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きょうの社説 2010年7月21日
◎国家戦略局縮小 「政治主導」の看板どうなる
菅直人首相は、民主党が掲げてきた「政治主導」の看板を下ろすつもりだろうか。国家
戦略室の「局」格上げをやめ、現行の組織のままで首相のブレーン機能に特化し、予算編成や税制改正の基本方針を協議する新組織を設置するという。菅首相は、政治主導で予算を編成する方針は変わらないと言うが、2011年度の予算編成は事実上、財務省主導で決まっていくのだろう。民主党が野党時代にさんざん批判してきたシーリング(概算要求基準)を事実上復活させたのも、「官主導」への回帰の一環ではないのか、と疑いたくもなる。参院選での大敗で、政治主導確立法案の成立が絶望的になり、国家戦略局の設立が難し くなった事情は理解できる。だが、衆参のねじれ現象で、困難をきたすのは、何も政治主導確立法案の成立だけではない。民主党は、政治主導でなければ、縦割りの省益を打破した予算配分や思い切った予算の増額、削減ができないと主張してきた。昨年の衆院選で、多くの国民はその言葉に共感し、政権交代を実現させたのではなかったか。 鳩山前政権は、初代担当相を当時の菅副総理に兼務させ、2代目には現在、官房長官を 務める仙谷由人氏を起用した。「重量級」のエースを配置して、財務省の権益に切り込む狙いだったはずだが、菅首相は今年1月に財務相に転じて以降、こともあろうに財務省のよき理解者になった感がある。 消費税にしても、今回の国家戦略局構想の役割縮小にしても、国民へのまともな説明が ないのは、どうしたことか。手のひらを返すような政策変更には、あ然とするほかない。菅首相は、唐突な消費税増税が有権者の反発を浴びたことをもう忘れたのだろうか。 国家戦略局に代わる新たな組織では、仙谷官房長官や野田佳彦財務相、玄葉光一郎政調 会長らが予算について協議し、調整を行うという。官房長官や財務相、党政調会長らが協議し、予算の大枠を決めていく手法は、かつての自民党政権のやり方と同じである。実質的に財務省が主導する予算編成になるのだとしたら、国民の期待を裏切ることになりかねない。
◎検察が無罪論告 これでは冤罪なくならぬ
またしても、ずさんな捜査が浮き彫りになった。金沢地裁で、検察が異例の無罪論告を
行った窃盗事件の公判である。警察などによると、盗まれたキャッシュカードでコンビニ店のATMから現金が引き出 された防犯カメラの映像が被告の男性と酷似していた。カメラの男について、本人も任意調べの段階で「映像は自分」と認めたため、逮捕に踏み切ったという。だが、男性は窃盗容疑を一貫して否認し、カードの入手方法や引き出された100万円の使途も明らかにならなかった。公判でカメラの映像は別人と鑑定され、検察は立件断念に追い込まれた。 取り調べ段階では、その場の雰囲気で事実でないことを供述するケースがある。相手に 迎合しやすい性格の人もいる。自供があっても過大視せず、内容が真実か否か、他の客観証拠にも照らして慎重に吟味する。それが富山県の氷見冤罪事件の教訓だったはずだ。 再審無罪となった足利事件では、警察がDNA鑑定の結果を突きつけ、それを基に自白 を引き出した経緯が明らかになった。今回も防犯カメラの映像があり、それに沿って供述を引き出したという点では似たような構図であり、過去の冤罪の教訓は生かされなかったことになる。 公判中に男性は釈放されたが、拘置期間は166日に及んだ。検察は論告のなかで謝罪 し、警察も男性に直接謝ったが、こんな光景はいつまで繰り返されるのだろうか。県警と金沢地検は問題点を徹底的に洗い出し、検証結果や再発防止策を公表してもらいたい。 公判の最終弁論で弁護人も指摘したように、本人が否認を続けていれば、起訴前にカメ ラ映像を鑑定する選択肢もあっただろう。同一人物とまでは断定できないカメラ映像を立証の柱に据えたことに問題があったのは明らかである。 いったん事件の構図を描けば容易に軌道修正できない「見込み捜査」の落とし穴は常に 捜査する側に潜んでいる。その誤りをただし、チェック機能を働かせるのが、強大な起訴権限を有する検察の大事な役割である。
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