赤い騎士はたった今、スクラップを造り上げたハンマーを一振りで元に戻すと鼻息荒く肩に構えた。
「これで終わりか。あっけねェな」
「だが、ヒヨっ子に任せるわけにもいかん」
四足歩行で近付いてきた同僚に頷くと振り返り、もう一人の同僚に尋ねる。
「ほかに反応は?」
「うーん・・・。変ねえ・・・」
「まだ残っているのか?」
手元の宙に浮いたディスプレイを見ながら首をかしげる緑の同僚。
幾つか追加項目を添えて周辺地図を拡大、走査したのちに眉をひそめる。
「離れたところにもう一機居たのだけれど、反応が消えちゃったのよ」
「離脱したんじゃねェのか?」
「直前までは把握したのだけれど。いきなり光点が消えてしまって・・・」
二人でう~んと考え込んだのを見ながら、建造物の方を見るもうひとり。
「あいつはどうした?」
「それなら近くに居るわよ。こちらに近付いて来てるけど」
”あいつ”の接近して来るであろう方向を指差すおっとりした女性。
赤い騎士と狼がそちらに視線を向けると、ビルの陰からくだんの人物が姿を現すところだった。
・・・宙に浮かびながら・・・。
「なんだそりゃッ!?!」
「え? 何だって言ってもさあ・・・」
黒いドレスにエプロン、いわゆるメイド服に身を纏った少女。少女というには騎士ヴィータより背は高い。
そばに突っ立ったままの守護獣ザフィーラにも反応がないところを見ると、軽く絶句しているのであろう。
さっきから彼女の足元を見ながらあんぐりと口をあけたままだ。
なんか握った手をわななかせ、言葉を選んでいるであろう騎士ヴィータを見て、
同僚の騎士シャマルだけは、ここは自分が突っ込むべきなのではと思った。
「そのガジェットはどうしたの?」
「OHANASHIして取り込んじゃったけど?」
何でそんなことを聞くのか? と、きょとんとした表情の少女。
守護騎士の一員サクラは、先程取りこぼしたカプセルに似た円錐型機械兵器、ガジェットドローンに座っていた。
さっきはザフィーラやヴィータに積極的に戦闘を仕掛けてきたのだが、それもない。
まるで自分の定位置はココだ。とでもいうようにサクラに椅子代わりにされてても、振り落としもしない。
ヴィータのなにかを我慢している様子を見て首を傾げ、「よっと」とガジェットより飛び降りる。
すると自分の役目は終わったと、レンズを点滅させて周囲の明りのせいで長く伸びたサクラの影へ沈んでいく。
「んじゃ、ガーくん。また用事あったらお願いね」
沈んでいくガジェットに軽く手を振ってにこやかに語りかけるサクラに、ヴィータが爆発した。
「・・・こ、こここここの馬鹿ァ野郎っ!!!」
「えーー」
反面、相手も長い付き合いだ。突然爆発する同僚にも慣れたもので、軽く受け流す。
無駄につま先だけで一回転、スカートをふわりと広げ、にこやかな笑顔でヴィータに接近。
「なんでー? 馬鹿って言った方が馬鹿だと思うのよ。ねぇ、ヴィータ」
「お、お前は仕事終わるまで離れてろって言っただろうがっ!」
至近距離で澄んだ黒瞳に見つめられ、頬を染めてそっぽを向く鉄槌の騎士。
◇ ◆ サクラSide ◆ ◇
私がなんだか良く分からない事情で守護騎士の一員となってから10年がたちますた。
最初はもはや家事手伝い。つまりメイドとして、八神家をはやて嬢と切り盛り。
何の事情も理解しないまま闇の書事件が始まり、魔女っ子大戦を経てリィンフォースの消滅をもって事件終了と。
戦闘能力が無いからって始終かやの外だったね!
