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[20423] 「能域限界」 【異能物】
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:64f947a3
Date: 2010/07/19 21:16
 どうも、はじめまして。
 内容については、タイトル通りです。
 グロ?が少しあるので注意してください。
 反応が良ければ、週1で5000字のペースで更新しようと思います。
 では、どうぞ。



[20423] 「能域:意思伝達」
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:64f947a3
Date: 2010/07/18 23:48
 



 ◆◆◆
 



 広がる大地、憂鬱な灰色に覆われた空。
 俺は三人の追手に囲まれていた。
 連中はそれぞれ、各々の【能域限界】を使用するのに適した媒体を手にしている。
 ざっと見て、硝子、小型スピーカー、ただの棍棒か。
 硝子と小型スピーカーを持っている奴の能域(以下略)は破砕系、スピーカーは拡大系だろうか。
 棍棒は……実際にやりあって確かめるしかないな。

 「お前ら、どこまでもしつこいんだよ!!」

 重心を低く、懐に隠しもったナイフを両手をクロスさせて構え、三人に対し突撃を掛ける。

 「貴様が我らの領域に攻勢をかけたのが原因だろうがっ」

 「弐地、深息っ。裏を取れ!」

 「御意!」「おう!」

 一人が視界のうちに残り、二人は両脇へと走った。
 俺はそんなことは気にせず、目の前の一人へと能域を発動する。

 (後ろだっ!!)

 【意思伝達】
 俺の能域だ。
 簡単に言えば、ただのテレパシーであり、範囲は半径一キロ、戦闘においては不意打ちにしか使えないクズ能域。
 俺の能域の影響を受けたらしいフードで全身を覆い隠した追手は、なんだと!なんて言って後ろを振り返った。
 隙あり、俺はナイフを追手の喉へと突き刺そうとする。

 バリンッ!

 背中で硝子の割れる音が響いた。
 グサグサと何かが突き刺さる。
 くそ、相手は遠距離か。
 痛みを無視して、そのままナイフを伸ばす。
 スッ
 喉を狙ったナイフは、追手のわき腹を裂いた。
 喉を狙ったってのに、どういうことだ。
 追手は、俺の上空一メートルの位置を【跳んで】いた
 なるほど、多段ジャンプ―――【二段跳躍】か。
 とりあえず、中々傷は深い。
 二段跳躍から着地した追手はその場にうずくまった。

 「こいつ、頭の中に話しかけてきやがる!注意しろ!」

 「大丈夫か比核!」

 「くそ、もう一発」

 遠くにいる遠距離野郎は、硝子をフリスビーのように投げつけてきた。
 背中の突き刺すような痛みは止まらないどころか、ひどくなってきているが、飛んでくる硝子を避ける程度はできる。
 俺は寸前で避けようと――いや、破砕系かっ!
 俺の斜め後ろに来たあたりで、硝子は爆発した。
 細かい硝子片が全身に襲いかかる。

 「くそ」

 目を守るために顔を両腕でガードする。
 グサグサと、全身を蜂に刺されるようだ。
 腕はだらんとぶら下がってしまった。
 一人は動けないようにしたが、それが限界か、いや、まだだ!
 三人目の追手は、スピーカーに向かって息を吸い、何かを呟いた。

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ――――うあ、意識が飛ぶ。
 【音量増幅】
 おそらく、スピーカーなどの媒体を通して音量をとてつもなく大きくする能域か。
 腕をぎゅっと握りしめ、硝子が突く痛みで意識を絶たないようにふんばる。

 「うらあああああああああああああああああっ!!!!!!」

 二本のうちのナイフを無理やりスピーカーに向かってぶん投げた。
 俺のナイフは、ナイフなんて言ってはいるが、包丁のような形をした重量の大きいものだ。
 投げたナイフは、叫び続ける追手のスピーカーへと直撃。
 能域を通している媒体であるスピーカーは直ちに能域に耐えることができなくなり爆砕した。

