きょうの社説 2010年7月20日

◎茶室イベント 金沢の新たな和の魅力に
 金沢市は今夏から、季節ごとに「茶室イベント」を展開する。茶道以外の活用がテーマ で、講演会や読み聞かせなどで茶室の趣や四季の移り変わりを楽しんでもらう。市内には数多くの歴史的な茶室があるが、市が運営する茶室の利用は減少傾向にあり、金沢の貴重な文化遺産が十分活用されていないことは、何とももったいない。

 茶室は、金沢市が国から選定を受けた「重要文化的景観」の構成要素の一つで、茶室の 利用は金沢の文化的景観の保護につながる。茶室の活用策を探り、茶の湯文化が根付く金沢の新たな魅力を発信してほしい。それが多くの人にとって茶道のよさに触れるきっかけにもなろう。

 市内にある大小さまざまな茶室は、華道や美術工芸、菓子文化などをはぐくんできた空 間でもある。一層の活用が課題となっており、これまでも茶室での演奏会などは単発の行事として開かれてきた。今年度は初めて四季ごとにイベントを展開し、継続性を持たせることで、市民の関心を高める狙いがある。美しく、落ち着いた和の空間を生かす試みは、観光客や外国人にとっても金沢の魅力となり、これまで以上に茶室の存在を知ってもらう機会になるだろう。活用の工夫を重ねて、茶室の価値を高めてもらいたい。

 2009年版「石川100の指標」では、お茶をたしなむ人の割合は、華道とともに石 川が全国一だった。これは、けいこ事の盛んな金沢が支えている数値だろう。今回の多彩な文化活動を想定した茶室活用策は、幅広い層の参加が見込まれる機会だけに、その場に茶会も加えて、参加者の関心を高めるような工夫もあっていい。休憩時間などにお茶を味わえば、より印象深い催しになるだろう。茶室をいろいろと使いこなしながら金沢の大事な財産として残し、茶道人口のすそ野を広げていきたい。

 市は今年度から、学生たちの茶室活用などを促す「まちなか茶室ゼミナール等促進奨励 金」制度や「こころの茶室」と銘打った小学生対象の茶会を始めた。若いころから茶に親しめる機会をさらに増やしてほしい。

◎JICAイラク事務所 資源外交の先導役も担う
 政府開発援助(ODA)によるイラク復興支援活動の前線に立つ国際協力機構(JIC A)が、イラクの首都バグダッドの事務所開設に向けて本格的な検討に入った。日本人職員が常駐するJICAのイラク事務所は、欧米や中国などに比べ後手に回っている日本の資源外交、経済進出の先導役や側面支援の役割を担うことも期待される。

 イラクでは昨年、10カ所余の油田開発の国際入札が行われた。欧米メジャーや中国企 業が存在感を示すなか、日本企業では石油資源開発がマレーシアの国営石油企業と組み、同国南部のガラフ油田の開発を落札した。

 日本企業の落札はイラク戦争後初めてで、今年に入り正式調印した。マレーシア企業が 主導権を握っているが、イラクでの油田自主開発の足場を確保したといえる。しかし、新日本石油など日本企業連合が昨年、イラク石油省と基本合意したナシリア油田開発交渉は、イラク連邦議会選挙とその後の連立政権協議の遅れに伴い、頓挫したままである。

 こうした日本企業の動きに連動する形で、JICAは昨年3月、イラク北部のクルド人 自治区に、日本人職員が常駐する事務所を開設し、イラクの火力発電所や上水道などインフラ整備を中心とした円借款事業に取り組んでいる。JICAの現地事務所は、日本のイラク復興支援が自衛隊から民間主導に軸足を移した象徴であり、日本とイラクの経済関係強化の新たな一歩とも言える。

 イラクは日本の一層の復興支援を期待しており、JICAのバグダッド事務所開設の動 きは、日本企業の油田開発交渉の後押しだけでなく、治安・政情不安から資源開発や復興関連ビジネスに二の足を踏んでいる他の日本企業の先導役にもなり得よう。

 ただ、現首相と元首相を中心とする政治勢力の対立で、イラクの新政権づくりは難航し ている。政治空白を狙ったテロがなお続いており、事務所の開設時期については、8月に予定される米軍戦闘部隊撤退後の治安情勢と新政権の行方を見極める必要もある。