体勢の整っていない部隊の攻撃はあまり的確ではなく眼に見える被害もそう与えられず、旅団規模のBETAはその総数を対して減らす事無く突破を続けている。

 不幸中の幸いは戦車級を優先的に仕留めている事と”偶然”にも侵攻ルート状に農村などが存在しない事くらいだ。
 たった主力二十機前後程度の戦術機で5000を超えるBETAを受け止めなければならない……三桁規模の戦術機大規模部隊の展開は到底間に合わない。
 帝国軍の展開していた防衛軍とこちらに緊急増援として現在展開を急いでいるが予想以上に展開に手間取っている……最悪機甲部隊からの支援砲撃なしでの戦闘になるな。
 おまけに内陸部での戦闘になるのだから海岸と違って水素濃度の減少率なども桁違いに高い、水素弾頭はハリの乗っている山猫に搭載はしているがさて5000を捌くま持つか。

『ヴァルキリーマム(涼宮中尉)よりオルカ隊へッ! 目標狙撃砲・迫撃砲の射程内に入りましたッ!』

「可能な限りの展開部隊と火力で突撃して来るBETAを叩くぞッ! ここの突破を赦せば帝国主要生活圏は目の前だッ!
 オルカ隊を最前衛に伊隅ヴァルキリーズと展開出来ている帝国軍と連動して弾幕展開ッ! ”可能な限り”叩き潰すぞッ!
 ―――可能な限りだッ! 何度も言うが可能な限りだッ! 一体でも叩き潰せ、それだけ合流までが楽になるぞ……多分な」

 今回の俺(オルカ13)は山猫ではなく暫定的な完成を迎えている雲耀:黒に乗っている。
 山猫の実戦データは回収出来ているが雲耀の初陣は今回が初だ……自分が乗りこなしてデータを回収する必要があるのでこちらに乗っている。
 たとえどれ程のデータがあろうと演習などはそう意味を成さない、必要なのは明確な実戦を乗り越え激戦の最中で叩き出し続けるデータだ。
 兵器の完成は運用して初めてだ―――まさか何の練習や熟成なく『はい、実戦に行って来て下さい』なんてのは乗らされる連中にとっては悪夢同然。
 気休めだろうと与えられた機体を何度も乗る事で本当に乗りこなせるようになり、本能とも直感とも無意識とも言える段階でその機体だからこそ出来る事を見つける。

 兵器の完成は踏ませた場数とデータが全て。

 それもなく戦いを挑めるほど兵器は不完全で投入するべきではない、もっともその場数の踏む段階で故障なんかは良く有るのがなんとも言い訳し辛いのだがな。
 VOB(V:ヴァンガード O:オーバード B:ブースト)なんかは使い捨て式だから随分と故障が多いんだが、あれは例外だ例外……爆発は勘弁して欲しい。


『オルカ1(テルミドール)よりオルカ各機へッ! 侵攻してくるBETA群を叩き潰すッ!
 我々はその力を見せ付ける為に最前線で活躍させてもらう、もっともそれは本隊が来るまでの時間稼ぎだ
 だが手柄は我々で独占しよう……時間が育て最強が集ったオルカの初陣だ―――派手にいこうじゃないか』


 銀翁の部隊を初めとした帝国軍の最寄り部隊が最大速度で来たとしても10数分は余裕でかかるだけでなく、部隊の展開もある。
 俺達の後方で慌てながらも展開している絶対防衛線部隊は旧式ばかり、純粋な展開火力の差や稼動可能時間も新型と比べると幾分も劣っている。
 だが旧式と言う事は幾度となく戦いに参戦しその機体を乗りこなせているベテラン達の筈だ……新型に振り回されるなんてのはまず在り得ない。
 後ろから撃ってくる可能性は捨てきれないがな。

『オルカ3(ジュリアス)了解した……七英雄の実力を見せつけようじゃないか』

『オルカ7(メルツェル)了解しよう』

『さて若者達の為に死のうじゃないか、オルカ8(トーティエント)了解ッ!』

『……地底からの反応はなしですねオルカ9(PQ)行きますよ』

『オルカ10(ハリ)乱戦に突入次第リンクスとして戦闘開始、それまでは弾幕展開を行う相互データリンク開始』

『オルカ11(ブッパ)目的を確認、大物は後ろから来ている帝国に任せて厄介な弾丸野朗をヤル』

『やれやれオルカ12(ラスター)了解』

「オルカ13(コジマ)……権力的に言えば俺が上のはずなんだが、まぁ良い切り込むだけだ」

 オルカランクをそのまま隊員番号に振ったオルカ隊のコールサインが続々と告げられる。
 2・4・5・6の十三人中の四人を欠いた状態での戦闘に突入する事になる……火力役の4(銀翁)と6(ヴァオー)がいないのが砲撃戦だと響く。
 だがやるしかないんだよな、幸い一個中隊規模の雷雲隊が奇跡的に展開に成功しているおかげで火力的にはマシにはなっている筈だがそれでも足りん。
 地雷原もなければ水上艦隊からの支援砲撃もなく、あるのは僅かな戦術機部隊と機甲師団からのお情け程度の支援砲撃と実働戦力での絶対防衛線死守。

 雲耀に載せている36mm突撃砲二丁と80mm速射砲二丁を着実に土煙をあげながら接近してくるBETAへと銃口を向ける。

 全身に重く圧し掛かる絶対防衛線を任されてしまった責務に、僅かな手勢での死兵を打ち倒し一体の突破も赦されないこの状況は自然と心地良い。
 死と隣合せの戦場特有の重圧とこれから一緒に戦うオルカの勢力……あの世界だとネクスト都合上ここまで同時には戦えなかったからな。


『全機攻撃を開始してくださいッ!』


 ヴァルキリーマムの合図。
 機甲師団などやテルミドールからの命令もまたほぼ反射的に発せられる。


『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!』


 その言葉と共に無数とは言えないがそれでも無数のロケット・戦車砲が風を貫きながら山形に飛び上がり、重力によって落下しBETA群の鼻先かつ先陣を直撃する。
 老神クラスの砲撃ならこれで大分削れるんだが生憎そんな火力はまったく持ち合わせていない、迫撃などの土煙を貫き健在な突撃級がなお止まる事無く突進してくる。
 止むことのない支援砲撃だがいささか数的不足が多すぎる、万全な状態の砲撃と比べると霧雨と前すら見えない豪雨程の差がまざまざと見せ付けられるのだから精神的に厳しい。
 たとえ当たらずとも弾幕が展開されているなら『いざとなればこの火力の支援が……』と背中に安心らしいものが出来るんだがやはり展開し切れていない機甲師団の砲撃は程度が低い。
 それにすでに最初に戦術機部隊から後方20kmに展開していた機甲部隊は後退を開始しその少し後方展開している第二陣への合流を開始すると共に第二陣の機甲部隊が断続的な砲撃を展開し始めた。


「こちらは光線兵器持ちだッ! 接敵されるまでに撃ちまくる、貫通力に優れる光線兵器なら突撃級を簡単に仕留められる筈だッ!
 残存電力に警戒しつつ撃って撃って撃って撃ちまくれッ! 光線級がいない内にミサイル関係も全弾景気良く……進呈してやれッ!
 突撃級と小回りの効く要撃級・戦車級さえ叩けば機甲師団の安全と共にこっちが楽になる、小型は踏み均して地面の肥やしに変えろッ!」


 既に見え始めているBETA群に対して残弾撃ちつくす心積もりでひたすら乱射しながら指示を出す。
 山猫のレーザーガトリングに加えてヴァルキリー2(速瀬)が受け継いでいるモノとオルカ1・3のカラサワの蒼い光がBETAを貫いていく。
 いかに実弾に対して強固な装甲を持とうと今現在ならば光線兵器に対する有効な防御手段は施されていない、故に今は人間の光が奴等を撃ち貫く。
 薙ぎ払うように掃射するガトリングにより一撃で仕留められないが代わりに確実に最前線の突撃級を傷物に出来て、あとはこちらが奴等の足を狙う。
 風穴が開けられている足が突撃級の全体重を支えることは出来ないのだ……少しチョチョイと壊してやれば盛大に転倒し即席だが巨大で強力な石になってくれるのだ。

 BETAは同士討ちをしない性質がある。

 巧く転倒してくれると同時に生存していれば一瞬だが仲間を殺さまいと、後方のBETA群の進行速度が僅かだが低下し巧く行けば天然バリケード。
 もし轢かれたならばそれで良し、撥ねられて宙を煌びやかにボールのように飛べば落下時に真下にいる同胞を下敷きにして良い投石代わりに変貌してくれる。
 その証拠に綺麗に整列しながら突撃してきた先頭の倒壊が中衛に響き始め、巧くソイツを避けて侵攻しようと僅かながらに進行速度が落ち始めていた。
 個々では極僅かかも知れないがそれが100・1000の規模になれば眼に見えて遅くなる……数が多いのは行動の遅さに繋がるからな。

『いやはや止まりませんねぇ……こちらのミサイルは景気良く全弾進呈したのですけど』

 オルカ9が愚痴ると同時にオルカ隊仕様の大鴉の肩からミサイルコンテナがパージされ、地面に転がり落ちる。
 一発一殺としても72体なのだから確かにスズメの涙程度の軽減力しかないのに加えて撃ち出して直撃したミサイルは小型かつただの炸裂薬搭載型だ。
 コジマ粒子弾頭や核弾頭ならば充分過ぎる破壊力で国土諸共消し飛んで汚染されつくすだろうが、あいにく通常兵器にそんなモノは詰めなければ使い捨て兵器も低コスト。
 本当に豪勢ならば老神などに使用される有澤社製の炸裂薬なんだが……小型ミサイルに搭載出来る火薬量も知れればそんな大破壊兵器を使う訳にもいかないんだな。


『どうせ5000の数十体程度、メインコースはバイキングなんだ太り過ぎないように喰おうじゃないか』


 カラサワを小刻みに撃ち出しているオルカ3が気楽そうに言う。
 大鴉は初風やタイフーンに比べれば機動性は悪いのだから本来の戦い方は出来ないに等しく、苦手な機体アセンブリでの戦いになるのに随分と気楽にしている。
 既に戦術機部隊との相対距離は400mを切ろうとしている状態でありもはや眼と鼻の先で突撃指示が展開の完了している戦術機部隊に下されるのも時間の問題だ。
 頼れるのはノーマルとネクストの間にある10機の戦術機と6機のノーマルモドキ戦術機を乗りこなす戦乙女とはなんとも頼りないと言うか心配するしかない。

「流石は七英雄殿だな―――喰いすぎて太るなよ」

『太るような身体に”造られないさ”それに伊達にお前達よりも有名になってはないのだからな
 久々にあの時の様な緊張感溢れる戦いが出来るんだ……七英雄が一人たる私としては願ったりだよ
 ジェラルドもあまり模擬戦をしたがらないのに加えて他の英雄では人殺しの実力不足でどうも甘い』

『お喋りはここまでにしよう……オルカ10、突入前に一花咲かせてくれ』

 予備弾倉を使い尽くした80mm速射砲を放棄し、空いた二つの兵装担架に両手に装備していた36mm突撃砲を回収させ代わりに空いた両手に二本の長刀を装備。
 宮本武蔵の如く二刀流となり噴射ユニットなどに送り込む電力などを多くすると共に、可能な限り水素を取り込み発電した電力をコンデンサーに逐電させていく。
 オルカ隊に加えて伊隅ヴァルキリーズも突撃前に同じように深呼吸のように水素を取り込み電力を蓄える、これから陽動を兼ねた突撃を敢行するのが我々の仕事になる。
 周辺水素が激減する状態でもオルカ10の山猫の左腕に装備されている大口径高出力レーザー砲が限界まで稼動し、その銃口に溢れんばかりのエネルギーを放出されながら弾を作り出す。
 30m級だからこそ搭載出来る大型発電装置とコンデンサーだからこそ出来るその桁違いの出力が生み出すレーザー砲の一撃は貫くのではなく”爆ぜる”のだ、それも盛大に。



『発射』


 何の高低もなく、ただ淡々と述べられる言葉とは裏腹にその一撃は放たれる。
 侵攻して来ているBETA群の真っ赤な蠢く森を焼き尽くす一撃は、その全てを貫くのではなく着弾と同時に巨大なプラズマ爆発のドームを作り出す。

 高出力レーザーの着弾は貫く場合もあるが、ある程度の設定が可能なモノやある種の爆発にも似た現象を起こすモノがあり高出力すぎるその一撃は着弾と共に爆ぜる。

 盛大かつ残虐に大爆発するそれは着弾地点のBETAを粉微塵に吹き飛ばし、至近距離の爆風を受けたBETAはまるでその形に合わせるように触れた部分が解けてしまう。
 ネクストやノーマルには貫かれないような対レーザー・プラズマ防御装甲があるが時としてこのプラズマ爆発が内部機器を全滅させる場合と内部の人間をこんがりミディアムにする事がある。
 マブラブ原作で鎧衣=美琴が感電死したのより凄惨な状態のモノが出来上がるのだが、どうやらBETAにも中々効力があるらしく一部のBETAがその電磁的な余波を受けていた。
 体内を駆け巡る硫黄の匂いを纏う謎の体液が蒸発しているのか、それとも何らかの衝撃がそうさせているのか解らないが身体が爆発しその鮮血を飛び散らせ死亡していくのだ。
 奴等を動かしている何らかのエネルギーにこちらの高出力ずきる一撃が反応し爆発させているのならば、山猫クラスの大砲を搭載した部隊を作り出せば今以上に有利な先頭が可能になるな。


『本隊合流まで粘るぞッ! オルカ隊各機このオルカ1に続けッ!!』


 その言葉に合わせるかのように支援砲撃の無数の砲弾が僅かに残っていた突撃級の残党を消し飛ばす。
 爆音が轟き、視界を爆炎と土煙が遮ろうともオルカ1の大鴉はOBを吹かせて大空へと飛翔し遮られている視界の向こうへと飛び立つ。
 地面と言う海面から高らかにその姿を見せつけ土煙の荒波を越えて群れに『追従せよ』と命令を下しながら獲物の群れへと飛び込む。
 無数の敵軍を前にしようと勇気と武勇を武器に変えて先陣を切り開く英雄の如く……いやオルカ1は現役の英雄だったな。


『『『『『『『『「オールハイルッ!!!」』』』』』』』』


 群れ長に続き我先にと獲物の群れへと飛び込む。
 たとえどれ程の数が待ち構えようとオルカに死を恐れるなどない、既に戦争を乗り越え隣合せの死を知る者達なのだからな。
 数だけで言えば”たった”の5000であり数億人に比べれば何倍も少ない……この程度を殺せずして何がオルカだ。
 さぁ来いBETA共ッ! 実戦テストの良い相手になれよ、ハイヴ突入を想定した乱戦作業なんだからしっかりと飛び込んで来いッ!

 ――― 鑑や白銀じゃないが因果律体はここにいるぞッ!!

 貴様等かそれに呼び寄せられるならそれも良し、核融合炉に呼び寄せられるならそれはそれで良い。
 エースの犠牲に未熟なガキはいらないんだよッ! エースは何一つ犠牲にせず僚機と共に帰って来るのがエースなんだからよッ!
 こう見えても俺は自分の死亡率は高くても僚機を死なせた事は……相棒の時くらいしかない凄腕なんだ、さぁエースを証明しようかッ!

「オルカ10飛べない分しっかり注意しろよ」

 黒い雲耀を自分の身体に変え、二本の長刀を振り回す。
 飛び掛ってくる戦車級を左で突き刺し右で正面に現れる要撃級の尻尾を切り落とすように、加速噴射ですれ違い様に斬り捨てる。
 着地する時は小型級や戦車級を踏み殺すように着地しながら爪先やカカトのカーボンブレイドでその肉に食い込ませ、引き千切るように足を振るう。
 脳に送り込まれる情報に『戦車級注意』と表示され取り付かれた部分が警告表示され、その汚い歯を高価な装甲に突きたてられる前に独楽(こま)のように回転。
 噴射ユニットの噴射炎と共に機体を高速回転させ取り付いている戦車級を強引に機体から引き剥がし、吹き飛ばされ宙を浮く戦車級を右腕を覆うブレイド装甲で切り裂く。

 圧倒的過ぎる乱戦能力ッ!!

 オルカ10へと注意しているが俺の心はあの世界では得られなかったこの圧倒的過ぎる乱戦能力に酔いしれていた。
 些細な動き全てが攻撃に変化するその全身刃ッ! 寄らば斬る・触れれば刺さる棘の如く存在出来るこの性能の凄まじさに驚愕させられる。
 正面から取り付こうとしてくる戦車級を右手で縦に両断しながら地面にいる奴もまとめて縦に両断し左手は地面から救い上げるように切り上げ要撃級の胴体を裂く。
 ジェネレーターの調子を見ながら月光を展開し何体もの戦車級を溶かし、時折上空へと退避すれば担架に背負っている36mm突撃砲の弾幕を降り注がせる。
 人間の動きについてこれる柔軟な関節機構と反応速度……これならリンクス全員に至急させられば桁違いに動きが良くなるかもな。


『問題ない……8分耐え切れば勝つくらいなら8分以内に目標を殲滅するだけ』


 四方八方を囲まれた状態にも関わらずオルカ10は何一つ声のトーンを変える事無く淡々と弾幕を展開し続ける。
 五連装ガトリングと出力などを調整して槍の如く相手を貫き続ける光を放つレーザーカノンがまさに桁違いの火力を淡々と示し続ける。
 まさにネクスト級AFであり有澤重工の隆文社長の愛機雷電は両腕を砲身にしているのに加えて両肩全てを使って装備する対要塞砲【老神】のおかげで火力はダントツ。
 老神が一発放たれれば並大抵のAFでは装甲ごと内部を吹き飛ばされ一撃で文字通り陥落する……あれを防げるのはカブラカンクラスの重装甲でなければならない。
 それに対して山猫は最高速AF【スティグロ】も翳むように瞬間速度を叩きだし瞬間移動の如く射線をズラし、ガトリングとレーザーカノンを叩き込む。
 加えてこの密集戦闘でヴァルキリーズや帝国軍がいなければアサルトアーマー(AA)で文字通り全て消し飛ばせるのだが、生憎援護している味方が多いので使えない。

『オルカ10迂闊だぞッ! その機体で前に出すぎだッ!』

 光線級が確認されず足の遅く邪魔になりやすい要塞級もいない上空を我が物顔で飛翔し、上空からヴァルキリーズが的確に支援砲撃(36mmや80mmなので射撃か?)が降り注いでいる。
 フォーメーションを取らず好き勝手に動き・好き勝手に戦うリンクス達で構成されたオルカ隊は孤立し易いが、そこからの離脱も容易に出来るのだが陽動の為にあまり離脱できない。
 現に連中はこちらを包囲するように転身・反転を行いながらこちらに猛攻を仕掛けてくるが生憎と物量に任せた攻撃には慣れているのがリンクスであり圧倒的な物量に抵抗するのがリンクス。
 マザーウィルやスティグロに加えてギガベースのVLSミサイル群を相手にした事のあるリンクスならば撃ち落しても爆発しない、激突しても何のダメージもない戦車級は問題にはならない。
 あの雨あられではなく豪雨・土砂降り・バケツ返しの如くこちら目掛けて襲い掛かってくるあのミサイルは今でも恐怖の一つだ……特にスティグロのASミサイルの性能は笑えんかったな。

 頭上を優雅に飛行しながら弾幕を降り注がせながら最前線をオルタ隊に追従する形で切り込むヴァルキリーズ。

 先頭を駆るのはヴァルキリー1……ではなく灰色の大鴉でありグレイゴーストRC(レイヴンカスタム)を乗りこなすレイヴン1。
 ヴァルキリーズを鍛え上げた傭兵の中でもっともノーマルの操縦技術に長け、その実力も最強と呼べるアナトリアの傭兵にヴァルキリーズは散々扱かれていた。
 言葉を発することの出来ないレイヴンが彼女達に教えてやれるのはただ背中と手足の動きで再現させられ、眼で覚えさせ体感で再現させるしかない究極の機動。
 普通の人間ならば言葉を話せない相手の教育など放棄するだろう……だが彼女達はその機動から戦い方を学び天然体の無改造人間にして良く動けるまでに成長している。 

『頭上の的確な支援と近接支援があるので問題ないです、このまま砲撃を継続します』

『そういう事だ、戦乙女達は先導する灰色の翼と共に大空を頼むぞ……地上はこちらに任せてくれ』

 オルカ3のパーソナルカラーは少し赤の混じった感じのピンク色だが、個人を示すエンブレムに蒼星を使っている。
 本来エンブレム・パーソナルカラーは経済的に悪いという事で行われないのだが、この日本帝国と欧州戦線ではエースパイロットや武家のカラーリングが許可されている。
 欧州戦線ではパーソナルカラーは実力ある者が弱き者達の精神支柱として君臨すべしと言う【ノブリス=オブリージュ(高貴なる者が負わねばならぬ責務)】として許可されていた。
 赤色の多いピンク色と言う弩派手な色合いだからこそ目立つその存在は欧州戦線の近接剣【グレートソード】を存分に振り回し迫り来る戦車級を薙ぎ払い、要撃級を黙らせていく。
 重厚長大のその大剣は欧州戦線で何体もの要塞級を沈め切り伏せる事を可能とさせた重量バランスを無視した一品だが、オルカ3の実力かそれを感じさせない程に軽く振られ文字通り吹き飛ばされる。

 外国の長刀は技ではなく質量を威力に敵を切り伏せていくのが主流。

 頑丈・強固な耐久力を持つ刀身に加えてただ振り下ろせば断頭台のギロチンの如く対象を一刀両断するその様子は、使い手をまさに処刑執行人の如き佇まいを感じさせる。
 QTと可動噴射ユニットを巧みに使い一度回転すれば剣の質量が勢いを何倍にも高め、群がる全てを一刀・一撃のもとに沈黙させ一騎当千の騎士としての実力を見せ付ける。

『オルカ3、あまり振り回されると近接支援が出来ないぞ』

 攻撃直後の新型OSでも消しきれない硬直を狙い群がる戦車級や要撃級を横からの弾幕が黙らせていく。
 もし味方の近接攻撃範囲に踏み込もうモノならば味方ごと斬り捨てられる領域だとしても、オルカ12はスルッと入り込み我が身を盾に弾幕を展開する。
 ブラックウィドゥに乗っていた経験か右手に長刀を装備しながら足下を払い、左手の突撃砲で的確に飛びかかろうとしている戦車級を沈めオルカ3の安全を確保。
 オルカ3はグレートソードを天高く持ち上げるとそのまま重量を乗せた一撃を目の前の要撃級に振り下ろし、二本の腕の防御ごとその身体を両断してしまう。

『小回りに精が出るなオルカ12』 

『それが役割だがやはりコイツ等では満足出来ん……やれやれ、おっと取り付くなッ!』

 長刀を逆手に持ちなおし足に取り付きつつある戦車級が歯を突きたてるよりも早く削ぎ落とす。
 36mm突撃砲の弾倉が自動排出させ担架に備え付けられているサブアームが予備弾倉を掴み出し、素早く再装填すると継続的に弾幕を張り続ける。
 そして何処かの布陣が解けかければそこへと急行するように飛び立ち、先程と同じように雇われ傭兵の動きで右へ左へと忙しく飛んでいく。

 オルカ12によって体勢を整えたオルカ3は両手でグレートソードを持ち突き出すように構え、オルカ3の大鴉が全速力で群れを突き破るように飛ぶ。

 低空かつ一歩間違えば地面や要撃級に激突する馬鹿な真似だが、グレートソードは本来斬るのではなく戦術機の機動力を一種の突破力に変化させるように造られている。
 時速400km/hの全速力で巨大な剣が一直線に飛来する……そんな悪夢を生み出し無数の軍隊を文字通り貫き切り裂くようにグレートソードは作り出させたそうだ。
 現に既に数を減らし始めた群れに追い討ちをかけるように閃光の騎士が立ちはだかる者達全てを貫き跳ね飛ばし、その巨体を貫き真っ二つに両断していく。
 
『……相変わらず派手だな』

「そら豆鉄砲で一射一殺してるよりは華やかで派手だよな」

 俺の後ろで腕を振り上げていた要撃級が横からデカイ風穴を開けられ、地面に沈む。
 オルカ隊の背中全てを担う狙撃屋であるオルカ11は最後尾で確実に一撃で一体のBETAを殺すと言う中々の荒業を見せている。
 無論一撃で沈める事の出来ないと感じる相手に対しては足を確実に撃ち抜き機動力を削がせ、後はこちらが身動きの出来ない奴を仕留めさせて貰う方式。
 コジマ粒子を砲弾に変えられる粒子砲による完全な一撃必殺がオルカ11の戦法なんだが生憎そんなモノをこんな所で使わせてやれる訳もなく、結局豆鉄砲での戦いとなっていた。
 唯一の救いはレーザー式のスナイパーライフルによる貫通力に優れた一撃が確実に数を減らしてくれている事だろう。

 しかし俺もこの乱戦でよく周りが見えるものだな。

 実際5000の大軍を僅か20数機の直属と後ろから撃ってくるかも知れない大隊と協力しての防衛劇だと言うのに、自然と周囲に眼を配れる。
 乱戦で断続的な砲弾やロケットが降り注ぎそれを避けようと四苦八苦しながら迫り来る敵をひたすら切り倒す状況にも関わらず……自然と戦場が見えた。
 爆音の先に点在する味方と敵の姿・レーダーをリンクさせながらの情報分析・ふと地面から上空で陣形を維持しながら弾幕を降り注がせる戦乙女の勇姿にすら眼を配れる。
 以前は自分の情報以外を見れば頭痛すらしていたと言うのにこの余裕のない乱戦状態にも関わらず味方と信じれる相手の現在状況全てを確認すら出来る余裕が出来ていた。

『オルカ8よりオルカ13ッ! 戦場に酔って緩みすぎだッ!』

 オルカ11が撃ち殺した要撃級を踏み潰すように着地すると背中を護ってくれるように弾幕を展開しだすオルカ8。
 どうやらベテランから見ればこれはこの世界の戦場に酔った状態らしい……確かにこれだけ狭い状態かつ遮蔽物があるにも関わらず”見える”なんて思うのは思い上がりか。

 帝国随一の狙撃能力を持つブッパと山猫の広範囲索敵によって正確な位置を割り出した状態での支援砲撃による撃滅。

 上空から常人ながら良く持たせている・成長して使い物になる伊隅達の支援射撃と地上で囲まれながら砲撃を継続させられるオルカ10からの単機とは思えない砲撃。

 そして今のように近接支援を行える実力を持つオルカ隊の仲間がいてくれる、酔うのは当然か。
 頼れる連中が居てくれるだけでグッと心持ちが楽になるのに加えてその活躍や生還への信頼もあるのだから、なおさら気負いなどを消えて周囲を見れるようになっていく。
 それを『酔う』と言うのか……ロイ=ザーランドは自分達の理念に対してその発言を良く使ってたな、マイブリス(我が至福)は美人の涙とか抜かすあの男が。

