きょうのコラム「時鐘」 2010年7月20日

 吉永小百合さんは知らないだろうが、小百合さんの青春の思い出と、北朝鮮の拉致事件が重なる場所が能登半島にある

話はこうだ。1960(昭和35)年、金沢や能登を舞台に日活映画「不敵に笑う男」が撮影された。主役は赤木圭一郎。小百合さんは妹役で、2人は富山の空襲で両親を亡くした兄妹の設定である。宇出津の遠島山公園内の民宿が撮影基地となった

あばれ祭りのころだった。小百合さんもエッセーに当時の思い出を書いているから間違いない。それから歳月は流れ、昭和52年の9月、同じ宇出津の民宿に2人の男が宿泊した。夜中に2人が外出して1人だけが帰ってきた。北朝鮮の工作員だった

消えた男性は東京の警備員でボートに乗せられたまま帰ってこなかった。拉致事件第1号の「宇出津事件」である。事実は映画よりも奇なり。小百合さんらが宿泊してから17年目。舞台は同じでも、昭和30年代と50年代の物語は様変わりだ

「不敵に笑う男」が来月、金沢の赤羽映画祭で再上映される。無論、30年代の映画に拉致事件は登場しない。が、昭和という時代の流れをとっくり見てほしい。