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2010/07/18

第十八章 局部アップとか女子便所とか

自動販売機で売るポルノグラフ誌という特殊性から生まれた、低コストで作れる「企画物」というジャンルなんだが、もちろん時代が時代なので、本番とかはないです。すべて形だけのカラミで、男の出演者はたいてい予算削減のために出版社の編集者なんだが、アリス出版の社長も、エルシー企画の社長も、盛んに出演してますね。で、そうした「企画物」がビンク映画とアダルトビデオを繋ぐミッシングリンクである事は間違いないんだが、ピンク映画と違って女優を使うわけじゃなし、予算も最低限なので、どんどんストーリーが削られて行きます。まぁ、正直、ストーリーなんか要らないんだけどね。一応はそういうのがあるフリをしないと、グラフ誌としての体裁が整わないわけです。なんせ、グラフ誌というのは「画像でストーリーを展開する本」という位置づけで存在を許されているわけで、「いやらしい写真を並べました」という、ホンネでは通らない部分もあるわけだ。

それが、1980年頃になると、流れが変わる。自販機本には、「ビニ本」という強烈なライバルが出現し、ビニ本は最初からタテマエとは無縁で、ひたから限界を狙った露出度で競っていたので、自販機本もいつしか、「画像でストーリーを展開する本」という位置づけを失って、ひたすら「いやらしい写真を並べました」という路線に走らざるを得ないわけだ。そうした中から、「ストーリーのない企画物」という新しい路線が出てくるわけです。

昭和ポルノ史
昭和ポルノ史・序説
第一章 非合法エロ写真と実話誌
第二章 エロ系実話誌の世界
第三章 初期通販本と松尾書房
第四章 エドプロと初期通販本版元
第五章 北見書房と素人モデルたち
第六章 自販機ポルノは港町で生まれた
第七章 初期自販機ポルノの世界
第八章 アリス出版の栄枯盛衰
第九章 アリス出版に関する覚書
第十章  LANDA.SSと九鬼(KUKI)
第十一章 その他の東京雑誌系版元
第十二章 東京雑誌グループ以外の版元
第十三章 ビニ本の発祥
第十四章 ビニ本ブームの狂乱
第十五章 アングラ・グラフ誌の分類
第十六章 擬似少女と擬似レズ
第十七章 自販機本特有の「企画物」という世界

第十八章 局部アップとか女子便所とか




   企画物・2

 グラフ誌でも売れ行きを決定的に左右するのはモデルの質だ。自販機で中身が見られないから、美人に見え、なおかつエロいカットで表紙を作って読者の購買欲をそそるのだが、いつでも撮影に美人が現われるとは限らないので、現場としては頭が痛いところだ。まぁ、たまに美人がいても、ライバルの版元が表紙に使っていたりすると、営業会社の東京出版から「同じモデルを表紙に使うな」と言われるので、別のモデルを探さなきゃならない。

 かくして、「もっといい女を捜せ」とか「この女はアリス出版で表紙に使ってるからダメだ」とか、ダメ出しの中、金もないし、締切りは迫るし、そこでエルシー企画の社長が苦し紛れに思いついたのが「局部アップ」という手段だった。顔を出すに足るモデルがいなかったんだからしょうがない、と開き直って、食い込んだパンティの超接写を表紙にしたのだ。まぁ、すぐ撮れるブスならいくらでもいるので、撮影してもいいんだが、おいらの聞いたところでは、「時間がないので有りネタ使った」らしい。

エロ本屋さんというのは、それこそ毎日のように撮影しているわけで、今まで撮りためたストックが沢山あるわけだ。カメラマンは、「必要な写真を必要なだけ撮る」のではなく、「その時、撮れる写真は撮れるだけいくらでも撮る」のだ。なので、必要があろうがなかろうが、撮影したら局部のアップを押さえておく、というのは常識だった。そうした、撮りためた写真は山ほどあるので、中身も雑多な撮影ポジからトリミング、トリミングで組む。結局、撮影費を一銭も使わずに一冊できてしまった。しかも、これが売れてしまったのだ。

 以後「局部アップ」シリーズはエルシー企画のドル箱として続くようになるのだが、これは別に自販機本だけの専売特許というわけではなく通販本でも「えろ」(クロードアイ)などという例もある。クロードアイは全然脱いでないセーラー物なども作ったりして、なかなかユニークな会社だ。たぶん、エロ本制作にはほとんど経験のない人が作ったのだろう。つうか、クロードアイの社長は「黒川さん」という人で、元・松尾書房の営業だったらしい。松尾書房そのものが古典的な「エロ本屋」ではないので、そこの、まして「営業さん」ともなれば、エロ本制作のノウハウは持ちあわせてないですね。