「酔ったつもりはないんだがな」

 しかし減らない……オルカ隊8人とヴァルキリーズ6人が一機につき100体のBETAを仕留めたとしても残りは3600体の余り。
 ここまでに強引な攻撃を敢行した帝国軍の攻撃や機甲部隊の砲撃を受けている筈にも関わらず減ったとまったく思えない程に連中の反応と姿が見える。
 敵の防衛線突破をさせない為に戦術機部隊は『死ね』とばかりに四方八方を囲い尽くす赤い戦車級と白い要撃級の真っ只中に点在している。
 オルカ隊は自ら実力を示しスリルを楽しむ為に飛び込み・ヴァルキリーズは勝利を呼び込むヤタガラスに追従し大空を飛び時折着陸地点を確保して休憩してはまた飛ぶの繰り返し。

 だが帝国軍の戦術機大隊は中隊規模で散開し、BETAの群れに抵抗しているが大分数を減らしていた。

 新型OSなどで能力を高める事は出来てもそれが【=】で勝利に繋がるなんてのは有り得ない、ネクストは確かに最強の個人兵器だが個体故の限界など腐るほどある。
 戦術面で有効打になるが戦略面では有効打にはなりえない……勝負(戦術)に勝っても戦(戦略)で負けては何の意味もなさない。
 少し中身が変わった程度で物量を押し返せるならば白銀は単機で世界を救えるだろう、だが戦争はそんなに甘くはない個人の力量や戦場から見た数値など知れているのだからな。

『周囲の戦術機部隊の損害が大きい……持つのか?』

『無理でしょうねぇ、三桁の相手も倒せず死んでるんですよ? コストに応じた最低限の仕事もせず死ぬなんていい加減な軍人ですね
 せめて自爆くらいして少しでも道連れにして欲しいところですけど……おっとこちらに殴り飛ばされたのが飛んできましたよ
 中身は言うまでもなくミートパイであぁ勿体無いですねミサイルコンテナに弾を残して死んでしまうなんて、オルカ12少し援護を』

 こちらの通信に割り込む形でオルカ9がヘラヘラとした声で随分と好き勝手言う。
 オルカ10の背中を護るように戦っているオルカ9から言わせれば機体コストに応じた数を撃破しないのは怠慢らしい。
 本当に向こうに通信が流れていたらゾッとするような事を平然と言ってくれるが、本人は確実に敵を撃破しているのだから文句は言えない。
 それとどうやら付近で戦っていた帝国軍の戦術機の一機が上半身を殴り飛ばされたのか中身は潰れた状態で飛んできたようだ。

 地面に叩きつけるように長刀を振り下ろしこちらの要撃級を仕留めるが見事な音をたてて左手の長刀がへし折れた。

 中程より先が切り伏せた要撃級に突き刺さったままで、中程から下の柄などを適当に投げ飛ばしレーザーブレードを展開し左側の戦車級数体を溶かす。
 視界に表示される様々なデータに眼を通せば余裕のあった筈の弾薬は残り少ないのに加えて近接武装の一つが先程綺麗にへし折れ使い物にならなくなった。
 均等に使っているつもりなのでそう時間を待たず右手の長刀も砕けるか折れる……そろそろ弾薬補給に後退したいが撤退する際の血路と後方を任せられる味方がいない。
 帝国軍の旧式は良く粘っているが後ろを任せられるほど信頼している訳じゃない、伊隅達はまだ頭上で奮戦中だが散開しているオルカ隊全ての援護は難しいだろう。


「……ある意味で軍人経験のない俺達が軍人職非難出来るのか?」


 オルカ9がコスト分の働きをしない事を非難しているが、もしその部隊が今までの戦いで四桁の敵を撃破していた場合はどう謝罪するつもりだ?
 リンクスは傭兵なのだから渡される報酬分はしっかりとこなすが軍人のように報酬以上の働きをしながら安定した戦力になれない。
 軍人には軍人の・リンクスにはリンクスの良さと悪さがある……たまたま自分の目の前が活躍していないからと罵倒するのはどうかと思うがまぁ所詮俺達はお門違い。

『オルカ10より各機……そろそろこっちの時間が厳しい』

 戦闘開始より8分が過ぎ去りオルカ10のタイムアップが告げられる……やれ殲滅してやると意気込んでいたのはどうしたことか。
 だがこちらもかなりのハイペースで弾薬をばら撒いた所為でもう予備弾倉は使い切っていてとてもじゃないがこのまま戦闘継続は出来ない。
 帝国軍の機甲部隊も良くやってくれている、山猫の広範囲索敵があるとは言え敵中に孤立するように点在し陽動を行っている味方に当てないように断続的な砲撃を行っているのだから。
 傍から見れば味方を誤射しかねない砲撃だとしてもあり機甲部隊は誤射しない確たる自信とそれを信じれる勇気を持ち合わせているようだった。

 帝国軍の一個中隊と二個小隊が壊滅した大隊が後退をするのを援護するように砲撃の雨を降らせ追撃を赦さない。

 たった一個大隊で攻勢を食い止めていた部隊の後退を確認しながらこちらも各機の反応を確かめつつ着実に後退し始めていく。
 コチラは上空のヴァルキリーズの支援射撃でオルカ10の元へ集結を開始し、程なくして全機無傷と言う状態で集結を完了させる。
 支援砲撃の爆風や爆炎に加えて直撃によって粉微塵に吹き飛んだ肉片が装甲に激突し、小石が装甲にめり込むが何の損害にもならない。
 むしろその全てを盾にしながらオルカ8機が山猫の元に集結し戦場の最前線に唯一残った獲物に群がるように3000オーバーの反応が向ってくる。

『オルカ7よりオルカ13、彼等は核融合炉に引かれるのか』

「知らん……が後ろに逃げた連中よりもこっち狙いと言う事はそうなんだろう
 囮役には最適と言う事だとしてもアサルトアーマーなしで3000はキツイな」

『そうか……ところでオルカ13、後で色々と話す事があるのだから死ぬな? 何せ”大釜の主”関する事だからな』

 ”大釜の主”と言う事は香月博士への行動となれば死ねないな……さてBETAだが本当は因果律体の俺へと群がっているのだろう。
 何がしたいのかサッパリ解らんが何か思惑染みたモノで俺に向ってきているのは確かだろうな。
 そうなれば一体”何”がそんな高等な指示を出しながら少なくともこの場の派遣兵にその命令を保留させ実行させているのだろうか?
 上位級はユーラシア大陸の中心点・佐渡島からこの日本内陸絶対防衛線へと通信出来る……通信するような専属の存在がいるのだとしても遠い。
 そもそもこの末端の連中にそんな高等な知能が残されているのか? それにそんな知能が存在するのかすら怪しい限りだ。

 内心色々と考えながらもオルカ隊8機で全方位防御を行いながら時間を稼ぎつつ下がる。

 八方位に一機ずつ展開し中心に存在するオルカ10を護るように少しずつ後ろへと下がっていく。
 オルカ10も苦手なノーマルの操作で弾幕を展開し正面からの追撃を防いでいるが、やはりリンクス操作時よりも狙いが甘く照準のブレを大きい。
 退路を切り開くのは余力の多いオルカ1・7・11の三機で弾倉に余裕のあるこの三機が残っている弾薬の全てを投入し退路を撃ち開いていく。
 左右は俺とオルカ3で斬り捨て前衛を残った面々と頭上のヴァルキリーズが射撃で援護してくれている……が長時間浮遊出来ない機体達は一足先に後退していった。

『残ったのは我々だけらしいな』

『余裕そうにしている場合かッ! そろそろこっちの弾薬が尽きるんだぞッ団長!』

『落ち着けオルカ12、退路までは持つさ……何の妨害もなければな』

 少しずつ後ろへと下がるが邪魔になる壁が多すぎる。
 円陣を組むように展開しているが一方向への攻撃収束が出来ない所為で思うように後退出来ず少しマズイ状況に陥ってきた。
 山猫の火力は正面からウヨウヨ迫ってくる連中の足止めに使われているので後方へは向けられず、懸命になれない操作で戦っているオルカ10がいる。
 全機弾薬がそろそろ心許無くなり始めオルカ12が少し慌て始め周囲がそれを諌めているが本心は自分達の残弾をかなり気にしている筈だ。
 精神の揺らぎはストレスだ―――このままストレスが増加し続けるとこれ以上の長期戦闘を放棄しなければならない危険も俺達にはある。
 オルカ11は指揮官としては活動していたらしいが合流した時もそこまで戦術機の操作に長けているとは言っていなかった……もしノーマル操作が必要になればオルカ隊は壊滅するだろう。

 自分達の異様な戦闘力はAMSによる柔軟性と仮にも高コスト機体に核融合炉の最強があるから。

 無論実力や実戦慣れもあるがそれでも機体に引っ張られている面は少なくない。
 山猫は火力の要だがその重量故の飛べない点がここまで部隊に響くとは思っていなかった。
 ヴァルキリーズの補給も時間が必要なのに加えて帝国軍の砲撃も降り注いでくれているがやはり火力不足なのと突破を赦したモノの対処に追われてズサンになっていた。
 どうやら完全に呼ばれているようではないらしい……もっと何とかして引き寄せる方法があれば砲撃も持ち直せるんだがさてどうするべきか。


『こちら帝国軍第二師団:岩見=銀翁中将だがよく粘ってくれた……ここから反撃開始と行こうではないか』


『こちらは有澤重工から直接支援に来た有澤=隆文だ―――巻き込まれるな、無事ではすまんぞ』


 その通信に腐りかけていた心が持ち直す。
 通信直後に十数発の砲弾が頭上を通り過ぎ眼前に存在している反応の尽くを焼き尽くし吹き飛ばす。

 更に間髪入れず別部隊を使っているのか更に十数発の砲弾が左右に着弾し大爆発を引き起こし爆風内に存在していた反応を全て消し飛ばす。

 戦死し戦場に転がっていた残弾やAー12を内蔵したままの戦術機が被弾しそのまま誘爆を起こし散発的な大爆発が追い討ちをかける。

 一撃で無数を巻き込み絶命させるコストを無視するその一撃はまさに陸の艦砲射撃……少なくとも前と左右の安全の確保に成功する。
 そのまま残っている火力を退路開拓へと廻しオルカ隊は何とかズタボロの味方部隊と援護に駆けつけた銀翁の部隊へと辿り着く。
 小型駆除は良好らしく目立った被害もなく完了しているようで、ありがたく一段落つけるようだった。

『中佐ご無事ですか?』

「ヴァルキリーズも全員健在でなによりだな……ふぅ……さて補給だ補給」

『コンテナの準備は出来ているからすぐにでも補給出来るぜコジマァッ!!』

『やれやれタンク型に乗ってまた戦地に出てくるとは、本当に単純馬鹿め』

 無傷だが弾薬関係が綺麗になくなったオルカ隊に差し出されるコンテナから必要な弾薬や武装を補給していく。
 オルカ10の右肩の武装コンテナも破棄され新しいモノをオルカ6(ヴァオー)の雷雲の手で直接装備させられている。
 股関節の予備弾倉も補給し今一度戦闘準備を完了させるが、すぐ近くで老神をボコボコ景気良く乱射している有澤重工の部隊がいるので出る必要はなさそうだ。
 ――― 一個中隊規模(18機)の雷雲が老神を装備して撃っているのだ……もぅ土煙や爆炎の向こうにやつ等は残っていないだろう。

『これで終わりそうだな』

『まったくだ、せめてネクストならばあれくらい拙者だけで捌けるのだがな』

『デカイ奴専門の男が良く言う、消し飛ばすのはグレイグルームの仕事だと言うのにな』

 誰もが今回の戦闘の終幕を信じていた。
 少なくとも師団規模の戦術機部隊に加えて有澤重工の砲撃で消し飛んでいく風景を見れば勝利を確信もしたくなる。


『振動? 砲撃のじゃなくて―――浅くなってるッ!?!? ヴァルキリーマムより各機へ下から増援来ますッ!!』


 だがこの絶対防衛線が眼と鼻の先にある内陸にすら連中は既に掘り進んでいたらしく反応が出てくる。
 横浜襲撃の際に使用される道だろうが……この六ヶ月近く前の時点で絶対防衛線まで掘り進んでいるなんて信じたくなかったが現実らしいな。
 少なくとも掘り進んできたのだから間違いなく光線級が潜んでいる筈、これから砲撃が更に厳しくなっていくが仕方ないか。

 その証拠に土煙と爆炎を撃ち貫く無数の閃光が、大槍の如く飛んでいた老神の弾丸を撃ち落していく。

 無慈悲なまでに正確無比で十数発の老神弾全てを平然と撃ち落すだけならば良いがこれから少なくとも十数体はいる光線級の相手をしながらか。
 さて一体何体出てくることやら……補給は出来てるけど精神や肉体の疲労はこんな短時間で回復はしないんだからよ。

「全機来るぞッ! 連中お得意の援軍だッ!」


 5000規模は覚悟していたが、予想は大きく反する事になる。


『総数再度……3? 観測間違いじゃ……観測数”3”ですッ!でも音信大きいですッ!!』


 姿を隠すモノを薙ぎ払うように巨大な腕が煙を切り裂く。

 煙の向こうから地面に大穴を開けて現れたのは全長100m・全高80mはあろう巨大すぎる巨体を誇る要撃級。

 光線級のような目玉を全身にビッシリと装備した最悪なまでに気色悪い―――俺でも知らない新種のBETA。

 ギョロギョロと目玉が動き獲物を探し求め……運悪く俺と眼が合う、それも無数にある見える範囲の目玉全てが俺を見ている。


≪照射警告≫


 見える世界が光った。 

 そしてそれにあわせるように右腕を激痛が貫く。

 それが第二ラウンドの幕開けを告げる事になった。


□□□


 やっと書けたッ! やっと試験も終えて後は進級許可が下りるかの通知待ちです。
 そしてあまりにも書けていない所為で間違いなく腕が落ちている事が嘆かわしいです。
 もぅ本当にありとあらゆる面で腕が落ちてて感想板が荒れないか心配です……かなり悪くなってます。

 んで試験中にも関わらず平然とゴットイーターを作者はしてました。

 一言言えば……何処のマブラブですかこの世界。
 特にエイジス計画とアーク計画の対立なんかがもぅオルタネイティブ計画そのものでした。
 こちらはしっかりと計画の良さと悪さを貶しあってましたから大分納得出来る対立でしたね。
 あとちゃんと救われたエンディングとか―――慣れるまで絶対にマゾになれるゲームと言えますよこれ。
 難しさがモンハンよりキツイッ! なにより大型モンスターの三体も四体も同時戦闘が厳しすぎですよッ!

 さてこれも書けたのでリリウム日和を書かねばなりませんね。

 今だ出せてあげれてないA分隊の方々とAB分隊の協同訓練の様子とか特に。
 あと地元広島に初めてサークルが来ましたよ……まぁもぅ来ないでしょうけど本当に地元に来てくれて助かります。
 福岡とか大阪行くの嫌いなんですよ旅費とか地理と電車関係とかもぅ本当に。

 あとまったく関係ないのですけど、いつも執筆作業中に聞いているMAD

 【Raven's Anatolia】

 を見たり聞くと作者のようなアナトリア最強主義になれると思います
 いや本当になれます

 ご指摘により修正



[9853] 三十四話[圧倒的な個体と神の玩具]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/06/03 00:02
 視点:コジマ

 真っ白に染まった視界が赤色一色に豹変する。
 右腕に奔る激痛に加えて損失した右腕の肘から先の感覚がなによりも自分に起きている損傷を教えてくれていた。

【右上腕部照射により消失・右担架武装損傷:砲身・銃身共に大破・バランサー作動】

 脳に情報が叩きつけられてくる。

 損傷の細かい度合いから右肩の兵装担架が背負っていた長刀と36mm突撃砲を二つとも見事に破壊されている現状。
 右腕を失った事による機体全体のバランスが大幅に崩れてしまうだけならまだしも左肩には長刀と36mm突撃砲が健在しているのでバランスが極端に左に寄っていた。
 機体の基礎OSに組み込まれているオートバランサー(自動均衡調整)がこちらの操作機動に適切なモーションパターンを組み込んだモノへとシステムを組み替えようとしている。

「オートバランサー解除に合わせパイロットの操縦に一存、大破武装放棄……戦闘継続」

 あらかじめ組み込んでいる片腕を無くした場合のノーマル操作のシステム変更操作を黙らせリンクス操作への割り込みを禁止させる。
 こんな操作に脳髄の処理能力を裂くのが勿体無い……こちらの緊急回避パターンと照射時間を比較しながら右腕の消失時間を算出して威力と照射時間を逆算しセラフに転送。
 もっと正確に処理できれば良いんだが目の前の奴を捌きながら処理しきるほど能力があるとは思わなければ、そこまで傲慢に戦えるほど連中を馬鹿にはしていない。
 しかし右腕と武装を持っていかれたのは大きい、左腕一本で仮名【AF級】を倒すというのだから中々これはこれで命の危険があるのだが俺は何故か”笑えて”いた。


『オルカ13後退をッ!』


 ヴァルキリーマムの慌てた通信が届くが……自分でも不気味なほどに落ち着いているのが判るのだ、それも被弾した状態で攻撃を簡潔だか逆算出来る程に安定している。
 セラフに送った簡単なデータは即座にセラフとヴァルキリーマムが処理と演算を行い正確なデータを割り出せば少なくとも現状で判る限りの対処手段が届く。
 要塞級を越える巨体に光線級を内包したまさにAFと呼ぶに相応しい奴が三体、目の前に現れたのだから慌てるべきなのだろうが……どうも慌てれない。
 自分の右腕があった筈の射線軸には地面を抉るほどの高出力照射の惨劇が存在するだけでなく、その射線に存在していた友軍機の反応の尽くが消滅しているのに。

「頭上を押さえられた状態に加えてこれ以上は防衛線に差し支えるから後退は出来んッ! それにたかが右腕の一つだ
 左腕と担架武装があれば援護と陽動くらいは出来る……オルカ12、突っ込むが準備は良いだろうな? お得意の大物取りだ」
 
 頭上を山形に飛ぶ無数のミサイルだがAF級の全身に無数に存在している目玉が放つ光の迎撃によって尽くが撃ち落され空中で爆散。
 AML弾頭ならばこの時点で金属雲を発生させられるかも知れないが高度が低すぎるのとこちらのレーザー兵器との兼ね合いを気にして撃てない状況。
 18機の雷雲が放った老神のグレネードですら直撃を許すことなく迎撃されその強大な威力を相手にぶつける事すら許されずに消滅していく。
 一体にどれだけの目玉が装備されているのか判らないがとにかく迎撃効率が良すぎるのに加えて……インターバルが短いのか迎撃が途切れない。

『揺らがんか……手強いぞ』

 有沢の言うとおり、ミサイルの迎撃によって僅かながらに開いた隙間を通り抜けた一撃が撃墜され至近距離での爆風が被弾したにも関わらずまったく相手は揺るがない。
 加えて三体は矛先をこちらに向けた三角形の布陣【アローヘッド】を展開しながらお互いの事を巧く援護しあいながら確実にその一歩をこちらへと踏み込ませてくる。
 移動速度は迎撃を優先しているからか遅いが、先端を担う一体がとにかく撃ち落し、その後ろに付いている二体が撃ち漏らしを撃ち落す戦術の前に砲撃が通じない。
 ただでさえ迎撃速度と精度が化け物じみている癖に一度の総放射数が桁違いに増えた状態に加えて頑丈さや”いるだけの厄介さ”が桁違いに高いぞコイツ。

『止まれ止まれ止まれよッ!』

『目玉でも36mmが通らないぞッ!』

 援護に来た部隊がひたすら弾幕を展開するが36mmの豆鉄砲は相手の軟らかそうな部分ですら明確な被害を与えている様子がない。
 見る限り人間で言えば薄皮一枚を集中放火して何とか削っている状態か、あるいは分厚い岩相手に先端の丸まった錐(キリ)で穴を開けているような状態。
 加えて集弾性をあえて悪くしてある36mm突撃砲だと一点への集中放火が出来ないので職人の巧みな技で突破するなんて夢すら見られない。

 目の前のAF級にとって36mmは迎撃する対象ですらないらしく、それこそ前面に立て続けに突き刺さり続けている筈の”劣化ウラン弾”すら無視する。

 言っておくが俺の生まれた世界だと戦車の装甲を簡単に貫いて破壊するだけならまだしも……軽度の放射能汚染すら付属している世界国家間兵器条約で禁止クラスの代物だ。
 そんじょそこらの弾丸とは貫通力が桁違いにも関わらず分厚い装甲代わりの肉に阻まれる―――こんの肥満体質がッ! 36mmが通らないなんて卑怯だぞ。
 加えて目玉の表皮粘膜も強化してあるのか本来ならば易々と貫通する筈の36mmが役立っていない、畜生軍人の演技止めたくなるくらい卑怯だチートだッ!


『突撃砲が駄目なら120mmか36mm狙撃砲で撃ち抜けッ!』


 シルバー1(銀翁)の号令に合わせてオルカ11(ブッパ)や狙撃砲を装備している機体が目玉を射抜こうとする。
 36mmでは


『困ったな……貫通力特化の狙撃砲対策か?』


 素早く閉じられた目蓋によって火花となって劣化ウラン弾が消えた。

『嘘ッ! 120mmでも通らない目蓋なんて』

『諦めるな攻撃を集中すれば突撃級の甲殻だって120mmなら突破出来るッ!』

『りっ了解ッ!』

 120mmの劣化ウランも目蓋の壁に消えた。
 一点突破の砲弾すら無理にならば面制圧方の遅効性散弾(キャニスター弾)では到底突破は不可能だろう。
 雷雲隊もまたガトリング砲や電磁投射砲を撃ち込むがなにぶん対象が大きすぎるのと至近距離に踏み込めないのがあまりにも無力さを感じさせる

 いかに速射出来ても体力10000の相手にダメージ1では何分掛かるのか判ったものじゃない。

 本来ならば小・中型級どころか要塞級の大型級ですら数体立て続けに即殺出来るだろう火力がたった三体の新型を前に封殺状態。 
 
 豆鉄砲では巨体に致命傷を与えるにはあまりにも火力不足で、加えて肉厚らしく弾がまともに食い込んでるにも関わらず平然とまた一歩歩みを進めてくる。
 巨体故の攻撃力と防御力を持ちながら重光線級クラスの表皮幕に加えて表皮幕が突破されるであろう攻撃を個体処理しながら捌いてくる。
 120mmや狙撃砲のような高火力だが迎撃しづらいのは防御し、老神やミサイルのような兵器は完璧に迎撃しながら確実に攻撃ラインを上げてくる。
 こっちの防衛ラインにも限界がある……今は小型・中級を殲滅出来ているから良いがこれで数まで揃えば一瞬でこっちのラインを崩壊させられるだけの能力持つ個体。

 くっそどうせなら終始弱い奴らの数任せにしろよッ! 対応し辛いだうがッ!

 しかも【攻撃処理】が出来るという事は間違いなく【指揮官級】か【軽頭脳級】と証するに値する高い判断能力におそらく目玉から情報を回収して即座に判断出来るだけの処理能力。
 【00ユニット】レベルか低下しても【セラフユニット】レベルの処理能力を”何処かから”得ている事に繋がるが、さて頭脳は佐渡島反応炉じゃなくて個体搭載だと良いが。
 ギガベースにアンサラーの迎撃機構が搭載された感じだな……そんな性能だからか今の自分は軍人らしい面を取り繕う余裕は流石にないみたいだ。

 
『オルカ12(ラスター)より突撃する援護されたしッ! レーザーブレードで目玉を溶かすか実刀なら突破出来る筈だ』


 オルカ隊でも屈指のAF撃破スコアを持つオルカ12が言葉にオルカ隊は無言で続く。
 頭上に上げられたミサイルと砲弾が作り出す経費の盾と噴煙を目隠しに真っ先に跳躍するがやはり照射警告が即座に来る……インターバルの穴は別の眼で埋めているようだ。
 大気中の噴煙などを焼き貫く事で初めて肉眼による視認が出来るレーザーだがあいにくと後方のセラフとリンクス自慢の演算能力で照射着弾は演算出来ているッ!

 煙の壁に収束した穴が開く。

 だが既にQBで回避状態でありすぐ右隣で大きな風穴が開いている様子を見るとゾッとスリルに身体が雨に濡れる子犬のように震える。
 すぐ傍の死が異様な集中力と高揚感を与えていく、生き物としての死を拒絶しようとする本能が疲労している筈の能力に火をつける。

『もう被弾しているのに避けられるのか13?』

「そっくりそのまま返すさ」

 オルカ1(テルミドール)の大鴉が機体の重さを感じさせない素早い動きと天才の直感がなせる技か、QBの連続使用でもまったく姿勢が揺らがない。
 加えてレーザー兵器を前面に押し出しているので機体のエネルギー消耗が激しいにも関わらずそれでいて動きが落ちる様子はまったく見られない。

 援軍に駆けつけた部隊もかなりの数の機体がレーザー兵器……カラサワを撃ち込んでいる。

 どうやらレーザーは未だ苦手らしく、BETAにはありえない行動とも思える巨大な二本の要撃級のあのモース硬度15の腕で前面を守っている。
 そして迎撃を掻い潜ったオルカ1が放つレーザーの着弾は目玉を守る目蓋、対レーザー角膜を持つ目玉自体までは潰せなかったがそれでも防御壁たる目蓋に穴を開けた。

『良い働きだなオルカ1、シルバー1よりレーザー砲撃を目蓋に集中せよッ! 穴が開いた所に実弾を叩き込んでやれッ!』

 白色の頂点たる銀翁の右肩に電磁投射砲と予備弾倉を装備した雲耀の砲撃が的確にその穴を開けられた目玉に叩き込まれる。
 初速に優れているのに加えて対実弾防壁を失っている目玉では電磁投射砲は防げないらしく、小さいとは言え無数の迎撃装置の一つが破壊出来たのは大きい。
 少なくともその目玉がカバーしていた範囲が消え去るだけでなく、頑張れば目玉を潰せるという希望が見えたのだから。

 だが現状で潰せたのは”無数”の中のたった”一つ”だけ。

 それ以外は地上からのレーザー砲撃はまともに当たらず……むしろ自分よりも大きなものに対して弱い本能が邪魔をする中で当てるのは至難だろう。
 前方180度をなぎ払える巨大な腕はそれこそ大きな丸太で、か弱い子供を殴り飛ばすような状態でとてもじゃないが被弾覚悟でも突入は難しい。
 加えて真正面はその腕を使って盾を構えている状態の先頭一体に苦戦している状況でその左右を固める二体まで相手しなければならないのだから。

『くそ剣が重くて近寄れないッ!』

 知るかッ! そこは自分で努力しろよッ!?

