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「10%」は菅の自民つぶし

2010年6月21日 AERA
自民党が先に掲げた消費税10%をパクり、最大野党を黙らせる作戦に出た。
だが、足元は大丈夫なのか。反主流派となった小沢系グループが批判の声をあげる。
 数字を明言した。
 菅直人首相は17日、民主党のマニフェストを掲げ、記者会見に臨んだ。目玉は、所信表明演説でも強調した「強い財政」の第一歩、消費税増税への言及だった。初めて数字をあげ、今年度内に消費税に関する改革案をとりまとめると断言した。
「議論を長くタブー視する傾向が政治の世界にあったが、消費税について思い切って書かせていただいた」
 と、菅首相は胸を張った。
 戦後、増税が争点になった選挙では政権与党が圧倒的に苦戦を強いられている。消費税導入後の参院選(1989年)で自民党は単独過半数の座から転落。消費税が5%に上がった翌年の参院選(98年)でも自民党は惨敗、橋本龍太郎首相(当時)が辞任に追い込まれた。

第2の「普天間」化か

 増税=選挙戦敗北
 そんなセオリーをあえて無視した菅首相の狙いを「自民党つぶし」とみる関係者は多い。この数字は、同じ日に政権公約を発表した自民党の掲げた数字でもあるからだ。
「当面の消費税率は自民党が提案する10%を一つの参考にする」
 菅首相は会見でそう語り、超党派での法案提出を呼びかけた。石破茂自民党政調会長は、
「我々の10%は、民主党の効果が疑わしい政策を撤回する前提で積算した。民主党は抱きつきオバケのようだ」
 と反論。党遊説局長の菅原一秀衆院議員も、昨夏の総選挙の際に「私どもが政権を担う4年間、消費税の増税をする必要がない」と公約した鳩山由紀夫前首相を引き合いに、
「鳩山政権を継承するといいながら、消費税増税に踏み込むのは整合性が取れていない。自民にとっては攻めやすくなった」
 と話す。とは言え、消費増税を争点の大きな柱としようとした自民党にとって「いやらしいクリンチ」(自民党中堅議員)を仕掛けられた格好になったのも事実だ。ともに増税を掲げていれば違いは目立ちにくく、逆に与党としての責任感を際だたせることもできる。
 だが、そんな菅首相の増税路線に、自民党以上に渋面を作ったのはむしろ足元の民主党の議員たちだった。
「踏み込みすぎだ。第2の『普天間』になるかもしれない」
 ある経済官庁の政務三役は、そうつぶやいた。
 彼が踏み込みすぎと指摘したのは、菅首相と一緒に会見した玄葉光一郎党政調会長の発言だ。
「2010年度内に取りまとめができ、すぐに超党派で合意ができた場合でも、引き上げは2012年の秋が最速」
 条件つきだが、増税の時期に踏み込んだ。

「みんなに票が流れる」

 政策を掲げたとき、実現時期を示すことは重要で、それが政権の信頼につながる。だが、約束した内容が揺らいだり、実現不可能となったりしたとき、政権が受けるダメージの大きさを民主党は「普天間問題」で身をもって痛感したはずだった。
 菅政権にとって、何がハードルとなるのか。まず、参院選。怖いのは自民党ではなく、みんなの党だ。ある政務三役は、
「あの党は消費税増税を否定している。民主党が上げ潮になったのに、これでまた票がみんなに流れるんじゃないか」
 社民党が連立を離脱し、連立与党は参院で過半数をわずかに超える勢力しか持っていない。みんなの党が少しでも勢力を伸ばせば、安定した国会運営は望めなくなる。
 そんな状況を見越して静かに動き始めたのが、菅体制下からはじき出された小沢系グループだ。普天間問題における社民党のように「与党内抵抗勢力」になる可能性が出てきた。
「民主党は一番になりたい人ばかりだ。5番、6番、もしくは2番打者で犠牲バントするのに生きがいを感じられる人が出てきたらいいな」
 菅首相が記者会見で「消費税」に踏み込んだ2時間後、東京・赤坂の土佐料理店に集った民主党幹部らを前に高嶋良充参院幹事長はこう話した。

「七人の侍」結集の夜

 皿鉢料理を囲んだのは、細野豪志幹事長代理、樽床伸二国対委員長、松井孝治前官房副長官と、代表選で樽床氏を推した三井辨雄国対委員長代理、松本剛明衆院議運委員長に、新体制で副幹事長職を外された樋高剛、伴野豊両氏という面々。前原誠司氏ら「反小沢」と言われる七奉行に対抗して「七人の侍」と命名された7人だ。上座に座ったのは、小沢氏に近い輿石東参院議員会長。さながら9月の党代表選に向けた決起集会の様相である。
 高嶋氏は会が終わった後、消費増税発言について記者たちに「勇み足だ」と不満をもらした。
「選挙を戦っている人たちからすれば、消費税率が議論になることは想定していない。一般的にいえば、選挙に悪影響を及ぼすと考えざるを得ない」
 高嶋氏は会合の前、本誌の取材に応じ、さらに厳しい口調で菅体制のやり方を牽制した。
「参院選で単独過半数を取れば政策実行はスムーズになる。消費税も財政健全化もそれからなんですよ。野党の協力をもらって増税なんてできっこない」
 そう高嶋氏は強調する。そして、勝敗ラインを「改選60議席」と設定する。
「菅さんは54とかいうけど。保身のために少ない数字を言う」
 参院民主党は輿石氏、高嶋氏が中心となり、いまも小沢氏の強い影響下にある。消費税議論の凍結は、選挙を意識した小沢氏の強い意向で進められた路線だ。それを無視しての政権運営はできっこない──。
「60議席」というハードルには、小沢系グループからの牽制の意味が込められている。
「菅さんが参院選で80議席取れば別ですよ。小沢軍団がいなくても国会運営できるようになりますからね。社民党を残しておけば衆院は与党で3分の2あったから、参院で法案が否決されても衆院で再議決できた。選挙の結果によっては全法案が通らなくなりますよ」(高嶋氏)

首相のオウンゴールか

 自民党田中派を長く取材し、『小沢一郎 50の謎を解く』(文春新書)を最近出した元共同通信記者の後藤謙次氏は、10%発言によって小沢氏は「反増税」という大義名分を得たと分析する。これまでも小沢氏が動くときは「政治改革」や「政権交代」といったわかりやすい大義名分がついていた。
「今回は政治とカネの問題で動けなくなっていたが、菅発言のおかげで党内政局や政界再編を仕掛ける大きなカードを手に入れたことになる」(後藤氏)
 菅首相、痛恨のオウンゴールというわけだ。
 高嶋氏は17日昼、小沢氏からこんな誘いがあった。
「今晩空いてないか? 稲盛(和夫)さんに呼ばれて、俺1人じゃあれだから。暇だろ?」
 稲盛氏は小沢氏の後見役として知られ、節目ごとに関係が取りざたされる。
「9月のときに結集するために、こちらは動いていますから」
 高嶋氏が冗談まじりにそう言うと、小沢氏は「がはは」と楽しそうに笑っていたという。
編集部 常井健一、福井洋平
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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