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【社説】

最低賃金改定 まず時給800円実現を

2010年7月19日

 今年の最低賃金改定は政府が最賃の目標数値を設定したり企業業績も回復するなど、追い風の中にある。企業側は引き上げに難色を示すが、賃金を底上げして暮らしと景気を確実に回復させたい。

 前三月期決算で一億円以上の報酬を受け取った上場企業の役員は二百人以上−。そんな世界とは懸け離れた苦境に置かれているのが低賃金で働く労働者だ。こちらは一円、十円の賃上げに生活が懸かっている。

 最低賃金は国が賃金の最低水準を決め、使用者はそれ以上の賃金を労働者に支払わなければならない制度である。生活保護、基礎年金とともに国民の暮らしを守る安全網の一つとなっている。

 毎年七月末をめどに中央最低賃金審議会が地域別最低賃金の引き上げ幅の「目安」を答申。その後、地方最低賃金審議会が地域の実情を踏まえた最賃額を決める。効力が発効するのは十月以降だ。

 現在の最賃は全国加重平均で時給七百十三円。東京都が七百九十一円で一番高く愛知県も七百三十二円と高めだ。最低は長崎、佐賀、宮崎、沖縄各県の六百二十九円。地方との格差が目立つ。

 最賃は生活保護の給付水準(時給換算)を下回ってはならないことになっているが今年は千葉、秋田両県が加わり、東京都や埼玉、神奈川、北海道など全国で十二都道府県で逆転現象が起きた。

 こうした状況の中で、今年は政府が最賃の目標を示したことが特徴だ。六月に閣議決定した新成長戦略では最賃について「できる限り早期に全国最低八百円を確保し景気状況に配慮しつつ全国平均千円を目指す」と明記した。「雇用戦略対話」でも確認している。

 ただ、最賃引き上げの鍵を握る中小企業の姿勢は厳しい。景気回復と業績好転は好材料だが、最賃アップはコスト増となり事業縮小や倒産を招きかねない。海外委託にも拍車がかかる−と、地方ほど抵抗感が強い。

 経営者は冷静に考えてほしい。最低水準の賃金を払えない企業に将来はあるのか。時給八百円が実現しても、年間二千時間労働で年収は百六十万円である。

 千葉県野田市のように、自治体が発注する公共事業や委託事業で受注企業に対して最賃以上の賃金支払いを義務付ける「公契約条例」を制定したところもある。

 民間労働者の賃金水準を確保して官製ワーキングプア(働く貧困層)の発生を防ぐ動きだ。国レベルでも検討してもらいたい。

 

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