裁判で水俣病と判断されたのに行政が患者として認めないのは不当だと女性が訴えた裁判で、大阪地方裁判所は「国の認定基準は医学的な正当性を裏付ける証拠がない」と指摘し、女性を水俣病と認める判決を言い渡しました。未認定患者の救済策が始まるなかで、認定基準を否定する司法判断が出たことで、救済の流れに影響を与えることも予想されます。
大阪・豊中市の84歳の女性は、以前住んでいた熊本県から水俣病と認定されなかったため、未認定患者の集団訴訟に加わり、平成16年に最高裁判所で勝訴して、国と熊本県に賠償を命じた判決が確定しました。しかしその後も、水俣病と認めない行政の判断は覆らず、女性は「裁判所が国の認定基準より幅広く救済したのに、基準を変えないのは不当だ」として提訴し、国と熊本県に水俣病の認定を求めていました。判決で大阪地方裁判所の山田明裁判長は、手足の感覚障害や運動失調など複数の症状の組み合わせを必要とする国の認定基準について、「医学的な正当性を裏付ける的確な証拠はなく基準を満たさない場合でも、総合的に考慮して水俣病と認められるケースがある」と指摘しました。そのうえで「女性の症状は手足の感覚障害だけだが、有機水銀の摂取状況や、ほかに原因となる病気がないことなどから水俣病と認められる」として、女性を患者として認定するよう命じました。裁判所が、水俣病の認定基準について明確に否定したのは異例です。水俣病の未認定患者をめぐっては、ことし3月、熊本地裁の集団訴訟で1人当たり、210万円の一時金などを支給する和解案に合意し、裁判を起こしていない人についても、ほぼ同じ内容の国の救済策がまとまって、5月から申請の受け付けが始まっています。この判決によって認定を求める人が今後増え、未認定患者の救済の動きに影響を与えることも予想されます。