今場所全く危ないところを見せない白鵬が、時天空相手にあわやというところまで追いこまれた。時天空という力士は、勝つにしても負けるにしても、勝負に尋常ではないものを持っている。それを一気に繰り出すような攻めを出すので、油断ならないところがあるのだ。
この一番、物言いがつくような決着にはならなかったが、見ている角度によっては、時天空有利と見える方角も、なかったといいきれない。そう感じとった方も何人かはいたのではなかろうか。
ちょうど中日で、白鵬の相撲がさえにさえてきていて、一瀉千里の勢いで、難敵をことごとく倒してきている。ころあいとしては、いかにも、けが負けの悪運がとりつきそうなころあいであった。
しかし、白鵬がこのところにきて大きな変化を遂げたことを上げれば、尋常な負け方をしなくなっていることだろう。この一番でも、危なく右を自分を救い出す時の強さを見せ、際どくまきかえまで総動員し、勢いを取り戻しにかかっていた。
尋常な負け方をしなくなったというのはこういった勝負を克明に拾い上げて行くことでもあるのだ。
勝負師の強さとは、毎度毎度相手を完膚なきまでに、打倒するだけではなく、いつの間にか相手を攻めにくい立場に追いこんでいる、これがコツだと思う。
白鵬にはその面が実に巧みである。今場所も前半戦は、文句をつける余地もなかったのだが、なぜか、ふとした油断が、ここへきて顔を出したのだろうか。元来、白鵬には時にこういったうかつな一番を取るところがあるのだが、場所ごとに、日ごとに完璧さが増してくるので、この一番、ひどく珍しいものを見せられたように感じた。
豊真将がまだ勝ち続けたままで中日を迎えた。横綱大関は別にして、誰が勝ち残っていくのかと思ったら、その大関が一番先に勝運から見はなされた。倒した相手は鶴竜で、いかに大関が鶴竜のうまさを持て余したという感じだ。しかしまだ一敗で、先は長い。琴欧洲もぴったりつけていくことを祈る。 (作家)
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