無い事も無いのだけれど、私の保有する【機神図書館(マシン・ビブリオテーク)】だと,
管理局法で質量兵器扱いだそうなので余計な罪状が増えたり、故意が無くても死亡者が出たりする可能性があるので
使えなかったそうな。って言うか、私が自己申告するまでそんなスキル持ってるのすら誰も知らなかったらしい。
その代わり、最後の最後にしか会うことが出来なかったリィンフォースについては「主を頼む」と握手された時に
プログラム情報を読み取り、最適化して【機神図書館】へデータをプール。
みんなの悲しみが一段落した頃に「こんなんなりました~」と公開したら、
絶句された後、泣くやら喚くやら喜ぶやら阿鼻叫喚の騒動に。
但し、変質はどうにもならなかったけれど。
私のビブリオ内の子供(メカ)達は私を『主』と呼ぶために、もう二度とはやてを『主』と呼ばなくなってしまった。
でも、はやてはそれでも構わなかったみたいだ。
それから、リィンフォースを参考にしてはやて専用ユニゾンデバイス、
リィンフォース・ツヴァイが作られ、八神家は更に騒がしい場所へ。
リィンが二人だと呼びづらいので、私の方をアイン、八神家の末っ子をツヴァイと呼んでいる。
そう呼称しているのは私だけだが。
シグナムとヴィータとザフィーラとはやては「アイン」「リィン」、
シャマルは「リィン」「リィンちゃん」と呼んでいるみたい。
でも肝心のツヴァイは私のことを「グランマ」と呼ぶのよね・・・。
アインがお母さんで、アインの主だからおばあちゃん、と・・・・・・・・・・・・。
あと私にも多少利益はあった。
リンカーコアが欠片もない私でも魔法が使えるようになったのだ。手順が少々ややこしいけれど。
まずアインを外に出す。
私のアインは消滅直前の夜天の書がデフォなので、そのデータ内には実体再形成前の守護騎士のプログラムがある。
そこから外部ユニットとして疑似リンカーコアを形成。その先の魔力チャージとコントロールはアインに一任。
私は射撃系のPTを自分に憑依。ヴァイスリッター辺りのライフルが丁度いいんだ。
後は弾核にチャージした魔力を装填、射出、
着弾した後にディアボリックエミッションとかサンダーレイジとかが発動するという仕組みです。
もちろん兎集したデータもあるので、
なのはちゃんのSLBやフェイトちゃんの魔法再現も出来るのですが、
疑似リンカーコアのチャージ出力の問題もあるので、
なのはちゃん並みの威力出そうと思ったら、チャージだけで凄い時間ロスに。
時間さえ稼げるのならば遠距離砲台としては使える、というレベル。
なので結果、普通には役に立たないと…orz
機会があったら守護騎士遠距離射撃担当、兼普段はカートリッジ蓄積係になりました。
私自身管理局には所属してないで、ザフィーラと同じく八神はやての保有戦力になっているのだ。
つまり使い魔扱い。当初はコレについてはやてがゴネました。
しかし、私は自己責任とかまっぴらごめんなので、この扱いで十分。
お仕事は、はやてとヴォルケンリッター達の身の回りのお世話。
新しい部署キドーロッカーとかゆー所では、小間使いということになっています。
お仕事手伝えればいいのですが、そちらツヴァイが担当することなので、基本的には自宅待機。
海鳴の実家に残るのも検討したんだけど、家族がバラバラになるのを嫌ったはやてにより却下。
故に普段はキドーロッカー内でお掃除とか、
食堂にお邪魔させてもらって、はやてやヴィータやツヴァイのためにデザート作りとか?
今回のヴィータ達の夜のお仕事も非常呼集とかで。
四人でご飯でも食べに行こうと、誘った矢先の事態だったのです。
「私は街中で待ってるよ~」
とは言ったのだが単体で魔力を持たない私には念話が使えなく、連絡するのが面倒との事なので一緒に付いて来たのですよ。
シャマルの感知範囲内で後方待機だったけど。
アインが念話使えるじゃないかと言われそうなのだが、
アインの存在は旧アースラクルーとなのは&フェイト以外には公表されておらず、
はやての許可がないと私でもそうそう使えない。
なので、街角でぼへーと待っていた所へガジェットが接敵してくるから、
仕方なく私の持つ固有スキルの副産物【機神(マシンマスター)】で魅了→虜→下僕、と三段コンボ。
それに乗っかってシャマル達へ合流したら、何故かヴィータがキレました。
・・・ホワィ?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
最初のうちはヴィータが
「無茶やってんじゃねーよ!」
「BJも作れない奴がノコノコと前線に出てくんな!」
「なんかあったらはやてが悲しむだろーがっ!」
・・・と、説教をしていたのだが。
俯いたまま震えているサクラを見て、顔をひきつらせた。
「なっ! ばば馬鹿やろぅ。こんなんで泣く・・・」
言いかけた言葉は、突然に抱きすくめられた事によって遮られる。
本人的に言うと、 博 愛 固 め !