 エルシー企画はカネのないのを思いつきでカバーするのが得意で、ほかにも「女子便所」というヒットも飛ばしている。コレは、SMのスカトロ物とはまたひと味違った覗きっぽい路線で、苦し紛れとはいえ、これもまた特定の読者には受けてヒットする。エルシー企画はその後、紆余曲折を経てビニ本の群雄社出版になり、AVメーカーのVIPエンタープライズになるが、そうした路線は引き継がれて行く。

おいら、群雄社時代にこの「女子便所」シリーズの制作に携わった事があるんだが、ベニヤ板を和式便所の楕円形に切り抜いて、足場を組んで、下から狙うわけです。みんなは必死こいて下に潜って撮っていたんだが、おいらは利口なので長いレリーズ付けて、カメラだけを真下に置いて、遠くからシャッター押してました。なので、みんなが頭から小便浴びているのに、とりあえず無傷で済みましたw ただ、カメラの上に置いたビニールシートの、ちょうどレンズの部分にオシッコが溜まって、現像してみたら段々とソフトフォーカスになっていたのには笑った。リアリティあって、使える写真が撮れて良かったです。

 やはり自販機出身のKUKIでは、ビニ本業界に進出しても、様々な試行錯誤をやっていた。KUKIの経営者は元がアングラ芝居出身なので「カセット付きビニ本」なんてモノも作っていて、これはちゃんとスタジオで録音したもの。寺山久美のモノは本人の声だそうだ。それを見て群雄社でもカセットは作ったんだが、他ならぬ僕が担当したのは「裏ビデオから音声だけパクって編集」という手段でしたね。ちょうど裏ビデオが出始めた頃で、どっかから裏ビデオ探してくれば、原価タダで「ラブホテル盗聴」テープというのが出来上がる。

あとは、「モデルを連れてラブホ行って延々とクンニ」して女の喘ぎ声だけを録音、というのもありましたね。気心知れた使い古しのモデルさん連れて、こういうのは遊び半分で出来るので楽しい仕事ですw でも、二時間続けてクンニというのも、ほとんど拷問みたいなもんですw

 KUKIでヒットしたのは「マン拓」と「フィストファック」だ。マン拓というのは説明するまでもなく、マン拓そのもの。フィストファックは黒人の彼氏とつきあってるモデルを使い、手の小さいモデルを使って撮ったもの。この種の異物挿入物というのはSM的ではあるが、ビニ本では特にSMとしてではなく撮られる。フィストファックが得意技というモデルもいて、そればかり撮っていたんだが、子宮脱になってしまったというから、まぁ、無理はしない方がいいです。

 田口ゆかりというモデルが一時もてはやされたが、彼女はビニ本でウナギを挿入して有名になりました。本ではいかにも生きたウナギを挿入したように撮っているんだが、実は死んだウナギに針金を入れて形を整えて撮ったと聞いてます。

 こうしたアイデア物というのは、透け具合で競うと警察に睨まれるというので開発されたんだが、自販機本出身のメーカーはこうしたアイデアをいっぱい持っていたので、群雄社やKUKIには多い。「女子便所」の延長で「人間便器」なんていうのもあり、やはり発想としてはSM系ではあるのだが、SM屋さんではないので独立した物として扱われているのが特徴的だ。

   SM物

 グラフ誌のごく初期段階からSM物は存在するのだが、あの世界は長年に渡って練り上げられた独特の美意識というものがあり、東日販系の出版社でもそれを徹底的に追及しているところが何社もあった。今と違って1970年代にはかなりの部数が出ていたので、予算もアングラ系とは段違いだ。カメラマンでは杉浦則夫という人が大御所で、どのSM誌も巻頭グラビアは杉浦則夫だった。ギャラも高いが、本人が縛りも出来るので縛り師がいらない。

杉浦則夫はこの当時、月間30本くらい撮影してます。土日はもちろん、昼と夜の二部制とか、そんな感じ。アシスタントが一人だけで、二人で一台ずつストロボメーター持って、物凄い勢いでライティングを決め、ペンタックス6×7で撮りまくります。一度の撮影で200カット以上撮るんだが、どれを見てもライティングもポーズも完璧で、そのまま使える素晴らしい仕上がりだ。あまりにこの人が上手すぎて、SM写真業界では他のカメラマンが育たなかったですね。

