大韓航空機爆破事件の実行犯である北朝鮮の元工作員、金賢姫元死刑囚の来日には「入国」と「捜査」の二つの高いハードルがあるとされてきた。だが、いずれも政府の政治判断でクリアされる展開になった。
金元死刑囚は死者115人を出した大量殺人テロ事件の実行犯であり、出入国管理法5条が定める上陸拒否事由にあたる。そのため、中井洽拉致問題担当相が2月、千葉景子法相に特例で招致したい意向を打診。田口八重子さんに日本語教育を受けたとされる金元死刑囚の話を聞く機会を得られることは、横田めぐみさんの両親ら拉致被害者の家族にもメリットが大きいなどとして、千葉法相は上陸拒否をしない判断をした。
もう一つの来日の障害は、87年の爆破事件当時、金元死刑囚が「蜂谷真由美」名義の偽造旅券を所持していたことから、偽造公文書行使の容疑があることだった。しかも、金元死刑囚は海外にいたため、時効は成立していない。複数の捜査幹部は「警視庁が立件の可能性を捨てているわけではない。ただ、死刑判決を受け、事件から20年以上が経過している。可罰性の観点からどうなのかという議論はある」と話す。
こうした現状を踏まえ、中井担当相は警察庁に対し、入国後も支障がない対応を要請。警察当局もほぼ同意しており、拉致事件についての情報収集も含め、滞在中に金元死刑囚から事情を聴くことはないとみられる。【千代崎聖史】
毎日新聞 2010年7月20日 11時54分(最終更新 7月20日 14時04分)