「サクラッ!? てめー泣き真似かっ!」
「違うよう~。ヴィータのツンデレ全開の優しさに感動した!」
「だから、ツンデレじゃねーって!」
「ああん、この抱きごごち。ハガネ達に匹敵するわぁ~」
「ワケのわかんねー事言ってねーで、さっさと離せ!」
珍騒動を一歩離れた所から見ていたシャマルは苦笑いでそれを眺めていた。
「最近忙しくて会ってなかったけれど。かわりはないみたいね」
問いかけるは、その脇で平然と騒動を見物するザフィーラ。
「毎日楽しそうにあんなものだ。主が加わる事でセクハラ度が倍増するが・・・」
「それは大変そうね・・・。シグナムとか?」
「後はテスタロッサだな・・・」
人型であれば哀愁すら漂ったであろう。背中の寂しさが物語っていた。
珍騒動の方はひとまずヴィータがサクラを引き剥がしたものの、背中から抱くような格好で身なりを整えさせられていた。
「また緊急要請が入らないうちにご飯食べに行こう。あ、ザフィーラは人になってね」
「誰のせいで時間食ったと思ってんだよ。ったく・・・。シャマルもザフィーラも助けろよな」
「楽しそうだったから」
「忙しいからと言ってなかなか帰って来ないから、たまに会うとこうなるのだ。今分かっただろう?」
「アイ~ン、ヴィータが冷た・・・・・・」
「「「呼ぶなっ!!」」」
◇ ◆ サクラ side ◇ ◆
さて、それからいくらか日々が過ぎて、新人くん達が新デバイスで初出動を果たした翌日。
私が朝食後、隊舎の周りを竹箒で掃除しているときでした。
ちなみにこの竹箒、普通にホームセンターで売っていたものです。
まあ材質はプラスチックみたいだけど・・・。
魔法文化でもこういったものは変わらないと実感した。
「サクラさーん!」
そこへチビっ子二人がやって来た。
「・・・エリオくん。キャロちゃん?」
エリオくんとキャロちゃんなのだが、その昔フェイトちゃんが二人の保護者になった頃、
遊び出かける時のお弁当作ったり、一緒に遊びに行ったりで、初対面ではないのですよ。
課開式のとき、制服姿見てびっくりしたけど。
「リィン曹長に居場所聞いておいてよかったです」
「どうしたの二人とも。訓練じゃなかったの?」
「なのはさんがサクラさんを呼んできてくれって」
「・・・・・・は?」
何故訓練にメイドが必要になるんだろうか?
真面目ななのはちゃんが教え子放っといて、ひとり寛ぐなんてしないだろーし。
首を傾げていたら、キャロちゃんが手を引きエリオくんが背中を押してきた。
「行きましょう。みんな待ってますよ」
「早く早く」
「わ、わ、ちょっと待った。片付けてから行くから。少し待って」
訓練場までエリオくん達に引っぱられて行くと、なのはちゃんが満面の笑みで、
オレンジツインテールが何あんた? と言った態度で待っていた。
「「連れてきましたー」」
「ご苦労様」
「魔王様、話が見えません」
「魔王って言わないでください!」
軽く突っ込むが、文句言ってないで理由ぷりーず。
訓練生四人の輪に戻るキャロちゃん達。
青いのとオレンジ色のに何か言われているようだけど、私の素性だろう。
「魔王様の覇業を阻むような呼び出しは、とんと心当たりが無く。何のご用でしょう?」
「魔王関連から離れてくださいっ!」
声を荒げて突っ込むなのはちゃんが珍しいのか、横に立っていた眼鏡のお姉さん唖然としているが。
「はいはい、グランマ。なのはさんをからかうのもそれくらいにしてくださいですぅ~」
「ありゃ、ツヴァイ?」
居たんだ、気が付かなかった。
主に小さいとか小さいとか目立たないとか目立たないとか。
「とりあえず、こちら注目ですぅ」
とか言って全員が見渡せる中空、大体なのはちゃんの目線位を指差した。
ぱきょっとウィンドウが開き、課長室に居るはやてが映し出される。
慌てて敬礼する新人くん達。
苦笑いで手を振り、それを解除させるはやて。
『サクラ?』
「はいはーい! 此処にいまーす。何かご用ですか、はやて。ってか私が呼ばれた説明を下さい」
『まあ、あれや。ちょっとした経験みたいなもんでな』
「・・・はあ?」