 「目、目がああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」

 追手は目を手で覆ってのたうちまわる。
 最後の一人。

 「二人をよくもおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」

 まずい、硝子が刺さってるのに腕を振り回したせいで、右腕の感覚はなくなった。
 寝起きの麻痺状態みたいだ。
 しかし、まだ二本の足と左腕が残っている。

 「くらえっ!」

 また、追手はフリスビーを投げる要領で硝子を放った。

 「もう一発だああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 俺は最後の一本のナイフを硝子、そして、一直線上の追手へと、ぶん、投げた。
 バリンッ
 硝子を突き破ったナイフはグルグルと読めない軌道へと変わり、男は避けようとして、そのナイフによって喉を貫かれた。
 「グ……ヒューはー」


 俺は目を背けた。
 両腕はもう、ぶら下がるだけだ。
 まだ唯一の無事な肉体は足だけ、か。

 「ここから、一番近いコロニーは、三キロ……か」

 「貴様……」

 振りかえると、初めに俺がナイフでわき腹を裂いた追手が、身体を地面に横たえながら睨みつけていた。

 「な、なんだ……よ」

 「……ただで済むと、思うなよ、お前、達が、したことは、我らへ対する宣戦布告として受け、取る、いいか、よく覚えておけ、我らはお前達に、対して、報復すると、な」

 「は、はは、そりゃ結構だ。じゃあ、またな、次はまた戦場で会おう」

 痛みに歪みそうになった顔を見せないように、俺は走り出した。
 始まってしまったのだ。
 抗争が、戦闘に特化した能域使い達による戦いの火蓋が、奇しくも、俺とその追手のとの一言二言の言葉のやり取りによって。
 誰が責任を取るのだろうか、いや、これは俺が背負うべき宿命だ。
 俺は、走る。
 ただ、走る。
 繰り返す、抗争の火蓋が切って落とされたのだ。
 


 ◆◆◆





[20423] 「能域:火炎発火」
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:64f947a3
Date: 2010/07/19 21:52
 




 ◆◆◆



 全身血だらけの男は街の門前へと辿り着いた。
 呼吸は荒く、立っているのもやっとという様子である。
 彼の能域【意思伝達】により、街の人々はすぐにかけつけた。

 「大丈夫か、ナオト!」

 医者が着る白衣を着た老人は、男の元へ一番に駆け寄る。

 「あ、ああ。頭がフラフラするだけ……だ」

 ナオトと呼ばれる男は、膝を地につき、そのまま地面へ倒れこんだ。

 (東の連中との抗争が始まる。今すぐゲイルに伝えてくれ)

 「分かった、今すぐゲイルに伝える。お前はゆっくり休め」

 老人の側にいた青年は、街の中へと走って行く。

 「お前、無茶がすぎるぞ。くそ、硝子が肉に食い込んでる、診療所までなんとかして連れていくぞ、カリン!」

 カリンと呼ばれた少女は、すぐさま手持ちのカバンから簡易式の担架を取りだし、それにナオトを老人の力借りて乗せた。

 「すまん、誰か手を貸してくれ」

 「吾輩が手伝おう」

 白衣の老人の言葉に応えたのは、身長ニメートルを超える全身に筋肉をみなぎらせた巨漢だ。

 「グランか、よし、そっちを持て、いくぞ、一、二、三!」

 背の低い老人との高低バランスのズレはともあれ、二人はナオトを担架で持ち上げる。

 「うっ……!」

 持ち上げる時の衝撃にナオトは顔を歪めた。

 (もっと丁寧に扱ってくれよ)

 「ふむ、丁寧というのは、こういう感じかね?」

 グランはゆさゆさと担架を揺らす。

 (……)

 「馬鹿野郎、ナオトが気絶しちまったぞ。いや、寧ろこれから行う手術を考えれば、そのほうが都合が良いかもしれん」

 「そうでしょう、吾輩は、ナオトのことを心配しておるのです」

 「「はっはっはっは!」」

 二人の笑い声が街の広場に響き渡った。
 無論、笑っているのは二人だけ、抗争が始まったと伝えられた街の人々は、一息の内にその表情を強張らせていた。
 門前から、広場、直線を五百メートル歩いた所にある診療所に担架は到着した。

