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菅直人首相自身が「やや唐突と受け止められた」と語る消費税の議論は、使い道を明確にせず負担増の話を持ち出した点にも問題があった。反省を生かし、国民の理解を得るためには、首[記事全文]
ダム以外の治水方法と比較して、このままダム事業を続けるべきかどうか、検証し直す。国土交通省の有識者会議がそんな提言を発表した。できるだけダムに頼らない治水をめざすと宣言[記事全文]
菅直人首相自身が「やや唐突と受け止められた」と語る消費税の議論は、使い道を明確にせず負担増の話を持ち出した点にも問題があった。
反省を生かし、国民の理解を得るためには、首相の掲げる「強い社会保障」の具体的内容を示し、税制改革と一体で議論していく必要がある。それには、政権全体で取り組む態勢を早急に整えることが欠かせない。
菅首相は当初、いまの医療、年金、介護の財源をまかなうのに約10兆円が不足しているので、増税分はここに充てると説明していた。
国債に頼っている財源を消費税で確保すれば、制度が安定すると首相はいう。だが、将来世代へのつけ回しが止まるだけで、社会保障の中身は変わらないというのでは情けない。
制度のほころびをつくろい、雇用を生む場としても医療・介護を充実し、子育て支援を強化する。そのために財源をどれだけ投入し、それが「強い経済」にどうつながるのか。
働く世代の支援、人材の育成など、これまでの社会保障の枠を超えた分野の展望も示してほしい。
一方で、民主党のマニフェストには子ども手当をはじめ、最低保障年金の創設、後期高齢者医療制度に代わる新しい高齢者医療制度の創設など、さらに財源が必要な政策も並ぶ。
それぞれに必要な財源はどれだけで、何から優先的に取り組むのか、を国民にきちんと説明しなくてはならない。それには、国と地方の役割分担をどう考えるのかなど、政権内で早急に調整しなければならない。
社会保障の機能強化のための政策と必要な財源については、自公政権下の社会保障国民会議や安心社会実現会議などで議論されてきた。必要なことは、その中から何を選び、実行するかという政治の決断だろう。
一から議論をやり直すのでは、あまりに非効率だ。過去の議論の蓄積を大いに活用しながら、スピード感をもって取り組んでもらいたい。
子育て世代への支援の充実や地域医療の立て直し、介護現場で働く人の処遇の改善や無年金・低年金の人たちへの手だてなど、与野党で考え方が近い政策もある。ねじれ国会のもとでも、やれることはたくさんある。
国民の生活を重視するなら、そうした政策から積極的に進めていくよう期待したい。
参院選の敗北で、民主党内には消費増税の議論を先送りしようとの空気が広がっている。だが、各種の世論調査を見る限り、国民は消費税の議論自体にノーを突きつけてはいない。
首相が所信表明で述べた「強い経済、強い財政、強い社会保障」への改革の道を丁寧に説明することから、議論を始めるべきではあるまいか。
ダム以外の治水方法と比較して、このままダム事業を続けるべきかどうか、検証し直す。国土交通省の有識者会議がそんな提言を発表した。
できるだけダムに頼らない治水をめざすと宣言。集落を堤で輪のように囲む輪中堤(わじゅうてい)の復活や、川沿いの土地利用規制、堤防の強化など、25もの代替案を例示している。県営ダムを含め、84の事業を対象にする。
ダムは一時期まで脚光を浴びた。しかし、環境に大きな負荷がかかることが問題視されるようになり、適地も減った。地元の説得に長い時間がかかり、事業費も膨れ上がった。惰性を排して見直す意義は大きい。
だが、この検証が期待通りの成果を出せるかどうか、懸念がある。
提言によると、検証は事業主体が行う。国交省の出先機関の地方整備局または水資源機構の支社、県営ダムは県が主体になり、関係自治体などと検討の場を持つ、という。
八ツ場(やんば)ダムなら、事業を進めてきた関東地方整備局が、前原誠司国交相を事業推進の立場から突き上げてきた関係6都県などと行うことになる。このメンバーで、どこまで詰めた代替案が出てくるか。
不十分なら国交相が再検証を指示できる、というが、地域での検証結果を突き返せるものだろうか。前原氏が昨年9月、就任直後に八ツ場ダム中止を発表し、地元から強い抗議を受けて混乱したことは記憶に新しい。
しかも、治水の目標となる流量を従来と同じ水準としているが、この水準自体が高すぎると批判されてきた。これでは、代替案として堤防を考えても、都市部に巨大なものを建設しなければならなくなる。結局、安上がりだからと、ダム擁護になりかねない。
国交省が検証を指示するのは9月になりそうだが、その前に十分な検証ができる体制を整えてほしい。
欠かせないのは、第三者の市民が議論にかかわる仕組みだ。公募の市民委員らが議論した淀川水系流域委員会は傍聴者にも発言を許し、社会の関心を高め、河川政策見直しのうねりを作った。賛否両論が激突し、緊張感ある検証をしてこそ結果は信用を得る。
前原国交相が約束したままになっている、ダム中止後の地元の生活再建策の具体化も急いでもらいたい。生活の展望が描けないため、水没地域の多くの住民がダム推進の先頭に立たざるをえない現状は、あまりに不合理だ。
事業中止を議論する以上、事業費の一部を負担してきた自治体への資金返還ルールも確立するべきだ。事業続行とどちらが得か、自治体が判断できるようにするためだ。
公共事業見直しは1990年代の長良川河口堰(かこうぜき)以来、議論が続く。中途半端な検証では、問題はさらに長引く。