ニュース:国際 RSS feed
【ちゃいな.com】中国総局長・伊藤正 「戦略なき戦略」だって?
宮本雄二駐中国大使は、4年余の任期を終え21日帰国し、丹羽宇一郎大使にバトンタッチする。宮本氏の任期中、日中関係は過去20年来、最も平穏に推移してきたが、今後も波静かとは思えない。中国国内には不満が充満し、その矛先が日本に向かう可能性を考えて情報収集が必要と思われる。
宮本氏が着任した2006年4月当時、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題などで日中の政治関係は冷え込み、好調の経済関係と対比して「政冷経熱」といわれた。その1年前には、大規模な反日デモが発生、北京の大使館や上海の総領事館が襲撃を受けた。中国国内の不満が反日行動になった一例だった。
06年9月に安倍晋三政権が登場した後、関係は急速に修復していった。安倍首相は就任翌月、最初の外遊先として中国を訪問、今日に至るまで引き継がれている「日中戦略的互恵関係」の構築で中国側と合意している。安倍氏は、このときの訪中で日中の共同歴史研究を提案、靖国神社参拝問題については明言を避ける戦術をとった。
中国の政治学者によると、中国側は当時、安倍氏にはかなり警戒的だったという。安倍氏は日米安保体制を安全保障の基本に置きながら、防衛・情報力の強化のため防衛庁を省に昇格、情報省の創設も構想していたと伝えられていたからだ。ある内部報告書は、安倍政権を「明確な国家ビジョンを持ち、将来核保有に向かう危険性もある」と分析していたという。
安倍訪中の直後、北朝鮮が最初の核実験を強行、朝鮮半島情勢が緊迫し、北と直接対話を始めた米国との綱引きが激化する中で、中国は日本との関係強化に出る。翌年4月、温家宝首相が訪日、戦略的互恵関係の発展で合意し、国会での演説では、日本の援助に謝意を初めて表明もした。
中国はこの後、チベットやウイグル族の騒乱、四川大地震など災害に見舞われながら、経済発展を加速、北京五輪や上海万博も無難にこなし、国際社会における発言力を一段と増した。日中の力関係は中国に大きく傾き、「日中2強」時代は過去になり、中国が歴史問題などで目くじらを立てることもなく、冷凍ギョーザ事件でも協力姿勢が目立った。
昨年秋、鳩山由紀夫政権が登場した当時、中国の論壇では大きな話題になった。鳩山氏の日米関係見直しと対中関係重視の東アジア共同体構想が注目されたが、前者は元のもくあみになり、後者は立ち消えになった今日、中国の各種メディアで「日本」が論じられることはほとんどない。ある日本研究の教授は「学生の日本への関心が低く、失業しそう」と笑った。
中国の論争の中心は「米国」である。朝鮮半島や台湾を含む東アジアの軍事・戦略関係、人民元問題など国際金融から遺伝子組み換え作物導入問題まで、多岐にわたるテーマで米国の戦略への対応が論じられている。協調か対決か、相手は米国のみという認識だ。
菅直人政権の対外政策には、明確な国家ビジョンが感じられない。国家戦略局構想も挫折したようだし多くの研究・情報機関が事業仕分けの対象になった。外務省も標的になり、経費節減策で情報収集にも支障を来した。某与党議員によると対中関係は経済オンリーの「戦略なき戦略」だそうだ。
中国は着々と軍事力を強化し、特にその海洋戦略は日本の利益を侵食する可能性が大きい。「戦略なき戦略」などと言っている場合ではない。