 「さて、手術を始める。カリン、来い」

 「分かりました……」

 物静かな態度のカリンは、表情を変えない。
 門前から、診療所まで、グランと老人の会話にまるで耳を傾けようともしていないようであった。

 「では、吾輩はここで失礼するとしよう。ナオトのこと、任せましたぞ」

 「ああ、グラン、抗争のほうは頼んだぞ」

 「了解した」

 グランは、診療所から堂々した意気で出て行った。
 それを見届けた老人は、ナオトを見てため息をついた。

 「全く、とんでもないことになったもんだ」

 「そうですね……」

 「は、カリン。お前にはこの診療所を任せることになるかもしれんな」

 老人は顎髭を撫で、思案した。

 「と、いいますと?」

 カリンは一瞬動揺したような表情を作り、老人に聞く。

 「私も、久しぶりに前線に出るやもしれん。ま、それは、この抗争が大きくなってしまったら、だがな」

 「そうですか、お気をつけてください」

 「まだ、行くとは限らん。ただ、そうなるかもしれないということは、覚悟しておいてくれ」

 「分かりました」

 カリンは老人に頷いた。
 老人は、うむ、と言って、手術台のナオトの方を向いた。

 「では、手術を開始する」




 

 ◆◆◆





[20423] 「能域:肉体錬成」
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:64f947a3
Date: 2010/07/19 22:59



 ◆◆◆



 木製ベットの脚がガタガタと揺れ、窓から吹き込むそよ風が茶色のカーテンを揺らす病室で、ナオトは目を覚ました。

 「……痛っ」

 ナオトの両腕は、包帯でグルグル巻きにされ、全身の所々には硝子が突き刺さったことによる傷跡が残っている。

 「あんな下っ端にここまでやられるなんて……くそ」

 ナオトは三人の追手のことを思い出していた。
 スピーカー、硝子、棍棒。
 どれも、入手が比較的楽な媒体であり、能域使用者の能域も大したものではなかった。
 なのに、なぜここまでの大怪我を負わせられてしまったのか。
 能域使用者の中には、単独で敵地に乗り込み全滅させるほどの化け物すらいる。
 ナオトの能域は、確かに戦闘向きではないが、彼にとって、そのような存在は、自分の非力さを否応なく自覚させた。
 シャーッ
 カーテンを滑らせ、灰色に滲んだ空を見る。
 あの空は、ナオトが生まれた時からずっと変わらない。
 いつも、灰色。
 昔は、太陽と呼ばれる恒星と白い雲が、美しい青色の空に輝いていたと言われるが、そんなもの、ナオトは見たことが無いし、信じてもいなかった。
 灰色の空こそが、彼にとっての空であり、青色に輝く空は偽物でしかない。
 ナオトが、自分の能域の限界を超えられないように、それは、絶対に覆らない。
 誰が言ったか、能域限界と呼ばれている能力が生まれたのは、空が灰色になってしまった頃らしい。
 だが、そもそも空が灰色になったのが、いつだったのかも分からないのに、どうして能域限界が生まれた頃に空が灰色になったのだと分かるのだろうか。

 「どうでもいいことだ」

 頭の中に浮かぶモヤモヤとした気持ちを切って捨て、ナオトは包帯を外した。
 あれから、診療所に運ばれてから二週間も経過している。
 ナオトがカリンから聞いた話では、すでに抗争は近隣のコロニーを巻き込んでの大きなものに拡大しているらしい。
 彼にとって、その渦中の外でじっと休んでいることは、苦痛以外の何物でもなかった。
 腰に装着するナイフ用ホルスターへと二本の得物を収め、水色の病院服から、コロニーの象徴色である白と青に染められた制服へと着替える。
 制服の上から、ホルスターを隠すための青色の外套を纏い、準備完了。
 ナオトは、ギルドへと向かうため、病室を後にした。


 
 診療所を出てから、十分。
 カリンに退院を無理やり許可させ、ナオトはギルドへの道をひたすら歩いていた。
 煉瓦造りのほこり臭い通りから、木で造られたしっかりとした家々が集まる区域へと向かう。
 ナオトの住む街、つまり、このA-012コロニーは、富裕層が北の市街に住み、南のスラム街に貧困層が、その両者の中間に平民がというように、住居の住み分けがある程度されている。
 診療所とギルドは、どちらも平民が多くすむ区域にあり、ギルドの方が、富裕層の住む区域よりに立地していた。
 ナオトはギルドの門前に到着すると、その建物の姿をまじまじと見上げる。
 三十年ほど前に、一人の男が設計、建築したらしいそれは、工事に能域を使用したり、当時、斬新とされた技術を用いて建てられたため、周囲の家々とは一線を画す無骨な造りとなっていた。