『なのはちゃんやフェイトちゃんも賛同してくれたし。リンディさんやクロノ君にも許可取った』
・・・・・・おいおい、もしかして。
『サクラ。オールウェポン使用許可や』
「正気かっ!?」
『本気や!』
「久しぶりに母様に会えますぅ」
つまりこんなとこでそれを言うって事は、エリオ達と訓練しろというのだろーか・・・。
私の【機神図書館】内では割と自由度の高いアインは、
色々と外部からデータを取り込んで、更なるバージョンアップを可能にしている。
「か、母様っ!? なんで小さくなってるんですかっ!」
私の首元、髪の影より姿を現したアインは、ツヴァイ並みの大きさだった。
これは本人からの申告で『チビがまとわりついてウザイ』、ことによって作り出された外部ユニットなのよね。
あれだ、STGの子機みたいなの。
アイン本体はまだ私の『中』に居る。
とりあえずこのユニットも使った事が無く、ぶっつけ本番にやってみるけど。
はやてやなのはちゃんも変な顔して驚いているが、近寄ってきたツヴァイも無反応な子機アインに戸惑い気味だ。
無反応なのはしかたがない。
疑似リンカーコア制御以外の機能、感情とか個性とか要らない部分は削りに削ったと言う戦闘用子機アインなので。
『そんなにツヴァイが嫌いか・・・?』と、これ作ったとき聞いたのだけど・・・・・・。
『母とか呼ばれるのが気恥ずかしいだけです』そんな答えが返ってきた。
間違いなくはやてブランドだこいつ。
まあそんなことはこっちへ置いといて。
「初めての人も居るから名乗っておこう。私はサクラ。ただのサクラ。
見ての通りはやて専用メイド。これはアイン、子機だけどね。」
「こ、子機ですかぁ?」
「そ。ツヴァイがまとわりついてウザイんだって。制御用特化」
「・・・・・・う、ウザイ・・・・・・」
ガガーンと云う効果音とともに灰色の背景背負って、縦線がイッパイ降りてきて、空中で崩れ落ちるツヴァイ。・・・器用な。
「あ、はい! スバル・ナカジマ二等陸士です」
青髪バンダナの子が敬礼しながらデカい声で反応してくれるけど。
わたしゃー左官でもなんでもないから敬礼はいらないんだよ、階級も。
「ティアナ・ランスターです」
「私はシャリオ・フェノーニです。シャーリーって呼んでくださいね。それで・・・」
シャーリーが自己紹介の後、何か言おうとしたのをなのはちゃんが遮る。
「あのね、シャーリー。サクラさんのアインはデバイスと違うから。機器は組み込めないんだよ」
「そうなんですか・・・」
なぜそこで残念そうなんだ?
「スバルちゃんとティアナちゃんとシャーリーちゃんね」
「ちゃん・・・」
気が付いたらはやてのウィンドウ消えてるし、聞くなら一番偉い人。
「なのはちゃん一等空尉白い魔王様、それで私は何をすればいいの?」
「・・・はぁ、もぅいいです」
「ええと、グランマはとりあえずスバル達の仮想敵を勤めてもらいますぅ」
あ、ツヴァイ復活した。
「仮想敵? 4vs1で? それなんていじめ?」
なのはちゃんに視線を向けてみる。
「ええとですね。今の内に一度厄介な相手と戦っておいた方が、
多少なりともこの子達のためになるかと思いまして。宜しくお願いします」
厄介なモノ扱いかい。殆ど虎の子のような、最後の切り札だから。とか、シグナムが言ってたんだけど。
後で将とか鉄槌とかにぐだぐだ言われても知らないぞー。
無言で居たのが拒否宣言と採られていたのか、ツヴァイが駄目押しの一言を。
「グランマに拒否権はないのですよ。何故ならば、はやてちゃんの命令だからです」
「・・・・・・げ」
はやての命令ならば、『守護騎士』の一人として従わない訳にはいかないなぁ。
結局は、訓練場である立体映像から立ち上がったビル街。
ッつーか、どうなってるのよこれ・・・。けったいな科学の進歩だよね。
の、メインストリートとも呼べる交差点の中央に立ち、新人君四人衆を待つことになった。
何でこんな見通しの良い場所で、狙われ易い所を陣地に設定したか、というと。
障害物なんぞ、あっても無くても変わらないからである。
私の右肩には横を向いて、両手を中空に差し伸べる子機アイン。
