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[20335] 【ネタ】 勘なるかな プロローグ(永遠のアセリア二次)
Name: ルシィマ◆f42dda93 ID:50b61374
Date: 2010/07/16 04:03
  勘なるかな





 超眠い。

 流石に10時間耐久携帯ゲームには無理があっただろうか。

 普段、全くとは言わないがほとんど液晶と格闘しない俺にはハードルが高過ぎたのかも知れない。

 勘違いされる前に言って置くが、俺は所謂引き籠り的なポジションを占めている訳ではない。

 繰り返すが、俺は余りゲームをしないのだ。言い方を変えるならばする暇が無いと言うべきか。

 俺、高嶺悠人は苦学生である。弱冠1○歳にしてペアレントの庇護から完全に弾かれると言う不幸っぷりだ。

 お陰で毎日バイト三昧の充実したハイスクールライフを送る羽目になっている。

 時給850円のコンビニで月15万近くを叩き出す高校生ってのも結構珍しんじゃないだろうか。この年で保険に加入してるんだぜ?

 週休1日(タイムカード上は)の俺には残念ながら娯楽に興じる暇など無いのだ。

 ちなみに両親(義理だが)の残した各種保険はマイホームのローン返済に充てられており、彼ら名義の預金残高は1銭たりとも残っていない。

 起床→学校→バイト→就寝と言う最強の布陣がに囲まれた俺には、青春を謳歌する事は不可能だ。不可能だったのだ。

 だがしかし。冒頭の説明から分かる様に俺はゲームを堪能する事が出来ている。

 別にバイトをさぼったと言う事じゃない。俺の場合生活に直結するのでサボる事自体有り得ないが。

 気付いたら異世界に居た―――おっと、可哀想な子を見る様な目は止めてくれ。俺だって動転してるんだ。

 

 

 遡って説明するならば、発端は数日前の事だった。

 あの日は朝から異常な程に怠かった。どれだけ怠いかと言えば、飲み会で三軒ハシゴして帰宅した時位に怠かった。

 最悪のテンションだった。光陰と今日子の漫才は勿論、犬猿の仲である瞬を前にしてさえ1ミリも気力が上がらなかった。

 流石に無理だと思ったね。根性で6限を乗り切った俺は店長に電話し、かつて無い速歩で自宅にUターンした。

 このままでは公衆の面前でリバースしてしまう。俺の社会的信用に関わる問題なだけに、胃を刺激しない限度内で一人競歩を試みた。

 あと少しだ、あと少しで楽になれる。洗面所に俺の熱い思いをブチ撒ける事が出来るのだ。

 既に悠人ジュニアを出産する事は確定していた。ピッコロ大魔王の如く口腔から息子(ドラム)を吐き出すのだ。便所を使わない所が妹へのせめてもの配慮である。

 内容物を気合いでせき止めながらひたすらに踏み出す。自宅まで1キロ位だ、時間にすれば後―――

 突如、マイスタマックに鈍い衝撃。驚愕に目をひん剥きながら視線を下げれば10前後と思われる少年が転がっていた。

 耐えられたのはそこまでだった。日々、エネルギーを持て余す小学生の全力タックルに俺の胃は白旗を上げていた。

 だが、俺は諦めなかった。屋外で七色の放物線を描くにしても、場所は選びたい。

 高速で首を回し周囲を確認。此処は閑静な住宅街であり、近くに公園は無い。俺の採る手段は一つしかなかった。

 視線の先にそびえるは由緒正しい歴史的建築物、神社だった。何故に都会のど真中にあるのかは甚だ疑問だが。

 まあ、細かい事は如何でも良いだろう。俺の記憶が正しければあそこには狭いながらも草林が茂っていた筈である。

 決断からの行動は速かった。激しくビートを刻む消化器官を押さえつつ、俺は神の寄り処へ駆け出した。

 

 あれ?

