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広がる大地、憂鬱な灰色に覆われた空。
俺は三人の追手に囲まれていた。
連中はそれぞれ、各々の【能域限界】を使用するのに適した媒体を手にしている。
ざっと見て、硝子、小型スピーカー、ただの棍棒か。
硝子と小型スピーカーを持っている奴の能域(以下略)は破砕系、スピーカーは拡大系だろうか。
棍棒は……実際にやりあって確かめるしかないな。
「お前ら、どこまでもしつこいんだよ!!」
重心を低く、懐に隠しもったナイフを両手をクロスさせて構え、三人に対し突撃を掛ける。
「貴様が我らの領域に攻勢をかけたのが原因だろうがっ」
「弐地、深息っ。裏を取れ!」
「御意!」「おう!」
一人が視界のうちに残り、二人は両脇へと走った。
俺はそんなことは気にせず、目の前の一人へと能域を発動する。
(後ろだっ!!)
【意思伝達】
俺の能域だ。
簡単に言えば、ただのテレパシーであり、範囲は半径一キロ、戦闘においては不意打ちにしか使えないクズ能域。
俺の能域の影響を受けたらしいフードで全身を覆い隠した追手は、なんだと!なんて言って後ろを振り返った。
隙あり、俺はナイフを追手の喉へと突き刺そうとする。
バリンッ!
背中で硝子の割れる音が響いた。
グサグサと何かが突き刺さる。
くそ、相手は遠距離か。
痛みを無視して、そのままナイフを伸ばす。
スッ
喉を狙ったナイフは、追手のわき腹を裂いた。
喉を狙ったってのに、どういうことだ。
追手は、俺の上空一メートルの位置を【跳んで】いた
なるほど、多段ジャンプ―――【二段跳躍】か。
とりあえず、中々傷は深い。
二段跳躍から着地した追手はその場にうずくまった。
「こいつ、頭の中に話しかけてきやがる!注意しろ!」
「大丈夫か比核!」
「くそ、もう一発」
遠くにいる遠距離野郎は、硝子をフリスビーのように投げつけてきた。
背中の突き刺すような痛みは止まらないどころか、ひどくなってきているが、飛んでくる硝子を避ける程度はできる。
俺は寸前で避けようと――いや、破砕系かっ!
俺の斜め後ろに来たあたりで、硝子は爆発した。
細かい硝子片が全身に襲いかかる。
「くそ」
目を守るために顔を両腕でガードする。
グサグサと、全身を蜂に刺されるようだ。
腕はだらんとぶら下がってしまった。
一人は動けないようにしたが、それが限界か、いや、まだだ!
三人目の追手は、スピーカーに向かって息を吸い、何かを呟いた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――――うあ、意識が飛ぶ。
【音量増幅】
おそらく、スピーカーなどの媒体を通して音量をとてつもなく大きくする能域か。
腕をぎゅっと握りしめ、硝子が突く痛みで意識を絶たないようにふんばる。
「うらあああああああああああああああああっ!!!!!!」
二本のうちのナイフを無理やりスピーカーに向かってぶん投げた。
俺のナイフは、ナイフなんて言ってはいるが、包丁のような形をした重量の大きいものだ。
投げたナイフは、叫び続ける追手のスピーカーへと直撃。
能域を通している媒体であるスピーカーは直ちに能域に耐えることができなくなり爆砕した。
「目、目がああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」
追手は目を手で覆ってのたうちまわる。
最後の一人。
「二人をよくもおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
まずい、硝子が刺さってるのに腕を振り回したせいで、右腕の感覚はなくなった。
寝起きの麻痺状態みたいだ。
しかし、まだ二本の足と左腕が残っている。
「くらえっ!」
また、追手はフリスビーを投げる要領で硝子を放った。
「もう一発だああああああああああああああああああっ!!!!!!」
俺は最後の一本のナイフを硝子、そして、一直線上の追手へと、ぶん、投げた。
バリンッ
硝子を突き破ったナイフはグルグルと読めない軌道へと変わり、男は避けようとして、そのナイフによって喉を貫かれた。
「グ……ヒューはー」
俺は目を背けた。
両腕はもう、ぶら下がるだけだ。
まだ唯一の無事な肉体は足だけ、か。
「ここから、一番近いコロニーは、三キロ……か」
「貴様……」
振りかえると、初めに俺がナイフでわき腹を裂いた追手が、身体を地面に横たえながら睨みつけていた。
「な、なんだ……よ」
「……ただで済むと、思うなよ、お前、達が、したことは、我らへ対する宣戦布告として受け、取る、いいか、よく覚えておけ、我らはお前達に、対して、報復すると、な」
「は、はは、そりゃ結構だ。じゃあ、またな、次はまた戦場で会おう」
痛みに歪みそうになった顔を見せないように、俺は走り出した。
始まってしまったのだ。
抗争が、戦闘に特化した能域使い達による戦いの火蓋が、奇しくも、俺とその追手のとの一言二言の言葉のやり取りによって。
誰が責任を取るのだろうか、いや、これは俺が背負うべき宿命だ。
俺は、走る。
ただ、走る。
繰り返す、抗争の火蓋が切って落とされたのだ。
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