2010年-07月-19日
もふもふしたウサギが主演する戦争アニメは、ただそれだけで非難に値する
つい先日、動画投稿サイトYouTubeに以下のようなアニメ作品が投稿された。
戦争漫画家として有名な小林源文氏の作品を3DCGアニメ化した"Cat Shit One - THE ANIMATED SERIES"だ。
簡単にあらすじをいうと、「G.I.っぽい民間特殊部隊員のウサギ二匹が、アラブのテロリスト風のラクダ集団に誘拐された人質を救出する過程で、敵のラクダどもを殺戮しまくり、めでたく任務を成功させる」というものである。
リアリティにこだわった(らしい)戦闘描写と、主人公であるウサギのもふもふした質感など、3DCG作品としてなかなかの高品質で、公開されるや視聴数は2日で100,000回を超えている。
僕はこうした作品にとくだん抵抗感はないので、ソーシャルブックマークのコメントで「野暮を言うが」と前置きした上で、「殺される側に物語がない」と、控えめなコメントを残したが、YouTube上で評価の高いコメントとして、
nikaimenikaime
人種差別うんぬん言ってる人、
原作漫画では日本人は猿なんだよw
主人公のアメリカ人がウサギなのも、言葉遊びからきてるんだし、
なぜそこまで否定的になるのかわからん。
単純に映像を楽しめばいいのに
akawada99
変な理屈なんか捏ねるなよ。
こんなもんに哲学的な意味とか教訓を求めんなよ。
ともあれ、戦争モノでは上出来すぎるくらいのリアリティを持ったアニメーション。
そのリアリティと、キャラクターとのギャップを、ただ、楽しめ。
ひたすらに観て、楽しむだけでいい。
このようなものがあったり、意外に「批判」より「反批判」のほうが優勢のようなので、いちおうカウンターを書いておく。
「単純に映像を楽しめばいい」「ひたすらに観て、楽しむだけでいい」とな。
マニアはそれでいいかもしらんが、「見た目にファンシーなウサギ」という年齢層を問わずアピールしかねないキャラクター(主人公がむくつけき男なら、それだけで見ない人もいるだろう)を使って、購入する必要のない無償提供で、しかも年齢制限など視聴に際してのゾーニングもないという、限りなく誰にでもウェルカムな公開手法を採って、それでリアリティにこだわった戦闘描写を主眼にした作品を流通させるというのは、あまりほめられたやり方ではないし*1、ましてやそれを無批判に肯定するような言動をするのは無責任きわまりない。
「この作品世界では日本人は猿だし、ベトナム人は猫」などと言うが、だからどうしたという話だ。日本人は自分を猿と自虐しているから、アラブ人をラクダのテロリストという一方的に殺されるだけのキャラクターとして描いてもよいというのか*2。だいたい実際に公開されているこの動画で、日本猿がみっともなく殺されているわけでもないではないか。
この作品が特別残虐とも、子供の嗜虐性を助長するとも思わないが、もし子供が見るとして、そのシチュエーションは、眉をひそめる大人に隠れてこっそり見るものではないかと思う。いい大人(たぶん)が口を揃えて「楽しめばいい」などというのは論外だ。
だいたいYouTubeの対応もどうなのか(年齢制限にうるさい*3アメリカでは見られない設定になっているらしいが)。
ご注意:本作は動物キャラクターが主人公ですが、内容は米陸軍特殊部隊の偵察チームの戦闘を描いたもので、緻密な戦闘描写が含まれます。
3DCGアニメ映画「Cat Shit One -THE ANIMATED SERIES-」を全編公開中 - YouTube Japan Blog
http://youtubejpblog.blogspot.com/2010/07/3dcgcat-shit-one-animated-series.html
(彼らは私兵で、軍人じゃないんでは? 内容を精査しているのか? というツッコミも言いたいところだが)「注意」といって、文末に申し訳ていどに付け加えられているだけだし、そもそもどれくらいの人がこのエントリに目を通すだろうか。はてなブックマークでの注目度ということでいえば、7月18日現在、映像本編についたブックマークは350以上になるが、この広報エントリには2つしかブックマークがついていない。
話を戻すが、こうしたミリタリーマニアの「内輪がよければそれでいい」的な意識、どこかで見たなと思っていたが、少し頭をひねったら思い出した。性暴力を主題にした成年向けゲーム規制問題のときに出た反応と重なるものがある(そういえば、ニコニコ動画で成年向けゲームが無料配布されるという話があったが、年齢制限などはどうだったのだろう?)。
個人的には「ファンシーなキャラクターの目を覆うような残虐な行為を描く作品」の必然性はそんなにないんじゃないかと思う。ただ「悪趣味」と受け取られるだけで、多くの人にリーチするとは思えない。例えばエポック社がシルバニアファミリーの新しいシリーズで、G.I.ウサギとベトコンネコをセットにした「わながいっぱいクチの大きな蜘蛛の巣トンネル」とかを発売したとしたら、ミリタリーマニアは「シルバニア始まったな」などと喜ぶかもしれないが、大概のシルバニアファンは不快感しか感じないと思う。あるジャンルを偏愛するあまり、そういう想像力が欠けてしまうことがあるのではないか。
また、残虐なシーンを表現するだけで「タブーをものともしない覚悟をもった芸術作品」などと評価されてしまう傾向があるような感じもして、それも滑稽きわまりない。マスメディアが使わない差別表現を使って「報道されない真実を白日のもとにさらしている」などと悦に入るような態度となんら変わるところはない。さらに言えば、ファンシーなキャラクターと激しい戦いのギャップを「楽しい」と言うのは、年端のいかない少女が性的に虐待されているのを見て「興奮する」と言っているのとそんなに変わらないような気がする。というか、いま書いていて、もうこのCatShitOneをそういうふうにしか見られなくなったぞ。
鑑賞者の幼稚さが作品を台無しにすることもある。
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知人の著書ですが、いちおうまだ在庫があるみたいなので、よかったら買ってください。タリバンも普通の人です。
なにを見てもなにかを思い出す
おまけ:
えーと、「もふもふしたウサギが主演する戦争アニメ」が批判されるのと同様、「ぱんつしかはいてない少女が飛びまわる戦争アニメ」も、ただそれだけで批判に値すると思っているのですが……批判するためもあって前者はいちおう最初から最後まで見たものの、後者はOPを見る気すら起きないというか。
2010-07-19 05:29:22 via web
なんというか。