現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2010年7月21日(水)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

来年度予算―財政への信認を取り戻せ

政権に期待しつつも冷静に評価しようとする国民と、財政の将来を危ぶむ市場。双方を納得させるために重い課題を担う菅政権の真価が、これから問われようとしている。年末にかけてつ[記事全文]

生保接待攻勢―弊風断つ責任、政治にも

恥の上塗りではないか。生命保険業界の大手が政界への接待や献金、陳情をエスカレートさせていた。一部には保険金の不払い問題で追及を和らげようとの狙いもうかがえるというのだから、あきれてしまう。[記事全文]

来年度予算―財政への信認を取り戻せ

 政権に期待しつつも冷静に評価しようとする国民と、財政の将来を危ぶむ市場。双方を納得させるために重い課題を担う菅政権の真価が、これから問われようとしている。

 年末にかけてつくる、来年度の政府予算のことである。

 財務省がきのう示した概算要求基準(シーリング)の「骨子」によると、来年度予算は歳出の規模など枠組みは今年度予算を踏襲する。だが、この実現は難問だらけで、大胆な工夫をしなければ達成はおぼつかない。

 民主党政権が初めて編成した今年度予算は、世界不況の影響で税収が極端に落ち込み、借金の方が上回った。「骨子」は来年度もその大枠を踏襲するとし、借金の元利払いを除く歳出を71兆円以下に、新たな借金は44兆円以下に抑える方針だ。

 すぐに大型増税に踏み切れる情勢ではない。回復途上にある景気を考えれば、歳出総額の大幅カットも難しい。決して望ましくはないが、もう1年、税収を上回る借金に頼らざるを得ないという判断なのだろう。

 だが、その借金44兆円枠でさえ、容易には達成できない。特別会計の積立金など、いわゆる「埋蔵金」の多くは使い果たした感がある。一方、歳出は高齢化による社会保障費の自然増が1.3兆円も見込まれる。

 そんな状況下で、新成長戦略に沿って医療、介護、環境、観光など経済成長や雇用拡大が期待できる分野に特別枠を設け、予算を重点配分することを検討するという。

 重点配分を実現するには、既存の予算をかなり削るしかない。そのためには一律削減方式でなく、省庁の枠組みを超えて大胆に予算を配分し直す作業が必要となる。

 ところが、昨年末に公共事業費を大幅に削った前原誠司国土交通相をはじめ、閣僚から削減に反発する声が出ている。調整には、菅直人首相が強い指導力を発揮しなければならない。

 その大前提として、高速道路の無料化や農家戸別所得補償の本格実施、子ども手当の満額支給など、民主党のマニフェスト(政権公約)の一部をいったん白紙に戻す必要がある。

 予算編成と並行して、消費税を軸とする税制抜本改革について本格的な議論を始めることも欠かせない。巨額の借金頼みという異常な予算編成は、いつまでも続けられるものではない。将来の財政の見通しが信頼に足るという根拠を示さない限り、いつの日か国債暴落の危機がやってくる。

 ユーロ危機や米国の景気変調など、世界経済はまだ不安定だ。不測の危機にも耐えられるよう、財政の体力を可能な限り回復しておきたい。「強い財政」につながる予算づくりこそ、政権への信頼をかけた正念場である。

検索フォーム

生保接待攻勢―弊風断つ責任、政治にも

 恥の上塗りではないか。生命保険業界の大手が政界への接待や献金、陳情をエスカレートさせていた。一部には保険金の不払い問題で追及を和らげようとの狙いもうかがえるというのだから、あきれてしまう。

 古色蒼然(こしょくそうぜん)とした業界体質は即刻改め、サービス向上など前向きな競争にエネルギーを傾注するべきだ。

 不払い問題は2005年2月、明治安田生命でまず表面化した。契約者が加入時に病歴などを十分に明かさなかった「告知義務違反」などを理由に保険金を払わなかった。収益優先のための悪質な払い渋りで、金融庁から業務停止命令を受けた。

 不払いは他の生保でも広く見られたため、金融庁が保険業法に基づく命令を出し、01〜05年度の全契約を調べさせた。その結果、37社で135万件、総額973億円の不払いが判明。金融庁は大手など国内8社と外資系2社に08年7月、業務改善命令を出した。

 不払いの被害が拡大した背景には、生保業界の身勝手な論理もあった。契約者側が保険金支払いの請求を忘れていたようなケースについては「支払う必要はないし、不払いにも当たらない」との姿勢だった。

 このため「契約者保護の観点から問題」とする金融庁と鋭く対立。結果的に生保側が「不払い」を認め、件数と金額が大きく膨らんだ。

 今回露見した接待攻勢は、このような金融庁との応酬と並行して展開された。調査命令から行政処分までの間は特に力が入っていたようだ。

 生命保険協会の会長会社だった第一生命をはじめ、日本、明治安田、住友の大手生保4社は、自民党ばかりでなく野党だった民主党の議員にも接待や献金をしていた。処分を回避するため、あるいは国会での参考人質疑を軽く済ませるために、一部の議員に働きかけていた疑いも出ている。

 金融業界は規制や許認可が多く、昔から政官界への接待や献金を周到に使って業界の利益を確保してきた。銀行業界では98年に旧大蔵省の検査官汚職が摘発され、その実態は「接待の海」とすら呼ばれた。

 生保業界も相当な接待を重ねていたといわれるが、批判の矢面に立たされることは免れてきた。そんな経緯も弊風を生き延びさせたようだ。このような土壌を温存しているようでは、生保協会の存在自体に疑念を抱かれても仕方ないのではあるまいか。

 疑問は政界にも投げかけられている。生保業界の攻勢を受け、議員たちは質問や委員会運営で手心を加えたことはなかったのか。

 自民党はもちろん、民主党も現職の財務副大臣を含む該当者がいるとされる以上、国会の場などを通じて説明と真相解明に努める責任がある。

検索フォーム

PR情報