 まぁオルカ3の場合は機体が重量級と言うのもあれば使っているグレートソードの重さもかなりの足枷の筈だ。

 なにせ雲耀の機動性があればもっと易々と回避出来ると踏んでいたが……くそインターバルの穴埋めが”速い”
 右目を休めて左目で撃ち、疲れた左目を休めて元気になった右目で敵を撃つといったリサイクル作業と数の多さを前に踏み込む道筋が完全に封殺されていた。
 真正面だけでなく位置のズレた左右からも容赦なく照射が飛んでくるのを回避する為にQBを連発するがとにかく機体への負荷が馬鹿にならない。

 計測出来る限りだいたい50前後が真上からドーム状に迎撃範囲を持っているようだ。

 左右にもおそらく同数の目玉があると過程出来るとしても簡単に殺せないのにこの数は卑怯だろうッ!


『最大収束確認……はっ―――』


 オルカ10(ハリ)の現状最強のレーザー砲撃ならばデカイ腕は突破出来ずとも脚部や胴体に甚大な被害を与えられず筈だった。
 だがその光を見過ごす訳がないらしく、複数の目玉が目蓋を細めその光を収束させ同時に複数の光と合わさるように奔る。

 それはまるで巨大な光の剣と化し、地面を抉り貫き下から掬い上げるように走り続ける。


『オルカ10、かわせッ!』


 ヴァルキリー2の言葉と共に山猫がその場を瞬きの間に高出力QBで動いた時、槍のごときレーザー砲の砲身が中程から先が見事に”切断”されていた。


『ジェットかコイツはッ!?』


 【AF:ジェット】

 レイレナード社が開発を進め、オルカ旅団の手によって完成を迎えた【超重装甲レーザー掃射式蹂躙型AF】でありAFでもグレートウォールに匹敵する装甲を持ち合わせた化け物。
 高出力のレーザー砲撃に加えて遠距離まで伸ばす事が可能でビル程度の建築物ならばチーズの如くすんなりと切り裂いてしまえるレーザー兵器のみで構築されたAF。
 なにせその装甲は老神の着弾にすら耐えながら何本ものレーザーブレードを同時に伸ばし、カラサワクラスのレーザー砲撃を行ってくるまさに光による蹂躙を可能とする兵器。
 現物はその装甲とレーザー兵器の同時使用による放熱問題の為に巨大な放熱ファンを装備していた所だけが装甲が薄くそこを狙えば簡単に倒せる兵器だったが……

『放熱ファンのないジェット相手にどう立ち回れと言うのですか?』

『知る訳ないだろうッ! 肉厚の防壁に加えて高速迎撃ッ! しまいには大型衝角を二本も装備してるんじゃあお手上げだッ!』

『せめてアサルトアーマーかプライマルアーマーのどちらかが使えれば話も違うけどね』

 至って冷静そうにしているオルカ9(PQ)の言葉に対して声を荒げるオルカ8(トーティエント)に後方からの狙撃で努力しているオルカ11(ブッパ)が打開策を言う。
 敵は山猫の砲撃を阻止したから純粋な照射からレーザーブレードによる滞空迎撃と対地殲滅にシフトし始める。 

 既にミサイルコンテナを放棄しゴキブリの如く素早く丁寧なブースト移動で照射されるレーザーを掻い潜り地上での的の役目を果たすオルカ9。

 高すぎず低すぎない高度を維持したまま正面のAF級の注意を引きながら120mmを叩き込み目蓋を破壊、そのまま36mmを叩き込み破壊するオルカ8。

 オルカ9やヴァルキリーズに対してブレード照射を行っている目玉を見つめだし素早く発射、防御の為に目蓋を閉じさせ部隊全体を後方から支えるオルカ11。

 救いなのはどうやら判断能力を持つ所為で防御を優先するのとその結果としてブレード照射は複数の眼を収束させなければ出来ない技と言うこと。
 36mmと言えどガトリングや電磁投射砲ならば威力はある、帝国軍の集中放火とヴァルキリーズのおかげで開いている眼に対して砲撃を集中させ強引に目蓋を閉じさせる。
 そうすればレーザーブレードの生成が回避出来るだけでなく砲撃そのものをかなり減衰でき始めていた。

『速瀬ッ!』

 地上に対して行われるブレード照射を回避するヴァルキリーズ。
 倒した要塞級などの死骸は盾にすらならず、その奔る剣閃を前にすればリンクスですら逃げる以外に選択肢が残されていなかった。
 だがかなり光速で振り上げられ・振り下ろされる太刀筋は射程内の逃げ遅れた存在を容赦なく切り刻み既に帝国軍の布陣は輪切り状態にされている。

 上から見れば光が奔る度に分裂していく群れと言うのは中々に見たいとは思えなかった。

『判ってますってッ!』

 逃げ遅れがいる中でも優秀だからか、閉じられた目蓋に即座にカラサワを撃ち込み壁をこじ開け残った人員で目玉を叩き潰す。
 即席ながら良く出来ていると褒められる……流石は凡人の鏡だけあってそこは中々に出来るらしい。
 出来ればネクストに乗らせて大活躍させたいが常人に加えて下手に弄れる様な人材でもなければ彼女達は香月博士の部下だ。
 まぁそこはメルツェルに期待だ、せっかく”ヤッテル”のだから的確に落として手駒にして貰いたいもの。


『ヴァルキリーマムより現状データ解析完了、送信します』


 マムとセラフによって現段階で処理出来る限りの情報を解析し送信される。
 照射速度・レーザーブレード発生に必要な目の数・目蓋の強度から目玉一つ一つが行う迎撃範囲の測定。
 この短時間でよくもこれだけ叩きだせるッ! 流石は戦乙女の母だけあるってものだ。
 改良を続けているとは言えセラフ単体でポンと出せるほどアレの性能は過信してはいない……本当に化け物ばかりだな。

「よしこれで少しは切り込めるッ! 真改ッ!」

『命令不要ッ! 突撃ッ!』

 こちらが照射の注意を引き白色の雲耀が飛び込む。 
 自分に対して放たれるブレード照射を避けながら取り付き、四本装備している長刀の二本で素早く正面を固めるAF級の右前足切り裂く。
 馬の蹄のような硬い部分ではなく衝撃を緩和する為の弛んでいる肉の部分を切り裂き、オルカ2に続く雲耀などの斯衛数機がその部分の傷口を広げていく。
 斬り口に塩を塗りこむように装備している重火器で抉じ開け、その肉の六割方を削ぎ落とし止めに友軍機の残骸から回収したであろうA-12を指向性起爆。

 まさに流れるような川のような連携と雲耀の名に恥じない光速の如き早業。

 一連の行動によって右前足の肉が吹き飛ばされたAF級だが多脚型の利点が一本の足がなくなった程度では倒壊しないらしい。


『迎撃不可……各機素早く破壊した後に離脱するぞッ!』


『『『『応ッ!!!!!』』』』


 右中足に対して右前足を破壊した動作をもう一度行う突撃部隊。

 どうやら胴体の下は迎撃用の目玉はないらしく、一度潜り込んでしまえばこちらのもののようだ。
 左右に固めるもう二体は自分の事で手一杯であると同時にその巨体故に味方の下に入った敵の排除は出来ない。
 真下の防御は小型・中型に任せるようだが……これで真下にヴジャウジャいる状態だったならばこの戦線は楽々と崩壊していただろうな。

 ―――何せここに来るまで連中の足並みは”一度”たりとも止められていない。

 こちらは常に一歩歩みを進まれる度に後退を余儀なくされている。
 現在の迎撃突破もこのAF級に対して火力を集中出来ているからこそ生み出せている均衡で、とてもじゃないが雑魚がワラワラしていたら無理な状態だ。
 もし雑魚に対して集中していれば光の剣がこちらの陣営を切り裂きその簡単には倒れない巨体で確実にラインを上げ射程までに捕らえてくる。
 大物に守られ、対空迎撃と対地砲撃に守られながら大波がこちらを飲み込む……奴らから言わせれば理想でカッコ良く言ってもこっちから言わせれば最悪のデットエンド。


『ようやく跪いたか……連れて行かれた三人分の恨みと共にこれで終いだ』


 巨体を支える右足三本を斬り裂かれ、削られきった正面のAF級は自重を支えきれる訳もなく轟音と共に地面にその身体を落墜させる。
 そしてその眼前には今まで攻撃力を無力化され続けていた雷雲隊の老神15門の巨大な銃口が突きつけられ、担い手が引き金を引くのを心待ちにしていた。
 やっと虐げられてきた機甲隊の恨み辛みを込めた復讐の一撃が轟音と共に放たれたる。

 ―――連なる轟音

 ―――爆発と共に吹き飛ぶ大量の肉

 ―――その巨体の中程から前の全てを失った姿は壮絶な死に様

 だがそんなのは光線級の照射によって上半身を吹き飛ばされた機体や戦車級に齧られた機体と同じに過ぎない。
 雷雲隊は既に三機ほど縦に両断され爆発はしていないが代わりに鋭すぎる切れ味が斬られた存在の末路を生々しく残っていた。

 そして一体消えた事でようやくこちらが動けるようになったッ!

『これで終わりだッ!』

 戦術機から見ても大剣と言えるグレートソードを携えたオルカ3の大鴉が右翼を支えていたAF級に取り付くと同時にその剣を突き刺す。
 バランスを簡単に崩壊させてしまう代わりに圧倒的な重量による速度を威力に変換させる武器が通常戦術機を遥かに上回る速力を味方に付けているのだ。
 防げる道理もなく人間で言えば額のような部分に刺さり、刺し口から大量の体液が飛び出しライトブルーの機体カラーを紫にも似た色に染め上げる。


『オルカ12ッ! 壊さないでくれ』


 その言葉に呼応するようにOBを起動させたオルカ12の大鴉が離脱するオルカ3の代わりにグレートソードを手に入れる。


『オォォォォォォォォォォォォッ!!』


 そして速度を緩めることなく駆け抜けると共にAF級の背中をグレートソードの長身重厚な刀身がバターの如く引き裂き、そのまま尾すら切り落とす。
 元々西洋の大剣と呼ばれるモノは”へし折れない為に分厚くした剣”であり、原点回帰とも言えるあの剣は使い手が使えば折れる事を知らないだろうな。
 だが巨体過ぎる為に一刀両断は狙えない……これで真っ二つに出来れば一撃で殺せるのだがやはりデカイだけでかなりの優位があるのはキツイ。


『やれやれやっと撃ち込める』


 背中を裂かれまるでセミが殻を破り成虫へとなる時の殻のような姿になったAF級の傷口にオルカ7(メルツェル)がS-11改であるA-12を強引に捻じ込む。
 大破・撃破された残骸から回収したのであろう二つのA-12を捻じ込みオルカ12が駆け抜けきったのを確認すると共に素早くQBで後退しグレネードを撃ち込む。
 外部からの射撃による起爆によって二基のA-12は老神と同程度の威力を持つ炸薬を炸裂させ、一体目の如くその内側に捻じ込まれた力によって風船の如く破裂した。

 一体目の崩壊によって既にこの状況からの撃破劇が完成していた。

 邪魔になる雑魚はなく、このAF級を除けば光線による迎撃もなく加えればブレード照射を主軸にし始めた事で数の暴力がなくなった。
 防ぐ事が敵わないが光線ほど長距離射撃が出来る訳でもなければ瞬間的に着弾する訳でもない……ただ少し早いレーザーブレードが飛んでくるだけならば簡単にかわせる。
 むしろ絶え間なく照射される方がリンクスとしては機体への負荷もあるので回避して欲しかった、ともかく戦術を変えたおかげで何とか勝ちを拾えそうだった。

「あと一体だッ! 一気に攻めきる―――」

 だがこの言葉の最後は言えなかった。

 AF級の移動速度が間違いなくBETA最低から瞬間的な観測では50km/hを叩き出す。
 更に突然の加速に加え今まで防御を優先していた行動姿勢から一転した攻撃への転進にリンクスを含め素早く回避出来る部隊は散開し突撃をかわす。
 ここで踏み込まれる度に後退していたのと、ブレード照射の縦切りによって隊列を大幅に乱されたのが幸いしたのかあまり踏み潰された部隊はいない。

『渚避けろッ!!』

 突然の攻勢に加えヴァルキリーズが運悪く正面におり回避が一歩遅れていた。
 リンクスとは違いQBを最大限に使用出来ない常人達にとって真正面にいるのに加えて驚きによってほんの少しでも反応が遅れるのは死に繋がってしまう。
 それでもヴァルキリーズの回避はセラフの援護なしでも届かない位置に逃げているとこっちは踏んでいたが敵はその一歩上を平然と仕掛けてくる。

 ヴァルキリー3(宗像)の声が潰れんばかりの叫びは無情にも豪腕が風を凪ぐ音に消えた。


『えっ?』


 その巨大すぎる腕の薙ぎ払いがヴァルキリー8(渚)の初風の小さく脆い身体を粉砕した。 
 目の前で時間がゆっくりと流れる最中……まるで人間が蚊を叩き落とすような動作によって戦術機が粉砕され粉々に砕け散る。
 真横から完全に捉えられた一撃は管制ユニットの脱出すら許さず、変形した後に砕け散る破片には潰れた少女だった血肉がこびり付いている。

 届かないと思っていた距離だったにも関わらず、巨体の踏み込みはこちらの予測を超えて一歩前へ。

 まるでこちらの数歩の努力をあざ笑うかのように簡単にその一歩を埋めてみせ……簡単に機動力のある筈の初風を捉え粉砕した。


『この為の巨体とでも言うのかッ! あぁッ!?』


 叩きによって地面が抉られ隆起する最中をオルカ6(ヴァオー)の雷雲が機体に飛来する土砂や岩を掻い潜りながら下がっていく。
 足止め程度に残弾尽きかけているガトリングなどをばら撒くがやはり豆鉄砲。
 レーザーブレードのように一瞬で脚部を破壊する事も出来ない砲撃にこの猛攻を止めるだけの火力はない。
 老神の直撃ですら着弾地点が一点に集中していない事ともはや防御を捨てた突撃姿勢が立ち止まると言う元々BETAにない選択肢を作り出させもしない。

 殴るだけで地面を武器に変え、走るだけでその六本の巨体を支える蹄は廃棄物処理のスクラッパーの如く有象無象を踏み均していく。

 圧倒的な巨体による制圧力と生存力で強引にこっちの戦列を蹂躙し粉砕する……【巨人の奇跡】なんてのは良く言ったものだッ!!


『集中攻撃で奴を仕留めろッ! これ以上の進出を許すなッ!!』


 狙いも定まっていないレーザーの乱射。

 直撃を許されず我が身を盾にしようとも止められず、気ままに振り回される豪腕。

 滞空していながらも地響きを錯覚させる巨体の足並みの元には逃げ遅れた連中の潰れた死骸。

『止めろッ! なんとしてもここで食い止めるんだッ!』

 無数の銃撃に晒され・無数の剣に全身を引き裂かれ・目玉を潰されながらもこの巨人の行進は止まらない……止められない。
 十数体の山猫が喰らい付き、分厚い肉にその牙を突き刺し爪で引き裂くも一向に止まる気配を見せず。
 侵攻する巨人族を止めようと仲間を失いながらも奮戦する戦乙女の剣は砕け・穿つ槍はかすり傷しか与えられない。
 武士の必殺の剣閃を持ってしても止まらない、一点を集中して斬る事の出来ない状態により足を潰す事は出来ない。
 そして最悪な事に巨人殺しの大槍は既に全て失われ持ち主達は小さな槍を持つが、暴れまわる相手の傷に当て続けるのは至難の業。

『尾の口が開く?』

 まるで童話の一説のような圧倒的な存在を前に無力を痛感させられる。
 せめて粒子砲だけでも使えれば傷口に着弾させ粒子による液状崩壊を誘えるがこんな内陸で汚染兵器の使用許可が下りる訳がなし。
 そもそも粒子砲すら開発・製造出来ていないと言うのに……そんなモノを求めるなんて随分と弱気されたものだ。

 撃破に手間取っていると要撃級のもう一つの特徴である歯を食いしばった人間のような顔のソレの口がゆっくりと開く。

 下手な巨木よりも太い尾の付け根をグレートソードで切り裂こうとしていたオルカ3の離脱に合わせてオルカ隊全機が一斉に距離をとる。
 戦闘をし続けてきている間に身に付いた勘―――それこそこのAF級の強さからか妙に確信染みた悪寒に導かれるように距離を開いた。 

 そして一歩間をおいて開かれた尾は自らの身体にを食い破り、中から光る”何か”を取り出す。

『全機回避―――ッ!!』

 光り輝く何かは……この国の人間ならば良く知りえる反応を見せ付けている。
 一見すれば人間の心臓のようだが鉱石の如き表皮をしたアレを前に帝国軍全てが一斉に離脱を開始。
 爆破半径など観測しようもないがそれでも少しでも離れようと人間全てが逃げ出す……知りうる恐怖だからこそ尚更に逃げる力は強い。
 顎に力が入り遠目からでもソレに亀裂が走りそれに合わせ表示される計器に異様な変化が表示され始める。

「ブッパッ!!」

 噛み砕く動作がなければおそらく起爆しない。
 もし攻撃や外部衝撃で起爆するなら老神の着弾やA-12の起爆時の爆発で誘発し見事に消し飛んでいた筈。
 つまり36mmの狙撃で噛み砕かれる前にアレを破壊すれば問題ない筈だった。

『おいおい冗談だろッ!?』

 だが放たれた銃弾は見えない湾曲により銃弾は歪み、弾道は中心から逸れ運良くもそのソレの端を砕き飛ばすだけに終わる。
 元々重力偏差だから覚悟していたが湾曲が速い……レーザーが通らないのは確実、実弾も届かない以上噛み砕く動作は止まらない。

 そして噛み砕かれたソレを起点に黒い光が生まれる。 

 同時に機体がグンッ! 引っ張られると真っ赤な文字と共に警告を伝え、機体を即座に着地させ残していた長刀を地面に深く突き刺し噴射ユニットを限界まで逆噴射させる。
 コンデンサー内に残してある水素と電力を限界まで噴射ユニットに回し限界まで引き込まれないように機体を粘らせるが少々拙い。


『――――――』


 ゴンッと機体が揺れると共に俺の前にコチラと同じように長刀を地面に突き刺し左肩を貸すように支えているレイヴン1の姿。
 どういう風の吹き回しか知らないがわざわざ助けに来てくれたらしい、正直に言えばありがたい。
 ただでさえ片腕を失って辛い状況でこうして肩を貸す為だけに来てくれたのだ……相変わらず優しい事で。

『セラフッ! 全機に緊急離脱操作ッ!』

≪了解≫

 【ブラックホール】

 と呼ぶべきか……大量のG元素が起爆した場所を中心に日の光すら受け付けない黒いドームが完成していた。
 飲み込まれれば一瞬で過剰で乱立する重力偏差によって強引に丸めた紙屑になるか、あるいは液状まですり潰され死ぬ運命しか残されない死の空間。 
 無抵抗な大量の死骸や残骸を吸い込んでなお満足しないその一種の究極の採掘と捕食行動は生きている者達ですら飲み込もうとしてくる。

 吸い込む力は風任せに引力らしき力。

 台風の如く吸引に吸引を重ねるがソレは風と共に飲み込まれるものだけらしい。

 だが距離が近かったり空中に飛んでいる機体は完全にその影響を受け逃げ遅れたものは既に何体も飲み込まれた。
 OBの推進力でも危険域からの離脱は望めない程の吸引力……これでもし起爆核のアレが完全だったならばもっと悲惨なのだろう。
 だがこっちも脚部の小型安定パイルと長刀による支え柱でなんとか持たせているだけで機体に掛かる負荷は持っているのが不思議な数値をだす。

 一機・また一両・また一人と視界に映る範囲だがドームに飲み込まれていく。

『か―――の――ま―――れるな』

 目の前の影響か通信機が死んでいる。
 かなりノイズが混じり聞き取れるかどうかの段階まで劣化した通信越しにはヴァルキリー1(伊隅)が何か言っているようだ。
 マムの咄嗟の処理で少なくともコチラよりも後ろへと後退出来ているがOBを強制使用させられた事でエネルギーはかなり厳しいだろう。
 加えて本人達も突然の離脱操作におそらくついていけていない……下手をすれば何処かやられている危険すらあるがソレを確かめる手段もない。
 そろそろ噴射ユニットが悲鳴を上げだしているのに加えて膝などの関節から赤い警告が出ている始末、これは不味いな。


『ヴ―――9ッ! ―――さッ! ―――をッ!!』


「はッ!? 何を言って……」


 合わせるように左側に映る吸い込まれていく機影。

 長刀から手を離し限界まで手を伸ばすが届かないッ!

 あと少しッ! 少しだけ届かない。

 悲痛な何かを叫んでいるがそれはただの高音のノイズとなって消え……何を言っているのかすら聞こえない。
 そしてそのまま穂波機は黒いドームに飲み込まれそのほんの……本当にほんの少し後にドームは消滅し中心点には良く判らない塊が佇んでいた。


『―――反応ロスト』


 黒いドームの中に飲み込まれた者達の最後はただの鉄屑かゲル状にまですり潰れるかのようだった。
 戦乙女のエンブレムが刻まれた初風の破損した管制ユニットを覆う装甲から、それこそ言い表しようのないゲルが零れているのが見えた。
 機体が限界を伝えこちらの意思とは関係なく地面へと膝を折ってしまう姿がまるで奴らへの屈服に、努力を簡単に飲まれた自分を体現しているようでイラつく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


 もし最初から突撃されこのように自爆されていれば帝国軍はリンクスと共に完全に飲み込まれていた。
 たった一撃でこちらを敗北に追い込めるだけの威力を持つであろう小規模破壊戦略……核弾頭を搭載した特攻兵器のような物を連中は用意してきた。

 世界は確かに変わりつつある。

 なのに俺が……【主人公】である筈の”俺”が”変えている”という気分を味わえない。
 こんな屈辱的な勝利を前にして誰が喜べる? 生憎とこっちはホイホイ自分が納得出来ない勝利を享受できるほどプライドは”今は”低くない。
 俺達にとって都合の良い改良し性能が格段に上昇している機体でようやく物量に対して抵抗出来る糸口が見えているのにここで更に新しいBETA。

 たった一体に蹂躙されるネクストのような恐怖。

 それを前にすればたった二人の少女の死など本当に”どうでも良くなる”

 この世界に来て……初めて自分がただの役者である事を自覚させられそうになる一瞬に。

 ただ歯を食いしばり自分こそ【主人公】であると言い聞かせる……舞台装置にはなりさがらないぞ。



 視点:???

 真っ白な空間に並び立つ大量の書物とそれを納めた木製の本棚達。
 それにすら収まらないとばかりに白い地面に乱暴に放り投げられた物や積み重ねられている物が大量に転がる空間。
 ありとあらゆる世界へと繋がり、あらゆる存在を見て感じる事の出来るその空間にはそれこそ白さを染め上げる様々な色の本がある。

 そんな空間の中心にあるのはたった一つの小さな机と椅子。


 そしてに座するのはあらゆる【因果:運命:都合:縁】を司り支配する神であるデウス=エクス=マキナ。

 彼、または彼女と呼ばれ、時としていかなる性別にも属す事のない機械仕掛けの超越神は椅子に腰掛け書物を読み漁っていた。
 白い光が人間の形を取っているだけの外見であり、白い空間と合わさり背景に何かなければ確認する事すら難しい存在。
 そもそもその形ですら書物を読み漁る為にしているだけの神から言わせれば一興であり、別にそうした形である必要性すら存在しない。

「さて新しいのも読み解いてしまったか」

 持っていた黒い書物をその場に放り投げると自分の周囲を漂っている別の書物を手に取り読み解き始める。
 書き上げられたがまだ読まれていない物からページが開かれ持ち主のいない羽ペンによって白書に書き込まれている書物。 
 様々な色をした本が山となり、宙を漂い読まれるのを待っていた。

 だが新しく読んでいた本を乱暴に閉じるとデウスは顔はないが苛立ちを露にしていく。

 そして乱暴に閉じた本に光を集め始めると、それはやがて輪郭や衣服をまとい表情などを持つ人間へと変化する。

「神様……どうしました?」

 若い男は古島とは違う時代の違う世界の人間だった。
 その世界で死んでしまった際に偶然にもデウスの眼に留まり古島同様に【神の玩具】として選ばれつい先程までとある魔法と剣の世界で旅をしていたのだ。
 一生を終えた彼は休憩状態で何かの拍子で再び輪廻転生を繰り返し再び神を楽しませる書物を作り上げる筈であったのだが……

「貴様の役目は済んだ」

 その言葉は神の玩具にとって死刑宣告と同意義である。

「なっ何故ですッ!? 私の何処が」

「物語が単調でいつも同じ……ツマラヌものを私に見せおって」

 デウスは全ての書物・誰がどんな世界でどんな人生を送ったかを記憶し判別出来る。
 懸命に神への弁護を続ける男だがデウスの中には既に男の物語も存在に関する興味は消え失せ、あるのは偉大なる神に対して身の程を弁えぬ愚か者が一人。
 わざわざ死に地獄での裁きを待っているところを引き上げて何度も閻魔などの地獄神達の許可を無視して転生を繰り返して”やった”のだ。
 下等なる人間に講義される所以など神の最高位に立つデウスからすれば存在すらせず、反抗するならば総じて今まで同じ結末を与える。


「興味をなくされた玩具が逝き着くはゴミ山だが……貴様にはゴミ山に逝く価値すらもはやない」


 空を掴む動作と共に男が消える。

 魂と精神を握り潰す……それは輪廻転生すら許されない。
 何故なら肝心の魂が消えてしまった、消滅した以上はもはや先程の男は歴史に残るのみであり二度と産まれる事も生きる事も出来ない。
 だが本来ならば記憶を持った転生など許されないと言うのに神の独断とは言え幾度も許されていたのだ。


「下等な存在に文句など言われる筋合いなどない、元より貴様ら玩具はただ楽しませそして死滅するだけの存在」


 情などない、ただ自分が楽しければそれで良いから行うだけのこと。
 
 そうして何事もなかったかのように別の書物を手に取り読み解き始める。
 長すぎる時間を生きる事において退屈を紛らわすのはとても大切なことだからこそデウスもまた無断転生を使用する。
 デウスだけではない、別の世界にいけば必ずというほど神々は人間を使い輪廻転生による暇つぶしを行っているのだからデウスだけが悪い訳ではない。

 そもそも興味のなくなった玩具やゲームを捨てるのに罪悪感を抱く必要はない。

 それは役目を終えた紙屑を捨てるのと同じでただそうするのが”正しい”からであり、これは決して悪いことではないのだ。
 ただこのデウスは他の神々よりも拾い上げる玩具の数が一桁か二桁ほど多く……そして読み解くのが早く飽きるのが早いだけの話。


「ふん……そろそろ新しい玩具でも見つけるべきか?」


 新しい書物を読み解きながらデウスは新しい玩具を探そうか考え出す。
 どんな世界のどんな人間を見つけ出して利用するか……デウスにとってそれもまた退屈凌ぎの一環である。
 特にどんな神に姿を変え、相手を悲惨な最後を迎えさせ死に追いやりある筈の人生を終えさせるかもまた楽しみの一つ。

 元々持つ運命に手出しはしない。

 しかしふとした拍子に相手の運命を大きく歪め死に追いやり、死という名の現実を叩きつける事はするが。
 産まれる際の運命は他者と他の神が決める事でデウスは口出しはしない。
 だが楽しむ為ならば幾らでも運命を捻じ曲げ・因果を書き換え・あらゆる世界へと進出し世界を傷つけ染め上げはする。

「―――久々の来客か」

 デウスが読んでいた書物を閉じる。

 眼のない視線の先には白い空間が歪み何かが入り込む。
 普段ならば異世界などの神が来たりするのだが、どうやらこの場合は違うようであった。
 それも非常に珍しい来客……通常ならば来れないような存在が神の書斎へと足を踏み入れる。

「ほぅ……なるほど永い時間を生きるが珍しい」

 崇高なる空間に現れたのは赤い血を何処からか流す巨大な一つの目玉。

「■■■」

 口はないがソレは確かに何かをデウスに伝える。 


「丁度良いのに加えて面白い―――貴様が玩具となるならば考えよう」


 表情のないデウスだが嗤っていた。

 笑うではなく【嗤う】と言う相手をどこまでも卑下し嘲笑し侮辱し侮蔑する神ゆえの優越が可能とさせる事。

 ましてや神(デウス)すら超越(エクス)する機械神(マキナ)たる存在にとってよほど存在でない限り嗤うとなる。


「■■■」


 目玉は何も語らない。

 だが何かを語りこの空間から去った。


「さて元々色々と仕掛けておいたがこれで更に面白くなりそうだ
 さぁ私を楽しませる為に自ら無力と非力さに苦しみ現実を知るがいい
 私は私を楽しませる存在の味方……私が楽しむ為ならばどんな運命だろうと作り上げる」


 とても楽しそうに目玉が過ぎ去った後を見るデウス。
 読みかけの書物を再び手に取り読み直し始める。
 新しい玩具が手に入り予想以上の因果にただほくそ笑むだけだった。


「我が前ではいかなる努力すら無力……全ては我が因果の歯車のままに」


 デウス=エクス=マキナ。

 絶対なる都合を支配する超越神は誰に微笑んだ。


□□□


 はい、あと書きで調子に乗りかけて消されないか心配な博打です
 元々リリウム日記と平行していたのでかなり早めに出来ました(平行していた所為か少々内容が)
 そもそも欲張って並行なんてしなければもっと早くリリウム日記も出来ていたのでしょうけど

 んでこの頃、知人と東方の話ばかりする所為か東方の作品が書きたくなってしまう日々

 こっちをしないといけないのに東方の話ばかり思いつく日々……いけませんねよねやっぱり

 自覚出来る尻下がりってのは恐ろしい限りです、切れるな自分の集中力

 あと今回と前回登場の新型BETA【AF級】は仮名です
 別の名前をつけるのですが原作ほど巧くつけれる訳ないのでご期待はせず

 そして最後に今回の最後の神については苦情は勘弁してください

 これはあくまでこの作品内における神であり、宗教などの侮辱ではありません
 先日雑談板で【神について】で大荒れしたのに間をおかずにこんな活躍なので不安ですがどうかご勘弁を



[9853] 三十五話[少しだけの平和]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/07/21 19:25

 視点:???