 ところが、アングラ本では予算が少ないので杉浦則夫が使えない。ただでさえSMはモデル代も高いのだ。そこで素人のカメラマンが縛って撮ることになるのだが、縛りも写真の腕も、その完成度では杉浦則夫に追いつかない。必然的にハードさで勝負するしかないわけで、もっともハードさを追求すると警察に睨まれる。また、東日販系の出版社もすぐに追随して来る。

 SMをよくやっていた版元としては大共社などがあげられるが、専門でなくても多くの版元がSM物は作っている。アリス出版でもSM物は多いが、特に縛り師などは使わず、編集者が素人臭い縛りをしている。SMでも代表的な亀甲縛りなどは、素人でも半日ほど勉強すれば真似事くらいは出来るわけです。ただし、素人の縛りはあまり美しくない。

 むずかしいのは「吊し」とかで、プロのSM女優さんなどは「自分で自分を吊して片足吊りで逆さになって白鳥の湖を踊る」などという超絶テクニックを持っていたりするんだが、アングラ本では素人モデルを素人が縛るので、そんな行為は望むべくもない。

 ライティングにも特徴があり、杉浦則夫はもともとストリップ劇場の照明出身のためなのか芝居っぽいライティングが得意だ。具体的には、左右の背後からスポットで身体のエッジを光らせて「見えてはいけない部分」をシャドーで落とすとか、そういう手品みたいなライティングが得意だった。

 もう20年以上昔になるのだが、僕は一度だけ撮影に同行させて貰った事がある。助手と二人でそれぞれストロボメーターを持ち、ライティング決めると違った角度から手持ちで3カット、また、ポーズとライティング変えて3カット、その都度、メーターで露出を計る。延々とその繰り返しで、その手際の良さは銀座老舗の鮨屋の仕事でも眺めてるみたいに鮮やかだった。当時は「バケペン」と呼ばれるペンタックスの6×7を使っていた。もちろん手持ちで三脚は基本的に使わない。杉浦則夫に限らず、当時の女撮りカメラマンは手持ちが基本で、一日数百カット撮るのだが、同じ写真を何枚も撮るような無駄な事はしない。

 ひとつのポーズで3カット、それも角度を変えて撮るというのが推奨されていて、そのためどんどんポーズや表情とかを変えて行く。

 ペンタックスの6×7というのはハッセルと並んで、当時のカメラマンに愛用されたカメラで、35mmではニコンが多かった。あくまでもおいらの個人的な主観になるが、写真学校アガリの人はハッセル、現場アガリの独学の人はバケペンだったりする。バケペンはニコンと操作が似ていて素人でも使いやすいのだ。もっとも、ハッセル使いの下手糞もいれば、バケペン使いの天才もいる。

 中判と35mmの使い分けは、基本的に中判だが、戸外に限っては35mmも使う、という感じだ。電子製版がほとんど普及してなかったので、35mmからB5見開きというと、一度拡大デュープして、そこからまた拡大製版したりする。それですっかりピンボケにされてしまったりするので、あくまでも中判がメインだ。それも、ほとんどの写真は標準レンズで撮る。エロカメは標準だけで商売が出来る。

 ただし、照明機材はプロ用の高価なものが必要で、スタジオ用の大型ストロボを買わなくてはならない。杉浦則夫のようにSM屋さんだと多灯ライティングが多いので、大型ストロボを何組も買いそろえ、当時は7万円くらいしたストロボメーターも必需品だ。やはりSM撮影の多かった石垣章は、当初アリス出版の機材を使っていたが、カネを稼ぐと最新型のモノプロックを購入していた。本職はカメラよりストロボにカネを使うものなのだ。

もっとも、こうした大型スタジオ用ストロボをエロ本で使えるようになったというのは、1977年頃からですね。松尾書房を見ても、照明に大型ストロボ使うようになるのはその頃です。

ところで、エロ本業界には「鈴木重機」という変わった名前のカメラマンがいるんだが、この人、写真学校卒業してすぐなんだが、大型ストロボ引っさげてエロ本業界に参入しているわけです。この人が、松尾書房に大型ストロボ導入した張本人らしい。また、KUKIがやっていたカメラマン集団である「イエローキャブ」も、同時期に大型ストロボ引っさげて松尾書房で撮ってます。

