ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第十四話 正直者の狼少年
<ボース市街 遊撃士ギルド>

シェラザード達を見送ったエステルとヨシュアとアガットの3人は、遊撃士ギルドに戻って来た。

「おい、爺さん。手配魔獣のリストは回って居ないか?」
「ふぉっ、ふぉっ、お前さんが倒してくれたおかけで、手配魔獣の情報は届いておらんぞ」

アガットに質問されたルグランは笑いながらそう答えた。

「それにしてもお前さんは魔獣退治の依頼が好きじゃな。もうちょっと別の依頼も引き受けてくれると助かるのじゃが」
「そんなもん、グラッツやアネラスでもこなせるだろうが」
「仕事に好き嫌いなんて言っていいの?」
「俺は仕事を選んでいるだけだ、適材適所って言うだろ」
「アガットさんの指導を受けるとなると、魔獣退治ばかりになりそうですね」
「なんだヨシュア、お前それは皮肉か?」

アガットにすごまれたヨシュアは少し怯えた表情になって謝る。

「あ、す、すいません……」
「アガットさんって不良顔負けの怖い顔するのね」
「そりゃそうじゃ、アガットは元不良じゃしな」
「ふーん、そうなの?」
「うるせえ、魔獣が居ないならこちらから探しに行くぞ!」

ギルドに居づらいと思ったアガットは、外に出て行こうとする。

「まったく、アネラスが来るまで待っておれんのか、鉄砲玉が」

ルグランはそう言ってため息をついた。



<ボース郊外 琥珀の塔>

アガットの巡回コースの一つとして、琥珀の塔を登らされることになったエステルとヨシュア。

「朝からハードね~」
「体力が着くし、地理の勉強にもなって一石二鳥だろう」
「確かに、知らない土地だから自分の目で確認するのは大事だってシェラザードさんも言ってましたけど……」

そんな時、塔の中に男性の悲鳴が響き渡った!

「上からだ! お前ら、全力でついて来い!」

アガットを先頭に階段を駆け上って行く3人。
屋上に着くと、眼鏡をかけた青年が魔獣に取り囲まれて襲われていた。

「アルバ教授じゃない!」
「た、助けて下さい……」
「オクトボーンか、こいつはやっかいだぜ」

アガットは魔獣の姿を見ると舌打ちした。

「てやぁ!」

アガットは手前に居た2匹の魔獣を切り裂いて叩き伏せた。
アルバ教授とアガット達の間に道が開けたかのように見えたが、側にいた魔獣が分裂してまた行く手を塞いでしまった。

「こいつ、倒した側から分裂しやがる……!」

アガットは悔しそうにそう漏らした。

「エステル、この魔獣って、ボースの街に来る途中で遭った魔獣と似ていない?」
「そういえば、そうよね」

ヨシュアとエステルは顔を見合わせると、頷いてからアガットとアルバ教授に呼びかけた。

「アガットさん、アルバ教授、なるべく今居る場所から離れて下さい!」

そういって、ヨシュアとエステルは呪文の詠唱を始めた。

「ヘル・ゲート!」
「エアリアル!」

範囲魔法がさく裂し、数匹の魔獣がそれに巻き込まれて力尽きた。
そのタイミングを逃さず、アルバ教授がエステル達の元にたどり着いた。

「助かりました~」

残る敵もエステルとヨシュアの範囲魔法で片付いてしまった。

「ふふん、どう? あたし達の実力は」
「アガットさんもアーツを使った方が良いですよ」
「範囲魔法を使ったところはほめてやるが、調子に乗るなよ。俺だってドラゴンダイブが使えれば、やつらを一掃することだって……」
「あれって、地面に凄い衝撃が走る技じゃない?」
「それは止めて下さい、重要文化財であるこの塔が壊れてしまいます」
「わかってる、だから俺は止めたんだって」

アガットは心配そうな顔なアルバ教授にそう言った。

「で、アルバ教授はまたブレイサーを雇わずに一人でこんな所に来たんですか」
「すいませんね、何せ金欠なもので」
「教授ってそんなにお給料が少ないの?」
「そんなわけは無いのですが」