 桜の花咲く横浜基地。
 桜の下の墓石に刻まれる名前が増え、伊隅ヴァルキリーズのたった五人の隊員はソレに黙祷を捧げた。
 増えては減り・増えては減ってを時間が経ちと出撃を繰り返す度に行う。

 隊長の伊隅・隊員速瀬・宗像・風間・涼宮の五人へと逆戻り。

 PXで出だされる追悼盛りを完食し、そして少し休んで訓練と出撃と新人を待つ日々に戻る。
 残酷なまでに伊隅ヴァルキリーズは仲間を失うことに……戦争に慣れてしまっていた。

 英雄部隊の伊隅ヴァルキリーズ。

 オルカ隊に追従する形で出撃し驚異的なキルスコアを叩き出す極東国連軍のエース部隊。
 女性のみの編成と言うのがより大きな宣伝となり既に女性衛士からは羨望の眼差しを向けられるほど。
 だから彼女達はまともに仲間を追悼する事が出来なかった、英雄は死んだ仲間よりも今を生きる人を優先せねばならないのだから。

「元気がないな英雄イスミ殿、男日照りか?」

 振り回され、まともに落ち込む事も出来ない
 傍から見ても隊長を務めている伊隅のここ数日の落胆振りは酷いと言えた。

「……悪ふざけはよしてください、エメリー少佐」

 溜息の精気は薄く疲れた雰囲気のみただよう。
 周囲からは犠牲があったとは言え良く帰ってきてくれたとの賞賛ばかりを聞く数日。
 戦死者への弔いよりも生きている伊隅達を元気付けようとする言葉と分かっていても気分が悪くなる一方だったのだ。
 伊隅にとって部下が死ぬことはまだ慣れる事の出来ないことであり、慣れないから元気付けようとする言葉が酷く気分を悪くさせる。

 どうして自分はまた生き残った? と自責の念が少しずつ湧き上がるからだ。

「悪ふざけではないよ、もう英雄と見られてしまった……力ある者として見られるようになったら空元気でも強がるしかないからな」

 伊隅達の初風が格納されている格納庫。
 損傷し磨耗し部品交換や調整の為に整備されている機体を見る事の出来るタラップの手すりに背中を預ける英雄ジュリアス。
 女性衛士の英雄でありグレートブリテン防衛線において恋人であるジェラルドや別部隊の仲間とBETA侵攻を一時的に防ぎきった英雄。
 活躍もそうだが、彼女を英雄としたのは他でもない国家のプロパガンダ……女性の英雄と言う見た目の良い人物だったからだ。

「私は自分が英雄などと自惚れる気はない、だが世界はいつも”そういう”のを必要とする
 この国の将軍とやらが民衆の精神的な支柱であるようにな……私もそうされてしまったんだ」

 軍服を着込んだジュリアスの首下の階級賞は現在少佐。
 その階級も宣伝としてみれば十分必要な階級である、たとえジュリアスに指揮能力がなかろうと佐官階級を与える。
 その方がよっぽど見栄えが良く、ジュリアス自身もジェラルドに並ぶ精鋭リンクスであり周囲を黙らせるだけの実力を持つ。
 イギリスが誇る高貴なる騎士とその恋人であり星のエンブレムと共に閃光の如く翔るジュリアスは実力・人望・信頼も厚い。

 そんな高物件を宣伝に使わない手はない。

 いやでも周囲からの信頼と人望を集める実力と人柄。

 二人揃って容姿端麗でジェラルドに至っては企業ローゼンタール社の重役であるジェリン家の跡継ぎである。
 兵士を欲するが無理に集めたのでは士気が低い、それの打開策として作られた客寄せの英雄。
 現役の兵士達にとっても英雄の存在はいるだけで士気が高まる、ましてやジュリアスは間違いなくトップクラスの実力者。
 戦後において企業が望む世界で英雄が味方となり一声鳴けば英雄を慕う大衆は簡単に国家を裏切りるのは分かりきった事。

「……私達がそうなるのでしょうか」

 伊隅は自分が英雄なんて座につけると思い上がれるほど心は強くない。
 それに元々伊隅ヴァルキリーズはA-01連隊の一中隊にすぎない部隊であり唯一の生存部隊。
 英雄と言うよりもむしろ死神の異名の方が相応しい、部下や仲間の命を吸い尽くして生き残る部隊としての死神。

 隊長である伊隅は自分にそんな評価を持っている。

 自分ばかり生き残る。
 隊長なのに守ってやれない苦痛・弱い現実・努力が報われない世界。

「もう遅いさ、これからは泣く事よりも笑って生きている連中の尻を蹴飛ばすしかないからな
 それに私から見ても伊隅達は立派な英雄だ……もっと胸を晴れ、女にはそれが似合うものだ」

 普段は男言葉や立ち振る舞いの多いジュリアスが気弱な女性の言葉を漏らす。
 心底疲れたと言いたいばかりに溜息を漏らし脇目に修理を受ける初風を眺める。
 腕の装甲はレーザーブレードの高出力に耐え切れていないのか装甲が少し変形している部分が見られる。
 良く見れば撃ち殺し長刀で粉砕したBETAの肉片や鉄片や装甲に食い込み損傷させてもいた。
 内部機構の一部に戦闘機動によって起きた衝撃が原因で断線している部分がパイプラインが損傷している部分も見受けられている。

 良く耐えていたと言うべきである。

 伊隅を初めとした帝国軍や極東国連軍は確実に強くなっている。
 だが強くなり機動が正確になりより人間の動きを再現しようとすればするほどに機体への負荷が増大していく。
 XM3による反応性の上昇とセラフシステムや強化服などのデータ解析と演算能力が人間らしい動きをより増大させてしまった結果。
 乗り手への負担上昇だけでなく内部機器への負担増加を招き一回の生還する事に比べれば安いとは言え戦闘での損傷増加を招く。

「損傷は減っていません」

「それが強さの証だ、激戦の真っ只中でも損傷だけで生きて帰られると言うのだから
 あの損傷は分かると思うが簡単な機械の限界だよ……もっと性能が良くなればなくなる」

 ジュリアスは合成タバコを懐から取り出し手馴れた手つきで火をつけ一服し、眉に皺を寄せる伊隅に煙を吹きかける。
 匂いも味も酷すぎしないのと同程度と言われる合成タバコの煙は強烈で耐える事も出来ず激しく咳き込む。
 伊隅が文句を言おうとするよりも早くジュリアスが再び煙を吹きかけると再び咳き込み始め発言を封じられる。

「……少しは慣れておいた方が良いと思うぞイスミ」

「むっ無理です、この煙草は慣れません」

 あまりにも弱い伊隅の姿に微笑まされるジュリアス。
 そのまま一度強く吸い込み煙を楽しむと鋼鉄の天井へと噴出す。
 格納庫の煙を逃がすダクトに吐き出した煙は吸い込まれ、吹きかけられなかった伊隅がやっと復活する。
 煙が染みたのか涙腺を滲ませまだ少し咳き込みながらジュリアスを睨むが本人はどこ吹く風と知らん振り。
 むしろスッと合成煙草を一本差し出すが断られ少し落胆しながら懐に収める。 

「良く吸えますね……そんな物」

「私の男が好きだったからな、懸命に合わせようと努力したよ」

 普段の男装麗人とはかけ離れた……恋する乙女のような微笑み。
 煙草を携帯灰皿に収め、懐から大切そうに一枚の手紙を取り出す。
 差出人はジェラルド=ジェリンであり日本に来てからのジュリアスの状況を心配し、惚気全開の言葉で埋め尽くされている。
 やれ身体は大丈夫かい? 変な男に絡まれていないか? こっちは今日も無事にBETAを撃退出来たなどの報告満載である。

 若娘のように頬を緩ませ染めながら愛しい男の言葉を堪能するジュリアス。

 スッと横から伊隅が懸命に英語の解読を行っているがそれすら気にせず手紙を読み解く。
 たとえ何度読んだ内容だとしてもジュリアスにとってこの手紙から伝わる愛情はそれだけで戦闘での疲労を吹き飛ばしてくれる。

「……エメリー少佐ッ!」

 突然日本の美学である土下座をする伊隅にジュリアスは驚かされる。

「どうか恋の先達として私に力を貸してくださいッ!」

「いやまず落ち着いて理由を話してくれ」

 先程まで落ち込んでいたとは思えない切り替えに本当に驚かされるジュリアス。
 ある程度は気晴らしに付き合おうとしていたのだがこれだけ突然人が変わり土下座をされると中々に困ってしまうのだ。

「実は好きな……その幼馴染がいるのですけどソイツは類まれな鈍感でこっちの懸命なアタックも全然で」

 ギュピーンと言う擬音が似合いそうなほどに眼がキラリと光り、獲物を見つけたとばかりに舌なめずりをするジュリアス。
 何せ彼女もジェラルドとは施設時代からの幼馴染であり施設の後輩や先輩達の恋愛と言うのをしっかりと見てきている。
 娯楽の少ない世界においてそんな他人の色恋沙汰と言うのは楽しい限りであり、見ていて飽きないものだと知っていた。

 何しろジュリアス自身と恋人であるジェラルドも今年で四十の妙齢同士の恋愛である。

 若者の恋愛と言うのには興味津々・チョッカイを出したくて仕方ない。

「立ちなさいイスミ」

「えっエメリー少佐ッ!」

 差し出された手をグッと握り返す伊隅。
 ガッチリと握り締められた手と真剣な眼差しで見合う二人の後ろには【友情】の二文字が燃え上がっていたもおかしくはない。
 先程まで自分の弱さや部下の死に嘆いていたとは思えない変わり身の早さ……否、ジュリアスが変えたと言うべきである。

 ジュリアスとしてレイレナード社で戦っていた時などで先達にこうして助けられた経験があった。

 伊隅みちるが後悔や自責の念に押しつぶされないように少々起用に立ち回っただけだが既に自分の娯楽の為となっている。
 イギリスの本国でも見所のある後輩などに先達としての助言をしてきた英雄としても伊隅達の才能は十二分に理解している。

(鬱憤溜まってるからな、こうやって若い奴等の面倒を見るのもやはり悪くないな)

 煙草の煙ではなく本当に涙腺の潤んでいる伊隅相手に施設時代の弟妹の事を重ねてしまう。
 決して生き残れた数は多くなく、生き残れたとしても実戦投入で更に数を減らしていった子供達の姿に。 

「よしまず詳しい戦況を教えろ」

「その小さい頃から私の姉と私に妹二人に囲まれて……」

「ふむふむ、それは女としてではなく親しい友人や気心知れた相手として見られているから鈍感なんだな
 かく言う私とジェラルドも最初はまったく意識してなくてな、更に言うと紳士的な性格の所為で勘違いする女も多くてな」

 分かります! と伊隅が力強く頷くので苦笑いさせられてしまうジュリアス。
 施設の中でもそういう風になっている者達もいればジュリアス自身も施設仲間として見て異性として見るまでに時間を要した。
 それ故にこれから……いや既に歩き始めている恋の死闘について理解出来てしまい溜息が漏れてしまう。


「良いかイスミ、女四人に囲まれて好意を向けられていても気づかないのはもはや馬鹿の領域だ……これで良い出会いが欲しいとかぬかしたら蹴飛ばせ
 少なくともお前は女性ではなく本当に気心知れる友人程度にしか思われていないッ! むしろ姉や妹さんの方が女として間違いなく見られてだろう!!」


 ビシッと指差されながら言われる現実に落胆し挫けかけ地面に両手を着く伊隅。
 見上げる視線には『どうすれば良いのですかッ!?』と神にも縋る捨てられた子犬のようなウルウルが纏われている。


「良いか? 姉の方は男が馬鹿をする度に厳しく、されど時に年上の魅力と甲斐甲斐しさで母親のような女を理解させているだろう
 妹ならば良く小さい頃にお兄ちゃんとせがんでは甘えたりし、そして少しずつ女の膨らみと言うのをマジマジと理解させているッ!
 だがイスミとその男が同じ年だった場合は最悪だッ! 何故なら女性として理解させようとすれば親しい間柄の崩壊を恐れるからだッ!」


 伊隅の心に落雷が落ちる。
 なぜならば自分の中でも親しい幼馴染の関係が崩れないで欲しいと思う一面を自覚しているからだ。
 自覚出来るのに加えて簡単に越えられないBETA以上の強敵を前に伊隅は現実を突きつけられる。

「どっどうすれば良いのですかッ!? 」

「それを共に探していこう、私も似た状況からジェラルドと男と女の仲になれた……大丈夫なれるわ」

 そして再び差し出される手を取る。


「まずは男のいる女衛士を集めて情報収集だ、そして色々と試して見ることだ……弱音を吐いたりしてみるのもポイントだな」


 こうしてジュリアスは巧みに伊隅を恋の先輩・後輩としての関係として親しい関係を築く。
 傷口を塞ぐように作られた恩義は簡単には消えない。

 ジュリアスなりに伊隅を気遣っての手助けだった。

 なおジュリアス=エメリー今年で四十歳の妙齢。
 若者達の色恋沙汰にはまだまだ興味津々の年頃だと妙記しておく。


 視点???(2)

 アメリカの最北地アラスカ。
 現在世界各国による次期主力生産機の各国の試験機による戦闘による調査。
 各国の機体の技術を交換し調査し理解する事で世界各国の技術連合の確固たる結束を生み出す。
 他国を理解する、他国の技術を理解するなどの様々な名目の下に動き出した新型戦術機開発計画の場所となっている。

 だがそんな綺麗事は最初から”名目”しかない

 わざわざコストにも経費にも合わない事をしなければならないのか……と企業と国家の腹の底は皆同じである。

「ご苦労様です」

「あんまり堂々と俺達に接触するな、ここは何処も煮た連中が集まってんだからな」

 世界各国の優れた部分を理解しあいそこから低コストで高性能で稼働率に優れた戦術機を作り出すと言うのは聞こえは良い。
 本当に厄介なのは”何処が・主導で・作っていくのか?”と言う事である。
 現在の量産機である撃震などの初期機体はアメリカと支配企業GAの独占状態であり手に入れる利益は莫大である。

 しかし古島=純一郎の出現が大きく利益を削った。

 古島による旧式機体の最新機体への少ない経費での改修が日本に最新鋭機を無理に購入させる必要が失わせれた。
 更に今となっては稼動限界で旧式化した撃震などを今更高値をつけて売り出すのは諸国を敵に回すのと同意義である。
 戦後を考えるアメリカにとって有益な味方となりうる国家まで敵対させるのはあまりにも旨みがない。
 ただでさえかつてのGA社が世界屈指の巨大さを誇り他企業を救済するだけの余裕とそれを可能とさせる生産力などがあったのだから。
 土地をわざわざ狭め、敵対企業に何の苦労もなく抑えられるのだけは何としても避けなければならない。

「それで状況は?」

 もし主導権を抑えられれば世界の為と様々な権利と義務の下に生産ラインを掌握され吸収されるか分かったものではない。
 この計画は企業にとってはまさに生命線を握らせ合う……心臓にナイフを突き付けあった状態に等しい。
 一歩でも踏み出し方を間違えれば即死が確約された残酷な現実が待ち構える【世界の団結】などと言う言葉。

 だがしかし何処が勝ってもラインを掌握すれば最後……競争相手が消滅し軍事予算などを手に入れる口実が消えてしまう。

 だから誰が勝ってもこの計画は美味しくない。

 誰もが負けてこそすべての旨みを手に入れることが出来る。

 【世界が団結しない】と言う敗北条件の達成こそが勝利であるなどと言う残酷で悲惨な現実。

「何処も彼処も同じ連中ばかりだ……あるのは目先の技術の奪取と邪魔者の排除だよ」

 軍縮で喜べるのは誰もいない。
 何せ軍が収縮すれば武力の脅威にさらされ続け、軍人は次々とリストラされるのだから。
 だからどの国も汚く回し者を派遣していた。

「分かりました、私共も警戒しておきます……殿の準備は入念にしなければなりませんから」

 オールドキングは難民解放戦線に所属する一部隊長である。
 だが難民解放戦線の理念を理解する訳でも妄信し力ない難民達の為に力を振るおうとも考えていない。
 所詮は誰もが首輪付きの組織だと理解している。

 何せリリアナにしろオルカにしろ何処かの首輪なしで動けるほどの資金も資源も人材もなかった現実を知っている。

 ましてや戦術機などと言う大型兵器に突入させる為の歩兵部隊のジャケットに武装からその予備の弾丸に到るまでとなれば経費は相当なものだ。
 しかしオールドキングを初めとしたこのアラスカに来ている難民化解放戦線のテロ部隊は皆して武装は豪華である。


「しかし武人の国とは思えない汚さだなアンタ?」


 オールドキングと接触している日本の技術大尉はその言葉に対して


「いやはや、武士の国にも汚き兵士はいるものですよテロリスト殿?」


 と一言だけ答える。
 元々派遣されたとは言えそれでもオールドキングは日本と言う国は無駄に義理堅く正義感溢れる国だと思っていた。
 しかし少なくとも自分と接触出来るように選ばれた人材はここで起ころうとしている事の全てを受けいれていた。
 捨て駒になるだろう現実も、本来ならば誰もが夢見ている世界が一つの目的の下に団結しようとしている場所である夢が偽者である現実にも。
 選ばれてしまった彼は実に何の躊躇いもなさそうに言葉を返す。

「それよりも折角整備兵に化けているのですから頼みますよ? 技術は宝ですから義理の一つも作ってくださいよ」

 オールドキングは今は整備兵の一人として潜入し、各国の戦術機を整備する名目で情報を盗み出している。
 無論オールドキング一人でどうこうなるほど各国の戦術機に対する情報防御はザルではなくキチンと厳重な防御がなされ堅牢だ。
 幸運なのは企業が難民開放戦線を大量に送り込んでいる事であるだろう。
 何せ彼等は元々同じ組織に属しそれぞれが同じような依頼を受けて、同じような魅力的な報酬を約束されている。

 ”少しくらい”味方同士の情報交換は黙認されるべき。

 そうして彼等はこと巧みに情報を流し合い、たとえ掴まさせられたのが偽者だとしても情報を手に入れたのだから依頼は成功しつつある。

(ちっメルツェルの野郎の先見もここまで来たら気色わりぃ)

 オールドキングは仲間の一人でありメルツェルに異様な不気味さを感じる。
 一手打てば百手先まで見透かすようなその先見に加えて相手がどうこうするのを正確に理解し過ぎている。
 それこそかつて打算家達を完全に理解したった少しの交渉と脅しで”世界全て”をテロリストの味方につけてしまったほどなのだから。

「よぉ旦那」

「アンタも来てたんだな」

 整備兵姿の二人にオールドキングはニヤリと笑いかけると二人も同じように笑う。

「これで何人ここに集まってんだろうな?」

「旦那の【鐘】に俺の【掴み取る自由】と相棒の【与える自由】……この調子だと支出している企業全部かもな」

 整備兵が集まって雑談するように、ウィスとイェーイの二人がオールドキングと話しに花を咲かせる。

「良く言うぜ……仲間売った奴等がよ」

「出世の為だ」

 イギリス国土で暴れまわっていた難民解放戦線は先日完全に殲滅され”武装”は限りなく少ない被害で回収できたと言う事件があった。
 一部内通者が国家にアジトの位置や構成員を密告した事で軍は素早く行動を起こし【極めて優秀な】リーダーは最後まで抵抗し自害。
 生き残っていた分隊などもリーダーの戦死に合わせて次々と降伏し欧州で暴れまわっていたテロリストは無事一掃され軍部は人材確保と奪われていた装備の回収。
 加えて【対人戦】の実戦も出来たと言う事で軍は非常に貴重な経験を積むと共に国内にテロリスト鎮圧による治安改善を高らかに歌ったと言う。

 BFFとしても敵の息の掛かった有能なリーダーに死んで貰えたのは極めて喜ばしい限りである。

 更に二人のリーダーと彼等に従い思想ではなく現実に生きようとする新たな手駒が手に入ったのはまさに行幸であった。
 何せ完全に殲滅はしていない、彼等のパイプはまだ生きており世界各国から内通者のネットワークで多大な情報が手に入るのだから。
 殲滅するなど勿体無さ過ぎた。
 そしてここにいる都合の良い傭兵二人のおかげでBFFは残党勢力を切り捨てやすい手に入れられていた。
 二人の出世は既に約束されているに等しいが企業はもう一仕事を要求し二人はここにいた。

「アンタこそ理想なんて不必要だろ? 殺せば世界は変わるんだからよ」

「まっそれが世界の正しさって奴なんだろうな」

「所詮世の中は自分が中心」

 喧騒の中に隠れるように交わる会話。
 忙しい現場で会話だけでなく作業の音などで簡単に掻き消される為にすぐ隣でなければ聞こえない程度の音。

「おぉいたいた! 二人とも早く整備してくれ」

「分かりました、じゃあまたな」

「グットラックってな」

 イギリスから派遣されてきた衛士に呼ばれ二人は荷台を走らせる。
 喧騒の最中をゆっくりと邪魔にならない程度に荷台を押しながらオールドキングは視線を様々な所に配る。

「おいパイルの設定値と火薬量がおかしい! さっさとやり直せや!」

「しかし組長……」

「じゃけぇッ! 組長じゃないと何度言えばお前は分かるんじゃ!?」

「ダメよドス……鋭い刃物はじっくりしっかりと磨いていってこそよ」

 アルゼブラの軽量機体の前で整備兵と言い争っている見てくれの悪い男とアラアラと貴婦人な感じを漂わせる女性リンクスのコンビ。
 オールドキングとしても少し馴染みのある機体だけに少しだけ足が止まるが怪しまれないようにすぐさま歩き出す。
 自分の愛機もアルゼブラの機体のパーツを機軸に作っている為……一目見れば多少外見が変わったからと言って性能を見誤りはしない。

「……ミセス」

「何かしら?」

「あのコジマブレードを正式配備に本気でするつもりなんですかね」

「知らないわ、この極北で貴方とバカンスしてれば良いですもの」

 四脚と言う戦術機としてはタンク型よりも奇妙な外見をしている戦術機に大型ミサイルを搭載している機体の前で男とイチャツイテイル女リンクス。
 男の方はそんな女性の言葉に当てられたのか顔を真っ赤にしソッポを向くが女性はそのまま微笑を崩さず一心に男の顔を見つめる。

「弾幕薄い機体設定ですね」

「貴方の設計する機体で弾幕張られたら一回でどれだけの予算が飛ぶと思ってるのですか!?」 

「命に比べれば安いものです」

 なにやら凄まじい勢いで電卓を叩き計算し費用を見せ付ける女衛士の真剣さから眼を背ける女リンクス。
 その服は何処となく周囲のリンクスや衛士達のものよりも古臭く見え、更にオールドキングの目には何やら背後霊と言う物が見えた。

(あれが東洋の貧乏神って奴か? はっ、どっかの栄光ある赤字みたいな顔してるぜ)

 何やら見えているにも関わらずオールドキングは到って冷静である。
 そのまま周囲に視線を走らせリンクスと思しき人間や立ち振る舞いから油断の出来なさそうな相手を見つけ出し”記録”しておく。
 あとで古島やメルツェルに送りつけるのが仕事であり、そこから更なる指示を貰わねばならない。
 オールドキングが首輪付きに甘んじると言うのも中々の光景なのだが、彼自身はかなりの思想家で必要と感じればそれなりに応じる姿勢くらいあった。
 リリアナの一部隊を率いテロリズムを起こす上で資金源や物の供給は企業に頼るほかない現実もあり、頭の一つや二つ下げられる広い心もある。