その延長上に浮く、直径1m程の光り輝く擬似リンカーコア。
左脇にはアインが並び立ち、擬似リンカーコアから生み出された魔力で周囲に十数個のスフィアを形成している。
ちなみに私自身は背中に、十字と丸を組み合わせた金色の背部ユニットを背負っている。
ネオ・グランゾンを憑依させている状態なのだが、これが今のところ自分で制御できる保有戦力ギリギリ。
ちなみに攻撃役アイン。私はG・テリトリー(ギリギリ質量兵器)で防御役。
なのはちゃんとかに例えるなら、自分のリンカーコアを制御→デバイスで効果的に排出。なのだろうけど。
私の場合、擬似リンカーコアを子機アインで制御→アインで更に変換して射出。ってことになる。
『中』より外に出してまともに制御できるユニットが、最大数三しかない。のが問題なのよ。
憑依のネオ・グランゾンで一つ、プログラムを最大限削った子機アインと擬似リンカーコアがセットで二つ。
攻撃役のアインで三つ。これ以上は出せないこともないのだが、鬼が出るか蛇が出るか。
訓練とはいえ、敵対する相手がいるから、攻撃力に特化した何かが勝手に飛び出してくると思う。
ジュデッカとか、クロガネとか、ジガンスクードとか。最悪セプタギンとか出てきたら眼も当てられません。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ちょっ!? なんなのあの人?!」
ティアナ・ランスター達は攻めあぐねていた。
Aランク魔力相当の球体を背後に浮かべた、メイド姿の女性。
隣に立つ、リィン曹長を人間サイズにした目つきの悪い長身の女性。
周囲に浮遊する数百発以上の魔力スフィア。
このスフィアが攻撃防御を兼ねていて、ティアナの誘導弾をことごとく撃墜している。
はっきり言って防御が突き抜けられず、メインターゲットであるメイドまでダメージが通らないのだ。
中遠距離には情け容赦無くスフィアが降り注ぎ、運良く至近弾が通ってもメイド手前で四散する。
しかもあちらはこちら側なんぞ眼中に無く時折、隣の女性に話し掛けては笑みを見せている。
「あんた達あの人知ってるんでしょう? 戦い方とか判る?」
「いえ・・・。私もサクラさんが戦える人だなんて今日初めて知りました」
「僕もです」
フォーメーションを組み直すのに一度エリオとキャロを呼び戻し、尋ねるが有益な情報は得られなかった。
スバルが居ないのは、開始早々に突撃してあっさり無力化されたからである。
相手が十字路の中央に陣取っていたために、前後からスバルとエリオが突撃したのだ。
が、交戦距離まで接敵する直後、二人ともBJ解除、デバイスも待機状態にまでされた。
エリオは転がって距離を取れたが、
足の止まったスバルは良いマトでスフィア数十発の集中攻撃を喰らい路上で伸びている。
しかも地形のオペレートに干渉しているらしく、サクラ周囲のビル街が次々と消えていく。
これについて、なのはに問い合わせたが、あちらは一切手を加えてないとのこと。
「六課の、なのはさん自慢のフィールドシステムに干渉ってどういうレアスキルよ・・・・・・ッ?!」
慌てて散開したティアナ達が居た所に、魔力弾が雨アラレに降り注いだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おーおーおー。苦戦してる苦戦してる」
「あいつらは典型的な『管理局』の魔導士だからな。サクラには傷ひとつ付けられぬだろう・・・」
隊舎の見晴らしの良い場所から、戦闘を眺めているヴィータとシグナムがいた。
長い付き合いの彼女らにはサクラとの模擬戦経験もあるが、
シグナムとヴィータの技量をもってしても、サクラの防御陣を抜くのは至難の業である。
そうこうしている内に、サクラ達の気配が変化を遂げていた。
周囲に浮かべるスフィアが先程より数を減らし、サクラの背面ユニットが五枚の羽に変わり、長いライフルを片手に。
「さっさと終わらせたいらしいぞ」
基本彼女の仕事は、隊舎の掃除やはやての世話だ。
あれでいて毎日楽しそうにしているのを、守護騎士達は知っている。
模擬戦なんぞに時間掛けている暇はないと、言ったところだろう。