ヨシュアとエステルと話しているアルバ教授は気まずそうにそう話した。
アガットは何かに気がついたかのようにアルバ教授の服のにおいをかぐ。

「ピッカードレース場のにおいが染み付いているぜ?」
「あはは、バレてしまいましたか」
「研究費や旅費をギャンブルに使ってしまっていたんですね……」
「まったく、あきれたわ……」

エステル達はため息をついてアルバ教授を見つめた。

「まあいい、文無しから依頼料はとれねえ、街まで送り届けてやるからついて来い」
「ええっ、もう帰るんですか? もうちょっと調べさせてくださいよ」
「タダ何だから文句言うんじゃねえ!」
「ひええ!」

アルバ教授はアガットに引きずられるような感じで、ボースの街に連れ戻された。



<ボース市街>

ボースの街にエステル達が戻ると、街はハーヴェイ一座の興行があると言う事でいつもより盛り上がっていた。

「やあ、アルバ教授じゃないか」
「あれ、フルブラン君ではないですか」

エステル達と一緒に居たアルバ教授に気がついたハーヴェイ一座の一員であるフルブランが声を掛けた。

「アルバ教授って、フルブランさんと知り合いだったですか?」
「王都の博物館で会った時、芸術を追求する者同士、親しくなってしまってね」

ヨシュアの質問にフルブランがそう答えた。

「俺にはついて行けん……」

アガットは2人のオーラに引いてしまっているようだった。

「あはは、そんなこと言って、カジノ友達じゃないの?」
「うっ」

エステルに図星を指摘されたのか、2人のオーラが消え去ったかのように感じられた。

「とりあえず、私はブルブラン君のところでお世話になります、送っていただいてありがとうございました」
「もうカジノはほどほどにしておきなさいよ」
「はは、次回は許してもらえそうにないですね……」

アルバ教授はエステル達にお礼を言って、フルブランと一緒に行ってしまった。

「んじゃ、ギルドで依頼が入って居ないか確認するぞ」

エステル達がギルドに行くと、商人風の男性が受付のルグランと話していた。

「おお、良い所に戻って来た。こちらのハルトさんがラヴェンヌ村までの依頼をお願いしたいそうだ」
「ラヴェンヌ村か……」

アガットは少し渋い顔をした。

「そういえば、アガットは家がラヴェンヌ村にあるのに、ボースのギルドの宿舎に泊まっているわよね?」
「ラヴェンヌ村からギルドまで遠すぎるだろう。……それに村に居ると、いろいろうるさいからな」

フンと不機嫌そうに鼻を鳴らしてアガットはギルドの戸口に立つ。

「仕事だから仕方がねえ、行くぞ」
「よろしくお願いします」

エステル達は商人のハルトを護衛しながら西ボース街道を進み、ラヴェンヌ山道を登って行く。
狭い山道に差し掛かると、ヒツジンの群れが前後から迫ってくるのが見えた。

「後方を守らないと!」

エステルが後ろに向かって走り出すと、ヨシュアは慌てて引き止めた。

「ダメだよエステル、戦力を分散させちゃ!」
「ちいっ、突破するタイミングを失ったか!」

エステル達はすっかりとヒツジン達に取り囲まれてしまった。
しかし、突然砲撃の音が辺りに鳴り響き、驚いたヒツジン達は逃げて行ってしまった。

「いったい、何が起こったの?」
「上だよエステル」

ヨシュアが指差す方を見ると、エステル達の頭上をリベール王国の警備飛行艇が飛んで行った。

「警備飛行艇が通りかかってくれて助かったぜ」
「ごめん、あたしの判断ミスのせいでピンチを招いちゃって」
「ああいう時は戦力を集中して正面突破を図るべきだよ」
「ヨシュアの言うとおりだ、まあ反省する点が分かっているなら良い」

