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2010年7月19日(月)付

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改正移植法―それでも現場に残る課題

脳死になったときに、移植のために臓器を提供するかどうか、本人の意思がわからないときでも、家族が同意すれば提供できる。そんな改正臓器移植法が17日から全面施行された。書面[記事全文]

日中間M&A―強みを生かす融合の時代

日本企業に対する中国企業の合併・買収(M&A)の動きが活発化してきた。高級衣料のレナウンが中国の大手繊維メーカーの傘下に入ることもその一例で、日中間の経営融合が進む時代の到来を象徴している。[記事全文]

改正移植法―それでも現場に残る課題

 脳死になったときに、移植のために臓器を提供するかどうか、本人の意思がわからないときでも、家族が同意すれば提供できる。

 そんな改正臓器移植法が17日から全面施行された。書面による本人の同意などの厳しい条件を定めていた旧法からの大きな転換である。

 臓器移植法ができた1997年以来、脳死からの臓器提供は86例で、諸外国に比べると少ない。条件を緩やかにすれば増えるはず、という声に押されての改正だった。

 15歳未満の子どもからの臓器提供にも道が開ける。心臓などの移植を受けるには海外に行かざるを得なかったが、世界保健機関(WHO)が国外での移植の自粛を求める指針を採択したこともあり、対応が迫られていた。

 しかし、法律が変わっても、医療現場に残された課題は多い。

 全国の臓器提供病院を対象に朝日新聞が行ったアンケートによれば、子どもからの臓器提供にただちに対応できるとした病院は15%にとどまり、今後対応する予定の病院を合わせても40%しかなかった。

 子どもの脳は回復力が強く、脳死判定には時間もかかる。脳死が虐待を受けた結果ではないと確認する必要もある。余裕のない医療現場への負担が大きくなることが背景にある。

 また、家族にもこれまで以上の負担が生じる。本人が拒絶する意思を示していない限り、臓器提供について家族が重い決断を迫られるからだ。

 ふだんから家族で話し合い、一人ひとりが意思を示しておくことが一段と重要になる。決して十分ではなかった改正案の審議の中でも、本人意思を尊重する旧法への支持は強かった。運転免許証や健康保険証などにも意思表示の欄が設けられる。それらも考えるきっかけになるだろう。

 もちろん、家族が提供への心理的圧力を受けるようなことは決してあってはならない。中立の立場で家族の判断を助け、提供した家族を支える移植コーディネーターの役割もいっそう重要になる。そうした人材を育てて増やすなど、支援態勢の充実も課題だ。

 一方、納得して臓器提供ができるには、救命のための治療が尽くされることが大前提だ。日本ではとりわけ小児救急態勢が貧弱で、1〜4歳の死亡率は先進国の中で際だって高い。救急医療の充実は、移植医療以前の喫緊の課題であることはいうまでもない。

 改正された法の中で、親族への優先提供を認めている部分は1月から施行されている。医学的な必要性に応じて順番に、という移植医療の公平性の観点から懸念も指摘されている。

 法の見直しも含め、信頼されるシステム作りに向けて、やるべきことはまだまだ少なくない。

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日中間M&A―強みを生かす融合の時代

 日本企業に対する中国企業の合併・買収(M&A)の動きが活発化してきた。高級衣料のレナウンが中国の大手繊維メーカーの傘下に入ることもその一例で、日中間の経営融合が進む時代の到来を象徴している。

 経営再建中のレナウンは、山東如意科技集団から4割の出資を仰ぐことなどを臨時株主総会で決める。

 レナウンは百貨店依存の古いビジネスモデルから脱却できず、新興勢力に押しまくられてきたが、有名ブランドや優れた品質管理力をもつ。

 一方の山東如意は、独自の紡績技術を基に高級毛織物で強みを持つ半面、衣料の製品企画力やブランド戦略のノウハウではなお弱さを抱える。

 双方が補い合い、中国市場の開拓と日本でのビジネス変革を進める。「兄弟のような」と両社トップが語る協力関係を築き、日中間の新しいM&Aの良き先例となってほしい。

 以前は日本企業が中国企業を買う一方だったが、リーマン・ショックで流れが変わった。成長を続ける中国企業が、技術やノウハウを持ってはいるが経営難にある日本企業を買うようになった。M&Aを通じた日中の経営融合は、もっと起きていい。

 「日本の技術が流出する」との警戒感もあるが、本当に譲れない分野なら取引先の連帯や、場合によっては政府の支援などで守ればいい。

 むしろ日本企業が蓄えてきた技術やノウハウをもっと生かす道を切り開くためには、M&Aに前向きに取り組むべきではないだろうか。

 とりわけ中国市場に溶け込むには、経営の中から国境を取り除く効果が期待できるM&Aを通じて、中国側に理解者を増やすことを考えてはどうか。日本の技術や感性の「良さ」への評価を広げ、中国の豊かさにも役立つことを示すのが近道だ。

 中国の小売業などの連合体の傘下に入った本間ゴルフでは、職人技で作られた数百万円もする高級クラブセットに中国側が惚(ほ)れ込み、富裕層に向けて売ろうとしている。

 「融合」は日本での事業にも新風を吹き込む。家電量販店ラオックスの経営は、南京市の蘇寧電器集団の傘下に入ったこの1年余で激変した。

 東京・秋葉原にある本店は国際化の最先端を行く。116人の店員の6割は中国、ロシア、ブラジルなどの外国人。23の言語で顧客対応できる。縮小一辺倒だった流れを逆転した。

 中国に進出した日本企業の間でも、中国人を経営上層部に登用する動きが広がり、融合は進みつつある。

 中国の古典「易経」に「窮すれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」とある。変化に対応して未来への展望を開くには、互いの長所を生かした「融合」の道を極めることが大切だ。

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