口蹄疫:スーパー種牛を殺処分 全国ブランドに衝撃

2010年5月22日 21時20分 更新:5月23日 1時24分

「最善を尽くしてもらった結果だけれど悲しい」と話す忠富士生産者の川越忠次さん=宮崎市で2010年5月22日午後1時36分、川上珠実撮影
「最善を尽くしてもらった結果だけれど悲しい」と話す忠富士生産者の川越忠次さん=宮崎市で2010年5月22日午後1時36分、川上珠実撮影

 宮崎県で口蹄疫(こうていえき)が多発している問題で、「宮崎牛」のエース級種牛6頭のうち、感染の疑いが判明したスーパー種牛「忠富士」は22日、殺処分され、埋却された。他の5頭は経過観察措置とされたが感染の可能性は残っている。同日から家畜へのワクチン接種も始まり、依然として現地は緊迫した状態が続いている。ブランド力を支えてきた最優良種牛にまで感染が及び処分されてしまったことは、宮崎県のみならず全国の畜産関係者に大きな衝撃を与えている。

 忠富士など6頭は、県家畜改良事業団(同県高鍋町)が人工授精用に生産する冷凍精液の主力牛で、国の特例措置で13日に同事業団から約20キロ離れた西都(さいと)市の簡易牛舎に移されていた。牛舎は2メートル四方の部屋が七つあり、高さ3メートルの木板で仕切られている。忠富士は残りの5頭とは1部屋を置き、一番北側の部屋にいた。だが、避難前に感染していたとみられる。

 全国の関係者が心配しているのは、もし残る5頭で感染が確認された場合、同県からの良質な子牛の供給が滞り、国産牛肉の生産基盤自体を揺るがす可能性があるためだ。

 和牛の生産農家は、子牛を産ませて出荷する繁殖農家と、その子牛を買い取って育てる肥育農家に分かれる。前者は生まれた子牛が生後9カ月程度になると市場で競りにかけ、後者は買った牛を20カ月から三十数カ月間育てて出荷するのが基本的な仕組みだ。

 宮崎県は繁殖農家が多く、全国有数の肉用子牛の生産県だ。農林水産省の統計によると、07年8月~08年7月に宮崎県内で生まれた肉用牛の数は繁殖用雌牛を含め約8万6500頭と全国の15%を占め、鹿児島県の10万300頭に次ぐ規模だ。

 宮崎産の子牛は、生育の早さと肉質の良さで評価が高い。宮崎県によると、09年度に県内で出荷された子牛7万7707頭のうち、4万7565頭は県内向けに回ったが、「佐賀牛」で知られる佐賀県に3177頭、松阪牛の産地を抱える三重県に2604頭など、多くのブランド和牛産地に供給された。松阪牛の場合は4割を宮崎生まれが占めている。

 宮崎の種牛から採取された精液は県内の繁殖農家だけに提供されている。県によると、農家の需要を満たすにはストロー(管状の容器)の数で年間15万~20万本が必要。優秀な種牛からは年3万5000本程度の精液が採取できるため、残る5頭が無事なら量は確保できる計算だ。冷凍保存されている精液も約15万本あり、直ちに供給不足に陥ることはない。しかし、他の5頭に感染が広がれば話は別だ。冷凍精液のストックは1年程度で尽きる。

 現地では、やり場のない怒りと悲しみが渦巻く。同県西都市の黒木輝也さん(63)は肥育する約200頭の6割が「忠富士」の遺伝子を引き継ぐ。自身の牛舎でも感染が確認され、殺処分した牛の埋却作業に追われている。「今度は種牛までやられてしまった。もう宮崎の畜産はお先真っ暗だ」と声を荒らげた。【行友弥、古田健治、川上珠実】

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