アガットはそう言うと、警備飛行艇が消えて行った空を見つめる。

「しかし、何で警備飛行艇がこの辺りを巡回しているんだ?」
「村で何かあったのかもしれませんよ」
「嫌な予感がするな、急ぐぞ」
「了解!」

エステル達は護衛対象のハルトに気を遣いながらも、ラヴェンヌ山道を急いで進んで行った。
村を見たエステル達はその光景に唖然とした。
果樹園の木々がなぎ倒され、果物が食い荒らされていた。
半数以上の樹が被害を受けていて、村人達は嘆いている。

「何て事だ……私はラヴェンヌ村の果物を仕入れに来たと言うのに……」

ハルトが失望しきった声でそう言った。
アガット達3人はすぐに言葉は出て来なかった。
戸惑い、怒り、悲しみ、様々な感情が胸の中で渦巻いていた。

「あ、お兄ちゃん!」
「ミーシャ、一体何があったんだ」

入口に立ちつくすアガット達にアガットの妹のミーシャが気付いて声を掛けた。

「羊みたいな魔獣がたくさんやって来て……果樹園の果物を荒らして行ったの……。止めようとした村の人達は突き飛ばされちゃって……」
「そうか……またあいつらの仕業か」

アガットはそう言うと、苦々しい顔になった。

「あっ、アガットも来てくれたの?」

そこに以前食事をご馳走して貰った宿屋の女主人リモーネが通りかかった。

「偶然、護衛の依頼で来ただけだ……そうだ、このおっさんがずいぶんショックを受けちまったみたいだからお前の店で休ませてもらえないか?」

ハルトは自分一人では立っていられないほどショックを受けていた。
エステルとヨシュアはハルトに肩を貸して宿屋まで連れて行った。

「それにしても、果樹園が魔獣に荒らされるなんてあの時みたいね」
「あ、リモーネさん、その事は……」

ミーシャは気まずそうにアガットの方を見て制止した。

「いったい、何があったの?」

エステルが尋ねると、リモーネは慌てて口を閉じて首を横に振った。

「ふん、どうせ隠してもいつかバレちまう事だ、話してやれ。……俺は村長の所へ顔を出してくる」

アガットはそう言って部屋を出て行った。

「じゃあ、私達もロビーに移って話をしましょう、ここではハルトさんに迷惑がかかるし」

ロビーに移ったエステル達にリモーネは果物のジュースを勧めて話し始めた。



<7年前 ラヴェンヌ村>

アガットは生まれも育ちもこのラヴェンヌ村で、腕白坊主を絵に描いたような感じの少年だった。
両親はアガットをのびのびと育てる考えだったので、アガットは勉強もあまりしないで、冒険者の真似事をして過ごす日々だった。
しかし、村人を困らせるようなイタズラをしていたので、いつも村長達から怒られていた。
そんなアガットも成人すると村の果樹園の夜なべの見張りをするようになった。

「あーあ、見張りなんて退屈だぜ……」

アガットが木に寄りかかって星を眺めていると、果樹園の樹が不自然に揺れた気がした。

「ん……何か居るのか?」

その場所にアガットが着いた時には、何者の気配もしなかった。

「気のせいか……」

アガットは欠伸をして頭をボリボリと書いて元の場所に戻った。
しかし、翌朝になってアガットは村長に大目玉を食らう事になる。

「このクソ坊主、盗み食いとは何事じゃ!」
「俺はそんなことしてないって!」
「では、何で収穫間近の果実がもぎ取られているんじゃ?」
「俺も何かの気配を感じて見に行ったんだけど、もう何も居なかったんだ!」
「まあ村長さん、息子も自分では無いと言っているんだし、許してやってください」