それまでの、せいぜい500Wのタングステン電球とは桁違いに光量豊富で、カラーフイルムに適したライティングが可能な大型ストロボは、エロ写真業界を革命的に変えるわけです。この時期、前出の杉浦則夫は、国産コメット社のストロボを使っていたようで、光量は少ないながら多灯ライティングが出来るシステムなんだが、そんな歴史の証明として、その使い古しのストロボ、おいらが貰って保管してますw 

ところで、SMの撮影では左右からエッジを光らせるためのスポットが二灯、更に正面から必要な部分に光を当てるためにもう一灯と、最低でも三灯のヘッドが必要になるんだが、杉浦則夫だったらいざ知らず、普通のビニ本カメラマンはそんなにたくさんのヘッドは持ってないし、仮に持っていたとしても使いこなすスキルもないわけで、強引に正面からのスポット一灯だけで撮ったモノが、ビニ本業界では多いです。つうか、杉浦則夫の撮影スタイルというのは、よほどの技量と機材がないと真似すら出来ないわけで、まぁ、いまだに業界では孤高の存在です。

コメント

>二時間続けてクンニ
>二時間続けてクンニ
>二時間続けてクンニ
>二時間続けてクンニ
>二時間続けてクンニ

www

画像もなしにすれたてとな?(AA略~ww)

>ペンタックスの6×7というのはハッセルと並んで、当時のカメラマンに愛用されたカメラで、35mmではニコンが多かった。

今でも報道系はニコンが多いんじゃないでしょうか?
知り合いのブンヤさんが、きちんと対応してくれるニコンじゃないとダメだねと言ってましたが。
芸術系のプロは何故か観音が多いように思います。
プロのカメラマンはモデルを恍惚の世界に導くように思ってます。
婦人科系の秋山庄太郎氏・立木義浩氏・篠山紀信氏は神ですよ。
数年前の10月頃に、週刊現代の表紙を飾った小林麻央の表情は素晴らしかったが、
自分が神と崇めてる写真家では無かったですね残念ながら。
あの週刊誌2冊も買っちゃっいましたね…
あの表情は恍惚の世界に入った後の表情に近いと思ってます。

リングかませればニコンのレンズが使えるってのも面白いですね観音は。
でも自分はニコン派だったり。

 野次馬さん。ビニ本をiPad化すれば儲かりますよw 青空文庫全部が入ってしまうくらいだから、これまで出版されたビニ本全てを入れてしまうことも可能だと思います。

 ビニ本全集入りiPad10万円!!でどうでしょう? 

野次馬先生のこういう仕事をながめていると、

電車でチカンしたり、女子児童に変なことする教師は

本当にアホですねwww

>電車でチカンしたり、女子児童に変なことする教師は

>本当にアホですねwww

趣味を仕事にするのは、やはりたいへんなリスクを負うということなのですネ。
分かりますwww

なんだかうっかりで僕とおいらが混在してますが
おいらになると良い意味で脇に緩みがありますねw

>杉浦則夫

シャドーで陰部を落とすという話から見ても、勘というか非言語感覚の相当強い方ではないかと。
機材量は希求心と必要性の結果なんだと思う。こういう孤高性は求道者特有のモノ。
縛りを兼ねたのも入り口はともかくこの辺が主因では。でないと完成度の高さは続かない。

2000年代初期から中期までは
ニコンはD1・D2がAPSなので
フルサイズのキヤノンが強かったような。

オリンピックなどのスポーツ関連の祭典の現場にはキヤノンとニコンはサポートが来てくれるはず。(他は来ないので2大メーカーに絞られる)

>おいらは利口なので長いレリーズ付けて、
技量が高い人程、ファインダーに執着しないですね。
カメラ買ったらまずリモコン買うべきだと思います。

>本ではいかにも生きたウナギを挿入
「お天気お姉さん」www

興味が湧いて杉浦則夫氏、画像検索して見て回ったのですが
「縛り」に完璧主義が、「光」に理想主義が、と言う感じがしました。
パッと見の陰影は劇画のそれに近い感じがしますが、
もっと巧妙で複点で浮き彫りにさせつつも、複合力で撫でるような世界。
ああいうまさぐるような質感の世界は言葉にして伝え難く、教えるのがもどかしいはず。

でも「芸事」や「道」の名人の世界ってこういうものだったりしますねw
自然に見えるそれが再現できない。技に人が出る。
勘の細かい人や希求心の強い人が「取る」しかないのが名人芸の常。
しかし際立つ美観ですね。「美撫で」というか。

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