 我に返った俺の視覚器官に飛び込んで来た光景は異質の一言に尽きる。

 思わず催している最中である事も忘れ、俺は頭上に無数のクエスチョンマークを浮かべるのだった。

 俺を取り囲むのは森。木木木木草草草。

 別にそれだけなら驚くに値する事は無い。俺が駆け込んだ神社はそれなりに自然を残した名所である。

 しかし俺を中心に広がる植物はリアルに自然だった。無造作に生い茂る草木は人の手が施されていない事は間違い無い。

 何時の間に我が町の神社はロープレチックにリフォームされたのだろうか。それとも余りの体調不良が俺の脳味噌を溶解してしまったのか。

 一体如何したものか。手近にある大木にヘッドッバットをぶちかまそうかと深刻に悩む俺の耳に、

 『―――――――――――』

 聞き慣れない言語が飛び込んで来る。

 声の方向に首を傾けるとそこには一つの影。日が完全に落ちている上に森の奥地である為に捉えづらいが・・・。

 それでも俺は確信出来ていた。淡い月光に照らされるその姿は。

 「―――美しい」

 今迄に見たどんなタレントや女優よりも。

 小学生の頃に憧れたクラス一の美女(餓鬼だが)や中学時代のミスコンよりも。

 天使、そう呼んでも神様は怒らないだろう。ヒトを形取った神の御使いは俺にゆっくりと歩み寄る。

 『―――――――――――』

 目と鼻の先まで近づき、再び紡ぐ。が、人間と言う矮小な存在である俺には理解出来ない。

 分からないでも、何か言葉を返さなければ。言葉のキャッチボールはコミュニケーションの第一歩である。

 意を決した俺は頭一つ分は低いエンジェルと視線を重ねる。うん、天使は瞳も澄み切っている。

 さあ、始めよう。俺は記念すべき第一球を振りかぶり、

 「ヴぉうえぁあああああああおおおおおおおおぇええええええええええ!!」

 ナイアガラの滝の如く勢いで。

 起き抜けから半日掛けて溜めた内容物を一息に吐き出した。

 

 

 



[20335] 第一話
Name: ルシィマ◆f42dda93 ID:50b61374
Date: 2010/07/18 16:02
  第一話





 ― スピリット ―

 

 既に私の頭の中からは当初の目的など完全に消え失せていた。

 今、自分の意識を占めるは眼前の男に対する明確な殺意のみだ。それ以外は如何でも良い。

 思い出すだけでも怒りが込み上げる。

 スピリットとして再生の剣より生まれて幾数年になるが、あれ程の屈辱は経験が無い。

 頭上より散布される濁ったアーチ。余りに唐突であり、不意で有り過ぎた為に回避する機会を失ってしまった。

 結果は言うまでも無い。私の全身は消化不良に終わった食物の残骸に満遍なくコーティングされた。

 最大出力でマナを展開し、付着したそれら自体は完全に弾き飛ばした今も臭いは消えない。

 殺してやる殺してやる殺してやる。

 かつて私を犯した妖精趣味の屑に向けた万倍の憎悪を乗せた眼光を以って男を射抜く。

 楽に逝けるとは思わない事だ。この世界に迷い込んだ事を、世に生まれた事を後悔しながら死ね。

 両刃型の永遠神剣、『憤怒』もきつく握り締める。私の感情を体現する相棒もそれに応え、眩いマナ光を放った。

 

 