アガットの父親に説得されて、村長は納得して引き下がって行った。

「ちくしょう、今度果物泥棒が来たらとっ捕まえてやる……」

次の見張り番を任された夜、アガットは気合を入れて果樹園を見張っていた。
そして、以前と同じように樹が揺れ動くのを見た。

「どうせ、風かもしれないが見に行くか……」

その日は風が強く、アガットの気合は空回りしていた。
樹が強風であおられる度にアガットは駆け寄るが別に異常は無かったと言う事が何回もあった。

「やられた……」

アガットはすっかり果物をもぎ取られてしまった樹を見て、ため息をついた。

「これはまた明日、村長に怒られるな」

次の日の朝、村長はカンカンになってアガットを叱った。

「この果樹園は動物達が入りこまないように柵で囲まれておる。一体どこから泥棒が入り込み、逃げて行ったと言うんじゃ」
「そ、それは……」

そう問い詰められて、アガットは答えようがなかった。

「でも、俺じゃないんだ、信じてくれよ!」
「お願いします村長さん、息子はイタズラをするような事はありましても、人を傷つけるような嘘はつきません」

アガットの父親がまた頭を下げて、その場は治まった。
しかし、その日からアガットの事を悪く言う村人達が出始めた。

「二度も同じ見張りの時だけ果物が盗まれる偶然ってあるのか?」
「しかも、犯人を見て居ないんだって?」
「村長さんを困らせるためのイタズラにしてはやりすぎよ」

それからは果樹園を一人で見張るのは大変だと言う事で、アガットは同じ年ぐらいの村の青年エミールと二人で見張る事になった。

「じゃあ、エミールは入口の方を見張っててくれ、俺は奥の方を見張る」
「わかったよ」

エミールはアガットの遊び仲間で、よく一緒にイタズラをしていたが、エミールはおとなしい性格で、アガットが巻き込むような感じだった。
お互い気心の知れた者同士の見張りで、アガットも気が楽だった。
しかし、その日の夜も謎の果物泥棒は姿を現した。
アガットの居る間近の樹が揺れて、アガットは素早くそこに駆けつけた。
すると、果物の樹に登っている動物の影が目に入った。
その動物は、アガットの気配に気が付くと樹を飛び降りてすぐに逃げてしまった。

「てめえ、待ちやがれ!」

アガットが叫ぶと、その声を聞きつけたエミールが走ってやって来た。

「エミール、逃げたあいつの姿を見たか?」
「いいや、こっちには逃げてきていないよ」

エミールはアガットの質問に首を振った。

「また取り逃がしたか!」

悔しそうにそう叫ぶアガット。
しかし、エミールは地面に散らばった果物を見て、悲しそうな顔をした。

「まさか、全部アガットの一人芝居だったなんてね」
「何を言っているんだ、エミール?」
「僕は動物の影なんて見て居ない、アガットが騒ぐのを聞いただけだ」

その後、アガットがエミールを必死に説得するが、悲しい事に誤解は解けなかった。

「イタズラをするのは良くない、だが嘘をつくのはもっと良くない」

翌朝、村長達はアガットをそう言って問いただした。

「……俺は、やってねえ!」

アガットはそう叫んで果樹園に駆けて行き、必死に泥棒の痕跡を探した。
その様子を不安そうに妹のミーシャや両親が見つめていた。
村長の苛立ちも我慢の限界を越えようとしていたその時、アガットが何かを見つけて声を上げた。

「ほら、これが何か動物がここに居たって言う証拠の毛だ!」

アガットは嬉しそうに村長達に向かってつかんでいた白い細い毛を渡す。
しかし、村長はアガットから受け取った毛を握りしめると、体を震わせて怒りだした。

「偽の証拠まで持ち出して言い逃れをするとは、許せん!」

昼間アガットが野山を駆け回って狩りをしている事は村人達も知っていたので、その白い毛もアガットが用意した物だと思われてしまったのだ。
そして村の会議で反省の色も見えないし、役所に被害届を出すと言う事に決まってしまった。
数日後、ボース市から役人と市長の娘メイベルがやって来た。
メイベルはジェニス王立学園に通っていたが、この時は学園の長期休暇で父である市長の仕事を見て回っていた。
役人は村長達とアガットの言い分の双方を聞いて、アガットを有罪と決めるには証拠不十分だと判断した。
一緒に見張りをしていたエミールの証言も決定的とは言えなかったからである。
『疑わしきは罰せず』と言うのが役人の出した結論だったが、メイベルは納得行かなかったようだった。

「貴方、往生際が悪いですわよ、これだけ証拠が揃っているのですから、罪を認めて反省しなさい!」
「俺はやって居ないんだから謝る必要はねえよ」
「お嬢様、状況証拠だけで決めつけるわけには参りません」