(国そっちのけで企業エンブレムを披かすのか、まぁそれが一番手っ取り早い方法だしな問題ないだろうよ)

 国家がいがみ合っている裏側で企業は実に仲良くお互いの手の内を晒しあう。
 この戦争が終わらない事にはまったく安定した戦争が産まれない以上は打算家や老人達は誰よりも平和が欲しい。
 少なくとも自分達の喉下に剣や銃口が突きつけられない程度の安全を手に入れるまでは企業は敵対関係を離別して団結する。
 加えてここで少しでも団結・参加に入れる者達や弱小企業にいる技術力や腕の良い職人達を手に入れるのも仕事の一つ。
 今ここアラスカは各国の優れた……あるいは何処かに”不必要”の烙印を押される人間達が集まっている場所。

 人材確保は実にし易い場所として企業達は歓喜している。

 更に言えばここで不慮の事故の一つや二つ起こし敵対組織の人材や国家戦力を削いでおきたいのも一つ。
 古島やメルツェルがオールドキングに頼み込み、帝国がこういった裏仕事のさせられる人間を派遣しているのもその一端に過ぎない。
 世界は確かに団結しているがそれは面の皮の一枚で少し剥いでしまえば人間の醜い部分がまざまざと相手を嘲笑しているだろう。


(さて何処までが本気で何処までが偽者か……ここからは俺の眼一つか手強いな)


 何処までが使えそうな人材で何処からが厄介で消さねばならない人間かの判別。
 それだけならば楽だがここに結集している国家の部隊×企業の手先と見て問題ない。
 自分や先程出会った二人のように自分の為ならば面識や型式上の仲間ですら平然と切り捨てられる人格者ばかり。
 下手な事件と言う形で抹殺される可能性すらこのアラスカにはゴロゴロとしている……BETA以上に危険が渦巻いている。
 一歩下手な行動を取れば即周囲が消しに来るような平和に見えて何処よりも人間が戦争をしている場所に放り込まれたオールドキング。

 スリルで顔が自然とニヤケル最中、整備服のズボンを誰かが後ろから引っ張っる。

 すぐさま顔を元の整備兵としての真面目で規律正しそうで温厚そうな顔に戻し振り向く。


「……?」


 中々に背丈のあるオールドキングが振り向いた先の視線には誰もいない。
 どうした事かと思うと今度は服を引っ張られ、たまたま視線から外れていた小さな女の子に気づく。
 この喧騒と人混みに加え戦列している諸国の新型戦術木を見る為に視線が上に向いていたのも悪かった。


「……何だ嬢ちゃん?」


 銀色の髪が特徴的な少女。
 それだけならば問題ないが着ている服は衛士の証である強化装備にふと自分の服を引き寄せた力が強かった事に警戒を強める。
 強化装備の首元に輝く階級と国家を示す部分に視線を向ければあるのはソビエト連邦のエンブレム。

「じ―――」

「いやわざわざ口に出す必要があるのか?」

「ない」

 ガクッと疲れるオールドキングを余所目にガッチリと両手で油まみれの服を掴むソ連の幼女衛士。
 何か感じ取るところがあるのかジッと見つめるその様子は喧騒の一つに過ぎないが、それでもやはり潜入中の本人としては心臓に良くない。
 いかに周囲が忙しいとは言え余裕のある人間はその不思議な光景を見ている……潜入兵が視線を浴びるのは避けたい。
 死んだ人間の戸籍や口調修正に顔の整えなどをしても分かる人間にはやはり分かるものなのだ。
 ましてや各国と各企業が睨みあいを利かせあっている場所でそれこそ目立つのは避けるべきであり死を意味するに等しいのだ。

「なら離してくれ……仕事があるんだよ」

 周囲の同業者で話の通じている者達にアイコンタクトによる救助を要求するが誰も何処吹く風と無視。
 救援がなくなりどうするべきか悩むオールドキングに幼女は極自然に


「さっきから歩いてばっかりなのにあるの?」


 と言い放つ幼女にオールドキングは警戒を全開にする。
 テロリストとして培った目立たずに動く術を使いそれこそ変装や扮装も完璧だったにも関わらず見破られていた。


 【心を一定の形で読むことが出来るように作られた存在がいる】


 誰も信じない眉唾ものの物語として言われているソレをオールドキングは【アスピナ】と言う企業があるが故にそこら辺よりは信じていた。
 だがそんな虎の子とも思えるそれ等をこんな辺地……それこそこれからそう程なくして大事件に巻き込まれる予定の場所に送り込むとは考えてはいなかった。
 交渉面で使えばそれだけで相手のカードを全て理解出来る、対人戦ならば手の内が分かり幾らでも先手が打てる強力な能力。
 戦士であるオールドキングから言えばそれこそ利用価値の高い素材を乱用するとは考えていない、ましてや既に”事件が確約された”場所に投入などしないと。


(甘かったか……しかしこんな餓鬼くらいとはな、いや薬物使えば外見なんぞ楽々か)


 眉唾のような話が出来ていた時代から考えて大人とばかり考えていたが自分達リンクスも薬などで調整しているのだから簡単と理解出来てしまう。
 そういった存在が生きるだけでどれだけ辛い人生を歩いていかねばならないなのか、周りにどうやって溶け込み生きていかねばならないのかの難しさ。
 生きていくだけでも企業などの手を借りる事が必須で自分だけの力ではどう頑張っても生きることが出来ず幸せにゆったりと暮らすことすら出来ない。
 選ばれた者達の為に選ばれて殺されていくそんな存在が目の前にいる現実にオールドキングは一気に気分が悪くさせられてしまう。
 元々前世(?)でクレイドルを破壊したのもそういった選ばれた連中が気に食わないから、目の前の同類に親類の念を本当に持たされてしまう。

 かわいそうだ。

 辛いだろう?

 似たもの同士だな?

 所詮は俺達も外道か。

 子供だが本当か嘘なのか?

 もしオールドキングが世紀の虐殺者であると知る人間がこの光景を見たならばそれこそ彼を知る者達全てに知らせるだろう。

「……ほらよ」

 ポケットからなけなしの味付き合成携帯食料を手渡す。
 普段の目付きの悪さ、大規模犯罪やテロリズムをした人間が持つだろう特有の雰囲気を持つ虐殺の王が幼子にほんの少し優しげに手渡す。
 ガッチリと掴んでいた幼女もソレの袋に書かれている文字から中身を把握したのかゆっくりと受け取り手にある携帯食料のほのかな温かさを感じ取る。
 視線を一度落としてしまいもう一度視線を上げると油まみれの手のひらが押し付けられ目蓋を閉じてしまう。

 そのまま二・三度ほど撫でると好機とばかりにオールドキングは荷台を素早く駆け足で押して離れる。

 幼女は何か言おうとするがすぐに喧騒の中に消えてしまい声をかける前に見失ってしまう。
 渡された携帯食料の袋を手馴れた手つきで開けスティックの半分を綺麗に折ると大切そうに食べだす。

「イーニャ、ここにいたの!?」

「クリスカ」

 同じソ連のエンブレムをつけた強化装備を着るクリスカと呼ばれた衛士は幼女がそのまま年月を重ねた女性。
 出るところもしっかりと出ていて外見も美少女から美女と呼ぶに相応しいほどで、人を惹きつけるものを持っている。
 イーニャと呼ばれた幼女とクリスカと呼ばれた女性は傍目から見ても姉妹と呼ぶもので、イーニャを見るクリスカの眼は心配で一杯だった。
 そんな姉の心配を他所にイーニャは携帯食料を食べこの為に残していたもう半分を手渡す。

「どうしたのコレ? それも味付きなんて貴重なのに」

 妹から手渡されたソレは近年になっても中々に、いや近年だからこそ手に入らない味付きのある程度の娯楽も持たせた携帯食料のスティック。
 間違っても世界でもっとも数が広まり不味いと名高い合成レーションではなかった。
 手渡されたスティックを丁寧に食べるクリスカの質問に一足先に食べ終わったイーニャが何処か嬉しそうに答える。


「優しい……人から貰った」


 クリスカはこの【人】を出すまでの時間の意味を本人に会っていないのだから理解出来ない。
 だが大切な妹がそう評価を下す人間がこの欲望や人間の醜さにまみれたアラスカで聞けると言うことに少しだけ嬉しくなってしまう。
 人の心が分かるが故に他人に対してどうしても距離や厳しさを持つ二人にとって”優しい”と言う評価はそう出せるものではないのだ。
 そして二人も喧騒の一つとなって消える。
 紅の姉妹と呼ばれる一対のエースが本心も本性も知らない古き王と出会い好印象を持ったことも喧騒の一つとなって消えていった。


「……あぁ言う餓鬼も犠牲か……不幸にな」


 誰が聞いたのかも分からない呟きもまた喧騒の一つとなって消える。
 そう遠くない内に起こるだろう不幸な事故を知るからこそ動く者達。
 そんな不幸が来るなど知らずただ懸命に戦い生き残り国に尽くそうとする者達。
 誰もが誰もの思い描く策謀に踊らされている地【アラスカ】の一ページ。 
 深くは語られずそして相応に歴史の小さな一幕となって消えていくだろう場所。

 策士達の迷惑をこうむるのはいつの時代もその場所にいる第三者である。


 視点:メルツェル

 アラスカの企業と国家の計画。

 甘ったるい計画だ。

 アラスカの計画はどうやら回収してきたBETAに加え襲撃に合わせて基地を放棄し一時撤退。
 無数の犠牲に埋もれさせる形で邪魔な者達を消すと共に基地に放棄する形で忘れ去られ自爆させそこねた機体を回収し技術を奪取する。
 だがそこにいる者達として軍人なのだから自爆させ損ねるなどそうそうにあるなど考えられない、裏方にどれだけ努力させるつもりだ?
 それにその基地放棄も第一に巧く誤報などで基地から部隊を撤退させる必要性があると共に捕獲したBETA投入などして無事に済むものか。
 加えて言えば投入BETAが確実に基地を襲撃する可能性・到達する前や十分に部隊を撤退させるだけの動きをするかの可能性も低い。
 生憎だがコチラの投入戦力は優秀だ……少なくとも企業と繋がっている限りは国家などに遅れをとるなど事は確実だ。

 何せオールドキングが動くのだ、彼ならばその程度の動きは軽くやってのけるだろう実力がある。

 そして難民解放戦線して馬鹿ではない。
 少なくとも対象の過小評価を前提にした作戦などまともに成功しないだろう。
 相手を踊らせる作戦は相手を”信じて”初めて機能するのだ……その点ここは情報収集が優秀で助かる。

「例の第三計画の遺児を使ったとしても母国の内情も察せず同時運用とは、以前いた国とは言えソ連も大変だな」

 部屋の机に押し広げられた有能な人間からソ連のサンダークと言う人間が計画していると言うシナリオの内訳書をリンクスとしての機械の眼や脳の処理を使い読み解く。
 計画の内容からどう言った工程でどう動いていくのかを想定しそこで何処からともなく手に入れられてきた有能な人間達の履歴書を端から読み解く。
 無数の人間達のチェス駒からシナリオと言うゲームの行程を想定しふる程度の動きを想定し、納得しそこねるならばまた書き直し内容を修正する。
 いつもの作業とは言えやはり疲れる、何せ書類の文字から勝手に相手を想像し想像の彼等が想定の行動を起こす事を前提にシナリオを解読しなければならない。
 ここは幾ら諜報が優秀でも”読まれる事を前提”にされてしまえばコチラの読みは逆に読まれ虚を突かれる事となるのだから難しい限りだ。

 作戦は信頼から成り立つ。

 利用もまた然りだ。

 チェスの駒はあらかじめ決定付けられた動きと能力に忠実だからこそ戦略を確立させられる。
 だが人間はそうはいかないのが面白さだ……出自・生活・人間関係などから簡単に変わってしまいそれだけでコチラの計画を狂わせてくれる。
 しかしそれらすら想定して動かすのがまた楽しい”そう変わってくれる”と信じて打った手がそうして相手に痛手を与える瞬間は快感すら覚えるのは私だけだろう。
 切り捨てる事ならば簡単だがそれでは次回に役立てるには至らない、本当に利用するならば何処までも気付かせず利用し磨耗させてから死なせるのが幸せと言うのだろうな。


「まぁ今届いている情報が偽者ならそこまでと言うだけだが……さてGAにはどうやってそうした連中を黙らせて貰うか?」


 ソ連のサンダークと言う奴の目的がコチラの撒き散らしている撒き餌の【電磁投射砲初期のブラックボックス】ならば読み易い。
 元々そんなものはアチラに積み込んでいない、もしコジマが作る前ならば搭載しなければならなかっただろうが生憎と一足遅れだったようだ。
 水素式のエンジンに充電器に実戦にある程度は耐えられるだろう改良の行われた電磁投射砲にブラックボックスの搭載は見送られたのだから。
 しかしG元素・核・高性能な機械にBETAが引き寄せられるならばソレを利用すれば意図的に進行方向をズラス事が出来る。
 運悪く計画通りに進んだが自分も犠牲者になってしまうのは……計画者の常と言うものだろう、計画の犠牲には自分を含むもの。

 さてそうするにしてもどうやって使い勝手の悪い野心に消えて貰うべきか。

 どうせコチラの兵力も消耗する予定だがやはり他国よりも被害は少なく、だが収益は多いほうがなによりだ。
 自前で牙を持てる人間は好きだが牙の向けどころを間違えるのは嫌いでね。
 
「いやGAにはこの国で我々のスポンサーに牙を向ける馬鹿共の駆逐に回って貰うとして、やはりアチラはアチラに任せるしかないな
 オーメルサイエンスの政治力ならばどうこう出来そうだがあの国はこの事件には首を突っ込まないだろう
 むしろこの後にあるだろう難民解放戦線などのテロリスト達の行動でどうこう動くのが主だろう、流石は熟練揃いだな厄介なタイミングで動く」

 舌打ちと共に書類を読み解く。
 戦術機の能力が高そうな者達から内通している技術者やソレ以外の者達の個人情報から始まり履歴に家族や友人関係と流石に情報が多い。
 だがコレ等をたとえ脳がいかれようと覚えオルカの為に繋げるのが私の役目だ。
 コレから逃げようとは思わなければこんな世界とチェスを打つなどと言うまたとない機会を逃すなど考えたくもない。

 コジマも魔女も利用して私は私の計画を推し進めるとしよう。

 きっとこのソ連の作戦も日本での内乱も多くの犠牲者が出るだろうな。
 大局の為の犠牲とは言え同情は禁じえない……まぁ世界が平和になるかこの身が犠牲になるまでの短い時間の差。
 どうせ私もいつかは計画の為に自らの命を差し出すのだ、団長ことマクシミリアンにもコジマにも悪いが赦して貰おう。
 残せるものは限りなく残してはいくつもりだからな。


「随分と手間取ってるわね?」


「君みたいに例のユニット開発に部隊損害の確認から戦術機のCPU改良と忙しくはないつもりだよ」


 どうやら気を利かせて食事を持ってきてくれる位には気を赦してくれたらしい。 
 読んだ書類を束ね書類で埋まりかけていた床のとりあえず食べられる程度のスペースを確保し日本のちゃぶ台を取り出し組み立てる。
 そしてそのまま正座と言う姿勢で座り香月の置くここの合成にも関わらず味がする神秘の料理をいつものように頂く。
 ……日本の料理はどうこうして恵まれているのだろうか?
 観光良し・独特の食文化(いやまぁ日本から見ればソ連の食文化も独特だが)・独自の歴史とやはり面白いな。

「しかしなんで赤飯なのよあのオバサンは?」

 赤飯か……そういえばコジマが言っていたな。


「初潮に加えてそういう関係だと見抜かれているのだろう、人間年齢を積むと色々と分かるものだ」


 この言葉に香月は一気に顔を紅くし隠すように俯きながら赤飯を掻きこんでいく。
 夜の時もそうだが彼女はやはり外見以上に可愛らしい部分があってコレはコレでそそってくれる。
 まぁ彼女との付き合いも長くはならないだろう。

 この戦争が終結すればそれまで。

 そしてそう遠からずこの身を犠牲にしてでも大局を動かさねばならない時が来る。

 せめて香月に私が死んだから国家に反逆すると言う思想でも植えつけておくべきか?
 いやそれよりも私の思想を受け継ぎ人類の為に全てを投げ出すと言うのもまた面白いか……いや元々計画の責任者ならば人類の為か。
 どちらにしろ随分と迷惑を掛けるがそれはそれで問題ない、せめて一人くらいは優秀な弟子や後継者が欲しいところだからな。

「それで? 計画は?」

「今ある情報をまとめた所だと数ヶ月以内にアラスカで一悶着起きるな、欧州関係は当面は落ち着くだろう、アフリカ関係は知らん
 この国なら大元のGAと交渉すれば規模を縮小すると共に色々と片付けられるな……国内はあのお土産好きと銀翁がパイプとして良い
 どれだけの犠牲者が出るかは分からないがアラスカからの情報回収もそう遠くないだろう事に加えて国内も出来るだけ気付かれずに押さえ込むべきだ」

 付属の合成ミソスープに合成の煮魚を頂く。
 やはり美味い……これだけで十分に交渉材料になりそうな位に美味いな。
 食料は時に金銭以上に交渉材料になるものだ。

「こっちもあんまり思わしくないわ、やっぱり何処かの計算式が悪いのだけれどどうもねぇ」

「手のひらサイズに縮小した高性能処理演算ユニットだったな」

「そうなんだけどコレが巧くいかないのよ……特に人間の思考を完全にトレースさせる部分なんて完全に今は手詰まりだわ」

 この漬物は中々に歯応えがあるな。
 しかし独立傭兵を引き入れるにしてもさて資金源は何処から調達するべきか悩みどころだな。
 ここもそんな予算に余裕がある訳でもなければ有澤重工も現在はギガベースや陸上艦隊の編成でやりくりはギリギリだろう。
 資金と資源の貧乏は使える手が減るから困る。

「そもそも無理にする必要があるのか? 山猫や指揮車両クラスなら多少大きくした状態でも積み込めるだろう?」

「それでも限界がすぐに来るわよ? 大型にしたら処理電力問題に積載問題……衝撃対策から各部分のマッチングにしろ問題は山積みで死ぬわよ」

 ふむ。
 そちら方面ではないからあまり分からないがどうやらまだまだ立ち止まっているようだ。
 コチラの動きもそれなりに抑えて動かねばならないな、隊列を乱すのはいつの時代も相手に付け入らせる弱点になる。

「あとはコジマの例の新型に関する調査報告次第か」

「そういえばあの帝国から来た連中泣いてたわよ?」

「あぁ費用の掛かる機体が損傷して帰ってきたからな、加えて実戦データのフィードバックを押し付けられる
 しまいには当の衛士は現地に留まったままと来たのだから怒りのぶつけ様もないだろう……戦乙女のようにな」

「……そう」 

 私と香月はそのままお互いに報告しなければならない事を言い合いながら食事を楽しむ。

 もしこうして戦争のない世界だったならば……こうして共働きの夫婦みたいになれていたのかも知れないな。

 ふふふ……それはそれで策謀も陰謀も関係なくただ働いて、平和な死に方が出来る幸せな世界なのかも知れないな。


「……なに?」


「いや、君はやはり美しいと言うより可愛いと言うべきかな……と」


 再び香月は顔を真っ赤にする。

 やはりこうした平和は良いものだ。

 ……人類の黄金の時代の為にも取り戻さねばならない。

 それこそが私がマクシミリアンの下で戦う理由で、それこそが生きがい。

 世界は平和であるべきだ。

 たとえどんな手段を講じようとも……黄金の時代の為に。


□□□

 はい二ヶ月も行進していなかった博打です
 皆さん覚えてくれているでしょうか?
 忘れ去れているならばそれまでなのでそれで終いなんですけどね

 突然ですけど作者明日はテスト開始なんですよ

 しかも落とすと教職や学芸員などの資格取得に響く…と結構ヤバイデス
 なのにこうして書いてしまうんですよね……現実逃避したいからか筆が凄く進むんですよね
 そして書き方を忘れかけていたり視点???でのキャラの呼び方が変わったりとかなりヒビらされます

 たちまちとは言え、前回と合わせるとかなりヤバイと自覚出来ます

 何故なら今まで好調だった感想がたったの三件……来るだけ良いんですけどこれで来なくなったら泣きますね
 ここからが正念場・現実のテストもそうですしコチラの執筆で感想ゼロ件なんて事態を避ける為にも
 それではまだ次回までさよならです
 泣き言が減らないなぁ



[9853] 設定:無駄に多い人物紹介(パソコン読み推奨)
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2009/12/25 17:54
【人物設定集?】

【主役】

 人物:古島=純一郎(実体)
 詳細:アーマードコア・フォーアンサーの世界を三百回ループした弱輩の因果律体で、スポンサーに因果律を支配する神様を持つ元科学者
    生まれた世界ではゲームの中の存在であった【コジマ粒子】を発見・開発した天才科学者だが到達する道程で外道染みた行為に手も染めている
    享年25歳であり死因は原子炉の爆発による爆死だが本人は今を生きる性質なので平然としており、今を悠々と生きている図太い性格
    スポンサーの神様に拾われ生かされている現状に恩義を感じ、神様の要望であり望みの為ならば右へ左への大奮闘の日々を送っている
    と言うよりも神様に少しでも逆らえば因果律体を解除され存在を消滅されかねない為に逆らわず従順に従う日々に従事しているが不満はなし
    神様が飽きてしまった所為と自分の不注意な発言からマブラブの世界へと出張し頑張る羽目になるが、別にそうまんざらでもない様子
    幾度とない人生の中でエスパーとして目覚めたり、強化人間にされて馬鹿げた白兵戦能力を持ったりと結構人間をやめている
    彼の人生は本の一ページであり本人がそれの作者であり主役と忙しい日々を送るが、結構楽しみながら生活している模様
    多芸でチート・スポンサーがチート・人生経験でチート・改造チートとチート尽くしだが、だからと言って万能ではないチート(?)持ち
 一言:「暇潰しの玩具なりに生きてます」


 人物:古島=純一郎(外見)
 詳細:光州作戦・大陸防衛戦線などを戦い生き抜いた実戦生え抜きの凄腕の衛士だが所属していた部隊は記録すら残さず全滅し、本人は奇跡的な生還を遂げる
    戦友・恩師・家族の全てを大陸防衛戦線で喪い、故郷もBETAに蹂躙されたがそれで壊れる人間ではなく香月博士の下で現在従事している硬い精神の持ち主
    技術屋としての才能もあり【水素機関・光線兵器・新型OS】の三つを開発した功績と実戦経験から軍での階級は中佐だが現在部隊はなく、部下もいない
    本来は実在しない本物の架空の人物だが香月博士の協力もあって戸籍などの問題はクリアし、伊隅達を鍛える毎日と未来の記憶から色々と暗躍している
    剣術・体術・射撃・操縦の全てに実戦経験を持って優秀でありながら、科学者としても現在積極的に活動中で香月博士と共に色々と考えたりしている模様
    サバ読みした30歳の年齢と初老(?)の渋さと眼鏡を外した際の25歳相応の顔つきなどを兼ね備え、階級が中佐で人当たりが良いと現在評判になりつつある
    良くも悪くも話術に長けているが、優秀過ぎる故に注意される人物には注意されているなど結構殺される危機がチラホラしていたりと大変でもあるが本人は無視
    現在女性関係に関する噂はないが、男性として枯れている・同性愛者・亡き女教官や部隊員に想いを寄せていたと言われて結構迷惑している…特に同性愛者説に
 一言:「私はゲイヴンじゃないッ! ……そろそろ演技するのも疲れてきた」


【国連】

 人物:香月=夕呼
 詳細:我等が真の天才科学者であり大先生の一人である夕呼先生、マブラブの世界の命運は彼女が握っていると言っても過言ではない
    横浜基地の本当の支配者であり彼女に逆らうなどの行為=死を意味し、自殺志望者ですら彼女に逆らう事を躊躇うほどに敵対すると恐ろしい人物
    コジマがもたらした研究の終着点の欠点を聞いてから現在少し余裕が生まれたのか、あまり無茶をせずゆっくり寝るなどの安定した生活を取り戻しつつある
    あらゆる方面へのパイプや弱味を握り、コジマの戸籍・階級・記録の偽造などを瞬時に行えるほどであり、さらに本人の行動力も副指令に相応しい程
    コジマのおかげで帝国兵器局の国連派とのパイプを手に入れ、本来ならば配備に一年や二年掛かろう初風の即席配備などに貢献…この人なしでこれほど早くはあり得ない配備
    私兵連隊A-01を保有していたが現在は一中隊を残すなど実働戦力に欠けているが、そう遠くない内に更なる戦力増強と発言力強化を模索しているらしい
    コジマに対しては協力者だが同時にもっとも注意すべき敵として警戒しているが、同時にコジマが決して目覚しい活躍をしている訳でないので侮ってもいる
    人の研究物を本人に無断で譲渡したり物々交換したりと我様行動だが、彼女の権力などが無ければコジマは間違いなく一回死んでいるであろう事は間違いない
 一言:「無能で使えない奴は嫌いよ」


 人物:神宮寺=まりも
 詳細:我等が鬼軍曹であり母性と優しさに溢れた大先生の一人であるまりも先生、マブラブの世界の命運を握る人物達の教官であり香月博士とは悪友(?)のような関係
    現在は横浜基地の教官を務めている狂犬の異名を持つ軍曹だが本来の階級は中尉で、しかもあの富士教導隊と言う精鋭揃いの戦術機部隊に所属していた凄腕の一人
    教官として非常に優秀であり伊隅達の教官も務め、原作では教え子達が大活躍に加えオリジナルハイヴの攻略に成功するなど人物眼があるのかも知れない   
    活躍以外にもやはりあの頭部を噛み砕かれた死に様が多くのプレイヤーに衝撃とトラウマを与えた事は間違いない事件であり、それが結果として白銀の決意の一因となる
    コジマの新型OSの特性などを即座に理解したった一回の挑戦で光線級の照射の回避に成功する程の吸収・理解力を持ち、暇な時は伊隅達と共に訓練したりしている
    鬼軍曹として恐れられる彼女の天敵は結婚適齢期と巡り合せであり2○歳になっても今だ男一人おらず、狂犬の異名の原因の所為で男性が次々と屍になってしまう程
    やっと……やっとやって来た30歳のコジマ中佐と言う上官を前にいかにして手に入れようかと狂犬の勘と知性を働かせて、狙いを絞りつつあるので非常に危険
    体術に関しても狂犬の異名に相応しい力量だが……狂犬の異名は別の方面からも意味するモノらしい―――コジマの命運はいかに?
 一言:「良い男の人っていないかしら?」


