「プログラマ35歳定年説」はご存じでしょう。35歳になると単価も高くなるし、体力もきつくなってくるのでPMや営業にキャリアチェンジを迫られるという話です。これまでの「プログラマ35歳定年説」は35歳という年齢がポイントでした。もちろん、大事なのですが今年になって1975年生まれの自分が35歳になるに至って、もっと深い意味があるのではないかと気づきました。
今の35歳はインターネットともに育った世代
75/76世代と呼ばれるように、1975年生まれのエンジニアは日本のインターネット創生期からWebアプリケーションに魅せられました。大学に入学(1994年)するとインターネットとメールが与えられ、MozaicでNASAのページを見ていたと思ったら、Yahoo(1994年)、Amazon(1994年)、そしてGoogle(1996年)が創業。就職活動もインターネットで行い、会社に入ればEコマース全盛、DoCoMoがiモード(1999年)をスタートすれば携帯サイトも花盛り。日米の株式市場ではインターネットバブルが起こり(1999年末)、すぐに収束(2001年)していました。
仕事はダウンサイジングとオープン化の流れで汎用機(ホスト)やCOBOLってなんですか?は当たり前。クラサバをちょっとやっていたら、1999年にはサーバサイドJavaの定番といえるJ2EEが登場。Blueprintを真似して、いまとなっては痛々しいフレームワークを組み、そうこうしていたらStruts(2001年)が登場、Hibernate(2003年)でORマッパーブーム、Inversion of Control が Dependency Injection になった(2004年)りして。あぁ、懐かしい。
こうした変化の先端で走っていた僕らの世代はやりたい放題でした。技術が一気に切り替わったので、周りも知らないことだらけ。バブルもあったので失敗を怖れずプロジェクトが立ち上がったように思います。自分たちで新しい技術への挑戦し、失敗したり、成功したり、もう、好き勝手。
35歳定年を年齢でなく時代から理解する
で、2010年。そんな僕らも35歳。ひと回り年下の"ゆとり世代(第1期)"が入社してきました。世の中はリーマンショックから立ち直れ切れておらずプロジェクトには安全確実が求められ、技術のトピックスはクラウドやモバイル端末。ソフトウェア作りはサービス提供の時代になったのです。今や技術を作ることよりも、使うことに価値がおかれつつあります。
そう、技術の変わり目が来ているのです。あの頃のように。技術の変化は冷酷です。個人のスキルや体力の問題ではなく、世の変化だから。それまでのコダワリを捨て、新たなステージへと飛び込むマインドセットを持っているかが重要なのです。年齢なんか関係なくスタートラインからやり直し。当時の僕らが先輩どうこうではなく学んだように。
そもそも、35歳といえば気力も充実しているし、体力不足は補って余りあるものです。「これまで培った能力を発揮する」ことについては最高の年齢と言えるでしょう。しかし、一方では「まったく新しいことにチャレンジする」ことが難しくなる年齢です。しかも、それを「状況に負けてしかたなく」ではなく、前向きにトライするのは大変な努力が必要になります。
つまり、そういうことなのです。いわゆる「プログラマ35歳定年説」は、いまから12-5年前に技術の中心がインターネットへと変化していった時、そこについていけないために引退したプログラマが35歳付近だったというだけなのです。
もうお分かりですね。そうです、2010年から「新プログラマ35歳定年説」が生まれるのです。これから起きる(もう起きている)技術の変化に対してついていけない35歳付近のプログラマが大量に引退させられる。
クラウド、仮想化、モバイルデバイス、マルチコアとか勉強していますか?むしろ、使って遊んでますか?やってないなら危険領域です。「信頼性が足らないから使えない」とか言っているなら症状が重いですね。あと「最近の若い奴は...」もね。
話はこれで終わりません。12年前は業界として人数が少なかったし、仕事は増えるばかりでした。だから、会社の中でスキルチェンジしてPMや営業になればよかった。でもね、いまやエンジニアの数は数十倍に膨らんでしまいました。しかも、案件は縮小傾向にある。そんなにPMも営業もいらないんですよ。さらにフリーランスという形態では会社としての雇用保障やスキルチェンジができない人も多い。
以下のような人が危険です。
・30才を過ぎてもプログラミングが仕事の大半
・50人月以上のPM経験がない
・小規模SIerに所属するか、フリーランス
・運用や足回り(ミドルウェア、インフラ、OSなど)の経験がない
・もちろん、営業経験もない
中規模以上のSIerでも「あの人は技術に強いから」という理由でプログラミングだけをやってきたような人、インフラやミドルをやったことがあったとしても小規模で全部自分1人でやってきたような人も危険領域です。
どう生きていくべきか
今は技術の変わり目なので旧世代のエンジニアも重宝されます。古いシステムはすぐにはなくなりません。でも、5年ぐらいするとニーズが減ってきます。そこら辺が本当の分水嶺。だから、この5年くらいで何かをやっておかないと飲み込まれる。
今年になってから、こういった悩みを聞くことが増えました。皆さん危機意識はお持ちなんですよね。
ありきたりなアドバイスですが、これまでと違うことをして、違う人と話すことが大事です。もちろん最初は苦労も多いから「なんでこの歳になって」と思うこともあるでしょう。でも、そういう変化を怖れる気持ちがプログラマ35歳定年説の原点なのです。
なんでもかんでも挑戦したあの時と同じようにすればいい。知らないことを学ぶ楽しみを思い出しましょう。達成してしまえば、苦労なんて吹き飛んだでしょ?習うより、慣れろですよ。
転職も悪くないアイデアです。でも、雇う側も余裕があるわけではありません。これまでのキャリアを活かしてもらうために雇うわけだから、あまり違うことができない可能性の方が高い。もちろん、場が変われば色々とチャンスが拡がります。でも、変化を場に期待しているだけでは何も変わりません。変わるべきは"あなた"です。そのための転職でないといけない。
明るい話を。幸いなことにITがなくなることはありません。おそらくIT業界は縮小しますが、それは他の業界にITが融けていっている証拠です。ですから、これまでIT系でキャリアを積んできた人には、かなりの可能性があります。ただし、IT業界だけの視点を持っていてはダメなのです。
残念ながら時代は移り変わっていきます。それに対して自分も変化しなくてはいけない。それは僕らの世代の宿命なのでしょう。宿命であれば受け入れるしかない。その上でいかに生きるか。皆さんとともに頑張っていきたいものです。