役人が説得するがメイベルの怒りは収まらない。
メイベルは曲った事が大嫌いで、アガットのふてぶてしく見える態度に腹が立っていた。

「そんな消極的な態度が、悪人をのさばらせるんですわ!」
「何だと!」

自分を指差して悪人呼ばわりするメイベルに、アガットは怒って言い返した。
そして、メイベルは罪を認めようとしないアガットをついに平手打ちしてしまった。

「お嬢様、それはやりすぎです!」
「何しやがる!」
「だって、貴方が言い訳ばかりするから……!」

興奮するメイベルをここに居させてはならないと、役人は手早く被害届の却下の手続きを済ませると帰ってしまった。
役人は帰っていったが、村人達とアガットの家族との空気は微妙なものになってしまった。
アガットは童話になぞらえて『狼少年』と呼ばれてしまい、妹のミーシャまで冷たい扱いを受ける事になってしまった。
ついにアガットの一家は、自分の家財道具と果樹園の樹の権利を売り払い、村長達に損害賠償金を払って村を出て行く事になった。



<現在 ラヴェンヌ村 月の小道亭>

そこまでリモーネとミーシャの話を聞いたエステルは目を丸くして叫ぶ。

「ええっ、メイベルさんがアガットをビンタしちゃったの?」
「村で暮らしていけなくなったアガットの一家は遠いルーアンに引っ越す事になってね。だから二人の両親は今でもルーアンで暮らしているのよ」
「お兄ちゃんは、ルーアンに引っ越してから港の倉庫に居た不良さん達と一緒に居るようになっちゃって」
「そこで暴れているところをカシウスさんに会って、遊撃士になったんだって」
「だからアガットさんは父さんに複雑な感情を持っているのね」

エステルはそう言って頭を押さえた。

「でも、その後果樹園に忍び込んだヒツジンを導力銃で撃った人が居てね、アガットが犯人じゃないってわかったのよ」
「村長さんはルーアンまでやって来て、決定的な証拠が出てくるまでお兄ちゃんを『狼少年』だって言っていた事を謝ったの」
「それでも、ヒツジンを目の敵にしているから狼っぽいのには変わりないけどね」
「私がまた前のようにラヴェンヌ村の果樹園で働きたいって言ったら、お兄ちゃんがボース支部に異動してくれたの」
「アガットさんにそんな過去があったなんて……」

リモーネとミーシャの長い話を聞き終わったエステルとヨシュアはため息をついた。
そこに村長との話を終えたアガットが戻って来た。

「おいお前ら、休憩はそれまでだ。これから大規模なヒツジン狩りをするぞ」
「わかりました」
「らじゃ~」

ヨシュアとエステルはアガットに返事をして宿屋を出て行った。
大量発生したヒツジン達の掃討作戦は、エステル達がモルガン将軍のボース治安部隊と協力して素早く逃げ回るヒツジンを廃坑の奥の露天掘りをしていた広場に集めて一網打尽にするという事だった。

「ヒツジンって、どこの地方にもいるものなのね」
「それだけ繁殖力が強いってことだろう。こんな被害が起きる前に駆除しておくべきだったんだ」

エステル達はヒツジンの群れを見つけると、軍の兵士達と連携して逆にこちらがやられないように慎重に囲い込んで行く。
そして、ラヴェンヌ村の北、ラヴェンヌ廃坑と追いつめて行き、ついに広場に閉じ込めて封鎖することに成功した。
周りは高い崖になって居て、ヒツジン達がいくら高くジャンプしても逃げられなかった。
エステル達は爆弾で出入り口を完全に塞ぎ、廃坑から脱出する。
そこに警備飛行艇からの焼夷弾が降り注いだ!
廃坑から遠く離れたエステル達には魔獣の叫び声や魔獣達の焼き焦げたにおいなどは感じられなかったが、想像するだけで気分は悪くなった。