 人物:社=霞 本名:トリースタ=シェスチナ
 詳細:オルタネイティブ3計画の生き残りであり、人工的にエスパーとしての能力を持った我等が愛らしき銀色の兎ちゃん……桜花作戦のキーマン
    香月博士の助手を務め、新型OSやコジマが設計したシステム【セラフ】の建造に携わり一夜にして完成にこじ付けさせた天才少女
    リーディングと言う思考や考えを色として捉えたりする能力の持ち主で香月博士の異様な交渉力の強さの一員も担っている、むしろ彼女なしであの強さはあり得ないだろう
    コジマに対してリーディングしたが【良い子は見ちゃだめだよ(ハート)】によって阻まれ、初めて見えない存在に直面しコジマに対して興味津々
    さらに自らの能力の肯定や自分に存在しない父親の一片を見出したのかすっかり懐いてしまい、管制のお手伝いや一緒に食事をする仲にまで進展…本名も明かすほど懐いた
    今は脳髄だけの【彼女】を相手にし記憶の読み取りなどで人との接し方を学んだりしているが、コジマとの一時の方が学習になっているらしく【セラフ】の話し相手
    コジマの補助であった筈の【セラフ】と良く話し機械が持つ回路の会話を前にリーディングなしでの会話の練習中……【セラフ】は兄のような存在らしい
 一言:「……今日も教えて下さい」


 人物?:セラフ
 詳細:コジマが開発した超高性能処理機構であり、人格を有していると言っても過言でないほどにユーモラスに満ちた機械で大きさはいつまのにかリュックほどに大きく……
    元々はコジマが自分の操作速度に機体を追い着かせる為に作った一品の筈がいつのまにか人間らしくなり過ぎて、社の話し相手なまで成長してしまう
    声は男性だか女性に変換可能……男性にしているのは単にコジマがその方がなんとなく保身がし易いからだそうだ
    製作者であるコジマに対しても平然と凄まじい口調で文句言ったり注意するなど結構モデルとした人物に似だしていると言うのはコジマ談
 一言:「世界を護る為に生み出されたが、私はそれほど偉大ではないよ」


【日本帝国軍】

 人物:巌谷=榮二
 詳細:帝国技術廠・第壱開発局副部長を務める陸軍中佐で、元は帝国でも選び抜かれた武芸者の集りである斯衛に所属し超凄腕の開発衛士であった…伝説の瑞鶴乗り
    撃震の改造機【瑞鶴】で当時の最新鋭機である陽炎を撃破した優れた衛士でその腕前は伝説と称されるほど、ヤクザな外見を持つ渋いオジさんで傷には大きな理由がある
    その道のプロとして開発局に所属しているが斯衛から帝国軍へ異動した際に色々あったのか、その道のプロとしてもあくまで副局長と言う立場に抑えられている模様
    帝国での数少ない国連派の一人であり原作では現在進行中のトータルイクリプスの計画を設定した人物の一人で、帝国の現状をしっかりと見て行動する気概と権力を持つ
    コジマによってもたらされた革命的な開発に眼を付け即座に夕呼先生と交渉し独自のパイプを造り上げるなど、かなりの行動力と賛同者を持っていて比較的安全な場所にいれる
    しかし現場で生きて来た直感からコジマに対して警戒心があり、密かに夕呼先生と計画している【コジマ監視計画】を実行に移し義娘の篁中尉を差し出すなど喰えない人物
    篁中尉の父親とは親しかったが故に父亡き彼女を引き取るなど責任感などに溢れているが、美人な娘の所為か溺愛しつつ更に自慢している義理親馬鹿らしい
 一言:「いや私よりも娘をね……」   


 人物:沙霧=尚哉
 詳細:帝国軍の最精鋭の一人であり、その腕前は圧倒的にしてマブラブ世界内で最強に手が届くほどの実力者で黒い不知火と共に恐怖を振りまく存在にして義と国に生きた武人
    クーデターの一言で済まされる彼の所業は白銀や日本……多くの存在に影響や傷跡を残して決闘の末に斬り殺され国を他人に託して死んだある種の無責任者
    かの彩峰中将直属にして彼から息子のように可愛がられた一人であり、今もなお中将に忠義と尊敬を抱き続けているが故に榊首相を赦せない
    コジマからは「妄執・固執・盲目」など散々な言われ様と共に戦術機・言論・心理戦の全てに敗北し、自分や国に対する考えを見直し始めている
    巌谷中佐からの特務によりコジマの衛士方面の副官として着任…彼の動向を警戒すると同時にコジマと言う人物や自分に投げかけられた言葉の答えを知る為に奮闘中
    彩峰家に対し結構な数の手紙を送ったり尋ねたりしているようだが返事がなかったり、遺児の慧からは無視されていたりと結構他人に対する配慮が甘い感じを持つ
    義に生きるが故に暴走し最悪の結果を招きかねない最悪の爆弾でありその着火点であり、大規模クーデター回避の為には彼の説得ないし暗殺が必須
    愚直で清清しいくらいまっすぐ故に紆余曲折出来ず、現状の醜さなどを強引に殿下に託そうなどと考える辺り恩師の死によって精神を病んでいたのかも知れない
 一言:「義は私にある…その筈だ……」


 人物:篁=唯依
 詳細:帝国の武芸者の集りである斯衛に所属し【白い牙】中隊の隊長を務めると言う優秀だが堅物…何事にも厳しく自分にはもっと厳しい堅物の堅物の堅物さん
    巌谷中佐に引き取られ義娘として育ち、譜代大名の家系であり篁家の現当主の立場や小父の七光りに抗い戦う為に非常に私情を出す事が少ないが慌てたりはする
    ヴァルキリーズに敗北し、尊敬する巌谷中佐の敗北に驚愕しながらもそれ程の実力者が帝国ではなく国連にいると言う事が赦せないと言ったタイプの一人
    コジマの実力は衛士として尊敬し、技術者としては驚かされ、演じた人柄を信じながらも沙霧と共に副官として動向に警戒し、いざとなれば殺害する決意がある
    巌谷中佐からの特務で技術者方面で副官として着任するが、コジマからは利用され・更に逆に忠誠心があるか試されていたりと暗部には向かない、向いてない
    本来はアラスカへの合同戦術訓練などへと赴くのだがコジマの副官として着任した事によって行く事は取り消し……原作のような恋はやってくるのだろうか
 一言:「叔父様の期待に答え、帝国の為にこの命を賭すのみ」



【特務部隊A-01隊】

 人物:伊隅=みちる
 詳細:特務部隊Aー01で唯一生き残った伊隅ヴァルキリーズ中隊の隊長を務める優れた衛士であり、四姉妹の次女で恋の真っ只中だが真面目すぎて空周りしている
    指揮官として優れて衛士としても凄腕の領域に入るがそれでも部下や上司の尽くを喪いながら今は隊長として懸命に努力と辛苦に耐える若き大尉で隊長
    一癖も二癖もある隊員達を纏め上げ即座に的確な判断が出来るなど隊長として優秀の限りを尽くすが、それでも死ぬ事には変わらない現実と戦っている
    原作において欠陥兵器の自爆作業が難航した所為で有人操作による自爆作業によって塵一つ残さず消し飛び、悲しみを与えた人物
    コジマに対しては実力・経歴・人柄などを信頼し衛士としての力量に惚れ込み日夜コジマから様々な特訓や先達としての教訓などを叩き込まれている
    時間に厳しく少しでも遅れたりするようならば説教が一時間は確定すると言うほどの厳しさを誇るも、それが原因で恋が上手く行っていないらしい
    彼女に対する恋愛話はまりも先生と合わせて決してしてはいけない領域……ただ一途に想う人物がいる分だけ落ち着いているがそれでも大変
 一言:「アイツは振り向いてくれない…部下は個性派揃い……頭痛が……」


 人物:速瀬=水月
 詳細:伊隅ヴァルキリーズのナンバー2を担う突撃前衛であり、もっとも死亡率が高い場所から幾多モノ実戦を生き抜いてきた本物のエースで人を率いていけるタイプ
    中隊内で分隊を形成する際には二番隊を率い原作では化物揃いとなった前衛組みを率いながらも、これらに対してまったく引けを取らず撃破数にも優れる
    明星作戦で想い人を喪い自分達は事故などによって任官が遅れた結果によって生き残ってしまう事で皮肉な生還を遂げながらも、元気に生きる強くも脆い心の持ち主
    親友の涼宮遥とは同じ人物に好意を寄せていたが喪い、平和になった世界で決着を付けると言うやり方で踏ん切りをつけるなど頭が廻るタイプなのかも知れない
    原作では横浜基地を護る為に基地の反応炉へと自爆特攻を行い消し飛ぶ、奇しくも同作戦で親友の涼宮遥も戦死し揃って親友の下へと旅立つ事に
    コジマに対しては畏敬と共に畏怖しコジマ流の特訓によって日々の食事の有り難さを痛感しながら生活する日々を送り、訓練に対してはもはや容赦がない
 一言:「平和な世界で遥と決着をつけるッ!」


 人物:涼宮=遥
 詳細:伊隅ヴァルキリーズのCP…管制による援護を行っているが事故によって足が不自由となり、それが原因で衛士の適性から外れ管制となった経緯あり
    前線に出られない分を的確で優れた戦況・状況報告などで部隊全体をカバーし、その声と告げる指示が伊隅ヴァルキリーズの延命に繋がっている事は間違いなし
    原作では反応炉を止める為に制御室へと侵入、そのまま制御を試みている間にBETAによって殺害され親友の速瀬と共に想い人の下へと旅立つ
    天然・穏やかな雰囲気に隠れた怒った際などの黒いオーラは誰にも負けず、怒らせてはいけない人としてかなり恐れられている……幸運は権力などがないことか
    幾多モノ実戦を乗り越えてきたコジマに優秀と称され、原作よりも前線に出られない自分に対するジンクスや苛立ちなどは無くなっている筈
    【セラフ】と共に管制を行い彼(彼女?)とは良きパートナーで原作よりも的確で優れた判断や、情報によって戦友達を護る為に今日もその声は奔走する
 一言:「水月と決着をつけるよ? ……つけないとね」


 人物:宗像=美冴
 詳細:伊隅ヴァルキリーズのナンバー3を務め分隊時は三番隊を率い戦う衛士で、とても中性的な外見が特徴で百合疑惑全開で人をカラかえるムードメーカー
    やる時はやる緩急や切り替えの上手な人物であり、部隊を見る眼や戦況などを見る眼ではナンバー2間違いなしだが実力ではナンバー3に納まっている
    主に速瀬をカラかってはそれを他人に擦り付けたりする事でいつも部隊に笑いをもたらしている優れた芸人でもあり、彼女なしでは雰囲気の建て直しに時間が掛かるだろう
    同じ部隊に所属する風間と百合の間柄ともっぱら噂であり、本人も肯定しなければ否定もしなかったりとかなり喰えない人物であり階級が付くと厄介なタイプ
    伊隅と同じく想い人がいてしかも何処かで待たせているらしいが真相はまったくもって不明であり、百合関係も純潔を護る為の手段なのかも知れない
    原作では横浜基地防衛戦で瓦礫の中で狸寝入りをしていたBETAの攻撃によって負傷し戦線を離脱……数少ない死ななかった人物の一人
 一言「今日は誰をからかおうか?」


 人物:風間=祷子
 詳細:伊隅ヴァルキリーズのナンバー4を務め後衛から部隊を支援する衛士で伊隅・速瀬・涼宮・宗像より階級が下で少尉、しかし実力は本物で後衛の要
    お嬢様と言えば理解されるような優雅な物腰などが特徴だが早食いが得意だったりする、また音楽の腕…特にヴァイオリンは一級品の腕前
    明らかに娯楽に欠けているマブラブの世界での数少ないメンタルケアを務め、他の隊員と集まったり呼ばれてはその腕を惜しみなく披露する気前の良さ
    原作では横浜基地防衛戦で凄乃皇を護っていたがそれの倒壊に巻き込まれ負傷し、そのまま後方に送られ戦線離脱……宗像同様に死ななかった人物
    宗像と一緒に行動する事が多く彼女との百合疑惑が持ち上がっているが困るようではないらしい、またかなり独特の味がするドリンクを愛用している模様
    コジマが気分が良かろうと悪かろうと歌っている【Thinker】を気に入っており、コジマに教えて貰っていたりする…ヴァイオリン版は良いと思う
 一言:「I'm a thinker~♪ 悲しい意味の歌ですね…美冴さんもあまりからかわないでください」


 人物:一条=静香
 詳細:原作では顔も出ず、名前だけ出れたが11月のBETA上陸および捕獲作戦にて負傷・戦死したA-01の一人
    速瀬と言う凄腕の先達の背中を護るポジションであり親友の神村と共に先達にして先陣を駆ける世界の加護持つ彼女の背中を護る片割れ
    コジマの地獄の訓練・もたらされた新型の数々によって、帝国との演習では速瀬を巧みに支援し、実戦でもまた論理的に猪突猛進な前衛を支える
    文句を言いながらもしっかりとこなす・むしろ極限に追い込まれたりすると逆に吹っ切れて覚醒するような悲哀娘……でも論理的
    だが味方の支援に集中しすぎて自分が疎かになり撃墜される、味方命で誰かを護る事こそ彼女の戦い方と言っても過言ではないが、だから死ぬ
    咄嗟の判断に欠ける・アドリブに弱すぎる彼女が本来の因果である11月を超えられるかは恵まれてしまった環境と本物の実戦を知るかに掛かっている
    24話に孤立したオルカ隊を救う為に突入するも母艦級の奇襲を回避できず、内部に存在する無数のBETAに捕食されるよりも早くコジマの手により爆殺される
 一言:「こうなったら自棄(やけ)よッ! どうせ泣いても中佐は笑顔でご飯抜きにする人なんだからッ!」


 人物:神村=空
 詳細:一条同様に名前だけ出れたが11月のBETA上陸・捕獲作戦にて負傷・戦死したA-01の一人
    速瀬と似た者であり、速瀬のような猪武者がそのまま一人増えたようなモノであり仲間達からは心配の種の一つだが性質の近さから速瀬の背中を護る片割れ
    楽天家で明るくムードメーカーの一人であり先輩・後輩の関係はしっかりと護るが、それでも軽口が主流である意味では軍人らしくない軍人
    似た者同士と言う事が速瀬の支援かけては先達を超え、付かず離れず常に一定の距離を保ちながら支援が出来ると言う離れ業をやってのけれるが猪武者
    帝国との演習では速瀬・一条との三機連携で巧みに帝国を追い詰め、実戦でも事巧みに支援し支援されと言う絶妙なポジションを維持できる
    しかし速瀬のように世界の加護を持つ訳でもなく、あくまで優れた凡人止まりでありいずれ速瀬の機動について来れなくなるのは自明であり現実
    連携し連携されて始めて輝く彼女が生き残るには一個人で無数の敵を退けるだけの冷静さと実力を持つ必要性がある
    一条同様に帝国の味方撃ちにより孤立したオルカ隊を救う為に突入し、救出に成功するも母艦級に捕食され、コジマの手により外部操作で爆死し何一つ残せず戦死
 一言:「負けませんよッ! 中佐にも先輩達にもッ!」


 人物:葛城=美代
 詳細:他二人の一条・神村のように原作では11月の実戦にて負傷・戦死したA-01の一人
    後衛組みの一人であり、グサッと一言余計に突き刺すような言葉がキツイがそれがあるから猪組みなどの制止に繋がる冷静沈着な一言余計な助言屋
    前衛・中衛の動きを良く見て的確に支援する・出来てしまうが故にとにかく助けるの意識が先行してここ一番の武器消耗やどれか一つの消耗が激しい
    一条のように支援に集中して自分が疎かになるのではなく、他人を助けすぎて依存されたり弾薬の激しい消耗によって逆に仲間を追い詰めてしまう
    仲間を助ける為に弾薬を消費するが支援するには装備が限られている・だからその装備の消耗だけが抜き出でて高くここ一番の救援が出来ない
    演習ではその支援能力でコジマに攻勢を仕掛ける帝国の横顔を撃ち抜き、横からのキツイ一撃を与え・実戦では戦車級を味方に取り付かせないと言う快挙をこなす
    11月を超えるには彼女の仲間とその実力を信じて、本当に危険なここ一番のみの支援が出来るようになる事…つまり手助けをしないという事
    24話の戦いで一条・神村二人の戦死を目の当たりにした事により重度のPTSDを発症し戦線離脱、現在は後方で難民達の支援活動などに従事している
 一言:「……中佐って優良物件だよね―――ホモかも知れないけど」


 人物:渚=紗枝
 詳細:一条・神村・葛城の三人よりも早く負傷・戦死した顔も名前も登場しないA-01であり完全オリジナルの一人
    先達の風間と共に肩を並べて戦うA-01で一番弾薬消耗が激しく、なおかつハイテンションな最後衛から部隊を護るトリガーハッピー
    後衛の一人であり最後衛から無数の弾幕で中衛・後衛をサポートするがその支援弾幕の濃さは納得出来るが消耗率も大変な状態
    近接防御もこなすと言えど最後衛の仕事であるサポートの弾薬を最速で切らしては本末転倒・エネルギーもすぐに空っぽになる
    演習ではその弾幕を生かした迎撃で活躍・実戦でも中衛・後衛組みの安全確保に全力を尽くし弾薬ゼロで帰還を果たす全力ずきる全力を発揮
    2001年11月まで生き残るにはもっと安定かつ長期戦闘を可能とする弾幕の張り方を習得し、長期戦に備えれるようにする事
 一言:「中佐の機体って担架が四基に増えてるから純粋に撃てる数が増えて弾幕も安定するよ~~」


 人物:穂波=小鳥
 詳細:渚と同じく顔も名前も登場する事無く負傷・戦死したA-01であり完全オリジナルの一人
    後衛の最前線を担う為に後衛組みの中でも接近戦に長け、その能力は前衛に転任しても十二分に通じる程の実力……冷静で参謀役で故に無茶が多い
    支援や狙撃が可能となった新型に合わせて武装が大幅に変更となり、それに合わせて接近戦がし辛い後衛を護ろうと必死になる自己犠牲の塊
    接近戦もさる事ながら陽動にも長け倒す事も出来るが最悪逃げ回り仲間を護れるが、やはりその選択が待つ答えは自分の死しかない
    演習では後衛組みを護り・持たせ、実戦でも数々のBETAを討ち払い撃ち漏らし等を的確に始末し味方の生存率を高めた立役者
    2001年11月まで生き残るには後衛の前衛と言う気負いを捨て、仲間の実力を信じてあえて漏らし自分の負担を減らすと言う事が出来るようになる事
 一言:「備えあれば憂いなし、用心を重ねれば心配する必要なしってね」


【207訓練中隊】

 人物:ハリ
 詳細:アスピナ機関によってアナトリアの傭兵を量産しようとした計画の生き残りであり完成体、その実力は全盛期に匹敵するオルカ旅団員の一人
    元々カラードの独立傭兵としてランク10に君臨していたが、メルツェルの決死の説得と本当の自由を手にする為にオルカに合流する
    しかし最強を再現する対価として肉体・精神共に莫大な負荷が掛かり、ハリでなければ当に崩壊して死んでいてもオカシクナイほど
    また戦闘に特化した存在として日常生活に疎く、また過酷な生活などの影響でそうなってしまった戦争の弊害者の一人でもある
    そんな身体の関係で戦闘は数分間しか出来ず、時間限定の天才として有名だかその時間攻めをされると途端に脆くなる危険性もある
    マブラブ世界でもアスピナの元で幾度も実験や小規模戦闘に参戦させられており、207訓練中隊ではもっとも実戦と軍隊を知る人間
    AC世界の愛機【クラースナヤ】はハリの身体に合わせて戦闘継続能力を無視し、とにかく素早く殲滅する事に特化した高速機体
    リンクス達全員に言えた事だが主要国家の言語はマスターしており、207とは日本語だが他のリンクス達とは英語で話している
 一言:「女の子ばっかりの部隊なんてのも珍しいね? メルツェルの指示通り頑張るよ」


【リンクス:オルカ旅団】

 人物:岩見=銀翁(ネオニダス)
 詳細:オルカ旅団創設に携わった最初の五人の一人であり、リンクス戦争を生き抜いた男でもあり企業の秘蔵テストパイロットだったが企業の真実を知り脱退
    最重要拠点の防衛を任され旅団員達からは銀翁と呼び慕われる歴戦の勇姿であり、トーラス社からの支援を受けながらもオルカ旅団員とて戦い抜く
    マブラブの世界では本来の准将の存在と書き換えられる形で存在しながらもコジマが掴み取った青臭い理想のAC世界の記憶を持ちコジマに絶大な信頼を持つ
    砲撃戦の達人だが武御雷に立場で乗せられ死ぬような思いをするなどかなり不運…得意な砲撃の為にわざわざ試験目的と称して大型電磁投射砲を装備する
    マブラブ世界では殿下とも謁見でき更に演歌を歌い賞賛されると言う意外な特技を持ち、二十五話にて中将に昇格した権力などでコジマを支援し手助けする
    AC世界の愛機【月輪(がちりん)】はレーザー・プラズマ兵器とアサルトキャノンと言うコジマ粒子を高圧縮し砲弾として撃ち出す最悪の破壊兵器の一つを搭載している
    年齢はそろそろ六十歳に突入しそうな五十代であるが四十代にしか見えない若々しさが売り、オルカ旅団最年長を誇る。
 一言:「やれやれ…やはりワシがなんとかするしかないのだな」


 人物:井上=真改
 詳細:オルカ旅団創設に携わった最初の五人の一人であり、オルカ旅団の計画の大元であるレイレナード社の残党でありリンク戦争の亡霊……最強の近接能力者
    踏み込み斬る事に全てを賭け、アンジェ流剣術の最高師範でありコジマにあの剣術や体術を叩き込んだ人物でもあるが究極なまでに無口…二字熟語などしか話さない
    接近戦の達人であり、オルカで唯一のレーザーブレイド装備者……そしてそのレーザーブレイドは彼の師匠であり慕っていた先輩リンクス・アンジェの遺品であり形見
    マブラブ世界では銀翁の補佐官でありながら裏ではその剣術と後ろ盾の大きさを利用した処刑人、彼を相手に剣術勝負を挑むのは自殺行為だが彼は暗殺なども平然とする
    近接戦闘の達人であり銀翁の背中を任せながら一本の長刀で敵を切り裂き様はまさに鬼神…武御雷と相性が良く高機動噴射装置の装備で更に推力上昇しているが燃費が悪い
    四十代でありコジマより年上であるが近接戦においてはコジマを凌駕し、その鍛錬は実戦そのものであり真剣の斬り合いなんてアンジェ流の基礎の基礎らしい
    AC世界の愛機【スプリットムーン】は最強のレーザーブレイドと追加ブースターと言う虐め装備で、あまりにも驚異的な踏み込み速度で多くの敵を斬り捨ててきた
 一言:「――――――紹介」


 人物:マクシミリアン=テルミドール(オッツダルヴァ)
 詳細:オルカ旅団団長・カラード傭兵ランク1を誇るレイレナードの亡霊であり、熱っぽい扇動家・諦観者・ロマンチストでもありオーメル社の切り札
    高い戦闘適性と幾多モノ実戦を潜り抜けた実戦派の天才でありランク1の実力は本物だが、自分を取り込んだオーメル社とは実はかなり険悪な仲でもある
    中距離戦闘の天才であり非常に毒舌家で相手の事など知った事かとばかりに突き放したり貶すが、それは親しい者を作らず弱味を造らない為の彼なりの努力の一つ
    亡きレイレナード社の遺志を受け継ぎ人類の救済と宇宙への飛躍の為に、人類の救済の為に無数の個人の殺害を行える決意と覚悟があるがロマンチスト故に甘さが残る
    マブラブ世界ではトルコ人であり、アナトリア方面防衛軍に所属しアナトリアの英雄と共に無数のBETAを蹴散らし祖国を崩壊から護りきった人類屈指の英雄の一人
    専用のカスタムを受けたF(ファイティング)ファルコンを駆るが団長としての記憶が多くの仲間を率いる事の出来る上に立つべき器を見せる五十になる四十代のオジサン
    AC世界の愛機【アンサング】はレイレナード社の【最強・最高の瞬間】を体現したような設計で高機動かつ高威力のレーザー・牽制の実弾・追尾ミサイルの三武装を載せた機体
 一言:「諸君―――派手に行こう」


 人物:メルツェル
 詳細:オルカ旅団の知恵袋にして参謀…彼なしではオルカ創設はありえず世界を支配する企業すら騙せてしまう口車は世界最高の実力を誇る…敵に廻すと知恵の面で殺されるのは確実 
    AMS適性は劣悪であるがそれでも並みのリンクスよりは腕が立つが彼が戦場に立つのは最後の瞬間か策略の為に犠牲になるかのような瞬間以外ありえない
    世界を手玉に取ってしまう策謀は脱帽と圧巻の一言に尽きるが、唯一の誤算は正義感溢れる人物達の暴走でありその失態を取り戻す為に平然と自分の命を差し出す戦う参謀
    オルカメンバーからの信頼は厚くコジマとはお互いを騙しあうような仲だが、コジマに策謀や知略を叩き込んだのは彼でありたとえ姿見ぬ相手だろうと手玉に取けてしまう腹黒さ
    コジマにとって決して上が存在しない先生の一人であり、彼の策謀と口車がなければとてもじゃないがオルカ旅団はその目的を果たす事は出来なかったと言える
    マブラブ世界ではソ連から世界各国の情報を何らかの手段で手に入れながら盗聴不可能なオルカ回線を作り出し、その策謀で各地のオルカを繋げている立役者で四十前と少し若い
    AC世界の愛機【オープニング】はGA社製で構築されており、ライフル・グレネード・核弾頭ミサイルと言う物騒な物を装備した機体で同社の粗製リンクス計画との関わりが疑われる
 一言:「人類に黄金の時代を―――我ながら良い言葉を作ったよ」


 人物:ヴァオー
 詳細:オルカ旅団員でも新参でありメルツェルにその秘めた才覚を見出されオルカ旅団にスカウトされ、オルカ旅団でありメルツェルの側近として戦う
    サッパリした性格だがとにかく大声で叫ぶ癖らしきものがあり、迷惑と言えば迷惑だがそんな彼の大声がオルカにとって大切な仲間の存在を知らしめる大切なモノ
    死ぬのが解っている作戦でもメルツェルに付き添い共に戦うなど友の為ならば恨み言の一つなく戦いに身を投じれる友達や親友にすると楽しく頼れるようなタイプ
    オルカメンバーの数少なき三十代の一人であり、結構若いがそれでもオッサン旅団の中だけであるのは変わらない……頼れるおじさん
    マブラブ世界では片足をやられ精度の悪い義足で軍を抜け有澤重工社員として同社の内情を探り、その信頼などを勝ち取り企業の動向を随時メルツェルに送っていた
    AC世界の愛機【グレディッツィア】は弩級タンクでガトリングとバズーカを装備した乱射装備であり正面からの撃ち合いでは無双の一言に尽きる…そして接近戦ではパイルバンカー装備
 一言:「必ず帰ってくるぜメルツェェェェェェェェェェェルッ!!」