 やってしまった。

 俺には野球のセンスは皆無であったらしい。悶絶級の大暴投である。

 エンジェルの全身がふるふると震える。流石にゲロをぶっかけられて平然と出来る聖人は存在しない様だ。

 如何言う仕組みか知らないが全身が発光し、何時の間に取り出したのか肉厚の大剣をぶっ殺したらぁとばかりに構えている。

 竹光じゃぁ無いよなあれは。明らかに銃刀法違反な真紅の獲物は中坊の時に押しつけられた光モノと似た感覚がある。恐怖の度合いは比較にならないが。

 クラスチェンジ(フォールアウト)しつつあるエンジェルに刃を突き付けられたこの状況。

 これが日常生活に疲れた脳が見せる幻覚なのかは分からないが、何れにしても命の危機には違いない。運動神経に多少秀でるだけの人間には荷が重過ぎる。

 謝ろう。黒化しているとは言え、元は神の使いだ。流石に土下座する相手をばっさりやる様な魔王にはならない筈。

 意を決した俺は最大限の誠意を見せるべく、漢の生き様を見せようと―――

 突如腰が鉛の様に重くなる。まるで界王星に初めて到達した時の悟空の様に俺は地べたに叩きつけられる。

 なんだなんだ。行き成り体感Gが10倍になったとでも言うのか? 俺はベジータに挑む予定は無いんだが・・・。

 異常の羅列とも言うべき状況を掴むべく首+目玉を縦横無尽に動かしていると、身体の一部に異変を確認する。

 矢張り此処はファンタジーなのか、悠人は何時の間にか剣を装備していのだ。純粋に腰に鉛が括り付いていたらしい。

 このままでは起き上れない上に背中に凶器を突き立てられてしまうので、急いでベルトを引き抜き剣を取り外す。

 牛革の束縛から解放されると、身体が雲の様に軽くなる。重力の枷から解放された俺は背筋に力を入れ、

 いや待て。念の為に拾って置こう。説得に失敗した時の為に武器を確保して置いた方がいいだろう。

 俺は無骨な奇剣を得を握り、屈伸運動の力を最大限に利用して思い切り引き上げる。

 「よいっ、しょぉおっとぉお?」

 何とか立ち上がったのは良いが、手元に鈍い衝撃が。

 今度は何だと思うと直ぐ前で蹲る美女の姿を確認する。何と言う事か、勢い余って顎をかち上げてしまった。

 天使の身体の構造は分からないが、顎と言えば人体の急所である。どれだけ鍛えても(鍛えられるのか?)痛いに決まっている。

 これは本格的に不味い。このまま戦闘不能になってくれれば俺の心が痛い事以外は問題に無いが、足元の天使は非戦闘員ではあるまい。

 あのベルセルクっぽい剣からして戦女神とか、バトルエンジェルに類する存在だ。この程度で経験値を得られるとは思えない。

 如何しようか。最早謝罪など無意味所か必殺級の隙にしか成り得ない。死神にパワーアップした元天使はピヨリ状態。

 ―――ならば事は容易い。俺は美人は大好きだが、同時に容姿が優れているだけで調子を扱いている阿呆は嫌いだ。

 チャンスは今しかない。俺は頭上に固定した剣――暫定的にエクスカリバーとしよう――を重力に抗う事無く無慈悲に振り下ろした。

 これって緊急避難か、正当防衛。どっちになるのかなぁ。

 

 

 ― 再びスピリット ―

 

 何だと?

 完璧に討ち取った、そう確信した一撃は空気の壁を貫くに終わる。

 全力とは言えないが相当量のマナを注ぎ込んだ筈だ。それを、人間が避けた?

 情報に因れば奴は未だに神剣に覚醒してはいない。如何にエトランジェとて、剣が無ければ人間と大差はない。

 正確に言うならば常人よりは優れていると聞くが、少なくとも神剣を解放をしたスピリットに抗う事など不可能だ。

 私は推測する。つまり、奴は既に目覚めているのか? 私に感知させない程度に力を抑えているのか?

 そうだとすれば納得が行く・・・いや、そうとしか考えられない。

 驕る訳ではないが、私は有象無象のスピリットでは無い。第七位以上にのみ許された皇室特務隊に所属しているのだ。

 飼いならされた人形共如きならば分からないが、我々に人間が勝るなど万に一つも有り得ない。

 あの一連の行動は私を欺くフェイクだった訳だ。そして、私が油断した所を狙う腹積もりだったのだろうが・・・。

 この私を凡夫共と同列と思うなよ。皇室特務第五席、インフェリア・レッドスピリットを。

 私は今度こそ対象を殲滅すべく神剣を構え、

 「侮ったな、エトラン―――」

 喋る事が出来たのはそこまでだった。私が再び奴に注意を向けた時には、既に奴は。

 脳が激しく揺す振られる感覚。少し遅れて、顎に痛烈な痛みが走る。

 死角からの、全身の力を収束した急所への奇襲に。私は受け身を取る事すら出来ず、くずおれる。

 く、そ・・・。侮っていたのは。私、か・・・。

 何とか意識は保ったものの、全身が完全に弛緩してしまっている。これではマナを練る所か、まともに動く事すら出来そうにない。

 僅かに視線を巡らせれば、私の顎を穿った獲物が徐々に迫って来ていた。

 これが走馬灯と言う奴なのか。私はやけにスローに近付いてくる死神を他人事の様に見つめ・・・。

 

 

 


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