「人間達の都合でさ、魔獣達を全滅させちゃうのって何かおかしくない?」
「確かに、自然に逆らっているような感じもするけど……」
「俺達が生きて行くためには仕方ねえっつーの」

エステル達がラヴェンヌ村に帰ると、商人のハルトはすっかり気落ちして宿屋で飲んだくれていた。

「ああ……私達はこれからどこから果物を仕入れればいいんだ……」
「この近くのハーメル村でも果樹園が出来たって聞きましたけど、どうですか?」

ヨシュアがそう言うと、ハルトはパッと目を見開いた。

「おお、それは本当ですか?」
「ハーメル村は僕の住んでいた村なんです、ご案内しましょうか?」

ヨシュアの提案にハルトは了承し、今度はハルトをハーメル村まで護衛する依頼になった。
カリンから果樹園が出来たのは良いが、商人がほとんど来なくて困っていると言う相談の手紙を受け取っていたので、ヨシュアにとっても渡りに船だった。

「近いとは言っても国境の向こうだからな。ハーケン門を回っていかなきゃならねえ」
「もう、まったくもって不便ね」
「建設中の山岳の砦が完成すればそこも国境の門として機能するようになるだろう」
「そっか、ユーディス様も考えているのね」

とりあえずラヴェンヌ村で一泊し、翌日にハーメル村に向かう事になった。

「明日は久しぶりにカリンさん達に会えるのね。ヨシュアも嬉しい?」
「もちろん、嬉しいよ」
「去年も会えたのに、そんなに喜んじゃって、このシスコンが~」
「エステルだって、マザコンでファザコンじゃないか」
「言ったな、このぉ~」
「お前ら明日は早えんだ、じゃれ合ってないで寝やがれ!」
「はーい」

それでもヨシュアはいろいろな考えが浮かんでなかなか眠れなかった。
そんなヨシュアの様子をエステルはじっと見ているうちに……眠ってしまった。
ヨシュアが寝息を立てたエステルに気がついてそっと布団を掛けた。



<エレボニア帝国領 ハーメル村>

「ヨシュア! ……エステルも!」

ハーメル村に姿を現したエステル達にカリンとレオンハルトやハーメル村の人々が集まって来た。
ハルトは村長と果物の買い付け契約を結び、村は歓迎ムード一色に包まれた。
さらにハルトはハーメル村産の果物が広まるように他の商人達にも宣伝してくれると言う。

「よかったね、姉さん。村の人達の努力が実って」
「ええ、これで他の街へ出稼ぎに行っていた父さんと母さんも戻って来れると思うわ」

そんな嬉しそうに微笑むヨシュアとカリンを見て、エステルは少し不安そうに声を掛ける。

「その……やっぱりヨシュアも、一緒に暮らせるならカリンさん達と暮らしたいわよね?」

エステルが尋ねると、ヨシュアは首を振って否定した。

「だってまだ……遊撃士になるための修行が終わって居ないじゃないか。途中で投げ出すわけにはいかないよ」

その返事を聞いたエステルの顔がパッと明るくなる。

「そうだよね、あー良かった、ヨシュアとまだ一緒に居られて」

その喜びの言葉は家族としてなのか、遊撃士のパートナーとしてなのか、果たして恋人としての事なのか、ヨシュアにはわからなかったし、聞くこともできなかった。

「それで、アガットさんと兄さんは?」
「それが、街の外れの森の中で剣術の腕比べをするそうよ。男の人ってそう言うのが好きなのかしら」

ヨシュアの質問にカリンはため息をついてそう答えた。

「あはは、カリンさん。そんなの強くなろうって思う人なら、男でも女でも関係無いよ、ねえ、ヨシュア?」
「それはそうだと思うけど。でも、エステルに女の子の意見を聞くだけ無駄かも」
「あんですって~!」
「だってスニーカーにスパッツをはいているじゃないか」
「大事なのは服装じゃ無くて中身なのよ!」
「虫採りの趣味は女の子とは言えないと思うけど」

ヨシュアはカリンの前では思いっきり子供になってエステルと言い争いをしている。
そんなヨシュアの姿をカリンは嬉しそうに見つめていた。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。