 人物:ジュリアス=エメリー
 詳細:オルカ旅団創設の【最初の五人】の一人であり、オルカリンクスで唯一の女性でもありその実力はアナトリアの傭兵の唯一のライバルであったジョシュアの再来と称されるほど
    凛々しくもGカップと言う豊満な胸を持つ女性の魅力に溢れながら、男性のような凛々しさも持ち合わせるオルカの紅一点であり最強の女としてオルカに君臨する女傑
    テルミドール・真改の二人とはリンクス戦争以降の戦友にして親友であり、同じレイレナード社の人間として戦い生き残りオルカの同志として今日まで共にある
    禁句だがオルカ旅団の数少ない三十代の一人であるがその外見はリンクスなどの改造によって常に全盛期の美しさを保持しており、初見で彼女の年齢を言い当てるのは不可能
    マブラブ世界では本来存在したグレートブリテン七英雄の一人の座席を奪い取る形でこの世界に現れ、その高速戦闘の美しさから【蒼い閃光】の異名を持つ女傑の一人
    AC世界の愛機【アステリズム】は軽量機体に重量超過でも高火力武装を載せた機体だが彼女の腕によってそれを感じさせない程に素早く、かつ正確な射撃で敵を粉砕する
    ジェラルド・ハリとは強力なリンクスの戦闘機動を脳や身体に刷り込まされた存在であり、ジェラルドとは恋人・ハリとは姉弟のような関係であり彼女のモデルはジョシュア=オブライエン
 一言:「美しさを保つ方法? ……私の真似だけは止した方が良い」


 人物:オールドキング
 詳細:オルカ旅団でも孤高であり、過激派テログループ【リリアナ】のリーダーを務めていたオルカですら持て余す最悪の狂気と確固たる信念を宿すリンクス
    どれほど綺麗な理想などを持とうと革命などは血を流す必要が有り、その全てを事故などで済ますのではなく自分の手で殺し背負う覚悟や現実を知る
    ACFAの主人公を狂気の殺戮と天敵への道に引きずり込んだ張本人だが、彼や彼の大切な何かを選んで殺され失った過去や現実を持つ一様に悪とは言えないモノを持つ
    また『殺すから殺される』と良く言う『憎しみの連鎖』や『因果応報』を覚悟し決して良い訳はせず、殺し殺されの道に存在し歩いていく悲しいく残虐冷酷な男
    マブラブ世界では他の面々とは違い【無血の革命】ではなく【狂気の同胞】として記憶を持ち、メルツェルの情報網として各国のテロ仲間を使い情報を網羅していた
    企業や国家の依頼を受けて他国の妨害や戦術機などの破壊を行い糧食を得ており、リーダーとしての素質や経験は充分であり『ピース・ベル(平和の鐘)』隊を率いている
    AC世界の愛機【リザ】は非常に散弾・マシンガン・ミサイルなどのバランスが良い編成であり、また原作で唯一大空での戦闘になるので非常に捕らえ辛くその武装に追い詰められ易い
    コジマが生まれた世界で研究の為に脅し・妨害行為をしていた所為か非常に馬が合い……彼は忘れているがゲイな関係であった可能性もなくはない相手でもある
 一言:「よぉ相棒? 戦う理由と覚悟はあるのか?」


 人物:トーティエント
 詳細:企業と世界の真実と戦いと実験によって余命幾許もない自分の身体などから死期を悟り、オルカ旅団のクローズプランに賭けて合流した旧一桁ランカー
    実験によって顔を失っており、フェンシングマスクのような被り物を常に付けており素顔を見るには相応の覚悟が必要でありそれだけ悲惨な状態でもある
    アクアビットマンと言う粒子機関に依存したネクストを駆るだけあってその実力は凄まじく、仲間との連携によって非常に強力な機体になる公認の変態機
    銀翁とは同じ粒子開発を重視する会社同士の付き合いがあり旧友の一人であり、双方共に粒子汚染によって余命が幾許もなくあの世界では明日にも死ぬかも知れない身
    四十代だがリンクスなので外見的には二十代そのものだが、幾多モノ改造や実験による疲弊は大きいのに加え顔がないのである意味ではもっとも歳がわかり辛い
    マブラブ世界では南アメリカで開発衛士としてゲリラやテロ殲滅に明け暮れていたが、素顔の関係で恋人と破局した悲しい現実も持つアメリカのリンクスの一人
    AC世界の愛機【グレイグルーム】はPAを圧縮起爆させ全方位を消し飛ばすAAを強化する装備を基軸にした一撃必殺と自滅リスクを向き出しにした博打機体
 一言:「アクアビットマンこそ美学だよ! それが解らない奴は死ねよ……」


 人物:PQ
 詳細:ゴキブリの鎧土竜をコヨナク愛する人間であり、鎧土竜を見ていた所為か南アンデス山脈のゲリラなどを壊滅させた実力を持つ冷静沈着かつ戦況などを理解出来る智将の一人
    しかしゲリラ殲滅などで活躍しすぎた事によって企業から邪魔者と見られ消されそうになった所をオルカに助けられ、オルカと鎧土竜の為にその命を賭すリンクス
    戦況などを読める事に加えて非常に乱戦が得意であり、乱戦の最中に致命的な一撃を放ち次々と敵を仕留めていく驚異的な観察眼の持ち主でもある
    三十代の一人であり、鎧土竜の外見が人類の天敵であるゴキブリと同じだけあってその価値や美しさを理解して貰えない事が多く『えぇ~~』が口癖になりつつある
    名前のPQに合わせてコロコロと名前を変えるので本名を知る人間は本人だけであり、コジマ達も合流を諦めていた人間の一人であり同時に鎧土竜は来て欲しくないと願っていた
    マブラブ世界ではトーティエントと共に南アメリカで従軍し若手の育成や指揮に従事していたらしいが、鎧土竜の美しさを理解して貰えないのでオルカに合流した
    AC世界の愛機【鎧土竜】は高圧縮したコジマ粒子弾頭を搭載したミサイルを主力にしている機体で粒子弾の直撃はいかにネクストだろうと一撃で大破する宿命にある
 一言:「鎧土竜を護る為に戦う……えぇそれが私の戦う理由ですが?」


 人物:ブッパ=ズ=ガン
 詳細:オルカ最高の狙撃主であり、元自然観察保護官として培った実力と共に【猟師】を自称し数多もの敵を撃ち貫く狙撃主
    荒廃した世界の数少ない自然動物達を護る仕事に就き真面目にその一生を賭す筈だったが、戦火の拡大に伴い護る筈の手で動物達を殺害し処分すると言う苦痛を味わう
    オルカ旅団の計画に賛同し戦火を拡大させる一方の人類を宇宙に追放、地球を治療した後に動物達の数を増やしてもう一度仕事を取り戻す為に戦う狂気ながら狂気でないリンクス
    旅団で唯一の二十代でありコジマとは同年代なのかライバル意識などが大きく、コジマにとっても良き友人である事も多いが戦火の元凶として殺害された事もある相手
    リンクス戦闘で強化された狙撃能力は凄まじく、音速機動を行うネクストに弾速の遅い武装でも当てる事が出来て乱戦もこなせると言う優秀な素質を保有する
    マブラブ世界では北海道の狙撃部隊の隊長に成り代わる形で降臨し、その部隊をネクストすら撃破するAC世界最強の狙撃部隊【サイレント・アバランチ】へと昇華させるほど育成上手
    AC世界の愛機【ビックバレル】はコジマ粒子を圧縮し砲弾として撃ち出す武器を背負い、その一撃はネクストだろうと大破は免れぬと言うのに近接狙撃してくるのだから性質が悪い
 一言:「BETAを滅ぼしてもう一度……夢を取り戻す為に戦うッ!」


 人物:ラスター
 詳細:カラードランク元上位でありオルカランク最下位の強くもなければ弱くもない、だからこそ安定し堅牢確実な戦いをこなせるオルカの小回り役
    五十代寸前の四十代でリンクスだが決して外見が若い訳ではなく、むしろ銀翁のように老いておりオルカ旅団には珍しい中年の外見をしている
    しかしノーマルの適性がオルカ随一なのでアメリカで開発衛士を務めブラックウィドゥを駆り活躍するも、出来レースには勝てずラプターを正式配備させてしまう
    また日系の家系に順ずるので非常に日本を誤解なく理解しており、オルカでもっとも日本語が達者であり難しい日本語もなんなく発音し意味も言えてしまう
    堅牢・確実な戦いが売りで何処かに特化した素質ばかりのオルカにとって器用貧乏の存在は大きく、実力以上にオルカには重宝され特にAF戦にて活躍が目覚しい
    マブラブ世界ではブラックウィドゥの開発衛士に成り代わり、アメリカが誇るエースの一人として数多モノ戦術機を乗りこなし活躍している
    AC世界の愛機【フェラムソリドス】はPA強化装置を装備した堅牢強固な機体かつ実弾・レーザーを装備した何が相手だろうと一定以上の戦いをこなせるマルチファイター
 一言:「やれやれ……結局拙者がいなければならない訳か」


【リンクス:企業・組織】

 人物:オブライア=ネフェルト(アナトリアの傭兵)
 詳細:ノーマルに乗れば伝説・ネクストに乗れば最強の名を携える世界の加護をもっとも強く受けるラストレイブン、リンクス戦争の英雄にして【山猫殺し】の異名を持つ
    AMS適性能力は低いがそれをまったく感じさせない圧倒的な戦闘センスの塊であり、音速戦闘中の相手のメインブースターを撃ち抜く神業の持ち主であり経験と蓄積の天才にして伝説
    正確無比な射撃と高機動による強襲戦術を得意とし、前衛寄りの中衛といった立場で彼に一度取り付かれれば最後……逃げる事は敵わずただ撃墜を待つだけとなる
    アナトリアが経済危機を脱する為に造ったハリボテ傭兵だった筈が実戦を重ね、その圧倒的な力で世界のバランスを崩壊させ単機で企業すら滅ぼし多くのリンクスを葬ったイレギュラー
    戦友:ジョシュア=オブライアンを自らの手で殺し、最愛の人:フィオナ=イェルネフェルトを喪ったショックで言葉を失い対話は身振り手振りの手話・ジェスチャー
    専用のカスタムFファルコンを駆り淡々と敵を葬り鳥の如く飛翔しながらBETAを喰らい尽くす風景は大鴉の一方的な狩り…五十になる高齢リンクスだが今だ現役
    AC世界の愛機【ホワイト・グリンド】は戦友の愛機の名前であり、完全な彼専用のワンオフ機体でありネクスト唯一の変形機構や超大型OBユニットを持つ白い大鴉
 一言:「――――――(無言)」


 人物:有澤隆文
 詳細:実弾の変態企業【有澤重工】の四十三代目に就任しているリンクスであり、社長自ら先陣を斬るなど社員からすればヒヤヒヤさせられるような武人
    その武人気質と企業の社長に就任する経済学などで瞬く間に大企業へと出世し、多くの仲間を造り上げる程でグレネード分野を独占する驚異的な手腕
    社長だけあって自社の製品の特徴などは熟知しており「当たれば勝てる」と豪語し音速戦闘をするネクストへの直撃やその大火力で瞬く間に対象を殲滅する
    マブラブ世界の日本帝国の理念主義を嫌悪し銀翁とは独自のパイプを持っており、その理念によって死に掛け大勢の軍属時の部下を失い軍を脱退した
    ネクスト製造や自社のタンク型戦術機採用の為に最悪の遺産であるプロトタイプ建造を決意し実行に移しているなど、判断力と行動力に優れる前線主義者
    AC世界の愛機【雷電】はグレネードのみで武装を構成した弩級重装甲タンクで老神と言う最大・最強のグレネード砲は全てを一撃で消し飛ば驚異的な威力を持つ

□□□

 まだまだ増えていきます



[9853] 外伝?[リリウム日記:三月]
Name: 博打◆19d1c82a ID:047f63f1
Date: 2010/06/02 23:10
外伝?[リリウム日記]

 注意:この話ではワザとセレンの名前を間違えています
    ご指摘頂きここに注意書きを表記しておきます


 視点:リリウム

 三月の分隊分けされて一週間ほどが経ち、本日はナイフを使用した近接戦闘の訓練。
 あのBETA相手にナイフが通じるとは思えませんが、やはり対人戦におけるナイフの位置はとても重要です。
 銃火器が使用出来ないほどの混戦や地形において小回りが利きながら確実に急所を狙えば相手を倒せる武器がナイフ。
 身体の各所に隠せる暗器ですので武器を持っていないと思っている相手の油断を突けば強力なお相手も瞬時に殺せてしまう万能武器です。
 また戦術機……この世界のノーマルにはレーザーブレードが装備されず近接短刀が装備されていますのでそこへと通じるものもあります、実に奥深い武器。

 本日の訓練はナイフを二本まで用いての一対一での模擬戦闘。

「甘いですよ」

 踏み込み合わせるように投擲されたナイフが頬を掠めますがまだまだ未熟。
 こういう時は本気で眉間に突き刺さるくらいのモノを投擲せねば大きく体勢を崩せませんし、訓練と言えどまだまだ躊躇いと言うものを捨てれないご様子。
 こちらが立ち止まらず揺るぎもしない事に眉に皺を寄せながら間合いを詰めさせまいと残っているナイフを突き出してきますがそれもまた甘い。 

 素早くナイフを捨てた後に伸びきった腕を少々強めに掴んだ後にこちらに抱き寄せ……右膝を鳩尾に叩き込む。

 いかに慣れている人間だろうと抱き寄せる際の勢いを利用した強烈な膝の一撃を簡単に耐えられたりはしません。
 いとも簡単に痛みと一瞬でも吸い込んでいた空気を吐き出してしまった事による呼吸困難と力の放出を見逃さず訓練服のベルトを持つ。
 そのまま右手の力一つでお軽い身体を持ち上げ左手はお腹を持つようにして少々手荒ですが背中から叩き落し、綾峰様が手放したナイフを拾い首筋に添えて模擬戦終了。

「少々手荒すぎました」

 咳き込みながらゆっくりと立ち上がる綾峰様に手を貸し、ちゃんと立ち上がり訓練が続行出来るようなので安心しました。
 中々お身体は頑丈なようです……あとはしっかりと実戦と訓練をすれば中々に出来るお方になるでしょう逸材ですね。
 私は放棄してしまったナイフを拾いあげ周囲に視線を泳がせて見ますがやはり善戦出来ているのは綾峰様と御剣様くらい。

 まぁこのお二方はそういった家系だそうなので出来て当然でしょう。

 他の方々はむしろ良く出来ている方です、苦手だろうと得意だろうと常に真剣に訓練に望み取り込めるモノを取り込もうとする姿勢。
 ですがまだまだ新人の動き……この調子ではたしてどれ位で私やハリ様ほど動けるようになるか良い方向に気になりますね。

「……まだやれる、もう一勝負お願い」

「痛みとは後から来るものです、それに綾峰様はもっとナイフに頼り自分からだけでなく相手を間合いに誘うべきですね
 自分から踏み込めば勢いなどを自分のものなのですから利用し易いのですが、それでは相手によっては間引きされて死にます
 なので少々【相手が自分から踏み込まねばならない】状況作りを会得し頑張ればその才能をより生かせるようになりますよ
 あるいはここは場所が場所なのですが武器や地形を利用し相手の退路を断つようにすれば、一気に接近出来る機会が増えるでしょう」

「凄く勉強になる」

 これはむしろ射撃戦に通じるのですが、戦いで自分から間合いを詰めようとすると非常に危険なのです。
 何せ相手は相手の速度と射線軸に合わせて逃げながら弾幕を展開すれば勝てるような状況をこちらから作ってしまうのは、実力などがなければただの下策。
 なので遮蔽物や自分と相手の事を理解しいかに【これでは勝てない】と相手に距離を詰めさせられるかの……いわば振る舞いと戦い方次第になります。
 出来るならば相手に【後退】の選択肢を奪うか意識させずに端や遮蔽物に追い込み、激突させ追い詰められた事を理解し絶望している間に殺すのがよろしいかと。


「よし交代だッ! 次ッ!」


 もっと色々と言いたかったのですけど仕方ありません。
 次は―――


「え……リリウムが相手?」


「では頑張りましょう柏木様」


 柏木=晴子様が今度はお相手のようです。
 今度はこちらから攻めさせて頂くとしましょう、攻め方を忘れては王大人の僚機を勤める際に響いてしまいかねませんから。
 綾峰様ほどの実力は当然ながらないので手加減した踏み込みでゆっくりと近づき、右手のナイフをレイピアに見立てひたすら突きの連続。

「うわッ!? うわッ!? ねえその”様づけ”ってどうにかならない?」

 二本のナイフで苦笑しながら防げてしまうとは……柏木様も中々に才能があるようですね。
 座学も中々に好成績ですがそれ以上に誰にでもすぐに仲良くなってしまえるその人付き合いの良さは対人関係では手に入りづらい才能。
 私は”こういう部分”があるので対等なお方はそうそう居ませんし……いたとしても敵なので寂しい気はしますが環境には慣れてしまうものです。
 財団の跡継ぎに相応しくなるべく作法・言葉遣い・顔作りに加えて殺されないような護身術に殺す戦闘術、そしてリンクスとしての戦闘技能と色々と。
 そんなのに慣れてしまうのは悲しいとは思いますが。

「無理です、これは私の”個性”ですから」

 それに王大人から


『リリウム、今日から相手には”様”などの尊称をつけなさい……その体格や顔立ちならば相手はイチコロだろう』

 
 と、とても偉大な助言から身に着けた癖なのでもう治せはしませんし、治しはしません。
 BFF内や同盟企業会議などでもとても好評で私に対する印象も悪くなく、私自身この癖は嫌いではありませんから。
 財団の跡継ぎと言えど周囲から確実に注目されるような行いや努力をせねば財団そのものを飲み込まれてしまいかねません……私はその後継者としての義務を果たす。
 後継者として産み落とされて、今日まで厳しい訓練の毎日に誓わされた後継者としてのノブリス=オブリージュ。

「いや意味判らないよッ!?」

 耳に良い澄んだ音が、刃が交わる度にするのはとても幻想的ですが、あまり手を抜いては失礼でしょう。
 少しずつペースを上げていく事でこちらの練習にもなりますし柏木様にとっても良いお勉強になるでしょうから少し力を入れましょうか。
 それに何だかんだとちゃんとこちらの突きに合わせて防いでいる辺りはやはり才能と言うべきか……気に入りませんね。


「人の中で立つ為に必要と言う事です、柏木様もいつか必要になるのでお勉強をしておくのがよろしいかと」


 この方々はどうも才能に恵まれているようです。

 それも磨けば光り輝くような原石の才能……もしBFFに勧誘出来るならば引き入れ才能の開花を見てみたい。

 そう感じさせてしまうほど優れた方々でたった一ヶ月で相応以上に動けてしまうその才能は私ですら嫉妬してしまうほど。
 民族に拘る国家などなければ王大人に直訴してでも手に入れたくなるような美しい原石……王女は着飾るのは当然ですのでいつかは必ず欲しい。

「もう弟達の上に立ってるから必要ないよッ!」

「そうなのですか? ならば早くこの戦争が終わると良いですね」

 麗しい理由ですね。

「……うん、そうだ」

「戦闘中に言葉によって動きを悪くさせるのは死に直結するので気をつけましょう」

 言葉を待たずにナイフの石頭(柄の一番下の凹凸)で胸元に一撃入れさせていただきました。
 ゴッと鈍く痛そうな音と共に柏木様が大きく体勢を崩したのでそのまま柔術の背負い投げをさせて頂き、背中から地面に叩き落します。
 叩きつけられた痛みと胸元に入れた一撃がどうやら響いているらしく咳き込んではいますが……しっかりと受身を取られているのは見事としか良いようがありませんね。

 仮にも骨に異常が出ないように加減したとは言え胸骨に一撃を入れてから、更に投げ飛ばしたと言うのに。

 やはりこの方々は”良い”―――出来ればリンクスとして共に戦いたくなるような良さを持つ人と会うのは久々です。

「イタタタタッ……ちょっとは……加減してよ」

 痛いと言っていられる内は痛いとは言いません。

 本当に痛いのであれば悶絶するほどなので。


「これでも加減はしていますよ? ですがあの攻撃から受身を取れるとは立派な事、流石は晴子…………様」

 
 努力に免じて……頑張って下の名前で呼べるように努力しましょう。

「あっリリウムやれるなら初めからしてよ?」

 そんなに嬉しそうにしないでください晴子様。
 これでも本当はとても言い辛くて噛んでしまいそうなんですよ?
 その証拠に結局気持ち悪さと歯切れの悪さからつけてしまいましたし。

「頑丈ですね?」

「いやいやいリリウムが何だかんだと下で呼んでくれたから親近感が嬉しくて」

 ……少々上から見過ぎていましたか。
 前世の記憶を持つ私から言わせると皆様は孫に当たる年齢なのでどうも世話の掛かる子供を見ているようで困ります。

「近づけて何よりです晴子様」

「だから様はいらないって」

 何故かお互い苦笑してしまいます。
 本当に不思議な方ですね晴子様は……


「ウォルコットに柏木ッ! 訓練中に手を休めるとは良い度胸だ……その場で背筋・腕立て200×2セットだ」


 怒られてしまいましたが、教えられたモノは大きい。

 少なくとも私にとってはとても学ばねばならない事ですからありがたい限りです。

 そうしてその背筋と腕立てを終えると本日の午前の訓練は終了し、皆様クタクタの身体をひこずりながらPXへと向かいました。



「あぁ疲れた……なんで二人ともそんなに動けるの?」



 私とハリ様は訓練と強化があるので常人よりも遥かに体力があるのですから、失礼ながら現状の涼宮=茜様達に劣るほど訓練を積んでなければ……前世で多くの方々と戦場を駆け抜けてきてはおりません。
 分隊分けされて一週間ですがむしろ軍人の訓練に皆様よくついて来られている方です、普通ならば基礎体力から必要知識の叩き込みの基礎基本過程をミッチリと叩き込まれるこの期間。
 この世界では戦局の悪化よって同時に必要となる格闘術・知識・共通言語なども叩き込まれるというのは新しい環境に慣れようとしている精神や身体には危険なモノなのですが。

 民族統一を優先し、企業とは違う思想国家と言う旧い体制の愛国心が過酷な訓練を可能とさせているのでしょう。

 無理に他民族などを受け入れ軋轢を生むよりも統一により思想を統一しやすい状況を作れば、少なくとも民族違いから来る不協和音のようなものは回避出来るのに加えて操作もしやすい。
 企業は広範囲支配によって民族思想差から随分と苦労させられた経験がありますから……GAの旧アメリカと旧ヨーロッパの思想差から来た戦争は悲惨な結果でしたからね。
 そう思えば柔軟性には欠けますが内部を操作しやすく、愛国心なる精神で自分(上層部)達は言葉と行動さえ選べば許されるような愛国者に満ち溢れたそんな国民がいる旧き時代の世界。

「ん? 訓練してたら自然に出来るさ、今は身体の使い方を学ぶ時期だしこっちは訓練してきたから体力もある」

 特盛り合成カツ丼を凄まじい勢いで食べているハリ様は「ついでに素人な皆に負けたら洒落にならない」と頬に米粒をつけながら微笑んでいます。
 あの無表情で誰も寄せ付けない雰囲気をしていたハリ様がこうして微笑んだりするのはやはり匂います……特別な方々に対する当て馬と見てよろしいでしょうか?
 中隊ただ一人の男性に加えて既に実戦投入も完了しているリンクスがわざわざこんな事をすると言うのはやはり御剣様達の特別を手に入れるためでしょう。
 しかしそれは私の知るところではありません、私の使命はウォルコット財団の再建と王大人の為に―――純一郎様を手に入れる事です。

「それでも少し差がありすぎるよ、座学で教官から絞られてるしさ」

「問題ありません麻倉様……その事については神宮司教官も承認済みですので差別なく扱ってくださるので素晴らしい人です」

 合成たくあんをボリボリと食べながら麻倉=一美様が私達を心配してくださるようですが、やはりご自分達の方を心配するべきだと思いますよ?
 機械を埋め込まれたこの脳は常人とは比較にならないほどの処理能力を持つと共にある種の記憶装置としても機能していますので【忘れる】という事態とは疎遠。
 聞かれた所ですぐに最適な【教科書に載っている答え】程度なら答えられのに加えて時間さえあれば演算すればよろしいだけなので問題などありません。 

 いえ―――AMSの高い適正を持つ時点で普通の人よりは処理できましたね。

 改造などなくとも普通以上は知能を持っているつもりなので、改造されたという理由には逃げません。
 真っ向から私は優れています……ですが劣っている部分も沢山あります、ですから心配する必要もなくむしろ誇っていいのですよ一美様。


「むしろ一美様はもっとしっかりと勉強しなければ不味いのでは?」


 贔屓しても褒められないので少々心配です。 


「うっそれは言わないでッ! もう少し自分で頑張らないと皆に頼る癖でつきそうだからねぇ」

 
 ……ド・ス様のような言葉遣いですね、もしや出身が同じなのかも知れません。
 日本には方言が数多くあるそうなのでそこから解読すれば意外に足が掴めるかも知れませんね。
 とりあえず東洋のお米と言うのは前世でも良く食べましたがお腹が膨れやすくて助かります、ですがやはり合成パンとジャムのトーストを食べたいです。

「なら頑張って、困ったら私にた・よ・れ・るッ! リリウムがいるんだから」

「……そこで私に八割方押し付けるような言動は少々どうかと思います茜様」

 あまりない胸を張りながら言う茜様にビシッと突っ込んでみると皆様笑ってくださるので釣られて笑ってしまいました。
 こういう対等でいてくれながら楽しみ合える関係と言うのも、やはり悪くはありませんね。
 BFF内では後継者という事もあって皆様離れていくか、及び腰でヘリクダルか私が目上の方に接するかの二択くらいでしたので。


「ここにいたのかハリ」


 聞き覚えのある声に振り向く。
 そこには豊満すぎる胸に男性と見紛うほどの整った顔とスタイルを持つジュリアス=エメリー様がカツ丼を掻き込んでいるハリ様を見下していました。
 グレートブリテン七英雄の一人にしてオルカ隊の五本指にはいる実力を持ち、反抗勢力としても企業を幾度となく手を焼かせた組織の高機動戦闘者。
 リンクス会議に参加したがらないジェラルド様の恋人でハリ様と同じアスピナ研究機関の施設出身のリンクスにしてレイレナードの亡霊の一人。