[20423] 「能域:色彩変化」
Name: 茨城の住人◆7cb90403 ID:64f947a3
Date: 2010/07/20 23:38




 「よし」

 一言呟き、ナオトはギルドの門をくぐった。
 門を通り抜けた先には、開きっぱなしの大きな扉があり、そこからギルドのエントランスへと進むことができる。
 エントランスは、旧時代を思わせる無機質な白く光る金属の床や、所々に施された装飾によって、訪れる者に外の景色とは、時代に数百年の誤差を体感させる。
 また、ギルド隊員への依頼を斡旋する受付や、食堂への通路が通っているために、多くの人々がごったがえしていた。
 よって、当然、ナオトの顔見知りも多くいる。
 ナオトは、彼らと先日の三人の追手との能域戦のことや、抗争の現状について、また、ナオト怪我具合などについて、いくらか言葉を交わし、自分の所属する部隊の部屋へと、立ち話もそこそこに向かうこととなった。
 第十五部隊、そう書かれたプレートが、隊員用の部屋の扉にぶら下がっていた。
 ナオトは扉を開け、中に入る。

 「おはようございます」

 「ひゃひゃ、来たか」

 「おはよう」

 「うん」

 「どもー」

 縦横それぞれ二十メートルほどの広い部屋には、ナオトを含め五人の部隊員がいた。
 声の順に、ナオト、ピケロ、ヒロシゲ、フシナ、ミヤ。
 彼らもナオトと同様にそれぞれ能域を持っている。
 ピケロは近接向きの能域:【岩盤切断】、ヒロシゲとフシナは兄妹であり、遠距離の能域:【風向操作】・【瞳力遠視】を、ミヤは部隊のサポート要員であるが能域:【疾影妖我】を持ち、リーダーを務めるヒロシゲが部隊をまとめている。
 他の部隊にも、ナオトの部隊と同様に、近接向けの能域使用者と遠距離向けの能域使用者がおおよそ二人ずつ所属しており、また、特殊な任務を遂行するために、一人だけ、陽動や隠密に特化した戦闘向きではない能域使用者が配属される。
 ナオトの場合は、能域:【意思伝達】を持つため、本来は陽動や隠密に特化した能域使用者として配属されていくはずなのだが、ナオトの意思と、その接近戦での戦闘技術により、近接向きの能域使用者として配属されているわけなのである。
 このような能域使用者は他にもいて、遠距離向きの能域を持ちながらも、近接向きの能域使用者として作戦に参加する能域使用者も大勢いる。

 「ひゃひゃ、先日はどうも大変だったみたいですねぇ」

 「何が、大変だったみたいですね、だ。お前が突っ込みすぎたせいで俺が分断されたんだろうが」

 ナオトはピケロに掴みかかった。
 あの日、彼らの部隊の作戦は、隣接する敵対コロニーからの情報収集だった。
 本来は、能域戦を展開することもなく、コロニーの外周を調査するだけで終わるはずだったのだが、ピケロが敵側のコロニーの巡回警備の部隊員に不意打ちをかけて斬りかかったために、他の部隊員にも見つかってしまい、結果、二人は分断され、追手から逃れるための能域戦を余議なくされたのである。
 当然、ピケロは他のギルド隊員から抗争の発端として、ある程度、非難を浴びたらしい。
 だが、当人のピケロは、今、こうしてケロっとした顔で笑っている。
 それは、ギルド隊員からの非難が大したものではなかったことにも原因があるだろう。
 なぜなら、その敵対するコロニーとは、以前から小競り合いや能域戦が絶えず行われており、いつ本格的な抗争に発展するか、時間の問題であったからだ。
 が、それだけではない。
 ピケロが笑っていられるのは、その性格に由来するのだということを、ナオトは知っていた。
 戦闘狂のピケル、ギルド内でのピケルの通り名である。
 小柄で、一見華奢な容姿の少年であるピケロは、その実、残忍な性格と方法でもって、これまで数えきれないほどの人数の敵をほふってきた。
 ゆえに、ナオトは、ピケルのことを仲間でありながらも、同じ人間として見ることができなかったのだ。







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