しかし、第一射を放たんと向けられた方角を見て、ヴィータとシグナムは顔を引きつらせた。
少し時間を戻して、監督として戦場の各自ステータスを見ていたなのはの方は。
「なんですかこれ? なんですかこれ?!」
目に見えるデータを拾っているシャーリーは、普通ではあり得ない数字の羅列に唖然としていた。
それでも手を止めない辺りは流石と言うべきか。
「あー・・・。サクラさんだからねえ・・・」
つい先程設定したばかりの戦場フィールドが、あちこち書き換えられていく。
コレがシステムにハッキングとして認識されて無いのが、彼女の恐ろしい所であるが。
ちなみに彼女には機械式の通信機を渡し、会話や独り言の一部始終を拾って記録中だ。
アインを中継とした念話にしないのは、アインがサクラの不利な会話を流そうとしないからである。
それでも、戦闘に関わるような事を、全く喋ってないのが彼女の彼女たる由縁か・・・。
『アイン・・・』
『なんでしょう?』
『ツヴァイの事、あんまり邪険にしないであげてね?』
『主が言うのならば善処しましょう』
『・・・もう・・・』
その会話を聞いて滂沱するリィンがいたりするが、なのはは苦笑いだ。
『主、先程の途中作業は私が引き継ぎましょう』
『有難うね、アイン。だったらはやてにお茶いれてくれるかな?』
『・・・・・・・・・・・・』
『・・・ だ め ?』
『わ、分かりました。お茶汲みごとき主の手ほどきを受けた私には、モノの手間では無い事を知らしめてやりましょう』
『うん。お願いね』
この辺りのくだりでフリードがブラストフレアを撃とうとしたが、
誘導弾によりアッパーカットをくらい硬直した後、フルぼっこにされ沈黙した。
「グランマ、手加減無用ですね・・・」
「サクラさんじゃなくてアインさんが容赦ないんじゃ・・・」
なのは手元の戦場フィールド画面がいきなりめぐるましく変化した、
ティアナ達の行く手を遮るように壁が形成され、迷路のごとく地形を変え、逃げ道を無くしていく。
『アイン、射撃モード』
『判りました。防御へ20、80はチャージへ回します』
『最初は何処撃とうか?』
『でしたら、あちらなどどうでしょう?』
『あっちって・・・・・・。烈火のごとく怒られそうだなぁ・・・』
『それも私が引き受けましょう』
『そお? じゃお願い』
『はい』
かくして、何処かで見たような魔法陣で何処かで見たような色違いの砲撃が、
"隊舎から見物していた二名の職員"を掠めて空の彼方へ消えて行った。
『ばばばばばかやろー!!あぶねーじゃねーかっ!!』
『・・・高町。危険行為は監督している貴様にも責任があるぞ』
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"・・・・・・」
即入った抗議の念話に、高町なのは一等空尉様は突発性頭痛を起こし、頭を抱えて現実逃避に走ったとか。
ティアナ達は極大威力砲撃によりあっさり意識を刈り取られ、全滅判定とされた。
「い、いやあ、アインがお茶淹れてくれるなんて・・・。ウチは幸せ者やなあ・・・」
数刻後、課長室ではやてのためにじっくりとお茶汲みに徹するアインがいた。
はやてとしては、満面の笑みでその幸せを噛み締めたいのだが。・・・だが、しかし・・・
【危険行為誘発による監督不行き届き】という始末書が手元にあり、
諸悪の権現の片割れがアインともあって、素直に喜べないでいた。
この一件により、サクラを戦闘訓練行為に関わらせる事案が、無期限停止されることとなる。
ぱちぱちパチ
「ふつーに平和が一番だよねぇ」
きゅくるー
「・・・・・・サクラ。フリードと落ち葉で芋焼いちゃダメだよ・・・」
「フェイトちゃんが冷たいんだよ。せっかくアルフに地球から芋送ってもらったのに・・・」
「ええっ!? し、しょうがないなあ・・・・・・アルフってば。もう」
「フェイトちゃん、騙されてる騙されてるよ・・・」(←滂沱)
終われ
(あとがき)
ごめんなさいごめんなさい。
終わったのに外伝追加しました。
あちこち捏造設定と自分解釈だらけです。