 少佐の階級賞を前にしているのですから食事を中断し一同敬礼の姿勢。


「どうしたんだジュリアッ!?」


 ジュリアス様のアッパーが敬礼の遅れたハリ様の顎を見事に捕らえ、ハリ様の身体が宙に浮きました。

 まるで時間がゆっくり流れたかのように顎を殴り上げられ宙に浮くハリ様の姿を見ることが出来ましたが、私語と確認した直後に素早い行動です。

 私はともかく他の皆様は女性衛士でも英雄クラスであるジュリアス少佐が目の前に来ただけで緊張していると言うのに、ハリ様が殴られた直後は唖然しながらも敬礼の姿勢を崩しませんでした
 軍人とはこうあるべきです――― 規律も守れない人間には制裁・守らない者は重罰・裏切り者には死を・服従をするならば主人は力の限り部下の為に力を振るう。
 ハリ様が訓練生をさせられているのもリンクスとしても訓練生としても高い能力ゆえに協調力が欠落しているのでソレを学ばせる為、それを理由に特別な存在にふれさせる。
 特別を手に入れる為に特別をぶつけその後ろにある力を手に入れる……私も後ろについては少しは知っているので実に手に入れたい力なのですね。


「訓練生が佐官に対等な口を利くな馬鹿者、それと今日はフラジールが来るからこっちに早めに来いと言っておいただろうがッ!!」


 ガッとハリ様のコメカミにジュリアス様の右足が置かれ、痛いではすまなそうな感じでグリグリと足蹴にしています。


「もっ申し訳ありませんエメリー少佐ッ!!」


「よろしい、ならいくぞッ!!」


 止めの一撃とばかりにハリ様の鳩尾に食い込むように強烈な蹴りが入り込み、グッタリとなってしまったハリ様の首根っこを掴む。

「では迷惑をかけた、君達の現状についてはコジマやハリから中々聞いている……まだまだ伸び白があるのだから無理なく精進すると良い
 あと合成カツ丼についてはこちらで持って行くから始末は考えなくて良い、それと神宮寺軍曹にも事前に連絡はしているからそちらはしなくていい」

 右手にハリ様を鷲掴みにし、左手に食べかけのカツ丼の乗ったお盆を器用に持つとそのままPXを後にする。
 コメカミと鳩尾への一撃でハリ様が随分と具合を悪そうにしていましたが死んだならそれはそれで邪魔な戦力が減るので助かります。
 ですが私も仮にも同じ訓練部隊に所属する以上は影響ない訳ではありませんし、純一郎様の為にも支援を怠るつもりはないので後で少し補助してあげましょう。

 これでも前世では大財団【ウォルコット財団】を支配した王女なのですから慰めは得意な方ですよ。

 ここで色々と手助けをしておけば純一郎様の私に対する印象も良い方向に転ぶと共にBFFからの支援を手厚くすれば純一郎様は必ず恩を返すでしょう。
 それで少しでも情報を引き出し王大人が私に対する評価を上げてくだされば私も財団も暫しは安全であれるというものです。


「あの訓練兵―――ジュリアス少佐に踏まれるなんてなんて羨ましいッ!」


「しかも馴れ馴れしくッ! あぁ俺もあんな美人に踏まれてぇッ!」


 何やらオカシナ話かせ聞こえますが冷めてしまった料理の残りを食べしまいましょう。
 前世でも言えた事ですがやはり苦しい時代で食べる事が出来るだけでなく味はともかく安定して食べられる環境と言うのは大切なもの。
 それこそリンクスと言えど資金があっても”安全に食べられる”環境を作るのはとても難しい、何せ強力な毒物を盛られようものなら死んでしまいますから。
 買い物をしている最中に狙撃されてしまう事もありましたし、逆恨みによる自爆テロの危険すら一歩安全圏を出ればウヨウヨしていましたから大変でした。

 この世界の軍人と言う役職は本当に安心して食べられるので助かります。

 毒物もなければ軍内部の施設に居れば比較的安全に食べる事が出来るので……ここが随分と腑抜けた基地と言うのも後押ししている気もしますが関係ないでしょう。
 現状ではこの国には【難民開放戦線】などとふざけた大義を振りかざし軍の行動を邪魔するあの方々には手を焼かされますが、飼い慣らせてしまう大義と言うのもお笑いですけど。
 今頃ソ連がアメリカから借りた土地で行われている各国の新型機のお披露目やトライアルをしている場所で好き勝手しているでしょうから。

 出来ればインテリオルやオーメルの新型を破壊し出し抜いて貰いたい物ですね。


「馬鹿野郎ッ! やはりあの帝国の月詠中尉のあの蔑む様な視線こそ男が感じるべきものだろうッ!」


「あぁそうだッ! それに毎朝訓練している時のあの綺麗さ……あれこそ剣術の美しさだろうがッ!」


 ……この基地の男性方は皆してこんな方ばかりと言うならばぜひとも去勢して貰いたいです。
 それかそういった趣味をお持ちの女性を探して毎日そうして貰っていた所です、少々不安が大きくなってきましたが問題ないでしょう。
 むしろ食事中にそのような会話をして頂きたくない―――戦闘中ならば鼓舞の一つになるのでしょうけど今だと食事の邪魔です。

「なんか変な抗争が起きてるけどほっといて」

 抗争とは良い表現です高原=志津様。

「いや変な抗争って高原」

「男の人の”そういう”欲望って良く判らないね」   

「……ああ言うのは変態になるから注意が必要」

「いや……あれは普通にあの人達なりに話題や笑いを提供しているだけでしょう」

 唯一の男であるハリ様が消えたからか少々会話が弾みます、悪く言えばお邪魔ですし私個人としても純一郎様の手駒でなければ消したい所ですが我慢しましょう。
 女だけと言うのはやはり会話が弾みますし女性同士でしか出来ない会話もかなり多いのでやはり楽しい。
 何度も言うようですが同年代の方はおりませんでしたし、傍にいる女性は護衛か侍従なのでそういった会話には参加して下さらないので寂しい思いをしました。
 ここはそういう面でやはり楽しいです―――前世では出来なかった年相応の会話や友人関係というのを手にいれられるのは本心から嬉しいです。


「あの……ウォルコットさんは古島中佐と……そのどういう関係なんですか?」


 珠瀬様がオズオズと問いかけてくるのに呼応するかのように恋に興味持つ皆様が一斉に視線を集中させてくる。
 私に悪い虫がついたかどうか心配し排除しようとする護衛達とは違い、こう純粋に興味があるから向けられる同年代の視線と言うのはむず痒いものです。
 もし前世でも荒れた世界でなければこうして同年代の方々と恋話と共に自分のお相手を自慢すると言う苦笑したくなるような風景があったのでしょうね。

 ―――そういえば私は前世の年齢も含めると……いえ計算しないでおきましょう。

 今は皆様と同じく【十代】と言うまさに若さ全盛期なのですッ!
 そんな時期に老いに関する話題と言うのは危険です……危険すぎるのでやめましょう。

「知っての通り、私は欧州連合を支える連合財閥企業【BFF】に属する【ウォルコット財団】の後継者……特別な存在です」

「うむそれには驚かされたが、共に戦う仲間としてはその実力は頼もしい限りだ」

「御剣様、ありがとうございます……さて続きですが
 元々ウォルコット財団にはとても仲の良い二人の姉弟が後継者として、軍人としても非常に優れた人がいましたが欧州本土にて戦死
 そうして後継者を一度に失った財団は他の財団に飲み込まれる前になんとしても生き残る為に”私”を急いで造り産み落としましたが
 後継者が弱ければ財団は飲まれてしまう、その理由から私はそれこそ物心付いた時から厳しい勉学と訓練の毎日で辛い思いをしました」

 言えませんがその鍛えられた身体と体力を持って私はリンクスに改造されました。
 AMS適正が合ったのもありますが当時の情勢ではリンクスはまだ兵器としては優れていましたので、リンクスとなり成果を残す事に意味がある。
 ですがその対価としてこの身体はその日から成長を忘れてしまい死ぬその日まで大きくなる事はなくただ老化していく身体を見ているだけ。
 薬によって身体が必要以上に大きくなり合わせてある機械部品の過剰な交換と製造を防ぐ為に多用する事で結果として身体には莫大な負荷ばかりかかる。

 しかし薬を使わず身体を大きくしてしまうとそれに合わせて機械部品の調整が必要になる。

 そうなれば手術や調整の為の投与が増えてしまう。

 どちらにしろ……私には”大人”になると言う選択肢は存在などしてはいませんでした。

「1990年のそんなある日に財団は当時無名の研究者だった純一郎様とそのお父様の研究を見つけました
 既に欧州国家は他国およびイギリスへの退避を完了させ残っている残存部隊と物資を再編しながら海峡を挟みBETA進行を阻止
 今になってみればこれほどの成果を出した研究がこれまでになってまで登場しなかったのか不思議ですがソレはおいておきましょう」

「研究ってのは水素機関・光線兵器・新型OSの【三種の神器】ね、戦術機革命を行った三つの原動力にして帝国に技術特需をもたらした技術
 帝国とこの横浜基地の技術部をつなぐ図太いパイプでもありその功績はかの銀翁中将が直接後ろ盾になるほどだって聞いてるわ」

 その通りです榊様。
 しかしもっとも優れている【粒子炉】にしてコレを心臓とした【ネクスト】が表沙汰には流石になりませんか。
 仮にもいとも簡単に撃墜され大破する戦術機に核融合炉に載せると同時に重度汚染をしてしまう粒子が漏れ出るとなれば反感は確実ですから。

 ……ネクストの性能とリンクスの実力が合わされば下手な反感など抑えられそうですけど。

 劣化ウランと金属雲をドンドン作り出し、使用しておきながらG弾や核融合炉の使用を渋ると言うのはどうも矛盾している気もしますが。
 私は別にこの国出身ではないのでG弾に対する反感感情はありませんし、別に勝つために使用されると言うならば使用されて当然かと思います。
 以前見たその効力と製造コストの比例などを見ればむしろ戦略的な意味合いでは優れていると思いますが計画の仲違い状態ですから仕方ありませんね。
 むしろ巧妙に隠蔽し批判している第四計画のあの魔女が狡いだけでしょうが……それすら落とせないとは国家の諜報も腑抜けています。

「もしBETAのユーラシア占拠を許さず、この日本の本土進攻を防げていれば純一郎様も軍人としてよりも研究者としていたでしょう
 物腰もとても柔らかく幼き日に出会った私にとって日本人は”武人の国”として聞き及んでいたので、とても厳しい方々ばかりと思っていました
 初めて純一郎様にお会いした時はとても目付きが悪かったので―――情けないのですが泣き出してしまい純一郎様を困らせてしまいました」

 無論嘘ですがコレくらい捏造しておいても問題はないでしょう。
 むしろ前世でお会いした時は王大人のご指示で積極的に密着し幼い身体の魅力というモノで果敢に攻めさせて頂きました。
 自然が残された数少ないBFFの私有地での不慣れで指を怪我しながら作った茶菓子と合成でしたが紅茶の優雅なティータイム。
 平和について積極的に語るあの時の姿は今も忘れはしません……そしてクレイドルの特権階級に対するあの時だけの苛立ちに満ちたあの顔も。


『あれに乗っているのは俺達の生き死を賭博代わりにするような連中と自分達が誰に支えられるのかも忘れた連中の幼児退行の巣穴だよ
 ……その癖こっちがちょっとでも何かしようものなら平然と仕掛けてくる―――俺の大切な人達はそうして殺されたんだ
 アナトリア失陥・リンクス戦争・そして今日に至るまでの戦争全てが連中の自業自得でされているなんて馬鹿馬鹿しいじゃないか?』


 後日知りましたが私にお会いする前日に……いえ、それを企業側の私が語る必要はありません。
 ただもし当時の私がもっと純一郎様に恋していたなら邪魔な存在が消えてせいせいしたと喜んでいたでしょうけど、あの時は本当に甘かったですね。
 むしろ企業を物怖じもせず侮辱するは、訳の判らない事を平然と言う平和主義者として奇怪な目で見ていましたから本当に甘い限りでした。

「リリウム泣けるのッ!? 僕初めて知ったよ」

「失礼ですね鎧衣様……私とてこの鋼鉄の美肌仮面を最初から持っていた訳ではございませんッ!
 当時6・7歳の私にとって純一郎様の強面は非常に恐ろしくッ! それこそ東洋の鬼の化身かと思ったほどですッ!」

 苛立ちに満ちたあの顔は間違ってはないかと。

「とっともかく続きばッ! 続きッ!」

「えっとそれは続きを話して欲しいと言う事でよろしいのですか築地様?」

「そうそう、ごめんだべさ……緊張したり興奮すると方言が出てだめださ」

 今も治せていませんが良しとしましょう。
 しかし築地=多恵様の方言は何処のものなんでしょうか?
 今度純一郎様に尋ねてみましょう、対話ではとても大切な事です……日本語は世界屈指の難しさですから。


「泣き出してしまった私を宥めようとする純一郎様のお姿を今になって思い直すと中々貴重なものと思えます
 王大人や護衛の方々に対して賢明に弁解する姿を見ると目付きがとても悪く頑固そうなお方には見えませんでしたから
 そしてグズッている私の事など偶然持っていた飴玉一つで泣き止め、泣いてるのも知らないとばかりに独り言のように愚痴り始めたのです」


 さてどう嘘をつきましょうか?
 皆様とても真剣に私の話を聞いていますし、下手な嘘は妙に鋭い鎧衣様もおられるので通じないでしょうし……内容は後で合わせましょう。
 
「戦場の地獄によっていとも簡単に死んでいく当時の仲間に対する評価や謝ったり言っておきたかった後悔
 それでも消えない日常の一風景についてや中々に毒舌な方でもあるのでラジオドラマに対する酷評
 国連の当時の連携体制に関する事も言っておりましたし、現在のオルカ隊の方々との出会いについても語りましてね」

「ねぇ……リリウムはそれ聞いてて楽しかったの?」

「勉強にはなりました……ですが幼い少女に話す内容でなかった事は確かだと」

 茜様の言葉に皆様苦笑してしまいました。
 ですが”実在しない会話”を相手と打ち合わせせずに作り出すのはとても危険なので訂正し易い範囲にする必要があります。
 そもそもいかに純一郎様が国連軍と言えど日本からイギリスまで来ると言うのは難しいですし、当時の企業の限界など知れてます。
 海底でヒソヒソと策謀を張り巡らすオーメルや堂々と協調をしようとしないアメリカの一派など邪魔な勢力は多いので。

 あまり無茶な話は純一郎様の立場を危うくしかねないので、過去作りも難しいですね。

 私と純一郎様が口裏を合わせれば真実に変えられてしまう嘘だとしても、その手間と言うのは面倒なものです。


「じゃあさ、何でリリウムはあの古島中佐の事が好きになったの?」


 愚問ですね晴子様?


「純一郎様の後姿とでも言いましょうか? そう、科学者としても軍人としても”重さ”を知る殿方の背中とは魅力的なものです」


 前世でのあの姿と言葉は忘れません。


『これで良かったんだ、星空への揺り篭は確かに旅立ったぞ……アンタの償いたかった罪も全部背負ってな”セレン=スミカ”』


 宇宙へと飛び立つクレイドルの姿を見上げながらも懸命に涙をこえらるその姿が見せていたあの背中。
 平和な世界を作り出す為に奔走し、企業が利用させていただいた志を果たして何処か悲しそうに緑色の雪に身体を許していたあの姿を。
 企業(世界)が勝手に決めた”役目”を遂行したあの純一郎様の姿を見た瞬間から、何故か私は支えたいと……守りたいと思ったのですから。


「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ……」」」」」」」」」」


 皆様にも良い出会いがある事を。

 少なくともハリ様のような策謀に満ちた出会いではなく、純粋に美しい出会いである事を願います。


「それよりも話すのに夢中で食事が進んでいませんでしたね、午後の座学に間に合うとよろしいのですが」


 その言葉を皮切りに皆様一心に食べ始めましたので、私も話を終えました。
 あとで純一郎様と話を合わせておかねばなりませんしソレに合わせて再び王大人からのお言葉を伝えねばなりません。
 忙しい限りですが……出来るなら―――この楽しい日々が永遠であって欲しいと思うのはやはり無理なのでしょう。

 こんなにも女の子を楽しめているのに。

 嘘偽りのない……年相応で対等な友人が出来るのに。

 望めないのに望もうと言うのは、やはり私が恵まれているからなのでしょうね。
 


 視点:???

 統合企業:BFF

 【Bernard and Felix Foundation】

 の頭文字を取り名付けられた欧州戦線の軍事産業を一手に支配する大企業であり、その原動力は複数の財団から構築される。
 ウォルコット・王・バーナードなどの複数の財団保有者とその代表者による極端な集権主義を持ちながらも機能する財団企業。
 国家解体戦争時には【女帝:メアリー=シェリー】を保有し、リンクスである彼女の狙撃姿勢とその強さがこの企業の兵器方針を決定付け全企業最高の狙撃とサポートを生み出した。
 堅牢強固なイージス艦隊と女帝を保有する事で欧州全域を支配し二桁もの大艦隊を保有する大企業として君臨していたこの企業はアナトリアの傭兵一人により首脳陣を壊滅させられた。
 たった一機のネクストによる敵首脳陣への直接攻撃により、大部隊を迎撃しきれる筈だった艦隊は同士討ちと誤射により機能を低下させその合間に首脳陣を乗せた艦は沈められたのだ。
 主力たるリンクスも次々と撃破され、生き残ったリンクスは決して戦闘には向かない人間、だが崩壊の危機を迎えながらもGAアメリカの支援により復興に成功したタフネスな企業でもある。
 優れた人間による集権によって末端などの勝手な行動を赦さず絶対王政の如く企業体制を構築することが、その驚異的な復活を実現させたと言える。


「ふんリリウムめ……随分と楽しそうにしている」


 リンクス戦争後に重役であり王財団を保有する当主:王小龍(中国語で”大人”はおおまかに先生や尊敬する人を意味する)に彼女はその才能を見出された。

 BFFを支えるウォルコット財団の後継者は全てアナトリアの傭兵との戦いによって戦死し、当時の当主は急ぎ新しい子供を産み落とさせた。
 そして生まれた女子の一人こそ『女帝メアリーの比ではない』と言わしめ、カラードランク.2に就く【王女:リリウム=ウォルコット】となる。
 厳しい英才教育と共に神が幾つもの才能などを与えた王女はメキメキと頭角を現し、狙撃の女帝が残した技術の全てを文字通り”宿して”戦場に降り立った。
 そんな彼女は彼女を教育した王小龍の方針により『誰かの僚機であり、誰かが僚機がいる』事が大前提であり、彼女の出撃には必ず護衛のリンクス達が存在している。
 だがそれでも王女は王女としての実力を遺憾なく見せつけ、【白百合の女王】として君臨した事すらあるほどの実力者として認められた。

「嬉しそうですね王大人」

「ふん……私に恥をかかさないか心配しているだけだ」

 妙齢の老人:王小龍は執務室の硬い椅子に腰掛け、独自のルートを介してリリウムから送られる彼女の日記と横浜基地の彼女が調べられる限り調べた詳細情報。
 基地情報には既に目を通しリリウムから送られる日本と言う国の国内報道による情勢確認のレポートなど諜報活動の確認に目を通しながら日記を読んでいる。
 策謀面で忙しい生活を送る王小龍はその生活故に常に小難しい顔をしながら生活しているが、日記の一ページを読むたびに何処か楽しそうに笑みを零していた。
 そんな上司の姿が嬉しいのか、合成モノの紅茶を入れた秘書の女性は笑みを隠さずに紅茶と共に差し出す。

 様々な書類が山積みとなっている机の一角に置かれた紅茶を一気に一飲みしてしまう。

 合成モノの味を嫌う訳ではないが、一度に飲まれてしまった紅茶に少々不機嫌そうな秘書は再び入れなおし机に丁寧に置く。

(XG-70TB・TDの改良型二機極東搬入は良いが……オルタネイティブ5独断強行派と極東戦線に対するアメリカの発言力を望む者達が邪魔だな
 GAめデカイ癖に手こずっているな、極東に何かしようものならば癪だがコジマも黙っていないと言う状況で一派を抑えられないとは情けない
 だが帝国も撃たれた恨みをいつまでも……こちらも少々黙らせる必要があるか、しかし問題は……いや奴ならばたとえ4だろうと賛同する方か
 アラスカの新型戦術機計画でも極東はコジマのおかげで堂々とし始めているが国家の内実など程度が知れる、ナビカヌなら早めに始末するのが良いか)

 リリウムの日記を読み解き・入れられた紅茶を一口飲み、外見こそ落ち着いているように見せている。
 だがその内実はBFFの一角を束ね策謀面でも重要な役割を担う長としての仕事を確実にこなしていた。
 古島=純一郎の戦術機革命によって産業・資源面で手痛い一撃を貰っているBFFにとってその遅れを取り戻すのは至難の業だった。

 元々欧州戦線は後退し切った欧州諸国の集合体であり、一枚岩とは呼び辛い状態。

 民族・宗教・歴史などの様々な要因から団結しきれているとは言えず、欧州連合を支える大企業BFFも対処に追われていて出遅れは必須。
 そこに更に戦術機革命により戦術面では遅れ・重要な英雄の一人を奪取され他の英雄や兵士の苦情対処に追われるなど散々であった。

(日本国内での内乱誘導により介入と対人実戦データの回収を目論むのは勝手だがそれで古島が非協力を選択すれば完全なネクストは完成せぬ
 現状はデータこそあるが効率が悪すぎる……もっと効率の良いジェネレーターに粒子炉開発を急がねばならぬが予算が足りん
 だが水素貯蔵に関する失敗は良い交渉材料になった、あとはそのカードを何処でどう切り・確実に有益な一撃に繋げるか……か
 しかし魔女めチョロチョロとうざったらしい―――3がなければ素人同然が策謀に乗り込むなど舐められたものだが奴の女に手は出せん
 アスピナもオルカ贔屓と随分と好き勝手しているが成果を公開し提出する面があるだけマシだがよもやCUBEが所長とはぬかった)

 残っている紅茶を飲み干す。
 思考の海を泳ぎながら周囲などの現状に苛立つがリリウムの日記を読み解きその苛立ちをかき消していく。
 メアリーの頃より幾多ものリンクスを見出しては徹底的に育て上げてきた彼にとってリリウムは弟子であり孫娘のような存在だった。
 だがリリウムの不幸などには関心は示さずただAMS適正があったから育て上げただけであり、一方的な愛情であったと言える。

 しかしリリウムもメアリーもそんな事しかしない自分に忠誠と尊敬を持った。

 少しだけだが心は許した。
 そして年頃らしい事を何一つ出来なかったリリウムの年頃らしい友人関係などを見て、確かに嬉しいと思う自分を王小龍は自覚している。
 心の何処かでそんな生活を奪ったと……リリウムの先代をサイレント・アバランチ防衛の為に出撃させ死なせた悔いが残っているのかも知れない。


(陰謀屋には要らぬくだらん感情だ)


 互いに老兵であり若き日に戦った宿敵から陰謀屋と呼ばれ、代わりに自分は宿敵を時代遅れの老兵と蔑む。
 最前線で生きる宿敵とは対極な位置に立つ王小龍は自分がそんな感情を持つ訳がないと切り捨てる。
 陰謀屋は何処までも賢しく・狡く・冷徹で・卑怯で誰よりも自分を騙して往かねばならないのだ……甘えなどは許されない。

 前世より長きに渡り企業の諜報を担い、BFFに勤める社員と支配地域にすむ全ての人々の命を背負う”王”なのだから。

 何処かの自動人形とは違う。

 策謀と犠牲の為に自分の身を犠牲にするなど許されない。
 そんな事をすればどれだけの人々に負担を強いられるか判らない以上は”王”は無碍に命をチップに出来ないのだ。
 だから切り捨てる時にはたとえそれが何であろうと切り捨ててでも生きなければならない責務が自分にはあるのだから。

「……大人ッ! 王大人ッ!」

「……すまん少し考え事をしていた」

「いくら心配だからと妄想にふけないでください、そろそろお時間です」

 秘書の言葉に時計を見直し、王小龍は身だしなみを整える。

 陰謀屋はかつて戦う力を求めた。
 狙撃主としては優れてもリンクスとしては優れる事が出来なかったが、代わりに才能ある人間を見つけ出す眼と直感に育て上げられる才能があった。
 故に第一線を退き策謀の才能に加えて持ち合わせた育成の才能を持って幾多もの優れたリンクスや企業の人材を作り上げて来た。

 ”王”の名に恥じぬ為に。

 その名と役職の為に幾人もの教え子を自らの手で結果的に殺め、自ら前線に出ても一流の前では霞む実力しか持ち合わせない。
 戦場に不似合いな陰謀屋は……誰よりも生きる事に縛られ生きる事を渇望し、そして今日もまた企業の為に働く。


「難民開放戦線【リバティロード(我等が掴み取る自由なる道)隊】隊長:ウィス」


「同じく【フリーダムスカイ(我等が与える自由なる大空)隊】のイェーイ」


 極上の笑みを浮かべる王小龍は右手を差し出す。


「交渉を飲んでくれて大変喜ばしい限りだ―――ではこの国にてよろしく頼む」


 陰謀屋は利用出来るならば誰であろうと利用する。


「了解したぜクライアント、同胞達には俺達が伸し上がる為の犠牲になって貰う」


「その後にアラスカの部隊に合流しそちらの作戦を開始する」


 欲深き者達はほくそ笑む。
 清らかさなど何処にもない人間の戦争が水面下で確かに繰り広げられている。

 世界は主役達だけでは動かない。

 世界が広い限り多くの者達の影響がある。

 ただ先駆者・魔女・支配者の知らぬ所で世界は確実に改変を迎えていくだけ。
 世界がどこまでも広い限り錆付いた主役の歯車が回らぬならば、脇役の歯車を回すだけなのだから。

 ただそれが映るか映らないかの差だけ。


□□□

 はい帰ってきました博打です

 進級許可もおりましたし、バイトを求めて少々出歩いている日々です
 不景気なので教職・学芸員を初めとして資格確保に余念がなく単位を取ろうと必死です

 まぁもっともそれが三・四ヶ月書けなかった理由にはなりませんが……

 この小説を書いている友人からも『そういえば更新してなかったなッ!?』と忘れられていましたし
 そして書けたこの話はどうも自信がないのに加えてリリウムが黒いし皆を見下し気味と白百合が汚れてしまう
 おまけに王大人をどうも良い人っぽく書いてしまうは……どうも執筆から離れていた所為で実力低下がいさめません

 なによりッ!

 築地=多恵の方言が判りません! 東北弁なのは判るのですがじゃあ東北の何処? となると本当に掴めません
 それに東北弁の詳細な奴も見つからず口調に苦労させられます……と言うかマブラブの皆は何県出身?
 いや横浜なんでしょうけど――――――それだと口調調整に差し支えますし、同じ口調でキャラ区別させる実力があるとは思えませんし
 これはひどい様のように「~~~~ッ!」←誰々 がいかに判り易い表現か判りました……他の名作みたいに判らせられれば良いのですけど

 ともかく言い訳だらけになってしまいましたが、実力低下しながら外伝リリウム日記完成です

 感想は明日に必ず書き上げますので、書いてくださった方々ッ! どうかお待ちくださいッ!
 色々と本当に申し訳ございませんッ!

 ご指摘により誤字修正


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